JP2004009068A - ハイドロフォーム加工性に優れたテーラード鋼管及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】複数の鋼管1、2を周方向の溶接により繋ぎ溶接してハイドロフォーム加工用のテーラード鋼管を製造する際に、周方向の溶接の始終端部を好ましくは中心角θで5°〜25°の範囲にわたりラップさせることによって、溶接部のハイドロフォーム加工性を向上させる。また溶接部に熱処理を施して軟化させる工程を付加することによって、更にハイドロフォーム加工性を向上させることができる。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ハイドロフォーム加工の素材管として用いられるハイドロフォーム加工性に優れたテーラード鋼管及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ハイドロフォーム加工法は、金型内部に素材管を装入して端面に軸押し工具を当て、素材管の内部に高い液圧を加えて素材管を金型内面形状に添わせて塑性変形させる加工法である。この加工法によれば複雑な形状の中空体を単一工程で製造することができる。このようにハイドロフォーム加工法は部品統合性及び部品連結性に優れるため、特に自動車部品に適用することにより自動車の軽量化に資することができる。
【0003】
しかしながら、普通に用いられている鋼管を素材管とした場合には、この軽量化メリットを十分に享受できない場合がある。例えば必要強度の異なる2部分からなる自動車部品を一体に製造しようとする場合などである。このような場合には、肉厚や鋼種を変えたテーラード鋼管を素材管としてハイドロフォーム加工部品とすることが有効であり、これにより強度上の要請を満足しつつ軽量化メリットを享受できるようになると考えられる。
【0004】
テーラード鋼管の製造方法にはさまざまな方法が考えられるが、実用的な方法としては、図3に示すように肉厚や鋼種の異なる鋼管どうしを溶接する方法である。図3の例では左側の鋼管1は肉厚が1mmであり、右側の鋼管2は肉厚が2mmである。これらの鋼管1、2を溶接する場合、溶接長さを可能な限り短くするために、溶接線3は管軸に直交する同一平面上に位置させ、図4のように周方向に溶接するのが普通である。
【0005】
ところが、図3に示したテーラード鋼管をハイドロフォーム加工すると、溶接線3の部分の拡管率をその他の部分と同様に大きく取れないという問題が発生することが判明した。これは、テーラード鋼管製造時の溶接熱履歴により溶接部が硬化することにより溶接部の加工性が低下し、他の部分よりも先に破断限界に達することが原因と考えられる。さらにこの破断部を詳細に調査したところ、破断が発生した起点の多くは、溶接線3の溶接開始、終了部(始終端部)近傍の位置であった。
【0006】
このように、図3のようなテーラード鋼管は特に溶接線3の始終端部の加工性が悪いため、ハイドロフォーム加工時の破断を避けるためには拡管率を小さくする必要があり、所望形状に成形することができなかった。従って従来は、複数の鋼管を周方向の溶接により繋ぎ溶接したテーラード鋼管を素材管としたハイドロフォーム加工は、実用化されていない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記した従来の問題点を解決し、複数の鋼管を周方向の溶接により繋ぎ溶接したテーラード鋼管でありながら、周方向の溶接部の加工性の低下を極力抑えたハイドロフォーム加工性に優れたテーラード鋼管及びその製造方法を提供するためになされたものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、複数の鋼管を周方向に溶接し、繋ぎ溶接したテーラード鋼管であって、上記した周方向の溶接の始終端部を所定距離にわたりラップさせたことを特徴とするものである。なお、上記した周方向の溶接の始終端部を中心角θで5°〜25°の範囲にわたりラップさせることが好ましい。
【0009】
また本発明のハイドロフォーム加工性に優れたテーラード鋼管の製造方法は、複数の鋼管を、始終端部を所定距離にわたりラップさせた周方向の溶接により繋ぎ溶接することを特徴とするものである。なお、溶接部に熱処理を施して軟化させる工程を付加することが好ましく、その熱処理手段としては、レーザ熱源、アーク熱源の何れかとすることが好ましい。以下に本発明の実施形態を示す。
【0010】
【発明の実施の形態】
図1、図2は本発明の実施形態を示す図であり、従来と同様に鋼管1と鋼管2とを溶接線3で示される周方向の溶接により繋ぎ溶接したテーラード鋼管が示されている。鋼管1と鋼管2とは、肉厚や鋼種を変えることが普通であるが、鋼管1、2の種類を変えることは本発明において必須のものではない。このテーラード鋼管はハイドロフォーム加工用の素材管として用いられるものである。
【0011】
図1、図2に示すように、本発明においては周方向の溶接の始終端部を所定距離にわたりラップさせる。そのラップ範囲は、図2に示すように中心角θで5°〜25°の範囲とすることが好ましい。なお周方向の溶接は、実用的にはレーザにより行なわれる。
【0012】
一般に周方向の溶接の始端部は熱的に不安定な領域であり、始端部以外に比して硬化するため加工性が劣化する。さらに熱的に不安定なため、溶接部内部に欠陥が発生し易い。しかし本発明においては、上記のように周方向の溶接の始終端部を所定距離にわたりラップさせることで始端部近傍を2回、加熱、冷却することとなり、溶接始終端部近傍の特性がそれ以外の溶接部と同等となり、溶接部全体を均質化することができる。この結果、ハイドロフォーム加工性に優れたテーラード鋼管を得ることができる。
【0013】
また、図3、図4に示したテーラード鋼管では始端と終端の2ヵ所に溶接特異箇所が存在することとなるが、本発明では上記のように周方向の溶接の始終端部をラップさせることにより、溶接特異箇所を一ヶ所にすることができる。このためこの溶接特異箇所をハイドロフォーム加工の加工工程において、製品断面内の最も加工が容易な位置に配置することが可能となり、加工性の改善を図ることができる。
【0014】
好ましいラップ範囲を中心角θで5°〜25°としたのは、5°未満であると始終端部の溶接部の特性が溶接部のその他の部分と同等にならず、また溶接欠陥が発生し易いためである。逆に25°を越えると溶接時間が長くなり、コストアップを招き経済的でない。
【0015】
以上に説明したように、周方向の溶接の始終端部を所定距離にわたりラップさせることによってハイドロフォーム加工性に優れたテーラード鋼管を得ることができるが、請求項4に示すように溶接部に熱処理を施して軟化させる工程を付加すれば、更にハイドロフォーム加工性を向上させることができる。すなわち、レーザ溶接により硬化した溶接部に再度入熱を施し、溶接部を軟化処理することで溶接部の加工性を向上させることができる。
【0016】
軟化処理は、一度冷却された溶接部にレーザ熱源を再度照射するレーザ焼鈍により行なうことができるが、レーザ熱源の代わりにTIG、プラズマ溶接等のアーク熱源(アーク溶接)を利用してもよい。しかしこれらの方法では2工程となりコスト的な問題が生ずることがある。そのような場合には、レーザ光を2本の出力の異なるレーザ光(ツインビーム)に分光し、1本のレーザ光は溶接用の熱源として使用し、他のレーザ光を軟化処理のための熱源として使用すれば、溶接と軟化処理とを同時に実施することが可能となる。また同様に、レーザ+TIGのトーチ等を使用することにより、アーク熱を用いた場合にも同様に1工程で溶接と軟化処理とを実施することができる。
【0017】
【実施例】
(実施例1…ラップの効果)
440MPa級‐t l.6鋼管同士のレーザ突合せ溶接を実施(YAGレーザ、出力3kW、速度2.5m/min)し、テーラード鋼管を作成した。このときのラップ代角度(以下、ラップ角度と記す)を0〜1、3、5、10、15°とした。この後、テーラード鋼管の鋼管内部に液圧を付与した自由バルジ試験を実施し、テーラード鋼管が破断したときの限界拡管率を測定し、素材管の限界拡管率に対する低下代(α、(%))を算出した。なお、テーラード鋼管の破断はいずれも溶接部近傍で生じていた。ラップ角度と拡管率の低下代αとの関係を表1に示した。ラップを施すことにより限界拡管率の低下代が少なくなり加工性が改善されている。
【0018】
【表1】
【0019】
(実施例2…熱処理の効果)
440MPa級‐tl.6鋼管同士のレーザ突合せ溶接を実施(YAGレーザ、出力3kW、速度2.5m/min)し、テーラード鋼管を作成した。このときのラップ角度を10°とした。この後、溶接部にレーザ光またはプラズマ溶接の熱源を照射して溶接部の熱処理を施した。(熱処理条件;レーザ:2kW、1.0m/min、プラズマ溶接熱源:100A、1.0m/min)
【0020】
この後、テーラード鋼管の内部に液圧を付与した自由バルジ試験を実施し、鋼管が破断したときの限界拡管率を測定し、素材管の限界拡管率に対する低下代(α、(%))を算出した。なお、鋼管の破断はいずれも溶接部近傍で生じていた。表2に熱処理条件と拡管率の低下代αとの関係を示すが、溶接後の熱処理によって溶接部の加工性が改善されているのがわかる。
【0021】
【表2】
【0022】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明によれば周方向の溶接の始終端部を所定距離にわたりラップさせたことによって、周方向の溶接部の加工性の低下を防止したハイドロフォーム加工性に優れたテーラード鋼管を得ることができる。また溶接部に熱処理を施して軟化させる工程を付加することによって、更に拡管率を増加させることができる。このため本発明のテーラード鋼管を素材管としてハイドロフォーム加工を行なうことにより、例えば必要強度の異なる2部分からなる自動車部品を一体に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1の断面図である。
【図3】普通の方法により鋼管どうしを溶接したテーラード鋼管を示す斜視図である。
【図4】図3の断面図である。
【符号の説明】
1 鋼管
2 鋼管
3 溶接線
θ 中心角
Claims (5)
- 複数の鋼管を周方向に溶接し、繋ぎ溶接したテーラード鋼管であって、上記した周方向の溶接の始終端部を所定距離にわたりラップさせたことを特徴とするハイドロフォーム加工性に優れたテーラード鋼管。
- 周方向の溶接の始終端部を中心角θで5°〜25°の範囲にわたりラップさせた請求項1記載のハイドロフォーム加工性に優れたテーラード鋼管。
- 複数の鋼管を、始終端部を所定距離にわたりラップさせた周方向の溶接により繋ぎ溶接することを特徴とするハイドロフォーム加工性に優れたテーラード鋼管の製造方法。
- 溶接部に熱処理を施す工程を付加した請求項3記載のハイドロフォーム加工性に優れたテーラード鋼管の製造方法。
- 溶接部の熱処理手段が、レーザ熱源、アーク熱源の何れかである請求項4記載のハイドロフォーム加工性に優れたテーラード鋼管の製造方法。
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