JP2004047973A - 発光素子の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】発光素子100の製造に際し、単結晶基板上1に、それぞれIII−V族化合物半導体からなる発光層部24と電流拡散層7とを形成する。発光層部24は有機金属気相成長法により形成する。また、発光層部24の上に、III族元素としてGaを必須とするIII−V族化合物半導体よりなる電流拡散層7をハイドライド気相成長法により形成する。さらに、電流拡散層7の厚さ方向の中間位置に、該電流拡散層7とは導電型の異なるIII−V族化合物半導体よりなる電流阻止層10を埋設形成する。そして、電流拡散層7の、電極の側において該電流阻止層を覆う部分を少なくとも、前記第二の気相成長工程により形成する。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
この発明は発光素子の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
(AlxGa1−x)yIn1−yP混晶(ただし、0≦x≦1,0≦y≦1;以下、AlGaInP混晶、あるいは単にAlGaInPとも記載する)により発光層部が形成された発光素子は、薄いAlGaInP活性層を、それよりもバンドギャップの大きいn型AlGaInPクラッド層とp型AlGaInPクラッド層とによりサンドイッチ状に挟んだダブルへテロ構造を採用することにより、高輝度の素子を実現できる。
【0003】
例えば、AlGaInP発光素子を例に取れば、n型GaAs基板上にヘテロ形成させる形にて、n型GaAsバッファ層、n型AlGaInPクラッド層、AlGaInP活性層、p型AlGaInPクラッド層をこの順序にて積層し、ダブルへテロ構造をなす発光層部を形成する。発光層部への通電は、素子表面に形成された金属電極を介して行なわれる。ここで、金属電極は遮光体として作用するため、例えば発光層部主表面の中央部のみを覆う形で形成され、その周囲の電極非形成領域から光を取り出すようにする。
【0004】
この場合、金属電極の面積をなるべく小さくしたほうが、電極の周囲に形成される光漏出領域の面積を大きくできるので、光取出し効率を向上させる観点において有利である。従来、電極形状の工夫により、素子内に効果的に電流を拡げて光取出量を増加させる試みがなされているが、この場合も電極面積の増大はいずれにしろ避けがたく、光漏出面積の減少により却って光取出量が制限されるジレンマに陥っている。また、クラッド層のドーパントのキャリア濃度ひいては導電率は、活性層内でのキャリアの発光再結合を最適化するために多少低めに抑えられており、面内方向には電流が広がりにくい傾向がある。これは、電極被覆領域に電流密度が集中し、光漏出領域における実質的な光取出量が低下してしまうことにつながる。そこで、クラッド層と電極との間に、ドーパントのキャリア濃度を高めた低抵抗率の電流拡散層を形成する方法が採用されている。他方、厚膜の電流拡散層を素子裏面側に配置し、素子基板に兼用させる構成も考えられる(この場合、該電流拡散層は導電性の素子基板とみなすこともできるが、本明細書ではこれも広義に電流拡散層の概念に属するものとみなす)。従来、このような電流拡散層は、発光層とともに、有機金属気相成長法(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy:以下、MOVPE法ともいう)により形成されることが多かった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような発光素子における電流拡散層は、面内方向に電流を十分に拡げるために、層厚をある程度大きく設定すること、例えば発光層部よりは厚みを大きくして形成されるのが一般的である。しかし、MOVPE法は層成長速度が小さく、十分な厚さの電流拡散層を成長させるには非常な長時間を要し、製造能率の低下とコストの増大を招く問題がある。また、III族元素源としてMOVPE法に使用する有機金属は一般に高価である。さらに、MOVPE法においては、結晶性の向上を図るために、III族元素源に対してV族元素源(AsH3、PH3など)を相当大きな比率(10〜数百倍)にて配合しなければならないことも、コスト上は不利に作用する。さらに、発光素子においては、電極が遮光体として作用するため、この電極に素子駆動のための電圧を印加した場合、素子内の電流密度は電極直下付近で高く、光取出領域となる電極の周囲領域では低くなることより光取出効率が低下しやすくなる。そこで、電流阻止層を、例えば電極直下位置において電流拡散層中に埋設形成すれば、電流拡散層内において電流に電極領域外への迂回が生じ、光取出効率を高めることができる。しかし、このような電流阻止層を形成するには、工数の増大が不可欠であり、製造能率の低下はますます著しくなる。
【0006】
また、電流阻止層を電流拡散層中に埋設形成する際に、電流阻止層を覆う電流拡散層部分をMOVPE法やLPE(Liquid Phase Epitaxy)法で形成すると、最終的に得られる電流拡散層の表面に、電流阻止層の形状がパターンダレした大きな段差が結晶欠陥を伴なって生じやすい問題がある。このような段差や結晶欠陥は、電極との導通不良を招いたり、あるいは画像処理を用いて電極にワイヤボンディングする際には、画像の誤検出要因となって、ワイヤボンディング工程での能率及び歩留まりの低下を招く場合がある。
【0007】
本発明の課題は、電流阻止層が埋設された電流拡散層を効率よく形成できるとともに、該電流拡散層の表面の平滑性を高めることができる発光素子の製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段及び作用・効果】
上記第一の課題を解決するために、本発明の発光素子の製造方法は、
単結晶基板上に、それぞれIII−V族化合物半導体からなる発光層部と電流拡散層とを形成し、発光層部に発光駆動電圧を印加するための電極を形成する発光素子の製造方法において、
単結晶基板上に、発光層部を有機金属気相成長法により形成する第一の気相成長工程と、
発光層部の形成後に実施される、電流拡散層を形成するためのハイドライド気相成長法による第二の気相成長工程と、
電流拡散層に、該電流拡散層とは導電型の異なるIII−V族化合物半導体よりなる電流阻止層を埋設形成する電流阻止層形成工程とを含み、
電流拡散層の、電極側において該電流阻止層を覆う部分を少なくとも、ハイドライド気相成長法により形成することを特徴とする。なお、本明細書において電流阻止層は、電流拡散層に属さないものとして考える。
【0009】
本発明の発光素子の製造方法においては、III−V族化合物半導体よりなる発光層部を有機金属気相成長法(MOVPE法)により成長する。そして、このようなMOVPE法により成長した発光層部の上に、III−V族化合物半導体よりなる電流拡散層を、ハイドライド気相成長法(Hydride Vapor Phase Epitaxial Growth Method:以下、HVPE法という)を用いて形成する。HVPE法は、蒸気圧の低いGa(ガリウム)を塩化水素との反応により気化しやすいGaClに転換し、該GaClを媒介とする形でV族元素源ガスとGaとを反応させることにより、III−V族化合物半導体層の気相成長を行なう方法である。MOVPE法による層成長速度が約4μm/時であるのに対しHVPE法では約9μm/時であり、HVPE法によると層成長速度をMOVPE法よりも大きくでき、ある程度厚さを要する電流拡散層も非常に高能率にて形成できるので、原材料費をMOVPE法よりもはるかに低く抑えることができる。また、HVPE法では、III族元素源として高価な有機金属を使用せず、III族元素源に対するV族元素源(AsH3、PH3など)の配合比率もはるかに少なくて済む(例えば1/3倍程度)ので、コスト的に有利である。
【0010】
この場合、該電流阻止層を埋設形成する電流阻止層形成工程が必要となる。そして、本発明においては、電流拡散層内の、電極側において該電流阻止層を覆う部分を少なくとも、第二の気相成長工程(つまり、HVPE法)により形成する。電流阻止層を埋設形成する際に、電流阻止層を覆う電流拡散層部分をMOVPE法やLPE法で形成すると、例えば図8(b)に示すように、最終的な電流拡散層の表面に、電流阻止層の形状がパターンダレした大きな段差が結晶欠陥を伴なって生じやすい問題がある。このような段差や結晶欠陥は、電極との導通不良を招いたり、あるいは前記したような画像処理を用いて電極にワイヤを自動ボンディングする際には、画像の誤検出要因となって、ワイヤボンディング工程での能率及び歩留まり低下を招く場合がある。しかし、HVPE法で電流阻止層を覆う電流拡散層部分を形成すると、例えば図8(a)に示すように、そのような段差や結晶欠陥がほとんど生じず、表面の平滑な電流拡散層が得られ、上記のような不具合が生じにくい。
【0011】
特に電流拡散層の材質として、GaAs1−aPa(0≦a≦1)を採用すると、HVPE法による成長が容易で、高品質の電流拡散層を得やすくなる利点がある。なお、本発明において、GaAs1−aPa(0≦a≦1)は、GaP混晶比aが1の場合を含むので、GaPの概念を含んでいる。他方、GaP混晶比aが0の場合も含むので、GaAsも概念として含むが、GaAsはGaPよりもバンドギャップが小さいので発光層部24からの発光光束に対する吸収を生じやすい。従って、GaP混晶比aは0より大きく設定することが望ましい。以下、「GaAsP」と記載した場合は、GaP混晶比aが1未満であり、「GaP」と記載した場合はGaP混晶比aが1であることを意味する。
【0012】
本発明においては、電流拡散層を成長速度の大きいHVPE法にて成長するので、MOVPEでは現実的な時間の範囲内で成長困難な20μm以上の電流拡散層も、比較的高能率に得られる利点がある。特に、50μm以上の厚さに電流拡散層を成長させれば、該電流拡散層を素子基板に兼用させることも可能となる。この場合、該素子基板を兼用する電流拡散層は、発光層部の光取出面側に配置してもよいし(この場合、電流拡散層の主表面の一部領域のみが電極にて覆われる)、裏面側に配置してもよい。
【0013】
電流拡散層を裏面側に配置する場合は、発光層部からの光に対し透光性を有する該電流拡散層の裏面を部分的に覆うコンタクト層を形成することができる。また、電流拡散層の裏面側にてコンタクト層を、該コンタクト層の非形成領域とともに覆う、反射層を兼ねた金属電極で覆うこともできる。この場合、コンタクト層は金属電極と電流拡散層との接合抵抗を低減する役割を果たす。他方、電流拡散層の裏面側にて該コンタクト層を、コンタクト層の非形成領域とともにAgペースト等の金属ペースト層で覆うこともできる。いずれの態様においても、特にコンタクト層の非形成領域において金属電極又は金属ペースト層による発光光束の反射効果を高めることができる。
【0014】
なお、電流拡散層の厚さが200μmを超えると、HVPE法を用いているといえども成長時間が相当長くなり、製造能率の低下につながる場合がある。このような観点から、電流拡散層(第二の気相成長工程において形成される)の形成厚さは200μm以下とすることが望ましい。ただし、電流拡散層が過度に薄くなれば、電流拡散効果が十分に得られなくなって発光効率の低下につながる。従って、電流拡散層の厚さは、5μm以上は確保しておくことが望ましい。なお、電流拡散層を素子基板に兼用させない場合は、製造能率を優先させて、その形成厚さを50μm未満に留めることが望ましい。特に、成長温度が比較的高い場合(例えば800℃以上)は、電流拡散層の厚さを50μm以上に増加させても発光強度の大幅な増加は望めないので、電流拡散層の厚さを50μm未満、望ましくは20μm以下に留めることが望ましいといえる。他方、後述のごとく、成長用の単結晶基板のオフアングル最適化により、HVPE法による電流拡散層の成長温度は大幅に低減できるので、この場合は、電流拡散層を厚膜化することにより発光強度をさらに向上でき、50μm以上の層厚設定が有効となる場合がある。
【0015】
発光層部は、(AlxGa1−x)yIn1−yP(ただし、0≦x≦1,0≦y≦1)にて構成される第一導電型クラッド層、活性層及び第二導電型クラッド層が、発光層部に発光駆動電圧を印加するための電極側からこの順序にて積層されたダブルへテロ構造を有するものとして形成できる。活性層の両側に形成されるクラッド層とのバンドギャップ差に起因したエネルギー障壁により、注入されたホールと電子とが狭い活性層中に閉じ込められて効率よく再結合するので、非常に高い発光効率を実現できる。さらに、活性層の組成調整により、広範囲の発光波長を実現することができる。
【0016】
電流阻止層を電流拡散層に埋設するには、電流阻止層を形成後に所望のパターンにエッチングし、HVPE法により第二の気相成長工程を行なうための容器に移し替える必要がある。このとき、電流阻止層が容器外の雰囲気にさらされるので、酸化の影響が問題になる場合がある。また、後述のように電流阻止層を化学エッチングにより形成する場合、エッチング時に受ける酸化も考慮する必要がある。そこで、電流阻止層を、酸化されやすい元素であるAl(アルミニウム)を含有しないIII−V族化合物半導体により形成すると、このような酸化の問題が生じにくくなり、好都合である。
【0017】
なお、Alを含有しない電流拡散層としては、例えばGaPを採用できる。GaPは比較的広いバンドギャップを有しているので、発光層部から発光波長の短い光が放出されている場合でも光吸収を起しにくい。従って、光取出し効率を確保する上で有利であり、また、光吸収抑制を考慮したときの発光層部の材料選択幅も広げられる利点がある。
【0018】
一方、GaPにGaAsを配合したGaAs1−aPaにより電流拡散層を構成すると、以下のような利点が生ずる。すなわち、電流拡散層の電極形成側の表層部に、ドーパントをZn(亜鉛)として追加拡散処理により高濃度ドーピング層を形成する場合、Znの拡散速度は、GaP中よりもGaAs1−aPa中の方が大きく、必要な厚さの高濃度ドーピング層を短時間にて形成できる。この目的にてGaAs1−aPaを採用する場合は、GaPの混晶比aが0.5以上0.9以下となるように設定することが望ましい。GaPの混晶比aが0.5未満では、GaAsの混晶比が高くなり、バンドギャップが縮小して光吸収が生じやすくなる場合がある。他方、GaPの混晶比aが0.9を超えると、GaAsの混晶比が小さくなりすぎ、Znの拡散促進効果が十分に得られなくなる場合がある。
【0019】
電流阻止層形成工程は、具体的には以下のような工程を含むものとして実施することができる。
▲1▼第三の気相成長工程:発光層部の上に、電流拡散層の一部をなす第一導電型のIII−V族化合物半導体よりなる第一層と、電流阻止層をなす第二の導電型のIII−V族化合物半導体よりなる第二層とを有機金属気相成長法(MOVPE法)により順次形成する。
▲2▼エッチング工程:得られた第二導電型の化合物半導体層を、電流阻止層となるべき部分を残して残余の部分をエッチング除去する。
そして、第二の気相成長工程は、第一層と同一導電型のIII−V族化合物半導体からなる第三層を、第二層のエッチング後の残余部分をくるむようにハイドライド気相成長法(HVPE法)により形成する。
【0020】
第一層は、電流拡散層の、電流阻止層に対する下地となる部分をなすものであり、第二層は電流阻止層をなす部分である。上記方法によると、第一層及び第二層を形成する第三の気相成長工程を、発光層部の形成される第一の気相成長工程に続く形で、同じMOVPE法により実施できるので能率的である。これら第一の気相成長工程及び第三の気相成長工程を同一の成長容器内で基板を容器外に取り出さずに連続的に行なうと、特に効果が大きい。
【0021】
この場合、第三の気相成長工程が終了すると、基板を容器外に取り出して、HVPE法により第二の気相成長工程を行なうための容器に移し替える必要がある。このとき、第一層及び第二層は容器外の雰囲気にさらされるので、酸化の影響が問題になる場合がある。また、後述のように第二層を化学エッチングする場合は、そのエッチング時に受ける酸化も考慮する必要がある。この観点においては、第一層及び第二層を、いずれも、酸化されやすい元素であるAl(アルミニウム)を含有しないIII−V族化合物半導体により形成するとよい。具体的には、第一層、第二層及び第三層をいずれもGaAs1−aPa(0≦a≦1:発光層部のピーク発光波長に対応した光エネルギーよりもバンドギャップエネルギーが大きい)により形成することができる。これは、第三層をHVPE法にて形成する際に、GaAs1−aPa(0≦a≦1)が最も成長が容易で高品質のものが得られるためであり、MOVPEにより形成される第二層も、これに合わせ込む形でGaAs1−aPa(0≦a≦1)を採用する。また、第一層を同じGaAs1−aPa(0≦a≦1:発光層部のピーク発光波長に対応した光エネルギーよりもバンドギャップエネルギーが大きい)とすることにより、第三の気相成長工程において、MOVPE法により第一層を形成後、第二層の形成に移行する際に原料ガスの切り替えが不要となり、製造が容易となる。なお、各層のGaP混晶比aを同じに設定しておくと、製造がより容易となる。また、不要なバンド端不連続も生じないので、それによる発光性能の低下等も懸念する必要がなくなる。
【0022】
なお、第二層と第一層とは、同じGaAs1−aPa(0≦a≦1)であっても導電型は反対とされる。例えば、第三層を、Zn及び/又はMg(マグネシウム)をドーパントとしたp型GaAs1−aPa(0≦a≦1:発光層部のピーク発光波長に対応した光エネルギーよりもバンドギャップエネルギーが大きい)層とする場合、第二層はSi(シリコン)等をドーパントとするn型GaAs1−aPa(0≦a≦1)層とする。なお、この場合の電流拡散層は、MOVPE法による第一層と、HVPE法による第三層とでドーパントの種別を異ならせてもよい。例えば、第三層のドーパントをZnとする場合、第一層のドーパントをZnとするほかに、Znに代えてMgを用いることも可能である。GaAs1−aPa(0≦a≦1)よりなる第一層のドーパントをMgにしておくと、GaAs1−aPa中のMgの拡散速度は小さいので、該第一層のMgが発光層部側に逆拡散して、発光特性を低下させたりする不具合が生じにくい。
【0023】
次に、エッチング工程において、第二層をエッチングする方法としては、気相エッチングを行なってもよいが、エッチング液を用いた化学エッチングが簡便で、能率もよいので本発明に好適に採用できる。この化学エッチングは、第二層に対するエッチング活性が、第一層に対するエッチング活性よりも高く、第二層のみを選択的にエッチングできるものを使用することが好ましい。しかし、第一層と第二層とが同一材質の化合物半導体よりなる場合、第一層と第二層とに対して顕著なエッチング活性差を有したエッチング液を得ることは容易ではなく、例えばやむを得ずエッチング活性差の小さい液を用いてエッチングを行なうと、選択エッチング能力が不足して、第一層にまでエッチングの影響が大きく及んでしまう不具合を生ずる。
【0024】
このような場合、第一層と第二層との間に、両層のいずれとも材質の異なるIII−V族化合物半導体からなる第四層を介挿形成し、エッチング工程において、第四層をエッチストップ層として第二層を第一のエッチング液により化学的に選択エッチングすることが有効である。つまり、第二層とは材質の相違する第四層を、該第二層の下地として形成しておけば、材質が同じである第一層と第二層とに対しては適当なエッチング液が見つからなくても、材質が相違する第二層と第四層とであれば、適当な選択エッチング性を有したエッチング液を容易に見出すことができる。そして、このようなエッチング液を第一のエッチング液として用いることにより、エッチング工程においては該第四層がエッチストップ層として作用し、第二層を容易に選択エッチングできる。また、この第四層は、第二層の電流阻止層として残る部分の直下はエッチングされずに残留するが、その残留部分は、電流阻止層により電流が遮られる部分に生ずるので、発光特性等には何ら影響しない。
【0025】
この第四層は、Alを含有しないIII−V族化合物半導体にて形成することが望ましい。すなわち、第二層を第一のエッチング液により選択エッチングする際に、エッチストップ層となる第四層にAlが含有されていると、エッチング液とAlとが反応して絶縁性のAl酸化層が形成される場合がある。後述の通り、第四層の露出部分を第二のエッチング液によりエッチング除去して第三層の形成を行なう場合は、Al酸化層はそのエッチングの妨げとなる。また、第四層を残して第三層を形成すると、Al酸化層により直列抵抗が増加する上、第三層の第四層上へのエピタキシャル成長が妨げられる場合がある。いずれも、発光特性の低下につながる。
【0026】
例えば、第二層をAldGa1−dP(0<d≦1)又は(AlbGa1−b)cIn1−cP(0<b≦1;0≦c≦0.5)にて形成する場合は、第一層をGaAs1−aPa(0≦a≦1)にて形成し、第二層に対するエッチング液として、例えば塩酸を用いる。すると、特に第四層を設けなくとも第二層を第一層に対して問題なく選択エッチングできる。しかし、第二層に含まれるAlの酸化が問題となる場合は、第二層もGaAs1−aPa(0≦a≦1)にて形成することが有効である。この場合は、第二層を化学エッチングにより選択エッチングすることが難しくなるので、例えば第二層よりもGaPの混晶比が大きいGaAs1−bPb(a<b≦1)にて形成された第四層を介挿すると、第二層と第四層との間には選択エッチング性を付与しやすくなる。特に、第二層と第一層とがGaAs1−aPa(0.5≦a≦0.9)からなり、第四層がGaPとされている場合、第四層によるエッチストップ効果が顕著である。この場合、第一のエッチング液としては、一例として硫酸あるいは硫酸と過酸化水素水との混合液を使用することにより、第四層をエッチストップ層とした第二層の選択エッチングを効果的に行なうことができる。
【0027】
第四層の厚みは1nm以上100nm以下に調整することが望ましい。該厚みが1nm未満ではエッチストップ効果が十分に得られず、100nmより厚く形成することは、エッチストップ効果が飽和して不経済である。
【0028】
例えば、第四層をエッチストップ層として第二層の外側を第一のエッチング液により化学的に選択エッチングした後、当該第二層の外側に露出している第四層を、第一層をエッチストップ層として第二のエッチング液により化学的に選択エッチングして第一層を露出させ、その後、第二の気相成長工程により第三層を第一層の外側と接するように形成することができる。このようにすると、電流阻止層として残った第二層の周囲において、電流拡散層をなす第一層と第三層との間に、不要な第四層が残留せず、該第四層による光吸収等の問題も生じにくい。なお、第四層の厚さを1nm以上50nm以下の小さな範囲に設定すれば、第四層による光吸収等の影響はほとんど生じないので、第二層の外側に露出している第四層をエッチングせずに第三層を形成することも可能である。
【0029】
本発明の発光素子の製造方法においては、オフアングルを有する単結晶基板を用いることができる。本明細書において、「オフアングルを有する」とは、化合物半導体層が積層される単結晶基板の結晶主軸が、<100>または<111>等に定められた基準方向に対し一定の角度傾けてあることをいう。MOVPE法により混晶発光層部を成長する場合、適度なオフアングルを単結晶基板に付与しておくことで、上記のようなIII族元素の規則化や偏りが大幅に軽減され、発光スペクトルプロファイルや中心波長の揃った発光素子が得られる。また、MOVPE法により成長した混晶発光層部の上に、III−V族化合物半導体よりなる電流拡散層を、HVPE法を用いて形成すると、最終的に得られる電流拡散層の表面に、単結晶基板のオフアングルに由来したファセットや面荒れがほとんど生じず、ひいては平滑性の良好な電流拡散層が得られる。そして、電流拡散層の表面が平滑化されると、電流拡散層上に形成される電極との密着性も良好となる。また、その電極にワイヤを、画像処理を用いて自動ボンディングする際に、面荒れによる画像の誤検出が軽減され、ひいてはワイヤボンディング工程での能率向上や、歩留まり改善にも寄与する。
【0030】
(AlxGa1−x)yIn1−yPにて発光層部を構成する場合、単結晶基板は、<100>方向又は<111>方向を基準方向として、該基準方向に対するオフアングルが1゜以上25゜以下の主軸を有するGaAs単結晶基板とすることができる。オフアングルが1゜未満では既に説明した発光特性(発光スペクトルプロファイルや中心波長)のバラツキ抑制効果に乏しくなり、25゜を超えると発光層部の正常な成長が不能となる場合がある。該効果は、特に<100>方向を基準方向としてオフアングルが上記の主軸を有するGaAs単結晶基板を用いた場合に、特に顕著である。
【0031】
単結晶基板は、オフアングルが10°以上20°以下の主軸を有するGaAs単結晶基板とすることがより望ましい。このような高角度のオフアングルを有するGaAs単結晶を用いると、HVPEによる第二の気相成長工程にて最終的に得られる電流拡散層の表面を平滑化する効果が一層高められる。本発明者らが検討したところ、オフアングルの1゜以上10°未満の単結晶基板を用いると、HVPEにて得られる電流拡散層の表面においては、ファセット的な振幅の小さい一様な凹凸の形成は効果的に防止されるものの、振幅の大きな突起状の結晶欠陥が残留することがあり、ワイヤボンディング工程等における誤検出等の不具合を招くこともあった。しかし、オフアングルを10°以上20°以下の範囲に大きくすると、こうした突起状の結晶欠陥発生を効果的に抑制できる。
【0032】
また、突起状の結晶欠陥発生防止も含め、平滑で良好な表面状態の電流拡散層を得るには、HVPE法による電流拡散層の成長温度を適正化することも、工程上考慮すべき重要なポイントである。単結晶基板のオフアングルを10°以上20°以下の範囲に設定すると、そのような電流拡散層の適正な成長温度範囲を低温側に引き下げることができるのも、重要な効果の一つである。電流拡散層の成長温度を低温化できれば、該電流拡散層の下地をなす発光層部に加わる、電流拡散層成長時の熱履歴を和らげることができ、発光層部のp−n接合をなすドーパントプロファイルの拡散劣化が生じにくい。特にダブルへテロ構造の発光層部の場合は、発光再結合の効率を高めるため、活性層のドーパント濃度はなるべく低くしたい要請がある。従って、電流拡散層の成長温度の低温化により、クラッド層側から活性層側へのドーパント拡散を抑制することにより、発光素子の内部量子効率を高めることができ、発光性能を大幅に改善することができる。また、成長温度の低減により、上記ドーパントプロファイルを良好に維持したまま電流拡散層の層厚を増やすことができるので、該電流拡散層を特に50μm以上に厚膜化したときの発光強度の向上効果がとりわけ著しくなる利点もある。
【0033】
オフアングルが10°未満となるか、又はオフアングルが20°を超えると、突起状の結晶欠陥発生防止効果及び電流拡散層の適正成長温度の低温化効果が不十分となる場合がある。オフアングルはより望ましくは13°以上17°以下に設定するのがよい。
【0034】
この場合、第二の気相成長工程において、上記の電流拡散層をハイドライド気相成長法により成長する場合、該成長温度を640℃以上750℃以下の温度に設定することが望ましい。成長温度が640℃未満では電流拡散層の表面の平滑化効果、特に突起状の結晶欠陥の発生抑制効果が十分に得られなくなる。また、750℃より高温では、発光層部のドーパントプロファイルの拡散劣化防止効果が十分に達成できなくなる。なお、上記成長温度は、より望ましくは680℃以上720℃以下(特にオフアングルが13°以上17°以下の場合)に設定するのがよい。また、このような温度設定により、電流拡散層を50μm以上(200μm以下)に厚膜化させたときの、発光強度向上効果が特に著しくなる。
【0035】
なお、発光層部及び電流拡散層のエピタキシャル成長に使用する単結晶基板は、敢えて除去せず素子内に残した構造としてもよいし、GaAs等の光吸収性の基板である場合は、発光層部及び電流拡散層のエピタキシャル成長後に該単結晶基板を除去した構造としてもよい。単結晶基板を除去しない場合の本発明の発光素子の製造方法は以下の通りである:
単結晶基板上に、それぞれIII−V族化合物半導体からなる発光層部と電流拡散層と、発光層部に発光駆動電圧を印加するための電極とをこの順序で形成した発光素子の製造方法において、
単結晶基板上に、発光層部を有機金属気相成長法により形成する第一の気相成長工程と、
発光層部の形成後に実施される、電流拡散層を形成するためのハイドライド気相成長法による第二の気相成長工程と、
電流拡散層に、該電流拡散層とは導電型の異なるIII−V族化合物半導体よりなる電流阻止層を埋設形成する電流阻止層形成工程とを含み、
電流拡散層の、電極側において該電流阻止層を覆う部分を少なくとも、ハイドライド気相成長法により形成することを特徴とする。
【0036】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面を参照して説明する。
図1は、本発明の適用対象となる発光素子100を示す概念図である。発光素子100は、n型GaAs単結晶基板(以下、単に基板という)1の第一主表面上に素子本体部が形成されている。この基板1の第一主表面MP1と接するようにn型GaAsバッファ層2が形成され、該バッファ層2上に発光層部24が形成される。そして、その発光層部24の上に電流拡散層7が形成され、その電流拡散層7の上に、発光層部24に発光駆動電圧を印加するための第一電極9が形成されている。また、基板1の第二主表面MP2側には、同じく第二電極20が全面に形成されている。第一電極9は、第一主表面PFの略中央に形成され、該第一電極9の周囲の領域が発光層部24からの光取出領域とされている。また、第一電極9の中央部に電極ワイヤ17を接合するためのAu等にて構成されたボンディングパッド16が配置されている。
【0037】
発光層部24は、ノンドープ(AlxGa1−x)yIn1−yP(ただし、0≦x≦0.55,0.45≦y≦0.55)混晶からなる活性層5を、p型(AlzGa1−z)yIn1−yP(ただし、x<z≦1)からなるp型クラッド層6とn型(AlxGa1−x)yIn1−yPからなるn型クラッド層4とにより挟んだ構造を有する。図1の発光素子100では、第一電極9側にp型AlGaInPクラッド層6が配置されており、第二電極層20側にn型AlGaInPクラッド層4が配置されている。従って、通電極性は第一電極9側が正である。なお、ここでいう「ノンドープ」とは、「ドーパントの積極添加を行なわない」との意味であり、通常の製造工程上、不可避的に混入するドーパント成分の含有(例えば1013〜1016/cm3程度を上限とする)をも排除するものではない。
【0038】
電流拡散層7は、ドーパントをZnとしたp型GaP層として形成されている。また、電流拡散層7中のH(水素)及びZnの含有濃度は、それぞれp型クラッド層6のH及びZnの含有濃度よりも小さくされてなる。さらに、電流拡散層7には、第一電極9に対応する位置に、n型AldGa1−dP(例えばd=0.2)よりなる電流阻止層10が埋設形成されている。電流拡散層7の形成厚さt1は、例えば5μm以上20μm以下(一例として、10μm)である。また、電流阻止層10の厚さは0.05μm以上1μm以下(例えば0.1μm)である。
【0039】
電流拡散層7の第一電極9を形成する側の主表面を含む表層部には、Zn含有濃度が電流拡散層7内の残余の部分よりも高くされた、高濃度ドーピング層8が形成されている。電流拡散層7のZnのキャリア濃度は、高濃度ドーピング層8において2×1018/cm3以上5×1019/cm3以下(例えば、1×1019/cm3)であり、高濃度ドーピング層8以外の部分において1×1017/cm3以上2×1018/cm3以下(例えば、8×1017/cm3)とされている。
【0040】
高濃度ドーピング層8の厚さt2は1μm以上4μm以下(例えば3μm)である。高濃度ドーピング層8の厚さt2は、ドーパントが最も高濃度となる電流拡散層表層部のp型ドーパント含有濃度(本実施形態ではZn含有濃度)をNmaxとし、他方、電流拡散層7の拡散の影響を受けていない部分でのp型ドーパント含有濃度をNminとしたとき、層厚方向において略(Nmax+Nmin)/2となる位置を、高濃度ドーピング層8と残余の部分との境界位置として定めることにより特定される。なお、各層中のドーパント含有濃度及びH濃度は、二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometry:SIMS)により測定されたものをいう。また、キャリア濃度は周知の導電率測定により特定可能である。
【0041】
電流拡散層7のうち、p型クラッド層6と電流阻止層10との間に位置する部分は、MOVPE法により形成された第一層7aである。また、電流阻止層10(及び第四層11)に関して第一層7aの反対側には、該第一層7aとともに電流阻止層10をくるむように覆う形で、電流拡散層7の要部をなす第三層7bが形成されている。この第三層7bは、後述するHVPE法により形成されたものであり、第一電極9側の表層部がZnの追加拡散により前述の高濃度ドーピング層8とされている。
【0042】
電流拡散層7中のH濃度は、HVPE法の採用により、MOVPE法によるp型クラッド層6のH濃度(通常、15×1017/cm3程度)よりも小さく設定できる。本実施形態では、電流拡散層7のうち第一層7aだけはMOVPE法により形成され、この部分のH濃度は多少高くなる。しかし、第三層7bのH濃度は7×1017/cm3以下であり、通常、2×1017以下である。第一層7aの厚さは第三層7bの厚さよりもはるかに小さいので、いずれにしても、電流拡散層7中のH濃度はp型クラッド層6よりも十分に低い値となる。そして、電流拡散層7の要部をなす第三層7bのうち、高濃度ドーピング層8を除いた部分は、Znの含有濃度をp型クラッド層のZnの含有濃度より低く設定しても、Hとの結合により不活性化するZnの量が少ないので、十分な導電性を確保することができる。その結果、素子ライフの向上を図ることができる。
【0043】
また、電流拡散層7は、面内方向の電流拡散が主に高濃度ドーピング層8にて進む。そして、高濃度ドーピング層8以外の内層部分は、ドーパントのキャリア濃度が低く面内方向の抵抗率が高いので、電流は該内層部分に入ると面内方向への再拡散が生じにくく、電極9の外側領域に迂回しつつ流れやすくなる。その結果、光取出し効率が向上する。
【0044】
なお、本実施形態では、第一層7aと第三層7bとを同じ化合物半導体(具体的にはGaP)により形成しているが、互いに異なる化合物半導体にて形成することもできる(例えば、第一層7aをGaAs1−aPaとし、第三層7bをGaPとする)。また、第一層7aと第三層7bとはいずれもp型ドーパントが添加される。p型ドーパントとして本実施形態のように両層7a,7bともZnを採用することもできるが、MOVPEにて形成される第一層7aのドーパントは、p型クラッド層6側への拡散を生じにくいMg及び/又はC(炭素)とし、HVPEにて形成される第三層7bのドーパントをZnとしてもよい。
【0045】
以下、図1の発光素子100の製造方法について説明する。
まず、図2の工程▲1▼に示すように、GaAs単結晶基板1を用意する。そして、工程▲2▼に示すように、その基板1の第一主表面MP1に、n型GaAsバッファ層2を例えば0.5μm、次いで、発光層部24として、各々(AlxGa1−x)yIn1−yPよりなる、1μmのn型クラッド層4(n型ドーパントはSi)、0.6μmの活性層(ノンドープ)5、及び1μmのp型クラッド層6(p型ドーパントはMg:有機金属分子からのCもp型ドーパントとして寄与しうる)を、この順序にてエピタキシャル成長させる(第一の気相成長工程)。これら各層のエピタキシャル成長は、公知のMOVPE法により行なわれる。Al、Ga、In(インジウム)、P(リン)の各成分源となる原料ガスとしては以下のようなものを使用できる;
・Al源ガス;トリメチルアルミニウム(TMAl)、トリエチルアルミニウム(TEAl)など;
・Ga源ガス;トリメチルガリウム(TMGa)、トリエチルガリウム(TEGa)など;
・In源ガス;トリメチルインジウム(TMIn)、トリエチルインジウム(TEIn)など。
・P源ガス:トリメチルリン(TMP)、トリエチルリン(TEP)、ホスフィン(PH3)など。
【0046】
次に、図3の工程▲3▼では、上記第一の気相成長工程の反応容器内にて引き続き、すでに形成された発光層部24の上に、p型GaPからなる第一層7a(MO層部である)と、電流阻止層をなすn型AldGa1−dP(例えばd=0.2)からなる第二層10’とをMOVPE法により順次形成する。次に、第二層10’の、電流阻止層10として残す部分の表面を、フォトレジスト層30にて覆う。そして、工程▲4▼に進み、塩酸からなる第一のエッチング液によりエッチングすると、第二層10’の、フォトレジスト層30にて覆われなかった部分が選択的にエッチングされる。エッチングが終了したら、洗浄後、フォトレジスト層30を除去する。
【0047】
図4の工程▲5▼に進み、p型GaPよりなる第三層7b(HVPE層部である)を、HVPE法により、電流阻止層10をくるむように成長させる(第二の気相成長工程)。HVPE法は、具体的には、容器内にてIII族元素であるGaを所定の温度に加熱保持しながら、そのGa上に塩化水素を導入することにより、下記(1)式の反応によりGaClを生成させ、キャリアガスであるH2ガスとともに基板上に供給する。
Ga(液体)+HCl(気体) → GaCl(気体)+1/2H2‥‥(1)
GaPの場合、成長温度は例えば630℃以上860℃以下に設定する。また、V族元素であるPは、PH3をキャリアガスであるH2とともに基板上に供給する。さらに、p型ドーパントであるZnは、DMZn(ジメチル亜鉛)等の形で供給する。GaClはPH3との反応性に優れ、下記(2)式の反応により、Gaとの間で効率よく、電流拡散層7の要部をなす第三層7bを成長させることができる:
GaCl(気体)+PH3(気体)
→GaP(固体)+HCl(気体)+H2(気体)‥‥(2)
このように電流拡散層7の要部をなす第三層7bをHVPE法により形成することで、電流拡散層7の第一主表面PFに、電流阻止層10の形状がパターンダレした大きな段差や欠陥が発生することを効果的に抑制することでき、電流拡散層7の第一主表面PFの平滑性を高めることができる。
【0048】
なお、基板1は、<100>方向を基準方向として、該基準方向に対するオフアングルが1゜以上25゜以下の主軸Aを有するものとすることができる(主軸Aは、<111>方向を基準として同様のオフアングルを有するものであってもよい)。特に、オフアングルが10°以上20°以下(望ましくは13°以上17°以下)の主軸を有するGaAs単結晶基板を用いると、電流拡散層7の表面への振幅の大きな突起状の結晶欠陥の形成抑制に効果があり、また、平滑な表面状態を得るための、HVPE法による電流拡散層7の適正な成長温度を、640℃以上750℃以下(より望ましくは680℃以上720℃以下)に下げることができ、p型クラッド層6及びn型クラッド層4から活性層5へのドーパント拡散、ひいては発光層部24のドーパントプロファイルの拡散劣化を抑制することができる。
【0049】
第三層7bの成長が終了したら工程▲6▼に進み、別の容器に移し替えて、例えば650〜750℃(例えば700℃)で加熱しながらV族元素化合物(Zn3As2、Zn3P2など)の蒸気を流通させ、真空拡散を行なう。すると、Zn成分が第三層7bの電極形成側部分に追加拡散され、高濃度ドーピング層8が形成される。拡散時間は、高濃度ドーピング層8の形成厚さt2をどの程度にするかに応じて調整される。なお、p型クラッド層6に使用するp型ドーパントは、拡散係数が比較的小さいMg及び/又はCを使用することにより、HVPE法により電流拡散層7を形成する際に、その成長温度での加熱によるp型クラッド層6から活性層5へのp型ドーパントの拡散を抑制することができ、発光強度の向上に寄与する。
【0050】
以上の工程が終了すれば、真空蒸着法により第一電極9及び第二電極20を形成し、さらに第一電極9上にボンディングパッド16を配置して、適当な温度で電極定着用のベーキングを施す。そして、第二電極20をAgペースト等の導電性ペーストを用いて支持体を兼ねた図示しない端子電極に固着する一方、ボンディングパッド16と別の端子電極とにまたがる形態でAu製のワイヤ17をボンディングし、さらに樹脂モールドを形成することにより、発光素子100が得られる。なお、ワイヤ17のボンディングは、カメラにより素子の第一表面を画像撮影し、周知の画像処理方法によりボンディングパッド16領域を識別して、自動ボンディング装置にて行なう。このとき、ボンディングパッド16が配置される電流拡散層7の表面が平滑なので、ボンディングパッド16領域を誤検出する不具合も生じにくい。
【0051】
以下、発光素子100の種々の変形例について説明する(図1の発光素子100と同一構成部分には同一の符号を付与して詳細は省略し、相違点のみ説明する)。図5の発光素子200は、電流阻止層10を、電流拡散層7をなす第一層7a及び第三層7bと同じGaAsP(ただし、導電型はn型)にて構成した例である。この場合は、図3の工程が、図6のように変更される。すなわち、工程▲7▼に示すように、GaPからなる第四層11’をエッチストップ層として形成し、工程▲8▼に示すように、電流阻止層10となるGaAs1−aPa(0.5≦a≦0.9)からなる第二層10’を、例えば硫酸−過酸化水素水混合液を用いて選択エッチングする。さらに工程▲9▼においては、電流阻止層10の周囲に露出している第四層11’をエッチング除去する。電流阻止層10の下側の第四層11は残留する。以降の工程は、図4と同じである。
【0052】
HVPE法によるGaAs1−aPa層(第三層7b)の形成は、前記(2)式においてPH3とともにAsH3が併用され、成長温度が770〜830℃とやや低めに設定される。
【0053】
そして、Znを気相拡散させて高濃度ドーピング層8を形成する際に、電流拡散層がGaAs1−aPaにて形成されていると、GaPと比較して、同じ温度におけるZnの拡散速度が大幅に向上する。例えば、650〜750℃程度の処理温度を採用する場合は、GaPの場合の拡散時間を30〜60%も短縮することができる。また、GaAs1−aPaは、上記のようにHVPE法により成長する際の成長温度がMOVPE法に比べて低い。従って、発光層部側に、p型のGaAs1−aPaからなる電流拡散層をHVPE法により成長する際に、そのp型ドーパント(例えばZn)が発光層部側に過度に拡散したり、あるいは発光層24に含まれるp型クラッド層6内のp型ドーパントが活性層5内に拡散したりして、発光性能を低下させたりする不具合が、より生じにくい。
【0054】
なお、図7の発光素子300のように、第四層11の厚さが1nm以上50nm以下の小さな値とされていれば、電流阻止層(第二層)10の外側に露出している第四層11’をエッチングせずに第三層7bを形成することができる。この場合、電流阻止層10の外側においても、第一層7aと第三層7bとの間には第四層11’が介在形成された構造となる。第四層11’を上記のように極薄く形成することで、バンド不連続等の影響も小さくなり、発光層部24への通電も支障なく行なうことができる。当然、第四層11’のエッチングを省略できるので、工程も簡便である。
【0055】
以上のすべての実施形態においては、活性層5は上記実施形態では単一層として形成していたが、これを、バンドギャップエネルギーの異なる複数の化合物半導体層が積層されたもの、具体的には、量子井戸構造を有するものとして構成することもできる。量子井戸構造を有する活性層は、混晶比の調整によりバンドギャップが互いに相違する2層、すなわちバンドギャップエネルギーの小さい井戸層と大きい障壁層とを、各々電子の平均自由工程もしくはそれ以下の厚さ(一般に、1原子層〜数nm)となるように格子整合させる形で積層したものである。上記構造では、井戸層の電子(あるいはホール)のエネルギーが量子化されるため、例えば半導体レーザー等に適用した場合に、発振波長をエネルギー井戸層の幅や深さにより自由に調整でき、また、発振波長の安定化、発光効率の向上、さらには発振しきい電流密度の低減などに効果がある。さらに、井戸層と障壁層とは厚さが非常に小さいため、2〜3%程度までであれば格子定数のずれが許容され、発振波長領域の拡大も容易である。なお、量子井戸構造は、井戸層を複数有する多重量子井戸構造としてもよいし、井戸層を1層のみ有する単一量子井戸構造としてもいずれでもよい。なお、障壁層の厚さは、例えばクラッド層と接するもののみ50nm程度とし、他は6nm程度とすることができる。また、井戸層は5nm程度とすることができる。
【0056】
また、基板1の上に発光層24を、バッファ層2を介して直接形成していたが、基板1と発光層24との間に、光取出し効率を向上させるために反射層を介挿してもよい。反射層としては、例えば、特開平7−66455号公報に開示されているような、屈折率の相違する半導体膜を複数積層したものを利用することができる。
【0057】
また、図9の発光素子400は、図1の発光素子100のGaAs単結晶基板1をエッチング等により除去し、代わって反射用の金属層102(例えばAu層あるいはAg層である)を介して、導電性基板であるSi基板(Al等の金属板でもよい)を貼り合わせたものである。金属層102と発光層部24との間には、両者の接合抵抗を低減するためのコンタクト層102c(本実施形態ではn型層4と接するAuBe層とされているが、p型層と接する場合はAuGeNi層を使用できる)が分散形成されている。コンタクト層102cの非形成利領域では、金属層102による反射効果が特に高い。また、図10の発光素子500は、図1の発光素子100のGaAs単結晶基板1をエッチング等により除去し、代わって透明導電性基板であるGaP基板103(本実施形態ではn型)を貼り合わせたものである。GaP基板103の側面103Sからの光取出が可能である。本実施形態では、GaP基板103の裏面にコンタクト層120cが分散形成され、該コンタクト層120cの非形成領域とともに、発光層部24に発光駆動電圧を印加するための電極120(例えばAu電極)により覆われている(電極120に換えてAgペースト層を形成してもよい)。図9及び図10のいずれの発光素子400,500においても、電流拡散層7はGaAsPにて構成することもできる。
【0058】
図11の発光素子600は、素子基板を兼用した厚膜のGaP(GaAsPでもよい)からなる電流拡散層90を、発光層部24(n型クラッド層4、活性層5及びp型クラッド層6の積層順は、図1と逆である)の裏面側に成長させた例を示すものである。ここでは、電流拡散層90を、HVPE法によるp型GaPのエピタキシャル成長層としており、その厚さtbは50μm以上200μm以下(例えば100μm)である。GaPは発光層部24からの発光光束に対して透明であり、その側面90sからも光取出が可能となる。本実施形態においては、発光層部24の該光取出面側(n型クラッド層4側)に透光性を有するコンタクト用導電層91が設けられ、電極9及びボンディングパッド16が該コンタクト用導電層91上に設けられている。このコンタクト用導電層91は、例えばGaP、GaAsP、AlGaAs、AlGaInPなどで構成できるが、導電性酸化物で構成してもよい。
【0059】
図11の発光素子600を製造する場合、図2の工程▲2▼を実施した後、発光層部24のGaAs基板1と反対側(p型クラッド層6側)の主表面上に、HVPE法により電流拡散層90を直接厚膜成長させる。その後、GaAs基板1を除去し、その除去された側(n型クラッド層4側)の発光層部24の主表面に、コンタクト用導電層91を、HVPE法によりエピタキシャル成長することができる(例えば、コンタクト用導電層91をGaP、GaAsPで構成する場合)。他方、コンタクト用導電層91をAlGaAsあるいはAlGaInP等で構成する場合のように、GaAs基板1上にコンタクト用導電層91をMOVPE法で成長しておき、さらに発光層部24を成長した後、GaAs基板1を除去するようにしてもよい。なお、AlGaInPにてコンタクト用導電層91を形成する場合、発光層部側のクラッド層(図11ではn型クラッド層4)をなすAlGaInPと同じ混晶比としてもよいし、異なる混晶比としてもよい。同じ混晶比とする場合、クラッド層よりもドーパント濃度を高め、導電性を高めておくことが望ましい。また、異なる混晶比とする場合は、発光層部24の活性層5よりもバンドギャップが大きくなる混晶比を採用することが、透光性を高める観点において望ましい。
【0060】
なお、図10の発光素子500及び図11の発光素子600においては、GaP基板103ないし電流拡散層90の裏面には、コンタクト層120c(図10では、n型GaP基板103と接するAuBe層であり、図11では、p型GaPからなる電流拡散層90と接するAuGeNi層である)が分散形成されている。本実施形態では、このコンタクト層120cが、コンタクト層120cの非形成利領域とともに、発光層部24に発光駆動電圧を印加するための電極120(例えばAu電極)により覆われている(電極120に換えてAgペースト層を形成してもよい)。これにより、コンタクト層120cの非形成利領域では、電極120による反射効果を高めることができる。
【0061】
以下、本発明の効果を確認するために行なった実験結果について説明する。
上記した製造方法に従い、図1における第一電極9、ボンディングパッド16および電極ワイヤ17を除いた形の発光素子の製造を行なった。また、電流拡散層7の形成厚さを10μm、電流阻止層10の厚さを0.1μmとした。また、比較のため、電流拡散層7の全体をMOVPE法により形成した発光素子も製造した。
【0062】
上記発光素子の第一主表面PFにおける、電流阻止層が形成された直上近傍の表面の状態を、該表面に対し垂直方向から光学顕微鏡にて観察することにより評価した。その結果を図8に示す。図8(a)が実施例、図8(b)が比較例の観察結果である。倍率は、いずれも200倍であり、特に、パターンダレした領域は、明度が小さく観察される。
【0063】
図8(b)の比較例においては、電流阻止層エッジに対応した領域(図の点線で囲ったA領域)に、パターンダレによる大きな段差に基づく強いコントラストが観測される。また、その段差領域には、多数の結晶欠陥パターンも見られる。一方、図8(a)に示す実施例でも、電流阻止層エッジに対応したA領域のコントラストは小さく、段差の程度は小さい。また、結晶欠陥パターンもほとんどみられない。すなわち、電流拡散層をHVPE法にて形成した場合、電流阻止層エッジに対応した表面領域が、MOVPE法で形成したものに比べて格段に平滑であり、結晶欠陥も少ないことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の発光素子の一例を積層構造にて示す模式図。
【図2】図1の発光素子の製造工程を示す説明図。
【図3】図2に続く説明図。
【図4】図3に続く説明図。
【図5】図1の発光素子の、第一の変形例を示す図。
【図6】図5の発光素子の製造工程の、図3の工程との相違点を抜き出して示す説明図。
【図7】図1の発光素子の、第二の変形例を示す図。
【図8】電流阻止層エッジ付近の電流拡散層表面形態を、HVPE法とMOVPE法とで比較して示す外観写真。
【図9】図1の発光素子の、第三の変形例を示す図。
【図10】図1の発光素子の、第四の変形例を示す図。
【図11】図1の発光素子の、第五の変形例を示す図。
【符号の説明】
1 単結晶基板
4 n型クラッド層(第二導電型クラッド層)
5 活性層
6 p型クラッド層(第一導電型クラッド層)
7 電流拡散層
7a 第一層
7b 第三層
8 高濃度ドーピング層
9 第一電極
10 電流阻止層
10’ 第二層
11 第四層
24 発光層部
100,200,300,400,500,600 発光素子
Claims (8)
- 単結晶基板上に、それぞれIII−V族化合物半導体からなる発光層部と電流拡散層とを形成し、前記発光層部に発光駆動電圧を印加するための電極を形成する発光素子の製造方法において、
前記単結晶基板上に、前記発光層部を有機金属気相成長法により形成する第一の気相成長工程と、
前記発光層部の形成後に実施される、前記電流拡散層を形成するためのハイドライド気相成長法による第二の気相成長工程と、
前記電流拡散層に、該電流拡散層とは導電型の異なるIII−V族化合物半導体よりなる電流阻止層を埋設形成する電流阻止層形成工程とを含み、
前記電流拡散層の、前記電極側において該電流阻止層を覆う部分を少なくとも、前記ハイドライド気相成長法により形成することを特徴とする発光素子の製造方法。 - 前記電流阻止層をAlを含有しないIII−V族化合物半導体により形成する請求項1記載の発光素子の製造方法。
- 前記電流阻止層形成工程は、
前記発光層部の上に、前記電流拡散層の一部をなす第一導電型のIII−V族化合物半導体よりなる第一層と、前記電流阻止層をなす第二の導電型のIII−V族化合物半導体よりなる第二層とを有機金属気相成長法により順次形成する第三の気相成長工程と、
得られた第二導電型の化合物半導体層を、前記電流阻止層となるべき部分を残して残余の部分をエッチング除去するエッチング工程とを有し、
前記第二の気相成長工程は、前記第一層と同一導電型のIII−V族化合物半導体からなる第三層を、前記第二層のエッチング後の前記残余部分をくるむように前記ハイドライド気相成長法により形成するものである請求項1又は請求項2に記載の発光素子の製造方法。 - 前記第一層及び前記第二層を、いずれもAlを含有しないIII−V族化合物半導体により形成する請求項3記載の発光素子の製造方法。
- 前記第一層、前記第二層及び前記第三層をいずれもGaAs1−aPa(0≦a≦1)により形成する請求項4記載の発光素子の製造方法。
- 前記第一層と前記第二層との間に、両層のいずれとも材質の異なるIII−V族化合物半導体からなる第四層を介挿形成し、
前記エッチング工程において、前記第四層をエッチストップ層として前記第二層を化学的に選択エッチングする請求項5記載の発光素子の製造方法。 - 前記第四層の厚みを1nm以上100nm以下に調整する請求項6記載の発光素子の製造方法。
- 前記発光層部は、(AlxGa1−x)yIn1−yP(ただし、0≦x≦1,0≦y≦1)にて構成される第一導電型クラッド層、活性層及び第二導電型クラッド層が前記電極側からこの順序にて積層されたダブルへテロ構造を有する請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の発光素子の製造方法。
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