JP2004014438A - 透明導電膜及びその形成方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】大気圧または大気圧近傍の圧力下で、放電空間に導入してプラズマ状態としたガスに基材を晒すことにより透明導電膜を形成する透明導電膜の形成方法において、前記放電空間に印加する電界が、100kHzを越える高周波電圧で、放電出力密度が1W/cm2以上で、前記ガスは薄膜形成ガス及び反応ガスを含有し、該反応ガスは還元ガスを含有し、かつ前記基材温度が200〜400℃であることを特徴とする透明導電膜の形成方法。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、液晶表示素子、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子ともいう)、プラズマディスプレイパネル(以下、PDPと略する)、電子ペーパー、タッチパネルや太陽電池等の各種エレクトロニクス素子に好適に用いられる透明導電膜及びその形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、透明導電膜は液晶表示素子、有機EL素子、太陽電池、タッチパネル、電磁波シールド材、赤外線反射膜等に広く使用されている。透明導電膜としてはPt、Au、Ag、Cu等の金属薄膜、SnO2、In2O3、CdO、ZnO2、SnO2:Sb、SnO2:F、ZnO:AL、In2O3:Sn等の酸化物及びドーパントによる複合酸化物膜、カルコゲナイド、LaB6、TiN、TiC等の非酸化物がある。中でも錫をドープした酸化インジウム膜(以下、ITOという)が、優れた電気特性とエッチングによる加工の容易さから最も広く使用されている。これらは真空蒸着法やスパッタリング法、イオンプレーティング法、真空プラズマCVD法、スプレーパイロリシス法、熱CVD法、ゾルゲル法等により形成されている。
【0003】
近年、液晶表示素子、有機EL素子等のフラットパネルディスプレイにおいては大面積化、高精細化が進んでおり、より高性能な透明導電膜が求められている。液晶表示素子においては電界応答性の高い素子あるいは装置を得るため、電子移動度の高い透明導電膜の利用が求められている。また、有機EL素子においては電流駆動方式をとるために、より低抵抗な透明導電膜が求められている。
【0004】
透明導電膜の形成方法の中で真空蒸着法やスパッタリング法は、低抵抗な透明導電膜を得ることができる。工業的にはDCマグネトロンスパッタリング装置を用いることにより比抵抗値で10−4Ω・cmオーダーの優れた導電性を有するITO膜を得ることができる。
【0005】
しかしながら、これらの物理的製作法(PVD法)では気相中で目的物質を基板に堆積させて膜を成長させるものであり、真空容器を使用する。そのため装置が大がかりで高価な上、原料の使用効率が悪くて製膜速度が低く生産性が低い。また大面積の製膜も困難であった。
【0006】
ゾルゲル法(塗布法)は大面積の製膜が可能であるが、分散調液、塗布、乾燥といった多くのプロセスが必要なだけでなく、被処理基材との接着性が低いためにバインダー樹脂が必要となり透明性が悪くなる。また、得られた透明導電膜膜の電気特性もPVD法に比較すると劣る。
【0007】
熱CVD法は、スピンコート法やディップコート法、印刷法等により基材に目的物質の前駆物質を塗布し、これを焼成(熱分解)することで膜を形成するものであり、装置が簡単で生産性に優れ、大面積の製膜が容易であるという利点があるが、通常焼成時に400〜600℃の高温処理を必要とするという問題点を有していた。
【0008】
上記、ゾルゲル法(塗布法)による高機能な薄膜が得にくいデメリット、及び真空装置を用いることによる低生産性のデメリットを克服する方法として、大気圧または大気圧近傍の圧力下で放電し、ガスをプラズマ励起し、基材上に薄膜を形成する方法(以下、大気圧プラズマCVD法という)が提案されている。
【0009】
特開2000−303175に大気圧プラズマCVD法により透明導電膜を形成する技術が開示されている。しかしながら、得られる透明導電膜の抵抗は比抵抗値でおよそ10−2Ω・cmと高く、比抵抗値10−3Ω・cm以下の優れた電気特性が要求される液晶素子、有機EL素子、PDP、電子ペーパー等のフラットパネルディスプレイ用透明導電膜としては不十分である。また、耐湿、耐熱性が悪かった。更に、CVD原料にトリエチルインジウムを用いており、この化合物は常温、大気中で発火、爆発の危険性がある等、安全性にも問題がある。
【0010】
また、特開2001−74906には赤外線及び電磁波防止機能を有し、ハードコート層/透明導電層/反射防止層とを高い密着性を有する、耐擦傷性、表面硬度に優れたPDPまたはFED用反射防止フィルム及びその製造方法として透明導電層の例が開示されているが、該特許に記載の透明導電層ではより低抵抗な透明導電膜という要求に到底応えることはできない。
【0011】
一般に、透明導電膜の製膜では基板温度を上げるほど比抵抗値は下がることが知られているが、大気圧プラズマ法で低抵抗かつ耐湿、耐熱性の良好な透明導電膜を形成する方法は開示されていない。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、低抵抗かつ耐湿、耐熱性に優れた透明導電膜及びその形成方法を提供することである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記目的は、以下の構成によって達成される。
【0014】
1.大気圧または大気圧近傍の圧力下で、放電空間に導入してプラズマ状態としたガスに基材を晒すことにより透明導電膜を形成する透明導電膜の形成方法において、前記放電空間に印加する電界が、100kHzを越える高周波電圧で、放電出力密度が1W/cm2以上で、前記ガスは薄膜形成ガス及び反応ガスを含有し、該反応ガスは還元ガスを含有し、かつ前記基材温度が200〜400℃であることを特徴とする透明導電膜の形成方法。
【0015】
2.還元ガスが水素であることを特徴とする上記1記載の透明導電膜の形成方法。
【0016】
3.上記1または2記載の透明導電膜の形成方法で形成し、透明導電膜の組成がITO(In2O3:Sn)、ZnO、IZO(In2O3:ZnO)またはFTO(F:In2O3)であることを特徴とする透明導電膜。
【0017】
4.上記1または2記載の透明導電膜の形成方法で形成し、透明導電膜の組成がITOで、その比抵抗値が3.0×10−4Ωcm以下であることを特徴とする透明導電膜。
【0018】
5.上記1または2記載の透明導電膜の形成方法で形成し、60℃、90%RHで240時間後の抵抗増加率が1.2以下であることを特徴とする透明導電膜。
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明者らは、鋭意研究の結果、大気圧プラズマCVD法において、放電空間に印加する電界が、100kHzを越える高周波電圧で、放電出力密度が1W/cm2以上のハイパワーで、かつ基材温度が200〜400℃であり、還元ガスを含有する反応ガスを導入して製膜することにより、低抵抗かつ耐湿、耐熱性に優れた透明導電膜が得られることを見出した。還元ガスは水素が好ましい。
【0020】
本発明において、透明導電膜とは、一般に工業材料としてよく知られているものであり、可視光(400〜700nm)をほとんど吸収せず透明で、しかも良導体の膜のことである。電気を運ぶ自由荷電体の透過特性が可視光域で高く、透明であり、しかも電気伝導性が高いため、透明電極や帯電防止膜として用いられる。
【0021】
なお、「膜」と称しているが、用途によってその機能を有する程度に被処理体上に形成できればよく、必ずしも被処理体の全部または一部を覆う連続的な幕である必要はない。透明導電膜としてはPt、Au、Ag、Cu等の金属薄膜、SnO2、In2O3、CdO、ZnO2、SnO2:Sb、SnO2:F、ZnO:AL、In2O3:Sn等の酸化物及びドーパントによる複合酸化物膜、カルコゲナイド、LaB6、TiN、TiC等の非酸化物がある。本発明においては、透明導電膜の組成がITO(In2O3:Sn)、ZnO、IZO(In2O3:ZnO)またはFTO(F:In2O3)であることが好ましい。
【0022】
本発明の透明導電膜の形成方法である大気圧プラズマCVD法について説明する。
【0023】
本発明は大気圧または大気圧近傍の圧力下において、ガスを放電空間に導入してプラズマ状態とし、基材を前記プラズマ状態のガスに晒すことによって、前記基材上に透明導電膜を形成する透明導電膜の形成方法において、前記ガスの少なくとも1種類が、水素等の還元ガスであることを特徴とする透明導電膜の形成方法である。
【0024】
本発明の大気圧プラズマCVDにおいては、対向する電極間に、100kHzを越える高周波電圧で、かつ、放電出力密度1W/cm2以上の電力(出力密度)を供給し、ガスを励起してプラズマを発生させる。
【0025】
本発明において、電極間に印加する高周波電圧の周波数の下限値としては、好ましくは100kHzを越え、より好ましくは200kHzである。更に好ましくは800kHzである。上限値としては好ましくは150MHzが好ましい。
【0026】
また、電極間に供給する電力の下限値は、1W/cm2であり、好ましくは1.2W/cm2である。上限値としては、好ましくは100W/cm2、より好ましくは50W/cm2である。更に好ましくは20W/cm2である。なお、放電面積(/cm2)は、電極において放電が起こる範囲の面積のことを指す。
【0027】
また、電極間に印加する高周波電圧は、断続的なパルス波であっても、連続したサイン波であっても構わないが、本発明の効果を高く得るためには、連続したサイン波であることが好ましい。
【0028】
本発明においては、このような電圧を印加して、均一なグロー放電状態を保つことができる電極をプラズマ放電処理装置に採用する必要がある。
【0029】
このような電極を用いたプラズマ放電処理装置は、アース電極と、対向する位置に配置された印加電極である固定電極との間で放電させ、電極間にガスを導入してプラズマ状態とし、基材を前記プラズマ状態のガスに晒すことによって、薄膜を形成するものであるが、本発明の薄膜形成方法を実施する装置としてはこれに限定されるものではなく、グロー放電を安定に維持し、薄膜を形成するためにガスを励起してプラズマ状態とするものであればよい。他の方式としては、基材を電極間ではない電極近傍に載置あるいは搬送させ、発生したプラズマを当該基材上に吹き付けて薄膜形成を行うジェット方式等がある。
【0030】
【発明の実施の形態】
図1は本発明に用いられる大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示す断面図である。図1において、2は平板状の電極であり、3は角柱型の電極であり、電極3は複数配列されている。角柱型の電極3は円柱型の電極に比べて、放電範囲を広げる効果があるので、本発明の薄膜形成方法に好ましく用いられる。電極2と電極3は対向するように配置されている。
【0031】
電極2、3には、高周波電圧を印加して、均一なグロー放電状態を保つことができる電極を大気圧プラズマ処理装置に採用する必要がある。
【0032】
電極2は基材1を保持することができる構造をしており、加熱ヒーター5を内蔵している。さらに電極2は、水平方向に往復移動することが可能である。加熱ヒーター5は高周波電源4で電圧を印加して基材1の表面温度を電極2、3間で放電プラズマに晒す前に予め加熱することができる。
【0033】
電極の材料としては、銀、白金、ステンレスアルミニウム、鉄等の金属等が挙げられるが、加工の観点からステンレスが好ましい。
【0034】
さらに、電極2、3は、誘電体を被覆したものであることが好ましい。少なくとも対向する印加電極とアース電極の片側に誘電体を被覆すること、更に好ましくは、対向する印加電極とアース電極の両方に誘電体を被覆することである。
【0035】
誘電体としては、無機物の誘電体であることが好ましく、このような誘電体としては、アルミナ、窒化珪素等のセラミックス、あるいはケイ酸塩系ガラス、ホウ酸塩系ガラス等のガラスライニング材等がある。
【0036】
また、基材を電極間に載置あるいは電極間を搬送してプラズマに晒す場合には、基材を片方の電極に接して搬送できるロール電極仕様にするだけでなく、更に誘電体表面を研磨仕上げし、電極の表面粗さRmax(JIS B 0601)を10μm以下にすることで、誘電体の厚み及び電極間のギャップを一定に保つことができ、放電状態を安定化できること、更に熱収縮差や残留応力による歪やひび割れを無くし、かつポーラスでない高精度の無機誘電体を被覆することで大きく耐久性を向上させることができる。更に好ましくは、表面粗さの最大値が8μm以下であり、特に好ましくは、7μm以下に調整することである。また、JIS B 0601で規定される中心線平均表面粗さ(Ra)は0.5μm以下が好ましく、更に好ましくは0.1μm以下である。
【0037】
また、高温下での電極に対する誘電体被覆による電極製作において、少なくとも基材と接する側の誘電体を研磨仕上げすること、更に電極と誘電体間の熱膨張の差をなるべく小さくすることが必要であり、そのため、電極表面に応力を吸収できる層として泡混入量をコントロールして無機質の材料をライニングする、特に材質としては琺瑯等で知られる溶融法により得られるガラスであることがよく、更に電極に接する最下層の泡混入量を20〜30体積%とし、次層以降を5体積%以下とすることで、緻密でかつひび割れ等が発生しない良好な電極ができる。
【0038】
また、電極に誘電体を被覆する別の方法として、セラミックスの溶射を空隙率10体積%以下まで緻密に行い、更にゾルゲル反応により硬化する無機質の材料にて封孔処理を行うことであり、ここでゾルゲル反応の促進には、熱硬化やUV硬化がよく、更に封孔液を希釈し、コーティングと硬化を逐次で数回繰り返すと、よりいっそう無機質化が向上し、劣化のない緻密な電極ができる。
【0039】
上記電極間の距離は、電極に設置した固体誘電体の厚さ、印加電圧の大きさ、プラズマを利用する目的等を考慮して決定される。上記電極の一方に固体誘電体を設置した場合の固体誘電体と電極の最短距離、上記電極の双方に固体誘電体を設置した場合の固体誘電体同士の距離としては、いずれの場合も均一な放電を行う観点から0.5〜20mmが好ましく、特に好ましくは1mm±0.5mmである。
【0040】
4は電極2、3間に高周波電圧を印加するための高周波電源である。本発明に用いることができる高周波電源としては、特に限定はないが、パール工業社製高周波電源(200kHz)、パール工業社製高周波電源(800kHz)、日本電子社製高周波電源(13.56MHz)、パール工業社製高周波電源(150MHz)等が使用できる。
【0041】
高周波電源4より電極2、3間に印加される電圧の周波数及び電力は適宜決定されるが、例えば、電圧が0.5〜10kV程度に調整される。ここで電源の印加法に関しては、連続モードと呼ばれる連続サイン波状の連続発振モードとパルスモードと呼ばれるON/OFFを断続的に行う断続発振モードのどちらを採用してもよいが連続モードの方がより緻密で良質な膜が得られる。
【0042】
また、放電プラズマ処理時の基材への影響を最小限に抑制するために、放電プラズマ処理時の基材表面の温度を200〜400℃に調整することが必要である。上記の温度範囲に調整するため、必要に応じて電極、基材は冷却手段で冷却しながら放電プラズマ処理される。
【0043】
本発明では、製膜時の基材温度は200〜400℃で行うことが重要である。ここで基材温度とは、プラズマ放電により製膜される基材表面の温度を指す。基材表面の温度は、例えば、オフラインで行う場合は基材表面に液晶タイプの温度表示シートを設置して測定する方法、放電空間外で放射型温度計により測定する等により知ることができる。基材温度を200℃未満で製膜した場合は、本発明の目的である低抵抗率の膜を得ることはできない。また、透明導電膜は結晶化温度の上下で膜の特性が大きく変化することが知られており、200℃未満では基材温度、ガス流量がわずかに変化するだけで、抵抗率や膜の表面平坦性が大きく変化し、安定した特性を維持することが困難であった。また、400℃を越えると放電電極を被覆した誘電体の絶縁破戒が起きやすくなり、安定なグロー放電状態を維持することが難しくなる。基材温度は好ましくは250〜350℃、さらに好ましくは300〜350℃である。基材温度を200℃以上に保つために、基材を保持する電極に加熱手段を設けることができる。加熱手段として内部に水またはオイルを循環させて調整する方法や、加熱ヒーターを設置する方法等で達成することができる。また、必要により基材温度を制御するために電極や放電ガスを加熱することができる。
【0044】
本発明においては、上記の放電プラズマ処理が大気圧または大気圧近傍で行われるが、ここで大気圧近傍とは、20〜110kPaの圧力を表すが、本発明に記載の効果を好ましく得るためには、93〜104kPaが好ましい。
【0045】
次に、本発明の透明導電膜の形成方法に係る放電空間に導入するガスについて説明する。本発明の透明導電膜の形成方法を実施するにあたり、使用するガスは、基材上に設けたい透明導電膜の種類によって異なるが、基本的に、薄膜形成ガス、反応ガス及び放電ガスからなり、反応ガスには還元ガスが含まれる。還元性ガスの好ましい例として水素が挙げられる。水素の量は放電空間に導入するガスに対して、0.0001〜5.0体積%の範囲で用いることができる。好ましい範囲は、0.001〜3.0体積%である。
【0046】
本発明においては上記薄膜形成ガスに加え、分子内に少なくとも1個以上の酸素原子を含む有機金属化合物を用いることができる。この有機金属化合物は、放電空間でプラズマ状態となり、透明導電膜を形成する成分を含有するものであり、βジケトン金属錯体、金属アルコキシド、アルキル金属等の有機金属化合物が用いられる。
【0047】
好ましい化合物としては、インジウムヘキサフルオロペンタンジオネート、インジウムメチル(トリメチル)アセチルアセテート、インジウムアセチルアセトナート、インジウムイソポロポキシド、インジウムトリフルオロペンタンジオネート、トリス(2,2,6,6−テトラメチル3,5−ヘプタンジオネート)インジウム、ジ−n−ブチルビス(2,4−ペンタンジオネート)錫、ジ−n−ブチルジアセトキシ錫、ジ−t−ブチルジアセトキシ錫、テトライソプロポキシ錫、テトラブトキシ錫、ジンクアセチルアセトナート等を挙げることができる。
【0048】
この中で特に、好ましいのはインジウムアセチルアセトナート、トリス(2,2,6,6−テトラメチル3,5−ヘプタンジオネート)インジウム、ジンクアセチルアセトナート、ジ−n−ブチルジアセトキシ錫である。これらの有機金属化合物は一般に市販されており、例えば、インジウムアセチルアセトナートは東京化成工業(株)容易に入手することができる。
【0049】
本発明においてはこれら分子内に少なくとも1つ以上の酸素原子を含有する有機金属化合物の他に導電性を向上させるために行われるドーピング用のガスを用いることができる。ドーピングに用いられる薄膜形成ガスとしては、例えば、アルミニウムイソプロポキシド、ニッケルアセチルアセトナート、マンガンアセチルアセトナート、ボロンイソプロポキシド、n−ブトキシアンチモン、トリ−n−ブチルアンチモン、ジ−n−ブチルビス(2,4−ペンタンジオネート)錫、ジ−n−ブチルジアセトキシ錫、ジ−t−ブチルジアセトキシ錫、テトライソプロポキシ錫、テトラブトキシ錫、テトラブチル錫、ジンクアセチルアセトナート、6フッ化プロピレン、8フッ化シクロブタン、4フッ化メタン等を挙げることができる。
【0050】
透明導電膜の比抵抗値を調整するために用いる薄膜形成ガスとしては、例えば、チタントリイソプロポキシド、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン等を挙げることができる。
【0051】
透明導電膜主成分として用いられる薄膜形成ガスとドーピングを目的に少量用いられる薄膜形成ガスの量比は、製膜する透明導電膜の種類により異なる。例えば、酸化インジウムに錫をドーピングして得られるITO膜においては、得られるITO膜のIn/Snの原子数比が100/0.1〜100/15の範囲になるように薄膜形成ガス量を調整する。好ましくは、100/0.5〜100/10の範囲になるよう調整する。In/Snの原子数比はXPS測定により求めることができる。
【0052】
酸化錫にフッ素をドーピングして得られる透明導電膜(FTO膜という)においては、得られたFTO膜のSn/Fの原子数比が100/0.01〜100/50の範囲になるよう薄膜形成ガスの量比を調整する。Sn/Fの原子数比はXPS測定により求めることができる。
【0053】
In2O3−ZnO系アモルファス透明導電膜においては、In/Znの原子数比が100/50〜100/5の範囲になるよう薄膜形成ガスの量比を調整する。In/Znの原子数比はXPS測定で求めることができる。
【0054】
更に、薄膜形成ガスには透明導電膜主成分となる薄膜形成ガスとドーピングを目的に少量用いられる薄膜形成ガスがある。更に、透明導電膜の比抵抗値を調整するために薄膜形成ガスを追加することも可能である。
【0055】
上記薄膜形成ガスは、放電空間に導入するガスに対し、0.01〜10体積%含有させることが好ましい。透明導電膜の膜厚としては、0.1〜1000nmの範囲の透明導電膜が得られる。
【0056】
本発明においては上記薄膜形成ガス、反応ガス及び放電ガスをプラズマ空間に導入する。ここで放電ガスとは、周期表の第18属元素、具体的には、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン更には窒素ガス等が挙げられるが、本発明に記載の効果を得るためには、アルゴンまたはヘリウムが特に好ましく用いられる。
【0057】
本発明の透明導電膜形成法により得られる透明導電膜は高いキャリア移動度を有する特徴を持つ。よく知られているように透明導電膜の電気伝導率は以下の(1)式で表される。
【0058】
σ=neμ (1)
ここで、σは電気伝導率、nはキャリア密度、eは電子の電気量、そしてμはキャリアの移動度である。電気伝導度をあげるためにはキャリア密度あるいはキャリア移動度を向上させる必要があるが、キャリア密度を向上させていくと2×1021cm−3付近から反射率が大きくなるため透明性が失われる。そのため、電気伝導率を向上させるためにはキャリア移動度を向上させる必要がある。市販されているDCマグネトロンスパッタリング法により作製された透明導電膜のキャリア移動度は30cm2/sec・V程度であるが、本発明の透明導電膜の形成方法によれば条件を最適化することによりDCマグネトロンスパッタリング法により形成された透明導電膜を超えるキャリア移動度を有する透明導電膜を形成することが可能である。
【0059】
本発明の透明導電膜の形成方法は高いキャリア移動度を有するため、ドーピングなしでも比抵抗値で3×10−3Ω・cm以下の低抵抗な透明導電膜を得ることができる。ドーピングを行いキャリア密度を増加させることで更に比抵抗を下げることが可能である。
【0060】
本発明の透明導電膜の形成方法によって得られる透明導電膜は、キャリア移動度が10cm2/V・sec以上のものである。
【0061】
また、本発明の透明導電膜の形成方法によって得られる透明導電膜は、キャリア密度が1×1019cm−3以上、より好ましい条件下においては1×1020cm−3以上となる。
【0062】
また、本発明の透明導電膜の形成方法によって得られる透明導電膜は、微量の炭素を含有する場合がある。その場合の炭素含有率は、0〜5.0原子数濃度であることが好ましい。特に好ましくは0.01〜3原子数濃度の範囲内にあることが好ましい。
【0063】
本発明に用いることができる基材としては、フィルム状のもの、シート状のもの、レンズ状等の立体形状のもの等、製膜温度に耐える基材であれば特に限定はない。通常はガラス基板上に製膜する。ガラス基板としてはソーダガラス、無機アルカリガラスを用いることができるが、無機アルカリガラスが好ましい。基材が電極間に載置できるものであれば、電極間に載置することによって、基材が電極間に載置できないものであれば、発生したプラズマを当該基材に吹き付けることによって透明導電膜を形成すればよい。
【0064】
本発明においては透明導電膜はガラス、プラスチックフィルム等の基材上に形成されるが、必要に応じて基材と透明導電性膜の間に接着性を向上させるために接着層を設けてもよい。また、光学特性を改良するために、透明導電膜を設けた面の反対の面に反射防止膜を設けることも可能である。さらに、フィルムの最外層に防汚層を設けることも可能である。その他、必要に応じてガスバリア性、耐溶剤性を付与するための層等を設けることも可能である。
【0065】
これらの層の形成方法は特に限定はなく、塗布法、真空蒸着法、スパッタリング法、大気圧プラズマCVD法等を用いることができる。特に好ましいのは大気圧プラズマCVD法である。
【0066】
これらの層の大気圧プラズマCVDによる形成方法としては、例えば反射防止膜の形成方法としては特願平2000−021573等に開示された方法を用いることができる。
【0067】
本発明においては、上記記載のような基材面に対して本発明に係わる透明導電膜を設ける場合、平均膜厚に対する膜厚偏差を±10%になるように設けることが好ましく、更に好ましくは±5%以内であり、特に好ましくは±1%以内になるように設けることが好ましい。
【0068】
【実施例】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0069】
実施例1
(透明導電膜1の作製)
基材は、アルカリバリアコートとして膜厚約50nmのシリカ膜が形成されたガラス基板(50mm×50mm×1mm)を用いた。
【0070】
図1に示す大気圧プラズマ処理装置を用いて、この電極間に上記ガラス基板を載置し、かつ、下記混合ガスを導入して薄膜形成を行った。
【0071】
電極2は、加熱ヒーター5として電熱線を内蔵したステンレス製ジャケット母材に対してセラミック溶射によりアルミナを1mm被覆し、その後、テトラメトキシシランを酢酸エチルで希釈した溶液を塗布乾燥後、紫外線照射により硬化させ封孔処理を行い、表面を平滑にしてRmaxが5μmとした誘電体(比誘電率10)を有するようにした。一方電極3としては、中空の角形のステンレスパイプに対し、上記と同様の誘電体を同条件にて被覆した。
【0072】
プラズマ発生に用いる電源は、パール工業社製高周波電源を使用した。また出力は5W/cm2の電力を供給した。
【0073】
基材1を加熱ヒーター5により表面温度が250℃になるまで加熱し、電極2、3間には周波数13.56MHz、放電出力密度5W/cm2の電圧を印加して放電プラズマを発生させ、基材1を放電プラズマに晒して作製し、電極2を水平方向に1secの休止をとりながら数十回移動を繰り返して100nmの膜厚になるまで製膜を行って透明導電膜1を作製した。
【0074】
なお、放電プラズマ処理中の基材の表面温度は、温度パッチ(アイピー技研社製)を基材の表面に予め貼り付けておき、下記電極の加熱温度を何点か変えてプラズマ処理後の温度パッチの色変化から求め、所望の温度になるよう下部電極温度を設定した。
【0075】
〈放電空間に導入するガス〉
放電ガス:ヘリウム 98.5体積%
反応ガス:水素 0.25体積%
薄膜形成ガス1:インジウムアセチルアセトナート 1.2体積%
薄膜形成ガス2:ジブチル錫ジアセテート 0.05体積%
(透明導電膜2〜17の作製)
周波数、出力密度、基材温度、放電ガス、反応ガス、薄膜形成ガス1〜2、電源を表1のように変更する以外は透明導電膜1と同様にして透明導電膜2〜17を作製した。
【0076】
【表1】
【0077】
作製した透明導電膜を以下の方法で評価した。
〈比抵抗〉
JIS−R−1637に従い、四端子法により求めた。なお、測定には三菱化学社製ロレスタ−GP、MCP−T600を用いた。
【0078】
〈透過率〉
JIS−R−1635に従い、日立製作所製分光高度計1U−4000型を用いて測定した。試験光の波長は550nmとした。
【0079】
〈耐湿・耐熱性〉
試料を恒温器を用いて60℃、90%RHの条件で240時間保存した後、比抵抗を測定した。加湿・加熱前後の比抵抗をそれぞれR0、Rとし、変化率R/R0を耐湿・耐熱性の指標とした。
【0080】
評価の結果を表2に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
【発明の効果】
本発明により、低抵抗かつ耐湿、耐熱性に優れた透明導電膜及びその形成方法を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に用いられる大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
1 基材
2、3 電極
4、4′ 高周波電源
5 加熱ヒーター
Claims (5)
- 大気圧または大気圧近傍の圧力下で、放電空間に導入してプラズマ状態としたガスに基材を晒すことにより透明導電膜を形成する透明導電膜の形成方法において、前記放電空間に印加する電界が、100kHzを越える高周波電圧で、放電出力密度が1W/cm2以上で、前記ガスは薄膜形成ガス及び反応ガスを含有し、該反応ガスは還元ガスを含有し、かつ前記基材温度が200〜400℃であることを特徴とする透明導電膜の形成方法。
- 還元ガスが水素であることを特徴とする請求項1記載の透明導電膜の形成方法。
- 請求項1または2記載の透明導電膜の形成方法で形成し、透明導電膜の組成がITO(In2O3:Sn)、ZnO、IZO(In2O3:ZnO)またはFTO(F:In2O3)であることを特徴とする透明導電膜。
- 請求項1または2記載の透明導電膜の形成方法で形成し、透明導電膜の組成がITOで、その比抵抗値が3.0×10−4Ωcm以下であることを特徴とする透明導電膜。
- 請求項1または2記載の透明導電膜の形成方法で形成し、60℃、90%RHで240時間後の抵抗増加率が1.2以下であることを特徴とする透明導電膜。
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