JP2004001550A - インクジェット式記録ヘッド - Google Patents
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Abstract
【課題】高解像度化に対応できるインクジェット記録ヘッドを提供する。
【解決手段】本インクジェット式記録ヘッドの製造方法は、(A)光透過性を備えた基台(10)に、光の照射により剥離を生ずる剥離層(11)を形成する工程、(B)剥離層(11)の上に、共通電極膜(3)を形成する工程、(C)共通電極膜(3)上に、圧電体素子(4)を複数形成する工程、(D)1以上の圧電体素子(4)を内部に納める蓋状構造を備え、その内部がインクのリザーバ(51)を形成するリザーバ部材(5)を形成する工程、(E)基台(10)側から剥離層(11)に所定の光を照射することによって、剥離層(11)に剥離を生じさせ、基台(10)を剥離する工程、(F)基台が剥離された共通電極膜(3)に、圧力室(21)が複数設けられた圧力室基板(2)を、各圧力室(21)を密閉するように貼り合わせる工程、を備える。
圧電体素子形成と別工程で薄い圧力室基板を製造し、最後にそれらを貼り合わせることができるので、高解像度に対応したヘッドを製造できる。
【選択図】 図4
【解決手段】本インクジェット式記録ヘッドの製造方法は、(A)光透過性を備えた基台(10)に、光の照射により剥離を生ずる剥離層(11)を形成する工程、(B)剥離層(11)の上に、共通電極膜(3)を形成する工程、(C)共通電極膜(3)上に、圧電体素子(4)を複数形成する工程、(D)1以上の圧電体素子(4)を内部に納める蓋状構造を備え、その内部がインクのリザーバ(51)を形成するリザーバ部材(5)を形成する工程、(E)基台(10)側から剥離層(11)に所定の光を照射することによって、剥離層(11)に剥離を生じさせ、基台(10)を剥離する工程、(F)基台が剥離された共通電極膜(3)に、圧力室(21)が複数設けられた圧力室基板(2)を、各圧力室(21)を密閉するように貼り合わせる工程、を備える。
圧電体素子形成と別工程で薄い圧力室基板を製造し、最後にそれらを貼り合わせることができるので、高解像度に対応したヘッドを製造できる。
【選択図】 図4
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクジェット式記録ヘッドの改良に関する。特に、従来より薄い圧力室基板を用いても製造上の歩留まりを悪化させない製造方法を提供することにより、高解像度化に対応可能なインクジェット式記録ヘッドを提供するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来のインクジェット式記録ヘッドは、圧力室基板と、圧力室基板の一面に貼り付けられるノズル板と、圧力室基板の他方の面に設けられる振動板と、を備えていた。圧力室基板は、シリコンウェハに、インクを溜める圧力室を複数形成して構成され、各圧力室(キャビティ)に対応してノズル穴が配置されるようにノズル板が貼り付けられていた。振動板の圧力室の反対面には圧電体素子が形成されていた。この構成において、圧力室にインクを充填し、圧電体素子に電圧を印加すると、圧電体が体積変化を生じ、圧力室に体積変化を生じさせる。この圧力変化によりノズル穴からインクが吐出されるのである。従来の技術では、シリコンウェハの厚みと圧力室の高さは略同じに設定されていた
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、近年、インクジェット式記録ヘッドに対する高解像度化の要請が高まっている。インクジェット式記録ヘッドを高解像度化するためには、圧力室の幅、高さ、および圧力室の間を仕切る側壁の幅を小さくする必要がある。
【0004】
しかしながら、現在使用可能なシリコンウェハの厚みは200μm程度でありこの厚みに圧力室を仕切る側壁の高さが限られていた。シリコンウェハの厚みをこれより薄くすると、シリコンウェハの機械的強度が保てなくなって、圧力室の形成プロセスにおいてシリコンウェハの破損等を招く等、取り扱い上問題があった。
【0005】
このため厚みの薄い圧力室基板を圧電体素子とは別に形成し、圧電体素子の形成には別の基台を用い、最後に圧力室基板と圧電体素子とを貼り合わせることが考えられる。このようにすれば圧力室基板を圧電体素子の形成のために多工程に流す必要がなくなって、薄い圧力室基板を用いる弊害を除去できるからである。ところが、圧電体素子の高さは、わずかに数μmであるため、圧電体素子の形成後に、圧電体素子に影響を与えることなく、圧電体素子を基台から剥離することが困難である。
【0006】
上記問題点に鑑み、本発明の第1の課題は、厚みの薄い圧力室基板を備えることにより、高解像度化に対応したインクジェット記録ヘッドを提供することである。
【0007】
本発明の第2の課題は、厚みの薄い圧力室基板を圧電体素子とは別工程で形成させることにより、製造上の歩留まりを向上させ、もって低コスト化が図ることのできるインクジェット式記録ヘッドの製造方法を提供することである。
【0008】
本発明の第3の課題は、圧力室基板とは別工程で形成された圧電体素子を基台から確実に剥離させることにより、製造上の歩留まりを向上させ、もって低コスト化を図ることのできるインクジェット式記録ヘッドの製造方法を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記第1の課題を解決する発明は、圧電体素子に電圧を印加することによりインクを吐出可能に構成されたインクジェット式記録ヘッドにおいて、
(a) インクを吐出可能なノズルを有する圧力室を、各ノズルが同一方向に開口するよう形成して構成された圧力室基板と、
(b) ノズルが設けられた面と異なる圧力室基板の一面に、各圧力室を密封するように形成された共通電極膜と、
(c) 共通電極膜上の各圧力室に対応する位置に各々形成された、圧電体薄膜および上電極を含む圧電体素子と、
(d) 1以上の圧電体素子を内部に納める蓋状構造を備え、その内部がインクのリザーバを形成するリザーバ部材と、を備えて構成される。
【0010】
本発明のインクジェット式記録ヘッドは、ノズルと圧力室とが同一部材により一体成形されて構成される。
【0011】
上記第2および第3の課題を解決する発明は、圧電体素子に電圧を印加して体積変化を生じさせることによって圧力室に設けられたノズルからインクを吐出可能に構成されたインクジェット式記録ヘッドの製造方法であって、
(a) 光透過性を備えた基台に、光の照射により剥離を生ずる剥離層を形成する剥離層形成工程と、
(b) 剥離層の上に、共通電極膜を形成する共通電極膜形成工程と、
(c) 共通電極膜上に、圧電体素子を複数形成する圧電体素子形成工程と、
(d) 1以上の圧電体素子を内部に納める蓋状構造を備え、その内部がインクのリザーバを形成するリザーバ部材を形成するリザーバ形成工程と、
(e) 基台側から剥離層に所定の光を照射することによって、剥離層に剥離を生じさせ、当該基台を剥離する剥離工程と、
(f) 基台が剥離された共通電極膜に、圧力室が複数設けられた圧力室基板を、各圧力室を密閉するように貼り合わせる貼り合わせ工程と、を備えて構成される。
【0012】
上記第2および第3の課題を解決する発明は、圧電体素子に電圧を印加して体積変化を生じさせることによって圧力室に設けられたノズルからインクを吐出可能に構成されたインクジェット式記録ヘッドの製造方法であって、
(a) 光透過性を備えた第1の基台に、光の照射により剥離を生ずる剥離層を形成する剥離層形成工程と、
(b) 剥離層の上に、共通電極膜を形成する共通電極膜形成工程と、
(c) 共通電極膜上に、圧電体素子を複数形成する圧電体素子形成工程と、
(d) 圧電体素子を形成した面に、接着層を介して第2の基台を接着する接着工程と、
(e) 第1の基台側から剥離層に所定の光を照射することによって、剥離層に剥離を生じさせ、当該第1の基台を剥離する第1剥離工程と、
(f) 第1の基台が剥離された共通電極膜に、圧力室が複数設けられた圧力室基板を、各圧力室を密閉するように貼り合わせる貼り合わせ工程と、
(g) 第2の基台を剥離する第2剥離工程と、を備えて構成される。
【0013】
本発明は、剥離層と共通電極膜との間にさらに中間層を形成する中間層形成工程を備える。
【0014】
本発明によれば、圧電体素子形成工程は、共通電極膜に圧電体層を積層する工程と、圧電体層に上電極膜を形成する工程と、積層された圧電体層と上電極膜をエッチングして圧電体素子を形成する工程と、を備える。
【0015】
本発明によれば、剥離層を、非晶質シリコン、酸化物セラミックス、窒化物セラミックス、有機高分子材料または金属のうちいずれかの材料を用いて形成する。
【0016】
本発明によれば、圧力室基板は、鋳型に樹脂層を形成する工程と、樹脂層を鋳型から剥離する工程と、樹脂層にノズルに相当する穴を設ける工程と、により製造される。
【0017】
本発明によれば、第2剥離工程は、圧電体素子および共通電極膜と、接着層との界面において剥離を生じさせる。
【0018】
本発明によれば、第2剥離工程は、接着層内に剥離を生じさせる。
【0019】
本発明によれば、接着層は、エネルギーの付与により硬化可能な物質を含んで構成される。
【0020】
本発明によれば、接着層は、熱可塑性樹脂により構成される。
【0021】
本発明によれば、接着層と第2の基台との間に中間層を形成する中間層形成工程をさらに備える。
【0022】
本発明によれば、中間層は、Ni、Cr、Ti、Al、Cu、Ag、Au、Ptの中から選ばれる一種以上の金属を含んで構成され、第2剥離工程において、中間層と接着層との界面において剥離を生じさせる。
【0023】
本発明によれば、中間層は、多孔質シリコンまたは陽極酸化膜のいずれかによって構成され、第2剥離工程において、当該中間層内または当該中間層と第2の基台との界面において剥離を生じさせる。
【0024】
本発明によれば、中間層は、非晶質シリコン、酸化物セラミックス、窒化物セラミックス、有機高分子材料または金属のうちいずれかの材料を用いて形成され、第2剥離工程において、第2の基台側から中間層に所定の光を照射する事によって、当該中間層に剥離を生じさせる。
【0025】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の好適な実施の形態を、図面を参照して説明する。
<実施形態1>
本実施形態1は、基台に圧電体素子を形成し、その上にリザーバ部材を形成後、圧電体素子を基台から剥離し、別途製造した一体型の圧力室基板と貼り合わせるインクジェット式記録ヘッドの製造方法に関する。
【0026】
(インクジェット式記録ヘッドの構成)
図1に、本実施形態の製造方法で製造されるインクジェット式記録ヘッドが内蔵されるインクジェットプリンタの斜視図を示す。同図に示すように、本実施形態のインクジェットプリンタ100は、本発明のインクジェット式記録ヘッド101、トレイ103等を本体102に備えて構成されている。用紙105は、トレイ103に載置される。図示しないコンピュータから印字用データが供給されると、図示しない内部ローラが用紙105を本体102に取り入れる。インクジェット式記録ヘッド101は、用紙105がローラの近傍を通過するとき、同図矢印方向に駆動され、印字が行われる。印字後の用紙105は排出口104から排出される。
【0027】
図2に、上記インクジェット式記録ヘッドの主要部の斜視図を示す。理解を容易にするため、一部断面図を示す。ここでは構造の概要を説明することとし、詳しい製造方法は後述する。同図に示すように、インクジェット式記録ヘッドの主要部は、一体成形された圧力室基板2に、圧電体素子4が形成された共通電極膜3を貼り合わせて構成されている。なお、同図では共通電極膜を覆って形成されるリザーバ部材5(図3参照)の図示を省略してある。
【0028】
圧力室基板2は、シリコン単結晶基板等をエッチングすることにより、各々が圧力室として機能するキャビティ21が複数設けられる。各キャビティ21の間は側壁22で分離される。各キャビティ21は、供給口24を介して共通流路23に繋がっている。キャビティ21を仕切る一方の面には、ノズル25が設けられている。共通電極膜3は、例えばプラチナ等により構成され、共通電極膜3上のキャビティ21に相当する位置には、圧電体素子4が形成されている。共通電極膜3のうち、共通流路23に相当する一部に、インクタンク口33が設けられている。
【0029】
圧電素子4は、例えばPZT等により形成された圧電体薄膜と上電極とを積層して構成されている。
【0030】
さらに、図示しない駆動回路の出力端子と各圧電体素子4の上電極を結線し、駆動回路のアース端子と共通電極膜3とを結線して構成されている。
【0031】
上記インクジェット式記録ヘッドの構成において、駆動回路を駆動して圧電体素子4に所定の電圧を印加すれば、圧電体素子4に体積変化が生じ、キャビティ21内のインクの圧力が高まる。インクの圧力が高まると、ノズル25からインク敵が吐出する。
【0032】
(インクジェット式記録ヘッドの製造方法)
図3乃至図5を参照して本発明のインクジェット式記録ヘッドの製造方法を説明する。これらの図は、キャビティの幅方向に切断した様子を示した、インクジェット式記録ヘッドの製造工程断面図である。
【0033】
[剥離層形成工程(図3(A))]:
剥離層形成工程では、圧電体素子を形成するための仮の基板である第1基台10に、圧電体素子および共通電極膜を剥離させる剥離層11を形成する。
【0034】
(第1基台)
第1基台10としては、照射光が透過しうる光透過性を有するものであって、圧電体素子の形成プロセスに使用しうる耐熱性および耐食性を備えるものであればよい。照射光の透過率は、10%以上であることがことましく、50%以上であることがより好ましい。透過率が低すぎると照射光の減衰が大きくなり、剥離層を剥離させるのにより大きなエネルギーを要するからである。
【0035】
耐熱性については、形成プロセスによって、例えば400℃〜900℃以上となることがあるため、これらの温度に耐えられる性質を備えていることが好ましい。基台が耐熱性に優れていれば、圧電体素子の形成条件において、温度設定が自由に行えるからである。
【0036】
基台は、被転写層である圧電体素子形成時の最高温度をTmaxとしたとき、歪点がTmax以上の材料の構成されていることが好ましい。具体的には、歪点が350℃以上であることが好ましく、500℃以上であることがさらに好ましい。このような材料としては、例えば、石英ガラス、ソーダガラス、コーニング7059、日本電気ガラスOA―2等の耐熱性ガラスがある。特に、石英ガラスは、耐熱性に優れいるので好ましい。その歪点は、通常のガラスが400℃〜600℃であるのに対し、1000℃である。
【0037】
基台の厚さには、大きな制限要素はないが、0.1mm〜0.5mm程度であることが好ましく、0.5mm〜1.5mmであることがより好ましい。基板の厚みが薄すぎると強度の低下を招き、逆に厚すぎると、基台の透過率が低い場合に照射光の減衰を招くからである。ただし、基台の照射光の透過率が高い場合には、前記上限値を超えてその厚みを厚くすることができる。
【0038】
また、照射光を均等に剥離層に届かせるために、基台の厚みは均一であることが好ましい。
【0039】
(剥離層)
剥離層11は、レーザ光等の照射光により当該層内や界面において剥離(「層内剥離」または「界面剥離」ともいう)を生じさせるための層である。すなわち、剥離層内では、一定の強度の光が照射されることにより、構成物質を構成する原子または分子における原子間または分子間の結合力が消失しまたは減少し、アブレーション(ablation)等を生じ、剥離を起こす。また、照射光の照射により、剥離層から気体が放出され、剥離に至る場合もある。剥離層に含有されていた成分が気体となって放出され剥離に至る場合と、剥離層が光を吸収して気体になり、その蒸気が放出されて剥離に至る場合とがある。
【0040】
このような剥離層の組成としては、以下が考えられる。
1) 非晶質シリコン(a−Si)
この非晶質シリコン中には、H(水素)が含有されていてもよい。水素の含有量は、2at%程度以上であることが好ましく、2〜20at%であることがさらに好ましい。水素が含有されていると、光の照射により水素が放出されることにより剥離層に内圧が発生し、これが剥離を促進するからである。水素の含有量は、成膜条件によって調整する。例えば、CVD法を用いる場合には、そのガス組成、ガス圧力、ガス雰囲気、ガス流量、ガス温度、基板温度、投入する光のパワー等の条件を適宜設定することによって調整する。
2) 酸化ケイ素若しくはケイ酸化合物、酸化チタン若しくはチタン酸化合物、酸化ジルコニウム若しくはジルコン酸化合物、酸化ランタン若しくはランタン酸化合物等の各種酸化物セラミックス、または誘電体あるいは半導体
酸化ケイ素としては、SiO、SiO2、Si3O2が挙げられる。珪酸化合物としては、例えばK2Si3、Li2SiO3、CaSiO3、ZrSiO4、Na2SO3が挙げられる。
酸化チタンとしては、TiO、Ti2O3、TiO2が挙げられる。チタン酸化合物としては、例えばBaTiO4、BaTiO3、Ba2Ti9O20、BaTi5O11、CaTiO3、SrTiO3、PbTi3,MgTiO3、ZrTi2,SnTiO4,Al2Ti5,FeTiO3が挙げられる。
酸化ジルコニウムとしては、ZrO2が挙げられる。ジルコン酸化合物としては、例えば、BaZrO3、ZrSiO4、PbZrO3、MgZrO3、K2ZrO3が挙げられる。
3) 窒化ケイ素、窒化アルミ、窒化チタン等の窒化物セラミックス
4) 有機高分子材料
有機高分子材料としては、―CH2−、−CO−(ケトン)、−CONH−(アド)、−NH−(イミド)、−COO−(エステル)、−N=N−(アゾ)、−CH=N−(シフ)等の結合(光の照射によりこれらの原子間結合が切断される)を有するもの、特に、これらの結合を多く有するものであれば、他の組成であってもよい。
また、有機高分子材料は、構成式中に、芳香族炭化水素(1または2以上のベンゼン環またはその縮合環)を有するものであってもよい。このような有機高分子材料の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルスルホン(PES)、エポキシ樹脂等が挙げられる。
5) 金属
金属としては、例えば、Al、Li、Ti、Mn,In,Sn,Y,La,Ce,Nd,Pr,Gd若しくはSm、またはこれらのうち少なくとも一種を含む合金が挙げられる。
【0041】
(剥離層の厚み)
剥離層の厚さとしては、通常1nm〜20μm程度であるのが好ましく、10nm〜2μm程度であるのがより好ましく、40nm〜1μm程度であるのがさらに好ましい。剥離層の厚みが薄すぎると、形成された膜厚の均一性が失われて剥離にむらが生ずるからであり、剥離層の厚みが厚すぎると、剥離に必要とされる照射光のパワー(光量)を大きくする必要があったり、また、剥離後に残された剥離層の残渣を除去するのに時間を要したりするからである。
【0042】
(形成方法)
剥離層の形成方法は、均一な厚みで剥離層を形成可能な方法であればよく、剥離層の組成や厚み等の諸条件に応じて適宜選択することが可能である。例えば、CVD(MOCCVD、低圧CVD、ECR―CVD含む)法、蒸着、分子線蒸着(MB)、スパッタリング法、イオンプレーティング法、PVD法等の各種気相成膜法、電気メッキ、浸漬メッキ(ディッピング)、無電解メッキ法等の各種メッキ法、ラングミュア・ブロジェット(LB)法、スピンコート、スプレーコート、ロールコート法等の塗布法、各種印刷法、転写法、インクジェット法、粉末ジェット法等に適用できる。これらのうち2種以上の方法を組み合わせてもよい。
【0043】
特に剥離層の組成が非晶質シリコン(a−Si)の場合には、CVD、特に低圧CVDやプラズマCVDにより成膜するのが好ましい。また剥離層をゾル−ゲル(sol−gel)法によりセラミックを用いて成膜する場合や有機高分子材料で構成する場合には、塗布法、特にスピンコートにより成膜するのが好ましい。
【0044】
(中間層について)
なお、図示していないが、剥離層11と共通電極膜3との間に、中間層を形成することは好ましい。この中間層は、例えば製造時または使用時において被転写層を物理的または化学的に保護する保護層、絶縁層、被転写層へのまたは被転写層からの成分の移行(マイグレーション)を阻止するバリア層、反射層としての機能のうち少なくとも一つを発揮するものである。
【0045】
この中間層の組成は、その目的に応じて適宜選択されえる。例えば非晶質シリコンで構成された剥離層と被転写層との間に形成される中間層の場合には、SiO2等の酸化ケイ素が挙げられる。また、他の中間層の組成としては、例えば、Pt、Au、W,Ta,Mo,Al,Cr,Tiまたはこれらを主成分とする合金のような金属が挙げられる。
【0046】
中間層の厚みは、その形成目的に応じて適宜決定される。通常は、10nm〜5μm程度であるのが好ましく、40nm〜1μm程度であるのがより好ましい。
【0047】
中間層の形成方法としては、前記剥離層で説明した各種の方法が適用可能である。中間層は、一層で形成する他、同一または異なる組成を有する複数の材料を用いて二層以上形成することもできる。
【0048】
[共通電極膜形成工程(図3(B))]:
共通電極膜形成工程では、剥離層11の上に、共通電極膜3を形成する工程である。共通電極膜は、圧電体素子の一方の電極として機能する。
【0049】
共通電極膜3の組成は、導電率が高く、圧電体素子形成時の温度に耐えられるものであれば、特に限定がない。例えば、Pt、Au、Al、NiまたはIn等を適用することができる。
【0050】
共通電極膜3の形成方法としては、その組成や厚みに応じて適宜適当な方法を選択すればよい。例えば、スパッタリング法、蒸着法、CVD法、電気メッキ法、無電界メッキ法等が使用できる。
【0051】
[圧電体素子形成工程(図3(C))]:
圧電体素子形成工程は、共通電極膜3の上に、所定の厚みで圧電体薄膜41および上電極膜42を形成する工程である。
【0052】
圧電体薄膜41の組成としては、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)等に代表される強誘電性セラミックスが最適である。
【0053】
圧電体薄膜の形成は、ゾル−ゲル法により行うのが好ましい。ゾル−ゲル法は、所定の成分に調整したPZT系ゾルを共通電極膜3の上に塗布し、焼成するという工程を所定回数繰り返すことによって行われる。塗布方法としては、スピンコート法、ロールコート法、ダイコート法等を使用可能である。所定回数塗布と焼成を繰り返した後、全体を本焼成すれば、ペロブスカイト(perovskite)結晶構造を有する圧電体薄膜41が形成される。なお、ゾル−ゲル法の他に、スパッタリング法も適用できる。
【0054】
上電極膜42の組成および形成方法については、共通電極膜3と同様である。
【0055】
[エッチング工程(図3(D))]:
エッチング工程では、上電極膜および圧電体薄膜をエッチングして圧電体素子の形状に成形する。
【0056】
エッチング法としては、異方性が優れるドライエッチングを用いることが好ましい。上電極膜42上に、圧電体素子の形状にパターン化したレジストを設けてからエッチングする。エッチングガスを適宜選択することによってエッチングレートを調整する。そして、エッチング時間を管理し、レジストが設けられていない領域の上電極膜42および圧電体薄膜41を除去し、共通電極膜3を露出させる。エッチング後、レジストをアッシングして除去する。
【0057】
[リザーバ形成工程(図4(E))]:
リザーバ形成工程では、リザーバ部材を圧電体素子に覆って形成する。リザーバ部材5は、その断面が同図に示すようにコの字状の蓋のようになっている部材である。その一部には、外部のインクタンクからインクを供給するための開口が設けられている(図示せず)。
【0058】
リザーバ部材5は、一定の機械的強度とインクに対する耐久性を有していればよく、特に耐熱性は要求されない。したがってリザーバ部材の組成としては、樹脂、シリコン、ガラス、金属等任意の材料を選択できる。
【0059】
リザーバ部材5を貼り合わせる前に、各圧電体素子4に対する配線を行っておく。つまり、図示しない駆動回路の各出力端子とかく圧電体素子4の上電極42とを結線し、駆動回路の接地端子と共通電極膜3とを結線しておく。その後、リザーバ部材5を、圧電体素子4を覆うように貼り合わせる。リザーバ部材5の内側は、インクのリザーバ51を形成する。貼り合わせに使用する樹脂は任意に選択することができる。
【0060】
[剥離工程(図4(F))]:
剥離工程では、第1基台10の裏側(同図では下側)から光60を照射して、剥離層11にアブレーションを生じさせて、第1基台10を剥離する。
【0061】
照射光により剥離層に生ずる層内剥離が生ずるか、界面剥離が生ずるか、または層内剥離が生ずるかは、剥離層の組成や、照射光、その他の要因により定まる。その要因としては、例えば、照射光の種類、波長、強度、到達深さ等が挙げられる。
【0062】
照射光としては、剥離層に層内剥離および/または界面剥離を起こさせるものであればいかなるものでもよく、例えば、X線、紫外線、可視光、赤外線(熱線)、レーザ光、ミリ波、マイクロ波等の各波長の電磁波が適用できる。また電子線であっても放射線(α線、β線、γ線)等であってもよい。それらの中でも、剥離層にアブレーションを生じさせ易いという点で、レーザ光が好ましい。
【0063】
このレーザ光を発生させるレーザ装置としては、各種気体レーザ、個体レーザ(半導体レーザ)等が挙げられるが、特にエキシマレーザ、Nd−YAGレーザ、アルゴンレーザ、CO2レーザ、COレーザ、He−Neレーザ等が好ましく、その中でもエシキマレーザが特に好ましい。エキシマレーザは、短波長域で高エネルギーを出力するため、極めて短時間で剥離層にアブレーションを生じさせることができる。このため隣接する層や近接する層に温度上昇を生じさせることがほとんどなく、層の劣化や損傷を可能な限り少なくして剥離を達成することができる。
【0064】
剥離層11に、アブレーションを生じる波長依存性がある場合、照射されるレーザ光の波長は、100nm〜350nm程度であることが好ましい。剥離層に、ガス放出、気化または昇華等の層変化を起こさせるためには、照射されるレーザ光の波長は、350nm〜1200nm程度であることが好ましい。
【0065】
また、照射されるレーザ光のエネルギー密度は、エキシマレーザの場合、10〜5000mJ/cm2程度とするのが好ましい。照射時間は、1〜1000nsec程度とするのが好ましく、10〜100nsec程度とするのがより好ましい。エネルギー密度が低いか照射時間が短いと、十分なアブレーションが生ぜず、エネルギー密度が高いか照射時間が長いと、剥離層や中間層を透過した照射光により、被転写層へ悪影響を及ぼすことがある。
【0066】
光の照射は、その強度が均一となるように照射するのが好ましい。光の照射方向は、剥離層に対し垂直な方向に限らず、剥離層に対し所定角傾斜した方向であってもよい。また、剥離層の面積が照射光1回の照射面積より大きい場合には、剥離層全領域に対し、複数回に分け光を照射してもよい。また、同一箇所に複数回照射してもよい。また、異なる種類、異なる波長(波長域)の光を同一領域または異なる領域に複数回照射してもよい。
【0067】
第1基台10の剥離後、共通電極膜3に剥離層の残さがある場合には、洗浄してこれを除去する。
【0068】
[貼り合わせ工程(図4(G))]:
貼り合わせ工程は、共通電極膜3に、別工程で製造した圧力室基板2を貼り合わせる工程である。圧力室基板の製造方法を、図5を参照して簡単に説明する。
【0069】
原盤製造工程(図5(A)): まず、圧力室基板2を転写するための原盤16を製造する。原盤16は、母材に、キャビティ21や共通流路23以外の領域に沿ってパターンを形成してから、所定の深さまでエッチングすることにより製造される。母材、すなわち原盤の組成は、エッチング可能であればよく、シリコンの他、ガラス、石英、樹脂、金属、セラミックスあるいはフィルム等が使用できる。パターンを形成するためのレジストには、クレゾールノボラック系樹脂に、感光剤としてジアゾナフトキノン誘導体を配合したポジ型レジスト等をそのまま適用できる。レジスト層は、スピンコート法、ディッピング法、スプレーコート法、ロールコート法、バーコート法により形成する。
【0070】
露光した後、所定の条件により現像処理すると、露光領域のレジストが選択的に除去される。この状態でさらにエッチングを施すと、側壁22に対応する部分などがエッチングされ、圧力室基板2を製造するための鋳型ができる。エッチング法としては、ウェット方式やドライ方式を選択する。母材の材質およびエッチング断面形状、エッチングレート等の諸条件に併せて適当に選択する。
【0071】
エッチング後にレジストを除去して、原盤16とする。
【0072】
なお、エッチングにおいて、エッチングの深さは、圧力室基板上に形成される側壁22等に相当する高さと同等にする。側壁の高さは、例えば、720dpiの解像度を有するインクジェット式記録ヘッドでは、約200μmに設計される。
【0073】
基板成形工程(図5(B)): 原盤16の形成後、原盤16の表面に、基板材料2bを塗布、固化させて、圧力室基板2を成形する。基板材料としては、インクジェット用の圧力室基板として要求される機械的強度や耐食性等の特性を満足するものであれば、その組成に特に限定がないが、光、熱、または光若しくは熱の双方を用いて硬化する材料であることが好ましい。このような材料を用いる場合には、汎用の露光装置やベイク炉、ホットプレートが利用でき、低コスト化と省スペース化が図れるからである。このような物質としては、例えばアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、ノボラック系樹脂、スチレン系樹脂若しくはポリイミド系等の合成樹脂、またはポリシラザン等のケイ素系ポリマが使用できる。基板材料に溶剤成分を含む場合には、熱処理により溶剤を除去する。また、基板材料として、熱可塑性物質を使用してもよい。例えば、数〜数十wt%の水分を含有した水和ガラスが好適である。
【0074】
基板材料の塗布方法には、スピンコート法、ディッピング法、スプレーコート法、ロールコート法またはバーコート法等が使用できる。
【0075】
基板剥離工程(図5(C)): 次いで、固化した基板材料2b、すなわち圧力室基板2を原盤16から剥離する。
【0076】
剥離方法としては、原盤16を固定し、圧力室基板2を吸着保持して引っ張って剥離させる。原盤と圧力室基板との密着性が高い場合には、原盤16の凹部形状を予めテーパ状に成形しておくとよい。また、剥離前に、原盤と圧力室基板との界面に光を照射して、原盤と圧力室基板との密着性を低減させ、または消失させてもよい。原盤と圧力室基板との界面において、原子間または分子間の結合力が弱まったり消失したり、さらに圧力室基板から放出された気体により分離を促進したりするからである。光は、例えばエキシマレーザ光が好ましい。光を照射する場合には、原盤16を光透過性のある材料で形成する必要がある。さらに、前述した剥離層に相当する層を、原盤16と圧力室基板2との界面に形成しておくことも好ましい。具体的には、上述した方法をそのまま適用できる。
【0077】
ノズル形成工程(図5(D)): 剥離された圧力室基板2にノズル25を形成する。
【0078】
ノズル25の成形方法には特に制限はない。例えば、リソグラフィ法、レーザ加工、FIB加工、放電加工等種々の方法が適用できる。
【0079】
以上の工程によって製造された圧力室基板2を、リザーバ部材5が貼り合わせられた共通電極膜3に貼り合わせる。圧力室基板2のノズルが設けられていない方の面と共通電極膜3とを、各キャビティ21がそれぞれ圧電体素子4に対応するように貼り合わせる。
【0080】
上記実施形態1によれば、第1基台上で圧電体素子を形成し、厚みの薄い圧力室基板を別工程で製造し、最後に圧電体素子と圧力室基板を貼り合わせるので、圧力室基板が機械的に弱いものであっても歩留まりよくインクジェット式記録ヘッドを製造できる。したがって、圧力室基板を従来より薄く成形することができるため、高解像度のインクジェット式記録ヘッドを製造することができる。
【0081】
<実施形態2>
本実施形態2は、基台に形成した圧電体素子を一旦別の基台に接着し、その後に圧力室基板を貼り合わせ、最後にリザーバ部材を貼り付けるインクジェット式記録ヘッドの製造方法に関する。
【0082】
本実施形態2において、製造されるインクジェット式記録ヘッドの構造は、上記実施形態1と同様なので説明を省略する。
(インクジェット式記録ヘッドの製造方法)
図6乃至図7を参照して本発明のインクジェット式記録ヘッドの製造方法を説明する。これらの図は、キャビティの幅方向に切断した様子を示した、インクジェット式記録ヘッドの製造工程断面図である。
【0083】
[剥離層形成工程、共通電極膜形成工程、圧電体素子形成工程(図6(A))およびエッチング工程(同図(B))]:
これらの工程については、上記実施形態1の剥離層形成工程(図3(A))、共通電極膜形成工程(同図(B))、圧電体素子形成工程(同図(C))およびエッチング工程(同図(D))とそれぞれ同様なので、その説明を省略する。
【0084】
[接着工程(図6(C))]:
接着工程は、第1基台10の圧電体素子4を形成した面と第2基台12とを接着剤を用いて接着する工程である。
【0085】
第2基台12の組成としては、上記実施形態1の第1基台10と同様なので、その説明を省略する。
【0086】
接着層13に用いる接着剤の組成としては、例えば、エポキシ系、アクリレート系、シリコーン系等いかなる接着剤でも適用することが可能である。これらの接着剤は、後述する第2剥離工程において、接着層の界面に剥離を生じさせるか層内に剥離を生じさせるかに応じて定める。
【0087】
ただし、本実施形態では光、熱または光若しくは熱の双方の付与により、接着層内部に層内剥離を生じさせる必要がある。このため、熱可塑性樹脂であるか、組成中に、―CH2−、−CO−(ケトン)、−CONH−(アド)、−NH−(イミド)、−COO−(エステル)、−N=N−(アゾ)、−CH=N−(シフ)等の結合(光の照射によりこれらの原子間結合が切断される)を有するものであることが好ましい。また、構成式中に、芳香族炭化水素(1または2以上のベンゼン環またはその縮合環)を有するものであってもよい。このような有機高分子材料の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられる。
【0088】
接着層13は、例えば塗布法によって形成される。硬化型接着剤を用いる場合は、例えば被転写層である圧電体素子4の面上に硬化型接着剤を塗布し、それに第2基台12を密着させた後、硬化型接着剤の特性に応じた硬化方法により、前記硬化型接着剤を硬化させて、被転写層と第2基台12とを接着する。
【0089】
光硬化型接着剤を用いる場合は、光硬化型接着剤を被転写層上に塗布し、光透過性の第2基台12を未硬化の接着層上に配置した後、第2基台側から硬化用の光を照射して接着剤を硬化させることが好ましい。
【0090】
なお、第2基台12側に接着層13を形成し、その上に被転写層を接着してもよい。
【0091】
[第1剥離工程(図6(D))および貼り合わせ工程(図7(E))]:
第1剥離工程および貼り合わせ工程については、上記実施形態1の剥離工程(図4(F))および貼り合わせ工程(図4(G))と同様なので、説明を省略する。圧力室基板2の製造方法についても、上記実施形態1と同様である(図5)。
【0092】
[第2剥離工程(図7(F))]:
第2剥離工程は、接着層13の層内で剥離を生じさせて第2基台12を圧力室基板2側から剥離する工程である。
【0093】
本工程では、接着層13に所定のエネルギーを加えることにより、接着層に剥離を生じさせる。接着層に熱可塑性樹脂を用いた場合には、熱可塑性樹脂の転移温度を超えた熱を全体に加えて、剥離を生じさせる。
【0094】
接着層に、光の照射により層内剥離を生じる上記材料を用いた場合には、第2基台12の上部から光を照射して、剥離を生じさせる。
【0095】
[洗浄工程(同図(G))]:
洗浄工程では、層内剥離により、圧電体素子4の周辺に残された接着剤を除去する。接着剤を除去するためには、圧電体素子や共通電極膜に影響を与えない溶剤を用いる。例えば、アセトン、イソプロピルアルコール、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ベンゼン、キシレン、クレゾール、クロロベンゼン、トルエン、酢酸ブチル、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、メチルエチルケトン、ジクロロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の溶剤を用いる。
【0096】
[リザーバ形成工程(同図(H))]:
リザーバ部材形成工程は、接着剤が除去された圧電体素子を覆ってリザーバ部材5を貼り合わせる工程である。その詳細は、上記実施形態1のリザーバ形成工程(図4(E))と同様なので、説明を省略する。
【0097】
なお、本実施形態では、接着剤の組成と剥離方法を適宜適切なものに選択することによって、圧電体素子4および共通電極膜3と、接着層13との界面で剥離を生じさせることが可能である。例えば、接着剤として、圧電体素子4および共通電極膜3との密着性より第2基台との密着性の方が大きい接着剤を選択した場合には、図8に示すように、圧電体素子4および共通電極膜3と接着層13の界面から剥離を生じさせることが可能である。このように剥離を生ずれば、洗浄工程における洗浄が簡単で済むという利点がある。
【0098】
上記したように、本実施形態2によれば、第1基台上で圧電体素子を形成し、第2基台と貼り合わせてから、第1基台を剥離する。また、厚みの薄い圧力室基板を別工程で製造し、最後に圧電体素子と圧力室基板を貼り合わせるので、圧力室基板が機械的に弱いものであっても歩留まりよくインクジェット式記録ヘッドを製造できる。したがって、圧力室基板を従来より薄く成形することができるため、高解像度のインクジェット式記録ヘッドを製造することができる。
【0099】
特に、本実施形態2によれば、第1基台を剥離する前に、圧電体素子等を第2基台に接着層により固定するので、製造工程における圧電体素子の取り扱いが容易かつ安全であるという利点を有する。
【0100】
<実施形態3>
本発明の実施形態3は、上記実施形態2における接着工程および第2剥離工程の変形例を与えるものである。
【0101】
本実施形態のインクジェット式記録ヘッドおよびその製造方法は概略上記実施形態と同様である。ただし、前記接着工程(図6(C))に先駆けて中間層14を設けて、それから第2基台12を接着する点で異なる。
【0102】
[接着工程の変形(図9(A))]:
接着工程の前に、第2基台12に中間層14を予め形成する。
【0103】
中間層14の組成としては、接着層13との界面で剥離を生じ易い組成、すなわち、接着層13との密着性が低い組成を適用する。
【0104】
例えば、接着層13にアクリレート系の接着剤を用いた場合、Ni、Cr、Ti、Al、Cu、Ag、Au、Ptの中から選ばれる一種以上の金属を含んだ組成を適用することができる。これらの金属は、一般に、アクリレート系の接着剤との密着性が低く、スパッタリング、蒸着、CVDといった真空成膜法を用いることにより制御性よく成膜できる。
【0105】
また、中間層14の組成としては、中間層14内または中間層14と第2基台12との界面での剥離を生じ易い組成を適用することができる。このような組成としては、上記した剥離層11と同様な組成の他、多孔質シリコンあるいはアルミナ等の陽極酸化膜を挙げることができる。
【0106】
[第2剥離工程の変形(同図(B))]:
接着層13から第2基台12を剥離するためには、上記した剥離層11と同様な組成の中間層14を用いた場合には、図9(B)に示すように、第2基台12側から中間層14に光(レーザ光)60を照射して剥離を生じさせる。
【0107】
さらに多孔質シリコンを用いる場合には、切削することにより中間層14の層内や中間層14と第2基台12との界面で剥離することが可能である。また陽極酸化膜を用いる場合には、切削することにより中間層14の層内で、また電界を欠けたり機械的に、例えば切削等により、中間層14の層内や中間層14と第2基台12との界面で剥離させることが可能である。圧力室基板2に残された接着層13は、溶剤処理等を用いて洗浄し除去すればよい。
【0108】
上記したように、本実施形態3によれば、中間層を設けたので、圧力室基板と第2基台とを容易に剥離させることが可能である。
【0109】
【発明の効果】
本発明によれば、厚みの薄い圧力室基板を備えたので、高解像度化に対応できるインクジェット記録ヘッドを提供することができる。
【0110】
本発明のインクジェット式記録ヘッドの製造方法によれば、厚みの薄い圧力室基板を圧電体素子とは別工程で形成させたので、製造上の歩留まりを向上させ、もって低コスト化を図ることができる。
【0111】
本発明のインクジェット式記録ヘッドの製造方法によれば、圧力室基板とは別工程で形成された圧電体素子を基台から確実に剥離させる製造方法を提供したので、製造上の歩留まりを向上させ、もって低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のインクジェットプリンタの斜視図である。
【図2】本発明のインクジェット式記録ヘッドの主要部の斜視図および一部断面図である。
【図3】実施形態1のインクジェット式記録ヘッドの製造工程断面図である。(A)は剥離層形成工程、(B)は共通電極膜形成工程、(C)は圧電体素子形成工程、(D)はエッチング工程である。
【図4】実施形態1のインクジェット式記録ヘッドの製造工程断面図である。(E)はリザーバ形成工程、(F)は剥離工程、(G)は貼り合わせ工程、および(D)は完成断面図である。
【図5】圧力室基板の製造工程断面図である。(A)は原盤製造工程、(B)は基板成形工程、(C)は剥離工程、および(D)はノズル形成工程である。
【図6】実施形態2のインクジェット式記録ヘッドの製造工程断面図である。(A)は圧電体素子形成工程、(B)はエッチング工程、(C)は接着工程、および(D)は第1剥離工程である。
【図7】実施形態2のインクジェット式記録ヘッドの製造工程断面図である。(E)は貼り合わせ工程、(F)は第2剥離工程、(G)は洗浄工程、および(H)はリザーバ形成工程である。
【図8】第2剥離工程の変形例である。
【図9】実施形態3のインクジェット式記録ヘッドの製造工程断面図である。(A)は中間層形成工程および接着工程、および(B)は第2剥離工程である。
【符号の説明】
101…インクジェット式記録ヘッド
2…圧力室基板
3…共通電極膜
4…圧電体素子
5…リザーバ部材
10…第1基台
11…剥離層
12…第2基台
13…接着層
14…中間層
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクジェット式記録ヘッドの改良に関する。特に、従来より薄い圧力室基板を用いても製造上の歩留まりを悪化させない製造方法を提供することにより、高解像度化に対応可能なインクジェット式記録ヘッドを提供するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来のインクジェット式記録ヘッドは、圧力室基板と、圧力室基板の一面に貼り付けられるノズル板と、圧力室基板の他方の面に設けられる振動板と、を備えていた。圧力室基板は、シリコンウェハに、インクを溜める圧力室を複数形成して構成され、各圧力室(キャビティ)に対応してノズル穴が配置されるようにノズル板が貼り付けられていた。振動板の圧力室の反対面には圧電体素子が形成されていた。この構成において、圧力室にインクを充填し、圧電体素子に電圧を印加すると、圧電体が体積変化を生じ、圧力室に体積変化を生じさせる。この圧力変化によりノズル穴からインクが吐出されるのである。従来の技術では、シリコンウェハの厚みと圧力室の高さは略同じに設定されていた
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、近年、インクジェット式記録ヘッドに対する高解像度化の要請が高まっている。インクジェット式記録ヘッドを高解像度化するためには、圧力室の幅、高さ、および圧力室の間を仕切る側壁の幅を小さくする必要がある。
【0004】
しかしながら、現在使用可能なシリコンウェハの厚みは200μm程度でありこの厚みに圧力室を仕切る側壁の高さが限られていた。シリコンウェハの厚みをこれより薄くすると、シリコンウェハの機械的強度が保てなくなって、圧力室の形成プロセスにおいてシリコンウェハの破損等を招く等、取り扱い上問題があった。
【0005】
このため厚みの薄い圧力室基板を圧電体素子とは別に形成し、圧電体素子の形成には別の基台を用い、最後に圧力室基板と圧電体素子とを貼り合わせることが考えられる。このようにすれば圧力室基板を圧電体素子の形成のために多工程に流す必要がなくなって、薄い圧力室基板を用いる弊害を除去できるからである。ところが、圧電体素子の高さは、わずかに数μmであるため、圧電体素子の形成後に、圧電体素子に影響を与えることなく、圧電体素子を基台から剥離することが困難である。
【0006】
上記問題点に鑑み、本発明の第1の課題は、厚みの薄い圧力室基板を備えることにより、高解像度化に対応したインクジェット記録ヘッドを提供することである。
【0007】
本発明の第2の課題は、厚みの薄い圧力室基板を圧電体素子とは別工程で形成させることにより、製造上の歩留まりを向上させ、もって低コスト化が図ることのできるインクジェット式記録ヘッドの製造方法を提供することである。
【0008】
本発明の第3の課題は、圧力室基板とは別工程で形成された圧電体素子を基台から確実に剥離させることにより、製造上の歩留まりを向上させ、もって低コスト化を図ることのできるインクジェット式記録ヘッドの製造方法を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記第1の課題を解決する発明は、圧電体素子に電圧を印加することによりインクを吐出可能に構成されたインクジェット式記録ヘッドにおいて、
(a) インクを吐出可能なノズルを有する圧力室を、各ノズルが同一方向に開口するよう形成して構成された圧力室基板と、
(b) ノズルが設けられた面と異なる圧力室基板の一面に、各圧力室を密封するように形成された共通電極膜と、
(c) 共通電極膜上の各圧力室に対応する位置に各々形成された、圧電体薄膜および上電極を含む圧電体素子と、
(d) 1以上の圧電体素子を内部に納める蓋状構造を備え、その内部がインクのリザーバを形成するリザーバ部材と、を備えて構成される。
【0010】
本発明のインクジェット式記録ヘッドは、ノズルと圧力室とが同一部材により一体成形されて構成される。
【0011】
上記第2および第3の課題を解決する発明は、圧電体素子に電圧を印加して体積変化を生じさせることによって圧力室に設けられたノズルからインクを吐出可能に構成されたインクジェット式記録ヘッドの製造方法であって、
(a) 光透過性を備えた基台に、光の照射により剥離を生ずる剥離層を形成する剥離層形成工程と、
(b) 剥離層の上に、共通電極膜を形成する共通電極膜形成工程と、
(c) 共通電極膜上に、圧電体素子を複数形成する圧電体素子形成工程と、
(d) 1以上の圧電体素子を内部に納める蓋状構造を備え、その内部がインクのリザーバを形成するリザーバ部材を形成するリザーバ形成工程と、
(e) 基台側から剥離層に所定の光を照射することによって、剥離層に剥離を生じさせ、当該基台を剥離する剥離工程と、
(f) 基台が剥離された共通電極膜に、圧力室が複数設けられた圧力室基板を、各圧力室を密閉するように貼り合わせる貼り合わせ工程と、を備えて構成される。
【0012】
上記第2および第3の課題を解決する発明は、圧電体素子に電圧を印加して体積変化を生じさせることによって圧力室に設けられたノズルからインクを吐出可能に構成されたインクジェット式記録ヘッドの製造方法であって、
(a) 光透過性を備えた第1の基台に、光の照射により剥離を生ずる剥離層を形成する剥離層形成工程と、
(b) 剥離層の上に、共通電極膜を形成する共通電極膜形成工程と、
(c) 共通電極膜上に、圧電体素子を複数形成する圧電体素子形成工程と、
(d) 圧電体素子を形成した面に、接着層を介して第2の基台を接着する接着工程と、
(e) 第1の基台側から剥離層に所定の光を照射することによって、剥離層に剥離を生じさせ、当該第1の基台を剥離する第1剥離工程と、
(f) 第1の基台が剥離された共通電極膜に、圧力室が複数設けられた圧力室基板を、各圧力室を密閉するように貼り合わせる貼り合わせ工程と、
(g) 第2の基台を剥離する第2剥離工程と、を備えて構成される。
【0013】
本発明は、剥離層と共通電極膜との間にさらに中間層を形成する中間層形成工程を備える。
【0014】
本発明によれば、圧電体素子形成工程は、共通電極膜に圧電体層を積層する工程と、圧電体層に上電極膜を形成する工程と、積層された圧電体層と上電極膜をエッチングして圧電体素子を形成する工程と、を備える。
【0015】
本発明によれば、剥離層を、非晶質シリコン、酸化物セラミックス、窒化物セラミックス、有機高分子材料または金属のうちいずれかの材料を用いて形成する。
【0016】
本発明によれば、圧力室基板は、鋳型に樹脂層を形成する工程と、樹脂層を鋳型から剥離する工程と、樹脂層にノズルに相当する穴を設ける工程と、により製造される。
【0017】
本発明によれば、第2剥離工程は、圧電体素子および共通電極膜と、接着層との界面において剥離を生じさせる。
【0018】
本発明によれば、第2剥離工程は、接着層内に剥離を生じさせる。
【0019】
本発明によれば、接着層は、エネルギーの付与により硬化可能な物質を含んで構成される。
【0020】
本発明によれば、接着層は、熱可塑性樹脂により構成される。
【0021】
本発明によれば、接着層と第2の基台との間に中間層を形成する中間層形成工程をさらに備える。
【0022】
本発明によれば、中間層は、Ni、Cr、Ti、Al、Cu、Ag、Au、Ptの中から選ばれる一種以上の金属を含んで構成され、第2剥離工程において、中間層と接着層との界面において剥離を生じさせる。
【0023】
本発明によれば、中間層は、多孔質シリコンまたは陽極酸化膜のいずれかによって構成され、第2剥離工程において、当該中間層内または当該中間層と第2の基台との界面において剥離を生じさせる。
【0024】
本発明によれば、中間層は、非晶質シリコン、酸化物セラミックス、窒化物セラミックス、有機高分子材料または金属のうちいずれかの材料を用いて形成され、第2剥離工程において、第2の基台側から中間層に所定の光を照射する事によって、当該中間層に剥離を生じさせる。
【0025】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の好適な実施の形態を、図面を参照して説明する。
<実施形態1>
本実施形態1は、基台に圧電体素子を形成し、その上にリザーバ部材を形成後、圧電体素子を基台から剥離し、別途製造した一体型の圧力室基板と貼り合わせるインクジェット式記録ヘッドの製造方法に関する。
【0026】
(インクジェット式記録ヘッドの構成)
図1に、本実施形態の製造方法で製造されるインクジェット式記録ヘッドが内蔵されるインクジェットプリンタの斜視図を示す。同図に示すように、本実施形態のインクジェットプリンタ100は、本発明のインクジェット式記録ヘッド101、トレイ103等を本体102に備えて構成されている。用紙105は、トレイ103に載置される。図示しないコンピュータから印字用データが供給されると、図示しない内部ローラが用紙105を本体102に取り入れる。インクジェット式記録ヘッド101は、用紙105がローラの近傍を通過するとき、同図矢印方向に駆動され、印字が行われる。印字後の用紙105は排出口104から排出される。
【0027】
図2に、上記インクジェット式記録ヘッドの主要部の斜視図を示す。理解を容易にするため、一部断面図を示す。ここでは構造の概要を説明することとし、詳しい製造方法は後述する。同図に示すように、インクジェット式記録ヘッドの主要部は、一体成形された圧力室基板2に、圧電体素子4が形成された共通電極膜3を貼り合わせて構成されている。なお、同図では共通電極膜を覆って形成されるリザーバ部材5(図3参照)の図示を省略してある。
【0028】
圧力室基板2は、シリコン単結晶基板等をエッチングすることにより、各々が圧力室として機能するキャビティ21が複数設けられる。各キャビティ21の間は側壁22で分離される。各キャビティ21は、供給口24を介して共通流路23に繋がっている。キャビティ21を仕切る一方の面には、ノズル25が設けられている。共通電極膜3は、例えばプラチナ等により構成され、共通電極膜3上のキャビティ21に相当する位置には、圧電体素子4が形成されている。共通電極膜3のうち、共通流路23に相当する一部に、インクタンク口33が設けられている。
【0029】
圧電素子4は、例えばPZT等により形成された圧電体薄膜と上電極とを積層して構成されている。
【0030】
さらに、図示しない駆動回路の出力端子と各圧電体素子4の上電極を結線し、駆動回路のアース端子と共通電極膜3とを結線して構成されている。
【0031】
上記インクジェット式記録ヘッドの構成において、駆動回路を駆動して圧電体素子4に所定の電圧を印加すれば、圧電体素子4に体積変化が生じ、キャビティ21内のインクの圧力が高まる。インクの圧力が高まると、ノズル25からインク敵が吐出する。
【0032】
(インクジェット式記録ヘッドの製造方法)
図3乃至図5を参照して本発明のインクジェット式記録ヘッドの製造方法を説明する。これらの図は、キャビティの幅方向に切断した様子を示した、インクジェット式記録ヘッドの製造工程断面図である。
【0033】
[剥離層形成工程(図3(A))]:
剥離層形成工程では、圧電体素子を形成するための仮の基板である第1基台10に、圧電体素子および共通電極膜を剥離させる剥離層11を形成する。
【0034】
(第1基台)
第1基台10としては、照射光が透過しうる光透過性を有するものであって、圧電体素子の形成プロセスに使用しうる耐熱性および耐食性を備えるものであればよい。照射光の透過率は、10%以上であることがことましく、50%以上であることがより好ましい。透過率が低すぎると照射光の減衰が大きくなり、剥離層を剥離させるのにより大きなエネルギーを要するからである。
【0035】
耐熱性については、形成プロセスによって、例えば400℃〜900℃以上となることがあるため、これらの温度に耐えられる性質を備えていることが好ましい。基台が耐熱性に優れていれば、圧電体素子の形成条件において、温度設定が自由に行えるからである。
【0036】
基台は、被転写層である圧電体素子形成時の最高温度をTmaxとしたとき、歪点がTmax以上の材料の構成されていることが好ましい。具体的には、歪点が350℃以上であることが好ましく、500℃以上であることがさらに好ましい。このような材料としては、例えば、石英ガラス、ソーダガラス、コーニング7059、日本電気ガラスOA―2等の耐熱性ガラスがある。特に、石英ガラスは、耐熱性に優れいるので好ましい。その歪点は、通常のガラスが400℃〜600℃であるのに対し、1000℃である。
【0037】
基台の厚さには、大きな制限要素はないが、0.1mm〜0.5mm程度であることが好ましく、0.5mm〜1.5mmであることがより好ましい。基板の厚みが薄すぎると強度の低下を招き、逆に厚すぎると、基台の透過率が低い場合に照射光の減衰を招くからである。ただし、基台の照射光の透過率が高い場合には、前記上限値を超えてその厚みを厚くすることができる。
【0038】
また、照射光を均等に剥離層に届かせるために、基台の厚みは均一であることが好ましい。
【0039】
(剥離層)
剥離層11は、レーザ光等の照射光により当該層内や界面において剥離(「層内剥離」または「界面剥離」ともいう)を生じさせるための層である。すなわち、剥離層内では、一定の強度の光が照射されることにより、構成物質を構成する原子または分子における原子間または分子間の結合力が消失しまたは減少し、アブレーション(ablation)等を生じ、剥離を起こす。また、照射光の照射により、剥離層から気体が放出され、剥離に至る場合もある。剥離層に含有されていた成分が気体となって放出され剥離に至る場合と、剥離層が光を吸収して気体になり、その蒸気が放出されて剥離に至る場合とがある。
【0040】
このような剥離層の組成としては、以下が考えられる。
1) 非晶質シリコン(a−Si)
この非晶質シリコン中には、H(水素)が含有されていてもよい。水素の含有量は、2at%程度以上であることが好ましく、2〜20at%であることがさらに好ましい。水素が含有されていると、光の照射により水素が放出されることにより剥離層に内圧が発生し、これが剥離を促進するからである。水素の含有量は、成膜条件によって調整する。例えば、CVD法を用いる場合には、そのガス組成、ガス圧力、ガス雰囲気、ガス流量、ガス温度、基板温度、投入する光のパワー等の条件を適宜設定することによって調整する。
2) 酸化ケイ素若しくはケイ酸化合物、酸化チタン若しくはチタン酸化合物、酸化ジルコニウム若しくはジルコン酸化合物、酸化ランタン若しくはランタン酸化合物等の各種酸化物セラミックス、または誘電体あるいは半導体
酸化ケイ素としては、SiO、SiO2、Si3O2が挙げられる。珪酸化合物としては、例えばK2Si3、Li2SiO3、CaSiO3、ZrSiO4、Na2SO3が挙げられる。
酸化チタンとしては、TiO、Ti2O3、TiO2が挙げられる。チタン酸化合物としては、例えばBaTiO4、BaTiO3、Ba2Ti9O20、BaTi5O11、CaTiO3、SrTiO3、PbTi3,MgTiO3、ZrTi2,SnTiO4,Al2Ti5,FeTiO3が挙げられる。
酸化ジルコニウムとしては、ZrO2が挙げられる。ジルコン酸化合物としては、例えば、BaZrO3、ZrSiO4、PbZrO3、MgZrO3、K2ZrO3が挙げられる。
3) 窒化ケイ素、窒化アルミ、窒化チタン等の窒化物セラミックス
4) 有機高分子材料
有機高分子材料としては、―CH2−、−CO−(ケトン)、−CONH−(アド)、−NH−(イミド)、−COO−(エステル)、−N=N−(アゾ)、−CH=N−(シフ)等の結合(光の照射によりこれらの原子間結合が切断される)を有するもの、特に、これらの結合を多く有するものであれば、他の組成であってもよい。
また、有機高分子材料は、構成式中に、芳香族炭化水素(1または2以上のベンゼン環またはその縮合環)を有するものであってもよい。このような有機高分子材料の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルスルホン(PES)、エポキシ樹脂等が挙げられる。
5) 金属
金属としては、例えば、Al、Li、Ti、Mn,In,Sn,Y,La,Ce,Nd,Pr,Gd若しくはSm、またはこれらのうち少なくとも一種を含む合金が挙げられる。
【0041】
(剥離層の厚み)
剥離層の厚さとしては、通常1nm〜20μm程度であるのが好ましく、10nm〜2μm程度であるのがより好ましく、40nm〜1μm程度であるのがさらに好ましい。剥離層の厚みが薄すぎると、形成された膜厚の均一性が失われて剥離にむらが生ずるからであり、剥離層の厚みが厚すぎると、剥離に必要とされる照射光のパワー(光量)を大きくする必要があったり、また、剥離後に残された剥離層の残渣を除去するのに時間を要したりするからである。
【0042】
(形成方法)
剥離層の形成方法は、均一な厚みで剥離層を形成可能な方法であればよく、剥離層の組成や厚み等の諸条件に応じて適宜選択することが可能である。例えば、CVD(MOCCVD、低圧CVD、ECR―CVD含む)法、蒸着、分子線蒸着(MB)、スパッタリング法、イオンプレーティング法、PVD法等の各種気相成膜法、電気メッキ、浸漬メッキ(ディッピング)、無電解メッキ法等の各種メッキ法、ラングミュア・ブロジェット(LB)法、スピンコート、スプレーコート、ロールコート法等の塗布法、各種印刷法、転写法、インクジェット法、粉末ジェット法等に適用できる。これらのうち2種以上の方法を組み合わせてもよい。
【0043】
特に剥離層の組成が非晶質シリコン(a−Si)の場合には、CVD、特に低圧CVDやプラズマCVDにより成膜するのが好ましい。また剥離層をゾル−ゲル(sol−gel)法によりセラミックを用いて成膜する場合や有機高分子材料で構成する場合には、塗布法、特にスピンコートにより成膜するのが好ましい。
【0044】
(中間層について)
なお、図示していないが、剥離層11と共通電極膜3との間に、中間層を形成することは好ましい。この中間層は、例えば製造時または使用時において被転写層を物理的または化学的に保護する保護層、絶縁層、被転写層へのまたは被転写層からの成分の移行(マイグレーション)を阻止するバリア層、反射層としての機能のうち少なくとも一つを発揮するものである。
【0045】
この中間層の組成は、その目的に応じて適宜選択されえる。例えば非晶質シリコンで構成された剥離層と被転写層との間に形成される中間層の場合には、SiO2等の酸化ケイ素が挙げられる。また、他の中間層の組成としては、例えば、Pt、Au、W,Ta,Mo,Al,Cr,Tiまたはこれらを主成分とする合金のような金属が挙げられる。
【0046】
中間層の厚みは、その形成目的に応じて適宜決定される。通常は、10nm〜5μm程度であるのが好ましく、40nm〜1μm程度であるのがより好ましい。
【0047】
中間層の形成方法としては、前記剥離層で説明した各種の方法が適用可能である。中間層は、一層で形成する他、同一または異なる組成を有する複数の材料を用いて二層以上形成することもできる。
【0048】
[共通電極膜形成工程(図3(B))]:
共通電極膜形成工程では、剥離層11の上に、共通電極膜3を形成する工程である。共通電極膜は、圧電体素子の一方の電極として機能する。
【0049】
共通電極膜3の組成は、導電率が高く、圧電体素子形成時の温度に耐えられるものであれば、特に限定がない。例えば、Pt、Au、Al、NiまたはIn等を適用することができる。
【0050】
共通電極膜3の形成方法としては、その組成や厚みに応じて適宜適当な方法を選択すればよい。例えば、スパッタリング法、蒸着法、CVD法、電気メッキ法、無電界メッキ法等が使用できる。
【0051】
[圧電体素子形成工程(図3(C))]:
圧電体素子形成工程は、共通電極膜3の上に、所定の厚みで圧電体薄膜41および上電極膜42を形成する工程である。
【0052】
圧電体薄膜41の組成としては、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)等に代表される強誘電性セラミックスが最適である。
【0053】
圧電体薄膜の形成は、ゾル−ゲル法により行うのが好ましい。ゾル−ゲル法は、所定の成分に調整したPZT系ゾルを共通電極膜3の上に塗布し、焼成するという工程を所定回数繰り返すことによって行われる。塗布方法としては、スピンコート法、ロールコート法、ダイコート法等を使用可能である。所定回数塗布と焼成を繰り返した後、全体を本焼成すれば、ペロブスカイト(perovskite)結晶構造を有する圧電体薄膜41が形成される。なお、ゾル−ゲル法の他に、スパッタリング法も適用できる。
【0054】
上電極膜42の組成および形成方法については、共通電極膜3と同様である。
【0055】
[エッチング工程(図3(D))]:
エッチング工程では、上電極膜および圧電体薄膜をエッチングして圧電体素子の形状に成形する。
【0056】
エッチング法としては、異方性が優れるドライエッチングを用いることが好ましい。上電極膜42上に、圧電体素子の形状にパターン化したレジストを設けてからエッチングする。エッチングガスを適宜選択することによってエッチングレートを調整する。そして、エッチング時間を管理し、レジストが設けられていない領域の上電極膜42および圧電体薄膜41を除去し、共通電極膜3を露出させる。エッチング後、レジストをアッシングして除去する。
【0057】
[リザーバ形成工程(図4(E))]:
リザーバ形成工程では、リザーバ部材を圧電体素子に覆って形成する。リザーバ部材5は、その断面が同図に示すようにコの字状の蓋のようになっている部材である。その一部には、外部のインクタンクからインクを供給するための開口が設けられている(図示せず)。
【0058】
リザーバ部材5は、一定の機械的強度とインクに対する耐久性を有していればよく、特に耐熱性は要求されない。したがってリザーバ部材の組成としては、樹脂、シリコン、ガラス、金属等任意の材料を選択できる。
【0059】
リザーバ部材5を貼り合わせる前に、各圧電体素子4に対する配線を行っておく。つまり、図示しない駆動回路の各出力端子とかく圧電体素子4の上電極42とを結線し、駆動回路の接地端子と共通電極膜3とを結線しておく。その後、リザーバ部材5を、圧電体素子4を覆うように貼り合わせる。リザーバ部材5の内側は、インクのリザーバ51を形成する。貼り合わせに使用する樹脂は任意に選択することができる。
【0060】
[剥離工程(図4(F))]:
剥離工程では、第1基台10の裏側(同図では下側)から光60を照射して、剥離層11にアブレーションを生じさせて、第1基台10を剥離する。
【0061】
照射光により剥離層に生ずる層内剥離が生ずるか、界面剥離が生ずるか、または層内剥離が生ずるかは、剥離層の組成や、照射光、その他の要因により定まる。その要因としては、例えば、照射光の種類、波長、強度、到達深さ等が挙げられる。
【0062】
照射光としては、剥離層に層内剥離および/または界面剥離を起こさせるものであればいかなるものでもよく、例えば、X線、紫外線、可視光、赤外線(熱線)、レーザ光、ミリ波、マイクロ波等の各波長の電磁波が適用できる。また電子線であっても放射線(α線、β線、γ線)等であってもよい。それらの中でも、剥離層にアブレーションを生じさせ易いという点で、レーザ光が好ましい。
【0063】
このレーザ光を発生させるレーザ装置としては、各種気体レーザ、個体レーザ(半導体レーザ)等が挙げられるが、特にエキシマレーザ、Nd−YAGレーザ、アルゴンレーザ、CO2レーザ、COレーザ、He−Neレーザ等が好ましく、その中でもエシキマレーザが特に好ましい。エキシマレーザは、短波長域で高エネルギーを出力するため、極めて短時間で剥離層にアブレーションを生じさせることができる。このため隣接する層や近接する層に温度上昇を生じさせることがほとんどなく、層の劣化や損傷を可能な限り少なくして剥離を達成することができる。
【0064】
剥離層11に、アブレーションを生じる波長依存性がある場合、照射されるレーザ光の波長は、100nm〜350nm程度であることが好ましい。剥離層に、ガス放出、気化または昇華等の層変化を起こさせるためには、照射されるレーザ光の波長は、350nm〜1200nm程度であることが好ましい。
【0065】
また、照射されるレーザ光のエネルギー密度は、エキシマレーザの場合、10〜5000mJ/cm2程度とするのが好ましい。照射時間は、1〜1000nsec程度とするのが好ましく、10〜100nsec程度とするのがより好ましい。エネルギー密度が低いか照射時間が短いと、十分なアブレーションが生ぜず、エネルギー密度が高いか照射時間が長いと、剥離層や中間層を透過した照射光により、被転写層へ悪影響を及ぼすことがある。
【0066】
光の照射は、その強度が均一となるように照射するのが好ましい。光の照射方向は、剥離層に対し垂直な方向に限らず、剥離層に対し所定角傾斜した方向であってもよい。また、剥離層の面積が照射光1回の照射面積より大きい場合には、剥離層全領域に対し、複数回に分け光を照射してもよい。また、同一箇所に複数回照射してもよい。また、異なる種類、異なる波長(波長域)の光を同一領域または異なる領域に複数回照射してもよい。
【0067】
第1基台10の剥離後、共通電極膜3に剥離層の残さがある場合には、洗浄してこれを除去する。
【0068】
[貼り合わせ工程(図4(G))]:
貼り合わせ工程は、共通電極膜3に、別工程で製造した圧力室基板2を貼り合わせる工程である。圧力室基板の製造方法を、図5を参照して簡単に説明する。
【0069】
原盤製造工程(図5(A)): まず、圧力室基板2を転写するための原盤16を製造する。原盤16は、母材に、キャビティ21や共通流路23以外の領域に沿ってパターンを形成してから、所定の深さまでエッチングすることにより製造される。母材、すなわち原盤の組成は、エッチング可能であればよく、シリコンの他、ガラス、石英、樹脂、金属、セラミックスあるいはフィルム等が使用できる。パターンを形成するためのレジストには、クレゾールノボラック系樹脂に、感光剤としてジアゾナフトキノン誘導体を配合したポジ型レジスト等をそのまま適用できる。レジスト層は、スピンコート法、ディッピング法、スプレーコート法、ロールコート法、バーコート法により形成する。
【0070】
露光した後、所定の条件により現像処理すると、露光領域のレジストが選択的に除去される。この状態でさらにエッチングを施すと、側壁22に対応する部分などがエッチングされ、圧力室基板2を製造するための鋳型ができる。エッチング法としては、ウェット方式やドライ方式を選択する。母材の材質およびエッチング断面形状、エッチングレート等の諸条件に併せて適当に選択する。
【0071】
エッチング後にレジストを除去して、原盤16とする。
【0072】
なお、エッチングにおいて、エッチングの深さは、圧力室基板上に形成される側壁22等に相当する高さと同等にする。側壁の高さは、例えば、720dpiの解像度を有するインクジェット式記録ヘッドでは、約200μmに設計される。
【0073】
基板成形工程(図5(B)): 原盤16の形成後、原盤16の表面に、基板材料2bを塗布、固化させて、圧力室基板2を成形する。基板材料としては、インクジェット用の圧力室基板として要求される機械的強度や耐食性等の特性を満足するものであれば、その組成に特に限定がないが、光、熱、または光若しくは熱の双方を用いて硬化する材料であることが好ましい。このような材料を用いる場合には、汎用の露光装置やベイク炉、ホットプレートが利用でき、低コスト化と省スペース化が図れるからである。このような物質としては、例えばアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、ノボラック系樹脂、スチレン系樹脂若しくはポリイミド系等の合成樹脂、またはポリシラザン等のケイ素系ポリマが使用できる。基板材料に溶剤成分を含む場合には、熱処理により溶剤を除去する。また、基板材料として、熱可塑性物質を使用してもよい。例えば、数〜数十wt%の水分を含有した水和ガラスが好適である。
【0074】
基板材料の塗布方法には、スピンコート法、ディッピング法、スプレーコート法、ロールコート法またはバーコート法等が使用できる。
【0075】
基板剥離工程(図5(C)): 次いで、固化した基板材料2b、すなわち圧力室基板2を原盤16から剥離する。
【0076】
剥離方法としては、原盤16を固定し、圧力室基板2を吸着保持して引っ張って剥離させる。原盤と圧力室基板との密着性が高い場合には、原盤16の凹部形状を予めテーパ状に成形しておくとよい。また、剥離前に、原盤と圧力室基板との界面に光を照射して、原盤と圧力室基板との密着性を低減させ、または消失させてもよい。原盤と圧力室基板との界面において、原子間または分子間の結合力が弱まったり消失したり、さらに圧力室基板から放出された気体により分離を促進したりするからである。光は、例えばエキシマレーザ光が好ましい。光を照射する場合には、原盤16を光透過性のある材料で形成する必要がある。さらに、前述した剥離層に相当する層を、原盤16と圧力室基板2との界面に形成しておくことも好ましい。具体的には、上述した方法をそのまま適用できる。
【0077】
ノズル形成工程(図5(D)): 剥離された圧力室基板2にノズル25を形成する。
【0078】
ノズル25の成形方法には特に制限はない。例えば、リソグラフィ法、レーザ加工、FIB加工、放電加工等種々の方法が適用できる。
【0079】
以上の工程によって製造された圧力室基板2を、リザーバ部材5が貼り合わせられた共通電極膜3に貼り合わせる。圧力室基板2のノズルが設けられていない方の面と共通電極膜3とを、各キャビティ21がそれぞれ圧電体素子4に対応するように貼り合わせる。
【0080】
上記実施形態1によれば、第1基台上で圧電体素子を形成し、厚みの薄い圧力室基板を別工程で製造し、最後に圧電体素子と圧力室基板を貼り合わせるので、圧力室基板が機械的に弱いものであっても歩留まりよくインクジェット式記録ヘッドを製造できる。したがって、圧力室基板を従来より薄く成形することができるため、高解像度のインクジェット式記録ヘッドを製造することができる。
【0081】
<実施形態2>
本実施形態2は、基台に形成した圧電体素子を一旦別の基台に接着し、その後に圧力室基板を貼り合わせ、最後にリザーバ部材を貼り付けるインクジェット式記録ヘッドの製造方法に関する。
【0082】
本実施形態2において、製造されるインクジェット式記録ヘッドの構造は、上記実施形態1と同様なので説明を省略する。
(インクジェット式記録ヘッドの製造方法)
図6乃至図7を参照して本発明のインクジェット式記録ヘッドの製造方法を説明する。これらの図は、キャビティの幅方向に切断した様子を示した、インクジェット式記録ヘッドの製造工程断面図である。
【0083】
[剥離層形成工程、共通電極膜形成工程、圧電体素子形成工程(図6(A))およびエッチング工程(同図(B))]:
これらの工程については、上記実施形態1の剥離層形成工程(図3(A))、共通電極膜形成工程(同図(B))、圧電体素子形成工程(同図(C))およびエッチング工程(同図(D))とそれぞれ同様なので、その説明を省略する。
【0084】
[接着工程(図6(C))]:
接着工程は、第1基台10の圧電体素子4を形成した面と第2基台12とを接着剤を用いて接着する工程である。
【0085】
第2基台12の組成としては、上記実施形態1の第1基台10と同様なので、その説明を省略する。
【0086】
接着層13に用いる接着剤の組成としては、例えば、エポキシ系、アクリレート系、シリコーン系等いかなる接着剤でも適用することが可能である。これらの接着剤は、後述する第2剥離工程において、接着層の界面に剥離を生じさせるか層内に剥離を生じさせるかに応じて定める。
【0087】
ただし、本実施形態では光、熱または光若しくは熱の双方の付与により、接着層内部に層内剥離を生じさせる必要がある。このため、熱可塑性樹脂であるか、組成中に、―CH2−、−CO−(ケトン)、−CONH−(アド)、−NH−(イミド)、−COO−(エステル)、−N=N−(アゾ)、−CH=N−(シフ)等の結合(光の照射によりこれらの原子間結合が切断される)を有するものであることが好ましい。また、構成式中に、芳香族炭化水素(1または2以上のベンゼン環またはその縮合環)を有するものであってもよい。このような有機高分子材料の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられる。
【0088】
接着層13は、例えば塗布法によって形成される。硬化型接着剤を用いる場合は、例えば被転写層である圧電体素子4の面上に硬化型接着剤を塗布し、それに第2基台12を密着させた後、硬化型接着剤の特性に応じた硬化方法により、前記硬化型接着剤を硬化させて、被転写層と第2基台12とを接着する。
【0089】
光硬化型接着剤を用いる場合は、光硬化型接着剤を被転写層上に塗布し、光透過性の第2基台12を未硬化の接着層上に配置した後、第2基台側から硬化用の光を照射して接着剤を硬化させることが好ましい。
【0090】
なお、第2基台12側に接着層13を形成し、その上に被転写層を接着してもよい。
【0091】
[第1剥離工程(図6(D))および貼り合わせ工程(図7(E))]:
第1剥離工程および貼り合わせ工程については、上記実施形態1の剥離工程(図4(F))および貼り合わせ工程(図4(G))と同様なので、説明を省略する。圧力室基板2の製造方法についても、上記実施形態1と同様である(図5)。
【0092】
[第2剥離工程(図7(F))]:
第2剥離工程は、接着層13の層内で剥離を生じさせて第2基台12を圧力室基板2側から剥離する工程である。
【0093】
本工程では、接着層13に所定のエネルギーを加えることにより、接着層に剥離を生じさせる。接着層に熱可塑性樹脂を用いた場合には、熱可塑性樹脂の転移温度を超えた熱を全体に加えて、剥離を生じさせる。
【0094】
接着層に、光の照射により層内剥離を生じる上記材料を用いた場合には、第2基台12の上部から光を照射して、剥離を生じさせる。
【0095】
[洗浄工程(同図(G))]:
洗浄工程では、層内剥離により、圧電体素子4の周辺に残された接着剤を除去する。接着剤を除去するためには、圧電体素子や共通電極膜に影響を与えない溶剤を用いる。例えば、アセトン、イソプロピルアルコール、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ベンゼン、キシレン、クレゾール、クロロベンゼン、トルエン、酢酸ブチル、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、メチルエチルケトン、ジクロロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の溶剤を用いる。
【0096】
[リザーバ形成工程(同図(H))]:
リザーバ部材形成工程は、接着剤が除去された圧電体素子を覆ってリザーバ部材5を貼り合わせる工程である。その詳細は、上記実施形態1のリザーバ形成工程(図4(E))と同様なので、説明を省略する。
【0097】
なお、本実施形態では、接着剤の組成と剥離方法を適宜適切なものに選択することによって、圧電体素子4および共通電極膜3と、接着層13との界面で剥離を生じさせることが可能である。例えば、接着剤として、圧電体素子4および共通電極膜3との密着性より第2基台との密着性の方が大きい接着剤を選択した場合には、図8に示すように、圧電体素子4および共通電極膜3と接着層13の界面から剥離を生じさせることが可能である。このように剥離を生ずれば、洗浄工程における洗浄が簡単で済むという利点がある。
【0098】
上記したように、本実施形態2によれば、第1基台上で圧電体素子を形成し、第2基台と貼り合わせてから、第1基台を剥離する。また、厚みの薄い圧力室基板を別工程で製造し、最後に圧電体素子と圧力室基板を貼り合わせるので、圧力室基板が機械的に弱いものであっても歩留まりよくインクジェット式記録ヘッドを製造できる。したがって、圧力室基板を従来より薄く成形することができるため、高解像度のインクジェット式記録ヘッドを製造することができる。
【0099】
特に、本実施形態2によれば、第1基台を剥離する前に、圧電体素子等を第2基台に接着層により固定するので、製造工程における圧電体素子の取り扱いが容易かつ安全であるという利点を有する。
【0100】
<実施形態3>
本発明の実施形態3は、上記実施形態2における接着工程および第2剥離工程の変形例を与えるものである。
【0101】
本実施形態のインクジェット式記録ヘッドおよびその製造方法は概略上記実施形態と同様である。ただし、前記接着工程(図6(C))に先駆けて中間層14を設けて、それから第2基台12を接着する点で異なる。
【0102】
[接着工程の変形(図9(A))]:
接着工程の前に、第2基台12に中間層14を予め形成する。
【0103】
中間層14の組成としては、接着層13との界面で剥離を生じ易い組成、すなわち、接着層13との密着性が低い組成を適用する。
【0104】
例えば、接着層13にアクリレート系の接着剤を用いた場合、Ni、Cr、Ti、Al、Cu、Ag、Au、Ptの中から選ばれる一種以上の金属を含んだ組成を適用することができる。これらの金属は、一般に、アクリレート系の接着剤との密着性が低く、スパッタリング、蒸着、CVDといった真空成膜法を用いることにより制御性よく成膜できる。
【0105】
また、中間層14の組成としては、中間層14内または中間層14と第2基台12との界面での剥離を生じ易い組成を適用することができる。このような組成としては、上記した剥離層11と同様な組成の他、多孔質シリコンあるいはアルミナ等の陽極酸化膜を挙げることができる。
【0106】
[第2剥離工程の変形(同図(B))]:
接着層13から第2基台12を剥離するためには、上記した剥離層11と同様な組成の中間層14を用いた場合には、図9(B)に示すように、第2基台12側から中間層14に光(レーザ光)60を照射して剥離を生じさせる。
【0107】
さらに多孔質シリコンを用いる場合には、切削することにより中間層14の層内や中間層14と第2基台12との界面で剥離することが可能である。また陽極酸化膜を用いる場合には、切削することにより中間層14の層内で、また電界を欠けたり機械的に、例えば切削等により、中間層14の層内や中間層14と第2基台12との界面で剥離させることが可能である。圧力室基板2に残された接着層13は、溶剤処理等を用いて洗浄し除去すればよい。
【0108】
上記したように、本実施形態3によれば、中間層を設けたので、圧力室基板と第2基台とを容易に剥離させることが可能である。
【0109】
【発明の効果】
本発明によれば、厚みの薄い圧力室基板を備えたので、高解像度化に対応できるインクジェット記録ヘッドを提供することができる。
【0110】
本発明のインクジェット式記録ヘッドの製造方法によれば、厚みの薄い圧力室基板を圧電体素子とは別工程で形成させたので、製造上の歩留まりを向上させ、もって低コスト化を図ることができる。
【0111】
本発明のインクジェット式記録ヘッドの製造方法によれば、圧力室基板とは別工程で形成された圧電体素子を基台から確実に剥離させる製造方法を提供したので、製造上の歩留まりを向上させ、もって低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のインクジェットプリンタの斜視図である。
【図2】本発明のインクジェット式記録ヘッドの主要部の斜視図および一部断面図である。
【図3】実施形態1のインクジェット式記録ヘッドの製造工程断面図である。(A)は剥離層形成工程、(B)は共通電極膜形成工程、(C)は圧電体素子形成工程、(D)はエッチング工程である。
【図4】実施形態1のインクジェット式記録ヘッドの製造工程断面図である。(E)はリザーバ形成工程、(F)は剥離工程、(G)は貼り合わせ工程、および(D)は完成断面図である。
【図5】圧力室基板の製造工程断面図である。(A)は原盤製造工程、(B)は基板成形工程、(C)は剥離工程、および(D)はノズル形成工程である。
【図6】実施形態2のインクジェット式記録ヘッドの製造工程断面図である。(A)は圧電体素子形成工程、(B)はエッチング工程、(C)は接着工程、および(D)は第1剥離工程である。
【図7】実施形態2のインクジェット式記録ヘッドの製造工程断面図である。(E)は貼り合わせ工程、(F)は第2剥離工程、(G)は洗浄工程、および(H)はリザーバ形成工程である。
【図8】第2剥離工程の変形例である。
【図9】実施形態3のインクジェット式記録ヘッドの製造工程断面図である。(A)は中間層形成工程および接着工程、および(B)は第2剥離工程である。
【符号の説明】
101…インクジェット式記録ヘッド
2…圧力室基板
3…共通電極膜
4…圧電体素子
5…リザーバ部材
10…第1基台
11…剥離層
12…第2基台
13…接着層
14…中間層
Claims (2)
- インクを吐出可能なノズルを有する圧力室を、各ノズルが同一方向に開口するよう形成して構成された圧力室基板と、
前記ノズルが設けられた面と異なる前記圧力室基板の一面に、各前記圧力室を密封するように形成された共通電極膜と、
前記共通電極膜上の前記圧力室に対応する位置に各々形成された、圧電体薄膜および上電極を含む圧電体素子と、
複数の前記圧電体素子を内部に納める蓋状構造を備え、その内部がインクのリザーバを形成するリザーバ部材とを有するインクジェット式記録ヘッドであって、
前記共通電極膜が、導電率が高く圧電体素子形成時の温度に耐えられるもので形成されることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。 - 前記圧力室基板は、前記ノズルと圧力室とが同一部材により一体成形された請求項1に記載のインクジェット式記録ヘッド。
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