JP2003301261A - 電子ビーム蒸着方法および電子ビーム蒸着装置 - Google Patents

電子ビーム蒸着方法および電子ビーム蒸着装置

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JP2003301261A
JP2003301261A JP2002111871A JP2002111871A JP2003301261A JP 2003301261 A JP2003301261 A JP 2003301261A JP 2002111871 A JP2002111871 A JP 2002111871A JP 2002111871 A JP2002111871 A JP 2002111871A JP 2003301261 A JP2003301261 A JP 2003301261A
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filament
vapor deposition
temperature
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oxygen partial
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Shinichiro Shiromizu
進一郎 白水
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Sony Corp
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 フィラメントの長寿命化および電子放出性能
の安定化を達成し、延いてはそのようなフィラメントを
用いて行われる蒸着プロセスによって成膜される酸化物
膜の品質や信頼性の向上およびその蒸着プロセスに要す
る手間や時間の簡易化や低コスト化を達成する。 【解決手段】 フィラメント20の温度と酸素分圧との
組み合わせが、フィラメント20の形成材料であるタン
グステンまたは酸素と反応する素材が酸化することのな
い組み合わせとなるような条件を保ちつつ、フィラメン
ト20の温度とその周囲の酸素分圧とを、各々制御し
て、それら温度および酸素分圧をそれぞれ上昇または降
下させることで、フィラメント20の熱酸化を解消ない
しは低減させる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は電子ビーム蒸着方法
および電子ビーム蒸着装置に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、40インチ以上のような大画面で
かつ奥行きの小さい壁掛けテレビなどの薄型ディスプレ
イデバイスを実現するために、プラズマディスプレイパ
ネル(PDP)が開発されている。プラズマディスプレ
イパネルには、大別するとAC(交流)型とDC(直
流)型とがあるが、発光効率や寿命の点で優れているA
C型が主流となりつつある。
【0003】一般的なAC型プラズマディスプレイデバ
イスにおいては、背面パネル側の透明基板上に、ガス放
電で生じる紫外線で発光する蛍光体が配置される。また
前面パネル側の透明基板上には、ガス放電を起こすため
の放電維持電極が形成され、その放電維持電極の上層に
は鉛ガラス等からなる誘電体層が形成され、さらにその
ような透明基板上の主要構造物の表面には、それらを覆
って保護するための酸化マグネシウム等からなる保護膜
が形成される。
【0004】放電維持電極は一般に、インジウム、錫酸
化物(ITO)などからなる透明電極と、その透明電極
のインピーダンスを低減するためのバス電極とを積層し
て形成される。酸化マグネシウムのような酸化物膜から
なる保護膜は、一般に、真空蒸着やスパッタリングに代
表されるような薄膜成膜プロセスによって形成される。
あるいは、誘電体層なども保護膜と同様の薄膜成膜プロ
セスで形成される場合もある。
【0005】近年では、金属のような導電体か不導体か
を問わず蒸着による成膜が可能であることや、精細な膜
質の堆積が可能であることなどの特質を生かして、例え
ばプラズマディスプレイパネルや半導体デバイスなどの
保護膜やその他の膜を成膜するために、いわゆるEB
(電子線)蒸着法が採用されている。このEB蒸着法と
は、一般に、ターゲット(成膜用の材料となる蒸着源)
を電子ビームで叩いて物理的に加熱・昇華させて、その
ターゲットの物質の蒸気を発生させ、それを被着対象の
ワーク(試料)の表面に堆積させることで、所望の物質
からなる薄膜を成膜する、というものである。電子ビー
ムの発生は、タングステン(W)を主材料としたフィラ
メントに電流を流して熱電子を放出させることによって
行われることが多い。
【0006】このようなフィラメントから放出される熱
電子を用いたEB蒸着法では、ワーク上に成膜させる物
質が例えば酸化マグネシウムのような酸化物である場合
には、ターゲットが電子ビームのエネルギーによって高
温に加熱されてそのターゲットの物質から酸素が分解・
遊離することに起因して、最終的に成膜された薄膜に酸
素欠損が生じる場合がある。これを抑制するために、所
定の酸素分圧を有する蒸着作業雰囲気中で成膜を行うこ
とで、ワーク上に成膜される薄膜の酸素欠損を補って、
最終的に得られる薄膜の組成を化学量論比にする、とい
う対策が採用される場合がある。また、ターゲットは酸
素含有率の低い物質、または純度の高い金属物質として
おき、蒸着作業容器内に酸素ガスを強制的に導入して、
蒸着作業雰囲気を所定の酸素分圧にして、目的とする化
学量論比の酸化物を得る、という対策が採用される場合
もある。いずれにしても、酸素欠陥を補うために蒸着作
業雰囲気中に所定の分圧で酸素を存在させて蒸着による
成膜を行うという方法は、反応性蒸着と呼ばれている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】ところが、上記のよう
な所定の酸素分圧を有する蒸着作業雰囲気中でEB蒸着
を行う際に、熱電子源であるフィラメントが熱酸化され
てしまい、例えば数回ないし10回程度使用しただけで
断線するなど、フィラメントの短命化を引き起こすとい
う問題があった。そしてこのようなフィラメントの短命
化は、延いては成膜プロセスにおけるメンテナンス作業
の煩雑化やスループット悪化の要因や、製造コスト低減
の妨げとなっていた。
【0008】例えばフィラメントが断線して新しいもの
に取り替えるためには、蒸着作業容器内の真空状態を一
旦破ってから、新たに真空状態に戻すことが必要とな
り、それに要する手間および時間の損失が甚大である。
また、断線は突然に発生することが多いので、それまで
順調に進んでいた蒸着プロセスでも一旦停止しなければ
ならず、それに因る稼働効率の低下などの損失が甚大で
ある。
【0009】あるいは、フィラメントの断線を予防する
ためには、フィラメント自体の清掃作業や補修作業は言
うまでもなく、その周囲の例えばフィラメントアッシー
等の清掃作業などを頻繁に行わなければならないので、
そのための手間が繁雑であり、またそれに要する時間的
な損失も大きい。
【0010】また、例えばタングステンからなるフィラ
メントの場合を一例として述べると、酸化した部分は導
電性が低くて殆ど不導体である酸化タングステンとなっ
ているので、熱電子を放出するために高電圧が印加され
るフィラメントが電荷でチャージアップされてしまい、
臨界電圧に至ると放電が生じて、甚だしくはフィラメン
ト自体あるいはそのEB蒸着装置内の構造物が静電破壊
されてしまう場合もある。
【0011】また、断線には至らなくとも、酸化に起因
してフィラメントが痩せて(細くなって)しまうといっ
た劣化を生じ、それがフィラメントの電子放出能率を低
下させたり電子放出性能を不安定なものとする要因とな
るという問題があった。
【0012】しかも、そのようなフィラメントの劣化に
起因して電子放出能率が低下すると、所定の電子放出量
を確保するために、さらに高い電力をフィラメントに与
えなければならなくなり、それがフィラメントの劣化を
さらに助長することとなるといった悪循環も生じる。
【0013】そしてこのようなフィラメントの劣化は、
延いては成膜された酸化物膜の品質を低下させたり欠陥
の発生率を増大させるなど、結果的に製品の品質や信頼
性にも甚大な悪影響を与えるという虞があった。
【0014】本発明はかかる問題点に鑑みてなされたも
ので、その目的は、所定の酸素分圧を有する蒸着作業雰
囲気中でEB蒸着を行う際に、熱電子源であるフィラメ
ントが熱酸化されてその劣化が著しく進むという問題を
解消ないしは改善して、フィラメントの長寿命化および
電子放出性能の安定化を達成し、延いてはそのようなフ
ィラメントを用いて行われる蒸着プロセスによって成膜
される酸化物膜の品質や信頼性の向上およびその蒸着プ
ロセスに要する手間や時間の簡易化や低コスト化を達成
することが可能な電子ビーム蒸着方法および電子ビーム
蒸着装置を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】本発明による第1の電子
ビーム蒸着方法は、酸化物膜を成膜する蒸着プロセスの
前または後のうち少なくともいずれか一方(または両
方)で、フィラメントの温度と蒸着作業容器内の少なく
ともフィラメントに接する雰囲気中の酸素分圧とを、フ
ィラメントの形成材料であるタングステンまたは酸素と
反応する素材に酸化が生じることのない組み合わせを保
つように、各々制御しながら変化させる工程を含んでい
る。
【0016】本発明による第1の電子ビーム蒸着装置
は、酸化物膜を成膜する蒸着プロセスの前または後のう
ち少なくともいずれか一方で、フィラメントの温度と蒸
着作業容器内の少なくともフィラメントに接する雰囲気
中の酸素分圧とを、フィラメントの形成材料であるタン
グステンまたは酸素と反応する素材に酸化が生じること
のない組み合わせを保つように、各々制御しながら変化
させる制御手段を備えている。
【0017】本発明による第1の電子ビーム蒸着方法ま
たは第1の電子ビーム蒸着装置では、酸素が導入される
蒸着作業容器内に配置されたタングステンまたは酸素と
反応する素材を主材料としてなるフィラメントから熱電
子を放出させ、その熱電子をターゲットに照射してター
ゲットの物質の蒸気を発生させ、その蒸気をワークに被
着させて、ターゲットの物質の酸化物膜をワークの表面
に成膜するに際して、フィラメントの温度と酸素分圧と
の組み合わせが、フィラメントの形成材料であるタング
ステンまたは酸素と反応する素材が実質的なフィラメン
トの劣化の要因となるような酸化を生じることのない組
み合わせとなるような条件を保ちつつ、フィラメントの
温度とその周囲の酸素分圧とを各々制御して、それら温
度および酸素分圧をそれぞれ、例えば蒸着プロセスで要
求されるフィラメントの温度と酸素分圧との組み合わせ
と、常態におけるフィラメントの温度と酸素分圧との組
み合わせとの間で、上昇または降下させることにより、
フィラメントの酸化を回避する。
【0018】ここで、上記のフィラメントの温度とその
周囲の酸素分圧とを上昇または降下させることについ
て、さらに詳細には、蒸着プロセスの前には酸素分圧を
一定に保ちつつフィラメントの温度を蒸着プロセスで要
求される温度またはそれ以上にまで上昇させ、しかる後
にフィラメントの温度を一定に保ちつつ蒸着作業容器内
の酸素分圧を蒸着プロセスで要求される酸素分圧または
それ以上にまで上昇させ、蒸着プロセスの後には、フィ
ラメントの温度を一定に保ちつつ酸素分圧を所定の酸素
分圧にまで降下させ、しかる後に酸素分圧を一定に保ち
つつフィラメントの温度を所定の温度にまで降下させる
ようにすることで、より確実にフィラメントの酸化が回
避される。
【0019】また、蒸着プロセスの前または後のうち少
なくともいずれか一方で、フィラメントの温度を蒸着プ
ロセスで要求される温度以上であってかつフィラメント
に粒界の劣化が生じる温度未満の温度にまで上昇させて
フィラメントの空焼きを行うことで、少なくともフィラ
メントの表面の酸化物を熱分解させる工程をさらに含む
ことで、例えばそれまでの蒸着プロセスでフィラメント
に少しずつでも酸化が生じていたとしても、その酸化さ
れた部分の酸素が空焼きによって熱分解されて除去され
る。
【0020】本発明による第2の電子ビーム蒸着方法
は、蒸着プロセスの後には、酸素分圧は一定のままで、
フィラメントの温度を、フィラメントの実質的な劣化の
要因となるタングステンの酸化またはフィラメントの素
材の酸化が生じることのない迅速さで、タングステンま
たはフィラメントの素材と蒸着作業容器内の酸素とが疑
平衡状態になるまで降下させ、しかる後に、酸素分圧を
降下させる工程を含んでいる。
【0021】本発明による第2の電子ビーム蒸着装置
は、前記酸化物膜を成膜する蒸着プロセスの前では、フ
ィラメントの温度と蒸着作業容器内の少なくともフィラ
メントに接する雰囲気中の酸素分圧とを、タングステン
または酸素と反応する素材に酸化が生じることのない組
み合わせを保つように各々制御しながら上昇させ、蒸着
プロセスの後では、まず酸素分圧は一定のままでフィラ
メントの温度をフィラメントの実質的な劣化の要因とな
るタングステンの酸化または素材の酸化が生じることの
ない迅速さでタングステンまたは素材と蒸着作業容器内
の酸素とが疑平衡状態になるまで降下させ、しかる後に
酸素分圧を降下させる制御を行う制御手段を備えてい
る。
【0022】本発明による第2の電子ビーム蒸着方法ま
たは第2の電子ビーム蒸着装置では、実質的な成膜を行
う蒸着プロセスの終了後、酸素分圧は蒸着プロセスの時
点から変化させない状態で、まずフィラメントの温度を
迅速に降下させることで、フィラメントの実質的な劣化
の要因となるタングステンの酸化または素材の酸化が回
避される。ここで「迅速」とは、フィラメントの実質的
な劣化の要因となるタングステンの酸化または素材の酸
化を生じない程度に十分早急な、という意味である。こ
れは換言すれば、フィラメントの温度を低下させて行く
と、酸素分圧は一定であるから、フィラメントの温度と
酸素分圧との組み合わせはタングステンの酸化または素
材の酸化が生じる状態に突入することとなるが、その状
態を経過する時間が短いので、フィラメントの実質的な
劣化の要因となるタングステンの酸化または素材の酸化
が回避される。
【0023】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態につい
て図面を参照して詳細に説明する。
【0024】図1は、本発明の一実施の形態に係る電子
ビーム蒸着装置の概要構成を表したものである。なお、
本発明の実施の形態に係る電子ビーム蒸着方法は、この
電子ビーム蒸着装置の動作あるいは作用によって具現化
されるものであるから、以下にそれらを併せて説明す
る。
【0025】この電子ビーム蒸着装置は、ベルジャーの
ような蒸着作業容器1の内部に、電子銃2と、ハース3
と、ハース冷却系4と、シャッター5と、温度計測器6
と、酸素分圧計測器7と、真空度計測器8とを備えてい
る。蒸着作業容器1の外側には、ホルダー回転機構9
と、ノズル10および開度調節弁11と、真空排気系1
2と、制御回路系13と、電源回路系14とが設けられ
ている。
【0026】電子銃2は、タングステン(W)を主材料
としてなるフィラメント20と、電子放出用の穴が設け
られておりフィラメント20を覆うように設けられたガ
ン部材15とを、その主要部として備えたものである。
この電子銃2は、外部の電源回路系14から電力を供給
されるとフィラメント20が赤熱して熱電子を放出する
ように設定されている。この電子銃2から放出された電
子は、例えば図示しない偏向ヨーク等によって電磁気的
に飛程を制御されてハース3に収容されたターゲット材
16へと投射される。
【0027】ハース3は、ターゲット材16を収容する
坩堝のようなものである。このハース3に収容されたタ
ーゲットに対して電子銃2から出射された熱電子が照射
されるように配置されている。
【0028】ハース冷却系4は、ハース3を過熱から守
るために冷却するものである。さらに具体的には、例え
ばウォータジャケットのような水冷方式の冷却装置など
が好適である。
【0029】シャッター5は、蒸着プロセスによる所定
の膜厚の堆積が完了した後などに、ターゲット材16か
ら放出される薄膜材料の物質の蒸気の遮断を行うための
もので、ハース3とワーク18との間に配置される。
【0030】ホルダー17は、蒸着プロセスによって所
定の薄膜が被着されるワーク18を機械的に保持するも
のである。ホルダー回転機構9は、蒸着による成膜の位
置的な偏りを防ぐために、例えば電動機などを駆動力源
として用いて、ホルダー17を回転させるためのもので
ある。
【0031】ノズル10は、蒸着作業容器1内に分圧を
調節しながら蒸着作業雰囲気中に酸素のような所定の物
質のガス等を導入するためのもので、その導入量や流速
は制御回路系13によって開度が制御される開度調節弁
11によって調節可能に設定されている。
【0032】温度計測器6は、フィラメント20の近傍
に設けられて、フィラメント20自体またはその近傍の
温度を測定することで、フィラメント20の温度を計測
するものである。この温度計測器6をフィラメント20
の近傍に配置した場合には、その位置で測定された温度
を近似的にフィラメント20自体の計測温度と見做すこ
とができるように、例えば測定値の校正を行うか、また
は校正を施さなくとも実質的に測定値をフィラメント2
0自体の温度として取り扱ってもよい許容範囲内にその
測定値の誤差が収まるように設定しておくことが望まし
い。
【0033】酸素分圧計測器7は、フィラメント20の
近傍の酸素分圧を計測するものである。この酸素分圧計
測器7はフィラメント20の表面に接する雰囲気の酸素
分圧を測定するよう配置されることが最も望ましいが、
実際にはフィラメント20からある程度の距離を隔てて
配置される。この酸素分圧計測器7の設置位置について
も、その位置で測定された酸素分圧が近似的にフィラメ
ント20の表面に接する雰囲気の酸素分圧と見做すこと
ができるものとなるように、例えば測定値の校正を行う
か、または校正を施さなくとも実質的に測定値をフィラ
メント20の表面の酸素分圧として取り扱ってもよい許
容範囲内にその測定値の誤差が収まるように設定してお
くことが望ましい。
【0034】制御回路系13は、温度計測器6による計
測結果および酸素分圧計測器7による計測結果に基づい
て、フィラメント20自体またはその近傍の温度および
酸素分圧を予め定めておいた制御則に従って制御するも
のである。
【0035】制御回路系13による制御の、ハードウェ
ア上の制御機能としては、温度計測器6による計測結果
および予め定められたフィラメント20の温度の制御則
に基づいて、電源回路系14から電子銃2へと供給する
電力を調節することによって、フィラメント20の温度
を制御する。また、酸素分圧計測器7による計測結果お
よび予め定められた酸素分圧の制御則に基づいて、ノズ
ル10の上流側に設けられた開度調節弁11の開度を調
節して、ノズル10から蒸着作業容器1の中へと導入さ
れる酸素または酸素を含んだガスの導入量や流速を制御
することで、蒸着作業容器1内の雰囲気中の酸素分圧を
制御する。
【0036】この制御回路系13で用いられる制御則
が、本発明に係る電子ビーム蒸着方法の主要部を実質的
に具現化するものである。制御回路系13による温度制
御と酸素分圧制御とは、それぞれ個別の制御量として制
御されるが、その制御が従う制御則については、温度と
酸素分圧との2変数の(二次元的な)組み合わせをフィ
ラメント20に酸化が生じることのない組み合わせに保
ちつつ変化させるように設定されている(これについて
の詳細は、電子ビーム蒸着装置の作用の説明にて後述す
る)。
【0037】真空排気系12は、蒸着作業容器1内を所
定の真空度にまで真空化するためのものである。真空度
計測器8は、蒸着作業容器1内の真空度を計測するもの
である。これら真空排気系12および真空度計測器8と
しては一般的な真空ポンプを用いたものを用いることが
可能である。
【0038】次に、上記電子ビーム蒸着装置の作用につ
いて説明する。
【0039】この電子ビーム蒸着装置では、所定の酸化
物質をワーク18の表面に堆積させて薄膜を成膜すると
いう実質的な蒸着プロセスでは、酸素が導入される蒸着
作業容器1内に配置されたタングステンを主材料として
なるフィラメント20から熱電子を放出させ、その熱電
子をターゲットに照射して、ターゲットの物質の蒸気を
発生させ、その蒸気をワーク18に被着させて、ターゲ
ットの物質の酸化物膜をワーク18の表面に成膜する。
このとき、電子銃2から所定の熱電子を放出するために
フィラメント20が高温に加熱されると共に、蒸着作業
容器1内の作業雰囲気中に酸素または酸素を含んだガス
を導入して酸素分圧(換言すれば酸素濃度)が所定の分
圧に調節される。
【0040】蒸着作業容器1内の状態が上記のような実
際の成膜を行う蒸着プロセスを実行することが可能な状
態に至るまでの、言わば準備期間(本実施の形態では、
これを「蒸着プロセスの前工程」または単に「前工程」
と呼ぶものとする)では、いわゆる常態(常温・常圧で
通常の大気環境程度の酸素濃度)あるいは所定の立ち上
げ状態(またはスタンバイ状態)から所定の真空度の真
空状態にした後、酸素を導入して酸素分圧を蒸着プロセ
スで要求される所定の値にまで上昇させることが必要と
なる。また、所定の熱電子を蒸着プロセスで安定的に放
出することができるように、その蒸着プロセスの前工程
ではフィラメント20の温度を室温程度あるいは予熱程
度から、例えば、2000[℃]あるいはそれ以上のような
高温にまで上昇させることが必要となる。
【0041】また、所定の成膜が完了した後には、酸素
の供給が不要となると共に、電子銃2からの熱電子の放
出も不要となる。従って、所定の薄膜が成膜されて蒸着
プロセスが完了した後(本実施の形態では、これを「蒸
着プロセスの後工程」または単に「後工程」と呼ぶもの
とする)には、最終的に成膜が完了したワーク18を取
り出すために、真空を解いて蒸着作業容器1内の状態を
常態または立ち上げ状態にまで戻すと共にフィラメント
20の温度を室温程度あるいは予熱程度にまで降下させ
る。
【0042】このような蒸着プロセスの前工程および後
工程では、フィラメント20の温度と酸素分圧との組み
合わせが、フィラメント20の形成材料であるタングス
テンまたは酸素と反応する素材が酸化することのない組
み合わせとなるような条件を保ちつつ、フィラメント2
0の温度とその周囲の酸素分圧とを各々制御して、それ
ら温度および酸素分圧をそれぞれ、前工程の場合には主
に上昇、後工程の場合には主に降下させる。このように
することにより、フィラメント20の長寿命化および電
子放出性能の安定化を達成し、延いてはそのようなフィ
ラメント20を用いて行われる蒸着プロセスによって成
膜された酸化物膜の品質や信頼性の向上およびその蒸着
プロセスに要する手間や時間の簡易化や低コスト化を達
成することができる。
【0043】本発明者は、上記のような制御則に従って
フィラメント20の温度と酸素分圧とを変化させること
でフィラメント20の酸化を回避することができること
を、本発明者による種々の実験によって得られた知見お
よび理論的な検討によって確認し、本発明を完遂するに
至った。
【0044】すなわち、従来の電子ビーム蒸着方法で
は、蒸着プロセスの前工程で、蒸着作業容器1内の雰囲
気を真空状態にして、そこに酸素ガスを導入して行き、
それと並行してフィラメント20を徐々に加熱して行く
ことで、フィラメント20の温度を所定の熱電子が放射
可能な高温状態にまで上昇させると共に蒸着作業容器1
内の酸素分圧を酸化物質を酸素欠損なく成膜するに適し
た所定量にまで上昇させるようにしていた。ここで、フ
ィラメント20を徐々に加熱して行くようにしていたの
は、急激に高電圧を印加すると、例えば、フィラメント
20の劣化した部分などから放電が生じてフィラメント
20自体やその周囲のガン部材15などを破損させてし
まう虞があるので、それを回避するためであった。
【0045】ところが、そのような従来の方法では、フ
ィラメント20の断線や蒸着プロセスでの不規則な放電
が多発する場合があり、また断線に至るまでの間でも、
フィラメント20が細くなるといった劣化現象に起因し
て、熱電子の放出能力が不安定なものとなる可能性があ
った。
【0046】そこで本発明者は、そのような従来の方法
におけるフィラメント20の断線や劣化、あるいは放電
について、その発生要因を種々の実験によって詳査し
た。具体的には、従来の電子ビーム蒸着装置で従来の電
子ビーム蒸着方法を試行して、それに用いたフィラメン
ト20やその周囲のガン部材15の状態を観察し、考察
を加えた。
【0047】その結果、 (1) 蒸着時の酸素導入でフィラメント20の表面に
酸化タングステンが生じること。 (2) フィラメント20の表面が酸化タングステンで
覆われることで、熱電子が放出され難くなり、熱電子の
見掛けの放出能力が低下すること。 (3) フィラメント20の加熱で生成した酸化タング
ステンがフィラメント20の表面から離脱してフィラメ
ント20が痩せて行く(欠損して行く)こと。あるいは
さらに著しくは断線に至ること。 (4) フィラメント20の加熱で生成した酸化タング
ステンが飛散してガン部材15の裏面(フィラメント2
0に面している内壁など)に付着すること。 (5) フィラメント20から飛散した酸化タングステ
ンがガン部材15の裏面等に付着して、放電の発生要因
となること。 が確認された。これらは、生成した酸化タングステンが
特徴的な黄色い物質であり、それがフィラメント20の
表面に生成されていたことや、ガン部材15の裏面等に
付着していることが観察されたことなどから確認するこ
とができた。
【0048】このように、従来の電子ビーム蒸着方法に
おいては、フィラメント20が酸化することが、フィラ
メント20の短命化および電子放出性能の不安定化なら
びに放電の要因となっており、延いてはそのようなフィ
ラメント20を用いて行われる蒸着プロセスによって成
膜された酸化物膜の品質や信頼性の低下や、蒸着プロセ
スに要する手間の煩雑化や、スループットの悪化や、製
造コスト低廉化の妨げの要因となっていたことが判明し
た。
【0049】そこで、次に、そのようなフィラメント2
0の酸化の発生要因について検討した。その結果、従来
の電子ビーム蒸着方法では、フィラメント20の温度と
その周囲の雰囲気中の酸素分圧との組み合わせがフィラ
メント20を酸化させるような条件を満たす組み合わせ
となっていることに起因して、フィラメント20の酸化
が進んでしまっていたことが分かった。
【0050】さらに詳細には、電子ビーム蒸着装置また
は電子ビーム蒸着方法におけるフィラメント20の温度
とその周囲の雰囲気中の酸素分圧との2変数の組み合わ
せの変化を、図2に示したような横軸にフィラメント2
0の温度をプロットし縦軸に酸素分圧をプロットしてな
る二次元的チャート上で考察すると、蒸着プロセスとし
て要求される状態のポイント、およびその前工程が通る
経路、ならびに後工程が通る経路のいずれもが、フィラ
メント20の主材料であるタングステンに酸化が生じる
組み合わせの領域100内(図2の二次元的チャートに
おける粗い斜線を付して示した領域)を推移していた。
このため、フィラメント20の表面が急激に酸化してい
たのであった。
【0051】これは、従来の電子ビーム蒸着方法におい
て、まず前工程では、酸素ガスを急速に導入して酸素分
圧を早急に上昇させると共に、不用意な放電を避けるた
めにフィラメント20の温度を徐々に上昇させていたの
で、いわゆる常態から蒸着プロセスとして要求される状
態まで、フィラメント20の温度と酸素分圧とが図2に
一例として鎖線で示したような(図2のグラフ中で傾き
の急な)経路を辿って変化していたために、フィラメン
ト20の表面に酸化が生じる領域100を通る時間が長
くなっていたことに因るものと考えられる。また、後工
程では、酸素分圧を変化させる前に、電子銃2からの熱
電子の放出が不要になるので、まずフィラメント20へ
の電力の供給を停止するが、それでもフィラメント20
には余熱が残っているので、フィラメント20の温度は
瞬間的に降下するわけではなく、ある程度の時間を要す
るので、その間に、フィラメント20の表面が作業雰囲
気中の酸素によって酸化されてしまう場合があることに
因るものと考えられる。また、降下を完了して落ち着か
せた状態の温度および酸素分圧の組み合わせが、タング
ステンに酸化が生じる領域100内に設定されている場
合も多かったので、そのようなことに因るものと考えら
れる。いずれにしても、従来の方法では、前工程および
後工程ならびに蒸着プロセス自体が、フィラメント20
の表面に酸化が生じる領域100内で行われていたの
で、それに起因して、フィラメント20の表面が急激に
酸化してしまっていたということが判明した。
【0052】そこで本発明による電子ビーム蒸着方法で
は、例えば図2に実線で示したように、フィラメント2
0の温度と酸素分圧との組み合わせを、上記のようなフ
ィラメント20のタングステンに酸化が生じる領域10
0を回避して、常態または立ち上げ開始のポイントから
蒸着プロセスに対応した常態に至るまでの間、フィラメ
ント20のタングステンに酸化が生じることのない領域
200内で推移させることにより、フィラメント20の
実質的な劣化を助長させるようなタングステンの酸化を
抑制ないし解消するように制御する。
【0053】なお、タングステンに酸化が生じることの
ない領域200では、酸素分圧が高くても、それに伴っ
て温度が十分に高ければ、生成された酸化タングステン
が熱分解されるなどして、いわゆる物理的還元作用が生
じるので、実質的にフィラメント20の劣化の要因とな
るような酸化が抑制ないし回避される。また、温度が低
くても、それに伴って酸素分圧が十分に低ければ、タン
グステンの酸化が生じないか、生じても極めて緩慢にし
か進まないので、実質的にフィラメント20の劣化の要
因となるような酸化は生じることがない。
【0054】そのような本発明による電子ビーム蒸着方
法としては、さらに詳細には、例えば次に述べるような
数種類の態様が可能である。
【0055】典型的な態様の一つとしては、図3に一例
を示したように、蒸着プロセスの前工程では、まず酸素
分圧を一定に保ちつつ、フィラメント20の温度を蒸着
プロセスで要求される温度にまで上昇させ、しかる後
に、フィラメント20の温度を一定に保ちつつ、蒸着作
業容器1内の酸素分圧を蒸着プロセスで要求される酸素
分圧にまで上昇させる。そして蒸着プロセスの後には、
まずフィラメント20の温度を一定に保ちつつ、酸素分
圧を所定の酸素分圧にまで降下させ、しかる後に、酸素
分圧を一定に保ちつつ、フィラメント20の温度を所定
の温度にまで降下させる、というものである。このよう
にすることにより、一度に変化させる制御量が温度また
は酸素分圧のいずれか一つとなるので、その制御則およ
び制御プロセスが極めて簡易なものとなり、プラント制
御の自動化をさらに容易なものとすることができるとい
うメリットがある。しかも、タングステンの酸化が生じ
る領域100と生じることのない領域200との間の境
界から最も遠くかつ単純な経路でフィラメント20の温
度および酸素分圧を変化させているので、制御量に多少
の誤差が生じたり、タングステンに酸化が生じる領域1
00と酸化が生じることのない領域200との間の境界
に多少の揺ぎが生じても、それらから悪影響を受けるこ
となく、極めて確実にフィラメント20の顕著な酸化を
回避または抑制することができるというメリットがあ
る。
【0056】また、図4に示したように、前工程または
後工程あるいはその両方(図4では両方の場合を示して
いる)で、フィラメント20の温度が高くてもタングス
テンに酸化が生じることのないような十分に低い値に酸
素分圧を保ちつつ、フィラメント20の温度を蒸着プロ
セスで要求される温度を超えた高温であってかつフィラ
メント20に粒界の劣化が生じる温度未満の温度にまで
加熱して、フィラメント20をいわゆる「空焼き」する
ことにより、例えば蒸着プロセスの間などに少しずつで
もフィラメント20の表面やその周囲のガン部材15の
裏面などに付着して溜っていた酸化タングステンなどに
ついても、熱分解あるいは昇華させて確実に除去するこ
とが可能となる。
【0057】また、図5に一例を示したように、フィラ
メント20の温度と酸素分圧との組み合わせを、タング
ステンの酸化が生じることのない領域200内で曲線的
に変化させてもよい。但し、この場合、フィラメント2
0の温度と酸素分圧との2つの制御量を並行して制御す
ることが必要であることは言うまでもない。
【0058】あるいは、蒸着プロセスで要求されるフィ
ラメント20の温度と酸素分圧との組み合わせが、タン
グステンに酸化が生じる領域100内とならざるを得な
い場合などには、図6に示したように、前工程では、一
旦、タングステンの酸化が生じることのない領域200
内を経由してフィラメント20を高温な状態にしてお
き、それからフィラメント20の温度をやや降下させて
蒸着プロセスで要求される状態に移行し、蒸着プロセス
が完了すると、後工程では前工程と逆に、フィラメント
20の温度を上昇させて、タングステンの酸化が生じる
ことのない領域200内を経由して常態のポイントある
いは立ち上げポイントへと戻すようにしてもよい。但
し、この場合には、蒸着プロセスのポイントがタングス
テンに酸化が生じる領域100内にあるので、蒸着プロ
セス中にフィラメント20が酸化することは避けられな
い。従って、このような蒸着プロセスはできるだけ避け
た方がよいことは言うまでもないが、不可避的に必要で
ある場合などには、蒸着プロセスで生じてしまった酸化
タングステンを、この図6に一例を示したような方法に
よって前工程や後工程で熱分解または昇華させて除去す
ることが有効である。なお、この場合には、タングステ
ンの酸化が生じることのない領域200内を経由する前
工程または後工程で、さらにフィラメントを空焼きする
工程を付加するようにしてもよい。
【0059】あるいは、蒸着プロセスの後工程では、図
7に一例を示したように、酸素分圧は一定のままで、フ
ィラメント20の温度をフィラメント20の実質的な劣
化の要因となるタングステンの酸化が生じることのない
迅速さで、タングステンまたはフィラメント20の素材
と蒸着作業容器1内の酸素とが擬平衡状態になるまで
(擬平衡領域300に入るまで)降下させ、しかる後
に、酸素分圧を降下させるようにすることなども可能で
ある。
【0060】すなわち、酸素分圧が高くても、フィラメ
ント20の表面の温度が例えば常温や室温程度のように
十分に低ければ、タングステンと酸素との反応は擬平衡
状態にあるので、実質的にフィラメント20は酸化しな
い。そこで、蒸着プロセスの終了後、酸素分圧は蒸着プ
ロセスの時点から変化させない状態で、まずフィラメン
ト20の温度を迅速に降下させて、フィラメント20の
表面の状態を迅速に擬平衡状態に移行させることによ
り、フィラメント20の実質的な劣化の要因となるタン
グステンの酸化を回避または低減することができる。
【0061】但し、蒸着プロセスの終了後、直ちにフィ
ラメント20への電力供給を停止したとしても、フィラ
メント20には余熱が残っているので、その余熱が冷め
るまでには、ある程度の時間を要する。このため、余熱
が冷めるまでの間にフィラメント20が酸化してしまう
虞がある。従って、この場合には、実質的にフィラメン
ト20の劣化の要因となる酸化が生じることのない程度
に迅速に余熱が冷めるような熱放散性を有するフィラメ
ント20を用いるか、余熱を強制的に冷却するための冷
却装置等を付設することが望ましい。あるいは、タング
ステンの酸化が生じることのない領域200内を経由す
る前工程で、さらにフィラメントを空焼きする工程を付
加することなども有効である。
【0062】なお、上記のような種々の態様の電子ビー
ム蒸着方法についても、制御回路系13によって制御さ
れて、上記電子ビーム蒸着装置によって具現化されるも
のであることは言うまでもない。
【0063】以上のような本実施の形態による電子ビー
ム蒸着方法によって、従来と同様あるいはそれよりも短
い蒸着時間で、従来と同様の薄膜を成膜するという条件
で、複数回の蒸着成膜作業を行う実験を試行した結果、
従来の電子ビーム蒸着方法の場合には平均して使用15
回前後でフィラメントが断線していたものが、本実施の
形態に係る電子ビーム蒸着方法によれば最高39回まで
断線することなく使用することができ、その寿命を従来
の2倍以上にまで改善することが可能であることが確認
された。
【0064】また、ガン部材の放電やフィラメントの放
電についても、従来では例えば蒸着成膜作業19回につ
き10回発生していたものが、本実施の形態に係る電子
ビーム蒸着方法によれば多くて30回の蒸着成膜作業1
9回につき3回、少なくて0回となり、明らかに放電の
抑制が可能であることが確認された。
【0065】また、本実施の形態に係る電子ビーム蒸着
方法によればフィラメントの酸化を抑えることによって
電子銃からの熱電子の放出能率の低下の抑制が達成され
るので、蒸着に要する時間を従来の50〜60分から4
0以内と明らかに短くすることができた。
【0066】
【発明の効果】以上説明したように、請求項1ないし5
のいずれかに記載の電子ビーム蒸着方法または請求項7
ないし11のいずれかに記載の電子ビーム蒸着装置によ
れば、酸素が導入される蒸着作業容器内に配置されたタ
ングステンまたは酸素と反応する素材を主材料としてな
るフィラメントから熱電子を放出させ、その熱電子をタ
ーゲットに照射してターゲットの物質の蒸気を発生さ
せ、その蒸気をワークに被着させて、ターゲットの物質
の酸化物膜をワークの表面に成膜するに際して、フィラ
メントの温度と酸素分圧との組み合わせが、フィラメン
トの形成材料であるタングステンまたは酸素と反応する
素材が酸化することのない組み合わせとなるような条件
を保ちつつ、フィラメントの温度とその周囲の酸素分圧
とを各々制御して、それら温度および酸素分圧をそれぞ
れ、例えば蒸着プロセスで要求されるフィラメントの温
度と酸素分圧との組み合わせと、常態におけるフィラメ
ントの温度と酸素分圧との組み合わせとの間で、上昇ま
たは降下させるようにしたので、フィラメントの熱酸化
を解消ないしは低減して、フィラメントの長寿命化およ
び電子放出性能の安定化を達成することができ、延いて
はそのようなフィラメントを用いて行われる蒸着プロセ
スによって成膜される酸化物膜の品質や信頼性の向上お
よびその蒸着プロセスに要する手間や時間の簡易化や低
コスト化を達成することが可能となる。
【0067】また、請求項6記載の電子ビーム蒸着方法
または請求項12記載の電子ビーム蒸着装置によれば、
実質的な成膜を行う蒸着プロセスの終了後、酸素分圧は
蒸着プロセスの時点から変化させない状態で、まずフィ
ラメントの温度を、フィラメントの実質的な劣化の要因
となるタングステンの酸化または素材の酸化を生じない
程度に十分急速に降下させるようにしたので、フィラメ
ントの温度を低下させて行きフィラメントの温度と酸素
分圧との組み合わせがタングステンの酸化または素材の
酸化を生じせしめる状態に突入することとなっても、そ
の状態を経過する時間が短時間である(その領域を急速
に経過する)ことから、フィラメントの実質的な劣化の
要因となるタングステンの酸化または素材の熱酸化を解
消ないしは低減して、フィラメントの長寿命化および電
子放出性能の安定化を達成することができ、延いてはそ
のようなフィラメントを用いて行われる蒸着プロセスに
よって成膜される酸化物膜の品質や信頼性の向上および
その蒸着プロセスに要する手間や時間の簡易化や低コス
ト化を達成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態に係る電子ビーム蒸着装
置の概要構成を表したものである。
【図2】フィラメントの温度とその周囲の雰囲気中の酸
素分圧との2変数の組み合わせの変化を二次元的チャー
トとして横軸にフィラメントの温度をプロットし縦軸に
酸素分圧をプロットしてなる図である。
【図3】本発明による電子ビーム蒸着方法の典型的な態
様の一つを表した図である。
【図4】本発明による電子ビーム蒸着方法の典型的な他
の態様の一つを表した図である。
【図5】本発明による電子ビーム蒸着方法の典型的なさ
らに他の態様の一つを表した図である。
【図6】本発明による電子ビーム蒸着方法の典型的なさ
らに他の態様の一つを表した図である。
【図7】本発明による電子ビーム蒸着方法の典型的なさ
らに他の態様の一つを表した図である。
【符号の説明】
1…蒸着作業容器、2…電子銃、3…ハース、4…ハー
ス冷却系、5…シャッター、6…温度計測器、7…酸素
分圧計測器、8…真空度計測器、9…ホルダー回転機
構、10…ノズル、11…開度調節弁、12…真空排気
系、13…制御回路系、14…電源回路系、15…ガン
部材、16…ターゲット材、17…ホルダー、18…ワ
ーク、20…フィラメント

Claims (12)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 酸素が導入される蒸着作業容器内に配置
    されたタングステンまたは酸素と反応する素材を主材料
    としてなるフィラメントから熱電子を放出させ、その熱
    電子をターゲットに照射して、そのターゲットの物質の
    蒸気を発生させ、その蒸気をワークに被着させることに
    より、前記物質の酸化物膜を前記ワークに成膜する電子
    ビーム蒸着方法であって、 前記酸化物膜を成膜する蒸着プロセスの前または後のう
    ち少なくともいずれか一方で、前記フィラメントの温度
    と前記蒸着作業容器内の少なくとも前記フィラメントに
    接する雰囲気中の酸素分圧とを、前記タングステンまた
    は酸素と反応する素材に酸化が生じることのない組み合
    わせを保つように、各々制御しながら変化させる工程を
    含むことを特徴とする電子ビーム蒸着方法。
  2. 【請求項2】 前記フィラメントの温度および前記酸素
    分圧を、前記蒸着プロセスで要求されるフィラメントの
    温度と酸素分圧との組み合わせと、常態におけるフィラ
    メントの温度と酸素分圧との組み合わせとの間で、各々
    制御しながら上昇または降下させることを特徴とする請
    求項1記載の電子ビーム蒸着方法。
  3. 【請求項3】 前記蒸着プロセスの前には、前記酸素分
    圧を一定に保ちつつ前記フィラメントの温度を前記蒸着
    プロセスで要求される温度またはそれ以上にまで上昇さ
    せ、しかる後に、前記フィラメントの温度を一定に保ち
    つつ前記蒸着作業容器内の酸素分圧を前記蒸着プロセス
    で要求される酸素分圧またはそれ以上にまで上昇させ、 前記蒸着プロセスの後には、フィラメントの温度を一定
    に保ちつつ酸素分圧を所定の酸素分圧にまで降下させ、
    しかる後に、前記酸素分圧を一定に保ちつつ、前記フィ
    ラメントの温度を所定の温度にまで降下させることを特
    徴とする請求項1記載の電子ビーム蒸着方法。
  4. 【請求項4】 前記蒸着プロセスの前または後のうち少
    なくともいずれか一方で、前記フィラメントの温度を前
    記蒸着プロセスで要求される温度以上であってかつ前記
    フィラメントに粒界の劣化が生じる温度未満の温度にま
    で上昇させて前記フィラメントの空焼きを行うことで、
    少なくとも前記フィラメントの表面の酸化物を熱分解さ
    せる工程を、さらに含むことを特徴とする請求項1記載
    の電子ビーム蒸着方法。
  5. 【請求項5】 前記ターゲットがマグネシウム、前記ワ
    ークがプラズマディスプレイ表示素子の基板、前記酸化
    物膜が酸化マグネシウムであり、前記蒸着プロセスによ
    って、前記プラズマディスプレイ表示素子の基板上に酸
    化マグネシウムからなる保護膜を成膜することを特徴と
    する請求項1記載の電子ビーム蒸着方法。
  6. 【請求項6】 前記蒸着プロセスの後には、前記酸素分
    圧は一定のままで、前記フィラメントの温度を、前記フ
    ィラメントの実質的な劣化の要因となる前記タングステ
    ンの酸化または前記素材の酸化が生じることのない迅速
    さで、前記タングステンまたは前記素材と前記蒸着作業
    容器内の酸素とが疑平衡状態になるまで降下させ、しか
    る後に、前記酸素分圧を降下させることを特徴とする請
    求項1記載の電子ビーム蒸着方法。
  7. 【請求項7】 タングステンまたは酸素と反応する素材
    を主材料としてなるフィラメントが蒸着作業容器内に配
    置されており、そのフィラメントから放出される熱電子
    をターゲットに照射して、そのターゲットの物質の蒸気
    を発生させ、その蒸気をワークに被着させることによ
    り、前記物質の酸化物膜を前記ワークに成膜する電子ビ
    ーム蒸着装置であって、 前記酸化物膜を成膜する蒸着プロセスの前または後のう
    ち少なくともいずれか一方で、前記フィラメントの温度
    と前記蒸着作業容器内の少なくとも前記フィラメントに
    接する雰囲気中の酸素分圧とを、前記タングステンまた
    は酸素と反応する素材に酸化が生じることのない組み合
    わせを保つように、各々制御しながら変化させる制御手
    段を備えたことを特徴とする電子ビーム蒸着装置。
  8. 【請求項8】 前記制御手段が、前記フィラメントの温
    度および前記酸素分圧を、前記蒸着プロセスで要求され
    るフィラメントの温度と酸素分圧との組み合わせと、常
    態におけるフィラメントの温度と酸素分圧との組み合わ
    せとの間で、各々制御しながら上昇または降下させるこ
    とを特徴とする請求項7記載の電子ビーム蒸着装置。
  9. 【請求項9】 前記制御手段が、前記蒸着プロセスの前
    には、前記酸素分圧を一定に保ちつつ前記フィラメント
    の温度を前記蒸着プロセスで要求される温度またはそれ
    以上にまで上昇させ、しかる後に、前記フィラメントの
    温度を一定に保ちつつ前記蒸着作業容器内の酸素分圧を
    前記蒸着プロセスで要求される酸素分圧またはそれ以上
    にまで上昇させ、前記蒸着プロセスの後には、フィラメ
    ントの温度を一定に保ちつつ酸素分圧を所定の酸素分圧
    にまで降下させ、しかる後に、前記酸素分圧を一定に保
    ちつつ、前記フィラメントの温度を所定の温度にまで降
    下させる制御を行うことを特徴とする請求項7記載の電
    子ビーム蒸着装置。
  10. 【請求項10】 前記制御手段が、前記蒸着プロセスの
    前または後のうち少なくともいずれか一方で、前記フィ
    ラメントの温度を前記蒸着プロセスで要求される温度以
    上であってかつ前記フィラメントに粒界の劣化が生じる
    温度未満の温度にまで上昇させて前記フィラメントの空
    焼きを行って少なくとも前記フィラメントの表面の酸化
    物を熱分解させる制御を行うことを特徴とする請求項7
    記載の電子ビーム蒸着装置。
  11. 【請求項11】 前記ターゲットがマグネシウム、前記
    ワークがプラズマディスプレイ表示素子の基板、前記酸
    化物膜が酸化マグネシウムであり、前記蒸着プロセスに
    よって、前記プラズマディスプレイ表示素子の基板上に
    酸化マグネシウムからなる保護膜を成膜することを特徴
    とする請求項7記載の電子ビーム蒸着装置。
  12. 【請求項12】 前記制御手段が、前記蒸着プロセスの
    後には、前記酸素分圧は一定のままで、前記フィラメン
    トの温度を、前記フィラメントの実質的な劣化の要因と
    なる前記タングステンの酸化または前記素材の酸化が生
    じることのない迅速さで、前記タングステンまたは前記
    素材と前記蒸着作業容器内の酸素とが疑平衡状態になる
    まで降下させ、しかる後に、前記酸素分圧を降下させる
    制御を行うことを特徴とする請求項7記載の電子ビーム
    蒸着装置。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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WO2005006380A1 (ja) * 2003-07-15 2005-01-20 Matsushita Electric Industrial Co., Ltd. プラズマディスプレイパネルの製造方法およびその製造装置
JP2005050804A (ja) * 2003-07-15 2005-02-24 Matsushita Electric Ind Co Ltd プラズマディスプレイパネルの製造方法およびその製造装置

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