JP2004052101A - 転がり、摺動部品およびその製造方法 - Google Patents

転がり、摺動部品およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】潤滑油中に混入した異物による圧痕の生成を防止する。耐摩耗性を向上させる。潤滑油中に混入した異物により発生する圧縮応力を緩和する。亀裂の進展を抑制する。
【解決手段】軸受鋼より所定の形状に形成された加工済み部品素材を、カーボンポテンシャルが1.2%以上である浸炭雰囲気中において840〜870℃で3時間以上加熱することにより浸炭処理を施した後急冷する。これにより表面から最大せん断応力が作用する深さまでの範囲の表層部の全炭素量を1.0〜1.6wt%とするとともに、前記表層部のマトリックス中の固溶炭素量を0.6〜1.0wt%とし、前記表層部に炭化物を析出させて炭化物の量を面積率で5〜20%でかつその粒径を3μm以下とする。
【選択図】   図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、転がり、摺動部品およびその製造方法、さらに詳しくは、異物が混入した潤滑油が用いられる転がり軸受の軌道輪および転動体として使用される転がり部品、またはすべり軸受部品として用いられるのに適した摺動部品、転がり、摺動部品およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術と発明が解決しようとする課題】
異物が混入した潤滑油を用いて使用される転がり軸受の軌道輪および転動体においては、転がり軸受の長寿命化を図るために、表面硬さを増大させ、たとえばロックウェルC硬さ(以下、HRCという)で62〜67とすること、軌道輪の軌道面および転動体の転動面における表層部に所定量の微細炭化物を分散して析出させること、軌道輪の軌道面および転動体の転動面の表層部の残留オーステナイト量を所定量、たとえば20〜40vol%とすること、ならびに軌道輪の軌道面および転動体の転動面の表層部に所定、たとえば100MPa以上の圧縮残留応力を付与することが要求される。ここで、表面硬さの増大は、異物による圧痕の生成を防止することを目的とするものであり、微細炭化物の分散析出は、耐摩耗性の向上や、鋼中に炭化物等の硬い第2相を析出させて材料を強化する分散強化や、降伏強さおよび変形抵抗の増大や、靭性の向上を目的とするものであり、所定量の残留オーステナイトの付与は、異物により発生する圧縮応力の緩和、および異物により発生する亀裂の進展の抑制を目的とするものであり、所定の圧縮残留応力の付与は、異物により発生する亀裂の進展の抑制を目的とするものである。
【0003】
従来、上述したような要求を満たした転がり、摺動部品としては、肌焼き鋼により所定の形状に形成された部品素材に、浸炭処理や浸炭窒化処理が施すことにより製造されたものが用いられていた。
【0004】
しかしながら、肌焼き鋼は、軸受に適用される量が少なく、軸受用としては大量生産されていないので材料コストが高く、しかも肌焼き鋼の浸炭処理や浸炭窒化処理の熱処理コストも高くなる。したがって、転がり、摺動部品のトータルの製造コストが高くなるという問題がある。
【0005】
そこで、JIS SUJ2などの軸受鋼(高炭素クロム軸受鋼)より所定形状に形成された部品素材に、浸炭処理や浸炭窒化処理を施すことにより、転がり、摺動部品を製造することが考えられるが、この場合、表面硬さの増大と炭化物微細化の両者を同時に達成することができず、たとえば元々高炭素で炭化物が存在するJIS SUJ2に浸炭処理を施して表面硬さを増大させると、既存の炭化物がさらに成長し、巨大炭化物に成長するため、結局のところ異物が混入した潤滑油を使用した場合の寿命が低下するという問題がある。
【0006】
この発明の目的は、上記問題を解決し、潤滑油中に混入した異物による圧痕の生成を防止しうるとともに耐摩耗性が向上し、さらに潤滑油中に混入した異物により発生する圧縮応力を緩和しうるとともに、亀裂の進展を抑制しうる転がり、摺動部品およびその製造方法を提供することにある。
【0007】
ここで、転がり、摺動部品とは、純然たる転がり接触、純然たるすべり接触、および転がり接触とすべり接触とが混在する接触を行う部品をいうものとする。
【0008】
【課題を解決するための手段と発明の効果】
請求項1の発明による転がり、摺動部品は、軸受鋼よりなり、浸炭処理が施されて、表面から最大せん断応力の作用する深さまでの範囲の表層部の全炭素量が1.0〜1.6wt%となされるとともに、前記表層部のマトリックス中の固溶炭素量が0.6〜1.0wt%となされ、さらに前記表層部に炭化物が析出しているとともに、前記炭化物の量が面積率で5〜20%でかつその粒径が3μm以下となされていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項1の発明において、各数値の限定理由は次の通りである。
【0010】
表層部の全炭素量
この全炭素量を1.0〜1.6wt%に限定したのは、上限値を越えると炭化物が極めて粗大になり、微細化できないからである。なお、下限値はJIS SUJ2等の軸受鋼(高炭素クロム軸受鋼)がベースとなっていることから必然的に決まる。
【0011】
表層部のマトリックス中の固溶炭素量
この固溶炭素量を0.6〜1.0wt%に限定したのは、下限値未満であると所望の表面硬さを得ることができなくて、潤滑油中に混入した異物により圧痕が生成し、上限値を越えると表層部の微細炭化物の量が面積率で5%未満になって、耐摩耗性が低下するからである。
【0012】
表層部の微細炭化物の量
この微細炭化物の量を面積率で5〜20%に限定したのは、下限値未満であると耐摩耗性が低下し、上限値を越えると粗大な炭化物が発生し、この粗大炭化物が疲労亀裂の起点となって転がり、摺動部品の短寿命化につながるからである。
【0013】
表層部の微細炭化物の粒径
この粒径を3μm以下に限定したのは、3μmを越えると、非金属介在物と同様に疲労亀裂の起点となるとともに、靭性を確保することができないからである。
【0014】
請求項1の発明によれば、表面硬さが増大して潤滑油中に混入した異物により圧痕が生成しなくなるとともに、耐摩耗性が向上し、その結果転がり、摺動部品を用いた転がり軸受の長寿命化を図ることができる。しかも、軸受用として大量生産される軸受鋼(高炭素クロム軸受鋼)よりなるので、材料コストが安くなり、その結果トータルの製造コストが安くなる。軸受鋼の中でもJIS SUJ2は特に大量生産されるため、これを用いると材料コストが極めて安くなるので、好ましい。
【0015】
また、請求項1の発明において、前記浸炭処理温度が840〜870℃であることが好ましい。この場合、従来の肌焼き鋼に施す浸炭処理や浸炭窒化処理の加熱温度よりも低くなり、熱処理コストが安くなる。したがって、トータルの製造コストが安くなる。
【0016】
請求項2の発明による転がり、摺動部品は、請求項1の発明において、前記炭化物の量が面積率で5〜15%となされているものである。炭化物の量の上限を面積率で15%にするのは、次の理由による。すなわち、炭化物の量を面積率で15%を越えたものにするには浸炭処理時間を長くしなければならず、その結果熱処理コストが高くなって、面積率が15%以下の場合に比べてトータルの製造コストが高くなるからである。
【0017】
請求項3の発明による転がり、摺動部品は、請求項1の発明において、前記炭化物の量が面積率で10〜20%でかつその粒径が2μm以下となされているものである。炭化物の量の下限を面積率で10%としたのは、10%未満になると、ミクロンオーダおよびサブミクロンオーダの炭化物の量が不足して転がり疲労寿命を向上させる効果が得られないおそれがあるからである。ここで、ミクロンオーダの炭化物は、転がり疲労の原因となるすべり帯の形成を防止する効果があり、サブミクロンオーダの炭化物は、すべり帯の形成を防止する効果はないが、すべり帯を分散させる効果がある。また、炭化物の粒径を2μm以下としたのは、2μmを越えると、非金属介在物と同様に疲労亀裂の起点となるとともに、靭性を確保することができないおそれがあるからである。
【0018】
請求項4の発明による転がり、摺動部品は、請求項1〜3のうちのいずれかの発明において、前記表層部の表面硬さがロックウェルC硬さで62〜67、同じく残留オーステナイト量が20〜40vol%、同じく圧縮残留応力が100MPa以上となされているものである。表層部の表面硬さがHRC62〜67であると、潤滑油中に混入した異物により圧痕が生成することが防止される。しかしながら、表面硬さがHRC62未満ではこのような効果は得られない。また、表層部の表面硬さをHRC67よりも大きくするには、表層部のマトリックス中の固溶炭素量を多くする必要があるが、この場合、表層部の微細炭化物の量が減少し、異物が混入した潤滑油を用いた場合の寿命が低下する。また、表層部の残留オーステナイト量が20〜40vol%であると、潤滑油中に混入した異物により発生する表層部の圧縮応力を緩和することができるとともに、亀裂の進展を抑制することができ、その結果転がり、摺動部品を用いた転がり軸受の一層の長寿命化を図ることができる。しかしながら、残留オーステナイト量が20vol%未満ではこのような効果は得られず、40vol%を越えると表層部の表面硬さが62HRC以上にならない。さらに、表層部の圧縮残留応力が100MPa以上であると、亀裂の進展を抑制することができ、その結果転がり、摺動部品を用いた転がり軸受の一層の長寿命化を図ることができる。
【0019】
請求項5の発明による転がり軸受は、内外両輪および転動体を備えており、内外両輪および転動体のうちの少なくとも1つが、請求項1〜4のうちのいずれかの部品からなるものである。
【0020】
特に、転がり軸受の内輪の場合、その軌道面と転動体とは、凸と凸との接触になるので、発生する接触圧力が大きくなり、破損しやすい。この発明による転がり、摺動部品を内輪に用いた転がり軸受によれば、内輪の破損を防止することができ、その結果この転がり軸受の長寿命化を図ることができる。
【0021】
請求項6の発明による転がり、摺動部品の製造方法は、軸受鋼より所定の形状に形成された加工済み部品素材を、カーボンポテンシャルが1.2%以上である浸炭雰囲気中において840〜870℃で3時間以上加熱することにより浸炭処理を施した後急冷し、これにより表面から最大せん断応力の作用する深さまでの範囲の表層部の全炭素量を1.0〜1.6wt%とするとともに、前記表層部のマトリックス中の固溶炭素量を0.6〜1.0wt%とし、前記表層部に炭化物を析出させて炭化物の量を面積率で5〜15%でかつその粒径を3μm以下とすることを特徴とするものである。
【0022】
請求項6の発明において、浸炭処理における各数値の限定理由は次の通りである。なお、表層部の全炭素量、表層部のマトリックス中の固溶炭素量、表層部の炭化物の量の下限および表層部の炭化物の粒径については、限定理由は請求項1の発明の場合と同じである。また、表層部の炭化物の量の上限については、請求項2の発明の場合と同じである。
【0023】
浸炭処理雰囲気のカーボンポテンシャル
このカーボンポテンシャルを1.2%以上に限定したのは、1.2%未満では、炭素含有量が1wt%程度である軸受鋼に対してほとんど浸炭されないことになり、表層部の硬さおよび炭化物の面積率を所望のものにすることができず、しかも炭化物の微細化を図ることができないからである。
【0024】
浸炭処理温度
この温度を840〜870℃に限定したのは、下限値未満であるとカーボンポテンシャルのところで述べたような必要な浸炭を行うことができず、上限値を越えると表層部の結晶粒度が大きくなりすぎるとともに巨大炭化物が析出して強度が低下するからである。すなわち、降伏強さは結晶粒度の−1/2乗に比例するので、結晶粒度が大きくなりすぎると強度が低下する。
【0025】
浸炭処理時間
この時間を3時間以上に限定したのは、3時間未満であると、一般的転がり、摺動部品の転がり、摺動面における表層部の強化に要する浸炭深さが得られないからである。なお、この表層部とは、一般的には表面から深さ0.5mm程度までの範囲である。
【0026】
請求項6の発明によれば、軸受用として多く用いられる軸受鋼よりなる部品素材を用いるので、材料コストが安くなる。しかも、浸炭処理温度が840〜870℃であるとともに、1度の浸炭処理の後急冷する熱処理を行うだけであるから、熱処理コストが安くなる。したがって、軸受部品のトータルの製造コストが安くなる。軸受鋼の中でもJIS SUJ2は特に大量生産されるため、これを用いると材料コストが極めて安くなるので、好ましい。
【0027】
請求項6の発明において、カーボンポテンシャルを1.2〜1.4%とすることが好ましい。カーボンポテンシャルが1.4%を越えると、大量の煤が発生するという問題があるからである。
【0028】
さらに、請求項6の発明において、加熱時間を3.5〜5時間とすることが好ましい。加熱時間が5時間を超えると、熱処理コストが高くなるとともに、炭化物が巨大化するという問題があるからである。
【0029】
請求項7の発明による転がり、摺動部品の製造方法は、軸受鋼より所定の形状に形成された加工済み部品素材を、カーボンポテンシャルが0.9〜1.1%の雰囲気中において930〜970℃で1時間以上加熱することにより既存の炭化物をマトリックス中に溶け込ませる処理を施した後急冷し、ついでカーボンポテンシャルが1.2%以上の雰囲気中において840〜870℃で3時間以上加熱することにより浸炭処理を施した後急冷し、これにより表面から最大せん断応力の作用する深さまでの範囲の表層部の全炭素量を1.0〜1.6wt%とするとともに、前記表層部のマトリックス中の固溶炭素量を0.6〜1.0wt%とし、さらに前記表層部に炭化物を析出させて炭化物の量を面積率で10〜20%でかつその粒径を2μm以下とすることを特徴とするものである。
【0030】
請求項7の発明において、熱処理における各数値の限定理由は次の通りである。なお、表層部の全炭素量、表層部のマトリックス中の固溶炭素量および表層部の炭化物の量の上限については、限定理由は請求項1の発明の場合と同じである。また、表層部の炭化物の量の下限および炭化物の粒径については、請求項3の発明の場合と同じである。
【0031】
既存の炭化物をマトリックス中に溶け込ませる工程
この工程における雰囲気中のカーボンポテンシャルを0.9〜1.1%に限定したのは、軸受部品に対して浸炭および脱炭を起こさせないためである。1.1%を越えると炭素含有量が1wt%程度である軸受鋼に対して浸炭が起こり、0.9%未満であると脱炭が起こる。
【0032】
この工程における加熱温度を930〜970℃に限定したのは、930℃未満であると球状焼鈍後存在している第2相としての炭化物のマトリックス中への固溶が不十分であり、970℃を越えると焼割れを起こす可能性があるからである。
【0033】
さらに、この工程における加熱時間を1時間以上に限定したのは、1時間未満であると球状焼鈍後存在している第2相としての炭化物のマトリックス中への固溶が不十分になるからである。
【0034】
浸炭工程
この工程における雰囲気中のカーボンポテンシャルを1.2%以上に限定したのは、1.2%未満では、炭素含有量が1wt%程度である軸受鋼に対してほとんど浸炭されないことになり、表層部の硬さおよび炭化物の面積率を所望のものにすることができず、しかも炭化物の微細化を図ることができないからである。なお、カーボンポテンシャルの上限は、大量の煤の発生を防止するために1.4%とすることが好ましい。
【0035】
この工程における加熱温度を840〜870℃に限定したのは、下限値未満であるとカーボンポテンシャルのところで述べたような必要な浸炭を行うことができず、上限値を越えると表層部の結晶粒度が大きくなりすぎるとともに巨大炭化物が析出して強度が低下するからである。すなわち、降伏強さは結晶粒度の−1/2乗に比例するので、結晶粒度が大きくなりすぎると強度が低下する。
【0036】
さらに、この工程における加熱時間を3時間以上に限定したのは、3時間未満であると、一般的転がり、摺動部品の転がり、摺動面における表層部の強化に要する浸炭深さが得られないからである。なお、この表層部とは、一般的には表面から深さ0.5mm程度までの範囲である。
【0037】
請求項7の発明によれば、既存の炭化物をマトリックス中に溶け込ませる処理を施した後浸炭処理を施しているので、マトリックス中に固溶した炭化物の核から再度微細な炭化物を析出させることが可能になる。したがって、疲労亀裂の発生を防止するとともに、靭性を確保することができ、転がり、摺動部品の長寿命化を図ることが可能になる。また、軸受用として大量生産される軸受鋼を用いるので、材料コストが安くなり、その結果トータルの製造コストが安くなる。軸受鋼の中でもJIS SUJ2は特に大量生産されるため、これを用いると材料コストが極めて安くなるので、好ましい。
【0038】
請求項7の発明において、前記浸炭処理を施した後の表層部の炭化物の量を、面積率で13〜16%とすることが好ましい。
【0039】
炭化物の量が面積率で13%以上であると、請求項3のところで述べた、ミクロンオーダの炭化物によるすべり帯の形成防止効果およびサブミクロンオーダの炭化物によるすべり帯分散効果が一層優れたものになって転がり疲労寿命が向上するからである。また、コスト面を考慮すると、ガス浸炭においては炭化物の量は面積率で16%以下にすることが妥当である。
【0040】
請求項1、請求項6および請求項7の発明において、表面から最大せん断応力が作用する深さまでの表層部の範囲を上述したような状態にした理由は次の通りである。すなわち、内部起点剥離の要因となる最大剪断応力が作用する範囲内において、全炭素量、マトリックス中の固溶炭素量、炭化物の量を上述したようにすることにより強度を向上させ、その結果所定の目的が達成されるからである。なお、一般的な転がり軸受部品に代表される転がり、摺動部品おいては、最大せん断応力が作用する深さは、表面から0.5mmまでの範囲である。
【0041】
【発明の実施形態】
以下、この発明の具体的実施例を比較例とともに説明する。
【0042】
実施例1〜3および比較例1〜4
表1に示す2種の鋼を用意し、これらの鋼を用いて型番6206の転がり軸受に用いられる7種類の内輪素材を形成した。
【0043】
【表1】
Figure 2004052101
【0044】
ついで、これらの内輪素材に、図1〜図5に示す熱処理条件で、熱処理を施して内輪(実施例1〜3および比較例1〜4)を製造した。
【0045】
図1に示す熱処理条件1は、カーボンポテンシャル1.3%の雰囲気中において850℃で3時間加熱した後、80℃に油冷するものである。
【0046】
図2に示す熱処理条件2は、カーボンポテンシャル0.6%の雰囲気中において850℃で0.7時間加熱した後、80℃に油冷するものである。
【0047】
図3に示す熱処理条件3は、カーボンポテンシャル0.8%の雰囲気中において930℃で5時間加熱した後、この加熱に引き続いてカーボンポテンシャル0.8%の雰囲気中において850℃で0.7時間加熱し、ついで80℃に油冷するものである。
【0048】
図4に示す熱処理条件4は、カーボンポテンシャル1.3%の雰囲気中において930℃で5時間加熱した後、この加熱に引き続いてカーボンポテンシャル1.1%の雰囲気中において850℃で0.7時間加熱し、ついで80℃に油冷するものである。
【0049】
図5に示す熱処理条件5は、カーボンポテンシャル1.3%の雰囲気中において930℃で5時間加熱した後80℃に油冷し、ついでカーボンポテンシャル1.3%の雰囲気中において850℃で3.5時間加熱し、その後80℃に油冷するものである。
【0050】
なお、上述した全ての熱処理においては、図示は省略したが、最後に160℃で2時間加熱する焼戻し処理が施される。
【0051】
このようにして製造された実施例1〜3および比較例1〜4の内輪の鋼種、熱処理条件および熱処理コストを表2に示す。なお、表2中の熱処理条件1Aは熱処理条件1の加熱時間だけを5時間に変更したものであり、熱処理条件1Bは熱処理条件1の加熱時間だけを3.5時間に変更したものである。また、熱処理コストは、安いものから順に1〜5の数字で表す。
【0052】
【表2】
Figure 2004052101
【0053】
実施例1〜3および比較例1〜4の内輪の軌道面の表面硬さ(HRC)、軌道最表面の全炭素量、軌道最表面のマトリックス中の固溶炭素量、軌道最表面に析出した炭化物の量(面積率)、軌道最表面に析出した炭化物の最大粒径、表面から深さ50μmの位置での残留オーステナイト量(γ量)、表面から深さ50μmの位置での圧縮残留応力は、表3に示す通りである。
【0054】
【表3】
Figure 2004052101
【0055】
評価試験1
実施例1〜3および比較例1〜4の内輪を、JIS SUJ2からなりかつ通常の浸炭窒化処理が施されてなる外輪および玉と組み合わせて型番6206C3の玉軸受を組立てた。そして、これらの玉軸受を使用し、異物が混入した潤滑油を用いて寿命試験を行った。試験条件は表4に示す通りである。
【0056】
【表4】
Figure 2004052101
【0057】
なお、表4に示す試験機は、同時に2個の玉軸受の試験を行うことが可能であり、表4中のラジアル荷重は、1つの玉軸受のラジアル荷重を意味する。
【0058】
寿命試験の結果も表3に示す。
【0059】
表3中のL10寿命は、試験機に同じ内輪を備えた玉軸受を2個セットし、いずれかの玉軸受の内輪が破損するまでの時間を計測するという試験を5回繰り返し、破損までの時間の平均をとったものである。
【0060】
以上の結果から明らかなように、本発明品である実施例1〜3は、軸受鋼の中でも最も大量生産されるJIS SUJ2を用いているので、特に材料コストが安くなる。さらに、熱処理コストも安くなるとともに、これを用いた軸受の長寿命化を図ることが可能になる。
【0061】
実施例4および比較例5〜9
表1に示す2種の鋼をを用いて型番6206の転がり軸受に用いられる6種類の内輪素材を形成した。
【0062】
ついで、これらの内輪素材に、図6〜図11に示す熱処理条件で、熱処理を施して内輪(実施例4および比較例5〜9)を製造した。
【0063】
図6に示す熱処理条件6は、カーボンポテンシャル1.1%の雰囲気中において950℃で2時間加熱した後80℃に油冷し、ついでカーボンポテンシャル1.3%の雰囲気中において850℃に3.5時間加熱した後80℃に油冷するものである。
【0064】
図7に示す熱処理条件7は、カーボンポテンシャル0.6%の雰囲気中において830℃で0.7時間加熱した後、80℃に油冷するものである。
【0065】
図8に示す熱処理条件8は、カーボンポテンシャル1.3%の雰囲気中において850℃で3.5時間加熱した後、80℃に油冷するものである。
【0066】
図9に示す熱処理条件9は、カーボンポテンシャル0.8%の雰囲気中において930℃で5時間加熱した後、この加熱に引き続いてカーボンポテンシャル0.8%の雰囲気中において850℃で0.7時間加熱し、ついで80℃に油冷するものである。
【0067】
図10に示す熱処理条件10は、カーボンポテンシャル1.3%の雰囲気中において930℃で5時間加熱した後、この加熱に引き続いてカーボンポテンシャル1.1%の雰囲気中において850℃で0.7時間加熱し、ついで80℃に油冷するものである。
【0068】
図11に示す熱処理条件11は、カーボンポテンシャル1.3%の雰囲気中において930℃で5時間加熱した後80℃に油冷し、ついでカーボンポテンシャル1.3%の雰囲気中において850℃で3.5時間加熱し、その後80℃に油冷するものである。
【0069】
なお、上述した全ての熱処理においては、図示は省略したが、最後に160℃で2時間加熱する焼戻し処理が施される。
【0070】
このようにして製造された実施例4および比較例5〜9の内輪の鋼種、熱処理条件および熱処理コストを表5に示す。なお、熱処理コストは、安いものから順に1〜4の数字で表す。
【0071】
【表5】
Figure 2004052101
【0072】
実施例4および比較例5〜9の内輪の軌道面の表面硬さ(HRC)、軌道最表面の全炭素量、軌道最表面のマトリックス中の固溶炭素量、軌道最表面に析出した炭化物の量(面積率)、軌道最表面に析出した炭化物の最大粒径、表面から深さ50μmの位置での残留オーステナイト量(γ量)、表面から深さ50μmの位置での圧縮残留応力は、表6に示す通りである。
【0073】
【表6】
Figure 2004052101
【0074】
評価試験2
実施例4および比較例5〜9の内輪を、JIS SUJ2からなりかつ通常の浸炭窒化処理が施されてなる外輪および玉と組み合わせて型番6206C3の玉軸受を組立てた。そして、これらの玉軸受を使用し、前記評価試験1と同様にして異物が混入した潤滑油を用いて寿命試験を行った。
【0075】
寿命試験の結果も表6に示す。
【0076】
表6中のL10寿命は、試験機に同じ内輪を備えた玉軸受を2個セットし、いずれかの玉軸受の内輪が破損するまでの時間を計測するという試験を5回繰り返し、破損までの時間の平均をとったものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】熱処理条件1を示す線図である。
【図2】熱処理条件2を示す線図である。
【図3】熱処理条件3を示す線図である。
【図4】熱処理条件4を示す線図である。
【図5】熱処理条件5を示す線図である。
【図6】熱処理条件6を示す線図である。
【図7】熱処理条件7を示す線図である。
【図8】熱処理条件8を示す線図である。
【図9】熱処理条件9を示す線図である。
【図10】熱処理条件10を示す線図である。
【図11】熱処理条件11を示す線図である。

Claims (7)

  1. 軸受鋼よりなり、浸炭処理が施されて、表面から最大せん断応力が作用する深さまでの範囲の表層部の全炭素量が1.0〜1.6wt%となされるとともに、前記表層部のマトリックス中の固溶炭素量が0.6〜1.0wt%となされ、さらに前記表層部に炭化物が析出しているとともに、前記炭化物の量が面積率で5〜20%でかつその粒径が3μm以下となされていることを特徴とする転がり、摺動部品。
  2. 前記炭化物の量が面積率で5〜15%となされている請求項1の転がり、摺動部品。
  3. 前記炭化物の量が面積率で10〜20%でかつその粒径が2μm以下となされている請求項1の転がり、摺動部品。
  4. 前記表層部の表面硬さがロックウェルC硬さで62〜67、同じく残留オーステナイト量が20〜40vol%、同じく圧縮残留応力が100MPa以上となされている請求項1〜3のうちのいずれかの転がり、摺動部品。
  5. 内外両輪および転動体を備えており、内外両輪および転動体のうちの少なくとも1つが、請求項1〜4のうちのいずれかの部品からなる転がり軸受。
  6. 軸受鋼より所定の形状に形成された加工済み部品素材を、カーボンポテンシャルが1.2%以上である浸炭雰囲気中において840〜870℃で3時間以上加熱することにより浸炭処理を施した後急冷し、これにより表面から最大せん断応力の作用する深さまでの範囲の表層部の全炭素量を1.0〜1.6wt%とするとともに、前記表層部のマトリックス中の固溶炭素量を0.6〜1.0wt%とし、前記表層部に炭化物を析出させて炭化物の量を面積率で5〜15%でかつその粒径を3μm以下とすることを特徴とする転がり、摺動部品の製造方法。
  7. 軸受鋼より所定の形状に形成された加工済み部品素材を、カーボンポテンシャルが0.9〜1.1%の雰囲気中において930〜970℃で1時間以上加熱することにより既存の炭化物をマトリックス中に溶け込ませる処理を施した後急冷し、ついでカーボンポテンシャルが1.2%以上の雰囲気中において840〜870℃で3時間以上加熱することにより浸炭処理を施した後急冷し、これにより表面から最大せん断応力の作用する深さまでの範囲の表層部の全炭素量を1.0〜1.6wt%とするとともに、前記表層部のマトリックス中の固溶炭素量を0.6〜1.0wt%とし、さらに前記表層部に炭化物を析出させて炭化物の量を面積率で10〜20%でかつその粒径を2μm以下とすることを特徴とする転がり、摺動部品の製造方法。
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