JP2003147436A - 非調質高強度・高靭性鍛造品の製造方法 - Google Patents

非調質高強度・高靭性鍛造品の製造方法

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JP2003147436A JP2001349099A JP2001349099A JP2003147436A JP 2003147436 A JP2003147436 A JP 2003147436A JP 2001349099 A JP2001349099 A JP 2001349099A JP 2001349099 A JP2001349099 A JP 2001349099A JP 2003147436 A JP2003147436 A JP 2003147436A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 非調質で高強度・高靭性の鍛造品を提供す
る。 【解決手段】 C、Si、Mn、Al、N、V、Nb、
Mg、Zr、Cr、Ni、Mo、Cu、Ti、B、S、
Pb、Ca、Biの含有率を規定した鋼を棒鋼圧延後、
直ちにないしは再加熱して900〜1350℃から室温
から300℃まで15〜60℃/secで冷却して、マ
ルテンサイトを主体とする組織にした鍛造用鋼を用いて
熱間鍛造する際に、Ac3 点以上900℃以下の温度に
加熱し、対数歪みで0.3以上の加工を与える熱間鍛造
を未再結晶上限温度以下700℃以上で少なくとも1回
以上行い、Ar3 点以下300℃以上の温度域を下記
(1)式で示した冷速(CR)で冷却して、平均粒径1
0μm以下の微細マルテンサイト組織を得る。 (6ε+12)℃/sec≦CR≦60℃/sec …(1) (ε:未再結晶温度域で与えた対数歪み)

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は鍛造品の製造方法に関
し、さらに詳しくは、自動車、建設機械および各種産業
機械等の部品として使用される材料として、熱間鍛造後
に調質処理を行わずに優れた強度と靭性を有する鍛造品
の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、機械構造用熱間鍛造品は、一般
に、中炭素鋼または低合金鋼素材を熱間鍛造した後、再
加熱し、焼入れ・焼戻し、すなわち調質処理を施し、目
的、用途に応じた強度および靭性を付与して、使用に供
されていた。しかし、上記調質処理には多大の熱エネル
ギー費用を要すると共に、処理工程の増加、仕掛品の増
大等のために製造費用が高くならざるを得ない。そこで
近年、機械構造用熱間鍛造品の製造において、製造工程
を簡略化、特に、熱間鍛造後の調質処理を省略するため
に、種々の非調質型熱間鍛造用鋼や、非調質熱間鍛造品
の製造方法が提案されている。このような従来の非調質
型熱間鍛造用鋼の多くは、中炭素鋼に微量のV、Nb、
Ti、Zr等のいわゆる析出硬化型合金元素を添加した
析出硬化型非調質鋼であって、熱間鍛造後の冷却工程に
おいてこれらを析出させ、その析出硬化によって高強度
を得ようとするものである。
【0003】例えば、特公昭58−2243号公報に
は、中炭素鋼に微量のVを添加し、これを1100℃以
上の温度に加熱して型打鍛造し、この後、500℃まで
10〜100℃/分の冷却速度で空冷することにより、
フェライト中に微細なV炭窒化物を析出させたフェライ
ト・パーライト組織からなる非調質鍛造品の製造方法が
記載されている。しかし、このような析出硬化型非調質
鋼を用いる場合には、上記のように1000〜1100
℃またはそれ以上の高温に加熱することが必要であり、
そのまま通常の鍛造を行った場合、鍛造品においても結
晶粒が著しく粗大化するので、充分な靭性を得ることが
できない。
【0004】このような問題を解決するために、素材鋼
や鍛造方法に関して、析出硬化型元素の添加量を極力少
なくする(例えば、特開昭55−82750号公報)、
低C高Mn化する、(例えば特開昭54−121225
号公報)、析出物の種類を制御する、(例えば、特開昭
56−38448号公報)、制御冷却によって結晶粒を
微細化する、(例えば特開昭56−169723号公
報)等の方法が従来より提案されているが、いずれによ
っても、強度・靭性共に優れる非調質熱間鍛造品を得る
ことは、容易ではない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は強度・靭性共
に優れる非調質熱間鍛造品を提供することを目的とす
る。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は上記の課題を解
決するため、その要旨とするところは、下記の通りであ
る。 (1) 質量%で、C:0.1〜0.6%、Si:0.
05〜2.5%、Mn:0.2〜3%、Al:0.00
5〜0.1%、N:0.001〜0.02%を含有し、
更に、V:0.05〜0.5%、Nb:0.005〜
0.1%の1種または2種を含有し、残部がFeおよび
不可避的不純物からなる鋼片を、棒鋼圧延後、直ちに又
は900〜1350℃に再加熱して900〜1350℃
から室温〜300℃まで15〜60℃/secで冷却
し、マルテンサイトを面積率で95〜100%生成さ
せ、次いでAc3 点以上950℃以下に加熱し、対数歪
みで0.3〜3の加工を与える熱間鍛造を未再結晶上限
温度以下700℃以上で少なくとも1回以上行い、平均
結晶粒径が10μm以下のマルテンサイトからなる鋼を
得ることを特徴とする非調質高強度・高靭性鍛造品の製
造方法。 (2)鍛造後、Ar3 点以下300℃以上の温度域を下
記(1)式で示した冷速(CR)で冷却することを特徴
とする前記(1)記載の非調質高強度・高靭性鍛造品の
製造方法。
【0007】 (6ε+12)℃/sec≦CR≦60℃/sec …(1) (ε:未再結晶温度域で与えた対数歪み) (3)質量%で、Mg:0.0001〜0.005%、
Zr:0.0001〜0.005%の1種または2種を
含有することを特徴とする(1)又は(2)記載の非調
質高強度・高靭性鍛造品の製造方法。 (4)質量%で、Cr:0.05〜3%、Ni:0.0
5〜3%、Mo:0.05〜3%、Cu:0.01〜2
%、Ti:0.003〜0.05%、B:0.0005
〜0.005%の1種または2種以上を含有することを
特徴とする非調質高強度・高靭性鍛造品の製造方法。 (5)質量%で、S:0.01〜0.3%、Pb:0.
03〜0.3%、Ca:0.001〜0.05%、B
i:0.03〜0.3%の1種または2種以上を含有す
ることを特徴とする(1)〜(4)の何れか1項に記載
の非調質高強度・高靭性鍛造品の製造方法。 (6)引張強さが1300〜1800MPa であることを
特徴とする(1)〜(5)の何れか1項に記載の非調質
高強度・高靭性鍛造品の製造方法。 (7)降伏比が0.65〜0.95であることを特徴と
する(1)〜(6)の何れか1項に記載の非調質高強度
・高靭性鍛造品の製造方法。
【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明について詳細に説明
する。本発明の根幹をなす技術思想は以下の通りであ
る。強度・靭性共に優れる鍛造品を得るためには、その
鍛造品の金属組織を微細にすれば良いことは知られてき
た。最終組織を微細化するには、その前組織であるγ
(オーステナイト)に熱間鍛造により歪みを与えて再結
晶により微細化する方法、および、より鍛造温度を低め
て未再結晶温度で鍛造することにより通常再結晶により
減少してしまう転位を変態時まで残留させ核生成速度を
増加させる方法がある。従来は、再結晶温度域での鍛
造、すなわち高温での鍛造の方が反力が少ないこと、お
よび反力が少ない方が鍛造精度を上げやすい等の理由
で、再結晶温度域の鍛造により組織を微細化することが
前提であった。本発明者等は、従来鍛造で用いられなか
った未再結晶温度域での鍛造を行うことにより、飛躍的
に組織が微細化し、材質も向上することを見いだした。
【0009】一方、鍛造時の加熱は組織微細化の観点か
らは低温加熱の方がγ粒径が小さいため有利である。し
かし、通常の粗大なフェライト+パーライトの組織を持
つ鍛造用鋼を低温加熱にすると、前組織の影響により、
まずパーライト部がγ化しフェライト部は遅れてγ化す
るために粒径ばらつきが大きく、拡散が充分に行われな
いため濃度偏差も残留したままである。結果として鍛造
後の組織ばらつきが大きく材質もそれほど向上しない。
さらに低温加熱では炭窒化物を形成する元素があまり固
溶せず、本発明のように固溶V,Nbを用いた未再結晶
温度の拡大効果は期待できない。また同様に加工誘起析
出による強化も期待できない。これを打破する手段とし
て本発明者等は、鍛造前組織をマルテンサイト主体に調
整することにより、低温加熱でも均一かつ微細な組織が
えられることを見いだした。鍛造前組織を濃度偏差の無
い均一組織であるマルテンサイトを主体とする組織にす
ることにより低温加熱でも均一なγが得られ、鍛造後の
最終組織の微細化に有効である。またマルテンサイトで
は、炭窒化物を形成する元素が固溶ままの状態で残留し
ているため、これを低温加熱した場合、γ中の固溶量は
従来のフェライト−パーライト組織の鍛造用鋼を低温加
熱した場合に比べ格段に多い。このため、固溶V,Nb
を用いた未再結晶温度の拡大効果および加工誘起析出に
よる強化が可能である。これらの効果は、鍛造後の組織
によらず、鍛造後の組織がフェライト−パーライト、ベ
イナイトないしはマルテンサイトでも有効である。
【0010】以下に本発明の限定理由を述べる。
【0011】Cは、鋼を強化するのに有効な元素である
が、0.1%未満では充分な強度が得られない。一方、
過多に添加すると靭性が低下するため、添加量の上限を
0.6%とする。
【0012】Siは、鋼の強化元素として有効である
が、0.05%未満ではその効果がない。一方、過多に
添加すると靭性および被削性が低下するため、添加量の
上限を2.5%とする。
【0013】Mnは、鋼の強化に有効な元素であるが、
0.2%未満では充分な効果が得られない。一方、過多
に添加すると靭性および被削性が低下するため、添加量
の上限を3%とする。
【0014】Alは、鋼の脱酸および結晶粒の微細化の
ために有効な元素であるが、0.005%未満ではその
効果がない。一方、過多に添加すると被削性が低下する
ため、添加量の上限を0.1%とする。
【0015】Nは、V炭窒化物やNb炭窒化物を生成し
析出強化のために必要な元素であるが、0.001%未
満では充分な効果が得られない。一方、過多に添加する
と靭性が劣化するため、添加量の上限を0.02%とす
る。
【0016】Vは、固溶原子が転位の回復および再結晶
を遅らせる効果がある。すなわち未再結晶温度域を高温
側に広げ、未再結晶域鍛造を容易にする元素である。ま
た、未再結晶圧延後、転位のもつれた部分にVの炭窒化
物が微細に析出し、いわゆる加工誘起析出により、強度
が上昇するため有効な元素である。これらの効果を享受
するためには0.05%以上の添加が必要である。一
方、過多に添加すると靭性が劣化するため、添加量の上
限を0.5%とする。
【0017】NbもVと同様、未再結晶を容易にし、析
出強化のために必要な元素であるが、0.005%未満
では充分な効果が得られない。一方、過多に添加すると
靭性が劣化するため、添加量の上限を0.1%とする。
【0018】MgおよびZrはともに酸化物や硫化物、
あるいはこれらの複合物を形成し、加熱時のオーステナ
イトの粗大化を抑制する効果を持つ元素であるため組織
微細化に有効である。またこれらの酸化物はMnSの析
出核になるため被削性も向上する。いずれも、0.00
01%未満ではその効果はなく、0.005%を越える
と、靱性が劣化するため、添加量の上限を0.005%
とする。
【0019】Cr,Ni,Mo,Cuはいずれも適量の
添加においては靱性を損なうことなく強度を増大する元
素である。Cr,Ni,Moは、いずれも0.05%未
満ではその効果はなく、3%を越えると靱性が大きく劣
化するため、その添加量の下限をそれぞれ0.05%、
上限を3%とする。Cuは0.01%未満ではその効果
はなく、2%を越えると靱性が大きく劣化するため、そ
の添加量の下限をそれぞれ0.01%、上限を2%とす
る。
【0020】Tiは,窒化物・炭化物を生成する。窒化
物は高温まで固溶せずに残るため、加熱時のオーステナ
イト粗大化を防止するのに有効である。また炭化物は微
細に分散して析出強化に有効である。0.003%未満
ではこれらの効果は現れず、0.05%を越えると靱性
が劣化するため、その添加量の下限を0.003%、上
限を0.05%とする。
【0021】Bは焼き入れ性を増加する元素である。焼
き入れ性を増加することにより強度を増し、さらに粗大
な初析フェライトの生成を防止して組織の微細化を促進
するのに有効な元素である。0.0005%未満ではこ
れらの効果は現れず、0.005%を越えると靱性が劣
化するため、その添加量の下限を0.0005%、上限
を0.005%とする。
【0022】S,Pb,Ca,Biは、いずれも被削性
を向上する元素である。いずれも過小の添加はその効果
がなく、過大の添加は靱性を劣化させるため、Sは0.
01%以上0.3%以下に、Pbは0.03%以上0.
3%以下に、Caは0.001%以上0.05%以下
に、Biは0.03%以上0.3%以下に添加量を限定
する。
【0023】次に、本発明の鍛造用鋼の製造方法につい
て述べる。
【0024】鍛造用素材をマルテンサイトとするために
は、棒鋼圧延後、高温からの焼入が必要である。焼入開
始前の加熱温度を900℃以上としたのは900℃以上
の焼入開始温度を確保するためであり、一方、加熱温度
を1350℃以下としたのはそれ以上の加熱が困難だか
らである。焼入開始温度を1350℃以下としたのは、
それ以上の温度からの焼入が困難だからである。900
℃以上としたのは、それ以下の温度であると充分に焼き
が入らずフェライト、パーライト、ベイナイト等が面積
率で5%超生成するからである。
【0025】焼入時の冷速下限値を15℃/secとし
たのはそれより遅い冷速であると、フェライト、パーラ
イト、ベイナイト等が面積率で5%超生成するからであ
る。冷速上限値を60℃/secとしたのは、それより
速い冷速で冷却することが困難だからである。冷却方法
は水冷、油冷等考えられるが、限定しない。
【0026】冷却停止温度は操業上室温以下とすること
が困難なために室温以上とし、300℃以下ではマルテ
ンサイト変態が終了しているため300℃以下とする。
【0027】本発明において、鍛造前の組織はマルテン
サイトが面積率で95%より少ないと、再加熱時の組織
均一性および濃度均一性が充分でなく強度・靭性が低下
する。また、再加熱時のNb,Vの固溶量が減るため本
発明の効果を充分享受できない。以上の理由により、本
発明の鍛造用鋼はマルテンサイトを面積率で95%以上
含有するものとする。その他の組織として、フェライ
ト、パーライト、ベイナイトの1種又は2種以上を面積
率で5%以下含有しても本発明の効果を得ることができ
る。一方、マルテンサイトを面積率で100%含有する
ものは再加熱時の組織および濃度が均一であり、Nb,
Vの固溶量も充分確保できるため、最も好ましい。
【0028】次に、鍛造方法について述べる。
【0029】加熱温度は、鍛造時にγ単相である必要性
からAc3点以上とする。また、過度の加熱はγ粒の粗
大化を促し、VないしはNbの加熱中の析出を促すた
め、その上限を950℃とした。尚、Ac3 点は(2)
式により求めた値と定義する。
【0030】 Ac3=910−203(C)1/2 −15.2(Ni)+44.7(Si)+ 104(V)+31.5(Mo)+13.1(W) …(2) 未再結晶上限温度は、(3)式により求めた値と定義す
る。(3)式は、加工フォーマスターを用い、V、Nb
含有成分の鋼について加工焼入試験を行い、組織観察を
行った結果得られた回帰式である。尚、(3)式は加工
度の影響を表す項を除いた簡易式である。
【0031】 未再結晶上限温度(℃)=819+61((V)+10(Nb))0.2 …(3) 未再結晶γからの変態による組織微細化の効果は、未再
結晶温度域で与える歪みに依存する。対数歪みで0.3
未満の歪みでは、充分な組織微細化ができないため、そ
の下限を対数歪み0.3とする。でき得れば、0.8以
上の歪みが望ましい。一方、歪みを増加すれば組織は微
細化するが、その効果は飽和する傾向にある。歪みの増
加は鍛造反力の増加および金型寿命の低下によりコスト
上昇を招くため対数歪みは3以下とする。複数回の鍛造
で成形する場合には、再結晶温度域での鍛造と組み合わ
せてもよい。また、700℃以下の鍛造温度では鍛造前
にフェライトが生成し、鍛造時に加工フェライトとなり
靭性を劣化させるため、鍛造下限温度を700℃とす
る。
【0032】尚、ここで述べた対数歪みとは、(4)式
で定義した歪みである。元厚高さ平均とは、鍛造前素材
の鍛造方向を高さとしたときの平均値であり、仕上げ厚
高さ平均とは、鍛造後の高さの平均値である。ただし、
押し出し等の加工の場合は、(5)式に従うものとす
る。元断面積平均とは鍛造前素材の鍛造方向に垂直な面
の平均断面積であり、仕上げ断面積平均とは、鍛造後の
断面積平均である。
【0033】 対数歪み=ln(元厚高さ平均/仕上げ厚高さ平均) …(4) 対数歪み=ln(元断面積平均/仕上げ断面積平均) …(5) 次に鍛造後の冷速について述べる。
【0034】未再結晶γからの変態は、核生成速度が増
大しているため、T−T−Tノーズが短時間側にシフト
し、フェライトが生成しやすくなっている。このため、
マルテンサイトを生成するためには、Ar3 点以下30
0℃以上の温度域を(1)式に示した冷速で冷却すれば
よい。(1)式は図1の直線から求めた式である。冷却
速度の下限を(6ε+12)℃/secとしたのは、そ
れより遅い冷速であると、ベイナイト変態が生じてしま
うからである。一方、上限を60℃/secとしたの
は、これより速い冷速で冷却することが困難だからであ
る。また、冷却制御温度域をAr3 点以下としたのは、
変態が始まる温度だからである。一方、その下限を30
0℃としたのは、この温度ではすでにベイナイト変態が
終了しているからである。(1)式に示した冷速の冷却
制御温度域の冷却方法は水冷、油冷、強制空冷等が考え
られるが、特に限定しない。また、冷却後、焼戻しを行
うことにより降伏比、靭性が向上するので、焼戻し処理
を行ってもよい。
【0035】 (2.5ε+1)℃/sec≦CR≦60℃/sec …(1) (ε:未再結晶温度域で与えた対数歪み) 尚、Ar3 点は(6)式により求めた値と定義する。
【0036】 Ar3 =868−396(C)+24.6(Si)−58.7(Mn)−50 (Ni)−35(Cu)+190(V) …(6) 次に、本発明により得られる鍛造品の組織の形態につい
て述べる。
【0037】通常、再結晶γでは再結晶により粒内の転
位は整理され転位密度は低い。このため、ほとんどの変
態はγ粒界を基点として始まり、粒内に向かって成長し
ていく。また再結晶γである限り、粒界単位面積当たり
の変態核生成数はほぼ一定の値をとる。このため変態後
の組織の粒数は単位体積当たりのγ粒界の面積にほぼ比
例し、再結晶後のγ粒径が小さいほど、変態後の組織は
細かくなる。一方、未再結晶γでは再結晶による転位の
整理が未だ行われていない状態であるので、粒内の転位
密度は高い。これにより、粒界のみならず粒内からも変
態が開始する。さらに粒界にも加工の影響が残ってお
り、粒界単位面積当たりの変態核生成数も再結晶γと比
べ大きい値をとる。このため粗大なγからでも、微細な
変態組織が得られる。未再結晶γからの変態によって得
られる変態組織は、加工後の冷速によってフェライト+
パーライト、ベイナイト、マルテンサイトに大別できる
が、いずれも平均結晶粒径が10μm以下となる。ただ
し、冷速によっては、これらの組織の混合組織となり、
靭性が著しく劣化するため、前述の冷速制御によりマル
テンサイト鋼とする。尚、ここで述べる平均結晶粒径と
は、破壊の単位となる結晶粒径であり、フェライト+パ
ーライトの場合はフェライトの平均粒径、ベイナイトお
よびマルテンサイトの場合は平均パケット・サイズを指
す。マルテンサイトを選定した理由は、組織強化により
強度が得やすく、合金コストの削減に有効だからであ
る。一方、粒径が微細になると強度、靭性、降伏比、伸
びが向上する事は知られているが、平均粒径が10μm
以下であると、これらの効果が顕著に現れてくる。さら
に効果を求めるのであれば、平均粒径が5μm 以下であ
ることが望ましい。一方、平均粒径の下限は特に定めな
いが、鍛造コストの面から、2μm 以上とすることが好
ましい。
【0038】尚、本発明において、平均粒径は光顕微鏡
により断面厚1/4t位置を200〜1000倍で3〜
5視野観察し、切断法により求めた値と定義する。
【0039】引張強さは、鍛造品の軽量化の点で下限を
1300MPa に限定した。一方、1800MPa を越える
と、靭性が著しく低下し、切削寿命および金型寿命も著
しく低下するため、上限を1800MPa 以下にした。
【0040】また、降伏比は疲労強度向上のため、0.
65に下限を限定した。一方、0.95以上に降伏比を
上げても疲労強度の向上は飽和するので、上限は0.9
5に限定した。
【0041】
【実施例】第1表に示す成分の鋼から、φ50×h60
の鍛造用試験片を切り出し、高周波で加熱して、第2表
に示す本発明方法および比較方法を適用して高さ方向の
平板圧縮鍛造を行った。第2表中の歪みは(4)式を適
用して求めた。さらに本発明方法を適用して冷却した場
合、第2表中に示したような粒径、強度、降伏比、靭性
となった。尚、冷却時の温度制御は衝風ないしは水スプ
レー冷却で行った。組織は鍛造品の中央から30mm離
れた場所の1/4t位置を光顕撮影し、切断法により平
均粒径(平均パケット・サイズ)を求めた。中央から3
0mm離したのはデッドメタル部を避けるためである。
機械特性はJISA3号引張試験片およびJIS3号シ
ャルピー試験片(幅5mm)を用いて測定した。第2表
中、比較鋼1,2,13は本発明必須元素のNb,Vを
必要量含んでいないため再結晶が生じ、粗大な組織とな
っている。このため強度・降伏比・靭性が低値である。
比較鋼12,14は、Nb,Vを必要以上含んでいるた
め、靭性が低値である。比較鋼3,4,5は、鍛造前組
織がマルテンサイトを含有しないか、その面積率が低い
ため、鍛造後の組織が粗大となり、強度・降伏比・靭性
が低値である。比較鋼6は、鍛造時の加熱温度が高すぎ
たため、前組織をマルテンサイトにした効果が薄れ、組
織が粗大となったため、強度・降伏比・靭性が低値であ
る。比較鋼7は、加熱温度が低すぎたため加熱時にγ単
相とならず、γ+α二相状態で鍛造したため、αが加工
されて降伏比・靭性が低値である。比較鋼8は加工温度
が高く再結晶が生じたため、粗大な組織となり強度・降
伏比・靭性が低値である。比較鋼9は加工度が少ないた
め、充分な核生成速度が得られず、粗大な組織となり強
度・降伏比・靭性が低値である。比較鋼10は加工後の
冷速が遅すぎたため、一部ベイナイトが生成し、強度・
降伏比・靭性が低値である。比較鋼11は加工温度が低
すぎ、加工時に一部αが生成した状態で加工したため、
αが加工されて降伏比・靭性が低値である。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
【発明の効果】本発明により、明らかに強度、降伏比、
靭性が向上しており、本発明は有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 組織生成に及ぼす未再結晶域で付与する対数
歪みと500℃〜Ar3 の温度域の冷速の影響を示す図
である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 藤田 崇史 富津市新富20−1 新日本製鐵株式会社技 術開発本部内 (72)発明者 樽井 敏三 富津市新富20−1 新日本製鐵株式会社技 術開発本部内 (72)発明者 大野 尚仁 愛知県豊田市トヨタ町1番地 トヨタ自動 車株式会社内 (72)発明者 森 元秀 愛知県豊田市トヨタ町1番地 トヨタ自動 車株式会社内 (72)発明者 廣田 茂夫 愛知県東海市荒尾町ワノ割1番地 愛知製 鋼株式会社内 (72)発明者 岩間 直樹 愛知県東海市荒尾町ワノ割1番地 愛知製 鋼株式会社内 Fターム(参考) 4K032 AA01 AA02 AA03 AA05 AA06 AA08 AA11 AA12 AA14 AA15 AA16 AA17 AA19 AA20 AA21 AA22 AA23 AA24 AA28 AA29 AA31 AA32 AA35 AA36 AA39 CD03 CF03

Claims (7)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 質量%で C 0.1〜0.6% Si 0.05〜2.5% Mn 0.2〜3% Al 0.005〜0.1% N 0.001〜0.02% を含有し、更に V 0.05〜0.5% Nb 0.005〜0.1% の1種または2種を含有し、残部がFeおよび不可避的
    不純物からなる鋼片を、熱間圧延後、直ちに又は900
    〜1350℃に再加熱して、900〜1350℃から室
    温〜300℃まで15〜60℃で冷却し、マルテンサイ
    トを面積率で95〜100%生成させ、次いでAc3
    以上950℃以下に加熱し、対数歪みで0.3〜3の加
    工を与える熱間鍛造を未再結晶上限温度以下700℃以
    上で少なくとも1回以上行い、平均結晶粒径が10μm
    以下のマルテンサイトからなる鋼を得ることを特徴とす
    る非調質高強度・高靭性鍛造品の製造方法。
  2. 【請求項2】 鍛造後、Ar3 点以下300℃以上の温
    度域を下記(1)式で示した冷速(CR)で冷却するこ
    とを特徴とする請求項1記載の非調質高強度・高靭性鍛
    造品の製造方法。 (6ε+12)℃/sec≦CR≦60℃/sec …(1) (ε:未再結晶温度域で与えた対数歪み)
  3. 【請求項3】 質量%で Mg 0.0001〜0.005% Zr 0.0001〜0.005% の1種または2種を含有することを特徴とする請求項1
    又は2記載の非調質高強度・高靭性鍛造品の製造方法。
  4. 【請求項4】 質量%で Cr 0.05〜3% Ni 0.05〜3% Mo 0.05〜3% Cu 0.01〜2% Ti 0.003〜0.05% B 0.0005〜0.005% の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求
    項1〜3の何れか1項に記載の非調質高強度・高靭性鍛
    造品の製造方法。
  5. 【請求項5】 質量%で S 0.01〜0.3% Pb 0.03〜0.3% Ca 0.001〜0.05% Bi 0.03〜0.3% の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求
    項1〜4の何れか1項に記載の非調質高強度・高靭性鍛
    造品の製造方法。
  6. 【請求項6】 引張強さが1300〜1800MPa であ
    ることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の
    非調質高強度・高靭性鍛造品の製造方法。
  7. 【請求項7】 降伏比が0.65〜0.95であること
    を特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の非調質
    高強度・高靭性鍛造品の製造方法。
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