JP2004075971A - (メタ)アクリル酸系重合体および不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体、およびこれらの製造方法、並びにこれらを用いてなる洗剤 - Google Patents

(メタ)アクリル酸系重合体および不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体、およびこれらの製造方法、並びにこれらを用いてなる洗剤 Download PDF

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Abstract

【課題】分散能、キレート能および耐ゲル性に優れた低分子量の水溶性重合体である(メタ)アクリル系重合体であって、不純物量が少なく低温保持時の不純物析出もなく、より一層の性能向上および保存安定化が図られてなる(メタ)アクリル酸系重合体を提供する。
【解決手段】S=(ポリマーに含まれるS量)/(全S量)×100で定義される硫黄元素導入量S値が35以上であることを特徴とする(メタ)アクリル酸系重合体。
【選択図】      なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水系の分散剤、スケール防止剤、あるいは洗剤ビルダーなどの用途として好適に用いられる(メタ)アクリル酸系重合体およびその製造方法、並びにこれを用いてなる洗剤に関する。
【0002】
また本発明は、水系の分散剤、スケール防止剤、セメント添加剤あるいは洗剤ビルダーなどの用途として好適に用いられる不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体およびその製造方法、並びにこれを用いてなる洗剤に関する。
【0003】
【従来の技術】
<(メタ)アクリル酸系重合体に関する従来技術>
従来より、ポリアクリル酸やポリマレイン酸などの水溶性重合体のうち、低分子量のものは、無機顔料や金属イオンなどの分散剤、スケール防止剤、および洗剤ビルダーなどに好適に用いられている。このような低分子量の水溶性重合体を得る方法が各種知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
特許文献1に開示されている方法では、水溶性アゾ系ラジカル重合開始剤を用いて、一種または二種以上の水溶性のビニルモノマー(エチレン性単量体)をラジカル重合させる際に、亜硫酸イオンをモノマーに対して0.1〜30mol%存在させている。このとき用いられるモノマーは、水溶性ビニルモノマーであれば特に限定されず、この方法を用いれば、分子量数万までの低分子量の水溶性重合体を再現性よく得ることができる。
【0005】
また、特許文献2では、アクリル酸またはアクリル酸塩をpH6〜9の範囲(中和条件下)に保ちながら水溶液重合することによって、95mol%以上のアクリル酸またはアクリル酸塩からなる水溶性ポリマーを得ている。このときの重合体の数平均分子量は300〜10000であり、分散度は1.3〜2.3である。この方法により得られる水溶性ポリマーは、低分子量かつ分散度も狭い(分子量分布が狭い)ため、高い分散能を有し、各種分散剤や洗剤ビルダーなどに好適に用いられる。
【0006】
さらに、特許文献3には、アクリル酸塩系低分子量重合体の製造方法が開示されている。特許文献3の方法では、(A)アクリル酸アルカリ金属塩、(B)アクリルアミドまたは(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(C)上記(A)および(B)成分と共重合可能な親水性単量体とを、所定の成分比で水溶液重合している。重合条件は、(A)成分1モルに対して空気10リットル以上、重合温度80℃以下である。
【0007】
この方法により得られるアクリル酸塩系の水溶性重合体は、分子量が500〜100000の範囲内であるとともに分子量分布が狭い。また、該水溶液重合体は、不純物がない上に着色も少ない。しかも、この水溶性重合体の直鎖の末端または側鎖には、1分子当たり0.5〜1.5個のスルホン酸基が導入されうる。それゆえ、上記水溶性重合体は、分散能やキレート能に優れており、無機顔料の分散剤、洗剤ビルダー、洗浄剤、スケール防止剤に好適に用いることができる。
【0008】
また、上述したような水溶性重合体ではないが、低分子量の重合体を製造する技術が知られている(例えば、特許文献4参照)。この公報に開示されている低分子量の重合体は導電性塗料用であり、(メタ)アクリロニトリルと疎水性単量体とを重合してなるもので、疎水性単量体が40mol%以上であることが必須である。この方法では、25000以下の分子量の重合体を製造することが可能である。
【0009】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に開示されている技術では、重合体末端や主鎖に対して定量的にスルホン酸基を導入することが難しい。そのため、得られる水溶性重合体の分散能や耐ゲル化能は十分に優れているとは言いがたく、分散剤や洗剤ビルダー、洗浄剤、スケール防止剤用として最適ではない。
【0010】
一方、特許文献3に開示されている技術では、ある程度スルホン酸基が導入された水溶性重合体が得られる。しかしながら、この技術に用いられる単量体はアクリル酸塩(アルカリ金属塩)であるため、重合反応系はほぼ完全に中和されている。
【0011】
このようなアクリル酸塩を用いた中和状態の重合では、反応系中の固形分濃度を高くすると、重合が進行するに伴って反応液の粘度が顕著に上昇し、得られる重合体の分子量が大幅に増大する傾向にある。それゆえ、特許文献3における技術では、単量体の重合に際し、高濃度の条件下で低分子量の重合体を製造することができず、製造効率が低くなる問題点がある。
【0012】
さらに、特許文献4に開示されている技術によって、低分子量の重合体を良好に製造することが可能である。しかし、特許文献4に開示されている技術は、疎水性単量体を40mol%以上用いて重合体を製造する技術である。このため、得られる低分子量の重合体は水溶性でない。すなわち、特許文献4に開示されている技術は、導電性塗料用の低分子量重合体を製造するための技術であって、単に単量体を水溶性のものに代えただけでは、水溶性重合体を良好に製造できない。
【0013】
また、上記低分子量の水溶性重合体が分散剤やスケール防止剤、洗剤ビルダーなどに好適に用いられるためには、該水溶性重合体の分散能やキレート能の他に、ゲル化しない性質である耐ゲル性が優れていることが好ましい。しかしながら、上記各公報に開示されている技術では、耐ゲル性に優れた水溶性重合体を得ることができない。したがって、分散剤やスケール防止剤、洗剤ビルダーなどとしての十分な性能を有する水溶性重合体を得ることができない。
【0014】
このように、上述した方法は、分散能やキレート能に優れるとともに、さらに耐ゲル性にも優れた低分子量の水溶性重合体および該水溶性重合体を効率よく製造するためには、なお不十分であった。
【0015】
そこで、本発明者らは、末端に定量的にスルホン酸基を導入するとともに、酸性条件下で(メタ)アクリル酸を含む単量体を重合することにより、分散能、キレート能、さらに耐ゲル性にも優れた低分子量の(メタ)アクリル酸系重合体を効率的に製造できることを見出した。該(メタ)アクリル酸系重合体は、50〜100mol%の(メタ)アクリル酸、および0〜50mol%の(メタ)アクリル酸に共重合可能な水溶性モノエチレン性不飽和単量体を水溶液中で重合してなる重合体であって、末端にスルホン酸基を有する。また、該(メタ)アクリル酸系重合体は、次式;Q=ゲル化度×10/重量平均分子量で定義される耐ゲル能Q値が2.0未満であることを特徴とする。また該(メタ)アクリル酸系重合体は、分散能やキレート能に加えて、耐ゲル性にも優れた低分子量の水溶性重合体である。その製造方法においては、(メタ)アクリル酸を50mol%以上含む親水性単量体を60mol%以上用いるとともに、該単量体を重合反応させる際のpHが5未満であり、中和度が40mol%未満である。さらに開始剤として、過硫酸塩および重亜硫酸塩をそれぞれ1種類以上組み合わせて用い、上記単量体を重合する。より好ましくは、(メタ)アクリル酸を少なくとも50mol%以上含む親水性単量体を60mol%以上用い、pH5未満かつ中和度40mol%未満の酸性条件下で、上記単量体を滴下しながら重合した際に、単量体滴下終了時の固形分濃度を40質量%以上に設定し、かつ、重量平均分子量を3000〜15000に設定する。本発明者らは、これにより、分散能、キレート能に加えて、耐ゲル性にも優れた低分子量の水溶性重合体を効率よく製造することができることを見出した(特許文献5)。
【0016】
特許文献5の水溶性重合体は、分散剤やスケール防止剤、洗剤ビルダーなどとして十分な性能を有するため幅広く利用されている。
【0017】
<不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体に関する従来技術>
一方、不飽和ポリアルキレングリコール系単量体を用いてなる共重合体が液体洗剤用ビルダーとして有用であることが知られている。例えば、3−メチル−3−ブテン−1−オールのエチレンオキサイド付加物などの不飽和ポリアルキレングリコール系単量体と(メタ)アクリル酸などの不飽和モノカルボン酸系単量体の共重合体が、液体洗剤用ビルダーとして有用であることが知られている。このような共重合体を得る方法としては、例えば、特許文献6に開示されている方法が挙げられる。
【0018】
上記の公報に開示されている方法では、不飽和モノカルボン酸系単量体、不飽和ジカルボン酸系単量体のいずれかと不飽和ポリアルキレングリコール系単量体を必須に含む単量体成分を共重合する際に、過硫酸塩あるいは過酸化水素を開始剤として用いて重合している。この方法を用いれば、分子量数万までの共重合体を再現性良く得ることができる。
【0019】
この方法により得られる重合体は、液体洗剤との相溶性や分散能に優れており、洗剤ビルダー、特に液体洗剤用ビルダーに好適に用いることができる。
【0020】
また、不飽和ポリアルキレングリコール系単量体を含有する重合体ではないが、低分子量の(メタ)アクリル酸系重合体を高濃度で製造する技術が知られている(例えば、特許文献5)。
【0021】
上記に記載されている方法では、(メタ)アクリル酸系単量体を必須に含む単量体成分を重合する際に、過硫酸塩、重亜硫酸塩を開始剤として用いて、40重量%以上の高濃度で重合している。この方法を用いれば、分子量数万までの低分子量重合体を再現性良く得ることができる。
【0022】
この方法により得られる重合体は分子量分布が狭く、着色が少ない。しかも、この重合体の直鎖の末端または側鎖には、定量的に硫黄酸素酸が導入されている。それゆえ、上記重合体は、分散能や耐ゲル化性に優れており、無機顔料の分散剤、洗剤ビルダー、洗浄剤、スケール防止剤に好適に用いることができる。
【0023】
しかしながら、特許文献6に開示されている技術を用いて、(メタ)アクリル酸単量体と不飽和ポリアルキレングリコール系単量体との共重合体を製造する場合、重合濃度を20質量%程度まで下げなければ、重合体の分子量が増大してしまう。場合によっては重合液がゲル化してしまう。このため、重合濃度が低くしなければならず生産性が悪い。さらに、得られた重合体水溶液の色相が悪い。これらの要因を考慮すると、洗剤ビルダーとして最適とはいえない。
【0024】
また、特許文献5に記載されている技術を用いれば、低分子量の重合体を高濃度で製造することが可能である。しかしながら、この技術は主に(メタ)アクリル酸系単量体を用いて重合体を製造する技術であり、得られる重合体は、液体洗剤への相溶性が低い。すねわち、特許文献5に記載に記載されている技術では、液体洗剤ビルダーに好適な重合体を製造することが難しい。
【0025】
このように、従来の技術においては、色相、液体洗剤への相溶性、分散能、および耐ゲル化性に優れた低分子量の重合体を、高濃度で効率よく製造することができなかった。
【0026】
【特許文献1】
特開昭64−38403号公報
【特許文献2】
特開平5−86125号公報
【特許文献3】
特公昭60−24806号公報
【特許文献4】
米国特許第3,646,099号明細書
【特許文献5】
特開平11−315115号公報
【特許文献6】
特開2002−60785号公報
【0027】
【発明が解決しようとする課題】
<(メタ)アクリル酸系重合体に関する課題>
しかしながら、本発明者らは、かかる新規技術の開発に満足することなく、特許文献5に記載の(メタ)アクリル酸系重合体およびその製造方法につき、更なる研究を重ねた。その結果、▲1▼製造過程において開始剤の重亜硫酸塩が亜硫酸ガスとして多量に発生し、発生した亜硫酸ガスが液相に溶解して不純物を形成する。また、液相に溶解しない亜硫酸ガスが多量に系外に排出されるため、これを適当な吸着剤などで吸収して廃棄物処理するための回収処理コストがかかる、という新たなる課題が生じることがわかった。また、▲2▼開始剤の重亜硫酸塩が亜硫酸ガスとして抜けて効果が少なくなるため、重合体の分子量が下がらなくなる。このため、開始剤総量が多く必要となり、不純物が多く生成する。その結果、得られる(メタ)アクリル酸系重合体が本来持っている高い性能を十分に発現できず、性能低下や低温保持時の不純物析出を招くという新たなる課題が生じることもわかってきた。
【0028】
そこで、本発明の目的は、分散能、キレート能、および耐ゲル性に優れる低分子量の水溶性重合体である(メタ)アクリル酸系重合体を提供する。本発明の(メタ)アクリル酸系重合体は、不純物含有量が格段に低減され、より一層の性能向上が図られている。また、本発明の(メタ)アクリル酸系重合体は、製造段階で付与された高い性能を保存環境に左右されることなく常に安定して保持する優れた保存安定性を有し、性能低下や低温保持時の不純物析出もない。
【0029】
また、本発明の目的は、分散能、キレート能、および耐ゲル性に優れる低分子量の水溶性重合体である(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法を提供する。本発明の(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法においては、多量の亜硫酸ガスの発生および不純物の発生が低減され、より一層の性能向上が図られた(メタ)アクリル酸系重合体が製造される。
【0030】
さらに、本発明の目的は、分散能、キレート能、および耐ゲル性に優れる低分子量の水溶性重合体である(メタ)アクリル酸系重合体を(高性能洗剤ビルダーとして)用いてなる洗剤を提供する。本発明の洗剤は、性能および品質のより一層の向上が図られている。また本発明の洗剤は、保存環境に左右されない高い保存安定性を有する。
【0031】
<不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体に関する課題>
特許文献6に記載の不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体は、液体洗剤との相溶性や分散能に優れるものの、色相が悪く、さらに生産性が悪い。一方、特許文献5に記載の重合体は、液体洗剤との相溶性が低い。したがって、本発明が解決しようとする課題は、液体洗剤との相溶性、分散能および色相に優れる、液体洗剤用ビルダーおよびセメント添加剤、ならびに、その液体洗剤用ビルダーを含んでなる洗剤を提供することである。
【0032】
また、本発明が解決しようとする課題は、液体洗剤との相溶性、分散能および色相に優れる、不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体を、高濃度で生産性良く重合する方法を提供することである。
【0033】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、分散能、キレート能、および耐ゲル性に優れた低分子量の水溶性重合体である(メタ)アクリル酸系重合体およびその製造方法につき鋭意検討した。その結果、当該(メタ)アクリル酸系重合体は分散能、キレート能および耐ゲル性を兼ね備えた低分子量の水溶性重合体ではあるが、本来持つ優れた性能を十分に発現し得ていなかったことを見出した。そして、一見生産性に劣ると思われる低温での長持間重合によって、排出される亜硫酸ガスが低減され、さらに開始剤量を減らす(好ましくは重合中の中和度についても低くする)ことで不純物を低減できることを見出した。これにより、該(メタ)アクリル酸系重合体の持つ性能を格段に向上させることができ、さらに性能低下や低温保持時の不純物析出も低減され、製造段階で付与された高い性能を保存環境に左右されることなく常に安定して保持することができる(すなわち、本来持っていた性能を低下させることなく十分に発現し得る)。かかる知見に基づき本発明は完成された。
【0034】
また本発明者らは、40質量%以上の高濃度で、末端に硫黄酸素酸を導入し、酸性条件下で不飽和ポリアルキレングリコール系単量体を含む単量体を重合する方法を見出した。該方法によって、色相、液体洗剤への相溶性、分散能、キレート能および耐ゲル化性に優れた低分子量の不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体およびこの共重合体水溶液を効率的に製造することができる。かかる知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0035】
本発明の第一は、S=(ポリマーに含まれるS量)/(全S量)×100で定義される硫黄元素導入量S値が35以上であることを特徴とする(メタ)アクリル酸系重合体である。
【0036】
本発明の第二は、開始剤として、過硫酸塩および重亜硫酸塩をそれぞれ1種類以上組み合わせて用い、ここで、前記重亜硫酸塩は、前記過硫酸塩を1としたときに質量比で0.5〜5の範囲内で用いられ、重合反応系に添加される前記過硫酸塩および前記重亜硫酸塩の合計量が単量体1mol当たり2〜20gの範囲内であり、重合温度が25〜99℃の範囲内であることを特徴とする、(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法である。
【0037】
本発明の第三は、(メタ)アクリル酸系単量体Aおよび不飽和ポリアルキレングリコール系単量体Bを共重合した共重合体であって、末端に硫黄酸素酸を持ち、S=(ポリマーに含まれるS量)/(全S量)×100で定義される硫黄元素導入量S値が3以上であることを特徴とする不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体である。
【0038】
本発明の第四は、(メタ)アクリル酸系単量体Aと不飽和ポリアルキレングリコール系単量体Bとを共重合させる不飽和ポリアルキレングリコール系重合体の製造方法であって、開始剤として、過硫酸塩および重亜硫酸塩をそれぞれ1種類以上組み合わせて用いることを特徴とする製造方法である。
【0039】
【発明の実施の形態】
本発明の実施形態について、以下に詳細に説明する。
【0040】
本発明の第一は、S=(ポリマーに含まれるS量)/(全S量)×100で定義される硫黄元素導入量S値が35以上である(メタ)アクリル酸系重合体である。望ましくは、50〜100mol%の(メタ)アクリル酸と0〜50mol%の(メタ)アクリル酸に共重合可能な水溶性モノエチレン性不飽和単量体とを含む単量体を水溶液中で重合してなる重合体である。また望ましくは、末端にスルホン酸基等の硫黄含有基を有し、次式;Q=ゲル化度×10/重量平均分子量で定義される耐ゲル能Q値が3.0未満である(メタ)アクリル酸系重合体において、当該硫黄元素導入量S値が35以上であることが望ましい。分散能、キレート能、および耐ゲル性に優れた低分子量の(メタ)アクリル酸系重合体において、硫黄元素導入量S値を35以上とするには、製造過程で重合温度と中和度とを所定の範囲でコントロールすればよいことが、本発明者らによって見出された。これにより多量の亜硫酸ガスの発生を抑制し、さらに不純物の発生を抑制することができる。こうした製造過程を経て得られる硫黄元素導入量S値が35以上の重合体では、不純物が極めて少ない。また、該不純物に起因する性能低下を格段に低く抑えることができる。また、水溶液形態での低温保存時の不純物の析出も格段に低く抑えることができる。また、本発明者らが提案した特開平11−315115号公報に記載の(メタ)アクリル酸系重合体よりもCa捕捉能にも優れる。さらに、従来の(メタ)アクリル酸系重合体水溶液に比べて無色透明で色調も良好である。このように、より一層の性能向上を図れる。
【0041】
ここで、(メタ)アクリル酸系重合体の硫黄元素導入量S値は、35以上、好ましくは35〜70、より好ましくは40〜60の範囲である。該硫黄元素導入量S値が35未満の場合には、重合に要する開始剤量を十分に低減することができない。このため、不純物の生成や亜硫酸ガスの発生を効果的に低減できず、性能低下および低温保存時における不純物の析出を招く恐れがある。一方、硫黄元素導入量S値の上限については、特に制限されるべきものではない。
【0042】
なお、上記硫黄元素導入量S値の定義に用いた「ポリマーに含まれるS量」とは、(メタ)アクリル酸系重合体に含まれるS量をいう。詳しくは、実施例で説明する透析法によって測定される、重合により得られた(メタ)アクリル酸系重合体の固形分濃度を調整してなる水溶液から不純物や開始剤断片などの低分子量成分を取り除いた後の(メタ)アクリル酸系重合体からなる高分子成分中に含まれるS量をいう。言い換えれば、(メタ)アクリル酸系重合体の末端や側鎖にスルホン酸基等の硫黄含有基として導入されているS量ともいえる。したがって、硫黄元素導入量S値が大きいほど、使用した開始剤などに含まれるS成分のより多くが重合反応により好適に重合体に導入されているといえる。また、上記硫黄元素導入量S値の定義に用いた「全S量」とは、(メタ)アクリル酸系重合体が存在する相に含まれる全てのS量をいう。なお、ここで、全S量として、重合に用いる原料中のS量を用いなかったのは、亜硫酸ガスとして系外に排出されてしまったS量(硫黄分)については、(メタ)アクリル酸系重合体(水溶液)中に存在しないため、低温保存時にS含有不純物として析出するおそれがないためである。
【0043】
本発明において(メタ)アクリル酸系重合体とは、重合により得られた(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液、固形分濃度を調整するために水などの水性の溶媒が適量添加または除去された前記水溶液、該水性の溶媒を除去し乾燥して固形物としたもの、重合により得られた(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液から適当に不純物を除去し精製してなる(メタ)アクリル酸系重合体水溶液、固形物濃度を調整するために水性の溶媒を添加ないし除去してなるもの、乾燥して固形物とした(メタ)アクリル酸系重合体、および、必要に応じて、重合により得られた(メタ)アクリル酸系重合体の性能に影響を与えない範囲で、適当な添加剤、例えば、保存安定剤(紫外線吸収剤や抗酸化剤など)、着色剤、帯電防止剤、滑剤、充填剤、難燃化剤、発泡剤などを加えてなるもの、を含む包括的な概念である。つまり、(メタ)アクリル酸系重合体は、(メタ)アクリル酸系重合体を含めば、その形態や成分組成などに関しては特に制限されない。したがって、本発明の(メタ)アクリル酸系重合体には、精製された(メタ)アクリル酸系重合体だけの場合もまれる。このように、本発明の(メタ)アクリル酸系重合体は、上記硫黄元素導入量S値を満足するものであればよく、その名称に拘泥されることなく最も広義に解釈されるべきである。単に(メタ)アクリル酸系重合体の固体成分や水溶液に狭く解釈(制限)されない。製造工程の簡素化の観点からは、重合により得られた(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液をそのまま、分散剤やスケール防止剤、洗剤ビルダーなどとして利用するのが望ましい。輸送コスト低減の観点からは、水溶液のようにかさばる形態ではなく、固形物として輸送し、分散剤やスケール防止剤、洗剤ビルダーなどとして配合する際に、必要に応じて水溶液化するとよい。製品の品質安定化および保存安定性の観点からは、重合により得られた(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液から不純物を取り除いた形で製品化するとよい。このように、使用用途に応じて適宜最適な形態や成分組成にすればよい。すなわち、本発明の(メタ)アクリル酸系重合体では、重合により得られた重合体につき、所定の測定方法(実施例で説明する)によって分析して得られた硫黄元素導入量S値が35以上のものであればよいのであり、(メタ)アクリル酸系重合体の形態や組成成分を制限するものではない。
【0044】
本発明に係る(メタ)アクリル酸系重合体は、上記硫黄元素導入量S値を満足した上で、さらにH−NMRスペクトルにおいて、R=(2.3〜4.3ppmのシグナルの積分比)/(PSAのシグナルを含む0.8〜4.3ppmの積分比)×100で表されるRが1〜10であることが望ましい。これにより、上記硫黄元素導入量S値の規定を満足することで得られる作用効果と同等の効果もしくはより一層高い効果を得ることができる。すなわち、かような(メタ)アクリル酸重合体は、不純物が極めて少なく、該不純物に起因する性能低下が格段に低く抑えられている。また、かような(メタ)アクリル酸重合体は、水溶液形態での低温保存時の不純物の析出も格段に低く抑えられている。また、かような(メタ)アクリル酸重合体は、耐ゲル性にも優れ、Ca捕捉能に優れ、色調も良好である。このような、より一層の性能向上が図られる。
【0045】
ここで、(メタ)アクリル酸系重合体の上記R値は、1〜15、好ましくは2〜12、より好ましくは3〜10である。該R値が1未満の場合には耐ゲル化能が劣ってしまう。また、相対的に(メタ)アクリル酸系重合体に含まれるS量由来のピーク量に対して(メタ)アクリル酸系重合体の有機物由来の全ピーク量(多くは開始剤断片などの不純物由来のピーク量)が大きく、効率よく(メタ)アクリル酸系重合体にスルホン酸基等の硫黄含有基が導入できているとは言えない。このため、性能低下が生じたり、水溶液形態での低温保存時の不純物析出の低減効果が十分得られなかったりする恐れがある。一方、該R値が15を超える場合には、分子量が小さくなりすぎる。また、カルボン酸量が低下し、キレート能が下がる。
【0046】
ここで、2.3〜4.3ppmのシグナルの積分比には、主に(メタ)アクリル酸系重合体に含まれるS量由来のピークが含まれている。一方、PSAのシグナルを含む0.8〜4.3ppmの積分比には、(メタ)アクリル酸系重合体の有機物由来の全ピークが含まれている。なお、ここで、PSAとは、ポリアクリル酸ソーダの略称である。H−NMRスペクトルの対象サンプルとは、用いた(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液をいう。詳しくは、後述する実施例で説明するように、H−NMRスペクトルの対象サンプルは、重合により得られた(メタ)アクリル酸系重合体(例えば、(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液)1gを減圧乾燥により溶媒分を完全に除去して行った。
【0047】
次に、本発明に係る(メタ)アクリル酸系重合体は、上記硫黄元素導入量S値、さらに好ましくはR値をも満足した上で、重金属イオン濃度が0.5〜10ppmである。これにより、重合過程で使用した過酸化物が分解され、(メタ)アクリル酸系重合体中に残存する開始剤(過酸化物)を低減(分解)することができ、色調(無色透明性)が良好となる。
【0048】
ここで、(メタ)アクリル酸系重合体の重金属イオン濃度は、0.05〜10ppm、好ましくは0.1〜8ppm、より好ましくは0.15〜5ppmである。重金属イオン濃度が0.05ppm未満の場合には、上記効果が得られない。また、開始剤(過酸化物)の量を十分に低減することができない。また、開始剤(過酸化物)が(メタ)アクリル酸系重合体中に残るため、優れた色調が要求される用途(利用分野)では、(メタ)アクリル酸系重合体中に残る開始剤などの不純物を分解ないし除去する必要が生じる。このため、余分な精製コストが必要となる。(メタ)アクリル酸系重合体中に開始剤(過酸化物)が大量に残る場合には、使用用途によっては、安全性(皮膚刺激性)に問題を生ずるおそれもある。この場合も同様に不純物を除去、精製する必要がある。一方、重金属イオン濃度が10ppmを超える場合には、(メタ)アクリル酸系重合体中に残る開始剤などの不純物を十分に分解ないし除去することができる反面、ポリマーがゲル化する恐れがある。また、重金属の色が出てくるため、優れた色調が要求される用途(利用分野)では、利用が制限される。
【0049】
上記重金属イオンとしては、特に制限されるべきものではなく、鉄イオン、ニッケルイオン、クロムイオン、モリブデンイオンなどが挙げられる。安全性に優れる点から、鉄イオン、ニッケルイオンなどが好ましく、鉄イオンが特に好ましい。添加は、重合開始前に投入してもよいし、重合後に添加してもよく、製造工程で使用する機器からの溶出により所定のイオン濃度として重合体中に取り込んでもよい。
【0050】
なお、かかる重金属イオンは、(メタ)アクリル酸系重合体中に存在していればよく、(メタ)アクリル酸系重合体の一部として化学的ないし物理的に結合している必要はない。
【0051】
次に、本発明に係る(メタ)アクリル酸系重合体は、上記硫黄元素導入量S値、さらに好ましくはR値ないし鉄イオン濃度をも満足した上で、Q=ゲル化度×10/重量平均分子量が3.0未満であることが望ましい。従来では、耐ゲル性を有する重合体は、低分子量の重合体の中でも特に分子量が小さいものであった。すなわち、良好な耐ゲル性を得るためには低分子量である重合体の分子量をさらに小さくすることが必要であった。しかしながら、分子量が小さすぎる重合体では、重合体末端や側鎖に対して定量的に、具体的には上記に規定する硫黄原子導入量S値を満足するようにスルホン酸基等の硫黄含有基を導入することが難しい。そのため分散能やスケール防止能を十分に発現することができず、分散剤やスケール防止剤、洗剤ビルダーなどの用途には好適に用いることができなかった。これに対して、本発明に係る(メタ)アクリル酸系重合体は、重合体末端や主鎖に対して定量的に硫黄含有基が導入されている。具体的には上記に規定する硫黄原子導入量S値を満足するようにスルホン酸基等の硫黄含有基が導入されている。また場合によっては上記Q値を満足する。そのため、当該(メタ)アクリル酸系重合体は、従来の耐ゲル性を有する重合体に比べて分子量が比較的大きくなっているにも関わらず、良好な耐ゲル性を示すことができる。すなわち、上記S値に加えて、耐ゲル能Q値が上記範囲内であれば、水系の分散剤、スケール防止剤、あるいは洗剤ビルダーなどの用途に用いる際に、(メタ)アクリル酸系重合体のゲル化が抑えられ、非常に良好な耐ゲル性、さらにはCa捕捉能が発現する。そのため、かかる水系の分散剤、スケール防止剤、あるいは洗剤ビルダーなどの用途に好適に利用することができる。すなわち、使用環境下において、さらには他の成分と混合(配合)後の保存環境下において、ゲル化を抑えることができるため、製品のより一層の性能向上および品質安定化を図ることができる。
【0052】
ここで、耐ゲル能Q値は、3.0未満、好ましくは2.7未満、より好ましくは2.5未満である。該Q値が、3.0以上の場合には、耐ゲル能が十分でないために、その使用用途が制限される場合がある。なお、該Q値の下限に関しては特に制限されない。
【0053】
なお、耐ゲル性を示す従来の低分子量の水溶性重合体を製造するに当たり、その重合反応系に添加する開始剤は、高分子量の重合体を製造する場合よりも増量する必要がある。しかしながら、本発明者らが先に特開平11−315115号公報に提案した(メタ)アクリル酸系重合体では、その分子量が比較的大きいために、重合反応系に添加する開始剤の増量を抑制することができる。そのため、かかる(メタ)アクリル酸系重合体は、耐ゲル性を示す従来の水溶性重合体に比べてコスト的に非常に有利となるるものであった。本発明では、先に特開平11−315115号公報に提案した(メタ)アクリル酸系重合体に比してさらに開始剤量が少なくても同じ耐ゲル能Q値の(メタ)アクリル酸系重合体ができた。このため、開始剤に起因する不純物をより低減でき、さらなる性能向上が図られる。また、より一層のコスト低減が達成できる。
【0054】
ここで、耐ゲル性は、耐ゲル能Q値として算出して評価している。該耐ゲル能Q値の算出は、(メタ)アクリル酸系重合体のゲル化度および重量平均分子量から次式
Q=ゲル化度×10/重量平均分子量
を用いて算出している。
【0055】
上記式における「ゲル化度」を測定するためには、(メタ)アクリル酸系重合体のゲル化の度合を測定する従来公知の方法を好適に用いることができる。例えば、緩衝液中に、本発明に係る(メタ)アクリル酸系重合体の低濃度水溶液(例えば、固形分濃度が1質量%)と塩化カルシウム水溶液とを加えて混合することにより試験液を調製する。この試験液を、所定の温度および所定の時間(例えば、90℃、1時間)で静置した後に、紫外線(UV)波長域で該試験液の吸光度を測定することによりゲル化度を測定することができる。ゲル化度の測定方法のより具体的な方法については、後述する実施例で説明する。
【0056】
次に、本発明に係る(メタ)アクリル酸系重合体の重量平均分子量Mwは、2000〜20000、好ましくは3000〜15000、より好ましくは4000〜10000である。重量平均分子量がこの範囲内であれば、上記(メタ)アクリル酸系重合体は、分散能、キレート能および耐ゲル性といった各種性能をより顕著かつ効果的に発揮することができる。そのため、分散剤やスケール防止剤、洗剤ビルダーなどの用途に、より一層好適に用いることができる。(メタ)アクリル酸系重合体の重量平均分子量が2000未満の場合には、十分な分散能およびキレート能が得られない場合があり、使用用途が制限される。一方、(メタ)アクリル酸系重合体の重量平均分子量が20000を超える場合には、高分子量化するため良好な水溶性や耐ゲル性を発現しにくくなる。なお、重合後の(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液を適当な方法で精製して得た(メタ)アクリル酸系重合体(固体)を測定しても、重合後の(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液を測定しても殆ど重量平均分子量に差異は生じない。したがって、Q値を求める際には、いずれか一方の重量平均分子量を測定すれば足りる。
【0057】
なお、(メタ)アクリル酸系重合体またはそのの重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)の測定方法については、後述する実施例にて説明する。
【0058】
また、本発明に係る(メタ)アクリル酸系重合体の分散度(Mw/Mn)は、Mwにもよるが、(1)Mwが9000未満のときには、1.5〜2.9、好ましくは1.8〜2.7、より好ましくは2.0〜2.5である。分散度が1.5未満の場合には合成が繁雑となる。一方、分散度が2.9を超える場合には、性能上有効な成分が減少するので性能の低下をまねく恐れがある。また、(メタ)アクリル酸系重合体の分散能が十分でない場合があり、使用用途が制限される。また、(2)Mwが9000〜20000のとき、分散度は1.5〜4.5、好ましくは2.0〜4.0、より好ましくは2.5〜3.5である。この場合に、分散度が1.5未満の場合には合成が繁雑となる。一方、分散度が4.0を超える場合には、性能上有効な成分が減少するので性能の低下をまねく恐れがある。
【0059】
また、本発明に係る(メタ)アクリル酸系重合体のCa捕捉能(キレート能の1種)は、Mwに応じて決定されうる。例えば、Mw3000〜10000のときには、Ca捕捉能は235以上、好ましくは240以上である。Ca捕捉能が235未満の場合には、洗剤に配合したときに、十分な洗浄力が得られない恐れがある。特に、上記硫黄元素導入量S値、さらに好ましくはR値、鉄イオン濃度、Q値の要件を具備し、不純物が低減された本発明の(メタ)アクリル酸系重合体は、先に本発明者らが提案した発明の(メタ)アクリル酸系重合体よりも格段にCa捕捉能(キレート能)に優れる(実施例の表11参照)。そのため、例えば、衣類の汗汚れや泥汚れなど、Ca成分を含む汚れやCaを含む水道水に対して極めて高い分解洗浄力を発現させることができる。
【0060】
また、本発明に係る(メタ)アクリル酸系重合体の色調は、黄〜褐色を帯びた既存のPSAに比べて無色透明性に優れる。洗剤のようにほぼ白色である製品では、一般消費者(利用者)が品定めする上で、洗剤の色調までも考慮に入れられることはよくある。洗剤自体に黄色を帯びているようなものよりも無色透明である方が商品力が高いものとなっていることを考慮すると、無色透明であることは極めて有利である。
【0061】
本発明に係る(メタ)アクリル酸系重合体の中和度の範囲は、特に制限されるべきものではない。利用目的に応じて適宜調整すればよいく、1〜100%、好ましくは20〜99%、より好ましくは50〜95%の範囲である。
【0062】
本発明の(メタ)アクリル酸系重合体は、上記硫黄元素導入量S値、さらに好ましくはR値、鉄イオン濃度、Q値の要件を具備し、さらに50〜100mol%の(メタ)アクリル酸と、0〜50mol%の(メタ)アクリル酸に共重合可能な水溶性モノエチレン性不飽和単量体とを含む組成物を水溶液中で重合してなる重合体であることが好ましい。また、該重合体は、末端や主鎖にスルホン酸基等の硫黄含有基を有し、上記耐ゲル能Q値が3.0未満である(メタ)アクリル酸系重合体であることが望ましい。かかる要件を満足する(メタ)アクリル酸系重合体は、重合体末端や側鎖にスルホン酸基等の硫黄含有基を有している。このため、該重合体は、従来の耐ゲル性を有する重合体に比べて分子量が比較的大きくなっているにも関わらず、従来の重合体以上の良好な耐ゲル性を示す。さらに、不純物が少ないため、重合体が潜在的(本来的)に持ち得る分散能、キレート能および耐ゲル性などの高い性能が低下せず、最大限の性能が引き出された、優れた低分子量の水溶性重合体となりうる。したがって、該重合体は、分散剤、スケール防止剤、および洗剤ビルダーなどの用途に好適に用いられる。なお、本発明の(メタ)アクリル酸系重合体は、50〜100mol%の(メタ)アクリル酸と、0〜50mol%の(メタ)アクリル酸に共重合可能な水溶性モノエチレン性不飽和単量体とを含む組成物を水溶液中で重合してなる重合体であって、末端や主鎖にスルホン酸基等の硫黄含有基を有するとともに、上記耐ゲル能Q値が3.0未満であるとの要件を外れるものであってもよい。上記硫黄元素導入量S値、さらに好ましくはR値、鉄イオン濃度、Q値の要件を満足することができるものであれば、本発明の作用効果を奏する。例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸、そのコポリマーなど、後述する単量体(II)に例示される単量体とのコポリマーなどの(メタ)アクリル酸系重合体についても、本発明の上記硫黄元素導入量S値、さらに好ましくはR値、鉄イオン濃度、Q値の要件を満足するものであれば、本発明に含まれる。
【0063】
なお、分散剤やスケール防止剤などに用いられる既存の低分子量の水溶性重合体では、重量平均分子量が1000以上であると、該水溶性重合体の分子量が小さいほど、すなわち重量平均分子量が1000に近づくほど耐ゲル性は高くなる。一方、キレート能は、該水溶性重合体の重量平均分子量が大きいほど高くなる。それゆえ、従来の水溶性重合体では、分散能、キレート能、および耐ゲル性の三つの性能を全て良好に向上させることが困難であった。
【0064】
これに対して、上記50〜100mol%の(メタ)アクリル酸と、0〜50mol%の(メタ)アクリル酸に共重合可能な水溶性モノエチレン性不飽和単量体とを含む単量体を水溶液中で重合してなる重合体であって、末端や主鎖にスルホン酸基等の硫黄含有基を有し、上記耐ゲル能Q値が3.0未満であり、上記硫黄元素導入量S値を満たす(メタ)アクリル酸系重合体は、重合体の末端や側鎖にスルホン酸基等の硫黄含有基が導入されている。該重合体は、好ましくはR値、鉄イオン濃度の要件を具備する。かような(メタ)アクリル酸系重合体は、重量平均分子量が比較的大きくても上記分散能および耐ゲル性は良好である。特に、重量平均分子量が大きい割には、耐ゲル性は、相対的に非常に良好である。それゆえ、かかる要件を満足する(メタ)アクリル酸系重合体は、同程度の重量平均分子量を有する従来の(メタ)アクリル酸系重合体と同じキレート能(実施例の表11のCa補足能参照)を示すことに加え、高い分散能および非常に優れた耐ゲル性(実施例の表11の耐ゲル能Q値参照)を示す。
【0065】
以上のように、本発明に係る(メタ)アクリル酸系重合体は、末端や主鎖にスルホン酸基等の硫黄含有基を有しているとともに、高い耐ゲル性を有していることが望ましい。かかる末端スルホン酸基等の硫黄含有基により分散能やキレート能を向上させることができる。また、さらに高い耐ゲル性を発現させることができる。そのため、該(メタ)アクリル酸系重合体は、無機顔料の分散剤、スケール防止剤、および洗剤ビルダーなどに好適に利用される。
【0066】
なお、上記50〜100mol%の(メタ)アクリル酸と、0〜50mol%の(メタ)アクリル酸に共重合可能な水溶性モノエチレン性不飽和単量体とを含む単量体を水溶液中で重合してなる重合体であって、末端や側鎖にスルホン酸基等の硫黄含有基を有するとともに、上記耐ゲル能Q値が3.0未満であるとの要件(このうち、Q値に関しては上述した通りである)に関しては、(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法の説明と合わせて、以下に説明する。
【0067】
本発明の第二は、開始剤として、過硫酸塩および重亜硫酸塩をそれぞれ1種類以上組み合わせて用い、ここで、前記重亜硫酸塩は、前記過硫酸塩を1としたときに質量比で0.5〜5の範囲内で用いられ、重合反応系に添加される前記過硫酸塩および前記重亜硫酸塩の合計量が単量体1mol当たり2〜20gの範囲内であり、重合温度が25〜99℃の範囲内であることを特徴とする、(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法である。
【0068】
開始剤として過硫酸塩だけでなく、重亜硫酸塩を上記の範囲内で加えることで、得られる(メタ)アクリル酸系重合体が必要以上に高分子量化することが抑制され、低分子量の重合体を効率よく製造することができる。加えて、得られる(メタ)アクリル酸系重合体にスルホン酸基等の硫黄含有基を定量的に、具体的には、上記に規定する硫黄元素導入量S値の範囲になるように導入できる。スルホン酸基等の硫黄含有基を定量的に導入できるということは、過硫酸塩および重亜硫酸塩が開始剤として非常に良好に機能していることを示している。そのため、重合反応系に過剰な開始剤を添加する必要がなく、開始剤量をより一層低減できる。その結果、重合体の製造コストの上昇を抑制し、製造効率を向上させうる。よって、得られる(メタ)アクリル酸系重合体は、カルシウムなどの金属塩での凝集が抑えられ、良好な耐ゲル性を有する。さらに、重合反応系への開始剤の添加量ならびに重合温度をある幅でコントロールすることにより、多量の亜硫酸ガスの発生を抑制することができ、さらに不純物の発生を低減することができる。したがって、より一層の性能向上が図られると共に、重合体の製造コストの上昇を抑制し、製造効率を向上させうる。
【0069】
本発明の製造方法に用いられる単量体は、(メタ)アクリル酸系重合体を重合することができる単量体成分からなるものであればよく、特に制限されない。少なくとも(メタ)アクリル酸(以下、単量体(I)ともいう)を含有するものであればよいが、必要があれば(メタ)アクリル酸に共重合可能な水溶性モノエチレン性不飽和単量体(以下、単量体(II)ともいう)および/または他の単量体(以下、単量体(III)ともいう)が含まれていてもよい。ここでいう単量体は、単量体成分で構成されるものであって、重合の際に用いる他の成分である溶媒や開始剤その他の添加剤は含まない。
【0070】
上記単量体(I)成分としては、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸が挙げられる。これらは、1種単独であってもよいし、組み合わせてもよい。好ましくは、アクリル酸単独もしくはアクリル酸とメタクリル酸とを所定比率で混合してなる混合物を用いる。
【0071】
上記単量体中の単量体(I)の配合量は、単量体全量に対して、50〜100mol%、好ましくは70〜100mol%、より好ましくは90〜100mol%の範囲である。該単量体(I)の配合量が50mol%未満の場合には、キレート能と耐ゲル化能をバランスよく発現させることができない。一方、上限については、100mol%、すなわち全量(メタ)アクリル酸であってもよい。さらに、単量体(I)としてアクリル酸およびメタクリル酸を併用する場合には、該メタクリル酸の配合量は、単量体全量に対して5mol%以下、好ましくは0.5〜4mol%、より好ましくは1〜3mol%の範囲で用いるのが好ましい。該メタクリル酸の配合量が5mol%を超える場合には、キレート能が低下する恐れがある。
【0072】
なお、単量体(I)を後述する溶媒、好ましくは水に溶解して単量体(I)の溶液(好ましくは水溶液)の形態で添加してもよい。単量体(I)溶液(好ましくは水溶液)として用いる場合の濃度は、10〜100質量%、好ましくは30〜95質量%、より好ましくは50〜90質量%である。ここで、単量体(I)溶液の濃度が10質量%未満の場合には、製品の濃度が低下してしまい、輸送および保管が煩雑となる。一方、上限については特に制限されるべきものではなく、100質量%(すなわち、全量)単量体(I)(溶液)、すなわち、無溶媒であってもよい。
【0073】
また上記単量体(II)である(メタ)アクリル酸に共重合可能な水溶性モノエチレン性不飽和単量体成分としては、具体的には、
上記単量体(I)の(メタ)アクリル酸をナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属により部分中和した塩、または完全中和した塩;単量体(I)をアンモニアあるいはモノエタノールアミンやトリエタノールアミンなどの有機アミン類により部分中和した塩、または完全中和した塩;クロトン酸、α−ヒドロキシアクリル酸などのモノエチレン性不飽和脂肪族モノカルボン酸;上記モノエチレン性不飽和脂肪族モノカルボン酸をアルカリ金属により部分中和した塩、または完全中和した塩;上記モノエチレン性不飽和脂肪族モノカルボン酸をアンモニア、あるいはモノエタノールアミンやトリエタノールアミンなどの有機アミン類により部分中和した塩、または完全中和した塩;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのモノエチレン性不飽和脂肪族ジカルボン酸;上記モノエチレン性不飽和脂肪族ジカルボン酸をアルカリ金属により部分中和した塩、または完全中和した塩;上記モノエチレン性不飽和脂肪族ジカルボン酸をアンモニア、あるいはモノエタノールアミンやトリエタノールアミンなどの有機アミン類により部分中和した塩、または完全中和した塩;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸などのスルホン酸基を有するモノエチレン性不飽和単量体;上記モノエチレン性不飽和単量体をアルカリ金属により部分中和した塩、または完全中和した塩;上記モノエチレン性不飽和単量体をアンモニア、あるいはモノエタノールアミンやトリエタノールアミンなどの有機アミン類により部分中和した塩、または完全中和した塩;3−メチル−2−ブテン−1−オール(単に、プレノールともいう)、3−メチル−3−ブテン−1−オール(単に、イソプレノールともいう)などの水酸基を含有する不飽和炭化水素;などを挙げることができるが特に限定されるものではない。
【0074】
単量体(II)は、上記の各化合物から必要に応じて1種類または2種類以上を適宜選択して用いられうる。また、上記化合物の中でも、特に、キレート能、分散能、耐ゲル化能に優れることから、不飽和脂肪族ジカルボン酸、スルホン酸基を含有する不飽和炭化水素、およびそれらの部分または完全中和塩より選択される1種類または2種類以上の化合物を用いることがより好ましい。
【0075】
単量体中の単量体(II)の配合量は、単量体全量に対して、0〜50mol%、好ましくは0〜30mol%、より好ましくは0〜10mol%である。該(II)の配合量が、50mol%を超える場合には、キレート能が低下する恐れがある。一方、該単量体(II)は任意成分であることから、その下限値は0mol%である。すなわち、該量体(II)を用いなくとも、上記単量体(I)成分による単独重合体(ホモポリマー)ないし共重合体(コポリマー)であれば、本発明の作用効果を十分に発現する。
【0076】
単量体(II)を後述する溶媒、好ましくは水に溶解して単量体(II)の溶液(好ましくは水溶液)の形態で添加してもよい。単量体(II)溶液(好ましくは水溶液)として用いる場合の濃度としては、10〜100質量%、好ましくは20〜95質量%、より好ましくは30〜90質量%である。ここで、単量体(II)溶液の濃度が10質量%未満の場合には、製品の濃度が低下してしまい、輸送および保管が煩雑となる。一方、上限については特に制限されるべきものではなく、100質量%(すなわち、全量)単量体(II)(溶液)、すなわち、無溶媒であってもよい。
【0077】
上記単量体(I)、(II)以外の他の単量体(III)は、特に制限されない。例えば、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、ビニルエーテル類、スチレン、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸エステルなどの疎水性単量体を用いることができる。これらの単量体(III)は、必要に応じて1種類または2種類以上を適宜選択して用いることができる。単量体(III)として疎水性単量体を用いると、疎水性化合物の分散性の点で優れるものの、得られる(メタ)アクリル酸系重合体の耐ゲル性を悪化させることがある。このため、使用用途に応じて、その配合量を制限する必要がある。
【0078】
上記単量体(III)として疎水性単量体を配合する場合には、該単量体(III)成分の配合量は、単量体全量に対して40mol%未満、好ましくは0〜20mol%、より好ましくは0〜10mol%の範囲内である。換言すれば、上記単量体(I)および単量体(II)を合わせた親水性単量体(すなわち、(メタ)アクリル酸を50mol%以上含む親水性単量体)の配合量は、単量体全量に対して60mol%以上、好ましくは80〜100mol%、より好ましくは90〜100mol%の範囲である。上記単量体(III)の疎水性単量体の配合量が40mol%以上の場合(=上記単量体(I)および単量体(II)を合わせた親水性単量体の配合量が60mol%未満の場合)には、USP3,646,099号で説明したように、得られる低分子量の重合体は水溶性とはならない。また、得られる(メタ)アクリル酸系重合体の耐ゲル能Q値が大きくなる場合があり、耐ゲル性に優れた(メタ)アクリル酸系重合体を得られない恐れがある。
【0079】
単量体(III)は、後述する溶媒(好ましくは有機溶媒を含む)に溶解して単量体(III)の溶液の形態で添加されてもよい。単量体(III)溶液として用いる場合の濃度は、10〜100質量%、好ましくは20〜95質量%、より好ましくは30〜90質量%である。単量体(III)溶液の濃度が10質量%未満の場合には、製品の濃度が低下してしまい、輸送および保管が繁雑となる。一方、上限については特に制限されるべきものではなく、100質量%(すなわち、全量)単量体(III)(溶液)、すなわち、無溶媒であってもよいといえる。
【0080】
本発明の方法では、上記単量体を水溶液中で重合することが望ましい。該水溶液には、溶媒、開始剤、その他の添加剤を含む。
【0081】
ここで、上記単量体を水溶液中で重合する際に重合反応系に用いられる溶媒は、水、アルコール、グリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール類などの水性の溶媒であることが好ましく、特に好ましくは水である。これらは1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。また、上記単量体の溶媒への溶解性を向上させるために、各単量体の重合に悪影響を及ぼさない範囲で有機溶媒を適宜加えてもよい。
【0082】
上記有機溶媒は、具体的には、メタノール、エタノールなどの低級アルコール;ジメチルホルムアルデヒドなどのアミド類;ジエチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル類;などから、1種類または2種類以上を適宜選択して用いられうる。
【0083】
上記溶媒の使用量は、単量体全量に対して40〜200質量%、好ましくは45〜180質量%、より好ましくは50〜150質量%の範囲である。該溶媒の使用量が10質量%未満の場合には、分子量が高くなってしまう。一方、該溶媒の使用量が200質量%を超える場合には、製造された(メタ)アクリル酸系重合体の濃度が低くなり、場合によっては溶媒除去が必要となる。なお、該溶媒の多くまたは全量は、重合初期に反応容器内に仕込んでおけばよい。溶媒の一部は、単独で重合中に反応系内に適当に添加(滴下)されてもよい。あるいは、単量体成分や開始剤成分やその他の添加剤を予め溶媒に溶解させた形で、これらの成分と共に重合中に反応系内に適当に添加(滴下)されてもよい。
【0084】
上記単量体を水溶液中で重合する際に重合反応系に用いられる開始剤は、過硫酸塩および重亜硫酸塩をそれぞれ1種類以上組み合わせて用いるのが望ましい。これにより、末端や側鎖にスルホン酸基を定量的に導入し、分散能やキレート能に加えて耐ゲル性にも優れた低分子量の水溶性重合体を得、本発明の作用効果を有効に発現させることができる。過硫酸塩に加えて、重亜硫酸塩を開始剤系に加えることで、得られる重合体が必要以上に高分子量化することが抑制され、低分子量の重合体を効率よく製造することができる。
【0085】
上記過硫酸塩としては、具体的には、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムおよび過硫酸アンモニウムなどを挙げることができる。また、重亜硫酸塩としては、具体的には、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸カリウムおよび重亜硫酸アンモニウムなどを挙げることができる。さらに重亜硫酸塩の代わりに、亜硫酸塩、ピロ亜硫酸塩等を用いてもよい。
【0086】
上記過硫酸塩および重亜硫酸塩の添加比率は、過硫酸塩1質量部に対して、重亜硫酸塩は0.5〜5質量部、好ましくは1〜4質量部、より好ましくは2〜3質量部の範囲内である。過硫酸塩1質量部に対して重亜硫酸塩が0.5質量部未満であると、重亜硫酸塩による効果が十分ではなくなる。そのため、重合体の末端に上記硫黄元素導入量S値を満足するだけのスルホン酸基を導入することができなくなる恐れがある。また、(メタ)アクリル酸系重合体の重量平均分子量も高くなる傾向にある。一方、過硫酸塩1質量部に対して重亜硫酸塩が5質量部を超えると、重亜硫酸塩による効果が添加比率に伴うほど得られない状態で、重合反応系において重亜硫酸塩が過剰に供給され(無駄に消費され)る。このため、過剰な重亜硫酸塩が重合反応系で分解され、亜硫酸ガスが多量に発生する。そのほか、(メタ)アクリル酸系重合体中の不純物が多く生成し、得られる(メタ)アクリル系重合体の性能低下や低温保持時の不純物析出を招く。
【0087】
上記開始剤である過硫酸塩および重亜硫酸塩の添加量は、単量体1モルに対して、開始剤の過硫酸塩および重亜硫酸塩の合計量が2〜20g、好ましくは4〜15g、より好ましくは6〜12g、さらに好ましくは6〜9gである。このように低い添加量の範囲で過硫酸塩および重亜硫酸塩を加えても、本発明では、重合温度を低く制限していることもあり、製造過程での亜硫酸ガスの発生や不純物の発生を格段に低減できる。このため、得られる(メタ)アクリル酸系重合体の末端や側鎖に上記に規定する硫黄元素導入量S値を満足するだけのスルホン酸基等の硫黄含有基を導入することができる。そのほか、得られる(メタ)アクリル酸系重合体の性能低下や低温保持時の不純物析出を防止することができる。上記開始剤の過硫酸塩および重亜硫酸塩の添加量が2g未満の場合には、得られる重合体の分子量が上がってしまう。そのほか、得られる(メタ)アクリル酸系重合体の末端に上記に規定する硫黄元素導入量S値を満足するだけのスルホン酸基等の硫黄含有基を導入できない恐れがあり、該重合体の重量平均分子量が高くなる傾向にある。一方、添加量が20gを超える場合には、開始剤の過硫酸塩および重亜硫酸塩の効果が添加量に伴うほど得られなくなり、逆に、得られる(メタ)アクリル酸系重合体の純度が低下するなどの悪影響を及ぼす。
【0088】
開始剤の1種である上記過硫酸塩は、上記溶媒、好ましくは水に溶解して過硫酸塩の溶液(好ましくは水溶液)の形態で添加されてもよい。該過硫酸塩溶液(好ましくは水溶液)として用いる場合の濃度としては、1〜35質量%、好ましくは5〜35質量%、より好ましくは10〜30質量%である。ここで、過硫酸塩溶液の濃度が1質量%未満の場合には、製品の濃度が低下してしまい、輸送および保管が繁雑となる。一方、過硫酸塩溶液の濃度が35質量%を超える場合には、過硫酸塩が析出するおそれがある。
【0089】
開始剤の1種である重亜硫酸塩は、上記溶媒、好ましくは水に溶解して重亜硫酸塩の溶液(好ましくは水溶液)の形態で添加されてもよい。該重亜硫酸塩溶液(好ましくは水溶液)として用いる場合の濃度としては、10〜40質量%、好ましくは20〜40質量%、より好ましくは30〜40質量%である。ここで、重亜硫酸塩溶液の濃度が10質量%未満の場合には、製品の濃度が低下してしまい、輸送および保管が繁雑となる。一方、重亜硫酸塩溶液の濃度が40質量%を超える場合には、重亜硫酸塩が析出するおそれがある。
【0090】
本発明は、さらに他の開始剤(連鎖移動剤を含む)を併用する実施態様を排除するものではない。必要であれば、本発明の作用効果に悪影響を及ぼさない範囲で、適宜使用してもよい。さらに、本発明においては、開始剤系として上記過硫酸塩および重亜硫酸塩の組み合わせが好適に用いられるが、この組み合わせに特に限定されるものではない。上記に規定するS値を満足するようにスルホン酸基等の硫黄含有基を導入することが可能である。低分子量の重合体を一段で重合できる開始剤系であれば使用可能である。
【0091】
他の開始剤(連鎖移動剤を含む)としては、例えば、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩、4,4’−アゾビス−4−シアノパレリン酸、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系化合物、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酢酸、ジ−t−ブチルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド等の有機過酸化物、及び過酸化水素が挙げられる。
【0092】
これらの開始剤についても、上記溶媒、好ましくは水に溶解して溶液(好ましくは水溶液)の形態で添加してもよい。該溶液(好ましくは水溶液)として用いる場合の濃度としては、本発明の効果を損なわない範囲であればよく、通常は、上記した過硫酸塩または重亜硫酸塩の溶液の濃度と同程度に基づき適宜決定される。
【0093】
上記単量体を水溶液中で重合する際に重合反応系に用いることのできる開始剤以外の他の添加剤としては、本発明の作用効果に影響を与えない範囲で適当な添加剤を適量加えることができる。例えば、重金属濃度調整剤、有機過酸化物、Hと金属塩などが用いられる。
【0094】
上記重金属濃度調整剤は、特に制限されるべきものではなく、多価金属化合物または単体が利用できる。具体的には、オキシ三塩化バナジウム、三塩化バナジウム、シュウ酸バナジル、硫酸バナジル、無水バナジン酸、メタバナジン酸アンモニウム、硫酸アンモニウムハイポバナダス[(NHSO・VSO・6HO]、硫酸アンモニウムバナダス[(NH)V(SO・12HO]、酢酸銅(II)、銅(II)、臭化銅(II)、銅(II)アセチルアセテート、塩化第二銅アンモニウム、塩化銅アンモニウム、炭酸銅、塩化銅(II)、クエン酸銅(II)、ギ酸銅(II)、水酸化銅(II)、硝酸銅、ナフテン酸銅、オレイン酸銅(II)、マレイン酸銅、リン酸銅、硫酸銅(II)、塩化第一銅、シアン化銅(I)、ヨウ化銅、酸化銅(I)、チオシアン酸銅、鉄アセチルアセナート、クエン酸鉄アンモニウム、シュウ酸第二鉄アンモニウム、硫酸鉄アンモニウム、硫酸第二鉄アンモニウム、クエン酸鉄、フマル酸鉄、マレイン酸鉄、乳酸第一鉄、硝酸第二鉄、鉄ペンタカルボニル、リン酸第二鉄、ピロリン酸第二鉄等の水溶性多価金属塩;五酸化バナジウム、酸化銅(II)、酸化第一鉄、酸化第二鉄等の多価金属酸化物;硫化鉄(III)、硫化鉄(II)、硫化銅等の多価金属硫化物;銅粉末、鉄粉末を挙げることができる。
【0095】
本発明では、得られる(メタ)アクリル酸系重合体の重金属イオン濃度が0.05〜10ppmであることが望ましいことから、上記重金属濃度調整剤を必要に応じて適量添加するのが望ましい。さらに、本発明者らは、既存の鋼鉄(スチール)製や銅基合金製の反応容器内壁面に耐腐食性に優れるグラスライニング加工等された反応容器やSUS(スレンレス)製の容器や撹拌器などを用いた場合に、本発明の製造条件下において、上記に規定する適量の重金属イオン、特に鉄イオンが、容器等の材質であるSUSから反応溶液中に溶出(供給)することを見出した。これは、費用対効果の面から有利である。本発明の製造方法にあっては、こうしたSUS製の反応容器や撹拌翼などの反応装置を利用する場合には、上記重金属濃度調整剤を添加する場合と同様の作用効果を奏しうる。なお、既存の鋼鉄(スチール)製や銅基合金製の反応容器であっても問題はないが、重金属イオン濃度が多く溶出されるおそれがある。そうした場合には、重金属による色がでてしまうため、こうした重金属イオンを除去する操作が必要となり、不経済である。また、グラスライニング加工等された反応容器であっても問題はなく、必要に応じて、重金属濃度調整剤を使用すればよい。
【0096】
上記単量体の重合における重合温度は、通常25〜99℃である。重合温度は50℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましい。また重合温度は95℃以下であることが好ましく、90℃以下であることがより好ましい。90℃未満で重合してもよい。重合温度が25℃未満の場合には、分子量の上昇、不純物が増加する。そのほか、重合時間か長くかかりすぎるため、生産性が低下する。一方、重合温度が99℃を超える場合には、開始剤の重亜硫酸塩が分解して亜硫酸ガスが多量に発生する。このため、重合後に液相に亜硫酸ガスが溶解して不純物が形成される。また、重合中に系外に亜硫酸ガスが排出され回収処理コストがかかる。そのほか、開始剤の重亜硫酸塩が亜硫酸ガスとして抜けてしまうため、添加に見合うだけの十分な効果が得られず、分子量が下がらなくなる。なお、ここでの重合温度とは、反応系内の反応溶液温度をいう。
【0097】
重合温度は、重合中、常に略一定に保持する必要はない。例えば、室温(25℃未満であってもよい。すなわち、上記重合温度範囲を一時的外れることがあっても本発明の範囲を外れるものではない。)から重合を開始し、適当な昇温時間(ないし昇温速度)で設定温度まで昇温し、その後、当該設定温度を保持してもよい。あるいは、単量体や開始剤などの滴下成分ごとに滴下時間を変えてもよい。滴下の仕方によっては、重合途中に上記温度範囲内で経時的に温度変動(昇温または降温)させてもよい。本発明の作用効果を損なわない範囲であれば、特に制限されるべきものではない。
【0098】
特に、室温から重合を開始する方法(室温開始法)の場合には、例えば、300分処方であれば、120分以内に、好ましくは0〜90分間、より好ましくは0〜60分間で設定温度(上記に規定する重合温度の範囲内であればよいが、好ましくは70〜90℃、より好ましくは80〜90℃程度)に達するようにする。その後、重合終了までかかる設定温度を維持することが望ましい。昇温時間が上記範囲を外れる場合には、得られる(メタ)アクリル酸系重合体が高分子量化する恐れがある。なお、重合時間が300分の例を示したが、重合時間の処方が異なる場合には当該例を参照に、重合時間に対する昇温時間の割合が同様になるように昇温時間を設定するのが望ましい。
【0099】
上記単量体の重合に際して、反応系内の圧力は、特に限定されない。常圧(大気圧)下、減圧下、加圧下の何れの圧力下であってもよい。好ましくは、重合中、亜硫酸ガスの放出を防ぎ、低分子量化を可能にするため、常圧または、反応系内を密閉し、加圧下で行うのがよい。また、常圧(大気圧)下で重合を行うと、加圧装置や減圧装置を併設する必要がなく、また耐圧製の反応容器や配管を用いる必要がない。このため、製造コストの観点からは、常圧(大気圧)が好ましい。すなわち、得られる(メタ)アクリル酸系重合体の使用目的によって、適宜最適な圧力条件を設定すればよい。
【0100】
反応系内の雰囲気は、空気雰囲気のままで行ってもよいが、不活性雰囲気とするのがよい。例えば、重合開始前に系内を窒素などの不活性ガスで置換することが望ましい。これにより、反応系内の雰囲気ガス(例えば、酸素ガスなど)が液相内に溶解し、重合禁止剤として作用する。その結果、開始剤である過硫酸塩が失活して低減するのが防止され、より低分子量化が可能となる。
【0101】
本発明の製造方法では、上記単量体の重合反応は、酸性条件下で行うのが望ましい。酸性条件下で行うことによって、重合反応系の水溶液の粘度の上昇を抑制し、低分子量の(メタ)アクリル酸系重合体を良好に製造することができる。しかも、従来よりも高濃度の条件下で重合反応を進行させることができるため、製造効率を大幅に上昇させることができる。特に、重合中の中和度を1〜25mol%と低くすることで、上記開始剤量低減による効果を相乗的に高めることができ、不純物の低減効果を格段に向上させることができる。さらに重合中の反応溶液の25℃でのpHが1〜6となるように調整するのが望ましい。このような酸性条件下で重合反応を行うことにより、高濃度かつ一段で重合を行うことができる。そのため、従来の製造方法では場合によっては必要であった濃縮工程を省略することも可能である。それゆえ、(メタ)アクリル酸系重合体の生産性が大幅に向上し、製造コストの上昇も抑制しうる。
【0102】
上記酸性条件のうち、重合中の反応溶液の25℃でのpHは1〜6、好ましくは1〜5、より好ましくは1〜4である。該pHが1未満の場合には、亜硫酸ガスの発生、装置の腐食が生じるおそれがある。一方、pHが6を超える場合には、重亜硫酸塩の効率が低下し、分子量が増大する。
【0103】
上記重合中の反応溶液のpHに調整するためのpH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン塩等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中で、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウムが特に好ましい。本明細書では、これらのものを単に「pH調整剤」あるいは「中和剤」と言う場合がある。
【0104】
重合中の中和度は1〜25mol%であるが、重合に用いられる単量体が上記単量体(I)のみの場合には、好ましくは2〜15mol%、より好ましくは3〜10mol%の範囲内である。重合に用いられる単量体が上記単量体(I)に加えて単量体(II)を含む場合には、該単量体(II)の一部または全量を初期に仕込むことが可能であるが、このときの重合中の中和度は、好ましくは1〜25mol%、より好ましくは3〜10mol%の範囲内である。重合中の中和度がかかる範囲内であれば、上記単量体(I)のみの場合であっても、単量体(I)と単量体(II)とを共重合させる場合であっても、最も良好に重合ないし共重合することが可能である。また、重合反応系の水溶液の粘度が上昇することがなく、低分子量の重合体を良好に製造することができる。しかも、従来よりも高濃度の条件下で重合反応を進行させることができるため、製造効率を大幅に上昇させることができる。重合中の中和度が1mol%未満の場合には、亜硫酸ガスの発生量が多くなり、分子量が上昇する場合がある。一方、重合中の中和度が25mol%を超える場合には、重亜硫酸塩の連鎖移動効率が低下し、分子量が上昇する場合がある。そのほか、重合が進行するに伴い重合反応系の水溶液の粘度の上昇が顕著となる。その結果、得られる重合体の分子量が必要以上に増大して低分子量の重合体が得られなくなる。さらに、上記中和度低減による効果を十分に発揮できず、不純物を大幅に低減するのが困難になる場合がある。
【0105】
ここでの中和の方法は、特に制限されない。中和剤として、例えば、(メタ)アクリル酸ナトリウムなどのアルカリ性の単量体(II)成分を利用してもよい。あるいは、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物などを用いてもよい。これらを併用してもよい。また、中和の際の中和剤の添加形態は、固体であってもよいし、適当な溶媒、好ましくは水に溶解した水溶液であってもよい。水溶液を用いる場合の水溶液の濃度は、10〜60質量%、好ましくは20〜55質量%、より好ましくは30〜50質量%である。該水溶液の濃度が20質量%未満の場合には、製品の濃度が低下してしまい、輸送および保管が繁雑となる。一方、60質量%を超える場合には、析出のおそれがあり、粘度も高くなるので送液が繁雑となる。
【0106】
重合に際しては、上記単量体、開始剤系の過硫酸塩および重亜硫酸塩その他の添加剤は、通常、これらを予め適当な溶媒(好ましくは被滴下液用の溶媒と同種の溶媒)に溶解し、単量体溶液、過硫酸塩溶液および重亜硫酸塩溶液その他の添加剤溶液とする。そして、それぞれを反応容器内に仕込んだ(水性の)溶媒(必要があれば所定の温度に調節したもの)に対して、所定の滴下時間に渡って連続的に滴下しながら重合することが好ましい。さらに水性の溶媒の一部についても、反応系内の容器に予め仕込んでなる初期仕込みの溶媒とは別に、後から滴下してもよい(表1の実施例6参照)。ただし、本発明の製造方法は、これらに制限されない。例えば、滴下方法に関しては、連続的に滴下しても、断続的に何度かに小分けして滴下してもよい。単量体(II)は、一部または全量を初期仕込みしてもよい(すなわち、重合開始時に一時に全量ないしその一部を滴下したものと見なすこともできる)。また、単量体(II)の滴下速度(滴下量)も、滴下の開始から終了まで常に一定(一定量)として滴下してもよいし、あるいは重合温度等に応じて経時的に滴下速度(滴下量)を変化させてもよい。また、すべての滴下成分を同じように滴下せずとも、滴下成分ごとに開始時や終了時をずらせたり、滴下時間を短縮させたり延長させてもよい。このように、本発明の製造方法は、本発明の作用効果を損なわない範囲で適当に変更可能である。また、溶液の形態で各成分を滴下する場合には、反応系内の重合温度と同程度まで滴下溶液を加温しておいてもよい。こうしておくと、重合温度を一定に保持する場合に、温度変動が少なく温度調整が容易である。
【0107】
単量体(I)、(II)および/または(III)、後述する単量体A、Bおよび/またはCを共重合する場合、単量体それぞれの重合性に応じて滴下時間を制御するとよい。例えば、重合性の低い単量体を用いる場合には、滴下時間を短くしてもよい。また、予め単量体の一部または全量を反応系内の容器に仕込んでおいてもよい。
【0108】
さらに、重亜硫酸塩は、重合初期の分子量が最終分子量に大きく影響する。このため、初期分子量を低下させるために、重合開始より60分以内、好ましくは30分以内、より好ましくは10分以内に重亜硫酸塩ないしその溶液を5〜20質量%添加(滴下)するのが望ましい。特に、後述するように、室温から重合を開始する場合には有効である。
【0109】
また、重合に際しては、重合温度を低くして亜硫酸ガスの発生を抑え、不純物の形成を防止することがより重要である。このため、重合の際の総滴下時間は、180〜600分、好ましくは210〜480分、より好ましくは240〜420分と長く必要である。しかしながら、製造過程で発生する上記問題や得られる重合体の性能向上が図られることを勘案すれば、重合時間を長くすることが極めて有意な対処法であるといえる。総滴下時間が180分未満の場合には、開始剤系として添加する過硫酸塩溶液および重亜硫酸塩溶液による効果が効率的になされにくい。そのため、得られる(メタ)アクリル酸系重合体に対して、末端や側鎖に硫黄元素導入量S値を満足するようにスルホン酸基等の硫黄含有基を導入することができにくくなる。その結果、該重合体の重量平均分子量が高くなる傾向にある。また、反応系内に短期間に滴下されることで過剰に開始剤が存在することが起こり得る。このため、こうした過剰な開始剤が分解して亜硫酸ガスが発生し、系外に放出されたり、不純物を形成したりする。ただし、重合温度および開始剤量を低い特定の範囲で実施することの技術的有意性を見出すことで、従来技術で説明したような問題を生じるまでには至らないといえる。このことは他の各種重合条件を外れる場合においても同様のことが言える。一方、総滴下時間が600分を越える場合には、亜硫酸ガスの発生が抑えられるため得られる重合体の性能は良好である。しかし、(メタ)アクリル酸系重合体の生産性が低下し、使用用途が制限される場合がある。ここでいう総滴下時間とは、最初の滴下成分(1成分とは限らない)の滴下開始時から最後の滴下成分(1成分とは限らない)を滴下完了するまでの時間をいう。
【0110】
また、重合の際の滴下成分のうち、重亜硫酸塩ないしその溶液の滴下時間については、単量体(I)ないしその溶液の滴下終了よりも1〜30分、好ましくは1〜20分、より好ましくは1〜15分滴下終了を早める。これにより、重合終了後の重亜硫酸塩量を低減でき、該重亜硫酸塩による亜硫酸ガスの発生や不純物の形成を有効かつ効果的に抑制することができる。そのため重合終了後、気相部の亜硫酸ガスが液相に溶解してできる不純物を格段に低減することができる。重合終了後に重亜硫酸塩が残存する場合には、不純物を生成し重合体の性能低下や低温保持時の不純物析出等を招くことにつながる。したがって、重合の終わりには重亜硫酸塩を含む開始剤が消費され残存していないことが望ましい。
【0111】
ここで、重亜硫酸塩(溶液)の滴下終了時間を、単量体(I)(溶液)の滴下終了時間よりも1分未満しか早めることができない場合には、重合終了後に重亜硫酸塩が残存する場合がある。かような場合としては、重亜硫酸塩ないしその溶液の滴下終了と単量体(I)(溶液)の滴下終了が同時である場合や、重亜硫酸塩(溶液)の滴下終了の方が単量体(I)(溶液)の滴下終了よりも遅い場合が含まれる。こうした場合には亜硫酸ガスの発生や不純物の形成を有効かつ効果的に抑制するのが困難となり、残存する開始剤が得られる重合体の熱的安定性に悪影響を及ぼす恐れがある。一方、重亜硫酸塩ないしその溶液の滴下終了時間が単量体(I)(溶液)の滴下終了時間よりも30分を超えて早い場合には、重合終了までに重亜硫酸塩が消費されてしまっている。このため、分子量の増大をまねく恐れがある。そのほか、重合中に重亜硫酸塩の滴下速度が単量体(I)(溶液)の滴下速度に比して速く、短時間で多く滴下されるために、この滴下期間中に不純物や亜硫酸ガスが多く発生する恐れがある。
【0112】
また、重合の際の滴下成分のうち、過硫酸塩(溶液)の滴下終了時間は、単量体(I)(溶液)の滴下終了時間よりも1〜30分、好ましくは1〜20分、より好ましくは1〜15分遅らせる。これにより、重合終了後に残存する単量体成分量を低減できるなど、残存モノマーに起因する不純物を格段に低減することができる。
【0113】
ここで、過硫酸塩(溶液)の滴下終了時間が単量体(I)(溶液)の滴下終了時間よりも1分未満しか遅くすることができない場合には、重合終了後に単量体成分が残存する場合がある。かような場合としては、過硫酸塩(溶液)の滴下終了と単量体(I)(溶液)の滴下終了が同時である場合や、過硫酸塩(溶液)の滴下終了の方が単量体(I)(溶液)の滴下終了よりも早い場合が含まれる。こうした場合には、不純物の形成を有効かつ効果的に抑制するのが困難となる。一方、過硫酸塩(溶液)の滴下終了時間が単量体(I)(溶液)の滴下終了時間よりも30分を超えて遅い場合には、重合終了後に過硫酸塩またはその分解物が残存し、不純物を形成する恐れがある。
【0114】
上記各成分の滴下が終了し、重合反応系における重合反応が終了した時点での水溶液中の固形分濃度(すなわち単量体の重合固形分濃度)は、35質量%以上、好ましくは40〜70質量%、より好ましくは45〜65質量%である。このように重合反応終了時の固形分濃度が35質量%以上であれば、高濃度かつ一段で重合を行うことができる。そのため、効率よく低分子量の(メタ)アクリル酸系重合体を得ることができる。例えば、従来の製造方法では場合によっては必要であった濃縮工程を省略することができる。それゆえ、その製造効率を大幅に上昇させたものとすることができる。その結果、(メタ)アクリル酸系重合体の生産性が大幅に向上し、製造コストの上昇も抑制することが可能となる。
【0115】
ここで、上記固形成濃度が35質量%未満の場合には、(メタ)アクリル酸系重合体の生産性を大幅に向上することができない場合がある。例えば、濃縮工程を省略することが困難となる。
【0116】
重合反応系において固形分濃度を高くすると、従来の方法では、重合反応の進行に伴う反応溶液の粘度の上昇が顕著となり、得られる重合体の重量平均分子量も大幅に高くなるという問題点を生じていた。しかしながら、重合反応は酸性側(25℃でのpHが1〜6であり、中和度が1〜25mol%の範囲)でなされていると、重合反応が進行に伴う反応溶液の粘度の上昇を抑制することができる。それゆえ、重合反応を高濃度の条件下で行っても低分子量の重合体を得ることができ、重合体の製造効率を大幅に上昇させることができる。
【0117】
ここで、重合反応が終了した時点とは、全ての滴下成分の滴下が終了した時点であってもよいが、好ましくはその後、所定の熟成時間を経過し(重合が完結し)た時点を言う。
【0118】
上記熟成時間は、通常1〜120分間、好ましくは5〜60分間、より好ましくは10〜30分間である。熟成時間が1分間未満の場合には、熟成不十分につき単量体成分が残ることがあり、残存モノマーに起因する不純物を形成し性能低下などを招くおそれがある。一方、熟成時間が120分間を超える場合には、重合体溶液の着色の恐れがある。そのほか、既に重合が完結しており、更なる重合温度を印加することは不経済である。
【0119】
また、熟成中は、上記重合反応期間内であり、重合中に含まれるため、上記重合温度が適用される。したがって、ここでの温度も一定温度(好ましくは滴下終了時点での温度)で保持してもよいし、熟成中に経時的に温度を変化させてもよい。したがって、重合時間は、上記総滴下時間+熟成時間をいい、最初の滴定開始時点から熟成終了時点までに要した時間をいう。
【0120】
また、本発明に係る(メタ)アクリル酸塩系重合体の製造方法では、重合は、上記酸性条件下(重合中の反応溶液の25℃でのpHが1〜6であり、重合中の中和度が1〜25mol%である)で行われる。そのため、得られる(メタ)アクリル酸系重合体の中和度(最終中和度)は、重合が終了した後に、必要に応じて、後処理として適当なアルカリ成分を適宜添加することによって所定の範囲に設定されうる。
【0121】
該最終中和度は、その使用用途によって異なるため特に制限されるべきものではなく、1〜100mol%の極めて広範囲に設定可能である。例えば、素肌に優しいといわれている弱酸性洗剤などに、洗剤ビルダーとして利用するような場合には、酸性のまま中和せずに使用してもよい。また、中性洗剤やアルカリ洗剤などに使用するような場合には、後処理としてアルカリ成分で中和して中和度90mol%以上に中和して使用してもよい。特に酸性の重合体として使用する場合の最終中和度は、好ましくは1〜75mol%、より好ましくは5〜70mol%である。中性ないしアルカリ性の重合体として使用する場合の最終中和度は、好ましくは75〜100mol%、より好ましくは85〜99mol%である。また、中性ないしアルカリ性の重合体として使用する場合の最終中和度が99mol%を超える場合には重合体水溶液が着色する恐れがある。
【0122】
上記アルカリ成分としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物;アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの有機アミン類で代表されるようなものが挙げられる。上記アルカリ成分は1種類のみを用いても良いし、2種類以上の混合物を用いても良い。
【0123】
なお、従来の完全中和方式や部分中和方式で得られる(メタ)アクリル酸塩系重合体を脱塩処理することで、最終中和度を設定することも可能ではある。しかし、この場合には、脱塩工程の追加により製造工程が煩雑化し、製造コストも上昇することになる。このため、使用用途が制限される場合がある。
【0124】
また、上述したように酸性のまま中和せずに使用するような場合には、反応系内が酸性のため、反応系内の雰囲気中に毒性のある亜硫酸ガス(SOガス)が残存している場合がある。こうした場合には、過酸化水素などの過酸化物を入れて分解するか、あるいは空気や窒素ガスを導入(ブロー)して追い出しておくのが望ましい。
【0125】
また、本発明の(メタ)アクリル酸系重合体は、バッチ式で製造されてもよいし、連続式で製造されてもよい。
【0126】
以上、説明したように、本発明に係る(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法は、開始剤として過硫酸塩および重亜硫酸塩をそれぞれ1種類以上組み合わせて用いるに際し、過硫酸塩を質量比で1とした場合に、重亜硫酸塩を質量比で0.5〜5の範囲内となるように用いるとともに、重合反応系に添加される過硫酸塩および重亜硫酸塩の合計量が単量体1mol当たり2〜20gの範囲内であり、かつ重合温度が25〜99℃の範囲内であることを特徴とする。ここで、酸性条件下(重合中の反応溶液の25℃でのpHが1〜6であり、重合中の中和度が1〜25mol%である)で、各滴下成分の滴下時間を調節しながら重合を行うことが好ましい。また、重合反応終了時の重合固形分濃度が35質量%以上であり、得られる重合体の重量平均分子量が2000〜20000の範囲内であることが好ましい。得られる(メタ)アクリル酸系重合体の重量平均分子量が上記の範囲内であれば、重合反応系への開始剤の添加量を格段に抑制することができ、コスト面でより有利である。さらに、製造過程での亜硫酸ガスの発生や不純物の発生を有効かつ効率的に防止(低減)することができる。このため、高分散能、高キレート能および高耐ゲル性といった各種性能を高い次元でより顕著かつ効果的に発揮することができる(メタ)アクリル酸系重合体を効率よく製造することができる。つまり、無機顔料の分散剤、スケール防止剤、および洗剤ビルダーなどとして好適に用いることができる重合体を高品位かつ低コストで製造することができる。さらに、重合反応系に添加する開始剤の量の増加を格段に抑制するなどして、コストを低減することも可能である。
【0127】
本発明の(メタ)アクリル酸系重合体の用途は、水系の分散剤(顔料分散剤を含む)、スケール防止剤(スケール抑制剤)、洗剤ビルダーおよびこれを用いた洗剤などが挙げられる。ただし、これらに制限されるべきものではなく、幅広く適用できる。例えば、金属イオン封止剤、増粘剤、各種バインダーなどにも適用できる。
【0128】
本発明の水系の分散剤は、(メタ)アクリル酸系重合体(上記したように(メタ)アクリル酸系重合体の精製物を含む)を含有してなることを特徴とする。(メタ)アクリル酸系重合体中の不純物量が格段に低減されているため、(メタ)アクリル酸系重合体が本来有する極めて優れた分散能、キレート能および耐ゲル性を発現できる低分子量の水系の分散剤が提供される。また、長期間保存しても性能低下や低温保持時の不純物析出なども生じることのない極めて高品質高性能で安定性に優れた水系の分散剤が提供される。
【0129】
なお、本発明の水系の分散剤においては、上記(メタ)アクリル酸系重合体以外の他の組成成分や配合比率は、特に制限されない。従来公知の水系の分散剤に有効に適用されてなる各種成分およびその配合比率に基づき、本発明の作用効果を損なわない範囲で、適宜適用(利用)することができる。
【0130】
本発明に係るスケール防止剤は、(メタ)アクリル酸系重合体(上記したように(メタ)アクリル酸系重合体の精製物を含む)を含有してなることを特徴とする。(メタ)アクリル酸系重合体中の不純物量が格段に低減されているため、(メタ)アクリル酸系重合体が本来有する極めて優れた分散能、キレート能および耐ゲル性を発現できる低分子量の水溶性のスケール防止剤が提供される。さらに長期間保存しても性能低下や低温保持時の不純物析出なども生じることのない極めて高品質高性能で安定性に優れたスケール防止剤が提供される。
【0131】
なお、本発明のスケール防止剤においては、上記(メタ)アクリル酸系重合体以外の他の組成成分や配合比率は、特に制限されない。従来公知のスケール防止剤に有効に適用されてなる各種成分およびその配合比率に基づき、本発明の作用効果を損なわない範囲で、適宜適用(利用)することができる。
【0132】
本発明に係る洗剤ビルダーは、(メタ)アクリル酸系重合体(上記したように(メタ)アクリル酸系重合体の精製物を含む)を含有してなることを特徴とする。(メタ)アクリル酸系重合体中の不純物量が格段に低減されているため、(メタ)アクリル酸系重合体が本来有する極めて優れた分散能、キレート能および耐ゲル性を発現できる低分子量の水溶性の洗剤ビルダーが提供される。そのため、洗剤ビルダーとして使用した場合の再汚染防止能に優れる。さらに長期間保存しても性能低下や低温保持時の不純物析出なども生じることのない極めて高品質高性能で安定性に優れた洗剤ビルダーが提供される。
【0133】
なお、本発明の洗剤ビルダーにおいては、上記(メタ)アクリル酸系重合体以外の他の組成成分や配合比率は、特に制限されない。従来公知の洗剤ビルダーに有効に適用されてなる各種成分およびその配合比率に基づき、本発明の作用効果を損なわない範囲で、適宜適用(利用)することができる。
【0134】
本発明に係る洗剤は、(メタ)アクリル酸系重合体(上記したように(メタ)アクリル酸系重合体の精製物を含む)を含有してなることを特徴とする。(メタ)アクリル酸系重合体中の不純物量が格段に低減されているため、(メタ)アクリル酸系重合体が本来有する極めて優れた分散能、キレート能および耐ゲル性を発現できる低分子量の水溶性の洗剤が提供される。さらに長期間保存しても性能低下や低温保持時の不純物析出なども生じることのない極めて高品質高性能で安定性に優れた洗剤が提供される。
【0135】
本発明の洗剤は、本発明の(メタ)アクリル酸系重合体の配合量が洗剤全体の1〜20質量%であり、界面活性剤の配合量が洗剤全体の5〜70質量%であることが好ましい。場合により酵素を5質量%以下の範囲で添加しても良い。
【0136】
本発明の(メタ)アクリル酸系重合体の配合量が1質量%未満であると添加効果が現れず、また20質量%を超えるともはや添加した効果が洗浄力の向上につながらず経済的にも不利である。また、洗剤の主剤である界面活性剤の量が上記の範囲を外れると、他の成分とのバランスが崩れ洗剤の洗浄力に悪影響を及ぼす恐れがある。酵素を配合した場合、洗浄力の向上に寄与するが、5質量%を超えると、もはや添加した効果が現れず経済的にも不利である。
【0137】
界面活性剤は、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤およびカチオン界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1つが使用されうる。アニオン界面活性剤は、特に限定されないが、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルまたはアルケニルエーテル硫酸塩、アルキルまたはアルケニル硫酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、α−スルホ脂肪酸またはエステル塩、アルカンスルホン酸塩、飽和または不飽和脂肪酸塩、アルキルまたはアルケニルエーテルカルボン酸塩、アミノ酸型界面活性剤、N−アシルアミノ酸型界面活性剤、アルキルまたはアルケニルリン酸エステルまたはその塩等が使用されうる。
【0138】
ノニオン界面活性剤は、特に限定されないが、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルまたはアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、高級脂肪酸アルカノールアミドまたはそのアルキレンオキサイド付加物、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルグリコキシド、脂肪酸グリセリンモノエステル、アルキルアミンオキサイド等が使用されうる。
【0139】
両性界面活性剤としては、特には限定されないが、例えば、カルボキシ型またはスルホベタイン型両性界面活性剤等が使用されうる。
【0140】
カチオン界面活性剤としては、特には限定されないが、例えば、第4級アンモニウム塩等が使用されうる。
【0141】
本発明における洗剤に配合される酵素としては、プロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼ等が使用されうる。特に、アルカリ洗浄液中で活性が高いプロテアーゼ、アルカリリパーゼおよびアルカリセルラーゼが好ましい。
【0142】
さらに、本発明の洗剤には、必要に応じて、公知のアルカリビルダー、キレートビルダー、再付着防止剤、ソイルリリース剤、色移り防止剤、柔軟剤、蛍光剤、漂白剤、漂白助剤、香料等の洗剤に常用される成分が配合されうる。また、ゼオライトが配合されてもよい。
【0143】
アルカリビルダーとしては、珪酸塩、炭酸塩、硫酸塩等を用いることができる。キレートビルダーとしては、ジグリコール酸、オキシカルボン酸塩、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)、クエン酸等を必要に応じて使用することができる。あるいは公知の水溶性ポリカルボン酸系ポリマーを本発明の効果を損なわない範囲で使用しても良い。
【0144】
また、本発明の洗剤における上記(メタ)アクリル酸系重合体の配合形態は、洗剤の販売時の形態(例えば、液状物または固形物)に応じて決定され、特に制限されるべきものではない。重合後の水溶液の形態のまま配合してもよい。ある程度水分を飛ばして濃縮した状態で配合してもよい。あるいは、乾燥固化した状態で配合してもよい。
【0145】
なお、該洗剤には、家庭用洗剤の合成洗剤、繊維工業その他の工業用洗剤、硬質表面洗浄剤のほか、その成分の1つの働きを高めた漂白洗剤など特定の用途にのみ用いられる洗剤も含まれる。
【0146】
本発明の第三は、(メタ)アクリル酸系単量体Aおよび不飽和ポリアルキレングリコール系単量体Bを共重合した共重合体であって、末端に硫黄酸素酸を持ち、S=(ポリマーに含まれるS量)/(全S量)×100で定義される硫黄元素導入量S値が3以上であることを特徴とする不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体である。不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体は、(メタ)アクリル酸系単量体Aと不飽和ポリアルキレングリコール系単量体Bを、水溶液中で重合することによって製造される。任意で、単量体AおよびBに共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体Cを共重合させうる。本発明の不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体は、末端に硫黄酸素酸を持ち、分散能、キレート能に加えて、耐ゲル性にも優れた低分子量の水溶性重合体である。不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体において、硫黄元素導入量S値を3以上とするには、製造過程で重合温度と中和度を所定の範囲でコントロールすれば達成可能である。これにより多量の亜硫酸ガスの発生および不純物の発生を抑制することができる。こうした製造過程を経て得られる硫黄元素導入量S値が3以上の不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体では、不純物が極めて少なく、該不純物に起因する性能低下を格段に低く抑えられる。また水溶液形態での低温保存時の不純物の析出も格段に低く抑えることができ、従来の不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体水溶液に比べて無色透明で色調も良好である。このように、より一層の性能向上を図ることができる。
【0147】
なお、本願で硫黄酸素酸とは、硫黄原子および酸素原子を含む酸性基、ならびにその塩をいう。硫黄酸素酸としては、スルホン酸、硫酸、過硫酸、亜硫酸から誘導される基;これらの酸性基をアルカリ金属により部分中和した塩、または完全中和した塩;これらの酸性基をアンモニアあるいはモノエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの有機アミン類により部分中和した塩、または完全中和した塩が挙げられる。
【0148】
ここで、不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の硫黄元素導入量S値は、3以上、好ましくは3〜50、より好ましくは3〜30の範囲である。該硫黄元素導入量S値が3未満の場合は、重合に用いた開始剤量が必要以上ということである。このため、不純物の生成や亜硫酸ガスの発生を効果的に低減できず、性能低下および低温保存時における不純物の析出を招く恐れがある。一方、硫黄元素導入量S値の上限については、特に制限されるべきものではない。
【0149】
なお、上記硫黄元素導入量S値の定義に用いた「ポリマーに含まれるS量」とは、不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体に含まれるS量をいう。詳しくは、実施例で説明する透析法により、重合により得られた不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の固形分濃度を調整してなる水溶液から不純物や開始剤断片などの低分子量成分を取り除いた後の不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体からなる高分子成分中に含まれるS量をいう。言い換えれば、不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の末端や側鎖にスルホン酸基等の硫黄含有基として導入されているS量ともいえる。したがって、硫黄元素導入量S値が大きいほど、使用した開始剤などに含まれるS成分のより多くが重合反応により好適に不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体に導入されているものといえる。また、上記硫黄元素導入量S値の定義に用いた「全S量」とは、不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体が存在する相に含まれる全てのS量をいう。なお、ここで、全S量として、重合に用いる原料中のS量を用いなかったのは、亜硫酸ガスとして系外に排出されてしまったS量(硫黄分)については、不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体水溶液中に存在しないため、低温保存時にS含有不純物として析出するおそれがないためである。
【0150】
本発明において不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体とは、重合により得られた不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体を含む水溶液、固形分濃度を調整するために水などの水性の溶媒を適量添加または除去された前記水溶液、該水性の溶媒を除去し乾燥して固形物としたもの、重合により得られた不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体を含む水溶液から適当に不純物を除去し精製してなる不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体、固形分濃度を調整するために水性の溶媒を添加ないし除去してなるもの、乾燥して固形物とした不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体、および、必要に応じて、重合により得られた不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の性能に影響を与えない範囲で、適当な添加剤、例えば、保存安定剤(紫外線吸収剤や抗酸化剤など)、着色剤、帯電防止剤、滑剤、充填剤、難燃化剤、発泡剤などを加えてなるもの、を含む包括的な概念である。つまり、不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体を含めば、その形態や成分組成などに関しては特に制限されない。したがって、本発明の不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体には、精製された不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体だけの場合も含まれる。このように、本発明の不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体は、上記硫黄元素導入量S値を満足するものであればよく、その名称に拘泥されることなく最も広義に解釈されるべきものである。単に不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の固体成分や水溶液だけに狭く解釈(制限)されない。製造工程の簡素化の観点からは、重合により得られた不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体を含む水溶液をそのまま、分散剤やスケール防止剤、洗剤ビルダーなどとして利用するのが望ましい。輸送コスト低減の観点からは、水溶液のようにかさばる形態ではなく、固形物として輸送し、分散剤やスケール防止剤、洗剤ビルダーなどとして配合する際に、必要に応じて水溶液化するとよい。製品の品質安定化および保存安定性の観点からは、重合により得られた不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体を含む水溶液から不純物を取り除いた形で製品化するとよい。このように、使用用途に応じて適宜最適な形態や成分組成にすればよい。すなわち、本発明の不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体では、重合により得られた重合体につき、所定の測定方法(実施例で説明する)によって分析して得られた硫黄元素導入量S値が3以上のものであればよいのであり、不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の形態や組成成分を制限するものではない。
【0151】
本発明に係る不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体は、色相(b値)が2以下、好ましくは1.5以下である。本発明の不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体は、黄〜褐色を帯びた従来技術の不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体に比べて無色透明である。洗剤のようにほぼ白色である製品では、一般消費者(利用者)が品定めする上で、洗剤の色調までも考慮に入れられることはよくあることである。洗剤自体に黄色を帯びているよりも無色透明である方が商品力が高いものとなっていることを考慮すると、無色透明であることは極めて有利である。
【0152】
本発明に係る不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体は、上記硫黄元素導入量S値をも満足した上で、後述する実施例で説明するCa捕捉能が200以上の場合には後述する実施例で説明するゲル化度qが0.1以下であることが望ましい。また、Ca捕捉能が200未満の場合にはQ=(Ca捕捉能)/ゲル化度q/10が30以上であることが望ましい。従来では、耐ゲル性を有する重合体は、低分子量の重合体の中でも特に分子量が小さいものであった。すなわち、良好な耐ゲル性を得るためには低分子量である重合体の分子量をさらに小さくすることが必要であった。しかしながら、分子量が小さすぎる重合体では、重合体末端や側鎖に対して定量的に、具体的には上記に規定する硫黄原子導入量S値を満足するようにスルホン酸基等の硫黄含有基を導入することが難しい。そのため分散能やスケール防止能を十分に発現することができず、分散剤やスケール防止剤、洗剤ビルダーなどの用途には好適に用いることができなかった。これに対して、本発明に係る不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体は、重合体末端や主鎖に対して定量的に、具体的には上記に規定する硫黄原子導入量S値を満足するようにスルホン酸基等の硫黄含有基が導入されている。また場合によっては上記qまたはQ値を満足し得る。そのため、当該不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体は、従来の耐ゲル性を有する重合体に比べて分子量が比較的大きくなっているにも関わらず、良好な耐ゲル性を示すことができる。すなわち、上記S値に加えて、耐ゲル能Q値が上記範囲内であれば、水系の分散剤、スケール防止剤、あるいは洗剤ビルダーなどの用途に用いる際に、不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体のゲル化が抑えられ、非常に良好な耐ゲル性、さらにはCa捕捉能を発現する。そのため、かかる水系の分散剤、スケール防止剤、あるいは洗剤ビルダーなどの用途に好適に利用することができる。すなわち、使用環境下において、さらには他の成分と混合(配合)後の保存環境下において、ゲル化を抑えることができるため、製品のより一層の性能向上および品質安定化を図ることができる。
【0153】
ここで、Ca捕捉能が200以上の場合、ゲル化度q値は、0.1未満、好ましくは0.095未満である。また、Ca捕捉能が200未満の場合、耐ゲル能Q値は、30以上、好ましくは35以上、より好ましくは40以上である。q値が0.1以上の場合、あるいはQ値が、30以下の場合には、耐ゲル能が十分でないために、その使用用途が制限される場合がある。なお、該q値の下限あるいは該Q値の上限に関しては特に制限されない。
【0154】
上記「ゲル化度q」を測定するためには、不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体のゲル化の度合を測定する従来公知の方法を好適に用いることができる。例えば、緩衝液中に、本発明に係る不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の低濃度水溶液(例えば、固形分濃度が1質量%)と塩化カルシウム水溶液とを加えて混合することにより試験液を調製する。この試験液を、所定の温度および所定の時間(例えば、90℃、1時間)で静置した後に、紫外線(UV)波長域で該試験液の吸光度を測定することによりゲル化度を測定することができる。ゲル化度qの測定方法のより具体的な方法、あるいはCa捕捉能については、後述する実施例で説明する。
【0155】
次に、本発明に係る不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の重量平均分子量Mwは、2000〜100000、好ましくは3000〜50000、より好ましくは4000〜20000である。重量平均分子量がこの範囲内であれば、上記不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体は、分散能、キレート能および耐ゲル性といった各種性能をより顕著かつ効果的に発揮することができる。そのため、分散剤やスケール防止剤、洗剤ビルダーなどの用途に、より一層好適に用いることができる。不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の重量平均分子量が2000未満の場合には、十分な分散能およびキレート能が得られない場合があり、使用用途が制限される。一方、不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の重量平均分子量が100000を超える場合には、高分子量化するため良好な水溶性や耐ゲル性を発現しにくくなる。なお、重合後の不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体を含む水溶液を適当な方法で精製して得た不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体を測定しても、重合後の不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体を含む水溶液を測定しても殆ど重量平均分子量に差異は生じない。したがって、不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体またはその水溶液のいずれか一方の重量平均分子量を測定すれば足りる。
【0156】
なお、不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体またはその水溶液の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)の測定方法については、後述する実施例にて説明する。
【0157】
また、本発明に係る不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の分散度(Mw/Mn)は、Mwにもよるが、(1)Mwが9000未満のときには、1.5〜2.9、好ましくは1.8〜2.7、より好ましくは2.0〜2.5である。この場合に、分散度が1.5未満の場合には合成が繁雑となる。一方、分散度が2.9を超える場合には、性能上有効な成分が減少するので性能の低下をまねく恐れがある。また、不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の分散能が十分でない場合があり、使用用途が制限される。また、(2)Mwが9000〜20000のとき、分散度は1.5〜4.5、好ましくは2.0〜4.0、より好ましくは2.5〜3.5である。この場合に、分散度が1.5未満の場合には合成が繁雑となる。一方、分散度が4.0を超える場合には、性能上有効な成分が減少するので性能の低下をまねく恐れがある。
【0158】
また、本発明に係る不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体のCa捕捉能(キレート能の1種)は、Mwや不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体組成に応じて決定されうる。例えば、Mw5000〜10000で、(メタ)アクリル酸系単量体が80質量%、不飽和ポリアルキレングリコール系単量体が20質量%の組成のときには、Ca捕捉能は160以上、好ましくは180以上、さらに好ましくは200以上である。Ca捕捉能が160未満の場合には、洗剤に配合したときに、十分な洗浄力が得られない恐れがある。特に、上記硫黄元素導入量S値、さらに好ましくはq値およびQ値の要件を具備し、不純物を低減してなる本発明の不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体は、先に本発明者らが提案した発明の不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体よりも格段にCa捕捉能(キレート能)に優れる(実施例の表20参照)。そのため、例えば、衣類の汗汚れや泥汚れなど、Ca成分を含む汚れやCaを含む水道水に対して極めて高い分解洗浄力を発現させることができる点で有利である。
【0159】
本発明に係る不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の中和度の範囲は、特に制限されるべきものではない。利用目的に応じて適宜調整すればよいく、1〜100%、好ましくは20〜99%、より好ましくは50〜95%の範囲である。
【0160】
本発明の不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体は、上記硫黄元素導入量S値の要件を具備し、さらに30〜99質量%の(メタ)アクリル酸系単量体と、1〜70質量%不飽和ポリアルキレングリコール系単量体を含む組成物を水溶液中で重合することによって得られる。必要に応じて、0〜60質量%の上記単量体に共重合可能な水溶性モノエチレン性不飽和単量体を用いてもよい。ただし、(メタ)アクリル酸系単量体、不飽和ポリアルキレングリコール系単量体および上記単量体に共重合可能な水溶性モノエチレン性不飽和単量体の質量%の合計は100とする。また、本発明の不飽和アルキレングリコール系共重合体は、末端や主鎖にスルホン酸基等の硫黄含有基を有する不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体を含むことが望ましい。かかる要件を満足する不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体は、重合体末端や側鎖にスルホン酸基等の硫黄含有基を有している。このため、該重合体は、従来の耐ゲル性を有する重合体に比べて分子量が比較的大きくなっているにも関わらず、上記従来の重合体以上の良好な耐ゲル性を示す。さらに、不純物が少ないため、重合体が潜在的(本来的)に持ち得る分散能、キレート能および耐ゲル性などの高い性能を低下せず、最大限の性能が引き出された、優れた低分子量の水溶性重合体となりうる。したがって、該重合体は、分散剤、スケール防止剤、および洗剤ビルダーなどの用途に好適に用いられる。なお、本発明の不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体は、30〜99質量%の(メタ)アクリル酸系単量体と、1〜70質量%不飽和ポリアルキレングリコール系単量体と、を含む水溶液中で重合してなる重合体であって、末端や主鎖にスルホン酸基等の硫黄含有基を有しなくてもよい。上記硫黄元素導入量S値の要件を満足することができるものであれば、本発明の作用効果を奏する。例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸、そのコポリマーなど、後述する単量体Cに例示される単量体とのコポリマーなどの不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体水溶液についても、本発明の上記硫黄元素導入量S値の要件を満足するものであれば、本発明に含まれる。
【0161】
なお、分散剤やスケール防止剤などに用いられる既存の低分子量の水溶性重合体では、重量平均分子量が1000以上であると、該水溶性重合体の分子量が小さいほど、すなわち重量平均分子量が1000に近づくほど耐ゲル性は高くなる。一方、キレート能は、該水溶性重合体の重量平均分子量が大きいほど高くなる。それゆえ、従来の水溶性重合体では、分散能、キレート能、および耐ゲル性の三つの性能を全て良好に向上させることが困難であった。
【0162】
これに対して、上記30〜99質量%の(メタ)アクリル酸系単量体と、1〜70質量%不飽和ポリアルキレングリコール系単量体、必要に応じて0〜60質量%の上記単量体に共重合可能な水溶性モノエチレン性不飽和単量体とを含む単量体を水溶液中で重合してなる重合体であり、末端や主鎖にスルホン酸基等の硫黄含有基を有し、かつ上記硫黄元素導入量S値の要件を具備する不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体は、重合体の末端や側鎖にスルホン酸基等の硫黄含有基が導入されているため、重量平均分子量が比較的大きくても上記分散能および耐ゲル性は良好である。特に、重量平均分子量が大きい割には、耐ゲル性は、相対的に非常に良好である。それゆえ、かかる要件を満足する不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体は、同程度の重量平均分子量を有する従来の不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体と同じキレート能を示すことに加え、高い分散能および非常に優れた耐ゲル性を示す。
【0163】
以上のように、本発明に係る不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体は、末端や主鎖にスルホン酸基等の硫黄含有基を有しているとともに、高い耐ゲル性を有していることが望ましい。かかる末端スルホン酸基等の硫黄含有基により分散能やキレート能を向上させることができる。また、さらに高い耐ゲル性を発現させることができる。そのため、該不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体は、無機顔料の分散剤、スケール防止剤、および洗剤ビルダーなどに好適に利用される。
【0164】
なお、上記30〜99質量%の(メタ)アクリル酸系単量体と、1〜70質量%不飽和ポリアルキレングリコール系単量体、必要に応じて0〜60質量%の上記単量体に共重合可能な水溶性モノエチレン性不飽和単量体とを含む単量体を水溶液中で重合してなる重合体であって、末端や側鎖にスルホン酸基等の硫黄含有基を有するとの要件に関しては、本発明の不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の製造方法の説明と合わせて、以下に説明する。
【0165】
本発明の第四は、(メタ)アクリル酸系単量体Aと不飽和ポリアルキレングリコール系単量体Bとを共重合させる不飽和ポリアルキレングリコール系重合体の製造方法であって、開始剤として、過硫酸塩および重亜硫酸塩をそれぞれ1種類以上組み合わせて用いることを特徴とする製造方法である。
【0166】
開始剤として過硫酸塩だけでなく、重亜硫酸塩を上記の範囲内で加えることで、得られる不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体が必要以上に高分子量化することが抑制され、低分子量の重合体を効率よく製造することができる。加えて、得られる不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体にスルホン酸基等の硫黄含有基を定量的に、具体的には、上記に規定する硫黄元素導入量S値の範囲になるように導入できる。スルホン酸基等の硫黄含有基を定量的に導入できるということは、過硫酸塩および重亜硫酸塩が開始剤として非常に良好に機能していることを示している。そのため、重合反応系に過剰な開始剤を添加する必要がなく、開始剤量をより一層低減できる。その結果、重合体の製造コストの上昇を抑制し、製造効率を向上させうる。よって、得られる不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体では、カルシウムなどの金属塩での凝集が抑えられ、良好な耐ゲル性を有する。さらに、重合反応系への開始剤の添加量ならびに重合温度をある幅でコントロールすることにより、多量の亜硫酸ガスの発生を抑制することができ、さらに不純物の発生を低減することができる。したがって、より一層の性能向上が図られると共に、重合体の製造コストの上昇を抑制し、製造効率を向上させうる。
【0167】
本発明の製造方法に用いられる単量体は、不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体を重合することができる単量体成分からなるものであればよく、特に制限されない。少なくとも(メタ)アクリル酸系単量体(以下、単量体Aともいう)と不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(以下、単量体Bともいう)を含有するものであればよいが、必要があればこれらA、Bに共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体(以下、単量体Cともいう)が含まれていてもよい。ここでいう単量体は、単量体成分で構成されるものであって、重合の際に用いる他の成分である溶媒や開始剤その他の添加剤は含まない。
【0168】
上記単量体A成分としては、具体的には、アクリル酸;メタクリル酸;(メタ)アクリル酸をナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属により部分中和した塩、または完全中和した塩;アンモニアあるいはモノエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの有機アミン類により部分中和した塩、または完全中和した塩が挙げられる。これらは、1種単独であってもよいし、組み合わせてもよい。好ましくは、アクリル酸単独もしくはアクリル酸とメタクリル酸とを所定比率で混合してなる混合物を用いる。
【0169】
上記単量体中の単量体Aの配合量は、単量体全量に対して、30〜99質量%、好ましくは40〜99質量%、より好ましくは50〜99質量%の範囲である。該単量体Aの配合量が30質量%未満の場合には、キレート能と分散能をバランスよく発現させることができない。
【0170】
なお、単量体Aを後述する溶媒、好ましくは水に溶解して単量体Aの溶液(好ましくは水溶液)の形態で添加してもよい。単量体A溶液(好ましくは水溶液)として用いる場合の濃度としては、10〜100質量%、好ましくは30〜95質量%、より好ましくは50〜90質量%である。ここで、単量体A溶液の濃度が10質量%未満の場合には、製品の濃度が低下してしまい、輸送および保管が繁雑となる。一方、上限については特に制限されるべきものではなく、100質量%(すなわち、全量)単量体A(溶液)、すなわち、無溶媒であってもよい。
【0171】
上記単量体B成分としては、具体的には、3−メチル−3−ブテン−1−オール、3−メチル−2−ブテン−1−オール、2−メチル−3−ブテン−2−オール、アリルアルコール等の不飽和アルコール1molに対して、炭素数2〜18のアルキレンオキサイドを1〜300mol、好ましくは1〜100mol、さらに好ましくは5〜50mol付加した化合物を挙げることができる。炭素数2〜18のアルキレンオキサイドとしては、スチレンオキサイド、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等を挙げることができる。エチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイドを用いるのが好ましい。エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドを併用する場合、その結合順序に制限はない。
【0172】
エチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイドの付加mol数が0molの場合、本発明の効果が十分に発揮できない。また、300molを超えた場合、本発明の効果の向上は見られず、単に多量の添加量が必要となるだけである。
【0173】
上記単量体中の単量体Bの配合量は、単量体全量に対して、1〜70質量%、好ましくは1〜50質量%、より好ましくは1〜30質量%の範囲である。該単量体Bの配合量が1質量%未満の場合には、キレート能と分散能をバランスよく発現させることができない。
【0174】
単量体Bを後述する溶媒、好ましくは水に溶解して単量体Bの溶液(好ましくは水溶液)の形態で添加してもよい。単量体B溶液(好ましくは水溶液)として用いる場合の濃度としては、10〜100質量%、好ましくは30〜95質量%、より好ましくは50〜90質量%である。ここで、単量体B溶液の濃度が10質量%未満の場合には、製品の濃度が低下してしまい、輸送および保管が繁雑となる。一方、上限については特に制限されるべきものではなく、100質量%(すなわち、全量)単量体B(溶液)、すなわち、無溶媒であってもよい。
【0175】
本発明に係る新規な水溶性共重合体は、(メタ)アクリル酸系単量体A、および不飽和ポリアルキレングリコール系単量体Bを必須に含む単量体成分を共重合して得られる。当該単量体成分中には単量体A、B以外に、必要に応じて、単量体A、Bと共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体Cを含んでいてもよい。
【0176】
上記モノエチレン性不飽和単量体Cは、特に限定されない。例えば、スチレン;スチレンスルホン酸;酢酸ビニル;(メタ)アクリロニトリル;(メタ)アクリルアミド;メチル(メタ)アクリレート;エチル(メタ)アクリレート;ブチル(メタ)アクリレート;2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート;ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート;アリルアルコール;3−メチル−3−ブテン−1−オール;3−メチル−2−ブテン−1−オール;2−メチル−3−ブテン−2−オール;3−(メタ)アクリロキシ−1,2−ジヒドロキシプロパン;3−(メタ)アクリロキシ−1,2−ジ(ポリ)オキシエチレンエーテルプロパン;3−(メタ)アクリロキシ−1,2−ジ(ポリ)オキシプロピレンエーテルプロパン;3−(メタ)アクリロキシ−1,2−ジヒドロキシプロパンホスフェートおよびその1価金属塩、2価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、または、炭素数1〜4のアルキル基のモノもしくはジエステル;3−(メタ)アクリロキシ−1,2−ジヒドロキシプロパンサルフェートおよびその1価金属塩、2価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、または、炭素数1〜4のアルキル基のエステル;3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸およびその1価金属塩、2価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、または、炭素数1〜4のアルキル基のエステル;3−(メタ)アクリロキシ−2−(ポリ)オキシエチレンエーテルプロパンスルホン酸およびその1価金属塩、2価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、または、炭素数1〜4のアルキル基のエステル;3−(メタ)アクリロキシ−2−(ポリ)オキシプロピレンエーテルプロパンスルホン酸およびその1価金属塩、2価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、または、炭素数1〜4のアルキル基のエステル;3−アリロキシプロパン−1,2−ジオール;3−アリロキシプロパン−1,2−ジオールホスフェート;3−アリロキシプロパン−1,2−ジオールスルホネート;3−アリロキシプロパン−1,2−ジオールサルフェート;3−アリロキシ−1,2−ジ(ポリ)オキシエチレンエーテルプロパン;3−アリロキシ−1,2−ジ(ポリ)オキシエチレンエーテルプロパンホスフェート;3−アリロキシ−1,2−ジ(ポリ)オキシエチレンエーテルプロパンスルホネート;3−アリロキシ−1,2−ジ(ポリ)オキシプロピレンエーテルプロパン;3−アリロキシ−1,2−ジ(ポリ)オキシプロピレンエーテルプロパンホスフェート;3−アリロキシ−1,2−ジ(ポリ)オキシプロピレンエーテルプロパンスルホネート;6−アリロキシヘキサン−1,2,3,4,5−ペンタオール;6−アリロキシヘキサン−1,2,3,4,5−ペンタオールホスフェート;6−アリロキシヘキサン−1,2,3,4,5−ペンタオールスルホネート;6−アリロキシヘキサン−1,2,3,4,5−ペンタ(ポリ)オキシエチレンエーテルヘキサン;6−アリロキシヘキサン−1,2,3,4,5−ペンタ(ポリ)オキシプロピレンエーテルヘキサン;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸、3−アリロキシ−2−(ポリ)オキシエチレンプロパンスルホン酸、3−アリロキシ−2−(ポリ)オキシプロピレンプロパンスルホン酸およびなどのスルホン酸基を有するモノエチレン性不飽和単量体その1価金属塩、2価金属塩、アンモニウム塩、もしくは、有機アミン塩、または、これらの化合物のリン酸エステルもしくは硫酸エステルおよびそれらの1価金属塩、2価金属塩、アンモニウム塩、または、有機アミン塩;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、α−ヒドロキシアクリル酸などのモノエチレン性不飽和脂肪族モノカルボン酸;上記モノエチレン性不飽和脂肪族モノカルボン酸をアルカリ金属により部分中和した塩、または完全中和した塩;上記モノエチレン性不飽和脂肪族モノカルボン酸をアンモニア、あるいはモノエタノールアミンやトリエタノールアミンなどの有機アミン類により部分中和した塩、または完全中和した塩;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのモノエチレン性不飽和脂肪族ジカルボン酸;上記モノエチレン性不飽和脂肪族ジカルボン酸をアルカリ金属により部分中和した塩、または完全中和した塩;上記モノエチレン性不飽和脂肪族ジカルボン酸をアンモニア、あるいはモノエタノールアミンやトリエタノールアミンなどの有機アミン類により部分中和した塩、または完全中和した塩などを挙げることができるが特に限定されるものではない。
【0177】
本発明の方法では、上記単量体を水溶液中で重合することが望ましい。該水溶液には、溶媒、開始剤、その他の添加剤を含む。
【0178】
ここで、上記単量体を水溶液中で重合する際に重合反応系に用いられる溶媒は、水、アルコール、グリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール類などの水性の溶媒であることが好ましく、特に好ましくは水である。これらは1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。また、上記単量体の溶媒への溶解性を向上させるために、各単量体の重合に悪影響を及ぼさない範囲で有機溶媒を適宜加えてもよい。
【0179】
上記有機溶媒としては、具体的には、メタノール、エタノールなどの低級アルコール;ジメチルホルムアルデヒドなどのアミド類;ジエチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル類;などから、1種類または2種類以上を適宜選択して用いられうる。
【0180】
上記溶媒の使用量としては、単量体全量に対して40〜200質量%、好ましくは45〜180質量%、より好ましくは50〜150質量%の範囲である。該溶媒の使用量が10質量%未満の場合には、分子量が高くなってしまう。一方、該溶媒の使用量が200質量%を超える場合には、製造された不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の濃度が低くなり、場合によっては溶媒除去が必要となる。なお、該溶媒の多くまたは全量は、重合初期に反応容器内に仕込んでおけばよい。溶媒の一部は、単独で重合中に反応系内に適当に添加(滴下)するようにしてもよい。あるいは、単量体成分や開始剤成分やその他の添加剤を予め溶媒に溶解させた形で、これらの成分と共に重合中に反応系内に適当に添加(滴下)されてもよい。
【0181】
上記単量体を水溶液中で重合する際に重合反応系に用いられる開始剤は、過硫酸塩および重亜硫酸塩をそれぞれ1種類以上組み合わせて用いるのが望ましい。これにより、末端や側鎖にスルホン酸基を定量的に導入し、分散能やキレート能に加えて耐ゲル性にも優れた低分子量の水溶性重合体を得、本発明の作用効果を有効に発現させることができる。過硫酸塩に加えて、重亜硫酸塩を開始剤系に加えることで、得られる重合体が必要以上に高分子量化することが抑制され、低分子量の重合体を効率よく製造することができる。
【0182】
上記過硫酸塩としては、具体的には、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムおよび過硫酸アンモニウムなどを挙げることができる。また、重亜硫酸塩としては、具体的には、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸カリウムおよび重亜硫酸アンモニウムなどを挙げることができる。さらに重亜硫酸塩の代わりに、亜硫酸塩、ピロ亜硫酸塩等を用いてもよい。
【0183】
上記過硫酸塩および重亜硫酸塩の添加比率は、過硫酸塩1質量部に対して、重亜硫酸塩は0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜5質量部、より好ましくは1〜3質量部の範囲内である。過硫酸塩1質量部に対して重亜硫酸塩が0.1質量部未満であると、重亜硫酸塩による効果が十分ではなくなる。そのため、重合体の末端に上記に規定する硫黄元素導入量S値を満足するだけのスルホン酸基を導入することができなくなる恐れがある。また、不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の重量平均分子量も高くなる傾向にある。一方、過硫酸塩1質量部に対して重亜硫酸塩が10質量部を超えると、重亜硫酸塩による効果が添加比率に伴うほど得られない状態で、重合反応系において重亜硫酸塩が過剰に供給され(無駄に消費され)る。このため、過剰な重亜硫酸塩が重合反応系で分解され、亜硫酸ガスが多量に発生する。そのほか、不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体中の不純物が多く生成し、得られる不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の性能低下や低温保持時の不純物析出を招く。
【0184】
上記開始剤である過硫酸塩および重亜硫酸塩の添加量は、単量体1モルに対して、開始剤の過硫酸塩および重亜硫酸塩の合計量が1〜30g、好ましくは3〜20g、より好ましくは5〜15gである。このように低い添加量の範囲で過硫酸塩および重亜硫酸塩を加えても、本発明では、重合温度を低く制限していることもあり、製造過程での亜硫酸ガスの発生や不純物の発生を格段に低減できる。このため、得られる不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の末端や側鎖に上記に規定する硫黄元素導入量S値を満足するだけのスルホン酸基等の硫黄含有基を導入することができる。そのほか、得られる不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の性能低下や低温保持時の不純物析出を防止することができる。上記開始剤の過硫酸塩および重亜硫酸塩の添加量が1g未満の場合には、得られる重合体の分子量が上がってしまう。そのほか、得られる不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の末端に上記に規定する硫黄元素導入量S値を満足するだけのスルホン酸基等の硫黄含有基を導入することができない恐れがあり、該重合体の重量平均分子量が高くなる傾向にある。一方、添加量が30gを超える場合には、開始剤の過硫酸塩および重亜硫酸塩の効果が添加量に伴うほど得られなくなり、逆に、得られる不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の純度が低下するなどの悪影響を及ぼす。
【0185】
開始剤の1種である上記過硫酸塩は、上記溶媒、好ましくは水に溶解して過硫酸塩の溶液(好ましくは水溶液)の形態で添加されてもよい。該過硫酸塩溶液(好ましくは水溶液)として用いる場合の濃度としては、1〜35質量%、好ましくは5〜35質量%、より好ましくは10〜30質量%である。ここで、過硫酸塩溶液の濃度が1質量%未満の場合には、製品の濃度が低下してしまい、輸送および保管が繁雑となる。一方、過硫酸塩溶液の濃度が35質量%を超える場合には、過硫酸塩が析出するおそれがある。
【0186】
開始剤の1種である重亜硫酸塩は、上記溶媒、好ましくは水に溶解して重亜硫酸塩の溶液(好ましくは水溶液)の形態で添加してもよい。該重亜硫酸塩溶液(好ましくは水溶液)として用いる場合の濃度としては、10〜40質量%、好ましくは20〜40質量%、より好ましくは30〜40質量%である。ここで、重亜硫酸塩溶液の濃度が10質量%未満の場合には、製品の濃度が低下してしまい、輸送および保管が繁雑となる。一方、重亜硫酸塩溶液の濃度が40質量%を超える場合には、重亜硫酸塩が析出するおそれがある。
【0187】
本発明は、さらに他の開始剤(連鎖移動剤を含む)を併用する実施態様を排除するものではない。必要があれば、本発明の作用効果に悪影響を及ぼさない範囲で、適宜使用してもよい。さらに、本発明においては、開始剤系として上記過硫酸塩および重亜硫酸塩の組み合わせが好適に用いられるが、この組み合わせに特に限定されるものではない。上記に規定するS値を満足するようにスルホン酸基等の硫黄含有基を導入することが可能であり、低分子量の重合体を一段で重合できる開始剤系であれば使用可能である。
【0188】
他の開始剤、添加形態については、(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法において述べたとおりであるため、ここでは説明を省略する。
【0189】
また、上記単量体の重合に際して、重合温度は、通常25〜99℃である。重合温度は50℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましい。また重合温度は95℃以下であることが好ましく、90℃以下であることがより好ましい。90℃未満で重合してもよい。好ましくは50〜95℃、より好ましくは70〜90℃である。重合温度が25℃未満の場合には、分子量の上昇、不純物の増加のほか、重合時間か長くかかりすぎるため、生産性が低下する。一方、重合温度が99℃を超える場合には、開始剤の重亜硫酸塩が分解して亜硫酸ガスが多量に発生する。このため、重合後に液相に亜硫酸ガスが溶解して不純物が形成される。また、重合中に系外に排出され回収処理コストがかかる。そのほか、開始剤の重亜硫酸塩が亜硫酸ガスとして抜けてしまうため、添加に見合うだけの十分な効果が得られず、分子量が下がらなくなる。なお、ここでの重合温度とは、反応系内の反応溶液温度をいう。
【0190】
重合温度は、重合中、常に略一定に保持する必要はない。これに関する説明は、(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法において述べたとおりであるため、ここでは説明を省略する。
【0191】
上記単量体の重合に際して、反応系内の圧力は、特に限定されない。これに関する説明は、(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法において述べたとおりであるため、ここでは説明を省略する。
【0192】
反応系内の雰囲気についても、(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法において述べたとおりであるため、ここでは説明を省略する。
【0193】
本発明の製造方法では、上記単量体の重合反応は、酸性条件下で行うのが望ましい。これに関する説明は、(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法において述べたとおりであるため、ここでは説明を省略する。好ましいpH、pH調製剤についての説明も(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法において述べた説明と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0194】
重合中の中和度は1〜25mol%であるが、好ましくは2〜15mol%、より好ましくは3〜10mol%の範囲内である。重合中の中和度が1mol%未満の場合には、亜硫酸ガスの発生量が多くなり、分子量が上昇する場合がある。一方、重合中の中和度が25mol%を超える場合には、重亜硫酸塩の連鎖移動効率が低下し、分子量が上昇する場合がある。そのほか、重合が進行するに伴い重合反応系の水溶液の粘度の上昇が顕著となる。その結果、得られる重合体の分子量が必要以上に増大して低分子量の重合体が得られなくなる。さらに、上記中和度低減による効果を十分に発揮できず、不純物を大幅に低減するのが困難になる場合がある。
【0195】
ここでの中和の方法は、特に限定されない。中和の方法に関する説明は、(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法において述べたとおりであるため、ここでは説明を省略する。
【0196】
重合に際しては、上記単量体、開始剤系の過硫酸塩および重亜硫酸塩その他の添加剤は、通常、これらを予め適当な溶媒(好ましくは被滴下液用の溶媒と同種の溶媒)に溶解し、単量体溶液、過硫酸塩溶液および重亜硫酸塩溶液その他の添加剤溶液とする。そして、それぞれを反応容器内に仕込んだ(水性の)溶媒(必要があれば所定の温度に調節したもの)に対して、所定の滴下時間に渡って連続的に滴下しながら重合することが好ましい。さらに水性の溶媒の一部についても、反応系内の容器に予め仕込んでなる初期仕込みの溶媒とは別に、後から滴下してもよい。ただし、本発明の製造方法は、これらに制限されない。例えば、滴下方法に関しては、連続的に滴下しても、断続的に何度かに小分けして滴下してもよい。単量体は、一部または全量を初期仕込みしてもよい(すなわち、重合開始時に一時に全量ないしその一部を滴下したものと見なすこともできる)。また、単量体の滴下速度(滴下量)も、滴下の開始から終了まで常に一定(一定量)として滴下してもよいし、あるいは重合温度等に応じて経時的に滴下速度(滴下量)を変化させてもよい。また、すべての滴下成分を同じように滴下せずとも、滴下成分ごとに開始時や終了時をずらせたり、滴下時間を短縮させたり延長させてもよい。このように、本発明の製造方法は、作用効果を損なわない範囲で適当に変更可能である。また、溶液の形態で各成分を滴下する場合には、反応系内の重合温度と同程度まで滴下溶液を加温しておいてもよい。こうしておくと、重合温度を一定に保持する場合に、温度変動が少なく温度調整が容易である。
【0197】
さらに、重亜硫酸塩は、重合初期の分子量が最終分子量に大きく影響する。ため、初期分子量を低下させるために、重合開始より60分以内、好ましくは30分以内、より好ましくは10分以内に重亜硫酸塩ないしその溶液を5〜20質量%添加(滴下)するのが望ましい。特に、後述するように、室温から重合を開始する場合には有効である。
【0198】
また、重合の際しては、重合温度を低くして亜硫酸ガスの発生を抑え、不純物の形成を防止することがより重要である。このため、重合の際の総滴下時間は、180〜600分、好ましくは210〜480分、より好ましくは240〜420分と長く必要である。しかしながら、製造過程で発生する上記問題や得られる重合体の性能向上が図られることを勘案すれば、重合時間を長くすることが極めて有意な対処法であるといえる。総滴下時間が180分未満の場合には、開始剤系として添加する過硫酸塩溶液および重亜硫酸塩溶液による効果が効率的になされにくい。そのため、得られる不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体に対して、末端や側鎖に硫黄元素導入量S値を満足するようにスルホン酸基等の硫黄含有基を導入することができにくくなる。その結果、該重合体の重量平均分子量が高くなる傾向にある。また、反応系内に短期間に滴下されることで過剰に開始剤が存在することが起こり得る。このため、こうした過剰な開始剤が分解して亜硫酸ガスが発生し、系外に放出されたり、不純物を形成したりする。一方、総滴下時間が600分を越える場合には、亜硫酸ガスの発生が抑えられるため得られる重合体の性能は良好である。しかし、不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の生産性が低下し、使用用途が制限される場合がある。ここでいう総滴下時間とは、最初の滴下成分(1成分とは限らない)の滴下開始時から最後の滴下成分(1成分とは限らない)を滴下完了するまでの時間をいう。
【0199】
また、重合の際の滴下成分のうち、重亜硫酸塩ないしその溶液の滴下時間については、単量体ないしその溶液の滴下終了よりも1〜30分、好ましくは1〜20分、より好ましくは1〜15分滴下終了を早める。かような手法に関する説明は、(メタ)アクリル酸系重合体の説明で記載した通りであるため、ここでは説明を省略する。
【0200】
また、重合の際の滴下成分のうち、過硫酸塩(溶液)の滴下時間については、単量体(溶液)の滴下終了よりも1〜30分、好ましくは1〜20分、より好ましくは1〜15分滴下終了を遅らせる。かような手法に関する説明は、(メタ)アクリル酸系重合体の説明で記載した通りであるため、ここでは説明を省略する。
【0201】
次に、上記各成分の滴下が終了し、重合反応系における重合反応が終了した時点での水溶液中の固形分濃度(すなわち単量体の重合固形分濃度)は、35質量%以上、好ましくは40〜70質量%、より好ましくは45〜65質量%であることが望ましい。この固形分濃度に関する説明は、(メタ)アクリル酸系重合体の説明で記載した通りであるため、ここでは説明を省略する。
【0202】
また、本発明に係る不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の製造方法では、重合は、上記酸性条件下(重合中の反応溶液の25℃でのpHが1〜6であり、重合中の中和度が1〜25mol%である)で行われる。かような酸性条件や中和度に関する説明は、(メタ)アクリル酸系重合体の説明で記載した通りであるため、ここでは説明を省略する。
【0203】
また、本発明の不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体は、バッチ式で製造されてもよいし、連続式で製造されてもよい。
【0204】
以上、説明したように、本発明に係る不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の製造方法は、開始剤として過硫酸塩および重亜硫酸塩をそれぞれ1種類以上組み合わせて用いるに際し、過硫酸塩を質量比で1とした場合に、重亜硫酸塩を質量比で0.1〜10の範囲内となるように用いるとともに、重合反応系に添加される過硫酸塩および重亜硫酸塩の合計量が単量体1mol当たり1〜30gの範囲内であり、かつ重合温度が25〜99℃の範囲内であることを特徴とする。ここで、酸性条件下(重合中の反応溶液の25℃でのpHが1〜6であり、重合中の中和度が1〜25mol%である)で、各滴下成分の滴下時間を調節しながら重合を行うことが好ましい。また、重合反応終了時の重合固形分濃度が35質量%以上であり、得られる重合体の重量平均分子量が2000〜100000の範囲内であることが好ましい。得られる不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の重量平均分子量が上記の範囲内であれば、重合反応系への開始剤の添加量を格段に抑制することができ、コスト面でより有利である。さらに、製造過程での亜硫酸ガスの発生や不純物の発生を有効かつ効率的に防止(低減)することができる。このため、高分散能、高キレート能および高耐ゲル性といった各種性能を高い次元でより顕著かつ効果的に発揮することができる不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体を効率よく製造することができる。つまり、無機顔料の分散剤、スケール防止剤、および洗剤ビルダーなどとして好適に用いることができる重合体を高品位かつ低コストで製造することができる。さらに、重合反応系に添加する開始剤の量の増加を格段に抑制するなどして、コストを低減することも可能である。
【0205】
本発明の不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の用途は、水系の分散剤(炭酸カルシウム、カオリン、顔料の分散剤を含む)、水処理剤、スケール防止剤(スケール抑制剤)、セメント添加剤、洗剤ビルダー(液体、粉末洗剤を含む)およびこれを用いた洗剤などが挙げられる。ただし、これらに制限されるべきものではなく、幅広く適用できる。例えば、金属イオン封止剤、増粘剤、各種バインダーなどにも適用できる。
【0206】
なお、本発明の水系の分散剤は、不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体(上記したように不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の精製物を含む)を含有してなることを特徴とする。不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体中の不純物量が格段に低減されているため、不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体が本来有する極めて優れた分散能、キレート能および耐ゲル性を発現できる低分子量の水系の分散剤が提供される。また、長期間保存しても性能低下や低温保持時の不純物析出なども生じることのない極めて高品質高性能で安定性に優れた水系の分散剤が提供される。
【0207】
なお、本発明の水系の分散剤においては、上記不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体以外の他の組成成分や配合比率は、特に制限されない。従来公知の水系の分散剤に有効に適用されてなる各種成分およびその配合比率に基づき、本発明の作用効果を損なわない範囲で、適宜適用(利用)することができる。
【0208】
本発明に係るスケール防止剤は、不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体(上記したように不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の精製物を含む)を含有してなることを特徴とする。不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体中の不純物量が格段に低減されているため、不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体が本来有する極めて優れた分散能、キレート能および耐ゲル性を発現できる低分子量の水溶性のスケール防止剤が提供される。さらに長期間保存しても性能低下や低温保持時の不純物析出なども生じることのない極めて高品質高性能で安定性に優れたスケール防止剤が提供される。
【0209】
なお、本発明のスケール防止剤においては、上記不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体以外の他の組成成分や配合比率は、特に制限されない。従来公知のスケール防止剤に有効に適用されてなる各種成分およびその配合比率に基づき、本発明の作用効果を損なわない範囲で、適宜適用(利用)することができる。
【0210】
本発明に係るセメント添加剤は、不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体(上記したように不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の精製物を含む)を含有してなることを特徴とする。不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体中の不純物量が格段に低減されているため、不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体が本来有する極めて優れた分散能、キレート能および耐ゲル性を発現できる低分子量の水溶性のセメント添加剤が提供される。さらに長期間保存しても性能低下や低温保持時の不純物析出なども生じることのない極めて高品質高性能で安定性に優れたセメント添加剤が提供される。
【0211】
なお、本発明のセメント添加剤においては、上記不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体以外の他の組成成分や配合比率に関しては、特に制限されない。従来公知のセメント添加剤に有効に適用されてなる各種成分およびその配合比率に基づき、本発明の作用効果を損なわない範囲で、適宜適用(利用)することができる。
【0212】
本発明に係る洗剤ビルダーは、不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体(上記したように不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の精製物を含む)を含有してなることを特徴とする。不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体中の不純物量が格段に低減されているため、不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体が本来有する極めて優れた液体洗剤への相溶性、分散能、キレート能および耐ゲル性を発現できる低分子量の水溶性の洗剤ビルダーが提供される。そのため、洗剤ビルダーとして使用した場合の再汚染防止能に優れる。さらに長期間保存しても性能低下や低温保持時の不純物析出なども生じることのない極めて高品質高性能で安定性に優れた洗剤ビルダーが提供される。
【0213】
なお、本発明の洗剤ビルダーにおいては、上記不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体以外の他の組成成分や配合比率に関しては、特に制限されない。従来公知の洗剤ビルダーに有効に適用されてなる各種成分およびその配合比率に基づき、本発明の作用効果を損なわない範囲で、適宜適用(利用)することができる。
【0214】
本発明に係る洗剤は、不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体(上記したように不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の精製物を含む)を含有してなることを特徴とする。不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体中の不純物量が格段に低減されているため、不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体が本来有する極めて優れた分散能、キレート能および耐ゲル性を発現できる低分子量の水溶性の洗剤が提供される。さらに長期間保存しても性能低下や低温保持時の不純物析出なども生じることのない極めて高品質高性能で安定性に優れた洗剤が提供される。
【0215】
本発明の洗剤においては、本発明の不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の配合量が洗剤全体の1〜20質量%であり、界面活性剤の配合量が洗剤全体の5〜70質量%であることが好ましい。場合により酵素を5質量%以下の範囲で添加しても良い。
【0216】
本発明の不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の配合量が1質量%未満であると添加効果が現れず、また20質量%を超えるともはや添加した効果が洗浄力の向上につながらず経済的にも不利である。また、洗剤の主剤である界面活性剤の量が上記の範囲を外れると、他の成分とのバランスが崩れ洗剤の洗浄力に悪影響を及ぼす恐れがある。酵素を配合した場合、洗浄力の向上に寄与するが、5質量%を超えると、もはや添加した効果が現れず経済的にも不利である。
【0217】
本発明に係る洗剤用ビルダーは、液体洗剤用であっても粉末洗剤用であってもよい。不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体は、後述の界面活性剤との相溶性に優れるため、高濃縮の液体洗剤が得られる。このことを考慮すると、本発明の不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体は、液体洗剤用ビルダーとして用いられることが好ましい。
【0218】
使用できる界面活性剤および酵素は、(メタ)アクリル酸系重合体の説明で記載した通りであるため、ここでは説明を省略する。
【0219】
さらに、本発明の洗剤には、必要に応じて、公知のアルカリビルダー等を配合してもよい。これらについても、(メタ)アクリル酸系重合体の説明で記載した通りであるため、ここでは説明を省略する。
【0220】
また、本発明の洗剤における上記不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の配合形態は、洗剤の販売時の形態(例えば、液状物または固形物)に応じて決定され、特に制限されるべきものではない。重合後の水溶液の形態のまま配合してもよい。ある程度水分を飛ばして濃縮した状態で配合してもよい。あるいは、乾燥固化した状態で配合してもよい。
【0221】
なお、該洗剤には、家庭用洗剤の合成洗剤、繊維工業その他の工業用洗剤、硬質表面洗浄剤のほか、その成分の1つの働きを高めた漂白洗剤など特定の用途にのみ用いられる洗剤も含まれる。
【0222】
【実施例】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されない。なお、実施例および比較例に記載の「%」は、特に断りがなければ「質量%」を示す。
【0223】
<(メタ)アクリル酸系重合体について>
また、本発明にかかる(メタ)アクリル酸系重合体の(1−1)ポリマーに含まれるS量、全S量およびこれらを測定するのに用いる透析法、(1−2)重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)、(1−3)耐ゲル能Q値を求めるのに用いるゲル化度q、(1−4)R値を求めるのに用いるNMR、(1−5)鉄イオン濃度、(1−6)Ca補足能、(1−7)亜硫酸ガス発生量、(1−8)低温析出量、(1−9)亜硫酸分定量法は、以下に示す方法により測定または定量した。
【0224】
(1−1)ポリマーに含まれるS量および全S量の測定
重合により得られた(メタ)アクリル酸系重合体の透析処理前後のS量を誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma,ICP)発光分光分析法によって定量した。ここで、透析処理前の(メタ)アクリル酸系重合体のS量を「全S量」とした。また、透析処理後の(メタ)アクリル酸系重合体のS量を「ポリマーに含まれるS量」とした。以下にここでの透析法につき説明する。
【0225】
≪透析法≫
▲1▼重合により得られた(メタ)アクリル酸系重合体につき、適量の水を加えて、固形分濃度30質量%の(メタ)アクリル酸系重合体水溶液を調製した。これを透析膜40cm(長さ)中に20g入れ密閉した。透析膜にはSpectra/Por Membrane MWCO:1000 分画分子量1000(SPECTRUM LABORATORIES INC製)を用いた。なお、本発明では、当該透析膜と同程度の分画分子量を有するものであればよい。
【0226】
▲2▼これを2リットルビーカーに入った2000gの水に浸し、スターラーで攪拌した。
【0227】
▲3▼6時間後、ビーカーから透析膜を取り出し、透析膜の外側を水でよく洗い流した後、透析膜の中身を取り出した。
【0228】
▲4▼これをエヴァポレーターで濃縮したものを透析処理後の(メタ)アクリル酸系重合体サンプルとした。
【0229】
なお、透析処理前の(メタ)アクリル酸系重合体サンプルとしては、上記▲1▼における、重合により得られた(メタ)アクリル酸系重合体を、上記▲4▼と同様にしてエヴァポレーターで濃縮したものを用いた。
【0230】
(1−2)重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)の測定
(メタ)アクリル酸系重合体の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、共にGPC(ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー)により測定された。なお、ここでのサンプルには、上記(1)の透析法▲1▼の重合により得られた(メタ)アクリル酸系重合体をそのまま使用した。測定条件、装置などは以下の通りである。
【0231】
GPCのカラムは、東ソー株式会社製G−3000PWXL(商品名)が用いられた。
【0232】
移動相としては、リン酸水素二ナトリウム12水和物34.5gおよびリン酸二水素ナトリウム2水和物46.2g(いずれも試薬特級)に純水を加えて全量を5000gとし、その後0.45μmのメンブランフィルターでろ過した水溶液が用いられた。
【0233】
検出器としては、ウォーターズ製のモデル481型が用いられ、検出波長UV:214nmとした。
【0234】
ポンプとしては、株式会社日立製作所製のL−7110(商品名)が用いられた。
【0235】
移動相の流量は、0.5ml/分とし、温度は35℃とした。検量線は、創和科学製のポリアクリル酸ナトリウム標準サンプルを用いて作成された。
【0236】
(1−3)ゲル化度qおよび耐ゲル能Q値の測定
ゲル化度の測定においては、まず、ホウ酸緩衝溶液、塩化カルシウム水溶液、および1%重合体溶液を調製した。ホウ酸緩衝溶液は、ホウ酸7.42g、塩化ナトリウム1.75gおよびホウ酸ナトリウム10水和物7.63gに純水を加えて全量を1000gとした。塩化カルシウム水溶液は、塩化カルシウム2水和物0.735gに純水を加えて全量を2500gとした。ここで、上記1%重合体水溶液には、上記(1)の透析法▲1▼の重合により得られた(メタ)アクリル酸系重合体を適量の水で希釈して固形分濃度1質量%に調整したものを用いた。
【0237】
次に、上記各溶液を所定の順序および所定の量で500mlのトールビーカーに仕込んだ。この所定の順序および所定の量は以下の通りである:第一番目として純水250mlを仕込み、第二番目としてホウ酸緩衝溶液10mlを仕込み、第三番目として1%重合体水溶液5mlを仕込み、最後に塩化カルシウム水溶液250mlを仕込んだ。
【0238】
この順序で仕込まれた各溶液を混合することにより、1%重合体水溶液に含まれる重合体をゲル化させて試験液とした。試験液を仕込んだトールビーカーに蓋をして、あらかじめ90℃に調整しておいた恒温槽に該トールビーカーを1時間静置した。1時間経過後、直ちに試験液を5cmの石英セルに入れ、UV波長380nmにおける吸光度aを測定した。
【0239】
一方、上記試験液として仕込まれる四つの成分のうち、塩化カルシウム水溶液250mlを純水250mlに代えてブランク溶液とした。このブランク溶液に対して、上記試験液と同様の操作を行い、UV波長380nmでブランク溶液の吸光度(ブランク値)bを測定した。そして、上記吸光度aおよびブランク値bから、ゲル化度q=a−bとして算出した。
【0240】
このゲル化度および上記(2)の測定で求めた重量平均分子量(Mw)を用いて、次式;Q=ゲル化度×10/Mwに基づき、耐ゲル能Q値を算出した。
【0241】
Figure 2004075971
【0242】
(1−5)鉄イオン濃度の測定
重合により得られた(メタ)アクリル酸系重合体の鉄イオン濃度をICP発光分光分析法によって定量した。
【0243】
(1−6)Ca捕捉能の測定
容量100ccのビーカーに、0.001mol/リットルの塩化カルシウム水溶液50gを採取する。そこに、ポリ(メタ)アクリル酸塩を固形換算で10mg添加する。次に、この水溶液のpHを希水酸化ナトリウムで9〜11に調整する。その後、攪拌下、カルシウムイオン電極安定剤として、4mol/リットルの塩化カリウム水溶液1mlを添加する。
【0244】
イオンアナライザー(EA920型、オリオン社製)およびカルシウムイオン電極(93−20型、オリオン社製)を用いて、遊離のカルシウムイオンを測定し、ポリ(メタ)アクリル酸塩1g当たり、炭酸カルシウム換算で何mgのカルシウムイオンがキレートされたか(キレート能の1種であるCa捕捉能)を計算で求める。キレート能の1種であるCa捕捉能の単位は「mgCaCO/g」である。
【0245】
(1−7)亜硫酸ガス発生量(ガス量)
ガスメーター(DRY TEST GAS METER MODEL DC−2 株式会社シナガワ製)を還流冷却器に接続し、重合開始から終了までに放出されたガス量を測定した。
【0246】
(1−8)低温析出量
▲1▼内径32mmの50mlねじ口びんに入れたポリマー水溶液(実施例の重合体および比較例の比較重合体)50gを0℃まで冷却する。
【0247】
▲2▼ここにNaSOの単結晶を種晶として少量加え、さらに12時間0℃で静置する。
【0248】
▲3▼評価基準:液面の高さの1/2以上結晶が析出したときを「多」とし、それ未満を「少」として評価した。
【0249】
(1−9)亜硫酸分定量法
ポリマー水溶液(実施例の重合体および比較例の比較重合体)20gと約1%過酸化水素水溶液(以下、液▲1▼とする)1gを混合し、5分間攪拌する(以下、液▲2▼とする)。次に、以下のようにして液▲2▼の過酸化水素濃度を測定する。
【0250】
容量300mlのマイヤーフラスコにヨウ化カリウム2gをとる。さらに純水100gを加え、マグネチックスターラーで攪拌する。ヨウ化カリウムが完全に溶解したら18N(9mol/(dm))硫酸を30ml加える。ここに、液▲2▼を18〜20g程度添加し、遮光紙で覆った状態で5分間攪拌する。これを、0.1Mチオ硫酸ナトリウムを用いて滴定する。まず、溶液の色が薄い黄色になるまでゆっくりと滴定し、さらに1%デンプン水溶液を1ml加え、ヨウ素デンプン色が消えるまで滴定する(Aml)。同様にして、液▲2▼を加えないブランクを滴定する(Bml)。以下の式を用いて液▲2▼の過酸化水素濃度を算出する。同様にして、液▲1▼の過酸化水素濃度を算出する。
【0251】
【数1】
Figure 2004075971
【0252】
次に、液▲2▼において消費された過酸化水素濃度(%)を算出する。
【0253】
【数2】
Figure 2004075971
【0254】
添加した液▲2▼中に存在する亜硫酸分を、以下の式から重亜硫酸ナトリウム換算で算出する。
【0255】
【数3】
Figure 2004075971
【0256】
最後に、全ポリマー水溶液、すなわち重合釜中のすべてのポリマー水溶液中の亜硫酸分(g)を、以下の式から重亜硫酸ナトリウム換算で算出する。
【0257】
【数4】
Figure 2004075971
【0258】
実施例1
還流冷却器、攪拌機を備えた容量2.5リットルのSUS製セパラブルフラスコに、純水156.5gを仕込み(初期仕込)、攪拌下、90℃まで昇温した。
【0259】
次いで攪拌下、約90℃一定状態の重合反応系中に80%アクリル酸水溶液(以下、80%AAと略す)427.5g(4.75mol)、37%アクリル酸ナトリウム水溶液(以下、37%SAと略す)63.5g(0.25mol)、15%過硫酸ナトリウム水溶液(以下15%NaPSと略す)66.7g(対単量体投入量(ここで、単量体投入量とは、単量体の全ての投入量をいう。以下同様とする。)に換算すると2.0g/mol)、35%重亜硫酸ナトリウム水溶液(以下、35%SBSと略す)71.4g(対単量体投入量に換算すると5.0g/mol)をそれぞれ別個の滴下ノズルより滴下した。それぞれの滴下時間は、80%AA、37%SA、35%SBSを300分間、15%NaPSを310分間とした。また、それぞれの滴下時間の間、各成分の滴下速度は一定とし、連続的に滴下した。
【0260】
滴下終了後、さらに30分間に渡って反応溶液を90℃に保持して熟成し重合を完結せしめた。重合の完結後、反応溶液を放冷し、48%水酸化ナトリウム水溶液(以下、48%NaOHと略す)366.7g(すなわち4.40mol)を攪拌下、反応溶液に徐々に滴下して中和した。このようにして、固形分濃度が45質量%、最終中和度が93mol%のポリアクリル酸ナトリウムを含む水溶液(以下、重合体(1)とする)を得た。重合処方を下記表1にまとめた。
【0261】
得られた重合体(1)を用いて、その分子量、S値、R値、Q値、鉄イオン濃度、カルシウム捕捉能、ガス量および低温析出量を測定した結果を下記表11に示す。
【0262】
実施例2〜14
実施例1と同様に重合した。重合処方を下記表1および表2にまとめた。
【0263】
得られた重合体(2)〜(14)を用いて、それぞれの分子量、R値、P、Q値、鉄イオン濃度、カルシウム捕捉能、ガス量および低温析出量を測定した結果を下記表11に示す。
【0264】
【表1】
Figure 2004075971
【0265】
【表2】
Figure 2004075971
【0266】
実施例15〜17
35%SBS7.1g(対単量体投入量に換算すると0.5g/mol)を80%AA、37%SA、35%SBS、15%NaPSの滴下開始直前にすばやく添加する以外は、実施例1と同様に重合した。重合処方を下記表3にまとめた。
【0267】
得られた重合体(15)〜(17)を用いて、それぞれの分子量、S値、R値、Q値、鉄イオン濃度、カルシウム捕捉能、ガス量および低温析出量を測定した結果を下記表11に示す。
【0268】
【表3】
Figure 2004075971
【0269】
実施例18
還流冷却器、攪拌機を備えた容量2.5リットルのSUS製セパラブルフラスコに、純水137.0gを仕込み(初期仕込)、攪拌下、30℃まで昇温した。次いで攪拌下、35%SBS7.1g(対単量体投入量に換算すると0.5g/mol)をすばやく添加した後、この重合反応系中に80%AA405.0g(すなわち4.50mol)、37%SA127.0g(すなわち0.50mol)、15%NaPS66.7g(対単量体投入量に換算すると2.0g/mol)、35%SBS85.7g(対単量体投入量に換算すると6.0g/mol)をそれぞれ別個の滴下ノズルより滴下した。それぞれの滴下時間は、80%AA、37%SA、35%SBSを240分間、15%NaPSを250分間とした。また、重合温度については、30℃から重合を開始した後、毎分1℃ずつ昇温し、重合開始60分後以降は90℃一定とした。また、それぞれの滴下時間の間、各成分の滴下速度は一定とし、連続的に滴下した。
【0270】
滴下終了後、さらに30分間に渡って反応溶液を90℃に保持して熟成し重合を完結せしめた。重合の完結後、反応溶液を放冷し、48%NaOH366.7g(すなわち4.40mol)を攪拌下、反応溶液に徐々に滴下して中和した。このようにして、固形分濃度が45質量%、最終中和度が93mol%のポリアクリル酸ナトリウムを含む水溶液(以下、重合体(18)とする)を得た。重合処方を下記表4にまとめた。
【0271】
得られた重合体(18)を用いて、それぞれの分子量、S値、R値、Q値、鉄イオン濃度、カルシウム捕捉能、ガス量および低温析出量を測定した結果を下記表11に示した。
【0272】
実施例19
還流冷却器、攪拌機を備えた容量2.5リットルのSUS製セパラブルフラスコに、純水154.0gを仕込み(初期仕込)、攪拌下、30℃まで昇温した。次いで攪拌下、この重合反応系中に80%AA427.5g(すなわち4.75mol)、37%SA63.5g(すなわち0.25mol)、15%NaPS66.7g(対単量体投入量に換算すると2.0g/mol)、35%SBS85.7g(対単量体投入量に換算すると6.0g/mol)をそれぞれ別個の滴下ノズルより滴下した。それぞれの滴下時間は、80%AA、37%SA、35%SBSを300分間、15%NaPSを310分間とした。ただし、35%SBSは重合開始から10分間に7.1g(対単量体投入量に換算すると0.5g/mol)を滴下し、残りの290分間に78.6g(対単量体投入量に換算すると5.5g/mol)を滴下した。また、重合温度については、30℃から重合を開始した後、毎分1℃ずつ昇温し、重合開始60分後以降は90℃一定とした。また、それぞれの滴下時間の間、各成分の滴下速度は一定とし、連続的に滴下したが、ただし、35%SBSは、重合開始から10分間までの滴下速度(一定)と残りの290分間の滴下速度(一定)は異なる。
【0273】
滴下終了後、さらに30分間に渡って反応溶液を90℃に保持して熟成し重合を完結せしめた。重合の完結後、反応溶液を放冷し、48%NaOH366.7g(すなわち4.40mol)を攪拌下、反応溶液に徐々に滴下して中和した。このようにして、固形分濃度が45質量%、最終中和度が93mol%のポリアクリル酸ナトリウムを含む水溶液(以下、重合体(19)とする)を得た。重合処方を下記表4にまとめた。
【0274】
得られた重合体(19)を用いて、その分子量、S値、R値、Q値、鉄イオン濃度、カルシウム捕捉能、ガス量および低温析出量を測定した結果を下記表11に示す。
【0275】
実施例20
実施例19と同様に重合した。重合処方を下記表4にまとめた。
【0276】
得られた重合体(20)を用いて、その分子量、S値、R値、Q値、鉄イオン濃度およびカルシウム捕捉能を測定した結果を下記表11に示す。
【0277】
実施例21
還流冷却器、攪拌機を備えた容量2.5リットルのSUS製セパラブルフラスコに、純水154.0gを仕込み(初期仕込)、攪拌下、窒素を1リットル/minで30分間に渡って吹き込んだ後、30℃まで昇温した。次いで攪拌下、この重合反応系中に80%AA427.5g(すなわち4.75mol)、37%SA63.5g(すなわち0.25mol)、15%NaPS66.7g(対単量体投入量に換算すると2.0g/mol)、35%SBS78.6g(対単量体投入量に換算すると5.5g/mol)をそれぞれ別個の滴下ノズルより滴下した。それぞれの滴下時間は、80%AA、37%SA、35%SBSを300分間、15%NaPSを310分間とした。ただし、35%SBSは重合開始から10分間に7.1g(対単量体投入量に換算すると0.5g/mol)を滴下し、残りの290分間に71.5g(対単量体投入量に換算すると5.0g/mol)を滴下した。また、重合温度については、30℃から重合を開始した後、毎分0.5℃ずつ昇温し、重合開始120分後以降は90℃一定とした。
【0278】
滴下終了後、さらに30分間に渡って反応溶液を90℃に保持して重合を完結せしめた。重合の完結後、反応溶液を放冷し、48%NaOH366.7g(すなわち4.40mol)を攪拌下、反応溶液に徐々に滴下して中和した。このようにして、固形分濃度が45質量%、最終中和度が93mol%のポリアクリル酸ナトリウムを含む水溶液(以下、重合体(21)とする)を得た。重合処方を下記表4にまとめた。
【0279】
得られた重合体(21)のS値、R値、Q値、カルシウム捕捉能、ガス量および低温析出量を測定した結果を下記表11に示す。
【0280】
実施例22
還流冷却器、攪拌機を備えた容量2.5リットルのSUS製セパラブルフラスコに、純水156.5gを仕込み(初期仕込)、攪拌下、90℃まで昇温した。次いで攪拌下、約90℃一定状態の重合反応系中に80%AA427.5g(すなわち4.75mol)、37%SA63.5g(すなわち0.25mol)、15%NaPS66.7g(対単量体投入量に換算すると2.0g/mol)、35%SBS71.4g(対単量体投入量に換算すると5.0g/mol)をそれぞれ別個の滴下ノズルより滴下した。それぞれの滴下時間は、80%AA、37%SA、35%SBSを240分間、15%NaPSを250分間とした。
【0281】
滴下終了後、さらに30分間に渡って反応溶液を90℃に保持して重合を完結せしめた。重合の完結後、窒素を1リットル/minで30分間に渡って吹き込み、亜硫酸ガスを系外へ排出したのち、反応溶液を放冷した。このようにして、固形分濃度53質量%、最終中和度が5mol%のポリアクリル酸ナトリウムを含む水溶液(以下、重合体(22)とする)を得た。重合処方を下記表5にまとめた。
【0282】
得られた重合体(22)のS値、R値、Q値、および鉄イオン濃度、カルシウム捕捉能、ガス量および低温析出量を測定した結果を下記表11に示す。
【0283】
実施例23
還流冷却器、攪拌機を備えた容量2.5リットルのSUS製セパラブルフラスコに、純水156.5gを仕込み(初期仕込)、攪拌下、90℃まで昇温した。次いで攪拌下、約90℃一定状態の重合反応系中に80%AA427.5g(すなわち4.75mol)、37%SA63.5g(すなわち0.25mol)、15%NaPS66.7g(対単量体投入量に換算すると2.0g/mol)、35%SBS71.4g(対単量体投入量に換算すると5.0g/mol)をそれぞれ別個の滴下ノズルより滴下した。それぞれの滴下時間は、80%AA、37%SA、35%SBSを240分間、15%NaPSを250分間とした。
【0284】
滴下終了後、さらに30分間に渡って反応溶液を90℃に保持して重合を完結せしめた。重合の完結後、反応溶液を放冷し、亜硫酸分を定量したところ1.2gであったので、これを減らすために35%過酸化水素水(以下、35%Hと略す)1.1g(亜硫酸分と等mol)を添加した。このようにして、固形分濃度53質量%、最終中和度が5mol%のポリアクリル酸ナトリウムを含む水溶液(以下、重合体(23)とする)を得た。重合処方を下記表5にまとめた。
【0285】
得られた重合体(23)のS値、R値、Q値、および鉄イオン濃度、カルシウム捕捉能、ガス量および低温析出量を測定した結果を下記表11に示す。
【0286】
実施例24
還流冷却器、攪拌機を備えた容量2.5リットルのSUS製セパラブルフラスコに、純水156.5gを仕込み(初期仕込)、攪拌下、90℃まで昇温した。次いで攪拌下、約90℃一定状態の重合反応系中に80%AA427.5g(すなわち4.75mol)、37%SA63.5g(すなわち0.25mol)、15%NaPS66.7g(対単量体投入量に換算すると2.0g/mol)、35%SBS71.4g(対単量体投入量に換算すると5.0g/mol)をそれぞれ別個の滴下ノズルより滴下した。それぞれの滴下時間は、80%AA、37%SA、35%SBSを240分間、15%NaPSを250分間とした。
【0287】
滴下終了後、さらに30分間に渡って反応溶液を90℃に保持して重合を完結せしめた。重合の完結後、反応溶液を放冷し、48%NaOH366.7g(すなわち4.40mol)を攪拌下、反応溶液に徐々に滴下して中和した。ここで亜硫酸分を定量したところ1.8gであったので、これを減らすために35%過酸化水素水(以下、35%Hと略す)1.7g(亜硫酸分と等mol)を添加した。このようにして、固形分濃度45質量%、最終中和度93mol%のポリアクリル酸ナトリウムを含む水溶液(以下、重合体(24)とする)を得た。重合処方を下記表5にまとめた。
【0288】
得られた重合体(24)のS値、R値、Q値、および鉄イオン濃度、カルシウム捕捉能、ガス量および低温析出量を測定した結果を下記表11に示す。
【0289】
【表4】
Figure 2004075971
【0290】
【表5】
Figure 2004075971
【0291】
実施例25
還流冷却管、攪拌機を備えた容量2.5LのSUS316製セパラブルフラスコに純水185g、無水マレイン酸(以下無水MAと略す)116g(1mol)、48%水酸化ナトリウム水溶液(以下48%NaOHと略す)16.7g(0.2mol)を仕込み、攪拌下90℃に昇温した後、80%アクリル酸水溶液(以下80%AAと略す)360g(4mol)、48%NaOH33.3g(0.4mol)、15%過硫酸ナトリウム水溶液(以下15%NaPSと略す)133.3g(対単量体投入量に換算すると4g/mol)、35%重亜硫酸ナトリウム水溶液(以下35%SBSと略す)114.3g(対単量体投入量に換算すると8g/mol)をそれぞれ別の滴下口より滴下した。それぞれの滴下時間は、80%AAが180分間、48%NaOHが180分間、15%NaPSが185分間、そして35%SBSが175分間とした。なお、滴下開始はすべて同時とした。この間、温度は90℃を維持した。さらに同温度を80%AA滴下終了後30分間にわたって維持して熟成を行い重合を完結した。重合の完結後、反応溶液を放冷してから、48%NaOH375g(4.5mol)を加えて中和した。このようにして、固形分濃度45質量%、最終中和度85mol%のアクリル酸/マレイン酸共重合体(25)を得た。重合処方と分子量を表6にまとめた。
【0292】
実施例26
重合処方を表6に示すように変化させた以外は、実施例25と同様に重合して、アクリル酸/マレイン酸共重合体(26)を得た。重合処方と分子量を表6にまとめた。
【0293】
実施例27
還流冷却管、攪拌機を備えた容量2.5LのSUS316製セパラブルフラスコに純水222gを仕込み、攪拌下90℃に昇温した後、溶融させた無水MA116g(1mol)、80%AA360g(4mol)、48%NaOH50g(0.6mol)、15%NaPS133.3g(対単量体投入量に換算すると4g/mol)、35%SBS114.3g(対単量体投入量に換算すると8g/mol)をそれぞれ別の滴下口より滴下した。それぞれの滴下時間は、無水MAが180分間、80%AAが300分間、48%NaOHが300分間、15%NaPSが310分間、そして35%SBSが290分間とした。なお、滴下開始はすべて同時とした。この間、温度は90℃を維持した。さらに同温度を80%AA滴下終了後30分間にわたって維持して熟成を行い重合を完結した。重合の完結後、反応溶液を放冷してから、48%NaOH375g(4.5mol)を加えて中和した。このようにして、固形分濃度45質量%、最終中和度85mol%のアクリル酸/マレイン酸共重合体(27)を得た。重合処方と分子量を表6にまとめた。
【0294】
実施例28
還流冷却管、攪拌機を備えた容量2.5LのSUS316製セパラブルフラスコに純水208gを仕込み、攪拌下90℃に昇温した後、メタクリル酸(以下MAAと略す)129g(1.5mol)、80%AA315g(3.5mol)、48%NaOH20.8g(0.25mol)、15%NaPS100g(対単量体投入量に換算すると3g/mol)、35%SBS85.7g(対単量体投入量に換算すると6g/mol)をそれぞれ別の滴下口より滴下した。それぞれの滴下時間は、MAAが180分間、80%AAが180分間、48%NaOHが180分間、15%NaPSが185分間、そして35%SBSが175分間とした。なお、滴下開始はすべて同時とした。この間、温度は90℃を維持した。さらに同温度を80%AA滴下終了後30分間にわたって維持して熟成を行い重合を完結した。重合の完結後、反応溶液を放冷してから、48%NaOH375g(4.5mol)を加えて中和した。このようにして、固形分濃度45質量%、最終中和度95mol%のアクリル酸/メタクリル酸共重合体(28)を得た。重合処方と分子量を表7にまとめた。
【0295】
実施例29
還流冷却管、攪拌機を備えた容量2.5LのSUS316製セパラブルフラスコに純水114gを仕込み、攪拌下90℃に昇温した後、スチレン(以下Stと略す)20.8g(0.2mol)、80%AA342g(3.8mol)、48%NaOH15.8g(0.19mol)、15%NaPS106.7g(対単量体投入量に換算すると4g/mol)、35%SBS91.4g(対単量体投入量に換算すると8g/mol)、純水5.2gを滴下した。純水は80%AAと混合して滴下したが、それ以外はそれぞれ別の滴下口から滴下した。それぞれの滴下時間は、Stが150分間、80%AAと純水が180分間、48%NaOHが180分間、15%NaPSが190分間、そして35%SBSが180分間とした。なお、滴下開始はすべて同時とした。この間、温度は90℃を維持した。さらに同温度を80%AA滴下終了後30分間にわたって維持して熟成を行い重合を完結した。重合の完結後、反応溶液を放冷してから、48%NaOH285g(3.42mol)を加えて中和した。このようにして、固形分濃度45質量%、最終中和度95mol%のアクリル酸/スチレン共重合体(29)を得た。重合処方と分子量を表8にまとめた。
【0296】
実施例30
還流冷却管、攪拌機を備えた容量2.5LのSUS316製セパラブルフラスコに純水145gを仕込み、攪拌下90℃に昇温した後、アクリル酸メチル(以下AMと略す)43g(0.5mol)、80%AA405g(4.5mol)、48%NaOH18.8g(0.23mol)、15%NaPS133.3g(対単量体投入量に換算すると4g/mol)、35%SBS114.3g(対単量体投入量に換算すると8g/mol)、純水10.8gを滴下した。純水は80%AAと混合して滴下したが、それ以外はそれぞれ別の滴下口から滴下した。それぞれの滴下時間は、AMが180分間、80%AAと純水が180分間、48%NaOHが180分間、15%NaPSが185分間、そして35%SBSが175分間とした。なお、滴下開始はすべて同時とした。この間、温度は90℃を維持した。さらに同温度を80%AA滴下終了後30分間にわたって維持して熟成を行い重合を完結した。重合の完結後、反応溶液を放冷してから、48%NaOH337.5g(4.05mol)を加えて中和した。このようにして、固形分濃度45質量%、最終中和度95mol%のアクリル酸/アクリル酸メチル共重合体(30)を得た。重合処方と分子量を表9にまとめた。
【0297】
【表6】
Figure 2004075971
【0298】
【表7】
Figure 2004075971
【0299】
【表8】
Figure 2004075971
【0300】
【表9】
Figure 2004075971
【0301】
比較例1
還流冷却器、攪拌機を備えた容量5リットルのSUS製セパラブルフラスコに、純水350gを仕込み(初期仕込)、攪拌下、沸点まで昇温した。次いで攪拌下、沸点還流状態の重合反応系中に80%AA900g(10mol)、15%NaPS266.7g(対単量体投入量に換算すると4.0g/mol)、35%SBS228.6g(対単量体投入量に換算すると8.0g/mol)、48%NaOH83.3g(1mol)をそれぞれ別個の滴下ノズルより滴下した。それぞれの滴下時間は、80%AA,48%NaOHを180分間、15%NaPS,35%SBSを190分間とした。それぞれの滴下時間の間、各成分の滴下速度は一定とし、連続的に滴下した。
【0302】
滴下終了後、さらに30分間に渡って反応溶液を沸点に保持して熟成し重合を完結せしめた。重合の完結後、反応溶液を放冷し、48%NaOH225g(2.7mol)を攪拌下、反応溶液に徐々に滴下して中和した。このようにして、固形分濃度が45質量%、最終中和度が37mol%のポリアクリル酸ナトリウムを含む水溶液(以下、比較重合体(1)とする)を得た。重合処方を下記表10にまとめた。
【0303】
得られた比較重合体(1)を用いて、その分子量、S値、R値、Q値、鉄イオン濃度、カルシウム捕捉能、ガス量および低温析出量を測定した結果を下記表11に示す。
【0304】
比較例2
還流冷却器、攪拌機を備えた容量5リットルのSUS製セパラブルフラスコに、純水150gを仕込み(初期仕込)、攪拌下、沸点まで昇温した。次いで攪拌下、沸点還流状態の重合反応系中に80%AA900g(10mol)、15%NaPS266.7g(対単量体投入量に換算すると4.0g/mol)、35%SBS228.6g(対単量体投入量に換算すると8.0g/mol)、純水11.4gをそれぞれ別個の滴下ノズルより、いずれも120分間に渡って滴下した。それぞれの滴下時間の間、各成分の滴下速度は一定とし、連続的に滴下した。
【0305】
滴下終了後、さらに30分間に渡って反応溶液を沸点に保持して熟成し重合を完結せしめた。重合の完結後、反応溶液を放冷し、48%NaOH750g(9.0mol)を攪拌下、反応溶液に徐々に滴下して中和した。このようにして、固形分濃度が45質量%、最終中和度が90mol%のポリアクリル酸ナトリウムを含む水溶液(以下、比較重合体(2)とする)を得た。重合処方を下記表10にまとめた。
【0306】
得られた比較重合体(2)を用いて、その分子量、S値、R値、Q値、鉄イオン濃度、カルシウム捕捉能、ガス量および低温析出量を測定した結果を下記表11に示す。
【0307】
比較例3
還流冷却器、攪拌機を備えた容量2.5リットルのSUS製セパラブルフラスコに、純水133.5gを仕込み(初期仕込)、攪拌下、沸点まで昇温した。次いで攪拌下、沸点還流状態の重合反応系中に80%AA405.0g(4.50mol)、37%SA127.0g(0.50mol)、15%NaPS66.7g(対単量体投入量に換算すると2.0g/mol)、35%SBS85.7g(対単量体投入量に換算すると6.0g/mol)をそれぞれ別個の滴下ノズルより滴下した。それぞれの滴下時間は、80%AA,37%SA,35%SBSを240分間、15%NaPSを250分間とした。
【0308】
滴下終了後、さらに30分間に渡って反応溶液を沸点に保持して熟成し重合を完結せしめた。重合の完結後、反応溶液を放冷し、48%NaOH345.8g(4.15mol)を攪拌下、反応溶液に徐々に滴下して中和した。このようにして、固形分濃度が45質量%、最終中和度が93mol%のポリアクリル酸ナトリウムを含む水溶液(以下、比較重合体(3)とする)を得た。重合処方を下記表10にまとめた。
【0309】
得られた比較重合体(3)を用いて、その分子量、S値、R値、Q値、鉄イオン濃度、カルシウム捕捉能、ガス量および低温析出量を測定した結果を下記表11に示す。
【0310】
比較例4
還流冷却器、攪拌機を備えた容量2.5リットルのSUS製セパラブルフラスコに、純水635.3gを仕込み(初期仕込)、攪拌下、沸点まで昇温した。次いで攪拌下、沸点還流状態の重合反応系中に37%SA762.5g(3.0mol)、15%NaPS24.0g(対単量体投入量に換算すると1.2g/mol)、純水82.3gをそれぞれ別個の滴下ノズルより滴下した。それぞれの滴下時間は、37%SAを200分間、15%NaPS、純水を205分間とした。
【0311】
滴下終了後、さらに30分間に渡って反応溶液を沸点に保持して熟成し重合を完結せしめた。重合の完結後、反応溶液を放冷した。このようにして、固形分濃度が20質量%、最終中和度が100mol%のポリアクリル酸ナトリウムを含む水溶液(以下、比較重合体(4)とする)を得た。重合処方を下記表10にまとめた。
【0312】
得られた比較重合体(4)を用いて、その分子量、S値、R値、Q値、鉄イオン濃度、カルシウム捕捉能、ガス量および低温析出量を測定した結果を下記表11に示す。
【0313】
【表10】
Figure 2004075971
【0314】
【表11】
Figure 2004075971
【0315】
上記表11中のCa捕捉能は、分子量が大きくなるほど高くなる傾向があるため、性能比較をするときは、ほぼ同じ分子量同士で比較する必要がある。表11に示す結果では、例えば、重合体(20)と比較重合体(1)は、ほぼ同様の分子量であるが、Ca捕捉能は重合体(20)が252、比較重合体(1)が231と明らかに重合体(20)が優れていることがわかる。また、重合体(16)などは分子量が比較重合体(1)に比べてかなり小さいのにも関わらず、Ca捕捉能が優れていることも注目に値する。
【0316】
なお、耐ゲル能Q値が、比較重合体(1)〜(2)に比べ大きくなっている(つまり、耐ゲル能が低下している)のは、以下のような理由によるものと考えられる。
【0317】
耐ゲル能は、その評価の性質上、重合体濃度が高いほど低下する傾向がある。したがって、不純物を大幅に低減することに成功した本発明の実施例の重合体では、不純物を多く含む(この点は、低温析出量、S量およびCa捕捉能を参照のこと)比較重合体(1)〜(2)に比べると、どうしても耐ゲル能は悪く出てしまう。したがって、本発明の重合体そのものの耐ゲル能が低下しているわけではない。
【0318】
<不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体について>
本発明にかかる不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体についての、(2−1)ポリマーに含まれるS量、全S量およびこれらを測定するのに用いる透析法、(2−2)重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)、(2−3)耐ゲル能を求めるのに用いるゲル化度、(2−4)色相(b値)、(2−5)Ca補足能、(2−6)クレー分散能、および(2−7)液体洗剤への相溶性は、以下に示す方法により測定または定量した。
【0319】
これらのうち、(2−1)および(2−3)については、上述の(メタ)アクリル酸系重合体についての実施例で用いた方法に準じて評価した。つまり、(メタ)アクリル酸系重合体が不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体である以外は、(1−1)および(1−3)と同様である。
【0320】
(2)重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)の測定
不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、共にGPC(ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー)により測定した。測定条件、装置などは以下の通りである。
装置:日立社製L−7000シリーズ
検出器:RI
カラム:SHODEX社製 SB−G、SB−804、SB−803、SB−802.5
カラム温度:40℃
検量線:創和科学株式会社製 POLYACRYLIC ACID STANDARD
GPCソフト:日本分光社製BORWIN
溶離液:0.1Mリン酸バッファー(pH8.0)/アセトニトリル=9/1(重量比)
(4)色相(b値)
重合体または重合体水溶液を純水で希釈、または濃縮し、重合体濃度が40質量%になるように調整する。日本電色工業社製測色色差計ND−1001DPを用い、調整した水溶液の透過測定を行うことにより、Lab値のb値を測定した。b値は、正の数の方向で、大きいほど水溶液の黄色が濃くなる。
【0321】
(5)Ca捕捉能の測定
検量線用カルシウムイオン標準液として、塩化カルシウム2水和物を用いて、0.01mol/l、0.001mol/l、0.0001mol/lの水溶液を50g調製し、4.8%NaOH水溶液でpH9〜11の範囲に調製し、更に4mol/lの塩化カリウム水溶液(以下4M−KCl水溶液と略す)を1ml添加し、更にマグネチックスターラーを用いて十分に攪拌して検量線用サンプル液を作製した。また、試験用カルシウムイオン標準液として、同じく塩化カルシウム2水和物を用いて、0.001mol/lの水溶液を必要量(1サンプルにつき50g)調製した。
【0322】
次いで、100ccビーカーに試験サンプル(重合体)を固形分換算で10mg秤量し、上記の試験用カルシウムイオン標準液50gを添加し、マグネチックスターラーを用いて十分に攪拌した。更に、検量線用サンプルと同様に、4.8%NaOH水溶液でpH9〜11の範囲に調製し、4M―KCl水溶液を1ml添加して、試験用サンプル液を作製した。
【0323】
この様にして、作製した検量線用サンプル液、試験用サンプル液を平沼産業株式会社製滴定装置COMTITE−550を用いて、オリオン社製カルシウムイオン電極93−20、比較電極90−01により測定を行なった。
【0324】
検量線及び試験用のサンプル液の測定値より、サンプル(重合体)が捕捉したカルシウムイオン量を計算により求め、その値を重合体固形分1gあたりの捕捉量を炭酸カルシウム換算のmg数で表し、この値をカルシウムイオン捕捉能値とした。
【0325】
(6)クレイ分散性
グリシン67.56g、塩化ナトリウム52.6g、NaOH2.4gに純水を加え、600gとした(これをバッファーAとする)。バッファーA60gに塩化カルシウム二水和物0.3268gを加え、更に純水を加え、1000gとした(これをバッファーBとする)。測定対象の共重合体の0.1重量%水溶液(固形分重量換算)4gに、バッファーBを36g加え、攪拌し分散液とした。試験管(IWAKI GLASS製:直径18mm、高さ180mm)にクレー(社団法人日本粉体工業技術協会製、試験用ダスト8種)0.3gを入れた後、上記の分散液を30g加え、密封する。
【0326】
試験管を振り、クレーを均一に分散させた。その後、試験管を暗所に20時間静置した。20時間後、分散液の上澄みを5cc取り、UV分光器(島津製作所、UV−1200;1cmセル、波長380nm)で吸光度を測定した。この値が大きいほど、クレイ分散性が高いことを示す。
【0327】
(7)液体洗剤に対する相溶性
下記実施例で得られた新規共重合体を含む洗剤について、液体洗剤に対する相溶性の評価を行った。
【0328】
すなわち、実施例で得られた新規共重合体及び以下の成分を用いて各種洗剤を調整した。各成分が均一になる様に充分に攪拌し、25℃での濁度値を測定した。濁度値は、日本電色株式会社製NDH2000(濁度計)を用いてTurbidity(カオリン濁度mg/l)を測定した。
評価結果は次の3段階を基準とした。
【0329】
○:濁度値(0〜50(mg/l))、目視で分離、沈殿又は白濁していない。
【0330】
△:濁度値(50〜200(mg/l))、目視で僅かに白濁している。
【0331】
×:濁度値(200(mg/l)以上)、目視で白濁している。
洗剤配合:
SFT−70H(ソフタノール70H、日本触媒社製、ポリオキシエチレンアルキルエーテル);11g
ネオペレックスF−65(花王株式会社製、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム);32g
ジエタノールアミン;10g
エタノール;5g
プロピレングリコール;15g
実施例で得られた新規共重合体および比較重合体;1.5g
純水;バランス
実施例31
還流冷却器、攪拌機を備えた容量2.5リットルのSUS製セパラブルフラスコに、純水145.0gを仕込み(初期仕込)、攪拌下、90℃まで昇温した。
【0332】
次いで攪拌下、約90℃一定状態の重合反応系中に80%アクリル酸水溶液(以下、80%AAと略す)180.0g(2.00mol)、48%水酸化ナトリウム(以下、48%NaOHと称す)8.33g(0.10mol)、80%3−メチル−3−ブテン−1−オールにエチレンオキサイドを10mol付加した不飽和アルコール(以下80%IPN−10と称す)328.8g(0.50mol)、15%過硫酸ナトリウム水溶液(以下15%NaPSと略す)66.7g(対単量体投入量(ここで、単量体投入量とは、単量体の全ての投入量をいう。以下同様とする。)に換算すると4.0g/mol)、35%重亜硫酸ナトリウム水溶液(以下、35%SBSと略す)57.1g(対単量体投入量に換算すると8.0g/mol)、純水100gをそれぞれ別個の滴下ノズルより滴下した。それぞれの滴下時間は、80%AA、48%NaOHを180分間、80%IPN−10を170分間、35%SBSを175分間、15%NaPS、純水を210分間とした。また、それぞれの滴下時間の間、各成分の滴下速度は一定とし、連続的に滴下した。
【0333】
滴下終了後、さらに30分間に渡って反応溶液を90℃に保持して熟成し重合を完結せしめた。重合の完結後、反応溶液を放冷し、48%水酸化ナトリウム水溶液75.0g(すなわち0.90mol)を攪拌下、反応溶液に徐々に滴下して中和した。このようにして、固形分濃度が45質量%、最終中和度が50mol%の不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体(以下、重合体(31)とする)を得た。重合処方を下記表12にまとめた。
【0334】
得られた重合体(31)を用いて、その分子量、S値、b値、q値またはQ値、カルシウム捕捉能、クレー分散能、および液体洗剤への相溶性を測定した。結果を下記表18、20に示す。
【0335】
実施例32〜39
実施例31と同様に重合した。重合処方を下記表12および表13にまとめた。
【0336】
得られた重合体(32)〜(39)を用いて、それぞれ分子量、S値、b値、q値またはQ値、カルシウム捕捉能、クレー分散能、および液体洗剤への相溶性を測定した。結果を下記表18、20に示す。
【0337】
【表12】
Figure 2004075971
【0338】
【表13】
Figure 2004075971
【0339】
実施例40〜42
80%IPN−10の代わりに50%3−メチル−3−ブテン−1−オールにエチレンオキサイドを50mol付加した不飽和アルコール(以下50%IPN−50と称す)を使用する以外は、実施例31と同様に重合した。重合処方を下記表14にまとめた。
【0340】
得られた重合体(40)〜(42)を用いて、それぞれの分子量、S値、b値、q値またはQ値、カルシウム捕捉能、クレー分散能、および液体洗剤への相溶性を測定した。結果を下記表18、20に示す。
【0341】
【表14】
Figure 2004075971
【0342】
実施例43
80%IPN−10の代わりに80%アリルアルコールにエチレンオキサイドを5mol付加した不飽和アルコール(以下80%PEA−5と称す)を使用する以外は、実施例31と同様に重合した。重合処方を下記表15にまとめた。
【0343】
得られた重合体(43)を用いて、その分子量、S値、b値、q値またはQ値、カルシウム捕捉能、クレー分散能、および液体洗剤への相溶性を測定した。結果を下記表18、20に示す。
【0344】
【表15】
Figure 2004075971
【0345】
実施例44
3種類目の単量体成分として無水マレイン酸(以下100%MAと称す)を使用する以外は、実施例31と同様に重合した。重合処方を下記表16にまとめた。
【0346】
得られた重合体(44)を用いて、その分子量、S値、b値、q値またはQ値、カルシウム捕捉能、クレー分散能、および液体洗剤への相溶性を測定した。結果を下記表18、20に示す。
【0347】
【表16】
Figure 2004075971
【0348】
実施例45
3種類目の単量体成分として100%メタクリル酸(以下100%MAAと称す)を使用する以外は、実施例31と同様に重合した。重合処方を下記表17にまとめた。
【0349】
得られた重合体(45)を用いて、その分子量、S値、b値、q値またはQ値、カルシウム捕捉能、クレー分散能、および液体洗剤への相溶性を測定した。結果を下記表18、20に示す。
【0350】
【表17】
Figure 2004075971
【0351】
比較例5
攪拌機、冷却管、温度計、窒素導入管、滴下ロートを備えた、1000mlセパラブルフラスコに、63.87重量%のIPN−10水溶液200gを仕込み窒素置換後、攪拌しながら65℃まで昇温した。所定の温度になった時点で30重量%の過酸化水素水1.58gを一括で投入した。その後、100重量%のアクリル酸32.61g、2.1重量%のL−アスコルビン酸水溶液29.29g、3重量%メルカプトプロピオン酸水溶液17.22gをそれぞれ滴下した。ただし、アクリル酸モノマーとメルカプトプロピオン酸は、60分かけての滴下で、L−アスコルビン酸は90分かけて滴下した。L−アスコルビン酸水溶液の滴下終了後、同温度で120分間熟成し重合を完結させ、比較重合体(5)を得た。
【0352】
得られた比較重合体(5)を用いて、その分子量、S値、b値、Q値、カルシウム捕捉能、クレー分散能、および液体洗剤への相溶性を測定した。結果を下記表18、19に示す。
【0353】
比較例6
攪拌機、冷却管、温度計、窒素導入管、滴下ロートを備えた、500mlセパラブルフラスコに、純水167.24gを仕込み窒素置換後、攪拌しながら95℃まで昇温した。所定の温度になった時点で3重量%の過硫酸アンモニウム水溶液28.9g、50重量%のIPN−25水溶液82.67g、80%アクリル酸水溶液8.25gと40%アクリル酸アンモニウム48.75g混合した水溶液をそれぞれ滴下した。ただし、IPN−25とアクリル酸モノマーは、120分かけての滴下で、過硫酸アンモニウム水溶液は150分かけて滴下した。IPN−25とアクリル酸モノマーの滴下終了後、同温度で30分間熟成し重合を完結させ、重合後、28%アンモニア水1.5g加えることで、比較重合体(6)を得た。
【0354】
得られた比較重合体(6)を用いて、その分子量、S値、b値、Q値、カルシウム捕捉能、クレー分散能、および液体洗剤への相溶性を測定した。結果を下記表18、19に示す。
【0355】
比較例7
攪拌機、冷却管、温度計、窒素導入管、滴下ロートを備えた、500mlセパラブルフラスコに、純水174.2gを仕込み窒素置換後、攪拌しながら100℃まで昇温した。所定の温度になった時点で3重量%の過硫酸ナトリウム水溶液32.5g、50重量%のIPN−10水溶液82.67g、80%アクリル酸水溶液8.25gと37%アクリル酸ナトリウム56.2g混合した水溶液をそれぞれ滴下した。ただし、IPN−10とアクリル酸モノマーは、120分かけての滴下で、過硫酸ナトリウム水溶液は150分かけて滴下した。IPN−10とアクリル酸モノマーの滴下終了後、同温度で30分間熟成し重合を完結させ、重合後、48%水酸化ナトリウム7.43g加えることで、比較重合体(7)を得た。
【0356】
得られた比較重合体(7)を用いて、その分子量、S値、b値、Q値、カルシウム捕捉能、クレー分散能、および液体洗剤への相溶性を測定した。結果を下記表18、19に示す。
【0357】
比較例8
攪拌機、冷却管、温度計、窒素導入管、滴下ロートを備えた、1000mlセパラブルフラスコに、純水312.9gを仕込み窒素置換後、攪拌しながら100℃まで昇温した。所定の温度になった時点で10重量%の過硫酸ナトリウム水溶液68.9g、80重量%のIPN−10水溶液32.5g、80%アクリル酸水溶液15.6gと37%アクリル酸ナトリウム332.1g混合した水溶液をそれぞれ滴下した。ただし、IPN−10とアクリル酸モノマーは、120分かけての滴下で、過硫酸ナトリウム水溶液は150分かけて滴下した。IPN−10とアクリル酸モノマーの滴下終了後、同温度で30分間熟成し重合を完結させ、比較重合体(8)を得た。
【0358】
得られた比較重合体(8)を用いて、その分子量、S値、b値、Q値、カルシウム捕捉能、クレー分散能、および液体洗剤への相溶性を測定した。結果を下記表18、19に示す。
【0359】
【表18】
Figure 2004075971
【0360】
【表19】
Figure 2004075971
【0361】
【表20】
Figure 2004075971
【0362】
【発明の効果】
本発明の(メタ)アクリル酸系重合体は、従来の耐ゲル性を有する重合体に比べて分子量が比較的大きても、高いキレート能および分散能に加え、従来の重合体以上に良好な耐ゲル性を示す。とりわけ、上記に規定する硫黄元素導入量S値、さらには上記R値、鉄イオン濃度、耐ゲル能Q値を満足することにより、不純物量を格段に低減できる。該重合体は、性能低下や低温保持時の不純物析出などの問題もない、高品質で保存安定性に優れた重合体である。そのため、分散剤、スケール防止剤、および洗剤ビルダーなどの用途に好適に用いることができる。その上、従来の重合体よりもコスト的に非常に有利である。
【0363】
本発明の(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法では、従来よりも高濃度の条件下で、低分子量の重合体を効率よく製造することができる。また、低温での重合を長持間にわたって行うことで排出亜硫酸ガスを低減できる。さらに、開始剤量を減らす(好ましくは重合中の中和度についても低くする)ことで不純物を低減できる。これらの方法によって、性能が格段に向上した(メタ)アクリル系重合体を製造することができる。また、製造された(メタ)アクリル系重合体は、性能低下や低温保持時の不純物析出もない。また、製造段階で付与された高い性能を保存環境に左右されることなく常に安定して保持することができる(すなわち、本来持っていた性能を低下させることなく十分に発現し得る)。
【0364】
一見生産性に劣ると思われる低温重合にて開始剤系を非常に良好に機能させることができるため、重合反応系に過剰な開始剤を添加する必要がない。したがって、排出亜硫酸ガスおよび不純物を低減した上で、重合体の製造コストの上昇を抑制し、製造効率を向上させることができる。
【0365】
また、本発明の方法によって、硫黄元素導入量S値、上記R値、鉄イオン濃度、耐ゲル能Q値、さらには重量平均分子量が所定の範囲内である(メタ)アクリル酸系重合体が得られる。該重合体は、分散能、キレート能、および耐ゲル性といった各種性能が最も効果的に発現する。しかも、このような重合体を、開始剤を増量させることなく高濃度かつ一段で重合することができる。そのため、濃縮工程を省略するなど生産性を大幅に向上させ、製造コストの上昇を効果的に抑制することができる。
【0366】
また、本発明の洗剤は、上記(メタ)アクリル酸系重合体を含有する。このため、分散能、キレート能および耐ゲル性を兼ね備えた高性能洗浄ビルダーとなる。また、経時的な性能低下や低温保持時の不純物析出もなく、製造段階で付与された高い性能を保存環境に左右されることなく常に安定して保持する。したがって、洗剤の高品質高性能化に大いに寄与し得る。
【0367】
本発明の不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体は、高いキレート能および分散能に加え、従来の重合体以上に良好な耐ゲル性を示す。とりわけ、上記に規定する硫黄元素導入量S値を満足することにより、不純物量を格段に低減できる。該重合体は、性能低下や低温保持時の不純物析出などの問題もない、高品質で保存安定性に優れた重合体である。そのため、分散剤、スケール防止剤、洗剤ビルダー、およびセメント添加剤などの用途に好適に用いることができる。その上、従来の重合体よりもコスト的に非常に有利である。
【0368】
本発明の不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体の製造方法では、従来よりも高濃度の条件下で、低分子量の重合体を効率よく製造することができる。また、低温での重合を長持間にわたって行うことで排出亜硫酸ガスを低減できる。さらに、開始剤量を減らす(好ましくは重合中の中和度についても低くする)ことで不純物を低減できる。これらの方法によって、性能を格段に向上した不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体を製造することができる。また、製造された不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体は、性能低下や低温保持時の不純物析出もない。また、製造段階で付与された高い性能を保存環境に左右されることなく常に安定して保持することができる(すなわち、本来持っていた性能を低下させることなく十分に発現し得る)。
【0369】
一見生産性に劣ると思われる低温重合にて開始剤系を非常に良好に機能させることができるため、重合反応系に過剰な開始剤を添加する必要がない。したがって、排出亜硫酸ガスおよび不純物を低減した上で、重合体の製造コストの上昇を抑制し、製造効率を向上させることができる。
【0370】
また、本発明の方法によって、硫黄元素導入量S値、さらには重量平均分子量が所定の範囲である不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体が得られる。該重合体は、分散能、キレート能、および耐ゲル性といった各種性能を最も効果的に発揮する。しかも、このような重合体を、開始剤を増量させることなく高濃度かつ一段で重合することができる。そのため、濃縮工程を省略するなど生産性を大幅に向上させ、製造コストの上昇を効果的に抑制することができる。
【0371】
また、本発明の洗剤は、上記不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体を含有する。このため、分散能、キレート能および耐ゲル性を兼ね備えた高性能洗浄ビルダーとなる。また、経時的な性能低下や低温保持時の不純物析出もなく、製造段階で付与された高い性能を保存環境に左右されることなく常に安定して保持する。したがって、洗剤の高品質高性能化に大いに寄与し得る。

Claims (17)

  1. S=(ポリマーに含まれるS量)/(全S量)×100で定義される硫黄元素導入量S値が35以上であることを特徴とする(メタ)アクリル酸系重合体。
  2. H−NMRスペクトルにおいて、R=(2.3〜4.3ppmのシグナルの積分比)/(PSAのシグナルを含む0.8〜4.3ppmの積分比)×100が1〜15であることを特徴とする請求項1に記載の(メタ)アクリル酸系重合体。
  3. 鉄イオン濃度が0.05〜10ppmであることを特徴とする請求項1または2に記載の(メタ)アクリル酸系重合体。
  4. Q=ゲル化度×10/重量平均分子量が3.0未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の(メタ)アクリル酸系重合体。
  5. 開始剤として、過硫酸塩および重亜硫酸塩をそれぞれ1種類以上組み合わせて用い、ここで、前記重亜硫酸塩は、前記過硫酸塩を1としたときに質量比で0.5〜5の範囲内で用いられ、重合反応系に添加される前記過硫酸塩および前記重亜硫酸塩の合計量が単量体1mol当たり2〜20gの範囲内であり、
    重合温度が25〜99℃の範囲内であることを特徴とする、(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法。
  6. 重合中の中和度が1〜25mol%の範囲内であることを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
  7. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の(メタ)アクリル酸系重合体を含有してなる洗剤ビルダー。
  8. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の(メタ)アクリル酸系重合体を含有してなる洗剤。
  9. (メタ)アクリル酸系単量体Aおよび不飽和ポリアルキレングリコール系単量体Bを共重合した共重合体であって、末端に硫黄酸素酸を持ち、S=(ポリマーに含まれるS量)/(全S量)×100で定義される硫黄元素導入量S値が3以上であることを特徴とする不飽和ポリアルキレングリコール系共重合体。
  10. さらに前記単量体AおよびBに共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体Cが共重合されてなることを特徴とする請求項9に記載の共重合体。
  11. 40質量%水溶液の色相(b値)が2以下であることを特徴とする請求項9または10に記載の共重合体。
  12. (メタ)アクリル酸系単量体Aと不飽和ポリアルキレングリコール系単量体Bとを共重合させる不飽和ポリアルキレングリコール系重合体の製造方法であって、
    開始剤として、過硫酸塩および重亜硫酸塩をそれぞれ1種類以上組み合わせて用いることを特徴とする製造方法。
  13. 前記亜硫酸塩は、前記過硫酸塩を1としたときに質量比で0.1〜10の範囲内で用いられ、重合反応系に添加される前記過硫酸および前記重亜硫酸塩の合計量が単量体1mol当たり1〜30gの範囲内であることを特徴とする請求項12に記載の製造方法。
  14. さらに前記単量体AおよびBに共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体Cが共重合されることを特徴とする請求項12または13に記載の製造方法。
  15. 重合温度が25〜99℃の範囲内である、請求項12〜14のいずれか1項に記載のに記載の製造方法。
  16. 請求項9〜11のいずれか1項に記載の重合体を含有してなる洗剤用ビルダー。
  17. 請求項9〜11のいずれか1項に記載の重合体を含有してなる洗剤。
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