JP2004052141A - 繊維状炭素物質の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】繊維状炭素物質の生成時に副生成される非晶質の炭素や不定形の炭素の堆積物等の炭素系副生成物を、繊維状炭素物質から低減または消失させるのに有利な繊維状炭素物質の製造方法を提供する。
【解決手段】炭素原子で構成された複数の六方網平面が繊維長手方向に対して積層して形成され繊維径がナノメートル単位の繊維状炭素物質を準備する。酸素濃度が15.0質量%以下のガス中で繊維状炭素物質を加熱して熱処理することにより、繊維状炭素物質に付着している繊維状炭素物質よりも結晶度の低い炭素系副生成物を低減させる。
【選択図】図4
【解決手段】炭素原子で構成された複数の六方網平面が繊維長手方向に対して積層して形成され繊維径がナノメートル単位の繊維状炭素物質を準備する。酸素濃度が15.0質量%以下のガス中で繊維状炭素物質を加熱して熱処理することにより、繊維状炭素物質に付着している繊維状炭素物質よりも結晶度の低い炭素系副生成物を低減させる。
【選択図】図4
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はカーボンナノファイバーとも呼ばれる繊維状炭素物質の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、ピッチ系炭素繊維及び気相成長炭素繊維が提供されている。ピッチ系炭素繊維の繊維径は数μm単位(7〜8μm)であり、気相成長炭素繊維は1μm単位(1〜2μm)であり、繊維径が大きいものである。これらのピッチ系炭素繊維及び気相成長炭素繊維は、繊維径がμm単位であり、ナノメートル単位ではない。
【0003】
また繊維径がナノメートル単位の炭素系物質としてカーボンナノチューブも知られている。カーボンナノチューブは、炭素原子で構成された六方網平面がチューブ状となったものである。
【0004】
また、近年、繊維径がナノメートル単位のカーボンナノファイバーとも呼ばれる繊維状炭素物質も知られている(USP 5458784)。この繊維状炭素物質は、炭素原子で構成された複数の六方網平面が繊維長手方向において積層して形成されており、カーボンナノチューブとは異なる構造をもつ。この繊維状炭素物質は、水素ガスやメタンガスを吸着させる吸着材料、また電界放出材料として、近年、注目を集めている。
【0005】
この繊維状炭素物質は、文献によれば、炭素原子同士が共有結合した六方網平面がファン・デル・ワールス力により結合して積層して形成されたものと言われている。この繊維状炭素物質による水素やメタンの吸着は、繊維表面に位置する六方網平面の炭素原子と、繊維状炭素物質の外側に存在する水素分子から解離した水素原子とのイオン結合によるものと推察されている。
【0006】
また特開2001−335310号公報には、カーボンナノチューブ等の炭素物質に含まれている金属触媒を溶媒中で還流することにより除去する工程と、還流された炭素物質を大気雰囲気において200〜700℃に加熱処理してアモルファス炭素を気化させて除去する工程とが開示されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記したカーボンナノファイバーとも呼ばれる繊維状炭素物質を生成するとき、挟雑物として副生成される非晶質の炭素や不定形の炭素の堆積物等といった炭素系副生成物が繊維状炭素物質の近傍に形成されることが多い。この炭素系副生成物は、繊維状炭素物質の端部を隠蔽するため、繊維状炭素物質の本来の特性を阻害するおそれがある。例えば、繊維状炭素物質が水素ガスやメタンガスを吸着する際における吸着性が損なわれることがある。
【0008】
本発明は上記した実情に鑑みなされたものであり、繊維状炭素物質の生成時に副生成される非晶質の炭素や不定形の炭素の堆積物等といった炭素系副生成物を繊維状炭素物質から低減または消失させるのに有利な繊維状炭素物質の製造方法を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、カーボンナノファイバーとも呼ばれる繊維状炭素物質について鋭意開発を進めている。そして、結晶度が高ければ発火性は低いが、結晶度が低ければ発火性が高くなることに着目し、酸素濃度が15.0質量%以下のガス雰囲気で繊維状炭素物質を加熱して熱処理することにより、結晶度の相違に基づく発火性の高低差を利用し、結晶度の高い所望の繊維状炭素物質を残したまま、非晶質の炭素や不定形の炭素の堆積物等といった結晶度の低い炭素系副生成物を優先的に燃焼して低減または除去することを知見し、試験により本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明に係る繊維状炭素物質の製造方法は、炭素原子で構成された複数の六方網平面が繊維長手方向に対して積層して形成され繊維径がナノメートル単位の繊維状炭素物質を準備する第1工程と、
酸素濃度が15.0質量%以下のガス中で繊維状炭素物質を加熱して熱処理することにより、繊維状炭素物質に付着している繊維状炭素物質よりも結晶度の低い炭素系副生成物を低減させる第2工程とを含むことを特徴とするものである。
【0011】
本発明によれば、繊維状炭素物質の生成時に副生成される非晶質の炭素や不定形の炭素の堆積物等といった炭素系副生成物が、繊維状炭素物質の近傍に存在していたとしても、繊維状炭素物質よりも炭素系副生成物が優先して燃焼する。このため結晶度が高い繊維状炭素物質を残したまま、結晶度が低い炭素系副生成物が低減または消失される。これにより繊維状炭素物質の純度が向上する。
【0012】
繊維状炭素物質は、炭素原子からなる複数の六方網平面が繊維長手方向において積層して形成されている。上記したように繊維状炭素物質の近傍に存在していた非晶質の炭素や不定形の炭素の堆積物等といった炭素系副生成物が低減または消失されると、繊維状炭素物質の繊維表面の前記六方網平面の端部の露出性は向上する。
【0013】
このように繊維状炭素物質における六方網平面の端部を露出性を高めることにより、繊維状炭素物質を構成する炭素の六方網平面間の端部の炭素原子の化学的活性を高めることができる。故に、繊維状炭素物質の外側の空間にある、例えば水素分子やメタン分子やこれらから解離した水素原子等が容易に上記繊維状炭素物質の炭素原子と化学的に結合するようになる。従って、この繊維状炭素物質を水素、メタン等の吸着材料として使用する場合、高い吸着性を有する繊維状炭素物質を提供することができる。
【0014】
また、この繊維状炭素物質に白金やパラジウムなどの触媒物質を担持させるときにおいても、六方網平面間の端部の炭素原子が容易に金属触媒を吸着することができるため、触媒担体としても好適である。
【0015】
上記したように繊維状炭素物質の表面において六方網平面の端部の露出性が高まることにより、六方網平面の端部にある炭素原子の化学的活性が高くなり、例えば水素分子やメタン分子等を吸着し易くなる。また、この化学的活性が高まった炭素原子により水素分子から水素原子が解離して、六方網平面間に侵入する可能性も考えられる。従って、本発明の繊維状炭素物質を用いれば、水素ガスやメタンガス等の被吸着物質に対する吸着能が高い吸着材を製造することが可能になる。また、導電性の低く樹脂等に対する濡れ性が低い非晶質の炭素や黒鉛の堆積物等の炭素系副生成物が除去されているため、この繊維状炭素物質は導電樹脂材料にも好適に使用される。
【0016】
さらに、この繊維状炭素物質を導電性が要求される導電材料として使用する場合においても、上記の非晶質の炭素や無定形の炭素堆積物といった炭素系副生成物の除去により、六方網平面の端部同士が直接接触し易くなり、電子の移動が容易となり、繊維状炭素物質の導電性が向上するので、本発明の繊維状炭素物質の製造方法は好適である。
【0017】
本発明によれば、繊維状炭素物質の表面近傍に存在する電気伝導性の低い非晶質の炭素や不定形の炭素の堆積物等といった炭素系副生成物を選択的に除去できるために、繊維状炭素物質の導電性を向上させることができる。故に本発明に係る繊維状炭素物質は、リチウムイオン電池用負極材料や、負極への添加剤として好適である。
【0018】
また、上記した炭素系副生成物を繊維状炭素物質から除去することによって、繊維状炭素物質を構成する炭素積層構造の端部を効果的に露出させることができる。故に、繊維状炭素物質の導電性の向上と併せて、繊維表面でのイオン吸着性の向上が期待できる。よって、電気二重層キャパシタ用電極としても好適である。黒鉛の電気二重層容量は、基底面より端面の方が大きいことが知られており、このことからも繊維表面に炭素積層構造の端部が露出している本発明に係る繊維状物質は好適である。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明方法によれば、繊維状炭素物質は、炭素原子で構成された複数の六方網平面が繊維長手方向に対して0度よりも大きい角度(0度を越える角度、繊維長手方向に対して90度、180度を含む)で積層して形成され繊維径がナノメートル単位の繊維状炭素物質である。繊維状炭素物質の繊維径はナノメートル単位であり、平均で一般的には2〜800ナノメートル、5〜600ナノメートル、特に10〜300ナノメートルであるが、これに限定されるものではない。一般的には、繊維状炭素物質を生成するとき、炭化水素系ガス等の炭素源ガスを供給した雰囲気において、金属触媒が用いられる。この場合、炭素原子からなる複数の六方網平面が金属触媒を起点にして積層して成長し、この積層した炭素の六方網平面が繊維の長手方向に対して所定の角度(0度、または0度より大きい角度)をなす。このため、金属触媒のサイズが繊維状炭素物質の繊維径に影響を与えると一般的には言われている。
【0020】
図1、図2は、カーボンナノファイバーと呼ばれる繊維状炭素物質の代表的な形態を模式的に示す。図1に示す繊維状炭素物質(繊維径:D1)は、炭素原子で構成された複数の六方網平面10が繊維長手方向(Y方向)に対して0度よりも大きい角度で傾いて積層されていることにより形成されている。図2に示す繊維状炭素物質(繊維径:D2)は、炭素原子で構成された複数の六方網平面20が繊維長手方向(Y方向)に対して90度よりも小さい角度で積層することにより形成されている。六方網平面10、20の端部10a,20aは、露出していることが好ましい。しかし、繊維状炭素物質を生成した状態では、副生成される非晶質の炭素や不定形の炭素の堆積物等の炭素系副生成物により、端部10a,20aが覆われている。なお、繊維状炭素物質の生成時において、炭化水素系のガス雰囲気において、炭素原子が結合した六方網平面10は金属触媒30を起点として積層することが多いため、生成時には金属触媒30を用いることが多い。
なお、繊維状炭素物質は中空部を有することもある。
【0021】
本発明方法によれば、繊維状炭素物質が金属触媒等の金属相を含んでいる状態で、第2工程における熱処理を実施する形態を採用することができる。熱処理時に、金属触媒等の金属相は繊維状炭素物質自体よりも昇温し易いため、金属触媒などの金属相の付近に存在している炭素系副生成物が効果的に燃焼し易くなる。
【0022】
本発明方法によれば、好ましくは、第1工程における繊維状炭素物質は金属触媒等の金属相を有しており、そして第2工程に係る熱処理を実施した後に、金属相を溶出可能な溶液と繊維状炭素物質とを接触させることにより、金属相を繊維状炭素物質から溶出または分離させる形態を採用することができる。金属相としては、繊維状炭素物質を生成するとき、炭素原子で構成された複数の六方網平面の起点となる金属触媒とすることができる。金属触媒等の金属相としては鉄、ニッケル等の鉄族元素、白金、パラジウム等の白金族元素、ランタン、イットリウム等の希土類元素等のうちの少なくとも1種が例示される。金属触媒等の金属相のサイズとしては特に限定されるものではないが、例えば、1〜1000ナノメートル、殊に10〜200ナノメートルとすることができるが、これに限定されるものではない。
【0023】
繊維状炭素物質が金属相を有する場合には、繊維状炭素物質の純度を向上させるため、繊維状炭素物質から金属相を除去することが好ましい。しかし、金属相を溶出可能な溶液と繊維状炭素物質とを接触させたとしても、繊維状炭素物質を生成するときに副生成される非晶質の炭素や不定形の炭素の堆積物等といった炭素系副生成物が繊繊維状炭素物質の付近に存在していることが多い。この場合、金属相を溶出可能な溶液と金属相との接触は、上記炭素系副生成物により妨げられ、金属相の除去能が低下する。そこで前記したように、第2工程に係る熱処理を実施することにより、炭素系副生成物を繊維状炭素物質から低減または除去した後に、金属相を溶出可能な溶液と繊維状炭素物質とを接触させることにすれば、金属相を溶出可能な溶液と金属相との接触性が良好に確保され、繊維状炭素物質からの金属相の溶出または分離を促進させることができる。これにより繊維状炭素物質の純度が向上する。金属相を溶出可能な溶液としては、酸または酸を含む溶液を採用することができる。酸としては硝酸、塩酸、王水等が例示される。
金属相を溶出可能な溶液は、常温でも良いし、加熱されていても良い。
【0024】
上記したように第2工程に係る熱処理を実施して炭素系副生成物を繊維状炭素物質から低減または除去した後に、金属相を溶出可能な溶液と繊維状炭素物質とを接触させることにすれば、次の作用効果も期待することができる。即ち、熱処理時に、繊維状炭素物質は金属触媒等の金属相を含んでいる。熱処理開始時に、金属触媒等の金属相は繊維状炭素物質自体よりも昇温し易いため、金属触媒などの金属相の周囲の炭素が部分的に燃焼し、繊維状炭素物質内に埋没されていた金属触媒などの金属相が繊維状炭素物質の外部へ露出し易くなる。このため、第2工程に係る熱処理において金属触媒等の金属相と溶液とを接触させれば、金属触媒等の金属相と溶液との接触性を向上させることができる。
【0025】
本発明方法によれば、第2工程の熱処理において使用するガスの酸素濃度が過剰であれば、炭素系副生成物よりも結晶度が高い繊維状炭素物質自体の燃焼も無視できない。また、ガスの酸素濃度が過小であれば、繊維状炭素物質の燃焼を抑えることができるが、炭素系副生成物の燃焼が充分でなくなり、繊維状炭素物質の純度向上が充分でなくなり、また熱処理に時間を必要とする。そこで本発明方法によれば、第2工程の熱処理に用いるガスの酸素濃度を大気の酸素濃度以下とし、15.0質量%以下とする。
【0026】
殊に、炭素系副生成物の燃焼性、繊維状炭素物質の結晶性、生産性の向上等を考慮すると、第2工程の熱処理に用いるガスの酸素濃度は0.005〜13.0質量%である形態を採用することができる。ガスの酸素濃度を上記のように設定することにより、炭素系副生成物を効率よく除去でき、安定的に高い純度の繊維状炭素物質を生産性よく製造することができる。殊に、熱処理温度が例えば400℃〜1200℃程度、熱処理の時間が50時間程度であっても、安定的に高い純度の繊維状炭素物質を生産性よく製造することができる。なお、第2工程の熱処理に用いるガスの酸素濃度としては、必要に応じて、0.08〜12.0%、殊に0.1〜11.0質量%である形態を採用することができる。なお熱処理に用いるガスの酸素濃度の上限値としては、14.0質量%、13.0質量%、12.0質量%、11.0質量%のいずれかを例示でき、この上限値と対応する酸素濃度の下限値としては0.03質量%、0.05質量%、0.08質量%のいずれかを例示できる。
【0027】
本発明方法によれば、熱処理前の繊維状炭素物質の結晶性、熱処理で用いるガスの酸素濃度によっても相違するが、熱処理の温度は一般的には300〜1200℃である形態、または400〜1200℃である形態を採用することができる。熱処理温度を上記のように設定することにより、安定的に高い純度の繊維状炭素物質を製造するのに有利となる。熱処理の下限値としては350℃、400℃、450℃、500℃、550℃を例示でき、上限値としては1150℃、1100℃、1050℃、1000℃、950℃を例示できる。ここで繊維状炭素物質の結晶性が低いとき、または、炭素系副生成物の生成量が少ないときには、熱処理の温度としては比較的低めまたは中程度とすることができ、殊に300〜900℃または400〜900℃とすることができる。また繊維状炭素物質の結晶性が高いとき、または、炭素系副生成物の生成量が多いときには、熱処理の温度としては比較的高めまたは中程度とすることができ、殊に700〜1200℃とすることができる。
【0028】
熱処理前の繊維状炭素物質の結晶性、熱処理で用いるガスの酸素濃度等によっても相違するが、熱処理の時間は0.5〜50時間、殊に0.5〜24時間である形態を採用することができる。このように熱処理の時間を0.5〜50時間とすると、高い純度の繊維状炭素物質を製造するのに有利となる。さらに、熱処理を継続する時間の上限が50時間程度、または24時間程度であることは、製造所要時間(サイクル・タイム)の面からも好適である。
【0029】
本発明方法によれば、熱処理前の繊維状炭素物質の結晶性が相対的に高いときには、繊維状炭素物質の発火性は低いため、熱処理の効率を向上させるべく、熱処理の温度を相対的に高めにする操作と、ガスにおける酸素濃度を相対的に高めとする操作とのうちの、少なくとも一つの操作を採用することができる。例えば、熱処理の温度を900〜1200℃と相対的に高めにする操作と、ガスにおける酸素濃度を9.0〜15.0質量%(または10.0〜15.0質量%)と相対的に高めにする操作とのうちの、少なくとも一つの操作を採ることができる。
【0030】
これに対して熱処理前の繊維状炭素物質の結晶性が相対的に低いときには、繊維状炭素物質の燃焼を抑えるべく、熱処理の温度を相対的に低めにする操作と、ガスにおける酸素濃度を相対的に低めにする操作とのうちの少なくとも一つの操作を採用することができる。例えば、熱処理の温度を300〜900℃と相対的に低めまたは中程度にする操作と、ガスにおける酸素濃度を0.1〜10質量%と相対的に低めまたは中程度にする操作とのうちの少なくとも一つの操作を採ることができる。従って熱処理の前に、維状炭素物質の結晶性の高低を判定し、結晶性の高低に応じて熱処理の温度、熱処理の時間を設定する工程を実施することもができる。
【0031】
なお、維状炭素物質の六方網平面の端部を露出させることを主な目的とするときには、熱処理の程度を比較的抑え気味とし、熱処理で用いるガスにおける酸素濃度を0.05〜11.0質量%(または0.1〜10.0質量%)と相対的に低めまたは中程度にすると共に、熱処理の温度を300〜700℃とやや低めまたは中程度に設定することができる。
【0032】
また本発明方法によれば、熱処理時において、熱処理で用いるガスの酸素濃度を一定のまま維持しても良いし、繊維状炭素物質の状況、炭素系副生成物の状況等に応じて、ガスの酸素濃度を途中で増加させたり、あるいは、減少させたりすることもできる。また熱処理時において、熱処理温度を一定のまま維持しても良いし、繊維状炭素物質の状況、炭素系副生成物の状況等に応じて、熱処理温度を途中で昇温させたり、あるいは、降温させたりすることもできる。
【0033】
【実施例】
<本実施例に係る繊維状炭素物質の製造方法の概要>
中空管である石英管の中において、鉄ーニッケル系の金属触媒(径:約1μm、金属相)を石英製の台上に置いた。その状態で、エチレン(炭化水素系ガス)と水素とが混合した原料ガス(体積割合、エチレン:水素=(1:99)〜(99:1)を石英管内に流し、700℃よりも低い温度(450〜650℃)で、金属触媒に原料ガスを接触させた。なお、石英管内の設定温度としては500〜700℃であれば、カーボンナノファイバーは良好に生成される。カーボンナノファイバーの温度を直接測定することは容易ではないため、本実施例では、カーボンナノファイバーを収容している石英管の温度を熱処理温度とする。
【0034】
上記した条件下で原料ガスに含まれている炭素が金属触媒を起点にし、炭素の六方網平面が形成され、さらに、六方網平面が繊維の長手方向に沿って積層するため、カーボンナノファイバーが生成された。この場合、繊維の長手方向に対して炭素の六方網平面が0度より大きい角度(0度越)をなして積層した。これにより繊維径が5〜600ナノメートル、殊に10〜300ナノメートルのカーボンナノファイバー(繊維状炭素物質)が石英管内で生成された。このように金属触媒は、カーボンナノファイバーを生成する際の起点となる。
【0035】
ここで、上記したようにカーボンナノファイバーを生成するとき、必然的に挟雑物として副生成される非晶質の炭素や不定形の炭素の堆積物といった炭素系副生成物が、カーボンナノファイバーの近傍に形成された。
【0036】
カーボンナノファイバーの純度を向上させるために、副生成される非晶質の炭素や不定形の炭素の堆積物等の炭素系副生成物を熱処理により除去することが好ましい。熱処理は、副生成される非晶質の炭素や不定形の炭素の堆積物といった炭素系副生成物の発火性と、カーボンナノファイバーの発火性との違いを利用する。即ち、結晶度が高いカーボンナノファイバーに比べて、非晶質の炭素や不定形の炭素の堆積物等の炭素系副生成物は結晶度が低い。このため結晶度が低い炭素系副生成物は、結晶度が高いカーボンナノファイバーよりも発火性が高い。この結晶度の相違に基づく発火性の高低を利用する熱処理を行い、カーボンナノファイバーよりも炭素系副生成物を優先的に燃焼させる。
【0037】
熱処理は次のようにして行なった。即ち、不活性気体であるアルゴンガスと所定濃度の酸素とが混在した混合ガス(酸素含有ガス)を用いた。そして密封された石英管内の原料ガスを混合ガス(圧力:1.5atm)と置換した。熱処理中、混合ガスを単位時間当たり100cc/minの流量で流し続けた。このように石英管内を混合ガスに置換した状態で、下記に述べる設定温度で設定時間、石英管内のカーボンナノファイバーを混合ガス雰囲気において加熱して熱処理した。これによりカーボンナノファイバーが高純度化され、精製処理が実行された。
【0038】
実施例1〜実施例15、比較例1、比較例2についての熱処理の条件、熱処理後のカーボンナノファイバーの純度、総合評価を、表1にまとめた。熱処理後のカーボンナノファイバーの純度については、電子顕微鏡観察において肉眼で判断した。
【0039】
<実施例1> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を0.1質量%含むアルゴンガスとした。置換した後、石英管内温度700℃で24時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。なお設定時間である24時間は、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した後からの時間を意味する。熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は50%であった。
【0040】
<実施例2> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を0.1質量%含むアルゴンガスとした。置換した後、石英管内温度800℃で12時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は50%であった。
【0041】
<実施例3> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を0.1質量%含むアルゴンガスとした。置換した後、石英管内温度800℃で24時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は80%であった。
【0042】
<実施例4> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を0.1質量%含むアルゴンガスとした。置換した後、石英管内温度800℃で48時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は90%であった。
【0043】
<実施例5> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を0.1質量%含むアルゴンガスとした。置換した後、石英管内温度900℃で12時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は60%であった。
【0044】
<実施例6> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を1.0質量%含むアルゴンガスとした。置換した後、石英管内温度700℃で12時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は50%であった。
【0045】
<実施例7> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を1.0質量%含むアルゴンガスとした。置換した後、石英管内温度700℃で24時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は80%であった。
【0046】
<実施例8> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を1.0質量%含むアルゴンガスとした。置換した後、石英管内温度700℃で48時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は80%であった。
【0047】
<実施例9> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を1.0質量%含むアルゴンガスとした。置換した後、石英管内温度800℃で9時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は70%であった。
【0048】
<実施例10> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を10.0質量%含むアルゴンガスとした。置換した後、石英管内温度500℃で12時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は70%であった。
【0049】
<実施例11> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を10.0質量%含むアルゴンガスとした。置換した後に、石英管内温度500℃で24時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は80%であった。
【0050】
<実施例12> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を0.1質量%含むアルゴンガスとした。置換した後、石英管内温度700℃で12時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は30%であった。
【0051】
<実施例13> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を1.0質量%含むアルゴンガスとした。置換した後、石英管内温度600℃で12時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は30%であった。
【0052】
<実施例14> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を5.0質量%含むアルゴンガスとした。置換した後に、石英管内温度500℃で24時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は30%であった。
【0053】
<実施例15> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を5.0質量%含むアルゴンガスとした。置換した後、石英管内温度650℃で24時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は70%であった。
【0054】
<比較例1> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を20.0質量%含むアルゴンガスとした。この混合ガスは酸素を20.0質量%含むため、実質的に大気の酸素濃度に相当する。置換した後に、石英管内温度500℃で6時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。炭素系副生成物と共にカーボンナノファイバーは燃焼してしまったため、熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は0%であった。
【0055】
<比較例2> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を100質量%の酸素とした。置換した後、石英管内温度400℃で1時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。炭素系副生成物と共にカーボンナノファイバーは燃焼してしまったため、熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は0%であった。
【0056】
【表1】
【0057】
表1から理解できるように、実施例1〜実施例15によれば、酸素濃度15質量%以下のガス雰囲気で熱処理しているため、カーボンナノファイバーを残したまま、カーボンナノファイバー近傍の炭素系副生成物を安定的に燃焼除去でき、高い純度のカーボンナノファイバーの精製が可能になる。殊に熱処理時に用いるガスの酸素濃度が0.1〜10.0質量%、熱処理温度が500〜900℃、熱処理の時間が9〜48時間の範囲で適宜調整することで、カーボンナノファイバーの近傍に存在する炭素系副生成物を安定的に除去でき、高い純度のカーボンナノファイバーの精製が可能になる。
【0058】
上記した試験結果から分かるように、アルゴンガスにおける酸素濃度が10.0質量%と比較的多めであれば、熱処理温度を低め(実施例10、実施例11のように500℃)するか、あるいは、熱処理の時間を短くする。また、アルゴンガスにおける酸素濃度が10.0質量%であれば、熱処理温度が比較的低い温度である500℃に設定したとしても、実施例11に示すように24時間熱処理を継続すれば、炭素系副生成物を良好に除去でき、良好な結果を得ることも可能である。
【0059】
逆に、アルゴンガスにおける酸素濃度が0.1質量%と低めであれば、熱処理温度を700〜900℃とするか、熱処理の時間を長め(実施例3に示すように熱処理温度を800℃、熱処理時間を24時間、実施例4に示すように熱処理温度を800℃、熱処理時間を48時間)に適宜調整する。これにより安定的に高い純度のカーボンナノファイバーを精製することが可能になる。
【0060】
また比較例1に示すように、ガスの酸素濃度を20.0質量%(大気に相当)とかなり高めに設定したときには、熱処理温度を500℃と低めに設定したとしても、非結晶質の黒鉛や不定形の炭素の堆積物等の炭素系副生成物を焼失させるばかりでなく、カーボンナノファイバーそれ自体までもほとんど全部燃焼してしまった。
【0061】
ちなみに特開2001−335310号公報に係る技術によれば、カーボンナノチューブを大気雰囲気において200〜700℃に加熱処理しているが、カーボンナノチューブはカーボンナノファイバーよりも結晶性が高いため、発火温度はかなり高いものである。これに対してカーボンナノファイバーは、炭素原子で構成された複数の六方網平面の端部を露出させる構造であるため、カーボンナノチューブに較べて燃焼し易いものであり、酸素濃度20.0質量%のガスで熱処理すれば、比較例1に示すように燃焼する。
【0062】
また比較例2に示すように、酸素濃度を100質量%とさらに高く設定すると、熱処理温度を400℃とかなり低温に設定したとしても、非結晶質の炭素や不定形の炭素の堆積物等の炭素系副生成物を焼失させるばかりでなく、カーボンナノファイバーそれ自体まで熱処理中に、ほとんど全部燃焼してしまう結果が得られた。
【0063】
図3は熱処理実施前のカーボンナノファイバーの電子顕微鏡写真(SEM、倍率:10000倍)を示す。図4はそのカーボンナノファイバーについて熱処理を実施した後の電子顕微鏡写真(SEM,倍率:10000倍)を示す。図3に示すように、熱処理前では、副生成される非晶質の炭素や不定形の炭素等の堆積物等といった非繊維状の炭素系副生成物が、カーボンナノファイバーの近傍に多く存在している。これに対して図4に示すように、熱処理後では、副生成される非晶質の炭素や不定形の炭素の堆積物等といった炭素系副生成物がかなり低減されている。
【0064】
更に本実施例によれば、非晶質の炭素や不定形の炭素等の堆積物等の炭素系副生成物を熱処理により低減させた後のカーボンナノファイバーを用い、このカーボンナノファイバーを、酸溶液、具体的には硝酸水溶液(1N,温度100℃)に約5時間浸漬させることにより酸処理を行った。酸処理によりカーボンナノファイバーに埋設されている金属触媒を除去した。
【0065】
熱処理前では、金属触媒は、非晶質の炭素や不定形の炭素等の堆積物に覆われてカーボンナノファイバーの奥に実質的に隠蔽状態に存在している。このように堆積物に実質的に隠蔽されている金属触媒は、酸処理しても酸溶液に直接接触する頻度は少なく、金属触媒を溶出で除去することが容易ではない。しかし上記したように熱処理を実施した後に酸処理を実施することにすれば、非晶質の炭素や不定形の炭素等の堆積物が熱処理により除去されているため、金属触媒がカーボンナノファイバーから露出し易くなり、この結果、カーボンナノファイバーの金属触媒と酸溶液とを効率よく接触させることができ、カーボンナノファイバーにおける金属触媒の除去率を向上させることができる。
【0066】
また、上記製造方法において製造したカーボンナノファイバーの水素吸着性を評価した。この場合、熱処理を実施した後に酸処理を実施した実施例(酸素濃度:1.0質量%,500℃−3時間処理)係るカーボンファイバーについて水素吸着性を評価した。水素吸着性の評価は、液体窒素温度(77K)における水素ガス(水素分子)の吸着率を測定することにより行った。また比較例Aでは、酸処理を実施するものの、本発明に係る熱処理を実施していないカーボンファイバーを用いた。比較例Bでは、真空雰囲気で熱処理(700℃×12時間)を実施した後に酸処理を実施したカーボンファイバーを用いた。図5は測定結果を示す。図5において□印は比較例Aの測定結果を示す。▲印は比較例Bの測定結果を示す。●印は、大気に曝されないように石英管に封入し、1.0質量%の酸素を含むアルゴンガス中で500℃で3時間熱処理し、グローブボックス中で測定容器に充填したカーボンナノファイバーの水素吸着性についての測定結果を示す。
【0067】
図5から理解できるように、比較例A及び比較例Bよりも、実施例に係るカーボンナノファイバー(●印)は、水素吸着性が良好であった。このことから、比較例A,比較例Bではカーボンナノファイバーの純度は高いが、カーボンナノファイバー表面に存在している炭素系副生成物の除去が充分ではなく、カーボンナノファイバーの六方網平面の端部が炭素系副生成物で覆われており、端部の露出性が低いものと推察される。これに対して実施例によれば、炭素系副生成物の除去が進行しているため、カーボンナノファイバーの六方網平面の端部の露出性が高くなっているものと推察される。
【0068】
(その他)
繊維状炭素物質の状況、炭素系副生成物の状況等に応じて、熱処理の途中で、ガスの酸素濃度を0.1質量%から1.0質量%に増加することもできる。また1.0質量%から10.0質量%に増加することもできる。このように熱処理の途中で酸素濃度を増加すれば、熱処理時間の短縮を期待できる。
【0069】
また熱処理の途中で、ガスの酸素濃度を10.0質量%から1.0質量%に減少したり、1.0質量%から0.1質量%に減少することもできる。このように熱処理の途中で酸素濃度を減少すれば、カーボンナノファイバーの大幅な重量減少を抑える効果が得られる。熱処理温度を変化させても同様の効果が得られる。
【0070】
上記した実施例によれば、熱処理に用いるガスは、不活性気体であるアルゴンガスと酸素との混合ガスであるが、これに限らず、不活性気体である窒素ガスと酸素との混合ガスとしても良く、不活性気体であるヘリウムガスと酸素との混合ガスとしても良い。上記した実施例によれば、カーボンナノファイバーを生成するとき、エチレンと水素とが混合した原料ガスを用いているが、これに限らず、一酸化炭素、アセチレン等でも良い。上記した実施例によれば、金属触媒としては鉄−ニッケル系を採用しているが、これに限らず、ニッケル、鉄、銅、鉄−銀、鉄−ニッケル−銅等とすることもできる。その他、本発明は上記した実施例のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できるものである。
【0071】
(付記)上記した記載から次の技術的思想も把握できる。
(付記項1)炭素原子からなる複数の六方網平面が繊維長手方向に対して0度より大きい角度をなして互いに積層して形成され、繊維径が平均で1〜800ナノメートルの繊維状炭素物質であって、繊維表面において前記六方網平面の端部の露出度が高いことを特徴とする繊維状炭素物質。
(付記項2)炭素原子で構成された複数の六方網平面が繊維長手方向に対して積層して形成され繊維径がナノメートル単位の繊維状炭素物質を準備すると共に、繊維状炭素物質の結晶性の高低を判定し、繊維状炭素物質の結晶性の高低に基づいて熱処理の温度、酸素濃度を設定する第1工程と、
設定された熱処理温度及び酸素濃度に基づいて、酸素濃度が15質量%以下のガス中で前記繊維状炭素物質を熱処理することにより、前記繊維状炭素物質に付着している前記繊維状炭素物質よりも結晶度の低い炭素系副生成物を低減させる第2工程とを含むことを特徴とする繊維状炭素物質の製造方法。
(付記項3)炭素原子で構成された複数の六方網平面が繊維長手方向に対して積層して形成され繊維径がナノメートル単位の繊維状炭素物質を準備する第1工程と、
酸素濃度が15.0質量%以下のガス中で前記繊維状炭素物質を加熱して熱処理することにより、前記繊維状炭素物質に付着している前記繊維状炭素物質よりも結晶度の低い炭素系副生成物を低減させ、繊維状炭素物質の六方網平面の端部の露出性を高める第2工程とを含むことを特徴とする繊維状炭素物質の端部露出方法。繊維状炭素物質の六方網平面の端部の露出性を高めるため、端部に他の元素を吸着でき、吸着性が向上する。
【0072】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、酸素濃度が15質量%以下のガス中で繊維状炭素物質を熱処理することにしている。このため、繊維状炭素物質の製造時に副生成される非晶質の炭素や不定形の炭素の堆積物等の炭素系副生成物が、繊維状炭素物質の近傍に存在していたとしても、炭素系副生成物が繊維状炭素物質から低減または消失される。これによりカーボンナノファイバーとも呼ばれる繊維状炭素物質の純度が向上する。
【0073】
この繊維状炭素物質は、炭素原子からなる複数の六方網平面が繊維長手方向において積層して形成されている。上記したように繊維状炭素物質の近傍に存在していた炭素系副生成物が低減または消失されると、繊維状炭素物質の繊維表面の前記六方網平面の端部を効果的に露出させることができる。これにより繊維状炭素物質が水素ガスやメタンガスを吸着する際における吸着性を高めることができる。また繊維状炭素物質の電界放出性も高めることができる。
【0074】
本発明によれば、繊維状炭素物質が金属触媒等の金属相を含んでいる状態で、第2工程における熱処理を実施する場合には、熱処理時に、金属触媒等の金属相は伝熱性が良く、繊維状炭素物質自体よりも昇温し易いため、金属触媒などの金属相の付近に存在している炭素系副生成物が効果的に燃焼し易くなる効果を期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】カーボンナノファイバーの代表的形態を示す模式図である。
【図2】カーボンナノファイバーの他の代表的形態を示す模式図である。
【図3】熱処理前のカーボンナノファイバーの電子顕微鏡写真図である。
【図4】熱処理後のカーボンナノファイバーの電子顕微鏡写真図である。
【図5】カーボンナノファイバーの水素吸着性を示すグラフである。
【符号の説明】
図中、10、20は六方網平面、10a,20aは端部を示す。
【発明の属する技術分野】
本発明はカーボンナノファイバーとも呼ばれる繊維状炭素物質の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、ピッチ系炭素繊維及び気相成長炭素繊維が提供されている。ピッチ系炭素繊維の繊維径は数μm単位(7〜8μm)であり、気相成長炭素繊維は1μm単位(1〜2μm)であり、繊維径が大きいものである。これらのピッチ系炭素繊維及び気相成長炭素繊維は、繊維径がμm単位であり、ナノメートル単位ではない。
【0003】
また繊維径がナノメートル単位の炭素系物質としてカーボンナノチューブも知られている。カーボンナノチューブは、炭素原子で構成された六方網平面がチューブ状となったものである。
【0004】
また、近年、繊維径がナノメートル単位のカーボンナノファイバーとも呼ばれる繊維状炭素物質も知られている(USP 5458784)。この繊維状炭素物質は、炭素原子で構成された複数の六方網平面が繊維長手方向において積層して形成されており、カーボンナノチューブとは異なる構造をもつ。この繊維状炭素物質は、水素ガスやメタンガスを吸着させる吸着材料、また電界放出材料として、近年、注目を集めている。
【0005】
この繊維状炭素物質は、文献によれば、炭素原子同士が共有結合した六方網平面がファン・デル・ワールス力により結合して積層して形成されたものと言われている。この繊維状炭素物質による水素やメタンの吸着は、繊維表面に位置する六方網平面の炭素原子と、繊維状炭素物質の外側に存在する水素分子から解離した水素原子とのイオン結合によるものと推察されている。
【0006】
また特開2001−335310号公報には、カーボンナノチューブ等の炭素物質に含まれている金属触媒を溶媒中で還流することにより除去する工程と、還流された炭素物質を大気雰囲気において200〜700℃に加熱処理してアモルファス炭素を気化させて除去する工程とが開示されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記したカーボンナノファイバーとも呼ばれる繊維状炭素物質を生成するとき、挟雑物として副生成される非晶質の炭素や不定形の炭素の堆積物等といった炭素系副生成物が繊維状炭素物質の近傍に形成されることが多い。この炭素系副生成物は、繊維状炭素物質の端部を隠蔽するため、繊維状炭素物質の本来の特性を阻害するおそれがある。例えば、繊維状炭素物質が水素ガスやメタンガスを吸着する際における吸着性が損なわれることがある。
【0008】
本発明は上記した実情に鑑みなされたものであり、繊維状炭素物質の生成時に副生成される非晶質の炭素や不定形の炭素の堆積物等といった炭素系副生成物を繊維状炭素物質から低減または消失させるのに有利な繊維状炭素物質の製造方法を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、カーボンナノファイバーとも呼ばれる繊維状炭素物質について鋭意開発を進めている。そして、結晶度が高ければ発火性は低いが、結晶度が低ければ発火性が高くなることに着目し、酸素濃度が15.0質量%以下のガス雰囲気で繊維状炭素物質を加熱して熱処理することにより、結晶度の相違に基づく発火性の高低差を利用し、結晶度の高い所望の繊維状炭素物質を残したまま、非晶質の炭素や不定形の炭素の堆積物等といった結晶度の低い炭素系副生成物を優先的に燃焼して低減または除去することを知見し、試験により本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明に係る繊維状炭素物質の製造方法は、炭素原子で構成された複数の六方網平面が繊維長手方向に対して積層して形成され繊維径がナノメートル単位の繊維状炭素物質を準備する第1工程と、
酸素濃度が15.0質量%以下のガス中で繊維状炭素物質を加熱して熱処理することにより、繊維状炭素物質に付着している繊維状炭素物質よりも結晶度の低い炭素系副生成物を低減させる第2工程とを含むことを特徴とするものである。
【0011】
本発明によれば、繊維状炭素物質の生成時に副生成される非晶質の炭素や不定形の炭素の堆積物等といった炭素系副生成物が、繊維状炭素物質の近傍に存在していたとしても、繊維状炭素物質よりも炭素系副生成物が優先して燃焼する。このため結晶度が高い繊維状炭素物質を残したまま、結晶度が低い炭素系副生成物が低減または消失される。これにより繊維状炭素物質の純度が向上する。
【0012】
繊維状炭素物質は、炭素原子からなる複数の六方網平面が繊維長手方向において積層して形成されている。上記したように繊維状炭素物質の近傍に存在していた非晶質の炭素や不定形の炭素の堆積物等といった炭素系副生成物が低減または消失されると、繊維状炭素物質の繊維表面の前記六方網平面の端部の露出性は向上する。
【0013】
このように繊維状炭素物質における六方網平面の端部を露出性を高めることにより、繊維状炭素物質を構成する炭素の六方網平面間の端部の炭素原子の化学的活性を高めることができる。故に、繊維状炭素物質の外側の空間にある、例えば水素分子やメタン分子やこれらから解離した水素原子等が容易に上記繊維状炭素物質の炭素原子と化学的に結合するようになる。従って、この繊維状炭素物質を水素、メタン等の吸着材料として使用する場合、高い吸着性を有する繊維状炭素物質を提供することができる。
【0014】
また、この繊維状炭素物質に白金やパラジウムなどの触媒物質を担持させるときにおいても、六方網平面間の端部の炭素原子が容易に金属触媒を吸着することができるため、触媒担体としても好適である。
【0015】
上記したように繊維状炭素物質の表面において六方網平面の端部の露出性が高まることにより、六方網平面の端部にある炭素原子の化学的活性が高くなり、例えば水素分子やメタン分子等を吸着し易くなる。また、この化学的活性が高まった炭素原子により水素分子から水素原子が解離して、六方網平面間に侵入する可能性も考えられる。従って、本発明の繊維状炭素物質を用いれば、水素ガスやメタンガス等の被吸着物質に対する吸着能が高い吸着材を製造することが可能になる。また、導電性の低く樹脂等に対する濡れ性が低い非晶質の炭素や黒鉛の堆積物等の炭素系副生成物が除去されているため、この繊維状炭素物質は導電樹脂材料にも好適に使用される。
【0016】
さらに、この繊維状炭素物質を導電性が要求される導電材料として使用する場合においても、上記の非晶質の炭素や無定形の炭素堆積物といった炭素系副生成物の除去により、六方網平面の端部同士が直接接触し易くなり、電子の移動が容易となり、繊維状炭素物質の導電性が向上するので、本発明の繊維状炭素物質の製造方法は好適である。
【0017】
本発明によれば、繊維状炭素物質の表面近傍に存在する電気伝導性の低い非晶質の炭素や不定形の炭素の堆積物等といった炭素系副生成物を選択的に除去できるために、繊維状炭素物質の導電性を向上させることができる。故に本発明に係る繊維状炭素物質は、リチウムイオン電池用負極材料や、負極への添加剤として好適である。
【0018】
また、上記した炭素系副生成物を繊維状炭素物質から除去することによって、繊維状炭素物質を構成する炭素積層構造の端部を効果的に露出させることができる。故に、繊維状炭素物質の導電性の向上と併せて、繊維表面でのイオン吸着性の向上が期待できる。よって、電気二重層キャパシタ用電極としても好適である。黒鉛の電気二重層容量は、基底面より端面の方が大きいことが知られており、このことからも繊維表面に炭素積層構造の端部が露出している本発明に係る繊維状物質は好適である。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明方法によれば、繊維状炭素物質は、炭素原子で構成された複数の六方網平面が繊維長手方向に対して0度よりも大きい角度(0度を越える角度、繊維長手方向に対して90度、180度を含む)で積層して形成され繊維径がナノメートル単位の繊維状炭素物質である。繊維状炭素物質の繊維径はナノメートル単位であり、平均で一般的には2〜800ナノメートル、5〜600ナノメートル、特に10〜300ナノメートルであるが、これに限定されるものではない。一般的には、繊維状炭素物質を生成するとき、炭化水素系ガス等の炭素源ガスを供給した雰囲気において、金属触媒が用いられる。この場合、炭素原子からなる複数の六方網平面が金属触媒を起点にして積層して成長し、この積層した炭素の六方網平面が繊維の長手方向に対して所定の角度(0度、または0度より大きい角度)をなす。このため、金属触媒のサイズが繊維状炭素物質の繊維径に影響を与えると一般的には言われている。
【0020】
図1、図2は、カーボンナノファイバーと呼ばれる繊維状炭素物質の代表的な形態を模式的に示す。図1に示す繊維状炭素物質(繊維径:D1)は、炭素原子で構成された複数の六方網平面10が繊維長手方向(Y方向)に対して0度よりも大きい角度で傾いて積層されていることにより形成されている。図2に示す繊維状炭素物質(繊維径:D2)は、炭素原子で構成された複数の六方網平面20が繊維長手方向(Y方向)に対して90度よりも小さい角度で積層することにより形成されている。六方網平面10、20の端部10a,20aは、露出していることが好ましい。しかし、繊維状炭素物質を生成した状態では、副生成される非晶質の炭素や不定形の炭素の堆積物等の炭素系副生成物により、端部10a,20aが覆われている。なお、繊維状炭素物質の生成時において、炭化水素系のガス雰囲気において、炭素原子が結合した六方網平面10は金属触媒30を起点として積層することが多いため、生成時には金属触媒30を用いることが多い。
なお、繊維状炭素物質は中空部を有することもある。
【0021】
本発明方法によれば、繊維状炭素物質が金属触媒等の金属相を含んでいる状態で、第2工程における熱処理を実施する形態を採用することができる。熱処理時に、金属触媒等の金属相は繊維状炭素物質自体よりも昇温し易いため、金属触媒などの金属相の付近に存在している炭素系副生成物が効果的に燃焼し易くなる。
【0022】
本発明方法によれば、好ましくは、第1工程における繊維状炭素物質は金属触媒等の金属相を有しており、そして第2工程に係る熱処理を実施した後に、金属相を溶出可能な溶液と繊維状炭素物質とを接触させることにより、金属相を繊維状炭素物質から溶出または分離させる形態を採用することができる。金属相としては、繊維状炭素物質を生成するとき、炭素原子で構成された複数の六方網平面の起点となる金属触媒とすることができる。金属触媒等の金属相としては鉄、ニッケル等の鉄族元素、白金、パラジウム等の白金族元素、ランタン、イットリウム等の希土類元素等のうちの少なくとも1種が例示される。金属触媒等の金属相のサイズとしては特に限定されるものではないが、例えば、1〜1000ナノメートル、殊に10〜200ナノメートルとすることができるが、これに限定されるものではない。
【0023】
繊維状炭素物質が金属相を有する場合には、繊維状炭素物質の純度を向上させるため、繊維状炭素物質から金属相を除去することが好ましい。しかし、金属相を溶出可能な溶液と繊維状炭素物質とを接触させたとしても、繊維状炭素物質を生成するときに副生成される非晶質の炭素や不定形の炭素の堆積物等といった炭素系副生成物が繊繊維状炭素物質の付近に存在していることが多い。この場合、金属相を溶出可能な溶液と金属相との接触は、上記炭素系副生成物により妨げられ、金属相の除去能が低下する。そこで前記したように、第2工程に係る熱処理を実施することにより、炭素系副生成物を繊維状炭素物質から低減または除去した後に、金属相を溶出可能な溶液と繊維状炭素物質とを接触させることにすれば、金属相を溶出可能な溶液と金属相との接触性が良好に確保され、繊維状炭素物質からの金属相の溶出または分離を促進させることができる。これにより繊維状炭素物質の純度が向上する。金属相を溶出可能な溶液としては、酸または酸を含む溶液を採用することができる。酸としては硝酸、塩酸、王水等が例示される。
金属相を溶出可能な溶液は、常温でも良いし、加熱されていても良い。
【0024】
上記したように第2工程に係る熱処理を実施して炭素系副生成物を繊維状炭素物質から低減または除去した後に、金属相を溶出可能な溶液と繊維状炭素物質とを接触させることにすれば、次の作用効果も期待することができる。即ち、熱処理時に、繊維状炭素物質は金属触媒等の金属相を含んでいる。熱処理開始時に、金属触媒等の金属相は繊維状炭素物質自体よりも昇温し易いため、金属触媒などの金属相の周囲の炭素が部分的に燃焼し、繊維状炭素物質内に埋没されていた金属触媒などの金属相が繊維状炭素物質の外部へ露出し易くなる。このため、第2工程に係る熱処理において金属触媒等の金属相と溶液とを接触させれば、金属触媒等の金属相と溶液との接触性を向上させることができる。
【0025】
本発明方法によれば、第2工程の熱処理において使用するガスの酸素濃度が過剰であれば、炭素系副生成物よりも結晶度が高い繊維状炭素物質自体の燃焼も無視できない。また、ガスの酸素濃度が過小であれば、繊維状炭素物質の燃焼を抑えることができるが、炭素系副生成物の燃焼が充分でなくなり、繊維状炭素物質の純度向上が充分でなくなり、また熱処理に時間を必要とする。そこで本発明方法によれば、第2工程の熱処理に用いるガスの酸素濃度を大気の酸素濃度以下とし、15.0質量%以下とする。
【0026】
殊に、炭素系副生成物の燃焼性、繊維状炭素物質の結晶性、生産性の向上等を考慮すると、第2工程の熱処理に用いるガスの酸素濃度は0.005〜13.0質量%である形態を採用することができる。ガスの酸素濃度を上記のように設定することにより、炭素系副生成物を効率よく除去でき、安定的に高い純度の繊維状炭素物質を生産性よく製造することができる。殊に、熱処理温度が例えば400℃〜1200℃程度、熱処理の時間が50時間程度であっても、安定的に高い純度の繊維状炭素物質を生産性よく製造することができる。なお、第2工程の熱処理に用いるガスの酸素濃度としては、必要に応じて、0.08〜12.0%、殊に0.1〜11.0質量%である形態を採用することができる。なお熱処理に用いるガスの酸素濃度の上限値としては、14.0質量%、13.0質量%、12.0質量%、11.0質量%のいずれかを例示でき、この上限値と対応する酸素濃度の下限値としては0.03質量%、0.05質量%、0.08質量%のいずれかを例示できる。
【0027】
本発明方法によれば、熱処理前の繊維状炭素物質の結晶性、熱処理で用いるガスの酸素濃度によっても相違するが、熱処理の温度は一般的には300〜1200℃である形態、または400〜1200℃である形態を採用することができる。熱処理温度を上記のように設定することにより、安定的に高い純度の繊維状炭素物質を製造するのに有利となる。熱処理の下限値としては350℃、400℃、450℃、500℃、550℃を例示でき、上限値としては1150℃、1100℃、1050℃、1000℃、950℃を例示できる。ここで繊維状炭素物質の結晶性が低いとき、または、炭素系副生成物の生成量が少ないときには、熱処理の温度としては比較的低めまたは中程度とすることができ、殊に300〜900℃または400〜900℃とすることができる。また繊維状炭素物質の結晶性が高いとき、または、炭素系副生成物の生成量が多いときには、熱処理の温度としては比較的高めまたは中程度とすることができ、殊に700〜1200℃とすることができる。
【0028】
熱処理前の繊維状炭素物質の結晶性、熱処理で用いるガスの酸素濃度等によっても相違するが、熱処理の時間は0.5〜50時間、殊に0.5〜24時間である形態を採用することができる。このように熱処理の時間を0.5〜50時間とすると、高い純度の繊維状炭素物質を製造するのに有利となる。さらに、熱処理を継続する時間の上限が50時間程度、または24時間程度であることは、製造所要時間(サイクル・タイム)の面からも好適である。
【0029】
本発明方法によれば、熱処理前の繊維状炭素物質の結晶性が相対的に高いときには、繊維状炭素物質の発火性は低いため、熱処理の効率を向上させるべく、熱処理の温度を相対的に高めにする操作と、ガスにおける酸素濃度を相対的に高めとする操作とのうちの、少なくとも一つの操作を採用することができる。例えば、熱処理の温度を900〜1200℃と相対的に高めにする操作と、ガスにおける酸素濃度を9.0〜15.0質量%(または10.0〜15.0質量%)と相対的に高めにする操作とのうちの、少なくとも一つの操作を採ることができる。
【0030】
これに対して熱処理前の繊維状炭素物質の結晶性が相対的に低いときには、繊維状炭素物質の燃焼を抑えるべく、熱処理の温度を相対的に低めにする操作と、ガスにおける酸素濃度を相対的に低めにする操作とのうちの少なくとも一つの操作を採用することができる。例えば、熱処理の温度を300〜900℃と相対的に低めまたは中程度にする操作と、ガスにおける酸素濃度を0.1〜10質量%と相対的に低めまたは中程度にする操作とのうちの少なくとも一つの操作を採ることができる。従って熱処理の前に、維状炭素物質の結晶性の高低を判定し、結晶性の高低に応じて熱処理の温度、熱処理の時間を設定する工程を実施することもができる。
【0031】
なお、維状炭素物質の六方網平面の端部を露出させることを主な目的とするときには、熱処理の程度を比較的抑え気味とし、熱処理で用いるガスにおける酸素濃度を0.05〜11.0質量%(または0.1〜10.0質量%)と相対的に低めまたは中程度にすると共に、熱処理の温度を300〜700℃とやや低めまたは中程度に設定することができる。
【0032】
また本発明方法によれば、熱処理時において、熱処理で用いるガスの酸素濃度を一定のまま維持しても良いし、繊維状炭素物質の状況、炭素系副生成物の状況等に応じて、ガスの酸素濃度を途中で増加させたり、あるいは、減少させたりすることもできる。また熱処理時において、熱処理温度を一定のまま維持しても良いし、繊維状炭素物質の状況、炭素系副生成物の状況等に応じて、熱処理温度を途中で昇温させたり、あるいは、降温させたりすることもできる。
【0033】
【実施例】
<本実施例に係る繊維状炭素物質の製造方法の概要>
中空管である石英管の中において、鉄ーニッケル系の金属触媒(径:約1μm、金属相)を石英製の台上に置いた。その状態で、エチレン(炭化水素系ガス)と水素とが混合した原料ガス(体積割合、エチレン:水素=(1:99)〜(99:1)を石英管内に流し、700℃よりも低い温度(450〜650℃)で、金属触媒に原料ガスを接触させた。なお、石英管内の設定温度としては500〜700℃であれば、カーボンナノファイバーは良好に生成される。カーボンナノファイバーの温度を直接測定することは容易ではないため、本実施例では、カーボンナノファイバーを収容している石英管の温度を熱処理温度とする。
【0034】
上記した条件下で原料ガスに含まれている炭素が金属触媒を起点にし、炭素の六方網平面が形成され、さらに、六方網平面が繊維の長手方向に沿って積層するため、カーボンナノファイバーが生成された。この場合、繊維の長手方向に対して炭素の六方網平面が0度より大きい角度(0度越)をなして積層した。これにより繊維径が5〜600ナノメートル、殊に10〜300ナノメートルのカーボンナノファイバー(繊維状炭素物質)が石英管内で生成された。このように金属触媒は、カーボンナノファイバーを生成する際の起点となる。
【0035】
ここで、上記したようにカーボンナノファイバーを生成するとき、必然的に挟雑物として副生成される非晶質の炭素や不定形の炭素の堆積物といった炭素系副生成物が、カーボンナノファイバーの近傍に形成された。
【0036】
カーボンナノファイバーの純度を向上させるために、副生成される非晶質の炭素や不定形の炭素の堆積物等の炭素系副生成物を熱処理により除去することが好ましい。熱処理は、副生成される非晶質の炭素や不定形の炭素の堆積物といった炭素系副生成物の発火性と、カーボンナノファイバーの発火性との違いを利用する。即ち、結晶度が高いカーボンナノファイバーに比べて、非晶質の炭素や不定形の炭素の堆積物等の炭素系副生成物は結晶度が低い。このため結晶度が低い炭素系副生成物は、結晶度が高いカーボンナノファイバーよりも発火性が高い。この結晶度の相違に基づく発火性の高低を利用する熱処理を行い、カーボンナノファイバーよりも炭素系副生成物を優先的に燃焼させる。
【0037】
熱処理は次のようにして行なった。即ち、不活性気体であるアルゴンガスと所定濃度の酸素とが混在した混合ガス(酸素含有ガス)を用いた。そして密封された石英管内の原料ガスを混合ガス(圧力:1.5atm)と置換した。熱処理中、混合ガスを単位時間当たり100cc/minの流量で流し続けた。このように石英管内を混合ガスに置換した状態で、下記に述べる設定温度で設定時間、石英管内のカーボンナノファイバーを混合ガス雰囲気において加熱して熱処理した。これによりカーボンナノファイバーが高純度化され、精製処理が実行された。
【0038】
実施例1〜実施例15、比較例1、比較例2についての熱処理の条件、熱処理後のカーボンナノファイバーの純度、総合評価を、表1にまとめた。熱処理後のカーボンナノファイバーの純度については、電子顕微鏡観察において肉眼で判断した。
【0039】
<実施例1> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を0.1質量%含むアルゴンガスとした。置換した後、石英管内温度700℃で24時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。なお設定時間である24時間は、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した後からの時間を意味する。熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は50%であった。
【0040】
<実施例2> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を0.1質量%含むアルゴンガスとした。置換した後、石英管内温度800℃で12時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は50%であった。
【0041】
<実施例3> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を0.1質量%含むアルゴンガスとした。置換した後、石英管内温度800℃で24時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は80%であった。
【0042】
<実施例4> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を0.1質量%含むアルゴンガスとした。置換した後、石英管内温度800℃で48時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は90%であった。
【0043】
<実施例5> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を0.1質量%含むアルゴンガスとした。置換した後、石英管内温度900℃で12時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は60%であった。
【0044】
<実施例6> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を1.0質量%含むアルゴンガスとした。置換した後、石英管内温度700℃で12時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は50%であった。
【0045】
<実施例7> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を1.0質量%含むアルゴンガスとした。置換した後、石英管内温度700℃で24時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は80%であった。
【0046】
<実施例8> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を1.0質量%含むアルゴンガスとした。置換した後、石英管内温度700℃で48時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は80%であった。
【0047】
<実施例9> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を1.0質量%含むアルゴンガスとした。置換した後、石英管内温度800℃で9時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は70%であった。
【0048】
<実施例10> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を10.0質量%含むアルゴンガスとした。置換した後、石英管内温度500℃で12時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は70%であった。
【0049】
<実施例11> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を10.0質量%含むアルゴンガスとした。置換した後に、石英管内温度500℃で24時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は80%であった。
【0050】
<実施例12> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を0.1質量%含むアルゴンガスとした。置換した後、石英管内温度700℃で12時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は30%であった。
【0051】
<実施例13> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を1.0質量%含むアルゴンガスとした。置換した後、石英管内温度600℃で12時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は30%であった。
【0052】
<実施例14> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を5.0質量%含むアルゴンガスとした。置換した後に、石英管内温度500℃で24時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は30%であった。
【0053】
<実施例15> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を5.0質量%含むアルゴンガスとした。置換した後、石英管内温度650℃で24時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は70%であった。
【0054】
<比較例1> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を20.0質量%含むアルゴンガスとした。この混合ガスは酸素を20.0質量%含むため、実質的に大気の酸素濃度に相当する。置換した後に、石英管内温度500℃で6時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。炭素系副生成物と共にカーボンナノファイバーは燃焼してしまったため、熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は0%であった。
【0055】
<比較例2> カーボンナノファイバーを含む炭素質を生成した後、石英管内の原料ガスを混合ガスに置換した。混合ガスは、酸素を100質量%の酸素とした。置換した後、石英管内温度400℃で1時間、石英管内のカーボンナノファイバーについて熱処理を行った。炭素系副生成物と共にカーボンナノファイバーは燃焼してしまったため、熱処理後のカーボンナノファイバーの純度は0%であった。
【0056】
【表1】
【0057】
表1から理解できるように、実施例1〜実施例15によれば、酸素濃度15質量%以下のガス雰囲気で熱処理しているため、カーボンナノファイバーを残したまま、カーボンナノファイバー近傍の炭素系副生成物を安定的に燃焼除去でき、高い純度のカーボンナノファイバーの精製が可能になる。殊に熱処理時に用いるガスの酸素濃度が0.1〜10.0質量%、熱処理温度が500〜900℃、熱処理の時間が9〜48時間の範囲で適宜調整することで、カーボンナノファイバーの近傍に存在する炭素系副生成物を安定的に除去でき、高い純度のカーボンナノファイバーの精製が可能になる。
【0058】
上記した試験結果から分かるように、アルゴンガスにおける酸素濃度が10.0質量%と比較的多めであれば、熱処理温度を低め(実施例10、実施例11のように500℃)するか、あるいは、熱処理の時間を短くする。また、アルゴンガスにおける酸素濃度が10.0質量%であれば、熱処理温度が比較的低い温度である500℃に設定したとしても、実施例11に示すように24時間熱処理を継続すれば、炭素系副生成物を良好に除去でき、良好な結果を得ることも可能である。
【0059】
逆に、アルゴンガスにおける酸素濃度が0.1質量%と低めであれば、熱処理温度を700〜900℃とするか、熱処理の時間を長め(実施例3に示すように熱処理温度を800℃、熱処理時間を24時間、実施例4に示すように熱処理温度を800℃、熱処理時間を48時間)に適宜調整する。これにより安定的に高い純度のカーボンナノファイバーを精製することが可能になる。
【0060】
また比較例1に示すように、ガスの酸素濃度を20.0質量%(大気に相当)とかなり高めに設定したときには、熱処理温度を500℃と低めに設定したとしても、非結晶質の黒鉛や不定形の炭素の堆積物等の炭素系副生成物を焼失させるばかりでなく、カーボンナノファイバーそれ自体までもほとんど全部燃焼してしまった。
【0061】
ちなみに特開2001−335310号公報に係る技術によれば、カーボンナノチューブを大気雰囲気において200〜700℃に加熱処理しているが、カーボンナノチューブはカーボンナノファイバーよりも結晶性が高いため、発火温度はかなり高いものである。これに対してカーボンナノファイバーは、炭素原子で構成された複数の六方網平面の端部を露出させる構造であるため、カーボンナノチューブに較べて燃焼し易いものであり、酸素濃度20.0質量%のガスで熱処理すれば、比較例1に示すように燃焼する。
【0062】
また比較例2に示すように、酸素濃度を100質量%とさらに高く設定すると、熱処理温度を400℃とかなり低温に設定したとしても、非結晶質の炭素や不定形の炭素の堆積物等の炭素系副生成物を焼失させるばかりでなく、カーボンナノファイバーそれ自体まで熱処理中に、ほとんど全部燃焼してしまう結果が得られた。
【0063】
図3は熱処理実施前のカーボンナノファイバーの電子顕微鏡写真(SEM、倍率:10000倍)を示す。図4はそのカーボンナノファイバーについて熱処理を実施した後の電子顕微鏡写真(SEM,倍率:10000倍)を示す。図3に示すように、熱処理前では、副生成される非晶質の炭素や不定形の炭素等の堆積物等といった非繊維状の炭素系副生成物が、カーボンナノファイバーの近傍に多く存在している。これに対して図4に示すように、熱処理後では、副生成される非晶質の炭素や不定形の炭素の堆積物等といった炭素系副生成物がかなり低減されている。
【0064】
更に本実施例によれば、非晶質の炭素や不定形の炭素等の堆積物等の炭素系副生成物を熱処理により低減させた後のカーボンナノファイバーを用い、このカーボンナノファイバーを、酸溶液、具体的には硝酸水溶液(1N,温度100℃)に約5時間浸漬させることにより酸処理を行った。酸処理によりカーボンナノファイバーに埋設されている金属触媒を除去した。
【0065】
熱処理前では、金属触媒は、非晶質の炭素や不定形の炭素等の堆積物に覆われてカーボンナノファイバーの奥に実質的に隠蔽状態に存在している。このように堆積物に実質的に隠蔽されている金属触媒は、酸処理しても酸溶液に直接接触する頻度は少なく、金属触媒を溶出で除去することが容易ではない。しかし上記したように熱処理を実施した後に酸処理を実施することにすれば、非晶質の炭素や不定形の炭素等の堆積物が熱処理により除去されているため、金属触媒がカーボンナノファイバーから露出し易くなり、この結果、カーボンナノファイバーの金属触媒と酸溶液とを効率よく接触させることができ、カーボンナノファイバーにおける金属触媒の除去率を向上させることができる。
【0066】
また、上記製造方法において製造したカーボンナノファイバーの水素吸着性を評価した。この場合、熱処理を実施した後に酸処理を実施した実施例(酸素濃度:1.0質量%,500℃−3時間処理)係るカーボンファイバーについて水素吸着性を評価した。水素吸着性の評価は、液体窒素温度(77K)における水素ガス(水素分子)の吸着率を測定することにより行った。また比較例Aでは、酸処理を実施するものの、本発明に係る熱処理を実施していないカーボンファイバーを用いた。比較例Bでは、真空雰囲気で熱処理(700℃×12時間)を実施した後に酸処理を実施したカーボンファイバーを用いた。図5は測定結果を示す。図5において□印は比較例Aの測定結果を示す。▲印は比較例Bの測定結果を示す。●印は、大気に曝されないように石英管に封入し、1.0質量%の酸素を含むアルゴンガス中で500℃で3時間熱処理し、グローブボックス中で測定容器に充填したカーボンナノファイバーの水素吸着性についての測定結果を示す。
【0067】
図5から理解できるように、比較例A及び比較例Bよりも、実施例に係るカーボンナノファイバー(●印)は、水素吸着性が良好であった。このことから、比較例A,比較例Bではカーボンナノファイバーの純度は高いが、カーボンナノファイバー表面に存在している炭素系副生成物の除去が充分ではなく、カーボンナノファイバーの六方網平面の端部が炭素系副生成物で覆われており、端部の露出性が低いものと推察される。これに対して実施例によれば、炭素系副生成物の除去が進行しているため、カーボンナノファイバーの六方網平面の端部の露出性が高くなっているものと推察される。
【0068】
(その他)
繊維状炭素物質の状況、炭素系副生成物の状況等に応じて、熱処理の途中で、ガスの酸素濃度を0.1質量%から1.0質量%に増加することもできる。また1.0質量%から10.0質量%に増加することもできる。このように熱処理の途中で酸素濃度を増加すれば、熱処理時間の短縮を期待できる。
【0069】
また熱処理の途中で、ガスの酸素濃度を10.0質量%から1.0質量%に減少したり、1.0質量%から0.1質量%に減少することもできる。このように熱処理の途中で酸素濃度を減少すれば、カーボンナノファイバーの大幅な重量減少を抑える効果が得られる。熱処理温度を変化させても同様の効果が得られる。
【0070】
上記した実施例によれば、熱処理に用いるガスは、不活性気体であるアルゴンガスと酸素との混合ガスであるが、これに限らず、不活性気体である窒素ガスと酸素との混合ガスとしても良く、不活性気体であるヘリウムガスと酸素との混合ガスとしても良い。上記した実施例によれば、カーボンナノファイバーを生成するとき、エチレンと水素とが混合した原料ガスを用いているが、これに限らず、一酸化炭素、アセチレン等でも良い。上記した実施例によれば、金属触媒としては鉄−ニッケル系を採用しているが、これに限らず、ニッケル、鉄、銅、鉄−銀、鉄−ニッケル−銅等とすることもできる。その他、本発明は上記した実施例のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できるものである。
【0071】
(付記)上記した記載から次の技術的思想も把握できる。
(付記項1)炭素原子からなる複数の六方網平面が繊維長手方向に対して0度より大きい角度をなして互いに積層して形成され、繊維径が平均で1〜800ナノメートルの繊維状炭素物質であって、繊維表面において前記六方網平面の端部の露出度が高いことを特徴とする繊維状炭素物質。
(付記項2)炭素原子で構成された複数の六方網平面が繊維長手方向に対して積層して形成され繊維径がナノメートル単位の繊維状炭素物質を準備すると共に、繊維状炭素物質の結晶性の高低を判定し、繊維状炭素物質の結晶性の高低に基づいて熱処理の温度、酸素濃度を設定する第1工程と、
設定された熱処理温度及び酸素濃度に基づいて、酸素濃度が15質量%以下のガス中で前記繊維状炭素物質を熱処理することにより、前記繊維状炭素物質に付着している前記繊維状炭素物質よりも結晶度の低い炭素系副生成物を低減させる第2工程とを含むことを特徴とする繊維状炭素物質の製造方法。
(付記項3)炭素原子で構成された複数の六方網平面が繊維長手方向に対して積層して形成され繊維径がナノメートル単位の繊維状炭素物質を準備する第1工程と、
酸素濃度が15.0質量%以下のガス中で前記繊維状炭素物質を加熱して熱処理することにより、前記繊維状炭素物質に付着している前記繊維状炭素物質よりも結晶度の低い炭素系副生成物を低減させ、繊維状炭素物質の六方網平面の端部の露出性を高める第2工程とを含むことを特徴とする繊維状炭素物質の端部露出方法。繊維状炭素物質の六方網平面の端部の露出性を高めるため、端部に他の元素を吸着でき、吸着性が向上する。
【0072】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、酸素濃度が15質量%以下のガス中で繊維状炭素物質を熱処理することにしている。このため、繊維状炭素物質の製造時に副生成される非晶質の炭素や不定形の炭素の堆積物等の炭素系副生成物が、繊維状炭素物質の近傍に存在していたとしても、炭素系副生成物が繊維状炭素物質から低減または消失される。これによりカーボンナノファイバーとも呼ばれる繊維状炭素物質の純度が向上する。
【0073】
この繊維状炭素物質は、炭素原子からなる複数の六方網平面が繊維長手方向において積層して形成されている。上記したように繊維状炭素物質の近傍に存在していた炭素系副生成物が低減または消失されると、繊維状炭素物質の繊維表面の前記六方網平面の端部を効果的に露出させることができる。これにより繊維状炭素物質が水素ガスやメタンガスを吸着する際における吸着性を高めることができる。また繊維状炭素物質の電界放出性も高めることができる。
【0074】
本発明によれば、繊維状炭素物質が金属触媒等の金属相を含んでいる状態で、第2工程における熱処理を実施する場合には、熱処理時に、金属触媒等の金属相は伝熱性が良く、繊維状炭素物質自体よりも昇温し易いため、金属触媒などの金属相の付近に存在している炭素系副生成物が効果的に燃焼し易くなる効果を期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】カーボンナノファイバーの代表的形態を示す模式図である。
【図2】カーボンナノファイバーの他の代表的形態を示す模式図である。
【図3】熱処理前のカーボンナノファイバーの電子顕微鏡写真図である。
【図4】熱処理後のカーボンナノファイバーの電子顕微鏡写真図である。
【図5】カーボンナノファイバーの水素吸着性を示すグラフである。
【符号の説明】
図中、10、20は六方網平面、10a,20aは端部を示す。
Claims (6)
- 炭素原子で構成された複数の六方網平面が繊維長手方向に対して積層して形成され繊維径がナノメートル単位の繊維状炭素物質を準備する第1工程と、
酸素濃度が15.0質量%以下のガス中で前記繊維状炭素物質を加熱して熱処理することにより、前記繊維状炭素物質に付着している前記繊維状炭素物質よりも結晶度の低い炭素系副生成物を低減させる第2工程とを含むことを特徴とする繊維状炭素物質の製造方法。 - 請求項1において、前記繊維状炭素物質が金属相を含んでいる状態で、前記第2工程における熱処理を実施することを特徴とする繊維状炭素物質の製造方法。
- 請求項1において、前記第1工程における繊維状炭素物質は金属相を有しており、前記第2工程を実施した後に、前記金属相を溶出可能な溶液と前記繊維状炭素物質とを接触させることにより、前記金属相を前記繊維状炭素物質から溶出または分離させることを特徴とする繊維状炭素物質の製造方法。
- 請求項1〜請求項3のうちのいずれか一項において、前記ガスの酸素濃度は0.005〜13.0質量%であることを特徴とする繊維状炭素物質の製造方法。
- 請求項1〜請求項4のうちのいずれか一項において、熱処理の温度は300〜1200℃であることを特徴とする繊維状炭素物質の製造方法。
- 請求項1〜請求項5のうちのいずれか一項において、熱処理の時間は0.5〜50時間であることを特徴とする繊維状炭素物質の製造方法。
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