JP2004009605A - 水性ボールペン及びボールペンチップ - Google Patents
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Abstract
【解決手段】ボールペンチップ5はインキ収納部7と連通するインキ導通孔12と、当該インキ導通孔12に連通し筆記用ボール10が収納されるボール収納室40を備える。ボール収納室40は筆記用ボール10を保持する錐形の座面45を有する。座面の開き角度は95°以下である。
【選択図】 図3
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、水性ボールペン及びボールペンチップに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
日常的に使用する筆記具として、水性ボールペンが知られている。ここで水性ボールペンとは、水やアルコール、エーテル等を溶剤とした水溶性のインキを内蔵したボールペンである。
水性ボールペンに採用されるボールペンチップは、チップ本体の中に筆記用ボールが回転可能に保持されたものであり、インキ収納部内のインキを筆記用ボールに導き、筆記用ボールの回転に応じてインキを紙等に付着させる機能を果たす。
【0003】
図6(a)は、従来技術のボールペンチップの先端部分の断面図であり、(b)は、(a)のB−B断面図である。
すなわち水性ボールペンのボールペンチップは、チップ本体100と筆記用ボール102によって構成されている。チップ本体100の外形は先端101が円錐状をしており、ボール102はボール収納室103内に挿入され、さらにボール102はチップ本体100の先端101で挟持されている。
【0004】
チップ本体100の内部構造は、先端に凹状のボール収納室103があり、後端にインキ導通開口が設けられている。また中央の細孔110は、ボール収納室103とインキ導通開口を貫通している。ボール収納室103の座面105はすり鉢の様な略円錐形であり、その表面には矢溝と称される放射状の溝107が設けられている。
ここで従来技術の水性ボールペンでは、ボール収納室103の座面105の開き角度は図6の様に120°程度であった。
またボール収納室103の座面105には「座打ち」と称される加工が施され、クレータ状の窪み108が形成されている。なお「座打ち」とは、チップ本体100のボール収納室103に筆記用ボール102を挿入し、チップ本体100の開口部をかしめた後、ボール102を座面105側に叩く加工工程であり、座面105の表面を凹変させることによって筆記用ボール102を沈め、筆記用ボール102とチップ本体100の開口部との間に隙間を形成させるものである。従来技術の水性ボールペンでは、上記した様な座打ちを行うため、チップ本体100の座面105の断面における傾斜線に座打ちによる凹変部がある。
【0005】
また水性ボールペンで使用されるボールペンチップは、インキの流出量を確保するため、筆記用ボール102とチップ本体100の開口部との間に形成される隙間は大きい。具体的には水性ボールペンで使用されるボールペンチップでは、筆記用ボール102をボール収納室103の中心に配置し、筆記用ボール102を座面105に当接した状態を基準としたとき、筆記用ボール105の露出端に形成されるチップ本体100の開口直径Wは、当該部分における筆記用ボールの弦の長さw(横断面の直径)に対して0.015mm〜0.07mm程度大きい(図6 参照)。
同様に水性ボールペンで使用されるボールペンチップでは、ボール収納室103の内径と筆記用ボール102の直径との寸法差も0.015mm〜0.07mm程度と大きい。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
水性ボールペンは、発色が鮮やかであり、筆記具として優れた性能を持つ。しかしながら、従来技術の水性ボールペンは、筆記時にインキのぼたつきが生じるという不満がある。すなわち従来技術の水性ボールペンを使用して連続した線を引くと、紙等へのインキの付着量が異様に多い部分ができる。特に筆記用ボールの直径が大きい場合にこの傾向が強い。
【0007】
また従来技術の水性ボールペンは、図7の様に、ペン先を手前側、尾栓を先端側に傾けた姿勢で筆記する書き癖を有する人には使い辛く、インキがかすれてしまうという不具合があった。
すなわち水性ボールペンは、先端から突出したボールによって線を描くものであるから、筆記角度が小さいとチップ本体が紙等の被筆記物と接触してしまう。そのため水性ボールペンを使用する人は、無意識の内に高い筆記角度で水性ボールペンを保持して筆記を行う。またそれが嵩じて図7の様にペン先が手前側に向かう姿勢に水性ボールペンを保持して筆記を行う人も珍しくない。従来技術の水性ボールペンを図7の様な姿勢で保持して筆記すると、インキがかすれる傾向にある。
すなわち従来技術の水性ボールペンは、通常の筆記姿勢で筆記した場合にはインキのぼたつきがあり、図7の様な筆記姿勢で筆記すると逆にインキがかすれてしまうという問題点があった。
そこで本発明は、従来技術の水性ボールペンの上記した欠点に注目し、筆記時にぼたつきが生じず、また図7に示すようなペン先を手前側にした姿勢で筆記してもかすれることのない水性ボールペンの開発を課題とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
そして本発明者らは、上記した課題を解決するため、インキがぼたつく原因や、かすれが生じる原因を検討した。その結果、これらの不具合が生じるメカニズムは、次の通りであると判明した。
以下、図8を参照しつつ、従来技術の水性ボールペンが不具合を起こす理由について説明する。
図8(a)(b)は、いずれも従来技術の水性ボールペンを使用して筆記を行う際のボールペンチップの部分拡大断面図であり、(a)は水性ボールペンを傾斜して引き書きした場合を示し、(b)は水性ボールペンを傾斜して押し書きした場合を示す。
【0009】
図8(a)の様に従来技術の水性ボールペンを使用し、水性ボールペンを傾斜して引き書きすると、筆記用ボール102が紙面123に押されてずれる。より具体的には、水性ボールペンを傾斜して引き書きすると、筆記用ボール102は、図8(a)の様に、傾斜側と反対側(上部側)に寄る。そのためインキが外部に流出する流出口たる、チップ本体100の開口と筆記用ボール102との空隙は、歪になる。具体的には、ボールの繰り出し側の空隙122が増加し、戻り側の空隙130は小さくなる。
【0010】
そしてこの状態で引き書きすると、インキは、図示しないインキ収納部からチップ本体100内に流れ、中央の細孔110を経てボール収納室103に入り、さらにインキは、筆記用ボール102の回転に応じてインキ収納部の内壁(水性ボールペンの傾斜側の内壁)120と筆記用ボール102の間の空隙121を流れる。そしてインキは、筆記用ボール102の回転に巻き込まれ、チップ本体100の開口と筆記用ボール102との間に生じる空隙であって水性ボールペンの傾斜側の部分(ボールの繰り出し側の空隙122)から外部に漏出し、紙等の被筆記物123にインキが塗布される。
【0011】
ここで筆記用ボール102に巻き込まれて外部の漏出したインキの全てが紙等に塗布される訳ではなく、その何割かは筆記用ボールに付着した状態でボール収納室103に戻る。しかしながら従来技術の水性ボールペンでは、前記した様に筆記用ボール102が紙面123に押されてずれており、筆記用ボール102は傾斜側と反対側(上部側)に寄っているから、インキ戻り側における筆記用ボール102とチップ本体100の開口との空隙130は狭い。
そのため図8(a)の様に、インキは傾斜側に対して反対側の部位(筆記用ボールの戻り側)で、チップ本体100の開口部によってボール102から削ぎ落とされ、チップ本体100の開口端に堆積する。そしてインキの堆積量が多くなると堆積したインキが紙面123に落下し、インキのぼたつきが生じることとなる。
【0012】
水性ボールペンを押し書きする場合も同様であり、図8(b)の様にインキ戻り側(傾斜側)の空隙130’が狭くなり、インキ溜まりができてインキがぼたつくこととなる。
【0013】
また図7の様にペン先を手前側にした姿勢で筆記した時にかすれが生じる原因も同様である。すなわちペン先を手前側にした姿勢で筆記すると引き書き状態と押し書き状態が筆記中に入れ代わる。そのためチップ本体100の開口と筆記用ボール102との隙間が狭められた位置から筆記用ボール102が繰り出される状況が生じ、インキの流出口が絞られてインキがかすれてしまう。
【0014】
そこで本発明者らは、筆記用ボールの移動を防止するための試行錯誤を繰り返した。図9はその過程で試作した構成であり、失敗例である。すなわち図9(a)(b)は、試作した水性ボールペンを使用して筆記を行う際のボールペンチップの部分拡大断面図である。
【0015】
すなわち本発明者らは、図9(a)の様にボール収納室103の後端側の開口131を大きくして開口端部132でボールを保持する構成や、同(b)の様に座打ちを大きくして筆記用ボール102とチップ本体100との接触面積を増大させてボールを安定化する構造を試作したが、いずれも筆記用ボール102の回転が悪くなる弊害が有り、好ましい結果は得られなかった。この理由について検討したところ、前者の様にボール収納室103の後端側の開口131を大きくして開口端部132でボール102を保持する構成とすると、筆記用ボール102が開口端部132のエッジ部分に引っ掛かるためであった。また後者の座打ちを大きくする構成では、筆記用ボール102とボール収納室103の座面105との接触面積が大きくなって両者の摺動抵抗が増大するためであった。
【0016】
そこで本発明者らは、この失敗を踏まえ、次の対策として、ボール収納室の座面の傾斜角度を変化させたところ、特定の傾斜角度の範囲であれば、筆記用ボールが安定し、且つ当該ボールの回転も円滑であることが分かった。
【0017】
上記した知見に基づいて完成した請求項1に記載の発明は、水性インキが収納されたインキ収納部と、当該インキ収納部に接続され筆記用ボールが一部露出した状態で回転可能に保持されたボールペンチップを有し、ボールペンチップはインキ収納部と連通するインキ導通孔と、当該インキ導通孔に連通し筆記用ボールが収納されるボール収納室を備え、ボール収納室はボールを保持する錐形の座面を有する水性ボールペンであって、前記座面の開き角度が95°以下であることを特徴とする水性ボールペンである。
【0018】
本発明の水性ボールペンでは、ボール収納室のボールを保持する座面の開き角度が95°以下である。すなわち従来技術においては、ボール収納室のボールを保持する座面の開き角度が120°程度であったが、これを極端に小さなものとした。その結果、筆記用ボールが紙面等から押圧力を受けた時、ボールに生じる横方向分力の内、ボールを移動させようとする方向に働く力が小さくなり、ボールのずれが抑制される。
【0019】
また請求項2に記載の発明は、水性インキが収納されたインキ収納部と、当該インキ収納部に接続され筆記用ボールが一部露出した状態で回転可能に保持されたボールペンチップを有し、ボールペンチップはインキ収納部と連通するインキ導通孔と、当該インキ導通孔に連通し筆記用ボールが収納されるボール収納室を備え、ボール収納室はボールを保持する錐形の座面を有する水性ボールペンであって、前記座面の開き角度が60°以上、95°未満であることを特徴とする水性ボールペンである。
【0020】
本発明の水性ボールペンについても、ボール収納室のボールを保持する座面の開き角度が95°以下であるため、筆記用ボールが紙面等から押圧力を受けた時、ボールに生じる横方向分力が小さく、ボールのずれが抑制される。
また本発明の水性ボールペンでは、座面の開き角度の下限についても規定している。すなわち座面の開き角度が小さいとボールを移動させる分力が小さいものとなるが、当該角度が極端に小さ過ぎると、楔効果によってボールと座面との結合力が増大し、ボールの回転が阻害される。本発明では、座面の開き角度が60°以上であるから、ボールの回転は円滑である。
【0021】
また請求項3に記載の発明は、座面の断面における傾斜は直線的であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水性ボールペンである。
【0022】
本発明の水性ボールペンでは、座面の断面における傾斜は直線的である。要するに本発明で採用するボールペンチップは、座打ち加工を施さず、座面にクレータ状の凹部が無い。そのため筆記用ボールの回転は円滑である。
すなわち請求項1,2に記載の発明は、前記したように従来技術の水性ボールペンに比べて座面の開き角度が小さいから、楔効果によるボールと座面との結合力が大きく、ボールの回転を阻害する要因となる。そこで本発明は、座面の断面における傾斜を直線的なものとしてボールと座面との接触面積を極小とし、ボール回転の円滑性を確保した。
【0023】
また請求項4に記載の発明は、筆記用ボールをボール収納室の中心に配置し、筆記用ボールを座面に当接したとき、筆記用ボールが座面と接触する、経線に相当する位置は、当該経線の径が筆記用ボールの直径の70%以上88%未満に相当する位置であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の水性ボールペンである。
【0024】
本発明の水性ボールペンは、筆記用ボールと座面との接触位置を規定したものである。すなわちボール収納室は、錐形の座面を持ち、当該座面で筆記用ボールを保持するから、座面と筆記用ボールとの接触線は、円環状となる。そのため当該接触線たる円環がボールの赤道に相当する(中心を通る断面で切った場合の円周)長さに近づく程、ボールは安定し、移動やずれが抑制される。その反面、接触線たる円環がボールの赤道に相当する長さに近づく程、ボールの回転が阻害される。
本発明者らの実験によると、筆記用ボールが座面と接触する、経線に相当する位置に注目したとき、当該経線の径が筆記用ボールの直径の70%以上88%未満に相当する位置である場合にボールが安定し、且つその回転も円滑であることが判明した。すなわち前記位置の経線の径がボールの直径の70%未満である場合は、ボールが安定せず、筆記時にずれ動く場合が多い。また前記位置の経線の径がボールの直径の88%を越える場合は、ボールの回転が円滑でなくなる。
【0025】
また請求項5に記載の発明は、筆記用ボールをボール収納室の中心に配置し、筆記用ボールを座面に当接した状態において、筆記用ボールの露出端側に形成されるボール収納室の開口直径Wは、当該部分における筆記用ボールの弦の長さw(横断面の直径)に対して0.015mm以上大きいことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の水性ボールペンである。
【0026】
本発明の水性ボールペンでは、筆記用ボールの露出端における筆記用ボールとボール収納室との隙間が大きいので、水性インキの流出が円滑である。
【0027】
また請求項6に記載の発明は、筆記用ボールのボール直径は0.5mm以上であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の水性ボールペンである。
【0028】
また請求項7に記載の発明は、筆記用ボールのボール直径は0.8mm以上であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の水性ボールペンである。
【0029】
前記した様な筆記用ボールが移動するという問題は、ボールの直径が大きいほど顕著である。特に上記した問題点は、筆記用ボールのボール直径は0.8mm以上である場合に頻発する傾向にある。本発明は、請求項1乃至6に記載の発明を直径が0.8mm以上の筆記用ボールを持つ水性ボールペンに適用したものである。
【0030】
また請求項8に記載の発明は、チップ本体と筆記用ボールによって構成され、ボールペンの先端に設けられるボールペンチップにおいて、チップ本体には後端部と連通するインキ導通孔と、当該インキ導通孔に連通し筆記用ボールが収納されるボール収納室を備え、ボール収納室はボールを保持する錐形の座面を有し、前記座面の開き角度が60°以上、95°未満であり、筆記用ボールを座面に当接したとき、筆記用ボールが座面と接触する経線に相当する位置は、当該経線の径が筆記用ボールの直径の70%以上88%未満に相当する位置であることを特徴とするボールペンチップである。
【0031】
本発明のボールペンチップでは、筆記用ボールは移動すること無く安定し、且つ筆記用ボールの回転も円滑である。そのため本発明のボールペンチップを使用するとインキのぼたつきやかすれが少ない。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下さらに本発明の実施形態の水性ボールペンについて説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る水性ボールペンの断面図である。図2は、図1の水性ボールペンのボールペンチップの部分断面斜視図である。図3は、図1の水性ボールペンを使用して筆記を行う際のボールペンチップの部分拡大断面図である。図4は、本発明の他の実施形態に係る水性ボールペンのボールペンチップの部分拡大断面図である。図5は、図1に示す水性ボールペンと従来技術の水性ボールペンの筆記試験結果を示す筆記図である。
【0033】
図1に示した本発明の実施形態のボールペン1は、筒状の本体軸2と、インキ芯3とを備えている。また、インキ芯3は、筆記用ボール10が回転可能に保持されたボールペンチップ5を有し、該チップ5が、接続部材6を介してインキ収納管(インキ収納部)7の先端に取付けられたものである。継手部材6内部には球状の弁体8が設けられている。
【0034】
上記ボールペンチップ5は、チップ本体11と筆記用ボール10によって構成され、チップ本体11の先端に筆記用ボール10が設けられたものである。チップ本体11は、快削鋼等の金属材料を切削加工して作られている。チップ本体11の材料は、他に例えば快削ステンレス鋼(Free Cutting Stainless Steel)や真鍮を用いることが可能である。
チップ本体11の外形形状は、先端部分17が円錐形をしており、後側18は円柱状をしている。また後端側の部位には段差19が設けられており、段差19よりも更に後端側はやや小径に作られている。
ボールペンチップの内部の概略形状は、先端部分に筆記用ボール10が収納されるボール収納室40を持ち、ボール収納室40から後端側に連通するインキ導通孔12が設けられたものである。
【0035】
インキ導通孔12の後端開口の近傍部分に弁受けが形成されている。
チップ本体11のボール収納室40には、筆記用ボール10が回転可能に収納されているが、ボール収納室40部分の詳細は図2,3の通りである。すなわちボール収納室40は、端部が開放された凹形状であり、円筒壁41を持つ。また開放端は、ややかしめられていて窄んでいる。
【0036】
ボール収納室40の開放側に対向する部位には、座面45が設けられている。座面45は、60°〜95°の開き角度θ(図3)を持つ円錐面であり、中央の孔46に収斂し、インキ導通孔12と連通している。
座面45の開き角度は、重要な意味を持ち、前記した様に60°〜95°であることが必要である。またより好ましくは、85〜95°であり、さらに好ましい範囲は、88°〜92°である。図3は、最も望ましい構成として座面45の開き角度θが90°の例を図示し、図4は開き角度θの下限たる60°の例を示すものである。
【0037】
ボール収納室40の中央の孔46は、筆記用ボール10のボール径の約1/2であり、具体的には0.3mm〜0.6mm程度である。
また座面45の座面には十字の放射状に延びる溝49が設けられている。前記した溝49は矢溝と称されるものである。
【0038】
本実施形態で採用するボールペンチップでは、座面45に座打ちの跡がなく、座面45の断面における傾斜は直線的である。
【0039】
筆記用ボール10は、直径が0.5〜2.0mm程度の球であるが、本実施形態のボールペンは、後記する様に顔料を含む水性インキが使用されるので、ボール10の直径は0.8〜2.0mmであることが望ましい。
また筆記用ボール10の素材には特に限定がなく、ステンレススチールやアルミナ焼結体、ジルコニア、SiC、WCその他公知のものが使用できる。
【0040】
そして筆記用ボール10は、ボールペンチップのボール収納室40内に回転可能に保持され、その一部がボール収納室40の開口から露出している。
【0041】
筆記用ボール10の直径dとボール収納室40の円筒壁41の内径Dとの関係は、円筒壁41の内径Dがボール10の直径dに比べて0.01mm〜0.1mm大きい。すなわち筆記用ボール10を座面45に押し当てた時、筆記用ボール10とボール収納室40の間に0.005〜0.05mmの隙間ができる。
【0042】
また前記した様にボール収納室40の開口部分はかしめられており、筆記用ボール10の赤道から露出側の部位であってボール収納室40内にある部分は、どの部分においても0.005mm〜0.05mm程度の隙間が確保されている。筆記用ボール10をボール収納室40の中心に配置し、筆記用ボール10を座面45に当接したとき、筆記用ボール10の露出端に環状の隙間47が生じる。そして当該隙間の隙間幅は0.005mm〜0.05mmである。すなわち筆記用ボール10とチップ本体11の開口部との間に形成される隙間47は0.005mm〜0.05mm程度である。
言い換えると、図3の様に、筆記用ボール10を座面45に当接した状態を想定した時、チップ本体11の開口直径W(ボール収納室40の露出端側に形成されるボール収納室の開口直径)は、当該部分における筆記用ボール10の弦の長さw(横断面の直径)に対して0.01mm〜0.1mm大きい。
【0043】
この様に、開口隙間47の幅は、前記した筆記用ボール10とボール収納室40間の隙間と同様の幅であり、片側幅が0.005mm〜0.05mm程度であり、より好ましくは0.007mm〜0.025mmである。
なお当該隙間47が0.007mm以上の様に比較的大きい場合に、本発明の作用効果が顕著である。
すなわち筆記用ボール10をボール収納室45の中心に配置し、筆記用ボール10を座面45に当接した状態において、筆記用ボール10の露出端側に形成されるボール収納室の開口直径Wが、当該部分における筆記用ボール10の弦の長さw(横断面の直径)に対して0.015mm以上大きい場合に本発明の作用効果が顕著である(請求項5)。
【0044】
また筆記用ボール10と座面45との関係は、線接触状態である。すなわち本実施形態では、座打ち加工を行わず、座打ちによるクレータ状の凹変は無い。したがって座面45の断面を見ると傾斜は直線である。本実施形態では、座面45の断面における傾斜が直線状であり、これに断面形状が円たる筆記用ボール10が接するので、両者の接点は点となり、当該点が円環状に広がるから、筆記用ボール10と座面45との接触は線接触となる。
また筆記用ボール10が座面45と接する位置は、筆記用ボール10の径の70%以上88%未満の径に相当する位置である。
図3の断面図を参照して説明すると、筆記用ボール10が座面45と接する点同士を結ぶ直線(線分B−C)は、筆記用ボール10の直径dの70%〜88%の範囲に入る。より望ましくは、70%から73%の範囲に入る。
すなわち本実施形態では、筆記用ボールをボール収納室40の中心に配置し、筆記用ボール10を座面45に当接したとき、筆記用ボール10が座面45と接触する、経線に相当する位置は、当該経線の径が筆記用ボールの直径の70%以上88%未満に相当する位置である。
【0045】
接続部材6は、ポリプロピレン樹脂等の熱可塑性樹脂を素材とする射出成形によって作られたものであり、外形形状は公知のものと大差無い。すなわち、接続部材6は先端部20が円錐形をしている。また後端側は二段の円筒形状になっており、大径部21と小径部22が順次設けられている。接続部材6の中心には、軸方向に貫通する連通孔23が設けられている。この連通孔23の中間部分には弁座25が設けられている。連通孔23の先端側には位置決め用の段差31が設けられている。
【0046】
弁体8は、ステンレススチールや超硬合金或いはセラミックス等の錆びにくく、且つ、ある程度の重量を有する素材で作られた球である。
【0047】
インキ収納管(インキ収納部)7は、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等を素材として押出成形によって作られたものであり、水性インキ30が充填されている。水性インキ30の着色剤は、染料であっても顔料であってもよいが、着色剤に顔料を使用している場合の方が、染料を使用した場合に比べて筆記用ボール10とボール収納室40間の隙間が大きい傾向にあるから、本発明は着色剤として顔料を使用する場合により好適であると言える。
また水性インキ30としてガラスフレーク顔料を含有する光輝性の水性インキ30を採用することもできる。
本実施形態で用いた水性インキ30の粘度は1000〜10000mPa・sである(株式会社トキメック製ELD型粘度計 3°R14コーン、回転数:0.5rpm、20℃)。水性インキ30の後端部分は、ポリブテン等のゲル状封止剤(図示せず)により封止されている。
【0048】
インキ芯3は、図1に示すように、ボールペンチップ5とインキ収納管7が接続部材6を介して繋がれたものであり、ボールペンチップ5は、接続部材6の連通孔23の先端側に内挿され、インキ収納管7は接続部材6の後端部の小径部22に外装されている。そして、接続部材6内であって、ボールペンチップ5の弁受け15と、弁座25の間に、弁体8が軸方向に移動可能に挿入されている。本実施形態のボールペン1は、上記したインキ芯3の接続部材6の大径部21に本体軸2が外装されたものである。
【0049】
本実施形態のボールペン1を用いて文字等を筆記するとき、水性インキ30は、インキ収納管7からボールペンチップ5のボール収納室40に入り、筆記用ボール10を介して紙等に塗布される。ここで本実施形態のボールペン1では、ボール収納室40の座面45の開口角度が90°程度であり小さいので、筆記用ボール10が座面45から離れない。
【0050】
この原理を図3を参照しつつ説明する。図3は、本実施形態の水性ボールペンを65°の傾斜角度で紙面に押しつけた状態を示している。
この様に水性ボールペンを紙面に押しつけると、筆記用ボール10は紙面から力Pを受ける。この力Pの方向は、紙面との接触点Aからボール10と座面45の接触点Bに向かう方向である。
【0051】
そして座面45の接触点Bでは、座面45に対して垂直方向の分力N1と、座面に対して平行な分力N2に分けられる。ここで図3に示す実施形態では、座面45に対して平行な分力N2は、インキ導通孔12の方向に向かう。すなわち筆記用ボール10には、中心方向に向かう力が働く。したがって筆圧によって筆記用ボール10は、中心方向に向かう様に押圧されるので、本実施形態では、筆記の際に筆記用ボール10がずれない。
【0052】
水性ボールペン1は、ボールペンチップ5から突出した筆記用ボール10によって筆記するものであるから、筆記の際の傾斜角度には下限があり、45°程度が通常に筆記可能な限界である。これに対して本実施形態では、座面45の開き角度θが90°であるから、45°以上の筆記角度である場合は、座面45に対して平行な分力N2は、インキ導通孔12の方向に向かうこととなる。
そのため筆記の際に筆記用ボール10の位置が安定し、筆記用ボール10の露出部におけるボールペンチップ5の開口と、筆記用ボール10との隙間が均一化される。すなわち本実施形態の水性ボールペン1では、筆記用ボール10の露出部における開口隙間47は、全周に渡って均一である。
【0053】
その結果、従来技術で発生した様な戻り側のインキが削り取られるという現象が起きず、戻り側におけるインキの堆積が解消される。
また水性ボールペンを90°を越える傾斜角度で筆記しても、筆記用ボール10の露出部におけるボールペンチップ5の開口と、筆記用ボール10との隙間が一定であるから、インキがかすれることもない。
【0054】
座面45の開き角度は、小さければ小さいほどインキ導通孔12の方向に向かう分力N2が増大し、筆記用ボール10は安定するが、座面45の開き角度が小さすぎると、楔効果によって筆記用ボール10を挟む力が増大し、ボール10の円滑な回転が損なわれる。そのため前記した様に、座面の開き角度を、60°未満とすることは望ましくない。
【0055】
図3に示す断面形状を有する水性ボールペンを試作し、連続筆記試験を行ったところ、図5(a)の様にぼたつきのないものであった。これに対して従来技術の水性ボールペン(図8)では、図5(b)の様にぼたつきが生じる。
【0056】
【発明の効果】
以上、説明したように本発明では、ボール収納室の座面の開き角度を95°以下としたため、筆記用ボールが紙面等から押圧力を受けた時、ボールに生じる横方向分力が小さくなり、ボールのずれが抑制される。
そのため本発明のボールペンは、筆記時にチップ本体の開口と筆記用ボールとの隙間が均一化し、インキのぼたつきやかすれが生じないという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る水性ボールペンの断面図である。
【図2】図1の水性ボールペンのボールペンチップの部分断面斜視図である。
【図3】図1の水性ボールペンを使用して筆記を行う際のボールペンチップの部分拡大断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る水性ボールペンのボールペンチップの部分拡大断面図である。
【図5】図1に示す水性ボールペンと従来技術の水性ボールペンの筆記試験結果を示す筆記図である。
【図6】(a)は、従来技術のボールペンチップの先端部分の断面図であり、(b)は、(a)のB−B断面図であり、(c)は(b)の部分拡大図。
【図7】筆記時の水性ボールペンの姿勢例を示す説明図である。
【図8】(a)(b)は、いずれも従来技術の水性ボールペンを使用して筆記を行う際のボールペンチップの部分拡大断面図であり、(a)は水性ボールペンを傾斜して引き書きした場合を示し、(b)は水性ボールペンを傾斜して押し書きした場合を示す。
【図9】試作した水性ボールペンを使用して筆記を行う際のボールペンチップの部分拡大断面図である。
【符号の説明】
1 ボールペン
5 ボールペンチップ
7 インキ収納管(インキ収納部)
10 筆記用ボール
45 座面
θ 座面の開き角度
Claims (8)
- 水性インキが収納されたインキ収納部と、当該インキ収納部に接続され筆記用ボールが一部露出した状態で回転可能に保持されたボールペンチップを有し、ボールペンチップはインキ収納部と連通するインキ導通孔と、当該インキ導通孔に連通し筆記用ボールが収納されるボール収納室を備え、ボール収納室はボールを保持する錐形の座面を有する水性ボールペンであって、前記座面の開き角度が95°以下であることを特徴とする水性ボールペン。
- 水性インキが収納されたインキ収納部と、当該インキ収納部に接続され筆記用ボールが一部露出した状態で回転可能に保持されたボールペンチップを有し、ボールペンチップはインキ収納部と連通するインキ導通孔と、当該インキ導通孔に連通し筆記用ボールが収納されるボール収納室を備え、ボール収納室はボールを保持する錐形の座面を有する水性ボールペンであって、前記座面の開き角度が60°以上、95°未満であることを特徴とする水性ボールペン。
- 座面の断面における傾斜は直線的であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水性ボールペン。
- 筆記用ボールをボール収納室の中心に配置し、筆記用ボールを座面に当接したとき、筆記用ボールが座面と接触する、経線に相当する位置は、当該経線の径が筆記用ボールの直径の70%以上88%未満に相当する位置であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の水性ボールペン。
- 筆記用ボールをボール収納室の中心に配置し、筆記用ボールを座面に当接した状態において、筆記用ボールの露出端側に形成されるボール収納室の開口直径Wは、当該部分における筆記用ボールの弦の長さw(横断面の直径)に対して0.015mm以上大きいことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の水性ボールペン。
- 筆記用ボールのボール直径は0.5mm以上であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の水性ボールペン。
- 筆記用ボールのボール直径は0.8mm以上であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の水性ボールペン。
- チップ本体と筆記用ボールによって構成され、ボールペンの先端に設けられるボールペンチップにおいて、チップ本体には後端部と連通するインキ導通孔と、当該インキ導通孔に連通し筆記用ボールが収納されるボール収納室を備え、ボール収納室はボールを保持する錐形の座面を有し、前記座面の開き角度が60°以上、95°未満であり、筆記用ボールを座面に当接したとき、筆記用ボールが座面と接触する経線に相当する位置は、当該経線の径が筆記用ボールの直径の70%以上88%未満に相当する位置であることを特徴とするボールペンチップ。
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