JP2004037374A - クロマトグラフデータ処理装置 - Google Patents
クロマトグラフデータ処理装置 Download PDFInfo
- Publication number
- JP2004037374A JP2004037374A JP2002197407A JP2002197407A JP2004037374A JP 2004037374 A JP2004037374 A JP 2004037374A JP 2002197407 A JP2002197407 A JP 2002197407A JP 2002197407 A JP2002197407 A JP 2002197407A JP 2004037374 A JP2004037374 A JP 2004037374A
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- peak
- spectrum
- component
- representative
- similarity
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Pending
Links
Images
Landscapes
- Investigating Or Analysing Materials By Optical Means (AREA)
Abstract
【課題】ピーク保持時間やその許容幅を用いることなく複数の試料のピーク同士の成分の同一性を判定することができるデータ処理装置を提供する。
【解決手段】複数試料のクロマトグラムピークにおけるスペクトルの代表同士を比較し、所定の類似度閾値を上回ったものの中から最も類似度の高いスペクトルに対応するクロマトグラムピーク同士が同一成分によるピークであると判定する。更に、あらかじめレファレンスに登録された既知の成分のスペクトルと上記ピークの代表スペクトルとを比較することによってピーク成分を同定するようにしてもよい。
【選択図】 図5
【解決手段】複数試料のクロマトグラムピークにおけるスペクトルの代表同士を比較し、所定の類似度閾値を上回ったものの中から最も類似度の高いスペクトルに対応するクロマトグラムピーク同士が同一成分によるピークであると判定する。更に、あらかじめレファレンスに登録された既知の成分のスペクトルと上記ピークの代表スペクトルとを比較することによってピーク成分を同定するようにしてもよい。
【選択図】 図5
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高速液体クロマトグラフ(HPLC)装置などのクロマトグラフ装置において、検出されるクロマトグラムのピークを同定するための、或いは複数の試料のクロマトグラムのピーク成分の同一性を判定するための、データ処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のクロマトグラフ装置においては、クロマトグラムのピークに対応する成分を同定するために、予め標準ピーク保持時間及びその許容幅と成分の対応表(成分テーブル)を作成していた。また、複数試料に対して測定を行い、試料同士の含有成分や含有量の比較を行う場合には、試料ごとに成分テーブルとの比較を行っていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、このような成分テーブルを用いたピーク成分の同定方法には、以下の問題があった。
まず、クロマトグラム上の近接した位置にピークが現れる複数の成分が試料に含まれている場合、あるいはそのような複数の成分のいずれかが試料に含まれている場合には、ピーク保持時間とその許容幅からは正しくピーク成分を同定することが困難であった。その結果、あるピークを誤って実際とは異なる成分のピークとしてしまうことや、異なる成分に由来する複数のピークが重なっているものを1つのピークとしてしまうことがあった。
【0004】
また、共存成分の影響や試料注入量の多寡により、クロマトグラムピークはシフトすることがある。この場合、成分テーブルの標準ピーク保持時間とのずれが生じ、ピークと成分との自動割り当てが行えないため、測定したクロマトグラムピークの保持時間に応じて成分テーブルの保持時間を適宜調整し、再度割り当て処理を行わなければならなかった。
【0005】
一方、複数の試料を測定する際に、単に試料同士を比較してそれらに含有される成分の同一性のみを調べればよく、含まれる成分を同定する(成分名を決定する)必要まではないこともある。例えば、水のサンプルが複数ある場合、その成分を同定しなくとも、同じ成分が含まれているかどうかさえ分かれば、それらのサンプル同士が同じ水源から得られたものかどうかを知ることができる。しかし、従来の方法では、そのような場合でも各試料毎に同定テーブルとの比較を行い、含まれる成分を同定しなければ、試料同士の同一性を判定することができなかった。この場合、上記の原因によってクロマトグラムのピーク成分を誤って同定したり、或いは同定することができなかった場合、試料同士の同一性を正しく判定することもできない。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、第1に、ピーク保持時間とその許容幅を用いることなくクロマトグラムピークに対応する成分を同定することができるデータ処理装置を提供することにある。第2に、ピーク保持時間とその許容幅を用いることなく、複数の試料のピーク同士の成分の同一性を判定することができるデータ処理装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために成された本発明に係るクロマトグラフデータ処理装置の第1の態様は、
a)カラムから溶出する試料について逐次スペクトルを採取するスペクトル採取手段と、
b)採取されたスペクトルからクロマトグラムを作成し、ピークを検出するピーク検出手段と、
c)既知の成分のスペクトルであるレファレンススペクトルを記憶するレファレンススペクトル記憶手段と、
d)検出されたピークに属するスペクトルの中からピーク代表スペクトルを決定する代表スペクトル決定手段と、
e)ピーク代表スペクトルとレファレンススペクトルとの類似度を算出するスペクトル類似度算出手段と、
f)目的ピークのピーク代表スペクトルとの類似度が所定の閾値を超えるレファレンススペクトルのうち最も類似度が高いものに対応する成分を、該目的ピークの成分と同定するピーク同定手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明に係るクロマトグラフデータ処理装置の第2の態様は、
a)カラムから溶出する試料について逐次スペクトルを採取するスペクトル採取手段と、
b)採取されたスペクトルからクロマトグラムを作成し、ピークを検出するピーク検出手段と、
c)検出されたピークに属するスペクトルの中からピーク代表スペクトルを決定する代表スペクトル決定手段と、
d)ピーク代表スペクトルを記憶する代表スペクトル記憶手段と、
e)2つのピーク代表スペクトルの類似度を算出するスペクトル類似度算出手段と、
f)第1の試料の目的ピークのピーク代表スペクトルとの類似度が所定の閾値を超える第2の試料のピーク代表スペクトルのうち最も類似度が高いものに対応するピークを、該目的ピークと同一成分によるピークであると判定する同一ピーク判定手段と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態】
第1の態様のクロマトグラフ測定装置では、カラムから溶出する試料について、スペクトル採取手段が逐次スペクトルを採取する。スペクトルは、吸収スペクトル・反射スペクトルのいずれでも構わない。ピーク検出手段は、採取された多数のスペクトルからまずクロマトグラムを作成する。例えば、各スペクトルの所定波長範囲内の強度積分値を時間軸に対してプロットすることによりクロマトグラムを作成することができるが、その他の方法でも構わない。ピーク検出手段は、更に、こうして得られたクロマトグラムから所定の基準によりピークを検出する。この基準としては、従来より知られている閾値法や傾斜法(微分法)等を用いることができる。代表スペクトル決定手段は、こうして検出されたピークに属するスペクトルの中から、そのピークの代表スペクトルを決定する。その方法には、ピークトップの保持時間におけるスペクトルを選択する方法や、そのピークに属する全スペクトルの各波長毎の時間平均をとったものを選択する方法等がある。
【0010】
レファレンススペクトル記憶手段には既知の成分のスペクトルであるレファレンススペクトルが記憶されている。多くの場合、複数の成分のレファレンススペクトルが記憶されているが、特殊な用途の場合には、単一の成分のレファレンススペクトルが記憶されているだけであってもよい。
【0011】
スペクトル類似度算出手段は、ピーク代表スペクトルとレファレンススペクトルと間の類似度を算出する。この計算には、例えば特開昭61−111425号公報に記載されている方法を用いることができる。その概略は以下の通りである。目的とするスペクトル中のn種類の波長λk(kは1〜nの整数)における強度Ikを成分とするn次元ベクトルを定義する。代表スペクトルにより定義されるn次元ベクトルとレファレンススペクトルにより定義されるn次元ベクトルとの内積を両ベクトルの大きさの積で除したものをスペクトル類似度とする。両スペクトルが完全に一致した場合、スペクトル類似度は1となる。
【0012】
ピーク同定手段は、スペクトル類似度算出手段を用いて未知試料のクロマトグラムの目的とするピークの代表スペクトルとレファレンススペクトル記憶手段に記憶されているレファレンススペクトルとの間の類似度を算出し、その類似度が所定の閾値を超えるレファレンススペクトルのうち、最も類似度の高いものに対応する成分を、その目的ピークの成分と同定する。目的ピークの代表スペクトルとの類似度が所定の閾値を超えるレファレンススペクトルが1つしかなかった場合、当然、そのレファレンススペクトルに対応する成分が目的ピークの成分であると同定される。また、所定の閾値を超える類似度を持つレファレンススペクトルが存在しなかった場合には、そのピークの成分は同定されない。目的ピークの代表スペクトルと比較されるレファレンススペクトルは、レファレンススペクトル記憶手段に記憶されている全てのレファレンススペクトルとしてもよいが、別の情報によりその範囲が限定され得る場合には、限定された範囲内のレファレンススペクトルとの類似度だけを算出するようにしてもよい。
【0013】
第2の態様のクロマトグラフ測定装置では、複数の試料のピーク同士の成分の同一性を判定する。各試料の代表スペクトルの決定までは上記と同様である。ただし、レファレンススペクトル記憶手段は使用せず、代わりに、ピーク代表スペクトルを記憶する手段を設ける。
【0014】
同一ピーク判定手段は、第1の試料のスペクトルの目的とするピークの代表スペクトルと第2の試料の各ピークのピーク代表スペクトルの類似度をスペクトル類似度算出手段を用いて算出し、所定値を超える類似度の中で最大のものに対応する第2の試料のピークを、第1の試料の目的ピークと同一成分によるものであると判定する。上記同様、所定値を超える類似度が1つしかなければ、それに対応する第2の試料のピークが、第1の試料の目的ピークと同一成分によるものであると判定され、所定値を超える類似度が1つもなければ、第1の試料の目的ピークと同一成分によるピークは第2の試料には無いと判定される。前記のように試料同士の成分の同一性さえ分かればよい場合は、ここまでの操作によってその目的を達することができる。
【0015】
なお、第2の試料に同一成分によるピークが無いと判定された場合、上記第1の態様のクロマトグラフ測定装置と同様に、レファレンススペクトル記憶手段を使用し、そこに記憶されているレファレンススペクトルと比較することにより、成分を同定してもよい。
【0016】
【発明の効果】
本発明の第1の態様によれば、ピーク保持時間ではなくスペクトルによりピーク成分を同定するため、クロマトグラム上の近接した位置に複数のピークが現れる場合等においても、誤って近接ピークの成分と同定することがない。また、共存成分の影響や試料注入量の多寡等によりクロマトグラムピークがシフトしても、ピーク成分を正しく同定することができる。
【0017】
本発明の第2の態様によれば、複数の試料のピーク成分の同一性を判定する際に、各試料のピーク成分を同定することなく、各試料のスペクトルのピーク同士を直接比較するため、ピーク成分の同定の際の誤りの可能性が排除され、より高い確率で同一性を正しく判定することができるようになる。
【0018】
【実施例】
本発明の一実施例である高速液体クロマトグラフ(HPLC)装置の概略を図1に示す。溶離液槽11からポンプ12により吸引された溶離液(移動相)に、インジェクタ13で分析対象の試料液が注入され、分離カラム14へと送り込まれる。試料中の各成分が分離カラム14を通過する時間(保持時間)は成分により異なるため、分離カラム14を通過した溶離液中において試料の各成分は時間的に分離して溶出する。溶出した試料を含む溶出液は検出器15に送られる。検出器15においては、溶出液がセル151を通過し、そのセル151に光源152からの白色光が照射される。白色光はセル151中の溶出液に含まれる成分に特有の波長において吸収を受ける。その透過光を、回折格子などの分光器153により波長分散させ、フォトダイオードアレイ154にて波長毎の強度を検出する。この検出器15の検出信号は増幅器16で増幅され、A/D変換器17でデジタル信号に変換され、コンピュータ18に入力される。
【0019】
図2にコンピュータ18の本実施例における機能をブロック図で示す。一点鎖線で囲まれた領域41はコンピュータ18のCPUが担い、領域42はハードディスクやメモリ等の記憶装置が担う。
【0020】
以下、図2〜図6を用いて、本実施例におけるデータ処理を説明する。まず、A/D変換器17より入力される信号から、スペクトル採取部31は各時刻のスペクトル21(図3)を作成する(図4のステップS1)。
【0021】
ピーク検出部32は、まずステップS2において、各時刻におけるスペクトル21について全波長域で強度の積分または総和をとり、それを時間に対してプロットすることによりクロマトグラム22を作成する(図3)。次に、得られたクロマトグラム22から予め定められた方法によってクロマトグラムピークを検出する(ステップS3)。例えばクロマトグラム22の接線の傾きが正の値でその絶対値が所定値以上になった時刻t1から、接線の傾きが負の値でその絶対値が所定値以下になる時刻t3までを1つのクロマトグラムピークとする。これによって、1番目の試料Aに対する測定により、2つのクロマトグラムピークが検出される(図5)。ピーク検出部32は検出されたクロマトグラムピークにそれぞれ記号A1、A2を付与する。
【0022】
代表スペクトル決定部33は、各ピークA1、A2のピークトップに対応する保持時間(図3のt2)におけるスペクトルをそのピークの同定のための代表スペクトルと決定する(ステップS4)。代表スペクトル決定部33は、代表スペクトルにもそれぞれのクロマトグラムピークに対応した記号#A_1と#A_2を付与し、この記号と共に代表スペクトルを代表スペクトル記憶部37に記憶させる(ステップS5)。
【0023】
以後、1番目の試料に対する処理と2番目以降の試料に対する処理とが異なるため、ステップS6において1番目の試料であるか否かの判別を行う。試料Aは1番目の試料であるので、ステップS6からステップS12に移る。ステップS12において、スペクトル類似度算出部34が、ピークA1の代表スペクトル#A_1とレファレンススペクトル記憶部38に登録された全てのレファレンススペクトルとのスペクトル類似度を算出する。このレファレンススペクトル記憶部38には、登録された各レファレンススペクトルがそれぞれファイル名を付けてファイルに保存されている。ピークA2に対しても同様にスペクトル類似度を算出する。
【0024】
ピーク同定部36は、ピークA1について、得られたスペクトル類似度のうち最も値の大きいものを選択する(ステップS13)。ピーク同定部36は、そのスペクトル類似度とスペクトル類似度閾値記憶部40に記憶された所定のスペクトル類似度閾値とを比較し(ステップS14)、前者が後者よりも大きければそのレファレンススペクトルに対応する成分をピークA1のピーク成分と同定し(ステップS15)、逆に前者が後者よりも小さければピークA1のピーク成分がレファレンススペクトル記憶部38に登録された成分には該当するものがなく未知成分であると判断する(ステップS16)。なお、スペクトル類似度閾値は、本実施例では測定前に測定者が入力することによって0.90と設定されている。ピークA2についても上記と同様にピーク成分を同定するか、又は未知成分であるという判定を行う。本実施例では、ピークA1の代表スペクトル#A_1と全てのレファレンススペクトルとのスペクトル類似度にはスペクトル類似度閾値を上回るものが無く、ピークA1のピーク成分は未知成分と判定される。一方、ピークA2の代表スペクトル#A_2とのスペクトル類似度が最大であるのは、アスピリンのレファレンススペクトル(ファイル名:アスピリン.spd)であり、その値は0.92である。これはスペクトル類似度閾値0.90よりも大きいので、ピークA2のピーク成分はアスピリンと同定される。
【0025】
ピーク同定部36は、図6に示すように、ピークに付与された記号、ピーク保持時間、代表スペクトルの記号、比較対象スペクトル名(ここでは、レファレンススペクトルのファイル名)、スペクトル類似度及び同定されたピーク成分名を成分テーブル記憶部39に記憶させる(ステップS17)。ピーク成分が同定されたピークA2についてはこのすべての項目が記憶されるが、ピーク成分が未知成分と判断されたピークA1についてはスペクトル類似度及び比較対象スペクトル名が空欄とされ、ピーク成分名には仮の名称(本実施例では「#A_1」)が記載される。なお、他の測定によってピークA1のピーク成分が判明すれば、測定者が成分名を入力し所定の登録操作を行うことにより、その代表スペクトルをレファレンススペクトルとして登録することができる。
【0026】
以上で1番目の試料Aに対するピーク同定が終了し、ステップS18を経て2番目の試料Bに対する処理に移る。2番目の試料Bに対して、1番目の試料Aと同様にステップS1〜ステップS5において、それぞれスペクトルの採取、クロマトグラムの作成及びピークの検出(図5のピークB1, B2, B3)、ピーク毎の代表スペクトルの決定が行われ、それらの代表スペクトルが代表スペクトル記憶部37に記憶される。
【0027】
今回は2番目の試料であるので、ステップS6からステップS7に移る。ここでスペクトル類似度算出部34が各ピークの代表スペクトルについてスペクトル類似度を算出するが、1番目の試料における成分同定の場合とは異なり、1番目の試料の代表スペクトル#A_1及び#A_2を比較対象スペクトルとする。即ち、判定対象のピークの代表スペクトル#B_1、#B_2及び#B_3と比較対象のスペクトル#A_1及び#A_2とのスペクトル類似度を計算する。
【0028】
同一ピーク判定部35は、ピークB1の代表スペクトル#B_1について最もスペクトル類似度が大きい1番目の試料のピーク代表スペクトルを選択する(ステップS8)。同一ピーク判定部35は、そのスペクトル類似度と上記スペクトル類似度閾値とを比較し(ステップS9)、前者が後者よりも大きければ、判定対象のピークが比較対象スペクトルに対応するクロマトグラムピークと同一成分によるものであると判定し(ステップS10)。逆に前者が後者よりも小さければ、他の試料のいずれのピークのピーク成分とも同一成分ではないと判定する(ステップS11)。ピークB2及びピークB3に対しても同様の判定を行う。データBにおいては、クロマトグラムピークB1のピーク成分はピークA1と同一成分であり、B2のピーク成分はピークA2と同一成分であると判定され、B3のピーク成分は1番目の試料のいずれのピークのピーク成分とも同一成分ではないと判定される。
【0029】
同一ピーク判定部35は、ピークB1及びピークB2について、ピークに付与された記号、ピーク保持時間、代表スペクトルの記号、比較対象スペクトル名(ここでは、他の試料の代表スペクトル記号)、スペクトル類似度及び同一成分によるものであると判定されたピークの記号を成分テーブル記憶部39に記憶させる(ステップS17)。
【0030】
ピークB3のように、他の試料のいずれのピークのピーク成分とも同一成分ではないと判定されたものに対しては、ステップS11からステップS12に移る。ピーク同定部36は、1番目の試料と同様にレファレンススペクトル記憶部38に登録されたスペクトルを比較対象スペクトルとしたピーク判定を、ステップS12〜S16において行う。本実施例ではクロマトグラムピークB3の代表スペクトルは、1番目の試料の代表スペクトル及びレファレンススペクトルのいずれにも類似しない。よって、ピークB3のピークは1番目の試料のいずれのピークのピーク成分とも同一成分ではなく、かつ未知成分であると判定される。
【0031】
ピーク同定部36は、ピークに付与された記号B3、代表スペクトルの記号を成分テーブル記憶部39に記憶させ、仮のピーク成分名#B_3を記憶させる(ステップS17)。このB3の代表スペクトル#B_3は、3番目以降の試料のピーク判定において、比較対象スペクトルとして用いられる。
【0032】
なお、上記ではB2のピークがピークA2と同一成分によるものと判定したが、その成分までは同定していない。前記のように、異なる試料のピーク同士が同一成分によることさえ分かればよい場合もあるからである。ただし、更に同一ピーク判定部35がピークA2の成分テーブルを参照することにより、B2のピーク成分をA2と同じアスピリンであると同定するようにすることもできる。図6のテーブルには、同一成分と判定されたピーク名と、同定された成分名の両方を記載する例を示した。この例では、ピークA2とのスペクトル比較により間接的にアスピリンであると同定したピークB2に対して、直接ピークB2の代表スペクトルとアスピリンのレファレンススペクトルとの類似度を計算し、その値を成分テーブルに記載することによって、ピークB2がアスピリンであるかどうかを直接判断する指標を与えている。
【0033】
2番目の試料Bに対して行った上記操作を、3番目の試料C以降に対しても順次行う。本実施例では、3番目の試料Cの各ピークはまず1番目の試料Aの各ピークと比較され、その後2番目の試料Bの各ピークと比較される。その結果、クロマトグラムピークC1のピーク成分はピークA1と同一成分、ピークC2のピーク成分はピークA2と同一成分、ピークC3のピーク成分はピークB3と同一成分であるとそれぞれ判定される。
【0034】
上記実施例では、スペクトル類似度閾値のみをピーク判定の基準としたが、判定基準にピーク保持時間許容幅を加えてもよい。この場合、複数試料同士のピーク比較の対象を、ピーク保持時間許容幅範囲内にあるピークのみとする。これにより明らかにピーク保持時間の異なるピーク同士のスペクトルを比較することがなくなるため、そのようなピーク同士を誤って同一成分によるピークと判定する可能性がなくなり、また類似度計算の負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】高速液体クロマトグラフ(HPLC)装置の構成例の概略図。
【図2】コンピュータ18の本実施例における機能を表すブロック図。
【図3】クロマトグラムとスペクトルとの関係を表す図。
【図4】本実施例のデータ処理装置において行われる処理のフローチャート。
【図5】本実施例のクロマトグラムと対応するスペクトル及びレファレンススペクトルを表す図。
【図6】本実施例において作成されたテーブルを表す図。
【符号の説明】
11…溶離液槽
12…ポンプ
13…インジェクタ
14…分離カラム
15…検出器
151…セル
152…光源
153…分光器
154…フォトダイオードアレイ
16…アンプ
17…A/D変換器
18…コンピュータ
21…スペクトル
22…クロマトグラム
【発明の属する技術分野】
本発明は、高速液体クロマトグラフ(HPLC)装置などのクロマトグラフ装置において、検出されるクロマトグラムのピークを同定するための、或いは複数の試料のクロマトグラムのピーク成分の同一性を判定するための、データ処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のクロマトグラフ装置においては、クロマトグラムのピークに対応する成分を同定するために、予め標準ピーク保持時間及びその許容幅と成分の対応表(成分テーブル)を作成していた。また、複数試料に対して測定を行い、試料同士の含有成分や含有量の比較を行う場合には、試料ごとに成分テーブルとの比較を行っていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、このような成分テーブルを用いたピーク成分の同定方法には、以下の問題があった。
まず、クロマトグラム上の近接した位置にピークが現れる複数の成分が試料に含まれている場合、あるいはそのような複数の成分のいずれかが試料に含まれている場合には、ピーク保持時間とその許容幅からは正しくピーク成分を同定することが困難であった。その結果、あるピークを誤って実際とは異なる成分のピークとしてしまうことや、異なる成分に由来する複数のピークが重なっているものを1つのピークとしてしまうことがあった。
【0004】
また、共存成分の影響や試料注入量の多寡により、クロマトグラムピークはシフトすることがある。この場合、成分テーブルの標準ピーク保持時間とのずれが生じ、ピークと成分との自動割り当てが行えないため、測定したクロマトグラムピークの保持時間に応じて成分テーブルの保持時間を適宜調整し、再度割り当て処理を行わなければならなかった。
【0005】
一方、複数の試料を測定する際に、単に試料同士を比較してそれらに含有される成分の同一性のみを調べればよく、含まれる成分を同定する(成分名を決定する)必要まではないこともある。例えば、水のサンプルが複数ある場合、その成分を同定しなくとも、同じ成分が含まれているかどうかさえ分かれば、それらのサンプル同士が同じ水源から得られたものかどうかを知ることができる。しかし、従来の方法では、そのような場合でも各試料毎に同定テーブルとの比較を行い、含まれる成分を同定しなければ、試料同士の同一性を判定することができなかった。この場合、上記の原因によってクロマトグラムのピーク成分を誤って同定したり、或いは同定することができなかった場合、試料同士の同一性を正しく判定することもできない。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、第1に、ピーク保持時間とその許容幅を用いることなくクロマトグラムピークに対応する成分を同定することができるデータ処理装置を提供することにある。第2に、ピーク保持時間とその許容幅を用いることなく、複数の試料のピーク同士の成分の同一性を判定することができるデータ処理装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために成された本発明に係るクロマトグラフデータ処理装置の第1の態様は、
a)カラムから溶出する試料について逐次スペクトルを採取するスペクトル採取手段と、
b)採取されたスペクトルからクロマトグラムを作成し、ピークを検出するピーク検出手段と、
c)既知の成分のスペクトルであるレファレンススペクトルを記憶するレファレンススペクトル記憶手段と、
d)検出されたピークに属するスペクトルの中からピーク代表スペクトルを決定する代表スペクトル決定手段と、
e)ピーク代表スペクトルとレファレンススペクトルとの類似度を算出するスペクトル類似度算出手段と、
f)目的ピークのピーク代表スペクトルとの類似度が所定の閾値を超えるレファレンススペクトルのうち最も類似度が高いものに対応する成分を、該目的ピークの成分と同定するピーク同定手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明に係るクロマトグラフデータ処理装置の第2の態様は、
a)カラムから溶出する試料について逐次スペクトルを採取するスペクトル採取手段と、
b)採取されたスペクトルからクロマトグラムを作成し、ピークを検出するピーク検出手段と、
c)検出されたピークに属するスペクトルの中からピーク代表スペクトルを決定する代表スペクトル決定手段と、
d)ピーク代表スペクトルを記憶する代表スペクトル記憶手段と、
e)2つのピーク代表スペクトルの類似度を算出するスペクトル類似度算出手段と、
f)第1の試料の目的ピークのピーク代表スペクトルとの類似度が所定の閾値を超える第2の試料のピーク代表スペクトルのうち最も類似度が高いものに対応するピークを、該目的ピークと同一成分によるピークであると判定する同一ピーク判定手段と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態】
第1の態様のクロマトグラフ測定装置では、カラムから溶出する試料について、スペクトル採取手段が逐次スペクトルを採取する。スペクトルは、吸収スペクトル・反射スペクトルのいずれでも構わない。ピーク検出手段は、採取された多数のスペクトルからまずクロマトグラムを作成する。例えば、各スペクトルの所定波長範囲内の強度積分値を時間軸に対してプロットすることによりクロマトグラムを作成することができるが、その他の方法でも構わない。ピーク検出手段は、更に、こうして得られたクロマトグラムから所定の基準によりピークを検出する。この基準としては、従来より知られている閾値法や傾斜法(微分法)等を用いることができる。代表スペクトル決定手段は、こうして検出されたピークに属するスペクトルの中から、そのピークの代表スペクトルを決定する。その方法には、ピークトップの保持時間におけるスペクトルを選択する方法や、そのピークに属する全スペクトルの各波長毎の時間平均をとったものを選択する方法等がある。
【0010】
レファレンススペクトル記憶手段には既知の成分のスペクトルであるレファレンススペクトルが記憶されている。多くの場合、複数の成分のレファレンススペクトルが記憶されているが、特殊な用途の場合には、単一の成分のレファレンススペクトルが記憶されているだけであってもよい。
【0011】
スペクトル類似度算出手段は、ピーク代表スペクトルとレファレンススペクトルと間の類似度を算出する。この計算には、例えば特開昭61−111425号公報に記載されている方法を用いることができる。その概略は以下の通りである。目的とするスペクトル中のn種類の波長λk(kは1〜nの整数)における強度Ikを成分とするn次元ベクトルを定義する。代表スペクトルにより定義されるn次元ベクトルとレファレンススペクトルにより定義されるn次元ベクトルとの内積を両ベクトルの大きさの積で除したものをスペクトル類似度とする。両スペクトルが完全に一致した場合、スペクトル類似度は1となる。
【0012】
ピーク同定手段は、スペクトル類似度算出手段を用いて未知試料のクロマトグラムの目的とするピークの代表スペクトルとレファレンススペクトル記憶手段に記憶されているレファレンススペクトルとの間の類似度を算出し、その類似度が所定の閾値を超えるレファレンススペクトルのうち、最も類似度の高いものに対応する成分を、その目的ピークの成分と同定する。目的ピークの代表スペクトルとの類似度が所定の閾値を超えるレファレンススペクトルが1つしかなかった場合、当然、そのレファレンススペクトルに対応する成分が目的ピークの成分であると同定される。また、所定の閾値を超える類似度を持つレファレンススペクトルが存在しなかった場合には、そのピークの成分は同定されない。目的ピークの代表スペクトルと比較されるレファレンススペクトルは、レファレンススペクトル記憶手段に記憶されている全てのレファレンススペクトルとしてもよいが、別の情報によりその範囲が限定され得る場合には、限定された範囲内のレファレンススペクトルとの類似度だけを算出するようにしてもよい。
【0013】
第2の態様のクロマトグラフ測定装置では、複数の試料のピーク同士の成分の同一性を判定する。各試料の代表スペクトルの決定までは上記と同様である。ただし、レファレンススペクトル記憶手段は使用せず、代わりに、ピーク代表スペクトルを記憶する手段を設ける。
【0014】
同一ピーク判定手段は、第1の試料のスペクトルの目的とするピークの代表スペクトルと第2の試料の各ピークのピーク代表スペクトルの類似度をスペクトル類似度算出手段を用いて算出し、所定値を超える類似度の中で最大のものに対応する第2の試料のピークを、第1の試料の目的ピークと同一成分によるものであると判定する。上記同様、所定値を超える類似度が1つしかなければ、それに対応する第2の試料のピークが、第1の試料の目的ピークと同一成分によるものであると判定され、所定値を超える類似度が1つもなければ、第1の試料の目的ピークと同一成分によるピークは第2の試料には無いと判定される。前記のように試料同士の成分の同一性さえ分かればよい場合は、ここまでの操作によってその目的を達することができる。
【0015】
なお、第2の試料に同一成分によるピークが無いと判定された場合、上記第1の態様のクロマトグラフ測定装置と同様に、レファレンススペクトル記憶手段を使用し、そこに記憶されているレファレンススペクトルと比較することにより、成分を同定してもよい。
【0016】
【発明の効果】
本発明の第1の態様によれば、ピーク保持時間ではなくスペクトルによりピーク成分を同定するため、クロマトグラム上の近接した位置に複数のピークが現れる場合等においても、誤って近接ピークの成分と同定することがない。また、共存成分の影響や試料注入量の多寡等によりクロマトグラムピークがシフトしても、ピーク成分を正しく同定することができる。
【0017】
本発明の第2の態様によれば、複数の試料のピーク成分の同一性を判定する際に、各試料のピーク成分を同定することなく、各試料のスペクトルのピーク同士を直接比較するため、ピーク成分の同定の際の誤りの可能性が排除され、より高い確率で同一性を正しく判定することができるようになる。
【0018】
【実施例】
本発明の一実施例である高速液体クロマトグラフ(HPLC)装置の概略を図1に示す。溶離液槽11からポンプ12により吸引された溶離液(移動相)に、インジェクタ13で分析対象の試料液が注入され、分離カラム14へと送り込まれる。試料中の各成分が分離カラム14を通過する時間(保持時間)は成分により異なるため、分離カラム14を通過した溶離液中において試料の各成分は時間的に分離して溶出する。溶出した試料を含む溶出液は検出器15に送られる。検出器15においては、溶出液がセル151を通過し、そのセル151に光源152からの白色光が照射される。白色光はセル151中の溶出液に含まれる成分に特有の波長において吸収を受ける。その透過光を、回折格子などの分光器153により波長分散させ、フォトダイオードアレイ154にて波長毎の強度を検出する。この検出器15の検出信号は増幅器16で増幅され、A/D変換器17でデジタル信号に変換され、コンピュータ18に入力される。
【0019】
図2にコンピュータ18の本実施例における機能をブロック図で示す。一点鎖線で囲まれた領域41はコンピュータ18のCPUが担い、領域42はハードディスクやメモリ等の記憶装置が担う。
【0020】
以下、図2〜図6を用いて、本実施例におけるデータ処理を説明する。まず、A/D変換器17より入力される信号から、スペクトル採取部31は各時刻のスペクトル21(図3)を作成する(図4のステップS1)。
【0021】
ピーク検出部32は、まずステップS2において、各時刻におけるスペクトル21について全波長域で強度の積分または総和をとり、それを時間に対してプロットすることによりクロマトグラム22を作成する(図3)。次に、得られたクロマトグラム22から予め定められた方法によってクロマトグラムピークを検出する(ステップS3)。例えばクロマトグラム22の接線の傾きが正の値でその絶対値が所定値以上になった時刻t1から、接線の傾きが負の値でその絶対値が所定値以下になる時刻t3までを1つのクロマトグラムピークとする。これによって、1番目の試料Aに対する測定により、2つのクロマトグラムピークが検出される(図5)。ピーク検出部32は検出されたクロマトグラムピークにそれぞれ記号A1、A2を付与する。
【0022】
代表スペクトル決定部33は、各ピークA1、A2のピークトップに対応する保持時間(図3のt2)におけるスペクトルをそのピークの同定のための代表スペクトルと決定する(ステップS4)。代表スペクトル決定部33は、代表スペクトルにもそれぞれのクロマトグラムピークに対応した記号#A_1と#A_2を付与し、この記号と共に代表スペクトルを代表スペクトル記憶部37に記憶させる(ステップS5)。
【0023】
以後、1番目の試料に対する処理と2番目以降の試料に対する処理とが異なるため、ステップS6において1番目の試料であるか否かの判別を行う。試料Aは1番目の試料であるので、ステップS6からステップS12に移る。ステップS12において、スペクトル類似度算出部34が、ピークA1の代表スペクトル#A_1とレファレンススペクトル記憶部38に登録された全てのレファレンススペクトルとのスペクトル類似度を算出する。このレファレンススペクトル記憶部38には、登録された各レファレンススペクトルがそれぞれファイル名を付けてファイルに保存されている。ピークA2に対しても同様にスペクトル類似度を算出する。
【0024】
ピーク同定部36は、ピークA1について、得られたスペクトル類似度のうち最も値の大きいものを選択する(ステップS13)。ピーク同定部36は、そのスペクトル類似度とスペクトル類似度閾値記憶部40に記憶された所定のスペクトル類似度閾値とを比較し(ステップS14)、前者が後者よりも大きければそのレファレンススペクトルに対応する成分をピークA1のピーク成分と同定し(ステップS15)、逆に前者が後者よりも小さければピークA1のピーク成分がレファレンススペクトル記憶部38に登録された成分には該当するものがなく未知成分であると判断する(ステップS16)。なお、スペクトル類似度閾値は、本実施例では測定前に測定者が入力することによって0.90と設定されている。ピークA2についても上記と同様にピーク成分を同定するか、又は未知成分であるという判定を行う。本実施例では、ピークA1の代表スペクトル#A_1と全てのレファレンススペクトルとのスペクトル類似度にはスペクトル類似度閾値を上回るものが無く、ピークA1のピーク成分は未知成分と判定される。一方、ピークA2の代表スペクトル#A_2とのスペクトル類似度が最大であるのは、アスピリンのレファレンススペクトル(ファイル名:アスピリン.spd)であり、その値は0.92である。これはスペクトル類似度閾値0.90よりも大きいので、ピークA2のピーク成分はアスピリンと同定される。
【0025】
ピーク同定部36は、図6に示すように、ピークに付与された記号、ピーク保持時間、代表スペクトルの記号、比較対象スペクトル名(ここでは、レファレンススペクトルのファイル名)、スペクトル類似度及び同定されたピーク成分名を成分テーブル記憶部39に記憶させる(ステップS17)。ピーク成分が同定されたピークA2についてはこのすべての項目が記憶されるが、ピーク成分が未知成分と判断されたピークA1についてはスペクトル類似度及び比較対象スペクトル名が空欄とされ、ピーク成分名には仮の名称(本実施例では「#A_1」)が記載される。なお、他の測定によってピークA1のピーク成分が判明すれば、測定者が成分名を入力し所定の登録操作を行うことにより、その代表スペクトルをレファレンススペクトルとして登録することができる。
【0026】
以上で1番目の試料Aに対するピーク同定が終了し、ステップS18を経て2番目の試料Bに対する処理に移る。2番目の試料Bに対して、1番目の試料Aと同様にステップS1〜ステップS5において、それぞれスペクトルの採取、クロマトグラムの作成及びピークの検出(図5のピークB1, B2, B3)、ピーク毎の代表スペクトルの決定が行われ、それらの代表スペクトルが代表スペクトル記憶部37に記憶される。
【0027】
今回は2番目の試料であるので、ステップS6からステップS7に移る。ここでスペクトル類似度算出部34が各ピークの代表スペクトルについてスペクトル類似度を算出するが、1番目の試料における成分同定の場合とは異なり、1番目の試料の代表スペクトル#A_1及び#A_2を比較対象スペクトルとする。即ち、判定対象のピークの代表スペクトル#B_1、#B_2及び#B_3と比較対象のスペクトル#A_1及び#A_2とのスペクトル類似度を計算する。
【0028】
同一ピーク判定部35は、ピークB1の代表スペクトル#B_1について最もスペクトル類似度が大きい1番目の試料のピーク代表スペクトルを選択する(ステップS8)。同一ピーク判定部35は、そのスペクトル類似度と上記スペクトル類似度閾値とを比較し(ステップS9)、前者が後者よりも大きければ、判定対象のピークが比較対象スペクトルに対応するクロマトグラムピークと同一成分によるものであると判定し(ステップS10)。逆に前者が後者よりも小さければ、他の試料のいずれのピークのピーク成分とも同一成分ではないと判定する(ステップS11)。ピークB2及びピークB3に対しても同様の判定を行う。データBにおいては、クロマトグラムピークB1のピーク成分はピークA1と同一成分であり、B2のピーク成分はピークA2と同一成分であると判定され、B3のピーク成分は1番目の試料のいずれのピークのピーク成分とも同一成分ではないと判定される。
【0029】
同一ピーク判定部35は、ピークB1及びピークB2について、ピークに付与された記号、ピーク保持時間、代表スペクトルの記号、比較対象スペクトル名(ここでは、他の試料の代表スペクトル記号)、スペクトル類似度及び同一成分によるものであると判定されたピークの記号を成分テーブル記憶部39に記憶させる(ステップS17)。
【0030】
ピークB3のように、他の試料のいずれのピークのピーク成分とも同一成分ではないと判定されたものに対しては、ステップS11からステップS12に移る。ピーク同定部36は、1番目の試料と同様にレファレンススペクトル記憶部38に登録されたスペクトルを比較対象スペクトルとしたピーク判定を、ステップS12〜S16において行う。本実施例ではクロマトグラムピークB3の代表スペクトルは、1番目の試料の代表スペクトル及びレファレンススペクトルのいずれにも類似しない。よって、ピークB3のピークは1番目の試料のいずれのピークのピーク成分とも同一成分ではなく、かつ未知成分であると判定される。
【0031】
ピーク同定部36は、ピークに付与された記号B3、代表スペクトルの記号を成分テーブル記憶部39に記憶させ、仮のピーク成分名#B_3を記憶させる(ステップS17)。このB3の代表スペクトル#B_3は、3番目以降の試料のピーク判定において、比較対象スペクトルとして用いられる。
【0032】
なお、上記ではB2のピークがピークA2と同一成分によるものと判定したが、その成分までは同定していない。前記のように、異なる試料のピーク同士が同一成分によることさえ分かればよい場合もあるからである。ただし、更に同一ピーク判定部35がピークA2の成分テーブルを参照することにより、B2のピーク成分をA2と同じアスピリンであると同定するようにすることもできる。図6のテーブルには、同一成分と判定されたピーク名と、同定された成分名の両方を記載する例を示した。この例では、ピークA2とのスペクトル比較により間接的にアスピリンであると同定したピークB2に対して、直接ピークB2の代表スペクトルとアスピリンのレファレンススペクトルとの類似度を計算し、その値を成分テーブルに記載することによって、ピークB2がアスピリンであるかどうかを直接判断する指標を与えている。
【0033】
2番目の試料Bに対して行った上記操作を、3番目の試料C以降に対しても順次行う。本実施例では、3番目の試料Cの各ピークはまず1番目の試料Aの各ピークと比較され、その後2番目の試料Bの各ピークと比較される。その結果、クロマトグラムピークC1のピーク成分はピークA1と同一成分、ピークC2のピーク成分はピークA2と同一成分、ピークC3のピーク成分はピークB3と同一成分であるとそれぞれ判定される。
【0034】
上記実施例では、スペクトル類似度閾値のみをピーク判定の基準としたが、判定基準にピーク保持時間許容幅を加えてもよい。この場合、複数試料同士のピーク比較の対象を、ピーク保持時間許容幅範囲内にあるピークのみとする。これにより明らかにピーク保持時間の異なるピーク同士のスペクトルを比較することがなくなるため、そのようなピーク同士を誤って同一成分によるピークと判定する可能性がなくなり、また類似度計算の負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】高速液体クロマトグラフ(HPLC)装置の構成例の概略図。
【図2】コンピュータ18の本実施例における機能を表すブロック図。
【図3】クロマトグラムとスペクトルとの関係を表す図。
【図4】本実施例のデータ処理装置において行われる処理のフローチャート。
【図5】本実施例のクロマトグラムと対応するスペクトル及びレファレンススペクトルを表す図。
【図6】本実施例において作成されたテーブルを表す図。
【符号の説明】
11…溶離液槽
12…ポンプ
13…インジェクタ
14…分離カラム
15…検出器
151…セル
152…光源
153…分光器
154…フォトダイオードアレイ
16…アンプ
17…A/D変換器
18…コンピュータ
21…スペクトル
22…クロマトグラム
Claims (2)
- a)カラムから溶出する試料について逐次スペクトルを採取するスペクトル採取手段と、
b)採取されたスペクトルからクロマトグラムを作成し、ピークを検出するピーク検出手段と、
c)既知の成分のスペクトルであるレファレンススペクトルを記憶するレファレンススペクトル記憶手段と、
d)検出されたピークに属するスペクトルの中からピーク代表スペクトルを決定する代表スペクトル決定手段と、
e)ピーク代表スペクトルとレファレンススペクトルとの類似度を算出するスペクトル類似度算出手段と、
f)目的ピークのピーク代表スペクトルとの類似度が所定の閾値を超えるレファレンススペクトルのうち最も類似度が高いものに対応する成分を、該目的ピークの成分と同定するピーク同定手段と、
を備えることを特徴とするクロマトグラフデータ処理装置。 - a)カラムから溶出する試料について逐次スペクトルを採取するスペクトル採取手段と、
b)採取されたスペクトルからクロマトグラムを作成し、ピークを検出するピーク検出手段と、
c)検出されたピークに属するスペクトルの中からピーク代表スペクトルを決定する代表スペクトル決定手段と、
d)ピーク代表スペクトルを記憶する代表スペクトル記憶手段と、
e)2つのピーク代表スペクトルの類似度を算出するスペクトル類似度算出手段と、
f)第1の試料の目的ピークのピーク代表スペクトルとの類似度が所定の閾値を超える第2の試料のピーク代表スペクトルのうち最も類似度が高いものに対応するピークを、該目的ピークと同一成分によるピークであると判定する同一ピーク判定手段と、
を備えることを特徴とするクロマトグラフデータ処理装置。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2002197407A JP2004037374A (ja) | 2002-07-05 | 2002-07-05 | クロマトグラフデータ処理装置 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2002197407A JP2004037374A (ja) | 2002-07-05 | 2002-07-05 | クロマトグラフデータ処理装置 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2004037374A true JP2004037374A (ja) | 2004-02-05 |
Family
ID=31705189
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2002197407A Pending JP2004037374A (ja) | 2002-07-05 | 2002-07-05 | クロマトグラフデータ処理装置 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2004037374A (ja) |
Cited By (4)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2006047305A (ja) * | 2005-07-08 | 2006-02-16 | Nec Corp | ガス特定装置、ガス特定方法、ガス対処支援システムおよびガス対処支援方法 |
JP2008058156A (ja) * | 2006-08-31 | 2008-03-13 | Hitachi High-Technologies Corp | クロマトグラフ分析装置 |
JP2009019995A (ja) * | 2007-07-12 | 2009-01-29 | Hitachi High-Technologies Corp | 分析データ処理装置およびファイル保存方法 |
JP7463944B2 (ja) | 2020-11-09 | 2024-04-09 | 株式会社島津製作所 | 波形処理支援装置および波形処理支援方法 |
-
2002
- 2002-07-05 JP JP2002197407A patent/JP2004037374A/ja active Pending
Cited By (4)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2006047305A (ja) * | 2005-07-08 | 2006-02-16 | Nec Corp | ガス特定装置、ガス特定方法、ガス対処支援システムおよびガス対処支援方法 |
JP2008058156A (ja) * | 2006-08-31 | 2008-03-13 | Hitachi High-Technologies Corp | クロマトグラフ分析装置 |
JP2009019995A (ja) * | 2007-07-12 | 2009-01-29 | Hitachi High-Technologies Corp | 分析データ処理装置およびファイル保存方法 |
JP7463944B2 (ja) | 2020-11-09 | 2024-04-09 | 株式会社島津製作所 | 波形処理支援装置および波形処理支援方法 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
Katajamaa et al. | Data processing for mass spectrometry-based metabolomics | |
EP0437829B1 (en) | Method for distinguishing mixtures of chemical compounds | |
EP3088872B1 (en) | Raman spectroscopy method used for detecting sample in accommodating body | |
Reichenbach et al. | Smart Templates for peak pattern matching with comprehensive two-dimensional liquid chromatography | |
JP6620894B2 (ja) | クロマトグラフ質量分析用データ解析装置 | |
JP6573028B2 (ja) | データ処理装置 | |
JP2011153966A (ja) | 三次元クロマトグラム用データ処理方法及びデータ処理装置 | |
Reichenbach et al. | Comprehensive feature analysis for sample classification with comprehensive two‐dimensional LC | |
US10317378B2 (en) | Data processing system and data processing method for chromatograph | |
Komsta | Chemometrics in fingerprinting by means of thin layer chromatography | |
CN110879219A (zh) | 基于三维荧光光谱的水中矿物油检测方法 | |
JPH07218491A (ja) | クロマトグラフ用検出装置 | |
JP2004037374A (ja) | クロマトグラフデータ処理装置 | |
EP1585969A2 (en) | Method and apparatus for automated detection of peaks in spectroscopic data | |
JP4062155B2 (ja) | クロマトグラフ用データ処理装置 | |
JP7139941B2 (ja) | 電気泳動分離データの解析装置 | |
JP4586288B2 (ja) | クロマトグラフ用データ処理装置 | |
JPH02196959A (ja) | クロマトグラフ用データ処理装置 | |
JP2002202259A (ja) | 赤外分光光度計用データ処理装置 | |
JP2023033398A (ja) | スペクトル解析装置用の成分同定装置及びその方法、コンピュータプログラム | |
JP2004053283A (ja) | クロマトグラフデータ処理装置 | |
JP3541577B2 (ja) | Pda検出器用データ処理装置 | |
JP2924267B2 (ja) | クロマトグラフ用データ処理装置 | |
US11927575B2 (en) | Content determination assistance system and content determination assistance method | |
JPS62172261A (ja) | 多波長検出器を用いたクロマトグラムにおけるピ−クスペクトルからのバツクグランドシフトの除去法 |