JP2004058049A - 膜形成方法 - Google Patents

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Tokuo Shibata
柴田 徳夫
Junji Nakada
中田 純司
Atsushi Fujinawa
藤縄 淳
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Abstract

【課題】高温条件で形成した、および/または、高温処理を施した、結晶性が高い高品質な膜を、プラスチック材料等の非耐熱性の成膜基板に効率よく形成できる膜形成方法を提供する。
【解決手段】膜を形成される基板よりも高い耐熱性を有する耐熱性部材の表面に、基板の耐熱温度よりも高温の工程を含む膜形成プロセスで、少なくとも1層の膜を形成した後、基板の耐熱温度未満の温度で、耐熱性部材に形成した膜を基板の表面に転写することにより、前記課題を解決する。
【選択図】図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は膜形成の技術分野に属し、詳しくは、プラスチックフィルム等の耐熱性を有さない成膜基板に、高温の工程を含んで形成された高品位な膜を形成できる膜形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
液晶ディスプレイ等の製造における透明電極の形成、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイの製造における発光体層の形成、磁気記録媒体の製造等、各種の用途において膜形成プロセスが利用されている。
このような膜形成プロセスとしては、スパッタリング、抵抗加熱や電子ビーム加熱などを用いる真空蒸着、イオンプレーティング、CVDなどの真空膜形成プロセス(ドライプロセス)や、成膜材料を含有する塗料を調整して成膜部材に塗布して、溶媒の除去、電子線やUVの照射、ゾル/ゲル変換などによって塗料を硬化するウエットの膜形成プロセスが知られている。
両者は、膜形成プロセスとしては、全く異なる方法であるが、いずれにしても、成膜される基板に、直接、膜を形成するのが通常である。
【0003】
ここで、真空膜形成プロセスでは、低温よりも高温で成膜を行う方が、結晶性が高い高品質な膜を形成できることが知られている。また、ゾル/ゲル変換やナノ粒子による膜形成のような、高温での化学反応工程などを含む膜形成プロセスでも、高温で反応を行う方が同様に高品質な膜を形成でき、場合によっては、低温ではゾル/ゲル変換等の化学反応が進行しない場合もある。さらに、このような高温下での成膜を行わない膜形成プロセスであっても、膜形成後にアニーリングなどの高温処理を行うことにより、より高品質な膜を形成できることも知られている。
すなわち、多くの膜形成プロセスにおいては、高温での成膜や高温での処理を行うことにより、より高品質な膜を形成できる。
【0004】
例えば、液晶ディスプレイ等において透明電極として利用されるインジウム−錫酸化膜を真空膜形成プロセスで形成する場合には、低温条件で形成された膜よりも、高温条件で形成された膜の方が、結晶性が向上し、その結果、より抵抗値の低いインジウム−錫酸化物膜の透明電極を形成することができる。
また、ハードディスク等の磁気記録媒体の磁性層として利用されるコバルト−クロムを主成分とする磁性膜も、同様に、低温条件で形成された膜よりも、高温条件で形成された膜の方が、結晶性が向上し、その結果、粒子を微細化して、より磁気特性に優れるコバルト−クロムを主成分とする磁性膜を形成できる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、このような膜形成プロセスにおいて、成膜基板として、プラスチックフィルム等の耐熱性が低い基板を用いる場合には、基板の受ける熱ダメージを考慮すると、高温での成膜を行うことはできない。
そのため、耐熱性を有する基板に高温条件で形成した膜や、高温処理した膜に比べ、性能の劣る膜となってしまう。
【0006】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解決することにあり、高温条件で形成した、および/または、高温処理を施した、結晶性が高い高品質な膜を、プラスチック材料等の非耐熱性の成膜基板の表面に効率よく形成できる膜形成方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、本発明の膜形成方法は、膜を形成される基板よりも高い耐熱性を有する耐熱性部材の表面に、前記基板の耐熱温度よりも高温の工程を含む膜形成プロセスで、少なくとも1層の膜を形成した後、前記基板の耐熱温度未満の温度で、前記耐熱性部材に形成した膜を基板の表面に転写することを特徴とする膜形成方法を提供する。
【0008】
このような本発明の膜形成方法において、前記耐熱性部材表面への膜形成プロセスが80℃以上の工程を含むのが好ましく、また、前記耐熱性部材の表面に形成する膜が、連続膜およびパターン膜の少なくとも一方であるのが好ましく、さらに、耐熱性部材から成膜基板表面への膜転写回数が1回以上であるのが好ましい。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の膜形成方法について、詳細に説明する。
本発明の膜形成方法は、各種の(成膜)基板、特に、プラスチックフィルム等の耐熱性の低い基板(以下、便宜的に、この基板を非耐熱性基板と称する)に、非耐熱性基板の耐熱温度を超える高温条件で形成した膜や、同耐熱温度を超える高温処理を施した膜(以下、便宜的に、このような膜を高温生成した膜とする)を、熱による悪影響を与えることなく形成することを可能にするものであり、耐熱性部材の表面に高温生成した膜を形成し、この膜を非耐熱性基板に転写することにより、これを実現するものである。
【0010】
本発明において、耐熱性部材とは、実施する膜形成プロセスにおける最高温度に対して十分な耐熱性を有する、任意の部材である。
具体的には、各種の金属材料や金属化合物、各種のセラミックス材料、アラミドやポリイミドなどの耐熱性樹脂、ガラス、布、革、木材、紙、ボール材等から形成された、各種の部材が利用可能である。
【0011】
耐熱性部材の耐熱温度には、特に限定はなく、実施する膜形成プロセスの最高温度に応じて、十分な耐熱性を発現できる耐熱温度を有するものを、適宜、選択すればよいが、好ましくは、150℃以上、特に、200℃以上の耐熱温度を有するのが好ましい。
【0012】
なお、本発明において、耐熱性部材の耐熱温度とは、膜の形成、膜の品質や組成、非耐熱性基板への膜の転写等に悪影響を及ぼすような変化が、耐熱性部材に生じてしまう温度である。
具体的には、耐熱性部材が金属である場合には融点が、同セラミックス材料である場合には分解温度や変性温度や発火温度が、同ガラスである場合にはガラス転移点(Tg)が、同耐熱性樹脂である場合にはガラス転移点や分解温度が、同ガラス、布、革、木材、紙、ボール材などである場合には分解温度や変性温度や発火温度等が、それぞれ、例示される。
【0013】
耐熱性部材の形状には、特に限定はなく、非耐熱性基板への膜の転写が可能であれば、任意の形状が利用可能である。
例えば、任意形状の膜形成面(すなわち転写面)を有する、平面領域のあるプレート、球面、円柱や矩形柱などの不連続的(ディスクリート=discrete) な部材であってもよく、金属ストリップなどのウェブ状の連続部材であってもよく、ドラム状の部材であってもよく、さらに、エンドレスベルト状であってもよい。また、耐熱性部材がディスクリートな部材である場合には、異なる面に複数の膜形成面を有してもよい。
【0014】
ここで、本発明の膜形成方法においては、前述のように、耐熱性部材の表面に高温生成した膜を形成し、この膜を非耐熱性基板に転写する。
従って、耐熱性部材は、膜の剥離性が良好であるほうが好ましいのは当然のことであり、そのために、必要に応じて、耐熱性部材からの膜の剥離性を向上するための処理を施すのが好ましい。
【0015】
一例として、膜の形成に先立ち、耐熱性部材の膜形成面に、シリコーン層、フッ素樹脂層、撥水層、金などの不活性物質からなる層などの剥離層を、塗布、真空蒸着などの真空成膜法、プラズマ重合等によって直接形成する方法が例示される。
また、膜の形成に先立ち、耐熱性部材の膜形成面にカーボン膜形成等の処理を行って、膜形成面を不活性化してもよい。
さらに、スパッタリングなどの真空膜形成プロセスでは、一般的に、成膜時における運動エネルギが低い程、剥離しやすい膜が形成できる。そのため、真空膜形成プロセスを利用する際には、成膜開始時には低いエネルギで膜形成を行って、耐熱性部材の表面に剥離用の下地層を形成した後に、目的とする膜に応じたエネルギで成膜を行うようにしてもよい。
【0016】
また、耐熱性部材からの膜の剥離性を良好にする手段としては、これらの方法以外にも、耐熱性部材の表面に金属酸化膜を形成する方法、真空中あるいは大気中において耐熱性部材の表面にコロナ放電やその他のプラズマ表面処理を施す方法等の各種の方法が利用可能である。
【0017】
一方、本発明において、非耐熱性基板とは、最終的に、その表面に前記高温生成された膜を形成される任意の基板である。
具体的には、各種の樹脂(プラスチック)、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体などのポリエステルフィルム; ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリペンテンなどのポリオレフィンフィルム; エチレン/ビニルアルコール共重合体フィルム; ポリカーボネートフィルムなど、各種のプラスチックフィルムが例示される。また、これ以外にも、各種の金属や金属化合物、各種のセラミック材料、布、革、木材、紙、ボール材等で形成された基板も利用可能である。
【0018】
ここで、非耐熱性基板の耐熱温度とは、溶融や変形、熱ダメージによる損傷等を生じて、成膜基板や製品としての作用を成せなくなる温度である。
具体的には、非耐熱性基板が樹脂(プラスチック)製であればガラス転移点や分解温度が、金属や金属化合物であれば融点や分解温度が、ガラスであればガラス転移点が、セラミック材料、布、革、木材、紙、ボール材などであれば分解温度や変性温度や発火温度が、それぞれ、例示される。
【0019】
非耐熱性基板の形状にも、特に限定はなく、膜を形成した非耐熱性基板の用途に応じた各種の形状が利用可能であり、また、ディスクリートな基板であっても、プラスチックフィルムのようなウェブ状の連続的な基板であってもよい。
【0020】
本発明の膜形成方法においては、前述のように、耐熱性部材の表面に高温生成した膜を形成し、この膜を非耐熱性基板に転写する。
従って、非耐熱性基板は、膜の密着性が良好である方が好ましいのは当然のことであり、そのために、必要に応じて、非耐熱性基板の膜の密着性を向上するための処理を施すのが好ましい。
【0021】
一例として、転写に先立って、電子線照射、オゾン処理、コロナ放電、グロー放電等の表面処理を行って、非耐熱性基板の表面(転写面)を活性化処理しておく方法が例示される。
また、転写に先立って、非耐熱性基板の表面に接着層や粘着層を形成しておく方法も、好適である。なお、使用する接着剤等は、転写される膜の種類、膜を形成された非耐熱性基板の用途等に応じて、適宜、選択すればよい。
【0022】
以下、このような耐熱性部材および非耐熱性基板を用いた、本発明の膜形成方法について、より詳細に説明する。
【0023】
本発明の膜形成方法においては、まず、前述のような耐熱性部材の表面に、非耐熱性基板に形成する膜を形成する。
膜形成プロセスには特に限定はなく、各種の方法が利用可能である。
具体的には、スパッタリング、真空蒸着、イオンプレーティング、CVD(Chemical Vapor Deposition) 等の真空膜形成プロセスであってもよく、また、膜形成される材料を含有する塗料を調整して、スピンコート等の公知の方法で耐熱性部材の表面に塗布し、乾燥による溶媒の除去、電子線や紫外線照射、ゾル/ゲル変換等によって膜を硬化するウエットの膜形成プロセスであってもよい。なお、膜形成プロセスには、アニーリング等の膜形成後の後処理を含んでもよい。
必要に応じて、耐熱性部材からの膜の剥離性を向上するための処理を行うのが好ましいのは、前述のとおりである。
【0024】
ここで、前述のように、真空膜形成プロセスやウエット膜形成プロセス等による膜の形成においては、低温よりも、膜を高温生成する方が、結晶性の高い緻密で高品質な膜を形成できる場合が多い。
例えば、スパッタリングによるインジウム−錫酸化膜の形成であれば、150℃〜450℃で膜の形成を行うのが好ましく、コバルト−クロムを主成分とする磁性膜の形成であれば、100℃〜300℃で膜の形成を行うのが好ましい。
これらの温度は、いずれも、通常のプラスチックフィルムのような耐熱性の低い材料の耐熱温度を超え、言い換えれば、このような条件でプラスチックフィルムに膜形成を行うことは、非常に困難である。
【0025】
本発明の膜形成方法は、このような耐熱性の低い材料の耐熱温度を超える、高温条件下による膜形成プロセスに対応するものであり、耐熱性部材の表面への膜形成プロセス中に、耐熱性部材の表面温度が非耐熱性基板の耐熱温度を超える温度となる工程を、少なくとも1工程以上含む(膜を高温生成する)。すなわち、本発明によれば、最終的に表面に膜を形成される非耐熱性基板の耐熱温度によらず、形成する膜に応じた最適な温度での膜形成が可能である。
非耐熱性基板の耐熱温度超となる工程には、特に限定はなく、真空膜形成プロセスにおける膜形成工程、ウエット膜形成プロセスにおける塗布工程、乾燥工程、ゾル/ゲル変換工程のような、膜の形成に直接関わる工程であってもよく、アニーリング等の膜形成後の後処理工程であってもよく、全ての工程であってもよい。すなわち、膜形成の開始から、最終的な膜の完成までの膜形成プロセス中に、1以上、このような高温の工程を有すればよい。
【0026】
なお、本発明において、形成する膜には、特に限定はなく、用途に応じたものとすればよいが、本発明の効果を十分に発現できる等の点で、高品質な膜を得るためには膜形成プロセスが80℃以上、特に、150℃以上の高温の工程を含む必要があるのものが好ましい。
【0027】
耐熱性部材の表面に高温生成した膜を形成したら、次いで、耐熱性部材の表面に形成した膜を、非耐熱性基板に転写する。また、この転写を好適に行うために、非耐熱性基板の膜の密着性を向上するための処理を施すのが好ましいのは、前述のとおりである。
すなわち、本発明によれば、耐熱性部材に高温生成した膜を形成して、これを非耐熱性基板に転写することにより、用途や組成等に応じた最適な温度で高温生成した膜を、プラスチックフィルム等の耐熱性の低い非耐熱性基板に効率よく形成することができる。
【0028】
転写の方法には、特に限定はなく、耐熱性部材と非耐熱性基板の形状に応じて、各種の方法で加圧転写すればよい。また、転写は、必要に応じて、非耐熱性基板の耐熱温度以下の温度で加熱して行ってもよい。
例えば、図1に示すように、ウエブ状の耐熱性部材10の表面に膜12を形成し、これをウエブ状の非耐熱性基板14に転写する場合には、耐熱性部材10と非耐熱性基板14とを、膜形成面と転写面とを対面して同方向(図中矢印方向)に搬送しつつ、同方向に回転する加圧ローラ16によって、耐熱性部材10を非耐熱性基板14に押圧することにより、耐熱性部材10の表面に形成した膜12を、非耐熱性基板14に転写すればよい。また、この際において、加熱転写を行う場合には、例えば、加圧ローラ16を加熱すればよい。
【0029】
このような本発明の膜形成方法において、非耐熱性基板に形成する膜は、全面的に連続する連続膜であってもよく、あるいは、パターン化された膜(以下、パターン膜)とするであってもよい。なお、パターン膜のパターンには、特に限定はなく、繰り返しパターンでも、異なるパターンの連続であっても、両者の併合であってもよい。
パターン膜を形成する際には、マスクやフォトリソグラフィー等を利用する公知の方法で耐熱性部材の表面にパターン膜を形成して、これを転写することにより、非耐熱性基板にパターン膜を形成すればよい。あるいは、目的とする膜のパターンに応じて、耐熱性部材の膜形成面の表面に凹凸を形成して、この凸部の膜を被耐熱性基板に転写することにより、被耐熱性基板にパターン膜を形成する方法も好適である。
【0030】
また、本発明の膜形成方法において、非耐熱性基板に形成する膜は、単層でも多層膜でもよい。多層膜を形成する際には、耐熱性部材の表面に多層膜を形成して非耐熱性基板に多層膜を転写してもよく、あるいは、耐熱性部材の表面に形成した単層膜もしくは多層膜の転写を複数回行って非耐熱性基板に多層膜を形成してもよく、これらの方法を併用して非耐熱性基板に多層膜を形成してもよい。
さらに、膜を転写する毎に耐熱性部材と非耐熱性基板との位置を相対的に移動して、1つの非耐熱性部材の異なる位置に複数回の膜の転写を行ってもよい。この際において、非耐熱性部材に転写された膜は、互いに離間して転写されてもよく、連続膜のように転写されてもよく、一部を重ねて転写されてもよく、これらが混在してもよい。
【0031】
以上、本発明の膜形成方法について詳細に説明したが、本発明は上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよいのは、もちろんである。
【0032】
例えば、図1に示される例では、ウエブ状の耐熱性部材に膜を形成して、ウエブ状の非耐熱性基板に転写したが、本発明において、耐熱性部材と非耐熱性基板との組み合わせは、これ以外にも各種の組み合わせが利用可能であり、特に限定はない。
例えば、耐熱性部材および非耐熱性基板共にディスクリートなもの同士を組み合わせてもよく、ディスクリートな耐熱性部材からウェブ状の非耐熱性基板に膜を転写してもよく、逆にウェブ状の耐熱性部材からディスクリートな非耐熱性基板に膜を転写してもよい。
【0033】
【実施例】
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明の膜形成方法について、より詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されないのは、もちろんのことである。
【0034】
<透明電極基板a(発明例)>
[転写基板の作製]
耐熱性部材として、厚さ50μm、100mm×100mmのポリイミド(PI)フィルム(耐熱温度約250℃)を用いた。
この耐熱性部材の一面(以下、こちらの面を表面とする)に、ディップコートによってオプツール(ダイキン社製)を塗布し、乾燥して、厚さ約20nmの剥離性フッ素系樹脂層を成膜して、耐熱性部材の撥水処理を行った。
次いで、この耐熱性部材をスパッタリング装置の基板ホルダに装着し、シースヒータによって基板ホルダを210℃に加熱しつつ、インジウム−錫酸化物(錫10wt%)をターゲットとするDCマグネトロンスパッタリングによって、厚さ約130nmの透明電極層(ITO層)を成膜した。以下、便宜的に、ITO層を成膜した耐熱性部材を「転写基板」と称する。
なお、ITO層の成膜は、O2 を0.75vol%を導入したAr雰囲気中で、DCパワー1kW、成膜圧力0.4Paで行った。また、成膜したITO層をX線解析した結果、結晶性を示す(222)および(400)にピークを示した。さらに、ITO層の抵抗値は20Ω/□であった。
【0035】
[非耐熱性基板の作製]
非耐熱性基板として、厚さ80μm、100mm×100mmのTAC(トリアセチルセルロース)フィルムを用いた。なお、このTACフィルムのガラス転移点は120℃である。
この非耐熱性基板の一面(以下、こちらの面を表面とする)に、粒径15nmのSiO2 粒子が20wt%分散されたハードコート材(日本火薬社製 DPHA)を塗布して、100℃で2分間乾燥した後、紫外線を照射して硬化することにより、厚さ約3μmのハードコート層を成膜した。なお、このハードコート層の屈折率は1.51である。
【0036】
次いで、ハードコート層を成膜した非耐熱性基板を真空装置内に取り付け、1×10−3Paまで排気して、赤外線ヒータで80℃まで加熱して3分間の脱ガス処理を行った。その後、Arガスを導入して系内の圧力を2Paとし、0.7kWのパワーで1分間のプラズマ処理を行うことでハードコート層の表面を改質して、前記転写基板からITO層を転写される非耐熱性基板(被転写基板)を作製した。
【0037】
[透明電極基板aの作製]
このようにして作製した転写基板と非耐熱性基板とを、互いに表面を向けて積層し、この積層体を、熱ローラ対を用いて温度100℃、加圧力0.3MPa、搬送速度0.03m/minの条件で挟持搬送して積層体を加熱/加圧し、その後、転写基板を引き剥がして、非耐熱性基板にITO層を形成してなる透明電極基板aを作製した。
【0038】
<透明電極基板b(比較例)>
前記透明電極基板aと全く同様にして非耐熱性基板を作製した。
この非耐熱性基板の一面に、基板の加熱温度を100℃とした以外は前記透明電極基板aにおける転写基板の作製と全く同条件で、厚さ約130nmのITO層を成膜し、透明電極基板bを作製した。
【0039】
<透明電極基板c(発明例)>
非耐熱性基板に形成したハードコート層の表面の改質(プラズマ処理)を行わなかった以外は、前記透明電極基板aと全く同様にして透明電極基板cを作製した。
【0040】
<透明電極基板d(発明例)>
転写基板の作製における耐熱性部材の撥水処理を行わなかった以外は、前記透明電極基板aと全く同様にして透明電極基板dを作製した。
【0041】
<透明電極基板e(発明例)>
転写基板の作製における耐熱性部材の撥水処理に変えて、耐熱性部材の表面に厚さ約30nmの金(Au)層を成膜した以外は、前記透明電極基板aと全く同様にして透明電極基板eを作製した。
なお、金層の成膜は、到達真空度を5×10−4Pa、1nm/secの成膜速度での真空蒸着で行った。
【0042】
<透明電極基板f(発明例)>
転写基板の耐熱性部材として、PIフィルムに変えて、厚さ3mm、100mm×100mm、Rmax 0.5nmの表面平滑性白板ガラスを用いた以外は、前記透明電極基板aと全く同様にして透明電極基板fを作製した。
【0043】
<透明電極基板g(発明例)>
転写基板の作製において、ITO層の成膜の際における基板ホルダの加熱(基板加熱)を行わず、成膜後に210℃で30分間のアニーリング処理を行った以外は、前記透明電極基板aと全く同様にして透明電極基板gを作製した。
【0044】
<透明電極基板h(発明例)>
転写基板の耐熱性部材として、PIフィルムに変えて、厚さ50μm、100mm×100mmのアルミニウム箔を用いた以外は、前記透明電極基板aと全く同様にして透明電極基板hを作製した。
【0045】
<透明電極基板の評価>
このように作製した透明電極基板a〜透明電極基板hについて、抵抗値、結晶性、密着性、および表面性を評価した。
【0046】
抵抗値は、100mm×100mmの中心と、中心から上下左右に30mm移動した4点の計5点において、ITO層の表面抵抗を抵抗率測定器で測定し、全測定位置で表面抵抗が20Ω/□以下のものを「○」、同20Ω/□超のものを「×」、同20Ω/□以下と超とが混在するものを「△」とした。
結晶性は、ITO層をX線解析して、結晶性を示す(222)および(400)にピークを示したものを「○」、それ以外は「×」とした。
密着性は、テープ剥離テストにおいて、ITO層の膜剥離が全く認められなかったものを「○」、一部にITO層の膜剥離が認められ、剥離面積が5%以下のものを「△」、それ以外を「×」とした。
表面性は、光学顕微鏡を用いて50倍〜1000倍の複数の倍率でITO膜全面の表面を観察し、全面にわたって欠陥(非転写部分やクラック)が無いものを「○」、一部に欠陥が認められ、欠陥の総面積が5%未満のものを「△」、それ以外を「×」とした。
また、総合評価として、前記4つの評価が全て○のものを「○」、△を含み×を有さないものを「△」、それ以外を「×」とした。
透明電極基板の形成条件を下記表1に、評価結果を下記表2に示す。
【0047】
【表1】
Figure 2004058049
【表2】
Figure 2004058049
【0048】
<透明電極基板iおよび透明電極基板j>
転写基板の耐熱性部材として、PIフィルムに変えて、厚さ50μm、幅250mm、長さ10mのPIフィルムロールを用い、さらに、非耐熱性基板として、厚さ80μm、幅250mm、長さ10mのTACフィルムロールを用いた以外は、前記透明電極基板aと全く同様にして透明電極基板iを作製した。
また、一度透明電極基板iを作製したPIフィルムロールを、何の処理もせずに転写基板の耐熱性部材として再び用いた以外には、前記透明電極基板iと全く同様にして透明電極基板jを作製した。
【0049】
両透明電極基板について、長手方向に2mの間隔で、幅方向の一端から50mmおよび150mmの2箇所の計10箇所において、先と同様に抵抗値、結晶性、密着性、および表面性を評価した。
結果を表1に併記するが、何れの透明電極基板も、前記透明電極基板aと同様の良好な結果が得られた。
【0050】
以上の結果より明らかなように、本発明によれば、耐熱性が充分ではないフィルムや表面平滑性が良好ではないフィルム等に、高温生成(高温成膜や高温での後処理等)が必要もしくは好ましい薄膜を、充分な平滑性を確保して形成することができる。従って、例えば、ITO膜であれは、高温成膜および/またはアニーリング処理を施した、低抵抗で良好な結晶質を有し、かつ、表面平滑性に優れた膜を、耐熱性が不十分な任意の基板に形成できる。
また、本発明によれば、長尺かつ可撓性を有する耐熱性部材および基板を用いれば、このような耐熱性を有さない基板への高温生成を含む薄膜の形成を、ロールトゥロール(Roll−to−Roll)方式で高い生産性で行うことができる。
さらに、高温生成による薄膜を成膜する耐熱性部材に撥水処理等の剥離性を付与する処理等を行うことにより、より良好な転写性および生産性で、耐熱性が不十分な任意の基板に、高温生成を行った薄膜を形成できる。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。
【0051】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明の膜形成方法によれば、高温条件下で形成した膜や、高温でのアニーリング等の処理を施した膜を、熱によるダメージを与えることなく、プラスチックフィルム等の耐熱性の低い基板の表面に効率よく形成できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の膜形成方法に利用される膜の転写方法の一例を示す概念図である。
【符号の説明】
10 耐熱性部材
12 膜
14 非耐熱性基板
16 加圧ローラ

Claims (4)

  1. 膜を形成される基板よりも高い耐熱性を有する耐熱性部材の表面に、前記基板の耐熱温度よりも高温の工程を含む膜形成プロセスで、少なくとも1層の膜を形成した後、前記基板の耐熱温度未満の温度で、前記耐熱性部材に形成した膜を基板の表面に転写することを特徴とする膜形成方法。
  2. 前記耐熱性部材表面への膜形成プロセスが、80℃以上の工程を含む請求項1に記載の膜形成方法。
  3. 前記耐熱性部材の表面に形成する膜が、連続膜およびパターン膜の少なくとも一方である請求項1または2に記載の膜形成方法。
  4. 耐熱性部材から成膜基板表面への膜転写回数が1回以上である請求項1〜3のいずれかに記載の膜形成方法。
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