JP2004044745A - 回転軸シール - Google Patents
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Abstract
【課題】従来より長寿命化された回転軸シールを提供する。
【解決手段】回転軸とハウジングとの間に装着され、第一シールエレメントおよび第二シールエレメントの各摺接部を回転軸の周方向に摺接させて流体を密封するための回転軸シールであって、上記装着された状態において第一シールエレメントよりも上記流体から離反した側に配置される第二シールエレメントが、ポリテトラフルオロエチレンに耐熱性樹脂粉末を配合した組成物を成形したものであることを特徴とする回転軸シール。
【選択図】 図1
【解決手段】回転軸とハウジングとの間に装着され、第一シールエレメントおよび第二シールエレメントの各摺接部を回転軸の周方向に摺接させて流体を密封するための回転軸シールであって、上記装着された状態において第一シールエレメントよりも上記流体から離反した側に配置される第二シールエレメントが、ポリテトラフルオロエチレンに耐熱性樹脂粉末を配合した組成物を成形したものであることを特徴とする回転軸シール。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、回転軸とハウジングとの間に装着されて流体を密封するための回転軸シールに関し、特には、回転数が15000rpm〜20000rpmといった高速で回転する回転軸のシールに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、回転軸とハウジングとの間に装着され、流体(気体、液体)を密封するための回転軸シールが使用されてきている。回転軸シールとしては、その使用条件や用途などに応じて様々な構造のものがあるが、たとえば、円環状の金属製のケース内に、二種類の樹脂製のシールエレメント(第一シールエレメント、第二シールエレメント)がカシメなどによって固定された構造の回転軸シールが知られている。このような回転軸シールは、第一シールエレメントを密封流体側に、第二シールエレメントを空気側に配置させ、第一および第二シールエレメントの各摺接部をそれぞれ周方向に沿って回転軸に押圧力が作用するように摺接させた状態で、ハウジングと回転軸との間に装着される。
【0003】
回転軸シールは、上記のように装着された状態で、密封流体側に配置される第一シールエレメントの摺接部によって回転軸との接面からの流体の漏れを防止するとともに、その外周側においてハウジングに押圧力が作用するように当接するアウターケースによってハウジングとの接面からの流体の漏れを防止する。また空気側に配置される第二シールエレメントの摺接部によって、空気側の圧力状態などの第一シールエレメントへの影響を低減し、また、空気側から密封流体側への急激な吹き抜け(空気漏れ)を阻止する役割を果たす。
【0004】
このような回転軸シールにおいて、第一および第二シールエレメントを形成する材料としては、耐熱性が高くかつ摩擦抵抗が小さいものであることが望まれる。この観点から、第一および第二シールエレメントとしては、ポリテトラフルオロエチレンに各種充填剤(ガラスファイバーやカーボングラファイトなど)を配合してなる組成物を成形したものが汎用されているが、摩耗係数、動摩擦係数、動摩擦係数安定性などの点において更なる改善が望まれており、特に、空気側に配置される第二シールエレメントの劣化が早く、シール寿命が短いという問題がある。これは、空気側に配置される第二シールエレメントは、密封流体に接触しないため潤滑性に乏しいドライな環境で回転軸に摺接することから、摩耗しやすく、またクリープを起こしやすいことに因るものと考えられる。
【0005】
また近年、高速回転軸を用いる圧縮機などでは、その能力をより高めるため、回転軸の回転速度がさらに高速化しており(回転数:15000rpm〜20000rpm程度、周速:30m/sec〜40m/sec程度)、その条件に対応し得る回転軸シールの開発が進められている。このような高速回転軸に適用される回転軸シールでは、高速で回転する回転軸に摺接されることによるシールエレメントおよびシールアッシーの発熱が多いことに加え、上述した第二シールエレメントの劣化が特に顕著な問題となる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、従来より長寿命化された回転軸シールを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は以下のとおりである。
(1)回転軸とハウジングとの間に装着され、第一シールエレメントおよび第二シールエレメントの各摺接部を回転軸の周方向に摺接させて流体を密封するための回転軸シールであって、
上記装着された状態において第一シールエレメントよりも上記流体から離反した側に配置される第二シールエレメントが、ポリテトラフルオロエチレンに耐熱性樹脂粉末を配合した組成物を成形したものであることを特徴とする回転軸シール。
(2)上記装着された状態において第二シールエレメントの回転軸への摺接幅が第一シールエレメントの回転軸への摺接幅よりも小さくなるように形成されたものである上記(1)に記載の回転軸シール。
(3)耐熱性樹脂粉末が、芳香族ポリエステル樹脂粉末、ポリイミド樹脂粉末、ポリフェニレンサルファイド樹脂粉末、フェノール樹脂粉末、ポリエーテルエーテルケトン樹脂粉末、パーフルオロアルコキシ樹脂粉末及びポリベンゾイミダゾール樹脂粉末からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記(1)または(2)に記載の回転軸シール。
(4)耐熱性樹脂粉末が、芳香族ポリエステル樹脂粉末である上記(1)または(2)に記載の回転軸シール。
(5)回転数が15000rpm〜20000rpmの回転軸に使用されるものである、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の回転軸シール。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の好ましい一例の回転軸シール1を簡略化して示す、径方向における断面図である。本発明の回転軸シール1は、第一シールエレメント2と第二シールエレメント3とを基本的に備え、図1に示すように第一シールエレメント2および第二シールエレメント3の各摺接部2a,3aが回転軸Sの周方向に摺接されるようにハウジングHと回転軸Sとの間に装着されて、使用されるものである。回転軸シール1は、第二シールエレメント3が第一シールエレメント2よりも密封流体Rから離反した側に配置されて(第一シールエレメント2が密封流体R側に、第二シールエレメント3が空気A側に配置されて)、ハウジングHと回転軸Sとの間に装着されるものである。なお上記「摺接」とは、回転した状態の回転軸Sに、押圧力が作用するようにして圧接されることを指し、第一および第二シールエレメント2,3における各摺接部2a,3aは、図1のようにハウジングHと回転軸Sとの間に装着された状態で、それぞれ回転軸Sに摺接するように予め設計された端部を指す。
【0009】
本発明において重要なことは、上述したような構成で実現される回転軸シール1の第二シールエレメント3が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)に耐熱性樹脂粉末を配合した組成物を成形したものであることである。
上記組成物におけるPTFEは、PTFEに少量のパーフルオロアルキルビニルエーテルを共重合させた変性PTFE(テトラフルオロエチレンの含量が99.0モル%以上)も含まれる。かかる変性PTFEにおけるパーフルオロアルキルビニルエーテルとしては、パーフルオロメチル、パーフルオロエチル、パーフルオロプロピル、パーフルオロブチル、パーフルオロペンチル、パーフルオロヘキシルなどが挙げられる。
【0010】
また上記組成物において耐熱性樹脂粉末は、充填剤としてPTFEに配合される。ここで「耐熱性」とは、上記組成物を第二シールエレメントに成形する際、PTFE(融点:327℃)に溶融することなく充填剤としてその性状を保持し得る性質を意味する。
【0011】
上述したように第二シールエレメント3は、回転軸SとハウジングHとの間に装着された状態で、第一シールエレメント2よりも密封流体Rよりも離反した側に配置される。かかる第二シールエレメント3は、たとえば圧縮機用の回転軸シールなどのように空気A側に減圧や加圧が施される場合であってもその第一シールエレメント2への影響を低減し、また、空気A側から密封流体R側への吹き抜け(空気漏れ)を阻止する役割を果たす。
【0012】
本発明においては、PTFEに耐熱性樹脂粉末を配合した組成物を成形した第二シールエレメント3を用いることで、密封流体Rに接触しないため潤滑性に乏しいドライな環境で回転軸に摺接する第二シールエレメント3について、摩擦を小さくして耐摩耗性を向上させ、かつ無潤滑条件下での発熱を抑制することによって耐クリープ性を向上させたものである。かかる第二シールエレメント3を用いた回転軸シール1は、従来と比較して劣化しにくく、これにより長寿命化が達成される。
またさらに本発明における第二シールエレメント3では、PTFEにカーボングラファイトやガラス繊維などの硬質の充填剤を配合していた従来と比較して、相手面(回転軸表面)への攻撃を抑制することもでき、回転軸Sに傷を付けにくくした回転軸シール1を実現できるという効果も有する。
【0013】
このような本発明の回転軸シールは、ハウジングと回転軸との間に装着されて密封流体を密封するように使用されるならば、その用途に特に制限はないが、従来、長寿命な回転軸シールの実現が困難であった高速回転軸(回転数:15000rpm〜20000rpm程度、周速:30m/sec〜40m/sec程度)を用いた圧縮機などにおける回転軸シールとして、特に好適に使用することができる。本発明によれば、上記高速回転軸に適用しても、第二シールエレメント3の寿命が、1140(時間)〜2280(時間)程度というような、従来よりも格段に長い寿命の回転軸シール1を実現することができる(従来の第二シールエレメントの高速回転軸適用時の寿命:500(時間)〜1000(時間)程度)。
【0014】
本発明において、耐熱性樹脂粉末としては、例えば、芳香族ポリエステル樹脂粉末、ポリイミド樹脂粉末、ポリフェニレンサルファイド樹脂粉末、フェノール樹脂粉末、ポリエーテルエーテルケトン樹脂粉末、パーフルオロアルコキシ樹脂粉末及びポリベンゾイミダゾール樹脂粉末からなる群から選択される少なくとも1種の粉末が例示される。これらの中でも、特に摩耗摩擦特性の一つである無潤滑条件での動摩擦係数及び動摩擦係数の安定性等の点から、芳香族ポリエステル樹脂粉末、ポリイミド樹脂粉末、フェノール樹脂粉末が好ましく、特に好ましくは芳香族ポリエステル樹脂粉末である。
【0015】
また、上記芳香族ポリエステル樹脂粉末においては、耐熱性、耐摩耗性、耐圧縮クリープ特性、電気絶縁性、耐溶剤性及び自己潤滑性等の点から、パラヒドロキシ安息香酸のホモポリマーの粉末が好ましく、板状結晶を有するパラヒドロキシ安息香酸のホモポリマーの粉末が特に好ましい。また、上記ポリイミド樹脂の粉末においては、熱可塑性ポリイミド樹脂の粉末が好ましい。また、フェノール樹脂の粉末においては、硬度、強度、耐摩耗性、耐化学薬品性及び電気特性等の点から、球状の高純度炭素微粒子でフェノール・ホルムアルデヒド樹脂を炭素化したもので、本質的に等方性のガラス状カーボンであることが好ましい。
【0016】
本発明で使用される耐熱性樹脂粉末は、その粒径に特に制限はないが、シールエレメントの圧縮クリープ性及び摩擦摩耗特性の理由から、仕込み時において、平均粒径が10μm〜40μmのものを使用するのが好ましく、上記仕込み時の平均粒径が10μm未満であると、耐摩耗特性の改善効果が小さく、又、摩擦係数が大きくなってPTFE自体の摩耗量が多くなるといった傾向となり、また平均粒径が40μmを超えると、シールエレメントの伸び、引張特性といった機械的性質の低下があり、結果、クリープ特性が小さくなってしまうためである。
上記耐熱性樹脂粉末の平均粒径は、組成物の仕込み時において、沈降法(分散媒エタノール使用)もしくは電気抵抗法粒度分布測定により測定することができる。
【0017】
また、耐熱性樹脂粉末は、樹脂粉末の種類毎に、粒度特性等において以下に示すような好ましい態様がある。具体的には、芳香族ポリエステル樹脂粉末(板状結晶を有するパラヒドロキシ安息香酸のホモポリマーの粉末)においては、見掛比重(g/cc)が0.30〜0.40で、350メッシュ以下が80〜90%、170メッシュ以上が最大1%の平均粒径10〜20μmの粒度特性を有するものや、見掛比重(g/cc)が0.35〜0.45で、350メッシュ以下が65〜75%、170メッシュ以上が約5%、100メッシュ以上が最大1%の平均粒径20〜30μmの粒度特性を有するものが好適である。ポリイミド樹脂粉末(特に熱可塑性ポリイミド樹脂の粉末)においては、比重(g/cc)が1.33〜1.56で、全体の90体積%以上の粒子が10μm〜80μmの粒径範囲にある平均粒径25μm〜35μmの粉末が好適である。フェノール樹脂粉末においては、平均粒径が15〜20μmの球状微粒子が好ましく、その流動分散性が良好であることから、成形して得られるシールエレトの表面粗さが適切なものとなる。さらに、そのうちでも、かさ密度(g/cc)が0.3〜0.7、真比重が1.4〜1.6のものが好ましい。
ここで上記の見掛比重およびかさ密度は、JIS K 7112の規定に準拠して測定できる。
【0018】
本発明において、上記組成物における耐熱性樹脂粉末の配合量に特に制限はないが、無潤滑条件での耐摩擦摩耗特性の点から、上記組成物においてPTFE100重量部に対して3重量部〜60重量部配合されるのが好ましく、10重量部〜25重量部配合されるのがより好ましい。これは、上記耐熱性樹脂粉末の配合量がPTFE100重量部に対し3重量部未満であると、摩擦係数が小さくなりすぎ、相手材(回転軸材)の表面粗さに対して十分に追従しにくくなる傾向となり、またPTFE100重量部に対し60重量部を超えると、素材(組成物)自体の強度低下により、初期摩耗が大きくなる傾向なるためである。
【0019】
なお本発明において、第二シールエレメントを形成するための組成物には、必要に応じて上記耐熱性樹脂粉末以外の各種の添加剤を配合してもよい。このような添加剤としては、たとえばベンガラ、コバルトブルー、酸化チタンなどの顔料や、カーボン繊維、カーボン・グラファイト繊維等が挙げられる。
【0020】
上記組成物からの第二シールエレメントの形成方法は、特に制限されるものではなく、当分野において従来より広く行われている適宜の方法で行えばよい。たとえば、PTFE、耐熱性樹脂粉末および必要に応じて配合されるその他の添加剤をヘンシェルミキサなどで混合した混合物を、圧縮成形、焼結、切削などの工程を経て、所望の形状に加工することによって得られる。
第二シールエレメントは、その中央に円形孔を有する円板状物で実現され、回転軸シール1をハウジングHと回転軸Sとの間に装着した状態において、図1のようにその断面が略L字型に屈曲する形状となるように摺接部3aでもって回転軸Sに押圧されて使用される。
【0021】
図1に示した例の回転軸シール1は、具体的には、上記第一シールエレメント2、第二シールエレメント3に加え、円筒状周壁部の軸線方向両端より内部空間へ向かって突出する内鍔部12,13を有する金属製のアウターケース4と、断面L字状の円環状物である金属製の第一インナーケース5および第二インナーケース6と、円環状のガスケット7と、ガスケット7よりも小さな内径を有する円環状物である金属製のワッシャ8とをさらに有する。これらの構成部材を、アウターケース内の内鍔部12から内鍔部13へ向かって(図1のように回転軸SとハウジングHとの間に装着された状態では、密封流体R側から空気A側へ向かって)順に、第一インナーケース5、第一シールエレメント2、ガスケット7、ワッシャ8、第二インナーケース6、第二シールエレメント3を挟み、上記内鍔部12,13にてカシメることによってこれらの各部材を固定して、回転軸シール1が形成される。また、アウターケース4の周壁部の外周面には、図1のように装着された状態でハウジングHとの密着性を確保し得るゴム系材料にて形成されるシーラント層14が付設されてなる。
回転軸シール1は、第一シールエレメント2を密封流体R側に、第二シールエレメント3を空気A側に配置させ、それぞれ周方向に沿って内周側に突出する摺接部2a,3aを、回転軸Sに押圧力が作用するように摺接された状態で、ハウジングHと回転軸Sとの間に装着される。
【0022】
第一シールエレメント3を形成する材料に特に制限はないが、従来より当分野において使用されているように、PTFE単独、あるいはPTFEに無機繊維、固体潤滑剤、硬銅合金粉末などの充填剤を配合した組成物を好適に使用することができる。無機繊維としては、たとえば、ソーダガラス、無アルカリガラス、シリカガラスなどのガラス繊維、ロックウールなどのセラミック繊維、スチール、鉄、アルミニウム、ニッケル、銅などの金属の金属繊維、チタン酸カリウムなどのウィスカー、カーボン繊維、カーボングラファイト繊維などが例示される。固体潤滑剤としては、潤滑性を付与し得る公知の化合物、たとえば、石鹸、雲母、石鹸石、亜鉛華、モリブデン系化合物などが例示される。また硬銅合金粉末としては、たとえば、青銅、黄銅、燐青銅、洋白、鉛青銅などの各種の銅合金の粉末が例示される。
【0023】
また、耐摩耗性およびガスバリア性に特に優れた第一シールエレメントを実現し得る観点からは、本出願人が特願2002−19722号で提案している、PTFEに平均粒径10μm〜50μmのグラファイト粉末を10重量%〜25重量%、平均繊維長5μm〜60μmのカーボン繊維を1重量%〜10重量%配合してなる組成物を使用するのが好ましい。
【0024】
上記グラファイト粉末としては、人造または天然の鱗状黒鉛や鱗片状黒鉛、土状黒鉛など従来公知の種々のグラファイト粉末を特に制限なく使用できるが、品質が安定していることから人造の黒鉛がより好ましく、中でも得られた第一シールエレメントが潤滑性に優れることから人造の鱗状黒鉛が特に好ましい。
かかるグラファイト粉末は、平均粒径が10μm〜50μmであるのが好ましく、20μm〜30μmであるのがより好ましい。平均粒径が10μm未満のグラファイト粉末を用いると、得られた回転軸用シールにおいて、引張強さや伸びなど機械特性に劣ってしまい、結果的に優れた耐摩耗性が得られにくくなる傾向にあるためであり、また平均粒径が50μmを超えたグラファイト粉末を用いると、PTFEとの混合の際分散性が不良となってしまい、得られた回転軸用シールごとに特性がばらつく傾向にあるためである。
またグラファイト粉末は、上記組成物中において10重量%〜25重量%配合されるのが好ましく、10重量%〜20重量%配合されるのがより好ましい。グラファイト粉末が10重量%未満しか配合されないと、得られた回転軸用シールにおいて耐摩耗性が悪くなる傾向にあるためであり、またグラファイト粉末が25重量%を超えて配合されると、得られた回転軸用シールにおいて機械的特性、特に伸びが低下する傾向にあるためである。
【0025】
上記カーボン繊維としては、特に制限はなく、ピッチ系カーボン繊維、PAN系カーボン繊維、レーヨン系カーボン繊維など、従来公知の種々のカーボン繊維を使用することができるが、中でもピッチ系カーボン繊維、特には、黒鉛化したピッチ系カーボン繊維が好適である。ピッチ系カーボン繊維は、たとえば、不活性気体中で2000℃〜3000℃の熱処理を行うことで黒鉛化される。
かかるカーボン繊維は、平均繊維長が5μm〜60μmであるのが好ましく、5μm〜30μmであるのがより好ましい。平均繊維長が5μm未満のカーボン繊維を用いると、得られた回転軸用シールにおいて耐摩耗性が悪くなる傾向にあるためであり、また平均繊維長が60μmを超えたカーボン繊維を用いると、得られた回転軸用シールにおいてガスバリア性が悪くなる傾向にあるためである。また上記カーボン繊維は、アスペクト比(繊維径あたりの繊維長の平均)が0.5〜5であるのが好ましく、0.5〜3であるのがより好ましい。
またカーボン繊維は、上記組成物中において1重量%〜10重量%配合されるのが好ましく、2重量%〜5重量%配合されるのがより好ましい。カーボン繊維が1重量%未満しか配合されないと、得られた回転軸用シールにおいて耐摩耗性が低下する傾向にあるためであり、またカーボン繊維が10重量%を超えて配合されると、得られた回転軸用シールにおいて潤滑性が低下し、相手部材(回転軸)を摩耗させてしまうとともに、ガスが透過しやすくなってしまう傾向にあるためである。
【0026】
上述したような本出願人が特願平14−19722号で提案している組成物を用いて形成された第一シールエレメント2と、PTFEに耐熱性樹脂粉末を配合した組成物を成形してなる第二シールエレメント3を組み合わせて回転軸シール1を実現することで、第二シールエレメント3が摩耗、クリープに対して高い耐性を有することから長期にわたって空気側から密封流体側への空気漏れが十分に防止され、密封流体R側での油潤滑若しくは飛沫状態、及び、空気A側での加圧から負圧等の加圧変動が防止される。また、第一シールエレメント2への空気圧による影響が第二シールエレメント3によって十分に低減し、その結果、第一シールエレメントの長寿命化も図られ、かかる相乗効果により、回転軸シール1は優れたシール性能を長期間持続し得る。
【0027】
本発明の回転軸シール1は、上述のようにハウジングHと回転軸Sとの間に装着された状態で、第二シールエレメント3の回転軸Sへの摺接幅w2が第一シールエレメントの回転軸への摺接幅w1よりも小さくなるように形成されたものであることが好ましい。ここで「摺接幅」とは、回転軸SとハウジングHとの間に装着された状態で第一シールエレメント2,3の回転軸Sに摺接される部分である、摺接部2a,3aの軸線方向に沿った直線距離をいう。
このように第二シールエレメント3の回転軸Sへの摺接幅w2を第一シールエレメント1の回転軸Sへの摺接幅w1よりも小さくすることで、上述した効果に加え、上記摺接幅w2は上記摺接幅w1と同等あるいは大きい場合と比較して第二シールエレメント3における摺接部3aの摺接面の摩耗や発熱をさらに低減することができ、回転軸シール1をさらに長寿命化できる。また、第二シールエレメント3の軸緊迫力を第一シールエレメント2より低くすることができるので、空気A側から密封流体R側への微量な気体(空気)漏れを許容するため、漏れ気体により第一シールエレメント2を冷却(空冷)し、第一シールエレメント2の寿命を延ばすという効果もある。
【0028】
具体的には、第一シールエレメント2の摺接幅w1と第二シールエレメント3の摺接幅w2の差が0.7mm〜1.25mmの範囲内であるように設定されるのが好ましく、0.85mm〜1.1mmの範囲内であるように設定されるのがより好ましい。上記摺接幅の差が0.7mm未満であると、第二シールエレメント3の回転軸Sへの押圧力低減の効果が小さくなるか、あるいは第一シールエレメント2の回転軸Sの押圧力が大きくなり過ぎて発熱や摩耗の原因となり易くなる傾向にあるためである。また上記摺接幅の差が1.25mmより大きいと、第二シールエレメント3の摺接幅w2が小さ過ぎる場合には第二シールエレメント3の補助的なシールとしての機能が失われ易くなり、また第一シールエレメント2の摺接幅w1が大き過ぎる場合には発熱や摩耗の原因となり易くなる傾向にあるためである。
【0029】
また本発明の回転軸シール1においては、上記のように摺接幅w2を摺接幅w1よりも小さく選ぶことに加え、第二シールエレメント3の厚みd2を第一シールエレメント2の厚みd1よりも小さく選ぶのが好ましい。これによって、上述した第二シールエレメント3における摺接部3aの摺接面の摩耗や発熱の低減や第一シールエレメント2の冷却などの効果をさらに顕著なものとすることができる。
【0030】
具体的には、第一シールエレメント2の厚みd1を0.4mm〜1.2mm、かつ第二シールエレメント3の厚みd2を0.25mm〜0.90mmの範囲内に選択するのが好ましい。
第一シールエレメント2の厚みd1が0.4mm未満であると、後述するスクリュー溝の形成が困難となる傾向にあるためであり、また1.2mmを超えた厚みとすると、回転軸Sへの押圧力が大きくなり過ぎて発熱や摩耗の原因となり易くなる傾向にあるためである。また第二シールエレメント3の厚みd2が0.25mm未満であると、第二シールエレメント3の剛性が低くなり空気A側の圧力変動を吸収しにくくなる傾向にあるためであり、0.90mmを超えた厚みとすると、回転軸Sへの押圧力が大きくなり過ぎて発熱や摩耗の原因となり易くなる傾向にあるためである。
【0031】
また上記中でも、第一シールエレメント2の厚みd1を0.5mm〜0.8mm、かつ第二シールエレメント3の厚みd2を0.40mm〜0.70mmの範囲内に選択すると、空気A側で急激な圧力変動が発生しても、第一シールエレメント2は異常変形や揺動、異常摩擦を生ずる虞がない。
【0032】
第一シールエレメント2は、上述した第二シールエレメント3と同様に円形孔を有する円板状物で実現され、回転軸シール1をハウジングHと回転軸Sとの間に装着した状態において、図1のようにその断面が略L字型に屈曲する形状となるように摺接部2aでもって回転軸Sに押圧されて使用される。かかる第一シールエレメント2は、上記摺接部2aを含む円形孔周辺部の摺接面側に、スクリュー溝15が形成されてなるのが好ましい。スクリュー溝15は、第一シールエレメント2の軸線を中心とする螺旋状であってもよく、多重の同心円状であってもよい。
【0033】
このようなスクリュー溝15が形成されることで、回転軸Sの静止時には該回転軸Sからの密封流体Rの漏れを防止することができ、また回転軸Sの動作(回転)時には、該回転軸Sとの接面からの密封流体Rの漏れがわずかに発生するが、上記のスクリュー溝15に侵入した密封流体Rの粘性による連れ戻り作用により押し戻し方向の回転流が発生し、わずかに漏れ出た密封流体Rをも押し戻すハイドロダイナミック作用(ポンピング作用)を得ることができる。また上記ハイドロダイナミック作用は、第一シールエレメント2の回転軸への押圧による発熱や摩擦を低減させ得る潤滑作用をも有する。
【0034】
上記スクリュー溝15は、3条形成されるのが好ましい。これによってスクリュー溝が1条である場合と比較して、ハイドロダイナミック作用が増大され、第一シールエレメント2の摺接面の密封流体Rの循環を活発とさせて(大きくさせて)、発熱を低減させることができ、密封流体Rの劣化、ならびに第一シールエレメント2の摩耗を低減させることができる。また、劣化した密封流体Rのスクリュー溝15への侵入によるシール性能の低下の影響を受けにくく、高速回転、高温下での使用に適している。
【0035】
スクリュー溝15はその深さやピッチに特に制限はないが、その深さが0.2mm〜0.6mmであるのが好ましく、またピッチが0.1mm〜0.3mmであるのが好ましい。
スクリュー溝15の深さが0.2mm未満であると、ハイドロダイナミック作用の発生が不充分となる傾向にあるためであり、また0.6mmを超えると、スクリュー溝15への密封流体Rの侵入が多く、密封流体Rが漏れる原因となる傾向にあるためである。またスクリュー溝15のピッチが0.1mm未満である場合および0.3mmを超える場合には、ハイドロダイナミック作用による密封流体Rの流れが悪くなる傾向にあるためである。
【0036】
なお図1に示した態様の回転軸シール1において、アウターケース3、第一インナーケース5、第二インナーケース6およびワッシャ8の形成材料としては、合金や鋼などの金属材料であれば特に制限はない。なお上記発熱によるシールエレメントの劣化を抑制し得る観点からは、アウターケース3、第一インナーケース5、第二インナーケース6およびワッシャ8のうちの少なくともいずれかを、放熱作用の高いアルミニウム合金で形成することが好ましい。これにより上述した空気A側から密封流体R側への微量な気体(空気)漏れを許容による冷却作用を顕著に発揮させることができ、回転軸シール1における蓄熱を解消することができる。
【0037】
またガスケット7は、たとえば、フッ素ゴム、HNBR、EPDM、EPR、シリコーンゴム等の当分野で従来より広く使用されているゴム材料を適宜使用すればよい。またシーラント層14は、たとえばアクリルゴム、フッ素ゴムなどのゴム材料、ゴムと樹脂の混合材料等を加圧成形したり、溶剤にてペースト状にしたものを塗布、乾燥する方法などで形成することができる。
【0038】
【実施例】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
実施例1
PTFEを77重量%、板状結晶を有するパラヒドロキシ安息香酸のホモポリマーの粉末(エコノール(商品名)、住友化学工業社製、見掛比重(g/cc):0.35、350メッシュ以下:88%、170メッシュ以上:1%以下、平均粒径:15±5μm)を20重量%配合してなる組成物をヘンシェルミキサで攪拌混合し、金型で加圧成形した後、360℃の温度で焼成した後、切削加工によって径が5mm、長さが12mmの円柱ピン状の試料を作製した。
【0039】
実施例2
芳香族ポリエステル樹脂粉末の代わりにポリイミド樹脂粉末(見掛比重(g/cc):1.33、10μm〜80μmの粒径範囲にある粒子の占める割合が全体の90体積%、平均粒径:28μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして試料を作製した。
【0040】
実施例3
芳香族ポリエステル樹脂粉末の代わりにフェノール樹脂粉末(見掛比重(g/cc):0.3〜0.7、真比重:1.4〜1.5、平均粒径15μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして試料を作成した。
【0041】
比較例1
PTFEを80重量%、平均繊維長が10〜200μm(アスペクト比:20)のガラス繊維を20重量%配合してなる組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして試料を作製した。
【0042】
比較例2
PTFEを75重量%、平均粒径が34±5μmのカーボングラファイトを25重量%配合してなる組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして試料を作製した。
【0043】
〔評価試験〕
実施例1、比較例1、2で作製した各試料について、ピンオンディスク法によって下記条件にて摩耗試験を行い、(1)摩耗係数(cm3/min/kgf/m/h)、(2)動摩擦係数を測定した。
・使用機器:スラスト型摩擦摩耗試験機
・無潤滑条件
・圧力:6kgf/cm3
・速度:40m/min
・温度:100℃
・相手部材:ステンレス鋼SUS304製ディスク(表面粗さ:0.8μm/Rmax)
また、以下の項目についても評価した。
(3)動摩擦係数の安定性
○:短時間(10分程度)での摩擦係数の変動幅が0.05以下である。
△:短時間(10分程度)での摩擦係数の変動幅が0.05〜0.1である。
×:短時間(10分程度)での摩擦係数の変動幅が0.1以上である。
(4)相手部材の損傷度
72時間、摩耗試験を行い、試験前後での相手部材の表面粗さを触針式表面粗さ計を用い、JIS B 0651の規定に準拠して測定し、試験前後での相手部材の粗さの差から、相手部材の損傷度を測定した。なお上記表面粗さの測定と定義は、JIS B 0601の規定による。
○:試験前後で相手部材の粗さの差が0.03μm以下。
△:試験前後で相手部材の粗さの差が0.03〜0.06μm。
×:試験前後で相手部材の粗さの差が0.06μm以上。
(1)〜(4)の結果を、表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように、本発明によれば、第二シールエレメントの耐摩耗性および耐クリープ性が向上され、従来より長寿命化された回転軸シールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の好ましい一例の回転軸シール1を簡略化して示す、径方向における断面図である。
【符号の説明】
1 回転軸シール
2 第一シールエレメント
3 第二シールエレメント
【発明の属する技術分野】
本発明は、回転軸とハウジングとの間に装着されて流体を密封するための回転軸シールに関し、特には、回転数が15000rpm〜20000rpmといった高速で回転する回転軸のシールに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、回転軸とハウジングとの間に装着され、流体(気体、液体)を密封するための回転軸シールが使用されてきている。回転軸シールとしては、その使用条件や用途などに応じて様々な構造のものがあるが、たとえば、円環状の金属製のケース内に、二種類の樹脂製のシールエレメント(第一シールエレメント、第二シールエレメント)がカシメなどによって固定された構造の回転軸シールが知られている。このような回転軸シールは、第一シールエレメントを密封流体側に、第二シールエレメントを空気側に配置させ、第一および第二シールエレメントの各摺接部をそれぞれ周方向に沿って回転軸に押圧力が作用するように摺接させた状態で、ハウジングと回転軸との間に装着される。
【0003】
回転軸シールは、上記のように装着された状態で、密封流体側に配置される第一シールエレメントの摺接部によって回転軸との接面からの流体の漏れを防止するとともに、その外周側においてハウジングに押圧力が作用するように当接するアウターケースによってハウジングとの接面からの流体の漏れを防止する。また空気側に配置される第二シールエレメントの摺接部によって、空気側の圧力状態などの第一シールエレメントへの影響を低減し、また、空気側から密封流体側への急激な吹き抜け(空気漏れ)を阻止する役割を果たす。
【0004】
このような回転軸シールにおいて、第一および第二シールエレメントを形成する材料としては、耐熱性が高くかつ摩擦抵抗が小さいものであることが望まれる。この観点から、第一および第二シールエレメントとしては、ポリテトラフルオロエチレンに各種充填剤(ガラスファイバーやカーボングラファイトなど)を配合してなる組成物を成形したものが汎用されているが、摩耗係数、動摩擦係数、動摩擦係数安定性などの点において更なる改善が望まれており、特に、空気側に配置される第二シールエレメントの劣化が早く、シール寿命が短いという問題がある。これは、空気側に配置される第二シールエレメントは、密封流体に接触しないため潤滑性に乏しいドライな環境で回転軸に摺接することから、摩耗しやすく、またクリープを起こしやすいことに因るものと考えられる。
【0005】
また近年、高速回転軸を用いる圧縮機などでは、その能力をより高めるため、回転軸の回転速度がさらに高速化しており(回転数:15000rpm〜20000rpm程度、周速:30m/sec〜40m/sec程度)、その条件に対応し得る回転軸シールの開発が進められている。このような高速回転軸に適用される回転軸シールでは、高速で回転する回転軸に摺接されることによるシールエレメントおよびシールアッシーの発熱が多いことに加え、上述した第二シールエレメントの劣化が特に顕著な問題となる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、従来より長寿命化された回転軸シールを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は以下のとおりである。
(1)回転軸とハウジングとの間に装着され、第一シールエレメントおよび第二シールエレメントの各摺接部を回転軸の周方向に摺接させて流体を密封するための回転軸シールであって、
上記装着された状態において第一シールエレメントよりも上記流体から離反した側に配置される第二シールエレメントが、ポリテトラフルオロエチレンに耐熱性樹脂粉末を配合した組成物を成形したものであることを特徴とする回転軸シール。
(2)上記装着された状態において第二シールエレメントの回転軸への摺接幅が第一シールエレメントの回転軸への摺接幅よりも小さくなるように形成されたものである上記(1)に記載の回転軸シール。
(3)耐熱性樹脂粉末が、芳香族ポリエステル樹脂粉末、ポリイミド樹脂粉末、ポリフェニレンサルファイド樹脂粉末、フェノール樹脂粉末、ポリエーテルエーテルケトン樹脂粉末、パーフルオロアルコキシ樹脂粉末及びポリベンゾイミダゾール樹脂粉末からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記(1)または(2)に記載の回転軸シール。
(4)耐熱性樹脂粉末が、芳香族ポリエステル樹脂粉末である上記(1)または(2)に記載の回転軸シール。
(5)回転数が15000rpm〜20000rpmの回転軸に使用されるものである、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の回転軸シール。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の好ましい一例の回転軸シール1を簡略化して示す、径方向における断面図である。本発明の回転軸シール1は、第一シールエレメント2と第二シールエレメント3とを基本的に備え、図1に示すように第一シールエレメント2および第二シールエレメント3の各摺接部2a,3aが回転軸Sの周方向に摺接されるようにハウジングHと回転軸Sとの間に装着されて、使用されるものである。回転軸シール1は、第二シールエレメント3が第一シールエレメント2よりも密封流体Rから離反した側に配置されて(第一シールエレメント2が密封流体R側に、第二シールエレメント3が空気A側に配置されて)、ハウジングHと回転軸Sとの間に装着されるものである。なお上記「摺接」とは、回転した状態の回転軸Sに、押圧力が作用するようにして圧接されることを指し、第一および第二シールエレメント2,3における各摺接部2a,3aは、図1のようにハウジングHと回転軸Sとの間に装着された状態で、それぞれ回転軸Sに摺接するように予め設計された端部を指す。
【0009】
本発明において重要なことは、上述したような構成で実現される回転軸シール1の第二シールエレメント3が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)に耐熱性樹脂粉末を配合した組成物を成形したものであることである。
上記組成物におけるPTFEは、PTFEに少量のパーフルオロアルキルビニルエーテルを共重合させた変性PTFE(テトラフルオロエチレンの含量が99.0モル%以上)も含まれる。かかる変性PTFEにおけるパーフルオロアルキルビニルエーテルとしては、パーフルオロメチル、パーフルオロエチル、パーフルオロプロピル、パーフルオロブチル、パーフルオロペンチル、パーフルオロヘキシルなどが挙げられる。
【0010】
また上記組成物において耐熱性樹脂粉末は、充填剤としてPTFEに配合される。ここで「耐熱性」とは、上記組成物を第二シールエレメントに成形する際、PTFE(融点:327℃)に溶融することなく充填剤としてその性状を保持し得る性質を意味する。
【0011】
上述したように第二シールエレメント3は、回転軸SとハウジングHとの間に装着された状態で、第一シールエレメント2よりも密封流体Rよりも離反した側に配置される。かかる第二シールエレメント3は、たとえば圧縮機用の回転軸シールなどのように空気A側に減圧や加圧が施される場合であってもその第一シールエレメント2への影響を低減し、また、空気A側から密封流体R側への吹き抜け(空気漏れ)を阻止する役割を果たす。
【0012】
本発明においては、PTFEに耐熱性樹脂粉末を配合した組成物を成形した第二シールエレメント3を用いることで、密封流体Rに接触しないため潤滑性に乏しいドライな環境で回転軸に摺接する第二シールエレメント3について、摩擦を小さくして耐摩耗性を向上させ、かつ無潤滑条件下での発熱を抑制することによって耐クリープ性を向上させたものである。かかる第二シールエレメント3を用いた回転軸シール1は、従来と比較して劣化しにくく、これにより長寿命化が達成される。
またさらに本発明における第二シールエレメント3では、PTFEにカーボングラファイトやガラス繊維などの硬質の充填剤を配合していた従来と比較して、相手面(回転軸表面)への攻撃を抑制することもでき、回転軸Sに傷を付けにくくした回転軸シール1を実現できるという効果も有する。
【0013】
このような本発明の回転軸シールは、ハウジングと回転軸との間に装着されて密封流体を密封するように使用されるならば、その用途に特に制限はないが、従来、長寿命な回転軸シールの実現が困難であった高速回転軸(回転数:15000rpm〜20000rpm程度、周速:30m/sec〜40m/sec程度)を用いた圧縮機などにおける回転軸シールとして、特に好適に使用することができる。本発明によれば、上記高速回転軸に適用しても、第二シールエレメント3の寿命が、1140(時間)〜2280(時間)程度というような、従来よりも格段に長い寿命の回転軸シール1を実現することができる(従来の第二シールエレメントの高速回転軸適用時の寿命:500(時間)〜1000(時間)程度)。
【0014】
本発明において、耐熱性樹脂粉末としては、例えば、芳香族ポリエステル樹脂粉末、ポリイミド樹脂粉末、ポリフェニレンサルファイド樹脂粉末、フェノール樹脂粉末、ポリエーテルエーテルケトン樹脂粉末、パーフルオロアルコキシ樹脂粉末及びポリベンゾイミダゾール樹脂粉末からなる群から選択される少なくとも1種の粉末が例示される。これらの中でも、特に摩耗摩擦特性の一つである無潤滑条件での動摩擦係数及び動摩擦係数の安定性等の点から、芳香族ポリエステル樹脂粉末、ポリイミド樹脂粉末、フェノール樹脂粉末が好ましく、特に好ましくは芳香族ポリエステル樹脂粉末である。
【0015】
また、上記芳香族ポリエステル樹脂粉末においては、耐熱性、耐摩耗性、耐圧縮クリープ特性、電気絶縁性、耐溶剤性及び自己潤滑性等の点から、パラヒドロキシ安息香酸のホモポリマーの粉末が好ましく、板状結晶を有するパラヒドロキシ安息香酸のホモポリマーの粉末が特に好ましい。また、上記ポリイミド樹脂の粉末においては、熱可塑性ポリイミド樹脂の粉末が好ましい。また、フェノール樹脂の粉末においては、硬度、強度、耐摩耗性、耐化学薬品性及び電気特性等の点から、球状の高純度炭素微粒子でフェノール・ホルムアルデヒド樹脂を炭素化したもので、本質的に等方性のガラス状カーボンであることが好ましい。
【0016】
本発明で使用される耐熱性樹脂粉末は、その粒径に特に制限はないが、シールエレメントの圧縮クリープ性及び摩擦摩耗特性の理由から、仕込み時において、平均粒径が10μm〜40μmのものを使用するのが好ましく、上記仕込み時の平均粒径が10μm未満であると、耐摩耗特性の改善効果が小さく、又、摩擦係数が大きくなってPTFE自体の摩耗量が多くなるといった傾向となり、また平均粒径が40μmを超えると、シールエレメントの伸び、引張特性といった機械的性質の低下があり、結果、クリープ特性が小さくなってしまうためである。
上記耐熱性樹脂粉末の平均粒径は、組成物の仕込み時において、沈降法(分散媒エタノール使用)もしくは電気抵抗法粒度分布測定により測定することができる。
【0017】
また、耐熱性樹脂粉末は、樹脂粉末の種類毎に、粒度特性等において以下に示すような好ましい態様がある。具体的には、芳香族ポリエステル樹脂粉末(板状結晶を有するパラヒドロキシ安息香酸のホモポリマーの粉末)においては、見掛比重(g/cc)が0.30〜0.40で、350メッシュ以下が80〜90%、170メッシュ以上が最大1%の平均粒径10〜20μmの粒度特性を有するものや、見掛比重(g/cc)が0.35〜0.45で、350メッシュ以下が65〜75%、170メッシュ以上が約5%、100メッシュ以上が最大1%の平均粒径20〜30μmの粒度特性を有するものが好適である。ポリイミド樹脂粉末(特に熱可塑性ポリイミド樹脂の粉末)においては、比重(g/cc)が1.33〜1.56で、全体の90体積%以上の粒子が10μm〜80μmの粒径範囲にある平均粒径25μm〜35μmの粉末が好適である。フェノール樹脂粉末においては、平均粒径が15〜20μmの球状微粒子が好ましく、その流動分散性が良好であることから、成形して得られるシールエレトの表面粗さが適切なものとなる。さらに、そのうちでも、かさ密度(g/cc)が0.3〜0.7、真比重が1.4〜1.6のものが好ましい。
ここで上記の見掛比重およびかさ密度は、JIS K 7112の規定に準拠して測定できる。
【0018】
本発明において、上記組成物における耐熱性樹脂粉末の配合量に特に制限はないが、無潤滑条件での耐摩擦摩耗特性の点から、上記組成物においてPTFE100重量部に対して3重量部〜60重量部配合されるのが好ましく、10重量部〜25重量部配合されるのがより好ましい。これは、上記耐熱性樹脂粉末の配合量がPTFE100重量部に対し3重量部未満であると、摩擦係数が小さくなりすぎ、相手材(回転軸材)の表面粗さに対して十分に追従しにくくなる傾向となり、またPTFE100重量部に対し60重量部を超えると、素材(組成物)自体の強度低下により、初期摩耗が大きくなる傾向なるためである。
【0019】
なお本発明において、第二シールエレメントを形成するための組成物には、必要に応じて上記耐熱性樹脂粉末以外の各種の添加剤を配合してもよい。このような添加剤としては、たとえばベンガラ、コバルトブルー、酸化チタンなどの顔料や、カーボン繊維、カーボン・グラファイト繊維等が挙げられる。
【0020】
上記組成物からの第二シールエレメントの形成方法は、特に制限されるものではなく、当分野において従来より広く行われている適宜の方法で行えばよい。たとえば、PTFE、耐熱性樹脂粉末および必要に応じて配合されるその他の添加剤をヘンシェルミキサなどで混合した混合物を、圧縮成形、焼結、切削などの工程を経て、所望の形状に加工することによって得られる。
第二シールエレメントは、その中央に円形孔を有する円板状物で実現され、回転軸シール1をハウジングHと回転軸Sとの間に装着した状態において、図1のようにその断面が略L字型に屈曲する形状となるように摺接部3aでもって回転軸Sに押圧されて使用される。
【0021】
図1に示した例の回転軸シール1は、具体的には、上記第一シールエレメント2、第二シールエレメント3に加え、円筒状周壁部の軸線方向両端より内部空間へ向かって突出する内鍔部12,13を有する金属製のアウターケース4と、断面L字状の円環状物である金属製の第一インナーケース5および第二インナーケース6と、円環状のガスケット7と、ガスケット7よりも小さな内径を有する円環状物である金属製のワッシャ8とをさらに有する。これらの構成部材を、アウターケース内の内鍔部12から内鍔部13へ向かって(図1のように回転軸SとハウジングHとの間に装着された状態では、密封流体R側から空気A側へ向かって)順に、第一インナーケース5、第一シールエレメント2、ガスケット7、ワッシャ8、第二インナーケース6、第二シールエレメント3を挟み、上記内鍔部12,13にてカシメることによってこれらの各部材を固定して、回転軸シール1が形成される。また、アウターケース4の周壁部の外周面には、図1のように装着された状態でハウジングHとの密着性を確保し得るゴム系材料にて形成されるシーラント層14が付設されてなる。
回転軸シール1は、第一シールエレメント2を密封流体R側に、第二シールエレメント3を空気A側に配置させ、それぞれ周方向に沿って内周側に突出する摺接部2a,3aを、回転軸Sに押圧力が作用するように摺接された状態で、ハウジングHと回転軸Sとの間に装着される。
【0022】
第一シールエレメント3を形成する材料に特に制限はないが、従来より当分野において使用されているように、PTFE単独、あるいはPTFEに無機繊維、固体潤滑剤、硬銅合金粉末などの充填剤を配合した組成物を好適に使用することができる。無機繊維としては、たとえば、ソーダガラス、無アルカリガラス、シリカガラスなどのガラス繊維、ロックウールなどのセラミック繊維、スチール、鉄、アルミニウム、ニッケル、銅などの金属の金属繊維、チタン酸カリウムなどのウィスカー、カーボン繊維、カーボングラファイト繊維などが例示される。固体潤滑剤としては、潤滑性を付与し得る公知の化合物、たとえば、石鹸、雲母、石鹸石、亜鉛華、モリブデン系化合物などが例示される。また硬銅合金粉末としては、たとえば、青銅、黄銅、燐青銅、洋白、鉛青銅などの各種の銅合金の粉末が例示される。
【0023】
また、耐摩耗性およびガスバリア性に特に優れた第一シールエレメントを実現し得る観点からは、本出願人が特願2002−19722号で提案している、PTFEに平均粒径10μm〜50μmのグラファイト粉末を10重量%〜25重量%、平均繊維長5μm〜60μmのカーボン繊維を1重量%〜10重量%配合してなる組成物を使用するのが好ましい。
【0024】
上記グラファイト粉末としては、人造または天然の鱗状黒鉛や鱗片状黒鉛、土状黒鉛など従来公知の種々のグラファイト粉末を特に制限なく使用できるが、品質が安定していることから人造の黒鉛がより好ましく、中でも得られた第一シールエレメントが潤滑性に優れることから人造の鱗状黒鉛が特に好ましい。
かかるグラファイト粉末は、平均粒径が10μm〜50μmであるのが好ましく、20μm〜30μmであるのがより好ましい。平均粒径が10μm未満のグラファイト粉末を用いると、得られた回転軸用シールにおいて、引張強さや伸びなど機械特性に劣ってしまい、結果的に優れた耐摩耗性が得られにくくなる傾向にあるためであり、また平均粒径が50μmを超えたグラファイト粉末を用いると、PTFEとの混合の際分散性が不良となってしまい、得られた回転軸用シールごとに特性がばらつく傾向にあるためである。
またグラファイト粉末は、上記組成物中において10重量%〜25重量%配合されるのが好ましく、10重量%〜20重量%配合されるのがより好ましい。グラファイト粉末が10重量%未満しか配合されないと、得られた回転軸用シールにおいて耐摩耗性が悪くなる傾向にあるためであり、またグラファイト粉末が25重量%を超えて配合されると、得られた回転軸用シールにおいて機械的特性、特に伸びが低下する傾向にあるためである。
【0025】
上記カーボン繊維としては、特に制限はなく、ピッチ系カーボン繊維、PAN系カーボン繊維、レーヨン系カーボン繊維など、従来公知の種々のカーボン繊維を使用することができるが、中でもピッチ系カーボン繊維、特には、黒鉛化したピッチ系カーボン繊維が好適である。ピッチ系カーボン繊維は、たとえば、不活性気体中で2000℃〜3000℃の熱処理を行うことで黒鉛化される。
かかるカーボン繊維は、平均繊維長が5μm〜60μmであるのが好ましく、5μm〜30μmであるのがより好ましい。平均繊維長が5μm未満のカーボン繊維を用いると、得られた回転軸用シールにおいて耐摩耗性が悪くなる傾向にあるためであり、また平均繊維長が60μmを超えたカーボン繊維を用いると、得られた回転軸用シールにおいてガスバリア性が悪くなる傾向にあるためである。また上記カーボン繊維は、アスペクト比(繊維径あたりの繊維長の平均)が0.5〜5であるのが好ましく、0.5〜3であるのがより好ましい。
またカーボン繊維は、上記組成物中において1重量%〜10重量%配合されるのが好ましく、2重量%〜5重量%配合されるのがより好ましい。カーボン繊維が1重量%未満しか配合されないと、得られた回転軸用シールにおいて耐摩耗性が低下する傾向にあるためであり、またカーボン繊維が10重量%を超えて配合されると、得られた回転軸用シールにおいて潤滑性が低下し、相手部材(回転軸)を摩耗させてしまうとともに、ガスが透過しやすくなってしまう傾向にあるためである。
【0026】
上述したような本出願人が特願平14−19722号で提案している組成物を用いて形成された第一シールエレメント2と、PTFEに耐熱性樹脂粉末を配合した組成物を成形してなる第二シールエレメント3を組み合わせて回転軸シール1を実現することで、第二シールエレメント3が摩耗、クリープに対して高い耐性を有することから長期にわたって空気側から密封流体側への空気漏れが十分に防止され、密封流体R側での油潤滑若しくは飛沫状態、及び、空気A側での加圧から負圧等の加圧変動が防止される。また、第一シールエレメント2への空気圧による影響が第二シールエレメント3によって十分に低減し、その結果、第一シールエレメントの長寿命化も図られ、かかる相乗効果により、回転軸シール1は優れたシール性能を長期間持続し得る。
【0027】
本発明の回転軸シール1は、上述のようにハウジングHと回転軸Sとの間に装着された状態で、第二シールエレメント3の回転軸Sへの摺接幅w2が第一シールエレメントの回転軸への摺接幅w1よりも小さくなるように形成されたものであることが好ましい。ここで「摺接幅」とは、回転軸SとハウジングHとの間に装着された状態で第一シールエレメント2,3の回転軸Sに摺接される部分である、摺接部2a,3aの軸線方向に沿った直線距離をいう。
このように第二シールエレメント3の回転軸Sへの摺接幅w2を第一シールエレメント1の回転軸Sへの摺接幅w1よりも小さくすることで、上述した効果に加え、上記摺接幅w2は上記摺接幅w1と同等あるいは大きい場合と比較して第二シールエレメント3における摺接部3aの摺接面の摩耗や発熱をさらに低減することができ、回転軸シール1をさらに長寿命化できる。また、第二シールエレメント3の軸緊迫力を第一シールエレメント2より低くすることができるので、空気A側から密封流体R側への微量な気体(空気)漏れを許容するため、漏れ気体により第一シールエレメント2を冷却(空冷)し、第一シールエレメント2の寿命を延ばすという効果もある。
【0028】
具体的には、第一シールエレメント2の摺接幅w1と第二シールエレメント3の摺接幅w2の差が0.7mm〜1.25mmの範囲内であるように設定されるのが好ましく、0.85mm〜1.1mmの範囲内であるように設定されるのがより好ましい。上記摺接幅の差が0.7mm未満であると、第二シールエレメント3の回転軸Sへの押圧力低減の効果が小さくなるか、あるいは第一シールエレメント2の回転軸Sの押圧力が大きくなり過ぎて発熱や摩耗の原因となり易くなる傾向にあるためである。また上記摺接幅の差が1.25mmより大きいと、第二シールエレメント3の摺接幅w2が小さ過ぎる場合には第二シールエレメント3の補助的なシールとしての機能が失われ易くなり、また第一シールエレメント2の摺接幅w1が大き過ぎる場合には発熱や摩耗の原因となり易くなる傾向にあるためである。
【0029】
また本発明の回転軸シール1においては、上記のように摺接幅w2を摺接幅w1よりも小さく選ぶことに加え、第二シールエレメント3の厚みd2を第一シールエレメント2の厚みd1よりも小さく選ぶのが好ましい。これによって、上述した第二シールエレメント3における摺接部3aの摺接面の摩耗や発熱の低減や第一シールエレメント2の冷却などの効果をさらに顕著なものとすることができる。
【0030】
具体的には、第一シールエレメント2の厚みd1を0.4mm〜1.2mm、かつ第二シールエレメント3の厚みd2を0.25mm〜0.90mmの範囲内に選択するのが好ましい。
第一シールエレメント2の厚みd1が0.4mm未満であると、後述するスクリュー溝の形成が困難となる傾向にあるためであり、また1.2mmを超えた厚みとすると、回転軸Sへの押圧力が大きくなり過ぎて発熱や摩耗の原因となり易くなる傾向にあるためである。また第二シールエレメント3の厚みd2が0.25mm未満であると、第二シールエレメント3の剛性が低くなり空気A側の圧力変動を吸収しにくくなる傾向にあるためであり、0.90mmを超えた厚みとすると、回転軸Sへの押圧力が大きくなり過ぎて発熱や摩耗の原因となり易くなる傾向にあるためである。
【0031】
また上記中でも、第一シールエレメント2の厚みd1を0.5mm〜0.8mm、かつ第二シールエレメント3の厚みd2を0.40mm〜0.70mmの範囲内に選択すると、空気A側で急激な圧力変動が発生しても、第一シールエレメント2は異常変形や揺動、異常摩擦を生ずる虞がない。
【0032】
第一シールエレメント2は、上述した第二シールエレメント3と同様に円形孔を有する円板状物で実現され、回転軸シール1をハウジングHと回転軸Sとの間に装着した状態において、図1のようにその断面が略L字型に屈曲する形状となるように摺接部2aでもって回転軸Sに押圧されて使用される。かかる第一シールエレメント2は、上記摺接部2aを含む円形孔周辺部の摺接面側に、スクリュー溝15が形成されてなるのが好ましい。スクリュー溝15は、第一シールエレメント2の軸線を中心とする螺旋状であってもよく、多重の同心円状であってもよい。
【0033】
このようなスクリュー溝15が形成されることで、回転軸Sの静止時には該回転軸Sからの密封流体Rの漏れを防止することができ、また回転軸Sの動作(回転)時には、該回転軸Sとの接面からの密封流体Rの漏れがわずかに発生するが、上記のスクリュー溝15に侵入した密封流体Rの粘性による連れ戻り作用により押し戻し方向の回転流が発生し、わずかに漏れ出た密封流体Rをも押し戻すハイドロダイナミック作用(ポンピング作用)を得ることができる。また上記ハイドロダイナミック作用は、第一シールエレメント2の回転軸への押圧による発熱や摩擦を低減させ得る潤滑作用をも有する。
【0034】
上記スクリュー溝15は、3条形成されるのが好ましい。これによってスクリュー溝が1条である場合と比較して、ハイドロダイナミック作用が増大され、第一シールエレメント2の摺接面の密封流体Rの循環を活発とさせて(大きくさせて)、発熱を低減させることができ、密封流体Rの劣化、ならびに第一シールエレメント2の摩耗を低減させることができる。また、劣化した密封流体Rのスクリュー溝15への侵入によるシール性能の低下の影響を受けにくく、高速回転、高温下での使用に適している。
【0035】
スクリュー溝15はその深さやピッチに特に制限はないが、その深さが0.2mm〜0.6mmであるのが好ましく、またピッチが0.1mm〜0.3mmであるのが好ましい。
スクリュー溝15の深さが0.2mm未満であると、ハイドロダイナミック作用の発生が不充分となる傾向にあるためであり、また0.6mmを超えると、スクリュー溝15への密封流体Rの侵入が多く、密封流体Rが漏れる原因となる傾向にあるためである。またスクリュー溝15のピッチが0.1mm未満である場合および0.3mmを超える場合には、ハイドロダイナミック作用による密封流体Rの流れが悪くなる傾向にあるためである。
【0036】
なお図1に示した態様の回転軸シール1において、アウターケース3、第一インナーケース5、第二インナーケース6およびワッシャ8の形成材料としては、合金や鋼などの金属材料であれば特に制限はない。なお上記発熱によるシールエレメントの劣化を抑制し得る観点からは、アウターケース3、第一インナーケース5、第二インナーケース6およびワッシャ8のうちの少なくともいずれかを、放熱作用の高いアルミニウム合金で形成することが好ましい。これにより上述した空気A側から密封流体R側への微量な気体(空気)漏れを許容による冷却作用を顕著に発揮させることができ、回転軸シール1における蓄熱を解消することができる。
【0037】
またガスケット7は、たとえば、フッ素ゴム、HNBR、EPDM、EPR、シリコーンゴム等の当分野で従来より広く使用されているゴム材料を適宜使用すればよい。またシーラント層14は、たとえばアクリルゴム、フッ素ゴムなどのゴム材料、ゴムと樹脂の混合材料等を加圧成形したり、溶剤にてペースト状にしたものを塗布、乾燥する方法などで形成することができる。
【0038】
【実施例】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
実施例1
PTFEを77重量%、板状結晶を有するパラヒドロキシ安息香酸のホモポリマーの粉末(エコノール(商品名)、住友化学工業社製、見掛比重(g/cc):0.35、350メッシュ以下:88%、170メッシュ以上:1%以下、平均粒径:15±5μm)を20重量%配合してなる組成物をヘンシェルミキサで攪拌混合し、金型で加圧成形した後、360℃の温度で焼成した後、切削加工によって径が5mm、長さが12mmの円柱ピン状の試料を作製した。
【0039】
実施例2
芳香族ポリエステル樹脂粉末の代わりにポリイミド樹脂粉末(見掛比重(g/cc):1.33、10μm〜80μmの粒径範囲にある粒子の占める割合が全体の90体積%、平均粒径:28μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして試料を作製した。
【0040】
実施例3
芳香族ポリエステル樹脂粉末の代わりにフェノール樹脂粉末(見掛比重(g/cc):0.3〜0.7、真比重:1.4〜1.5、平均粒径15μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして試料を作成した。
【0041】
比較例1
PTFEを80重量%、平均繊維長が10〜200μm(アスペクト比:20)のガラス繊維を20重量%配合してなる組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして試料を作製した。
【0042】
比較例2
PTFEを75重量%、平均粒径が34±5μmのカーボングラファイトを25重量%配合してなる組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして試料を作製した。
【0043】
〔評価試験〕
実施例1、比較例1、2で作製した各試料について、ピンオンディスク法によって下記条件にて摩耗試験を行い、(1)摩耗係数(cm3/min/kgf/m/h)、(2)動摩擦係数を測定した。
・使用機器:スラスト型摩擦摩耗試験機
・無潤滑条件
・圧力:6kgf/cm3
・速度:40m/min
・温度:100℃
・相手部材:ステンレス鋼SUS304製ディスク(表面粗さ:0.8μm/Rmax)
また、以下の項目についても評価した。
(3)動摩擦係数の安定性
○:短時間(10分程度)での摩擦係数の変動幅が0.05以下である。
△:短時間(10分程度)での摩擦係数の変動幅が0.05〜0.1である。
×:短時間(10分程度)での摩擦係数の変動幅が0.1以上である。
(4)相手部材の損傷度
72時間、摩耗試験を行い、試験前後での相手部材の表面粗さを触針式表面粗さ計を用い、JIS B 0651の規定に準拠して測定し、試験前後での相手部材の粗さの差から、相手部材の損傷度を測定した。なお上記表面粗さの測定と定義は、JIS B 0601の規定による。
○:試験前後で相手部材の粗さの差が0.03μm以下。
△:試験前後で相手部材の粗さの差が0.03〜0.06μm。
×:試験前後で相手部材の粗さの差が0.06μm以上。
(1)〜(4)の結果を、表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように、本発明によれば、第二シールエレメントの耐摩耗性および耐クリープ性が向上され、従来より長寿命化された回転軸シールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の好ましい一例の回転軸シール1を簡略化して示す、径方向における断面図である。
【符号の説明】
1 回転軸シール
2 第一シールエレメント
3 第二シールエレメント
Claims (5)
- 回転軸とハウジングとの間に装着され、第一シールエレメントおよび第二シールエレメントの各摺接部を回転軸の周方向に摺接させて流体を密封するための回転軸シールであって、
上記装着された状態において第一シールエレメントよりも上記流体から離反した側に配置される第二シールエレメントが、ポリテトラフルオロエチレンに耐熱性樹脂粉末を配合した組成物を成形したものであることを特徴とする回転軸シール。 - 上記装着された状態において第二シールエレメントの回転軸への摺接幅が第一シールエレメントの回転軸への摺接幅よりも小さくなるように形成されたものである請求項1に記載の回転軸シール。
- 耐熱性樹脂粉末が、芳香族ポリエステル樹脂粉末、ポリイミド樹脂粉末、ポリフェニレンサルファイド樹脂粉末、フェノール樹脂粉末、ポリエーテルエーテルケトン樹脂粉末、パーフルオロアルコキシ樹脂粉末及びポリベンゾイミダゾール樹脂粉末からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載の回転軸シール。
- 耐熱性樹脂粉末が、芳香族ポリエステル樹脂粉末である請求項1または2に記載の回転軸シール。
- 回転数が15000rpm〜20000rpmの回転軸に使用されるものである、請求項1〜4のいずれかに記載の回転軸シール。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2002205362A JP2004044745A (ja) | 2002-07-15 | 2002-07-15 | 回転軸シール |
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JP2002205362A JP2004044745A (ja) | 2002-07-15 | 2002-07-15 | 回転軸シール |
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ID=31710689
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Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2015528556A (ja) * | 2012-09-14 | 2015-09-28 | カール・フロイデンベルク・カーゲーCarl FreudenbergKG | 特に加圧液体用の封止継手 |
JP2015230062A (ja) * | 2014-06-05 | 2015-12-21 | 日本精工株式会社 | シール構造、回転駆動装置、搬送装置、工作機械および半導体製造装置 |
-
2002
- 2002-07-15 JP JP2002205362A patent/JP2004044745A/ja active Pending
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