JP2003116555A - 高度好熱菌由来セリンアセチルトランスフェラーゼ及びそれをコードする遺伝子、並びにl−システインの酵素合成法 - Google Patents
高度好熱菌由来セリンアセチルトランスフェラーゼ及びそれをコードする遺伝子、並びにl−システインの酵素合成法Info
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Abstract
ラーゼ及び遺伝子の提供。 【解決手段】 特定のアミノ酸配列又は塩基配列を含
む、高度好熱菌由来セリンアセチルトランスフェラーゼ
及び遺伝子。並びに、セリンアセチルトランスフェラー
ゼとO−アセチルセリンチオールリアーゼと含む酵素反
応液を用いたL−システインの製造法の開発。
Description
アセチルトランスフェラーゼ及びそれをコードする遺伝
子、並びにL-システインの酵素合成法に関する。
azoliniphilumの酵素を用いたアミノチアゾリンカルボ
ン酸(合成基質)の不斉加水分解法、毛髪や羽毛等の酸
加水分解法、E. cloacaeのシステインデスルフヒドラー
ゼを用いたβ-クロロアラニンからの合成法などが知ら
れている。さらに、微生物を用いた発酵法によるL-シス
テインの生産も試みられている。
ンを合成する場合にはいくつかの問題点がある。従来
は、L-システイン合成能を有する微生物を35Sを含む培
地で培養し、その後集菌し、菌体破砕してアミノ酸画分
を回収することにより35S標識L-システインが製造され
ている。この場合、菌体抽出液からの精製工程は、不純
物が多く含まれるため非常に手間がかかるにもかかわら
ず、該システインが極微量にしか得られない。また、シ
ステインの35S取り込み効率が低く、菌体培養時間が長
いため、35S標識L-システインの収率は低く、そのため
35S標識L-システインは高価なものとなっている。従っ
て、L-システイン及び35S標識L-システインを合成する
ための高効率かつ簡便な方法が望まれていた。
由来セリンアセチルトランスフェラーゼ及びそれをコー
ドする遺伝子、並びに高効率かつ簡便なL-システイン製
造方法を提供することを目的とする。
解決するため鋭意研究を行った結果、高度好熱菌である
サーマス・サーモフィラスHB8株からセリンアセチルト
ランスフェラーゼを単離することに成功し、またこのセ
リンアセチルトランスフェラーゼを用いることによりL-
システインを簡便かつ高効率に合成することができるこ
とを見出し、本発明を完成するに至った。
質 (b) 配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若し
くは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された配
列を含み、かつ、セリンアセチルトランスフェラーゼ活
性を有するタンパク質上記タンパク質としては、サーマ
ス属に属する微生物(例えばサーマス・サーモフィラ
ス)由来のものが挙げられる。
ドする遺伝子。 (a) 配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク
質 (b) 配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若し
くは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された配
列を含み、かつ、セリンアセチルトランスフェラーゼ活
性を有するタンパク質
子。 (c) 配列番号1に示される塩基配列からなるDNA (d) 配列番号1に示される塩基配列の全部若しくは一部
の配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェント
な条件下でハイブリダイズし、かつ、セリンアセチルト
ランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードする
DNA
ー。 (5) 前記ベクターを含む形質転換体。 (6) 前記形質転換体を培養し、得られる培養物からセリ
ンアセチルトランスフェラーゼを採取することを特徴と
するセリンアセチルトランスフェラーゼの製造方法。 (7) 高度好熱菌に由来するセリンアセチルトランスフェ
ラーゼとO-アセチルセリンチオールリアーゼとを含む酵
素反応液中にてL-システインを合成し、該酵素反応液か
らL-システインを採取することを特徴とするL-システイ
ンの製造方法。 上記L-システインとしては、35S標識L-システインが挙
げられる。また、高度好熱菌としてはサーマス属に属す
る微生物、例えばサーマス・サーモフィラスが挙げられ
る。
ルトランスフェラーゼ遺伝子、及び該遺伝子によりコー
ドされるセリンアセチルトランスフェラーゼ(以下、
「SAT」という。)である。本発明の遺伝子にコードさ
れるタンパク質は、理化学的性質としてpH安定性、温度
安定性、変性剤に対する安定性に優れている。特に70℃
前後においても構造変化しないという熱安定性を示す。
さらに、尿素などの変性剤に対しても安定性が高い。ま
た本発明は、高度好熱菌由来のタンパク質を用いること
を特徴とするL-システインの製造方法である。上記タン
パク質はpH安定性及び温度安定性に優れているため、工
業的なL-システイン製造に適している。
する。 1.本発明の遺伝子のクローニング 高度好熱菌は、75〜85℃の温度環境で生育可能である。
高度好熱菌は、温泉の源泉、その周辺の土壌などに棲息
し、このような場所から採取した湯、土壌などのサンプ
ルを塗布した寒天培地を70℃〜80℃で培養することによ
り単離することができる。高度好熱菌としては、サーマ
ス属に属する微生物、例えばサーマス・サーモフィラス
(Thermus thermophilus)、サーマス・アクアティカス
(Thermus aquaticus)等が挙げられる。
製する。ゲノムDNAの調製は公知の方法、例えばフェノ
ール・クロロホルム法等により調製する。ゲノムDNAラ
イブラリーを作製するには、調製したゲノムDNAを適当
な制限酵素(EcoRIなど)により消化し、市販のパッケ
ージングキットを用いてλファージにパッケージングす
る方法を利用することができるが、この方法に限定され
ない。
ブラリーから目的のDNAを有する株を選択するスクリー
ニング方法としては、例えば、公開されているSATの塩
基配列あるいは配列番号1に示される塩基配列に基づい
てセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを合成
し、これを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行う方
法が挙げられる。例えばセンス鎖についてはatatcatatg
ccatggcttc ttccccgcgagatcgcgc(配列番号3)を、ア
ンチセンス鎖についてはatatagatct ttattaagagcccgcct
ccc ttgttccgaa g(配列番号4)を用いることができ
る。但し、本発明においてはこれらのプライマーに限定
されるものではない。
らのプライマーを用いてPCRを行う方法によっても本発
明の遺伝子が得られる。また、配列番号1に示される塩
基配列又はその一部を有するDNA断片を、32P、 35S又は
ビオチン等で標識してプローブとし、これをニトロセル
ロースフィルター等に変性固定させたライブラリーのDN
Aとハイブリダイズさせ、得られたポジティブ株を検索
することによりスクリーニングすることができる。
ニング等により得られたクローンについて塩基配列の決
定を行う。塩基配列の決定はマキサム-ギルバートの化
学修飾法、又はM13ファージを用いるジデオキシヌクレ
オチド鎖終結法等の公知手法により行うことができる
が、通常は自動塩基配列決定機(例えばPERKIN-ELMER社
製373A DNAシークエンサー等)、及びシークエンス反応
キット(例えばTAKARA社製BcaBESTジデオキシシークエ
ンシングキット等)を用いて配列決定が行われる。
のセンス鎖の塩基配列を、配列番号2に本発明のタンパ
ク質のアミノ酸配列を例示する。但し、配列番号2に示
されるアミノ酸配列を含むタンパク質が、セリンアセチ
ルトランスフェラーゼ活性を有する限り、当該アミノ酸
配列において複数個、好ましくは1若しくは数個のアミ
ノ酸に欠失、置換、付加等の変異が生じてもよい。セリ
ンアセチルトランスフェラーゼ活性とは、アセチル補酵
素A(アセチル-CoA)のアセチル基がセリンのヒドロキ
シル基の酸素に転移して、O-アセチルセリンと補酵素A
になることを指す。この活性は、(1)アセチル-CoAのチ
オエステル結合に232nmの吸光があることを利用し、反
応が進むことによるアセチル-CoAの減少を232nmの吸光
度の減少により追跡するか、又は(2)反応が進むことに
よりCoAが生成されるが、これはフリーのSH基を有する
ものであるため、5,5-ジチオビス-(ニトロ安息香酸)(D
TNB)のようなSH滴定試薬と結合させて5-メルカプト-2-
ニトロ安息香酸を生じさせ、これに412nmの吸光がある
ことを利用して412nmの吸光度の上昇を追跡することに
よって確認することができる。
列の1〜10個、好ましくは1〜5個のアミノ酸が欠失し
てもよく、配列番号2に示されるアミノ酸配列に1〜10
個、好ましくは1〜5個のアミノ酸が付加してもよく、
あるいは、配列番号2に示されるアミノ酸配列の1〜10
個、好ましくは1〜5個のアミノ酸が他のアミノ酸に置
換したものも、本発明のタンパク質に含まれる。
その後は化学合成によって、この遺伝子を得ることがで
きる。また、部位特異的突然変異誘発法等によって本発
明の遺伝子の変異型であって上記活性を有するものを合
成することもできる。なお、遺伝子に変異を導入するに
は、Kunkel法、Gapped duplex法等の公知の手法又はこ
れに準ずる方法を採用することができる。例えば部位特
異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例え
ばMutan-K(TAKARA社製)やMutan-G(TAKARA社製))などを
用いて変異の導入が行われる。
件下でハイブリダイズし、かつ、セリンアセチルトラン
スフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝
子も本発明の遺伝子に含まれる。ストリンジェントな条
件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的な
ハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、高い
相同性(相同性が60%以上、好ましくは80%以上)を有
するDNAがハイブリダイズする条件をいう。より具体的
には、ナトリウム濃度が150〜900mM、好ましくは600〜9
00mMであり、温度が60〜68℃、好ましくは65℃での条件
をいう。また、本発明の遺伝子にコードされるタンパク
質は、4〜80℃において熱安定性を有するものである。
従って、4〜80℃において熱安定性を有する限り、配列
番号2において変異が生じていてもよい。本発明のセリ
ンアセチルトランスフェラーゼは温度安定性が優れてお
り、特に70℃前後においても構造変化しないという熱安
定性を示すものである。
ーに連結することにより得ることができ、形質転換体
は、本発明の組換えベクターを、目的遺伝子が発現し得
るように宿主中に導入することにより得ることができ
る。
し得るファージ又はプラスミドが使用される。プラスミ
ド DNAとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えばpBR3
22,pBR325, pUC118, pUC119, pUC18, pUC19等)、枯草
菌由来のプラスミド(例えばpUB110, pTP5等)、酵母由
来のプラスミド(例えばYEp13, YEp24, YCp50等)などが
挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ(Charon4
A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP
等)が挙げられる。さらに、レトロウイルス又はワクシ
ニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルスな
どの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。ベク
ターに本発明の遺伝子を挿入するには、まず、精製され
たDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクター DNA
の制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入し
てベクターに連結する方法などが採用される。
揮されるようにベクターに組み込まれることが必要であ
る。そこで、本発明のベクターには、プロモーター、本
発明の遺伝子のほか、所望によりエンハンサーなどのシ
スエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シ
グナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)
などを連結することができる。なお、選択マーカーとし
ては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリ
ン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられ
る。さらに、大腸菌及び酵母などの2種以上の宿主微生
物で自律的増殖が可能なベクターのほか、各種のシャト
ルベクターを使用することもできる。このようなベクタ
ーについても、前記制限酵素で切断し、その断片を得る
ことができる。
は、公知のDNAリガーゼを用いる。そして、DNA断片とベ
クター断片とをアニーリングさせた後連結させ、組換え
ベクターを作製する。形質転換に使用する宿主として
は、本発明の遺伝子を発現できるものであれば特に限定
されるものではない。例えば、細菌(大腸菌、枯草菌
等)、酵母、動物細胞(COS細胞、CHO細胞等)、昆虫細
胞が挙げられる。
ベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プ
ロモーター、リボゾーム結合配列、本発明の遺伝子、転
写終結配列により構成されていることが好ましい。ま
た、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよ
い。大腸菌としては、例えばエッシェリヒア・コリ(Esc
herichia coli) DH5αなどが挙げられ、枯草菌として
は、例えばバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)
などが挙げられる。プロモーターは、大腸菌等の宿主中
で発現できるものであればいずれを用いてもよい。例え
ばtrpプロモーター、lacプロモーター、PLプロモータ
ー、PRプロモーターなどの、大腸菌やファージに由来す
るプロモーターが用いられる。tacプロモーターなどの
ように、人為的に設計改変されたプロモーターを用いて
もよい。細菌への組換えベクターの導入方法は、細菌に
DNAを導入する方法であれば特に限定されるものではな
い。例えばカルシウムイオンを用いる方法、エレクトロ
ポレーション法等が挙げられる。
ミセス・セレビシエ(Saccharomycescerevisiae)、シゾ
サッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)
などが用いられる。この場合、プロモーターは酵母中で
発現できるものであれば特に限定されず、例えばGAL1プ
ロモーター、GAL10プロモーター、ヒートショックタン
パク質プロモーター、MFα1プロモーター、PHO5プロモ
ーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロ
モーター、AOX1プロモーター等を用いることができる。
酵母への組換えベクターの導入方法は、酵母にDNAを導
入する方法であれば特に限定されず、例えばエレクトロ
ポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法
等が挙げられる。
S-7、Vero、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細
胞)、マウスL細胞、ラットGH3、ヒトFL細胞等が用いら
れる。プロモーターとしてSRαプロモーター、SV40プロ
モーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター等が用い
られ、また、ヒトサイトメガロウイルスの初期遺伝子プ
ロモーター等を用いてもよい。動物細胞への組換えベク
ターの導入方法としては、例えばエレクトロポレーショ
ン法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が挙
げられる。昆虫細胞を宿主とする場合は、Sf9細胞など
が用いられる。昆虫細胞への組換えベクターの導入方法
としては、例えばリン酸カルシウム法、リポフェクショ
ン法、エレクトロポレーション法などが挙げられる。
学工業的な物質生産において触媒などとして利用するこ
とができる。本発明において、目的のタンパク質(SA
T)は、目的遺伝子を保有する前記形質転換体を培養
し、その培養物から採取することにより得ることができ
る。「培養物」とは、培養上清、あるいは培養細胞若し
くは培養菌体又は細胞若しくは菌体の破砕物のいずれを
も意味するものである。本発明の形質転換体を培地に培
養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従
って行われる。
られた形質転換体を培養する培地としては、微生物が資
化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転
換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、
天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
ス、スクロース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピ
オン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアル
コール類が用いられる。窒素源としては、アンモニア、
塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウ
ム、リン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のア
ンモニウム塩、ペプトン、肉エキス、コーンスティープ
リカー、又はその他の含窒素化合物が用いられる。無機
物としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウ
ム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナト
リウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カル
シウム等が用いられる。
などの好気的条件下、37℃で6〜24時間行う。培養期間
中、pHは中性付近に保持する。pHの調整は、無機又は有
機酸、アルカリ溶液等を用いて行う。培養中は必要に応
じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培
地に添加してもよい。
を用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養する
場合は、必要に応じてインデューサーを培地に添加して
もよい。例えば、Lacプロモーターを用いた発現ベクタ
ーで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピ
ル-β-D-チオガラクトシド(IPTG)等を、trpプロモータ
ーを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養す
るときにはインドール酢酸(IAA)等を培地に添加しても
よい。
を培養する培地としては、一般に使用されているRPMI16
40培地、DMEM培地又はこれらの培地に牛胎児血清等を添
加した培地等が用いられる。培養は、通常、5%CO2存
在下、37℃で1〜30日行う。培養中は必要に応じてカナ
マイシン、ペニシリン等の抗生物質を培地に添加しても
よい。
内に生産される場合には、菌体又は細胞を破砕すること
によりタンパク質を抽出する。また、目的タンパク質が
菌体外又は細胞外に生産される場合には、培養液をその
まま使用するか、遠心分離等により菌体又は細胞を除去
する。その後、タンパク質の単離精製に用いられる一般
的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲル
クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、
アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜
組み合わせて用いることにより、前記培養物中から目的
のタンパク質を単離精製することができる。
S-ポリアクリルアミドゲル電気泳動等により確認するこ
とができる。さらに、目的タンパク質の理化学的性質又
は機能を調べるため、種々の試験を行うことができる。
試験項目としては、X線結晶解析、CDスペクトル解析、N
MR解析等が挙げられる。
システイン合成 本発明のL-システイン製造方法は、高度好熱菌に由来す
るSATとO-アセチルセリンチオールリアーゼ(以下、「A
STL」という。)とを含む酵素反応液中にてL-システイ
ンを合成し、該酵素反応液からL-システインを採取する
ことを特徴とするものである。L-システインは、図1に
示される2段階の反応により合成される。第1の反応
は、アセチルCoAによるL-セリンの活性化であり、SATに
より触媒される。第2の反応は、上記反応により生成す
るO-アセチルセリンからL-システインが生成する反応で
あり、ASTLにより触媒される。
度好熱菌由来のタンパク質を上記反応の酵素として用い
ることにより、L-システイン製造の簡便化・コスト削減
を図るものである。高度好熱菌由来のSATは上述した通
り生産することができる。また、高度好熱菌由来のASTL
は既に単離されており、当該タンパク質をコードする遺
伝子の塩基配列を配列番号5に、当該タンパク質のアミ
ノ酸配列を配列番号6に示す。この塩基配列情報を用い
て当技術分野で公知の手法によりASTLを大量に得ること
ができる。具体的には、上述したように遺伝子組換え手
法を用いて作製した微生物に当該タンパク質を生産させ
ることができる。あるいは、高度好熱菌菌体より直接精
製することもできる。
は、まず、上述のようにして得られる高度好熱菌由来の
SATとASTLとを含む酵素反応液を調製する。該酵素反応
液には、上記2種の酵素の他に、基質であるL-セリン、
アセチル-CoA及び硫化ナトリウムが含まれる。また、場
合によりピリドキサールリン酸(PLP)及び/又はコバ
ルトを添加してもよい。
ンを基質とした酵素反応が行われる。酵素反応は、25℃
〜80℃にて5分〜2時間で行うことができ、好ましくは
65℃〜75℃にて10分〜30分で行う。35S標識L-システイ
ンを合成する場合には、培地に35S標識硫化ナトリウム
を添加する。本発明のシステイン製造方法では、この3 5
S標識硫化ナトリウムに含まれる35Sが効率的にL-システ
インに取り込まれる。
液から回収することにより得ることができる。アミノ酸
の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば
硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオ
ン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグ
ラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることに
より、前記酵素反応液からL-システインを単離精製する
ことができる。
テインの収率が高く、また出発物質からはL-システイン
と副産物として酢酸及びCoAが生成されるのみであり、
精製工程が簡便である。また、使用する高度好熱菌由来
のタンパク質は熱安定性が高く、常温菌由来の酵素を用
いる方法よりも工業化に適している。
説明する。但し、本発明はこれら実施例にその技術的範
囲が限定されるものではない。 〔実施例1〕 Thermus thermophilus HB8由来SAT遺伝
子のクローニング Thermus thermophilus HB8(ATCC27634)をThermus栄養
培地(0.4%トリプトン(DIFCO laboratories)、0.2%
酵母エキス(オリエンタル酵母)、0.1%NaCl、pH7.5)
5mlに植菌し、70℃、15時間培養した後、5,000rpm、10
分の遠心により菌体を回収した。得られた菌体を10mMト
リス塩酸(pH8.0)、10mM EDTA 500μlに懸濁し、1
0mgの卵白リゾチーム(生化学工業株式会社)を加えて4
2℃で20分間インキュベートし溶菌した。100℃、10分間
の熱処理を行ったRnaseA(Sigma社)溶液を最終濃度が
0.1mg/mlとなるように加えて37℃、30分間反応させた
後、100μlの10%SDS溶液を加えて37℃、20分間インキ
ュベートした。1mgのプロテアーゼKを加え50℃、30分間
反応させ、さらに65℃で15分間インキュベートした。フ
ェノール抽出、フェノール-クロロフォルム抽出、クロ
ロフォルム抽出を1回ずつ行った後、水層に1.5mlの100
%冷エタノールを重層し、析出されたDNAを、先端を丸
めたパスツールピペットで巻き取った。70%エタノー
ル、100%エタノールによりDNAをリンスし、乾燥させた
後、一晩かけて200μlの10mMトリス塩酸(pH8.0)、10
mM EDTA(TE)緩衝液に溶解した。
ーを用い、Thermus thermophilus HB8ゲノムDNA0.1μg
を鋳型として下記に示す組成及び反応条件にてPCRを行
い、SATをコードするDNAフラグメントを増幅した。 5'側プライマー:atatcatatg ccatggcttc ttccccgcga
gatcgcgc(配列番号3) 3'側プライマー:atatagatct ttattaagag cccgcctccc
ttgttccgaa g(配列番号4) 反応液組成 2×GC buffer I 50μl dNTPs 各2.5mM 16μl 5'側プライマー(10pmol/μl) 5μl 3'側プライマー(10pmol/μl) 5μl La Taq(宝酒造 5units/μl) 0.5μl 鋳型ゲノムDNA 1μl 全反応液量 100μl 反応条件 98℃、3分 98℃、0.5分 65℃、0.5分 72℃、1分 上記反応を25サイクル
ラグメントをアガロースゲル電気泳動により単離し、ゲ
ルから抽出した。このPCR産物とベクターpT7Blue(Nova
gen)をTAクローニング法の原理でライゲーション反応
により接続した。この反応液で大腸菌DH5αを形質転換
し、得られたアンピシリン耐性の形質転換体より組換え
プラスミドpTSATを抽出した。このプラスミドを鋳型と
してPRISMシークエンシングキット(Perkin Elmer社)
を用いて反応を行い、その後ABI377(Applied Biosyste
ms社)を用いて解析を行って、SATをコードする遺伝子
の塩基配列を決定した。その結果、配列番号1に示され
る塩基配列が得られた。また、該遺伝子によりコードさ
れるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号2に示す。
由来SAT タンパク質の調製 pTSATを、100mM NaCl、10mM MgCl2、1mM ジチオトレイ
トール(DTT)及び50mMトリス塩酸バッファー(pH7.5)
40μl中にて、制限酵素NdeI 2ユニット及びBglII 1ユ
ニットを用いて37℃、1時間分解後、アガロースゲル電
気泳動により約0.9kbのSATフラグメントを単離した。制
限酵素NdeI及びBamHIによる分解、並びにバクテリア由
来アルカリフォスファターゼによる末端リン酸基の除去
を行ったベクターpET-11aと、上述の処理により得られ
たSATフラグメントをライゲーション反応により接続
し、得られた組換えベクターpET-SATを用いて大腸菌BL2
1(DE3)を形質転換した。
(1%バクトトリプトン、0.5%イーストエクストラク
ト、1%NaCl、グルコース及び50μg/mlアンピシリン)
に植菌し、37℃、18時間培養した。遠心により菌体を回
収し、この菌体を20mMトリス塩酸、50mM NaCl、5mM 2-
メルカプトエタノール、pH8.0 140mlに懸濁し、超音波
処理により菌体を破砕した。70℃、10分間の熱処理後、
40,000rpm、4℃、1時間の超遠心により菌体粗抽出液を
得た。この液に終濃度1.05Mになるように硫酸アンモニ
ウムを加え、50mMリン酸ナトリウム(pH7.0)及び1.05M
硫酸アンモニウムで平衡化したRESOURCE PHE(疎水カラ
ム)にアプライした後、1.05M〜0M硫安のリニアグラジ
エントで溶出した。SATを含むフラクションを集め、脱
塩後、20mMトリス塩酸(pH8.0)で平衡化したRESOURCE
Q(陰イオン交換カラム)にアプライした後、0〜1.0M
NaClのリニアグラジエントで溶出した。SATを含むフラ
クションを集め、20mMトリス塩酸(pH8.0)及び0.15M N
aClで平衡化したSuperdex 200(ゲルろ過カラム)によ
り精製し、SATの精製標品を得た。図2に示すSDS-PAGE
の結果より、SATが約33kDaのタンパク質であることが明
らかである。
由来タンパク質を用いたL-システインの合成 下記に示す組成の酵素反応液を調製し、70℃、15分間で
L-システインの合成反応を行った。 酵素反応液組成 50mM リン酸ナトリウムpH7.0 1mM アセチル‐CoA 10mM L-セリン 0.4mM PLP 2.5mM Na2S 0.01mM コバルト 10μl SAT 10μl ASTL(部分精製標品) 全反応液量:100μl
thermophilus HB8のコロニーを1LのThermus栄養培地
(実施例1参照)に植菌し、70℃、18時間培養した。遠
心により菌体を回収し、この菌体を20mMトリス塩酸、50
mM NaCl、5mM 2-メルカプトエタノール、pH8.0 140ml
に懸濁し、超音波処理により菌体を破砕した。70℃、10
分間の熱処理後、40,000rpm、4℃、1時間の超遠心によ
り菌体粗抽出液を得た。この液に終濃度1.05Mになるよ
うに硫酸アンモニウムを加え、50mMリン酸ナトリウム
(pH7.0)及び1.05M硫酸アンモニウムで平衡化したRESO
URCE PHE(疎水カラム)にアプライした後、1.05M〜0M
硫安のリニアグラジエントで溶出した。ASTLを含むフラ
クションを集め、脱塩後、20mMトリス塩酸(pH8.0)で
平衡化したRESOURCE Q(陰イオン交換カラム)にアプラ
イした後、0〜1.0M NaClのリニアグラジエントで溶出
した。ASTLを含むフラクションを集め、20mMトリス塩酸
(pH8.0)及び0.15M NaClで平衡化したSuperdex 200
(ゲルろ過カラム)により精製し、ASTLの部分精製標品
を得た。
ニンヒドリン溶液(ニンヒドリン250mgを4mlの塩酸に
溶かし、酢酸16mlを加えたもの)を加え、混合した後、
100℃、5分間の反応を行った。この液に100%エタノー
ルを400μl加え、560nmにおける吸光度を測定した。予
め、既知濃度のL-システイン溶液を用いて作成した検量
線により、合成されたL-システイン量を求めたところ、
0.3mMであった。また、アセチル-CoAの濃度を2mM、3mM
とした場合、得られたL-システイン量はそれぞれ0.4m
M、0.5mMであった。システインのアセチル-CoAに対する
モル収率は16〜30%であり、システインのセリンに対す
るモル収率は3〜5%であった。以上の結果より、高度
好熱菌由来のSAT及びASTLを用いると、L-システインを
効率的に合成可能であることがわかった。
セチルトランスフェラーゼ及びそれをコードする遺伝子
が提供される。本発明のタンパク質は、工業的L-システ
イン製造に有用であり、また、本発明の遺伝子は、タン
パク質の大量生産のための原料として有用である。
す図である。
ーゼのSDS-PAGEの結果を示す図である。
Claims (12)
- 【請求項1】 以下の(a)又は(b)のタンパク質。 (a) 配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク
質 (b) 配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若し
くは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された配
列を含み、かつ、セリンアセチルトランスフェラーゼ活
性を有するタンパク質 - 【請求項2】 タンパク質がサーマス属に属する微生物
由来のものである請求項1記載のタンパク質。 - 【請求項3】 サーマス属に属する微生物がサーマス・
サーモフィラスである請求項2記載のタンパク質。 - 【請求項4】 以下の(a)又は(b)のタンパク質をコード
する遺伝子。 (a) 配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク
質 (b) 配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若し
くは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された配
列を含み、かつ、セリンアセチルトランスフェラーゼ活
性を有するタンパク質 - 【請求項5】 以下の(c)又は(d)のDNAを含む遺伝子。 (c) 配列番号1に示される塩基配列からなるDNA (d) 配列番号1に示される塩基配列の全部若しくは一部
の配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェント
な条件下でハイブリダイズし、かつ、セリンアセチルト
ランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードする
DNA - 【請求項6】 請求項4又は5記載の遺伝子を含有する
組換えベクター。 - 【請求項7】 請求項6記載のベクターを含む形質転換
体。 - 【請求項8】 請求項6記載の形質転換体を培養し、得
られる培養物からセリンアセチルトランスフェラーゼを
採取することを特徴とするセリンアセチルトランスフェ
ラーゼの製造方法。 - 【請求項9】 高度好熱菌に由来するセリンアセチルト
ランスフェラーゼとO-アセチルセリンチオールリアーゼ
とを含む酵素反応液中にてL-システインを合成し、該酵
素反応液からL-システインを採取することを特徴とする
L-システインの製造方法。 - 【請求項10】 L-システインが35S標識L-システイン
である請求項9記載の製造方法。 - 【請求項11】 高度好熱菌がサーマス属に属するもの
である請求項9又は10記載の製造方法。 - 【請求項12】 サーマス属に属する微生物がサーマス
・サーモフィラスである請求項11記載の製造方法。
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