JP2004000104A - 水中又は水浜の環境改善方法 - Google Patents

水中又は水浜の環境改善方法 Download PDF

Info

Publication number
JP2004000104A
JP2004000104A JP2002189983A JP2002189983A JP2004000104A JP 2004000104 A JP2004000104 A JP 2004000104A JP 2002189983 A JP2002189983 A JP 2002189983A JP 2002189983 A JP2002189983 A JP 2002189983A JP 2004000104 A JP2004000104 A JP 2004000104A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
slag
blast furnace
water
granulated blast
furnace slag
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP2002189983A
Other languages
English (en)
Inventor
Tetsushi Numata
沼田 哲始
Tatsuto Takahashi
高橋 達人
Yasuto Miyata
宮田 康人
Kazuya Yabuta
藪田 和哉
Keisei Toyoda
豊田 惠聖
Yoshio Sato
佐藤 義夫
Hiroyuki Koto
光藤 浩之
Atsushi Yamaguchi
山口 篤
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
KOKAN KOGYO KK
Kokan Mining Co Ltd
Original Assignee
KOKAN KOGYO KK
Kokan Mining Co Ltd
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by KOKAN KOGYO KK, Kokan Mining Co Ltd filed Critical KOKAN KOGYO KK
Priority to JP2002189983A priority Critical patent/JP2004000104A/ja
Publication of JP2004000104A publication Critical patent/JP2004000104A/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Images

Classifications

    • YGENERAL TAGGING OF NEW TECHNOLOGICAL DEVELOPMENTS; GENERAL TAGGING OF CROSS-SECTIONAL TECHNOLOGIES SPANNING OVER SEVERAL SECTIONS OF THE IPC; TECHNICAL SUBJECTS COVERED BY FORMER USPC CROSS-REFERENCE ART COLLECTIONS [XRACs] AND DIGESTS
    • Y02TECHNOLOGIES OR APPLICATIONS FOR MITIGATION OR ADAPTATION AGAINST CLIMATE CHANGE
    • Y02ATECHNOLOGIES FOR ADAPTATION TO CLIMATE CHANGE
    • Y02A40/00Adaptation technologies in agriculture, forestry, livestock or agroalimentary production
    • Y02A40/80Adaptation technologies in agriculture, forestry, livestock or agroalimentary production in fisheries management
    • Y02A40/81Aquaculture, e.g. of fish

Abstract

【課題】磯焼けや赤潮が現に生じ又は生じる恐れがある海域、磯焼け以外の原因による海藻成育環境の衰退・消失が現に生じ又は生じる恐れがある海域などに対して低コストに実施でき、しかも磯焼けの防止、赤潮の発生防止、藻場の造成や海藻成育環境の修復などに優れた効果が得られる水中の環境改善方法を提供する。
【解決手段】水中にケイ酸塩イオン放出源などとして、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを設置することを特徴とする。高炉水砕スラグはケイ酸塩イオンの溶出性に優れているため、高炉水砕スラグから水中に放出されるケイ酸塩イオンが珪藻類を増殖させ、その結果として磯焼けや赤潮の発生が抑えられる。また、青潮発生の原因となる硫化水素の発生や海水の富栄養化も抑制される。また、高炉水砕スラグ粒子の表面には炭酸カルシウム皮膜が形成されているため、沈設初期におけるスラグからのSの溶出やスラグ粒子周囲の水のpH上昇も抑制される。
【選択図】   なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水中又は水浜の環境改善方法に関するもので、具体的には、沿岸海域等における水中の珪藻類や海藻類の増殖、主に内海や湾などで発生する赤潮の防止、所謂磯焼けが生じている海域の藻場造成或いは磯焼けの防止、消失浅場の回復、水底における水の停滞(例えば、水底の凹部における水の停滞)に起因する青潮の発生や棲息生物減少の抑制などに有効な水中の環境改善方法、さらには、覆砂、養浜、浅場や干潟の造成・修復等において底棲生物の棲息に好ましい環境を形成することができる水中又は水浜の環境改善方法に関する。
なお、本発明法が適用される磯焼けが生じている海底部とは、岩礁や人工魚礁などの海藻着生基盤の表面が石灰藻に覆われることにより、コンブ、ワカメ、アラメなどの有用海藻が消失し又は消失しつつある海底部を指す。
【0002】
【従来の技術】
近年、沿岸海域における環境保全並びに水産資源の保護などの観点から、沿岸海域の海底部に成育する海藻類の保護・育成、所謂磯焼けの防止或いは磯焼けが生じている海域の藻場回復、赤潮の発生防止、青潮の発生防止などが大きな課題となっており、これらを解決できる水中や水底の環境改善技術の開発が望まれている。以下、磯焼けや赤潮等を中心に沿岸海域における水中での生物棲息環境の問題点とこれに対する従来の対策について述べる。
【0003】
(1)磯焼け及びその防止対策
岩礁や人工魚礁などの海藻着生基盤の表面が石灰藻に覆われる所謂“磯焼け”状態となった海域は、魚介類の餌となる有用海藻(例えば、コンブ、ワカメ、アラメなど)が繁殖せず、その海域の漁業生産量が著しく低下するという問題がある。
【0004】
従来、磯焼けが生じた海域に対しては鋼製の藻礁を設置するなどの対策が試みられてきたが、鋼製藻礁を設置すると2年間程度は石灰藻以外の海藻が藻礁に繁殖して藻礁部分は磯焼け状態が解消されるものの、3年程度経過すると鋼製藻礁も石灰藻に覆われてしまい、その効果が無くなってしまう。このため再度鋼製藻礁を設置するなどの対策が必要となり、磯焼け防止の抜本的な解決策とはなり得ていない。また最近では、磯焼けが生じた海域のウニを駆除することによって藻場を復活させた例もあるが、ウニの駆除は人力で行う必要があるため効率が悪く、コストも多くかかる上、一度に適用できる海域が狭いなど、磯焼け解消の切り札とはなり得ていない。
【0005】
一方、海水中のケイ酸塩濃度を高めることにより珪藻類が増殖し、その結果として石灰藻の増殖が抑制されることが知られており、このようなメカニズムを利用した磯焼けの改善方法として、コンクリート製などの藻礁の表面に成分の溶解度を調整したガラスプレートを張り付け、これを磯焼け海域に沈設する方法が提案されている。また、特開平6−335330号公報には、構成成分の海水中への溶出により海藻類を増殖させることを目的として、ケイ素、ナトリウム及び/又はカリウム、鉄を含有するガラス質材料からなる藻場増殖材を海中に沈設する方法が提案されている。
【0006】
(2)赤潮及びその防止対策
赤潮とは水中の微生物、とりわけ植物プランクトンが異常増殖して海水が着色する現象であり、近年、養殖魚類(例えば、ハマチやタイなど)を大量斃死させるなど、特に養殖漁業に大きな被害を及ぼしていることから、その防止対策が切望されている。
赤潮を起こす生物の種類は多岐にわたると考えられるが、その中でもシャットネラなどの特定の鞭毛藻類の大増殖が養殖魚類の大量斃死を招く赤潮の主要な原因であると考えられている。赤潮は富栄養化の進行した海域において発生することから、赤潮の防止には覆砂や浚渫、下水道整備による河川流入栄養塩の低減化が有効であるとされている。
【0007】
しかしながら、覆砂や浚渫は工事完了後に新たに堆積する有機物によってその効果が失われてしまい、また、工事可能な海域が比較的浅い海域に限られるため、赤潮の大発生が問題となる瀬戸内海中心部などへの適用は困難である。また、これらの工事には多大な費用がかかり、このことも適用範囲が限られる要因となる。また、下水道整備による河川流入栄養塩の低減化は、海域全体の栄養塩量を減らすには有効であるが、これも瀬戸内海中心部のような海岸から離れた場所では、夏期の海水停滞期に表層海水の貧栄養化の原因となり、この貧栄養化によって表層海水中の珪藻類が減少することが、赤潮の原因となるシャットネラなどの鞭毛藻類の増殖要因の一つとなる。
【0008】
最近、赤潮防止対策の一つとして可溶性のケイ素(ケイ酸塩イオン)の海水中への付与により珪藻類を繁殖させ、赤潮の原因となるシャットネラなどの鞭毛藻類の増殖を抑制する方法が検討され、この方法に関して、可溶性のケイ素を含有した人工のガラス質材料を浮体に装着して海中に設置する赤潮予防方法が特開平10−94341号公報に提案されている。
可溶性のケイ素の海水中への付与は貧栄養状態となった表層海水中の珪藻類を繁殖させることが知られており、珪藻類は赤潮の原因となるシャットネラなどの鞭毛藻類の競合種であり、しかも鞭毛藻類よりも増殖力が高いため、珪藻類が表層海水中に安定に存在するとシャットネラなどの鞭毛藻類の異常増殖が抑制され、その結果、赤潮の発生が防止されることになる。
【0009】
(3)磯焼け以外の海藻成育環境の衰退・消失及びその対策
沿岸海域では、先に述べた磯焼け以外にも、例えば、底質のヘドロ化や海砂の流失等による浅場の消失、底質・水質の汚染等の原因により海藻成育環境(特に、藻場)の衰退、消失が生じることがある。このような海底での海藻成育環境の衰退、消失に対しては、先に磯焼け防止に関して述べた対策が適用可能であると考えられる。
【0010】
(4)沿岸海域でのその他の問題及びその防止対策
内湾等において水底で海水の停滞が生じると硫化水素が発生し、所謂青潮の発生原因となる。特に、土砂採取等によって水底が部分的に掘られ、比較的深さのある凹部が形成されると、この凹部内の水が停滞する結果、特に夏期において著しい無酸素状態となり、有機物の腐敗やバクテリア(硫酸還元菌)の作用によって大量の硫化水素が発生するという問題がある。このように凹部内で硫化水素が大量発生すると、凹部内やその周囲の棲息生物が減少するだけでなく、硫化水素を含んだ水塊(青潮)が周辺水域に流出することによって周辺水域の生物の棲息環境にも多大な影響を与える。
【0011】
従来、このような問題に対しては、水底(特に水底の凹部)に石灰を散布したり、水底を天然砂(海砂、山砂)を用いて覆砂する、などの対策が採られることがあり、水底にヘドロが堆積している場合は同時にヘドロの浚渫が行われることもある。また、天然砂で覆砂する場合には、同時に砂質水底に棲息する魚介類等の棲息場の造成も兼て行うことがあり、また築磯効果を期待して天然砂に代えて天然石を用いる場合もある。
(5)養浜、干潟・浅場の修復又は造成
近年、海岸の浸食等によって消失した砂浜の回復を目的とし、或いは海洋レクリエーションの場である人工ビーチの造成を目的として、海浜に大量の砂を投入する、所謂養浜が行われている。さらに、最近では干潟や浅場の優れた水質浄化機能が認識されつつあり、失われた干潟や浅場を人工的に復元したり、新たに造成する試みがなされているが、この場合にも覆砂や造成のために大量の砂等が投入される。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
上記(1)〜(3)に記載した磯焼けや他の原因による海藻成育環境の衰退・消失の防止対策、赤潮の防止対策、磯焼けや他の原因で海藻成育環境が衰退・消失した海域での藻場造成や環境修復などに関しては、従来技術において海水中のケイ酸塩濃度を高めるために用いられるガラス質材料は人工物であるため高価であり、これを磯焼けや赤潮が発生したり、何らかの原因で海藻成育環境が衰退・消失した広い海域に大量に設置するとなると膨大な費用がかかる。また、本発明者らが検討したところによれば、従来技術で用いられる人工のガラス質材料は海水などへのケイ素の溶出性が必ずしも十分ではなく、また沈設量も限られるため、ケイ素の供給はその設置場所近傍に限られてしまい、有効な磯焼け改善効果や赤潮防止効果、或いは海藻成育環境の改善効果が得られないことが判った。
【0013】
また、上記(4)に記載した青潮の防止対策に関しては、天然砂や天然石は特に化学的な底質・水質浄化作用を有していないため、これらを水底に敷設した場合、例えば、夏期の海水停滞期や生物の活動が活発な時期になると、ヘドロが堆積していない状態でも間隙水中において硫酸還元菌の作用により数ppm程度の硫化水素が生成してしまう。また、敷設材として天然砂や天然石を用いる場合には、その採取によって新たな環境破壊を生ずる恐れがあり、また、埋立工事用などの土砂採取のために水底に掘られた穴や溝を埋めるために他所の水底から土砂を採取するというのでは問題の根本的解決にはならない。
【0014】
一方、水底に石灰を散布する方法には、(a)多大なコストかかる、(b)pHの制御が困難で水質が高アルカリになる場合がある、(c)石灰が水底で板状に固まってしまうため、その下部の泥質中の水が入れ替らず、このため硫化水素がより多量に発生し、ある時期に板状に固った石灰層が崩壊すると高濃度の硫化水素を含む水が周囲に流れ出てしまう、等の問題がある。また、石灰を散布するとしても石灰によって凹部を埋めてしまうことは困難であるため、結果的に凹部はそのまま残ることになり、したがって、凹部内の水が夏期の海水停滞期に無酸素化し、硫化水素が大量発生するという現象を根本的に解消することはできない。
また、上記(5)に記載した養浜や干潟・浅場の修復・造成についても、これらに用いる敷設材を天然砂や天然石に求めた場合、その採取により新たな環境破壊が引き起こされるおそれがある。
【0015】
したがって本発明の目的は、磯焼けや赤潮が現に生じ又は生じる恐れがある海域、或いは磯焼け以外の原因による海藻成育環境の衰退・消失が現に生じ又は生じる恐れがある海域に対して低コストに実施でき、しかも磯焼けの防止、赤潮の発生防止、或いは藻場の造成や海藻成育環境の修復などに優れた効果が得られる水中の環境改善方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、水底に形成された凹部等における水の停滞に起因した硫化水素の発生とこれにより引き起こされる青潮の発生を長期間に亘って確実に抑制し、水底を生物の棲息に適した環境に改善することができる水中の環境改善方法を提供することにある。
さらに、本発明の他の目的は、覆砂、養浜、浅場や干潟の修復・造成等において、砂地に棲息する生物に好適な環境を形成することができる水中又は水浜の環境改善方法を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、まず、本発明者らは海水などへのケイ素の溶出性などの点に優れ、しかも安価で且つ大量に入手することができ、広い海域に大量に投入することができる材料を見い出すべく検討を重ね、その結果、鉄鋼製造プロセスにおいて副生成物として得られる高炉水砕スラグがその条件に極めてよく合致すること、したがってこの高炉水砕スラグを磯焼けや赤潮が現に生じ又は生じる恐れがある海域、或いは磯焼け以外の原因による海藻成育環境の衰退・消失が現に生じ又は生じる恐れがある海域に沈設することにより、非常に有効な磯焼け防止対策や赤潮防止対策、或いは藻場造成や海藻成育環境の修復を低コストに実現できることを見い出した。
【0017】
また、高炉水砕スラグを硫化水素が発生し易い水底に敷設することにより、水の停滞に起因した硫化水素の発生及び海水の富栄養化とこれらにより引き起こされる青潮の発生を長期間に亘って抑制でき、しかも当該硫化水素発生源やその周辺の底質や水質の浄化作用も得られることが判った。また、敷設された高炉水砕スラグ層は硫化水素が少なく溶存酸素の多い状態となるため着生する生物にとって棲息しやすい環境となり、生物の着生基盤としても高い機能を有することが判った。
【0018】
さらに、高炉水砕スラグをケイ酸塩イオンの放出源などとして水中に沈設する場合、沈設初期において、(1)スラグからS(硫黄)が溶出し、これが硫化水素の発生を助長させること、(2)スラグ粒子の周囲の水のpHが上昇すること、などが懸念されたが、高炉水砕スラグを予め炭酸水溶液等と接触させ、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜を形成させることにより、沈設初期におけるこれらの問題が適切に回避できることが判った。
また、覆砂、養浜、干潟や浅場の修復・造成等に敷設材料として適用する際の高炉水砕スラグの最適条件について検討を行った結果、高炉水砕スラグ特有の性状及び粒子形態からして、特定の粒度構成を有する高炉水砕スラグを用いることが生物の棲息に特に好ましい環境を形成できることを見い出した。
【0019】
本発明はこのような知見に基づきなされたもので、その特徴は以下の通りである。
[1] 水中にケイ酸塩イオン放出源として、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを設置することを特徴とする水中の環境改善方法。
[2] 上記[1]の環境改善方法において、磯焼けが生じている海底部に、磯焼け防止材としてスラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを設置することにより、磯焼け海域での藻場造成を行うことを特徴とする水中の環境改善方法。
[3] 上記[2]の環境改善方法において、天然又は人工の海藻着生基盤の周囲又は近傍に、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを設置することにより、磯焼け海域での藻場造成を行うことを特徴とする水中の環境改善方法。
【0020】
[4] 上記[3]の環境改善方法において、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを設置した後、人工の海藻着生基盤を設置することにより、磯焼け海域での藻場造成を行うことを特徴とする水中の環境改善方法。
[5] 上記[1]の環境改善方法において、磯焼けが生じるおそれがある海底部に、磯焼け防止材としてスラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを設置することにより、磯焼けを防止することを特徴とする水中の環境改善方法。
[6] 上記[5]の環境改善方法において、天然又は人工の海藻着生基盤の周囲又は近傍に、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを設置することにより、磯焼けを防止することを特徴とする水中の環境改善方法。
【0021】
[7] 上記[6]の環境改善方法において、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを設置した後、人工の海藻着生基盤を設置することにより、磯焼けを防止することを特徴とする水中の環境改善方法。
[8] 磯焼けが発生している海底部又は磯焼けの発生を予防すべき海底部に設置される磯焼け防止材であって、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグからなることを特徴とする水中の環境改善用資材。
[9] 上記[1]の環境改善方法において、海水域、汽水域又淡水域において、水中に赤潮防止材としてスラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを設置することにより赤潮発生を防止することを特徴とする水中の環境改善方法。
【0022】
[10] 上記[9]の環境改善方法において、水深15m以内の水中に、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを設置することにより、赤潮発生を防止することを特徴とする水中の環境改善方法。
[11] 上記[9]又は[10]の環境改善方法において、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを水底に直接敷設することにより、赤潮発生を防止することを特徴とする水中の環境改善方法。
[12] 上記[9]又は[10]の環境改善方法において、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを通水性を有する袋又は容器に入れ、該袋又は容器を水底に設置することにより赤潮発生を防止することを特徴とする水中の環境改善方法。
【0023】
[13] 上記[9]又は[10]の環境改善方法において、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを通水性を有する袋又は容器に入れ、該袋又は容器を水面又は水面下に浮設した浮体に保持させることにより赤潮発生を防止することを特徴とする水中の環境改善方法。
[14] 赤潮が発生している海域又は赤潮の発生を予防すべき海域に設置される赤潮防止材であって、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグからなることを特徴とする水中の環境改善用資材。
[15] 上記[1]の環境改善方法において、海岸に面した海底にスラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを敷設するとともに、該高炉水砕スラグの敷設領域の周囲にスラグ流失防止用の潜堤を設置し、且つ該高炉水砕スラグの敷設領域には人工の海藻着生基盤及び/又は漁礁を設置したことを特徴とする水中の環境改善方法。
【0024】
[16] 上記[15]の環境改善方法において、潜堤の少なくとも一部を、鉄鋼製造プロセスで発生した塊状のスラグ、鉄鋼製造プロセスで発生したスラグを主原料とする粉粒状原料を炭酸反応で生成させたCaCOを主たるバインダーとして固結させて得られたブロック、鉄鋼製造プロセスで発生したスラグを主原料とする水和硬化体ブロックの中から選ばれる1種以上で構成したことを特徴とする水中の環境改善方法。
[17] 上記[15]又は[16]の環境改善方法において、人工の海藻着生基盤及び/又は漁礁の少なくとも一部を、鉄鋼製造プロセスで発生した塊状のスラグ、鉄鋼製造プロセスで発生したスラグを主原料とする粉粒状原料を炭酸反応で生成させたCaCOを主たるバインダーとして固結させて得られたブロック、鉄鋼製造プロセスで発生したスラグを主原料とする水和硬化体ブロックの中から選ばれる1種以上で構成したことを特徴とする水中の環境改善方法。
[18] 硫化水素発生源である水底に、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを敷設することを特徴とする水中の環境改善方法。
【0025】
[19] 水底に形成された凹部内に、全部又は一部がスラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグからなる敷設材を敷設することを特徴とする水中の環境改善法。
[20] 底層水中で硫化水素が検出された水域又は底層水中の溶存酸素濃度が所定値以下の水域の水底に、全部又は一部がスラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグからなる敷設材を敷設することを特徴とする水中の環境改善法。
[21] 底層水の流速が所定値以下の水域の水底に、全部又は一部がスラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグからなる敷設材を敷設することを特徴とする水中の環境改善法。
[22] 水中に水温又は/及び塩分濃度による密度躍層が形成された水域の水底に、全部又は一部がスラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグからなる敷設材を敷設することを特徴とする水中の環境改善方法。
【0026】
[23] 水底に形成された凹部内に、全部又は一部がスラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグからなる敷設材を敷設し、該敷設材により形成される水底面の平均水深dと凹部周囲の水底面の平均水深dとの差[d−d]を2m以下(但し、[d−d]がマイナス値の場合を含む)とすることを特徴とする水中の環境改善方法。
[24] 上記[19]〜[23]のいずれか環境改善方法において、敷設材がスラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグと高炉水砕スラグ以外の素材とからなり、該敷設材は、前記高炉水砕スラグとそれ以外の素材が混合された状態であるか、又は前記高炉水砕スラグが上層側、それ以外の素材が下層側になるようにして水底に敷設されることを特徴とする水中の環境改善方法。
[25] 上記[19]〜[24]のいずれかの環境改善方法において、水底に敷設された敷設材の50mass%以上が、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグからなることを特徴とする水中の環境改善方法。
【0027】
[26] 上記[19]〜[25]のいずれかの環境改善方法において、水底に敷設された敷設材の上層が、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを60mass%以上含むことを特徴とする水中の環境改善方法。
[27] 硫化水素の発生源となる水底に敷設される青潮防止材であって、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグからなることを特徴とする水中の環境改善用資材。
[28] 水底又は水浜に、覆砂材、養浜材、浅場造成材又は干潟造成材として、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを敷設することを特徴とする水中又は水浜の環境改善方法。
【0028】
[29] 水底又は水浜に敷設される覆砂材、養浜材、浅場造成材又は干潟造成材であって、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグからなることを特徴とする水中又は水浜の環境改善用資材。
[30] 上記[1]〜[7]、[9]〜[13]、[15]〜[26]、[28]のいずれかの環境改善方法において、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグが、高炉水砕スラグを炭酸水溶液、炭酸塩の水溶液、炭酸ガスの中から選ばれる1種以上と接触させることにより、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜を生成させた高炉水砕スラグであることを特徴とする水中又は水浜の環境改善方法。
[31] 上記[1]〜[7]、[9]〜[13]、[15]〜[26]、[28]、[30]のいずれかの環境改善方法において、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグが、粒径0.5mm以上のスラグ粒子の割合が90mass%以上の高炉水砕スラグであることを特徴とする水中又は水浜の環境改善方法。
[32] 上記[1]〜[7]、[9]〜[13]、[15]〜[26]、[28]、[30]のいずれかの環境改善方法において、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグが、粒径1.0mm以上のスラグ粒子の割合が70mass%以上の高炉水砕スラグであることを特徴とする水中又は水浜の環境改善方法。
【0029】
[33] 上記[8]、[14]、[27]、[29]のいずれかの環境改善用資材において、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグが、高炉水砕スラグを炭酸水溶液、炭酸塩の水溶液、炭酸ガスの中から選ばれる1種以上と接触させることにより、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜を生成させた高炉水砕スラグであることを特徴とする水中又は水浜の環境改善用資材。
[34] 上記[8]、[14]、[27]、[29]、[33]のいずれかの環境改善用資材において、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグが、粒径0.5mm以上のスラグ粒子の割合が90mass%以上の高炉水砕スラグであることを特徴とする水中又は水浜の環境改善用資材。
[35] 上記[8]、[14]、[27]、[29]、[33]のいずれかの環境改善用資材において、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグが、粒径1.0mm以上のスラグ粒子の割合が70mass%以上の高炉水砕スラグであることを特徴とする水中又は水浜の環境改善用資材。
【0030】
【発明の実施の形態】
本発明の第一の形態では、水中にケイ酸塩イオン放出源としてスラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを設置するものであり、この高炉水砕スラグから水中に放出されるケイ酸塩イオンが珪藻類を増殖させ、その結果、磯焼けが現に生じ又は生じる恐れがある海域においては石灰藻の増殖が抑制されて磯焼けの発生が抑えられ或いは磯焼け海域に藻場を造成することができ、また、磯焼け以外の原因で海藻成育環境が現に衰退・消失し又は衰退・消失する恐れがある海域においては、海藻類を効果的に成育・増殖させることができる。また、同じく赤潮が現に生じ又は生じる恐れがある海域においては、赤潮の原因となる鞭毛類の増殖が抑制されて赤潮の発生が抑えられる。
【0031】
また、本発明の他の形態では、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを、青潮発生を引き起こす硫化水素の発生や海水の富栄養化を生じている海域の水底に敷設するものであり、これにより高炉水砕スラグから水中に溶出したCaOが水中のpHを高めること、さらにはスラグ中に含まれるCaOに水中の硫化水素、燐などが固定されることなどによって、硫化水素の発生が抑制されるとともに水の富栄養化も抑制されるため、青潮の発生も抑えられる。
さらに、本発明の他の形態では、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを、覆砂材、養浜材、浅場造成材又は干潟造成材として水底又は水浜に敷設するものであり、高炉水砕スラグは天然砂に近い性状及び外観を有し、しかも上述したような特有の作用を有しているため、砂地に棲息する底棲生物(例えば、貝類やゴカイ類)に好適な環境が提供される。
【0032】
ところで、高炉水砕スラグを海底などに沈設すると、沈設状況や海域の状況によって沈設初期に表面からカルシウムイオンが溶解し、これによりスラグ粒子周囲の水のpHが高くなる結果、スラグのケイ酸塩ネットワークが腐食切断され、さらに周囲の水のpHが上昇するとともに、スラグ中のS(硫黄)が水中に溶出する場合がある。このようにスラグ沈設直後にスラグ粒子周囲の水のpHが高くなったり、スラグからSが溶出したりすることは、海底や水中に棲息する生物にとって望ましいことではない。この現象はスラグ沈設から数週間で解消し、その後の高炉水砕スラグはケイ酸塩イオンの供給や硫化水素の発生抑制等を通じた環境改善効果を発揮する。また、pHの上昇中はケイ酸塩イオンがカルシウムイオンと反応して水和物を形成するため、水へのケイ酸塩イオン供給効果も低下する。また、スラグ敷設厚みが厚くなると、pH上昇により溶解したケイ酸塩イオン、アルミネートイオン、カルシウムイオンの濃度が高まり、スラグ粒子どうしが固結することもある。このようなスラグの固結が生じても問題のない環境もあるが、海底に敷設した高炉水砕スラグ内に多数の底棲生物が棲息する環境を作ることは好ましいことであり、この意味で沈設したスラグ粒子どうしが固結しないことが好ましい。
【0033】
以上のような沈設初期におけるスラグ粒子からのS溶出やスラグ粒子周囲の水のpH上昇といった問題は、予め高炉水砕スラグの表面を炭酸化処理し、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜を形成しておくことにより適切に回避することができる。すなわち、高炉水砕スラグのスラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜を形成しておくことにより、炭酸カルシウム皮膜がバリアとなって水中に沈設した際のスラグからのSの溶出が阻止され、また、スラグ粒子周囲の水のpH上昇も抑えられる。
したがって、高炉水砕スラグの沈設初期においても、底棲生物などの棲息に適した環境が形成されるとともに、高炉水砕スラグの沈設初期からケイ酸塩イオンが水中に供給され、先に述べたようなケイ酸塩イオンによる水中の環境改善効果が表われる。また、スラグ粒子表面に形成された水和物皮膜によって水中でのスラグ粒子どうしの固結も生じにくく、この面でも底棲生物が棲息しやすい環境を形成できる。さらに、高炉水砕スラグの輸送や貯蔵中の固結による塊状化もなくなり、所望の粒度の高炉水砕スラグを沈設できるなど、スラグの品質管理も容易となる。
【0034】
高炉水砕スラグのスラグ粒子表面を炭酸化処理することによりスラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜を形成するには、例えば、高炉水砕スラグを炭酸水溶液(炭酸水)、炭酸塩の水溶液、炭酸ガスの中から選ばれる1種以上と接触させる方法が採られる。このスラグ粒子表面の炭酸化処理では、スラグ粒子表面近傍に存在する水(上記水溶液やスラグが含有している水)にスラグからカルシウムイオンが溶出し、このカルシウムイオンと同じく水に溶解した炭酸成分(CO 2−又は/及びHCO )とが反応してスラグ粒子表面に極めて薄い炭酸カルシウム皮膜が生成する。この炭酸化処理の具体的な方法については後に詳述する。
【0035】
高炉水砕スラグは鉄鋼製造プロセスにおいて副生成物として大量に生産され、しかも非常に安価な材料であるため海中への大量投入が可能であり、例えば、1つの磯焼け発生海域に百万トンオーダーで投入することが可能である。
高炉水砕スラグとしては、鉄鋼製造プロセスにおいて副生成物として得られたスラグのままのもの、或いはスラグを地鉄(鉄分)除去したもの、破砕処理したもの、地鉄除去の前又は後に破砕処理したものなどを用いることができる。また、分級などにより粒度調整したものを用いてもよい。
また、高炉水砕スラグは他の材料(例えば、製鋼スラグ、フライアッシュ、けい砂、山砂、海砂、粘土など)と混合した状態で用いることができるが、この場合でも所望のケイ酸塩溶出量を確保するために必要とされる量の高炉水砕スラグを用いる必要がある。
【0036】
高炉水砕スラグはSiO成分とCaO成分とを多量に含むガラス質材料(一般に、SiO:30mass%以上、CaO:35mass%以上)であり、このため海水中に設置(沈設)された高炉水砕スラグは、これに含まれるCaOの溶解により生じたCaイオンのケイ酸塩網目構造へのアタックによりケイ酸塩網目構造が分断され、この結果、海水中にケイ酸塩イオンを溶出させる。すなわち、高炉水砕スラグの場合には、水分子によるケイ酸塩網目構造の切断により徐々にケイ酸塩イオンが海水中に溶解する作用に加えて、スラグから溶解したCaイオンによるケイ酸塩網目構造の分断によりケイ酸塩イオンが海水中に溶解する作用が得られ、したがって、このような高炉水砕スラグのケイ酸塩イオンの溶出機構は、先に従来技術として挙げた人工のガラス質材料と同様の水分子によるケイ酸塩イオンの溶出作用と、Caイオンのアタックによるケイ酸塩イオンの溶出作用とが組み合わされたものとなり、人工のガラスよりもはるかにケイ酸塩が溶出しやすい。
【0037】
さらに、高炉水砕スラグは高温の溶融状態にある高炉スラグ(溶融スラグ)を噴流水で急冷して得られるものであるため、その形態や組織において人工のガラス質材料には無い以下のような特質がある。
すなわち、一般に人工のガラス質材料は組織が緻密であるのに対し、高炉水砕スラグの場合には、溶融状態にあるスラグを噴流水で急冷する過程でスラグ中に溶け込んでいる窒素や水分などによってスラグが発泡するため、得られるスラグ粒子は無数の内部気孔を有する多孔質組織のガラス質材料となり、しかも相当に細かい粒子(通常、D50が1.0〜2.0mm程度の粒度)となる。また、同様の理由から高炉水砕スラグの粒子は角張った形状(表面に多数の尖った部分を有する形状)を有している。したがって、このような形態及び組織面での特質から、高炉水砕スラグは人工のガラス質材料を破砕装置で破砕して得られたような粒状物に較べて比表面積が格段に大きく、その分ケイ酸塩イオンが溶出しやすいという特徴がある。さらに、高炉水砕スラグ粒子表面に多数存在する尖った部分は微細な形態であるため、微細な粉体が成分の溶解性が高いのと同様に、ケイ酸塩の溶解に非常に適している。
【0038】
また、上記のような形態上の特徴から、高炉水砕スラグの積層物は人工のガラス質材料を破砕装置で破砕して得られたような粒状物の積層物に較べて充填間隙が大きく、通水性に優れている。このため高炉水砕スラグの積層物から溶出するケイ酸塩イオンは、人工のガラス質材料のそれに較べて積層物の外部に拡散し易いという特徴がある。
また、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された状態で水中に沈設された高炉水砕スラグは、沈設初期を過ぎると次第にCaイオンを溶出するようになるため硫化水素の発生抑制効果を発揮し、このため高炉水砕スラグの積層物内では硫酸還元が起こりにくく、天然の砂やガラスの積層物内に較べて硫化水素が少なく溶存酸素の多い状態となる。この状態は着生する生物にとって棲息しやすい状態であると言え、したがって、海中に設置された高炉水砕スラグはケイ酸塩イオンの供給源であるとともに、生物の着生基盤としても機能し、この点からも磯焼けの改善などに有効である。
【0039】
ところで、鉄鋼製造プロセスにおいて副生成物として得られるスラグとしては、高炉水砕スラグ以外にも高炉徐冷スラグや製鋼スラグ(例えば、脱炭スラグ、脱燐スラグ、脱硫スラグ、脱珪スラグ、電気炉製鋼スラグなど)などがあるが、これらのスラグ粒子は組織が緻密で高炉水砕スラグのような多孔質組織ではなく、しかも、スラグ粒子の粒径も高炉水砕スラグに較べて格段に大きく、またこれを粉砕処理した場合でも個々のスラグ粒子の形状は高炉水砕スラグのような角張った形状(表面に多数の尖った部分を有する形状)にはならない。このため比表面積は高炉水砕スラグに較べて格段に小さい。また、高炉徐冷スラグは、硫化物の溶出量が大きいため、海水のCODを高めたり、スラグ積層物の充填間隙中で硫化水素の濃度が高くなるという問題がある。また、製鋼スラグの多くはSiOの含有量が少なくCaOの含有量が多いため、この面からもケイ酸塩の溶解量が少ない。したがって、これらのスラグからは海水中へのケイ酸塩イオンの供給が十分にできず、いずれも本発明法で用いる水中沈設用資材には適さない。
【0040】
なお、高炉水砕スラグの塩基度は四成分塩基度(CaO+Al+MgO)/SiOで1.6〜2.5、望ましくは1.6〜2.0であることが好ましい。高炉水砕スラグの上記塩基度が1.6未満ではスラグ中でのSiOの安定度が高まるためケイ酸塩イオンの海水中への溶出性が低下する傾向がある。一方、上記塩基度が2.0を超え、特に2.5を超えるとスラグ中の結晶質の量が増加し、ケイ酸塩の溶出と同時にCaの溶出も増加するため、ケイ酸塩がCaと沈殿物を生成してケイ酸塩の海水中への供給量が低下する場合がある。
【0041】
海底、海浜、干潟等の砂地に棲息する貝類やゴカイ類等の底棲生物の棲息量は、砂地を構成する砂の大きさと大きく関係し、比較的粗めの砂の方が棲息量が多い。これは、砂地に棲息する生物の多くは砂の中に潜り込んで棲息するため、砂が或る程度粗く、砂粒子間の隙間が大きい方がそれら生物が棲息しやすい環境となるからである。しかし、隙間が大き過ぎると、小さな生物にとっては逆に棲息しにくい環境となるため、隙間の大きさも適度なものである必要がある。
高炉水砕スラグは、元々(すなわち、生成ままの状態で)粒径5mm以下のスラグ粒子の割合が90mass%以上で、D50が1.0〜2.0mm程度の粒状のものである。図9に、生成ままの高炉水砕スラグの代表的な精度構成(篩い通過重量)を示す。また、この高炉水砕スラグは、その製法上の理由から針状物が多く含まれており、この針状物は人や生物が触れると、刺さって傷を負わせるような鋭いものである。
【0042】
本発明者らは、ヘドロの堆積した浅場の海底に種々の粒度構成を有する高炉水砕スラグを敷設し、一定期間経過後における底棲生物(貝類やゴカイ類)の棲息量を確認する実験を行った。その結果、高炉水砕スラグを敷設した浅場の海底は、その粒度構成に拘りなくヘドロの堆積した海底に較べて底棲生物の棲息量の増加が認められたが、特に粒径0.5mm以上のスラグ粒子の割合が90mass%以上の粒度構成、とりわけ粒径1.0mm以上のスラグ粒子の割合が70mass%以上の粒度構成を有する高炉水砕スラグを敷設した場合に、底棲生物の棲息量の顕著な増加が認められた。
【0043】
また、高炉水砕スラグを篩目が0.49mmと1.18mmの篩でふるって、粒径0.5mm以上のスラグ粒子の割合及び粒径1.0mm以上のスラグ粒子の割合と針状物の含有量との関係を調査した。その結果を表1に示す。これによれば、粒径0.5mm以上のスラグ粒子の割合が増えると針状物の割合が減少し、特に粒径0.5mm以上のスラグ粒子の割合が90mass%以上の粒度構成になると、針状物の含有量は当初(篩い分け前)の1/10程度になっている。また、粒径1.0mm以上のスラグ粒子の割合が70mass%以上では、針状物の含有量は当初(篩い分け前)の1/100程度になっている。したがって、高炉水砕スラグの粒度構成を、粒径0.5mm以上のスラグ粒子の割合が90mass%以上、好ましくは粒径1.0mm以上のスラグ粒子の割合が70mass%以上とすることにより、針状物の含有量が少ない安全性の高い敷設材とすることができる。
【0044】
【表1】
Figure 2004000104
【0045】
また、細粒分を多く含んだ高炉水砕スラグを水中や水浜に敷設すると、敷設層中で細粒部分が次第に偏在し、この偏在した細粒部分が固結してしまうことがあるが、上述したような比較的粗い粒度構成とすることにより、そのような細粒部分の固結も生じることはない。
以上の理由から、本発明法で用いるスラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグは、粒径0.5mm以上のスラグ粒子の割合が90mass%以上、好ましくは粒径1.0mm以上のスラグ粒子の割合が70mass%以上のものが好ましい。また、表1の結果等からして、高炉水砕スラグのより好ましい粒度構成は、粒径1.0mm以上のスラグ粒子の割合が80mass%以上である。
このような粒度構成の高炉水砕スラグを得るために、通常、高炉水砕スラグの篩い分けを行う。篩い分け法は、乾式篩い、湿式篩い、気流分離などのいずれでもよい。
【0046】
以下、本発明の水中の環境改善方法の一実施形態である、磯焼け海域の藻場造成法及び磯焼け防止法について説明する。
本発明の水中の環境改善法に基づく磯焼け海域の藻場造成法では、磯焼けが生じている海底部に磯焼け防止材(ケイ塩イオン放出源)として、上述したスラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグ(以下、単に「高炉水砕スラグ」という)を設置(沈設)するものである。この藻場造成法では、基本的には磯焼け海域の海中(海底)に高炉水砕スラグをそのまま沈設すればよい。
【0047】
珪藻類の増殖に必要な海水中のケイ酸塩イオンの濃度は10μmol/L以上とされているが、このようなケイ酸塩イオン濃度は高炉水砕スラグからなる磯焼け防止材の設置によって容易に達成される。これにより海底の海藻着生基盤表面に珪藻類が安定的に繁殖し、この結果、石灰藻の増殖が抑えられるとともに、昆布やアラメなどの大型の海藻類が繁殖する。また、海藻着生基盤表面に繁殖した珪藻類は、石灰藻とは異なり魚介類の餌となるため、珪藻類が繁殖すれば磯焼け海域において水産資源が増加する。また、高炉水砕スラグからのケイ酸塩イオンの溶出は長期間継続するため、珪藻類の増殖及びこれに伴う磯焼け防止効果も長期間に亘って継続することになる。
【0048】
次に、本発明法に基づく磯焼け海域の藻場造成法の特に好ましい実施形態について説明する。
この藻場造成法では、磯焼けが生じている海底部において海藻着生基盤の周囲又は近傍に高炉水砕スラグを設置するのが好ましい。これにより高炉水砕スラグから溶出したケイ酸塩イオンにより海藻着生基盤周囲の海水が高ケイ酸塩濃度化し、海藻着生基盤に珪藻類を効果的に繁殖させることができる。
海藻着生基盤は天然又は人工のいずれでもよく、前者の場合は岩礁などであり、後者の場合には鋼製ブロック、コンクリートブロック、天然石、スラグ塊などである。また、この後者の場合には、磯焼け防止材を設置した後に海藻着生基盤を設置してもよい。人工の海藻着生基盤を設置する海底は、岩礁帯、砂地などを問わない。
磯焼けが生じるのは外海に面した海域が多く、一般にこのような海域は海流が速いので、高炉水砕スラグをそのまま海底に設置すると海流により流失してしまうおそれがある。したがって、このような海域では高炉水砕スラグを通水性の容器又は袋に入れて設置することが好ましく、この場合も上記と同様の形態で海底に設置すればよい。
【0049】
また、磯焼け防止材は、現に磯焼けを生じている海域だけでなく、磯焼けが生じる恐れのある海底部に設置することができる。すなわち、本発明の水中の環境改善方法の他の実施形態である磯焼け防止方法では、磯焼けが生じる恐れがある海底部に、磯焼け防止材として高炉水砕スラグを設置することにより、当該海域での磯焼けを予防する。この場合も高炉水砕スラグは、先に述べたものと同様の形態で設置される。
なお、上述したように本発明法に基づく磯焼け海域の藻場造成法や磯焼け防止法が適用される主たる海域(磯焼けを現に生じ又は生じる恐れのある海域)は主として外海に面した海域であり、したがって所謂赤潮が生じるような河川流入栄養塩などにより富栄養化した海域とは対照をなすような海域である。
【0050】
次に、本発明の水中の環境改善方法の他の実施形態である、赤潮防止法について説明する。
この赤潮防止方法では、海水域などの水中(以下、海水中に適用する場合について説明する)に赤潮防止材として、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを設置(沈設)する。一般に、赤潮が発生する海域は富栄養化が進んだ内海や湾に多く、基本的にはそのような海域の海中(海底)に高炉水砕スラグをそのまま沈設すればよい。
また、本発明法に基づく赤潮防止法において高炉水砕スラグを海中に設置する場合の特に好ましい実施形態は以下の通りである。
この赤潮防止方法において、高炉水砕スラグは水深15m以内(以浅)、好ましくは10m以内(但し、いずれも干潮時の水深)に設置するのが望ましい。これは、高炉水砕スラグの設置深度があまり大きいと溶出したケイ酸塩イオンが表層海水に到達しにくくなり、表層海水のケイ酸塩濃度を高める上で効率が悪いからである。
【0051】
また、赤潮発生海域が沿岸に近い場合(例えば、沿岸から数km以内の場合)には、図1に示すように水深15m以内、好ましくは10m以内の海底を覆うように高炉水砕スラグAを敷設すればよく、この高炉水砕スラグAから溶出したケイ酸塩イオンにより沿岸海域の海水が高ケイ酸塩濃度化し、この海水が海流によって沖合に流されるため、その海域一帯の表層海水のケイ酸塩濃度が高まり、珪藻類を効果的に増殖させることができる。
高炉水砕スラグを海底に設置するには、図1(a)に示すように高炉水砕スラグAをそのまま海底に設置する以外に、図1(b)に示すように高炉水砕スラグAを通水性の容器又は袋に入れて設置することも可能である。この方法は設置する海域の海流が速い場合に、高炉水砕スラグの流出を防止するのに有効である。また、図1(a)のように高炉水砕スラグをそのまま海底に設置する場合には、後述する図8に示すような潜堤(例えば、製鋼スラグ塊を積み上げることにより構築される潜堤)を高炉水砕スラグAの周囲に設置することで、高炉水砕スラグの流出を防止するようにしてもよい。
【0052】
一方、赤潮発生海域が沿岸から離れた沖合の場合(例えば、沿岸から数km以上離れた沖合の場合)には、図1のように沿岸に高炉水砕スラグを設置する方法でもよいが、この方法の場合には、高炉水砕スラグの設置により高ケイ酸塩濃度化した海水が海流よって赤潮発生海域に安定的に流れ込まなければならなず、事前に海流などの調査が必要となる。したがって、赤潮発生海域が沿岸から離れた沖合の場合は、図2(a)〜(c)に示すように沖合の赤潮発生海域にブイや筏等の浮体Bを浮かべ、この浮体Bに高炉水砕スラグAを入れた通水性の袋又は容器を保持させるようにすることが好ましい。また、この場合にも袋又は容器は水深15m以内、望ましくは10m以内に設置することが好ましい。
【0053】
このような方法によれば、赤潮発生海域に対して高炉水砕スラグから直接ケイ酸塩イオンを供給することができ、赤潮発生海域の表層海水が容易に高ケイ酸塩濃度化し、珪藻類を効果的に増殖させることができる。また、この方法によれば浮体Bはアンカーで水底などに固定されるので、高炉水砕スラグの流出の恐れもない。
また、浮体Bとしては海面上に浮設されるもののほかに、海面下に浮設されるものでもよい。
図2(a)は、海面に浮設されたブイBを利用したもので、ブイBを海底に係留するロープCに適当な間隔で高炉水砕スラグAを入れた通水性の袋又は容器を固定したものである。また、図2(b)は、海面に浮設された筏Bを利用したもので、筏Bを海底に係留するロープCに適当な間隔で高炉水砕スラグAを入れた通水性の袋又は容器を固定したものである。さらに、図2(c)は海面に浮設されたブイBを海底に係留するロープCに適当な間隔で板状又は箱状などの支持基盤Dを取付け、この支持基盤Dに高炉水砕スラグAそのもの又はこれを入れた通水性の袋又は容器を載せたものである。
【0054】
高炉水砕スラグAを入れた通水性の袋又は容器を浮体Bに保持させる構造は図2の形態に限定されるものではなく、例えば、上記袋又は容器を適当な固定手段により浮体Bの下部に直接取り付けるようにしてもよい。
また、高炉水砕スラグを沿岸又は沖合に設置する場合においては、高炉水砕スラグを入れた通水性の袋又は容器を水底または陸上に支持基盤を持つ構造物(例えば、海洋構造物)に保持させること、例えば構造物から吊り下げるようにすることもできる。
【0055】
珪藻類の増殖に必要な海水中でのケイ酸塩イオンの濃度は10μmol/L以上とされているが、このようなケイ酸塩イオン濃度は本発明法により高炉水砕スラグを海中に設置すること、好ましくは水深15m以内(より好ましくは水深10m以内)の海中に設置することによって容易に達成される。これにより表層海水中に珪藻類(シャットネラなどの鞭毛藻類の競合種)が安定的に繁殖し、赤潮の原因となるシャットネラなどの鞭毛藻類の異常増殖が防止される。また、珪藻類の安定的な繁殖は、これを食料とする魚介類の増殖にも効果があり、水産資源の増加にも効果がある。また、高炉水砕スラグからのケイ酸塩イオンの溶出は長期間継続するため、珪藻類の増殖及びこれに伴う赤潮防止効果も長期間に亘って継続することになる。
【0056】
本発明法に基づく赤潮防止法が適用される主たる海域(旧来の赤潮多発海域)は主として内海や湾などにおいて河川流入栄養塩などにより富栄養化した海域であり、したがって所謂“磯焼け”が生じるような海域とは対照をなすような海域である。
また、以上の実施形態では本発明を海水域に適用する場合について説明したが、赤潮は汽水域や淡水域でも発生するものであり、したがって、本発明に基づく赤潮防止方法はこれらの水域に対しても適用することができる。
【0057】
本発明の水中の環境改善方法の具体的な実施形態としては、以上説明した形態、すなわち磯焼け海域の藻場造成法、磯焼け防止法、赤潮防止法以外にも、例えば、磯焼け以外の原因で海藻成育環境が衰退・消失した海域の環境改善法(修復)等などがある。このような環境改善法においても、高炉水砕スラグの敷設形態などは先に磯焼け海域の藻場造成法や磯焼け防止法に関して述べたものと同様である。
【0058】
次に、本発明の水中の環境改善方法の他の形態について説明する。
この形態では、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを硫化水素の発生源となる水底に青潮防止材として敷設し、硫化水素の発生(さらには、海水の富栄養化)とこれにより引き起こされる青潮の発生を抑制する。
本発明により敷設材を敷設する対象となる水底とは、硫化水素の発生源である又は発生源となるおそれのある水底であり、具体的には、(1)水底に形成された凹部、(2)底層水中で硫化水素が検出された水域又は底層水中の溶存酸素濃度が所定値以下の水域の水底、(3)底層水の流速が所定値以下の水域の水底、(4)水中に水温又は/及び塩分濃度による密度躍層が形成された水域の水底、などが対象となる。
本発明法が適用される水域としては、港湾を含む海、河川、河口、湖沼等のいずれでもよい。
【0059】
硫化水素の主要な発生源は水が停滞しやすく、且つ有機物が堆積し、酸素消費量が多いヘドロ状の水底部であり、特に土砂採取等によって水底が部分的に掘られ、比較的深さのある凹部が形成された水底部において硫化水素が発生しやすい。すなわち、このような凹部内では水が停滞する結果、特に夏期において著しい無酸素状態となり、有機物の腐敗やバクテリア(硫酸還元菌)の作用によって大量の硫化水素が発生し、硫化水素を含んだ大量の無酸素水塊が生じる。このように凹部内で硫化水素が大量発生すると、凹部内やその周囲の棲息生物が減少するだけでなく、硫化水素を含んだ上記水塊が周辺水域に流出し、所謂青潮の発生に至る。また、凹部以外の水底部であっても、水が停滞しやすく且つ有機物が堆積して酸素消費量が多いヘドロ状の水底部では、同様に硫化水素が発生して硫化水素を含んだ無酸素水塊が生じ、底棲生物のへい死を招いたり、無酸素水塊が周辺水域に流出して青潮を発生させたりする。したがって、このような硫化水素発生源となる有機物が堆積した水底部に高炉水砕スラグを敷設し、或いは同じく有機物が堆積した凹部内に当該凹部を埋めるようにして高炉水砕スラグを敷設することにより、硫化水素の発生とこれにより引き起こされる青潮の発生を抑えることができる。
【0060】
高炉水砕スラグを敷設する対象となる水底の凹部とは、通常は土砂採取や浚渫等によって水底に人為的に形成された穴状または溝状の凹部であるが、これに限定されるものではなく、例えば、自然に形成された水底の凹部や、土砂採取や元々の地形により傾斜面や浅い凹部が形成されている水底にケーソン等を設置することで人工的に形成された凹部等も対象となる。一般に凹部が形成される水底は泥質又は砂質である。
なお、凹部の定義としては、水の停滞等を考慮した場合、一般には周囲の水底面よりも2m以上深くなっている水底部を凹部としてよい。また、場合によっては、周囲の水底面よりも1m以上深くなっている水底部、或いは0.5m以上深くなっている水底部を凹部としてよい。
【0061】
ここで、本発明法が適用される凹部の種類や規模には特別な制約はないが、典型的な形態として以下のようものがある。
(a) 自然に存在する水底の凹部:このような水底の凹部は比較的面積が大きい。一般にこの種のもので本発明法の対象となる凹部は、平面的でみて最も幅が狭い部分の幅が50m以上、深さが2m以上あるような規模の凹部である。
(b) 土砂採取や浚渫等によって水底に人為的に形成された凹部:このような水底の凹部は比較的面積が小さい。一般にこの種のもので本発明法の対象となる凹部は、平面的でみて最も幅が狭い部分の幅が10m以上、深さが5m以上あるような規模の凹部である。
(c) 水底にケーソン等の構造物を設置した場所において、この構造物と水底(例えば、自然に存在する水底の凹部や、土砂採取や元々の地形により傾斜面や浅い凹部が形成されている水底)とより結果的に形成された凹部:このような水底の凹部も比較的面積が小さい。一般にこの種のもので本発明法の対象となる凹部は、平面的でみて最も幅が狭い部分の幅が10m以上、深さが2m以上あるような規模の凹部である。
【0062】
高炉水砕スラグを水底の凹部内に敷設する場合、敷設した敷設材(高炉水砕スラグ)上面により形成される水底面は、その周囲の水底面と略同等かそれ以上の高さを有することが好ましい。また、少なくとも、敷設された敷設材により形成される水底面Aの平均水深dと凹部周囲(凹部近傍の周囲)の水底面Bの平均水深dとの差[d−d]が2m以下、好ましくは1m以下、より好ましくは0.5m以下、特に好ましくは0.3m以下(但し、いずれも[d−d]がマイナス値の場合を含む)となるようにすることが特に望ましい。この差[d−d]が2m以下、好ましくは1m以下、より好ましくは0.5m以下、特に好ましくは0.3m以下であれば、凹部が十分に浅くなるため凹部内外での水の流出入が円滑に行われるようになり(すなわち、凹部内での水の停滞がなくなる)、夏期等に凹部内の水が無酸素状態になるような現象が適切に防止できる。
【0063】
ここで、敷設材上面により形成される水底面Aの平均水深dとは、敷設材により形成される水底面Aに起伏や凹凸があるために水深にバラツキがある場合に、その水底面を平らに均した際の水深であり、また、凹部周囲(凹部近傍の周囲)の水底面Bの平均水深dとは、凹部周囲の水底面Bに起伏や凹凸があるために水深にバラツキがある場合に、その水底面を平らに均した際の水深である。
本発明法は、上述のように水底の形態(凹部)に基づいて敷設材の敷設場所を選定する以外に、底層水中の硫化水素又は溶存酸素濃度を測定し、底層水中で硫化水素が検出された水域又は底層水中の溶存酸素濃度が所定値以下の水域の水底に高炉水砕スラグを敷設するようにしてもよい。
【0064】
ここで、底層水とは水底の近くに存在する水のことであり、一般には水の深さ方向で水底から2m以内、好ましくは1m以内の水であればよい。本発明法では、このような底層水で硫化水素が検出され、或いは測定された溶存酸素濃度が所定値以下である水域の水底に敷設材を敷設する。硫化水素の場合は、それが底層水から検出されれば、その水域の水底に敷設材を敷設する。また、溶存酸素濃度の場合は、一般に底層水の溶存酸素濃度が飽和溶存酸素濃度の10%以下であると硫酸還元菌の作用によって硫化水素が発生するおそれがあるため、溶存酸素濃度が飽和溶存酸素濃度の10%以下の水域の水底に敷設材を敷設することが好ましい。また、一般に底層水の溶存酸素濃度が飽和溶存酸素濃度の60%以下であると底棲生物の棲息に問題を生じるため、溶存酸素濃度が飽和溶存酸素濃度の60%以下の水域の水底に敷設材を敷設するようにしてもよい。
【0065】
また、本発明法では、底層水の流速を測定し、その流速が所定値以下である水域の水底に、高炉水砕スラグを敷設するようにしてもよい。底層水の流速が小さく、水の停滞が生じやすい水底が硫化水素の発生源となりやすいからである。なお、底層水とは先に述べた通り水底の近くに存在する水のことであり、一般には水の深さ方向で水底から2m以内、好ましくは1m以内の水であればよい。
一般に底層水の流速が20cm/秒以下の水域は底層水の溶存酸素濃度や硫化水素濃度が水底の影響を強く受けるため、そのような流速の水域の水底に敷設材を敷設することが好ましい。
【0066】
さらに、本発明法では、水中に水温や塩分濃度による密度躍層が形成された水域の水底に高炉水砕スラグを敷設するようにしてもよい。水中に密度躍層が形成されると、大気から水中に供給される酸素が底層水まで拡散しにくくなり、硫化水素が発生しやすくなる。
密度躍層が形成されたことは水中の塩分濃度及び/又は水温等を測定することにより判定することができ、密度躍層が形成されたと判定されたときは、その水域の水底に敷設材を敷設する。
以上のように本発明法において、(a)底層水中で硫化水素が検出された水域又は底層水中の溶存酸素濃度が所定値以下の水域の水底、(b)底層水の流速が所定値以下の水域の水底、(c)水中に水温又は/及び塩分濃度による密度躍層が形成された水域の水底、のいずれかを敷設材の敷設場所とする場合は、例えば、閉鎖性の高い港や湾(例えば、リアス式海岸等にある湾)等が対象とすることができる。
【0067】
上述したような高炉水砕スラグの作用からして、敷設材としては高炉水砕スラグ100%が最も好ましいと言えるが、高炉水砕スラグとそれ以外の素材、例えば製鋼スラグ等の高炉水砕スラグ以外のスラグやスラグ以外の素材を併用してもよい。高炉水砕スラグ以外の鉄鋼製造プロセスで発生するスラグとしては、高炉で発生する高炉徐冷スラグ、予備処理、転炉、鋳造等の工程で発生する脱炭スラグ、脱燐スラグ、脱硫スラグ、脱珪スラグ、鋳造スラグ等の製鋼スラグ、鉱石還元スラグ、電気炉スラグ等を挙げることができるが、これらに限定されるものではなく、また2種以上のスラグを混合して用いることもできる。また、これらのスラグは、水和処理、炭酸化処理、エージング、水和硬化、炭酸化硬化等を経たものを用いてもよい。また、スラグ以外の素材としては、資源のリサイクルという観点からは都市ゴミスラグ、廃コンクリート、モルタルや耐火物の廃材等が好ましいが、それ以外に例えば建設発生残土、フライアッシュ、天然砂、天然石等を用いてもよい。
また、都市ゴミスラグや廃コンクリート等は、水和処理、炭酸化処理、エージング、水和硬化、炭酸化硬化等を経たものを用いてもよい。
【0068】
敷設材として高炉水砕スラグとそれ以外の素材とからなるものを用いる場合、上述したような高炉水砕スラグによる作用を適切に得るために、水底部(凹部を含む)に敷設された敷設材の50mass%以上、好ましくは80mass%以上が高炉水砕スラグで構成されることが望ましい。また、その場合には高炉水砕スラグとそれ以外の素材が混合されるか、又は高炉水砕スラグが上層側、それ以外の素材が下層側になるようにして水底部に敷設されることが好ましい。
【0069】
また、上層を高炉水砕スラグを含む敷設材で構成し、下層をそれ以外の素材からなる敷設材で構成する場合、上述したような高炉水砕スラグによる作用を適切に得るために、上層中の高炉水砕スラグの含有率は60mass%以上、好ましくは80mass%以上とすることが望ましい。
また、このように水底部に敷設される敷設材の上層を高炉水砕スラグ又は高炉水砕スラグを60mass%以上(好ましくは80mass%以上)含む敷設材で構成する場合、この上層の厚みは0.1m以上、好ましくは0.5m以上とすることが望ましい。この上層の厚みが0.1m未満では、その下方の硫化水素を含んだ水が簡単に通過してしまい、上述したような作用が十分に得られなくなる恐れがある。また、厚みが0.1m未満では施工の際の厚み管理自体も難しくなる。また、特にこの上層の厚みが1m以上あれば、当該上層部は底泥と混合しなくなるため、スラグが固結するようなことがなく、このため生物の棲息環境として好適な砂質水底を提供できる。
【0070】
なお、高炉水砕スラグとともに他のスラグを使用する場合において、脱珪スラグ、脱炭スラグ等の製鋼スラグを用いた場合、これらのスラグは酸化鉄の含有量が高いため高炉水砕スラグ等に較べて硫化水素や燐を固定化する作用が大きいという特徴がある。このため、例えば敷設された敷設材の下層を製鋼スラグ又は製鋼スラグを含む敷設材で構成することにより、底泥中の硫化水素や燐を効果的に固定することができる。下層を製鋼スラグを含む敷設材で構成する場合、下層中の製鋼スラグの含有率は60mass%以上、好ましくは80mass%以上とすることが望ましい。下層中の製鋼スラグの含有率が60mass%未満では、上述した製鋼スラグに特有の作用が十分に得られない。
【0071】
また、このように敷設された敷設材の下層を製鋼スラグ又は製鋼スラグを60mass%以上(好ましくは80mass%以上)含む敷設材で構成する場合、この下層の厚みは0.1m以上、好ましくは0.3m以上とすることが望ましい。この下層の厚みが0.1m未満では、製鋼スラグによる泥質中の硫化水素や燐の固定が十分に行われる前に、硫化水素や燐を含んだ水がこの下層を通過してしまい、硫化水素や燐の固定化作用が十分に得られなくなるおそれがある。また、厚みが0.1m未満では、施工の際の厚み管理自体も難しくなる。
【0072】
以上述べたような各スラグの特性からして、凹部内やその他の水底部への敷設材の敷設形態としては、例えば、以下のようなものが考えられる。
▲1▼敷設材の全部:高炉水砕スラグ
▲2▼敷設材の上層:高炉水砕スラグ、敷設材の下層:高炉水砕スラグ以外のスラグ及び/又はスラグ以外の素材
▲3▼敷設材の上層:高炉水砕スラグ、敷設材の下層:製鋼スラグ
▲4▼敷設材の上層:高炉水砕スラグ、敷設材の中層:スラグ以外の素材又はスラグとスラグ以外の素材との混合物、敷設材の下層:製鋼スラグ
【0073】
図5(a)〜(d)は、それぞれ水底の凹部1に敷設材2(高炉水砕スラグ又は高炉水砕スラグを含む敷設材)を敷設した状態を示しており、図5(a)に示すように、敷設材2はこれにより形成される水底面Aの平均水深dと凹部周囲の水底面Bの平均水深dとの差[d−d]が2m以下、好ましくは1m以下となるように(特に好ましくは、敷設材2により形成される水底面Aが凹部周囲の水底面Bと略同等かそれ以上の高さとなるように)敷設される。
【0074】
図5(a)は、高炉水砕スラグ100%の敷設材2又は高炉水砕スラグとそれ以外の素材(例えば、廃コンクリート)とを混合した敷設材2を凹部1内に敷設した実施形態を示している。また、図5(b)は、敷設材2として高炉水砕スラグとそれ以外の素材を用いたもので、高炉水砕スラグ以外の素材21(例えば、廃コンクリート)を下層側に、高炉水砕スラグ20を上層側にそれぞれ敷設した実施形態を示している。また、図5(c)は、敷設材2として高炉水砕スラグ20aとその他のスラグ20b(例えば、製鋼スラグ)を用いたもので、高炉水砕スラグ20aを上層側に、それ以外のスラグ20bを下層側にそれぞれ敷設した実施形態を示している。さらに、図5(d)は、浅い凹部が形成されている水底にケーソン3を設置することで人工的に形成された凹部1内に敷設材2(例えば、上記(a)〜(c)のような形態の敷設材)を敷設した実施形態を示している。
【0075】
また、凹部以外の水底に敷設材を敷設する場合も、敷設材中の高炉水砕スラグの含有率は60mass%以上、好ましくは80mass%以上とすることが望ましく、特に高炉水砕スラグのみからなる敷設材が最も好ましい。高炉水砕スラグ以外の敷設材としては、上述した各種スラグや都市ゴミスラグ、廃コンクリート等を用いることができる。また、敷設材の厚みは、上述したと同様の理由から0.1m以上、好ましくは0.5m以上とすることが望ましい。
【0076】
以上のようにして水底に敷設された高炉水砕スラグは、以下のような機構により青潮の発生原因である硫化水素の発生や水の富栄養化を抑制する。高炉水砕スラグは多量のCaOを含んでいるが、この高炉水砕スラグ中に含まれるCaOがCaイオンとして水中に溶出する。本発明法で使用する高炉水砕スラグはスラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成されているため、沈設初期におけるスラグからのCaイオンの過剰な溶出は抑えられるが、それでも微量のCaイオンが水中に溶出するとともに、沈設初期を過ぎると次第にCaイオンを溶出するようになる。そして、このようなCaイオンの溶出によって水中のpH(pH:8.5程度)が適度に高められ、この結果、硫酸還元菌の活性が弱められ、硫酸還元菌による硫化水素の発生が効果的に抑制される。また、高炉水砕スラグに含まれるCaO、Feによって水中の硫化水素を固定化することにより、水中の硫化水素の低減化が図られる。さらに、高炉水砕スラグ中に含まれるCaOによって水中の燐が吸着・固定され、青潮発生等の要因の一つである水の富栄養化が抑制される。このため高炉水砕スラグを水底、特に水の停滞を生じ易い水底の凹部に敷設した場合、凹部内の底泥からの硫化水素の発生が抑制されるとともに、敷設材上部層の間隙水中での硫化水素の発生も抑制され、さらに、スラグ粒子への硫化水素や燐の固定化作用による水質浄化作用も得られる。また、敷設材の上部層は硫化水素が少なく溶存酸素の多い状態となるため着生する生物にとって棲息しやすい環境となり、生物の着生基盤としても高い機能を有することになる。特に高炉水砕スラグは先に述べたような形態上の特徴を有することから、高炉水砕スラグの集合物は一般のガラス質材料からなる粒状物の集合物に較べて充填間隙が大きく、通水性に優れている。このためスラグ粒子間の間隙の水が入れ替りやすく、この間隙での溶存酸素濃度が十分に確保されるため、底質に棲息する生物に良好な環境を提供することができる。
【0077】
また、高炉水砕スラグは上述したようにガラス質であることから、他のスラグに較べて含有成分の溶出や水中又は底泥中の成分との反応が非常にゆっくりと進行する。このため水中のpHを急激に上昇させたり、底質・水質の改善効果が短期間で消失することがない。また、本発明法で使用する高炉水砕スラグはスラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成されているため、上述したように沈設初期における水中のpH上昇も効果的に抑えられる。さらに、高炉水砕スラグは白色で天然砂と同様の外観を有しており、しかもスラグ粒子の表面に形成された炭酸カルシウム皮膜によってスラグ粒子どうしの固結も防止されるので、砂質域の生物が棲息するのに適した環境を提供できる利点もある。
【0078】
また、以上のような作用効果に加えて、高炉水砕スラグを水底に形成された凹部の敷設材として使用した場合には、以下のような作用効果が得られる。
天然砂や天然石を水底の凹部に敷設した場合、凹部の内壁に敷設材による大きな圧力が作用し、敷設後ある程度の期間が過ぎると敷設材が凹部の内壁を押し広げて水平方向に広がってしまい、その結果、敷設当初は周囲の水底面と略同レベルであった敷設材の上面レベル(水底面)が大きく沈下し、これより水の停滞を生じるような凹部が再び形成されてしまうという問題がある。
【0079】
これに対して高炉水砕スラグの粉粒物は、天然砂や天然石に較べて内部摩擦角がかなり大きく、このため高炉水砕スラグを水底の凹部に敷設した場合、敷設材から凹部の内壁に作用する圧力が比較的小さい。このため天然砂や天然石を用いた場合のように敷設材が凹部の内壁を押し広げて水平方向に広がってしまう現象が生じにくく、敷設材の上面レベル(水底面)の沈下も生じにくい。特に、高炉水砕スラグは他のスラグに較べても内部摩擦角が大きく、このため凹部内壁に対する圧力が小さく、また他のスラグに較べて嵩密度も小さいため、自重による沈下も起こりにくい。したがって、敷設材の上面レベル(水底面)の沈下も最小限に抑えることができる。
【0080】
これを図6及び図7に基づいて説明する。図6は敷設材として天然砂や天然石を用いた従来法、図6は敷設材として高炉水砕スラグを用いた本発明法を示している。まず、従来法のように天然砂や天然石を水底の凹部1に敷設した場合(図6(a))、凹部1の内壁に敷設材2による大きな圧力Fが作用し、敷設後ある程度の期間が過ぎると、図6(b)に示すように敷設材2が凹部1の内壁を押し広げて水平方向に広がってしまう。その結果、敷設当初は周囲の水底面Yと略同レベルであった敷設材の水底面Xが沈下し、これより再び凹部1′が形成されてしまう。これに対して高炉水砕スラグを水底の凹部1に敷設した場合(図7(a))、高炉水砕スラグは天然砂や天然石に較べて内部摩擦角がかなり大きいため、敷設材2から凹部1の内壁に作用する圧力Fが小さい。このため図7(b)に示すように敷設材2が凹部1の内壁を押し広げて水平方向に広がってしまう現象が生じにくく、敷設材2の水底面Xの沈下も生じにくい。
【0081】
以上述べた本発明の各実施形態は、海岸に面した所謂浅場の造成又は修復を兼ねて行ってもよい。すなわち、主に海岸に面した海域において海藻類や魚介類の成育・棲息に適した所謂浅場が海砂の流失や浚渫などにより衰退・消失する場合があり、このような海底部を本来の浅場としての環境に造成又は修復することを兼ねて、その海底部に覆砂材等として高炉水砕スラグを敷設することができる。このようにして敷設された高炉水砕スラグは、生物の棲息に適した底質を提供する。
またこの場合、海流等による高炉水砕スラグの流失を防止するため、敷設された高炉水砕スラグの周囲に潜堤を設置することが好ましい。また、高炉水砕スラグの敷設領域には人工の海藻着生基盤や漁礁を設置し、海藻類や魚介類の成育・棲息環境を整えることが好ましい。
【0082】
高炉水砕スラグの流失を防止するための潜堤は任意の材料で構成することができるが、塊状スラグ(鉄鋼製造プロセスで発生した塊状スラグ)を積み上げて潜堤を構築することにより、例えばコンクリート製品を用いたり、コンクリート構造物を構築したりすることなく、簡易且つ安価に潜堤を形成することができる。高炉水砕スラグが元々粒状の形態であるのに対して、製鋼スラグ等は塊状のものが得られやすく且つ比重も大きいため、これを所定の高さに積み上げることにより堅牢な潜堤を構築することができ、しかもスラグが塊状であるため海流等により消失する恐れもない。また、先に述べたように製鋼スラグには底質や水質を浄化する作用もあるため、水中の環境改善にも寄与できるという利点がある。
【0083】
使用する塊状スラグとしては、高炉で発生する高炉徐冷スラグ(但し、この高炉徐冷スラグは水中でSが溶出しないようにするため、十分にエージング処理したものが好ましい)、予備処理、転炉、鋳造等の工程で発生する脱炭スラグ、脱燐スラグ、脱硫スラグ、脱珪スラグ、鋳造スラグ等の製鋼スラグ、鉱石還元スラグ、電気炉スラグ等が挙げられ、これらの2種以上を用いてもよい。またこれらのスラグなかでも、高比重であるという点では脱炭スラグ、鋳造スラグが特に好ましい。またスラグの大きさとしては、一般に塊径が30mm程度以上のものが好ましい。
【0084】
また、上記潜堤は後述するようなスラグを主原料とするブロック、すなわち、鉄鋼製造プロセスで発生したスラグを主原料とする粉粒状原料を炭酸反応で生成させたCaCOを主たるバインダーとして固結させて得られたブロック、鉄鋼製造プロセスで発生したスラグを主原料とする水和硬化体ブロックなどで構成することもできる。これらのブロックを適当に積み上げることにより、堅牢な潜堤を構築することができる。これらと上記塊状スラグを併用してもよい。
【0085】
高炉水砕スラグの敷設領域に設置される人工の海藻着生基盤や漁礁は、自然石、ブロック、鋼製構造体等の任意のもので構成することができるが、特に、上述したような鉄鋼製造プロセスで発生した塊状スラグ、鉄鋼製造プロセスで発生したスラグ(鉄鋼スラグ)を主原料とする粉粒状の原料を炭酸固化させて得られたブロック、或いは同じく鉄鋼スラグを主原料とする水和硬化体ブロックなどを用いるのが好ましい。
【0086】
これらのうち鉄鋼製造プロセスで発生した塊状スラグについては、先に述べた通りである。
また、主原料である鉄鋼スラグを炭酸固化させて得られたブロックとしては、例えば特許第3175694号で提案されている、鉄鋼スラグを主原料とする粉粒状原料を炭酸化反応で生成させたCaCO(場合によっては、さらにMgCO)を主たるバインダーとして固結させ、塊状させたものを用いることができる。また、鉄鋼スラグとしては、先に挙げたような各種スラグ、すなわち高炉で発生する高炉水砕スラグや高炉徐冷スラグ、予備処理、転炉、鋳造等の工程で発生する脱炭スラグ、脱燐スラグ、脱硫スラグ、脱珪スラグ、鋳造スラグ等の製鋼スラグ、鉱石還元スラグ、電気炉スラグ等を用いることができる。
【0087】
このような鉄鋼スラグを炭酸固化させて得られたブロック(石材)は、▲1▼スラグ中に含まれるCaO(またはCaOから生成したCa(OH))の大部分がCaCOに変化するため、CaOによる海水のpH上昇を防止できる、▲2▼スラグに適量の鉄分(特に、金属鉄、含金属鉄材)が含まれることにより、この鉄分が海水中に溶出することで海水中に栄養塩として鉄分が補給され、これが海藻類の育成に有効に作用する、▲3▼スラグを炭酸固化して得られたブロックは全体(表面及び内部)がポーラスな性状を有しており、このため石材表面に海藻類が付着し易く、しかも石材内部もポーラス状であるため、石材中に含まれている海藻類の成育促進に有効な成分(例えば、ケイ酸塩イオンや鉄分)が海水中に溶出しやすい、などにより海藻の着生基盤や漁礁として有効に機能する。また、主原料であるスラグの一部又は全部として高炉水砕スラグを用いることにより、上述したようなケイ酸塩イオンの溶出を特に促進することができるため、海藻成育環境の改善や磯焼け防止、赤潮防止などに特に有効である。このためブロックの全原料又は主原料を高炉水砕スラグとすることが最も好ましい。
【0088】
また、鉄鋼スラグを主原料とする水和硬化ブロックは、鉄鋼スラグを主原料(骨材及び/又は結合材)として含む原料を水和硬化させて得られるものであり、鉄鋼スラグとしては、先に挙げたような各種スラグ、すなわち高炉で発生する高炉水砕スラグや高炉徐冷スラグ、予備処理、転炉、鋳造等の工程で発生する脱炭スラグ、脱燐スラグ、脱硫スラグ、脱珪スラグ、鋳造スラグ等の製鋼スラグ、鉱石還元スラグ、電気炉スラグ等を用いることができる。水和硬化によるブロックの製造では、原料を水と混練後、型枠に入れ、通常1〜4週間養生することによってブロックが製造される。
【0089】
また、主原料(骨材及び/又は結合材)であるスラグの一部又は全部として高炉水砕スラグを用いることにより、上述したようなケイ酸塩イオンの溶出を特に促進することができるため、海藻成育環境の改善や磯焼け防止、赤潮防止などに特に有効である。このためブロックの全原料又は主原料を高炉水砕スラグとすることが最も好ましい。
なお、ブロックに用いる結合材としては、上述した高炉水砕スラグの微粉末などの他にシリカ含有物質(例えば、粘土、フライアッシュ、ケイ砂、シリカゲル、シリカシューム)、セメント、消石灰、NaOHなどを適宜組み合わせて使用することもできる。
【0090】
以上のようなブロックを高炉水砕スラグの敷設領域に設置する場合には、個々のブロックを高炉水砕スラグ層上に設置してもよいし、複数のブロックを積み上げ或いは組み付けてもよい。特に、ブロックに漁礁としての機能を持たせる場合には、複数のブロックを積み上げ或いは組み付けることにより、複数のブロック間に魚介類が棲息できるような空間部を形成することが好ましい。
また、塊状スラグを高炉水砕スラグの敷設領域に設置する場合には、例えばスラグを山状に積み上げたり、或いはスラグを金網籠など入れて設置するなど、任意の設置形態を採ることができる。
【0091】
以上述べたような高炉水砕スラグを敷設材とする浅場の造成又は修復において、高炉水砕スラグの流出防止用の潜堤として塊状スラグ及び/又はスラグ(特に好ましくは高炉水砕スラグ)を主原料とするブロックを用い、且つ高炉水砕スラグの敷設領域に設置する海藻着生基盤や漁礁としても、塊状スラグ及び/又はスラグ(特に好ましくは高炉水砕スラグ)を主原料とするブロックを用いることにより、先に述べたような特定の高炉水砕スラグによる水中の環境改善作用(すなわち、珪藻類の増殖による海藻類成育環境の改善作用や磯焼け・赤潮の発生抑制作用、硫化水素の発生防止による青潮の発生抑制作用、底質・水質の浄化作用など)が最も効果的に得られ、しかも浅場の造成又は修復用の資材として天然資源を用いることなく、100%リサイクル材(鉄鋼スラグ)を用いることができ、リサイクル材の有効利用、施工の低コスト化、天然資源の利用による環境破壊の防止などの面からも極めて有利である。
【0092】
図8は、高炉水砕スラグを敷設材とする浅場の造成又は修復の一実施形態を示したもので、4は水底に適当な厚さに敷設された高炉水砕スラグ、5は敷設された高炉水砕スラグの流失を防止するために高炉水砕スラグ4の周囲に設置された潜堤であり、この潜堤5は塊状スラグ(製鋼スラグ)を積み上げることにより構築されている。さらに、6は敷設された高炉水砕スラグ層上に積み上げられることにより海藻着生基盤及び/又は漁礁を構成するブロックであり、このブロック6としては、鉄鋼スラグ(好ましくは高炉水砕スラグ)を主原料とする粉粒状原料を炭酸固化させて得られたブロック、或いは同じく鉄鋼スラグ(好ましくは高炉水砕スラグ)を主原料とする水和硬化体ブロックなどを用いる。
【0093】
このように高炉水砕スラグ4を海底に敷設するとともに、その流失防止用の潜堤5として塊状スラグを用い、さらに高炉水砕スラグ4の敷設領域に鉄鋼スラグ(好ましくは高炉水砕スラグ)で構成されたブロック6を海藻着生基盤及び/又は漁礁として設置することにより、海藻類や魚介類の成育・棲息環境に最も適した浅場が造成又は修復されることになる。なお、以上述べた浅場の造成又は修復においても、高炉水砕スラグの敷設形態などは先に磯焼け海域の藻場造成法や磯焼け防止法に関して述べたものと同様である。
【0094】
さらに、本発明法の他の形態では、水底又は水浜に、覆砂材、養浜材、浅場造成材又は干潟造成材として、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを敷設する。
ここで、覆砂とは水底の泥層をきれいな砂で覆うことを指す。また、養浜とは、海岸の浸食等により砂浜が消失した海岸や人工ビーチを造成する海岸に外部から砂を供給することを指す。
また、干潟とは、満潮時には水没するが干潮時には干上がり、表面に砂泥が堆積している平坦な場所を指し、一般に干潟は河口域や内湾の奥に発達している。また、浅場とは文字通り水深が数m以下の浅い海域を指す。海岸から沖合に向かって伸びる海底では、おおよそ水深数mほどのところで所謂灘落ちと呼ばれるやや急な斜面に移行する地形がしばしば認められるが、一般に、浅場とはこの灘落ち点よりも浅い側の海域を指す。
【0095】
砂浜や干潟、浅場は貝類やゴカイ類等の底棲生物の主要な棲息環境である。一方、高炉水砕スラグは粒状で且つ白色であって、天然砂に近い性状と外観を有しており、しかも先に述べたような底質・水質の浄化機能やケイ酸塩イオンの放出源としての機能も有している。さらに、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを用いることにより、先に述べたように敷設初期におけるSの溶出や周囲の水のpH上昇が抑制されるとともに、スラグ粒子どうしの固結も生じにくい。したがって、水浜又は水底に、覆砂材、養浜材、浅場造成材又は干潟造成材として、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを敷設することにより、底棲生物の棲息に好適な水底環境を形成できる。
【0096】
とりわけ、粒径0.5mm以上のスラグ粒子の割合が90mass%以上、好ましくは粒径1.0mm以上のスラグ粒子の割合が70mass%以上(特に好ましくは80mass%以上)の高炉水砕スラグを敷設した場合には、先に述べたような理由により底棲生物の棲息に特に適した環境を形成することができ、底棲生物の棲息量を顕著に増大させることができるとともに、高炉水砕スラグに含まれる針状物の割合が非常に少ないため、人や生物が針状物で傷付いたりすることがない安全な砂地(砂浜、干潟、浅場)を形成することができる。
本実施形態が適用される水浜又は水域としては、港湾を含む海、河川、河口、湖沼等のいずれでもよい。
【0097】
以上述べた覆砂、養浜、干潟・浅場造成等を目的とする高炉水砕スラグの敷設に関する好ましい実施形態を整理すると、以下のようになる。
(1) 水底又は水浜に、覆砂材として、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成され、且つ粒径0.5mm以上のスラグ粒子の割合が90mass%以上、好ましくは粒径1.0mm以上のスラグ粒子の割合が70mass%以上の高炉水砕スラグを敷設することにより、水底の覆砂を行う水中又は水浜の環境改善方法。
(2) 水浜に、養浜材として、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成され、且つ粒径0.5mm以上のスラグ粒子の割合が90mass%以上、好ましくは粒径1.0mm以上のスラグ粒子の割合が70mass%以上の高炉水砕スラグを敷設することにより、養浜を行う水中又は水浜の環境改善方法。
【0098】
(3) 干潟を造成(修復を含む)すべき場所に、干潟造成材として、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成され、且つ粒径0.5mm以上のスラグ粒子の割合が90mass%以上、好ましくは粒径1.0mm以上のスラグ粒子の割合が70mass%以上の高炉水砕スラグを敷設することにより、干潟造成を行う水中又は水浜の環境改善方法。
(4) 浅場を造成(修復を含む)すべき海底部に、浅場造成材として、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成され、且つ粒径0.5mm以上のスラグ粒子の割合が90mass%以上、好ましくは粒径1.0mm以上のスラグ粒子の割合が70mass%以上の高炉水砕スラグを敷設することにより、浅場造成を行う水中又は水浜の環境改善方法。
【0099】
次に、高炉水砕スラグのスラグ粒子の表面を炭酸化処理することにより、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜を形成する方法について説明する。
この高炉水砕スラグのスラグ粒子の表面を炭酸化処理する方法としては、先に述べたように高炉水砕スラグを炭酸水溶液、炭酸塩の水溶液、炭酸ガスの中から選ばれる1種以上と接触させる方法を採ることができる。
【0100】
まず、高炉水砕スラグを炭酸水溶液(炭酸水)と接触させることにより、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜を形成する方法について説明する。
この方法では、高炉水砕スラグを炭酸水溶液中に浸漬し、若しくは高炉水砕スラグに炭酸水溶液を散布することにより、高炉水砕スラグを炭酸水溶液と接触させ、高炉水砕スラグのスラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜を形成させる。この処理では、高炉水砕スラグのスラグ粒子から炭酸水溶液中に溶出したカルシウムイオンと炭酸水溶液中の炭酸成分(CO 2−又は/及びHCO )とがスラグ粒子の表面近傍で反応し、高炉水砕スラグの粒子表面に難溶性の炭酸カルシウム皮膜が形成(析出)される。
【0101】
高炉水砕スラグを炭酸水溶液中に浸漬させる方法では、例えば炭酸水溶液が入れられた貯留槽に高炉水砕スラグを投入して液中に浸漬させる。
また、高炉水砕スラグに炭酸水溶液を散布する方法では、例えば、搬送手段(ベルトコンベア等)による搬送途中の高炉水砕スラグにその上方から炭酸水溶液を散布し、或いは山積みされた高炉水砕スラグや貯槽に貯留された高炉水砕スラグに上方から炭酸水溶液を散布するなど、適宜な実施形態で高炉水砕スラグに炭酸水溶液を散布してよい。これらの方法うち、搬送手段による搬送途中の高炉水砕スラグに炭酸水溶液を散布する方法は、高炉水砕スラグに炭酸水溶液を均一にむらなく散布できる利点がある。また、散布後の高炉水砕スラグを撹拌すれば、スラグ中での炭酸水溶液の分布をより均一化することができる。
【0102】
また、高炉水砕スラグは元々数%程度の水分を含有しており、過剰に散布した炭酸水溶液は高炉水砕スラグから流出して無効となるため、散布する炭酸水溶液の量は高炉水砕スラグの30mass%程度、好ましくは10mass%程度を上限とすることが適当である。したがって、高炉水砕スラグを炭酸水溶液に浸漬する方法に較べて処理に要する炭酸水溶液の量が格段に少なく、またこのため炭酸水溶液の製造のために大規模な設備を必要とせず、且つ簡便かつ迅速な処理を行うことができる利点がある。
【0103】
また、高炉水砕スラグに炭酸水溶液を散布する方法は、以下に述べるような理由により、スラグ粒子表面に炭酸カルシウム皮膜を適切に形成するという面で、高炉水砕スラグを炭酸水溶液に浸漬する方法に較べて有利である。すなわち、高炉水砕スラグ粒子の表面に形成される炭酸カルシウム皮膜は非常に薄く、皮膜形成のために必要な炭酸量は極めて微量であるため、上記のように少量(例えば、高炉水砕スラグの30mass%以下、好ましくは10mass%以下)の炭酸水溶液で十分に皮膜を形成することができる。さらに、その皮膜生成の速度も極めて速いため、高炉水砕スラグと炭酸水溶液との接触時間は極めて短くてよい。逆に、高炉水砕スラグと炭酸水溶液との接触時間が長過ぎ、高炉水砕スラグの周囲に過剰な炭酸成分が存在していると、下記式(1)に示すような反応が進み、一旦生成した難溶性の炭酸カルシウムが可溶性の炭酸水素カルシウムに変化してしまう。
CaCO+HCO→Ca(HCO …(1)
【0104】
高炉水砕スラグを炭酸水溶液に浸漬する方法では、不可避的に高炉水砕スラグと炭酸水溶液との接触時間が長く、スラグ粒子表面近傍に過剰な炭酸成分が存在することになるため上記式(1)の反応が生じやすく、この点がスラグ粒子表面に適切な炭酸カルシウム皮膜を形成させる上で不利に働く。これに対して高炉水砕スラグに炭酸水溶液を散布する方法によれば、高炉水砕スラグのスラグ粒子の表面近傍に適量の炭酸成分が供給されるため上記式(1)の反応が生じにくく、このためスラグ粒子の表面に難溶性の炭酸カルシウム皮膜を適切に生成させることができる。
【0105】
炭酸水溶液は、例えば炭酸ガス又は炭酸ガス含有ガスが流れる吸収塔内に水を噴霧したり、或いは吸収塔内に貯留された水に炭酸ガス又は炭酸ガス含有ガスを吹き込んでバブリングすることなどによって容易に製造することができる。炭酸ガスは水に溶けやすく、25℃大気圧での飽和溶解度は0.037規定(0.16g/100g水)になる。炭酸ガスは下記式(2)にしたがい水に溶解する。溶解後の形態は、炭酸(HCO)、炭酸水素イオン(HCO )、炭酸イオン(CO 2−)であり、酸性領域で炭酸、中性領域で炭酸水素イオン、アルカリ性領域では炭酸イオンが安定であり、pHによってそれぞれの存在比が変化する。
CO+HO→HCO→H+HCO →2H+CO 2− …(2)
【0106】
次に、高炉水砕スラグを炭酸塩の水溶液と接触させることによりスラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜を形成する方法について説明する。
この方法では、高炉水砕スラグを炭酸塩の水溶液中に浸漬し、若しくは高炉水砕スラグに炭酸塩の水溶液を散布することにより、高炉水砕スラグを炭酸塩の水溶液と接触させ、高炉水砕スラグのスラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜を形成させる。この処理においても、高炉水砕スラグのスラグ粒子から水溶液中に溶出したカルシウムイオンと水溶液中の炭酸成分(CO 2−又は/及びHCO )とがスラグ粒子の表面近傍で反応し、高炉水砕スラグの粒子表面に難溶性の炭酸カルシウム皮膜が形成(析出)される。
【0107】
水溶液に使用する炭酸塩としては、例えば炭酸水素塩を用いることもでき、水に溶解して炭酸イオン又は炭酸水素イオンを生成するものであれば特に制限はない。簡便に使用できるものとしては、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどが挙げられ、これらの2種以上を用いることもできる。この方法で使用する水溶液は、固体状の炭酸塩を水に溶解させるだけで比較的簡単に得ることができる。
【0108】
上記各種炭酸塩の水に対する溶解度は、炭酸ナトリウム:24.9g/100g水(25℃)、炭酸カリウム:112.1g/100g水(25℃)、炭酸アンモニウム(一水和物):55.8g/100g水(0℃)、炭酸水素ナトリウム:10.3g/100g水(25℃)、炭酸水素カリウム:36.24g/100g水(25℃)、炭酸水素アンモニウム:24.8g/100g水(25℃)であり、いずれも大きい値を示す。したがって、これら炭酸塩の水溶液は、例えば水の貯槽と撹拌機とを有する簡単な設備で容易に製造することができる。
【0109】
高炉水砕スラグを炭酸塩の水溶液中に浸漬させる方法では、例えば炭酸塩の水溶液が入れられた貯留槽に高炉水砕スラグを投入して高炉水砕スラグを水溶液中に浸漬させる。
また、高炉水砕スラグに炭酸塩の水溶液を散布する方法では、例えば、搬送手段(ベルトコンベア等)による搬送途中の高炉水砕スラグにその上方から水溶液を散布し、或いは山積みされた高炉水砕スラグや貯槽に貯留された高炉水砕スラグに上方から水溶液を散布するなど、適宜な実施形態で高炉水砕スラグに水溶液を散布してよい。これらの方法うち、搬送手段による搬送途中の高炉水砕スラグに水溶液を散布する方法は、高炉水砕スラグに水溶液を均一にむらなく散布することができる利点がある。また、散布後の高炉水砕スラグを撹拌すれば、スラグ中での炭酸水溶液の分布をより均一化することができる。
【0110】
また、先に述べたように高炉水砕スラグは元々数%程度の水分を含有しており、過剰に散布した炭酸塩の水溶液は高炉水砕スラグから流出して無効となるため、散布する水溶液の量は高炉水砕スラグの30mass%以下、好ましくは10mass%以下とすることが適当である。したがって、高炉水砕スラグを水溶液に浸漬する方法とに較べて処理に要する水溶液の量が格段に少なくて済む利点がある。
【0111】
また、高炉水砕スラグに炭酸塩の水溶液を散布する方法は、先に述べた炭酸水溶液を用いる場合と同様に、スラグ粒子表面に炭酸カルシウム皮膜を適切に形成するという面で、高炉水砕スラグを炭酸塩の水溶液に浸漬する方法に較べて有利である。すなわち、高炉水砕スラグのスラグ粒子の表面に形成される炭酸カルシウム皮膜は非常に薄く、皮膜形成のために必要な炭酸量は極めて微量であるため、上記のように少量(例えば、高炉水砕スラグの30mass%以下、好ましくは10mass%以下)の水溶液で十分に皮膜を形成することができる。さらに、その皮膜生成の速度も極めて速いため、高炉水砕スラグと水溶液との接触時間は極めて短くてよい。逆に、高炉水砕スラグと水溶液との接触時間が長過ぎ、高炉水砕スラグの周囲に過剰な炭酸成分が存在していると、先に挙げた式(1)に示す反応が進み、一旦生成した難溶性の炭酸カルシウムが可溶性の炭酸水素カルシウムに変化してしまう。
【0112】
高炉水砕スラグを炭酸塩の水溶液に浸漬する方法では、不可避的に高炉水砕スラグと炭酸水溶液との接触時間が長く、スラグ粒子表面近傍に過剰な炭酸成分が存在することになるため上記式(1)の反応が生じやすく、この点がスラグ粒子表面に適切な炭酸カルシウム皮膜を形成させる上で不利に働く。これに対して高炉水砕スラグに炭酸塩の水溶液を散布する方法によれば、高炉水砕スラグのスラグ粒子の表面近傍に適量の炭酸成分が供給されるため上記式(1)の反応が生じにくく、このためスラグ粒子の表面に難溶性の炭酸カルシウム皮膜を適切に生成させることができる。
【0113】
また、上記のような炭酸塩の水溶液には酸を添加するか、若しくは高炉水砕スラグを上記水溶液と接触させた後に酸で処理することが好ましい。上記水溶液の多くはアルカリ性を示すため、これを高炉水砕スラグに接触させるとスラグにアルカリ刺激を与えて固結反応を促進してしまうおそれがあるが、このように酸で中和処理することにより、高炉水砕スラグにアルカリ刺激を与えることを防止することができる。また、このような中和処理により生成される塩自体が高炉水砕スラグ表面に吸着して固結防止剤として作用するため、固結防止効果をより向上させることができる。用いる酸としてはカルボン酸が特に好ましい。
【0114】
以下、この中和処理について具体的に説明する。
炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムなどの炭酸塩の多くは、水和反応によってその水溶液がアルカリ性を示す性質を有している。下記式(3)および式(4)に炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムの水和反応を示すが、いずれの場合も水和反応により炭酸と水酸化ナトリウムとなり、水酸化ナトリウムがナトリウムイオンと水素イオンに電離することによりアルカリ性を示す。
NaCO+2HO→2Na+HCO+2OH …(3)
NaHCO+HO→Na+HCO+OH …(4)
【0115】
このようにアルカリ性を示す水溶液を高炉水砕スラグに接触させると、いわゆるアルカリ刺激によって高炉水砕スラグの固結が促進される現象が生じてしまい、高炉水砕スラグの固結防止効果が阻害されるおそれがある。これを防止するためには、上記水溶液に酸を添加して中和処理してから高炉水砕スラグと接触させるか、または、高炉水砕スラグを上記水溶液と接触させた後、さらに酸と接触させて中和処理することが有効である。このようにして中和処理する場合には、中和処理によって生成された塩自体が高炉水砕スラグ表面に吸着して固結防止剤として機能することにより、固結防止効果がより向上する。このような中和処理に用いる酸は特に限定されるものではないが、クエン酸、フマル酸、コハク酸、フタル酸、酢酸、グルコン酸等のカルボン酸が特に好ましく、このようなカルボン酸を用いることにより上記効果をより一層高めることができる。上記カルボン酸は、2種以上を併用してもよい。以下、この中和処理について具体的に説明する。
【0116】
まず、炭酸ナトリウム水溶液をクエン酸で中和処理する場合の反応を下記式(5)に示す。この反応で生成するクエン酸ナトリウムは高炉水砕スラグ表面に吸着され、固結防止剤として機能する。
3NaCO+2HOOC−C(OH)(CHCOOH)
 →2NaOOC−C(OH)(CHCOONa)+3HCO
 →2NaOOC−C(OH)(CHCOONa)+3HO+3CO …(5)
【0117】
次に、炭酸ナトリウム水溶液をフマル酸で中和処理する場合の反応を下記式(6)に示す。この反応で生成するフマル酸ナトリウムも、クエン酸ナトリウムと同様に高炉水砕スラグ表面に吸着され、固結防止剤として機能する。
NaCO+HOCOCH=CHCOOH
→NaOCOCH=CHCOONa+HCO
→NaOCOCH=CHCOONa+HO+CO …(6)
【0118】
次に、炭酸水素ナトリウム水溶液をクエン酸で中和処理する場合の反応を下記式(7)に示す。この場合も、生成するクエン酸ナトリウムは固結防止剤として機能する。
3NaHCO+HOOC−C(OH)(CHCOOH)
 →NaOOC−C(OH)(CHCOONa)+3HCO
 →NaOOC−C(OH)(CHCOONa)+3HO+3CO …(7)
【0119】
次に、炭酸水素ナトリウム水溶液をフマル酸で中和処理する場合の反応を下記式(8)に示す。この場合も、生成するフマル酸ナトリウムは固結防止剤として機能する。
2NaHCO+HOCOCH=CHCOOH
→NaOCOCH=CHCOONa+2HCO
 →NaOCOCH=CHCOONa+2HO+2CO …(8)
【0120】
また、上記水溶液を接触させた後の高炉水砕スラグに酸を接触させる場合には、上記水溶液の場合と同様に、高炉水砕スラグを酸に浸漬させ、或いは高炉水砕スラグに酸を散布する方法を採ることができる。また後者の場合には、搬送中の高炉水砕スラグ、山積みされた高炉水砕スラグ、貯槽に貯留された高炉水砕スラグ等の上方から酸を散布すればよい。酸の散布後に高炉水砕スラグを撹拌すれば、スラグ中での酸の分布をより均一化することができる。
【0121】
次に、高炉水砕スラグを炭酸ガスと接触させることにより、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜を形成する方法について説明する。
この炭酸ガスを用いる方法では、例えば、(1)山積みされ或いは充填層を形成した高炉水砕スラグ中に炭酸ガス又は炭酸ガス含有ガスを吹込むことでスラグと炭酸ガスを接触させる方法、(2)高炉水砕スラグを入れた処理槽に炭酸ガス又は炭酸ガス含有ガスを吹込入み、スラグの流動層を形成させることによりスラグと炭酸ガスを接触させる方法、(3)高炉水砕スラグが定量供給されたローターキルン内に炭酸ガス又は炭酸ガス含有ガスを吹き込むことでスラグと炭酸ガスを接触させる方法、(4)容器内に高炉水砕スラグと炭酸ガス又は炭酸ガス含有ガスとを入れ、容器を回転または振とうさせることでスラグと炭酸ガスを接触させる方法、(5)炭酸ガス又は炭酸ガス含有ガスが入れられた容器内で高炉水砕スラグを落下させることでスラグと炭酸ガスを接触させる方法、(6)高炉水砕スラグの搬送手段(例えばベルトコンベヤなど)のケーシング内に炭酸ガス又は炭酸ガス含有ガスを吹込み、スラグの輸送中に炭酸ガスと接触させる方法、(7)破砕装置により高炉水砕スラグを破砕する工程で炭酸ガス又は炭酸ガス含有ガスを吹込み、スラグと炭酸ガスを接触させる方法など、適宜な方法を用いることができ、要は高炉水砕スラグと炭酸ガスとが均等に無駄なく接触反応し、スラグ粒子表面に炭酸カルシウム皮膜を形成し得る方法であればよい。
【0122】
炭酸ガスを高炉水砕スラグと接触させることで、スラグ粒子表面に炭酸カルシウム皮膜を短時間に生成させるためには、高炉水砕スラグが適当な水分(好ましくは含水率:3〜20%)を含んでいることが必要であり、特にスラグ粒子の表面に水膜状の表面付着水が存在していることが好ましい。この表面付着水とは、スラグ粒子とともに存在する水分のうち、粒子内部に含有される水分以外、すなわちスラグ粒子外表面に存在する水のことである。スラグ粒子が水分、特に表面付着水を有している場合、炭酸ガスとスラグ粒子との反応は、スラグ粒子から表面付着水中に溶出(拡散)したカルシウムイオンと炭酸ガス中から表面付着水中に溶解した炭酸イオンとの反応となるが、このようなスラグ粒子の表面付着水を介した反応が、スラグ粒子表面での炭酸カルシウムの迅速な生成に特に有効である。
上記のようなスラグの水分を確保するために、必要に応じて事前に高炉水砕スラグに水分を添加することが好ましい。
【0123】
高炉水砕スラグと接触させるべき炭酸ガス又は炭酸ガス含有ガスは、その温度をある程度高くすることによりスラグ粒子との反応性が高まるが、高炉水砕スラグと接触させる空間(以下、反応空間という)内に導入するガス温度が、当該反応空間内での水の沸点を超えるとスラグ粒子に付着した水を蒸発させ、却って反応性を阻害する。このため炭酸ガス又は炭酸ガス含有ガスの温度は反応空間内での水の沸点以下とすることが好ましい。
また同様の理由から、反応空間内の温度を水の沸点以下に保つこと、さらに、高炉水砕スラグの温度も反応空間内での水の沸点以下に保つことが好ましい。
また、同様の観点から、炭酸ガス又は炭酸ガス含有ガス中の水蒸気濃度は高い方が好ましく、このため予め炭酸ガス又は炭酸ガス含有ガスを水中に通すことでHOを飽和させ、しかる後、高炉水砕スラグと接触させるようにすることが好ましい。
【0124】
さらに、処理効率を上げるためには、反応空間内に供給する炭酸ガス又は炭酸ガス含有ガスを加圧した状態とすることが好ましい。このガス圧力は特に限定しないが、CO分圧が高いほど高炉水砕スラグの表面付着水中への炭酸ガス溶解速度が大きくなるので、加圧した状態で高炉水砕スラグと接触させれば、大気圧での接触に較べて処理効率を効果的に向上させることができる。
炭酸ガス又は炭酸ガス含有ガスとしては、例えば、製鉄所において発生するガスを例に挙げると、CaCO焼成炉の排ガス、熱風炉ガス、ボイラー排ガス、コークス炉排ガス、焼結炉排ガス、スラブ加熱炉排ガス、焼鈍炉排ガス等が挙げらる。
以上の説明では、高炉水砕スラグを炭酸水溶液、炭酸塩の水溶液、炭酸ガスと各々接触させる場合について述べたが、高炉水砕スラグをそれらの2種以上と接触させてもよく、また、場合によっては炭酸水溶液にさらに上述した炭酸塩を添加したものを用いてもよい。
【0125】
【実施例】
[実施例1]
実験室において、種々の方法により高炉水砕スラグのスラグ粒子表面に炭酸カルシウム皮膜を生成させ、これら高炉水砕スラグを水中に沈設した際のスラグ粒子の固結性、沈設初期におけるスラグからの硫黄分の溶出性を調べた。
この実験では、以下の方法により高炉水砕スラグのスラグ粒子表面に炭酸カルシウム皮膜を生成させた。
【0126】
(1)本発明例1:高炉水砕スラグ100kgに対して25℃大気圧での飽和炭酸水溶液(水1Lに対して炭酸ガス1.6gを溶解させた水溶液)5Lを均一に散布した。
(2)本発明例2:25℃大気圧での飽和炭酸水溶液(水1Lに対して炭酸ガス1.6gを溶解させた水溶液)100L中に、高炉水砕スラグ100kgを10分浸漬した後、取り出した。
(3)本発明例3:高炉水砕スラグ100kgに対して0.1規定の炭酸水素ナトリウム水溶液5Lを均一に散布した。
【0127】
(4)本発明例4:高炉水砕スラグ100kgに対して、0.1規定の炭酸水素ナトリウム水溶液にフマル酸を中和等量混合した水溶液5Lを均一に散布した。
(5)本発明例5:0.1規定の炭酸水素ナトリウム水溶液100L中に、高炉水砕スラグ100kgを10分浸漬した後、取り出した。
(6)本発明例6:0.1規定の炭酸水素ナトリウム水溶液にフマル酸を中和等量混合した水溶液中100L中に、高炉水砕スラグ100kgを10分浸漬した後、取り出した。
(7)本発明例7:水分含有率15%に調整した高炉水砕スラグ100kgの充填層に、CO濃度20%の排ガスを60L/minの供給量で1時間吹き込んだ。
【0128】
以上の本発明例1〜7の高炉水砕スラグと、上記のような処理を行わなかった高炉水砕スラグを、200mm(直径)×400mm(高さ)の円筒容器内に厚み300mmとなるように充填するとともに、水面が円筒容器内の高さ350mm位置までくるように円筒容器内に海水を入れ、スラグ上方の海水を6時間毎に新しい海水と入れ替えながら3ヵ月間保持し、試験開始後、2週間、1ヵ月、2ヵ月、3ヵ月を各経過した時点でスラグ充填層の高さ方向及び径方向での略中心部における海水の硫化水素濃度を測定した。その結果を表2に示す。
【0129】
表2によれば、炭酸化処理によってスラグ粒子表面に炭酸カルシウム皮膜を形成した高炉水砕スラグを用いた本発明例1〜7は、そのような炭酸化処理を行わなかった高炉水砕スラグを用いた比較例に較べて硫化水素の発生が大幅に抑えられていることが判る。
【0130】
【表2】
Figure 2004000104
【0131】
[実施例2]
・発明例(1)
本実施例では、25℃大気圧での飽和炭酸水を用い、高炉水砕スラグに対してスラグ100kg当たり5Lの飽和炭酸水を均一に散布することにより、スラグ粒子表面に炭酸カルシウム皮膜を形成させた高炉水砕スラグを用いた。
図3に示すように磯焼けした岩礁性の海底の凹部に高炉水砕スラグを20cm厚さで10m×10mの範囲に設置した。その後、この付近の海底部での珪藻類及び大型海藻類の着生の調査を継続して行った。その結果、スラグ設置1週後には、スラグ設置場所近傍の岩礁に付着珪藻が観察され、スラグ設置1ヶ月後にはスラグ設置場所から海流の下流側30mまで付着珪藻が観察された。また、大型の海藻類は、スラグ設置1ヶ月後にスラグ設置場所の近傍に観察され、スラグ設置6ヶ月後には海流の下流側20mの範囲で観察された。また、長期の観察では、5年経過した後も6ヶ月後と同様に珪藻類と大型の海藻類が観察された。特に大型の海藻類はその種類も増加した。
【0132】
・発明例(2)
本実施例では、25℃大気圧での飽和炭酸水を用い、高炉水砕スラグをスラグ100kg当たり100Lの炭酸水に10分間浸漬することにより、スラグ粒子表面に炭酸カルシウム皮膜を形成させた高炉水砕スラグを用いた。
砂質の海底で、その周囲20mの岩礁性海底部が磯焼け状態となっている海域において、図4に示すように砂質部に高炉水砕スラグを50cmの厚さで30m×30mの範囲に設置した。さらに、その上に製鋼スラグ硬化体及び製鋼スラグを設置し、人工の岩礁を作った。その後、この付近の海底部での付着珪藻及び大型海藻類の着生の調査を継続して行った。その結果、スラグ設置1週間後には、スラグ設置場所の人工岩礁に付着珪藻が観察され、スラグ設置1ヶ月後にはスラグ設置場所から20m離れた岩礁においても付着珪藻が観察された。また、大型の海藻類については、スラグ設置1ヶ月後にスラグ設置場所の人工岩礁に観察され、スラグ設置6ヶ月後には設置場所から20m離れた岩礁においても観察された。長期の観察では、5年経過した後も6ヶ月後と同様に人工岩礁と天然岩礁の双方に珪藻類と大型海藻類が観察された。特に大型の海藻類はその種類も増加した。
【0133】
[実施例3]
・発明例(1)
本実施例では、0.1規定の炭酸水素ナトリウム水溶液を用い、高炉水砕スラグに対してスラグ100kg当たり5Lの炭酸水素ナトリウム水溶液を均一に散布することにより、スラグ粒子表面に炭酸カルシウム皮膜を形成させた高炉水砕スラグを用いた。
沿岸から沖合500m〜1kmの赤潮多発海域(湾内)において、海岸近くの海底に高炉水砕スラグを略30cmの厚さに敷設した。その敷設範囲は海岸線から沖合に40m(水深2〜7m)までの範囲であって、海岸線の総延長200mの範囲とした。
【0134】
高炉水砕スラグの設置後(設置時期は夏期)、その設置場所と旧来の赤潮発生ポイント(海域)の表層海水中のケイ酸塩濃度と珪藻量とを継続的に調査した。その結果を表3に示す。これによれば、高炉水砕スラグの設置2週間後には、その設置場所と旧来の赤潮発生ポイントでの表層海水中のケイ酸塩濃度が増加しており、元々ケイ酸塩濃度の低かった赤潮発生ポイントでも珪藻量が増加していた。また、高炉水砕スラグの設置後3年間調査を継続したが、この間赤潮の発生は全く認められず、また高炉水砕スラグの設置場所では海藻や魚介類も多数観察された。
【0135】
【表3】
Figure 2004000104
【0136】
・発明例(2)
本実施例では、高炉水砕スラグの充填層にCO濃度10%のCO含有ガスを3時間吹き込むことにより、スラグ粒子表面に炭酸カルシウム皮膜を形成させた高炉水砕スラグを用いた。
沿岸から沖合5kmの水深約40mの赤潮多発海域(内海)にブイを浮かべ、高炉水砕スラグを入れた通水性の袋を前記ブイから吊した。通水性の袋としては土嚢袋を用い、1つの土嚢袋には高炉水砕スラグを10kg入れ、これをロープに50cm間隔で水深10m位置まで複数個に取り付け、ロープの上部をブイに固定するとともに、ロープ下部にアンカーを取り付けてブイを海底に係留した。そして、このような高炉水砕スラグ入りの土嚢袋を取り付けたロープを上記赤潮多発海域の500m四方に100m間隔で設置した。
【0137】
高炉水砕スラグの設置後(設置時期は夏期)、高炉水砕スラグ設置海域とその外側海域(高炉水砕スラグ設置場所から3km離れた海域)の表層海水中のケイ酸塩濃度と珪藻量とを継続的に調査した。その結果を表4に示す。これによれば高炉水砕スラグの設置1週間後には高炉水砕スラグ設置海域における表層海水中のケイ酸塩濃度と珪藻量はその外側海域よりも増加していた。また、赤潮が高炉水砕スラグ設置海域の外側海域で発生した場合にも、高炉水砕スラグ設置海域には赤潮は流入せず、顕著な赤潮防止効果が確認された。
【0138】
【表4】
Figure 2004000104
【0139】
[実施例4]
・発明例(1)
本実施例では、25℃大気圧での飽和炭酸水を用い、高炉水砕スラグに対してスラグ100kg当たり5Lの飽和炭酸水を均一に散布することにより、スラグ粒子表面に炭酸カルシウム皮膜を形成させた高炉水砕スラグを用いた。
湾内の平坦な水底(砂質上に泥質が堆積した水底)に形成された直径が約30mの凹部(深掘り部分)に、高炉水砕スラグを凹部周囲の水底面との平均高低差が1m以下([d−d]≦1m)となるように敷設した。敷設厚みは約15mであった。
敷設材の敷設後、3年にわたって半年毎に敷設部水底面の直上、敷設部から50m離れた地点での水底面の直上及び敷設部から100m離れた地点での水底面の直上の各位置で水の硫化水素濃度を測定した。また、敷設してから3年後の敷設材上面レベル(水底面)の沈下量(平均値)を測定した。それらの結果を表5に示す。
【0140】
・発明例(2)
本実施例では、25℃大気圧での飽和炭酸水を用い、高炉水砕スラグをスラグ100kg当たり100Lの炭酸水に10分間浸漬することにより、スラグ粒子表面に炭酸カルシウム皮膜を形成させた高炉水砕スラグを用いた。
湾内の平坦な水底(砂質上に泥質が堆積した水底)に形成された直径が約20mの凹部(深掘り部分)に、高炉水砕スラグ60mass%、高炉徐冷スラグ10mass%、製鋼スラグ20mass%、都市ゴミスラグ10mass%の混合物を凹部周囲の水底面との平均高低差が1m以下([d−d]≦1m)となるように敷設した。敷設厚みは約10mであった。
敷設材の敷設後、3年にわたって半年毎に敷設部水底面の直上、敷設部から50m離れた地点での水底面の直上及び敷設部から100m離れた地点での水底面の直上の各位置で水の硫化水素濃度を測定した。また、敷設してから3年後の敷設材上面レベル(水底面)の沈下量(平均値)を測定した。それらの結果を表5に示す。
【0141】
・発明例(3)
本実施例では、0.1規定の炭酸水素ナトリウム水溶液を用い、高炉水砕スラグに対してスラグ100kg当たり5Lの炭酸水素ナトリウム水溶液を均一に散布することにより、スラグ粒子表面に炭酸カルシウム皮膜を形成させた高炉水砕スラグを用いた。
湾内の平坦な水底であって、砂質上に泥質が堆積した水底の50m×50mの範囲に、高炉水砕スラグ90mass%、製鋼スラグ10mass%の混合物を厚さ50cmに敷設した。
敷設材の敷設後、3年にわたって半年毎に敷設部水底面の直上、敷設部から50m離れた地点での水底面の直上及び敷設部から100m離れた地点での水底面の直上の各位置で水の硫化水素濃度を測定した。それらの結果を表5に示す。
【0142】
・比較例(1)
湾内の平坦な水底(砂質上に泥質が堆積した水底)に形成された直径が約40mの凹部(深掘り部分)に、海砂を凹部周囲の水底面との平均高低差が1m以下([d−d]≦1m)となるように敷設した。敷設厚みは約8mであった。
敷設材の敷設後、3年にわたって半年毎に敷設部水底面の直上、敷設部から50m離れた地点での水底面の直上及び敷設部から100m離れた地点での水底面の直上の各位置で水の硫化水素濃度を測定した。また、敷設してから3年後の敷設材上面レベル(水底面)の沈下量(平均値)を測定した。それらの結果を表5に示す。
【0143】
・比較例(2)
湾内の平坦な水底(砂質上に泥質が堆積した水底)に形成された直径が約30m、深さ10mの凹部(深掘り部分)について、発明例1における敷設材の敷設時とほぼ同時期から3年にわたって半年毎に深掘部水底面の直上、深掘部から50m離れた地点での水底面の直上及び深掘部から100m離れた地点での水底面の直上の各位置で水の硫化水素濃度を測定した。その結果を表5に示す。
【0144】
【表5】
Figure 2004000104
【0145】
・発明例(4)
本実施例では、25℃大気圧での飽和炭酸水を用い、高炉水砕スラグに対してスラグ100kg当たり5Lの飽和炭酸水を均一に散布することにより、スラグ粒子表面に炭酸カルシウム皮膜を形成させた高炉水砕スラグを用いた。
底層水の溶存酸素濃度が約2ppm(飽和溶解度:約7ppm)となっている水域(約500m×700m)の海底に高炉水砕スラグを厚さ約20cmに敷設した。1ヶ月経過後に、スラグ敷設水域の底層水の溶存酸素濃度を測定したところ約4ppmに上昇していた。
【0146】
・発明例(5)
本実施例では、25℃大気圧での飽和炭酸水を用い、高炉水砕スラグに対してスラグ100kg当たり5Lの飽和炭酸水を均一に散布することにより、スラグ粒子表面に炭酸カルシウム皮膜を形成させた高炉水砕スラグを用いた。
底層水の硫化水素濃度が0.5〜1.2ppmとなっている水域(約100m×100m)の海底に高炉水砕スラグを厚さ約35cmに敷設した。1ヶ月経過後、6ヶ月経過後、1年経過後にそれぞれスラグ敷設水域の底層水の硫化水素濃度を測定(測定方法:検知管式、検出限界:0.01ppm)したが、硫化水素は検出されなかった。
【0147】
・発明例(6)
本実施例では、25℃大気圧での飽和炭酸水を用い、高炉水砕スラグに対してスラグ100kg当たり5Lの飽和炭酸水を均一に散布することにより、スラグ粒子表面に炭酸カルシウム皮膜を形成させた高炉水砕スラグを用いた。
底層水の流速が3cm/秒の水域(約2000m×200m)の海底に高炉水砕スラグを厚さ約3mに敷設した。このスラグ敷設前とスラグを敷設してから3ヶ月経過後の底層水の水質を比較したところ、スラグ敷設前は硫化水素濃度が1.8ppm、溶存酸素濃度が0.2ppmであったのに対し、スラグを敷設してから3ヶ月経過後では硫化水素濃度が検出限界以下に、溶存酸素濃度が5ppmにそれぞれ改善された。
【0148】
・発明例(7)
本実施例では、25℃大気圧での飽和炭酸水を用い、高炉水砕スラグに対してスラグ100kg当たり5Lの飽和炭酸水を均一に散布することにより、スラグ粒子表面に炭酸カルシウム皮膜を形成させた高炉水砕スラグを用いた。
海水塩分濃度による密度躍層(表層水の塩分濃度:1.5%、底層水の塩分濃度:2.6%)が形成された水域(約800m×900m)の海底に高炉水砕スラグを厚さ約0.2mに敷設した。このスラグ敷設前とスラグを敷設してから3ヶ月経過後の底層水の水質を比較したところ、スラグ敷設前は硫化水素濃度が3ppm、溶存酸素濃度が0.1ppmであったのに対し、スラグを敷設してから3ヶ月経過後では硫化水素濃度が検出限界以下に、溶存酸素濃度が3ppmにそれぞれ改善され、また、高炉水砕スラグの敷設により水底が浅くなったため、底層水の塩分濃度も2.3%まで低下した。
【0149】
・発明例(8)
本実施例では、25℃大気圧での飽和炭酸水を用い、高炉水砕スラグに対してスラグ100kg当たり5Lの飽和炭酸水を均一に散布することにより、スラグ粒子表面に炭酸カルシウム皮膜を形成させた高炉水砕スラグを用いた。
海水温による密度躍層(表層水の水温:24℃、底層水の水温:14℃)が形成された水域(約60m×60m)の海底に高炉水砕スラグを厚さ約3mに敷設した。このスラグ敷設前とスラグを敷設してから6ヶ月経過後の底層水の水質を比較したところ、スラグ敷設前は硫化水素濃度が0.8ppm、溶存酸素濃度が0.3ppmであったのに対し、スラグを敷設してから6ヶ月経過後では硫化水素濃度が検出限界以下に、溶存酸素濃度が4ppmにそれぞれ改善され、また、高炉水砕スラグの敷設により水底が浅くなったため、底層水の水温も16℃まで上昇した。
【0150】
[実施例5]
本実施例では、25℃大気圧での飽和炭酸水を用い、高炉水砕スラグに対してスラグ100kg当たり5Lの飽和炭酸水を均一に散布することにより、スラグ粒子表面に炭酸カルシウム皮膜を形成させた高炉水砕スラグを用いた。
水深4mのヘドロが堆積した海底において、上記高炉水砕スラグを篩い分けして得られた粒径0.5mm以上のスラグ粒子の割合が90mass%以上の高炉水砕スラグを30cmの厚さで10m×10mの範囲に敷設した(本発明例)。また、比較例として、隣接する同様の条件の海底部に、上記高炉水砕スラグを篩い分けして得られた粒径0.5mm以上のスラグ粒子の割合が85mass%の高炉水砕スラグを同様の条件で敷設した。なお、このヘドロが堆積した海底部には少量のゴカイ類のみが棲息していた。
【0151】
敷設から1年経過後に、高炉水砕スラグの敷設層における生物棲息量、敷設層直上水と周囲のヘドロ層直上水の溶存酸素量と硫化水素量の調査を行った。その結果、本発明例、比較例とも高炉水砕スラグの敷設層中には貝類やゴカイ類等の多様な底棲生物が棲息していたが、生物棲息量は湿重量で本発明例が682g/m、比較例が516g/mであり、本発明例の生物棲息量は比較例に較べて約30%多かった。また、溶存酸素量については、ヘドロ直上水の溶存酸素量が1.2ppmであったのに対して、敷設層直上水の溶存酸素量は本発明例、比較例ともに6.4ppmであった。また、硫化水素量については、ヘドロ直上水では0.02ppmの硫化水素が検出されたのに対して、本発明例、比較例の敷設層直上水ではともに硫化水素は検出されなかった。
【0152】
[実施例6]
本実施例では、25℃大気圧での飽和炭酸水を用い、高炉水砕スラグに対してスラグ100kg当たり5Lの飽和炭酸水を均一に散布することにより、スラグ粒子表面に炭酸カルシウム皮膜を形成させた高炉水砕スラグを用いた。
水深5mのヘドロが堆積した海底から砂浜となる海岸までの領域において、上記高炉水砕スラグを篩い分けして得られた粒径1.0mm以上のスラグ粒子の割合が80mass%以上の高炉水砕スラグを50cm〜2mの厚さで20m×60mの範囲に敷設した(本発明例)。また、比較例として、隣接する同様の条件の海底部に、上記高炉水砕スラグを篩い分けして得られた粒径0.5mm以上のスラグ粒子の割合が80mass%の高炉水砕スラグを同様の条件で敷設した。なお、ヘドロが堆積した海底部には少量のゴカイ類のみが棲息していた。
【0153】
敷設から1年経過後に、高炉水砕スラグの敷設層における生物棲息量、敷設層直上水と周囲のヘドロ層直上水の溶存酸素量と硫化水素量、敷設層中の間隙水のpHの調査を行った。その結果、本発明例、比較例とも高炉水砕スラグの敷設層中には貝類やゴカイ類等の多様な底棲生物が棲息していたが、生物棲息量は湿重量で本発明例が784g/m、比較例が469g/mであり、本発明例の生物棲息量は比較例に較べて約40%多かった。また、溶存酸素量については、ヘドロ直上水の溶存酸素量が0.5ppmであったのに対して、水深2mの敷設層直上水の溶存酸素は本発明例、比較例ともに6ppmであった。また、硫化水素量については、ヘドロ直上水では0.05ppmの硫化水素が検出されたのに対して、本発明例、比較例の敷設層直上水ではともに硫化水素は検出されなかった。また、水深2m、スラグ敷設厚さ2mの地点におけるスラグ敷設層上面から深さ0.5mでの間隙水のpHは、本発明例では8.5であり、硫酸還元菌の活動を抑えられるレベルであった。また、比較例では間隙水のpHは、本発明例よりも高い8.8であった。
【0154】
【発明の効果】
以上述べたように本発明の水中の環境改善方法は、安価で且つ大量に入手できる高炉水砕スラグを水中又は水浜に設置するだけで、磯焼けの防止、赤潮の発生防止、藻場の造成や海藻成育環境の修復、さらには青潮防止などに優れた効果を発揮でき、また、覆砂、養浜、浅場や干潟の修復・造成等において砂地に棲息する生物に好適な環境を形成することができる。このため磯焼けや赤潮が現に生じ又は生じる恐れがある海域、或いは磯焼け以外の原因による海藻成育環境の衰退・消失が現に生じ又は生じる恐れがある海域、硫化水素の発生により青潮が現に生じ又は生じる恐れのある海域、或いは覆砂、養浜、浅場や干潟の修復・造成が必要な海域や水浜に対して低コストに実施でき、しかも上記のような優れた水中の環境改善効果が得られ、沿岸海域における環境保全や水産資源の保護、育成に極めて有効な方法であると言える。
また、本発明法では炭酸化処理によってスラグ粒子表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを用いるため、沈設初期におけるスラグ粒子からのSの溶出やスラグ粒子周囲の水のpH上昇といった問題も適切に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による水中の環境改善方法の一実施形態である赤潮防止法において、赤潮防止材を水底に直接敷設した実施形態を示す説明図
【図2】本発明による水中の環境改善方法の一実施形態である赤潮防止法において、赤潮防止材を浮体から吊すことにより水中に設置した実施形態を示す説明図
【図3】本発明の実施例1における磯焼け海域の藻場造成の実施状況を示す説明図
【図4】本発明の実施例2における磯焼け海域の藻場造成の実施状況を示す説明図
【図5】本発明による水中の環境改善方法の他の実施形態を示す説明図
【図6】従来法において水底の凹部に敷設した敷設材の作用を示す説明図
【図7】図5の実施形態において水底の凹部に敷設した敷設材の作用を示す説明図
【図8】本発明による水中の環境改善方法の他の実施形態において、造成された浅場を示す説明図
【図9】生成ままの高炉水砕スラグの代表的な粒度構成(篩い通過重量)を示すグラフ
【符号の説明】
A…高炉水砕スラグ、B…ブイ、B…筏、C…ロープ、D…支持基盤、1,1′…凹部、2…敷設材、3…ケーソン、4…高炉水砕スラグ、5…潜堤、6…ブロック、20…スラグ、20a…高炉水砕スラグ、20b…高炉水砕スラグ以外のスラグ、21…スラグ以外の素材、X,Y…水底面

Claims (35)

  1. 水中にケイ酸塩イオン放出源として、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを設置することを特徴とする水中の環境改善方法。
  2. 磯焼けが生じている海底部に、磯焼け防止材としてスラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを設置することにより、磯焼け海域での藻場造成を行うことを特徴とする請求項1に記載の水中の環境改善方法。
  3. 天然又は人工の海藻着生基盤の周囲又は近傍に、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを設置することにより、磯焼け海域での藻場造成を行うことを特徴とする請求項2に記載の水中の環境改善方法。
  4. スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを設置した後、人工の海藻着生基盤を設置することにより、磯焼け海域での藻場造成を行うことを特徴とする請求項3に記載の水中の環境改善方法。
  5. 磯焼けが生じるおそれがある海底部に、磯焼け防止材としてスラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを設置することにより、磯焼けを防止することを特徴とする請求項1に記載の水中の環境改善方法。
  6. 天然又は人工の海藻着生基盤の周囲又は近傍に、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを設置することにより、磯焼けを防止することを特徴とする請求項5に記載の水中の環境改善方法。
  7. スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを設置した後、人工の海藻着生基盤を設置することにより、磯焼けを防止することを特徴とする請求項6に記載の水中の環境改善方法。
  8. 磯焼けが発生している海底部又は磯焼けの発生を予防すべき海底部に設置される磯焼け防止材であって、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグからなることを特徴とする水中の環境改善用資材。
  9. 海水域、汽水域又淡水域において、水中に赤潮防止材としてスラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを設置することにより赤潮発生を防止することを特徴とする請求項1に記載の水中の環境改善方法。
  10. 水深15m以内の水中に、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを設置することにより、赤潮発生を防止することを特徴とする請求項9に記載の水中の環境改善方法。
  11. スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを水底に直接敷設することにより、赤潮発生を防止することを特徴とする請求項9又は10に記載の水中の環境改善方法。
  12. スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを通水性を有する袋又は容器に入れ、該袋又は容器を水底に設置することにより赤潮発生を防止することを特徴とする請求項9又は10に記載の水中の環境改善方法。
  13. スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを通水性を有する袋又は容器に入れ、該袋又は容器を水面又は水面下に浮設した浮体に保持させることにより赤潮発生を防止することを特徴とする請求項9又は10に記載の水中の環境改善方法。
  14. 赤潮が発生している海域又は赤潮の発生を予防すべき海域に設置される赤潮防止材であって、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグからなることを特徴とする水中の環境改善用資材。
  15. 海岸に面した海底にスラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを敷設するとともに、該高炉水砕スラグの敷設領域の周囲にスラグ流失防止用の潜堤を設置し、且つ該高炉水砕スラグの敷設領域には人工の海藻着生基盤及び/又は漁礁を設置したことを特徴とする請求項1に記載の水中の環境改善方法。
  16. 潜堤の少なくとも一部を、鉄鋼製造プロセスで発生した塊状のスラグ、鉄鋼製造プロセスで発生したスラグを主原料とする粉粒状原料を炭酸反応で生成させたCaCOを主たるバインダーとして固結させて得られたブロック、鉄鋼製造プロセスで発生したスラグを主原料とする水和硬化体ブロックの中から選ばれる1種以上で構成したことを特徴とする請求項15に記載の水中の環境改善方法。
  17. 人工の海藻着生基盤及び/又は漁礁の少なくとも一部を、鉄鋼製造プロセスで発生した塊状のスラグ、鉄鋼製造プロセスで発生したスラグを主原料とする粉粒状原料を炭酸反応で生成させたCaCOを主たるバインダーとして固結させて得られたブロック、鉄鋼製造プロセスで発生したスラグを主原料とする水和硬化体ブロックの中から選ばれる1種以上で構成したことを特徴とする請求項15又は16に記載の水中の環境改善方法。
  18. 硫化水素発生源である水底に、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを敷設することを特徴とする水中の環境改善方法。
  19. 水底に形成された凹部内に、全部又は一部がスラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグからなる敷設材を敷設することを特徴とする水中の環境改善法。
  20. 底層水中で硫化水素が検出された水域又は底層水中の溶存酸素濃度が所定値以下の水域の水底に、全部又は一部がスラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグからなる敷設材を敷設することを特徴とする水中の環境改善法。
  21. 底層水の流速が所定値以下の水域の水底に、全部又は一部がスラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグからなる敷設材を敷設することを特徴とする水中の環境改善法。
  22. 水中に水温又は/及び塩分濃度による密度躍層が形成された水域の水底に、全部又は一部がスラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグからなる敷設材を敷設することを特徴とする水中の環境改善方法。
  23. 水底に形成された凹部内に、全部又は一部がスラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグからなる敷設材を敷設し、該敷設材により形成される水底面の平均水深dと凹部周囲の水底面の平均水深dとの差[d−d]を2m以下(但し、[d−d]がマイナス値の場合を含む)とすることを特徴とする水中の環境改善方法。
  24. 敷設材がスラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグと高炉水砕スラグ以外の素材とからなり、該敷設材は、前記高炉水砕スラグとそれ以外の素材が混合された状態であるか、又は前記高炉水砕スラグが上層側、それ以外の素材が下層側になるようにして水底に敷設されることを特徴とする請求項19、20、21、22又は23に記載の水中の環境改善方法。
  25. 水底に敷設された敷設材の50mass%以上が、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグからなることを特徴とする請求項19、20、21、22、23又は24に記載の水中の環境改善方法。
  26. 水底に敷設された敷設材の上層が、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを60mass%以上含むことを特徴とする請求項19、20、21、22、23、24又は25に記載の水中の環境改善方法。
  27. 硫化水素の発生源となる水底に敷設される青潮防止材であって、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグからなることを特徴とする水中の環境改善用資材。
  28. 水底又は水浜に、覆砂材、養浜材、浅場造成材又は干潟造成材として、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグを敷設することを特徴とする水中又は水浜の環境改善方法。
  29. 水底又は水浜に敷設される覆砂材、養浜材、浅場造成材又は干潟造成材であって、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグからなることを特徴とする水中又は水浜の環境改善用資材。
  30. スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグが、高炉水砕スラグを炭酸水溶液、炭酸塩の水溶液、炭酸ガスの中から選ばれる1種以上と接触させることにより、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜を生成させた高炉水砕スラグであることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、9、10、11、12、13、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26又は28に記載の水中又は水浜の環境改善方法。
  31. スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグが、粒径0.5mm以上のスラグ粒子の割合が90mass%以上の高炉水砕スラグであることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、9、10、11、12、13、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、28又は30に記載の水中又は水浜の環境改善方法。
  32. スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグが、粒径1.0mm以上のスラグ粒子の割合が70mass%以上の高炉水砕スラグであることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、9、10、11、12、13、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、28又は30に記載の水中又は水浜の環境改善方法。
  33. スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグが、高炉水砕スラグを炭酸水溶液、炭酸塩の水溶液、炭酸ガスの中から選ばれる1種以上と接触させることにより、スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜を生成させた高炉水砕スラグであることを特徴とする請求項8、14、27又は29に記載の水中又は水浜の環境改善用資材。
  34. スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグが、粒径0.5mm以上のスラグ粒子の割合が90mass%以上の高炉水砕スラグであることを特徴とする請求項8、14、27、29又は33に記載の水中又は水浜の環境改善用資材。
  35. スラグ粒子の表面に炭酸カルシウム皮膜が形成された高炉水砕スラグが、粒径1.0mm以上のスラグ粒子の割合が70mass%以上の高炉水砕スラグであることを特徴とする請求項8、14、27、29又は33に記載の水中又は水浜の環境改善用資材。
JP2002189983A 2001-09-11 2002-06-28 水中又は水浜の環境改善方法 Pending JP2004000104A (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2002189983A JP2004000104A (ja) 2001-09-11 2002-06-28 水中又は水浜の環境改善方法

Applications Claiming Priority (3)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2001275338 2001-09-11
JP2002102578 2002-04-04
JP2002189983A JP2004000104A (ja) 2001-09-11 2002-06-28 水中又は水浜の環境改善方法

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JP2004000104A true JP2004000104A (ja) 2004-01-08

Family

ID=30449028

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2002189983A Pending JP2004000104A (ja) 2001-09-11 2002-06-28 水中又は水浜の環境改善方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP2004000104A (ja)

Cited By (6)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2006068732A (ja) * 2004-08-06 2006-03-16 Hiroshima Univ 水域環境改善材およびそれを用いる水域環境改善方法
JP2006262796A (ja) * 2005-03-24 2006-10-05 Jfe Steel Kk 底質土の覆砂構造および覆砂方法
JP2007154646A (ja) * 2005-09-07 2007-06-21 Jfe Steel Kk 鉄鋼スラグを水中設置するための施工方法
JP2007154651A (ja) * 2005-11-08 2007-06-21 Jfe Steel Kk 潜堤の施工法及び潜堤
JP2007154650A (ja) * 2005-11-08 2007-06-21 Jfe Steel Kk 粒状・塊状Ca含有物を水中設置するための施工方法
JP2014008050A (ja) * 2012-07-03 2014-01-20 Nippon Steel & Sumitomo Metal 水圏環境修復材料

Cited By (6)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2006068732A (ja) * 2004-08-06 2006-03-16 Hiroshima Univ 水域環境改善材およびそれを用いる水域環境改善方法
JP2006262796A (ja) * 2005-03-24 2006-10-05 Jfe Steel Kk 底質土の覆砂構造および覆砂方法
JP2007154646A (ja) * 2005-09-07 2007-06-21 Jfe Steel Kk 鉄鋼スラグを水中設置するための施工方法
JP2007154651A (ja) * 2005-11-08 2007-06-21 Jfe Steel Kk 潜堤の施工法及び潜堤
JP2007154650A (ja) * 2005-11-08 2007-06-21 Jfe Steel Kk 粒状・塊状Ca含有物を水中設置するための施工方法
JP2014008050A (ja) * 2012-07-03 2014-01-20 Nippon Steel & Sumitomo Metal 水圏環境修復材料

Similar Documents

Publication Publication Date Title
KR100430331B1 (ko) 배출탄산가스의 삭감방법
JP4403095B2 (ja) 水域環境保全材料およびその使用方法
JP5070667B2 (ja) 水中の環境改善方法
JP4736449B2 (ja) 浅場等の造成方法
JP2000157094A (ja) 水中沈設用石材及びその製造方法
JP2004236546A (ja) 水中又は水浜の環境改善方法
JP3729160B2 (ja) 水中又は水浜の環境改善方法及び環境改善用資材
JP4736443B2 (ja) 浅場等の造成方法
JP2004000104A (ja) 水中又は水浜の環境改善方法
JP2007063923A (ja) 水底の覆砂構造及び覆砂方法
JP4736444B2 (ja) 浅場等の造成方法
EP1630143B1 (en) Method of treatment of steelmaking-slag for stabilization, stabilized steelmaking-slag, use therof as environment protection material and water environment protection method using said slag
JP2002176877A (ja) 水中沈設用ブロック
JP3968898B2 (ja) スラグを主原料とする人工石材およびその製造方法
JP2004236545A (ja) 水中又は水浜の環境改善方法
JP2003158946A (ja) 水中又は水浜の環境改善方法
JP2009002155A (ja) 護岸に設置される構造体、護岸構造物
JP4069056B2 (ja) 干潟、浅場用水域環境修復材料
JP3804278B2 (ja) 藻場の造成または改良方法
JP4474690B2 (ja) 水質浄化用多孔質石材及び水質浄化方法
JP4997687B2 (ja) 水底の環境改善方法
JP2003286711A (ja) 水底の環境改善方法
JP2003253642A (ja) 水中構造体の設置方法及び水中構造体用ブロック
JP4185569B2 (ja) 海草藻場の造成方法及び海底での海草類の増殖方法
JP4013368B2 (ja) 水中沈設用石材およびその製造方法

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20050613

A711 Notification of change in applicant

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A712

Effective date: 20050613

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20070718

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20070731

A02 Decision of refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02

Effective date: 20071225