JP2004057021A - 乳酸菌麹の製造法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】乳酸菌を固体培養するにあたり、植物体に炭酸マグネシウム又はヒドロタルサイトを添加した固体培地を用いて培養することを特徴とする乳酸菌麹の製造法。固体培地が糸状菌を培養した植物体である前期乳酸菌麹の製造法。植物体としては小麦胚芽、米胚芽、大豆胚芽、コーン胚芽、大豆、麹麦、小麦、小麦フスマ、米、ソルガム、コーン、ヒヨマメ、大麦、胡麻又はソバ等が用いられる。
Description
【産業上の利用分野】本発明は醗酵技術の分野に属し、乳酸菌の培養技術を提供し、それを利用する新しい形態の醗酵製品に関する。
【0002】
【従来の技術】
微生物の固体培養方法とは、植物体や凝乳と云った固形物に適度な水分を与えて固体培地を造り、その培地表面で微生物活動させるものであり、固体醗酵とも呼ぶ(solid−state fermentation、以後「SSF」と呼ぶ)。固体培地の表面において微生物に活動させる為、用いる植物体はその形状が出来るだけ大きな表面積を有することが望ましく、適当な大きさの粒状ないし板状が好んで用いられる。培地成分がこれ以外の形状、例えば粉末や溶液状態の場合には、あらかじめ粒状ないし板状の植物体で培地の基材を構成し、その一部として添加する。これによって通気性を確保した堆積状態の固体培地を造ることが出来、培地深部の植物体粒子表面でも活発な微生物活動を確保し得る。
【0003】
液体培養法と異なり、SSFに使用した微生物の菌体及び増殖中に醗酵によって菌体外に分泌された代謝産物は、固体培地と一体化した状態で培養が終了し、この醗酵産物を「麹」と呼ぶ。 SSFに用いる培地・植物体の種類、微生物の種類、麹の利用形態及び固体醗酵に由来する長所等は、Paredes−LopezとHarryにより報告されている(Paredes−Lopez,O. & Harry,G.I.:CRC Critical Reviews in Food Science and Nutrition,27巻、159―187頁、1988年)。即ち、麹にする理由は、▲1▼固体培地に用いる植物体などの栄養価を更に高めるため、▲2▼繊維質などテクスチャーの改変によっておいしく食べられるようにするため、▲3▼保存性を高めるため、▲4▼その他の理由が挙げられる。日本における麹の利用形態は、▲1▼清酒、醤油、あるいは味噌などの加工製造へ利用、▲2▼医薬品・強力わかもと(以後WTと呼ぶ。わかもと製薬(株)製・一般用医薬品)の様に麹を乾燥し他の有効成分と共に製剤化、▲3▼麹が含有する酵素、有機酸または色素などを抽出して利用するための出発材料、▲4▼納豆やチーズなどの様に麹を食品としてそのままあるいは乾燥して利用する等、様々な形態がある。
【0004】
近年、乳酸菌は、腸内腐敗菌の抑制作用、便秘、軟便、大腸癌、免疫賦活など種々の保健的作用が着目されている。これらの作用が強い有用菌株をプロバイオティックスと称し、この菌株を伝統的に使用されてきた乳酸菌株とを一緒に用い、ヨーグルト等の食品、特定保健用食品あるいは整腸薬が製造されており、これら乳酸菌の多くは液体培養法で製造される。一方、固体培養法で製造する乳酸菌として、伝統的製造法で造られるナチュラルチーズ等が例示される:ミルクカード(凝乳)に3種類の乳酸菌Streptococcus sp.,Leuconostoc sp.,およびLactobacillus sp.で固体培養してチェダーチーズを製造(英国)する他、同じくミルクカード(凝乳)にStreptococcus lactisとカビPenicillium camembertiで固体培養してカマンベールチーズを製造(フランス)、及び豚肉と米を固体培地として乳酸菌を培養し麹Nahmを製造(タイ国)などが挙げられ、いずれも麹そのものが食品として取り扱われている。この他、米と豆の混合物を固体培地として用いヘテロ乳酸醗酵菌Leuconostoc mesenteriodesを培養して作った麹Idliを生地としてパンケーキへの加工(インド)を始め、乳酸菌を他の微生物と共に、米、ソルガム、コーン、小麦、あるいはヒヨマメと云った植物体を固体培地にした麹Puto(フィリッピン)、Kisra(スーダン),Kenkey(アフリカ)、醗酵したパン生地(エジプト)、あるいはKhaman(インド)をパンなどの食品に加工して利用する例が挙げられる。これらにおいてはいずれも伝統的な製麹法が継承されている。
【0005】
一方、1955年、わかもと製薬(株)において乳酸菌(ストレプトコッカス・フェカーリス菌)胚芽培養末が開発され、医薬品WTに配合された。これが、乳酸菌麹を医薬品含め保健分野で実用化した最初である。ところが、日本を含め世界中で医薬品を含む保健分野で固体培養乳酸菌は全く発展しなかった。この理由は、乳酸菌麹を更に高品質化させる技術が誕生しなかった事、及び固体培養法で得られる菌体の微生物学的特質に対する期待・予見が皆無であったこと等により、それらに関する基礎的研究が固体培養系で全く行なわれず、乳酸菌以外の微生物と同様に液体培養系において専ら検討がなされて来たと推察される。
【0006】
固体培地に用いる植物体に関しては胚芽が最も注目される。胚芽の優れた栄養効果を解明し、胚芽の積極的な摂取の薦めにより日本国民の健康増進を図ることをミッションにして女子栄養大学(香川学園)が創設された。胚芽の豊富な栄養素に着目し、胚芽を乳酸菌の固体培地に利用した例として上記のWTに配合している乳酸菌(ストレプトコッカス・フェカーリス菌)胚芽培養末が挙げられる。胚芽としては、米胚芽、小麦胚芽あるいはコーン胚芽の他、大豆胚芽が骨を丈夫にする働きで近年特に注目されている。
【0007】
固体培地に用いる植物体は、産業上副次的に生成するものを好んで用いるのでより安価であり、しかも胚芽を用いれば栄養価も豊富であり、しかも麹を乾燥するだけで生産物になり得るので製造ランニングコストが安価であると云うメリットがある。この他、産業上副次的に生成する植物体などを利用することは地球資源リサイクルの観点からも大切であり、今後益々発展させるべき分野と云える。
【0008】
微生物学的に見れば、SSFで得られる菌体は液体培養法で得られる菌体と異なる性質を有することが想像される。即ち、液体培養法では培地として炭素源、窒素源、各種ミネラルなど増殖に必須な栄養素を適当量添加した望ましい人工的生育環境を容易に設定できる。そのおかげにより、微生物は液中を拡散して来る栄養素を菌体内へ取り込みさえすれば細胞分裂して定常期状態に至ることが可能である。この為、不必要な機能をあえて発現させる必要がなく、菌が持っている遺伝子の一部分しか液体培養系の菌では発現しないと見込まれる他、ATPエネルギーの消費量も少なくて良いので、菌体内のATP含有量は液体培地栄養素の量に依存するものの比較的高くなると予想される。液体培養系の菌体に対するこれらの作業仮説に対して、SSFでは固体培地の表面に吸着し定着する機能が要求され、更に植物体の表面と内部に含まれる天然状態の栄養素(=低い栄養状態)を資化する機能も要求される。このことは、微生物本来の棲息環境に近い環境で微生物を増殖させるのがSSFと云え、天然育ちの微生物に匹敵する水準の遺伝子発現率、及び液体培養系よりも低いATP含有量が推察される。SSFに対するこの作業仮説に基づけば、乳酸菌をヒトが摂取する場合、ヒト腸管内部と云う天然環境では、腸管壁面に吸着・定着する機能、更に同居する各種微生物や吸着側のヒト細胞による栄養素の取り合いに起因する低い栄養状態が見込まれ、この状態は正しくSSF培養系と類似していると思われる。従って、SSFで育った乳酸菌菌体を摂取する場合、この菌体は遺伝子的にもヒト腸内環境が要求する種々の機能に対応でき、充分な腐敗菌抑制力やヒト腸管壁面への定着能など保健的作用に要求される機能を確保し得ると期待される。
【0009】
固体培養と液体培養で育った菌体は菌学的に性質が異なることが少しずつだが報告され始めている。例えば、醤油の乳酸醗酵の研究において、蒸豆に醤油乳酸菌(Pediococcus halophilus)を添加しAspergillusと共に固体培養して造った麹を用いて諸味をつくり乳酸醗酵をさせた結果、液体培養法で製造した醤油乳酸菌をカビ純粋培養麹の諸味へ添加する従来法と比較し、諸味における乳酸産生量が高くなった他、諸味pHの低下も顕著であり、醤油乳酸菌の菌数増加も顕著となり、固体培養乳酸菌の性質は液体培養乳酸菌よりも優れていることが報告されている(安藤研一ら:醤研、19巻、121−128頁、1993年)。一方、清酒麹菌Aspergillus oryzaeでは、固体培養においてグルコアラーゼ遺伝子が大量に発現しているが、グルコースなどの単糖類を添加した液体培養の条件ではこの酵素が機能する必要がなく遺伝子も発現していないことが報告されている(秦 洋二、日本農芸化学会誌、71巻、1024−1027頁、1997年)。今後、固体培養法と液体培養法とで得られる乳酸菌の菌学的相違は様々な角度から検討が為され、この分野の研究は今後遺伝子工学的手法を背景に急速に進展するものと期待される。
【0010】
上記の様にSSFは世界中で行なわれているが、麹の品質向上に関する成果は加藤氏の例(加藤丈雄、日本食品科学工学会誌、47巻、752−759頁、2000年)を除き報告されていない。即ち、加藤氏は雑菌汚染を抑えた米味噌を製造するため、抗菌ペプチド・ナイシン産生乳酸菌Lactococcus lactis IFO12007株を麹菌と一緒に蒸し米で固体培養を行なった。この際、蒸米だけでもカビは増殖できるが、乳酸菌は栄養素不足により増殖しないので、大豆抽出液を蒸米に添加することで乳酸菌も増殖できるように改善した。この結果、培地に分泌されたナイシンが雑菌の繁殖を抑え、良好なカビ麹を得ることに成功している。加藤氏や安藤氏らによる固体培養の例は、いずれもカビ麹の伝統食品への加工利用を主目的した培養であり、カビ培養に対するサポーターとの位置付けで乳酸菌を用いる共生系製麹である。乳酸菌の高度利用を目的に、高い遺伝子発現率など乳酸菌麹の優れた菌学的特性を予見し、乳酸菌の保健機能をより発揮し易くするための研究などは全くなされていないのが現状である。
【0011】
一方、好気性の腐敗菌が好んで活動している腸管部位は、酸素濃度が比較的高い小腸上部である為、乳酸菌製剤を服用した時、菌体が約30分〜3時間でこの部位に到達すると考えられる。従って、休眠状態の乳酸菌を服用した場合には、この時間以内に増殖を再開し、7〜9時間以内にかなりの菌密度と乳酸濃度に至る旺盛な増殖力が発揮することが極めて重要である。万が一、この状態に至らない場合には、腐敗菌抑制可能な状態に至らない他、摂取菌は活動すべき部位でも休眠したまま大腸側の下流域へ流されてしまうと推察される。休眠中の摂取菌は下流域に流される程、常在菌などの菌数が飛躍的に増加する為に摂取菌の菌数が相対的に減る他、これらの菌とヒト腸管の細胞による栄養素の吸収によって摂取菌が増殖に利用できる栄養素が更に限定されてしまうので、益々増殖が出来難くなってしまうと考えられる。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
従って、休眠中の乳酸菌の増殖再開時間を早めることは、乳酸菌のヒト腸内における有用性を発揮させる目的から極めて重要な課題であり、これを可能にする為には乳酸菌麹の菌数増加が必須であると云える。
麹の乳酸菌数を高めることは、乳酸菌の製造原価の低減を図れる他、その麹をスターターカルチャーとして用いる場合には乳酸菌の増殖再開時間を飛躍的に早め、固体表面育ちに起因する菌学的特性を一層利用し易くし、乳酸菌の有用性が飛躍的に高まると期待される。この他、保健効能に優れた性質を有する乳酸菌(プロバイオティックス)を選択し、この菌株を単独あるいは他の一般微生物との共生系で本発明に用いる等、様々な応用形態が考えられる。菌数の増大した乳酸菌麹の製造法を提供することは液体培養法が築いた分野を一層発展させるだけでなく、新たな分野の開拓も可能となり、産業上極めて有益な技術と云える。21世紀は知的情報を製品に載せ、この情報の質と量が価格を決定し販売する時代と云われている。そして、この様な製品と20世紀に代表される大量製造された安価な規格製品とが混在して市場を構成する2極化時代が展望されている。本発明は、固体培養固有の菌学的特性に起因する有用性を情報発信し得るオリジナリティーに優れた製商品の開発が可能になると考えられ、無限の価値が期待される。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、乳酸菌のSSFにおいて菌数を増大させた麹の製造法を確立することを目標に基礎的段階から検討を開始した。その結果、乳酸菌の菌数を飛躍的に高める固体培養方法を見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は乳酸菌を固体培養するにあたり、植物体に炭酸マグネシウムまたはヒドロタルサイトを添加した固体培地を用いて培養することを特徴とする乳酸菌麹の製造法である。また固体培地は糸状菌を培養した植物体であっても良い。
【0014】
ホモ乳酸醗酵菌は通常Embden−Meyerhof−Parnasの解糖系によって、グルコース1モル当たり、2モルの乳酸と2モルのATPを生成する。こうして分泌された乳酸は、培地pHを酸性側にシフトさせるので、液体培地のpH緩衝作用が不十分であれば乳酸菌の増殖を容易に停止させてしまう。従って、乳酸菌の乳酸産生を抑制する培養方法こそが乳酸菌を高密度化させる方法そのものであると推察された。乳酸産生量が抑制される現象は、▲1▼乳酸菌を培養する際に通気性を高めることで、菌体内の酸素濃度を高め、比較的酸素に感受性の乳酸脱水素酵素の活性を阻害することにより乳酸を産生し難くなること、▲2▼ホモ乳酸醗酵菌を生育上限pH付近で培養すると、乳酸生成量を減らし、その相当量を乳酸前段階のピルビン酸が酢酸などを生成する経路に移行し、この過程でATPを生成する。こうして、乳酸量を抑制でき、しかもATPエネルギーを余計に生育に利用可能となる。この両要素を取り込んだ培養法を本発明者らは鋭意検討した。その結果、乳酸菌を固体培養するに当たり、好ましくは通気性確保に最適な脱脂コーン胚芽などを含む植物体にアルカリ性の炭酸マグネシウムまたはヒドロタルサイトを添加することにより、生育上限pH付近で高いpH緩衝能を固体培地に賦与でき、乳酸菌が分泌する乳酸などによって培地pHの急激な低下を防ぐことが可能となった。
以下、本発明の方法の特徴を詳しく説明する。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、乳酸菌の菌数を増大させる麹の製造法を提供する目的で、安価に入手でき、しかも栄養素を豊富に含む胚芽に着目した。胚芽の最適な組成を最初に検討した後、増殖至適pHの検討を含め無機塩の添加効果を調べた。その結果、好ましい菌数増大効果を出すために必要な固体培地成分としてコーン胚芽、及び炭酸マグネシウムあるいは合成ヒドロタルサイトを組み合わせて用いることを見出した。更に、好ましくはコーン胚芽の役割を解明することにより、コーン胚芽に含まれる亜硫酸が炭酸マグネシウムと共に菌数増大化に最適な、即ち適用する菌株の増殖可能なpH上限付近で高いpH緩衝能を固体培地に賦与することの重要性を見出した。この知見により、コーン胚芽の代わりに同様の高い通気性を確保できる小麦フスマなどを米胚芽や小麦胚芽などの固体培地成分と共に用い、そこへ炭酸マグネシウムを塩酸や硫酸などの酸と組み合わすことにより、Streptococcus faecalis(以下、本菌株をSfと呼ぶ)の場合には高菌数化に適したpH7.1〜8.5の範囲でpH緩衝能を賦与するよう構成した固体培地でも菌数の増大を見出した。その後、更に本発明者らは、小麦フスマに酸を添加しなくても、栄養豊富な培地で活発に乳酸を産生中の対数増殖期菌体を種菌として固体培地に接種すれば、培地に分泌される乳酸が炭酸マグネシウムとの間で望ましい緩衝能を固体培地に賦与することとなり、菌数の増大が可能であることを見出すことで漸く本発明が完成したのである。
【0016】
本発明に用いる固体培地の原料として以下のものが例示されるが、これ等に限定されるものでない。コーン胚芽は、コーン胚芽油を抽出した残渣を’脱脂コーン胚芽’として入手でき、これが最も安価であり適しているが、未脱脂状態であっても良い。植物体で固体培地を造る際、培地成分としてコーン胚芽を用いることは、固体培地の通気性を高める観点から最適である。とうもろこしのpHは6.4であるが、コーン胚芽のpHは3.5〜3.6と極めて酸性であり、例えばEnterococcus faeciumの生育下限pH4.5よりも低いので、この胚芽のpHでは本菌が生育出来ない。コーン胚芽が酸性である理由は、コーン胚芽がとうもろこしデンプン製造工程の副生成物であり、この工程中に弱酸性の亜硫酸浸漬が行なわれるからである。pHが酸性のコーン胚芽とアルカリ金属塩とを組み合わせて固体培地を構成することにより、菌の増殖に望ましいpH域を構成し、乳酸が培地に蓄積してきても当該pHを維持する為に必要な緩衝作用を固体培地に賦与することが出来る。炭酸マグネシウムは単独で水に溶かせばpH10.2と高いアルカリ性を呈し、例えばE. faeciumの生育上限pH9.6より高く、このpHでは本菌が生育出来ない。しかしながら、炭酸マグネシウムを植物体と共に固体培地として用いれば望ましいpHを設定することが可能となり、更に菌が生成する有機酸との間で中和反応を行なう際、有機酸と置き換わって解離する炭酸イオンは炭酸ガスとして培地から飛散するおかげで、引き続き望ましい培地pH域を保つことが可能となる。
【0017】
コーン胚芽以外の植物体としていずれの植物体でも用いることが出来るが、小麦胚芽、米胚芽、大豆胚芽と云った胚芽の他、大豆、小麦、小麦フスマ、米、ソルガム、コーン、ヒヨマメ、大麦、胡麻、あるいはソバなどが好ましい、更に好ましくは小麦胚芽、米胚芽、コーン胚芽、小麦フスマである。
更に、これら植物体を固体培地としてアスペルギルス・オリゼーと云ったカビを固体培養して得られた麹を用いることができるが、中でもアスペルギルス・オリゼーが好ましい。これらの植物体は、脱脂、未脱脂状態いずれであっても良く、粒状、板状、粉状、その他いずれの形状であっても本発明の効果を確認できる。シェルフライフの長い製品に麹を応用する場合、製品保存期間中の脂質過酸化を考慮し、脱脂した植物体を用いることが望ましい。固体培地の通気性を確保する観点から、コーン胚芽の他に小麦フスマを固体培地の成分として用いても良い。
しかもその組成はいずれであっても良いが、例えば本発明で用いられる固体培地の植物体が脱脂コーン胚芽及び脱脂小麦胚芽の場合その比率(重量比、以下同じ)は9.0〜3.0:6.5〜12.5が好ましく、より好ましくは6.0〜4.5:9.5〜11.0である。
植物体が脱脂コーン胚芽及び小麦フスマの場合その比率は9.0〜3.0:6.5〜12.5が好ましく、より好ましくは6.0〜4.5:9.5〜11.0である。
植物体が脱脂コーン胚芽及び麹小麦の場合その比率は9.0〜3.0:6.5〜12.5が好ましく、より好ましくは6.0〜4.5:9.5〜11.0である。
植物体が脱脂小麦胚芽及び脱脂米胚芽の場合その比率は10.0〜1.0:1.0〜10.0が好ましく、より好ましくは3.0〜1.0:1.0〜3.0である。
植物体が脱脂小麦胚芽及び小麦フスマの場合その比率は10.0〜1.0:1.0〜10.0が好ましく、より好ましくは3.0〜1.0:1.0〜3.0である。
植物体が脱脂米胚芽及び小麦フスマの場合その比率は10.0〜1.0:1.0〜10.0が好ましく、より好ましくは3.0〜1.0:1.0〜3.0である。
また脱脂米胚芽、脱脂小麦胚芽及び脱脂コーン胚芽の3種を混合する場合その比率は2.0〜4.0:4.5〜10.0:9.0〜1.5が好ましく、より好ましくは2.5〜3.5:7.0〜9.0:6.0〜3.0である。
通常、上記の植物体の平衡水分は10%前後であり、この状態で乳酸菌を接種しても水分が不足している為、固体表面で増殖し難い。本発明に用いる固体培地の水分は、35〜65%の範囲であり、好ましくは45〜60%である。この水分値で製麹を開始し、100%近い湿度のエアーを堆積状態の固体培地へ送風する通風式固体培養設備で培養する他、木製や金属製のトレーに固体培地を堆積し、これを100%近い湿度の培養室にならべて培養を行なう。その培養途中に培養床の手入れ操作を少なくとも1回行い、固体培地における菌分布の均一性を高めることが望ましい。
【0018】
本発明で用いる炭酸マグネシウムは、植物体乾物重量当たり、1.9〜11重量%の範囲が好ましく、より好ましくは4〜8重量%である。炭酸マグネシウムの本質は、含水塩基性炭酸マグネシウム又は含水正炭酸マグネシウムであり、酸化マグネシウム(分子式、MgO)を40.0〜44.0%含み、分子式は(MgCO3)4・Mg(OH)2・5H2Oである。 一方、合成ヒドロタルサイトも同様の添加量で用いることによって効果を確認でき、その分子式はMg6Al2(OH)16CO3・4H2Oである。
【0019】
製麹温度は、25〜40℃の範囲が好ましく、より好ましくは27〜37℃である。製麹時間は、10時間以上であり、好ましくは10〜40時間である。 通常の菌種であれば、製麹10時間程度で定常期に到達し、これより培養時間を延長しても菌数が増えない。だが、製麹時間が長い程、耐酸性や耐熱性が増すなど菌体の安定性が増加するので、好ましい麹になる。製麹温度は、この範囲より高過ぎても低過ぎても到達菌数が低くなるので好ましくない。
本発明の麹は、培養が終了したそのままの状態あるいは凍結して保存しても良い他、45〜60℃前後の温度で送風、あるいは凍結真空乾燥操作して得られる乾燥麹として保存しても良い。 但し、菌種の中には乾燥操作に耐えない場合もあり、麹保存法の選択が必要である他、菌株育種によって適用可能となる場合もある。
【0020】
本発明に使用する乳酸菌は、医薬品や健康食品に供することを前提にした場合、’長い食経験’によって安全性が担保された菌種が前提となる他、コーン胚芽など植物体表面で増殖できる性質であればいずれの属種であっても本発明の効果を確認できる。好ましくは、WTに使用しているSfあるいはEnterocossus faecalis JCM5803株、およびE.faecium IFO3128株と云ったEnterocossus属の菌種、及びL. lactis subsp. cremoris IFO3427株が挙げられるが、これらの菌株に限定されるものでないことは申すまでもない。なお、Sfは現在の分類学上の命名規約によるとE. faecalisやE. faeciumと呼ばれる。これらは育種操作を行なった菌株であっても良く、特に本発明のアルカリpHの培地で生育し難い場合には当該培地において良好な生育が可能となるように育種した菌株を用いることが望ましい。これらの菌株を単独あるいは複数組み合わせる共生培養系であっても本発明の効果を確認できる。
【0021】
本発明の固体培地に接種する種菌は、液体培養法あるいは固体培養法いずれによって調製したものでも良い。本発明の固体培地は、菌数を増大させる目的により、培地pHを生育可能pH域のアルカリ側上限付近に設定している為、種菌の乳酸産生能の状況次第では増殖し難くなる場合が生じる。即ち、低い栄養状態の液体培地を種菌調製に用いる場合には、当該液体培地の到達菌数が比較的低く、乳酸を旺盛に分泌している対数増殖期の菌体を接種することが望ましく、定常期での培養時間が長過ぎた状態の菌体を本発明の固体培地用の種菌として使用すると、固体培地での増殖再開に時間を要するので生育可能pH域のアルカリ側上限付近のpH設定である理由から増殖が益々困難になる場合がある。栄養成分が豊富な液体培地を用いて種菌を調製する場合には、対数増殖期のみならず定常期いずれであっても望ましい。液体培地の栄養状態は、到達菌数の高低によって評価できる他、例えばSfの場合、一夜培養した菌液をリン酸バッファー(pH6.8)で希釈し、60℃15分間処理した後の菌数残存率(以後、’耐熱性’と呼ぶ)を測定し、10%以上の残存率を示す培地であれば’栄養成分が豊富’と判定でき、1%以下の残存率を示す培地は’低い栄養状態’と判定できる。Sf以外の菌種であればこれらの数値はSfの値とは異なるものの相対的に上下すると考えて良い。
【0022】
脱脂コーン胚芽以外の植物体で固体培地を構成する場合、炭酸マグネシウムやヒドロタルサイトと共にpH緩衝作用を発揮する為に酸を添加することが望ましい。高菌数化に望ましい固体培地pHは、使用する乳酸菌の生育上限pH域が菌種によって異なる為に明示し難い。しかし、いずれの菌種であってもその上限pHから約2.5以内のpHに固体培地pHを設定することが望ましい。このpH域を設定することにより、ホモ乳酸醗酵経路から新たにヘテロ乳酸醗酵経路を誘導する為に充分な高いpHを固体培地に賦与することが可能となり、例えばSfの場合にはそのpHが7.1〜8.5(生育上限pH9.6)が望ましく、このpH範囲に炭酸マグネシウムと酸の添加量を調整する。酸は、塩酸、硫酸、あるいはリン酸が適しているが、硝酸、クエン酸などでも良い。これにより、対数増殖期のみならず定常期の菌体も種菌として使用することが可能となる場合がある。この他必要に応じて、炭酸カルシウムやグルコース、ププトンなどを固体培地に添加しても良い。
【0023】
脱脂コーン胚芽あるいは酸を添加しない植物体の固体培地であっても、炭酸マグネシウムあるいはヒドロタルサイトを添加すれば高菌数化を達成できる場合もある。これは、培地に添加した酸が炭酸マグネシウムとの間で望ましい培地pHの緩衝作用をあらかじめ設定しておく代わりに、乳酸産生が旺盛な対数増殖期の乳酸菌菌体を固体培地に接種することにより、固体培地表面で速やかに分泌される乳酸が炭酸マグネシウムとの間で望ましい培地pHとなるように意図したものである。即ち、使用する乳酸菌菌株は、乳酸産生能に優れた菌株であり、乳酸産生が旺盛な対数増殖期の菌体を種菌として用いる他、固体培地でも引き続き高い増殖能を有する菌株を用いることで可能となる。
次に、試験例および実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
【実施例】
比較例1. 「固体培地への栄養成分の添加」
大豆粉抽出液の調製法: 脱脂大豆をコーヒーミルで粉末にした後、大豆粉30gを脱イオン水100mlで懸濁し、50℃で1時間加温処理して栄養成分を抽出した。 この抽出液は9000rpmで5分間遠心分離し、上清画分を回収した。 ガーゼ4枚重ねで上清画分を濾過し、大豆粉抽出液50mlを得た。
脱脂米胚芽培地の調製法:脱脂米胚芽15.5gを秤量して300ml三角フラスコに入れ、表1に示した量の大豆粉抽出液を脱イオン水で最終液量9.3mlに調製して添加した。 この脱脂米胚芽培地をスパテルで攪拌し、シリコ栓した後、オートクレーブ20分間処理して滅菌培地とした。
製麹方法: BL液体培地(培地pH6.92)10mlにSfを一白金耳量接種し、30℃で一夜振盪培養した。 この定常期の菌液(到達菌数30x108cfu/ml、耐熱性、21%、培地pH4.57)を表1に示した組成の固体培地に2.5ml接種(接種菌数4.8x108cfu/g培地)した後、スパテルで攪拌することにより菌の培地均一性を確保した。 その後、30℃・80%RHで20時間培養した後、麹を濾紙に広げ、50℃で一夜乾燥して乾燥麹を得た。
乾燥麹の評価法: 菌数測定は、乾燥麹2.0gをリン酸バッファー(pH6.8)50.0mlで懸濁し、30分間激しく振盪することにより、菌体を麹から遊離させた。 その後、同バッファーで10倍ずつ段階希釈し、その0.1mlをSCD寒天培地「ダイゴ」(日本製薬(株)製)2〜3枚に塗沫し、37℃で24〜40時間培養した。 生成した集落数を測定し、その平均値を乾燥麹1g当たりに換算し、cfu(colony forming unit)として表した。 リン酸バッファー(pH6.8)の組成:塩化ナトリウム7g、リン酸二カリウム5.31g、リン酸一カリウム2.65g、ツイーン80 2.0g及び脱イオン水1000ml。pHは、培地あるいは乾燥麹を脱イオン水で10〜15重量%になるよう調製し、pHメーターで測定した。
【0025】
〔結果〕
乳酸菌の固体培養において、培地に用いた粒状の脱脂米胚芽の栄養素バランスを補う目的で、大豆粉抽出液を添加した。表1に示した様に、大豆粉抽出液を添加しても到達菌数が全く高くならなかった。高菌数化を図る為には、固体培地に栄養素を補充する方向性とは別の要因を見出す必要があることが分った。
【0026】
【表1】
【0027】
比較例2. 「胚芽固体培地における乳酸菌の増殖を脱脂コーン胚芽の添加により抑制」
実験方法: 培地組成3.2%WTの液体培地(培地pH6.18)60mlにSfを一白金耳量接種し、30℃・200rpmで一夜振盪培養した。この菌液(到達菌数8.6x108cfu/ml、耐熱性、0.070%、培地pH5.50)を表2に示した組成の固体培地に2.5mlずつ接種(1.4x108cfu/g培地)した後、スパテルで固体培地を攪拌することにより菌の均一性を確保した。培養開始時の培地水分は53.0%に調製した。30℃・80%RHで24時間培養した後、麹を濾紙に広げ、50℃で一夜乾燥して乾燥麹を得た。なお、種菌を固体培地に接種した後、培養8時間目において固体培地をスパテルで攪拌して菌の均一性を更に高めた。
【0028】
〔結果〕
脱脂米胚芽、脱脂小麦胚芽、脱脂コーン胚芽を単独で固体培地として用いる場合あるいはこれらを組み合わせて固体培地を構成させた場合において、到達菌数への影響を検討した。表2に示した様に、脱脂小麦胚芽を単独で用いた場合が最も高い到達菌数となった。脱脂コーン胚芽を単独で用いた場合には、培地pHが3.65と酸性側にシフトし過ぎており、Sfの生育下限pH4.5から逸脱した培地pHであるので、全く増殖出来なかった。特筆すべき点は、脱脂コーン胚芽を他の胚芽と共に培地を構成した場合、脱脂コーン胚芽の添加量が多い程、培地pHはSfが増殖可能pH域を満足していたにもかかわらず、胚芽を単独で用いた場合の到達菌数を基に算出した菌数に比べて著しく低い実測値となった。一方、脱脂米胚芽と脱脂小麦胚芽の両方で固体培地を構成した場合には、到達菌数の実測値は計算値とほぼ同じであった。以上の結果より、固体培地を構成している粒子状の胚芽一個がミクロ的に完成された培地環境になっているが、脱脂コーン胚芽を他の胚芽と共に用いる場合には他の胚芽表面の増殖に対して悪影響を及ぼすことが分った。
【0029】
【表2】
【0030】
試験例1. 「固体培地pH調整による乳酸菌の到達菌数」
実験方法: 脱脂小麦胚芽15.5gに無機塩を0.155g添加して攪拌し、脱イオン水を13.0ml加え、更に攪拌した(pH未調整・無機塩単独添加系)。一方、苛性ソーダで固体培地pHを調整する場合には、脱イオン水の代わりに0.12N苛性ソーダを13.0ml添加した。 固体培地はオートクレーブで121℃・25分間滅菌した。
培地組成3.2%WTの液体培地60mlにSfを一白金耳量接種し、30℃・200rpmで一夜振盪培養した。この菌液を表3に示した無機塩添加固体培地に2.5mlずつ接種(0.61x108cfu/15.5g培地)した後、スパテルで攪拌することにより菌の培地均一性を確保した。培養開始時の培地水分は53.0%に調製した。30℃・80%RHで24時間培養した後、麹を濾紙に広げ、50℃で一夜乾燥して乾燥麹を得た。なお、接種した後、8時間目に固体培地をスパテルで攪拌して菌の均一性を更に高めた。乾燥麹のSf菌数は、比較例1に記載した方法で分析した。
【0031】
〔結果〕
胚芽一種類で固体培地を構成する場合に最も高菌数の麹が得られた脱脂小麦胚芽を選択し、そこへ無機塩を一種類ずつ添加する場合と、無機塩添加と共に苛性ソーダも添加して培地pHを7.0に調整する場合とにおいて、Sf到達菌数の増加効果を検討した。無機塩は脱脂小麦胚芽15.5g当たり0.155g(1%相当)添加した。その結果、表3に示した様に、pH未調整系では、無機塩添加によって培地pHがアルカリ側にシフトした炭酸マグネシウム(pH7.72)、合成ヒドロタルサイト(pH7.2)、炭酸カリウム(pH7.22)、および炭酸アンモニウム(pH7.33)がSf到達菌数を高めた。
pH7.0に調整した系ではどの無機塩を添加した場合も培養後pHがアルカリ側にシフトし、pH未調整系に比べて到達菌数が高くなった。しかしながら、そこへ炭酸アンモニウムを添加した場合、培地pHがアルカリ側に大きくシフトしているにもかかわらず到達菌数が無機塩無添加と同程度であった。培地pHがアルカリ側に少しシフトした無機塩中、無添加よりも到達菌数が少し高くなった無機塩が炭酸カルシウムであり、到達菌数が同程度あるいは若干減少した無機塩がケイ酸マグネシウム、水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、及びメタケイ酸アルミン酸マグネシウムであった。炭酸マグネシウムを添加した場合、pH調整によってアルカリ側に培地pHがアルカリ側にシフトしたにもかかわらず到達菌数が全く増加しなかった。 従って、固体培地のpHをアルカリ側にすることは菌数増加に対して少し効果が見られたものの、その効果は100〜120億/gの菌数に到達する程度に止まった。これ以上の高菌数化を達成する為には、固体培地のpH調整以外の要因が必要であることが分った。
【0032】
【表3】
【0033】
試験例2.「コーン胚芽の酸性pHに対するアルカリ金属塩のpH緩衝能と到達菌数との関連性」
本発明の麹を得るためには、乳酸菌増殖にとって栄養価に富む脱脂小麦胚芽を主体にした培地組成が望ましいと考えられたが、脱脂小麦胚芽を単独で堆積状態の培地に用いる場合、小麦グルテンによる団塊化が生じ易く、通気性に富むソフトな状態がつくり難く、培地中央深部における適切な微生物活動を確保し難い。固体培地の通気性確保が高菌数化にとって重要なことは、Sfのようなホモ乳酸醗酵菌を用いてグルコースを炭素源とする液体培養を行なった場合、振盪培養と静置培養との間で見出された顕著な違い(北原覚雄編著、乳酸菌の研究、東京大学出版会、403−407頁、1966年)から推察された。即ち、静置培養ではいずれの菌株も乳酸以外の生産物をほとんど造らないが、振盪培養によって培地の酸素濃度を高くすることによって乳酸産生量を低下し、その代わりに酢酸やアセトインを著量産生するように変化し、この好気的条件では生育が促進された。酢酸生成過程で生じるATPが生育のエネルギー源になる。従って、固体培地の通気性を高めることが高菌数化にとって必須な因子(=高菌数化因子―A)と想定され、通気性に富む植物体として脱脂コーン胚芽や小麦フスマが候補と考えられた。
【0034】
培地pHをアルカリ金属塩の添加によりアルカリ側へシフトさせると到達菌数が多少ではあるが高くなる現象に着目し、固体培地にアルカリ金属塩を添加する方向性を決定した。Sfのようなホモ乳酸醗酵菌は、通常の培養条件では、グルコース1モル当たり、2モルの乳酸と2モルのATPを産生する。 ところが、ホモ乳酸醗酵菌であっても生育上限付近のアルカリpH域では、通気性を高める際と同様の変化、即ち乳酸産生が減少し、その分のギ酸、酢酸、エタノールなどが増加する言わば’ヘテロ乳酸醗酵’が行なわれるように変化し、この過程においてATPが生成する。 こうして過剰に生じたエネルギーがアルカリpH域における旺盛な生育を可能にすることが報告されている(Rhee,S.K.およびPack,M.Y.:Journal ofBacteriology, 144巻、217−221頁、1980年)。そこで、本発明者らは、脱脂コーン胚芽の酸性pHに着目し、アルカリ金属塩と酸性の脱脂コーン胚芽とを組み合わせることで、ホモ乳酸醗酵菌がヘテロ乳酸醗酵を行なわせる為に必要な高いpHを確保する目的で、増殖可能pH上限付近で高いpH緩衝能を固体培地に賦与する(=高菌数化因子―B)と云う基本構想に至った。従って、アルカリ金属塩と共に脱脂コーン胚芽も固体培地の基本骨格成分として用いることを決定した。
【0035】
そこで、脱脂コーン胚芽の酸性pHに対するアルカリ金属塩の中和能を検討した。 方法は、制酸剤として常用されているアルカリ金属塩を対象に選び、脱脂コーン胚芽に対して0.5%、1.0%、1.5%、2.0%及び5.0%添加した場合のpHを測定し、最も少ない添加量でpHが8.5を超え、アルカリ側に最も容易にシフトさせる順番を調べた。 その結果は以下の通りであった: 炭酸マグネシウム※ > 合成ヒドロタルサイト※ > 炭酸カリウム、炭酸ナトリウム※ > ケイ酸マグネシウム > 炭酸カルシウム* > 炭酸水素カリウム* > メタケイ酸アルミン酸マグネシウム > 水酸化アルミニウムゲル > 合成ケイ酸アルミニウム
cf. ※アルカリ金属塩を単独で脱脂小麦胚芽培地に添加することで菌数増加作用、
*培地を事前にpH7.0へ調整すればアリカリ金属塩の添加で菌数増加。
【0036】
以上の結果、脱脂コーン胚芽培地をアルカリ化する作用が強い金属塩(=炭酸マグネシウム、合成ヒドロタルサイト、炭酸カリウム)と、脱脂小麦胚芽培地において高菌数効果を出した金属塩(=炭酸マグネシウム、合成ヒドロタルサイト、炭酸カリウム)と一致することが分った。
【0037】
試験例3.「アルカリ金属塩特異性。胚芽一種類で構成する固体培地の低い菌数増加効果」
試験方法: 培地組成3.2%WTの液体培地100mlにSfを一白金耳量接種し、30℃・200rpmで一夜振盪培養した。 この菌液を表4に示した炭酸塩添加固体培地に1.0mlずつ接種(0.86x108cfu/g培地)した後、スパテルで固体培地を攪拌することにより菌の均一性を確保した。 培養開始時の培地水分は53.0%に調製した。 30℃・80%RHで24時間培養した後、麹を濾紙に広げ、50℃で一夜乾燥して乾燥麹を得た。 なお、接種した後、8時間目に固体培地をスパテルで攪拌して菌の均一性を更に高めた。 乾燥麹のSf菌数は、試験例1に記載した方法で分析した。
【0038】
〔結果〕
脱脂コーン胚芽あるいは脱脂小麦胚芽を単独で用いて固体培地を構成し、そこへ炭酸マグネシウムあるいは炭酸カリウムを添加した。 炭酸塩の添加濃度に依存してSfの到達菌数が高くなり、いずれの炭酸塩を添加した場合でも脱脂コーン胚芽培地における最大到達菌数が70〜80x108cfu/g、脱脂小麦胚芽培地における最大到達菌数が140〜160x108cfu/gであった。 脱脂コーン胚芽培地のpHは培養後もほとんど低下しなかったが、脱脂小麦胚芽培地に炭酸マグネシウムや炭酸カリウムを添加した場合には、製麹に伴い培地pHが1.5程度も酸性側へ低下した。そこで、脱脂コーン胚芽培地における乾燥麹のL−乳酸濃度を分析した結果、炭酸カリウム0.50g添加条件において2.0mg/g、炭酸マグネシウム1.30g添加条件において2.8mg/gと著しく低いことが分った。 従って、これら炭酸塩の添加によって脱脂コーン胚芽の栄養素を資化できるようなるが、その際に乳酸をほとんど産生させない特質がある(高菌数化因子−C)ことが分った。
【0039】
【表4】
【0040】
試験例4. 「アルカリ金属塩の特異性。胚芽混合培地における高菌数化の相乗的 効果」
試験方法: 培地組成3.2%WTの液体培地100mlにSfを一白金耳量接種し、30℃・200rpmで一夜振盪培養した。この菌液を表5に示した炭酸塩添加固体培地に1.5mlずつ接種(0.83x108cfu/g培地)した後、スパテルで固体培地を攪拌することにより菌の均一性を確保した。培養開始時の培地水分は53.0%に調製した。30℃・80%RHで24時間培養した後、麹を濾紙に広げ、50℃で一夜乾燥して乾燥麹を得た。なお、接種した後、8時間目に固体培地をスパテルで攪拌して菌の均一性を更に高めた。 乾燥麹のSf菌数は、比較例1に記載した方法で分析した
【0041】
〔結果〕
脱脂コーン胚芽あるいは脱脂小麦胚芽をそれぞれ単独で固体培地を構成し、そこへ炭酸マグネシウムを添加した場合、脱脂コーン胚芽培地では培地pH8.12において74x108cfu/gの最大菌数に至り、脱脂小麦胚芽培地では培地pH8.22において162x108cfu/gの最も高い菌数に至った。この単一培地での到達菌数の結果から、脱脂コーン胚芽と脱脂小麦胚芽を組み合わせて混合培地にする場合、到達菌数の最大値が128x108cfu/gと算出された。ところが、この胚芽混合培地では培地pH8.14において647x108cfu/gもの到達菌数に至った。この到達菌数実測値は上記の計算値より5倍も高くなったことから、本発明の高菌数培養条件では効果が相乗的になることが分った。炭酸マグネシウム以外に相乗的な高菌数化効果を出す炭酸塩は、分子式が似ている合成ヒドロタルサイトであった。要するに、脱脂コーン胚芽を他の胚芽と組み合わせて栄養価を高めた混合固体培地に(=高菌数化因子―D)炭酸マグネシウムや合成ヒドロタルサイトを添加し、菌の生育上限pH付近において高いpH緩衝作用を固体培地に賦与することにより、高菌数化効果の相乗的作用が出せることを発見した。
【0042】
胚芽混合培地15.5gへ炭酸マグネシウムや合成ヒドロタルサイトを添加する場合、それらの添加量を2.0gにまで高めても培地pHは8.56及び7.58とSfが増殖可能なpH範囲を満たすことが可能であった。炭酸マグネシウム及び合成ヒドロタルサイトのこの様な培地pHに及ぼす特質は、菌の生育にとって大変好ましく、高菌数化を可能にするうえで重要な要素である。 一方、胚芽混合培地における最大到達菌数が200x108cfu/gであった炭酸カリウム、炭酸アンモニウムあるいは炭酸水素カリウムでは、それらの添加量の増加に伴い、Sfが生育し難くなるpH8.5よりも高いアルカリpH側へ急激にシフトしてしまった。 一方、最大到達菌数がそれぞれ140x108cfu/g及び88x108cfu/gとあまり高くならなかった炭酸カルシウム及び炭酸亜鉛添加の場合には、これらは炭酸マグネシウムと同じアルカリ土類金属の炭酸塩であるにもかかわらず、添加量を増しても培地pHが高菌数化に必要なpH7.1〜8.5の範囲まで高くならなかった。
【0043】
Sfを200x108cfu/g以上の高い到達菌数に至らしめる為に必要な炭酸マグネシウム添加量は、混合胚芽培地15.5g当たり0.30g以上添加することが必要であり、その添加量は混合胚芽培地の加水前の乾物重量当たり1.9重量%以上が必要であった。更に、400x108cfu/gの到達菌数に必要な炭酸マグネシウム添加量は、0.50g〜2.0gであり、混合胚芽培地の乾物重量当たり3〜11重量%であった。 480x108cfu/g以上の到達菌数に至らしめる為に必要な炭酸マグネシウム添加量の範囲は、0.65〜1.3gであり、4〜8重量%であった。 なお、合成ヒドロタルサイトの場合も炭酸マグネシウムの添加量とほぼ類似の濃度範囲及びpH域で高菌数化効果が見られた。
【0044】
【表5】
【0045】
試験例5. 「炭酸マグネシウムを添加した胚芽培地の組成によるSf到達菌数への影響」
試験方法: 培地組成3.2%WTの液体培地100mlにSfを一白金耳量接種し、30℃・200rpmで一夜振盪培養した。この菌液を表6に示した炭酸マグネシウム添加胚芽培地に1.5mlずつ接種(0.37x108cfu/g培地)した後、スパテルで固体培地を攪拌することにより菌の均一性を確保した。培養開始時の培地水分は53.0%に調製した。30℃・80%RHで23時間培養した後、麹を濾紙に広げ、50℃で一夜乾燥して乾燥麹を得た。 なお、接種した後、8時間目に固体培地をスパテルで攪拌して菌の均一性を更に高めた。乾燥麹のSf菌数は、比較例1に記載した方法で分析した。
【0046】
〔結果〕
炭酸マグネシウム2%添加した胚芽固体培地の組成によるSf到達菌数への影響を調べ、その結果を表6に示した。今回の試験結果は表4及び表5の試験結果と比べて、胚芽単一培地において顕著に到達菌数が低かった。例えば、脱脂小麦胚芽単一培地に炭酸マグネシウムを2%添加した場合、表4では162x108cfu/g培地であったが、本試験例では18x108cfu/g培地と激減した。このことは、用いた種菌の状態が定常期の後期であった為に、胚芽単一固体培地の中では最も培地pHが高い脱脂小麦胚芽培地において増殖性が悪くなったと推察された。種菌の増殖期の違いによる到達菌数への影響は試験例13で再び取り扱う。胚芽混合培地では、脱脂小麦胚芽と脱脂コーン胚芽の組み合わせが炭酸マグネシウム添加条件において最も高い到達菌数であり、次いで脱脂米胚芽、脱脂小麦胚芽及び脱脂コーン胚芽の組み合わせであった。
【0047】
【表6】
【0048】
試験例6. 「胚芽混合培地のpHを7.8に調整し無機塩を添加した場合の高菌数化への影響」
試験方法: 培地組成3.2%WTの液体培地80mlにSfを一白金耳量接種し、30℃・130rpmで一夜振盪培養した。この菌液を表6に示した無機塩添加固体培地に2.5mlずつ接種(1.4x108cfu/g培地)した後、スパテルで固体培地を攪拌することにより菌の均一性を確保した。培養開始時の培地水分は55.0%に調製した。 30℃・80%RHで24時間培養した後、麹を濾紙に広げ、50℃で一夜乾燥して乾燥麹を得た。 なお、接種した後、8時間目に固体培地をスパテルで攪拌して菌の均一性を更に高めた。乾燥麹のSf菌数は、比較例1に記載した方法で分析した。
【0049】
脱脂小麦胚芽と脱脂コーン胚芽の混合固体培地に炭酸マグネシウムや合成ヒドロタルサイトを添加してSfを培養すれと高菌数化効果が相乗的に出ることを見出したが、その際の培地pH(滅菌後に測定)は7.1〜8.5の範囲であり、いずれもSfの増殖可能な培地pHの上限付近であった。そこで、このpH範囲の中央値になるように培地pHを調整し、そこへマグネシウムやカルシウム塩を添加した場合、炭酸マグネシウム添加に匹敵する高菌数化効果が得られるか検討した。 即ち、脱脂小麦胚芽9.5gおよび脱脂コーン胚芽6.0gで構成した混合胚芽培地に0.5N苛性ソーダ12.68mlを添加することにより、無添加段階の培地pH5.22に比べてpH7.81に調整した。 更に、そのpH調整した培地に塩化マグネシウムや硫酸マグネシウムなどの無機塩を添加して製麹し、得られた乾燥麹のSf菌数を測定した。得られた結果を表7に示した。
【0050】
固体培地pH7.1〜8.5の範囲において、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、あるいは炭酸カルシウムと云ったアルカリ金属を胚芽混合培地に添加したにもかかわらず、炭酸マグネシウム添加と同様の高菌数化効果が全く見られなかった。更に、当該pH域において炭酸カルシウムの添加量を高めることにより127x108cfu/gから193x108cfu/gまで高まったものの、更に添加量を増やしても200x108cfu/g以上の到達菌数へ至らなかった。一方、本条件に炭酸マグネシウムを添加すると培地pHが9.18と高過ぎて高菌数化し得るpH範囲を逸脱したが、合成ヒドロタルサイトを添加した場合には培地pHが8.57となり、高菌数化させる培地pH範囲を満足したので、283x108cfu/gの高菌数麹が得られた。従って、固体培養系において高菌数化させる為には、通気性に富む酸性の脱脂コーン胚芽を含む混合胚芽培地に炭酸マグネシウムあるいは合成ヒドロタルサイトをSfが生育可能な上限pH付近の培地pH7.1〜8.5の範囲を確保できる量を添加しておかねばならないと分った。
【0051】
以上の結果より、高菌数化にとって、炭酸マグネシウムの胚芽固体培地における特質が極めて重要であると云える。即ち、当該アルカリpHにおいてアルカリ金属塩は溶解している状態で固体培地に存在するよりも炭酸マグネシウムの様に不溶化した状態がで固体培地に存在することが望ましく、菌の生育に伴い分泌された乳酸とこの不溶性炭酸マグネシウムとが接触して中和反応する際に、乳酸を中和するために必要な量だけ消費されるので大変都合が良いと推察された。一方、炭酸カルシウムは不溶性であるが、乳酸との中和反応が炭酸マグネシウムに比べて遅すぎる為、乳酸によって菌の生育が抑制されると推察された。
【0052】
【表7】
【0053】
試験例7. 「高菌数化最適条件の解体・再構成による高菌数化因子―B及びDの解析」
試験方法: 培地組成3.2%WTの液体培地80mlにSfを一白金耳量接種し、30℃・130rpmで一夜振盪培養した。この菌液を表6に示した無機塩添加固体培地に1.5mlずつ接種(0.83x108cfu/g培地)した後、スパテルで固体培地を攪拌することにより菌の均一性を確保した。 培養開始時の培地水分は53.0%に調製した。30℃・80%RHで24時間培養した後、麹を濾紙に広げ、50℃で一夜乾燥して乾燥麹を得た。なお、接種した後、8時間目に固体培地をスパテルで攪拌して菌の均一性を更に高めた。乾燥麹のSf菌数は、比較例1に記載した方法で分析した。
乾燥麹のL−乳酸濃度: 乾燥麹をコーヒーミルで粉末にした後、その0.3gを50mlリン酸バッファー(pH6.8)を用い30分間室温で激しく振盪することにより、乳酸を抽出した。抽出液を80℃湯浴で15分間処理した後、15000rpmで5分間遠心分離して上清画分を回収し、サンプルとした。各サンプルに含まれる乳酸量は、F−キットL−乳酸キット(JKインターナショナル INC.)を用いて測定した。乾燥麹1gが含有するL−乳酸量(mg/g)として算出した。
【0054】
〔結果〕
高い添加量の炭酸マグネシウム(0.70g、培地乾物中に4.3%)と脱脂コーン胚芽(6.0g)を高菌数化の為の必須成分と仮に定め、そこへ脱脂小麦胚芽、脱脂米胚芽、小麦フスマあるいは麹小麦を各々9.5gずつ添加して固体培地(総量16.2g)を構成し、その培地でSfを培養することにより、これら必須成分と組み合わせて相乗的高菌数化効果を出せる培地成分の選択を行なった。得られた結果を表8に示した。表6に示した試験例では、固体培地に接種した菌体が培養時間を長過ぎしかも炭酸マグネシウム添加量が2%と低かった為に、脱脂米胚芽が脱脂小麦胚芽に比べて高い菌数増加効果を出せなかった。ところが本試験例の様に元気の良い種菌を用い、しかも炭酸マグネシウムを4.3%と高菌数化に望ましい充分量を添加した場合には、脱脂米胚芽が脱脂小麦胚芽と同様の高菌数化効果を示した。一方、小麦フスマおよび麹小麦の添加は、高菌数化に必要なpH域を確保していたにもかかわらず、到達菌数が低かった。 この結果から、高菌数化を達成する為には炭酸マグネシウム高濃度添加によって望ましい培地pHの確保が重要であると共に、固体培地成分の栄養素の量的水準に関してもある程度以上の確保が重要であると分った。ちなみに、酸性pHの脱脂コーン胚芽の代わりに酸性pHのカルボキシメチルセルロースを炭酸マグネシウムと共に添加したが、滅菌後の培地pHが6.61と低かったので高菌数化しなかった。
【0055】
なお、ここで注目された点は、脱脂コーン胚芽6.0g及び炭酸マグネシウム0.70の基礎培地の滅菌後のpHは8.06であり、そこへ添加した個々の培地成分のpHは脱脂小麦胚芽が6.25、脱脂米胚芽が5.69、小麦フスマが6.00、麹小麦が5.71といずれの成分も基礎培地pHより酸性であるにもかかわらず、これらを添加した最終完全培地のpHは8.2〜8.4となり、逆にアルカリ側にシフトした。最終完全培地をオートクレーブで滅菌中に不溶性炭酸マグネシウムの一部が培地の酸性物質と中和反応した結果、フリーになった炭酸イオンが炭酸ガスとして飛散した結果、滅菌後の培地pHがアルカリ側にシフトしたのが原因と推察された。炭酸マグネシウムのこの様なアルカリpH維持機能は、乳酸菌が生育する際に分泌する乳酸と接触しても同様に機能すると推察されることから、高菌数化を図るために重要な要素の一つと云えよう。
【0056】
【表8】
【0057】
試験例8. 「培地pHを8.4に調整し、高菌数化必須三成分の配合比による到達菌数への影響」
試験方法: 培地組成3.2%WTの液体培地80mlにSfを一白金耳量接種し、30℃・130rpmで一夜振盪培養した。 この菌液を表6に示した無機塩添加固体培地に2.5mlずつ接種(1.4x108cfu/g培地)した後、スパテルで固体培地を攪拌することにより菌の均一性を確保した。培養開始時の培地水分は55.0%に調製した。30℃・80%RHで24時間培養した後、麹を濾紙に広げ、50℃で一夜乾燥して乾燥麹を得た。なお、接種した後、8時間目に固体培地をスパテルで攪拌して菌の均一性を更に高めた。 乾燥麹のSf菌数は、比較例1に記載した方法で分析した。
【0058】
〔結果〕
胚芽混合培地のpHをSfの高菌数化に好ましいpH8.4に設定し、脱脂小麦胚芽、脱脂コーン胚芽、及び炭酸マグネシウムの三成分の添加比率を表9に示した様に変化させた。その結果、酸性の脱脂コーン胚芽(pH3.6)とアルカリ性の炭酸マグネシウム両者の添加比率を高めることによって培地のpH緩衝能を高める程、培養時の培地pHの低下が抑制された。到達菌数は、脱脂小麦胚芽を11.0g含む培地組成が最も高かった。400x108cfu/g以上の高菌数に到達した培地の脱脂コーン胚芽添加量は3.00〜9.00gと広範囲であった。即ち、高菌数化の為には栄養豊富な脱脂小麦胚芽の栄養素が必須であるにもかかわらず、培地乾物全量当たり脱脂小麦胚芽の添加比率が78%〜40%と約2倍も変化する範囲においてほぼ同じ高菌数となった。この知見は、本発明の高菌数化因子は、固体培地が含有する栄養素の量的側面はある程度の量さえ確保すれば充分であり、栄養素の確保以上に高菌数化を図るために重要な因子が存在していることを示唆する。即ち、この因子こそが固体培地の表面で増殖する菌体と培地全体に影響を及ぼし得るファクターであり、高濃度の炭酸マグネシウムを培地に添加することにより菌生育上限pH付近で高いpH緩衝作用を固体培地に賦与すること及び良好な通気性確保することの両者と推察された。本発明の固体培地はこのpHと通気性の両者を確保することにより、接種された乳酸菌がホモ乳酸醗酵からヘテロ乳酸醗酵系へ代謝経路を変化させることが出来、乳酸産生を抑制し、その分を酢酸の産生に向け、その過程で新たにATPエネルギーを獲得できるようになることで、生育が一層旺盛化するようになると推察された。
【0059】
【表9】
【0060】
試験例9.「高菌数化必須三成分の滅菌法の違いによる到達菌数への影響」
試験方法: 試験例7と同様。
〔結果〕
固体培養は培地成分同士が粒状であるのでミクロ的に見れば培地成分相互の影響を及ぼし難く、培地が不均一なことが特徴と云える。培地滅菌中に不溶性の炭酸マグネシウムのマグネシウムイオンが胚芽培地の酸性物質と反応することにより、炭酸イオンが炭酸ガス化して飛散し易くなり、これにより培地をアルカリ側に多少シフトさせると予想される。高菌数化因子がこの滅菌中の変化と何らかの関係があるのではと仮定された。そこで、三種類の高菌数化必須培地成分を表9に示した様にグルーピングしてから各々滅菌し、種菌を各グループへ接種した後、それらを混合し製麹を行なった。その結果、いずれのグルーピングを経ても高い到達菌数となった。
本試験結果は、高菌数化因子が、固体培地の局所的な成分変化に起因すると考えるよりも、炭酸マグネシウム及び通気性が中心的に関与した培地全体の変化に起因するものであり、その情報を固体培地において菌が受け取り高菌数化できると捉える考え方の方が妥当であることを示唆する他、本発明を実生産規模で実施する際にも色々異なる培地滅菌方法があるが、いずれの滅菌方法を選択しても同様の効果を期待できることを示唆するものであり、重要な知見と云えよう。
【0061】
【表10】
【0062】
試験例10. 「高菌数化最適条件の解体・再構成による高菌数化因子―Aの解析.
高菌数化に及ぼす好気的/嫌気的固体培養の影響」
試験方法: BL液体培地10mlにSfを一白金耳量接種し、30℃で一夜振盪培養した。この菌液を表10に示した組成の固体培地に2.5mlずつ接種(4.5x108cfu/g培地)した後、スパテルで固体培地を攪拌することにより菌の均一性を確保した。培養開始時の培地水分は55.0%に調製した。 30℃・80%RHで17時間好気的または嫌気的に培養した後、麹を濾紙に広げ、50℃で一夜乾燥して乾燥麹を得た。乾燥麹のSf菌数は比較例1に記載した方法で分析した。なお、脱脂米胚芽7.75g及び脱脂小麦胚芽7.75gで構成した固体培地は、加水する際、脱イオン水の代わりに0.05N苛性ソーダを9.3ml添加し、その他の固体培地へは脱イオン水を用いた。乾燥麹の菌体が含有するATP含有量の測定:乾燥麹の適量をリン酸バッファ(pH6.8)に入れ、室温で30分間激しく振盪して菌体を抽出する。抽出液を濾過した後、滅菌水で10倍ずつ希釈する。 この希釈液をATP測定用サンプルとする。ATPの測定はルミテルターC100(キッコーマン(株)製)を用いて行なった。
【0063】
〔結果〕
本発明の固体培地における高菌数化要因を酸素供給の面から検討した。即ち、表11に示した様に、固体培地に炭酸マグネシウムの添加有無に関係なく、嫌気的培養時の到達菌数は好気的培養に比べて低かったことから、本発明の高菌数化因子として酸素供給が必須なことが明らかとなった。更に、本発明の固体培地で好気的培養して得られた乾燥麹の菌体当たりのL−乳酸量が0.079x10−8(mg/cell)と低く、本発明の固体培養は乳酸産生を抑制することに特徴があることを示唆する。以上の知見は、本発明者らの高菌数化に関する作業仮説が正しいことを裏付ける根拠の一つと云える。一方、菌数当たりのATP含有量は、好気的固体培養の方が嫌気固体培養よりも低く、特に高菌数化した条件において顕著に低かった。このことは、本発明の高菌数化条件では、遺伝子発現率が高いために酵素が充分量産生されているので、産生したATPはこれらの酵素が担う代謝経路で消費されてしまい、菌体内のATPプール濃度が低下していると推察された。
【0064】
【表11】
【0065】
試験例11. 「高菌数化に及ぼす種菌のコンディションの影響、及び小麦フスマ培地による脱脂コーン胚芽の代替」
試験方法:
高栄養の液体培地で対数増殖後期の菌体を調製: BL液体培地10mlにSfを一白金耳量接種し、30℃・130rpmで一夜振盪培養した。 この菌液1mlを2%グルコース及び2%ハイニュートSMP(不二製油(株)製大豆ペプトン)添加BL液体培地50ml(シリコ栓付き500ml三角フラスコ)へ接種し、30℃で6時間120rpmの振盪速度で培養して対数増殖後期の菌体を調製した。 菌数は21.5x108cfu/mlであった。
低栄養の液体培地でSfを一夜振盪培養して定常期後期の菌体を調製: 培地組成3.2%WTの液体培地50mlにSfを一白金耳量接種し、30℃・120rpmで20時間振盪培養した。この菌液の到達菌数は3.8x108cfu/mlであった。
固体培養: 表12に示した組成の固体培地に液種を各々2.5mlずつ接種した後、スパテルで固体培地を攪拌することにより菌の均一性を確保した。 培養開始時の培地水分は53.0%に調製した。30℃・80%RHで24時間培養した後、麹を濾紙に広げ、50℃で一夜乾燥して乾燥麹を得た。なお、種菌を固体培地に接種した後、培養8時間目において固体培地をスパテルで攪拌して菌の均一性を更に高めた。乾燥麹のSf菌数は、比較例1に記載した方法で分析した。
【0066】
〔結果〕
固体培地に脱脂コーン胚芽と同様の通気性を確保できる小麦フスマを栄養豊富な脱脂小麦胚芽と共に用いる場合、脱脂コーン胚芽が含む酸性pHと炭酸マグネシウムとの間のpH緩衝作用は、菌が分泌する乳酸でも代替が可能か検討した。栄養豊富な液体培地で対数増殖後期の菌体を調製すれば、この菌体を種菌として固体培地に接種すると速やかに乳酸を固体培地に分泌することができると推察され、この乳酸と炭酸マグネシウムとの間で脱脂コーン胚芽と同様の生育に望ましいpH域を調整できると考えられた。その結果、表12に示した様に、菌が乳酸を盛んに分泌している状態で種菌として用いれば、脱脂コーン胚芽の代わりに小麦フスマでも充分に高菌数化を達成できることが分った。従って、固体培地で再現良く高菌数化に至らしめるためには、対数増殖後期の乳酸を産生している菌体を用いることが重要であり、固体培地において高濃度の炭酸マグネシウムと菌体が接触してもその高いアルカリ性によって生育が阻害されることを防止できる他、菌体にホモ乳酸醗酵経路からヘテロ乳酸醗酵経路に変更できると推察された。
【0067】
【表12】
【0068】
試験例12. 「固体培地に酸を添加することによって脱脂コーン胚芽の酸性pHに対する代替」
試験方法:
高栄養の液体培地で対数増殖後期の菌体を調製: BL液体培地10mlにSfを一白金耳量接種し、30℃・130rpmで一夜振盪培養した。この菌液1mlを2%グルコース及び2%ハイニュートSMP(不二製油(株)製大豆ペプトン)添加BL液体培地50ml(シリコ栓付き500ml三角フラスコ)へ接種し、30℃で6時間120rpmの振盪速度で培養して対数増殖後期の菌体を調製した。菌数は21.5x108cfu/mlであった。
固体培養: 表12に示した組成の固体培地に液種を各々2.5mlずつ接種した後、スパテルで固体培地を攪拌することにより菌の均一性を確保した。 培養開始時の培地水分は53.0%に調製した。30℃・80%RHで24時間培養した後、麹を濾紙に広げ、50℃で一夜乾燥して乾燥麹を得た。なお、種菌を固体培地に接種した後、培養8時間目において固体培地をスパテルで攪拌して菌の均一性を更に高めた。乾燥麹のSf菌数は比較例1に記載した方法で分析し、L−乳酸量は試験例7に記載した方法で分析した。
【0069】
〔結果〕
これまでの知見を総合すると、脱脂コーン胚芽の高菌数化に及ぼす因子は、▲1▼酸性pHに由来する炭酸マグネシウムとのpH緩衝作用の賦与、▲2▼形状に起因する固体培地の通気性向上機能、そして▲3▼乳酸産生の抑制作用が挙げられる。ここでは、高菌数化に及ぼす▲3▼乳酸産生の抑制による効果を以下の方法で解析した。即ち、脱脂コーン胚芽に相当する量の胚芽に酸をあらかじめ添加することにより、脱脂コーン胚芽と同様のpH3.65前後に調整した。この酸性pHに調整した胚芽を脱脂コーン胚芽の代わりに固体培地成分として用い、炭酸マグネシウムとの間で望ましいpH緩衝能を賦与することで200x108cfu/g以上の高菌数化が達成するか検討した。なお、安定的に高菌数化を図れるようにするとの意図で、高栄養の液体培地で対数増殖後期の菌体を調製し、それを種菌として固体培地に接種した。その結果、表13に示した様に、いずれの培地条件においても200x108cfu/g以上の高菌数に到達したが、脱脂コーン胚芽を用いた対照の到達菌数615x108cfu/gの40〜74%と少なかった。特徴的なことは、培養後の培地pHは酸添加条件でいずれも酸性側に大きくシフトしており、L−乳酸産生量が対照に比べて10mg/g以上も多かった。この知見は、脱脂コーン胚芽による乳酸産生の抑制効果が高菌数化の重要な因子の一つであることを示唆している。
【0070】
【表13】
【0071】
試験例13.「乳酸を産生しない微生物は高菌数化条件で固体培養しても高菌数化しない」
試験方法
菌株の単離:(株)ミツカン製・’金のつぶ・におわなっとう’を購入し、SCDプレートにおいてコロニー性状を異にする2種類の菌株を分離した。 他社の納豆から単離した同プレートにおけるコロニー性状が全く同じ菌株を’納豆協会菌株’、他社の納豆から単離した菌株とコロニ性状が異なる菌株を’低臭性育種菌株’と便宜上命名した。
胚芽固体培養: BL液体培地10mlを含む試験管(シリコ栓付き)に2種類の納豆菌株を各々一白金耳量接種し、30℃で一夜振盪培養した。BL液体培地(シリコ栓付き500ml三角フラスコ)50mlへこの種菌1mlを接種して6時間培養して対数増殖期の菌体を調製し、その2.5mlを固体培地へ接種した。 固体培地は表14に示した組成であり、いずれも培地水分を55%に設定した。製麹は、30℃・80%RHで20時間行い、製麹途中の手入れを行なわなかった。麹の菌数測定は、培養を終了した麹5gを直接50mlリン酸バッファ(pH6.8)で30分間激しく振盪した後、同バッファで10倍ずつ希釈し、SCDプレート2〜3枚に0.1mlを塗沫し、37℃に一夜培養して出現したコロニー数を測定して行なった。
【0072】
〔結果〕
本発明の高菌数化メカニズムに関する作業仮説に基づけば、乳酸を産生しない微生物を本発明の高菌数麹の製造条件で培養しても菌数を増加させないことが予測される。そこでこれを証明する目的で、乳酸を産生せず、しかも胚芽固体培地で良好に生育できる微生物として、市販納豆より納豆菌を分離して、本発明の製麹に供した。その結果、表14に示した様に、試験した2種類の納豆菌株とも本発明の高菌数培養条件において全く菌数を増加せず、本作業仮説を支持する結果が得られた。更に、本知見は、本発明の高菌数化条件で乳酸菌を培養する際、万が一雑菌汚染が発生しても汚染菌を高菌数化してしまう事態に至る可能性が低く、本発明の高菌数化固体培地は乳酸菌に対する優れた選択的増殖能を有することを示唆したものと云えよう。
【0073】
【表14】
【0074】
実施例1.「Sfの高菌数麹」
BL液体培地10mlにSfを一白金耳量接種し、30℃・200rpmで一夜振盪培養した。 この菌液1mlを2%グルコース及び2%ハイニュートSMP(不二製油(株)製大豆ペプトン)添加BL液体培地50ml(シリコ栓付き500ml三角フラスコ)へ接種し、30℃で6時間120rpmの振盪速度で培養して対数増殖後期の菌体を調製した。 菌数は21.5x108cfu/mlであった。 脱脂大豆胚芽5.0g、脱脂米胚芽6.0g、脱脂小麦胚芽(0.5N硫酸0.23ml添加してpH3.65に調整したもの)4.50g、炭酸マグネシウム0.50gに脱イオン水13.39ml添加した組成の固体培地をシリコ栓付き300ml三角フラスコに入れ、スパテルで充分に攪拌してからオートクレーブ滅菌を25分間行なった。滅菌後の培地pHは7.96であった。 この固体培地に液種を2.5ml接種した後、スパテルで固体培地を攪拌することにより菌の均一性を確保した。培養開始時の培地水分は55.0%に調製した。
30℃・80%RHで20時間培養した後、麹を濾紙に広げ、50℃で一夜乾燥して乾燥麹14.55gを得た。なお、種菌を固体培地に接種した後、培養8時間目において固体培地をスパテルで攪拌して菌の均一性を更に高めた。乾燥麹のSf菌数は比較例1に記載した方法で分析し、L−乳酸量は試験例7に記載した方法で分析した。その結果、到達菌数が484x108cfu/g乾燥麹、L−乳酸産生量が32.5mg/g乾燥麹、そして乾燥麹pHが5.78であった。
【0075】
実施例2. 「Enterococcus faecalis JCM5803株の高菌数麹」
BL液体培地10mlにEnterococcus faecalis JCM5803株を一白金耳量接種し、30℃・200rpmで一夜振盪培養した。この菌液の到達菌数は39.5x108cfu/mlであった。この菌液2.5mlを種菌として、本発明の固体培地及び対照の固体培地に接種し、スパテルで固体培地を攪拌することにより菌の均一性を確保した。培養開始時の培地水分は55.0%に調製した。30℃・80%RHで24時間培養した後、麹を濾紙に広げ、45℃で一夜乾燥して乾燥麹を得た。なお、種菌を固体培地に接種した後、培養8時間目において固体培地をスパテルで攪拌して菌の均一性を更に高めた。 乾燥麹のSf菌数は比較例1に記載した方法で分析した。その結果、到達菌数は本発明培地が95x10 8 cfu/g乾燥麹、対照培地が18x108cfu/g乾燥麹であり、顕著に本発明の製麹条件の方が高菌数麹となった。なお、アスペルギルス・オリゼー麹は、同菌を胚芽培地(培地水分55%)で48時間固体培養して得られた培養物を50℃で送風乾燥したものである。
本発明固体培地:脱脂米胚芽3.1g、脱脂小麦胚芽6.2g、脱脂コーン胚芽3.1g、アスペルギルス・オリゼー麹3.1g、炭酸マグネシウム0.30g、及び脱イオン水13.4ml。
対照の固体培地:脱脂米胚芽3.1g、脱脂小麦胚芽9.3g、脱脂コーン胚芽3.1g、及び脱イオン水13.0ml。
【0076】
実施例3.「Enterococcus faecium IFO3128株株高菌数麹」
BL液体培地10mlにEnterococcus faecium IFO3128株を一
白金耳量接種し、30℃・200rpmの振盪速度で20時間培養した。この菌液の到達菌数は15.4x108cfu/mlであった。 この菌液2.5mlを種菌として、本発明の固体培地及び対照の固体培地に接種し、スパテルで固体培地を攪拌することにより菌の均一性を確保した。30℃・80%RHで24時間培養した後、麹を濾紙に広げ、45℃で一夜乾燥して乾燥麹を得た。なお、種菌を固体培地に接種した後、培養8時間目において固体培地をスパテルで攪拌して菌の均一性を更に高めた。 乾燥麹の菌数は比較例1に記載した方法で分析した。その結果、到達菌数は本発明培地が638x108cfu/g乾燥麹、対照培地が66x108cfu/g乾燥麹であり、顕著に本発明の製麹条件の方が高菌数麹となった。
本発明固体培地:脱脂小麦胚芽9.5g、脱脂コーン胚芽6.0g、炭酸マグネシウム0.70g、及び脱イオン水13.86ml
対照の固体培地:脱脂小麦胚芽15.5g及び脱イオン水13.10ml
【0077】
実施例4.「Lactococcus cremoris IFO3427株の高菌数麹」
BL液体培地10mlにLactococcus lactis subsp.cremoris IFO3427株を一白金耳量接種し、30℃・200rpmの振盪速度で20時間培養した。この菌液の到達菌数は8.1x108cfu/mlであった。この菌液2.5mlを種菌として、本発明の固体培地及び対照の固体培地に接種し、スパテルで固体培地を攪拌することにより菌の均一性を確保した。30℃・80%RHで24時間培養した後、麹を濾紙に広げ、45℃で一夜乾燥して乾燥麹を得た。なお、種菌を固体培地に接種した後、培養8時間目において固体培地をスパテルで攪拌して菌の均一性を更に高めた。乾燥麹の菌数は比較例1に記載した方法で分析した。その結果、到達菌数は本発明培地が473x108cfu/g乾燥麹、対照培地が55x108cfu/g乾燥麹であり、顕著に本発明の製麹条件の方が高菌数麹となった。
本発明固体培地:脱脂小麦胚芽9.5g、脱脂コーン胚芽6.0g、炭酸マグネシウム0.70g、及び脱イオン水13.86ml。
対照の固体培地:脱脂小麦胚芽15.5g及び脱イオン水13.10ml
【0078】
実施例5.「Lactococcus cremoris IFO3427株及びSfの共生系高菌数麹」
BL液体培地10mlにLactococcus lactis subsp.cremoris IFO3427株及びSfを一白金耳量接種し、30℃・200rpmの振盪速度で20時間培養した。この菌液の到達菌数はL. cremoris IFO3427株が5.7x108cfu/ml、Sfが34.4x108cfu/mlであった。 種菌として両菌株の菌液をそれぞれ1.25mlずつ本発明の固体培地及び対照の固体培地に接種し、スパテルで固体培地を攪拌することにより菌の均一性を確保した。30℃・80%RHで24時間培養した後、麹を濾紙に広げ、45℃で一夜乾燥して乾燥麹を得た。なお、種菌を固体培地に接種した後、培養8時間目において固体培地をスパテルで攪拌して菌の均一性を更に高めた。 乾燥麹の菌数は試験例1に記載した方法で分析した。その結果、到達菌数は本発明培地が650x108cfu/g乾燥麹、対照培地が99x108cfu/g乾燥麹であり、顕著に本発明の製麹条件の方が高菌数麹となった。
本発明固体培地:脱脂小麦胚芽9.5g、脱脂コーン胚芽6.0g、炭酸マグネシウム0.70g、及び脱イオン水13.86ml。
対照の固体培地:脱脂小麦胚芽15.5g及び脱イオン水13.10ml
Claims (5)
- 乳酸菌を固体培養するにあたり、植物体に炭酸マグネシウムまたはヒドロタルサイトを添加した固体培地を用いて培養することを特徴とする乳酸菌麹の製造法。
- 固体培地が糸状菌を培養した植物体である請求項1記載の乳酸菌麹の製造法。
- 植物体が小麦胚芽、米胚芽、大豆胚芽、コーン胚芽、大豆、麹麦、小麦、小麦フスマ、米、ソルガム、コーン、ヒヨマメ、大麦、胡麻又はソバである請求項1又は2記載の乳酸菌麹の製造法。
- 植物体が小麦胚芽、米胚芽、コーン胚芽、小麦フスマである請求項1〜3記載の乳酸菌麹の製造法。
- 乳酸菌として、エンテロコッカス・フェシウム、エンテロコッカス・フェカーリス、ラクトコッカス・クレモリスに属する菌を単独あるいは複数組み合わせて培養することを特徴とする請求項1〜4記載の乳酸菌麹の製造法。
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