JP2004083387A - 磁性ガーネット材料、ファラデー回転子、光デバイス、ビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜の製造方法および坩堝 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】LPE法に用いる坩堝10をAuから構成する。Au製の坩堝10を用いて作成された単結晶は取り込まれるAuの量が、Pt製の坩堝10を用いて作成された単結晶に取り込まれるPtに比べて少ない。Auは、Ptに比べて挿入損失を劣化させる度合いが少ない。
【選択図】 図3
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光通信システムに用いられる磁性ガーネット材料、ファラデー回転子、ビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜の製造方法および坩堝に関し、特にファラデー回転子において低い挿入損失を得るための技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
現在、伝送容量の小さい電気通信に対して、光通信の普及が加速している。その理由は、以下説明するように、光通信は、高速大容量伝送が可能であること、中継器が少なくてすむために長距離伝送に有利であること、さらに電磁ノイズの影響を受けないことに集約される。
光は、TV・ラジオ放送あるいは無線通信で使用されている電波と電磁波である点で一致する。しかし、光通信で使用される電磁波の周波数は約200THzで、衛星放送(約10GHz)の約20000倍にあたる。周波数が高いということは、波長が短いことを意味し、それだけ多くの信号を高速で伝送できることになる。ちなみに、光通信で使用される電磁波の波長(中心波長)は、1.31μmおよび1.55μmである。
光通信に使用される光ファイバは、よく知られているように、屈折率の異なるガラスの二重構造をなしている。中心のコアを通る光はコア内部で反射を繰り返すので、たとえ光ファイバが曲がっていたとしても正確に信号が伝送される。しかも、光ファイバには透明度の高い高純度石英ガラスが使用されているため、光通信は、1kmあたり0.2dB程度しか減衰しない。したがって、増幅器を介することなく約100kmの伝送が可能であり、電気通信に比べて中継器の数を低減することができる。
電気通信ではEMI(電磁障害)が問題になるが、光ファイバを使った通信は、電磁誘導によるノイズの影響を受けない。そのため、極めて高品質な情報伝送が可能である。
【0003】
現在の光通信システムは、電気信号を光送信器のLD(レーザ・ダイオード)で光信号に変換し、この光信号を光ファイバで伝送してから、光受信器のPD(フォト・ダイオード)で電気信号に変換する。このように、光通信システムに不可欠な要素は、LD、PD、光ファイバおよび光コネクタである。比較的低速かつ近距離の通信システムはともかく、高速かつ長距離の通信システムにおいては、以上の要素のほかに、光増幅器、光分配器などの光伝送機器、これら機器に適用される光アイソレータ、光カプラ、光分波器、光スイッチ、光変調器、光減衰器などの光部品が必要となる。
【0004】
高速・長距離伝送、あるいは多分岐の光通信システムで、とりわけ重要となるのは光アイソレータである。現在の光通信システムにおいて、光アイソレータは、光送信器のLDモジュールおよび中継器の中で使用されている。光アイソレータは、電磁波を一方向にだけ伝え、途中で反射して戻ってくる電磁波を阻止する役割を持った光部品である。光アイソレータは、磁気光学効果の一種であるファラデー効果を応用したものである。ファラデー効果は、ファラデー効果を示す材料、すなわち希土類鉄ガーネット単結晶膜などのファラデー回転子を透過した光の偏波面が回転する現象をいう。ファラデー効果のように、光の偏波方向が回転する性質を旋光性と呼ぶが、通常の旋光性と異なって、ファラデー効果においては、光の進行方向を逆にしても元に戻らずに、さらに偏波方向が回転する。ファラデー効果によって光の偏波方向が回転する現象を利用した素子をファラデー回転子という。
【0005】
ファラデー回転子は光アイソレータの性能を左右する。したがって、ファラデー回転子を構成する材料の特性が、高性能な光アイソレータを得るために重要となる。ファラデー回転子を構成する材料を選択する上で重要な点は、使用波長(光ファイバの場合、1.31μm,1.55μm)におけるファラデー回転角が大きいこと、および透明度が高いことである。このような条件を具備する材料として、当初にはYIG(イットリウム鉄ガーネット,Y3Fe5O12)が用いられていたが、量産性、小型化の点で不十分であった。
その後、ガーネット型結晶の希土類サイトをビスマス(Bi)で置換するとファラデー回転能が飛躍的に向上することが見出され、以後はこのビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶がファラデー回転子に用いられるようになった。
【0006】
ところで、ビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶は、LPE(Liquid Phase Epitaxial:液相エピタキシャル)法で作製される。このLPE法は、酸化ビスマス、酸化第二鉄や希土類酸化物からなる希土類鉄ガーネット成分の酸化物と、酸化鉛、酸化ホウ素を含むフラックス成分を、Pt製の坩堝内に投入し、所定の温度に加熱することにより、希土類鉄ガーネット成分を溶融してメルトを得る。次いで、メルトの温度を下げて過冷却状態にし、LPE基板を回転させながらメルトに接触させると、LPE基板上に、単結晶膜がエピタキシャル成長する。
【0007】
LPE法を実施する上での問題点として、坩堝の腐食が指摘された。Ptは耐食性に優れた材料であることは周知であるが、フラックスを構成する酸化鉛、酸化ビスマスを含むメルトに対する耐食性は不十分である。そのため、Ptから構成される坩堝であっても、メルトの液面が一定していると、液面近傍の腐食が顕著となる。
メルトによる坩堝の腐食を防止するために、特開平9−175898号公報には、坩堝内のメルトの液面を移動せしめ、それにより坩堝の腐食領域を移動することにより、坩堝の溶解量を調整する方法が記載されている。
また、特開平11−322496号公報には、Pt製の坩堝の内側にPt製の坩堝と分離可能なPt製腐食防止体を設ける方法が記載されている。
特開平9−175898号公報、特開平11−322496号公報に記載された方法は、Pt製坩堝の交換あるいは改鋳の頻度を低減することができる点で評価される。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、特開平9−175898号公報、特開平11−322496号公報に記載された方法であっても、腐食によって坩堝から溶出したPtのメルト内への混入量を低減できるわけではない。
Ptが取り込まれた磁性ガーネット単結晶は、光吸収が増長する。つまり、4価の元素であるPtが取り込まれることにより、ビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶の電荷バランスが崩れることにより、光吸収特性が劣化してしまうのである。
【0009】
光吸収特性の劣化対策として、適当な熱処理を行い、または2価(例えばCa)または4価(例えばGe)の元素を適当量添加することで、単結晶内の電荷のバランスを取ることが検討されていた。ところが、熱処理を施し、あるいは2価または4価の元素を添加しても、光吸収特性を十分に回復させることができないことがあった。
そこで本発明は、LPE法によっても光吸収特性の劣化度の低い磁性ガーネット材料を得る手法を提案する。
【0010】
【課題を解決するための手段】
ビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶の育成中に、坩堝を構成するPtはフラックス中に徐々に溶解する。しかも、Ptはビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶中のFeと置換されることによって、ビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶中に取り込まれる。フラックス中に溶解してくるPtはビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶中に増加し、また単結晶の育成中の育成温度条件の変化に起因して、ガーネット単結晶中に取り込まれるPtの量は徐々に増えていくことを本発明者は知見した。
このように、Pt量が単結晶の育成過程で徐々に増加する、換言すればビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶の膜厚方向でPt量が変動するため、当該単結晶の一部で電荷のバランスを取ったとしても、他の部分では電荷のバランスは取れない。したがって、単結晶全体としては依然電荷のバランスは崩れたままであり、このようなビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶に光を入射した場合に光吸収が発生し、この単結晶から得られたファラデー回転子の光挿入損失は大きくなってしまう。
【0011】
そこで本発明者は、ビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶中に取り込まれにくく、また取り込まれたとしてもビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶の電荷バランスを崩さない元素として、3価イオンになる金属元素の使用に着目した。したがって本発明は、ビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜から構成され、前記単結晶膜の化学組成が、Bi(3−x)AxFe(5−y−z)MyTzO12(ただし、A=Yを含む希土類元素およびCaのグループから選択される一種または二種以上、M=Ga、Al、Ge、Sc、In、Si、Ti、Mg、MnおよびZrのグループから選択される一種または二種以上、T=Au、RhおよびIrのグループから選択される一種または二種以上、0.2≦x≦2.5,0≦y≦2.0,0<z≦0.1)であることを特徴とする磁性ガーネット材料を提供する。
本発明の磁性ガーネット材料は、単結晶膜の厚さ方向におけるT元素の濃度分布が、略均一であるという特徴を有する。これは、Pt製の坩堝を用いて得られた単結晶が膜厚方向におけるPtの濃度分布が比例関係にあるのと対照的な特徴である。
【0012】
ところで、磁性ガーネット材料は、外部磁界を取り除くとファラデー効果が消失してしまう軟磁性と、外部磁界を取り除いてもファラデー効果を維持できる硬磁性の2つのタイプが存在する。軟磁性のガーネット材料をファラデー回転子に用いる場合には、ファラデー回転子に外部磁場を付与するための永久磁石が必要となる。これに対して、硬磁性のガーネット材料をファラデー回転子に用いる場合には、永久磁石を省略することができる。永久磁石の省略は、光アイソレータあるいはファラデー効果を利用する種々の機器、部品の小型化、低コスト化をもたらす。そのため、硬磁性タイプのビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶の開発が行われている。本発明は、軟磁性および硬磁性の2つのタイプの磁性ガーネット材料に適用することができる。
本発明者は、Ptの濃度に分布が存在していると、硬磁性に対して悪影響を及ぼすことを知見した。詳しくは後述するが、単結晶膜の育成初期から後期にかけてPtの濃度が増加するビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜は、補償温度近傍においてファラデー回転角が2つ出現するのである。この現象を本明細書中では、スプリットと呼ぶことにする。ファラデー回転角がスプリットした硬磁性ファラデー回転子は、保磁力が低下してしまう。硬磁性のビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜は、ファラデー回転子の使用温度範囲(通常、−40〜85℃)内に補償温度が存在しているために、補償温度近傍におけるスプリットの発生を阻止することが望まれる。
以上に対して、上述した本発明の硬磁性ガーネット材料によれば、補償温度近傍においてスプリットの発生を阻止することができる。
なお、当業者間で知られているように、補償温度とは、希土類イオンとFeイオンの全磁気モーメントが等しくなって見かけ上磁化がゼロになる温度をいう。ところが、後述する実施例で示すように、実際に製造される硬磁性ガーネット材料の中には、室温付近で自発磁化が最低値を示すものの0(ゼロ)にはならないものがある。そこで、本明細書中では、自発磁化が最低値を示す温度をも、便宜上、補償温度と呼ぶことがあり、以上の説明ではこの本明細書中の定義によって補償温度を用いた。
【0013】
前述したT元素のうちで、本発明はAuを用いることを最も推奨する。したがって本発明によれば、Auを含むビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜から構成され、入射された光の偏波面を回転させるとともに、挿入損失が0.03dB以下であることを特徴とするファラデー回転子が提供される。
このファラデー回転子を構成する前記単結晶膜中に含まれるAu量は、モル比で0.01以下(0を含まず)とすることが望ましい。
本発明のファラデー回転子を構成する前記単結晶膜は、Ptの存在を許容する。つまり、単結晶膜中に含まれるPt量を、モル比で0.01以下に規制すれば、挿入損失に対して悪影響を与えないからである。
【0014】
本発明は以上のファラデー回転子を用いた光デバイスをも提供する。この光デバイスは、順方向の光が入射されるとともに、逆方向の光の透過を阻止する第1の光学素子と、第1の光学素子と所定間隔を隔てて対向配置され順方向の光が出射されるとともに、逆方向の光が入射される第2の光学素子と、第1の光学素子と第2の光学素子との間に配置され、第1の光学素子を透過した順方向の光の偏波面を回転させて第2の光学素子に向けて出射するとともに、第2の光学素子を透過した逆方向の光の偏波面を順方向の場合と同じ方向に回転させ第1の光学素子に向けて出射するファラデー回転子とを備え、このファラデー回転子が、Auを含むビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜から構成され、入射された光の偏波面を回転させるとともに、挿入損失が0.03dB以下であることを特徴とする。
【0015】
Auを含む本発明のビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶を得る方法を本発明は提供する。この方法は、第1の方法および第2の方法に分類することができる。第1の方法の要旨は、LPE法により当該単結晶を得る際に用いる坩堝をAuから構成する。第2の方法の要旨は、ビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶を得るための原料にAuを含ませる。
第1の方法は、液相エピタキシャル法によりビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜を製造する方法であって、ビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜の原料組成物およびフラックス組成物を、少なくともメルトが接触する部位にAuが配された坩堝に投入するステップと、原料組成物を加熱、溶融してメルトを得るステップと、このメルトをビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜の育成温度まで降温するステップと、降温されたメルトに単結晶膜育成基板を接触させつつビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜を育成するステップと、を有することを特徴とする。
第2の方法は、液相エピタキシャル法によりビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜を製造する方法であって、ビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜の原料組成物、Auおよびフラックス組成物を坩堝に投入するステップと、原料組成物を加熱、溶融してメルトを得るステップと、このメルトをビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜の育成温度まで降温するステップと、降温されたメルトに単結晶膜育成基板を接触させつつビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜を育成するステップと、を有することを特徴とする。
【0016】
本発明は、前記第1の方法に用いる以下の坩堝を提供する。この坩堝は、液相エピタキシャル法によりビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜を製造する際に用いられ、少なくともメルトと接触する領域がAu,Au合金,強化Auの少なくともいずれかから構成されることを特徴としている。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明の磁性ガーネット材料は、Bi(3−x)AxFe(5−y−z)MyTzO12(ただし、A=Yを含む希土類元素およびCaのグループから選択される一種または二種以上、M=Ga、Al、Ge、Sc、In、Si、Ti、Mg、MnおよびZrのグループから選択される一種または二種以上、T=Au、RhおよびIrのグループから選択される一種または二種以上、0.2≦x≦2.5,0≦y≦2.0,0<z≦0.1)の化学組成を有する。なお、以上の組成は、材料中に含有することを意図した元素のみを示している。例えば、LPE法により単結晶膜育成時にフラックスから混入するPbを示していないが、本発明はこれら元素の不可避的な含有を否定するものでない。
本発明の磁性ガーネット材料において最も特徴的な必須元素はT元素である。しかし、T元素は高価であるとともに、過剰に含有させてもその量に応じた効果が期待できないため、その上限を0.1とした。T元素の望ましい上限は0.05、さらに望ましい上限は0.01である。
T元素は3価のイオンとなる金属元素であり、ビスマス置換型希土類鉄ガーネット材料と価数が一致する。したがって、4価が安定な元素であるPtのように、ビスマス置換型希土類鉄ガーネット材料の電荷バランスを崩すことがない。3価の金属元素としては、Au、RhおよびIrが存在しており、いずれを用いてもそのイオンの価数から上述の効果を期待できるが、Auが最も望ましい。詳しくは後述するが、LPE法で用いる坩堝の材質として適しているからである。
【0018】
本発明のビスマス置換型希土類鉄ガーネット材料において、A元素は、Yを含む希土類元素(Y、Gd、Tb、Yb、Sm,Eu,Dy,Lu,Tm,Er,Ho,La,Ce,Pr,Nd)およびCaのグループから選択される一種または二種以上である。A元素の量であるxは、0.2≦x≦2.5である。xが0.2未満になると、イオン半径の大きいBiの量が相対的に多くなり、LPE法により単結晶膜を育成するためのLPE基板との格子定数の整合性が取れなくなる。また、xが2.5を超えると、逆にBiの量が相対的に少なくなり、ファラデー回転能が小さくなる。結果として、単結晶膜の厚さを厚くしなければならず、LPE法による単結晶膜の育成が難しくなり、歩留まりの低下をきたす。xの望ましい範囲は1.0≦x≦2.3、さらに望ましい範囲は1.3≦x≦2.0である。
【0019】
希土類元素としては、Gd、TbおよびYbの3つの元素を選択するのが望ましい。Gdは磁気モーメントが希土類元素の中で最も大きいため、飽和磁化(4πMs)の低減に有効である。また、GdBi系のガーネットは、磁化反転温度が−10℃程度と、TbBi系のガーネットの−50℃に比べて室温に近いため、硬磁性のビスマス置換型希土類鉄ガーネット材料を得る場合には有利である。さらに、Gdは1.2μm以上の波長の光の吸収がないため、挿入損失にとって有利である。
Tbは、温度特性、波長特性を確保するために有効な元素である。Gdは磁気異方性が大きく高保磁力化に有効な元素であるが、保持力への寄与はTbのほうが大きい。
本発明のビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜は、LPE法により形成されることを前提とするが、Ybは、当該単結晶膜の格子定数を基板の格子定数と整合させるために含有される。ファラデー回転能を大きくするためには、Biを多く含む結晶とすることが望まれる。ここで、LPE法に用いられる基板(以下、LPE基板)は、所定の格子定数を有している。Biはイオン半径が大きいために、単にBiの量を多くしたのでは、得たい結晶膜の格子定数と基板の格子定数の整合が取れなくなる。そこで、Biの量を多くしつつ、イオン半径の小さいYbを含有せしめることにより、得たい結晶膜の格子定数と基板の格子定数の整合を取るのである。そして、Ybは光通信に使用される光の波長域で光吸収がないので、挿入損失を劣化させることもない。
また、Sm、EuおよびDyはGdおよびTbと同様に磁気異方性が大きい。また、Lu,Tm,Er,HoおよびYは、Dyよりもイオン半径が小さい点でYbと共通する。
【0020】
本発明のビスマス置換型希土類鉄ガーネット材料において、MはFeの一部を置換する元素であり、Ga、Al、Ge、Sc、In、Si、Ti、Mg、MnおよびZrのグループから一種または二種以上選択される。この中では単結晶育成の容易さの観点からGaが最も望ましい元素である。
MのFeに対する置換量であるyは0≦y≦2.0とする。硬磁性、つまり角型のヒステリシスを得るためには、yを0.1以上とするのが望ましい。一方、yが2.0を超えると、単結晶の育成中に溶融部分に不必要な結晶核が生成して単結晶の健全な育成が困難となる。硬磁性を得るための望ましいyの範囲は0.3≦y≦1.7、さらに望ましいyの範囲は0.4≦y≦1.5である。
【0021】
図1は、ビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜に含まれるPt量と挿入損失との関係を示している。図1に示すように、Pt量を0.01程度にすれば、挿入損失を0.03dB程度に抑えることができる。また、Pt量を0にすれば、挿入損失を0.01dB程度に抑えることができる。これは、本発明の磁性ガーネット材料において、Pt量を0にすることが最も望ましいが、微量であればPtが包含され得ることを示唆している。ところが、Ptは単結晶の育成過程で取り込まれやすいため、Pt製の坩堝を用いると、0.01未満の量にするのは困難であった。
【0022】
本発明による磁性ガーネット材料は、LPE法により製造することができる。図3はLPE法により単結晶膜を育成している様子を示している。図3に示すように、坩堝10に希土類鉄ガーネット成分の酸化物(原料)とフラックス成分とを投入する。希土類鉄ガーネット成分の酸化物は、酸化第二鉄、希土類酸化物、酸化ビスマスを含む。フラックス成分は、酸化鉛および酸化ホウ素を含む。ただし、これは例示であり、得たい単結晶の化学組成により、本発明では、さらに他の酸化物、フラックス成分を含むことができる。フラックス成分を構成する元素が、単結晶育成過程で単結晶膜に取り込まれることもある。例えば、酸化鉛をフラックス成分の1つとして用いた場合、単結晶膜は微量のPbを含むことになる。
本発明では、少なくともメルト12が接触する部位にAuが配された坩堝10を用いるところに特徴がある。ここで、Auが配された、とは、坩堝10の全体をAuで構成する場合のほか、坩堝10の一部、例えば坩堝10の内壁のみをAuで構成する場合を包含する。また、純粋なAuのみならず、Au合金を用いる場合も包含する概念である。Auと合金化される元素としては、Ir、Rh、Ptが挙げられる。強化Auは、酸化ジルコニウムなどの微量の物質を分散させ、強度を向上させたAuである。
【0023】
坩堝10に投入された原料とフラックスとは、加熱コイル11へ通電することにより加熱、溶融してメルト12を形成する。このメルト12を形成する過程で、メルト12は撹拌される。この様子を図4に示している。例えば950℃程度に加熱された状態で、メルト12は撹拌子15を用いて撹拌される。メルト12の溶融状態の均一性を向上するためである。この撹拌子15も、坩堝10と同様にAuで構成することが望ましい。Ptで構成された撹拌子15を用いると、攪拌中にPtが撹拌子15から溶け出してメルト12中に含まれることになる。したがって、少なくともメルト12が接触する部位にAuを配した坩堝10を用いる効果を享受するためには、撹拌子15をAuで構成することが望ましい。なお、Auで構成するとは、撹拌子15自体をAuで構成する場合のみならず、撹拌子15本体を別の材質で構成しその表面にAuの膜を形成する場合、さらに、メルト12と接触する部位をAuで構成するが他の部分はAu以外の材質で構成する場合をも包含する。
【0024】
撹拌子15によるメルト12の撹拌が終了した後に、メルト12の温度を例えば800℃程度まで下げて過冷却状態にする。この状態で図3に示すように、LPE基板13を回転させながらメルト12に接触させると、LPE基板13上(図中、下面側)に、単結晶膜14がエピタキシャル成長する。なお、育成された単結晶膜14には、フラックスおよび坩堝10を構成するAuが不純物として取り込まれる。
本発明のビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜にAuを含有せしめるためには、坩堝10をAu(またはAu合金もしくは強化Au)で構成するほかに、原料中にAuを含有させてもよい。この場合、少なくともメルト12が接触する部位にAuが配された坩堝10を用いてもよいし、他の材質、例えばPt、RhおよびIrの一種または二種以上(合金)からなる坩堝10を用いてもよいし、例えば、酸化ジルコニウムなどの微量の物質を分散させたAu(強化Au)からなる坩堝10を用いてもよい。
単結晶膜14の育成過程で、図3に示すように、LPE基板13を保持するウェハ・ホルダ16が、メルト12と接触する可能性がある。したがって、このウェハ・ホルダ16をもAuで構成することが望ましい。ウェハ・ホルダ16は、図3に示すように、その先端の爪状部でLPE基板13を保持している。したがって、少なくともこの先端爪状部をAuで構成すればよい。Auで構成する、の意味は上述と同様である。
【0025】
LPE法により得られた単結晶膜は、最終的に得たいファラデー回転子の厚さよりも若干厚い。研磨加工に供した後にファラデー回転子として用いるためである。なお、ファラデー回転子には、使用される光の波長に対して回転角が45°になるような単結晶膜が用いられる。換言すれば、LPE法により得られた単結晶膜は、ファラデー回転角が45°になる厚さまで研磨加工される。ファラデー回転子は、概ね500μm程度の厚さを有している。研磨加工された後に、挿入損失低減のために、ファラデー回転子の表面には、無反射コーティングを施すことが望ましい。
【0026】
以上のようにして得たファラデー回転子は、光アイソレータ等の光デバイスに供される。そして、この光デバイスは、光通信システムに用いることができる。図5を用いて、本発明が適用される光通信システム1について説明する。
光通信システム1は、送信側と受信側との間で情報を光信号によって伝送するためのシステムである。送信側には光送信器2が、また受信側には光受信器3が配設されている。光送信器2と光受信器3とは、光ファイバからなる光伝送ライン4で接続されている。光伝送ライン4上には光増幅器5が介在している。光増幅器5は、光伝送ライン4の長さに応じた数だけ設けられる。
【0027】
光送信器2は、電子回路21と、LDモジュール22とを備えている。伝送の対象となるデータを電気信号として受けた電子回路21は、所定の処理を施した後にLDモジュール22に出力する。LDモジュール22は、受けた電気信号を光信号に変換した後に、光伝送ライン4に伝送する。
光受信器3は、PDモジュール31と、電子回路32とを備えている。光伝送ライン4から伝送された光信号を受けたPDモジュール31は、電気信号に変換して電子回路32に出力する。電子回路32は、受けた電気信号を受信側に出力する。
光伝送ライン4上に配置された光増幅器5は、光伝送ライン4を伝送される光信号の減衰を防止するために増幅する。
【0028】
図6は、LDモジュール22の構成を示す図である。LDモジュール22は、ケース内に配置されるLD222と、LD222から出力される光(信号)を光アイソレータ224に対して平行光として供給するレンズ223と、レンズ223を透過した光(信号)の偏波面を回転する光アイソレータ224と、光アイソレータ224を出射した光を集光して光伝送ライン4に供給するレンズ223を備えている。
図7は、光アイソレータ224の構成を示す図である。図7に示すように、光アイソレータ224は、2つの偏光子224a(第1の光学素子),224c(第2の光学素子)の間にファラデー回転子224bが配置された構成を有する。2つの偏光子224a,224cは、所定の間隔を隔てて対向配置される。いま、偏光子224aに順方向の光が入射されるものとすると、順方向の光は偏光子224cから光伝送ライン4に向けて出射される。一方、偏光子224cに逆方向の光が入射されるものとすると、偏光子224aは偏光子224cからの逆方向の光の透過を阻止する。これは、ファラデー効果を利用した以下の理由に基づく。すなわち、順方向においては、偏光子224aを透過した直線偏光はファラデー回転子224bにより45°回転し、45°の相対角度をもって配置される偏光子224cを透過する。一方、逆方向においては、偏光子224cを透過した直線偏光は、ファラデー回転子224bにより順方向の場合と同じ方向にさらに45°回転するため、偏光子224aを透過することができなくなるためである。
ファラデー回転子224bが軟磁性の材料で構成されている場合には、ファラデー回転子224bの周囲を取り囲むように例えばリング状の永久磁石を配設する。この永久磁石が発生する磁界によって所定のファラデー効果が発現する。一方、ファラデー回転子224bが硬磁性の材料で構成されている場合には、永久磁石を配設する必要がない。
偏光子224a、224cは公知の材料を用いることができる。例えば、コーニング社製のポーラ・コア(商品名)が望ましいが、これに限定されるものではない。
【0029】
偏光子224a,224cの箇所でも述べたように、ファラデー回転子224bは、偏光子224aを透過した順方向の光の偏波面を回転させて偏光子224cに向けて出射する。また、ファラデー回転子224bは、偏光子224cを透過した逆方向の光の偏波面を、順方向の場合と同じ方向に回転させて偏光子224aに向けて出射する。
本発明において、このファラデー回転子224bを前述したビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜で構成する。そして、このファラデー回転子224bは、光アイソレータ224等の光デバイスの一部として機能する。
なお、以上では光デバイスの例として、光アイソレータ224について説明したが、本発明は、光アッテナータ、光サーキュレータ、光磁界センサ、光減衰器等の他の光デバイスに適用することができることは言うまでもない。
【0030】
【実施例】
以下本発明の具体的な実施例について説明する。
(実施例1)
酸化ビスマス(Bi2O3,4N)、酸化第二鉄(Fe2O3,4N)、酸化ガドリニウム(Gd2O3,5N)、酸化テルビウム(Tb4O7,3N) 、酸化イッテルビウム(Yb2O3,4N)、酸化ガリウム(Ga2O3,4N)を原料として、図3に示す装置を用いて、LPE法により、ビスマス置換型希土類鉄磁性ガーネット単結晶膜を育成した。用いたLPE基板13は、(111)ガーネット単結晶((GdCa)3(GaMgZr)5O12)から構成してある。LPE基板13の格子定数は、1.2497±0.0002nmである。なお、前記原料のほかに、酸化鉛(PbO,4N)および酸化ホウ素(B2O3,5N)をフラックスとして、坩堝10に投入した。坩堝10は、その全体がAuから構成されている。原料およびフラックスを投入後、950℃まで加熱して原料を溶融した後、表面がAuでコーティングされた撹拌子15でメルト12を所定時間だけ撹拌した。撹拌終了後、メルト12を850℃まで降温してから、単結晶膜14の育成を開始した。単結晶膜14の育成の過程で、LPE基板13は、表面にAuがコーティングされたウェハ・ホルダ16で保持されている。
【0031】
得られた単結晶膜(実施例1)について組成分析を行ったところ、Bi1.0Gd0.7Tb1.1Yb0.2Fe4.1Ga0.9Au0.0037O12であることが確認された。なお、この組成は単結晶膜の育成後期におけるものであり、かつPbを分析の対象としていない。また、この単結晶膜は組成的に硬磁性を示すものである。この単結晶膜を所定寸法に切断研磨した後に無反射コーティングを施すことにより、1mm×1mm×0.5mmの寸法のファラデー回転子を得た。このファラデー回転子を用いて挿入損失を測定したところ、0.01dBであった。なお、挿入損失とは、入射光に対する出射光の減衰分をいう。
【0032】
また、坩堝10をPt製の坩堝とした以外は、上記と同様にして得られた単結晶膜(比較例1)を用いてファラデー回転子を得た。単結晶膜の組成は、Bi1.0Gd0.7Tb1.1Yb0.2Fe4.1Ga0.9Pt0.02O12であることが確認された。また、挿入損失を測定したところ、0.05dBであった。
【0033】
以上のように、Auを含む単結晶を用いたファラデー回転子は、Ptを含む単結晶を用いたファラデー回転子に比べて、優れた挿入損失を示す。前述したように、ビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶は3価を示す。Auの電荷は3価、またPtの電荷は4価である。したがって、Ptは単結晶に取り込まれると前記単結晶の電荷バランスを崩してしまうのに対して、Auは前記単結晶と同じ3価の元素であるために電荷バランスを崩さない。さらにAuは単結晶中に取り込まれにくく、わずかに取り込まれても濃度分布をほとんど形成しない特徴をもつ。したがって、挿入損失に悪影響を与える程度が極めて小さいと言える。なお、3価の電荷を有し、かつLPE法の坩堝10に用い得る元素としては、RhおよびIrがある。したがって、本実施例では、Auについて示したが、Auに替えて、またはAuと合金化することにより坩堝10にRhおよび/またはIrを用いることもできる。また、酸化ジルコニウムなどの微量の物質を分散させたAu(強化Au)からなる坩堝10を用いることもできる。
【0034】
2つの単結晶膜の膜厚方向におけるAu(実施例)、Pt(比較例)の濃度分布を測定した。その結果を図2に示す。なお、図2において、膜厚が0(μm)の方が単結晶育成初期を、また400(μm)の方が単結晶育成後期を示している。
図2に示すように、単結晶育成初期から後期にわたってPtの濃度がAuのそれよりも高い。また、Auは膜厚方向における濃度分布が均一であるのに対して、Ptは単結晶成長初期から後期にかけてその濃度分布が直線的に増大している。
これは、以下に示すいくつかの要因に基づくものと推察される。まず、Au、PtおよびFeのイオン半径が関係する。つまり、各々のイオン半径は、Au=0.99Å、Pt=0.77Å、Fe=0.69Åであり、Ptの方がFeのイオン半径に近いため、Feサイトを置換しやすく、単結晶の中に取り込まれやすいものと考えられる。また、坩堝10に関して言えば、フラックスを含むメルト12に対するAu、Ptの溶け出し量が関係する。つまり、Auの方がPtに比べて、メルト12に対する耐食性が優れるため、融液中に溶け出す量がPtに比べてAuの方が少ない。しかも、時間の経過に伴って、Ptは溶け出す量が次第に増加するものと考えられる。これらのことが関連して、図2に示すように、AuとPtの膜厚方向の濃度分布に差異が生ずるものと推察される。なお、RhおよびIrのイオン半径は、Rh=0.81Å、Ir=0.82Åと、Ptのイオン半径よりも大きいため、Ptに比べて単結晶の中に取り込まれにくいものと判断される。
【0035】
(実施例2)
酸化ビスマス(Bi2O3,4N)、酸化第二鉄(Fe2O3,4N)、酸化ガドリニウム(Gd2O3,5N)、酸化テルビウム(Tb4O7,3N) 、酸化イッテルビウム(Yb2O3,4N)、酸化ガリウム(Ga2O3,4N)、酸化ゲルマニウム(GeO2,4N)を原料として、実施例1と同様の条件で、ビスマス置換型希土類鉄磁性ガーネット単結晶膜を育成した。
【0036】
得られた単結晶膜(実施例2)について組成分析を行った。組成分析は、単結晶膜の厚さ方向、つまり単結晶膜の育成初期と後期について行った。その結果、育成初期がBi1.0Gd0.7Tb1.1Yb0.2Pb0.03Fe4.3Ga0.7Ge0.03Au0.0034O12であり、育成後期がBi1.0Gd0.7Tb1.1Yb0.2Pb0.03Fe4.3Ga0.7Ge0.03Au0.0037O12であることを確認した。また、この単結晶膜について、VSM(振動試料型磁力計)を用いて磁気特性を測定した。その結果、補償温度で飽和磁化(4πMs)が0G、保磁力が4kOeであった。
以上の単結晶膜を所定寸法に切断研磨した後に無反射コーティングを施すことにより、1mm×1mm×0.5mmの寸法のファラデー回転子を得た。
得られたファラデー回転子について、ファラデー回転角測定装置を用いてファラデー回転能を測定したところ、図8に示すように、良好な角型特性を示した。
【0037】
また、坩堝10をPt製の坩堝とした以外は、上記と同様にして得られた単結晶膜(比較例2)を用いてファラデー回転子を得た。
得られたファラデー回転子について組成分析を行った。組成分析は、実施例と同様に単結晶膜の育成初期および後期について行った。その結果、育成初期がBi1.08Gd0.29Tb1.38Yb0.21Pb0.033Fe4.3Ga0.67Ge0.022Pt0.008O12であり、育成後期がBi1.09Gd0.30Tb1.37Yb0.20Pb0.035Fe4.3Ga0.7Ge0.016Pt0.024O12であることを確認した。育成初期から育成後期にかけて、Pt量の増加率が高いことがわかる。しかも、この増加率は、他の単結晶膜の構成元素に比べて大きい。この単結晶膜について実施例2と同様に磁気特性を測定した。その結果、補償温度での飽和磁化(4πMs)が25Gであった。この飽和磁化が得られた温度は、厳密な意味では補償温度ではないが、前述したように、本明細書中では、補償温度と呼ぶ。
以上の単結晶膜を用いて実施例2と同様にファラデー回転子を作製した後に、ファラデー回転能を測定した。その結果を図9に示すが、ファラデー回転角にスプリットが発生していることが確認された。
【0038】
以上のようなスプリットが発生する原因は明らかではないが、本発明者等は、ファラデー回転子を構成する単結晶膜内に所定元素、特にPtの濃度勾配が生じたために、補償温度が異なる2つの相が出現したことが、スプリットの発生原因と理解している。以下、図10を参照しつつこの点について言及する。
図10において、中央のグラフは自発磁化と測定温度の関係(自発磁化の温度曲線)を示している。いま、前述した2つの相を、a相およびb相とする。また、a相の補償温度をTca、b相の補償温度をTcb(Tca>Tcb)とする。
【0039】
前記グラフ中に、a相の自発磁化の温度曲線を一点鎖線で、またb相の自発磁化の温度曲線を点線で示してある。実測された自発磁化の温度曲線を実線で示しているが、この実線は、a相の自発磁化の温度曲線とb相の自発磁化の温度変化曲線の比例加算として定義される。各々の曲線に付してある矢印は、a相およびb相を通過する光の回転方向(以下、ファラデー回転方向)を示している。なお、a相のファラデー回転方向は白抜き矢印で、またb相のファラデー回転方向は黒塗り矢印で示してある。
図10に示すように、a相によるファラデー回転方向は、Tca以下の温度範囲では、図中下向きで示す方向(以下、第1の方向)であるものとする。また、b相によるファラデー回転方向も、Tcb以下の温度範囲では、第1の方向とする。
【0040】
Tcb以下の所定温度における、ファラデー回転角の磁気ヒステリシを、図10の(I)に示している。図10(I)に示すように、a相による磁気ヒステリシスとb相による磁気ヒステリシスが存在するものと解される。ところが、この所定温度において実測される磁気ヒステリシスは角型を示す。a相によるファラデー回転方向とb相によるファラデー回転方向が一致していること、および前記所定温度における自発磁化の差異が小さいため、保磁力の差異も小さいと推測される。
【0041】
次に、Tcb以上の温度になると、b相によるファラデー回転方向は、Tcb以下の温度範囲とは異なる第2の方向(図中、上向の方向)となる。b相による磁場の向きがTcbを境に逆向きになったことによる。一方、Tcbを超えてもTca以下の温度範囲では、a相によるファラデー回転方向は、第1の方向を維持する。したがって、Tcb以上Tca以下の温度範囲では、a相によるファラデー回転方向とb相によるファラデー回転方向は向きが逆になる。また、Tcb以上Tca以下の所定温度におけるa相の自発磁化とb相の自発磁化の差異は、Tcb以下の温度範囲のそれよりも大きいといえる。したがって、Tcb以上Tca以下の所定温度におけるa相およびb相のファラデー回転角の磁気ヒステリシスは図10(II)に示すとおり2つ存在するものと解される。ところが、実測すると図10(III)に示すような磁気ヒステリシスを示す。この磁気ヒステリシスは、図10(II)のa相による磁気ヒステリシスとb相による磁気ヒステリシスの和として認識することができる。
【0042】
Tca以上の温度範囲では、a相によるファラデー回転方向とb相によるファラデー回転方向は一致する。しかも、a相による自発磁化とb相による自発磁化の差異は小さい。したがって、図10(IV)に示すように、a相によるヒステリシスループとb相によるヒステリシスループが存在したとして、Tcb以下の所定温度と同様に角型を示すのである。
【0043】
以上が、本発明者によるスプリット発生原因の理解である。そして、スプリットは、鉄サイトを置換する元素としてのPtの濃度勾配が顕著な場合に例外なく生ずることから、Ptの濃度勾配を低減することにより、スプリットの発生を抑制することができる。
【0044】
(実施例3)
実施例2と同様にして、ビスマス置換型希土類鉄磁性ガーネット単結晶膜を育成した。得られた単結晶膜(実施例3)について組成分析を行ったところ、育成初期および後期ともに以下の組成を有していた。この組成の材料は、軟磁性を示すものである。
Bi1.0Gd0.7Tb1.1Yb0.2Pb0.03Fe4.97Ge0.03Au0.003O12
この単結晶膜を所定寸法に切断研磨した後に無反射コーティングを施すことにより、1mm×1mm×0.5mmの寸法のファラデー回転子を得た。このファラデー回転子を用いて挿入損失を測定したところ、0.01dBであった。
【0045】
坩堝10をPt製の坩堝とした以外は、上記と同様にして得られた単結晶膜(比較例3)を用いてファラデー回転子を得た。この単結晶膜の組成は、育成初期がBi1.0Gd0.7Tb1.1Yb0.2Pb0.03Fe4.97Ge0.023Pt0.007O12、育成後期がBi1.0Gd0.7Tb1.1Yb0.2Pb0.03Fe4.97Ge0.017Pt0.022O12であった。このファラデー回転子の挿入損失を測定したところ、0.04dBであった。
以上のように、実施例3は電荷補償が理想的に行われたために挿入損失を向上できるのに対して、比較例3は電荷バランスが崩れているために挿入損失が劣る。
【0046】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、挿入損失に優れた磁性ビスマス置換型希土類鉄ガーネット材料を得ることができる。また、本発明によれば、補償温度においてもスプリットの発生しない硬磁性ビスマス置換型希土類鉄ガーネット材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】Pt量と挿入損失の関係を示すグラフである。
【図2】単結晶膜厚方向におけるAuおよびPtの濃度分布を示す図である。
【図3】LPE法を説明するための図である。
【図4】LPE法の過程でメルトを撹拌する様子を示す図である。
【図5】本実施の形態による光通信システムの構成を示す図である。
【図6】本実施の形態によるLDモジュールの構成を示す図である。
【図7】本実施の形態による光アイソレータの構成を示す図である。
【図8】実施例2によるファラデー回転子の外部磁界とファラデー回転角の関係を示す図である。
【図9】比較例2によるファラデー回転子の外部磁界とファラデー回転角の関係を示す図である。
【図10】ファラデー回転角にスプリットが発生する原因を説明するための図である。
【符号の説明】
1…光通信システム、2…光送信器、21…電子回路、22…LDモジュール、222…LD、223…レンズ、224…光アイソレータ、224a(第1の光学素子),224c(第2の光学素子)…偏光子、224b…ファラデー回転子、3…光受信器、31…PDモジュール、32…電子回路、4…光伝送ライン、5…光増幅器、10…坩堝、11…加熱コイル、12…メルト、13…LPE基板、14…単結晶膜、15…撹拌子、16…ウェハ・ホルダ
Claims (9)
- ビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜から構成され、前記単結晶膜の化学組成が、
Bi(3−x)AxFe(5−y−z)MyTzO12
(ただし、A=Yを含む希土類元素およびCaのグループから選択される一種または二種以上、M=Ga、Al、Ge、Sc、In、Si、Ti、Mg、MnおよびZrのグループから選択される一種または二種以上、T=Au、RhおよびIrのグループから選択される一種または二種以上、0.2≦x≦2.5,0≦y≦2.0,0<z≦0.1)であることを特徴とする磁性ガーネット材料。 - 前記単結晶膜の厚さ方向の前記T元素の濃度分布が、略均一であることを特徴とする請求項1に記載の磁性ガーネット材料。
- Auを含むビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜から構成され、入射された光の偏波面を回転させるとともに、挿入損失が0.03dB以下であることを特徴とするファラデー回転子。
- 前記単結晶膜中に含まれるAu量を、モル比で0.01以下(0を含まず)とすることを特徴とする請求項3に記載のファラデー回転子。
- 前記単結晶膜中に含まれるPt量を、モル比で0.01以下に規制することを特徴とする請求項4に記載のファラデー回転子。
- 順方向の光が入射されるとともに、逆方向の光の透過を阻止する第1の光学素子と、
前記第1の光学素子と所定間隔を隔てて対向配置され前記順方向の光が出射されるとともに、前記逆方向の光が入射される第2の光学素子と、
前記第1の光学素子と前記第2の光学素子との間に配置され、前記第1の光学素子を透過した前記順方向の光の偏波面を回転させて前記第2の光学素子に向けて出射するとともに、前記第2の光学素子を透過した前記逆方向の光の偏波面を前記順方向の場合と同じ方向に回転させ前記第1の光学素子に向けて出射するファラデー回転子とを備え、
前記ファラデー回転子は、Auを含むビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜から構成され、入射された光の偏波面を回転させるとともに、挿入損失が0.03dB以下であることを特徴とする光デバイス。 - 液相エピタキシャル法によりビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜を製造する方法であって、
前記ビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜の原料組成物およびフラックス組成物を、少なくともメルトが接触する部位にAuが配された坩堝に投入するステップと、
前記原料組成物を加熱、溶融してメルトを得るステップと、
前記メルトを前記ビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜の育成温度まで降温するステップと、
降温された前記メルトに単結晶膜育成基板を接触させつつ前記ビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜を育成するステップと、
を有することを特徴とするビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜の製造方法。 - 液相エピタキシャル法によりビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜を製造する方法であって、
前記ビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜の原料組成物、Auおよびフラックス組成物を坩堝に投入するステップと、
前記原料組成物およびAuを加熱、溶融してメルトを得るステップと、
前記メルトを前記ビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜の育成温度まで降温するステップと、
降温された融液に単結晶膜育成基板を接触させつつ前記ビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜を育成するステップと、
を有することを特徴とするビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜の製造方法。 - 液相エピタキシャル法により、ビスマス置換型希土類鉄ガーネット単結晶膜を製造する際に用いる坩堝であって、
前記坩堝は、少なくともメルトと接触する領域がAu,Au合金,強化Auの少なくともいずれかから構成されることを特徴とする坩堝。
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