JP2004067644A - 2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩及び2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドの製造法 - Google Patents
2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩及び2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドの製造法 Download PDFInfo
- Publication number
- JP2004067644A JP2004067644A JP2002232806A JP2002232806A JP2004067644A JP 2004067644 A JP2004067644 A JP 2004067644A JP 2002232806 A JP2002232806 A JP 2002232806A JP 2002232806 A JP2002232806 A JP 2002232806A JP 2004067644 A JP2004067644 A JP 2004067644A
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- acid
- tribromoacetylaminoisobutyric
- halide
- weight
- acid halide
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Pending
Links
Landscapes
- Organic Low-Molecular-Weight Compounds And Preparation Thereof (AREA)
Abstract
【課題】2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩を工業的に効率よく得る。
【解決手段】本発明の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩の製造法は、トリブロモ酢酸ハライドと2−アミノイソ酪酸とを、アルカリ金属含有塩基の存在下、系の液性をpH10〜pH14の範囲にコントロールしつつ反応させることを特徴とする。トリブロモ酢酸ハライドと2−アミノイソ酪酸との反応生成物を酸で処理して2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を生成させる工程を含んでいてもよい。この方法において、2−アミノイソ酪酸とアルカリ金属含有塩基とを含む水溶液中に、トリブロモ酢酸ハライドを含む溶液とアルカリ金属含有塩基を含む水溶液とを別々に添加してpHを調整しつつ、トリブロモ酢酸ハライドと2−アミノイソ酪酸とを反応させてもよい。
【選択図】 なし
【解決手段】本発明の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩の製造法は、トリブロモ酢酸ハライドと2−アミノイソ酪酸とを、アルカリ金属含有塩基の存在下、系の液性をpH10〜pH14の範囲にコントロールしつつ反応させることを特徴とする。トリブロモ酢酸ハライドと2−アミノイソ酪酸との反応生成物を酸で処理して2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を生成させる工程を含んでいてもよい。この方法において、2−アミノイソ酪酸とアルカリ金属含有塩基とを含む水溶液中に、トリブロモ酢酸ハライドを含む溶液とアルカリ金属含有塩基を含む水溶液とを別々に添加してpHを調整しつつ、トリブロモ酢酸ハライドと2−アミノイソ酪酸とを反応させてもよい。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、医薬、農薬、写真薬、感光剤等の精密化学品の合成中間体などとして有用な2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩及び2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライド、並びにこれらの製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、N−アシルアミノカルボン酸又はその塩、或いはN−アシルアミノカルボン酸ハライドを収率よく製造する方法は少なく、特に、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩、並びに2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを工業的に効率よく製造する方法は知られていない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩を工業的に効率よく得る方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、不純物含有量の少ない高純度の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩と、その製造法を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを工業的に効率よく得る方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、不純物含有量の少ない高純度の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドと、その製造法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意検討の結果、トリブロモ酢酸ハライドと2−アミノイソ酪酸とをアルカリ金属含有塩基の存在下、特定のpH範囲で反応させると、対応する2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩が収率よく得られると共に、高純度の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を取得できることを見出した。また、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸とハロゲン化剤とを特定条件下で反応させると、対応する2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドが収率よく生成すると共に、高純度の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を取得できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものである。
【0005】
すなわち、本発明は、トリブロモ酢酸ハライドと2−アミノイソ酪酸とを、アルカリ金属含有塩基の存在下、系の液性をpH10〜pH14の範囲にコントロールしつつ反応させることを特徴とする2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩の製造法を提供する。
【0006】
この製造法は、トリブロモ酢酸ハライドと2−アミノイソ酪酸との反応生成物を酸で処理して2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を生成させる工程を含んでいてもよい。
【0007】
前記製造法は、2−アミノイソ酪酸とアルカリ金属含有塩基とを含む水溶液中に、トリブロモ酢酸ハライドを含む溶液とアルカリ金属含有塩基を含む水溶液とを別々に添加してpHを調整しつつ、トリブロモ酢酸ハライドと2−アミノイソ酪酸とを反応させてもよい。この場合、トリブロモ酢酸ハライドと2−アミノイソ酪酸との反応工程において、用いる水の量の総和が、2−アミノイソ酪酸100重量部に対して500重量部以上であるのが好ましい。
【0008】
前記製造法において、トリブロモ酢酸ハライドとして、不純物としてのトリブロモ酢酸ハライドの脱臭素体の含有量が2重量%以下であるトリブロモ酢酸ハライドを用いることができる。
【0009】
前記製造法は、(i)生成した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を水、水溶性有機溶媒、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒、又は非極性溶媒と極性溶媒との混合溶媒を用いて晶析又は再結晶する工程、(ii)生成した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を水、水溶性有機溶媒、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒、又は非極性溶媒と極性溶媒との混合溶媒を用いてリパルプする工程、(iii)生成した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を共沸脱水処理に付す工程、及び(iv)生成した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を水と、水に対して分液可能な有機溶媒とを用いた抽出処理に付し、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を有機溶媒層に分配する工程から選択された少なくとも1つの工程を含んでいてもよい。
【0010】
本発明は、また、不純物としての脱臭素体の含有量が2重量%以下である2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩を提供する。
【0011】
本発明は、さらに、不純物としての2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸及びその塩の含有量が2重量%以下である2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩を提供する。
【0012】
本発明は、さらにまた、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸に、該2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸1モルに対して2モル以下のハロゲン化剤を反応させて、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを生成させることを特徴とする2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドの製造法を提供する。
【0013】
本発明は、また、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸とハロゲン化剤とを有機溶媒中で反応させて2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを生成させることを特徴とする2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドの製造法を提供する。
【0014】
本発明は、さらに、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸とハロゲン化剤とを反応温度を65℃以下にコントロールしつつ反応させて2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを生成させることを特徴とする2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドの製造法を提供する。
【0015】
これらの2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドの製造法においては、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸とハロゲン化剤との反応を触媒の存在下で行ってもよく、その際、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸と該触媒との接触は有機溶媒を介して行うのが好ましい。
【0016】
また、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸として、(i)共沸脱水処理を施した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の結晶、溶液又はスラリー、(ii)不純物としての2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の脱臭素体の含有量が2重量%以下の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸、又は(iii)不純物としての2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸の含有量が2重量%以下の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を用いるのが好ましい。
【0017】
さらに、上記各製造法は、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸とハロゲン化剤とを有機溶媒中で反応させて2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを生成させる反応工程と、反応混合物から有機溶媒を65℃以下の温度で留去し、蒸留残渣として2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを得る精製工程とを含んでいてもよい。
【0018】
本発明は、また、不純物としての脱臭素体の含有量が3重量%以下である2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを提供する。
【0019】
本発明は、さらに、不純物としての2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸ハライドの含有量が2重量%以下である2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを提供する。
【0020】
なお、本明細書において、脱臭素体とは、トリブロモ酢酸ハライド、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドのそれぞれについて、トリブロモアセチル基の臭素原子が1以上水素原子に置換した化合物を意味する。また、不純物としての…の含有量と言うときは、[該不純物の量/(該不純物の量+主化合物の量)]×100(重量%)を意味する。また、pHは当該反応温度でのpHを言う。
【0021】
【発明の実施の形態】
[2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩の製造]
本発明の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩の製造法では、下記式(1)で表されるトリブロモ酢酸ハライドと下記式(2)で表される2−アミノイソ酪酸とを塩基の存在下で反応させることにより、下記式(3)で表される2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩を製造する。なお、2−アミノイソ酪酸の塩(=2−アミノイソ酪酸と塩基との反応物に相当)を出発原料として用いる場合も本発明の製造法に含まれる。
【化1】
【化2】
【化3】
【0022】
式(1)中、Xはハロゲン原子を示す。該ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子などが挙げられる。
【0023】
本発明の方法において、反応は、通常、トリブロモ酢酸ハライドと2−アミノイソ酪酸とを塩基の存在下で反応させて2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の塩を生成させる工程(以下、第1工程と称する場合がある)と、該2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の塩を酸により遊離化して2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を生成させる工程(以下、第2工程と称する場合がある)とからなる。反応の雰囲気は特に限定されず、空気雰囲気下、不活性ガス雰囲気下の何れであってもよい。系内は湿気をできるだけ少なくしておくのが望ましく、反応は遮光下に行うのが好ましい。
【0024】
第1工程において、原料として用いるトリブロモ酢酸ハライドとしては如何なる製造法で製造されたものであってもよい。トリブロモ酢酸ハライドは、例えば、トリブロモ酢酸とハロゲン化剤とを反応させることにより得ることができる。この反応について、以下に説明する。
【0025】
トリブロモ酢酸とハロゲン化剤との反応は、溶媒の存在下又は非存在下の何れで行ってもよいが、反応収率及び副生物の抑制の点から、有機溶媒中で行うのが好ましい。また、トリブロモ酢酸としては、トリブロモ酢酸の脱臭素体(ジブロモ酢酸など)の含有量が0.5重量%以下のものを用いるのが好ましい。ハロゲン化剤としては後述のものが挙げられる。代表的なハロゲン化剤には、塩化チオニル、臭化チオニルなどのハロゲン化チオニルが含まれる。ハロゲン化剤の使用量は、トリブロモ酢酸1モルに対して、例えば0.9〜2モル、好ましくは0.9〜1.5モル程度である。有機溶媒としては、反応を損なわないものであればよく、例えば、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、トルエンなどの芳香族炭化水素、アセトニトリル等のニトリル、ジエチルエーテルやテトラヒドロフランなどのエーテルなどが挙げられる。有機溶媒の使用量は、トリブロモ酢酸100重量部に対して、通常50〜1000重量部、好ましくは100〜800重量部程度である。反応には、N,N−ジメチルホルムアミドなどの触媒を用いることもできる。触媒の使用量は、トリブロモ酢酸100重量部に対して、例えば0.001〜30重量部、好ましくは0.1〜10重量部程度である。反応温度は、通常10〜120℃、好ましくは40〜90℃、さらに好ましくは65〜80℃程度である。反応温度が高すぎると、トリブロモ酢酸ハライドの脱臭素体(ジブロモ酢酸ハライドなど)等の副生物が生成しやすくなる。反応終了後、反応で副生したハロゲン化水素及び二酸化硫黄、並びに反応溶媒を留去することにより、蒸留残渣としてトリブロモ酢酸ハライドを得ることができる。反応溶媒等を留去する際の温度(液温)は、好ましくは80℃以下、さらに好ましくは75℃以下である。この温度が高すぎると前記脱臭素体が副生しやすい。トリブロモ酢酸ハライドは、必要に応じて、蒸留等によりさらに精製してもよい。
【0026】
前記第1工程において、原料として用いるトリブロモ酢酸ハライドとしては、不純物としてのトリブロモ酢酸ハライドの脱臭素体の含有量が2重量%以下(特に、1.6重量%以下)であるトリブロモ酢酸ハライドを用いるのが好ましい。トリブロモ酢酸ハライドの脱臭素体の含有量の多いトリブロモ酢酸ハライドを用いると、対応する2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の脱臭素体が多く生成する。この脱臭素体は簡単な精製法では完全に除去することが困難である。そのため、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を用いて医薬品等の精密化学品に誘導する際、前記脱臭素体由来の不純物が製品の純度や性能に悪影響を及ぼす場合がある。
【0027】
もう一方の原料である2−アミノイソ酪酸としては、純度98重量%以上のもの(例えば、不純物として2−アミノイソ酪酸の2量体の含有量が2重量%以下のもの)を使用するのが好ましい。
【0028】
第1工程でのトリブロモ酢酸ハライドの使用量は、2−アミノイソ酪酸1モルに対して、通常0.5〜2.0モル、好ましくは0.8〜1.5モル、さらに好ましくは0.9〜1.3モル程度である。
【0029】
第1工程では塩基としてアルカリ金属含有塩基を用いるのが好適である。アルカリ金属含有塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩;ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属;水素化ナトリウム、水素化カリウムなどのアルカリ金属水素化物;ナトリウムアミド、カリウムアミドなどのアルカリ金属アミド;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド;酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどのアルカリ金属カルボン酸塩などが挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩などが好ましく、特に、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。
【0030】
塩基(アルカリ金属含有塩基)の使用量は、2−アミノイソ酪酸に対して、通常0.8〜1.5当量、好ましくは0.9〜1.2当量、さらに好ましくは0.95〜1.1当量程度である。
【0031】
第1工程においては、トリブロモ酢酸ハライドと2−アミノイソ酪酸とを、系(反応液)の液性をpH10〜pH14の範囲にコントロールしつつ反応させると、目的物が高い収率で生成する。系の液性は、より好ましくはpH11〜pH14、さらに好ましくはpH12〜pH13.5であり、特にpH12〜pH13の範囲にコントロールするのが好ましい。系の液性がpH10未満の場合には反応速度が遅くなるとともに、下記式(4)で表される2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸又はその塩が副生しやすくなる。この傾向は特にpH7以下で顕著である。また、pHが14を超えると反応に用いるトリブロモ酢酸ハライドが失活し、目的物の収率が大きく低下する。
【化4】
【0032】
なお、溶液のpHは一般に測定温度によって異なる。本反応系では、例えば、−3℃〜−5℃においてpH10、pH11、pH12、pH13及びpH14の溶液は、室温(20〜25℃)で測定すると、それぞれ、pH9、pH10、pH11、pH12及びpH13程度となる。
【0033】
トリブロモ酢酸ハライドと2−アミノイソ酪酸との反応は通常、溶媒中で行われる。溶媒としては、反応を損なわないものであれば特に限定されず、例えば、水;ペンタン、ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素;アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル;酢酸エチルなどのエステル;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサンなどの鎖状又は環状エーテル;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)などのアミド又はウレア系溶媒;スルホランなどのイオウ原子含有溶媒;これらの混合溶媒などが挙げられる。反応溶媒としては少なくとも水を用いるのが好ましい。反応は1層系、水層と有機層の2層系等の何れで行ってもよい。反応溶媒の使用量は、反応性や操作性等を考慮して適宜選択できる。
【0034】
トリブロモ酢酸ハライドと2−アミノイソ酪酸との反応の方式は、特に限定されないが、反応系の液性(pH)を前記所定の範囲内にコントロールできる方式(半回分式、連続式など)が好ましい。反応温度は、通常−20℃〜50℃程度、好ましくは−10℃〜40℃、さらに好ましくは−10℃〜15℃程度である。
【0035】
本発明の方法においては、例えば、2−アミノイソ酪酸とアルカリ金属含有塩基とを含むpH10〜pH14の水溶液中に、トリブロモ酢酸ハライドを含む溶液とアルカリ金属含有塩基を含む水溶液とを、系の液性がpH10〜pH14の範囲に保持されるように、別々に添加して反応を進行させてもよい。2−アミノイソ酪酸とアルカリ金属含有塩基とを含む水溶液中のアルカリ金属含有塩基の量は、2−アミノイソ酪酸に対して、好ましくは0.8〜1.2当量、さらに好ましくは0.9〜1.1当量程度である。なお、2−アミノイソ酪酸とアルカリ金属含有塩基とを含む水溶液には、別途調製した2−アミノイソ酪酸のアルカリ金属塩を水に溶解させた水溶液も含まれる。トリブロモ酢酸ハライドを含む溶液としては、トリブロモ酢酸ハライドのみでもよく、トリブロモ酢酸ハライドと溶媒の溶液であってもよい。後者の方が、反応温度や反応液のpHの調整が容易になるので好ましい。アルカリ金属含有塩基を含む水溶液中のアルカリ金属含有塩基の量は、反応系の液性(pH)を上記範囲に調整できる量であればよいが、好ましくは2−アミノイソ酪酸に対して1〜2当量、さらに好ましくは1.2〜1.8当量程度である。アルカリ金属含有塩基を含む水溶液中のアルカリ金属含有塩基の濃度は任意に選択できるが、1〜20重量%程度にすると、反応液のpHコントロールが容易である。
【0036】
この方法において、溶媒として用いる水の量の総和(2−アミノイソ酪酸とアルカリ金属含有塩基とを含む水溶液中の水、トリブロモ酢酸ハライドを含む溶液中の水、及びアルカリ金属含有塩基を含む水溶液中の水の合計量)が、2−アミノイソ酪酸100重量部に対して500重量部以上(例えば500〜8000重量部)、特に1000〜5000重量部程度であるのが望ましい。用いる水の量が少なすぎると、生成した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸のアルカリ金属塩が析出して攪拌が困難になる場合がある。水の使用量を上記範囲とすることで固体の析出を抑制でき、ハンドリング性が向上する。
【0037】
反応により、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸のアルカリ金属塩が生成し、副生物として、その脱臭素体、及び前記式(4)で表される2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸のアルカリ金属塩が生成しうる。原料トリブロモ酢酸ハライドとして、不純物としての脱臭素体の含有量が2重量%以下であるトリブロモ酢酸ハライドを用いることにより、前記脱臭素体の副生を抑制できる。また、第1工程における反応系の液性(pH)を上記範囲にコントロールすることにより、前記式(4)で表される2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸のアルカリ金属塩の副生を抑制できる。本発明の方法によれば、第1工程終了時点において、前記脱臭素体及び式(4)で表される2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸のアルカリ金属塩の副生率(2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸のアルカリ金属塩に対する割合)を、それぞれ、例えば4重量%以下、好ましくは2重量%以下にすることが可能である。
【0038】
第1工程で得られた反応液は遮光することにより長期間保存できる。保存する際の温度は室温以下が好ましい。遮光せずに長期間保存すると、脱臭素体の量が増大しやすくなる。
【0039】
第2工程では、第1工程で生成した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸のアルカリ金属塩を酸で処理して、式(3)で表される2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を生成させる。
【0040】
酸としては、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の塩を遊離化可能なものであれば特に限定されないが、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸が好ましく、特に塩酸が好適である。酸の使用量は、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の塩を遊離化するのに必要な量であればよく、使用したアルカリ金属含有塩基の量に応じて適宜選択できるが、通常、アルカリ金属含有塩基に対して、1.5〜5当量程度、好ましくは2〜4当量程度である。
【0041】
酸は、通常、第1工程の反応混合液、又はこれに希釈、濃縮、溶媒交換、分液等の処理を施した処理液に添加される。例えば、第1工程の反応混合液(又は、反応混合液が2層系の場合には、反応混合液を分液して得た水層)に、ハンドリング性を向上させるため必要に応じて水及び/又は水溶性溶媒(例えば、アセトン、アセトニトリル等)を添加して希釈した後、酸を加える。反応混合液の分液操作や水等の添加操作は、−10℃〜40℃、好ましくは−5℃〜室温程度の温度で行うのが好ましい。操作温度が高い場合には脱臭素体が生成しやすくなる。酸は水溶液として添加する場合が多い。例えば、塩酸として1〜37重量%程度の塩酸を使用できる。酸は攪拌下に添加するのが好ましい。酸を添加する際の温度は、例えば−10℃〜50℃程度である。温度が高いと脱臭素体が生成しやすい。
【0042】
酸の添加により生成した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸は、晶析、再結晶、リンス、リパルプ、抽出、共沸脱水、濃縮、乾燥、カラムクロマトグラフィーなどの分離精製手段、又はこれらを組み合わせることにより分離精製できる。本発明の好ましい態様では、(i)生成した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を水、水溶性有機溶媒、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒、又は非極性溶媒と極性溶媒との混合溶媒を用いて晶析又は再結晶する工程、(ii)生成した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を水、水溶性有機溶媒、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒、又は非極性溶媒と極性溶媒との混合溶媒を用いてリパルプする工程、(iii)生成した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を共沸脱水処理に付す工程、及び(iv)生成した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を水と、水に対して分液可能な有機溶媒とを用いた抽出処理に付し、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を有機溶媒層に分配する工程から選択された少なくとも1つの工程を含む。
【0043】
例えば、前記第1工程の反応混合液又はそれを分液して得た水層に酸を加えると、通常、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸が晶析(酸析)するので、これを濾過することにより2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を湿結晶として得ることができる。濾過は慣用の方法で行うことができ、遠心濾過法を用いてもよい。濾過温度は、例えば−10℃〜50℃程度である。2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の湿結晶の含液率は70重量%以下(例えば60〜70重量%程度)であるのが好ましい。
【0044】
上記2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の湿結晶を乾燥することにより純度の高い2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を得ることができるが、この湿結晶を、リパルプ及び/又は再結晶に付し、濾過、乾燥することにより、より高純度の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の結晶を取得できる。また、上記2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の湿結晶に水と共沸可能な有機溶媒を加え、共沸脱水することにより、高純度の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を含む溶液又はスラリーを得ることができる。このような溶液又はスラリーは、そのまま次工程で使用することもできるし、濃縮、晶析、濾過等によって得られる結晶を次工程に供することもできる。
【0045】
上記リパルプ操作に用いるリパルプ液(洗浄液)としては、水、水溶性有機溶媒、水と水溶性有機溶媒との混合液、又は非極性溶媒と極性溶媒との混合液が好ましい。水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール;アセトンなどのケトン;テトラヒドロフランなどのエーテルなどが挙げられる。水と水溶性有機溶媒との混合液を用いる場合、水と水溶性有機溶媒の割合(重量比)は、通常前者/後者=95/5〜60/40程度、好ましくは90/10〜70/30程度である。非極性溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサンなどの脂肪族又は脂環式炭化水素などが挙げられる。極性溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等の鎖状又は環状エーテルなどが挙げられる。特に好ましいリパルプ液には、水とエタノールの混合溶媒、水とアセトンの混合溶媒などが含まれる。リパルプ液の使用量は、結晶(乾燥重量換算)100重量部に対して、例えば、100〜10000重量部、好ましくは500〜3000重量部、さらに好ましくは1000〜2000重量部程度である。リパルプ操作は、好ましくは攪拌下で行われる。リパルプ操作の温度は、例えば−10℃〜50℃程度である。温度が高いと脱臭素体が生成しやすい。
【0046】
上記再結晶操作に用いる溶媒(再結晶溶媒)としては、水、水溶性有機溶媒、水(貧溶媒)と水溶性有機溶媒(良溶媒)との混合液、非極性溶媒(貧溶媒)と極性溶媒(良溶媒)との混合液が好ましい。水溶性有機溶媒、非極性溶媒、極性溶媒としては、それぞれ前記のものを使用できる。特に好ましい再結晶溶媒は水と水溶性有機溶媒との混合液(例えば、水−アセトン混合液)である。再結晶溶媒として良溶媒と貧溶媒との混合液を用いる場合、良溶媒の使用量は2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸に対して0.1〜100重量倍程度であり、貧溶媒の使用量は良溶媒に対して0.1〜50重量倍程度である。
【0047】
結晶の濾過は慣用の方法により行うことができる。濾過の際の温度は、例えば−10℃〜50℃程度である。乾燥は80℃以下の温度で行うのが好ましい。温度が高いと脱臭素体が生成しやすくなる。乾燥は減圧下で行ってもよい。
【0048】
共沸脱水に用いる有機溶媒としては、水と共沸する溶媒であれば特に限定されず、例えばトルエン等の芳香族炭化水素などを使用できる。
【0049】
また、前記第1工程の反応混合液(又はそれを分液して得た水層)に酸を加え、遊離した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を有機溶媒(例えば、トルエン、酢酸エチル等)と水を用いた抽出操作に付し、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を有機溶媒層に移行させ、次いで、これを濃縮、脱水乾燥(共沸脱水等)、リパルプ、晶析、再結晶、乾燥、カラムクロマトグラフィー等に付して2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を分離精製することもできる。
【0050】
2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の塩は前記第1工程で得られた反応混合液に、濾過、濃縮、抽出、晶析、再結晶、乾燥、カラムクロマトグラフィー等の適当な処理(分離、精製手段)を施すことにより分離できる。また、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の塩は、第2工程で生成した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸に塩基(アルカリ金属含有塩基など)を作用させることにより得ることもできる。
【0051】
反応装置や分離精製に用いる装置(分液装置、晶析装置等)としては、原料や生成物、酸等に腐食されにくいもの[例えば、ガラス製等の非金属製装置、内表面がグラスライニング、テフロン(登録商標)コーティングなど非金属成分により被覆された装置]を用いるのが好ましい。金属製の反応器等を用いると、腐食されるだけでなく、脱臭素体が増加する場合がある。
【0052】
上記本発明の方法によれば、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩を工業的に効率よく製造することができる。また、原料トリブロモ酢酸ハライドとして、不純物としての脱臭素体の含有量が2重量%以下であるトリブロモ酢酸ハライドを用いることにより、脱臭素体の含有量の少ない2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩を得ることができる。さらに、第1工程における反応系の液性を上記特定のpH範囲にコントロールすることにより、前記式(4)で表される2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸又はその塩の含有量の少ない2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩を得ることができる。
【0053】
例えば、本発明の方法により、不純物としての脱臭素体の含有量が2重量%以下(特に1.6重量%以下、とりわけ1重量%以下)である2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩、不純物としての2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸及びその塩の含有量が2重量%以下(特に、1重量%以下、とりわけ0.2重量%以下)である2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩を得ることができる。また、本発明の方法により、水分含有量1重量%以下、トリブロモ酢酸含有量1重量%以下、2−アミノイソ酪酸含有量1重量%以下の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩を得ることができる。
【0054】
なお、脱臭素体や式(4)で表される2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸又はその塩の含有量の多い2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩は、写真薬等の精密化学品に誘導した場合、前記不純物由来の化合物の混入により全体の臭素濃度が低下するため、臭素原子に基づく機能・特性が低下し、所望の性能が発揮されなくなる場合がある。また、水分や、トリブロモ酢酸、2−アミノイソ酪酸は次工程での反応に悪影響を及ぼす。
【0055】
こうして得られる2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩、又はそれらの溶液を保存する場合には、例えば室温以下(特に5℃以下)の温度で、遮光下に保存するのが好ましい。このような条件で保存すると、例えば1ヶ月間又はそれ以上保存しておいても外観及び組成に変化が生じない。遮光しない場合(特に高温保存の場合)には脱臭素体が増加し、外観が黒っぽく変化しやすい。
【0056】
本発明の方法により得られる2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩は、医薬、農薬、写真薬、感光剤等の精密化学品の合成中間体などとして使用できる。
【0057】
[2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドの製造]
本発明の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドの製造法では、下記式(3)で表される2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸と下記式(5)で表されるハロゲン化チオニル等のハロゲン化剤とを反応させて、下記式(6)で表される2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを生成させる。
【化5】
【化6】
【化7】
【0058】
上記式中、Xはハロゲン原子を示す。該ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子などが挙げられる。ハロゲン化剤としては、ハロゲン化反応に通常用いられるものであればよく、例えば、塩化チオニル、ホスゲン、塩化オキザリル、ジクロロトリフェニルホスホラン、塩化ベンゾイル、塩化フタロイル、ピロカテキルホスホ三塩化物、四塩化炭素+トリフェニルホスフィン、1−ジメチルアミノ−1−クロロ−2−メチルプロペン、三塩化リン、五塩化リン等の塩素化剤;臭化チオニル、臭化オキザリル、ジブロモトリフェニルホスホラン、臭化ベンゾイル、臭化フタロイル、ピロカテキルホスホ三臭化物、四臭化炭素+トリフェニルホスフィン、1−ジメチルアミノ−1−ブロモ−2−メチルプロペン、三臭化リン、五臭化リン、トリブロモボラン+アルミナなどの臭素化剤などが挙げられる。これらの中でも、代表的なハロゲン化剤には、塩化チオニル、臭化チオニルなどのハロゲン化チオニル等が含まれる。
【0059】
2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸としては、例えば、上記の方法で得られる2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を使用できる。2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸としては、不純物としての2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の脱臭素体の含有量が2重量%以下(特に、1.6重量%以下)の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸、不純物としての2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸の含有量が2重量%以下(特に、1重量%以下)の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を用いるのが好ましい。脱臭素体の含有量の多い2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を用いると、該脱臭素体がハロゲン化されて2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドの脱臭素体となり、これが製品2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライド中に混入しやすくなる。また、2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸の多い2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を用いると、2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸がハロゲン化されて下記式(7)で表される2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸ハライドとなり、これが製品2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライド中に混入しやすくなる。式(7)中、Xは前記と同様である。
【化8】
【0060】
2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸として、共沸脱水処理を施した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の結晶、溶液又はスラリーを用いてもよい。例えば、前記2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩の製造法において、湿結晶として得た2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸にトルエン等の水と共沸可能な有機溶媒を加えて共沸脱水することにより、水分含量の少ない2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を含む溶液又はスラリーを得、これを本方法の原料として用いることができる。この方法によれば、工程を簡略化でき、生産性を向上できる。
【0061】
ハロゲン化剤の使用量は、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸1モルに対して、2モル以下(例えば0.9〜2モル)が好適であり、より好ましくは1.0〜1.5モル、さらに好ましくは1.1〜1.3モル程度である。ハロゲン化剤の使用量が少なすぎると反応混合物中に未反応の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸が残存し、逆に多すぎると、副反応の増大、目的物の収率の低下、反応後の後処理の煩雑化などの問題が生じやすくなる。
【0062】
反応は溶媒の存在下又は非存在下の何れで行ってもよいが、操作性等の点からは溶媒中で行うのが好ましい。反応溶媒としては有機溶媒が好ましい。有機溶媒として、例えば、ペンタン、ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素;アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル;酢酸エチルなどのエステル;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサンなどの鎖状又は環状エーテル;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン;N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)などのアミド又はウレア系溶媒;スルホランなどのイオウ原子含有溶媒;これらの混合溶媒などが挙げられる。これらの中でも、脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素などの炭化水素、ニトリル、エーテルなどが好ましく、特にトルエン等の芳香族炭化水素が好適である。なお、反応を損なわない範囲で水を溶媒として用いることもできる。
【0063】
有機溶媒の使用量は、反応液の攪拌等の操作性や反応性を損なわない範囲で適宜選択できるが、一般には、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸100重量部に対して、50重量部以上(例えば、50〜2000重量部程度)、好ましくは100重量部以上(例えば、100〜1000重量部程度)、さらに好ましくは150重量部以上(例えば、150〜800重量部程度)である。有機溶媒の量が少なすぎると、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸が固体で且つ溶媒に溶解しにくいことから攪拌が困難になり、これを回避するためにハロゲン化チオニルの量を増加すると、副反応の増大、目的物の収率の低下、反応後の後処理の煩雑化などの問題が生じやすくなる。また、有機溶媒の量が多すぎると、反応速度が遅くなるとともに、溶媒の回収にコストがかかるという問題が生じやすい。
【0064】
反応には、反応速度を速くするため触媒を用いてもよい。触媒としては、ハロゲン化チオニルを用いてハロゲン化する際に通常用いられる触媒を使用でき、代表的な触媒にはN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ピリジン等が含まれる。触媒の使用量は、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸100重量部に対して、例えば0.001〜30重量部、好ましくは0.1〜10重量部、さらに好ましくは1〜5重量部程度である。また、触媒の使用量は2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸1モルに対して、0.01〜0.5モル程度であってもよい。
【0065】
反応温度は反応速度や反応の選択性を考慮しつつ適宜選択でき、通常110℃以下(例えば、20〜80℃程度)であるが、反応温度を65℃以下(例えば、20〜65℃)にコントロールしつつ反応させるのが好ましい。反応温度は、さらに好ましくは30〜65℃、特に好ましくは40〜60℃程度である。反応温度が低すぎる場合には、反応速度が遅くなりやすい。反応温度が65℃を超えると、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドの脱臭素体(2−ジブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドなど)等の副生物が生成しやすくなる。これらの副生物は、簡単な精製によっては完全に除去することが困難なため、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを用いて各種精密化学品に誘導する際、前記副生物由来の不純物が製品の純度や性能に悪影響を及ぼす場合がある。例えば、脱臭素体の含有量の多い2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを用いて写真薬などを製造する場合には、前記脱臭素体由来の化合物の混入により全体の臭素濃度が低下するため、臭素原子に基づく機能・特性が低下し、所望の性能が発揮されなくなる場合がある。
【0066】
反応は、回分式、半回分式、連続式の何れの方式で行うこともできる。この反応では通常ガス(例えば、ハロゲン化チオニル等を用いた場合にはハロゲン化水素及び二酸化硫黄)が副生するので、このガスの急激な発生を抑制するためには、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸とハロゲン化剤のうち少なくとも一方を系内に逐次添加して反応を行うのが好ましい。本発明の好ましい態様では、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸と有機溶媒の混合液中に、ハロゲン化剤又はハロゲン化剤と有機溶媒の混合液を逐次添加して反応を進行させる。逐次添加は間欠添加、連続添加の何れであってもよい。また、触媒として、DMF等を用いる場合には、触媒と2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸とはニートで接触すると副反応が生じて収率が低下するので、これらは有機溶媒中で接触させるのが好ましい。例えば、触媒の有機溶媒溶液中に2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を加えるか、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の有機溶媒溶液中に触媒を添加する。
【0067】
反応の雰囲気は特に限定されず、空気雰囲気下、不活性ガス雰囲気下の何れであってもよい。系内は湿気を少なくしておくのが望ましく、反応は遮光下に行うのが好ましい。反応圧力は、常圧、加圧、減圧の何れであってもよい。反応器としては、原料や生成物に腐食されにくいもの[例えば、ガラス製等の非金属製反応器、内表面がグラスライニング、テフロン(登録商標)コーティングなど非金属成分により被覆された反応器]を用いるのが好ましい。金属製の反応器を用いると、脱臭素体が増加する場合がある。また、塩化チオニルや塩化オキザリルなどを用いた場合には、反応を通じて二酸化硫黄や塩化水素などの酸性の気体が発生するので、これを排出し、無害化する方法を講じるのが好ましい。例えば、反応器内に窒素やアルゴンなどの不活性ガスを流通させ、酸性ガスを含む排出ガスをアルカリ水と接触させる手法がある。
【0068】
反応終了後、反応で副生したハロゲン化水素及び二酸化硫黄、並びに反応溶媒(有機溶媒)を留去することにより、蒸留残渣として2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを得ることができる。反応溶媒等を留去する際の温度(液温)は、特に制限されず、例えば110℃以下の温度を採用できるが、温度が高すぎると、操作中に脱臭素化により前記脱臭素体が生成するため、好ましくは65℃以下、さらに好ましくは60℃以下である。脱溶媒操作は、常圧下、減圧下の何れで行ってもよい。
【0069】
本発明の方法によれば、高い収率で2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドが生成するので、反応溶媒等を留去するだけで、純度の高い2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを取得できるが、必要に応じて晶析、濾過、再結晶、蒸留、抽出、カラムクロマトグラフィーその他の方法により精製してもよい。また、歩留まり、安全性、作業性等を考慮して、反応混合液をそのまま、又は反応で副生したハロゲン化水素や二酸化硫黄を除去した溶液、或いは適当な溶媒(例えば、次工程で用いる溶媒)で溶媒置換した溶液を次の工程で用いることもできる。結晶を乾燥する際は、50℃以下の温度(好ましくは30℃以下の温度)で乾燥(真空乾燥等)するのが好ましい。高温で乾燥すると目的物が昇華するおそれがある。
【0070】
また、本発明の方法によれば、例えば、原料2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸として脱臭素体の含有量が少ない2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を用いたり、反応温度を特定の温度以下にコントロールしたり、反応混合液の脱溶媒操作を低温で行うことにより、脱臭素体の含有量の少ない2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを得ることができる。さらに、原料2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸として2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸の含有量の少ない2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を用いることにより、2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸ハライドの含有量の少ない2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを得ることができる。例えば、本発明の方法により、不純物としての脱臭素体の含有量が3重量%以下(特に2重量%以下、とりわけ1重量%以下)である2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライド、不純物としての2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸ハライドの含有量が2重量%以下(特に1重量%以下、とりわけ0.2重量%以下)である2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを得ることができる。
【0071】
なお、脱臭素体や式(7)で表される2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸ハライドの含有量の多い2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドは、上記と同様、写真薬等の精密化学品に誘導した場合、前記不純物由来の化合物の混入によって臭素濃度が低くなって臭素原子に基づく機能・特性が低下し、所望の性能が発揮されなくなる場合がある。
【0072】
こうして得られる2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライド又はその溶液を保存する場合には、例えば室温以下(特に5℃以下)の温度で、遮光下に保存するのが好ましい。このような条件で保存すると、例えば1ヶ月間又はそれ以上保存しておいても外観及び組成に変化が生じない。遮光しない場合(特に高温保存の場合)には脱臭素体が増加し、外観が黒っぽく変化しやすい。
【0073】
本発明の方法により得られる2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドは、医薬、農薬、写真薬、感光剤等の精密化学品の合成中間体などとして使用できる。
【0074】
【発明の効果】
本発明によれば、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩を工業的に効率よく製造することができる。
また、本発明によれば、不純物含有量の少ない高純度の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩と、その製造法が提供される。
さらに、本発明によれば、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを工業的に効率よく製造することができる。
さらにまた、本発明によれば、不純物含有量の少ない高純度の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドと、その製造法が提供される。
【0075】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、生成物の定量は高速液体クロマトグラフィー等により行った。また、生成物(脱臭素体等の副生物を含む)の同定はLC−MS、1H−NMRスペクトル等により行った。
【0076】
製造例1
1Lのガラス製の反応容器に、トリブロモ酢酸200g(0.67モル)(トリブロモ酢酸の脱臭素体の含有量0.2重量%)、トルエン400g、及びN,N−ジメチルホルムアミド4.9gを入れた。この混合液(スラリー)に、攪拌下、塩化チオニル88.2g(0.74モル)を2時間かけて滴下した。この間、液温を75〜80℃に調整した。反応液は次第に均一溶液となった。さらに同温度で2時間熟成した後、液温を70℃以下に保持しながら、減圧下にトルエン及び副生揮発成分を留去することにより、トリブロモ酢酸クロリド(純度92.6重量%、トルエン5.7重量%含む)を213g得た。反応収率は99.6%、一貫収率は92.7%であった。なお、トリブロモ酢酸クロリド中には、不純物として脱臭素体(ジブロモ酢酸クロリド)が1.4重量%含まれていた。
【0077】
実施例1
2−アミノイソ酪酸6.0g(59.2ミリモル)、8重量%水酸化ナトリウム水溶液29.4g(58.6ミリモル)の混合液(pH12.1、室温)に、トリブロモ酢酸クロリド(脱臭素体含有量1.4重量%)20.26g(64.1ミリモル)及びトルエン20.26gの混合液を1時間かけて逐次添加した。この際8重量%水酸化ナトリウム水溶液42.0g(84.0ミリモル)を同時に逐次添加して反応温度を−5℃〜−1℃、反応系のpHを12.9〜13.3の範囲に管理した。さらに、同じ管理幅で2時間攪拌した。反応混合液を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸のナトリウム塩が69%の収率で生成していた。
【0078】
実施例2
2−アミノイソ酪酸6.0g(59.2ミリモル)、8重量%水酸化ナトリウム水溶液20.26g(54.9ミリモル)の混合液(pH11.6、室温)に、トリブロモ酢酸クロリド(脱臭素体含有量1.4重量%)20.26g(64.1ミリモル)及びトルエン20.26gの混合液を1時間かけて逐次添加した。この際8重量%水酸化ナトリウム水溶液41.21g(82.4ミリモル)を同時に逐次添加して反応温度を−5℃〜−1℃、反応系のpHを12.2〜12.8の範囲に管理した。さらに、同じ管理幅で2時間攪拌した。反応混合液を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸のナトリウム塩が68%の収率で生成していた。
【0079】
実施例3
2−アミノイソ酪酸55.4g(0.54モル)、8重量%水酸化ナトリウム水溶液266.7g(0.54モル)の混合液(pH12.1、室温)に、トリブロモ酢酸クロリド(脱臭素体含有量1.4重量%)191.5g(0.58モル)及びトルエン191.5gの混合液を1.5時間かけて逐次添加した。この際8重量%水酸化ナトリウム水溶液400.0g(0.80モル)を同時に逐次添加して反応温度を−5℃〜−1℃、反応系のpHを13.0〜13.4の範囲に管理した。さらに、同じ管理幅で2時間攪拌した。反応混合液を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸のナトリウム塩が64%の収率で生成していた。
反応混合液に水220.0gを加えた後、分液し、水層に濃塩酸(37重量%)138.0g(1.41モル)を20℃以下で攪拌しながら加え、析出した結晶を濾過し、水138gでリンスした。得られたクリーム状の湿結晶をエタノール314.4gで懸濁し、水1193gを加えて室温で1時間攪拌することによりリパルプ操作を行った。結晶を濾過し、水498gでリンスし、70℃で24時間、減圧乾燥することにより、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸121.9gを得た。一貫収率は60%であった。不純物としての脱臭素体(水素体)の含有量は0.1重量%、2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸の含有量は0.06重量%であった。
[2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸のスペクトルデータ]
1H−NMR(500MHz, DMSO−d6) δ:1.40(s, 6H, CH3), 8.60(s, 1H, NH), 12.70(brs, 1H, COOH)
[2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の脱臭素体のスペクトルデータ]
1H−NMR(500MHz, DMSO−d6) δ:1.40(s, 6H, CH3), 5.80(s, 1H, CBr2H),8.55(s, 1H, NH), 12.70(brs, 1H, COOH)
[2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸のスペクトルデータ]
1H−NMR(500MHz, DMSO−d6) δ:1.88(s, 6H, CH3), 1.54(s, 6H, CH3), 7.72(s, 1H, NH), 8.10(s, 1H, NH), 12.70(brs, 1H, COOH)
【0080】
実施例4
2−アミノイソ酪酸6.1g(59.3ミリモル)、8重量%水酸化ナトリウム水溶液29.2g(58.4ミリモル)の混合液(pH12.0、室温)に、トリブロモ酢酸クロリド(脱臭素体含有量1.4重量%)22.1g(64.2ミリモル)及びトルエン22.1gの混合液を1時間かけて逐次添加した。この際8重量%水酸化ナトリウム水溶液44.4g(88.8ミリモル)を同時に逐次添加して反応温度を−5℃〜−1℃、反応系のpHを13.0〜13.2の範囲に管理した。さらに、同じ管理幅で2時間攪拌した。反応混合液を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸のナトリウム塩が64%の収率で生成していた。
反応混合液に水24.0gを加えた後、分液し、水層に濃塩酸(37重量%)15.1g(153.6ミリモル)を20℃以下で攪拌しながら加え、析出した結晶を濾過した。得られたクリーム状の湿結晶にアセトン31.0gを加え、50℃で溶解した混合液に水62.3gを加え、50℃で30分攪拌した後、0℃で1時間攪拌した。析出した結晶を濾別して水12.0gでリンスし、70℃で減圧乾燥することにより、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸12.4gを得た。一貫収率は56%であった。不純物としての脱臭素体(水素体)の含有量は0.6重量%、2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸の含有量は0.04重量%であった。
【0081】
実施例5
2−アミノイソ酪酸6.1g(59.3ミリモル)、8重量%水酸化ナトリウム水溶液29.2g(58.4ミリモル)の混合液(pH12.0、室温)に、トリブロモ酢酸クロリド(脱臭素体含有量1.4重量%)22.1g(64.2ミリモル)及びトルエン22.1gの混合液を1時間かけて逐次添加した。この際8重量%水酸化ナトリウム水溶液44.4g(88.8ミリモル)を同時に逐次添加して反応温度を−5℃〜−1℃、反応系のpHを13.0〜13.2の範囲に管理した。さらに、同じ管理幅で2時間攪拌した。反応混合液を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸のナトリウム塩が64%の収率で生成していた。
反応混合液に水24.0gを加えた後、分液し、水層に濃塩酸(37重量%)15.1g(153.6ミリモル)を20℃以下で攪拌しながら加え、析出した結晶を濾過した。得られたクリーム状の湿結晶にアセトン31.0gを加え、50℃で溶解した混合液に水62.3gを加え、50℃で30分攪拌した後、0℃で1時間攪拌した。析出した結晶を濾別して水12.0gでリンスした。この湿結晶15.1gにトルエン60.5gを加え、水を共沸脱水により除去することにより、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸のトルエン溶液を得た。このトルエン溶液は次工程に供される。
【0082】
実施例6
2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸25g[61.7ミリモル;純度94.3重量%;不純物としての脱臭素体の含有量1.2重量%、2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸の含有量0.6重量%]、トルエン125g、及びN,N−ジメチルホルムアミド0.45g(6.2ミリモル)の混合液に塩化チオニル8.82g(74.1ミリモル)を1時間かけて加え、50℃で4時間攪拌した。反応混合液を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸クロリドが96%の収率、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸クロリドの脱臭素体が1.7%の収率で生成していた。
反応混合液を、液温50℃以下、圧力30〜100Torr(4〜13.3kPa)で濃縮率[(釜残重量/仕込重量)×100]23重量%まで減圧濃縮した。濃縮液58.0gをアセトニトリル98.8gに溶解して、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸クロリドのアセトニトリル溶液を得た。このアセトニトリル溶液は次工程に供される。
【0083】
実施例7
2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸25g[61.7ミリモル;純度94.3重量%;不純物としての脱臭素体の含有量1.2重量%、2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸の含有量0.6重量%]、トルエン125g、及びN,N−ジメチルホルムアミド0.45g(6.2ミリモル)の混合液に塩化チオニル8.82g(74.1ミリモル)を加え、40℃で1時間、50℃で1時間、60℃で4時間攪拌した。反応混合液を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸クロリドが84%の収率、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸クロリドの脱臭素体が5.4%の収率で生成していた。
反応混合液を、液温60℃以下、圧力30〜100Torr(4〜13.3kPa)で減圧濃縮した。濃縮残渣にヘキサン18.1gを加え、60℃で攪拌し溶解させた。これを熱濾過に供し、ヘキサン不溶物を除去し、濾液を10℃で冷却し晶析させた。析出した結晶を濾別し、室温で乾燥させることにより、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸クロリドを得た(収率64%)。不純物としての2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸クロリドの脱臭素体の含有量は、0.62重量%、不純物としての2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸クロリドの含有量は0.2重量%であった。
[2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸クロリドのスペクトルデータ]
1H−NMR(500MHz, DMSO−d6) δ:1.59(s, 6H, CH3), 7.25(s, 1H, NH)
[2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸クロリドの脱臭素体のスペクトルデータ]
1H−NMR(500MHz, DMSO−d6) δ:1.59(s, 6H, CH3), 5.80(s, 1H, CBr2H),7.75(s, 1H, NH)
[2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸クロリドのスペクトルデータ]
1H−NMR(500MHz, DMSO−d6) δ:1.48(s, 6H, CH3), 1.78(s, 6H, CH3), 7.52(s, 1H, NH), 8.05(s, 1H, NH)
【発明の属する技術分野】
本発明は、医薬、農薬、写真薬、感光剤等の精密化学品の合成中間体などとして有用な2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩及び2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライド、並びにこれらの製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、N−アシルアミノカルボン酸又はその塩、或いはN−アシルアミノカルボン酸ハライドを収率よく製造する方法は少なく、特に、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩、並びに2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを工業的に効率よく製造する方法は知られていない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩を工業的に効率よく得る方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、不純物含有量の少ない高純度の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩と、その製造法を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを工業的に効率よく得る方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、不純物含有量の少ない高純度の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドと、その製造法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意検討の結果、トリブロモ酢酸ハライドと2−アミノイソ酪酸とをアルカリ金属含有塩基の存在下、特定のpH範囲で反応させると、対応する2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩が収率よく得られると共に、高純度の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を取得できることを見出した。また、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸とハロゲン化剤とを特定条件下で反応させると、対応する2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドが収率よく生成すると共に、高純度の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を取得できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものである。
【0005】
すなわち、本発明は、トリブロモ酢酸ハライドと2−アミノイソ酪酸とを、アルカリ金属含有塩基の存在下、系の液性をpH10〜pH14の範囲にコントロールしつつ反応させることを特徴とする2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩の製造法を提供する。
【0006】
この製造法は、トリブロモ酢酸ハライドと2−アミノイソ酪酸との反応生成物を酸で処理して2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を生成させる工程を含んでいてもよい。
【0007】
前記製造法は、2−アミノイソ酪酸とアルカリ金属含有塩基とを含む水溶液中に、トリブロモ酢酸ハライドを含む溶液とアルカリ金属含有塩基を含む水溶液とを別々に添加してpHを調整しつつ、トリブロモ酢酸ハライドと2−アミノイソ酪酸とを反応させてもよい。この場合、トリブロモ酢酸ハライドと2−アミノイソ酪酸との反応工程において、用いる水の量の総和が、2−アミノイソ酪酸100重量部に対して500重量部以上であるのが好ましい。
【0008】
前記製造法において、トリブロモ酢酸ハライドとして、不純物としてのトリブロモ酢酸ハライドの脱臭素体の含有量が2重量%以下であるトリブロモ酢酸ハライドを用いることができる。
【0009】
前記製造法は、(i)生成した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を水、水溶性有機溶媒、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒、又は非極性溶媒と極性溶媒との混合溶媒を用いて晶析又は再結晶する工程、(ii)生成した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を水、水溶性有機溶媒、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒、又は非極性溶媒と極性溶媒との混合溶媒を用いてリパルプする工程、(iii)生成した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を共沸脱水処理に付す工程、及び(iv)生成した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を水と、水に対して分液可能な有機溶媒とを用いた抽出処理に付し、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を有機溶媒層に分配する工程から選択された少なくとも1つの工程を含んでいてもよい。
【0010】
本発明は、また、不純物としての脱臭素体の含有量が2重量%以下である2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩を提供する。
【0011】
本発明は、さらに、不純物としての2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸及びその塩の含有量が2重量%以下である2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩を提供する。
【0012】
本発明は、さらにまた、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸に、該2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸1モルに対して2モル以下のハロゲン化剤を反応させて、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを生成させることを特徴とする2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドの製造法を提供する。
【0013】
本発明は、また、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸とハロゲン化剤とを有機溶媒中で反応させて2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを生成させることを特徴とする2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドの製造法を提供する。
【0014】
本発明は、さらに、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸とハロゲン化剤とを反応温度を65℃以下にコントロールしつつ反応させて2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを生成させることを特徴とする2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドの製造法を提供する。
【0015】
これらの2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドの製造法においては、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸とハロゲン化剤との反応を触媒の存在下で行ってもよく、その際、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸と該触媒との接触は有機溶媒を介して行うのが好ましい。
【0016】
また、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸として、(i)共沸脱水処理を施した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の結晶、溶液又はスラリー、(ii)不純物としての2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の脱臭素体の含有量が2重量%以下の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸、又は(iii)不純物としての2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸の含有量が2重量%以下の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を用いるのが好ましい。
【0017】
さらに、上記各製造法は、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸とハロゲン化剤とを有機溶媒中で反応させて2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを生成させる反応工程と、反応混合物から有機溶媒を65℃以下の温度で留去し、蒸留残渣として2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを得る精製工程とを含んでいてもよい。
【0018】
本発明は、また、不純物としての脱臭素体の含有量が3重量%以下である2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを提供する。
【0019】
本発明は、さらに、不純物としての2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸ハライドの含有量が2重量%以下である2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを提供する。
【0020】
なお、本明細書において、脱臭素体とは、トリブロモ酢酸ハライド、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドのそれぞれについて、トリブロモアセチル基の臭素原子が1以上水素原子に置換した化合物を意味する。また、不純物としての…の含有量と言うときは、[該不純物の量/(該不純物の量+主化合物の量)]×100(重量%)を意味する。また、pHは当該反応温度でのpHを言う。
【0021】
【発明の実施の形態】
[2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩の製造]
本発明の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩の製造法では、下記式(1)で表されるトリブロモ酢酸ハライドと下記式(2)で表される2−アミノイソ酪酸とを塩基の存在下で反応させることにより、下記式(3)で表される2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩を製造する。なお、2−アミノイソ酪酸の塩(=2−アミノイソ酪酸と塩基との反応物に相当)を出発原料として用いる場合も本発明の製造法に含まれる。
【化1】
【化2】
【化3】
【0022】
式(1)中、Xはハロゲン原子を示す。該ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子などが挙げられる。
【0023】
本発明の方法において、反応は、通常、トリブロモ酢酸ハライドと2−アミノイソ酪酸とを塩基の存在下で反応させて2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の塩を生成させる工程(以下、第1工程と称する場合がある)と、該2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の塩を酸により遊離化して2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を生成させる工程(以下、第2工程と称する場合がある)とからなる。反応の雰囲気は特に限定されず、空気雰囲気下、不活性ガス雰囲気下の何れであってもよい。系内は湿気をできるだけ少なくしておくのが望ましく、反応は遮光下に行うのが好ましい。
【0024】
第1工程において、原料として用いるトリブロモ酢酸ハライドとしては如何なる製造法で製造されたものであってもよい。トリブロモ酢酸ハライドは、例えば、トリブロモ酢酸とハロゲン化剤とを反応させることにより得ることができる。この反応について、以下に説明する。
【0025】
トリブロモ酢酸とハロゲン化剤との反応は、溶媒の存在下又は非存在下の何れで行ってもよいが、反応収率及び副生物の抑制の点から、有機溶媒中で行うのが好ましい。また、トリブロモ酢酸としては、トリブロモ酢酸の脱臭素体(ジブロモ酢酸など)の含有量が0.5重量%以下のものを用いるのが好ましい。ハロゲン化剤としては後述のものが挙げられる。代表的なハロゲン化剤には、塩化チオニル、臭化チオニルなどのハロゲン化チオニルが含まれる。ハロゲン化剤の使用量は、トリブロモ酢酸1モルに対して、例えば0.9〜2モル、好ましくは0.9〜1.5モル程度である。有機溶媒としては、反応を損なわないものであればよく、例えば、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、トルエンなどの芳香族炭化水素、アセトニトリル等のニトリル、ジエチルエーテルやテトラヒドロフランなどのエーテルなどが挙げられる。有機溶媒の使用量は、トリブロモ酢酸100重量部に対して、通常50〜1000重量部、好ましくは100〜800重量部程度である。反応には、N,N−ジメチルホルムアミドなどの触媒を用いることもできる。触媒の使用量は、トリブロモ酢酸100重量部に対して、例えば0.001〜30重量部、好ましくは0.1〜10重量部程度である。反応温度は、通常10〜120℃、好ましくは40〜90℃、さらに好ましくは65〜80℃程度である。反応温度が高すぎると、トリブロモ酢酸ハライドの脱臭素体(ジブロモ酢酸ハライドなど)等の副生物が生成しやすくなる。反応終了後、反応で副生したハロゲン化水素及び二酸化硫黄、並びに反応溶媒を留去することにより、蒸留残渣としてトリブロモ酢酸ハライドを得ることができる。反応溶媒等を留去する際の温度(液温)は、好ましくは80℃以下、さらに好ましくは75℃以下である。この温度が高すぎると前記脱臭素体が副生しやすい。トリブロモ酢酸ハライドは、必要に応じて、蒸留等によりさらに精製してもよい。
【0026】
前記第1工程において、原料として用いるトリブロモ酢酸ハライドとしては、不純物としてのトリブロモ酢酸ハライドの脱臭素体の含有量が2重量%以下(特に、1.6重量%以下)であるトリブロモ酢酸ハライドを用いるのが好ましい。トリブロモ酢酸ハライドの脱臭素体の含有量の多いトリブロモ酢酸ハライドを用いると、対応する2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の脱臭素体が多く生成する。この脱臭素体は簡単な精製法では完全に除去することが困難である。そのため、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を用いて医薬品等の精密化学品に誘導する際、前記脱臭素体由来の不純物が製品の純度や性能に悪影響を及ぼす場合がある。
【0027】
もう一方の原料である2−アミノイソ酪酸としては、純度98重量%以上のもの(例えば、不純物として2−アミノイソ酪酸の2量体の含有量が2重量%以下のもの)を使用するのが好ましい。
【0028】
第1工程でのトリブロモ酢酸ハライドの使用量は、2−アミノイソ酪酸1モルに対して、通常0.5〜2.0モル、好ましくは0.8〜1.5モル、さらに好ましくは0.9〜1.3モル程度である。
【0029】
第1工程では塩基としてアルカリ金属含有塩基を用いるのが好適である。アルカリ金属含有塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩;ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属;水素化ナトリウム、水素化カリウムなどのアルカリ金属水素化物;ナトリウムアミド、カリウムアミドなどのアルカリ金属アミド;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド;酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどのアルカリ金属カルボン酸塩などが挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩などが好ましく、特に、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。
【0030】
塩基(アルカリ金属含有塩基)の使用量は、2−アミノイソ酪酸に対して、通常0.8〜1.5当量、好ましくは0.9〜1.2当量、さらに好ましくは0.95〜1.1当量程度である。
【0031】
第1工程においては、トリブロモ酢酸ハライドと2−アミノイソ酪酸とを、系(反応液)の液性をpH10〜pH14の範囲にコントロールしつつ反応させると、目的物が高い収率で生成する。系の液性は、より好ましくはpH11〜pH14、さらに好ましくはpH12〜pH13.5であり、特にpH12〜pH13の範囲にコントロールするのが好ましい。系の液性がpH10未満の場合には反応速度が遅くなるとともに、下記式(4)で表される2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸又はその塩が副生しやすくなる。この傾向は特にpH7以下で顕著である。また、pHが14を超えると反応に用いるトリブロモ酢酸ハライドが失活し、目的物の収率が大きく低下する。
【化4】
【0032】
なお、溶液のpHは一般に測定温度によって異なる。本反応系では、例えば、−3℃〜−5℃においてpH10、pH11、pH12、pH13及びpH14の溶液は、室温(20〜25℃)で測定すると、それぞれ、pH9、pH10、pH11、pH12及びpH13程度となる。
【0033】
トリブロモ酢酸ハライドと2−アミノイソ酪酸との反応は通常、溶媒中で行われる。溶媒としては、反応を損なわないものであれば特に限定されず、例えば、水;ペンタン、ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素;アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル;酢酸エチルなどのエステル;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサンなどの鎖状又は環状エーテル;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)などのアミド又はウレア系溶媒;スルホランなどのイオウ原子含有溶媒;これらの混合溶媒などが挙げられる。反応溶媒としては少なくとも水を用いるのが好ましい。反応は1層系、水層と有機層の2層系等の何れで行ってもよい。反応溶媒の使用量は、反応性や操作性等を考慮して適宜選択できる。
【0034】
トリブロモ酢酸ハライドと2−アミノイソ酪酸との反応の方式は、特に限定されないが、反応系の液性(pH)を前記所定の範囲内にコントロールできる方式(半回分式、連続式など)が好ましい。反応温度は、通常−20℃〜50℃程度、好ましくは−10℃〜40℃、さらに好ましくは−10℃〜15℃程度である。
【0035】
本発明の方法においては、例えば、2−アミノイソ酪酸とアルカリ金属含有塩基とを含むpH10〜pH14の水溶液中に、トリブロモ酢酸ハライドを含む溶液とアルカリ金属含有塩基を含む水溶液とを、系の液性がpH10〜pH14の範囲に保持されるように、別々に添加して反応を進行させてもよい。2−アミノイソ酪酸とアルカリ金属含有塩基とを含む水溶液中のアルカリ金属含有塩基の量は、2−アミノイソ酪酸に対して、好ましくは0.8〜1.2当量、さらに好ましくは0.9〜1.1当量程度である。なお、2−アミノイソ酪酸とアルカリ金属含有塩基とを含む水溶液には、別途調製した2−アミノイソ酪酸のアルカリ金属塩を水に溶解させた水溶液も含まれる。トリブロモ酢酸ハライドを含む溶液としては、トリブロモ酢酸ハライドのみでもよく、トリブロモ酢酸ハライドと溶媒の溶液であってもよい。後者の方が、反応温度や反応液のpHの調整が容易になるので好ましい。アルカリ金属含有塩基を含む水溶液中のアルカリ金属含有塩基の量は、反応系の液性(pH)を上記範囲に調整できる量であればよいが、好ましくは2−アミノイソ酪酸に対して1〜2当量、さらに好ましくは1.2〜1.8当量程度である。アルカリ金属含有塩基を含む水溶液中のアルカリ金属含有塩基の濃度は任意に選択できるが、1〜20重量%程度にすると、反応液のpHコントロールが容易である。
【0036】
この方法において、溶媒として用いる水の量の総和(2−アミノイソ酪酸とアルカリ金属含有塩基とを含む水溶液中の水、トリブロモ酢酸ハライドを含む溶液中の水、及びアルカリ金属含有塩基を含む水溶液中の水の合計量)が、2−アミノイソ酪酸100重量部に対して500重量部以上(例えば500〜8000重量部)、特に1000〜5000重量部程度であるのが望ましい。用いる水の量が少なすぎると、生成した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸のアルカリ金属塩が析出して攪拌が困難になる場合がある。水の使用量を上記範囲とすることで固体の析出を抑制でき、ハンドリング性が向上する。
【0037】
反応により、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸のアルカリ金属塩が生成し、副生物として、その脱臭素体、及び前記式(4)で表される2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸のアルカリ金属塩が生成しうる。原料トリブロモ酢酸ハライドとして、不純物としての脱臭素体の含有量が2重量%以下であるトリブロモ酢酸ハライドを用いることにより、前記脱臭素体の副生を抑制できる。また、第1工程における反応系の液性(pH)を上記範囲にコントロールすることにより、前記式(4)で表される2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸のアルカリ金属塩の副生を抑制できる。本発明の方法によれば、第1工程終了時点において、前記脱臭素体及び式(4)で表される2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸のアルカリ金属塩の副生率(2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸のアルカリ金属塩に対する割合)を、それぞれ、例えば4重量%以下、好ましくは2重量%以下にすることが可能である。
【0038】
第1工程で得られた反応液は遮光することにより長期間保存できる。保存する際の温度は室温以下が好ましい。遮光せずに長期間保存すると、脱臭素体の量が増大しやすくなる。
【0039】
第2工程では、第1工程で生成した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸のアルカリ金属塩を酸で処理して、式(3)で表される2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を生成させる。
【0040】
酸としては、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の塩を遊離化可能なものであれば特に限定されないが、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸が好ましく、特に塩酸が好適である。酸の使用量は、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の塩を遊離化するのに必要な量であればよく、使用したアルカリ金属含有塩基の量に応じて適宜選択できるが、通常、アルカリ金属含有塩基に対して、1.5〜5当量程度、好ましくは2〜4当量程度である。
【0041】
酸は、通常、第1工程の反応混合液、又はこれに希釈、濃縮、溶媒交換、分液等の処理を施した処理液に添加される。例えば、第1工程の反応混合液(又は、反応混合液が2層系の場合には、反応混合液を分液して得た水層)に、ハンドリング性を向上させるため必要に応じて水及び/又は水溶性溶媒(例えば、アセトン、アセトニトリル等)を添加して希釈した後、酸を加える。反応混合液の分液操作や水等の添加操作は、−10℃〜40℃、好ましくは−5℃〜室温程度の温度で行うのが好ましい。操作温度が高い場合には脱臭素体が生成しやすくなる。酸は水溶液として添加する場合が多い。例えば、塩酸として1〜37重量%程度の塩酸を使用できる。酸は攪拌下に添加するのが好ましい。酸を添加する際の温度は、例えば−10℃〜50℃程度である。温度が高いと脱臭素体が生成しやすい。
【0042】
酸の添加により生成した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸は、晶析、再結晶、リンス、リパルプ、抽出、共沸脱水、濃縮、乾燥、カラムクロマトグラフィーなどの分離精製手段、又はこれらを組み合わせることにより分離精製できる。本発明の好ましい態様では、(i)生成した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を水、水溶性有機溶媒、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒、又は非極性溶媒と極性溶媒との混合溶媒を用いて晶析又は再結晶する工程、(ii)生成した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を水、水溶性有機溶媒、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒、又は非極性溶媒と極性溶媒との混合溶媒を用いてリパルプする工程、(iii)生成した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を共沸脱水処理に付す工程、及び(iv)生成した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を水と、水に対して分液可能な有機溶媒とを用いた抽出処理に付し、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を有機溶媒層に分配する工程から選択された少なくとも1つの工程を含む。
【0043】
例えば、前記第1工程の反応混合液又はそれを分液して得た水層に酸を加えると、通常、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸が晶析(酸析)するので、これを濾過することにより2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を湿結晶として得ることができる。濾過は慣用の方法で行うことができ、遠心濾過法を用いてもよい。濾過温度は、例えば−10℃〜50℃程度である。2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の湿結晶の含液率は70重量%以下(例えば60〜70重量%程度)であるのが好ましい。
【0044】
上記2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の湿結晶を乾燥することにより純度の高い2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を得ることができるが、この湿結晶を、リパルプ及び/又は再結晶に付し、濾過、乾燥することにより、より高純度の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の結晶を取得できる。また、上記2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の湿結晶に水と共沸可能な有機溶媒を加え、共沸脱水することにより、高純度の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を含む溶液又はスラリーを得ることができる。このような溶液又はスラリーは、そのまま次工程で使用することもできるし、濃縮、晶析、濾過等によって得られる結晶を次工程に供することもできる。
【0045】
上記リパルプ操作に用いるリパルプ液(洗浄液)としては、水、水溶性有機溶媒、水と水溶性有機溶媒との混合液、又は非極性溶媒と極性溶媒との混合液が好ましい。水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール;アセトンなどのケトン;テトラヒドロフランなどのエーテルなどが挙げられる。水と水溶性有機溶媒との混合液を用いる場合、水と水溶性有機溶媒の割合(重量比)は、通常前者/後者=95/5〜60/40程度、好ましくは90/10〜70/30程度である。非極性溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサンなどの脂肪族又は脂環式炭化水素などが挙げられる。極性溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等の鎖状又は環状エーテルなどが挙げられる。特に好ましいリパルプ液には、水とエタノールの混合溶媒、水とアセトンの混合溶媒などが含まれる。リパルプ液の使用量は、結晶(乾燥重量換算)100重量部に対して、例えば、100〜10000重量部、好ましくは500〜3000重量部、さらに好ましくは1000〜2000重量部程度である。リパルプ操作は、好ましくは攪拌下で行われる。リパルプ操作の温度は、例えば−10℃〜50℃程度である。温度が高いと脱臭素体が生成しやすい。
【0046】
上記再結晶操作に用いる溶媒(再結晶溶媒)としては、水、水溶性有機溶媒、水(貧溶媒)と水溶性有機溶媒(良溶媒)との混合液、非極性溶媒(貧溶媒)と極性溶媒(良溶媒)との混合液が好ましい。水溶性有機溶媒、非極性溶媒、極性溶媒としては、それぞれ前記のものを使用できる。特に好ましい再結晶溶媒は水と水溶性有機溶媒との混合液(例えば、水−アセトン混合液)である。再結晶溶媒として良溶媒と貧溶媒との混合液を用いる場合、良溶媒の使用量は2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸に対して0.1〜100重量倍程度であり、貧溶媒の使用量は良溶媒に対して0.1〜50重量倍程度である。
【0047】
結晶の濾過は慣用の方法により行うことができる。濾過の際の温度は、例えば−10℃〜50℃程度である。乾燥は80℃以下の温度で行うのが好ましい。温度が高いと脱臭素体が生成しやすくなる。乾燥は減圧下で行ってもよい。
【0048】
共沸脱水に用いる有機溶媒としては、水と共沸する溶媒であれば特に限定されず、例えばトルエン等の芳香族炭化水素などを使用できる。
【0049】
また、前記第1工程の反応混合液(又はそれを分液して得た水層)に酸を加え、遊離した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を有機溶媒(例えば、トルエン、酢酸エチル等)と水を用いた抽出操作に付し、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を有機溶媒層に移行させ、次いで、これを濃縮、脱水乾燥(共沸脱水等)、リパルプ、晶析、再結晶、乾燥、カラムクロマトグラフィー等に付して2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を分離精製することもできる。
【0050】
2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の塩は前記第1工程で得られた反応混合液に、濾過、濃縮、抽出、晶析、再結晶、乾燥、カラムクロマトグラフィー等の適当な処理(分離、精製手段)を施すことにより分離できる。また、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の塩は、第2工程で生成した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸に塩基(アルカリ金属含有塩基など)を作用させることにより得ることもできる。
【0051】
反応装置や分離精製に用いる装置(分液装置、晶析装置等)としては、原料や生成物、酸等に腐食されにくいもの[例えば、ガラス製等の非金属製装置、内表面がグラスライニング、テフロン(登録商標)コーティングなど非金属成分により被覆された装置]を用いるのが好ましい。金属製の反応器等を用いると、腐食されるだけでなく、脱臭素体が増加する場合がある。
【0052】
上記本発明の方法によれば、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩を工業的に効率よく製造することができる。また、原料トリブロモ酢酸ハライドとして、不純物としての脱臭素体の含有量が2重量%以下であるトリブロモ酢酸ハライドを用いることにより、脱臭素体の含有量の少ない2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩を得ることができる。さらに、第1工程における反応系の液性を上記特定のpH範囲にコントロールすることにより、前記式(4)で表される2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸又はその塩の含有量の少ない2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩を得ることができる。
【0053】
例えば、本発明の方法により、不純物としての脱臭素体の含有量が2重量%以下(特に1.6重量%以下、とりわけ1重量%以下)である2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩、不純物としての2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸及びその塩の含有量が2重量%以下(特に、1重量%以下、とりわけ0.2重量%以下)である2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩を得ることができる。また、本発明の方法により、水分含有量1重量%以下、トリブロモ酢酸含有量1重量%以下、2−アミノイソ酪酸含有量1重量%以下の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩を得ることができる。
【0054】
なお、脱臭素体や式(4)で表される2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸又はその塩の含有量の多い2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩は、写真薬等の精密化学品に誘導した場合、前記不純物由来の化合物の混入により全体の臭素濃度が低下するため、臭素原子に基づく機能・特性が低下し、所望の性能が発揮されなくなる場合がある。また、水分や、トリブロモ酢酸、2−アミノイソ酪酸は次工程での反応に悪影響を及ぼす。
【0055】
こうして得られる2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩、又はそれらの溶液を保存する場合には、例えば室温以下(特に5℃以下)の温度で、遮光下に保存するのが好ましい。このような条件で保存すると、例えば1ヶ月間又はそれ以上保存しておいても外観及び組成に変化が生じない。遮光しない場合(特に高温保存の場合)には脱臭素体が増加し、外観が黒っぽく変化しやすい。
【0056】
本発明の方法により得られる2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩は、医薬、農薬、写真薬、感光剤等の精密化学品の合成中間体などとして使用できる。
【0057】
[2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドの製造]
本発明の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドの製造法では、下記式(3)で表される2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸と下記式(5)で表されるハロゲン化チオニル等のハロゲン化剤とを反応させて、下記式(6)で表される2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを生成させる。
【化5】
【化6】
【化7】
【0058】
上記式中、Xはハロゲン原子を示す。該ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子などが挙げられる。ハロゲン化剤としては、ハロゲン化反応に通常用いられるものであればよく、例えば、塩化チオニル、ホスゲン、塩化オキザリル、ジクロロトリフェニルホスホラン、塩化ベンゾイル、塩化フタロイル、ピロカテキルホスホ三塩化物、四塩化炭素+トリフェニルホスフィン、1−ジメチルアミノ−1−クロロ−2−メチルプロペン、三塩化リン、五塩化リン等の塩素化剤;臭化チオニル、臭化オキザリル、ジブロモトリフェニルホスホラン、臭化ベンゾイル、臭化フタロイル、ピロカテキルホスホ三臭化物、四臭化炭素+トリフェニルホスフィン、1−ジメチルアミノ−1−ブロモ−2−メチルプロペン、三臭化リン、五臭化リン、トリブロモボラン+アルミナなどの臭素化剤などが挙げられる。これらの中でも、代表的なハロゲン化剤には、塩化チオニル、臭化チオニルなどのハロゲン化チオニル等が含まれる。
【0059】
2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸としては、例えば、上記の方法で得られる2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を使用できる。2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸としては、不純物としての2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の脱臭素体の含有量が2重量%以下(特に、1.6重量%以下)の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸、不純物としての2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸の含有量が2重量%以下(特に、1重量%以下)の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を用いるのが好ましい。脱臭素体の含有量の多い2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を用いると、該脱臭素体がハロゲン化されて2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドの脱臭素体となり、これが製品2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライド中に混入しやすくなる。また、2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸の多い2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を用いると、2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸がハロゲン化されて下記式(7)で表される2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸ハライドとなり、これが製品2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライド中に混入しやすくなる。式(7)中、Xは前記と同様である。
【化8】
【0060】
2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸として、共沸脱水処理を施した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の結晶、溶液又はスラリーを用いてもよい。例えば、前記2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩の製造法において、湿結晶として得た2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸にトルエン等の水と共沸可能な有機溶媒を加えて共沸脱水することにより、水分含量の少ない2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を含む溶液又はスラリーを得、これを本方法の原料として用いることができる。この方法によれば、工程を簡略化でき、生産性を向上できる。
【0061】
ハロゲン化剤の使用量は、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸1モルに対して、2モル以下(例えば0.9〜2モル)が好適であり、より好ましくは1.0〜1.5モル、さらに好ましくは1.1〜1.3モル程度である。ハロゲン化剤の使用量が少なすぎると反応混合物中に未反応の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸が残存し、逆に多すぎると、副反応の増大、目的物の収率の低下、反応後の後処理の煩雑化などの問題が生じやすくなる。
【0062】
反応は溶媒の存在下又は非存在下の何れで行ってもよいが、操作性等の点からは溶媒中で行うのが好ましい。反応溶媒としては有機溶媒が好ましい。有機溶媒として、例えば、ペンタン、ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素;アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル;酢酸エチルなどのエステル;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサンなどの鎖状又は環状エーテル;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン;N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)などのアミド又はウレア系溶媒;スルホランなどのイオウ原子含有溶媒;これらの混合溶媒などが挙げられる。これらの中でも、脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素などの炭化水素、ニトリル、エーテルなどが好ましく、特にトルエン等の芳香族炭化水素が好適である。なお、反応を損なわない範囲で水を溶媒として用いることもできる。
【0063】
有機溶媒の使用量は、反応液の攪拌等の操作性や反応性を損なわない範囲で適宜選択できるが、一般には、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸100重量部に対して、50重量部以上(例えば、50〜2000重量部程度)、好ましくは100重量部以上(例えば、100〜1000重量部程度)、さらに好ましくは150重量部以上(例えば、150〜800重量部程度)である。有機溶媒の量が少なすぎると、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸が固体で且つ溶媒に溶解しにくいことから攪拌が困難になり、これを回避するためにハロゲン化チオニルの量を増加すると、副反応の増大、目的物の収率の低下、反応後の後処理の煩雑化などの問題が生じやすくなる。また、有機溶媒の量が多すぎると、反応速度が遅くなるとともに、溶媒の回収にコストがかかるという問題が生じやすい。
【0064】
反応には、反応速度を速くするため触媒を用いてもよい。触媒としては、ハロゲン化チオニルを用いてハロゲン化する際に通常用いられる触媒を使用でき、代表的な触媒にはN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ピリジン等が含まれる。触媒の使用量は、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸100重量部に対して、例えば0.001〜30重量部、好ましくは0.1〜10重量部、さらに好ましくは1〜5重量部程度である。また、触媒の使用量は2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸1モルに対して、0.01〜0.5モル程度であってもよい。
【0065】
反応温度は反応速度や反応の選択性を考慮しつつ適宜選択でき、通常110℃以下(例えば、20〜80℃程度)であるが、反応温度を65℃以下(例えば、20〜65℃)にコントロールしつつ反応させるのが好ましい。反応温度は、さらに好ましくは30〜65℃、特に好ましくは40〜60℃程度である。反応温度が低すぎる場合には、反応速度が遅くなりやすい。反応温度が65℃を超えると、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドの脱臭素体(2−ジブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドなど)等の副生物が生成しやすくなる。これらの副生物は、簡単な精製によっては完全に除去することが困難なため、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを用いて各種精密化学品に誘導する際、前記副生物由来の不純物が製品の純度や性能に悪影響を及ぼす場合がある。例えば、脱臭素体の含有量の多い2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを用いて写真薬などを製造する場合には、前記脱臭素体由来の化合物の混入により全体の臭素濃度が低下するため、臭素原子に基づく機能・特性が低下し、所望の性能が発揮されなくなる場合がある。
【0066】
反応は、回分式、半回分式、連続式の何れの方式で行うこともできる。この反応では通常ガス(例えば、ハロゲン化チオニル等を用いた場合にはハロゲン化水素及び二酸化硫黄)が副生するので、このガスの急激な発生を抑制するためには、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸とハロゲン化剤のうち少なくとも一方を系内に逐次添加して反応を行うのが好ましい。本発明の好ましい態様では、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸と有機溶媒の混合液中に、ハロゲン化剤又はハロゲン化剤と有機溶媒の混合液を逐次添加して反応を進行させる。逐次添加は間欠添加、連続添加の何れであってもよい。また、触媒として、DMF等を用いる場合には、触媒と2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸とはニートで接触すると副反応が生じて収率が低下するので、これらは有機溶媒中で接触させるのが好ましい。例えば、触媒の有機溶媒溶液中に2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を加えるか、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の有機溶媒溶液中に触媒を添加する。
【0067】
反応の雰囲気は特に限定されず、空気雰囲気下、不活性ガス雰囲気下の何れであってもよい。系内は湿気を少なくしておくのが望ましく、反応は遮光下に行うのが好ましい。反応圧力は、常圧、加圧、減圧の何れであってもよい。反応器としては、原料や生成物に腐食されにくいもの[例えば、ガラス製等の非金属製反応器、内表面がグラスライニング、テフロン(登録商標)コーティングなど非金属成分により被覆された反応器]を用いるのが好ましい。金属製の反応器を用いると、脱臭素体が増加する場合がある。また、塩化チオニルや塩化オキザリルなどを用いた場合には、反応を通じて二酸化硫黄や塩化水素などの酸性の気体が発生するので、これを排出し、無害化する方法を講じるのが好ましい。例えば、反応器内に窒素やアルゴンなどの不活性ガスを流通させ、酸性ガスを含む排出ガスをアルカリ水と接触させる手法がある。
【0068】
反応終了後、反応で副生したハロゲン化水素及び二酸化硫黄、並びに反応溶媒(有機溶媒)を留去することにより、蒸留残渣として2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを得ることができる。反応溶媒等を留去する際の温度(液温)は、特に制限されず、例えば110℃以下の温度を採用できるが、温度が高すぎると、操作中に脱臭素化により前記脱臭素体が生成するため、好ましくは65℃以下、さらに好ましくは60℃以下である。脱溶媒操作は、常圧下、減圧下の何れで行ってもよい。
【0069】
本発明の方法によれば、高い収率で2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドが生成するので、反応溶媒等を留去するだけで、純度の高い2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを取得できるが、必要に応じて晶析、濾過、再結晶、蒸留、抽出、カラムクロマトグラフィーその他の方法により精製してもよい。また、歩留まり、安全性、作業性等を考慮して、反応混合液をそのまま、又は反応で副生したハロゲン化水素や二酸化硫黄を除去した溶液、或いは適当な溶媒(例えば、次工程で用いる溶媒)で溶媒置換した溶液を次の工程で用いることもできる。結晶を乾燥する際は、50℃以下の温度(好ましくは30℃以下の温度)で乾燥(真空乾燥等)するのが好ましい。高温で乾燥すると目的物が昇華するおそれがある。
【0070】
また、本発明の方法によれば、例えば、原料2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸として脱臭素体の含有量が少ない2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を用いたり、反応温度を特定の温度以下にコントロールしたり、反応混合液の脱溶媒操作を低温で行うことにより、脱臭素体の含有量の少ない2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを得ることができる。さらに、原料2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸として2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸の含有量の少ない2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を用いることにより、2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸ハライドの含有量の少ない2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを得ることができる。例えば、本発明の方法により、不純物としての脱臭素体の含有量が3重量%以下(特に2重量%以下、とりわけ1重量%以下)である2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライド、不純物としての2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸ハライドの含有量が2重量%以下(特に1重量%以下、とりわけ0.2重量%以下)である2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを得ることができる。
【0071】
なお、脱臭素体や式(7)で表される2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸ハライドの含有量の多い2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドは、上記と同様、写真薬等の精密化学品に誘導した場合、前記不純物由来の化合物の混入によって臭素濃度が低くなって臭素原子に基づく機能・特性が低下し、所望の性能が発揮されなくなる場合がある。
【0072】
こうして得られる2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライド又はその溶液を保存する場合には、例えば室温以下(特に5℃以下)の温度で、遮光下に保存するのが好ましい。このような条件で保存すると、例えば1ヶ月間又はそれ以上保存しておいても外観及び組成に変化が生じない。遮光しない場合(特に高温保存の場合)には脱臭素体が増加し、外観が黒っぽく変化しやすい。
【0073】
本発明の方法により得られる2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドは、医薬、農薬、写真薬、感光剤等の精密化学品の合成中間体などとして使用できる。
【0074】
【発明の効果】
本発明によれば、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩を工業的に効率よく製造することができる。
また、本発明によれば、不純物含有量の少ない高純度の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩と、その製造法が提供される。
さらに、本発明によれば、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを工業的に効率よく製造することができる。
さらにまた、本発明によれば、不純物含有量の少ない高純度の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドと、その製造法が提供される。
【0075】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、生成物の定量は高速液体クロマトグラフィー等により行った。また、生成物(脱臭素体等の副生物を含む)の同定はLC−MS、1H−NMRスペクトル等により行った。
【0076】
製造例1
1Lのガラス製の反応容器に、トリブロモ酢酸200g(0.67モル)(トリブロモ酢酸の脱臭素体の含有量0.2重量%)、トルエン400g、及びN,N−ジメチルホルムアミド4.9gを入れた。この混合液(スラリー)に、攪拌下、塩化チオニル88.2g(0.74モル)を2時間かけて滴下した。この間、液温を75〜80℃に調整した。反応液は次第に均一溶液となった。さらに同温度で2時間熟成した後、液温を70℃以下に保持しながら、減圧下にトルエン及び副生揮発成分を留去することにより、トリブロモ酢酸クロリド(純度92.6重量%、トルエン5.7重量%含む)を213g得た。反応収率は99.6%、一貫収率は92.7%であった。なお、トリブロモ酢酸クロリド中には、不純物として脱臭素体(ジブロモ酢酸クロリド)が1.4重量%含まれていた。
【0077】
実施例1
2−アミノイソ酪酸6.0g(59.2ミリモル)、8重量%水酸化ナトリウム水溶液29.4g(58.6ミリモル)の混合液(pH12.1、室温)に、トリブロモ酢酸クロリド(脱臭素体含有量1.4重量%)20.26g(64.1ミリモル)及びトルエン20.26gの混合液を1時間かけて逐次添加した。この際8重量%水酸化ナトリウム水溶液42.0g(84.0ミリモル)を同時に逐次添加して反応温度を−5℃〜−1℃、反応系のpHを12.9〜13.3の範囲に管理した。さらに、同じ管理幅で2時間攪拌した。反応混合液を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸のナトリウム塩が69%の収率で生成していた。
【0078】
実施例2
2−アミノイソ酪酸6.0g(59.2ミリモル)、8重量%水酸化ナトリウム水溶液20.26g(54.9ミリモル)の混合液(pH11.6、室温)に、トリブロモ酢酸クロリド(脱臭素体含有量1.4重量%)20.26g(64.1ミリモル)及びトルエン20.26gの混合液を1時間かけて逐次添加した。この際8重量%水酸化ナトリウム水溶液41.21g(82.4ミリモル)を同時に逐次添加して反応温度を−5℃〜−1℃、反応系のpHを12.2〜12.8の範囲に管理した。さらに、同じ管理幅で2時間攪拌した。反応混合液を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸のナトリウム塩が68%の収率で生成していた。
【0079】
実施例3
2−アミノイソ酪酸55.4g(0.54モル)、8重量%水酸化ナトリウム水溶液266.7g(0.54モル)の混合液(pH12.1、室温)に、トリブロモ酢酸クロリド(脱臭素体含有量1.4重量%)191.5g(0.58モル)及びトルエン191.5gの混合液を1.5時間かけて逐次添加した。この際8重量%水酸化ナトリウム水溶液400.0g(0.80モル)を同時に逐次添加して反応温度を−5℃〜−1℃、反応系のpHを13.0〜13.4の範囲に管理した。さらに、同じ管理幅で2時間攪拌した。反応混合液を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸のナトリウム塩が64%の収率で生成していた。
反応混合液に水220.0gを加えた後、分液し、水層に濃塩酸(37重量%)138.0g(1.41モル)を20℃以下で攪拌しながら加え、析出した結晶を濾過し、水138gでリンスした。得られたクリーム状の湿結晶をエタノール314.4gで懸濁し、水1193gを加えて室温で1時間攪拌することによりリパルプ操作を行った。結晶を濾過し、水498gでリンスし、70℃で24時間、減圧乾燥することにより、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸121.9gを得た。一貫収率は60%であった。不純物としての脱臭素体(水素体)の含有量は0.1重量%、2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸の含有量は0.06重量%であった。
[2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸のスペクトルデータ]
1H−NMR(500MHz, DMSO−d6) δ:1.40(s, 6H, CH3), 8.60(s, 1H, NH), 12.70(brs, 1H, COOH)
[2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の脱臭素体のスペクトルデータ]
1H−NMR(500MHz, DMSO−d6) δ:1.40(s, 6H, CH3), 5.80(s, 1H, CBr2H),8.55(s, 1H, NH), 12.70(brs, 1H, COOH)
[2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸のスペクトルデータ]
1H−NMR(500MHz, DMSO−d6) δ:1.88(s, 6H, CH3), 1.54(s, 6H, CH3), 7.72(s, 1H, NH), 8.10(s, 1H, NH), 12.70(brs, 1H, COOH)
【0080】
実施例4
2−アミノイソ酪酸6.1g(59.3ミリモル)、8重量%水酸化ナトリウム水溶液29.2g(58.4ミリモル)の混合液(pH12.0、室温)に、トリブロモ酢酸クロリド(脱臭素体含有量1.4重量%)22.1g(64.2ミリモル)及びトルエン22.1gの混合液を1時間かけて逐次添加した。この際8重量%水酸化ナトリウム水溶液44.4g(88.8ミリモル)を同時に逐次添加して反応温度を−5℃〜−1℃、反応系のpHを13.0〜13.2の範囲に管理した。さらに、同じ管理幅で2時間攪拌した。反応混合液を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸のナトリウム塩が64%の収率で生成していた。
反応混合液に水24.0gを加えた後、分液し、水層に濃塩酸(37重量%)15.1g(153.6ミリモル)を20℃以下で攪拌しながら加え、析出した結晶を濾過した。得られたクリーム状の湿結晶にアセトン31.0gを加え、50℃で溶解した混合液に水62.3gを加え、50℃で30分攪拌した後、0℃で1時間攪拌した。析出した結晶を濾別して水12.0gでリンスし、70℃で減圧乾燥することにより、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸12.4gを得た。一貫収率は56%であった。不純物としての脱臭素体(水素体)の含有量は0.6重量%、2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸の含有量は0.04重量%であった。
【0081】
実施例5
2−アミノイソ酪酸6.1g(59.3ミリモル)、8重量%水酸化ナトリウム水溶液29.2g(58.4ミリモル)の混合液(pH12.0、室温)に、トリブロモ酢酸クロリド(脱臭素体含有量1.4重量%)22.1g(64.2ミリモル)及びトルエン22.1gの混合液を1時間かけて逐次添加した。この際8重量%水酸化ナトリウム水溶液44.4g(88.8ミリモル)を同時に逐次添加して反応温度を−5℃〜−1℃、反応系のpHを13.0〜13.2の範囲に管理した。さらに、同じ管理幅で2時間攪拌した。反応混合液を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸のナトリウム塩が64%の収率で生成していた。
反応混合液に水24.0gを加えた後、分液し、水層に濃塩酸(37重量%)15.1g(153.6ミリモル)を20℃以下で攪拌しながら加え、析出した結晶を濾過した。得られたクリーム状の湿結晶にアセトン31.0gを加え、50℃で溶解した混合液に水62.3gを加え、50℃で30分攪拌した後、0℃で1時間攪拌した。析出した結晶を濾別して水12.0gでリンスした。この湿結晶15.1gにトルエン60.5gを加え、水を共沸脱水により除去することにより、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸のトルエン溶液を得た。このトルエン溶液は次工程に供される。
【0082】
実施例6
2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸25g[61.7ミリモル;純度94.3重量%;不純物としての脱臭素体の含有量1.2重量%、2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸の含有量0.6重量%]、トルエン125g、及びN,N−ジメチルホルムアミド0.45g(6.2ミリモル)の混合液に塩化チオニル8.82g(74.1ミリモル)を1時間かけて加え、50℃で4時間攪拌した。反応混合液を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸クロリドが96%の収率、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸クロリドの脱臭素体が1.7%の収率で生成していた。
反応混合液を、液温50℃以下、圧力30〜100Torr(4〜13.3kPa)で濃縮率[(釜残重量/仕込重量)×100]23重量%まで減圧濃縮した。濃縮液58.0gをアセトニトリル98.8gに溶解して、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸クロリドのアセトニトリル溶液を得た。このアセトニトリル溶液は次工程に供される。
【0083】
実施例7
2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸25g[61.7ミリモル;純度94.3重量%;不純物としての脱臭素体の含有量1.2重量%、2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸の含有量0.6重量%]、トルエン125g、及びN,N−ジメチルホルムアミド0.45g(6.2ミリモル)の混合液に塩化チオニル8.82g(74.1ミリモル)を加え、40℃で1時間、50℃で1時間、60℃で4時間攪拌した。反応混合液を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸クロリドが84%の収率、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸クロリドの脱臭素体が5.4%の収率で生成していた。
反応混合液を、液温60℃以下、圧力30〜100Torr(4〜13.3kPa)で減圧濃縮した。濃縮残渣にヘキサン18.1gを加え、60℃で攪拌し溶解させた。これを熱濾過に供し、ヘキサン不溶物を除去し、濾液を10℃で冷却し晶析させた。析出した結晶を濾別し、室温で乾燥させることにより、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸クロリドを得た(収率64%)。不純物としての2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸クロリドの脱臭素体の含有量は、0.62重量%、不純物としての2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸クロリドの含有量は0.2重量%であった。
[2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸クロリドのスペクトルデータ]
1H−NMR(500MHz, DMSO−d6) δ:1.59(s, 6H, CH3), 7.25(s, 1H, NH)
[2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸クロリドの脱臭素体のスペクトルデータ]
1H−NMR(500MHz, DMSO−d6) δ:1.59(s, 6H, CH3), 5.80(s, 1H, CBr2H),7.75(s, 1H, NH)
[2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸クロリドのスペクトルデータ]
1H−NMR(500MHz, DMSO−d6) δ:1.48(s, 6H, CH3), 1.78(s, 6H, CH3), 7.52(s, 1H, NH), 8.05(s, 1H, NH)
Claims (18)
- トリブロモ酢酸ハライドと2−アミノイソ酪酸とを、アルカリ金属含有塩基の存在下、系の液性をpH10〜pH14の範囲にコントロールしつつ反応させることを特徴とする2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩の製造法。
- トリブロモ酢酸ハライドと2−アミノイソ酪酸との反応生成物を酸で処理して2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を生成させる工程を含む請求項1記載の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩の製造法。
- 2−アミノイソ酪酸とアルカリ金属含有塩基とを含む水溶液中に、トリブロモ酢酸ハライドを含む溶液とアルカリ金属含有塩基を含む水溶液とを別々に添加してpHを調整しつつ、トリブロモ酢酸ハライドと2−アミノイソ酪酸とを反応させる請求項1記載の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩の製造法。
- トリブロモ酢酸ハライドと2−アミノイソ酪酸との反応工程において、用いる水の量の総和が、2−アミノイソ酪酸100重量部に対して500重量部以上である請求項3記載の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩の製造法。
- トリブロモ酢酸ハライドとして、不純物としてのトリブロモ酢酸ハライドの脱臭素体の含有量が2重量%以下であるトリブロモ酢酸ハライドを用いる請求項1〜4の何れかの項に記載の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩の製造法。
- (i)生成した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を水、水溶性有機溶媒、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒、又は非極性溶媒と極性溶媒との混合溶媒を用いて晶析又は再結晶する工程、(ii)生成した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を水、水溶性有機溶媒、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒、又は非極性溶媒と極性溶媒との混合溶媒を用いてリパルプする工程、(iii)生成した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を共沸脱水処理に付す工程、及び(iv)生成した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を水と、水に対して分液可能な有機溶媒とを用いた抽出処理に付し、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を有機溶媒層に分配する工程から選択された少なくとも1つの工程を含む請求項2〜5の何れかの項に記載の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩の製造法。
- 不純物としての脱臭素体の含有量が2重量%以下である2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩。
- 不純物としての2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸及びその塩の含有量が2重量%以下である2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩。
- 2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸に、該2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸1モルに対して2モル以下のハロゲン化剤を反応させて、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを生成させることを特徴とする2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドの製造法。
- 2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸とハロゲン化剤とを有機溶媒中で反応させて2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを生成させることを特徴とする2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドの製造法。
- 2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸とハロゲン化剤とを反応温度を65℃以下にコントロールしつつ反応させて2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを生成させることを特徴とする2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドの製造法。
- 2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸とハロゲン化剤との反応を触媒の存在下で行うと共に、2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸と該触媒との接触は有機溶媒を介して行う請求項9〜11の何れかの項に記載の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドの製造法。
- 2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸として、共沸脱水処理を施した2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の結晶、溶液又はスラリーを用いる請求項9〜12の何れかの項に記載の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドの製造法。
- 2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸として、不純物としての2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸の脱臭素体の含有量が2重量%以下の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を用いる請求項9〜13の何れかの項に記載の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドの製造法。
- 2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸として、不純物としての2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸の含有量が2重量%以下の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸を用いる請求項9〜14の何れかの項に記載の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドの製造法。
- 2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸とハロゲン化剤とを有機溶媒中で反応させて2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを生成させる反応工程と、反応混合物から有機溶媒を65℃以下の温度で留去し、蒸留残渣として2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドを得る精製工程とを含む請求項9〜15の何れかの項に記載の2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドの製造法。
- 不純物としての脱臭素体の含有量が3重量%以下である2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライド。
- 不純物としての2−(2−トリブロモアセチルアミノイソブチリルアミノ)イソ酪酸ハライドの含有量が2重量%以下である2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライド。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2002232806A JP2004067644A (ja) | 2002-08-09 | 2002-08-09 | 2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩及び2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドの製造法 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2002232806A JP2004067644A (ja) | 2002-08-09 | 2002-08-09 | 2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩及び2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドの製造法 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2004067644A true JP2004067644A (ja) | 2004-03-04 |
Family
ID=32018094
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2002232806A Pending JP2004067644A (ja) | 2002-08-09 | 2002-08-09 | 2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩及び2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドの製造法 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2004067644A (ja) |
-
2002
- 2002-08-09 JP JP2002232806A patent/JP2004067644A/ja active Pending
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
JP4872668B2 (ja) | 2−アミノ−5−ヨード安息香酸の製造方法 | |
KR101461259B1 (ko) | 톨루이딘 화합물의 제조 방법 | |
JP2006188449A (ja) | 環式ジスルホン酸エステルの製造方法 | |
JP2004067644A (ja) | 2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸又はその塩及び2−トリブロモアセチルアミノイソ酪酸ハライドの製造法 | |
JP3986200B2 (ja) | 3−シアノテトラヒドロフランの製造法 | |
JP2005154442A (ja) | バルサルタンおよびその中間体を調製する方法 | |
JP4658806B2 (ja) | 3−クロロメチル−3−セフェム誘導体の製造方法 | |
JP3011493B2 (ja) | 4−アルキル−3−チオセミカルバジドの製造方法 | |
JP5188475B2 (ja) | 2−(3−ニトロベンジリデン)アセト酢酸イソプロピルの製造方法 | |
JP2009242370A (ja) | トルイジン化合物の製造方法 | |
JP2003534335A (ja) | 2‐クロル‐5‐クロルメチル‐1,3‐チアゾールの製法 | |
JP3537050B2 (ja) | 3−クロロメチル−3−セフェム誘導体結晶の製造方法 | |
JP2002114774A (ja) | 3,4−メチレンジオキシマンデル酸の製造方法 | |
JP2009221185A (ja) | トルイジン化合物の製造方法 | |
JP4271924B2 (ja) | 4−メルカプトフェノール類の製造方法 | |
JP2001206883A (ja) | 3,4−メチレンジオキシマンデル酸の製造法 | |
JPS62298546A (ja) | アニスアルデヒドの製造法 | |
JPH04221354A (ja) | ターシャリーブチルヒドラジンの製造方法 | |
JP3332207B2 (ja) | 3,3−ジクロロ−1,1,1−トリフルオロアセトンの蒸留方法 | |
JP4739695B2 (ja) | 5−アミノ―1―置換―1,2,4―トリアゾールの製造方法、及び該製造方法で得られるトリアゾール誘導体 | |
JP2021095378A (ja) | ケトン誘導体の製造方法 | |
JP5688696B2 (ja) | 2−アルキルイミダゾール−4,5−ジカルボン酸の製造方法 | |
JP4032825B2 (ja) | 3,4−ジヒドロキシベンゾニトリルを製造する方法 | |
JP2004075616A (ja) | 4−ハロゲノ−2−(4−フルオロフェニルアミノ)−5,6−ジメチルピリミジンの製造方法 | |
JP2010536722A (ja) | アルカリ金属およびアルカリ土類金属トリシアノメタニドを製造および精製する方法 |