JP2004018464A - 4−オキサヘプタン−1,7−ジオールの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】アクロレインを原料として4−オキサヘプタン−1,7−ジオールを効率良く製造する。
【解決手段】アクロレインを出発原料とし、保護工程、酸化工程及び加水分解・還元工程により4−オキサヘプタン−1,7−ジオールを製造する方法であって、加水分解・還元工程で生じた1,3−プロパンジオールを保護工程及び酸化工程の少なくとも保護工程に供する。保護工程では、アクロレインと1,3−プロパンジオールとを反応させ、2−ビニル−1,3−ジオキサンおよび2−(6−ヒドロキシ−3−オキサヘキシル)−1,3−ジオキサンを主成分とする生成物群を得る。
【解決手段】アクロレインを出発原料とし、保護工程、酸化工程及び加水分解・還元工程により4−オキサヘプタン−1,7−ジオールを製造する方法であって、加水分解・還元工程で生じた1,3−プロパンジオールを保護工程及び酸化工程の少なくとも保護工程に供する。保護工程では、アクロレインと1,3−プロパンジオールとを反応させ、2−ビニル−1,3−ジオキサンおよび2−(6−ヒドロキシ−3−オキサヘキシル)−1,3−ジオキサンを主成分とする生成物群を得る。
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はアクロレインを原料として、4−オキサヘプタン−1,7−ジオールを製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリエステル及びポリウレタンのソフトセグメント部分の原料として有用なポリトリメチレングリコールは、炭素数が3のポリエーテルで、その合成法はWO2001−44348、WO2001−44150などにより報告されている。現在ソフトセグメント部分に主として使用されているポリテトラメチレングリコール(PTMEG)と比較して、ポリトリメチレングリコールは、特にポリエステルとの共重合時にPTMEGに見られるような加熱による開重合がない等の利点を多く持っている。また、いわゆる奇遇効果により、炭素数が偶数のポリエチレングリコールやPTMEGと比較して、炭素数が奇数のポリトリメチレングリコールは、ポリマーの物性という点で異なる挙動を示し、注目されている。
【0003】
ポリトリメチレングリコールは、主に1,3−プロパンジオール及びそのオリゴマーより合成できることが知られている。原料となる1,3−プロパンジオールの合成法の主なものには、エチレンオキサイドをヒドロホルミル化する方法、アクロレインを水和して3−ヒドロキシプロパナールを製造し、それを還元する方法などが知られており、USP 5093537号、特開平10−212253号、特開平8−143502号等に開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、エチレンオキサイドを出発原料とする方法は、一酸化炭素の加圧下で行われ、高圧設備を必要とするために、他の方法に比べ、建設費が高いという工業的な欠点がある。アクロレインを出発物質とする方法は、水和反応時の反応転化率を高くすることができず、反応率を高めると選択性が低下す欠点がある。また、反応中の基質濃度が高くなると副生物が増加する欠点があり、この反応が水を溶媒にすることから、生成した3−ヒドロキシプロパナール、もしくは、それを還元した後の1,3−プロパンジオールが水によく溶解し抽出分離が困難なため、大量の水を蒸留により分離しなければならないという欠点もある。
【0005】
さらに、生成物中に残存するカルボニル化合物が、その重合物であるポリマーの品質に影響があることが知られている(特開平6−40973号、USP5334778号、特表平11−509828号等)。この詳細についてみてみると、残存するカルボニル化合物の主なものは、2−(2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサンであり、これは目的生成物である1,3−プロパンジオールとの蒸留分離や抽出分離が非常に困難な化合物であり、これを削減するためには、1,3−プロパンジオールの製造方法に共通であり、最終工程でもある還元工程の条件を厳しいものにするしか今のところ工業的に有効な方法がない。
【0006】
本発明は、アクロレインから酸化反応を経て1,3−プロパンジオールを合成する方法と、酸触媒によって促進される4−オキサヘプタン−1,7−ジオールの合成法を組み合わせることにより、ポリメチレングリコールの原料となる4−オキサヘプタン−1,7−ジオールを効率良く生産する方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の4−オキサヘプタン−1,7−ジオールの製造方法は、アクロレインを出発原料とし、下記の保護工程、酸化工程及び加水分解・還元工程により4−オキサヘプタン−1,7−ジオールを製造する方法であって、下記加水分解・還元工程で生じた1,3−プロパンジオールを下記保護工程及び酸化工程のうち少なくとも保護工程に供することを特徴とするものである。
【0008】
保護工程:アクロレインと1,3−プロパンジオールとを酸触媒の存在下で反応させ、2−ビニル−1,3−ジオキサンおよび2−(6−ヒドロキシ−3−オキサヘキシル)−1,3−ジオキサンを主成分とする生成物群を得る。
【0009】
酸化工程:上記保護工程で得られた2−ビニル−1,3−ジオキサンを酸素下、パラジウムを主成分とする触媒の存在下、1,3−プロパンジオールと反応させ、マロンアルデヒド−ビス(1,3−プロパンジオールアセタール)及び2−(6−ヒドロキシ−3−オキサヘキシル)−1,3−ジオキサンを得る。
【0010】
加水分解・還元工程:上記酸化工程で得られたマロンアルデヒド−ビス(1,3−プロパンジオールアセタール)及び2−(6−ヒドロキシ−3−オキサヘキシル)−1,3−ジオキサンを水及び水素と反応させ、1,3−プロパンジオール及び4−オキサヘプタン−1,7−ジオールを得る。
【0011】
かかる本発明によると、アクロレインを原料として4−オキサヘプタン−1,7−ジオールを製造するに際し、反応に関与する1,3−プロパンジオールを全く又は殆ど反応系に追加供給することなく目的とする4−オキサヘプタン−1,7−ジオールを製造することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0013】
本発明は、アクロレインを出発原料として、以下の工程を組み合わせて4−オキサヘプタン−1,7−ジオールを製造する。
(保護工程) アクロレインと1,3−プロパンジオールとを酸触媒の存在下で反応させ、2−ビニル−1,3−ジオキサンおよび2−(6−ヒドロキシ−3−オキサヘキシル)−1,3−ジオキサン(以下、HEDOということがある。)を主成分とする生成物群を得る。
(酸化工程) 保護工程で得られた2−ビニル−1,3−ジオキサンを酸素下、パラジウムを主成分とする触媒の存在下、1,3−プロパンジオールと反応させ、マロンアルデヒド−ビス(1,3−プロパンジオールアセタール)(以下、DACということがある。)及びHEDOを得る。
(加水分解+還元工程) 酸化工程で得られたDAC及びHEDOを水及び水素と反応させ、1,3−プロパンジオール及び4−オキサヘプタン−1,7−ジオールを得る。
【0014】
上記の保護工程、酸化工程及び加水分解・還元工程の化学反応式を次に示す。
【0015】
【化1】
【0016】
本発明では、加水分解・還元工程で生じた1,3−プロパンジオールを保護工程か、保護工程及び酸化工程に供する。
【0017】
次に、上記各工程について順次に詳細に説明する。
【0018】
[保護工程]
この保護工程の原料はアクロレインと1,3−プロパンジオールである。
【0019】
まず、アクロレインと1,3−プロパンジオールのアセタール化反応により2−ビニル−1,3−ジオキサン、及び水が生成する。さらにこの2−ビニル−1,3−ジオキサンと1,3−プロパンジオールが反応し、HEDOを生じる。反応器出口においては、アクロレイン、1,3−プロパンジオール、2−ビニル−1,3−ジオキサン、HEDO及び水の混合物として生成物を得る。
【0020】
<反応原料>
<アクロレイン>
この保護反応系中のアクロレインの存在量は、反応容積全体に対して、好ましくは1vol%以上99vol%以下、特に好ましくは1vol%以上50vol%以下の範囲で選ぶことができる。
これらの原料の中には、熱等により重合したり、ラジカル自動酸化を起こし易いものが含まれる。そのような場合は、ヒドロキノン、フェノチアジンなどのラジカル捕束剤、重合禁止剤などを系中に加えるとよい。
【0021】
<1,3−プロパンジオール>
反応系中の1,3−プロパンジオールの存在量は、反応容積全体に対して、好ましくは1vol%以上99vol%以下、特に好ましくは5vol%以上99vol%以下の範囲内である。
【0022】
<供給比率>
アクロレインと1,3−プロパンジオールの反応初期におけるモル比は、特に限定されるものではないが、1/1〜1/100の範囲が好ましい。上記の範囲内でも1/1〜1/95がより好ましく、1/1.2〜1/90の範囲が特に好ましい。
【0023】
<触媒>
この工程の触媒としては、酸が有効である。これはアクロレインから2−ビニル−1,3−ジオキサンの生成反応及び2−ビニル−1,3−ジオキサンからHEDOの生成反応の両方に有効である。この場合、用いる酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸、ランタノイドトリフラート等のルイス酸、ヘテロポリ酸等のポリ酸、イオン交換樹脂、ゼオライト、粘土等の固体酸を使用することができる。生成物の分離の簡便さから固体酸が便利である。一般的に低濃度であることが経済的な観点では好ましいが、生産性という観点では、反応速度が触媒濃度に対して負の相関が無い領域においては、ある程度高濃度化した方が好ましい。これらの観点において、酸の添加量は、基質に対して0.001〜100重量比が好ましく、さらに好ましくは0.01〜70重量比、特に好ましくは、0.01〜60重量比である。
【0024】
<溶媒>
反応させる原料を溶媒として過剰に用いることもできるが、別の溶媒を加えることができる。溶媒の添加量に特に制限はないが、原料の合計に対して0.05〜100の重量比が好ましく、さらに好ましくは0.1〜25の重量比である。別の溶媒は、反応系で変質や反応しないものであれば時に制限されない。例えば脂肪族、芳香族炭化水素溶媒やハロゲン化炭化水素が挙げられる。具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、フルオロベンゼンなどが例示される。
【0025】
<反応条件>
<温度>
反応温度は、0℃以上であれば反応が進行することが確認できるが、本発明の反応の温度依存性は大きいので、より高温が好ましい。しかしながら高温領域で進行しやすくなる基質の重合反応は避けるべきことであり、この観点から反応温度は選択されるべきであるが、一般的には本反応は、10〜200℃の間の温度領域で行うことが好ましい。更に好ましくは20〜180℃の温度、もっとも好ましくは、30〜100℃において経済的にも有為な反応速度を得ることができる。
【0026】
<圧力>
反応中の圧力については、通常は常圧で行われるが、原料であるアクロレインが低沸点であるため、その飛散を防ぐ目的で、加圧状態で行うこともできる。
【0027】
<反応方法>
保護工程は一般的な方法によって行うことができる。触媒の各成分が溶液状態で存在する場合は、回分反応器により特定の反応時間、原料を接触させて反応を進行させることもできるし、連続相反応器により、原料を連続的に供給して反応を進行させることもできる。一方、酸触媒成分が、固定化されている場合においては、前述の液相反応を使用することもできるし、固定床に触媒を充填し、液相状態として対応する原料を供給するいわゆるトリクルベッド方式を採用することもできる。
【0028】
<原料供給>
アクロレインと1,3−プロパンジオールの供給は、あらかじめ原料を混合しておき、反応器に導入する方法;反応器に原料を別々に供給する方法;のいずれも採用することができる。
【0029】
これらの反応において、ホルミル基のアセタール化が進行する場合に生成する際に生じる水が、1,3−プロパンジオールの代わりに2−ビニル−1,3−ジオキサンと反応してHEDOが生じても、この化合物は後工程にて1,3−プロパンジオールに変換されるため、構わない。
【0030】
また、2−ビニル−1,3−ジオキサンの生成は、アセタール化反応で、平衡反応である。従って、系中に生成した水を除くことによりより高い転化率が得られる。その手法としては、水を吸着する無水の金属塩やゼオライト等のモレキュラーシーブ等を共存させる方法、水と共沸する成分を添加し、蒸留除去する方法、ガスにより同伴留去する方法、または水と反応して反応に負の影響を与えない化合物に変換される化合物、例えば、金属アルコキシドなどを添加する方法といった手法がある。
【0031】
<反応液の処理>
反応後の反応液からは、生成物を直接蒸留分離することができる。また、1,3−プロパンジオールと二相を形成する溶媒を添加して、液−液の相分離を行い、1,3−プロパンジオールを殆ど含まない溶媒相からアクロレインを回収し、生成物を選択的に取り出すことができる。相分離した場合、生成物側に微量の他の成分が混入した場合には、二回以上の抽出分離を行うことによって、残存量を無視できるレベルまで低減させることもできるし、一段目の相分離後、あるレベルの原料回収、及び生成物回収の為の蒸留操作を行い、不純物の残存濃度をある程度高めてから、再度抽出を行うといった手法を採用することも可能であり、より経済的、効率的と考えられる手法が取られるべきである。
【0032】
次の酸化工程でも1,3−プロパンジオールを用いるため、生成物である2−ビニル−1,3−ジオキサン,HEDO、水および未反応の1,3−プロパンジオールを分離する必要は必ずしもなく、アクロレインのみ分離すれば事足りる。
【0033】
[酸化工程]
この酸化工程では、2−ビニル−1,3−ジオキサン、1,3−プロパンジオール及び酸素からDACを得る。
【0034】
<反応原料>
この酸化工程では、上記保護工程で生じた2−ビニル−1,3−ジオキサンが1,3−プロパンジオールと反応する。この酸化工程では、上記保護工程で得られた反応生成物である2−ビニル−1,3−ジオキサン,HEDO、水および未反応の1,3−プロパンジオールをそのまま反応原料とすることができるが、2−ビニル−1,3−ジオキサンを含めばその他の成分を適宜分離したものを用いてもよい。
なお、保護工程で生じたHEDOは、酸化工程に供給されても変化せずにそのまま加水分解・還元工程に入る。
【0035】
<2−ビニル−1,3−ジオキサン>
反応系中の2−ビニル−1,3−ジオキサンの存在量は、反応容積全体に対して、通常1vol%以上、好ましくは5vol%以上であり、また通常99vol%以下、好ましくは50vol%以下の範囲で選ぶことができる。
【0036】
<1,3−プロパンジオール>
反応系中の1,3−プロパンジオールの存在量は、反応容積全体に対して、通常1vol%以上、好ましくは5vol%以上であり、また、通常99vol%以下、好ましくは80vol%以下の範囲内である。
【0037】
<供給比率>
原料の2−ビニル−1,3−ジオキサンと1,3−プロパンジオールの反応初期における反応系中のモル比は、特に限定されるものではないが、1/1〜1/100の範囲であればよい。上記の範囲内でも1/1〜1/95が好ましく、1/1.2〜1/90の範囲が特に好ましい。
【0038】
<触媒>
触媒としては、特に制限はなく、均一系でも不均一系でもよいが、中でもパラジウムに加えて、銅及び鉄のいずれか、もしくは銅及び鉄の両方を少なくとも含む触媒を用いるのが好ましく、特には、パラジウムと銅と鉄の全てを組み合わせた触媒を用いるのがよい。これらパラジウム、銅、鉄の原料化合物としては、市販のもの等多くが知られているが、それらの中から任意に選ぶことができる。
【0039】
例えば、パラジウム化合物としては、塩化パラジウム、臭化パラジウム等のハロゲン化パラジウム、Na2PdCl4, Li2PdCl4等のパラデート、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、酢酸パラジウム、トリフロロ酢酸パラジウム、パラジウムアセチルアセトナート等の無機酸又は有機酸のパラジウム塩、酸化パラジウム、水酸化パラジウム等の無機パラジウム、更にはこれらの金属塩から誘導される塩基の配位した化合物、例えば、PdCl2(CH3CN)2, PdCl2(PhCN)2, PdCl2(PPh3)2, Pd(en)2Cl2,Pd(Phen)Cl2等があるが、これらに限定される訳ではない(ここでen:エチレンジアミン、phen:1,10−フェナントロリン、ph:フェニルを表す)。これらのパラジウム化合物の中でも、Na2PdCl4, Li2PdCl4等のパラデート、塩基の配位した化合物、例えば、PdCl2(CH3CN)2, PdCl2(PhCN)2, PdCl2(PPh3)2, Pd(en)2Cl2, Pd(Phen)Cl2等が好ましく、アルコール類によく溶解し、炭化水素に難溶なものが好ましい。
【0040】
鉄化合物としては、例えば、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)等の塩化物、臭化鉄(II)、臭化鉄(III)等の臭化物、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、硝酸鉄(II)、硝酸鉄(III)等の無機酸塩、酢酸鉄(II)、酢酸鉄(III)、シュウ酸鉄(II)、シュウ酸鉄(III)、ギ酸鉄、アセチルアセトン鉄等の各種の塩又は配位化合物の形態で反応に供することができ、中でも塩化鉄(III)が好ましい。
【0041】
銅化合物としては、例えば、塩化銅(I)、塩化銅(II)等の塩化物、臭化銅(I)、臭化銅(II)等の臭化物、硫酸銅(I)、硫酸銅(II)、硝酸銅(I)、硝酸銅(II)等の無機酸塩、酢酸銅(I)、酢酸銅(II)、シュウ酸銅(I)、シュウ酸銅(II)、ギ酸銅、アセチルアセトン銅等の各種の塩又は配位化合物の形態で反応に供することができ、中でも塩化銅(I)、塩化銅(II)が好ましい。
【0042】
触媒の濃度は、一般的に低濃度であることが経済的な観点では好ましいが、生産性という観点では、反応速度が触媒濃度に対して負の相関が無い領域においては、ある程度高濃度化した方が好ましい。これらの観点においてパラジウムの濃度は、全反応液重量に対して、Pdとして通常0.001wt%以上、好ましくは0.01wt%以上、また通常10wt%以下、好ましくは5wt%以下の範囲から選ぶことができるが、高濃度条件下では、反応速度の濃度依存性が、低濃度条件下とは異なる挙動を示し、触媒効率が悪くなる傾向にある為、経済的な観点から効率的な濃度が選択されるべきである。
【0043】
反応液中の鉄又は銅の濃度はパラジウムに対する相対濃度で記述することができる。Fe及びCuの存在量をパラジウムに対するモル比で表すと、各々通常0.01以上、好ましくは0.1以上、また、通常100以下、10以下の範囲で選ぶことができる。鉄又は銅のイオン濃度がこれらの範囲よりも低い領域では、反応速度の低下ばかりでなく、主たる効果であるPd析出の抑制効果が小さくなる傾向があり好ましくない。また多く添加すると反応そのものは阻害しないが、反応系への溶解量が低くなる傾向があるため好ましくない。
【0044】
この酸化反応においては、反応系中にハロゲンイオン、特にはClイオン又はBrイオンを存在させることが好ましい。ここで「イオン」とは、反応系中において、解離したイオンの形態であってもよいし、解離せずに塩の形態であってもよい。ハロゲンイオンを存在させる方法としては、触媒として用いるパラジウム、銅、鉄から選ばれる少なくとも一種の原料化合物として塩化物や臭化物等のハロゲン塩を用いることが望ましい。また、これとは別に反応系中にハロゲン化合物を添加することもできる。ハロゲン化合物としては、NaCl,LiCl,SnCl2等の無機塩を用いることができる。これらのハロゲンイオンの反応系中の存在量はPdに対する相対濃度で記述することができる。即ち0.1<[Cl 及び/又は Br]/[Pd]<100(モル比)の範囲が好ましく、より好ましくは0.3<[Cl 及び/又は Br]/[Pd]<50であるが、ハロゲン濃度が高い状況においては、反応器中の水の濃度は低いが、反応器材質の腐食の懸念があるので、ハロゲンイオン濃度は、なるべく低くして触媒系が機能する様に選択しなければならない。また副生成物の一部には、触媒系由来のハロゲンを含む成分が存在する場合がある。その場合は、連続的或いは定期的に消費されたハロゲンを、例えば金属塩の形で補給する方が良い。
【0045】
<溶媒>
反応させる1,3−プロパンジオールを溶媒として過剰に用いることもできるが、1,3−プロパンジオールとは別の溶媒を加えることもできる。溶媒を加えることにより、1,3−プロパンジオールがこれら別の溶媒と二層を形成する場合は、相分離により触媒と生成物を分離することができる。特に均一系の触媒を用いる反応系では、触媒と生成物の分離が工業的に大きな問題であり、これらの問題を回避できることは大きな意義がある。
【0046】
溶媒としては、脂肪族、芳香族炭化水素溶媒やハロゲン化炭化水素が挙げられる。具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、フルオロベンゼンなどが例示される。このような溶媒の添加量に特に制限はないが、原料の合計に対して0.05以上の重量比が好ましく、さらに好ましくは0.1以上の重量比であり、100以下の重量比が好ましく、さらに好ましくは25以下の重量比である。
【0047】
<反応条件>
<温度>
反応温度は、0℃以上であれば反応が進行することが確認できるが、本発明の反応の温度依存性は大きいので、より高温が好ましい。しかしながら爆発性混合物の形成条件を回避すること、及び、高温領域で進行しやすくなるラジカル自動酸化による副生物の増大や基質の重合反応は避けるべきことであり、これらの観点から反応温度は選択されるべきであるが、一般的には本反応は、20〜200℃の間の温度領域で行うことが好ましい。更に好ましくは40〜180℃の温度において、経済的にも有利な反応速度を得ることができる。
【0048】
<圧力>
この酸化工程において、酸素を含むガスを使用することが必要条件であるが、酸素と有機化合物はある温度、ある圧力領域、組成領域において、爆発性混合物を作る可能性があるのでその危険性を回避することが必要である。酸素の分圧は通常0.001MPa以上であれば反応は進行するが、酸素分圧が低いと反応速度が遅くなる傾向があり、触媒の失活が懸念されるので、温度、触媒濃度との関係で決定する必要があるが、本発明においては、0.01〜10MPaが好ましい。可能であれば更に酸素分圧が高い0.05〜5MPaであることが好ましいが、安全性、経済性の観点からより好ましい圧力が選択される。
【0049】
<反応方法>
酸化工程は一般的な酸化の方法に従って行うことができる。触媒の各成分が溶液状態で存在する場合は、回分反応器により特定の反応時間、オレフィン類を酸素を含むガスと接触させて酸化反応を進行させることもできるし、連続相反応器により、酸素を含むガス及びオレフィン類を連続的に供給して酸化反応を進行させることができる。一方、触媒成分が、固定化されている場合においては、前述の液相反応を使用することもできるし、固定床に触媒を充填し、液相状態として対応するオレフィン類及び酸素を供給するいわゆるトリクルベッド方式を採用することができる。
【0050】
<酸素の供給>
酸素の供給には、酸素を含むガスを攪拌翼によって細かい気泡とする手法、反応器の内側に邪魔板を設け酸素ガスを細かい気泡とする手法、ノズルより高線速で系中に噴霧するといった手法により、反応溶液系への酸素の溶解に有効な手法を採用することができる。
【0051】
<水の除去>
酸化工程において、アセタールが生成する際に生じる水は、アセタールとアルデヒドとの間の平衡をアルデヒドに有利にする。これら遊離のホルミル基は酸化反応に対する反応性がアセタールよりも高い為、逐次酸化を受けやすい。従って、系中に生成した水はなるべく系外へ除去することが好ましく、反応系中の水量として50wt%以下に維持するのが好ましく、さらに好ましくは20wt%以下に維持するのが好ましい。その手法としては、水を吸着する無水の金属塩やゼオライト等のモレキュラーシーブ等を共存させる方法、水と共沸する成分を添加し、蒸留除去する方法、酸素を含むか又は含まないガスにより同伴留去する方法、または水と反応して反応に負の影響を与えない化合物に変換される化合物、例えば、金属アルコキシドなどを添加する方法といった手法がある。
【0052】
<反応液の処理>
酸化反応後の反応液は、加圧状態にある場合には、圧力をある程度解放し、低圧化させてもよい。原料成分及び生成物の沸点が低い場合は、反応液から直接それらの低沸点成分を蒸留分離することができる。また、原料成分及び生成物の沸点が1,3−プロパンジオールよりも高沸点側にある場合は、二相を形成する溶媒を添加して、液−液の相分離を行い、触媒を殆ど含まない溶媒相から、原料を回収し、生成物を選択的に取り出すことができる。相分離した場合、生成物側に微量の触媒成分が混入した場合には、二回以上の抽出分離を行うことによって、触媒成分の残存量を無視できるレベルまで低減させることもできるし、一段目の相分離後、あるレベルの原料回収、及び生成物回収の為の蒸留操作を行い、残存触媒濃度をある程度高めてから、再度抽出を行うといった手法が可能であり、より経済的、効率的と考えられる手法が取られるべきである。相分離により分離された1,3−プロパンジオール相中の触媒は、反応器にリサイクルして使用することができる。
【0053】
また、反応器内においては、微量ながら起こる逐次酸化により水が生成する。生成した水は極力系外に除去するのが好ましいが、それでも、系中にCl等のハロゲン成分が存在していると、その反応器腐食に関わる懸念は大きい。従って、塩化水素等の腐食性の酸に対して、耐性の大きな材質を必要な箇所に使用することが好ましい。
【0054】
反応圧力が余り高くない領域においては、ガラス、セラミック、フッ素樹脂等の材質を使用することができるし、反応圧力が高い場合においては、一般に耐腐食性反応容器とされるもの、即ち、各種のステンレス合金、特に通称ハステロイと呼ばれているもの、チタンを含む合金、ジルコニウムを含む合金等の容器、あるいはこれらの合金を表面に塗布、圧着した容器を使用することが好ましい。特に反応器は、腐食の可能性の高いところであるが、更に静置槽、分離槽を設ける場合には、この部位が腐食の可能性が高い。更に、生成物を含む油相の蒸留等では、触媒成分が残存している場合においては、ハロゲン成分が濃縮される可能性があり腐食の可能性が高い。これらの主たる容器、それに付属する配管は腐食の可能性の高さに応じて、経済的に許される範囲において耐腐食性の材質を使用することが好ましい。
【0055】
<反応生成物>
この酸化工程で得られる化合物の主成分は、オレフィン部分が酸化され、さらに1,3−プロパンジオールと反応したDACである。この他に、マロンアルデヒドモノ(1,3−ジオキサン−2−イル)アセタール(MAC)、3−ヒドロキシプロピル−1,3−ジオキサシクロヘキシ−2−イルエタノエート(PDE)、2−ヒドロキシエチル−1,3−ジオキサン(HDO)等も得られる。主成分であるDACはもちろんのこと、これらの化合物も、次工程の加水分解及び還元反応によりすべて1,3−プロパンジオールに変換することができる。また、これらの他に2−ビニル−1,3−ジオキサンと1,3−プロパンジオールが、酸素の関与なしに触媒の酸の作用により直接に反応して、アルコールが直接オレフィン部分に挿入したHEDOも生じる。
【0056】
酸化反応系中に必須の成分として存在する1,3−プロパンジオールは、酸化反応に対して全く不活性ではなく、酸化を受けた化合物も観測されることがある。しかしながら、これらの多くの副生物は、目的生成物とともに、次工程に入り、加水分解及び還元を受けることにより、元の1,3−プロパンジオールに変換されたり、沸点の低い化合物へ分解される。一般に酸化反応において、副生物として得られる逐次酸化物は高沸点な場合が多く、蒸留による除去などを行う場合に、多大なエネルギーを消費することがしばしばあるが、本発明においては、これらの副生物は有効成分に変換されたり、分離しやすい化合物に分解させることができるため、工業的にも非常に効率的なプロセスを構築することができる。
【0057】
また一方で、長時間回分反応を繰り返す場合や、連続反応においては、触媒成分を含む1,3−プロパンジオール相には、前述の1,3−プロパンジオールの酸化物や生成物の逐次酸化物由来の成分が蓄積していく場合もある。プロセスを安定に運転する為には、全体の物質収支を制御することが必要である。従って、これらの不純物の生成速度及び、逐次酸化成分の生成速度見合いで、触媒を含むアルコール相の一部を系外に除去し、新しく触媒原料液を補給することが必要になる。この際、系外に除去された触媒成分は、除去率が大きく、経済的負担が大きい場合には、触媒成分を回収することが必要である。その方法に制限はないが、有機物の除去、洗浄、金属成分の回収といった手法が有効である。
【0058】
また、二相分離した生成物を含む有機相から分離溶剤を回収する場合にも、同様に不純物蓄積の起こる場合があり、この場合にも、分離溶剤の一部を系外に除去し、新しい分離溶剤を補給することが必要である。
【0059】
[加水分解・還元工程]
加水分解・還元工程では、上記酸化工程で得られた化合物を、1,3−プロパンジオール及び4−オキサヘプタン−1,7−ジオールに変換する。
【0060】
この工程では、次の反応を行う。
【0061】
(1) アセタールを加水分解し、ホルミル基に変換する反応。
具体的には、DACを加水分解してマロンアルデヒドを得る反応と、HEDOを加水分解し7−ヒドロキシ−3−オキサヘプタナールを得る反応である。また、酸化工程で生じた副生物のうち、アセタール部分を有するものについても加水分解する。
【0062】
(2) (1)で生じたホルミル基を還元する反応。
具体的には、マロンアルデヒドを還元し1,3−プロパンジオールにする反応と7−ヒドロキシ−3−オキサヘプタナールを還元し4−オキサヘプタン−1,7−ジオールにする反応である。また、酸化工程副生物が上記のDACの加水分解に伴って加水分解されて生じたアルデヒドも還元される。
【0063】
加水分解と還元をそれぞれ別の反応器で行う、または、同一容器内で水を添加して加水分解を行った後、還元剤を導入して還元を行うこともできるが、水及び還元剤の存在下、加水分解反応とそれに続く還元反応を同時進行的に行うことが望ましい。
【0064】
アセタールが加水分解によりアルデヒドを生じる反応は平衡反応であり、平衡反応を押し切るためには大量の水を必要とする。大量の水の添加は、生成物からの水の除去のコストを増大させる。加水分解とそれに続く還元を同時進行的に行うことにより、加水分解されて生じたアルデヒドがすぐに還元され、アルコールになるため、平衡の束縛から逃れ、平衡が生成系へ偏るので、添加する水の量が少量ですむという有利な点があるからである。
【0065】
<加水分解の詳細な説明>
<触媒>
加水分解の触媒としては、酸が有効である。この場合用いる酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸、ランタノイドトリフラート等のルイス酸、ヘテロポリ酸等のポリ酸、イオン交換樹脂、ゼオライト、粘土等の固体酸を使用することができる。生成物の分離の簡便さから固体酸が便利である。酸の添加量は、ごく少量でも有効で、特に制限はないが、加水分解対象物質に対して0.001〜100重量比が好ましく、さらに好ましくは0.01〜70重量比、特に好ましくは、0.01〜60重量比である。
【0066】
<水>
加水分解に用いる水の量は、加水分解対象物質を加水分解するに必要な化学量論量を添加すればよい。もちろん、過剰に用いても構わない。
【0067】
<溶媒>
水の他に溶媒を加えてもよい。溶媒としては酸、及び還元剤による変質を受けないものであればなんでもよい。
【0068】
<還元反応の詳細な説明>
<還元剤>
還元剤としては、カルボニル基の還元剤として公知のもの、市販のもの等多くが知られているが、それらの中から任意に選ぶことができる。前述したように加水分解の工程とそれに続く還元の工程を同時に行うことが望ましいので、酸、及び水に対して、還元能が阻害されない還元剤が望ましい。その経済性、分離の容易さ等から水素を還元剤とする接触還元がさらに望ましい。水素の分圧は0.001MPa以上であれば反応は進行するが、水素分圧が低いと反応速度が遅くなる。触媒が失活するといったことが懸念されるので、温度、触媒濃度にもよるが、本発明においては、0.01〜50MPaが好ましい。更に0.05〜20MPaであることが好ましく、0.1〜10MPaが特に好ましい。
【0069】
<触媒>
接触還元の触媒としては、ラネーニッケル、白金、ロジウム、パラジウム、ルテニウムなどの貴金属、及びそれらをカーボン、シリカ、ゼオライト等の担体に担持したもの等、公知のもの、市販のもの等が多く知られているが、それらの中から任意に選ぶことができる。特にルテニウムを主成分とした触媒が副反応が少なく好ましい。なお、後述の実施例では、ルテニウムをカーボン担体に5重量%担持させたもの(5%Rn/Cと表示)を用いている。これら触媒の量は、ごく少量でも有効で、特に制限はないが、還元対象物質に対して0.0001〜100重量比が好ましく、さらに好ましくは0.001〜70重量比、特に好ましくは、0.01〜50重量比である。
【0070】
加水分解とそれに続く還元を同時進行的に行う場合、加水分解用の酸触媒と接触還元用の触媒とは、混合されて添加されてもよい。また、例えば、固体酸を担体として接触還元能を持つ貴金属をそれに担持させたようなお互いが化学的結合を有する二元性を持った一つの触媒として加えられてもよい。
【0071】
<加水分解・還元反応の温度>
加水分解・還元反応温度としては、0℃以上であれば反応が進行することが確認できるが、本発明の反応の温度依存性は大きいので、より高温が好ましい。一般的には本反応は、20〜350℃の間の温度領域で行うことが好ましい。更に好ましくは40〜300℃、最も好ましくは、80〜200℃の温度において、経済的にも有為な反応速度を得ることができる。
【0072】
<加水分解・還元反応方法>
この加水分解・還元工程は一般的な方法によって行うことができる。触媒の各成分が溶液状態で存在する場合は、回分反応器により特定の反応時間、基質を水及び水素を含むガスと接触させて反応を進行させることもできるし、連続相反応器により、水、水素を含むガス及び基質を連続的に供給して反応を進行させることもできる。一方、触媒成分が固定化されている場合においては、前述の液相反応を使用することもできるし、固定床に触媒を充填し、液相状態として対応する基質、水、及び水素を供給するいわゆるトリクルベッド方式を採用することもできる。
【0073】
<1,3−プロパンジオールのリサイクル>
ここで生じた1,3−プロパンジオールは、保護工程、もしくは保護工程及び酸化工程にリサイクルされる。
【0074】
<4−オキサヘプタン−1,7−ジオールの分離>
4−オキサヘプタン−1,7−ジオールは、1,3−プロパンジオールが2−(2−ヒドロキシエチル−1,3−ジオキサンとの蒸留分離が非常に困難なのに対し、HEDOやHDOなど本反応で生じるカルボニル化合物との分離精製が蒸留操作によって行え、工業的に有利である。
【0075】
本発明において、4−オキサヘプタン−1,7−ジオールの収率を上げるためには、保護工程及び酸化工程のHEDOの生成量を増加させるのではなく、加水分解・還元工程の反応原料であるDACとHEDOとを1:1で得ることが好ましい。そして、このようにDACとHEDOとが1:1で得られるように、保護工程及び酸化工程の条件を設定するのが好ましい。
【0076】
本発明の4−オキサヘプタン−1,7−ジオールの製造方法には下記の2つの反応Aと反応Bとが含まれる。これら2つの反応A,Bのバランスをとると、アクロレインからHEDOを得ることができる。
【0077】
反応Aは、アクロレインと1,3−プロパンジオールとのアセタール化反応により2−ビニル−1,3−ジオキサンを生成し、この2−ビニル−1,3−ジオキサンを1,3−プロパンジオールと酸素と反応させ、DACを主成分とする生成物群を得、さらにこのDACを主成分とする生成物群を加水分解・還元し、主として1,3−プロパンジオールを得る反応である。
【0078】
反応Bは、2−ビニル−1,3−ジオキサンと1,3−プロパンジオールからHEDOを得、これを加水分解・還元し、4−オキサヘプタン−1,7−ジオールと1,3−プロパンジオールを得る反応である。
【0079】
【化2】
【0080】
反応Aで生じた1,3−プロパンジオールのうち2/3は反応Aにリサイクルされ、1/3は反応Bで消費される。反応Bで生じた1,3−プロパンジオールは、反応Bにリサイクルされる。
【0081】
アクロレインからDACを経て1,3−プロパンジオールを生成する反応Aでは、生じた1,3−プロパンジオールのうち2/3はリサイクルされるため、アクロレインと等モルの1,3−プロパンジオールを生成する。アクロレインからHEDOを経て4−オキサヘプタン−1,7−ジオールを生成する反応Bにおいて、アクロレインよりHEDOの反応は、アクロレインに対して2倍モル等量の1,3−プロパンジオールを必要とするため、そのうちの1モル等量は反応Aで生じた1,3−プロパンジオールを使用し、残り1モル等量は、反応B後生じる1,3−プロパンジオールをリサイクルする。従って、生成物としては4−オキサヘプタン−1,7−ジオールが取り出される。
【0082】
以上は、本発明の基本構成要素について述べたが、これらの構成要素は効率的な反応に必要な必要条件であり、これに更に、別の成分を加えて活性及び反応性を上げることも可能である。
【0083】
即ち、促進効果のある添加物、ラジカルトラップ剤による副反応の抑制、溶液中の溶存水素濃度を上げる為の溶媒の使用、超臨界流体の使用、機械的な攪拌強度の増大、活性成分を固定化して、触媒成分の分散性を向上させるといった手法であっても、上述した本発明の触媒成分を含む限りにおいては本発明の枠内にある。
【0084】
【実施例】
以下に実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0085】
(実施例1)
<保護工程>
ジャケット付ガラスカラムにAmberlyst15(dry; Rohm and Haas Co 製)を2.5ml詰め、ジャケットに40℃の湯を循環させカラムを温めた。このカラムにアップフローで、アクロレイン及び1,3−プロパンジオールの1:1.5(モル比)の溶液を、毎分0.25gを流した。カラムから流出した溶液を減圧し、残存するアクロレインを除いた(この溶液には、2−ビニル−1,3−ジオキサン、2−(6−ヒドロキシ−3−オキサヘキシル)−1,3−ジオキサンが、2.88:1(モル比)で含まれていた)。
【0086】
<酸化工程>
この溶液6.10gに、Na2PdCl4 0.1mmol, CuCl 0.1mmol, FeCl3 0.1mmolを3.90gの1,3−プロパンジオールに完全に溶解させた溶液を加え、これをポリテトウフルオロエチレン製の内筒及び攪拌子付のステンレス製耐圧反応器に入れ、中を酸素置換した後、酸素圧力を0.7MPaにした。この反応器を80℃のウオーターバスに入れ、上記攪拌子で攪拌した。この際、消費された酸素分の圧を補給し、圧が一定になるようにした。20分後に反応器を冷却し、脱圧した後に、反応混合物を取り出した。マロンアルデヒド−ビス(1,3−プロパンジオールアセタール)は7.55 mmol, 2−(6−ヒドロキシ−3−オキサヘキシル)−1,3−ジオキサンが9.36 mmol含まれていた。また、この他に2−(2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサン、マロンアルデヒドモノ1,3−プロパンジオールも観測された。生成物を塩化メチレンにて抽出し、触媒と分離した。
【0087】
<加水分解・還元工程>
塩化メチレンを留去した後、5%Ru/C 0.5g、水0.9gを加え、耐圧反応器に入れた。これを水素置換後、水素圧を0.9MPaにした後、90℃のオイルバスに入れ、水素が消費されなくなり圧の減少が見られなくなるまで撹拌することにより加水分解反応と還元反応を行った。反応後、ガスクロマトグラフィーにより分析した結果、4−オキサヘプタン−1,7−ジオール 9.36 mmol、1,3−プロパンジオール37.66 mmolが生成していた。
この1,3−プロパンジオールを次回の製造バッチの保護工程に用いることにより、同様の反応が行われた。
【0088】
【発明の効果】
以上の通り、本発明によると、アクロレインを原料として4−オキサヘプタン−1,7−ジオールを効率良く製造することができる。
【発明の属する技術分野】
本発明はアクロレインを原料として、4−オキサヘプタン−1,7−ジオールを製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリエステル及びポリウレタンのソフトセグメント部分の原料として有用なポリトリメチレングリコールは、炭素数が3のポリエーテルで、その合成法はWO2001−44348、WO2001−44150などにより報告されている。現在ソフトセグメント部分に主として使用されているポリテトラメチレングリコール(PTMEG)と比較して、ポリトリメチレングリコールは、特にポリエステルとの共重合時にPTMEGに見られるような加熱による開重合がない等の利点を多く持っている。また、いわゆる奇遇効果により、炭素数が偶数のポリエチレングリコールやPTMEGと比較して、炭素数が奇数のポリトリメチレングリコールは、ポリマーの物性という点で異なる挙動を示し、注目されている。
【0003】
ポリトリメチレングリコールは、主に1,3−プロパンジオール及びそのオリゴマーより合成できることが知られている。原料となる1,3−プロパンジオールの合成法の主なものには、エチレンオキサイドをヒドロホルミル化する方法、アクロレインを水和して3−ヒドロキシプロパナールを製造し、それを還元する方法などが知られており、USP 5093537号、特開平10−212253号、特開平8−143502号等に開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、エチレンオキサイドを出発原料とする方法は、一酸化炭素の加圧下で行われ、高圧設備を必要とするために、他の方法に比べ、建設費が高いという工業的な欠点がある。アクロレインを出発物質とする方法は、水和反応時の反応転化率を高くすることができず、反応率を高めると選択性が低下す欠点がある。また、反応中の基質濃度が高くなると副生物が増加する欠点があり、この反応が水を溶媒にすることから、生成した3−ヒドロキシプロパナール、もしくは、それを還元した後の1,3−プロパンジオールが水によく溶解し抽出分離が困難なため、大量の水を蒸留により分離しなければならないという欠点もある。
【0005】
さらに、生成物中に残存するカルボニル化合物が、その重合物であるポリマーの品質に影響があることが知られている(特開平6−40973号、USP5334778号、特表平11−509828号等)。この詳細についてみてみると、残存するカルボニル化合物の主なものは、2−(2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサンであり、これは目的生成物である1,3−プロパンジオールとの蒸留分離や抽出分離が非常に困難な化合物であり、これを削減するためには、1,3−プロパンジオールの製造方法に共通であり、最終工程でもある還元工程の条件を厳しいものにするしか今のところ工業的に有効な方法がない。
【0006】
本発明は、アクロレインから酸化反応を経て1,3−プロパンジオールを合成する方法と、酸触媒によって促進される4−オキサヘプタン−1,7−ジオールの合成法を組み合わせることにより、ポリメチレングリコールの原料となる4−オキサヘプタン−1,7−ジオールを効率良く生産する方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の4−オキサヘプタン−1,7−ジオールの製造方法は、アクロレインを出発原料とし、下記の保護工程、酸化工程及び加水分解・還元工程により4−オキサヘプタン−1,7−ジオールを製造する方法であって、下記加水分解・還元工程で生じた1,3−プロパンジオールを下記保護工程及び酸化工程のうち少なくとも保護工程に供することを特徴とするものである。
【0008】
保護工程:アクロレインと1,3−プロパンジオールとを酸触媒の存在下で反応させ、2−ビニル−1,3−ジオキサンおよび2−(6−ヒドロキシ−3−オキサヘキシル)−1,3−ジオキサンを主成分とする生成物群を得る。
【0009】
酸化工程:上記保護工程で得られた2−ビニル−1,3−ジオキサンを酸素下、パラジウムを主成分とする触媒の存在下、1,3−プロパンジオールと反応させ、マロンアルデヒド−ビス(1,3−プロパンジオールアセタール)及び2−(6−ヒドロキシ−3−オキサヘキシル)−1,3−ジオキサンを得る。
【0010】
加水分解・還元工程:上記酸化工程で得られたマロンアルデヒド−ビス(1,3−プロパンジオールアセタール)及び2−(6−ヒドロキシ−3−オキサヘキシル)−1,3−ジオキサンを水及び水素と反応させ、1,3−プロパンジオール及び4−オキサヘプタン−1,7−ジオールを得る。
【0011】
かかる本発明によると、アクロレインを原料として4−オキサヘプタン−1,7−ジオールを製造するに際し、反応に関与する1,3−プロパンジオールを全く又は殆ど反応系に追加供給することなく目的とする4−オキサヘプタン−1,7−ジオールを製造することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0013】
本発明は、アクロレインを出発原料として、以下の工程を組み合わせて4−オキサヘプタン−1,7−ジオールを製造する。
(保護工程) アクロレインと1,3−プロパンジオールとを酸触媒の存在下で反応させ、2−ビニル−1,3−ジオキサンおよび2−(6−ヒドロキシ−3−オキサヘキシル)−1,3−ジオキサン(以下、HEDOということがある。)を主成分とする生成物群を得る。
(酸化工程) 保護工程で得られた2−ビニル−1,3−ジオキサンを酸素下、パラジウムを主成分とする触媒の存在下、1,3−プロパンジオールと反応させ、マロンアルデヒド−ビス(1,3−プロパンジオールアセタール)(以下、DACということがある。)及びHEDOを得る。
(加水分解+還元工程) 酸化工程で得られたDAC及びHEDOを水及び水素と反応させ、1,3−プロパンジオール及び4−オキサヘプタン−1,7−ジオールを得る。
【0014】
上記の保護工程、酸化工程及び加水分解・還元工程の化学反応式を次に示す。
【0015】
【化1】
【0016】
本発明では、加水分解・還元工程で生じた1,3−プロパンジオールを保護工程か、保護工程及び酸化工程に供する。
【0017】
次に、上記各工程について順次に詳細に説明する。
【0018】
[保護工程]
この保護工程の原料はアクロレインと1,3−プロパンジオールである。
【0019】
まず、アクロレインと1,3−プロパンジオールのアセタール化反応により2−ビニル−1,3−ジオキサン、及び水が生成する。さらにこの2−ビニル−1,3−ジオキサンと1,3−プロパンジオールが反応し、HEDOを生じる。反応器出口においては、アクロレイン、1,3−プロパンジオール、2−ビニル−1,3−ジオキサン、HEDO及び水の混合物として生成物を得る。
【0020】
<反応原料>
<アクロレイン>
この保護反応系中のアクロレインの存在量は、反応容積全体に対して、好ましくは1vol%以上99vol%以下、特に好ましくは1vol%以上50vol%以下の範囲で選ぶことができる。
これらの原料の中には、熱等により重合したり、ラジカル自動酸化を起こし易いものが含まれる。そのような場合は、ヒドロキノン、フェノチアジンなどのラジカル捕束剤、重合禁止剤などを系中に加えるとよい。
【0021】
<1,3−プロパンジオール>
反応系中の1,3−プロパンジオールの存在量は、反応容積全体に対して、好ましくは1vol%以上99vol%以下、特に好ましくは5vol%以上99vol%以下の範囲内である。
【0022】
<供給比率>
アクロレインと1,3−プロパンジオールの反応初期におけるモル比は、特に限定されるものではないが、1/1〜1/100の範囲が好ましい。上記の範囲内でも1/1〜1/95がより好ましく、1/1.2〜1/90の範囲が特に好ましい。
【0023】
<触媒>
この工程の触媒としては、酸が有効である。これはアクロレインから2−ビニル−1,3−ジオキサンの生成反応及び2−ビニル−1,3−ジオキサンからHEDOの生成反応の両方に有効である。この場合、用いる酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸、ランタノイドトリフラート等のルイス酸、ヘテロポリ酸等のポリ酸、イオン交換樹脂、ゼオライト、粘土等の固体酸を使用することができる。生成物の分離の簡便さから固体酸が便利である。一般的に低濃度であることが経済的な観点では好ましいが、生産性という観点では、反応速度が触媒濃度に対して負の相関が無い領域においては、ある程度高濃度化した方が好ましい。これらの観点において、酸の添加量は、基質に対して0.001〜100重量比が好ましく、さらに好ましくは0.01〜70重量比、特に好ましくは、0.01〜60重量比である。
【0024】
<溶媒>
反応させる原料を溶媒として過剰に用いることもできるが、別の溶媒を加えることができる。溶媒の添加量に特に制限はないが、原料の合計に対して0.05〜100の重量比が好ましく、さらに好ましくは0.1〜25の重量比である。別の溶媒は、反応系で変質や反応しないものであれば時に制限されない。例えば脂肪族、芳香族炭化水素溶媒やハロゲン化炭化水素が挙げられる。具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、フルオロベンゼンなどが例示される。
【0025】
<反応条件>
<温度>
反応温度は、0℃以上であれば反応が進行することが確認できるが、本発明の反応の温度依存性は大きいので、より高温が好ましい。しかしながら高温領域で進行しやすくなる基質の重合反応は避けるべきことであり、この観点から反応温度は選択されるべきであるが、一般的には本反応は、10〜200℃の間の温度領域で行うことが好ましい。更に好ましくは20〜180℃の温度、もっとも好ましくは、30〜100℃において経済的にも有為な反応速度を得ることができる。
【0026】
<圧力>
反応中の圧力については、通常は常圧で行われるが、原料であるアクロレインが低沸点であるため、その飛散を防ぐ目的で、加圧状態で行うこともできる。
【0027】
<反応方法>
保護工程は一般的な方法によって行うことができる。触媒の各成分が溶液状態で存在する場合は、回分反応器により特定の反応時間、原料を接触させて反応を進行させることもできるし、連続相反応器により、原料を連続的に供給して反応を進行させることもできる。一方、酸触媒成分が、固定化されている場合においては、前述の液相反応を使用することもできるし、固定床に触媒を充填し、液相状態として対応する原料を供給するいわゆるトリクルベッド方式を採用することもできる。
【0028】
<原料供給>
アクロレインと1,3−プロパンジオールの供給は、あらかじめ原料を混合しておき、反応器に導入する方法;反応器に原料を別々に供給する方法;のいずれも採用することができる。
【0029】
これらの反応において、ホルミル基のアセタール化が進行する場合に生成する際に生じる水が、1,3−プロパンジオールの代わりに2−ビニル−1,3−ジオキサンと反応してHEDOが生じても、この化合物は後工程にて1,3−プロパンジオールに変換されるため、構わない。
【0030】
また、2−ビニル−1,3−ジオキサンの生成は、アセタール化反応で、平衡反応である。従って、系中に生成した水を除くことによりより高い転化率が得られる。その手法としては、水を吸着する無水の金属塩やゼオライト等のモレキュラーシーブ等を共存させる方法、水と共沸する成分を添加し、蒸留除去する方法、ガスにより同伴留去する方法、または水と反応して反応に負の影響を与えない化合物に変換される化合物、例えば、金属アルコキシドなどを添加する方法といった手法がある。
【0031】
<反応液の処理>
反応後の反応液からは、生成物を直接蒸留分離することができる。また、1,3−プロパンジオールと二相を形成する溶媒を添加して、液−液の相分離を行い、1,3−プロパンジオールを殆ど含まない溶媒相からアクロレインを回収し、生成物を選択的に取り出すことができる。相分離した場合、生成物側に微量の他の成分が混入した場合には、二回以上の抽出分離を行うことによって、残存量を無視できるレベルまで低減させることもできるし、一段目の相分離後、あるレベルの原料回収、及び生成物回収の為の蒸留操作を行い、不純物の残存濃度をある程度高めてから、再度抽出を行うといった手法を採用することも可能であり、より経済的、効率的と考えられる手法が取られるべきである。
【0032】
次の酸化工程でも1,3−プロパンジオールを用いるため、生成物である2−ビニル−1,3−ジオキサン,HEDO、水および未反応の1,3−プロパンジオールを分離する必要は必ずしもなく、アクロレインのみ分離すれば事足りる。
【0033】
[酸化工程]
この酸化工程では、2−ビニル−1,3−ジオキサン、1,3−プロパンジオール及び酸素からDACを得る。
【0034】
<反応原料>
この酸化工程では、上記保護工程で生じた2−ビニル−1,3−ジオキサンが1,3−プロパンジオールと反応する。この酸化工程では、上記保護工程で得られた反応生成物である2−ビニル−1,3−ジオキサン,HEDO、水および未反応の1,3−プロパンジオールをそのまま反応原料とすることができるが、2−ビニル−1,3−ジオキサンを含めばその他の成分を適宜分離したものを用いてもよい。
なお、保護工程で生じたHEDOは、酸化工程に供給されても変化せずにそのまま加水分解・還元工程に入る。
【0035】
<2−ビニル−1,3−ジオキサン>
反応系中の2−ビニル−1,3−ジオキサンの存在量は、反応容積全体に対して、通常1vol%以上、好ましくは5vol%以上であり、また通常99vol%以下、好ましくは50vol%以下の範囲で選ぶことができる。
【0036】
<1,3−プロパンジオール>
反応系中の1,3−プロパンジオールの存在量は、反応容積全体に対して、通常1vol%以上、好ましくは5vol%以上であり、また、通常99vol%以下、好ましくは80vol%以下の範囲内である。
【0037】
<供給比率>
原料の2−ビニル−1,3−ジオキサンと1,3−プロパンジオールの反応初期における反応系中のモル比は、特に限定されるものではないが、1/1〜1/100の範囲であればよい。上記の範囲内でも1/1〜1/95が好ましく、1/1.2〜1/90の範囲が特に好ましい。
【0038】
<触媒>
触媒としては、特に制限はなく、均一系でも不均一系でもよいが、中でもパラジウムに加えて、銅及び鉄のいずれか、もしくは銅及び鉄の両方を少なくとも含む触媒を用いるのが好ましく、特には、パラジウムと銅と鉄の全てを組み合わせた触媒を用いるのがよい。これらパラジウム、銅、鉄の原料化合物としては、市販のもの等多くが知られているが、それらの中から任意に選ぶことができる。
【0039】
例えば、パラジウム化合物としては、塩化パラジウム、臭化パラジウム等のハロゲン化パラジウム、Na2PdCl4, Li2PdCl4等のパラデート、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、酢酸パラジウム、トリフロロ酢酸パラジウム、パラジウムアセチルアセトナート等の無機酸又は有機酸のパラジウム塩、酸化パラジウム、水酸化パラジウム等の無機パラジウム、更にはこれらの金属塩から誘導される塩基の配位した化合物、例えば、PdCl2(CH3CN)2, PdCl2(PhCN)2, PdCl2(PPh3)2, Pd(en)2Cl2,Pd(Phen)Cl2等があるが、これらに限定される訳ではない(ここでen:エチレンジアミン、phen:1,10−フェナントロリン、ph:フェニルを表す)。これらのパラジウム化合物の中でも、Na2PdCl4, Li2PdCl4等のパラデート、塩基の配位した化合物、例えば、PdCl2(CH3CN)2, PdCl2(PhCN)2, PdCl2(PPh3)2, Pd(en)2Cl2, Pd(Phen)Cl2等が好ましく、アルコール類によく溶解し、炭化水素に難溶なものが好ましい。
【0040】
鉄化合物としては、例えば、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)等の塩化物、臭化鉄(II)、臭化鉄(III)等の臭化物、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、硝酸鉄(II)、硝酸鉄(III)等の無機酸塩、酢酸鉄(II)、酢酸鉄(III)、シュウ酸鉄(II)、シュウ酸鉄(III)、ギ酸鉄、アセチルアセトン鉄等の各種の塩又は配位化合物の形態で反応に供することができ、中でも塩化鉄(III)が好ましい。
【0041】
銅化合物としては、例えば、塩化銅(I)、塩化銅(II)等の塩化物、臭化銅(I)、臭化銅(II)等の臭化物、硫酸銅(I)、硫酸銅(II)、硝酸銅(I)、硝酸銅(II)等の無機酸塩、酢酸銅(I)、酢酸銅(II)、シュウ酸銅(I)、シュウ酸銅(II)、ギ酸銅、アセチルアセトン銅等の各種の塩又は配位化合物の形態で反応に供することができ、中でも塩化銅(I)、塩化銅(II)が好ましい。
【0042】
触媒の濃度は、一般的に低濃度であることが経済的な観点では好ましいが、生産性という観点では、反応速度が触媒濃度に対して負の相関が無い領域においては、ある程度高濃度化した方が好ましい。これらの観点においてパラジウムの濃度は、全反応液重量に対して、Pdとして通常0.001wt%以上、好ましくは0.01wt%以上、また通常10wt%以下、好ましくは5wt%以下の範囲から選ぶことができるが、高濃度条件下では、反応速度の濃度依存性が、低濃度条件下とは異なる挙動を示し、触媒効率が悪くなる傾向にある為、経済的な観点から効率的な濃度が選択されるべきである。
【0043】
反応液中の鉄又は銅の濃度はパラジウムに対する相対濃度で記述することができる。Fe及びCuの存在量をパラジウムに対するモル比で表すと、各々通常0.01以上、好ましくは0.1以上、また、通常100以下、10以下の範囲で選ぶことができる。鉄又は銅のイオン濃度がこれらの範囲よりも低い領域では、反応速度の低下ばかりでなく、主たる効果であるPd析出の抑制効果が小さくなる傾向があり好ましくない。また多く添加すると反応そのものは阻害しないが、反応系への溶解量が低くなる傾向があるため好ましくない。
【0044】
この酸化反応においては、反応系中にハロゲンイオン、特にはClイオン又はBrイオンを存在させることが好ましい。ここで「イオン」とは、反応系中において、解離したイオンの形態であってもよいし、解離せずに塩の形態であってもよい。ハロゲンイオンを存在させる方法としては、触媒として用いるパラジウム、銅、鉄から選ばれる少なくとも一種の原料化合物として塩化物や臭化物等のハロゲン塩を用いることが望ましい。また、これとは別に反応系中にハロゲン化合物を添加することもできる。ハロゲン化合物としては、NaCl,LiCl,SnCl2等の無機塩を用いることができる。これらのハロゲンイオンの反応系中の存在量はPdに対する相対濃度で記述することができる。即ち0.1<[Cl 及び/又は Br]/[Pd]<100(モル比)の範囲が好ましく、より好ましくは0.3<[Cl 及び/又は Br]/[Pd]<50であるが、ハロゲン濃度が高い状況においては、反応器中の水の濃度は低いが、反応器材質の腐食の懸念があるので、ハロゲンイオン濃度は、なるべく低くして触媒系が機能する様に選択しなければならない。また副生成物の一部には、触媒系由来のハロゲンを含む成分が存在する場合がある。その場合は、連続的或いは定期的に消費されたハロゲンを、例えば金属塩の形で補給する方が良い。
【0045】
<溶媒>
反応させる1,3−プロパンジオールを溶媒として過剰に用いることもできるが、1,3−プロパンジオールとは別の溶媒を加えることもできる。溶媒を加えることにより、1,3−プロパンジオールがこれら別の溶媒と二層を形成する場合は、相分離により触媒と生成物を分離することができる。特に均一系の触媒を用いる反応系では、触媒と生成物の分離が工業的に大きな問題であり、これらの問題を回避できることは大きな意義がある。
【0046】
溶媒としては、脂肪族、芳香族炭化水素溶媒やハロゲン化炭化水素が挙げられる。具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、フルオロベンゼンなどが例示される。このような溶媒の添加量に特に制限はないが、原料の合計に対して0.05以上の重量比が好ましく、さらに好ましくは0.1以上の重量比であり、100以下の重量比が好ましく、さらに好ましくは25以下の重量比である。
【0047】
<反応条件>
<温度>
反応温度は、0℃以上であれば反応が進行することが確認できるが、本発明の反応の温度依存性は大きいので、より高温が好ましい。しかしながら爆発性混合物の形成条件を回避すること、及び、高温領域で進行しやすくなるラジカル自動酸化による副生物の増大や基質の重合反応は避けるべきことであり、これらの観点から反応温度は選択されるべきであるが、一般的には本反応は、20〜200℃の間の温度領域で行うことが好ましい。更に好ましくは40〜180℃の温度において、経済的にも有利な反応速度を得ることができる。
【0048】
<圧力>
この酸化工程において、酸素を含むガスを使用することが必要条件であるが、酸素と有機化合物はある温度、ある圧力領域、組成領域において、爆発性混合物を作る可能性があるのでその危険性を回避することが必要である。酸素の分圧は通常0.001MPa以上であれば反応は進行するが、酸素分圧が低いと反応速度が遅くなる傾向があり、触媒の失活が懸念されるので、温度、触媒濃度との関係で決定する必要があるが、本発明においては、0.01〜10MPaが好ましい。可能であれば更に酸素分圧が高い0.05〜5MPaであることが好ましいが、安全性、経済性の観点からより好ましい圧力が選択される。
【0049】
<反応方法>
酸化工程は一般的な酸化の方法に従って行うことができる。触媒の各成分が溶液状態で存在する場合は、回分反応器により特定の反応時間、オレフィン類を酸素を含むガスと接触させて酸化反応を進行させることもできるし、連続相反応器により、酸素を含むガス及びオレフィン類を連続的に供給して酸化反応を進行させることができる。一方、触媒成分が、固定化されている場合においては、前述の液相反応を使用することもできるし、固定床に触媒を充填し、液相状態として対応するオレフィン類及び酸素を供給するいわゆるトリクルベッド方式を採用することができる。
【0050】
<酸素の供給>
酸素の供給には、酸素を含むガスを攪拌翼によって細かい気泡とする手法、反応器の内側に邪魔板を設け酸素ガスを細かい気泡とする手法、ノズルより高線速で系中に噴霧するといった手法により、反応溶液系への酸素の溶解に有効な手法を採用することができる。
【0051】
<水の除去>
酸化工程において、アセタールが生成する際に生じる水は、アセタールとアルデヒドとの間の平衡をアルデヒドに有利にする。これら遊離のホルミル基は酸化反応に対する反応性がアセタールよりも高い為、逐次酸化を受けやすい。従って、系中に生成した水はなるべく系外へ除去することが好ましく、反応系中の水量として50wt%以下に維持するのが好ましく、さらに好ましくは20wt%以下に維持するのが好ましい。その手法としては、水を吸着する無水の金属塩やゼオライト等のモレキュラーシーブ等を共存させる方法、水と共沸する成分を添加し、蒸留除去する方法、酸素を含むか又は含まないガスにより同伴留去する方法、または水と反応して反応に負の影響を与えない化合物に変換される化合物、例えば、金属アルコキシドなどを添加する方法といった手法がある。
【0052】
<反応液の処理>
酸化反応後の反応液は、加圧状態にある場合には、圧力をある程度解放し、低圧化させてもよい。原料成分及び生成物の沸点が低い場合は、反応液から直接それらの低沸点成分を蒸留分離することができる。また、原料成分及び生成物の沸点が1,3−プロパンジオールよりも高沸点側にある場合は、二相を形成する溶媒を添加して、液−液の相分離を行い、触媒を殆ど含まない溶媒相から、原料を回収し、生成物を選択的に取り出すことができる。相分離した場合、生成物側に微量の触媒成分が混入した場合には、二回以上の抽出分離を行うことによって、触媒成分の残存量を無視できるレベルまで低減させることもできるし、一段目の相分離後、あるレベルの原料回収、及び生成物回収の為の蒸留操作を行い、残存触媒濃度をある程度高めてから、再度抽出を行うといった手法が可能であり、より経済的、効率的と考えられる手法が取られるべきである。相分離により分離された1,3−プロパンジオール相中の触媒は、反応器にリサイクルして使用することができる。
【0053】
また、反応器内においては、微量ながら起こる逐次酸化により水が生成する。生成した水は極力系外に除去するのが好ましいが、それでも、系中にCl等のハロゲン成分が存在していると、その反応器腐食に関わる懸念は大きい。従って、塩化水素等の腐食性の酸に対して、耐性の大きな材質を必要な箇所に使用することが好ましい。
【0054】
反応圧力が余り高くない領域においては、ガラス、セラミック、フッ素樹脂等の材質を使用することができるし、反応圧力が高い場合においては、一般に耐腐食性反応容器とされるもの、即ち、各種のステンレス合金、特に通称ハステロイと呼ばれているもの、チタンを含む合金、ジルコニウムを含む合金等の容器、あるいはこれらの合金を表面に塗布、圧着した容器を使用することが好ましい。特に反応器は、腐食の可能性の高いところであるが、更に静置槽、分離槽を設ける場合には、この部位が腐食の可能性が高い。更に、生成物を含む油相の蒸留等では、触媒成分が残存している場合においては、ハロゲン成分が濃縮される可能性があり腐食の可能性が高い。これらの主たる容器、それに付属する配管は腐食の可能性の高さに応じて、経済的に許される範囲において耐腐食性の材質を使用することが好ましい。
【0055】
<反応生成物>
この酸化工程で得られる化合物の主成分は、オレフィン部分が酸化され、さらに1,3−プロパンジオールと反応したDACである。この他に、マロンアルデヒドモノ(1,3−ジオキサン−2−イル)アセタール(MAC)、3−ヒドロキシプロピル−1,3−ジオキサシクロヘキシ−2−イルエタノエート(PDE)、2−ヒドロキシエチル−1,3−ジオキサン(HDO)等も得られる。主成分であるDACはもちろんのこと、これらの化合物も、次工程の加水分解及び還元反応によりすべて1,3−プロパンジオールに変換することができる。また、これらの他に2−ビニル−1,3−ジオキサンと1,3−プロパンジオールが、酸素の関与なしに触媒の酸の作用により直接に反応して、アルコールが直接オレフィン部分に挿入したHEDOも生じる。
【0056】
酸化反応系中に必須の成分として存在する1,3−プロパンジオールは、酸化反応に対して全く不活性ではなく、酸化を受けた化合物も観測されることがある。しかしながら、これらの多くの副生物は、目的生成物とともに、次工程に入り、加水分解及び還元を受けることにより、元の1,3−プロパンジオールに変換されたり、沸点の低い化合物へ分解される。一般に酸化反応において、副生物として得られる逐次酸化物は高沸点な場合が多く、蒸留による除去などを行う場合に、多大なエネルギーを消費することがしばしばあるが、本発明においては、これらの副生物は有効成分に変換されたり、分離しやすい化合物に分解させることができるため、工業的にも非常に効率的なプロセスを構築することができる。
【0057】
また一方で、長時間回分反応を繰り返す場合や、連続反応においては、触媒成分を含む1,3−プロパンジオール相には、前述の1,3−プロパンジオールの酸化物や生成物の逐次酸化物由来の成分が蓄積していく場合もある。プロセスを安定に運転する為には、全体の物質収支を制御することが必要である。従って、これらの不純物の生成速度及び、逐次酸化成分の生成速度見合いで、触媒を含むアルコール相の一部を系外に除去し、新しく触媒原料液を補給することが必要になる。この際、系外に除去された触媒成分は、除去率が大きく、経済的負担が大きい場合には、触媒成分を回収することが必要である。その方法に制限はないが、有機物の除去、洗浄、金属成分の回収といった手法が有効である。
【0058】
また、二相分離した生成物を含む有機相から分離溶剤を回収する場合にも、同様に不純物蓄積の起こる場合があり、この場合にも、分離溶剤の一部を系外に除去し、新しい分離溶剤を補給することが必要である。
【0059】
[加水分解・還元工程]
加水分解・還元工程では、上記酸化工程で得られた化合物を、1,3−プロパンジオール及び4−オキサヘプタン−1,7−ジオールに変換する。
【0060】
この工程では、次の反応を行う。
【0061】
(1) アセタールを加水分解し、ホルミル基に変換する反応。
具体的には、DACを加水分解してマロンアルデヒドを得る反応と、HEDOを加水分解し7−ヒドロキシ−3−オキサヘプタナールを得る反応である。また、酸化工程で生じた副生物のうち、アセタール部分を有するものについても加水分解する。
【0062】
(2) (1)で生じたホルミル基を還元する反応。
具体的には、マロンアルデヒドを還元し1,3−プロパンジオールにする反応と7−ヒドロキシ−3−オキサヘプタナールを還元し4−オキサヘプタン−1,7−ジオールにする反応である。また、酸化工程副生物が上記のDACの加水分解に伴って加水分解されて生じたアルデヒドも還元される。
【0063】
加水分解と還元をそれぞれ別の反応器で行う、または、同一容器内で水を添加して加水分解を行った後、還元剤を導入して還元を行うこともできるが、水及び還元剤の存在下、加水分解反応とそれに続く還元反応を同時進行的に行うことが望ましい。
【0064】
アセタールが加水分解によりアルデヒドを生じる反応は平衡反応であり、平衡反応を押し切るためには大量の水を必要とする。大量の水の添加は、生成物からの水の除去のコストを増大させる。加水分解とそれに続く還元を同時進行的に行うことにより、加水分解されて生じたアルデヒドがすぐに還元され、アルコールになるため、平衡の束縛から逃れ、平衡が生成系へ偏るので、添加する水の量が少量ですむという有利な点があるからである。
【0065】
<加水分解の詳細な説明>
<触媒>
加水分解の触媒としては、酸が有効である。この場合用いる酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸、ランタノイドトリフラート等のルイス酸、ヘテロポリ酸等のポリ酸、イオン交換樹脂、ゼオライト、粘土等の固体酸を使用することができる。生成物の分離の簡便さから固体酸が便利である。酸の添加量は、ごく少量でも有効で、特に制限はないが、加水分解対象物質に対して0.001〜100重量比が好ましく、さらに好ましくは0.01〜70重量比、特に好ましくは、0.01〜60重量比である。
【0066】
<水>
加水分解に用いる水の量は、加水分解対象物質を加水分解するに必要な化学量論量を添加すればよい。もちろん、過剰に用いても構わない。
【0067】
<溶媒>
水の他に溶媒を加えてもよい。溶媒としては酸、及び還元剤による変質を受けないものであればなんでもよい。
【0068】
<還元反応の詳細な説明>
<還元剤>
還元剤としては、カルボニル基の還元剤として公知のもの、市販のもの等多くが知られているが、それらの中から任意に選ぶことができる。前述したように加水分解の工程とそれに続く還元の工程を同時に行うことが望ましいので、酸、及び水に対して、還元能が阻害されない還元剤が望ましい。その経済性、分離の容易さ等から水素を還元剤とする接触還元がさらに望ましい。水素の分圧は0.001MPa以上であれば反応は進行するが、水素分圧が低いと反応速度が遅くなる。触媒が失活するといったことが懸念されるので、温度、触媒濃度にもよるが、本発明においては、0.01〜50MPaが好ましい。更に0.05〜20MPaであることが好ましく、0.1〜10MPaが特に好ましい。
【0069】
<触媒>
接触還元の触媒としては、ラネーニッケル、白金、ロジウム、パラジウム、ルテニウムなどの貴金属、及びそれらをカーボン、シリカ、ゼオライト等の担体に担持したもの等、公知のもの、市販のもの等が多く知られているが、それらの中から任意に選ぶことができる。特にルテニウムを主成分とした触媒が副反応が少なく好ましい。なお、後述の実施例では、ルテニウムをカーボン担体に5重量%担持させたもの(5%Rn/Cと表示)を用いている。これら触媒の量は、ごく少量でも有効で、特に制限はないが、還元対象物質に対して0.0001〜100重量比が好ましく、さらに好ましくは0.001〜70重量比、特に好ましくは、0.01〜50重量比である。
【0070】
加水分解とそれに続く還元を同時進行的に行う場合、加水分解用の酸触媒と接触還元用の触媒とは、混合されて添加されてもよい。また、例えば、固体酸を担体として接触還元能を持つ貴金属をそれに担持させたようなお互いが化学的結合を有する二元性を持った一つの触媒として加えられてもよい。
【0071】
<加水分解・還元反応の温度>
加水分解・還元反応温度としては、0℃以上であれば反応が進行することが確認できるが、本発明の反応の温度依存性は大きいので、より高温が好ましい。一般的には本反応は、20〜350℃の間の温度領域で行うことが好ましい。更に好ましくは40〜300℃、最も好ましくは、80〜200℃の温度において、経済的にも有為な反応速度を得ることができる。
【0072】
<加水分解・還元反応方法>
この加水分解・還元工程は一般的な方法によって行うことができる。触媒の各成分が溶液状態で存在する場合は、回分反応器により特定の反応時間、基質を水及び水素を含むガスと接触させて反応を進行させることもできるし、連続相反応器により、水、水素を含むガス及び基質を連続的に供給して反応を進行させることもできる。一方、触媒成分が固定化されている場合においては、前述の液相反応を使用することもできるし、固定床に触媒を充填し、液相状態として対応する基質、水、及び水素を供給するいわゆるトリクルベッド方式を採用することもできる。
【0073】
<1,3−プロパンジオールのリサイクル>
ここで生じた1,3−プロパンジオールは、保護工程、もしくは保護工程及び酸化工程にリサイクルされる。
【0074】
<4−オキサヘプタン−1,7−ジオールの分離>
4−オキサヘプタン−1,7−ジオールは、1,3−プロパンジオールが2−(2−ヒドロキシエチル−1,3−ジオキサンとの蒸留分離が非常に困難なのに対し、HEDOやHDOなど本反応で生じるカルボニル化合物との分離精製が蒸留操作によって行え、工業的に有利である。
【0075】
本発明において、4−オキサヘプタン−1,7−ジオールの収率を上げるためには、保護工程及び酸化工程のHEDOの生成量を増加させるのではなく、加水分解・還元工程の反応原料であるDACとHEDOとを1:1で得ることが好ましい。そして、このようにDACとHEDOとが1:1で得られるように、保護工程及び酸化工程の条件を設定するのが好ましい。
【0076】
本発明の4−オキサヘプタン−1,7−ジオールの製造方法には下記の2つの反応Aと反応Bとが含まれる。これら2つの反応A,Bのバランスをとると、アクロレインからHEDOを得ることができる。
【0077】
反応Aは、アクロレインと1,3−プロパンジオールとのアセタール化反応により2−ビニル−1,3−ジオキサンを生成し、この2−ビニル−1,3−ジオキサンを1,3−プロパンジオールと酸素と反応させ、DACを主成分とする生成物群を得、さらにこのDACを主成分とする生成物群を加水分解・還元し、主として1,3−プロパンジオールを得る反応である。
【0078】
反応Bは、2−ビニル−1,3−ジオキサンと1,3−プロパンジオールからHEDOを得、これを加水分解・還元し、4−オキサヘプタン−1,7−ジオールと1,3−プロパンジオールを得る反応である。
【0079】
【化2】
【0080】
反応Aで生じた1,3−プロパンジオールのうち2/3は反応Aにリサイクルされ、1/3は反応Bで消費される。反応Bで生じた1,3−プロパンジオールは、反応Bにリサイクルされる。
【0081】
アクロレインからDACを経て1,3−プロパンジオールを生成する反応Aでは、生じた1,3−プロパンジオールのうち2/3はリサイクルされるため、アクロレインと等モルの1,3−プロパンジオールを生成する。アクロレインからHEDOを経て4−オキサヘプタン−1,7−ジオールを生成する反応Bにおいて、アクロレインよりHEDOの反応は、アクロレインに対して2倍モル等量の1,3−プロパンジオールを必要とするため、そのうちの1モル等量は反応Aで生じた1,3−プロパンジオールを使用し、残り1モル等量は、反応B後生じる1,3−プロパンジオールをリサイクルする。従って、生成物としては4−オキサヘプタン−1,7−ジオールが取り出される。
【0082】
以上は、本発明の基本構成要素について述べたが、これらの構成要素は効率的な反応に必要な必要条件であり、これに更に、別の成分を加えて活性及び反応性を上げることも可能である。
【0083】
即ち、促進効果のある添加物、ラジカルトラップ剤による副反応の抑制、溶液中の溶存水素濃度を上げる為の溶媒の使用、超臨界流体の使用、機械的な攪拌強度の増大、活性成分を固定化して、触媒成分の分散性を向上させるといった手法であっても、上述した本発明の触媒成分を含む限りにおいては本発明の枠内にある。
【0084】
【実施例】
以下に実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0085】
(実施例1)
<保護工程>
ジャケット付ガラスカラムにAmberlyst15(dry; Rohm and Haas Co 製)を2.5ml詰め、ジャケットに40℃の湯を循環させカラムを温めた。このカラムにアップフローで、アクロレイン及び1,3−プロパンジオールの1:1.5(モル比)の溶液を、毎分0.25gを流した。カラムから流出した溶液を減圧し、残存するアクロレインを除いた(この溶液には、2−ビニル−1,3−ジオキサン、2−(6−ヒドロキシ−3−オキサヘキシル)−1,3−ジオキサンが、2.88:1(モル比)で含まれていた)。
【0086】
<酸化工程>
この溶液6.10gに、Na2PdCl4 0.1mmol, CuCl 0.1mmol, FeCl3 0.1mmolを3.90gの1,3−プロパンジオールに完全に溶解させた溶液を加え、これをポリテトウフルオロエチレン製の内筒及び攪拌子付のステンレス製耐圧反応器に入れ、中を酸素置換した後、酸素圧力を0.7MPaにした。この反応器を80℃のウオーターバスに入れ、上記攪拌子で攪拌した。この際、消費された酸素分の圧を補給し、圧が一定になるようにした。20分後に反応器を冷却し、脱圧した後に、反応混合物を取り出した。マロンアルデヒド−ビス(1,3−プロパンジオールアセタール)は7.55 mmol, 2−(6−ヒドロキシ−3−オキサヘキシル)−1,3−ジオキサンが9.36 mmol含まれていた。また、この他に2−(2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサン、マロンアルデヒドモノ1,3−プロパンジオールも観測された。生成物を塩化メチレンにて抽出し、触媒と分離した。
【0087】
<加水分解・還元工程>
塩化メチレンを留去した後、5%Ru/C 0.5g、水0.9gを加え、耐圧反応器に入れた。これを水素置換後、水素圧を0.9MPaにした後、90℃のオイルバスに入れ、水素が消費されなくなり圧の減少が見られなくなるまで撹拌することにより加水分解反応と還元反応を行った。反応後、ガスクロマトグラフィーにより分析した結果、4−オキサヘプタン−1,7−ジオール 9.36 mmol、1,3−プロパンジオール37.66 mmolが生成していた。
この1,3−プロパンジオールを次回の製造バッチの保護工程に用いることにより、同様の反応が行われた。
【0088】
【発明の効果】
以上の通り、本発明によると、アクロレインを原料として4−オキサヘプタン−1,7−ジオールを効率良く製造することができる。
Claims (1)
- アクロレインを出発原料とし、下記の保護工程、酸化工程及び加水分解・還元工程により4−オキサヘプタン−1,7−ジオールを製造する方法であって、下記加水分解・還元工程で生じた1,3−プロパンジオールを下記保護工程及び酸化工程のうち少なくとも保護工程に供することを特徴とする4−オキサヘプタン−1,7−ジオールの製造方法。
保護工程:アクロレインと1,3−プロパンジオールとを酸触媒の存在下で反応させ、2−ビニル−1,3−ジオキサンおよび2−(6−ヒドロキシ−3−オキサヘキシル)−1,3−ジオキサンを主成分とする生成物群を得る。
酸化工程:上記保護工程で得られた2−ビニル−1,3−ジオキサンを酸素下、パラジウムを主成分とする触媒の存在下、1,3−プロパンジオールと反応させ、マロンアルデヒド−ビス(1,3−プロパンジオールアセタール)及び2−(6−ヒドロキシ−3−オキサヘキシル)−1,3−ジオキサンを得る。
加水分解・還元工程:上記酸化工程で得られたマロンアルデヒド−ビス(1,3−プロパンジオールアセタール)及び2−(6−ヒドロキシ−3−オキサヘキシル)−1,3−ジオキサンを水及び水素と反応させ、1,3−プロパンジオール及び4−オキサヘプタン−1,7−ジオールを得る。
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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WO2014104341A1 (ja) * | 2012-12-28 | 2014-07-03 | 三菱瓦斯化学株式会社 | ポリエーテルジオール及びその製造方法 |
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2002
- 2002-06-17 JP JP2002176079A patent/JP2004018464A/ja active Pending
Cited By (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
WO2014104341A1 (ja) * | 2012-12-28 | 2014-07-03 | 三菱瓦斯化学株式会社 | ポリエーテルジオール及びその製造方法 |
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US9790155B2 (en) | 2012-12-28 | 2017-10-17 | Mitsubishi Gas Chemical Company, Inc. | Polyether diol and method for producing the same |
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