JP2004018472A - 薬剤徐放可能ヒドロゲル材料 - Google Patents
薬剤徐放可能ヒドロゲル材料 Download PDFInfo
- Publication number
- JP2004018472A JP2004018472A JP2002177330A JP2002177330A JP2004018472A JP 2004018472 A JP2004018472 A JP 2004018472A JP 2002177330 A JP2002177330 A JP 2002177330A JP 2002177330 A JP2002177330 A JP 2002177330A JP 2004018472 A JP2004018472 A JP 2004018472A
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- hydrogel material
- drug
- meth
- release
- monomer
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Pending
Links
Abstract
【課題】投与直後に起こる急激な薬剤濃度上昇を抑え、かつゲル内から薬剤を緩やかにかつ長時間に渡って放出するヒドロゲル材料を製造する。
【解決手段】(a)イオン価が2価以上の金属イオンと物理的架橋構造を形成できる官能基を有するモノマーを重合成分として含有するモノマー混合液からなるヒドロゲル材料を得る工程;(b)ターゲット薬剤を該ヒドロゲル材料に取り込ませる工程;および(c)イオン価が2価以上の金属イオンを加え、該金属イオンと官能基との間に形成される物理的架橋構造によって、ターゲット薬剤を担持させる工程、からなる薬剤徐放可能なヒドロゲル材料を製造する。
【選択図】 なし
【解決手段】(a)イオン価が2価以上の金属イオンと物理的架橋構造を形成できる官能基を有するモノマーを重合成分として含有するモノマー混合液からなるヒドロゲル材料を得る工程;(b)ターゲット薬剤を該ヒドロゲル材料に取り込ませる工程;および(c)イオン価が2価以上の金属イオンを加え、該金属イオンと官能基との間に形成される物理的架橋構造によって、ターゲット薬剤を担持させる工程、からなる薬剤徐放可能なヒドロゲル材料を製造する。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、薬剤の放出速度を調節でき、かつ長時間にわたり薬剤を徐放することができる、薬剤徐放可能なヒドロゲル材料の製造方法ならびにその製造方法によって製造される薬剤徐放可能なヒドロゲル材料に関する。また、本発明のヒドロゲル材料からなる薬剤徐放性の、角結膜バンテージシートおよび人工水晶体に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、ドライアイ、緑内障、結膜炎あるいは角膜上皮障害など眼科領域での主要な疾患に対する薬物治療の第一選択は、専ら点眼薬である。点眼薬は患者にとっては取扱いが簡単でかつ低侵襲というメリットがあり、医師にとっても取扱い説明が簡単であり、双方のメリットが大きい。
【0003】
しかしながら、瞬きによる眼瞼の機械的運動や涙液の置換のために、点眼薬を長時間に渡って眼内に保持しておくことは不可能に近い。点眼薬によって投与された薬剤の99%は涙液によって涙点から涙小管に洗い流されてしまい、薬効はほとんど期待できないことが知られている(M. Patrick, A. K. mitra, Ophthalmic Drug Delivery Systems, A. K. Mitra(Ed.), Chapter 1, Marcel Dekker, New York(1993))。
【0004】
すなわち、点眼薬による薬剤の投与の場合、一般の内服薬と比較して生体有効利用性が圧倒的に低いのである。したがって、薬効を発揮させるためには頻回の点眼が必要となる。これは、患者にとって煩雑な作業となるだけでなく、患者の服用コンプライアンスが低下し、治るはずの疾患も治り難くなることが問題となっている。
【0005】
さらに、頻回点眼により角結膜上から洗い流され、全身に回る薬剤量も点眼回数に比例して増加する。薬剤の種類によっては、重篤な全身的副作用を引き起こすこともある。眼内においても頻回点眼により、組織内における薬剤濃度は激しく変動し(I. K. Reddy, M. G. Ganesan, Ocular Therapeutics And Drug Delivery, I. K. Reddy(Ed.), Chapter 1, Technomic, Pennsylvania(1996))、眼内局所における副作用の危険性は非常に高くなる。
【0006】
また、眼疾患がある場合に頻回点眼を行なうと、本来の涙液成分(ムチン、ラクトフェリン、IgA、リゾチーム等)を希釈し洗い流してしまうため、逆に疾患の症状が悪化することも多い。さらには、健常人でも人工涙液を頻回点眼すると新たに角膜上皮障害が発生したという報告さえある(眼科 New Insight 2, MEDICAL VIEW(1994))。
【0007】
以上より、眼科領域での疾患に対する薬物治療には、点眼薬が最良であるというわけではなく、点眼薬以外に有効な解決方法がないのが現状なのである。
【0008】
以上をふまえると、理想的な眼内薬物治療法は、以下のような効果をもたらすものである:
(a)薬効の持続性を向上させ、薬剤の生体有効利用性を高める。
(b)投与回数を極力減らし患者の服用コンプライアンスを向上させる。
(c)投与された薬剤のロスを減らし、副作用を低減させる。
(d)患者自身が投与可能(煩雑な作業でない)である。
(e)低侵襲である。
(f)投与直後に起こる急激な薬剤濃度上昇を抑える。
【0009】
一方、これまでに、コラーゲンシールドやオキュサート(登録商標)などが販売された(M. Friedberg, U. Pleyer, B. J. Mondino, Ophthalmol., 1991, 98,725−732;S. G. Deshpande, S. Shirolkar, J. Pharm. Pharmacol., 1989, 41, 197−200)。しかし、これらは、プラスチックに起因する装用感の悪さに加え、患者自身の取扱いが許されなかったため医師による装用が必要とされ、患者が頻繁に眼科を訪問しなければならないという欠点を有していた(F. E. Ros, J. W.Tiji, J. A. Faber, CLAO J., 1991, 17, 187−190)。
【0010】
以上のような背景から理想に近いものは、生体との親和性が高く装用感のよいヒドロゲルを用いた薬剤徐放システムであるとされてきた。実際にこれと同じ発想で市販のソフトコンタクトレンズ(SCL)に薬物を染込ませてこれを患者に装用させるという試みは、WaltmanやKaufranらによって1970年にすでに実施されている(S. R. Waltman, H. E. Kaufman, Inv. Ophthalmol., 1970, 9, 250−255;S. M. Podos, B. Becker, C. Asseff, J. Hartstein, Am. J. Ophthalmol., 1972, 73, 336他)。しかし、ヒドロゲル中に拡散した薬剤は、拡散律速にしたがった放出挙動を示すため(M. Negishi, et al, Drug. Dev. Ind. Pharma., 1999, 25, 437−444)、30分以内にほとんどの薬剤は放出されてしまう(M. R.Jain, Bri. Ophthalmol., 1988, 72, 150−154;J. W. Shell, R. Baker, Ann. Ophthalmol., 1974, 6, 1037)。これは、点眼薬1滴の角膜上滞在時間(約5分)と比較すると確かに改善されてはいるものの「薬剤徐放システム」と言うにはほど遠い。さらに、投与直後に急激な眼内薬剤濃度上昇が起こるため、副作用のリスクは非常に高くなる。
【0011】
したがって、投与直後に起こる急激な薬剤濃度上昇を抑え、かつゲル内から薬剤を緩やかにかつ長時間に渡って放出する材料が望まれている。
【0012】
これらの問題点を解決するために、従来から種々の提案がなされている。例えば、特開昭62−103029号公報には、モノマー混合液中に直接的に薬剤を挿入し、薬剤存在下で重合を行なう方法、ならびに、ポリマーヒドロゲルを薬剤を含まないで製造し、後から薬剤の水溶液中で飽和することでゲル中に薬剤を取り込ませる方法によって製造された、架橋重合された親水性ポリマー、アミノ酸ポリマー、架橋剤、および薬剤を治療上の有効量含有する持効性のポリマーヒドロゲル剤形が記載されている。しかし、薬剤を単にポリマーヒドロゲル中に取り込ませただけの技術であり、この技術を用いても従来のSCLと同様にゲル内に取り込むことが可能な薬剤量は少なく、充分な薬効を発揮することが難しい。また、薬剤の徐放時間も比較的短いという欠点を有している。
【0013】
また、特開昭62−96417号公報には、重合成分からなる非架橋性の線状ポリマー中に薬剤を溶解させ、続く架橋によって薬剤を取り込ませる方法によって製造された、架橋重合された親水性ポリマー、アミノ酸ポリマー、架橋剤、低級アルキルの極性溶媒、および薬剤を治療上有効量含有する持効性のポリマーヒドロゲル剤形が記載されている。しかし、この方法では、低級アルコールの極性溶媒をポリマーの粘度を調整するために加えているため、製品を作製した際、重合収縮などにより得られた製品の規格をコントロールするのが非常に難しいという難点がある。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、あらかじめ薬剤を内部に取り込ませておいた、イオン価が2価以上の金属イオンで物理的架橋されたヒドロゲル材料を用い、外液(涙液、体液)中に存在するナトリウムイオン(Na+)と、イオン価が2価以上の金属イオンとを徐々に交換し、ゲル内の架橋濃度を経時的に変化させ(初期の薬物のゲル内拡散速度を遅くし、その後は徐々に加速してゆく)、それによって、投与直後に起こる薬剤の急激な濃度上昇(オーバードース)を抑え、薬剤を徐放することができる材料を製造することを目的とする。
【0015】
すなわち、官能基(例えば、カルボキシル基および/またはスルホン基)を有するヒドロゲル材料にあらかじめ薬剤を取り込ませておき、次いで、このヒドロゲル材料に例えば、Ca2+を加えるとゲル内の2つの官能基は、Ca2+と物理的架橋構造を形成する。このようにして得られたヒドロゲル材料内の物理的架橋構造は、外液(涙液、体液)中に存在するナトリウムイオン(Na+)によって破壊され、それに応じてヒドロゲル材料内に担持されていた薬剤の放出速度を調節することができる。ここで、ゲル内の薬剤は、フィックの拡散法則により放出されるため、その放出速度は初めは遅く、次第に速くなる。このようなヒドロゲル材料からの薬剤の放出は、投与直後に起こる薬剤の急激な濃度上昇を抑えることができる。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ターゲット薬剤を担持することができる薬剤徐放可能なヒドロゲル材料の製造方法であって、
(a)イオン価が2価以上の金属イオンと物理的架橋構造を形成できる官能基を有するモノマーを重合成分として含有するモノマー混合液からなるヒドロゲル材料を得る工程;
(b)ターゲット薬剤を該ヒドロゲル材料に取り込ませる工程;および
(c)イオン価が2価以上の金属イオンを加え、該金属イオンと官能基との間に形成される物理的架橋構造によって、ターゲット薬剤を担持させる工程、
からなる薬剤徐放可能なヒドロゲル材料の製造方法に関する。
【0017】
また、本発明は、(a)イオン価が2価以上の金属イオンと物理的架橋構造を形成できる官能基を有するモノマーを重合成分として含有するモノマー混合液からなるヒドロゲル材料を得、(b)ターゲット薬剤を該ヒドロゲル材料に取り込ませ、次いで、(c)イオン価が2価以上の金属イオンを加え、該金属イオンと官能基との間に形成される物理的架橋構造によって、ターゲット薬剤を担持させることによって製造される薬剤徐放可能なヒドロゲル材料に関する。
【0018】
涙液中のナトリウムイオンによって、前記架橋構造が破壊され、それに応じてヒドロゲル材料内に担持されていたターゲット薬剤の放出速度を調節することができることが好ましい。
【0019】
前記モノマー混合液が、さらに親水性モノマーを含むことが好ましい。
【0020】
前記親水性モノマーが、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、およびN−ビニルピロリドンからなる群から選択された少なくとも1種のモノマーであることが好ましい。
【0021】
前記官能基を有するモノマーが、カルボキシル基、およびスルホン基からなる群から選択された少なくとも1種の官能基を有するモノマーであることが好ましい。
【0022】
前記官能基を有するモノマーが、(メタ)アクリル酸およびスチレンスルホン酸からなる群から選択された少なくとも1種のモノマーであることが好ましい。
【0023】
前記官能基を有するモノマーの配合量が、前記ヒドロゲル材料の重合成分に対して0.5〜100重量%であることが好ましい。
【0024】
前記金属イオンが、カルシウムイオンCa2+、銅イオンCu2+、鉄イオンFe2+、Fe3+、および亜鉛イオンZn2+からなる群から選択された少なくとも1種の金属イオンであることが好ましい。
【0025】
前記ターゲット薬剤が、緑内障治療剤であることが好ましい。
【0026】
前記緑内障治療剤が、チモロールまたはピロカルピンあるいはこれらの医療的に許容される塩であることが好ましい。
【0027】
また、本発明は、前記薬剤徐放可能なヒドロゲル材料からなる薬剤徐放性角結膜バンテージシートに関する。
【0028】
また、本発明は、前記薬剤徐放可能なヒドロゲル材料からなる薬剤徐放性人工水晶体に関する。
【0029】
【発明の実施の形態】
本明細書中では、「・・・(メタ)アクリレート」とは、「・・・アクリレート」および「・・・メタクリレート」の2つの化合物を総称するものであり、また、その他の(メタ)アクリル誘導体についても同様である。
【0030】
ヒドロゲル材料の原料モノマー混合液には、イオン価が2価以上の金属イオンと物理的架橋構造を形成できる「官能基を有するモノマー」を含有する。この官能基を有するモノマーとしては、カルボキシル基および/またはスルホン基などを含有する化合物が考えられる。例えば、カルボキシル基を含有する化合物としては、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、(メタ)アクリル酸など、スルホン基を含有する化合物としては、ビニルスルホン、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸など、ならびにこれらのナトリウム塩、カリウム塩、塩酸塩など種種の塩があげられる。これらのなかで、本願発明の効果を充分発揮させる点から、(メタ)アクリル酸および/またはスチレンスルホン酸が好ましく、特に(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0031】
官能基を有するモノマーの配合量は、0.5重量%以上、好ましくは1重量%以上、さらに好ましくは5重量%以上である。0.5重量%より少ないと得られたゲル内でイオン価が2価以上の金属イオンと物理的架橋構造を形成できる官能基の数が少なくなり、充分な薬剤徐放効果を発揮することができなくなる傾向にある。なお、官能基を有するモノマーのみで、ヒドロゲル材料として必要な条件を兼ね備えることができるものならば、官能基を有するモノマーが100重量%であっても何ら問題はない。
【0032】
本明細書中において、前記「物理的架橋構造」とは、「イオン結合および/または静電的相互作用(荷電粒子間のクローン力のほかに、双極子および四極子などの多重極子間相互作用を含む)および/または配位結合によって生じる架橋構造」のことをいう。
【0033】
ヒドロゲル材料の原料モノマー混合液には、「ゲルの骨格を形成するモノマー」として、親水性モノマーを含むことが好ましい。例えば、(メタ)アクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、リン含有(メタ)アクリル酸エステル、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート系親水性モノマー;ジアセトンアクリルアミド、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド塩酸塩、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、グリセロールアクリルアミド、アクリルアミド−N−ブリコール酸などのアクリルアミド系親水性モノマー;ビニルスルホン、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などスルホン系親水性モノマー;(メタ)アクリロイルモルホリン;N−ビニルピロリドン;N−ビニルカプロラクタム;N−ビニルオキサゾリン;N−ビニルサクシンイミド;ビニルピリジン;酢酸ビニル;イタコン酸;クロトン酸;N−ビニルイミダゾール;ビニルベンジルアンモニウム塩などがあげられる。これらのうち透明性、成型性、強度の面から、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、およびN−ビニルピロリドンが好ましく、とくにヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミドが好ましい。
【0034】
ヒドロゲル材料の原料モノマー混合液には、任意のモノマーとして、酸素透過性の良好なヒドロゲル材料を得ようとするためには、ペンタメチルジシロキサニルメチル(メタ)アクリレート、ペンタメチルジシロキサニルプロピル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、モノ[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]ビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、トリス[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]シリルプロピル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセロール(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセロール(メタ)アクリレート、モノ[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]ビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセロール(メタ)アクリレート、トリメチルシリルエチルテトラメチルジシロキサニルプロピルグリセロール(メタ)アクリレート、トリメチルシリルメチル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルプロピルグリセロール(メタ)アクリレート、ペンタメチルジシロキサニルプロピルグリセロール(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルエチルテトラメチルジシロキサニルメチル(メタ)アクリレート、テトラメチルトリイソプロピルシクロテトラシロキサニルプロピル(メタ)アクリレート、テトラメチルトリイソプロピルシクロテトラシロキシビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレートなどのシリコン含有(メタ)アクリレート;トリメチルシリルスチレン、トリス(トリメチルシロキシ)シリルスチレンなどのシリコン含有スチレン誘導体;4−ビニルベンジル−2’,2’,2’−トリフルオロエチルエーテル、4−ビニルベンジル−2’,2’,3’,3’,4’,4’,4’−ヘプタフルオロブチルエーテル、4−ビニルベンジル−3’,3’,3’−トリフルオロプロピルエーテル、4−ビニルベンジル−3’,3’,4’,4’,5’,5’,6’,6’,6’−ノナフルオロヘキシルエーテル、4−ビニルベンジル−4’,4’,5’,5’,6’,6’,7’,7’,8’,8’,8’−ウンデカフルオロオクチルエーテル、o−フルオロスチレン、m−フルオロスチレン、p−フルオロスチレン、トリフルオロスチレン、パーフルオロスチレン、p−トリフルオロメチルスチレン、o−トリフルオロメチルスチレン、m−トリフルオロメチルスチレンなどのフッ素含有スチレン誘導体;2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,2−トリフルオロ−1−トリフルオロメチルエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロ−tert−ペンチル(メタ)アクリレート、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−tert−ヘキシル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロブチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6−オクタフルオロヘキシル(メタ)アクリレート、2,3,4,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ビス(トリフルオロメチル)ペンチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,5−ノナフルオロペンチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8−ドデカフルオロオクチル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,7−トリデカフルオロへプチル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10−ヘキサデカフルオロデシル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11−オクタデカフルオロウンデシル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,11−ノナデカフルオロウンデシル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,12,12−エイコサフルオロドデシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−4,4,5,5,6,7,7,7−オクタフルオロ−6−トリフルオロメチルヘプチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−4,4,5,5,6,6,7,7,8,9,9,9−ドデカフルオロ−8−トリフルオロメチルノニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,11,11,11−ヘキサデカフルオロ−10−トリフルオロメチルウンデシル(メタ)アクリレートなどのフッ素含有アルキル(メタ)アクリレート;特開平2−188717号公報、特開平2−213820号公報、特開平3−43711号公報に開示されているマクロモノマーなどを含めることが考えられ、また、強度的に優れたヒドロゲル材料を得ようとするためには、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、tert−ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−メチルブチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどの直鎖状、分岐鎖状、環状のアルキル(メタ)アクリレート;スチレン;o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、o−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシスチレン、トリメチルスチレン、tert−ブチルスチレン、パーブロモスチレン、ジメチルアミノスチレン、α−メチルスチレンなどのスチレン誘導体;(メタ)アクリル酸などを含めることが考えられる。これらのモノマーは、単独でまたは2種以上を同時に用いることができる。
【0035】
ヒドロゲル材料の原料モノマー混合液に加えられる、化学的架橋を形成するための「架橋剤」としては、一般的に使われている架橋剤であれば何ら問題はない。例えば、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、メタクリロイルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジアリルフマレート、ジアリルフタレート、アジピン酸ジアリル、アジピン酸ジビニル、トリアリルジイソシアネート、α−メチレン−N−ビニルピロリドン、4−ビニルベンジル(メタ)アクリレート、3−ビニルベンジル(メタ)アクリレート、2,2−ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、1,4−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼン、1,3−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼン、1,2−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼン、1,4−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,3−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,2−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシイソプロピル)ベンゼン、N,N’−ビスアクリロイルシスタミン、メチレンビスアクリルアミドなどがあげられ、これらは単独または2種以上を混合して用いることができる。これらのなかでは、ヒドロゲル材料の柔軟性を適度にコントロールでき、良好な機械的強度を付与し、共重合性を向上させる効果が大きいため、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0036】
架橋剤の配合量は、得られたヒドロゲル材料が製品としての形状を保持しなければならない場合、好ましくは0.01〜60重量%、さらに好ましくは0.05〜40重量%である。0.01重量%より少ないと得られたヒドロゲル材料が製品として必要な形状を保持できなくなる傾向にあり、60重量%より多いと得られた製品が硬く装用感などが悪くなる傾向にあるため好ましくない。
【0037】
また、ヒドロゲル材料そのものを点眼薬として用いる場合、点眼後に涙液に溶解し角膜上から消失させるために、0重量%が好ましい。
【0038】
さらに、ヒドロゲル材料を涙点プラグおよび角結膜バンテージシートとして用いる場合、架橋剤の配合量は使用目的に応じて、つまり、涙液への溶解により消失させる場合は、好ましくは0重量%であり、得られたヒドロゲル材料が製品としての形状を保持しなければならない場合は、前記理由により、好ましくは0.01〜60重量%であり、さらに好ましくは0.05〜40重量%である。
【0039】
ターゲット薬剤としては、抗生物質、抗ウイルス剤、抗炎症剤、ステロイド、ペプチド、ポリペプチド、抗アレルギー剤、α−アドレナリン遮断剤、β−アドレナリン遮断剤、抗白内障剤、緑内障治療剤、眼薬、涙液分泌亢進剤、眼の局部的なまたは部分的な麻酔薬などから適宜選択すればよい。特に眼科領域での薬物による疾患治療や市場での要求性の点で、緑内障治療剤または涙液分泌亢進剤が好ましい。緑内障治療剤としては、チモロール、ピロカルピンおよびこれらの医療的に許容される塩が、涙液分泌亢進剤としては、エレドニゾン、グルタチオン、レチノールパルミテート、アテノール、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、シクロフォスファミド、ブロムヘキシン、シクロスポリン酸、およびこれらの医療的に許容される塩、ならびに同様のものがあげられる。眼の局部的なまたは部分的な麻酔薬としては、リドカイン、コカイン、ベノキシネート、ジブカイン、プロパラカイン、テトラカイン、エチドカイン、プロカイン、ヘキシルカイン、ブピバカイン、メピカイン、プリロカイン、クロロプロカインなどがあげられる。眼薬または他の薬剤としては、イドクスリウジン、カルバコール、ベタネコール、テトラサイクリン、エピネフリン、フェニレフリン、エセリン、ホスホリン、デメカリウム、シクロペントレート、ホマトロピン、スコポラミン、クロルテトラサイクリン、パシトラシン、ネオマイシン、ポリミキシン、グラミシジン、オキシテトラサイクリン、クロラムフェニコール、ゲンタマイシン、ペニシリン、エリスロマイシン、スルファセタミド、ポリミキシンB、トブラマイシン、イソフルロフェート、フルロメタロン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、フルロシノロン、メドリゾン、ポレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ベタメタゾン、トリアムシノロン、インターフェロン、クロモリン、パントテン酸、パントテノール、N、N−ジメチル−trans−2−フェニルシクロプロピルアミン、タウリン、アミノ酸(アスパラギン酸、アルギニン、グルタミン酸など)、ビタミンA1(レチノール)、ビタミンA2(3−デヒドロレチノール)、ビタミンA3、ビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンD2(エルゴカシフェノール)、ビタミンD3(コレカシフェロール)、およびこれらの医療的に許容される塩、ならびに同様のものがあげられる。
【0040】
「医療的に許容される塩」とは、親化合物の医薬的性質(例えば、毒性、効率など)に有意に、逆に影響をおよぼさない親化合物の塩を意味する。医薬的に許容される本発明の塩は、塩化物、ヨウ化物、臭化物、塩酸塩、酢酸塩、硝酸塩、ステアリン酸塩、リン酸塩、硫酸塩などを含む。
【0041】
ヒドロゲル材料中には、薬理学的有効量の前記ターゲット薬剤が含有され得る。
【0042】
重合方法は、ラジカル重合開始剤を重合成分に配合したのち、室温〜約130℃の温度範囲で徐々または段階的に加熱する方法、あるいはマイクロ波、紫外線、放射線(γ線)などの電磁波を照射する方法が考えられる。重合は、塊状重合法、溶媒などを用いた溶液重合法、またはその他の方法によってなされてもよい。
【0043】
前記ラジカル重合開始剤の代表例としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル(V−65)、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドなどがあげられる。これらは、単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0044】
なお、電磁波照射などを利用して重合させる場合には、光重合開始剤や増感剤をさらに添加することが好ましい。
【0045】
光重合開始剤としては、例えばメチルオルソベンゾイルベンゾエート、メチルベンゾイルフォルメート、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテルなどのベンゾイン系光重合開始剤;2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(ダロキュア(登録商標)1173)、p−イソプロピル−α−ヒドロキシイソブチルフェノン、p−t−ブチルトリクロロアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、α,α−ジクロロ−4−フェノキシアセトフェノン、N,N−テトラエチル−4,4−ジアミノベンゾフェノンなどのフェノン系光重合開始剤;1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン;1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム;2−クロロチオキサンソン、2−メチルチオキサンソンなどのチオキサンソン系光重合開始剤;ジベンゾスバロン;2−エチルアンスラキノン;ベンゾフェノンアクリレート;ベンゾフェノン;ベンジルなどがあげられる。これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0046】
前記重合開始剤や増感剤の使用量は、充分な速度で重合反応を進行させるためには、0.002重量%以上、なかんずく0.01重量%以上となるように調整することが好ましく、また得られるヒドロゲル材料に気泡が発生するおそれをなくすためには、10重量%以下、なかんずく2重量%以下となるように調整することが好ましい。
【0047】
重合後、未反応モノマーを除去するために使用する大過剰量の洗浄溶液としては、水;食塩水;希塩酸;水酸化ナトリウム水溶液;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール;および、これらの混合溶液があげられる。
【0048】
官能基を有するモノマーに含まれるカルボキシル基および/またはスルホン基をそれぞれイオン化して得られるカルボキシルイオン(−COO−)および/またはスルホニルイオン(−SO3 −)と物理的架橋構造を形成するような「イオン価が2価以上の金属イオン」をヒドロゲル材料中に添加しなくてはならない。
【0049】
前記金属イオンとしては、2価以上の陽イオンであれば良く、カルシウムイオン(Ca2+)、銅イオン(Cu2+)、鉄イオン(Fe2+、Fe3+)、亜鉛イオン(Zn2+)などがあげられる。これらのなかで、涙液の一成分として含まれていることから、カルシウムイオンが好ましい。
【0050】
前記金属イオンの添加方法としては、官能基を有するモノマーに含まれるカルボキシル基および/またはスルホン基がイオン化されたヒドロゲル材料を、前記金属イオンの塩化物(例えば、塩化カルシウム、塩化銅、塩化鉄、塩化亜鉛)の水溶液にヒドロゲルを浸漬することにより行われ、官能基を有するモノマー中の官能基と前記金属イオンとの間に物理的架橋を形成させることができる。
【0051】
前記のようにして得られるヒドロゲル材料を用いて薬剤徐放性の、角結膜バンテージシート、人工水晶体(水晶体嚢内に充填させ、生体の水晶体と同等な屈折矯正機能を有する人工代替物)、涙点プラグなどに用いることができる。これらを作製する方法としては、例えば、前記重合体にたとえば切削、研磨などの機械加工を施し、所望の形状の製品を得る方法があるが、その他に所望の形状を与える成形型を用意し、この型のなかで前記各成分を直接重合して成形する方法がある。この場合には、得られた製品には必要に応じて機械的な仕上げ加工を施してもよい。
【0052】
【実施例】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの例に限定されることを意味するものではない。
【0053】
実施例1〜4
ヒドロゲル材料の原料モノマーとしては、メタクリル酸(MAA;官能基を有するモノマー)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA;ゲルの骨格を形成するモノマー)、メチルメタクリレート(MMA;ゲルの骨格を形成するモノマー)、エチレングリコールジメタクリレート(EDMA;架橋剤)をそれぞれ蒸留によって精製したものを使用した。
【0054】
光重合開始剤としては、あらかじめ蒸留によって精製した2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(ダロキュア(登録商標)1173)を使用した。
【0055】
ヒドロゲル材料に取り込ませるターゲット薬剤としては、以下に示すチモロールマレイン酸塩(チモロール)を使用した:
【0056】
【化1】
【0057】
表1にしたがい、MAA、MMA、EDMAをHEMAに溶解させ、この混合液に0.4容量%のダロキュア1173を20μL加え、ポリプロピレン製の成形型(凸型および凹型の構成;直径20mm×厚み0.3mmの円形プレート状試験試料作成用)に注入し、型組みを行った(実際の配合量の決定方法:所定の配合量のMAA、MMA、EDMAをHEMAに溶解させ、全量が5mLとなるように、MEMAの配合量を決定した)。
【0058】
紫外線照射装置(アイグラフィックス株式会社製 UX0302−03;測定波長365nm)によって、室温下、照射強度11mW/cm2にて、成形型および成形型中のモノマー混合液に紫外線を50分間照射させ、紫外線照射重合を行った。
【0059】
重合終了後、成形型を開型し、試験試料を取り出した。
【0060】
重合後、得られた試験試料は大量の蒸留水で2日以上水和・膨潤させて、試験試料中に存在する未反応モノマーを除去した。その後、膨潤状態の試験試料を直径16mmのコルクボーラーで打ち抜いた。
【0061】
この試験試料を10mMの水酸化ナトリウム水溶液で2日以上、つぎに1mMの塩化ナトリウム水溶液で2日以上洗浄し、試験試料内のカルボキシル基をすべてイオン化させた。なお、上記水和・膨潤液(蒸留水)、洗浄液(水酸化ナトリウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液)は、1日3回以上交換した。
【0062】
ついで、得られたプレート状(直径:16mm)の乾燥した試験試料1枚を2mMのチモロール水溶液5mLが入ったバイアル瓶中に室温で2日間浸漬して試験試料内にチモロールを含浸させた。その後、これに0.5M塩化カルシウム水溶液2mLを加え、そのまま3日間保持することによって、試験試料内でMAAのカルボキシルイオンと、カルシウムイオンとの間に2:1の物理的架橋を形成させた。
【0063】
ここで、プレート状試験試料は、含水状態でゲルの体積がロット間ですべて同一になるように設計されている。
【0064】
比較例1〜4
0.5M塩化カルシウム水溶液の代わりに、1mM塩化ナトリウム水溶液を用いること以外は、実施例1〜4と同様の方法によって比較用の試験試料を得た。
【0065】
【表1】
【0066】
(薬剤徐放試験)
前記実施例および比較例においてプレート状試験試料にチモロールを取り込ませた後、試験試料をバイアル瓶から取り出し、蒸留水で数秒間すすいだ後、直ちに0.9重量%食塩水1.2mLが入ったバイアル瓶に移した。
【0067】
このバイアル瓶から溶液の半量(0.6mL)を5分間隔で採取し、自記分光光度計(株式会社島津製作所製 UV−3150)を用いて波長295nmにおける吸光度を測定した。測定後、5分間隔で取り出した溶液は元のバイアル瓶には戻さず、代わりに採取した溶液と同量の0.9重量%食塩水を加えた。この操作を5分間隔で4時間繰り返し行い、各試験試料あたり48回の測定を行い、得られた吸光度の値をもとに検量線を用いて、単位体積当たりの試験試料からの放出開始からの時間(t)におけるチモロール放出量総量(Mt)を定量した。
【0068】
なお、この試験系は、実際のin vivo系にできるだけ近い試験系になるように設定した。角膜嚢内には通常7〜10μLの溶液が存在しており0.7μL/分の速度で新しい涙液によって随時取り替えられる(Maurice, D. M,, Int. Ophthalmol. Clin., 1973, 13, 73;Mishima. S. et al, Inv. Ophthalmol. Vis. Sci., 1966, 5, 264;Ehlers, L. N., Acta Ophthalmol. 1965, 81, 1)。つまり、角膜嚢内のすべての涙液は約10分で交換されることとなり、今回用いたin vitroの試験系でも10分間ですべての外液が交換されるように設計してある。
【0069】
薬物放出開始から4時間以降は、外液中の吸光度が確認されなくなるまで不定期に外液を交換し、吸光度が検出限界以下になったら、それまでに採取した外液を混合して吸光度を測定し、得られた吸光度の値をもとに検量線を用いて、単位体積当たりの試験試料から放出されたチモロールの放出総量(M∞)を定量した。
【0070】
薬物拡散係数(D)は、下記のように求めた。
(Mt/M∞)=k・tn ・・・式(I)
ここで、k:拡散定数、t=放出開始からの時間、n=膨潤指数
式(I)は、
ln(Mt/M∞)=lnk+n・lnt ・・・式(II)
となり、(lnt)対(ln(Mt/M∞))のグラフにおいて、傾きがn、切片がlnkであることから、nおよびkの値を求めた。
【0071】
また、
Dn=k/[4・(πr2)n] ・・・式(III)
ここで、r:プレート状試験試料の半径
式(III)は、
D=(k/4)1/n・[1/(πr2)] ・・・式(IV)
であるから、上記で求めたnおよびkの値より、薬物拡散係数(D)を求めることができる。
【0072】
【発明の効果】
本発明により得られたヒドロゲル材料は、同一組成からなる従来型(イオン価が2価以上の金属イオンを含まない)のヒドロゲル材料と比べ、薬物拡散係数を低くさせることができた(すなわち、ゲル内からの薬物放出速度が遅くなった)。したがって、ヒドロゲル材料内にあらかじめ担持しておいた薬剤は、投与直後に起こる薬剤の急激な放出挙動が抑えられ、緩やかに外部に放出される。
【0073】
これにより、薬剤による副作用のリスクを大幅に減らすことができる。また、ステロイド等の薬効が極めて優れているにも関わらず、副作用の危険性からこれまで使用されなかった薬剤等もこのヒドロゲル材料を担持体として用いれば、使用可能となる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、薬剤の放出速度を調節でき、かつ長時間にわたり薬剤を徐放することができる、薬剤徐放可能なヒドロゲル材料の製造方法ならびにその製造方法によって製造される薬剤徐放可能なヒドロゲル材料に関する。また、本発明のヒドロゲル材料からなる薬剤徐放性の、角結膜バンテージシートおよび人工水晶体に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、ドライアイ、緑内障、結膜炎あるいは角膜上皮障害など眼科領域での主要な疾患に対する薬物治療の第一選択は、専ら点眼薬である。点眼薬は患者にとっては取扱いが簡単でかつ低侵襲というメリットがあり、医師にとっても取扱い説明が簡単であり、双方のメリットが大きい。
【0003】
しかしながら、瞬きによる眼瞼の機械的運動や涙液の置換のために、点眼薬を長時間に渡って眼内に保持しておくことは不可能に近い。点眼薬によって投与された薬剤の99%は涙液によって涙点から涙小管に洗い流されてしまい、薬効はほとんど期待できないことが知られている(M. Patrick, A. K. mitra, Ophthalmic Drug Delivery Systems, A. K. Mitra(Ed.), Chapter 1, Marcel Dekker, New York(1993))。
【0004】
すなわち、点眼薬による薬剤の投与の場合、一般の内服薬と比較して生体有効利用性が圧倒的に低いのである。したがって、薬効を発揮させるためには頻回の点眼が必要となる。これは、患者にとって煩雑な作業となるだけでなく、患者の服用コンプライアンスが低下し、治るはずの疾患も治り難くなることが問題となっている。
【0005】
さらに、頻回点眼により角結膜上から洗い流され、全身に回る薬剤量も点眼回数に比例して増加する。薬剤の種類によっては、重篤な全身的副作用を引き起こすこともある。眼内においても頻回点眼により、組織内における薬剤濃度は激しく変動し(I. K. Reddy, M. G. Ganesan, Ocular Therapeutics And Drug Delivery, I. K. Reddy(Ed.), Chapter 1, Technomic, Pennsylvania(1996))、眼内局所における副作用の危険性は非常に高くなる。
【0006】
また、眼疾患がある場合に頻回点眼を行なうと、本来の涙液成分(ムチン、ラクトフェリン、IgA、リゾチーム等)を希釈し洗い流してしまうため、逆に疾患の症状が悪化することも多い。さらには、健常人でも人工涙液を頻回点眼すると新たに角膜上皮障害が発生したという報告さえある(眼科 New Insight 2, MEDICAL VIEW(1994))。
【0007】
以上より、眼科領域での疾患に対する薬物治療には、点眼薬が最良であるというわけではなく、点眼薬以外に有効な解決方法がないのが現状なのである。
【0008】
以上をふまえると、理想的な眼内薬物治療法は、以下のような効果をもたらすものである:
(a)薬効の持続性を向上させ、薬剤の生体有効利用性を高める。
(b)投与回数を極力減らし患者の服用コンプライアンスを向上させる。
(c)投与された薬剤のロスを減らし、副作用を低減させる。
(d)患者自身が投与可能(煩雑な作業でない)である。
(e)低侵襲である。
(f)投与直後に起こる急激な薬剤濃度上昇を抑える。
【0009】
一方、これまでに、コラーゲンシールドやオキュサート(登録商標)などが販売された(M. Friedberg, U. Pleyer, B. J. Mondino, Ophthalmol., 1991, 98,725−732;S. G. Deshpande, S. Shirolkar, J. Pharm. Pharmacol., 1989, 41, 197−200)。しかし、これらは、プラスチックに起因する装用感の悪さに加え、患者自身の取扱いが許されなかったため医師による装用が必要とされ、患者が頻繁に眼科を訪問しなければならないという欠点を有していた(F. E. Ros, J. W.Tiji, J. A. Faber, CLAO J., 1991, 17, 187−190)。
【0010】
以上のような背景から理想に近いものは、生体との親和性が高く装用感のよいヒドロゲルを用いた薬剤徐放システムであるとされてきた。実際にこれと同じ発想で市販のソフトコンタクトレンズ(SCL)に薬物を染込ませてこれを患者に装用させるという試みは、WaltmanやKaufranらによって1970年にすでに実施されている(S. R. Waltman, H. E. Kaufman, Inv. Ophthalmol., 1970, 9, 250−255;S. M. Podos, B. Becker, C. Asseff, J. Hartstein, Am. J. Ophthalmol., 1972, 73, 336他)。しかし、ヒドロゲル中に拡散した薬剤は、拡散律速にしたがった放出挙動を示すため(M. Negishi, et al, Drug. Dev. Ind. Pharma., 1999, 25, 437−444)、30分以内にほとんどの薬剤は放出されてしまう(M. R.Jain, Bri. Ophthalmol., 1988, 72, 150−154;J. W. Shell, R. Baker, Ann. Ophthalmol., 1974, 6, 1037)。これは、点眼薬1滴の角膜上滞在時間(約5分)と比較すると確かに改善されてはいるものの「薬剤徐放システム」と言うにはほど遠い。さらに、投与直後に急激な眼内薬剤濃度上昇が起こるため、副作用のリスクは非常に高くなる。
【0011】
したがって、投与直後に起こる急激な薬剤濃度上昇を抑え、かつゲル内から薬剤を緩やかにかつ長時間に渡って放出する材料が望まれている。
【0012】
これらの問題点を解決するために、従来から種々の提案がなされている。例えば、特開昭62−103029号公報には、モノマー混合液中に直接的に薬剤を挿入し、薬剤存在下で重合を行なう方法、ならびに、ポリマーヒドロゲルを薬剤を含まないで製造し、後から薬剤の水溶液中で飽和することでゲル中に薬剤を取り込ませる方法によって製造された、架橋重合された親水性ポリマー、アミノ酸ポリマー、架橋剤、および薬剤を治療上の有効量含有する持効性のポリマーヒドロゲル剤形が記載されている。しかし、薬剤を単にポリマーヒドロゲル中に取り込ませただけの技術であり、この技術を用いても従来のSCLと同様にゲル内に取り込むことが可能な薬剤量は少なく、充分な薬効を発揮することが難しい。また、薬剤の徐放時間も比較的短いという欠点を有している。
【0013】
また、特開昭62−96417号公報には、重合成分からなる非架橋性の線状ポリマー中に薬剤を溶解させ、続く架橋によって薬剤を取り込ませる方法によって製造された、架橋重合された親水性ポリマー、アミノ酸ポリマー、架橋剤、低級アルキルの極性溶媒、および薬剤を治療上有効量含有する持効性のポリマーヒドロゲル剤形が記載されている。しかし、この方法では、低級アルコールの極性溶媒をポリマーの粘度を調整するために加えているため、製品を作製した際、重合収縮などにより得られた製品の規格をコントロールするのが非常に難しいという難点がある。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、あらかじめ薬剤を内部に取り込ませておいた、イオン価が2価以上の金属イオンで物理的架橋されたヒドロゲル材料を用い、外液(涙液、体液)中に存在するナトリウムイオン(Na+)と、イオン価が2価以上の金属イオンとを徐々に交換し、ゲル内の架橋濃度を経時的に変化させ(初期の薬物のゲル内拡散速度を遅くし、その後は徐々に加速してゆく)、それによって、投与直後に起こる薬剤の急激な濃度上昇(オーバードース)を抑え、薬剤を徐放することができる材料を製造することを目的とする。
【0015】
すなわち、官能基(例えば、カルボキシル基および/またはスルホン基)を有するヒドロゲル材料にあらかじめ薬剤を取り込ませておき、次いで、このヒドロゲル材料に例えば、Ca2+を加えるとゲル内の2つの官能基は、Ca2+と物理的架橋構造を形成する。このようにして得られたヒドロゲル材料内の物理的架橋構造は、外液(涙液、体液)中に存在するナトリウムイオン(Na+)によって破壊され、それに応じてヒドロゲル材料内に担持されていた薬剤の放出速度を調節することができる。ここで、ゲル内の薬剤は、フィックの拡散法則により放出されるため、その放出速度は初めは遅く、次第に速くなる。このようなヒドロゲル材料からの薬剤の放出は、投与直後に起こる薬剤の急激な濃度上昇を抑えることができる。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ターゲット薬剤を担持することができる薬剤徐放可能なヒドロゲル材料の製造方法であって、
(a)イオン価が2価以上の金属イオンと物理的架橋構造を形成できる官能基を有するモノマーを重合成分として含有するモノマー混合液からなるヒドロゲル材料を得る工程;
(b)ターゲット薬剤を該ヒドロゲル材料に取り込ませる工程;および
(c)イオン価が2価以上の金属イオンを加え、該金属イオンと官能基との間に形成される物理的架橋構造によって、ターゲット薬剤を担持させる工程、
からなる薬剤徐放可能なヒドロゲル材料の製造方法に関する。
【0017】
また、本発明は、(a)イオン価が2価以上の金属イオンと物理的架橋構造を形成できる官能基を有するモノマーを重合成分として含有するモノマー混合液からなるヒドロゲル材料を得、(b)ターゲット薬剤を該ヒドロゲル材料に取り込ませ、次いで、(c)イオン価が2価以上の金属イオンを加え、該金属イオンと官能基との間に形成される物理的架橋構造によって、ターゲット薬剤を担持させることによって製造される薬剤徐放可能なヒドロゲル材料に関する。
【0018】
涙液中のナトリウムイオンによって、前記架橋構造が破壊され、それに応じてヒドロゲル材料内に担持されていたターゲット薬剤の放出速度を調節することができることが好ましい。
【0019】
前記モノマー混合液が、さらに親水性モノマーを含むことが好ましい。
【0020】
前記親水性モノマーが、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、およびN−ビニルピロリドンからなる群から選択された少なくとも1種のモノマーであることが好ましい。
【0021】
前記官能基を有するモノマーが、カルボキシル基、およびスルホン基からなる群から選択された少なくとも1種の官能基を有するモノマーであることが好ましい。
【0022】
前記官能基を有するモノマーが、(メタ)アクリル酸およびスチレンスルホン酸からなる群から選択された少なくとも1種のモノマーであることが好ましい。
【0023】
前記官能基を有するモノマーの配合量が、前記ヒドロゲル材料の重合成分に対して0.5〜100重量%であることが好ましい。
【0024】
前記金属イオンが、カルシウムイオンCa2+、銅イオンCu2+、鉄イオンFe2+、Fe3+、および亜鉛イオンZn2+からなる群から選択された少なくとも1種の金属イオンであることが好ましい。
【0025】
前記ターゲット薬剤が、緑内障治療剤であることが好ましい。
【0026】
前記緑内障治療剤が、チモロールまたはピロカルピンあるいはこれらの医療的に許容される塩であることが好ましい。
【0027】
また、本発明は、前記薬剤徐放可能なヒドロゲル材料からなる薬剤徐放性角結膜バンテージシートに関する。
【0028】
また、本発明は、前記薬剤徐放可能なヒドロゲル材料からなる薬剤徐放性人工水晶体に関する。
【0029】
【発明の実施の形態】
本明細書中では、「・・・(メタ)アクリレート」とは、「・・・アクリレート」および「・・・メタクリレート」の2つの化合物を総称するものであり、また、その他の(メタ)アクリル誘導体についても同様である。
【0030】
ヒドロゲル材料の原料モノマー混合液には、イオン価が2価以上の金属イオンと物理的架橋構造を形成できる「官能基を有するモノマー」を含有する。この官能基を有するモノマーとしては、カルボキシル基および/またはスルホン基などを含有する化合物が考えられる。例えば、カルボキシル基を含有する化合物としては、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、(メタ)アクリル酸など、スルホン基を含有する化合物としては、ビニルスルホン、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸など、ならびにこれらのナトリウム塩、カリウム塩、塩酸塩など種種の塩があげられる。これらのなかで、本願発明の効果を充分発揮させる点から、(メタ)アクリル酸および/またはスチレンスルホン酸が好ましく、特に(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0031】
官能基を有するモノマーの配合量は、0.5重量%以上、好ましくは1重量%以上、さらに好ましくは5重量%以上である。0.5重量%より少ないと得られたゲル内でイオン価が2価以上の金属イオンと物理的架橋構造を形成できる官能基の数が少なくなり、充分な薬剤徐放効果を発揮することができなくなる傾向にある。なお、官能基を有するモノマーのみで、ヒドロゲル材料として必要な条件を兼ね備えることができるものならば、官能基を有するモノマーが100重量%であっても何ら問題はない。
【0032】
本明細書中において、前記「物理的架橋構造」とは、「イオン結合および/または静電的相互作用(荷電粒子間のクローン力のほかに、双極子および四極子などの多重極子間相互作用を含む)および/または配位結合によって生じる架橋構造」のことをいう。
【0033】
ヒドロゲル材料の原料モノマー混合液には、「ゲルの骨格を形成するモノマー」として、親水性モノマーを含むことが好ましい。例えば、(メタ)アクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、リン含有(メタ)アクリル酸エステル、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート系親水性モノマー;ジアセトンアクリルアミド、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド塩酸塩、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、グリセロールアクリルアミド、アクリルアミド−N−ブリコール酸などのアクリルアミド系親水性モノマー;ビニルスルホン、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などスルホン系親水性モノマー;(メタ)アクリロイルモルホリン;N−ビニルピロリドン;N−ビニルカプロラクタム;N−ビニルオキサゾリン;N−ビニルサクシンイミド;ビニルピリジン;酢酸ビニル;イタコン酸;クロトン酸;N−ビニルイミダゾール;ビニルベンジルアンモニウム塩などがあげられる。これらのうち透明性、成型性、強度の面から、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、およびN−ビニルピロリドンが好ましく、とくにヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミドが好ましい。
【0034】
ヒドロゲル材料の原料モノマー混合液には、任意のモノマーとして、酸素透過性の良好なヒドロゲル材料を得ようとするためには、ペンタメチルジシロキサニルメチル(メタ)アクリレート、ペンタメチルジシロキサニルプロピル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、モノ[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]ビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、トリス[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]シリルプロピル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセロール(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセロール(メタ)アクリレート、モノ[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]ビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセロール(メタ)アクリレート、トリメチルシリルエチルテトラメチルジシロキサニルプロピルグリセロール(メタ)アクリレート、トリメチルシリルメチル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルプロピルグリセロール(メタ)アクリレート、ペンタメチルジシロキサニルプロピルグリセロール(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルエチルテトラメチルジシロキサニルメチル(メタ)アクリレート、テトラメチルトリイソプロピルシクロテトラシロキサニルプロピル(メタ)アクリレート、テトラメチルトリイソプロピルシクロテトラシロキシビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレートなどのシリコン含有(メタ)アクリレート;トリメチルシリルスチレン、トリス(トリメチルシロキシ)シリルスチレンなどのシリコン含有スチレン誘導体;4−ビニルベンジル−2’,2’,2’−トリフルオロエチルエーテル、4−ビニルベンジル−2’,2’,3’,3’,4’,4’,4’−ヘプタフルオロブチルエーテル、4−ビニルベンジル−3’,3’,3’−トリフルオロプロピルエーテル、4−ビニルベンジル−3’,3’,4’,4’,5’,5’,6’,6’,6’−ノナフルオロヘキシルエーテル、4−ビニルベンジル−4’,4’,5’,5’,6’,6’,7’,7’,8’,8’,8’−ウンデカフルオロオクチルエーテル、o−フルオロスチレン、m−フルオロスチレン、p−フルオロスチレン、トリフルオロスチレン、パーフルオロスチレン、p−トリフルオロメチルスチレン、o−トリフルオロメチルスチレン、m−トリフルオロメチルスチレンなどのフッ素含有スチレン誘導体;2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,2−トリフルオロ−1−トリフルオロメチルエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロ−tert−ペンチル(メタ)アクリレート、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−tert−ヘキシル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロブチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6−オクタフルオロヘキシル(メタ)アクリレート、2,3,4,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ビス(トリフルオロメチル)ペンチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,5−ノナフルオロペンチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8−ドデカフルオロオクチル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,7−トリデカフルオロへプチル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10−ヘキサデカフルオロデシル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11−オクタデカフルオロウンデシル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,11−ノナデカフルオロウンデシル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,12,12−エイコサフルオロドデシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−4,4,5,5,6,7,7,7−オクタフルオロ−6−トリフルオロメチルヘプチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−4,4,5,5,6,6,7,7,8,9,9,9−ドデカフルオロ−8−トリフルオロメチルノニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,11,11,11−ヘキサデカフルオロ−10−トリフルオロメチルウンデシル(メタ)アクリレートなどのフッ素含有アルキル(メタ)アクリレート;特開平2−188717号公報、特開平2−213820号公報、特開平3−43711号公報に開示されているマクロモノマーなどを含めることが考えられ、また、強度的に優れたヒドロゲル材料を得ようとするためには、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、tert−ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−メチルブチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどの直鎖状、分岐鎖状、環状のアルキル(メタ)アクリレート;スチレン;o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、o−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシスチレン、トリメチルスチレン、tert−ブチルスチレン、パーブロモスチレン、ジメチルアミノスチレン、α−メチルスチレンなどのスチレン誘導体;(メタ)アクリル酸などを含めることが考えられる。これらのモノマーは、単独でまたは2種以上を同時に用いることができる。
【0035】
ヒドロゲル材料の原料モノマー混合液に加えられる、化学的架橋を形成するための「架橋剤」としては、一般的に使われている架橋剤であれば何ら問題はない。例えば、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、メタクリロイルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジアリルフマレート、ジアリルフタレート、アジピン酸ジアリル、アジピン酸ジビニル、トリアリルジイソシアネート、α−メチレン−N−ビニルピロリドン、4−ビニルベンジル(メタ)アクリレート、3−ビニルベンジル(メタ)アクリレート、2,2−ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、1,4−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼン、1,3−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼン、1,2−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼン、1,4−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,3−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,2−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシイソプロピル)ベンゼン、N,N’−ビスアクリロイルシスタミン、メチレンビスアクリルアミドなどがあげられ、これらは単独または2種以上を混合して用いることができる。これらのなかでは、ヒドロゲル材料の柔軟性を適度にコントロールでき、良好な機械的強度を付与し、共重合性を向上させる効果が大きいため、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0036】
架橋剤の配合量は、得られたヒドロゲル材料が製品としての形状を保持しなければならない場合、好ましくは0.01〜60重量%、さらに好ましくは0.05〜40重量%である。0.01重量%より少ないと得られたヒドロゲル材料が製品として必要な形状を保持できなくなる傾向にあり、60重量%より多いと得られた製品が硬く装用感などが悪くなる傾向にあるため好ましくない。
【0037】
また、ヒドロゲル材料そのものを点眼薬として用いる場合、点眼後に涙液に溶解し角膜上から消失させるために、0重量%が好ましい。
【0038】
さらに、ヒドロゲル材料を涙点プラグおよび角結膜バンテージシートとして用いる場合、架橋剤の配合量は使用目的に応じて、つまり、涙液への溶解により消失させる場合は、好ましくは0重量%であり、得られたヒドロゲル材料が製品としての形状を保持しなければならない場合は、前記理由により、好ましくは0.01〜60重量%であり、さらに好ましくは0.05〜40重量%である。
【0039】
ターゲット薬剤としては、抗生物質、抗ウイルス剤、抗炎症剤、ステロイド、ペプチド、ポリペプチド、抗アレルギー剤、α−アドレナリン遮断剤、β−アドレナリン遮断剤、抗白内障剤、緑内障治療剤、眼薬、涙液分泌亢進剤、眼の局部的なまたは部分的な麻酔薬などから適宜選択すればよい。特に眼科領域での薬物による疾患治療や市場での要求性の点で、緑内障治療剤または涙液分泌亢進剤が好ましい。緑内障治療剤としては、チモロール、ピロカルピンおよびこれらの医療的に許容される塩が、涙液分泌亢進剤としては、エレドニゾン、グルタチオン、レチノールパルミテート、アテノール、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、シクロフォスファミド、ブロムヘキシン、シクロスポリン酸、およびこれらの医療的に許容される塩、ならびに同様のものがあげられる。眼の局部的なまたは部分的な麻酔薬としては、リドカイン、コカイン、ベノキシネート、ジブカイン、プロパラカイン、テトラカイン、エチドカイン、プロカイン、ヘキシルカイン、ブピバカイン、メピカイン、プリロカイン、クロロプロカインなどがあげられる。眼薬または他の薬剤としては、イドクスリウジン、カルバコール、ベタネコール、テトラサイクリン、エピネフリン、フェニレフリン、エセリン、ホスホリン、デメカリウム、シクロペントレート、ホマトロピン、スコポラミン、クロルテトラサイクリン、パシトラシン、ネオマイシン、ポリミキシン、グラミシジン、オキシテトラサイクリン、クロラムフェニコール、ゲンタマイシン、ペニシリン、エリスロマイシン、スルファセタミド、ポリミキシンB、トブラマイシン、イソフルロフェート、フルロメタロン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、フルロシノロン、メドリゾン、ポレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ベタメタゾン、トリアムシノロン、インターフェロン、クロモリン、パントテン酸、パントテノール、N、N−ジメチル−trans−2−フェニルシクロプロピルアミン、タウリン、アミノ酸(アスパラギン酸、アルギニン、グルタミン酸など)、ビタミンA1(レチノール)、ビタミンA2(3−デヒドロレチノール)、ビタミンA3、ビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンD2(エルゴカシフェノール)、ビタミンD3(コレカシフェロール)、およびこれらの医療的に許容される塩、ならびに同様のものがあげられる。
【0040】
「医療的に許容される塩」とは、親化合物の医薬的性質(例えば、毒性、効率など)に有意に、逆に影響をおよぼさない親化合物の塩を意味する。医薬的に許容される本発明の塩は、塩化物、ヨウ化物、臭化物、塩酸塩、酢酸塩、硝酸塩、ステアリン酸塩、リン酸塩、硫酸塩などを含む。
【0041】
ヒドロゲル材料中には、薬理学的有効量の前記ターゲット薬剤が含有され得る。
【0042】
重合方法は、ラジカル重合開始剤を重合成分に配合したのち、室温〜約130℃の温度範囲で徐々または段階的に加熱する方法、あるいはマイクロ波、紫外線、放射線(γ線)などの電磁波を照射する方法が考えられる。重合は、塊状重合法、溶媒などを用いた溶液重合法、またはその他の方法によってなされてもよい。
【0043】
前記ラジカル重合開始剤の代表例としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル(V−65)、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドなどがあげられる。これらは、単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0044】
なお、電磁波照射などを利用して重合させる場合には、光重合開始剤や増感剤をさらに添加することが好ましい。
【0045】
光重合開始剤としては、例えばメチルオルソベンゾイルベンゾエート、メチルベンゾイルフォルメート、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテルなどのベンゾイン系光重合開始剤;2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(ダロキュア(登録商標)1173)、p−イソプロピル−α−ヒドロキシイソブチルフェノン、p−t−ブチルトリクロロアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、α,α−ジクロロ−4−フェノキシアセトフェノン、N,N−テトラエチル−4,4−ジアミノベンゾフェノンなどのフェノン系光重合開始剤;1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン;1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム;2−クロロチオキサンソン、2−メチルチオキサンソンなどのチオキサンソン系光重合開始剤;ジベンゾスバロン;2−エチルアンスラキノン;ベンゾフェノンアクリレート;ベンゾフェノン;ベンジルなどがあげられる。これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0046】
前記重合開始剤や増感剤の使用量は、充分な速度で重合反応を進行させるためには、0.002重量%以上、なかんずく0.01重量%以上となるように調整することが好ましく、また得られるヒドロゲル材料に気泡が発生するおそれをなくすためには、10重量%以下、なかんずく2重量%以下となるように調整することが好ましい。
【0047】
重合後、未反応モノマーを除去するために使用する大過剰量の洗浄溶液としては、水;食塩水;希塩酸;水酸化ナトリウム水溶液;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール;および、これらの混合溶液があげられる。
【0048】
官能基を有するモノマーに含まれるカルボキシル基および/またはスルホン基をそれぞれイオン化して得られるカルボキシルイオン(−COO−)および/またはスルホニルイオン(−SO3 −)と物理的架橋構造を形成するような「イオン価が2価以上の金属イオン」をヒドロゲル材料中に添加しなくてはならない。
【0049】
前記金属イオンとしては、2価以上の陽イオンであれば良く、カルシウムイオン(Ca2+)、銅イオン(Cu2+)、鉄イオン(Fe2+、Fe3+)、亜鉛イオン(Zn2+)などがあげられる。これらのなかで、涙液の一成分として含まれていることから、カルシウムイオンが好ましい。
【0050】
前記金属イオンの添加方法としては、官能基を有するモノマーに含まれるカルボキシル基および/またはスルホン基がイオン化されたヒドロゲル材料を、前記金属イオンの塩化物(例えば、塩化カルシウム、塩化銅、塩化鉄、塩化亜鉛)の水溶液にヒドロゲルを浸漬することにより行われ、官能基を有するモノマー中の官能基と前記金属イオンとの間に物理的架橋を形成させることができる。
【0051】
前記のようにして得られるヒドロゲル材料を用いて薬剤徐放性の、角結膜バンテージシート、人工水晶体(水晶体嚢内に充填させ、生体の水晶体と同等な屈折矯正機能を有する人工代替物)、涙点プラグなどに用いることができる。これらを作製する方法としては、例えば、前記重合体にたとえば切削、研磨などの機械加工を施し、所望の形状の製品を得る方法があるが、その他に所望の形状を与える成形型を用意し、この型のなかで前記各成分を直接重合して成形する方法がある。この場合には、得られた製品には必要に応じて機械的な仕上げ加工を施してもよい。
【0052】
【実施例】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの例に限定されることを意味するものではない。
【0053】
実施例1〜4
ヒドロゲル材料の原料モノマーとしては、メタクリル酸(MAA;官能基を有するモノマー)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA;ゲルの骨格を形成するモノマー)、メチルメタクリレート(MMA;ゲルの骨格を形成するモノマー)、エチレングリコールジメタクリレート(EDMA;架橋剤)をそれぞれ蒸留によって精製したものを使用した。
【0054】
光重合開始剤としては、あらかじめ蒸留によって精製した2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(ダロキュア(登録商標)1173)を使用した。
【0055】
ヒドロゲル材料に取り込ませるターゲット薬剤としては、以下に示すチモロールマレイン酸塩(チモロール)を使用した:
【0056】
【化1】
【0057】
表1にしたがい、MAA、MMA、EDMAをHEMAに溶解させ、この混合液に0.4容量%のダロキュア1173を20μL加え、ポリプロピレン製の成形型(凸型および凹型の構成;直径20mm×厚み0.3mmの円形プレート状試験試料作成用)に注入し、型組みを行った(実際の配合量の決定方法:所定の配合量のMAA、MMA、EDMAをHEMAに溶解させ、全量が5mLとなるように、MEMAの配合量を決定した)。
【0058】
紫外線照射装置(アイグラフィックス株式会社製 UX0302−03;測定波長365nm)によって、室温下、照射強度11mW/cm2にて、成形型および成形型中のモノマー混合液に紫外線を50分間照射させ、紫外線照射重合を行った。
【0059】
重合終了後、成形型を開型し、試験試料を取り出した。
【0060】
重合後、得られた試験試料は大量の蒸留水で2日以上水和・膨潤させて、試験試料中に存在する未反応モノマーを除去した。その後、膨潤状態の試験試料を直径16mmのコルクボーラーで打ち抜いた。
【0061】
この試験試料を10mMの水酸化ナトリウム水溶液で2日以上、つぎに1mMの塩化ナトリウム水溶液で2日以上洗浄し、試験試料内のカルボキシル基をすべてイオン化させた。なお、上記水和・膨潤液(蒸留水)、洗浄液(水酸化ナトリウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液)は、1日3回以上交換した。
【0062】
ついで、得られたプレート状(直径:16mm)の乾燥した試験試料1枚を2mMのチモロール水溶液5mLが入ったバイアル瓶中に室温で2日間浸漬して試験試料内にチモロールを含浸させた。その後、これに0.5M塩化カルシウム水溶液2mLを加え、そのまま3日間保持することによって、試験試料内でMAAのカルボキシルイオンと、カルシウムイオンとの間に2:1の物理的架橋を形成させた。
【0063】
ここで、プレート状試験試料は、含水状態でゲルの体積がロット間ですべて同一になるように設計されている。
【0064】
比較例1〜4
0.5M塩化カルシウム水溶液の代わりに、1mM塩化ナトリウム水溶液を用いること以外は、実施例1〜4と同様の方法によって比較用の試験試料を得た。
【0065】
【表1】
【0066】
(薬剤徐放試験)
前記実施例および比較例においてプレート状試験試料にチモロールを取り込ませた後、試験試料をバイアル瓶から取り出し、蒸留水で数秒間すすいだ後、直ちに0.9重量%食塩水1.2mLが入ったバイアル瓶に移した。
【0067】
このバイアル瓶から溶液の半量(0.6mL)を5分間隔で採取し、自記分光光度計(株式会社島津製作所製 UV−3150)を用いて波長295nmにおける吸光度を測定した。測定後、5分間隔で取り出した溶液は元のバイアル瓶には戻さず、代わりに採取した溶液と同量の0.9重量%食塩水を加えた。この操作を5分間隔で4時間繰り返し行い、各試験試料あたり48回の測定を行い、得られた吸光度の値をもとに検量線を用いて、単位体積当たりの試験試料からの放出開始からの時間(t)におけるチモロール放出量総量(Mt)を定量した。
【0068】
なお、この試験系は、実際のin vivo系にできるだけ近い試験系になるように設定した。角膜嚢内には通常7〜10μLの溶液が存在しており0.7μL/分の速度で新しい涙液によって随時取り替えられる(Maurice, D. M,, Int. Ophthalmol. Clin., 1973, 13, 73;Mishima. S. et al, Inv. Ophthalmol. Vis. Sci., 1966, 5, 264;Ehlers, L. N., Acta Ophthalmol. 1965, 81, 1)。つまり、角膜嚢内のすべての涙液は約10分で交換されることとなり、今回用いたin vitroの試験系でも10分間ですべての外液が交換されるように設計してある。
【0069】
薬物放出開始から4時間以降は、外液中の吸光度が確認されなくなるまで不定期に外液を交換し、吸光度が検出限界以下になったら、それまでに採取した外液を混合して吸光度を測定し、得られた吸光度の値をもとに検量線を用いて、単位体積当たりの試験試料から放出されたチモロールの放出総量(M∞)を定量した。
【0070】
薬物拡散係数(D)は、下記のように求めた。
(Mt/M∞)=k・tn ・・・式(I)
ここで、k:拡散定数、t=放出開始からの時間、n=膨潤指数
式(I)は、
ln(Mt/M∞)=lnk+n・lnt ・・・式(II)
となり、(lnt)対(ln(Mt/M∞))のグラフにおいて、傾きがn、切片がlnkであることから、nおよびkの値を求めた。
【0071】
また、
Dn=k/[4・(πr2)n] ・・・式(III)
ここで、r:プレート状試験試料の半径
式(III)は、
D=(k/4)1/n・[1/(πr2)] ・・・式(IV)
であるから、上記で求めたnおよびkの値より、薬物拡散係数(D)を求めることができる。
【0072】
【発明の効果】
本発明により得られたヒドロゲル材料は、同一組成からなる従来型(イオン価が2価以上の金属イオンを含まない)のヒドロゲル材料と比べ、薬物拡散係数を低くさせることができた(すなわち、ゲル内からの薬物放出速度が遅くなった)。したがって、ヒドロゲル材料内にあらかじめ担持しておいた薬剤は、投与直後に起こる薬剤の急激な放出挙動が抑えられ、緩やかに外部に放出される。
【0073】
これにより、薬剤による副作用のリスクを大幅に減らすことができる。また、ステロイド等の薬効が極めて優れているにも関わらず、副作用の危険性からこれまで使用されなかった薬剤等もこのヒドロゲル材料を担持体として用いれば、使用可能となる。
Claims (13)
- ターゲット薬剤を担持することができる薬剤徐放可能なヒドロゲル材料の製造方法であって、
(a)イオン価が2価以上の金属イオンと物理的架橋構造を形成できる官能基を有するモノマーを重合成分として含有するモノマー混合液からなるヒドロゲル材料を得る工程;
(b)ターゲット薬剤を該ヒドロゲル材料に取り込ませる工程;および
(c)イオン価が2価以上の金属イオンを加え、該金属イオンと官能基との間に形成される物理的架橋構造によって、ターゲット薬剤を担持させる工程、
からなる薬剤徐放可能なヒドロゲル材料の製造方法。 - (a)イオン価が2価以上の金属イオンと物理的架橋構造を形成できる官能基を有するモノマーを重合成分として含有するモノマー混合液からなるヒドロゲル材料を得、(b)ターゲット薬剤を該ヒドロゲル材料に取り込ませ、次いで、(c)イオン価が2価以上の金属イオンを加え、該金属イオンと官能基との間に形成される物理的架橋構造によって、ターゲット薬剤を担持させることによって製造される薬剤徐放可能なヒドロゲル材料。
- 涙液中のナトリウムイオンによって、前記架橋構造が破壊され、それに応じてヒドロゲル材料内に担持されていたターゲット薬剤の放出速度を調節することができる請求項2記載の薬剤徐放可能なヒドロゲル材料。
- 前記モノマー混合液が、さらに親水性モノマーを含む請求項2または3記載の薬剤徐放可能なヒドロゲル材料。
- 前記親水性モノマーが、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、およびN−ビニルピロリドンからなる群から選択された少なくとも1種のモノマーである請求項4記載の薬剤徐放可能なヒドロゲル材料。
- 前記官能基を有するモノマーが、カルボキシル基、およびスルホン基からなる群から選択された少なくとも1種の官能基を有するモノマーである請求項2、3、4または5記載の薬剤徐放可能なヒドロゲル材料。
- 前記官能基を有するモノマーが、(メタ)アクリル酸およびスチレンスルホン酸からなる群から選択された少なくとも1種のモノマーである請求項6記載の薬剤徐放可能なヒドロゲル材料。
- 前記官能基を有するモノマーの配合量が、前記ヒドロゲル材料の重合成分に対して0.5〜100重量%である請求項6または7記載の薬剤徐放可能なヒドロゲル材料。
- 前記金属イオンが、カルシウムイオンCa2+、銅イオンCu2+、鉄イオンFe2+、Fe3+、および亜鉛イオンZn2+からなる群から選択された少なくとも1種の金属イオンである請求項2、3、4、5、6、7または8記載の薬剤徐放可能なヒドロゲル材料。
- 前記ターゲット薬剤が、緑内障治療剤である請求項2、3、4、5、6、7、8または9記載の薬剤徐放可能なヒドロゲル材料。
- 前記緑内障治療剤が、チモロールまたはピロカルピンあるいはこれらの医療的に許容される塩である請求項10記載の薬剤徐放可能なヒドロゲル材料。
- 請求項2、3、4、5、6、7、8、9、10または11記載の薬剤徐放可能なヒドロゲル材料からなる薬剤徐放性角結膜バンテージシート。
- 請求項2、3、4、5、6、7、8、9、10または11記載の薬剤徐放可能なヒドロゲル材料からなる薬剤徐放性人工水晶体。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2002177330A JP2004018472A (ja) | 2002-06-18 | 2002-06-18 | 薬剤徐放可能ヒドロゲル材料 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2002177330A JP2004018472A (ja) | 2002-06-18 | 2002-06-18 | 薬剤徐放可能ヒドロゲル材料 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2004018472A true JP2004018472A (ja) | 2004-01-22 |
Family
ID=31175394
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2002177330A Pending JP2004018472A (ja) | 2002-06-18 | 2002-06-18 | 薬剤徐放可能ヒドロゲル材料 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2004018472A (ja) |
Cited By (6)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2007112754A (ja) * | 2005-10-21 | 2007-05-10 | Menicon Co Ltd | ポストインプリント可能なヒドロゲル材料の製造方法 |
JP2009540945A (ja) * | 2006-06-21 | 2009-11-26 | ジョンソン・アンド・ジョンソン・ビジョン・ケア・インコーポレイテッド | 活性剤送達用の涙点プラグ |
JP2009540951A (ja) * | 2006-06-21 | 2009-11-26 | ジョンソン・アンド・ジョンソン・ビジョン・ケア・インコーポレイテッド | 活性剤送達用の涙点プラグ |
CN110982006A (zh) * | 2019-12-12 | 2020-04-10 | 中国人民解放军空军特色医学中心 | 双交联自修复水凝胶材料及其制成的仿真人脑 |
CN112263541A (zh) * | 2020-10-10 | 2021-01-26 | 上海交通大学医学院附属瑞金医院 | 一种双层金属基一体化水凝胶及其制备方法和应用 |
CN113880982A (zh) * | 2021-11-10 | 2022-01-04 | 合肥工业大学 | 多功能微凝胶智能润滑剂及其制备方法 |
-
2002
- 2002-06-18 JP JP2002177330A patent/JP2004018472A/ja active Pending
Cited By (10)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2007112754A (ja) * | 2005-10-21 | 2007-05-10 | Menicon Co Ltd | ポストインプリント可能なヒドロゲル材料の製造方法 |
JP2009540945A (ja) * | 2006-06-21 | 2009-11-26 | ジョンソン・アンド・ジョンソン・ビジョン・ケア・インコーポレイテッド | 活性剤送達用の涙点プラグ |
JP2009540951A (ja) * | 2006-06-21 | 2009-11-26 | ジョンソン・アンド・ジョンソン・ビジョン・ケア・インコーポレイテッド | 活性剤送達用の涙点プラグ |
US9173773B2 (en) | 2006-06-21 | 2015-11-03 | Johnson & Johnson Vision Care, Inc. | Punctal plugs for the delivery of active agents |
US9474645B2 (en) | 2006-06-21 | 2016-10-25 | Johnson & Johnson Vision Care, Inc. | Punctal plugs for the delivery of active agents |
CN110982006A (zh) * | 2019-12-12 | 2020-04-10 | 中国人民解放军空军特色医学中心 | 双交联自修复水凝胶材料及其制成的仿真人脑 |
CN112263541A (zh) * | 2020-10-10 | 2021-01-26 | 上海交通大学医学院附属瑞金医院 | 一种双层金属基一体化水凝胶及其制备方法和应用 |
CN112263541B (zh) * | 2020-10-10 | 2023-09-19 | 上海交通大学医学院附属瑞金医院 | 一种双层金属基一体化水凝胶及其制备方法和应用 |
CN113880982A (zh) * | 2021-11-10 | 2022-01-04 | 合肥工业大学 | 多功能微凝胶智能润滑剂及其制备方法 |
CN113880982B (zh) * | 2021-11-10 | 2022-11-08 | 合肥工业大学 | 多功能微凝胶智能润滑剂及其制备方法 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
JP2008214640A (ja) | 薬剤の取り込み量が多い、薬剤徐放可能なヒドロゲル材料の製造方法 | |
Fang et al. | Hydrogels-based ophthalmic drug delivery systems for treatment of ocular diseases | |
TWI531362B (zh) | 具有治療劑遞送能力之眼科裝置 | |
JP2002521705A (ja) | ベンゾトリアゾール及びベンゾフェノンを含むuv遮断レンズ並びに材料 | |
JP2008529606A (ja) | 接触薬物送達システム | |
JP4379778B2 (ja) | 薬物徐放性眼用レンズ | |
JP4219485B2 (ja) | 光学性含水ゲルからなる眼科用材料 | |
JP2016524729A (ja) | 植込み型近視用レンズ及びその製造方法 | |
JPH10339857A (ja) | 薬剤徐放性コンタクトレンズの製法およびそれによってえられた薬剤徐放性コンタクトレンズ | |
JP6510497B2 (ja) | アニオン性薬物含有医療用デバイス | |
JP6348111B2 (ja) | 環状デバイス | |
JP2004018472A (ja) | 薬剤徐放可能ヒドロゲル材料 | |
JP4879554B2 (ja) | ポストインプリント可能なヒドロゲル材料の製造方法 | |
US20090299348A1 (en) | Polymeric Materials for Use as Photoablatable Inlays | |
US7875661B2 (en) | Ordered polymer system and intraocular lens | |
Chauhan | Ocular drug delivery role of contact lenses | |
JP2005314338A (ja) | 薬物の取り込み量が多く、かつ薬物放出速度を制御しうる薬物徐放可能なヒドロゲル材料 | |
JP2005218780A (ja) | 薬物放出速度を制御し得る薬物徐放可能なヒドロゲル材料の製造方法 | |
JP4268912B2 (ja) | 薬物徐放性コンタクトレンズキット | |
JP5238115B2 (ja) | 薬物徐放性高分子ゲル及びそれからなる眼用レンズ | |
JP2018140969A (ja) | 後眼部疾患治療用環状デバイス | |
JP7340284B2 (ja) | 有効成分を担持及び徐放可能なナノ粒子、その製造方法並びに眼用装置への応用 | |
JP4124610B2 (ja) | 薬物徐放性コンタクトレンズ | |
TWI796497B (zh) | 含有陰離子性藥劑之眼用器材 | |
CN115634191A (zh) | 药物植入物及其制备方法、角膜接触镜及其制备方法 |