JP2004001394A - マルチノズルプレート及び液体噴射装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】液体噴射装置に適した量産性の高いマルチノズルプレートを提供することである。
【解決手段】エネルギー作用面に対して垂直方向に液滴を飛翔させる液滴噴射装置の噴射ヘッドに適用されるマルチノズルプレート33において、該マルチノズルプレート33はプレスによる加工を取り入れてなるステンレス箔製の単体構成のマルチノズルプレート33であって、隣接ノズル34間の距離が27μm以上であるようにした。
【選択図】 図1
【解決手段】エネルギー作用面に対して垂直方向に液滴を飛翔させる液滴噴射装置の噴射ヘッドに適用されるマルチノズルプレート33において、該マルチノズルプレート33はプレスによる加工を取り入れてなるステンレス箔製の単体構成のマルチノズルプレート33であって、隣接ノズル34間の距離が27μm以上であるようにした。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ノンインパクト記録装置の一つであるインク飛翔記録装置等で用いられるマルチノズルプレート及び液体噴射装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ノンインパクト記録法は、記録時の騒音発生が無視できる程度に小さい点で、オフィス用等として注目されている。その内、高速記録可能で、いわゆる普通紙に特別の定着処理を要せずに記録できる、いわゆるインクジェット記録法は極めて有力な方法であり、従来から種々の方式が提案され、又は既に製品化されて実用されている。
【0003】
このようなインクジェット記録法は、いわゆるインクと称される記録液体の小滴を飛翔させ、被記録体に付着させて記録を行うもので、記録液体の小滴の発生法及び小滴の飛翔方向を制御するための制御方法により、幾つかの方式に大別される。
【0004】
第1の方式は、例えば米国特許第3060429号明細書に開示されているものである。これは、Tele type方式と称され、記録液体の小滴の発生を静電吸引的に行い、発生した小滴を記録信号に応じて電界制御し、被記録体上にこの小滴を選択的に付着させて記録を行うものである。
【0005】
より詳細には、ノズルと加速電極間に電界をかけて、一様に帯電した記録液体の小滴をノズルより吐出させ、吐出した小滴を記録信号に応じて電気制御可能なように構成されたxy偏向電極間を飛翔させ、電界の強度変化によって選択的に小滴を被記録体上に付着させるものである。
【0006】
第2の方式は、例えば米国特許第3596275号明細書、米国特許第3298030号明細書等に開示されているものである。これは、Sweet方式と称され、連続振動発生法により帯電量の制御された記録液体の小滴を発生させ、この帯電量の制御された小滴を、一様電界がかけられている偏向電極間を飛翔させて、被記録体上に記録を行わせるものである。
【0007】
具体的には、ピエゾ振動素子の付設されている記録ヘッドを構成する一部であるノズルのオリフィス(吐出口)の前に記録信号が印加されるようにした帯電電極を所定距離離間させて配置し、前記ピエゾ振動素子に一定周波数の電気信号を印加することでピエゾ振動素子を機械的に振動させ、オリフィスより記録液体の小滴を吐出させる。この時、吐出する小滴には帯電電極により電荷が静電誘導され、小滴は記録信号に応じた電荷量で帯電される。帯電量の制御された小滴は、一定電界が一様にかけられている偏向電極間を飛翔する時に、付加された帯電量に応じて偏向を受け、記録信号を担う小滴のみが被記録体上に付着することになる。
【0008】
第3の方式は、例えば米国特許第3416153号明細書に開示されているものである。これは、Hertz方式と称され、ノズルとリング状の帯電電極間に電界をかけ、連続振動発生法によって、記録液体の小滴を発生霧化させて記録させる方式である。即ち、ノズルと帯電電極間にかける電界強度を記録信号に応じて変調することにより小滴の霧化状態を制御し、記録画像の階調性を出して記録させるものである。
【0009】
第4の方式は、例えば米国特許第3747120号明細書に開示されているものである。これは、Stemme 方式と称され、第1〜3の方式とは根本的に原理が異なるものである。即ち、第1〜3の方式が、何れもノズルより吐出された記録液体の小滴を、飛翔している途中で電気的に制御し、記録信号を担った小滴を選択的に被記録体上に付着させて記録を行わせるのに対し、このStemme 方式では、記録信号に応じて吐出口より記録液体の小滴を吐出飛翔させて記録するものである。
【0010】
つまり、Stemme 方式は、記録液体を吐出する吐出口を有する記録ヘッドに付設されているピエゾ振動素子に、電気的な記録信号を印加してピエゾ振動素子の機械的振動に変え、この機械的振動に従い吐出口より記録液体の小滴を吐出飛翔させて被記録体に付着させるものである。
【0011】
これらの4方式は、各々に特長を有するが、同時に、解決すべき課題点もある。まず、第1〜第3の方式は、記録液体の小滴を発生させるための直接的エネルギーが電気的エネルギーであり、かつ、小滴の偏向制御も電界制御による。よって、第1の方式は、構成上はシンプルであるが、小滴の発生に高電圧を要し、かつ、記録ヘッドのマルチノズル化が困難で高速記録には不向きである。第2の方式は、記録ヘッドのマルチノズル化が可能で高速記録に向くが、構成上複雑であり、かつ、記録液体の小滴の電気的制御が高度で困難であり、被記録体上にサテライトドットが生じやすい。第3の方式は、記録液体の小滴を霧化することにより階調性に優れた記録が可能ではあるが、他方、霧化状態の制御が困難である。また、記録画像にカブリが生ずるとか、記録ヘッドのマルチノズル化が困難で高速記録には不向きであるといった欠点がある。
【0012】
一方、第4の方式は、比較的多くの利点を持つ。まず、構成がシンプルである。また、オンデマンドで記録液体をノズルの吐出口より吐出させて記録を行うために、第1〜第3の方式のように吐出飛翔する小滴の内、画像記録に要しなかった小滴を回収する必要がない。また、第1,2の方式のように、導電性の記録液体を使用する必要はなく、記録液体の物質上の自由度が大きいといった利点を持つ。しかし、反面、記録ヘッドの加工上に問題がある、所望の共振周波数を有するピエゾ振動素子の小型化が極めて困難である等の理由から、記録ヘッドのマルチノズル化が難しい。また、ピエゾ振動素子の機械的振動という機械的エネルギーによって記録液体の小滴の吐出飛翔を行わせるので、上記のマルチノズル化の困難さと相俟って、高速記録には不向きなものとなっている。
【0013】
このように、従来法には、構成上、高速記録上、記録ヘッドのマルチノズル化上、サテライトドットの発生及び記録画像のカブリ発生等の点において、一長一短があり、その長所が発揮される用途にしか適用し得ないという制約を受けるものである。
【0014】
しかし、このような不都合も本出願人により提案された特公昭56−9429号公報に開示のインクジェット記録方式によればほぼ解消し得る。これは、液室内のインクを加熱して気泡を発生させて、インクに圧力上昇を生じさせ、微細な毛細管ノズルからインクを飛び出させて記録させるものである。
【0015】
同様な記録方式として、特公昭61−59914号公報に開示されたものもある。これは、液体を所定の方向に吐出させるための吐出口に連通する液路中の液体の一部を熱して膜沸騰を生起させることにより、吐出口より吐出される液体の飛翔的液滴を形成し、この液滴を被記録体に付着させて記録させるものである。具体的には、同公報中の第1図及び第2図に示されるように、ノズル状の液路部分に設けられた熱作用部分において、記録液体が急激な状態変化を受けることにより、その状態変化に基づく作用力により、記録液体が吐出口より吐出飛翔するようにしたものである。
【0016】
この方式の原理を図7を参照して説明する。まず、同図(a)は定常状態を示し、オリフィス面でインク1の表面張力と外圧とが平衡状態にある。同図(b)はヒータ2に加熱され、このヒータ2の表面温度が急上昇し、隣接インク層に沸騰現象が起きるまで加熱され、微小気泡3が点在している状態にある。同図(c)はヒータ2の全面で急激に加熱された隣接インク層が瞬時に気化し、沸騰膜を作り、この気泡3が成長した状態にある。この時、ノズル4内の圧力は気泡3の成長した分だけ上昇し、オリフィス面での外圧とのバランスがくずれ、オリフィス面よりインク柱5が成長し始める。同図(d)は気泡3が最大に成長した状態であり、オリフィス面より気泡3の体積に相当する分のインク1が押出される。この時、ヒータ2には電流が流れていない状態にあり、ヒータ2の表面温度は低下しつつある。気泡3の体積の最大値は電気パルス印加のタイミングからやや遅れたものとなる。同図(e)は気泡3がインク1などにより冷却されて収縮を開始し始めた様子を示す。インク柱5の先端部では押出された速度を保ちつつ前進し、後端部では気泡3の収縮に伴ってノズル内圧の減少によりオリフィス面からノズル内へインク1が逆流しインク柱5にくびれが生じている。同図(f)はさらに気泡3が収縮し、ヒータ2面にインク1が接し、ヒータ2面がさらに急激に冷却される状態にある。オリフィス面では、外圧がノズル内圧より高い状態になるためメニスカスが大きくノズル内に入り込んできている。インク柱5の先端部は液滴となって記録紙の方向に5〜10m/秒の速度で飛翔している。同図(g)ではオリフィスにインク1が毛細管現象により再びリフィルされて、同図(a)の状態に戻る過程を示し、気泡は完全に消滅している。
【0017】
図8はこのような動作を示すバブルジェット型インクジェット記録ヘッド6の一部を切欠いて示す斜視図であり、一般にエッジ・シュータ(Edge Shooter)と称される。
【0018】
このようなエッジ・シュータに対し、図9はサイド・シュータ(Side Shooter)と称される記録ヘッド7の一部を切欠いて示す斜視図であり、図10はその動作原理を図7に準じて示すものである。
【0019】
この方式の特徴は、図7(b)〜(d)又は図10(b)〜(c)の過程で、膜沸騰現象を利用している点にある。よって、記録手段として応用し得るためには、如何に規則的に膜気泡の発生、消滅をコントロールできるかにかかっている。一般に、膜沸騰現象は、▲1▼高温に加熱された物体を液体中に漬けたとき、▲2▼液体と接する物体の表面温度を急激に上げたとき、に生じる。ヒータ2上で膜沸騰現象を再現させるためには▲2▼の方法を用いることになる。
【0020】
ここに、図11にヒータ2に印加するパルス幅と気泡3の発生する様子を示す。10μ秒以下程度の極く短いパルスを与えると、ヒータ2が急激に加熱されて予め存在する発泡核が活性化する前に、インクが加熱限界に到達し、図11(a)に示すようなきれいな膜気泡3aが得られる。この気泡は、計算では15kg/cm2 程度の内圧を持って断熱膨張し、インクをノズル外に押し出す。気泡が最大になる時点では加熱を停止しており、熱を奪われた蒸気泡は自然と消滅する。加熱を徐々に行うと、ヒータ2面に存在する発泡核から、通常の沸騰が始まり、図11(b)中に示すような不特定な気泡3bや固定泡3cが発生し、繰返し特性、泡の大きさや消滅のコントロールが効かないものとなる。このような膜沸騰をヒータ表面で実現することにより、バブルの大きさが均一で安定したものとなり(常に同じ大きさのバブルが同じタイミングで出現する)、かつ、インクへの熱損失が少ないもの(インクがあまり加熱されないので冷却手段を必要としない)となる。また、バブルが最大体積に達した時、既にバブル周辺のインクは冷たくなっているので、気泡は急激に収縮し、周波数応答性がよく、高速でバブルの発生・消滅を繰返し得るものとなる。このようにオン・デマンド型インクジェットの吐出原動力として理想的な手段となり得る。また、この方式によれば、バブルの大きさが吐出特性を左右する要因であり、原理から明らかなようにバブルの大きさが電圧によらないことがこのような特性を持たせているものである。バブルの大きさはヒータ2のサイズ、ノズル構造で決まる。従って、一度設計値を決定すると、安定したドットを得ることが可能になり、デジタル型の記録手段として最適なものとなる。
【0021】
ところで、このようなインクジェット記録ヘッドに使用するノズル吐出口は、上記特公昭61−59914号公報中の説明によれば、内径100μm、肉厚10μmの円筒状ガラスファイバーを熱溶融させることにより、60μm径の吐出口として形成される。また、吐出口を液路とは別に形成した後、例えばガラスプレートに電子ビーム加工やレーザ加工等によって穴を形成し、液路と合体させる方式も記載されている。何れにしても、このような微細な吐出口を工業的に安定して高精度に形成することは非常に困難である。
【0022】
また、同公報によれば、別の吐出口を有する記録ヘッドが同公報中の第3図、第4図及び第5図に開示されており、その吐出口の形成方法として、ガラス板に微細カッティング機により幅60μm、深さ60μm、ピッチ250μmの溝を形成した溝板を、電気・熱変換体部の設けられた基板に接着することが記載されている。しかし、この場合も形成すべき吐出口は非常に微細であり、微細カッティング機で溝を形成する際に、欠けやクラックが入ることが多々あり、歩留まりの低いものである。また、形成された吐出口も、その欠け等により、その端部を高精度にできないものでもある。
【0023】
ところで、同公報中の第3図、第4図及び第5図に示される記録ヘッドの、より具体的な製造方法は、特開昭55−128471号公報、特公昭59−43314号公報に開示されている。特開昭55−128471号公報のものは、細孔からなる記録液流路を有し、この細孔に通じている吐出口から記録液流路中にある記録液を小滴にして吐出飛翔させ、被記録体面上に付着させて記録する記録ヘッドであり、吐出口を所定数並設させるとともに、これと同数の細孔を吐出口の配列密度とほぼ同密度で並列に配設させたものである。また、特公昭59−43314号公報のものは、記録液流路となる細孔と、この細孔に通じている所定口径dの開口と、細孔に沿って設けられた発熱部とを具備した液滴噴射記録装置において、発熱部がその開口寄りの縁が開口位置からdないし50dなる寸法の範囲内に位置するように配設させたものである。さらには、発熱部が細孔の長手方向に長尺な面状発熱体よりなることも記載されている。
【0024】
ここに、これらの特開昭55−128471号公報、特公昭59−43314号公報に記載された記録ヘッドの製造方法は、要約すると、感光性ガラスを用いた細溝を有する部品と、発熱抵抗体パターンを形成した部品とを、接着することにより吐出オリフィスを形成するものである。即ち、前述した特公昭61−59914号公報記載のものとは、感光性ガラスのエッチングにより細溝を形成する点で異なるが、何れも数10μmという非常に微細な吐出口又はオリフィスを使用する点において共通する。つまり、微細なオリフィスは、通常30〜50μm程度の大きさ(形状的には、必ずしも丸に限らず、角形もある)である。
【0025】
【発明が解決しようとする課題】
このように、従来の種々のサーマルインクジェット(いわゆるバブルジェット(登録商標))においても、それ以前のインクジェット技術に対しては構成上のシンプル化、高密度化、マルチノズル化の容易性等の点で優位性を発揮し得るものの、現実のヘッド作製等の点においてその量産性や低コスト化を考えると、必ずしも満足できるものではない。
【0026】
そこで、本発明は、このような欠点を持たない、従来と全く異なる新規なマルチノズルプレート及び液体記録装置を提供することを目的とする。
【0027】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明では、エネルギー作用面に対して垂直方向に液滴を飛翔させる液滴噴射装置の噴射ヘッドに適用されるマルチノズルプレートにおいて、該マルチノズルプレートはプレスによる加工を取り入れてなるステンレス箔製の単体構成のマルチノズルプレートであって、隣接ノズル間の距離が27μm以上であるようにした。
請求項2記載の発明では、エネルギー作用面に対して垂直方向に液滴を飛翔させ、該液滴の飛翔速度が3m/s以上の液体噴射装置の噴射ヘッドに適用されるマルチノズルプレートにおいて、該マルチノズルプレートはプレスによる加工を取り入れてなるステンレス箔製の単体構成のマルチノズルプレートであって、ノズル部分の厚さが30〜220μmであるようにした。
請求項3記載の発明では、請求項1又は2記載のマルチノズルプレートを具備してなることを特徴とする液体噴射装置とした。
【0028】
従って、ステンレス箔によるマルチノズルプレートを量産性よく低コストで作製できる。特に、ノズル部分の厚さや隣接ノズル間の距離を所定の適正値に設定することにより、プレスによる加工時の変形を防止でき、実用的なマルチノズルプレートを作製できることになる。
【0029】
【発明の実施の形態】
本発明の一実施の形態を図1ないし図6に基づいて説明する。図1は本実施の形態による液体飛翔記録ヘッド21の構成を示す分解斜視図、図2はその完成図である。まず、発熱体基板22上にはエネルギー作用部として機能する複数個の発熱体23が1列に設けられ、個別の制御電極24と共通な共通電極25とが電気的に接続されて設けられている。これらの電極24,25の端部は発熱体基板22の同一サイドに引出され、各々ボンディングパッド26,27とされている。また、発熱体23の並び方向に位置させて前記発熱体基板22には記録液体となるインク28用のインク導入口29が貫通形成され、フィルタ30を通してインク導入チューブ31に連結されている。また、発熱体基板22上にはこれらの発熱体23、インク導入口29をカバーし得る大きさに形成されて液室を形成する液体保持手段として機能する矩形枠状のスペーサ32が設けられている。さらに、このスペーサ32上面を覆う長方形状のマルチノズルプレートである開口形成部材33が設けられている。この開口形成部材33には各発熱部23に対応させた位置にノズルである開口34が形成されている。
【0030】
なお、これらの各図では、説明を簡単にするため、必要に応じて簡略化して構造等を図示するものであり、いくつかの省略点、誇張点を持つものである。例えば、発熱体基板22には発熱体23や電極24,25の他に蓄熱層、保護膜等が設けられているが、ここでは図示を省略し、後述するものとした。また、発熱体23と開口34との対は図示例では3個だけとしたが、実際には多数設けられるものであり、例えばローエンドシリアルプリンタの例で64〜256個設けられ、ハイエンドマルチプリンタの例では2000〜4000個設けられる。また、発熱体23等の数が多くなるに伴い、インク導入口29の数も増やされ、或いは、開口面積が大きくされる。このようなインク導入口29は例えばシリコン等による発熱体基板22の場合であれば、レーザビーム加工或いはエッチングにより容易に形成できる。また、図示例の各部の寸法比率は判りやすさを優先させてあり、必ずしも現実に即したものではない。
【0031】
以下、各部の構成・製造方法等を個別に説明する。まず、発熱体基板22の構造及びその製造方法を図3を参照して説明する。本実施の形態において、発熱体基板22は重要なパーツの一つである。この発熱体基板22自体は例えばガラス、アルミナ(Al2O3)、シリコン等の材質によるものが用いられる。この基板22上に形成される蓄熱層41は例えばSiO2 層よりなり、ガラス又はアルミナ基板の場合であればスパッタリング法等の薄膜形成法により形成され、シリコン基板の場合には熱酸化法によって形成される。蓄熱層41の膜厚としては1〜5μm程度がよい。発熱体23を構成する材料としては、例えばタンタル‐SiO2 の混合物、窒化タンタル、ニクロム、銀‐パラジウム合金、シリコン半導体、或いは、ハフニウム、ランタン、ジルコニウム、チタン、タンタル、タングステン、モリブデン、ニオブ、クロム、バナジウム等の金属の硼化物が使用可能である。これらの内、金属の硼化物が特に好ましく、その中でも、硼化ハフニウムが最も特性的に好ましく、次いで、硼化ジルコニウム、硼化ランタン、硼化タンタル、硼化バナジウム、硼化ニオブの順に好ましいものとなる。発熱体23はこのような材料を用い、電子ビーム法、蒸着法、スパッタリング法等により形成される。膜厚は単位時間当たりの発熱量が所望値となるように、その面積、材質、熱作用部分の形状及び大きさ、実際面での消費電力等に応じて適宜設定されるが、通常は0.001〜5μm程度、好ましくは0.01〜1μm程度の膜厚とされる。
【0032】
制御電極24や共通電極25の材料としては、通常の電極材料と同じでよく、例えば、Al,Ag,Au,Pt,Cu等が用いられる。これらは蒸着法等により、所定位置に所定の大きさ、形状、膜厚で形成される。保護層42は発熱体23で発生した熱を効果的にインク19側に伝達させることを妨げずに発熱体23を保護するためのものであり、材料としては、酸化シリコン(SiO2 )、窒化シリコン、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化ジルコニウム等が用いられる。製法は、電子ビーム法、蒸着法、スパッタリング法等による。膜厚は、通常0.01〜10μm、好ましくは0.1〜5μm(中でも、0.1〜3μmが最適)とされる。保護層42はこれらの材料を用いて1層又は複数層構造で形成されるが、これらの層の他に、気泡20が収縮・消滅する際に発生するキャビテーション作用からヒータ部9を保護するためにTa等の金属層を表面に形成するのが望ましい。具体的には、Taなどの金属層を膜厚0.05〜1μm程度で形成すればよい。
【0033】
電極保護層43の材料としては、例えばポリイミドイソインドロキナゾリンジオン(商品名:PIQ,日立化成社製)、ポリイミド樹脂(商品名:PYRALIN,デュポン社製)、環化ポリブタジエン(商品名:JSR‐CBR,日本合成ゴム社製)、フォトニース(商品名:東レ社製)、その他の感光性ポリイミド樹脂等が用いられる。
【0034】
インク19中で気泡20を発生させるエネルギー作用部としては、発熱体層14を持つヒータ部9によるジュール熱加熱法に限らず、例えば、パルスレーザ又は放電を利用したエネルギー作用方式であってもよい。
【0035】
例えば、パルスレーザ方式は、特開平1−184148号公報中の第8図方式等に準じたものでよい。即ち、レーザ発振器より発生させたレーザ光を、光変調器駆動回路に入力されて電気的に処理され出力される画情報信号に従って、光変調器においてパルス変調させる。パルス変調されたレーザ光を走査器を通し集光レンズにより熱エネルギー作用部の外壁に焦点が合うように集光させ、記録ヘッドの外壁を加熱し、内部のインク内で気泡を発生させる。或いは、熱エネルギー作用部の外壁を、レーザ光に対して透過性材料により形成し、集光レンズによって内部のインクに焦点が合うように集光させてインクを直接熱して気泡を発生させるようにしてもよい。実際的なレーザ光を利用する構成としては、同公報中の第9図に準じて構成すればよい。
【0036】
また、放電方式も、同公報中の第10図方式に準じたものでよい。即ち、熱エネルギー作用部の内壁側に配置させた一対の放電電極に放電装置から高電圧パルスを印加することにより、インク中で放電を生じさせ、この放電により発生する熱で瞬時に気泡を発生させるものである。放電電極の形状は、同公報中の第11図ないし第18図に例示されるような各種形状を適宜用いればよい。
【0037】
ついで、スペーサ32について説明する。このスペーサ32は発熱体基板22と開口形成部材33との間に位置して、両者を平行に保ち、かつ、両者間の距離を所望値に保って液室を形成するためのものである。ここに、発熱体基板22と開口形成部材33との間の距離は、両者間に保持されるインク層の厚さを決定するものであり、重要な要素となる。図1においては、説明を簡単にするため、スペーサ32を単体として示したが、実際には、次のように形成される。即ち、発熱体基板22上にドライフィルムフォトレジストをラミネートし、この発熱体基板22の外周部にのみドライフィルムフォトレジストが残るような形状としたフォトマスクを用い、露光・現像によって、所望のパターンに形成される。ドライフィルムフォトレジストとして、例えばオーディルSY325(東京応化工業社製)を利用すれば、厚さ25μmのスペーサ32を形成できる。この他、50μmの厚さのドライフィルムフォトレジストを用いれば、50μmの厚さのスペーサ32を形成できる。ドライフィルムフォトレジストは通常は50μm、25μm、20μmというような厚さで供給されるため、その厚さがそのまま所望の厚さであればそのようなドライフィルムフォトレジストを用いればよいが、所望の厚さのものがない場合には、高粘度の液状フォトレジストを用いればよい。このような液状フォトレジストとしては、例えばBMRS1000(東京応化工業社製)が用いられる。粘度1000cpのBMRS1000をスピンコーティングにより発熱体基板22上に塗布する場合、500〜1000rpmの回転数で10〜40μmの厚さとすることができる。即ち、ドライフィルムフォトレジストと異なり、スピナーの回転数を適宜設定することにより40μm以下の厚さにおいて任意の膜厚に形成できるものである。
【0038】
また、ドライフィルムフォトレジストを用いる場合も、液状フォトレジストを用いる場合も、現像後に紫外線照射による硬化、或いは熱硬化を行うが、このような硬化作業前の未硬化ないしは半硬化の状態において、開口形成部材33を現像後のレジスト(=スペーサ32)上に押し当て、加熱・加圧することにより、この開口形成部材33の接合を容易に行うことができる。また、このような接合時の加熱を、硬化用の加熱と同時に行うようにすることもできる。
【0039】
なお、上記の説明では、スペーサ32としてフォトレジストを用いた例のみを示したが、必ずしもフォトレジストを利用するものに限られず、例えば、樹脂状のフィルムを打ち抜いたり、金属箔を打ち抜いたり、エッチング等により形成するようにしてもよい。
【0040】
次に、開口形成部材33及び開口34について説明する。本実施の形態の開口形成部材33には開口34が形成されている。図4中、70は厚さ50〜100μmのステンレス箔をロール状に巻いたものであり、パンチステーション(打抜き機)71を通して開口34を形成するものである。72はバリ取り機、73は洗浄機である。このようなステンレス箔70にプレスによる加工を取り入れることにより低コストで自動化されたラインにより製造できる。開口34間の距離Lは、隣接する発熱体23間距離と同じとされる。このように自動化されたラインにより製造された開口形成後のステンレス箔70は必要に応じてカットされて使用されるが、記録紙幅全域をカバーし得るような、いわゆるフルマルチ型の開口形成部材33を容易に形成し得るものとなる。
【0041】
もっとも、開口形成部材33としては、例えば、フォトファブリケーション法により作製することも可能である。例えば、図5に示すようなフォトエッチング法により形成することも可能である。同図(a)は前処理工程を示し、両面を研磨したステンレス箔61を基板として用意し、酸62により表面を軽くエッチングする。同図(b)はレジスト塗布工程を示し、液状フォトレジスト63をステンレス箔61の両面に塗布する。塗布方法としては、図示例のように上から下へ液状フォトレジスト63を流すようにする方法の他、例えば、ディッピング法等が適宜用いられる。同図(c)は露光工程を示し、プリベーキングによりフォトレジスト63中の溶剤成分を乾燥させた後、図示のように所望のパターンを有するエマルジョンマスク64をステンレス箔61の両面から位置が合うように整合させてセットし、光源65より紫外線を照射し露光する。同図(d)は現像工程を示し、フォトレジスト63としてネガ型を用いた場合であれば、紫外線照射を受けた部分が硬化し、紫外線照射を受けない部分は現像液により流されるので、ステンレス箔61上には所望のパターンのフォトレジスト63が残ることになる。その後、ポストベーキングによりこのレジストパターンを硬化させる。同図(e)はエッチング工程を示す。まず、スプレノズル66から噴出するエッチング液67によって、フォトレジスト63で覆われていない部分(ステンレス面)は腐食される。このような腐食がステンレス箔61の両面からほぼ同時に進行し、その板厚の中心部で腐食穴が貫通し開口が形成される。同図(f)は剥離工程を示し、エッチング後のステンレス箔61を剥離液68に浸すことにより不要なフォトレジスト63が除去され、開口34を有する開口形成部材33が得られる。
【0042】
さらに、別の開口形成部材33の製造方法を説明する。例えば、樹脂による成形加工法を利用できる。この場合、材料としては、耐インク性に優れたポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンオキサイド、ポリプロピレンなどが用いられる。開口34(例えば、円形開口とする)を形成する際、開口形成部材33を成形するための金型内に円形型スライド駒を開口形成部分に配置させ、樹脂を充填させ硬化させた後、駒をスライドさせて逃がすことにより、金型内で形成される。このような成形機は市販の射出成形機を用いるが、形状を精度よく転写させるため射出圧力2000kg/cm2 以上の能力を有する成形機を用いるのがよい。また、プラスチックの流動性を高めるため、シリンダ温度は400℃以上に加熱される。金型は図1に示したような開口形成部材33と対になる形状の金型を用いる。また、転写性をよくするため、金型を材料の熱変形温度以上に加熱できるようにヒータ、熱媒体等を金型内に設けるのがよい。なお、金型の樹脂充填部を真空ポンプ等により減圧し、転写性を高めるようにしてもよい。
【0043】
さらに、開口形成部材33の別の製造方法として、エキシマレーザ法を説明する。この場合、開口形成部材33の材料としては、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンオキサイド、ポリプロピレン等が用いられる。まず、予め最終形状となるような外形寸法とした上記材料等による樹脂プレートを用意し(例えば、5mm×20mm×0.05mm)、最終的な開口寸法と同じ寸法の開口を有するメカニカルマスクを介してエキシマレーザ装置により紫外線を照射し、メカニカルマスクの開口部に露出している樹脂部を除去・蒸発させることにより、樹脂板に開口を形成するというものである。前述した各例では、最終的に得られる開口形成部材33が図1に示したようなプレート状のものだけであるが、このエキシマレーザ方式による場合には、樹脂部を容易に除去・蒸発させることができるので、必ずしもプレート状の樹脂に開口をあけ、これを図1に示したようにアセンブルするという方法とする必要はない。例えば、図2に示すようにアセンブリし終わった状態(開口はまだ形成されていないものとする)で、後からエキシマレーザ装置により開口形成部材33に開口34を形成することも可能である。このような方法によれば、例えば透明樹脂を用いると下部の発熱体23側を見ることができるため、エキシマレーザによって形成される開口中心軸とそれに対応する発熱体23の中心軸とを精度よく合せることができる。
【0044】
次に、各開口34間の距離について検討する。表1は、前述したような各種製造方法により形成された開口形成部材33の開口34間の距離x(図6参照)を変えたものを試作し、前述のような発熱体基板22上に取付け、隣接する2個の発熱体23を同時に駆動させた場合の飛翔滴38の挙動を観察した結果を示す。開口形成部材33は厚さ50μmのものとされ、開口34の径は250μmとされ、発熱体23の駆動条件は、インクとしてはヒューレットパッカード社製のDesk Jet用インクと同等の物性を持つビークル(インクから染料成分を除去した無色透明染体)を使用し、発熱体23に入力させる信号パルス幅は6μ秒、連続駆動周波数は1kHzとした。
【0045】
【表1】
【0046】
表1において、製作可否蘭の判定「○」はほぼ良好なる開口34を形成できた場合を示し、判定「×」は開口間距離xが小さ過ぎて精度のよい開口を形成できなかった場合を示す。また、飛翔性能蘭の判定「○」は飛翔が良好に行われた場合を示す。判定「×」は飛翔滴38が直進せず飛翔方向が乱れてしまった場合を示す。
【0047】
この表1に示す結果によれば、本実施の形態で用いているステンレス箔70の打ち抜きを利用した加工による開口形成部材33の場合であれば、隣接開口間距離xが27μm以上であればよいことが判る。
【0048】
また、同じ開口形成方法を用い、開口形成部材33の厚さを変えた場合について表2を参照して検討する。ただし、ここでは開口径を250μmとした。また、発熱体23の駆動条件等は全て表1に対する実験例と同じとした。
【0049】
【表2】
【0050】
表2において、製作可否蘭の判定「○」はほぼ良好なる開口34を形成できた場合を示し、判定「×」は良好なる開口を形成できなかった場合を示す。また、飛翔性能蘭の判定「○」は飛翔速度として6m/秒以上の高速性が得られた場合を示し、判定「△」は3〜5m/秒程度の比較的遅い飛翔速度となった場合を示し、「判定「×」は飛翔しなかった場合を示す。
【0051】
表2に示す結果によれば、開口34付近の開口形成部材33の厚さはある程度厚くても開口34を形成し得る。しかし、より好ましくは、特に、本実施の形態で用いているステンレス箔70の打ち抜きを利用した加工による開口形成部材33の場合であれば、開口34付近の厚さは30〜220μmの範囲内がよいことが判る。
【0052】
次に、インク28の組成等について説明する。本実施の形態で使用されるインク28は、所定の熱物性値及びその他の物性値を有するように、材料の選択と組成成分の比が調合されること、従来から使用されているインクと同様に化学的・物理的に安定であること、応答性、忠実性、曳糸化能に優れていること、液路において固まらないこと、液路中を記録速度に応じた速度で流通し得ること、記録後に被記録体への定着が速やかであること、記録濃度が十分であること、貯蔵寿命が良好であること、等の特性を満足し得るように物性が調整される。具体的には、上記特開平1−184148号公報の明細書第34頁ないし第49頁に例示されるような特性のインクを、本発明でも使用すればよい。
【0053】
【発明の効果】
本発明によれば、ステンレス箔のプレスによる加工を取り入れることにより単体構成のマルチノズルプレートを量産性よく低コストで作製でき、特に、ノズル部分の厚さを30〜220μm、または、隣接ノズル間の距離を27μm以上に設定することにより、プレスによる加工時の変形を防止でき、実用的な単体構成のマルチノズルプレートを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態のヘッドの分解斜視図である。
【図2】ヘッドの斜視図である。
【図3】発熱体基板構成を示す断面図である。
【図4】開口形成部材の打抜きを利用した加工法を示す斜視図である。
【図5】開口形成部材のフォトエッチング製法の工程を順に示す説明図である。
【図6】開口形成部材の平面図である。
【図7】従来のインク飛翔原理を示す工程断面図である。
【図8】そのヘッド構造を示す斜視図である。
【図9】別のヘッド構造を示す斜視図である。
【図10】その飛翔原理を示す工程断面図である。
【図11】気泡発生状況を示す説明図である。
【符号の説明】
33 マルチノズルプレート
34 ノズル
70 ステンレス箔
【発明の属する技術分野】
本発明は、ノンインパクト記録装置の一つであるインク飛翔記録装置等で用いられるマルチノズルプレート及び液体噴射装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ノンインパクト記録法は、記録時の騒音発生が無視できる程度に小さい点で、オフィス用等として注目されている。その内、高速記録可能で、いわゆる普通紙に特別の定着処理を要せずに記録できる、いわゆるインクジェット記録法は極めて有力な方法であり、従来から種々の方式が提案され、又は既に製品化されて実用されている。
【0003】
このようなインクジェット記録法は、いわゆるインクと称される記録液体の小滴を飛翔させ、被記録体に付着させて記録を行うもので、記録液体の小滴の発生法及び小滴の飛翔方向を制御するための制御方法により、幾つかの方式に大別される。
【0004】
第1の方式は、例えば米国特許第3060429号明細書に開示されているものである。これは、Tele type方式と称され、記録液体の小滴の発生を静電吸引的に行い、発生した小滴を記録信号に応じて電界制御し、被記録体上にこの小滴を選択的に付着させて記録を行うものである。
【0005】
より詳細には、ノズルと加速電極間に電界をかけて、一様に帯電した記録液体の小滴をノズルより吐出させ、吐出した小滴を記録信号に応じて電気制御可能なように構成されたxy偏向電極間を飛翔させ、電界の強度変化によって選択的に小滴を被記録体上に付着させるものである。
【0006】
第2の方式は、例えば米国特許第3596275号明細書、米国特許第3298030号明細書等に開示されているものである。これは、Sweet方式と称され、連続振動発生法により帯電量の制御された記録液体の小滴を発生させ、この帯電量の制御された小滴を、一様電界がかけられている偏向電極間を飛翔させて、被記録体上に記録を行わせるものである。
【0007】
具体的には、ピエゾ振動素子の付設されている記録ヘッドを構成する一部であるノズルのオリフィス(吐出口)の前に記録信号が印加されるようにした帯電電極を所定距離離間させて配置し、前記ピエゾ振動素子に一定周波数の電気信号を印加することでピエゾ振動素子を機械的に振動させ、オリフィスより記録液体の小滴を吐出させる。この時、吐出する小滴には帯電電極により電荷が静電誘導され、小滴は記録信号に応じた電荷量で帯電される。帯電量の制御された小滴は、一定電界が一様にかけられている偏向電極間を飛翔する時に、付加された帯電量に応じて偏向を受け、記録信号を担う小滴のみが被記録体上に付着することになる。
【0008】
第3の方式は、例えば米国特許第3416153号明細書に開示されているものである。これは、Hertz方式と称され、ノズルとリング状の帯電電極間に電界をかけ、連続振動発生法によって、記録液体の小滴を発生霧化させて記録させる方式である。即ち、ノズルと帯電電極間にかける電界強度を記録信号に応じて変調することにより小滴の霧化状態を制御し、記録画像の階調性を出して記録させるものである。
【0009】
第4の方式は、例えば米国特許第3747120号明細書に開示されているものである。これは、Stemme 方式と称され、第1〜3の方式とは根本的に原理が異なるものである。即ち、第1〜3の方式が、何れもノズルより吐出された記録液体の小滴を、飛翔している途中で電気的に制御し、記録信号を担った小滴を選択的に被記録体上に付着させて記録を行わせるのに対し、このStemme 方式では、記録信号に応じて吐出口より記録液体の小滴を吐出飛翔させて記録するものである。
【0010】
つまり、Stemme 方式は、記録液体を吐出する吐出口を有する記録ヘッドに付設されているピエゾ振動素子に、電気的な記録信号を印加してピエゾ振動素子の機械的振動に変え、この機械的振動に従い吐出口より記録液体の小滴を吐出飛翔させて被記録体に付着させるものである。
【0011】
これらの4方式は、各々に特長を有するが、同時に、解決すべき課題点もある。まず、第1〜第3の方式は、記録液体の小滴を発生させるための直接的エネルギーが電気的エネルギーであり、かつ、小滴の偏向制御も電界制御による。よって、第1の方式は、構成上はシンプルであるが、小滴の発生に高電圧を要し、かつ、記録ヘッドのマルチノズル化が困難で高速記録には不向きである。第2の方式は、記録ヘッドのマルチノズル化が可能で高速記録に向くが、構成上複雑であり、かつ、記録液体の小滴の電気的制御が高度で困難であり、被記録体上にサテライトドットが生じやすい。第3の方式は、記録液体の小滴を霧化することにより階調性に優れた記録が可能ではあるが、他方、霧化状態の制御が困難である。また、記録画像にカブリが生ずるとか、記録ヘッドのマルチノズル化が困難で高速記録には不向きであるといった欠点がある。
【0012】
一方、第4の方式は、比較的多くの利点を持つ。まず、構成がシンプルである。また、オンデマンドで記録液体をノズルの吐出口より吐出させて記録を行うために、第1〜第3の方式のように吐出飛翔する小滴の内、画像記録に要しなかった小滴を回収する必要がない。また、第1,2の方式のように、導電性の記録液体を使用する必要はなく、記録液体の物質上の自由度が大きいといった利点を持つ。しかし、反面、記録ヘッドの加工上に問題がある、所望の共振周波数を有するピエゾ振動素子の小型化が極めて困難である等の理由から、記録ヘッドのマルチノズル化が難しい。また、ピエゾ振動素子の機械的振動という機械的エネルギーによって記録液体の小滴の吐出飛翔を行わせるので、上記のマルチノズル化の困難さと相俟って、高速記録には不向きなものとなっている。
【0013】
このように、従来法には、構成上、高速記録上、記録ヘッドのマルチノズル化上、サテライトドットの発生及び記録画像のカブリ発生等の点において、一長一短があり、その長所が発揮される用途にしか適用し得ないという制約を受けるものである。
【0014】
しかし、このような不都合も本出願人により提案された特公昭56−9429号公報に開示のインクジェット記録方式によればほぼ解消し得る。これは、液室内のインクを加熱して気泡を発生させて、インクに圧力上昇を生じさせ、微細な毛細管ノズルからインクを飛び出させて記録させるものである。
【0015】
同様な記録方式として、特公昭61−59914号公報に開示されたものもある。これは、液体を所定の方向に吐出させるための吐出口に連通する液路中の液体の一部を熱して膜沸騰を生起させることにより、吐出口より吐出される液体の飛翔的液滴を形成し、この液滴を被記録体に付着させて記録させるものである。具体的には、同公報中の第1図及び第2図に示されるように、ノズル状の液路部分に設けられた熱作用部分において、記録液体が急激な状態変化を受けることにより、その状態変化に基づく作用力により、記録液体が吐出口より吐出飛翔するようにしたものである。
【0016】
この方式の原理を図7を参照して説明する。まず、同図(a)は定常状態を示し、オリフィス面でインク1の表面張力と外圧とが平衡状態にある。同図(b)はヒータ2に加熱され、このヒータ2の表面温度が急上昇し、隣接インク層に沸騰現象が起きるまで加熱され、微小気泡3が点在している状態にある。同図(c)はヒータ2の全面で急激に加熱された隣接インク層が瞬時に気化し、沸騰膜を作り、この気泡3が成長した状態にある。この時、ノズル4内の圧力は気泡3の成長した分だけ上昇し、オリフィス面での外圧とのバランスがくずれ、オリフィス面よりインク柱5が成長し始める。同図(d)は気泡3が最大に成長した状態であり、オリフィス面より気泡3の体積に相当する分のインク1が押出される。この時、ヒータ2には電流が流れていない状態にあり、ヒータ2の表面温度は低下しつつある。気泡3の体積の最大値は電気パルス印加のタイミングからやや遅れたものとなる。同図(e)は気泡3がインク1などにより冷却されて収縮を開始し始めた様子を示す。インク柱5の先端部では押出された速度を保ちつつ前進し、後端部では気泡3の収縮に伴ってノズル内圧の減少によりオリフィス面からノズル内へインク1が逆流しインク柱5にくびれが生じている。同図(f)はさらに気泡3が収縮し、ヒータ2面にインク1が接し、ヒータ2面がさらに急激に冷却される状態にある。オリフィス面では、外圧がノズル内圧より高い状態になるためメニスカスが大きくノズル内に入り込んできている。インク柱5の先端部は液滴となって記録紙の方向に5〜10m/秒の速度で飛翔している。同図(g)ではオリフィスにインク1が毛細管現象により再びリフィルされて、同図(a)の状態に戻る過程を示し、気泡は完全に消滅している。
【0017】
図8はこのような動作を示すバブルジェット型インクジェット記録ヘッド6の一部を切欠いて示す斜視図であり、一般にエッジ・シュータ(Edge Shooter)と称される。
【0018】
このようなエッジ・シュータに対し、図9はサイド・シュータ(Side Shooter)と称される記録ヘッド7の一部を切欠いて示す斜視図であり、図10はその動作原理を図7に準じて示すものである。
【0019】
この方式の特徴は、図7(b)〜(d)又は図10(b)〜(c)の過程で、膜沸騰現象を利用している点にある。よって、記録手段として応用し得るためには、如何に規則的に膜気泡の発生、消滅をコントロールできるかにかかっている。一般に、膜沸騰現象は、▲1▼高温に加熱された物体を液体中に漬けたとき、▲2▼液体と接する物体の表面温度を急激に上げたとき、に生じる。ヒータ2上で膜沸騰現象を再現させるためには▲2▼の方法を用いることになる。
【0020】
ここに、図11にヒータ2に印加するパルス幅と気泡3の発生する様子を示す。10μ秒以下程度の極く短いパルスを与えると、ヒータ2が急激に加熱されて予め存在する発泡核が活性化する前に、インクが加熱限界に到達し、図11(a)に示すようなきれいな膜気泡3aが得られる。この気泡は、計算では15kg/cm2 程度の内圧を持って断熱膨張し、インクをノズル外に押し出す。気泡が最大になる時点では加熱を停止しており、熱を奪われた蒸気泡は自然と消滅する。加熱を徐々に行うと、ヒータ2面に存在する発泡核から、通常の沸騰が始まり、図11(b)中に示すような不特定な気泡3bや固定泡3cが発生し、繰返し特性、泡の大きさや消滅のコントロールが効かないものとなる。このような膜沸騰をヒータ表面で実現することにより、バブルの大きさが均一で安定したものとなり(常に同じ大きさのバブルが同じタイミングで出現する)、かつ、インクへの熱損失が少ないもの(インクがあまり加熱されないので冷却手段を必要としない)となる。また、バブルが最大体積に達した時、既にバブル周辺のインクは冷たくなっているので、気泡は急激に収縮し、周波数応答性がよく、高速でバブルの発生・消滅を繰返し得るものとなる。このようにオン・デマンド型インクジェットの吐出原動力として理想的な手段となり得る。また、この方式によれば、バブルの大きさが吐出特性を左右する要因であり、原理から明らかなようにバブルの大きさが電圧によらないことがこのような特性を持たせているものである。バブルの大きさはヒータ2のサイズ、ノズル構造で決まる。従って、一度設計値を決定すると、安定したドットを得ることが可能になり、デジタル型の記録手段として最適なものとなる。
【0021】
ところで、このようなインクジェット記録ヘッドに使用するノズル吐出口は、上記特公昭61−59914号公報中の説明によれば、内径100μm、肉厚10μmの円筒状ガラスファイバーを熱溶融させることにより、60μm径の吐出口として形成される。また、吐出口を液路とは別に形成した後、例えばガラスプレートに電子ビーム加工やレーザ加工等によって穴を形成し、液路と合体させる方式も記載されている。何れにしても、このような微細な吐出口を工業的に安定して高精度に形成することは非常に困難である。
【0022】
また、同公報によれば、別の吐出口を有する記録ヘッドが同公報中の第3図、第4図及び第5図に開示されており、その吐出口の形成方法として、ガラス板に微細カッティング機により幅60μm、深さ60μm、ピッチ250μmの溝を形成した溝板を、電気・熱変換体部の設けられた基板に接着することが記載されている。しかし、この場合も形成すべき吐出口は非常に微細であり、微細カッティング機で溝を形成する際に、欠けやクラックが入ることが多々あり、歩留まりの低いものである。また、形成された吐出口も、その欠け等により、その端部を高精度にできないものでもある。
【0023】
ところで、同公報中の第3図、第4図及び第5図に示される記録ヘッドの、より具体的な製造方法は、特開昭55−128471号公報、特公昭59−43314号公報に開示されている。特開昭55−128471号公報のものは、細孔からなる記録液流路を有し、この細孔に通じている吐出口から記録液流路中にある記録液を小滴にして吐出飛翔させ、被記録体面上に付着させて記録する記録ヘッドであり、吐出口を所定数並設させるとともに、これと同数の細孔を吐出口の配列密度とほぼ同密度で並列に配設させたものである。また、特公昭59−43314号公報のものは、記録液流路となる細孔と、この細孔に通じている所定口径dの開口と、細孔に沿って設けられた発熱部とを具備した液滴噴射記録装置において、発熱部がその開口寄りの縁が開口位置からdないし50dなる寸法の範囲内に位置するように配設させたものである。さらには、発熱部が細孔の長手方向に長尺な面状発熱体よりなることも記載されている。
【0024】
ここに、これらの特開昭55−128471号公報、特公昭59−43314号公報に記載された記録ヘッドの製造方法は、要約すると、感光性ガラスを用いた細溝を有する部品と、発熱抵抗体パターンを形成した部品とを、接着することにより吐出オリフィスを形成するものである。即ち、前述した特公昭61−59914号公報記載のものとは、感光性ガラスのエッチングにより細溝を形成する点で異なるが、何れも数10μmという非常に微細な吐出口又はオリフィスを使用する点において共通する。つまり、微細なオリフィスは、通常30〜50μm程度の大きさ(形状的には、必ずしも丸に限らず、角形もある)である。
【0025】
【発明が解決しようとする課題】
このように、従来の種々のサーマルインクジェット(いわゆるバブルジェット(登録商標))においても、それ以前のインクジェット技術に対しては構成上のシンプル化、高密度化、マルチノズル化の容易性等の点で優位性を発揮し得るものの、現実のヘッド作製等の点においてその量産性や低コスト化を考えると、必ずしも満足できるものではない。
【0026】
そこで、本発明は、このような欠点を持たない、従来と全く異なる新規なマルチノズルプレート及び液体記録装置を提供することを目的とする。
【0027】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明では、エネルギー作用面に対して垂直方向に液滴を飛翔させる液滴噴射装置の噴射ヘッドに適用されるマルチノズルプレートにおいて、該マルチノズルプレートはプレスによる加工を取り入れてなるステンレス箔製の単体構成のマルチノズルプレートであって、隣接ノズル間の距離が27μm以上であるようにした。
請求項2記載の発明では、エネルギー作用面に対して垂直方向に液滴を飛翔させ、該液滴の飛翔速度が3m/s以上の液体噴射装置の噴射ヘッドに適用されるマルチノズルプレートにおいて、該マルチノズルプレートはプレスによる加工を取り入れてなるステンレス箔製の単体構成のマルチノズルプレートであって、ノズル部分の厚さが30〜220μmであるようにした。
請求項3記載の発明では、請求項1又は2記載のマルチノズルプレートを具備してなることを特徴とする液体噴射装置とした。
【0028】
従って、ステンレス箔によるマルチノズルプレートを量産性よく低コストで作製できる。特に、ノズル部分の厚さや隣接ノズル間の距離を所定の適正値に設定することにより、プレスによる加工時の変形を防止でき、実用的なマルチノズルプレートを作製できることになる。
【0029】
【発明の実施の形態】
本発明の一実施の形態を図1ないし図6に基づいて説明する。図1は本実施の形態による液体飛翔記録ヘッド21の構成を示す分解斜視図、図2はその完成図である。まず、発熱体基板22上にはエネルギー作用部として機能する複数個の発熱体23が1列に設けられ、個別の制御電極24と共通な共通電極25とが電気的に接続されて設けられている。これらの電極24,25の端部は発熱体基板22の同一サイドに引出され、各々ボンディングパッド26,27とされている。また、発熱体23の並び方向に位置させて前記発熱体基板22には記録液体となるインク28用のインク導入口29が貫通形成され、フィルタ30を通してインク導入チューブ31に連結されている。また、発熱体基板22上にはこれらの発熱体23、インク導入口29をカバーし得る大きさに形成されて液室を形成する液体保持手段として機能する矩形枠状のスペーサ32が設けられている。さらに、このスペーサ32上面を覆う長方形状のマルチノズルプレートである開口形成部材33が設けられている。この開口形成部材33には各発熱部23に対応させた位置にノズルである開口34が形成されている。
【0030】
なお、これらの各図では、説明を簡単にするため、必要に応じて簡略化して構造等を図示するものであり、いくつかの省略点、誇張点を持つものである。例えば、発熱体基板22には発熱体23や電極24,25の他に蓄熱層、保護膜等が設けられているが、ここでは図示を省略し、後述するものとした。また、発熱体23と開口34との対は図示例では3個だけとしたが、実際には多数設けられるものであり、例えばローエンドシリアルプリンタの例で64〜256個設けられ、ハイエンドマルチプリンタの例では2000〜4000個設けられる。また、発熱体23等の数が多くなるに伴い、インク導入口29の数も増やされ、或いは、開口面積が大きくされる。このようなインク導入口29は例えばシリコン等による発熱体基板22の場合であれば、レーザビーム加工或いはエッチングにより容易に形成できる。また、図示例の各部の寸法比率は判りやすさを優先させてあり、必ずしも現実に即したものではない。
【0031】
以下、各部の構成・製造方法等を個別に説明する。まず、発熱体基板22の構造及びその製造方法を図3を参照して説明する。本実施の形態において、発熱体基板22は重要なパーツの一つである。この発熱体基板22自体は例えばガラス、アルミナ(Al2O3)、シリコン等の材質によるものが用いられる。この基板22上に形成される蓄熱層41は例えばSiO2 層よりなり、ガラス又はアルミナ基板の場合であればスパッタリング法等の薄膜形成法により形成され、シリコン基板の場合には熱酸化法によって形成される。蓄熱層41の膜厚としては1〜5μm程度がよい。発熱体23を構成する材料としては、例えばタンタル‐SiO2 の混合物、窒化タンタル、ニクロム、銀‐パラジウム合金、シリコン半導体、或いは、ハフニウム、ランタン、ジルコニウム、チタン、タンタル、タングステン、モリブデン、ニオブ、クロム、バナジウム等の金属の硼化物が使用可能である。これらの内、金属の硼化物が特に好ましく、その中でも、硼化ハフニウムが最も特性的に好ましく、次いで、硼化ジルコニウム、硼化ランタン、硼化タンタル、硼化バナジウム、硼化ニオブの順に好ましいものとなる。発熱体23はこのような材料を用い、電子ビーム法、蒸着法、スパッタリング法等により形成される。膜厚は単位時間当たりの発熱量が所望値となるように、その面積、材質、熱作用部分の形状及び大きさ、実際面での消費電力等に応じて適宜設定されるが、通常は0.001〜5μm程度、好ましくは0.01〜1μm程度の膜厚とされる。
【0032】
制御電極24や共通電極25の材料としては、通常の電極材料と同じでよく、例えば、Al,Ag,Au,Pt,Cu等が用いられる。これらは蒸着法等により、所定位置に所定の大きさ、形状、膜厚で形成される。保護層42は発熱体23で発生した熱を効果的にインク19側に伝達させることを妨げずに発熱体23を保護するためのものであり、材料としては、酸化シリコン(SiO2 )、窒化シリコン、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化ジルコニウム等が用いられる。製法は、電子ビーム法、蒸着法、スパッタリング法等による。膜厚は、通常0.01〜10μm、好ましくは0.1〜5μm(中でも、0.1〜3μmが最適)とされる。保護層42はこれらの材料を用いて1層又は複数層構造で形成されるが、これらの層の他に、気泡20が収縮・消滅する際に発生するキャビテーション作用からヒータ部9を保護するためにTa等の金属層を表面に形成するのが望ましい。具体的には、Taなどの金属層を膜厚0.05〜1μm程度で形成すればよい。
【0033】
電極保護層43の材料としては、例えばポリイミドイソインドロキナゾリンジオン(商品名:PIQ,日立化成社製)、ポリイミド樹脂(商品名:PYRALIN,デュポン社製)、環化ポリブタジエン(商品名:JSR‐CBR,日本合成ゴム社製)、フォトニース(商品名:東レ社製)、その他の感光性ポリイミド樹脂等が用いられる。
【0034】
インク19中で気泡20を発生させるエネルギー作用部としては、発熱体層14を持つヒータ部9によるジュール熱加熱法に限らず、例えば、パルスレーザ又は放電を利用したエネルギー作用方式であってもよい。
【0035】
例えば、パルスレーザ方式は、特開平1−184148号公報中の第8図方式等に準じたものでよい。即ち、レーザ発振器より発生させたレーザ光を、光変調器駆動回路に入力されて電気的に処理され出力される画情報信号に従って、光変調器においてパルス変調させる。パルス変調されたレーザ光を走査器を通し集光レンズにより熱エネルギー作用部の外壁に焦点が合うように集光させ、記録ヘッドの外壁を加熱し、内部のインク内で気泡を発生させる。或いは、熱エネルギー作用部の外壁を、レーザ光に対して透過性材料により形成し、集光レンズによって内部のインクに焦点が合うように集光させてインクを直接熱して気泡を発生させるようにしてもよい。実際的なレーザ光を利用する構成としては、同公報中の第9図に準じて構成すればよい。
【0036】
また、放電方式も、同公報中の第10図方式に準じたものでよい。即ち、熱エネルギー作用部の内壁側に配置させた一対の放電電極に放電装置から高電圧パルスを印加することにより、インク中で放電を生じさせ、この放電により発生する熱で瞬時に気泡を発生させるものである。放電電極の形状は、同公報中の第11図ないし第18図に例示されるような各種形状を適宜用いればよい。
【0037】
ついで、スペーサ32について説明する。このスペーサ32は発熱体基板22と開口形成部材33との間に位置して、両者を平行に保ち、かつ、両者間の距離を所望値に保って液室を形成するためのものである。ここに、発熱体基板22と開口形成部材33との間の距離は、両者間に保持されるインク層の厚さを決定するものであり、重要な要素となる。図1においては、説明を簡単にするため、スペーサ32を単体として示したが、実際には、次のように形成される。即ち、発熱体基板22上にドライフィルムフォトレジストをラミネートし、この発熱体基板22の外周部にのみドライフィルムフォトレジストが残るような形状としたフォトマスクを用い、露光・現像によって、所望のパターンに形成される。ドライフィルムフォトレジストとして、例えばオーディルSY325(東京応化工業社製)を利用すれば、厚さ25μmのスペーサ32を形成できる。この他、50μmの厚さのドライフィルムフォトレジストを用いれば、50μmの厚さのスペーサ32を形成できる。ドライフィルムフォトレジストは通常は50μm、25μm、20μmというような厚さで供給されるため、その厚さがそのまま所望の厚さであればそのようなドライフィルムフォトレジストを用いればよいが、所望の厚さのものがない場合には、高粘度の液状フォトレジストを用いればよい。このような液状フォトレジストとしては、例えばBMRS1000(東京応化工業社製)が用いられる。粘度1000cpのBMRS1000をスピンコーティングにより発熱体基板22上に塗布する場合、500〜1000rpmの回転数で10〜40μmの厚さとすることができる。即ち、ドライフィルムフォトレジストと異なり、スピナーの回転数を適宜設定することにより40μm以下の厚さにおいて任意の膜厚に形成できるものである。
【0038】
また、ドライフィルムフォトレジストを用いる場合も、液状フォトレジストを用いる場合も、現像後に紫外線照射による硬化、或いは熱硬化を行うが、このような硬化作業前の未硬化ないしは半硬化の状態において、開口形成部材33を現像後のレジスト(=スペーサ32)上に押し当て、加熱・加圧することにより、この開口形成部材33の接合を容易に行うことができる。また、このような接合時の加熱を、硬化用の加熱と同時に行うようにすることもできる。
【0039】
なお、上記の説明では、スペーサ32としてフォトレジストを用いた例のみを示したが、必ずしもフォトレジストを利用するものに限られず、例えば、樹脂状のフィルムを打ち抜いたり、金属箔を打ち抜いたり、エッチング等により形成するようにしてもよい。
【0040】
次に、開口形成部材33及び開口34について説明する。本実施の形態の開口形成部材33には開口34が形成されている。図4中、70は厚さ50〜100μmのステンレス箔をロール状に巻いたものであり、パンチステーション(打抜き機)71を通して開口34を形成するものである。72はバリ取り機、73は洗浄機である。このようなステンレス箔70にプレスによる加工を取り入れることにより低コストで自動化されたラインにより製造できる。開口34間の距離Lは、隣接する発熱体23間距離と同じとされる。このように自動化されたラインにより製造された開口形成後のステンレス箔70は必要に応じてカットされて使用されるが、記録紙幅全域をカバーし得るような、いわゆるフルマルチ型の開口形成部材33を容易に形成し得るものとなる。
【0041】
もっとも、開口形成部材33としては、例えば、フォトファブリケーション法により作製することも可能である。例えば、図5に示すようなフォトエッチング法により形成することも可能である。同図(a)は前処理工程を示し、両面を研磨したステンレス箔61を基板として用意し、酸62により表面を軽くエッチングする。同図(b)はレジスト塗布工程を示し、液状フォトレジスト63をステンレス箔61の両面に塗布する。塗布方法としては、図示例のように上から下へ液状フォトレジスト63を流すようにする方法の他、例えば、ディッピング法等が適宜用いられる。同図(c)は露光工程を示し、プリベーキングによりフォトレジスト63中の溶剤成分を乾燥させた後、図示のように所望のパターンを有するエマルジョンマスク64をステンレス箔61の両面から位置が合うように整合させてセットし、光源65より紫外線を照射し露光する。同図(d)は現像工程を示し、フォトレジスト63としてネガ型を用いた場合であれば、紫外線照射を受けた部分が硬化し、紫外線照射を受けない部分は現像液により流されるので、ステンレス箔61上には所望のパターンのフォトレジスト63が残ることになる。その後、ポストベーキングによりこのレジストパターンを硬化させる。同図(e)はエッチング工程を示す。まず、スプレノズル66から噴出するエッチング液67によって、フォトレジスト63で覆われていない部分(ステンレス面)は腐食される。このような腐食がステンレス箔61の両面からほぼ同時に進行し、その板厚の中心部で腐食穴が貫通し開口が形成される。同図(f)は剥離工程を示し、エッチング後のステンレス箔61を剥離液68に浸すことにより不要なフォトレジスト63が除去され、開口34を有する開口形成部材33が得られる。
【0042】
さらに、別の開口形成部材33の製造方法を説明する。例えば、樹脂による成形加工法を利用できる。この場合、材料としては、耐インク性に優れたポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンオキサイド、ポリプロピレンなどが用いられる。開口34(例えば、円形開口とする)を形成する際、開口形成部材33を成形するための金型内に円形型スライド駒を開口形成部分に配置させ、樹脂を充填させ硬化させた後、駒をスライドさせて逃がすことにより、金型内で形成される。このような成形機は市販の射出成形機を用いるが、形状を精度よく転写させるため射出圧力2000kg/cm2 以上の能力を有する成形機を用いるのがよい。また、プラスチックの流動性を高めるため、シリンダ温度は400℃以上に加熱される。金型は図1に示したような開口形成部材33と対になる形状の金型を用いる。また、転写性をよくするため、金型を材料の熱変形温度以上に加熱できるようにヒータ、熱媒体等を金型内に設けるのがよい。なお、金型の樹脂充填部を真空ポンプ等により減圧し、転写性を高めるようにしてもよい。
【0043】
さらに、開口形成部材33の別の製造方法として、エキシマレーザ法を説明する。この場合、開口形成部材33の材料としては、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンオキサイド、ポリプロピレン等が用いられる。まず、予め最終形状となるような外形寸法とした上記材料等による樹脂プレートを用意し(例えば、5mm×20mm×0.05mm)、最終的な開口寸法と同じ寸法の開口を有するメカニカルマスクを介してエキシマレーザ装置により紫外線を照射し、メカニカルマスクの開口部に露出している樹脂部を除去・蒸発させることにより、樹脂板に開口を形成するというものである。前述した各例では、最終的に得られる開口形成部材33が図1に示したようなプレート状のものだけであるが、このエキシマレーザ方式による場合には、樹脂部を容易に除去・蒸発させることができるので、必ずしもプレート状の樹脂に開口をあけ、これを図1に示したようにアセンブルするという方法とする必要はない。例えば、図2に示すようにアセンブリし終わった状態(開口はまだ形成されていないものとする)で、後からエキシマレーザ装置により開口形成部材33に開口34を形成することも可能である。このような方法によれば、例えば透明樹脂を用いると下部の発熱体23側を見ることができるため、エキシマレーザによって形成される開口中心軸とそれに対応する発熱体23の中心軸とを精度よく合せることができる。
【0044】
次に、各開口34間の距離について検討する。表1は、前述したような各種製造方法により形成された開口形成部材33の開口34間の距離x(図6参照)を変えたものを試作し、前述のような発熱体基板22上に取付け、隣接する2個の発熱体23を同時に駆動させた場合の飛翔滴38の挙動を観察した結果を示す。開口形成部材33は厚さ50μmのものとされ、開口34の径は250μmとされ、発熱体23の駆動条件は、インクとしてはヒューレットパッカード社製のDesk Jet用インクと同等の物性を持つビークル(インクから染料成分を除去した無色透明染体)を使用し、発熱体23に入力させる信号パルス幅は6μ秒、連続駆動周波数は1kHzとした。
【0045】
【表1】
【0046】
表1において、製作可否蘭の判定「○」はほぼ良好なる開口34を形成できた場合を示し、判定「×」は開口間距離xが小さ過ぎて精度のよい開口を形成できなかった場合を示す。また、飛翔性能蘭の判定「○」は飛翔が良好に行われた場合を示す。判定「×」は飛翔滴38が直進せず飛翔方向が乱れてしまった場合を示す。
【0047】
この表1に示す結果によれば、本実施の形態で用いているステンレス箔70の打ち抜きを利用した加工による開口形成部材33の場合であれば、隣接開口間距離xが27μm以上であればよいことが判る。
【0048】
また、同じ開口形成方法を用い、開口形成部材33の厚さを変えた場合について表2を参照して検討する。ただし、ここでは開口径を250μmとした。また、発熱体23の駆動条件等は全て表1に対する実験例と同じとした。
【0049】
【表2】
【0050】
表2において、製作可否蘭の判定「○」はほぼ良好なる開口34を形成できた場合を示し、判定「×」は良好なる開口を形成できなかった場合を示す。また、飛翔性能蘭の判定「○」は飛翔速度として6m/秒以上の高速性が得られた場合を示し、判定「△」は3〜5m/秒程度の比較的遅い飛翔速度となった場合を示し、「判定「×」は飛翔しなかった場合を示す。
【0051】
表2に示す結果によれば、開口34付近の開口形成部材33の厚さはある程度厚くても開口34を形成し得る。しかし、より好ましくは、特に、本実施の形態で用いているステンレス箔70の打ち抜きを利用した加工による開口形成部材33の場合であれば、開口34付近の厚さは30〜220μmの範囲内がよいことが判る。
【0052】
次に、インク28の組成等について説明する。本実施の形態で使用されるインク28は、所定の熱物性値及びその他の物性値を有するように、材料の選択と組成成分の比が調合されること、従来から使用されているインクと同様に化学的・物理的に安定であること、応答性、忠実性、曳糸化能に優れていること、液路において固まらないこと、液路中を記録速度に応じた速度で流通し得ること、記録後に被記録体への定着が速やかであること、記録濃度が十分であること、貯蔵寿命が良好であること、等の特性を満足し得るように物性が調整される。具体的には、上記特開平1−184148号公報の明細書第34頁ないし第49頁に例示されるような特性のインクを、本発明でも使用すればよい。
【0053】
【発明の効果】
本発明によれば、ステンレス箔のプレスによる加工を取り入れることにより単体構成のマルチノズルプレートを量産性よく低コストで作製でき、特に、ノズル部分の厚さを30〜220μm、または、隣接ノズル間の距離を27μm以上に設定することにより、プレスによる加工時の変形を防止でき、実用的な単体構成のマルチノズルプレートを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態のヘッドの分解斜視図である。
【図2】ヘッドの斜視図である。
【図3】発熱体基板構成を示す断面図である。
【図4】開口形成部材の打抜きを利用した加工法を示す斜視図である。
【図5】開口形成部材のフォトエッチング製法の工程を順に示す説明図である。
【図6】開口形成部材の平面図である。
【図7】従来のインク飛翔原理を示す工程断面図である。
【図8】そのヘッド構造を示す斜視図である。
【図9】別のヘッド構造を示す斜視図である。
【図10】その飛翔原理を示す工程断面図である。
【図11】気泡発生状況を示す説明図である。
【符号の説明】
33 マルチノズルプレート
34 ノズル
70 ステンレス箔
Claims (3)
- エネルギー作用面に対して垂直方向に液滴を飛翔させる液滴噴射装置の噴射ヘッドに適用されるマルチノズルプレートにおいて、該マルチノズルプレートはプレスによる加工を取り入れてなるステンレス箔製の単体構成のマルチノズルプレートであって、隣接ノズル間の距離が27μm以上であることを特徴とするマルチノズルプレート。
- エネルギー作用面に対して垂直方向に液滴を飛翔させ、該液滴の飛翔速度が3m/s以上の液体噴射装置の噴射ヘッドに適用されるマルチノズルプレートにおいて、該マルチノズルプレートはプレスによる加工を取り入れてなるステンレス箔製の単体構成のマルチノズルプレートであって、ノズル部分の厚さが30〜220μmであることを特徴とするマルチノズルプレート。
- 請求項1又は2記載のマルチノズルプレートを具備してなることを特徴とする液体噴射装置。
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JP2017534494A (ja) * | 2014-11-19 | 2017-11-24 | メムジェット テクノロジー リミテッド | 改善された耐用寿命を有するインクジェットノズル装置 |
-
2003
- 2003-02-17 JP JP2003038918A patent/JP2004001394A/ja active Pending
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JP2017534494A (ja) * | 2014-11-19 | 2017-11-24 | メムジェット テクノロジー リミテッド | 改善された耐用寿命を有するインクジェットノズル装置 |
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