JP2004006153A - リチウムイオン2次電池用負極 - Google Patents

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Abstract

【課題】充放電サイクル寿命の優れたリチウムイオン2次電池用負極を安価な製造工程で提供する。
【解決手段】質量割合にてAg:0.01%以上0.3%以下を含有し、残部が銅及び不可避不純物とした銅合金箔に、錫メッキしたリチウムイオン2次電池用負極であって、上記メッキにより形成されたメッキ皮膜中にSn−Ag平衡状態図における金属間化合物を形成したことを特徴とする。

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、充放電特性に優れたリチウムイオン2次電池用負極に係り、特に負極の表面に設けられて充放電に際してのリチウムイオンの取込み及び放出を行う負極材及び活物質の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
携帯電話、パソコン等の高機能電子機器の主電源やバックアップ用電源として、銅箔を負極の集電体として用いたリチウムイオン2次電池が使用されている。
【0003】
リチウムイオン2次電池用負極としては、集電体である銅箔に活物質である黒鉛等の炭素系材料を塗布した材料が主に使用されている。リチウムイオン2次電池の負極としては、単位質量当り取り出せるエネルギーが大きいことと、充放電サイクル寿命が優れていることが要求される。前述した黒鉛は、理論エネルギー容量が372mAh/gと低いものの、優れた充放電サイクル寿命を有する。
【0004】
近年、黒鉛などの炭素系材料の代わりに理論エネルギー容量が993mAh/gである錫が着目され、錫ならびに錫合金の研究開発がなされている(例えば特開平6−338325公報、特開平10−144316公報、特開平10−270086公報、特開平11−260362公報、特開2000−173584公報)。
【0005】
しかしながら、上記特許公報に開示された技術では、錫化合物の粉末と他の化合物との粉末を混合する工程、焼結する工程、集電体への塗布工程等の複雑な製造工程が必要とするばかりでなく、充放電サイクル寿命についても充分とはいえなかった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は以上のような事情に鑑みてなされたものであり、充放電サイクル寿命の優れたリチウムイオン2次電池用負極を安価な製造工程で提供することを目的としたものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
錫は単独では炭素材料より理論エネルギー容量を有するが、充放電によるリチウムの出し入れにより約3.6倍もの体積変化が生じ、これにより充放電サイクル寿命が低下することが知られている(特開2000−173584)。また、体積変化に伴う微粉化、脱落を防止するために、Liイオンが優先的に反応する活物質と反応しないマトリックスの相分離や反応しないマトリックスの添加等により、体積膨張を抑制する方法が示唆されている(Electrochimica Acta 45(1999)31−50)。
【0008】
本発明者は錫をベースに充放電における体積膨張による微粉化、脱落防止の観点から鋭意実験を繰返した結果、Cu−Ag合金箔に錫メッキした後に適当な熱処理を行うことにより、メッキにより形成した皮膜中にSnとAgとの金属間化合物を形成し、これによってリチウムイオン2次電池の負極として良好な充放電サイクル寿命を得ることが可能であることを見出した。
【0009】
本発明のリチウムイオン2次電池用負極は上記知見に基づいてなされたもので、銅合金箔に錫メッキしたリチウムイオン2次電池用負極であって、錫メッキで形成されたメッキ皮膜中に、Sn−Agの金属間化合物を形成したことを特徴としている。
【0010】
上記構成のリチウムイオン2次電池用負極にあっては、充放電に伴って活物質である錫メッキ皮膜中へのリチウムイオンの取込み、放出が行われるが、そのような作用に関与するのはメッキ皮膜中の錫のみである。本発明者の検討によれば、銅合金箔中のAgとメッキのSnとが熱処理よって形成されたSn−Agの金属間化合物は錫の膨張した際に膨張を抑制する役割を果たし、充放電サイクル寿命に良好な結果をもたらすことが判明している。また、集電体としての銅合金箔の強度が高いことも膨張の抑制に効果がある。
【0011】
本発明は、メッキ皮膜中にSnと銅合金箔中のAgで金属間化合物相を形成し、この状態で錫が活物質となり化合物相が反応しないマトリックスとなるとの推定に基づき、充放電試験を実施したところ、はるかに寿命が延びることを明らかにして完成されたものである。従って、本発明のリチウムイオン2次電池用負極によれば、錫の体積変化に伴う微粉化、脱落を防止することが出来、充放電サイクル寿命を向上させることができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施の形態を説明する。
上記のような金属間化合物相を得るためには、母材金属に錫メッキを行った後、100−500℃で熱処理を施すことにより、メッキ皮膜中に適量のSn−Agの金属間化合物相を形成することが出来る。メッキ皮膜中の金属間化合物相の割合は、面積比で0.01%以上であることが望ましい。金属間化合物相の割合が0.01%未満の場合には、錫の膨張を抑制する効果が低下し、充放電サイクルの寿命が不充分となる。一方、この金属間化合物相の上限については、後述のようにAgの添加量を0.3質量%以下とするために、それによって決まる面積比が結果的に上限になる。
【0013】
母材金属としては以下のような、高導電性を保ちながら、銅に微量の元素を複数添加し、固溶強化による強度向上を図り、薄箔でのハンドリング性に対応させた銅合金箔が必要である。且つ又、既述の様にSnとの金属間化合物を形成させることを主眼としている。
質量割合にてAg:0.01%以上0.3%以下を含有し、残部が銅及び不可避不純物とした銅合金箔を用いるのは、銅合金箔中のAgがSnとの金属間化合物を形成し、錫の膨張を抑制する効果を得るためである。またAgには、母材中に固溶しこれを強化する作用がある。
その含有量が0.01質量%未満ではSn−Ag化合物の割合が小さく、錫の膨張を抑制する効果がなく、また固溶強化による所望の効果が得られない。一方、Ag含有量が増加すると素材の価格上昇に繋がる。
【0014】
Zn、Mg、Ni、Al、Si、Mn、Feは以下のように作用する。これらの成分は、いずれも合金の導電性を大きく低下させずに主として固溶強化により強度を向上させる作用を有しており、したがって必要により1種または2種以上の添加がなされるが、その含有量が総量で0.005質量%未満であると前記作用による所望の効果が得られず、一方、総量で0.1質量%を超える場合には合金の導電率が著しく低下する。このため、単独添加または2種以上の複合添加がなされるZn、Mg、Ni、Al、Si、Mn、Feの含有量を総量で0.005〜0.1質量%と定めた。
【0015】
ここで、メッキ後に施す熱処理についてその詳細な技術内容を記述する。Sn−Agの金属間化合物を形成させる熱処理温度が100℃を下回ると、金属間化合物相を生成するのに時間がかかり経済的ではない。また、熱処理温度が500℃を超えると、同相が形成される面積比が減少し、これ以上温度を上げても意味がなく、経済的ではない。なお、熱処理時の雰囲気は特に規定されるものではないが、アルゴン、窒素等の非酸化性雰囲気が望ましい。また、熱処理時間については、同相が形成するのに必要な時間で、0.1〜1800分間の間で熱処理温度毎に選定すれば良い。また、熱処理は、量産では銅及び銅合金箔を製造する際に使用する連続焼鈍ラインによるリフロー処理、もしくはバッチ式焼鈍炉による拡散熱処理を利用することができるので、既存の製造ラインで集電体と充放電機能を有するリチウムイオン2次電池の負極とを製造することができる。
【0016】
【実施例】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳しく説明する。
まず、電気銅(Cu)あるいは無酸素銅(Cu)を主原料とし、銀、亜鉛、マグネシウム、ニッケル、アルミニウム、シリコン、マンガン、鉄を副原料とし、高周波溶解炉にて表1に示す各種成分組成の銅合金を真空中またはAr雰囲気中で溶製し、厚さ30mmのインゴットに鋳造した。次に、これらの各インゴットを熱間加工および溶体化処理、1回目の冷間圧延、時効処理、最終の冷間圧延の順に行い、厚さ0.035mmの箔とした。
【0017】
【表1】
Figure 2004006153
【0018】
次に上記銅合金箔に電気メッキする際に必要な通常の前処理を施した後、錫を10μmの厚さで電気メッキした。電気メッキ浴は、錫30g/L、硫酸30g/L、ノニオン系界面活性剤2g/Lとし、2A/dmの電流密度で行った。
【0019】
これらのメッキ材にアルゴンガス雰囲気で表2に示す温度、時間で熱処理を施し、負極材を作成した。充放電寿命は3極式試験セルを用いた充放電試験により評価した。すなわち、作用極には表1に示した負極材を用い、対極及び参照極には金属リチウムを用いた。また、電解液はバッテリーグレードのLiPFを同じくバッテリーグレードのエンチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶媒(体積比1:1)に溶かしたものを使用した。その際のLiPFの濃度は1mol/lとした。
【0020】
加熱後のメッキ層において、X線回折を用いて、Sn−Ag化合物相、Sn相、Cu相を確認した。化合物相の面積割合は、加熱後のメッキ層表面に1mmの面積についてX線マイクロアナライザー分析を行い、その組成像(COMPO)を画像解析することにより測定を行った。
【0021】
充放電寿命は、充電(0.5mA/cm、60分間)→休止(15分間)→放電(0.5mA/cm、カットオフ電圧+1Vvs.Li/Li+)→休止(15分間)を1サイクルとし、これを100サイクルまで繰り返し、1サイクル目と100サイクル目の放電容量を測定、比較することにより、評価した。なお、放電容量は負極の錫メッキ皮膜1g当りに換算して算出した。
【0022】
【表2】
Figure 2004006153
【0023】
表2からわかるように、本実施例1〜10では、銅合金箔の強度並びに導電率も十分に高いレベルである。また100サイクルまでの充放電試験による放電容量の低下が少なく、また、100サイクル後も従来の炭素負極の理論容量(372mAh/g)より大きな放電容量を示した。
【0024】
これに対し比較例11では、銀の添加量が0.01%以下であるため強度が低く、また100サイクル後の放電容量が少なかった。比較例13では副成分の添加量が多いため導電率が低いことが分かる。比較例12は銀の添加量が多く、且つ副成分が請求範囲より多いため強度は高いものの導電率は低い。また銀の添加量が0.3%より多い場合、価格が高くなり、経済的ではない。
【0025】
さらに比較例14ではSn−Agの金属間化合物の形成には充分な組成でも熱処理温度が低すぎる為にSn−Agの金属間化合物相の面積比が0.01%未満となり、100サイクル後の放電容量は少ない。比較例15では同様に組成的にはSn−Agの金属間化合物の形成には充分な組成でも熱処理時間が少ない為にSn−Agの金属間化合物相の面積比が0.01%未満となり、1サイクル後の放電容量は比較的大きいものの100サイクル後の低下が著しかった。また、副成分の添加量が0.005質量%未満のため、比較例15の引張強さは発明例9より低かった。
【0026】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように、本発明によれば、リチウムイオン2次電池の負極に好適な、充放電サイクル寿命に優れた銅及び銅合金箔を安価な製造工程で提供できる。

Claims (5)

  1. 質量割合にてAg:0.01%以上0.3%以下を含有し、残部が銅及び不可避不純物とした銅合金箔に、錫メッキしたリチウムイオン2次電池用負極であって、上記メッキにより形成されたメッキ皮膜中にSn−Ag平衡状態図における金属間化合物を形成したことを特徴とするリチウムイオン2次電池用負極。
  2. 質量割合にてAg:0.01%以上0.3%以下を含有し、更にZn、Mg、Ni、Al、Si、Mn、Feの1種以上を総量で0.005%以上0.1%以下も含有させ、残部が銅及び不可避不純物とした銅合金箔に、錫メッキしたリチウムイオン2次電池用負極であって、上記メッキにより形成されたメッキ皮膜中にSn−Ag平衡状態図における金属間化合物を形成したことを特徴とするリチウムイオン2次電池用負極。
  3. 形成されたSn−Ag金属間化合物のメッキ皮膜中の割合が面積比で0.01%以上であることを特徴とする請求項1或いは請求項2に記載のリチウムイオン2次電池用負極。
  4. 質量割合にてAg:0.01%以上0.3%以下を含有し、残部が銅及び不可避不純物としたリチウムイオン2次電池の負極集電体用銅合金箔。
  5. 質量割合にてAg:0.01%以上0.3%以下を含有し、更にZn、Mg、Ni、Al、Si、Mn、Feの1種以上を総量で0.005%以上0.1%以下も含有させ、残部が銅及び不可避不純物としたリチウムイオン2次電池の負極集電体用銅合金箔。
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