JP2004027155A - 希土類蛍光錯体の水性分散体の製造方法および水性記録液の製造方法 - Google Patents

希土類蛍光錯体の水性分散体の製造方法および水性記録液の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】脱溶剤工程及び/又は分散工程において、特定温度で前記工程を行うことにより、分散粒子を一定の範囲の体積平均粒子径に保ち、分散性に優れた希土類蛍光錯体の水性分散体を提供することである。また、メディアの混入量がより少なく、且つ、メディア自体の交換頻度も少なくて済む分散体の製造方法を提供することにある。
【解決手段】希土類蛍光錯体とアニオン性基含有有機高分子化合物とを有機溶剤を含有する水性媒体に分散し、脱溶剤する水性分散体の製造方法であって、前記製造方法における脱溶剤工程及び/又は分散工程の温度を30〜50℃で行うことを特徴とする希土類蛍光錯体の水性分散体の製造方法。
【選択図】 なし。

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、希土類蛍光錯体の水性分散体の製造方法、ならびに前記水性分散体を用いる水性記録液の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、証券印刷などにおいて、偽造防止などの手段として、ある特定波長の光を吸収し、特定波長の光を蛍光として発光するような蛍光物質が利用されてきた。また、人間の目には見えない紫外部の光を吸収・励起し、可視光部分に蛍光を発するような物質を使用することで、無色の偽造防止インクを調製することができる。さらに、このインクを用いてバーコードを印字すれば、無色のバーコードの作成も可能である。
【0003】
この様な蛍光物質としては種々のものが知られているが、普通の有機蛍光化合物は蛍光寿命が100ナノ秒以下と短いので、前記した用途には不向きである。
【0004】
こうした欠点が改良された蛍光物質として、蛍光寿命が数百マイクロ秒である希土類蛍光錯体が最近注目されている。この希土類蛍光錯体は、ユーロピウム、サマリウム、テルビニウム、ジスプロシウム等の希土類金属と各種有機配位子とが錯形成して生ずる。この様な蛍光物質を用いた偽造防止印刷を行う技術としては、特開平3−166276号公報が知られている。
【0005】
しかし、前記した公報に記載された技術は、希土類蛍光錯体の有機溶液系に関するものであり、環境問題に悪影響を与えることは必至であった。そこで、最近の環境問題に対する意識の高まりと、作業者の労働安全衛生上の観点から、水性化のニーズが高くなってきている。これを受けて、郵便物へのバーコードに使用している蛍光インクに関しても、インクジェット法で印字可能な水性インク原液の招請が平成12年9月14日の官報に公表されている。
【0006】
有機溶液系では、希土類蛍光錯体の溶解度以上の濃度であれば、製造時の温度が高くなり溶剤が蒸発して濃度が変化しない限り、析出する等の問題は発生しないが、水に溶解しない希土類蛍光錯体を有機溶剤を含んだ水性媒体中に分散させた水性分散体では、温度による分散破壊が懸念される。
【0007】
一方、前記したバーコードやその他の記録液においても、既に有機溶液系で実用化されている。ある特定の蛍光スペクトルを検出する様な読み取り装置が製品化され、希土類蛍光錯体そのものを水に溶解する様な化合物(構造)に変更することは困難である。従って、有機溶剤に溶解する、すなわち親油的であり、且つ、疎水的である希土類蛍光錯体を用いて水溶性のインクを作成するには有機溶剤を含んだ水性媒体中への分散が必至である。
【0008】
ところが、希土類蛍光錯体は有機溶剤に溶解する錯体であるので、分散媒体中に部分的に有機溶剤が存在している場合、完全には溶解しないが部分的に溶解した状態が出来ることにより、分散粒子の結晶成長が起きやすくなる。これは界面活性剤によりミセル集合体を作り、有機溶剤を含んだ水性媒体中に疎水物が乳化している様な系でも、ミセル間での物質のやりとりがあるために起こる。特に温度をかけると、熱により分散粒子の並進運動が激しくなり、加えて膜の流動性も上がってしまい、融合等の現象により、ミセル間での物質のやりとりが行われやすくなる事はよく知られている。
【0009】
従って、温度をかけることで、希土類蛍光錯体そのものの溶解度が上がる効果も加わり、分散粒子の結晶成長は起こりやすくなる。このため、この様な希土類蛍光錯体を用い、通常の印刷インクや塗料等で使用可能な程度に一定の範囲の体積平均粒子径を保ったままで分散性に優れた水性分散体を得ることは困難であった。また、温度をかけることで、メディアの摩耗が促進されて分散体中にメディアが混入したり、大量生産時にはメディア自体の交換頻度が高くなるという欠点もある。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、前記希土類蛍光錯体を用い、一定の範囲の体積平均粒子径を保ち、分散性に優れた水性分散体を提供することにある。また、メディアの混入量がより少なく、且つ、メディア自体の交換頻度も少なくて済む分散体の製造方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、希土類蛍光錯体の水性分散体を製造するには、脱溶剤工程及び/又は分散工程がどの様な温度でもインクジェットプリンター用インクの様な水性記録液の調製に適した(以下、一定の範囲と称す)体積平均粒子径を保った水性分散体が得られるわけではなく、前記工程の特定温度において、一定の範囲の体積平均粒子径を保ったままで分散性に優れた水性分散体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
また、前記水性分散体を製造するにあたり、分散工程がどの様な温度でもメディアの混入量がより少なく、メディア自体の交換頻度も少なくて済むわけではなく、前記工程の特定温度において、メディアの混入量がより少なく、且つ、メディア自体の交換頻度も少なくて済む分散体の製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち本発明は、希土類蛍光錯体とアニオン性基含有有機高分子化合物とを有機溶剤を含有する水性媒体に分散し、脱溶剤する水性分散体の製造方法であって、前記製造方法における脱溶剤工程及び/又は分散工程の温度を30〜50℃で行うことを特徴とする希土類蛍光錯体の水性分散体の製造方法に関する。
【0014】
更に本発明は、前記製造方法により希土類蛍光錯体の水性分散体を製造し、これを希土類蛍光錯体の含有率が質量換算で1〜5%となる様にする水性記録液の製造方法に関する。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の製造方法で得られる希土類蛍光錯体の水性分散体において、その水性媒体に分散している粒子(分散粒子)は、希土類蛍光錯体とアニオン性基含有有機高分子化合物粒子であっても良いが、希土類蛍光錯体がアニオン性基含有有機高分子化合物で被覆された粒子である、マイクロカプセル型複合粒子であっても良い。
【0017】
本発明の製造方法によれば、前記分散粒子を一定の範囲の体積平均粒子径を保った状態で分散させることが出来る。その結果、分散性に優れた水性分散体を製造することができる。本発明における水性媒体とは、有機溶剤のみ又は有機溶剤を質量換算で5〜40%含有する液媒体をいう。
【0018】
本発明の製造方法で使用する希土類蛍光錯体としては、例えば、“生物試料分析 Vol.23,No.2(2000)や日本化学会誌,1981,No.1”等に記載されている様に公知慣用のものが使用できる。三価希土類イオンの中でユーロピウム(Eu)、サマリウム(Sm)、テルビウム(Tb)及びジスプロシウム(Dy)は特定の配位子と錯生成させることにより、金属イオン特有の蛍光を強く発せさせることができるので好ましい。希土類錯体の蛍光は、錯体内の配位子から中心イオンへのエネルギー移動によるもので、配位子の近紫外光に対する光の吸収により励起され、可視光部分に希土類イオンに特有の蛍光を発する。蛍光強度が大きいものを選択して用いることが好ましい。
【0019】
前記好適な特定の配位子としては、例えば、β−ジケトン類配位子(2−ナフトイルトリフルオロアセトン(NTFA)、2−テノイルトリフルオロアセトン(TTA)、ベンゾイルトリフルオロアセトン(BFA)、トリフルオロアセチルアセトン)等の低分子配位子が挙げられる。さらに、前記低分子配位子と共に1,10−フェナントロリン(PHEN)或いはトリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)を付加させる(三元錯体を形成)ことでより蛍光強度を増大させることが出来る。また、前記低分子配位子以外にピロリドン構造やフラン構造、あるいはポリエチレングリコール鎖等を有する高分子化合物を用いてもよい。
【0020】
本発明の製造方法で使用するアニオン性基含有有機高分子化合物としては、公知慣用のものがいずれも使用できる。例えば、架橋部分を有するアクリル酸エステル系重合体、架橋部分を有さないアクリル酸エステル系重合体、架橋部分を有するメタクリル酸エステル系重合体、架橋部分を有さないメタクリル酸エステル系重合体を挙げることができる。本発明の製造方法においては、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルとの両方を包含して(メタ)アクリル酸エステルと呼ぶものとする。また、(メタ)アクリル酸エステル系重合体とは、(メタ)アクリル酸エステルを主成分として重合した重合体を意味する。
【0021】
本発明の製造方法で使用するアニオン性基含有有機高分子化合物としては、具体的には、アニオン性基含有モノマーと、(メタ)アクリル酸のアルキルエステル及び/又は(メタ)アクリル酸の低級ヒドロキシアルキルエステル等のラジカル重合性不飽和カルボン酸エステルとの重合体を用いることが出来る。
【0022】
アニオン性基含有有機高分子化合物の使用量は、希土類蛍光錯体の種類やその比表面積により適宜調節する必要はあるが、前記希土類蛍光錯体に対して質量換算で5〜50%(不揮発分での比率)となる量である。
【0023】
本発明の製造方法で使用するアニオン性基含有有機高分子化合物は、アニオン性基を有していれば特に限定されるものではない。例えば、カルボキシル基、スルホン基、ホスホ基、チオカルボキシル基等のアニオン性基を含有するモノマーの一種以上と、これらアニオン性基含有モノマーと共重合し得るその他のモノマーを共重合させて得られるアニオン性基含有有機高分子化合物が挙げられる。
【0024】
なかでも、原料モノマーの入手のしやすさ、価格等を考慮すると、カルボキシル基またはスルホン基を含有するアニオン性基含有有機高分子化合物が好ましく、電気的中性状態とアニオン状態の共存範囲を広く制御できる点でカルボキシル基を含有するアニオン性基含有有機高分子化合物が特に好ましい。
【0025】
かかるアニオン性基含有有機高分子化合物としては、例えば、その構造中に架橋部分を有していてもいなくともよい。
【0026】
カルボキシル基を含有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、4−ビニル安息香酸等の不飽和カルボン酸類;コハク酸ビニル、マレイン酸アリル、テレフタル酸ビニル、トリメトリット酸アリル等の多塩基酸不飽和エステル類が挙げられる。 また、スルホン酸基を含有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸2−スルホエチル、メタクリル酸4−スルホフェニル等の不飽和カルボン酸スルホ置換アルキル、またはアリールエステル類:スルホコハク酸ビニル等のスルホカルボン酸不飽和エステル類;スチレン−4−スルホン酸等のスルホスチレン類を挙げることができる。
【0027】
アニオン性基含有モノマーと共重合し得るその他のモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2,3−エポキシプロピル、マレイン酸ジメチル、フマル酸ジメチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−アミノエチル、等の不飽和脂肪酸エステル類;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド等の不飽和脂肪酸アミド類;(メタ)アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の不飽和エーテル類;スチレン、α―メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、4−メトキシスチレン、4−クロロスチレン、等スチレン類;エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−オクテン、ビニルシクロヘキサン、4−ビニルシクロヘキセン、等の不飽和炭化水素類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、3−クロロプロピレン、等の不飽和ハロゲン化炭化水素類;4−ビニルピリジン、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルピロリドン、等のビニル置換複素環化合物類;上記例示単量体中のカルボキシル基、水酸基、アミノ基、等活性水素を有する置換基を含有する単量体とエチレンオキシド、プロピレンオキシド、シクロヘキセンオキシド等、エポキシド類との反応生成物;上記例示単量体中の水酸基、アミノ基等を有する置換基を含有する単量体と酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ヘキサン酸、デカン酸、ドデカン酸等のカルボン酸類との反応生成物等を挙げることができる。
【0028】
アニオン性基含有有機高分子化合物を、架橋性基を有するものとする場合には、架橋性基を有するモノマーを併用することが出来る。この際の架橋性基を有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸2,3−エポキシプロピル、アクリル酸2,3−エポキシブチル、アクリル酸2,3−エポキシシクロヘキシル、メタクリル酸2,3−エポキシプロピル、メタクリル酸2,3−エポキシブチル、メタクリル酸2,3−エポキシシクロヘキシル等のエポキシ基を有する不飽和脂肪酸類の少なくとも1以上からなるモノマーを挙げることが出来る。
【0029】
かかるアニオン性基含有有機高分子化合物は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の従来より公知の反応方法によって合成することができる。
【0030】
本発明の製造方法で使用されるアニオン性基含有有機高分子化合物の平均分子量は、分散体の粘度が低く、分散安定性も良好で、インクジェットプリンター用インクの様な水性記録液に適用した場合に長期間安定した印字を行わせることが容易な点で、2,000〜100,000の範囲にあることが好ましい。なかでも、5,000〜50,000の範囲にあることが特に好ましい。
【0031】
前記アニオン性基含有有機高分子化合物の平均分子量がこの範囲にあると、分散安定性が高く、低粘度の水性分散体が得られる。また、インクジェットプリンター用インクの様な水性記録液に適用した場合に、長期間安定した印字が行える等の印字特性に優れた水性分散体が得られる。
【0032】
本発明の製造方法で使用されるアニオン性基含有有機高分子化合物の酸価は30〜220mgKOH/gの範囲にあることが好ましく、なかでも50〜150の範囲にあることが好ましく、100〜130の範囲にあることが特に好ましい。本発明における酸価とは、樹脂1g中に含まれる遊離脂肪酸を中和するのに必要な水酸化カリウム(KOH)のmg数をいう。
【0033】
前記アニオン性基含有有機高分子化合物の酸価がこの範囲にあると、アニオン性基含有有機高分子化合物の使用量が少ない領域において分散性や分散安定性に優れた水性分散体が得られ、また、インクジェットプリンター用インクの様な水性記録液に適用した場合に、印字安定性や画像の耐水性に優れた水性分散体が得られる。
【0034】
さらに、本発明の製造方法で使用されるアニオン性基含有有機高分子化合物のガラス転移点は−20〜60℃の範囲にあることが好ましい。ガラス転移点がこの範囲にあると、インクジェットプリンター用インクの様な水性記録液に適用した場合に、印字安定性が高く、耐摩擦性や耐棒積み性等の画像保存性に優れた水性分散体が得られる。本発明におけるガラス転移点とは、高分子物質を加熱した場合にガラス状のかたい状態からゴム状に変わる時の温度をいう。
【0035】
本発明の製造方法で得られる希土類蛍光錯体の水性分散体中におけるアニオン性基含有有機高分子化合物は、アニオン性基の少なくとも一部が塩基性物質によってイオン化された形態をとっていることが分散性、分散安定性の発現のうえで好ましい。この形態を呈していると、界面活性剤や分散安定剤等なしに或いは極少量で、当該有機高分子化合物が水性媒体に、安定的に分散することが可能となる上、界面活性剤や分散安定剤等の使用によるその他の技術上の不都合も解消されることになるので好ましい。本発明の製造方法では、前記有機高分子化合物の性質を、自己分散性と称する。
【0036】
アニオン性基のうちイオン化された基の最適割合は、質量換算で通常30〜100%、なかでも70〜100%の範囲にあることが好ましい。このイオン化された基の割合はアニオン性基と塩基性物質のモル比を意味しているのではなく、解離平衡を考慮に入れたものである。例えば、アニオン性基がカルボキシル基の場合、化学量論的に当量の強塩基性物質を用いても解離平衡によりイオン化された基(カルボキシラート基)の割合は質量換算で100%未満であって、カルボキシラート基とカルボキシル基の混在状態である。
【0037】
このように、アニオン性基含有有機高分子化合物の、アニオン性基の少なくとも一部をイオン化するために用いられる塩基性物質としては、公知慣用のものが使用されるが、なかでもアンモニア、第一級、第二級もしくは第三級の有機アミン(塩基性含窒素複素環化合物を含む)、水酸化アルカリ金属からなる群から選ばれるものが使用されることが好ましい。前記塩基性物質がアニオン性基の少なくとも一部をイオン化することにより、カルボキシラート基の対イオンは、アンモニウムイオン(塩基性含窒素複素環化合物のプロトン化カチオンを含む)、アルカリ金属イオンからなる群から選ばれるカチオンとなる。
【0038】
また、架橋性基を有するアニオン性基含有有機高分子化合物は、その架橋性基を任意の段階にて架橋させることにより、それに基づく架橋部分を形成することが出来るが、その架橋性基としては、比較的穏和な条件にて架橋出来る等の点で、エポキシ基が好ましい。
【0039】
本発明の製造方法においてアニオン性基含有有機高分子化合物が架橋性基を含有している場合、水性分散体製造プロセスにおいて開環反応させ、架橋させることができる。
【0040】
本発明の製造方法で得られる希土類蛍光錯体の水性分散体は、希土類蛍光錯体、アニオン性基含有有機高分子化合物、アニオン基をイオン化するために必要な塩基性物質、および水の混合物をビーズミルまたはペイントシェーカー(分散装置)等のメディアを含んだ系で湿式摩砕、或いは湿式分散して得ることができる(本工程を以下、分散工程と称す)。必要であれば、酸析や転相乳化等の各種カプセル化法を採用し、希土類蛍光錯体を前記アニオン性基含有有機高分子化合物で被覆することで、複合粒子として、より分散安定性を高めることが出来る。
【0041】
この分散工程は、水性媒体の液温が30〜50℃となる様に行う。その際、前記分散装置として、例えば、ビーズミルを使用する場合には、冷却装置を取り付けて分散工程での水性媒体の液温を30〜40℃に保って分散することが粒子の結晶成長を抑制できる点から好ましい。
【0042】
また、前記温度で分散を行うことが、メディアの摩耗が抑制でき、分散体へのメディアの混入量がより少なくて済むと同時に、大量生産を行った場合のメディア自体の交換頻度も少なくて済む点から好ましい。
【0043】
その後、水性媒体中に含有されていた有機溶剤を除去(本工程を以下、脱溶剤工程と称す)することで、実質的に有機溶剤を含まない希土類蛍光錯体の水性分散体を得ることができる。有機溶剤を含有する水性媒体からこの様な水を含まない水性分散体を製造する場合には、脱溶剤工程が必要となる。本発明においてこの脱溶剤工程は、水性媒体の液温が30〜50℃となる様に行う。脱溶剤は蒸留により行うことができるが、温度が50℃以上となる場合には、常圧蒸留から減圧蒸留に代えて、30〜50℃の温度範囲で溶剤を除去することが好ましい。
【0044】
本発明の製造方法で得られる水性分散体は、前記の通り、脱溶剤工程と分散工程の両工程とも30〜50℃で行うことが好ましい。なかでも脱溶剤工程又は分散工程よりも脱溶剤工程と分散工程とをこの条件にて行うことが分散粒子を一定の範囲の体積平均粒子径に保ち、分散性の優れた水性分散体を得る上ではより好ましい。
【0045】
本発明の製造方法で使用する希土類蛍光錯体は、ブラックライトの光の吸収によって励起され、可視光部分に希土類イオン特有の蛍光を発せさせることが出来る。ここでブラックライトの光とは、近紫外線の330から360nmの範囲で、主波長が352nmの光を意味する。
【0046】
本発明の製造方法で得られる希土類蛍光錯体の水性分散体は、前記公知慣用の用途にいずれも使用できるが、なかでも前記水性分散体中の希土類蛍光錯体の含有率が質量換算で1〜5%となる様に調製した水性記録液は、本発明の水性顔料分散体の最も好ましい用途の一つである。
【0047】
本発明の水性記録液は、最も好ましい用途の一つであるインクジェットプリンター用インク以外にサインペン、マーカー等の文具類や偽造防止インクとしても使用することができる。
【0048】
本発明の水性記録液は、希土類蛍光錯体およびアニオン性基含有有機高分子化合物を含有する水性分散体に、水溶性有機溶剤、水等を混合して調製される。必要に応じて、界面活性剤、水溶性樹脂、防腐剤、粘度調整剤、pH調整剤、キレート化剤等を添加することもできる。
【0049】
前記水性記録液の調整に用いることのできる水溶性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノール、2−メトキシエタノール、等のアルコール類;1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、2,2’−オキシビスエタノール、2,2’−エチレンジオキシビス(エタノール)、チオジエタノール、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール等の多価アルコール類;ジメチルホルムアミド、N−メチル−ピロリドン、等のアミド類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、等のエーテル類が挙げられる。
【0050】
前記水性記録液中の水溶性有機溶剤の含有割合は、質量換算で50%以下が好ましく、なかでも5〜40%の範囲にあることが特に好ましい。
【0051】
前記水性記録液に添加される界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、両性イオン性、非イオン性のいずれの界面活性剤を使用しても良い。
【0052】
水溶性樹脂は、定着性や粘度調節、速乾性を上げる目的で、必要に応じて使用することができる。
【0053】
【実施例】
次に本発明を合成例、実施例、比較例を示して具体的に説明する。以下、断りのない限り、%は質量%、部は質量部を意味する。
【0054】
[合成例1](アニオン性基含有有機高分子化合物の合成)
攪拌装置、滴下装置、温度センサー、および上部に窒素導入装置を有する環流装置を取り付けた反応容器を有する自動重合反応装置(重合試験機DSL−2AS型、轟産業(株)製)の反応容器にメチルエチルケトン1,100部を仕込み、攪拌しながら反応容器内を窒素置換した。反応容器内を窒素雰囲気に保ちながら80℃に昇温させた後、滴下装置よりメタクリル酸ブチル225部、アクリル酸n−ブチル225部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル150部、メタクリル酸170部、スチレン200部、メタクリル酸2,3−エポキシプロピル30部および「パーブチル O」(有効成分ペルオキシ2−エチルヘキサン酸t−ブチル、日本油脂(株)製)100部の混合液を2時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに同温度で15時間反応を継続させて、酸価110、平均分子量23,000のアニオン性基含有有機高分子化合物(A−1)の溶液を得た。反応終了後、樹脂溶液の不揮発分を47%に調整した。
【0055】
[合成例2](アニオン性基含有有機高分子化合物の合成)
攪拌装置、滴下装置、温度センサー、および上部に窒素導入装置を有する環流装置を取り付けた反応容器を有する自動重合反応装置(重合試験機DSL−2AS型、轟産業(株)製)の反応容器にメチルエチルケトン1,100部を仕込み、攪拌しながら反応容器内を窒素置換した。反応容器内を窒素雰囲気に保ちながら75℃に昇温させた後、滴下装置よりメタクリル酸ブチル119部、メタクリル酸ドデシル286部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル75部、メタクリル酸200部、スチレン300部、メタクリル酸2,3−エポキシプロピル20部および「パーブチル O」(有効成分ペルオキシ2−エチルヘキサン酸t−ブチル、日本油脂(株)製)100部の混合液を2時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに同温度で15時間反応を継続させて、酸価130、平均分子量29,500のアニオン性基含有有機高分子化合物(A−2)の溶液を得た。反応終了後、樹脂溶液の不揮発分を47%に調整した。
【0056】
アニオン性基含有有機高分子化合物として、合成例1から2に示した高分子化合物はいずれも以下に示す実施例により使用可能であった。
【0057】
[実施例1](希土類蛍光錯体の水性分散体の製造)
合成例2で得たアニオン性基含有有機高分子化合物、20%水酸化ナトリウム水溶液、水および希土類蛍光錯体(白色粉末、Lumilux Red CD346 Honeywell社製)を仕込み、攪拌、混合した。ここでそれぞれの仕込量は、希土類蛍光錯体が1,000部、アニオン性基含有有機高分子化合物は希土類蛍光錯体に対して不揮発分で50%となる量、20%水酸化ナトリウム水溶液はアニオン性基含有有機高分子化合物の酸価が90%中和される量、水は混合液の不揮発分を30%とするのに必要な量である。
【0058】
前記混合液に直径0.5mmのジルコニアビーズ25、000部を加える。以上の混合物をペイントシェーカーにセットし、混合物の液温が30〜40℃となるように分散室の室温を設定して2時間振とう分散した。
【0059】
ビーズを200メッシュのシートメッシュで濾し分け、使用したアニオン性基含有有機高分子化合物が含んでいた有機溶剤を42 〜 50℃の温度で減圧蒸留を行った。
分散液に攪拌しながら10%塩酸を滴下してpH3.5に調整したのち、固形分をヌッチェ式濾過装置で濾過、水洗した。ケーキを容器に採り、アニオン性基含有有機高分子化合物の酸価が95%中和される量の20%水酸化カリウム水溶液と水を加え、分散攪拌機(TKホモディスパ20型、特殊機化工業(株)製)にて再度分散し、白色の希土類蛍光錯体の水性分散体を得た。
【0060】
[実施例2](希土類蛍光錯体の水性分散体の製造)
実施例1と同様の組成で、分散前の混合液を作成した。この混合液を直径0.3mmのジルコニアビーズを充填した分散装置(SCミル SC100/32型、三井鉱山(株)製)に通し、循環方式により5時間分散した。分散装置の回転数は2700回転/分とし、冷却用ジャケットには冷水を通して分散液の液温が30〜40℃に保たれるようにした。
【0061】
アニオン性基含有有機高分子化合物が含んでいた有機溶剤を42 〜 50℃の温度で減圧蒸留を行った。
分散液に攪拌しながら10%塩酸を滴下してpH3.5に調整したのち、固形分をヌッチェ式濾過装置で濾過、水洗した。ケーキを容器に採り、アニオン性基含有有機高分子化合物の酸価が95%中和される量の20%水酸化カリウム水溶液と水を加え、分散攪拌機(TKホモディスパ20型、特殊機化工業(株)製)にて再分散し、白色の水性分散体を得た。
【0062】
<比較例1>
実施例1と同様の組成で、分散前の混合液を作成した。この混合液を直径0.3mmのジルコニアビーズを充填した分散装置(SCミル SC100/32型、三井鉱山(株)製)に通し、循環方式により5時間分散した。分散装置の回転数は2700回転/分とした。分散液の液温は常に50℃を越えていた。
【0063】
アニオン性基含有有機高分子化合物が含んでいた有機溶剤を93 〜 100℃の温度で常圧蒸留を行った以外は、実施例2と同様にして水性分散体を得た。
【0064】
希土類蛍光錯体の水性分散液について、粒度分布測定機(日機装(株)製マイクロトラックUPA150)でレーザー散乱法による体積平均粒子径の測定を行い、その結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
表1
Figure 2004027155
【0066】
表1の結果より明らかなように、実施例1、2の様に希土類蛍光錯体を含み30〜50℃の温度範囲で脱溶剤工程と分散工程の両工程を行った場合、一定の範囲の体積平均粒子径を有する希土類蛍光錯体の水性分散液を得ることが出来る。
これに対して、比較例1の様に30〜50℃の温度範囲を逸脱して両工程を行った水性分散液は、インクジェットプリンター用インクには使用出来ない大きな体積平均粒子径となっていることが明らかである。
また、比較例1の方法は、メディアであるジルコニアビーズの摩耗が著しく、分散体へのジルコニアの混入と、大量生産を行った場合の当該ビーズの交換頻度が実施例2の方法よりも多くなる。
【0067】
[実施例3](水性記録液の蛍光発色の確認)
実施例1で得られた希土類蛍光錯体の水性分散体を用いて、特開平6−122846号公報記載の実施例2を参考にして水性記録液(サーマル方式インクジェットプリンター用インク。以下、インクと称す。)を調整した。
【0068】
具体的には、希土類蛍光錯体の含有率が3%となる量だけの前記水性分散体と、非イオン性界面活性剤(花王(株)製エマルゲン147)0.05%、エチレングリコール5%、保湿剤グリセリン8%、エタノール5%、含有率を3%に調整するための希釈水をそれぞれ加えてインクを作成した。この作成したインクをバーコーダーでコピー用普通紙((株)リコー製、リコーマイペーパー)に展色した。この展色紙に暗所でブラックライト(松下電器産業(株)製、FL4BL−B蛍光灯)を照射すると、インクが展色された部分が赤い蛍光を発色し、界面活性剤やインクジェットに使用されることの多い保湿剤の共存下でも、蛍光を発色することが確認できた。
【0069】
【発明の効果】
本発明は、希土類蛍光錯体とアニオン性基含有有機高分子化合物とを有機溶剤を含有する水性媒体に分散し、脱溶剤する水性分散体の製造方法であって、前記製造方法における脱溶剤工程及び/又は分散工程の温度を30〜50℃で行うことで、分散粒子を一定の範囲の体積平均粒子径を保ち、分散性に優れた水性分散体が得られるという格別顕著な効果を奏する。その結果、沈降に対して安定した水性記録液を調製することが出来る。この水性記録液をインクジェットプリンター用インクに適用した場合には、ノズルの目詰まりが起こりにくいという格別顕著な効果を奏する。
また、前記温度で分散を行うことで、メディアの摩耗が抑制でき、分散体へのメディアの混入量がより少なく、且つ、大量生産を行った場合のメディア自体の交換頻度も少なくて済むという格別顕著な効果を奏する。

Claims (6)

  1. 希土類蛍光錯体とアニオン性基含有有機高分子化合物とを有機溶剤を含有する水性媒体に分散し、脱溶剤する水性分散体の製造方法であって、前記製造方法における脱溶剤工程及び/又は分散工程の温度を30〜50℃で行うことを特徴とする希土類蛍光錯体の水性分散体の製造方法。
  2. 前記水性分散体の製造方法において、脱溶剤工程と分散工程の両工程とも30〜50℃で行う請求項1記載の製造方法。
  3. 水性媒体の液温が30〜50℃となる様に脱溶剤工程を行う請求項1または2記載の製造方法。
  4. 水性媒体の液温が30〜40℃となる様に分散工程を行う請求項1、2または3のいずれか記載の製造方法。
  5. 前記希土類蛍光錯体が、ブラックライトによって蛍光を発する物質である請求項1、2、3または4のいずれか記載の製造方法。
  6. 請求項1、2、3、4または5のいずれか記載の製造方法により希土類蛍光錯体の水性分散体を製造し、これを希土類蛍光錯体の含有率が質量換算で1〜5%となる様にする水性記録液の製造方法。
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