JP2004084063A - 構造用Fe−Cr系鋼板とその製造方法および構造用形鋼 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】C:0.0025〜0.010mass%、N:0.0025〜0.010mass%、C+N:0.015mass%以下、Si:0.01〜1.0mass%、Mn:0.01〜0.30mass%、P:0.04mass%以下、S:0.03mass%以下、Cr:8mass%以上10mass%未満、Cu:0.01〜1.0mass%、Ni:0.01〜1.0mass%、V:0.01〜0.20mass%、Al:0.05mass%以下を含有する鋼素材を、1100〜1280℃の温度に加熱し、930℃超の温度で熱間圧延を終了し、810℃超の温度で巻取り、800〜400℃間の平均冷却速度を2℃/分以下とすることにより、引張強さが400〜450MPaの鋼板を得る。
【選択図】 図2
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐食性や耐久性、溶接性ならびに溶接部の特性が優れることが要求される橋梁や住宅構造物等の土木・建築構造物に用いられる構造用Fe−Cr系鋼板に関し、特に強度がSS400鋼並でコイル内の強度ばらつきが小さく、溶接時の急熱・急冷が著しい電気抵抗溶接による成形加工を行っても、溶接部の強度低下を起こさない構造用Fe−Cr系鋼板およびその製造方法ならびにそれから得られる構造用形鋼を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】
土木・建築用構造物には、強度以外に耐食性や耐久性が求められる。そのためこれら用途には、従来、溶接軽量H形鋼であるSWH400の他、SS400,SN400B等の普通鋼やSM490等の高張力鋼を素材とした形鋼が用いられてきた。さら耐食性向上のため、これらに塗装やめっき処理、カチオン電着塗装等を施した鋼材も用いられている。一方、近年では、設計の多様化や環境問題への意識の高まりに伴い、各種材料の使用が検討されている。中でも、耐食性や意匠性に優れたFe−Cr系の鋼は、めっき処理や防錆塗装ならびに穴あけや溶接後のタッチアップ処理等の発銹に対する保守がほとんど必要ないため、ライフサイクルコスト(LCC)の点で、非常に魅力的な材料である。
【0003】
上記Fe−Cr系の鋼の中で、土木・建築用構造材料として従来から最も検討されているのは、材料強度や耐食性、溶接の容易さ、溶接部靭性、汎用性等の観点から多用されているSUS304Aに代表されるオーステナイト系ステンレス鋼である。このオーステナイト系ステンレス鋼は、強度、耐食性、耐火性および溶接部靭性等の特性において、土木・建築用材料として十分に満足し得る特性を有している。しかしながら、オーステナイト系ステンレス鋼は、NiやCr等の合金元素を多量に含有しているために普通鋼に比べて格段に高価であり、従来の普通鋼や高張力鋼およびそれにめっき処理や塗装処理を施した汎用材の代替として使用するにはコスト的に難しく、適用範囲が極めて狭いという問題があった。
【0004】
このような問題に対して、高価なNiを含まずCr含有量が比較的少ないマルテンサイト系ステンレス鋼を改良し、土木・建材用として用いることが検討されている。マルテンサイト系ステンレス鋼は、高Cr合金で問題となるσ脆性や475℃脆性等の心配がなく、さらにオーステナイト系ステンレス鋼で問題となる塩化物を含む環境下での応力腐食割れの心配もないという利点がある。
【0005】
例えば、特許文献1には、Cr:10〜18wt%、Ni:0.1〜3.4wt%、Si:1.0wt%以下およびMn:4.0wt%以下を含有し、さらにC:0.03wt%以下、N:0.02wt%以下に低減して、溶接熱影響部にマッシブマルテンサイト組織を生成させることによって、溶接部の性能を向上させた溶接構造用マルテンサイト系ステンレス鋼が開示されている。また、特許文献2には、Cr:10〜13.5wt%、Si:0.5wt%以下およびMn:1.0〜3.5wt%を含有し、C:0.02wt%以下、N:0.02wt%以下に低減した上で、さらにNiを0.1wt%未満に制限することによって、溶接前後における予熱、後熱を不要とした溶接部の靭性および加工性に優れる構造用マルテンサイト系ステンレス鋼が開示されている。また、特許文献3には、Crを8mass%超15mass%未満の範囲で含有するFe−Cr合金に、Co,V,Wを複合して添加することにより、Ni,Cu,Cr,Moなどを増量することや、Ti,Nbの添加、さらにはC,Nの過度の低減をすることなく耐初期発錆性、加工性および溶接性を改善する技術が開示されている。しかしながら、特許文献1,2に開示された鋼材は、熱間圧延のままの状態では強度が高すぎるため、熱延後に焼鈍を行う必要があり、コストや納期の面で問題を残していた。また、特許文献3の技術は、Co,V,Wの複合添加が必須であり、かつ軟質化のためには熱延板焼鈍を推奨しているものである。
【0006】
そこで、合金元素の低減や熱延板焼鈍の省略等により低コスト化を図る技術の開発が行われている。例えば、特許文献4には、Cr:8〜16wt%、Si:0.05〜1.5wt%、Mn:0.05〜1.5wt%を含有し、C:0.005〜0.1wt%、N:0.05wt%以下、C+N:0.1wt%以下に低減した鋼素材を、1100〜1250℃に加熱し、800℃以上で熱間圧延を終了し、700℃以上で巻取った後、室温までの平均冷却速度5℃/分以下で冷却することにより、熱延板焼鈍を省略する技術が開示されている。しかし、特許文献4に開示された鋼材は、引張強さが450MPaを超えるものであり、形鋼やパイプに成形あるいは2次加工や穴あけ等の加工を行う場合、SS400鋼クラスの軟質鋼材用に設計された製造ラインをそのまま使用することが難しいという問題がある。
【0007】
また、上述した従来技術の鋼材は、溶接棒を使用するMIG等のアーク溶接性には優れるものの、電気抵抗溶接のように急熱・急冷される溶接部の硬質化・脆化問題に対しては十分な対策が講じられていない。例えば、電気抵抗溶接による形鋼の製造については、特許文献5に、Cr:3.5wt%以上10.5wt%未満、Si:0.01〜1.0wt%、Mn:0.01〜2.5wt%を含有し、C:0.001〜0.1wt%、N:0.001〜0.10wt%に低減した鋼材と、それに対して非酸化性雰囲気または還元性火炎シールド中で電気抵抗溶接する構造用軽量溶接H形鋼の製造技術が開示されている。しかしこの技術には、大気中で溶接した場合、溶接加熱時に生成した酸化物が排出されずに残存してペネトレータを生成し、溶接部で破断を生じるため、溶接雰囲気を制御する設備が必要であるという問題がある。
【0008】
【特許文献1】特公昭51−013463号公報
【特許文献2】特公昭57−028738号公報
【特許文献3】特開2002−053938号公報
【特許文献4】特開平11−302737号公報
【特許文献5】特開平02−305939号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように、従来技術で製造されたFe−Cr系熱延鋼板は、熱延のままでは引張強度が450MPaを超えるものが多く、SS400鋼クラスの鋼材を使用していた形鋼の製造ラインにそのまま流すには問題があった。特に、材質のばらつきが大きい(強度が高い)熱延コイルの先後端や幅方向エッジ部は切捨てて使用せざるを得ないため、歩留まりの低下を招いていた。また、従来技術の鋼板は、急熱・急冷される溶接部の硬質化・脆化問題に対しては、十分な配慮がなされていなかったため、電気抵抗溶接法によって製造される溶接軽量H形鋼や電縫溶接管(ERW)用素材として用いるには問題があった。
【0010】
本発明の目的は、従来技術が抱える上記問題点に鑑み、熱間圧延のまま、即ち熱延板焼鈍なしの状態で引張強さがコイルの全長全幅に亘って400〜450MPaであり、電気抵抗溶接を行った際の急熱・急冷によっても溶接部の脆化が生じない構造用Fe−Cr系鋼板とその安価な製造方法を提案することにある。また、本発明の他の目的は、上記鋼板を用いて電気抵抗溶接により成形加工される構造用形鋼を提案することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、コスト低減が可能で、土木・建築構造物に用いた場合でも十分な耐食性が得られるCr含有量が8mass%以上10mass%未満の低合金鋼をベースにして、熱間圧延のままで引張強度を400〜450MPaの範囲に収めることができ、しかも電気抵抗溶接性が良好な熱延鋼板について検討した。その結果、先ず、Cr含有量が8mass%以上10mass%未満の鋼板では、溶接熱影響部は微細なマルテンサイト組織となることから、この熱影響部におけるマルテンサイト組織の過度な硬化を防ぐことが溶接部の脆化を防ぐ上で重要であることがわかった。
【0012】
マルテンサイトの硬さは、鋼材に固溶したC,N量に大きく依存する。そのため、アーク溶接のように溶接後の冷却速度が比較的緩やかな溶接法を採用する場合には、従来技術の鋼板でも、C,N含有量の低減を図り、さらに熱延板焼鈍を施すことにより、400〜450MPaの範囲の強度を有し、加工性や溶接性に優れ、溶接部の靭性も良好な鋼板を得ることが可能である。しかし従来の鋼板に、溶接軽量H形鋼や電縫管の製造に用いられている電気抵抗溶接法を適用した場合には、熱影響部の硬化が著しく、十分な強度や靭性を有する溶接部が得られないという問題が起こる。特に溶接部の脆化は、溶接時に800〜900℃に加熱された部分で著しい。
【0013】
この理由は、次のように考えられている。従来の構造用鋼は、800〜900℃の温度域に加熱されるとフェライト(α)+オーステナイト(γ)の2相組織となるが、α相とγ相ではC,Nの固溶量が大きく異なるため、γ相の部分にはγ単相となった場合に比べて高い濃度のC,Nが濃化する。このC,Nが濃化したγ相は、溶接後の冷却過程で硬質のマルテンサイトに変態し、溶接部の脆化を引き起こす。しかし通常のアーク溶接では、溶接部近傍は溶接後、空冷(放冷)されるため、上記マルテンサイトの硬化はそれほど著しくない。これに対して電気抵抗溶接では、溶接による急熱・急冷がアーク溶接に比べて著しい上、溶接チップ等、周辺機器の過熱防止のために溶接機を水冷している場合には、溶接部近傍の鋼材は溶接直後に極めて急速に冷却されるため、マルテンサイト相がより硬質化し脆化が著しくなる。このようなことから、電気抵抗溶接が行われる材料では、鋼材の成分およびミクロ組織の制御が重要となる。
【0014】
発明者らは、溶接部の脆性問題を解決するために、まずC,N含有量の低減を試みた。しかしながら、過度のC,N量の低減は、溶接熱影響部のマルテンサイト生成能の低下には有効であるが、いわゆる粗大フェライトの生成を引き起こすようになり、溶接部の特性は逆に低下した。また、Ti,Nbといった強力な炭窒化物形成元素を添加した場合にも、固溶C,N量が過度に減少するため、同様の傾向が認められた。
【0015】
そこで、発明者らは、電気抵抗溶接性を改善するためには、溶接時にα+γの2相域に加熱、冷却されて生成するフェライト+マルテンサイト組織のミクロ組識を改善することが重要であると考え、マルテンサイト相の硬質化を抑制すること、および、母材となるフェライト相の結晶粒を微細化して靭性を改善すること、の2点に着目して詳細な検討を行った。その結果、C,N含有量を低減し、さらにVを適量添加することにより、2相域加熱部に生成するマルテンサイトの硬さの上昇を抑えることができること、さらに熱間圧延の粗圧延の少なくとも1パスを圧下率30%以上で圧延することにより、母材のフェライト組織の微細化が図れ、その結果、電気抵抗溶接で2相域に加熱される部分の脆性が大きく改善されることがわかった。また、鋼中のCr,Mn量の低減に加え、Cuを適量添加することにより、溶接部における未排出のペネトレータの生成が抑制され、大気中においても電気抵抗溶接が良好に行えることを見出した。
【0016】
さらに、発明者らは、熱間圧延のままでコイルの全長全幅にわたって強度を400〜450MPaの範囲とする方法の検討を行った。まず、コイルの冷却速度を正確に知るために、熱延したコイルに熱電対を取り付け、温度の経時変化を測定し、さらにこの結果を基に、コイル内で最も冷却の遅い部分Tmax(以降「最高点」と称する。通常、コイルの肉厚・幅方向中央部)と最も速く冷却する部分Tmin(以降「最冷点」と称する。通常、コイル最外巻きの幅方向エッジ部)の温度の経時変化について計算を行った。一例として、コイル重量:12300kg、コイル幅:1450mm、内径:760mm、巻取温度:850℃、外気温度:20℃の条件で行った計算結果を図1に示す。図1から明らかなように、コイルの最冷点Tminでは、わずか30分ほどの間に約400℃まで温度が低下しており、800〜400℃の間を約13℃/分という速い速度で冷却されていることが明らかになった。そのため、従来の鋼板では、冷却速度の速いコイル先後端部(内巻部や外巻部)や幅方向エッジ部では、マルテンサイト相やベイナイト相のような硬質な相が多く生成し、硬質化しているものと考えられた。
【0017】
そこで、発明者らは、Cr含有量が8〜10mass%未満の合金についての連続冷却変態曲線(CCT図)や恒温変態曲線(TTT図)等の金属学的データを収集し、冷却途中で保熱を行った場合の変態挙動について検討を行った。その結果、巻取り後、コイル先後端や幅方向エッジ部が400℃未満の温度に達する前に、何らかの手段で保熱を行えば、コイルの内部熱による復熱効果と保熱による徐冷効果とにより、熱間圧延ままでもコイル全長全幅に亘って800℃から400℃の間の平均冷却速度を2℃/分以下とすることができ、ひいては目標とする軟質化が達成できることを見出した。なお、本発明で言う平均冷却速度とは、800℃から400℃まで冷却するのに要した全時間における平均冷却速度のことであり、冷却途中の一時的な冷却速度ではない。
【0018】
図2は、図1と同一条件で巻取りしてから30分経過後のコイルに対して、図3に示したような100mm厚の断熱材を内側にライニングした保熱カバーを被せた時の、コイル最高点Tmaxと最冷点Tminの温度の経時変化を計算した結果を示したものである。この図2から、保熱カバーを使用することにより、冷却速度の最も速いコイル最冷点Tminにおける800℃から400℃までの冷却時間を400分以上、即ち平均冷却速度を1℃/分以下にできることがわかる。また、図4は、図2の冷却曲線と2℃/分で連続冷却した時の冷却曲線を、CCT図に重ね合わせて示した図である。この図4から、800℃から400℃までの冷却時間を12000秒(200分)以上、即ち2℃/分以下の冷却速度とすれば、ベイナイトを生成することなく、軟質なフェライト単相組織が得られることがわかる。また、コイルの最冷点Tminにおいても、400℃未満に冷却される前に保熱を開始することで、硬質なマルテンサイト相の生成を完全に抑制し、さらに、保熱開始前の冷却で生成したベイナイトを保熱後の復熱による焼戻し効果により焼戻しベイナイトあるいはフェライト相に変態させ、軟質化できることがわかる。以上のように、コイル巻取り後、コイル最冷点Tminの温度が400℃未満に冷却される前に、何らかの保熱手段を適用し、鋼板の平均冷却速度を2℃/分以下とすることにより、コイル全長、全幅に亘って軟質なFe−Cr系鋼板を得られることがわかった。
【0019】
上記知見に基づき開発された本発明は、C:0.0025〜0.010mass%、N:0.0025〜0.010mass%、C+N:0.015mass%以下、Si:0.01〜1.0mass%、Mn:0.01〜0.30mass%、P:0.04mass%以下、S:0.03mass%以下、Cr:8mass%以上10mass%未満、Cu:0.01〜1.0mass%、Ni:0.01〜1.0mass%、V:0.01〜0.20mass%、Al:0.05mass%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、引張強さが400〜450MPaであることを特徴とする構造用Fe−Cr系鋼板である。
【0020】
なお、本発明の鋼板は、高い耐食性が要求される場合には、上記成分組成に加えてさらに、Mo:1.0mass%以下を含有することができる。
【0021】
また、本発明は、C:0.0025〜0.010mass%、N:0.0025〜0.010mass%、C+N:0.015mass%以下、Si:0.01〜1.0mass%、Mn:0.01〜0.30mass%、P:0.04mass%以下、S:0.03mass%以下、Cr:8mass%以上10mass%未満、Cu:0.01〜1.0mass%、Ni:0.01〜1.0mass%、V:0.01〜0.20mass%、Al:0.05mass%以下を含有する鋼素材を、1100〜1280℃の温度に加熱し、930℃超の温度で熱間圧延を終了し、810℃超の温度で巻取り、コイル内部における800〜400℃間の平均冷却速度を2℃/分以下とすることにより、引張強さが400〜450MPaの鋼板を得ることを特徴とする構造用Fe−Cr系鋼板の製造方法を提案する。
【0022】
本発明の鋼素材は、高い耐食性が要求される場合には上記成分組成に加えてさらに、Mo:1.0mass%以下を含有することができる。
【0023】
また、本発明の上記製造方法においては、粗圧延の少なくとも1パスを、1000℃超の温度で、30%以上の圧下率で行うことが好ましい。
【0024】
さらに、本発明の上記製造方法においては、コイルの全ての位置における800〜400℃間の平均冷却速度を2℃/分以下とすること、その手段は、コイルの冷却を、保熱カバー、保熱ボックス、あるいは保熱炉のいずれかを用いて行うことが好ましい。
【0025】
また、本発明の構造用形鋼は、上記鋼板あるいは上記の方法で製造した鋼板を、電気抵抗溶接によって形鋼としたものであることが好ましい。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。
まず、本発明に係る鋼板の成分組成を上記範囲に限定する理由について説明する。
C:0.0025〜0.010mass%、N:0.0025〜0.010mass%およびC+N:0.015mass%以下
本発明鋼の溶接熱影響部は微細なマルテンサイト組織となるが、C,Nは、この溶接熱影響部に生成するマルテンサイト相の硬さに大きな影響を及ぼす。溶接熱影響部の靭性および加工性を改善し溶接割れを防止するには、従来から知られているように、C,Nの低減が有効である。しかしC,Nの含有量を過度に低減することは、精錬コストの上昇を招くだけでなく、溶接熱影響部のマルテンサイト生成能を低下させる他、粗大フェライトの生成を助長して、溶接部の靭性を著しく低下させる。そのためC,Nは、それぞれ0.0025mass%以上含有させる必要がある。一方、C,NおよびC+Nの上限は、溶接熱影響部に生成するマルテンサイト相の極端な硬さの増加による脆化を防止するために、それぞれ0.010mass%、0.010mass%、0.015mass%に制限する必要がある。好ましいC,Nの範囲は、C:0.003〜0.008mass%、N:0.0030〜0.0060mass%である。なおCは、0.003〜0.005mass%であることがより好ましい。
【0027】
Si:0.01〜1.0mass%
Siは、脱酸剤としてまた強化元素として添加する。含有量が0.01mass%未満では十分な脱酸効果が得られず、一方、1.0mass%を超える過剰の添加は、靭性や加工性の低下を招くばかりでなく、溶接熱影響部のマルテンサイト生成能を低下させる。そのためSi量は0.01〜1.0mass%の範囲に限定する。好ましくは0.1〜0.5mass%の範囲である。
【0028】
Mn:0.01〜0.30mass%
Mnは、オーステナイト相安定化元素であり、溶接熱影響部の組織をマルテンサイト組織とし、溶接部の靭性改善に寄与する。しかし、過度に添加し過ぎると、熱延のままでの硬質相の割合が増加し、目標とする引張強度(400〜450MPa)が得られなくなる。また、電気抵抗溶接の2相域加熱部に生成するマルテンサイトの硬さを上昇させて脆化を引き起こすほか、MnSを形成して耐食性の低下を招く。そのため、Mn添加量の上限は0.30mass%に制限する。一方、Mnは、Siと同様、脱酸剤としても有用であるため下限を0.01mass%とする。好ましくは、0.10〜0.30mass%の範囲である。
【0029】
P:0.04mass%以下
Pは、熱間加工性や成形性、靭性を低下させるだけでなく、耐食性に対しても有害な元素である。Pの含有量は、0.04mass%を超えるとその悪影響が顕著になるので、0.04mass%以下に制限する。好ましくは0.030mass%以下である。
【0030】
S:0.03mass%以下
Sは、Mnと結合してMnSを形成し、耐食性や耐久性を低下させる。また、Sは、結晶粒界に偏析して粒界脆化を促進する有害元素でもあるので、極力低減することが好ましい。特に含有量が0.03mass%を超えるとその悪影響が顕著になるので、Sの含有量は0.03mass%以下に規制する。好ましくは0.008mass%以下である。
【0031】
Cr:8mass%以上10mass%未満
Crは、耐食性の改善に有効な元素であるが、8mass%未満では十分な耐食性の確保が難しい。一方、Crを10mass%以上添加することは、コストの増加を招くうえ、熱間圧延のままで所望の強度とすることが困難となるため、添加量を8mass%以上10mass%未満の範囲に限定する。
【0032】
Cu:0.01〜1.0mass%
Cuは、耐食性を向上させるのに有効な元素であり、建築構造物等の長寿命化を図る目的で添加する。また、本発明では、溶接時のペネトレータの残留を抑制し、大気中での電気抵抗溶接を可能とするために、特に積極的に添加する元素でもある。Cu添加によりペネトレータの残留が抑制される理由は明らかではないが、CrやMnといった溶接部に酸化物を生成しやすい元素の低減に加えて、鉄よりもイオン化し難い貴な元素であるCuを適量添加することにより、溶融部分での酸化物の生成が抑えられるためと考えられる。しかし、0.01mass%未満の添加では上記添加効果に乏しく、一方、1.0mass%を超える過度の添加はコストの増加を招くほか、熱間割れ感受性が強くなって熱延時に脆化を起こすおそれがある。そのため、Cuは0.01〜1.0mass%の範囲に限定する。なお、好適には、Cuの下限は耐食性改善効果が顕在化する0.1mass%とするのが好ましく、上限は熱間割れ防止と加工性の観点から0.7mass%とするのが好ましい。
【0033】
Ni:0.01〜1.0mass%
Niは、延性、靭性を向上させるのに有効な元素である。本発明では、特に溶接熱影響部の靭性を向上させるため、また、耐錆性を改善するために添加する。さらに、Niは、Cu添加に起因した熱間圧延中の脆性割れの防止にも効果がある。しかし、含有量が0.01mass%に満たないとその添加効果に乏しく、一方、1.0mass%を超えると添加効果が飽和するだけでなく、素材の硬質化やコストの上昇を招くので、Ni量は0.01〜1.0mass%の範囲に限定する。
【0034】
V:0.01〜0.20mass%
Vは、本発明においては、非常に重要な元素であり、適量添加することにより、電気抵抗溶接における溶接熱影響部の脆化を防止すると共に、フェライト結晶粒の粗大化を防止することができる。しかしながら、添加量が0.01mass%未満では、上記添加効果を十分に得られず、一方、0.20mass%を超えて添加すると、溶接熱影響部でのマルテンサイト生成能が著しく低下し、溶接部の靭性が低下する。また、熱延のままで所望の引張強度(400〜450MPa)を得ることが困難となる。そのため、Vの添加量は0.01〜0.20mass%の範囲に限定する。好ましくは0.03〜0.20mass%である。
【0035】
ここで、Vの適量添加により溶接熱影響部の脆性が改善される機構は明らかではないが、以下のように考えられる。TiやNbのようにC,Nに対して親和力が強い元素を添加した場合には、これらの炭窒化物の生成により固溶C,N量が著しく低下するため、溶接熱影響部のマルテンサイト生成能が極端に低下する。これに対して、TiやNbほどC,Nとの親和力が強くないVを添加した場合には、オーステナイト単相域以上の温度に加熱された部分では、Vの炭窒化物は不安定であるため固溶C,N量の著しい低下が起こらないので、この部分のマルテンサイト変態能を十分に確保することができる。一方、2相域の温度に加熱された部分においては、その温度ではVの炭窒化物が安定であるため、固溶C,N量が低く抑えられ、γ相への固溶C,Nの濃化が原因で起きるマルテンサイト相の硬質化が起こり難い。その結果、γ単相域以上に加熱された部分のマルテンサイト生成能を低下させることなく2相域加熱部のマルテンサイト相の硬さを低く抑えることができるので、溶接熱影響部の全域にわたって優れた靭性を具備させることが可能となる。
【0036】
Al:0.05mass%以下
Alは、脱酸剤として有用なだけでなく、鋼板の曲げ加工性の改善にも有効に寄与する。その効果を得るためには0.003mass%以上添加することが好ましい。しかし、Al含有量が0.05mass%を超えて多くなると、介在物が多くなって機械的性質の劣化を招くため、0.05mass%以下に制限する。なお、このAlは、特に含有されていなくてもよい。
【0037】
Mo:1.0mass%以下
Moも、耐食性の改善に有効な元素であり、本発明では必要に応じて添加することができる。その効果を得るためには0.03mass%以上添加することが好ましい。しかしながら、1.0mass%を超えて添加すると、加工性が著しく低下するほか、熱延のままで目的とする引張強度(400〜450MPa)が得られなくなるため、添加量は1.0mass%以下に制限する。なお、耐食性と強度・加工性のバランスという観点からは、0.1〜0.5mass%の範囲が好適である。
【0038】
次に、本発明に係る鋼板の強度特性について説明する。
本発明の鋼板は、引張強さが400〜450MPaの範囲であることが必要である。土木・建築構造用の形鋼は、従来、主としてSS400鋼クラスの鋼材を加工して製造されているが、その生産ラインをそのまま活用するためには、前記SS400鋼等と同程度の強度と加工性を有することが必要である。すなわち、引張強さが450MPaを超えると、形鋼の生産ラインの加工負荷が増加して設備の増強が必要となる他、加工性も劣化するので好ましくない。また、400MPaを下回ると、形鋼に成形加工する際に過度の変形が生じる他、製品として求められている強度が得られなくなる。
【0039】
次に、本発明に係る鋼板の製造方法について説明する。
上記成分組成に調整した溶鋼を、転炉または電気炉等の通常公知の溶製炉にて溶製したのち、真空脱ガス(RH法)、VOD(Vacuum Oxygen Decarburization)法、AOD(Argon Oxygen Decarburization)等の公知の精錬方法で精練し、次いで、連続鋳造法あるいは造塊−分塊法で鋼スラブ(鋼素材)とする。この際のスラブ厚は、後述する熱間粗圧延での圧下率を確保するため100mm以上とするのが好ましい。
【0040】
次いで、上記鋼スラブを1100〜1280℃の温度に加熱した後、熱間圧延して熱延鋼板とする。スラブ加熱温度は、巻取り後の自己焼鈍による軟質化を促進するためには高い方が望ましいが、1280℃を超えるとスラブ垂れが著しくなり、また結晶粒が粗大化して熱延板の靭性が低下するため好ましくない。一方、1100℃未満の加熱温度では、熱間圧延の圧延仕上温度(FDT)を930℃超えとすることが困難となる。好ましくは1100〜1250℃である。
【0041】
熱間粗圧延の工程では、1000℃超の温度域で圧下率が30%以上である圧延を少なくとも1パス以上行うことが好ましい。この強圧下圧延によって鋼板の結晶組織を微細化することにより、特にコイル中央部において問題となる、後述するコイル巻取り後の保熱により起こるフェライト結晶粒の粗大化による母材靭性の低下を補うことができる。
【0042】
また、粗圧延における強圧下圧延は、電気抵抗溶接においてα+γの2相域に加熱される部分の靭性向上に対しても効果がある。というのは、2相域加熱部に発生するマルテンサイトは、鋼板のフェライト結晶粒界から生成するが、マルテンサイトが過度に硬質化すると割れの起点となり脆化が生じる。そこで、マトリックスとなるフェライト組織を微細化してフェライト相の靭性を向上させておけば、亀裂の伝播が抑えられて脆化を防止できるからである。そこで、本発明では、鋼板は1000℃超の温度ではγ単相であるが、圧下率が30%以上である粗圧延を少なくとも1パス以上行うことにより、フェライト相の生成サイトを増加させて結晶粒を微細化する。また、粗圧延の温度を1000℃超に限定したのは、熱延仕上温度を930℃超えとするためでもある。
【0043】
本発明では、コイル巻取り後の自己焼鈍による軟質化効果を促進するため、熱間粗圧延に続く仕上圧延における圧延仕上温度を930℃超え、圧延後のコイル巻取温度を810℃超えに限定する。仕上圧延におけるの圧延仕上温度を930℃超に限定する理由は、α+γの2相域での圧延による加工フェライトの導入を防止すると共に、810℃超の巻取温度を確保するためである。また、コイル巻取温度を810℃超とする理由は、コイル内部の温度を高く保つことにより、巻取り後の保熱による復熱を容易にするためでもある。また、保熱開始時のコイル端部の温度を400℃以上とするためにも、巻取温度は810℃超えとする必要がある。
【0044】
さらに、本発明では、目的とする鋼板強度を得るためには、巻取後のコイル内部の800から400℃までの冷却時間を200分以上とし、コイル内部の平均冷却速度を2℃/分以下とすることが必要である。この平均冷却速度とすることにより、鋼板組織をフェライト単相(一部炭窒化物)、焼戻しベイナイト単相あるいは焼戻しベイナイト+フェライト組織とすることができ、硬質なマルテンサイト相の生成を完全に抑えることが可能となる。
【0045】
ここで、上記のコイル内部とは、コイル長手方向の中央部でかつ板幅方向でエッジから50mm以上内側の部分を意味する。また、この部分の冷却速度の測定方法は、熱電対をコイル内に挿入して行うのが最も確実であるが、計算により推定してもよい。
【0046】
なお、巻取り後のコイルの平均冷却速度を2℃/分以下とすることは、上記コイル内部であれば、比較的容易に達成することができる。しかし、コイルの先端部(内巻部)や後端部(外巻部)およびコイルの幅方向端部(エッジ部)では、平均冷却速度が2℃/分より速くなりやすく、容易にベイナイト相やマルテンサイト相が生成して硬質化する。そのため、従来、コイルのこの部分は切除されて使用されており、歩留まり低下の原因となっている。
【0047】
この問題に対して本発明は、巻取り後のコイルの最冷点が400℃未満に冷却される前に何らかの手段で保熱を開始し、この保熱による復熱効果を利用して、実質的にコイル内の全ての位置における800〜400℃間の冷却時間を200分以上、平均冷却速度を2℃/分以下とする方法を提案する。この保熱を行うことにより、コイルの最冷点は十分に焼き戻されるので、コイル全長全幅にわたり目的の強度とすることが可能となる。好ましくは、コイル内の全ての位置における平均冷却速度を1℃/分以下とするのがよい。なお、上記コイルの最冷点は、一般に、コイル最外巻きの幅方向両端部に相当する部分に当たるので、この部分に熱電対を溶接して取り付けることにより冷却速度を測定することができる。また、放射温度計を用いて測温することも可能である。
【0048】
なお、保熱の方法としては、例えば鉄製の箱の内側に断熱材をライニングした保熱カバーをコイルに被せる方法、ピット状の穴を掘り、内壁に断熱材を貼り付けた保熱ボックスに納める方法、さらには、加熱機能をもった保熱炉を用いるなど種々の方法が適用でき、実施者の製造設備に応じて好ましい保熱手段を用いることができる。なお、コイル下部からの冷却にも配慮し、断熱材上にコイルを置くなどの工夫をすることも必要である。また、冷却が著しいコイルの先後端部や幅両端に対しては、誘導加熱等による加熱手段を併用してもよい。
【0049】
上記保熱方法を採用することにより、熱延板焼鈍を行うことなく熱間圧延のままで、コイルの全長全幅に亘って引張強さを400〜450MPaの範囲とすることができるので、従来技術で問題となっていたコイル先後端の切り捨てやエッジ部のトリミングによる歩留まり低下を抑えることが可能となり、大幅なコスト低減が可能となる。また、引張強さをSS400鋼と同等とすることにより、曲げ加工や穴あけ加工等の加工を、これまでの製造ラインをそのまま使用して行うことができる。
【0050】
なお、本発明に係る熱延鋼板は、熱間圧延のままの状態で優れた加工性や靭性を具備するばかりでなく、急熱・急冷を伴う電気抵抗溶接を行っても溶接熱影響部の脆化を生じないという優れた特性を有する。また、本発明の鋼板は、熱間圧延のままの状態で使用可能であるが、必要に応じてスキンパス圧延による形状矯正やショットブラスト、酸洗等による脱スケールを行ってから、あるいは研磨等により所望の表面性状に調整してから用いることもできる。また、必要に応じ、防錆剤等を塗布してから使用することも可能である。なお、酸洗を行う場合には、酸洗性を改善する目的で熱延板の焼鈍を行ってもよい。
【0051】
また、本発明の鋼板は、曲げ加工やロールフォーミング等によって製造される各種形状の形鋼への適用が可能であり、土木・建築用の構造材、中でも住宅構造用の形鋼に用いて好適である。また、本発明の鋼板は、アーク溶接等、各種溶接によって組み立てられる形鋼の材料として用いることができるが、急熱、急冷による溶接部の脆化がないという特性を活かして、誘導加熱や直接通電加熱による電気抵抗溶接法によって成形加工される溶接軽量H形鋼や電縫溶接(ERW)管、角パイプ等に用いて好適である。
【0052】
さらに、本発明鋼板の上記特性を活かし、コンテナ、コールワゴン、バスフレームといった各種構造用の材料としても用いることができる。また、本発明の成分を有する鋼は、熱間圧延により製造する厚鋼板や形鋼さらには棒鋼といった土木・建築分野において利用される種々の鋼材への適用も可能である。
【0053】
【実施例】
(実施例1) 表1に示す成分組成を有する鋼を、転炉−2次精錬工程を経て溶製し、連続鋳造法で200mm厚の鋼スラブとした。これらの鋼スラブを1170℃に再加熱後、表2に示した条件で、6パス目の圧下率を20〜45%、他のパスの圧下率を30%未満とする計7パスの粗圧延を行った後、仕上圧延における圧延仕上温度を940〜1050℃とする7パスの仕上圧延により板厚4.5mmおよび6.0mmの熱延鋼板とし、815〜910℃の温度でコイルに巻取り、空冷した。これら巻取り後のコイルの内部に熱電対を挿入し、冷却速度を測定した。なお、一部のコイルについては、熱延後の巻取り重量を調整して小コイルを作製し、冷却速度を大きくした。
【0054】
冷却した熱延鋼板には、ショットブラスト、酸洗処理を施して脱スケールした後、板厚4.5mmのコイルの測温位置近傍から、圧延方向に平行にJIS 5号引張試験片を採取して引張試験を行い、0.2%耐力、引張強さ、降伏比および伸びを測定した。また、板厚4.5mmのコイルを幅:300mmにスリットしてウェブ材とし、板厚6.0mmのコイルを幅:150mmにスリットしてフランジ材とし、2枚のフランジ材の幅方向中央部にウェブ材を電気抵抗溶接により接合してH形鋼を製造した。この時の溶接は、雰囲気ガス:大気中または窒素ガスパージ、投入電力:330〜370kW、溶接速度:20〜40m/分の条件で行った。この溶接H形鋼より、JIS G3353に準拠し、溶接方向に35mm幅のH型状の溶接部引張試験片を切り出し、両フランジ部分を掴んで引張試験を行い、引張強さの測定と破断位置の調査を行った。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
上記試験の結果を表2に併記した。本発明により製造した鋼板は、SS400やSN400B並みの強度を有している。さらに溶接により成形したH形鋼の強度もSS400鋼並みの強度を有しており、電気抵抗溶接に伴う溶接部の脆化もなく、全てウェブ位置で破断した。また、大気中での溶接においても、良好な溶接を行うことができ、ペネトレータの未排出が原因で起きる溶接部破断は全く生じなかった。一方、本発明の成分組成から外れる比較例では、目的の強度が得られず、また引張試験においても溶接部で破断が生じ、十分な強度が得られなかった。
具体的には、No.10は、粗圧延における強圧下圧延を行わなかったためにH形鋼溶接部の強度が十分ではなく、No.11は、熱延後の冷却速度が大きいために鋼板強度が目標より高くなっている。No.14,15は、CあるいはC+Nが高いため、溶接部の脆化が著しく、溶接強度が十分でない。また、No.16は、Cu含有量が少ないためペネトレータの排出が不十分となり、No.17は、V含有量が少ないために溶接熱影響部のフェライト粒が粗大化し、また、No.18は、Mn含有量が多いために溶接熱影響部の硬化が大きく、いずれも引張試験で溶接部から破断が発生している。
【0058】
(実施例2)
表3に示す成分組成を有する溶鋼を、転炉−2次精練工程を経て溶製し、連続鋳造法で200mm厚のスラブとした。これらのスラブを1170〜1220℃に再加熱後、表4に示した条件で、6パス目の圧下率を30〜45%、他パスの圧下率を30%未満とする計7パスの粗圧延を行った後、仕上圧延における圧延仕上温度が940〜1050℃となる7パスの仕上圧延により、4.5mmおよび6.0mm厚の熱延鋼板とし、815〜910℃の温度で巻き取ってコイルとした。巻取り後のコイルは、断熱材を敷き詰めた保熱ヤードへ搬送し、100mm厚の断熱材を内側にライニングした保熱カバーを被せてコイルの保熱を行い徐冷した。コイルの冷却速度の測定は、コイルの最外巻きのエッジ部近傍に熱電対を溶接して行った。また、一部のコイルに対してはコイル単重を調整しあるいは断熱材の厚さを変えることで、冷却速度を変化させた。これら熱延コイルの最外巻きエッジ部および最外巻き板幅方向1/4の部分から圧延方向に平行にJIS 5号引張試験片を切り出し、引張試験を実施した。
【0059】
【表3】
【0060】
上記試験の結果を表4に併記して示す。本発明に従い、巻取り後のコイルに保熱カバーを被せて徐冷した鋼板は、コイル最外巻きのエッジ部近傍の最冷点においても硬質化がほとんど起きず、SS400鋼やSN400B並みの軟質な強度を得ることができた。一方、保熱を行っても、本発明の条件から外れる比較例ではエッジ部での強度上昇が大きく、さらに成分が外れている比較例では、1/4幅においても目的の強度が得られなかった。
具体的には、No.30および31は、巻取り後の冷却速度が本発明の範囲より速いため、コイル最外巻き部では軟質化が得られていない。また、No.34はCが、No.35はNが、さらにNo.36はC+Nが高いため、いずれも最外巻き部は高強度化している。さらに、No.37はCu含有量が多く、No.38はV含有量が多く、さらにNo.39は、Mn含有量が多いため、いずれも最外巻き部は所望の鋼板強度より高い値となっている。
【0061】
【表4】
【0062】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、鋼板の成分組成と熱間圧延条件および熱延後の冷却条件とを適正に組み合わせることによって、熱間圧延のままの状態でSS400鋼並みの強度を有し、しかもコイル先後端部および幅端部でも硬質化することのない構造用Fe−Cr系鋼板を得ることができるので、従来の製造ラインにおいても各種形鋼の製造をすることができる。また本発明の鋼板は、急熱、急冷を受ける溶接法による成形加工が可能であるため、構造用形鋼を電気抵抗溶接によって製造することができる。さらに、本発明の鋼板は、土木・建築用の構造物に使用しても充分な耐食性と耐久性を有するため、ライフサイクルコストの低減を図ることができ、その工業的利用価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】巻取後の熱延コイルの温度履歴を計算した結果の1例を示すグラフである。
【図2】巻取後の熱延コイルに保熱カバーを被せた際の温度履歴を計算した結果の1例を示すグラフである。
【図3】保熱カバーによる保熱方法を模式的に示す図である。
【図4】図2の冷却曲線と2℃/分の冷却曲線をCCT図に重ねて示したグラフである。
【符号の説明】
1.保熱カバー
2.熱延後コイル
Claims (9)
- C:0.0025〜0.010mass%、N:0.0025〜0.010mass%、C+N:0.015mass%以下、Si:0.01〜1.0mass%、Mn:0.01〜0.30mass%、P:0.04mass%以下、S:0.03mass%以下、Cr:8mass%以上10mass%未満、Cu:0.01〜1.0mass%、Ni:0.01〜1.0mass%、V:0.01〜0.20mass%、Al:0.05mass%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、引張強さが400〜450MPaであることを特徴とする構造用Fe−Cr系鋼板。
- 上記成分組成に加えてさらに、Mo:1.0mass%以下を含有することを特徴とする請求項1に記載の構造用Fe−Cr系鋼板。
- C:0.0025〜0.010mass%、N:0.0025〜0.010mass%、C+N:0.015mass%以下、Si:0.01〜1.0mass%、Mn:0.01〜0.30mass%、P:0.04mass%以下、S:0.03mass%以下、Cr:8mass%以上10mass%未満、Cu:0.01〜1.0mass%、Ni:0.01〜1.0mass%、V:0.01〜0.20mass%、Al:0.05mass%以下を含有する鋼素材を、1100〜1280℃の温度に加熱し、930℃超の温度で熱間圧延を終了し、810℃超の温度で巻取り、コイル内部における800〜400℃間の平均冷却速度を2℃/分以下とすることにより、引張強さが400〜450MPaの鋼板を得ることを特徴とする構造用Fe−Cr系鋼板の製造方法。
- 上記鋼素材の成分組成に加えてさらに、Mo:1.0mass%以下を含有することを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
- 上記製造方法において、粗圧延の少なくとも1パスを、1000℃超の温度で、30%以上の圧下率で行うことを特徴とする請求項3または4に記載の製造方法。
- 上記製造方法において、コイルの全ての位置における800〜400℃間の平均冷却速度を2℃/分以下とすることことを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
- 上記製造方法において、コイルの冷却を、保熱カバー、保熱ボックスあるいは保熱炉のいずれかを用いて行うことを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
- 上記請求項1または2に記載の鋼板を、電気抵抗溶接によって形鋼としたことを特徴とする構造用形鋼。
- 上記請求項3〜7のいずれか1項の方法で製造した鋼板を、電気抵抗溶接によって形鋼としたことを特徴とする構造用形鋼。
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