JP2004041596A - 面ファスナーの製造方法及び面ファスナー - Google Patents

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山形 茂雄
Yoshihiko Yamauchi
山内 善彦
Ikuo Sueyama
末山 郁夫
Hiromi Yamazaki
山崎 博實
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HATTA TATEAMI KK
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Abstract

【課題】極めて生産性の高い経編機を用いて効率的に雌雄パイル混在の面ファスナーを製造し、新しいパイル形状の面ファスナーを提供する。
【解決手段】ダブルニードル列経編機により、前後両基布を編成するとともに、雄パイル用のパイル糸(A)を前後両基布に掛け渡し、雌パイル用の第1および第2のパイル糸(B1)(B2)を前後の基布に対し、各々別々に、ニードル列間の一定長の支持糸(C)に絡ませて往復させながら編成して、面ファスナー基材を製造し、この後、パイル糸(A)をカットして、そのカットパイルの一部を塑性変形させて雄パイルとし、前記支持糸(C)から離脱したリングパイルを雌パイルとし、雌雄パイルが混在する面ファスナーとする。
【選択図】    図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、雌雄パイルが混在する面ファスナーの製造方法及びこの方法により製造される面ファスナーに関する。
【0002】
【従来の技術と発明が解決しようとする課題】
従来、リング状の輪奈を持つ雌パイル基布に対して、鉤状あるいは膨頭(茸)状の突起(パイル)を持つ雄パイル基布を密着させることで、雌パイルに対する雄パイルの係合により接合状態を得るいわゆる面ファスナーは、広く知られているところである。また、製造上あるいは使用上の利点を目的として、前記雄パイルと雌パイルを基布の一面に混在させてなる面ファスナーについても既に提案されている。
【0003】
雌雄パイルが混在した面ファスナーを製造するものとして、特公昭44−5569号公報に示される製造方法は、まず、特別な織機によって、雄パイルと雌パイルとなるべき糸を別々に準備し、各々の糸によって、基布等の表面に輪奈を形成する。そしてその基布等を加熱セット後、バリカンに似たパイル切断装置によって雄パイルに相当する個所にのみ切断刃を作用させて、パイルをカットし鉤状の雄パイルを形成している。
【0004】
また、特公昭52−44253号公報に示されている方法は、同一面に存する雄パイルを雌パイルに対して高くするために、パイル織成時における経杆の高さを異なるものとして織成して、雌雄パイル混在の面ファスナーを作ろうとするものである。
【0005】
しかしながら、上記各号公報に記載されている面ファスナーの製法は、いずれも特別な織機を用いて作られる極めて製造効率の低い製法であった。
【0006】
なお、前記ダブルニードル列経編機による編成において、前記のパイル糸によるカットパイルの形成、および前記第1および第2のパイル糸によりリングパイルまたはループパイルの形成は、それぞれ知られているが、カットパイルとリングパイルとの両パイルを混在させることは行われていない。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決し、極めて生産性の高い経編機を用いて効率的に雌雄パイル混在の面ファスナーを製造するとともに、この方法により得られる新しいパイル形状の面ファスナーを提供せんとするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の課題を解決する面ファスナーの製造方法であり、ダブルニードル列の経編機を用い、前後部それぞれの基布形成糸により、前部ニードル列にて前部基布を、後部ニードル列にて後部基布を編成しながら、雄パイル用のパイル糸Aを前記前後部両基布に対して交互に掛け渡して編成するとともに、雌パイル用の第1のパイル糸B1を前記前部基布に対して、第2のパイル糸B2を前記後部基布に対して、各々別々に、前後部ニードル列間に位置する支持手段に絡ませて該支持手段との間で往復させながら編み込む編成を繰り返して、面ファスナー基材を製造し、次に、前記面ファスナー基材の前後部基布間に掛け渡された前記パイル糸Aをカットして、これにより形成されるカットパイルの一部を塑性変形させて雌パイルに対して係合可能な雄パイルを形成し、又、前記支持手段から解放してなるリングパイルを雌パイルとして形成することにより、雌雄パイルが混在する面ファスナーを製造することを特徴とする。
【0009】
これにより、雌雄パイルが混在した面ファスナー基材が、一度に2枚できることになり、極めて生産効率が高められることになる。
【0010】
前記の面ファスナーの製造方法において、前記支持手段が一方端を自由端とした支持糸Cとし、該支持糸に絡ませた前記第1パイル糸B1と前記第2のパイル糸B2を編成工程中において順次離脱させることができる。
【0011】
これにより、支持糸は編生地長と同じ長さは必要でなくなるので、それだけ材料の節約になるとともに、編成後の抜糸などの工程も不要となり、経済的に製造できる。
【0012】
前記の面ファスナーの製造方法において、前記支持手段が可溶性糸よりなる支持糸とし、前記面ファスナー基材の編成後に該支持糸を除去することができる。これにより、編成後の後加工時に、支持糸の除去を同時に行えることになる。
【0013】
前記の面ファスナーの製造方法において、前記雄パイルの形成を、前記パイル糸Aのカット時にヒートカッターを用いて、カットと同時にカットパイルの一部を塑性変形させる方法で行うことができる。これにより、雄パイルの形成をパイル糸のカット時にヒートカッターを用いて同時に実施することで、製造時間の短縮が図れる。
【0014】
さらに、前記雄パイルの形成を、前記パイル糸Aのカット後に、カットされたパイル面への風圧加熱によりカットパイルの一部を塑性変形させる方法で行うこともできる。これにより、雄パイルの形成を膨頭状と鉤状の合成形状とすることが容易に可能になる。
【0015】
また、本発明は、前記の製造方法により得られる経編編成によるパイル生地よりなる面ファスナーとして、基布面において、リングパイルよりなる雌パイルと、カットパイルの一部を塑性変形させて前記雌パイルに対し係合可能に形成した雄パイルとが混在していることを特徴とする。
【0016】
この面ファスナーは、雌雄パイルが混在しているものであるにも拘わらず、ダブルニードル列経編機を利用することにより、容易に製造できる。
【0017】
前記面ファスナーが、基布面において、リング状の雌パイルと、該雌パイルに対して係合可能なカットパイルよりなる雄パイルが混在するとともに、雄パイルが鉤状と膨頭状の合成形状により構成されているものとすることができる。これにより、鉤状と膨頭状の各々の雄パイルが持つ長所を共有するとともに、欠点を補完することができる。
【0018】
また、前記基布面で、リング状の雌パイルと、該雌パイルに対して係合可能なカットパイルよりなる雄パイルが混在するとともに、前記雌パイルと雄パイルが千鳥状に叢生してなることを特徴とする面ファスナーは、ファスナーとして接着力が、面全体でより均一化されることになる。
【0019】
【発明の実施の形態】
次に本発明の実施の形態を図面に示す実施例に基づいて説明する。
【0020】
図1は、本発明の面ファスナーを製造するダブルニードル列経編機による編成要部の側面図である。
【0021】
図1中のG1〜G8は、それぞれ編糸を導糸する筬(ガイドバー)の一部を表しており、特に筬G1が編機前側に、筬G8が編機後側になるように配されている。前記各筬G1〜G8の下方には、前部ニードル列11aと、後部ニードル列11bとが所要の間隔を隔てて設けられており、それぞれニードルが編機幅方向(図1の紙面に対し垂直方向)に多数並列している。図1では便宜的に前後部ニードル列11a,11bのそれぞれ2本のニードルを斜視的に位置をずらせて図示している。12aは前部のトリックプレート、12bは後部のトリックプレートであって、それぞれ前記ニードル列11a,11bに対応して編機幅方向に延びている。なお、前記前後部ニードル列11a,11b、前後部トリックプレート12a,12bおよび各筬G1〜G8の編成のための運動は、従来より知られているダブルニードル列経編機と同様に行われる。
【0022】
図1では図示が省略されているが、前部側の筬G1と筬G2には前部基布を編成する糸が、後部側の筬G7と筬G8には後部基布を編成する糸がそれぞれ通糸される。1aは前部基布の形成部分を、1bは後部基布の形成部分を便宜的に示している。
【0023】
前記以外の筬G3〜G6が製造対象の面ファスナーの係合用のパイル面を形成するための筬である。このうちの筬G5にはカットパイルよりなる雄パイル用のパイル糸Aが通糸され、また筬G6には前部基布側のリングパイルよりなる雌パイル用の第1のパイル糸B1が、筬G3には後部基布側のリングパイルよりなる雌パイル用の第2のパイル糸B2がそれぞれ通糸されている。そして、筬G4には第1および第2のパイル糸B1,B2を絡ませる支持手段としての支持糸Cが通糸されている。これにより、二重編構造の面ファスナー基材が下記のように編成される。
【0024】
図2は前記雄パイル用のパイル糸Aの編成状態を示し、図3は前記雌パイル用の第1のパイル糸B1と第2のパイル糸B2の編成状態を示し、両図それぞれにおける上部のG1〜G8は各筬の配置を示している。
【0025】
筬G5により導糸される前記パイル糸Aは、図2に示すように、前部ニードル列11aと後部ニードル列11bの各々のニードルに対し交互に掛け渡されて往復しながら、前後部各々のニードルでオーバーラップすることによりニードルループを形成して前後両基布に編み込まれ、該両基布間に渡るパイルP1を形成するように編成される。後述するように、このパイルP1が編成後にセンターカットされることによりカットパイルとなり、さらに該カットパイルが塑性変形せしめられることにより最終的に面ファスナーにおける鉤状や膨頭状の雄パイルPaになる。
【0026】
また、筬G6により導糸される前記第1のパイル糸B1と、筬G3により導糸される前記第2のパイル糸B2については、図3に示すように、それぞれ筬G4に通糸されて前後部両ニードル列11a,11b間に位置する支持糸Cを中間にして、各々が前部基布側つまり前部ニードル列11aと、後部基布側つまり後部ニードル列11bとにおいてリングパイルP2を形成するように編成される。
【0027】
すなわち、前記第1のパイル糸B1は、前部ニードル列11aに対して、所要のコース、例えば図のように全コースでニードルに対しオーバーラップすることによりニードルループを形成して前部基布に編み込まれるとともに、前後両ニードル列11a,11b間つまり前後両基布間において前記支持糸Cに対し掛け合わせるように絡ませて、該支持糸Cとの間で往復させながら編み込む編成を繰り返す。また、前記第2のパイル糸B2は、後部ニードル列11bに対して、例えば図のように全コースでニードルに対しオーバーラップすることによりニードルループを形成して後部基布に編み込ませるとともに、前後両ニードル列11a,11b間つまり前後両基布間において前記支持糸Cに対し掛け合わせるように絡ませて、該支持糸Cとの間で往復させながら編み込む編成を繰り返す。
【0028】
このように、支持糸4を通糸する筬G4より後側の筬G6の第1のパイル糸B1が前部側のニードルに対しオーバーラップし、前記筬G4より前側の筬G3の第2のパイル糸B2が後部側のニードルに対しオーバーラップする。このことにより、各筬の位置とオーバーラップするニードル列の前後位置の関係で、前記第1および第2のパイル糸B1,B2がそれぞれ支持糸Cに絡むことになって、前部基布側と後部基布側とで両基布間に突出したリング状をなす所謂リングパイルP2を形成する。そして、前記のリングパイルP2がそれぞれ支持糸Cから解放されることにより面ファスナーにおける雌パイルPbとなる。
【0029】
ここで、図1および図3に示す実施例では、前記支持糸Cが筬G4から一定長が垂れ下がった状態で、その一方端である下端Caが自由端となっている。
【0030】
このため、前記支持糸Cは、編成上においては前記第1および第2のパイル糸B1,B2の支持手段として機能するが、編生地としての面ファスナー基材には編み込まれず、編成が進行するのに伴って該支持糸Cに絡ませた前記第1のパイル糸B1と前記第2のパイル糸B2のリングパイルP2の部分が支持糸Cから順次離脱することになる。これにより、前記支持糸Cを編生地中に含まない二重編組織の面ファスナー基材を得ることができる。
【0031】
なお、前記の支持糸Cの長さは、編成状態に支承が生じない程度、すなわち生地巻き取りロール(図示せず)の直前までの長さ、通常、筬G4の先端から5〜30cmである。
【0032】
図4(a)は前記の面ファスナー基材の編成に用いられる編組織(ラッピング組織)の1例を示し、同図の(b)はその糸入れ状態を示している。
【0033】
図4(a)において、筬G1〜G8はそれぞれ図1〜図3の筬G1〜G8に対応している。このうち、筬G1,G2が前部基布を編成するもので、筬G2は鎖編糸を導糸して前部ニードル列11aで鎖編を行い、筬G1は挿入糸を導糸して5針間の挿入を行う。また筬G7,G8が後部基布を編成し、筬G7は鎖編糸を導糸して後部ニードル列11bで鎖編を行い、筬G8は挿入糸を導糸して5針間の挿入を行う。
【0034】
筬G3と筬G6が、それぞれ面ファスナーの所謂雌パイルを作るパイル糸を導糸する筬であり、後部側の筬G6は第1のパイル糸B1を導糸して、前部側のニードルで各コースオーバーラップするのに対し、前部側の筬G3は第2のパイル糸B2を導糸して、後部側のニードルで各コースオーバーラップしている。この第1のパイル糸B1と第2のパイル糸B2とは、交差した状態での編成になるが、互いに絡み合うことはない。
【0035】
これに対し、筬G4に通糸された一定長の支持糸Cは、図4(a)のように1針に対しアンダーラップを行い、前記の第1のパイル糸B1と第2のパイル糸B2に対して交差する形になる。このため、前記の第1のパイル糸B1と第2のパイル糸B2とが、それぞれ前後の基布間において前記支持糸Cに対して絡まった状態で編成されることになり、その結果、図1および図3のように、前後両基布から突出したリング状をなすリングパイルができることになる。
【0036】
また、筬G5が面ファスナーの所謂雄パイルを作るパイル糸Aを導糸する筬であり、図2のようにパイル糸Aを前後部両ニードル列11a,11bに対し交互に掛け渡して各コースオーバーラップする。
【0037】
前記の各筬G1〜G8のそれぞれの糸入れは、前後の基布用の筬G1,G2および筬G7,G8はオールイン、パイル用の筬G3,G6は2イン1アウト、また筬G5は1イン2アウト、支持糸用の筬G4は2イン1アウトである。この場合、雄パイル用のパイル糸Aと、雌パイル用の第1および第2のパイル糸B1,B2とは、相互に絡み合わないように糸入れするのがよく、例えば双方のパイル糸が対応した位置にならないように糸入れされている。
【0038】
このような編成により、前後両基布がパイル糸Aにより結合された状態の二重編組織の面ファスナー基材を得ることができる。
【0039】
前記の二重編組織の面ファスナー基材の構成に使用する糸は、種々の糸を利用できるが、例えば、雄パイル用のパイル糸Aとしては、ポリオレフィン系の糸、中でもポリプロピレンのモノフィラメント糸で太さが110〜360dtexの糸が、雌パイル用の第1および第2のパイル糸B1,B2としては、ポリエステル糸あるいはナイロン糸で、太さが100デニール前後のものが使用される。
【0040】
また、支持糸Cについては、ポリエステルのモノフィラメント糸で、太さが100〜1000デニールの糸が用いられる。この支持糸Cとしては、繊維以外の銅線やステンレス線等のように金属の細線を使用することもできる。
【0041】
なお、雌パイル(リングパイル)形成のための支持手段としては、上記した実施例のように、筬G4から前後部ニードル列11a,11b間に一定長を垂下させて編生地中には編み込まないようにした支持糸Cを用いる場合のほか、図示はしていないが、編成後の溶解や抜き糸等の除去手段を利用することにより、編生地中に編み込む支持糸を用いることもできる。
【0042】
例えば、前記支持糸Cとして、アセテート等の可溶性糸を使用して、該支持糸Cを給糸しながら上記した実施例と同様の編組織で編生地中に編み込むように編成しておいて、編成後の後加工で該支持糸を溶解させ除去することができる。
【0043】
実施上は、前記の一定長を垂下させる支持糸Cを利用するのが、材料の節約になり、また編成後の溶解、抜き糸等の工程も不要となり、経済的であ。
【0044】
前記いずれの場合においても、前記第1および第2のパイル糸B1,B2は、編成中で支持糸Cから離脱することにより、あるいは編成後に支持糸Cを除去することにより、最終的に雌パイルPbとなるが、この雌パイルPbの基布からの高さに付いては、編成時の第1および第2のパイル糸B1,B2のテンションをコントロールすることにより任意に設定できる。
【0045】
また、上記の実施例では、ダブルニードル列の経編機としては8枚筬のものを使用した場合を示しているが、これに限らず、前後両基布を構成する筬を1枚筬にして編成することも可能である。
【0046】
例えば、前部基布と後部基布を、1×1トリコットや2×1トリコット組織、あるいはオーバーラップを2針に渡って行う2針オーバーラップ組織を利用することにより、基布を編成する筬枚数を少なくすることができる。
【0047】
図5は、本発明の面ファスナーの製造方法の実施における面ファスナー基材の編成例の別実施例を示している。この実施例の場合、筬は7枚を使用している。図6の(a)は前記面ファスナー基材の編成に用いられる編組織(ラッピング組織)の例を示し、同図の(b)はその糸入れ状態を示している。
【0048】
この実施例において、G1およびG7は、それぞれ前後部の基布編成用の筬であり、図6(a)の編組織に示すようにそれぞれ1枚で1×1トリコット組織の前後部の基布を編成する。G4は雄パイル(カットパイル)用のパイル糸Aを導糸する筬、G3およびG5はそれぞれ前後部の雌パイル(リングパイル)用の第1および第2のパイル糸B1,B2を導糸する筬、G2とG6はそれぞれ支持糸C1,C2を通糸する筬をそれぞれ示している。
【0049】
すなわち、この実施例では、前記のように前後二つの筬G2,G6にそれぞれ通糸した支持糸C1,C2を、前後部ニードル列11a,11b間に間隔をおいて並列させて使用しており、該両筬G2,G6よりも内方側(後方側あるいは前方側)の位置にある筬G3,G5により、第1のパイル糸B1と第2のパイル糸B2とを、前後それぞれの側の支持糸C1,C2に対し絡ませて編成している。そして、この実施例でも、前記支持糸C1,C2はその下端Caを自由端として一定長を垂下させて使用している。そのため、前記のように絡ませた第1および第2のパイル糸B1,B2のリングパイルP2の部分は、上記した実施例と同様に、編成が進行するのに伴って前記支持糸C1,C2から離脱することになる。
【0050】
図6(a)の編組織では、筬G3は第1のパイル糸B1を導糸して前部側のニードルで各コースオーバーラップし、筬G5は第2のパイル糸B2を導糸して後部側のニードルで各コースオーバーラップしている。これに対し、筬G2,G6に通糸された一定長の支持糸C1,C2はそれぞれ1針に対しアンダーラップを行っている。これにより、前記の第1のパイル糸B1と第2のパイル糸B2とが、それぞれ支持糸C1,C2に対して絡まった状態で編成されることになり、その結果前後両基布から突出したリングパイルP2となる。このリングパイルP2が前記支持糸C1,C2から離脱することにより雌パイルPbとなる。
【0051】
この実施例の編組織の各筬G1〜G7それぞれの糸入れは、図6(b)に示すとおりであり、基布を編成する筬G1とG7についてはオールイン、支持糸C1,C2を通糸する筬G2とG6については2イン1アウト、リングパイル用の第1および第2のパイル糸の筬G3,G5については2イン1アウト、カットパイル用のパイル糸の筬G4については1イン2アウトとしている。なお、この実施例の場合は、カットパイル用のパイル糸Aと、リングパイル用の第1および第2のパイル糸B1,B2とが相互に絡み合うことがない。
【0052】
このようにして編成することにより、表裏の両基布がパイル糸Aにより結合された状態の二重編組織の面ファスナー基材を得ることができる。特に、上記した実施例のように1本の支持糸Cに対し第1および第2のパイル糸B1,B2を絡ませる場合は、雌パイルとしてのリングパイルを低く設定するのが難しいが、この実施例のように2本の支持糸C1,C2を使用して、前後それぞれの支持糸C1,C2に対し第1および第2のパイル糸B1,B2を絡ませて編成することにより、安定して低いリングパイルを作ることができる。更に、パイル糸Aとパイル糸B1,B2とが相互に絡み合わないことから、筬G1から筬G7までオールインして、パイル糸Aとパイル糸B1,B2とを同一ニードルループにて編成することもできる。
【0053】
なお、図示はしていないが、この実施例の支持糸C1,C2としても、上記した実施例の場合と同様に、例えば可溶性糸を使用して、編生地中に編み込むように編成し、編成後に例えば溶解等の手段により除去するように実施することができる。
【0054】
上記においては、面ファスナー基材を編成する場合について説明したが、こうして編成され得られた面ファスナー基材を、さらに加工して面ファスナーとする方法について説明する。
【0055】
上述したように編成された二重編構造の面ファスナー基材、特に支持糸を編み込まないように編成するか、あるいは編生地中に編み込んだ支持糸を編成後に除去してなる面ファスナー基材を、図7のように前後基布間の中央位置においてカット、すなわち、前後両基布間に掛け渡されているパイル糸Aを所謂センターカットして、前後二つに分離する。これにより、前記パイル糸AがそれぞれカットパイルP1になる。ただし、単にカットしただけでは、カットパイルP1が面ファスナーにおける係合用の雄パイルPaにはならないので、この際、前記のカッターとして、例えばカッターとヒータとの両機能を併有するヒートカッターを用いる。
【0056】
図7は前記ヒートカッター15によるカット状態を示し、この図では、便宜的に基布を構成する糸を省略して、パイル糸のみを図示している。前記ヒートカッター15としては、その先端にポリプロピレン等の合成樹脂のモノフィラメント糸よりなるパイル糸Aを溶断できる熱線15aが付設されている。このほか、カッターの先端部を加熱しておくこともできる。このヒートカッターは、雄パイルとなるパイル糸Aをカットするのと同時に、図のように、面ファスナーの機能を果たさせるために、カットパイルPaの先端部を塑性変形させて膨頭部Pa1を作ることができるようになっている。
【0057】
このため、図7中のヒートカッター15の形状が好適に用いられる。すなわち先端の熱線15aでパイル糸Aをカットした後、加熱された該カッター15の側面部15b,15bに沿ってカットされたパイルが移行する際に、カットパイルP1の先端部に熱が加えられることにより、その先端部分に膨頭部Pa1が形成される。
【0058】
なお、パイル糸Aに使用されているポリプロピレン等の溶融温度は、165°〜173°位、軟化点はそれよりも低くて140°〜165°であり、そのため前記ヒートカッター15の加熱温度は、220°〜250°位を保持するように管理しておくのが良い。
【0059】
このヒートカッター15については、静止式(固定式)のものでも良いが、場合によっては、該カッター15を間欠的に例えば長手方向に移動可能に設けておき、その近傍に配設したクリーニング装置(図示せず)により、該カッター15に付着した溶断時の屑を除去するように設けて実施することもできる。また、該カッター15を複数個設けることでカット効率を上げることも可能である。
【0060】
前記の編成された面ファスナー基材を、前後二つに分離するためのカット加工は、編成工程とは別の場所において、ヒートカッターを備えたセンターカット機を使用してカットする場合のほか、場合によっては、経編機上で編成された編生地を巻き上げている途中において、あるいは編成されてくる編生地を編機外においても前記同様のヒートカッターを備えるセンターカット機に掛けて連続的な加工を行うことも可能である。
【0061】
いずれにしても、前記の加工における面ファスナー基材として編生地の送り速度は、ヒートカッターの温度、パイル糸の素材等を考慮して適宜設定される。
【0062】
図8は、面ファスナーの別の実施例、特に雄パイルの加工方法の別の実施例を略示している。なお、この図では、便宜的に基布の構成糸およびリングパイル(雌パイル)の図示を省略している。
【0063】
この図8の実施例の方法では、図9に示すヒートカッターを使用せず、通常のセンターカット機によって二重編構造の面ファスナー基材のパイル糸Aをセンターカットし、こうして片面にカットパイルP1およびリングパイル(ここでは基布と共に図示を省略している)を有する編生地にした後、この編生地のパイル面に対して熱風を吹きかけて、前記カットパイルP1を塑性変形させて雄パイルPaに加工し、面ファスナーとする。
【0064】
この方法においては、前記編生地のパイル面に対して熱風を吹きかけるが、その際、図8中で矢印で示すように、該編生地を一定方向に送りながら、カットパイルP1が傾倒している方向(通常、その編成状態のために編方向後方に向かって傾倒する)に対して、該パイルP1をさらに倒す方向に向かって熱風を吹きかける。この熱風による加熱により、カットパイルP1が反り返るように変形することになり、この加熱がさらに進むことにより、前記カットパイルP1は、徐々に折れ曲がって鉤状になり、リングパイルよりなる雌パイルに対して係合自在な鉤状の雄パイルPaが形成される。
【0065】
特に、前記の熱風による加熱温度の調整等により、鉤状の塑性変形と同時に、その先端部分に膨頭部Pa1が形成されることになり、図のように雌パイルに対して係合可能な鉤状と膨頭状との合成形状をなす雄パイルPaが加工形成されることになる。
【0066】
なお、上記の雄パイルPaの形状として、膨頭部Pa1を有する単なるキノコ状をなすものは、雌パイルに対する係合力が強い反面、係合が強すぎると引き剥がすために大きな力が必要になり、また着脱を繰り返すことにより雌パイルを傷めるといった問題がある。また、単に鉤状をなす雄パイルPaの場合は、前記の問題はないが、着脱を繰り返すことにより雌パイルに対する係合力が甘くなる傾向があり、耐久性に問題がある。
【0067】
これに対し、前記の鉤状と膨頭状の合成形状をなすものは、それぞれの欠点を補うことで、前記の問題を解消できる。
【0068】
前記の加工において、熱風を吹きかける送り方向の幅寸法については、熱風の温度や送り速度等によっても異なるが、通常は50〜300mm位の幅とする。
【0069】
また、前記の片面パイル編地が前記の熱風吹きかけ工程に至るまでの送り部分において、基布部分を水に浸して編地を進行させることにより、カットパイルの根本部分および他の構成糸の熱の影響をできるだけ少なくするようにして実施するのが望ましい。
【0070】
図9および図10は、それぞれ雌雄パイルが混在する本発明の面ファスナーの表面一部の組織拡大図を示している。両図において、3は基布を構成する鎖編糸、4は挿入糸を示し、Paはカットパイルよりなる雄パイル、Pbはリングパイルよりなる雌パイルを示している。
【0071】
図9の面ファスナーは、雄パイルPaのパイル糸および雌パイルPbのパイル糸が、それぞれ所要のウエール毎に交互に該ウエールに沿って糸入れ、すなわち雄パイルのパイル糸が1イン2アウト、雌パイルのパイル糸が2イン1アウトで糸入れされて編成された編生地よりなる場合を示している。すなわち、雌パイルPbが形成された2ウエールと、雄パイルPaが形成された1ウエールとが交互に形成され、両パイルが2:1のウエールの割合で列状に交互に形成されている。
【0072】
図10の面ファスナーは、雄パイルPaのパイル糸が1イン2アウト、雌パイルPbのパイル糸が2イン1アウトで糸入れされて編成されている。このうち、雄パイルPaのパイル糸は、図示のように隣接する二つのウエール間において1コース毎に隣接ウエールに移行してカットパイルよりなる雄パイルPaを形成している。これにより前記雄パイルPaが千鳥状に形成されている。同様に、雌パイルPbのパイル糸は、2ウエール間に渡って交互に往復して、かつその両ウエール間の中間において支持糸に支持されることでリングパイルを形成することになるので、この雌パイルPbは、二つのウエールとウエールの間にできるリングパイルになり、外観的に千鳥状を呈するように形成されている。
【0073】
なお、図示する千鳥状の形態については、図のものに限らず、糸入れの変化、あるいは飛び数の変化を考慮して様々なバリエーションのものを作ることができる。
【0074】
上記の図9、図10のいずれの実施例においても、雌パイルPbについては、該パイルの糸を各コース連続してオーバーラップさせるとともに、毎コース連続して支持糸に作用させて編成し、毎コースにリング状の雌パイルを形成した場合を示しているが、このほか、前記の雌パイルの糸を、支持糸に作用させずに2コース連続してオーバーラップし、次のコースで支持糸に作用させる等して、数コースおきにリング状の雌パイルPbを形成するように編成して実施することも可能である。
【0075】
この場合、雌パイルPbは、確かに毎コース支持糸に作用させてリング状に絡ませるパイルに対して密度は減るが、雌パイルの根本部については2コース連続してループ形成されることになるので、例えば、該雌パイルPbに雄パイルPaが係合している状態で引き剥がし作用による引っ張り力が作用した場合にも、緩みや抜け等が生じ難く、耐久性に優れることになる。
【0076】
【発明の効果】
上記したように本発明の面ファスナーの製造方法によれば、極めて生産性の高い経編機を用いて、係合のためのパイル面においてカットパイルよりなる雄パイルとリングパイルよりなる雌パイルとが混在した面ファスナーを効率よくコスト安価に製造することができる。
【0077】
特に、雌雄パイルが混在したパイル面をなす面ファスナーとして、雄パイルの形状が、雌パイルに対して係合可能な鉤状と膨頭状との合成形状をなすことにより、双方の欠点を補い、それぞれの長所を併せ持った形状をなす新規な面ファスナーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の面ファスナーを製造するダブルニードル列経編機による編成要部の側面図である。
【図2】同上の雄パイル用のパイル糸Aの編成状態を示す略示説明図である。
【図3】同上の雌パイル用のパイル糸Bの編成状態を示す略示説明図である。
【図4】同上の面ファスナー基材の編組織の1例を示すラッピング組織図(a)と、その糸入れ状態を示す図(b)である。
【図5】本発明の面ファスナー製造方法における面ファスナー基材の編成例の別の実施例を示す編成要部の側面図である。
【図6】同上の面ファスナー基材の編組織の1例を示すラッピング組織図(a)と、その糸入れ状態を示す図(b)である。
【図7】編成後の面ファスナー基材のセンターカットによる加工状態を示す略示説明図である。
【図8】面ファスナーの雄パイルの加工方法の別の実施例を略示する説明図である。
【図9】雌雄パイルが混在する本発明の面ファスナーの1例を示す表面一部の組織拡大図である。
【図10】雌雄パイルが混在する本発明の面ファスナーの他の例を示す表面一部の組織拡大図である。
【符号の説明】
A  雄パイル用のパイル糸
B1,B2 雌パイル用の第1および第2のパイル糸
C,C1,C2 支持糸
G1〜G8 筬
Pa   雄パイル
Pa1 膨頭部
Pb  雌パイル
P1  前後両基布に掛け渡されたパイル
P2  リングパイル
1a  前部基布の形成部分
1b  後部基布の形成部分
3   鎖編糸
4   挿入糸
11a 前部ニードル列
11b 後部ニードル列
12a 前部のトリックプレート
12b 後部のトリックプレート
15  ヒートカッター
15a 熱線
15b 両側面

Claims (8)

  1. ダブルニードル列の経編機を用い、前後部それぞれの基布形成糸により、前部ニードル列にて前部基布を、後部ニードル列にて後部基布を編成しながら、雄パイル用のパイル糸(A)を前記前後両基布に対して交互に掛け渡して編成するとともに、雌パイル用の第1のパイル糸(B1)を前記前部基布に対して、第2のパイル糸(B2)を前記後部基布に対して、各々別々に、ニードル列間に位置する支持手段に絡ませて該支持手段との間で往復させながら編み込む編成を繰り返して、面ファスナー基材を製造し、
    次に、前記面ファスナー基材の前後両基布間に掛け渡された前記パイル糸(A)をカットして、これにより形成されるカットパイルの一部を塑性変形させて雌パイルに対して係合可能な雄パイルを形成し、又、前記支持手段から解放してなるリングパイルを雌パイルとして形成することにより、雌雄パイルが混在する面ファスナーを製造することを特徴とする面ファスナーの製造方法。
  2. 前記支持手段は一方端が自由端としてなる支持糸(C)であり、該支持糸に絡ませた前記第1パイル糸(B1)と前記第2のパイル糸(B2)を編成工程中において順次離脱させることを特徴とする請求項1に記載の面ファスナーの製造方法 。
  3. 前記支持手段は可溶性糸よりなる支持糸であり、前記面ファスナー基材の編成後に該支持糸を除去することを特徴とする請求項1に記載の面ファスナーの製造方法。
  4. 前記雄パイルの形成を、前記パイル糸(A)のカット時にヒートカッターを用いて、カットと同時にカットパイルの一部を塑性変形させる方法で行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の面ファスナーの製造方法。
  5. 前記雄パイルの形成を、前記パイル糸(A)のカット後に、カットされたパイル面への風圧加熱によりカットパイルの一部を塑性変形させる方法で行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の面ファスナーの製造方法。
  6. 経編編成によるパイル生地よりなる面ファスナーであって、基布面において、リングパイルよりなる雌パイルと、カットパイルの一部を塑性変形させて前記雌パイルに対し係合可能に形成した雄パイルとが混在していることを特徴とする面ファスナー。
  7. 基布面で、リング状の雌パイルと、該雌パイルに対して係合可能なカットパイルよりなる雄パイルが混在するとともに、雄パイルが鉤状と膨頭状の合成形状により構成されていることを特徴とする面ファスナー。
  8. 基布面で、リング状の雌パイルと、該雌パイルに対して係合可能なカットパイルよりなる雄パイルが混在するとともに、前記雌パイルと雄パイルが千鳥状に叢生してなることを特徴とする面ファスナー。
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