JP2002502084A - パルスイオン源及びイオン運動を制動するための輸送デバイスを備えた分析計並びにその使用方法 - Google Patents

パルスイオン源及びイオン運動を制動するための輸送デバイスを備えた分析計並びにその使用方法

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Abstract

(57)【要約】 イオン輸送デバイス、すなわちイオンソースと分析計との間のインターフェースを与えるための方法及び装置が提供される。イオン輸送デバイスは多重極子ロッドセットを含むことができ、パルスイオン源で生成されたイオンの空間及びエネルギー広がりを減衰させるための制動ガスを含む。多重極子ロッドセットは、イオンを質量分析計の入口に向けることができるように、イオン行路に沿ってイオンを誘導する効果を有する。発明は、特に、マトリックス分子及びイオンからなる、実質的に無指向性の、イオン源から全有効方向に進むイオンを有し、広いエネルギー広がり範囲を有し得る、小さな超音速ジェットを生成する、MALDI(マトリックス補助型レーザ脱離/イオン化)イオン源に適用できる。イオン輸送デバイスは:生成されたイオンをイオン軸に沿って実質的に広げて擬連続ビームを生成すること;イオン源から放出されたイオンのエネルギー広がりを小さくすること;及び、検体イオンの不必要なフラグメンテーションを少なくともある程度抑制することを含む、多くの効果を有することができる。この結果として、イオン生成サイクル毎に、多くのイオンパルスを飛行時間型あるいはその他の分析計に送ることができる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】発明の分野 本発明は質量分析計及びそのイオン源に関する。さらに詳しくは、本発明はパ
ルスイオン源並びに、パルスイオン源が飛行時間型質量分析法(TOFMS)の
適用範囲を広げ、また能力を高め、さらに、直交注入飛行時間型質量分析計だけ
でなく、その他多くのタイプの分析器とともに用いられるように、連続イオン源
のもつ特性の多くをパルスイオン源に与える輸送デバイスの提供に関する。
【0002】発明の背景 質量分析法のためのイオン源は、ESI(エレクトロスプレーイオン化)源ま
たはSIMS(2次イオン質量分析法)源のような連続イオン源であっても、あ
るいはMALDI(マトリックス補助型レーザ脱離/イオン化)源のようなパル
スイオン源であってもよい。連続イオン源は、セクタ型装置や、四重極子型、イ
オントラップ型及びイオンサイクロトロン共鳴型分析計のような、ほとんどのタ
イプの質量分析計にイオンを注入するために通常用いられてきた。近年、“直交
注入”の使用により、連続イオン源から飛行時間(TOF)型質量分析計にイオ
ンを注入できるようにもなっている。“直交注入”では連続ビームが主TOF軸
に直交して注入され、TOF法に必要なパルスビームに変換される。これは、イ
オン源と分析計との間に衝突制動インターフェースを付加することにより最も効
率的に行われ、4人の著者を本発明と共通に有する以下の論文(エイ・エヌ・ク
ルチンスキー(A. N. Krutchinsky),アイ・ブイ・チェルヌシェビッチ(I. V. Ch
ernushevich),ブイ・エル・スパイサー(V. L. Spicer),ダブリュー・エンス(W
. Ens),ケイ・ジー・スタンディング(K. G. Standing):“ジャーナル・オブ・
ジ・アメリカン・ソサエティー・フォー・マススペクトロメトリー”誌,第9巻
(1998年),569〜579ページ)に記載されている。
【0003】 一方パルスイオン源、例えばMALDI源は通常、イオン源の離散性すなわち
パルス性を利用するために、TOF型質量分析計に直結されている。TOF型質
量分析計には従来の四重極子型あるいはイオントラップ型質量分析計に優る利点
がいくつかある。利点の1つは、TOF型質量分析計が四重極子型及びイオント
ラップ型質量分析計より広い質量対電荷比範囲を分析できることである。別の利
点は、TOF型質量分析計が四重極子型及びイオントラップ型質量分析計より高
感度で、スキャンを行わずに、全てのイオンを同時に記録できることである。四
重極子型あるいはその他のスキャンを行うタイプの質量分析計では一度の1つの
質量しか輸送できず、したがってデューティーサイクルは一般に0.1%という (低感度をもたらす)低い値になる。したがってTOF型質量分析計は感度に関
して本質に大きな利点を有する。
【0004】 しかし、広く用いられている、ある範囲のエネルギー及び方向をもつイオンを
生成する多くのイオン源で、TOF型質量分析計は問題に遭遇する。この問題は
普及型のMALDI(マトリックス補助型レーザ脱離/イオン化)法により生成
されるイオンが用いられる場合に特に深刻である。この方法では、レーザからの
光子パルスがターゲットに打ち当たり、質量分析計で質量が測定されるイオンを
脱離する。ターゲット材は、小さく、光子吸収性の高い化学種からなる固体また
は液体のマトリックスと、このマトリックスに埋め込まれた低濃度の、通常中程
度の分子あたり光子吸収しか示さない検体分子からなる。急激に到来するエネル
ギーがマトリックス分子に吸収されると、マトリックス分子は蒸気化されてマト
リックス分子及びイオンの小さな超音速ジェットが生成され、このジェットに検
体分子が伴出する。この放出過程の間に、マトリックス分子に吸収されたエネル
ギーのいくらかが検体分子に移される。これによって検体分子がイオン化される
が、少なくとも理想的な場合には、過度のフラグメンテーションはおこらない。
【0005】 通常はパルスレーザが用いられるから、イオンもパルスとして現れ、飛行時間
型分析計での測定に適したイオンが容易に得られる。しかしイオンは、700m
/秒程度の速度をもつ超音速ジェット内でかなりの量のエネルギーを獲得する一
方で、特に高加速電場内では、加速中にマトリックス分子との衝突によりエネル
ギーを失う。上記及び同様の効果により、イオンが分析計の軸にほぼ平行に引き
出される単純な線形飛行時間型装置においてはピークにかなりの広がりが生じ、
その結果として分解能が低下する。この問題の部分的解決策は、速度分散をある
程度補正する反射型分析計により得られるが、より有効な方法は反射型分析計自
体によるか、あるいはリペラーを併用することによる、遅延引出の使用である。
遅延引出において、イオンは加速電圧が印加されるまで短時間ドリフトすること
ができる。この方法はイオン生成過程を測定からある程度分離し、個々のいかな
る場合においても、イオン脱離及び加速の詳細パターンに対する測定感度を下げ
る。たとえそうではあっても、測定を成功させるには、レーザの流束量(すなわ
ち、単位面積あたりに供給されるパワー量)の慎重な制御及び、通常は、好まし
いスポットを求めてターゲット上をある程度探しまわることが必要である。さら
に、最適な動作に必要な引出条件はある程度の質量依存性を有し、このことは較
正手順を複雑にする上に、与えられたいかなる設定においても最適分解能で全質
量範囲を観察することはできないことを意味する。また、 上記の方法は約20,
000ドルトンより大きな質量をもつイオンに対する分解能の改善にも限定的に
しか成功していない。従来のMALDI装置では、イオン選択及びフラグメンテ
ーションがフラグメントのピーク幅を広げる傾向があるため、高品質のMS/M
Sデータを得ることは困難である。本発明の発明者等は、原パルス幅を維持する
試みを断念し、代わりに優れた特性を有する擬連続ビームを生成し、次いでTO
F型装置の注入電圧を独立した繰り返しレートでパルス化することにより、上記
問題を克服できることを認めた。
【0006】 TOF型装置との結合が例として上で用いられているが、MALDIあるいは
その他のパルスイオン源の、四重極子型(またはその他の多重極子型)、イオン
トラップ型、磁場セクタ型及びFTICRMS(フーリエ変換イオンサイクロト
ロン共鳴型質量分析計)のような別のタイプの質量分析計との結合においても問
題が生じる。さらに、MALDIあるいはその他のパルスイオン源を、MALD
IイオンのMS/MSを得ることができるタンデム型質量分析計、例えば3連四
重極子型または四重極子−TOFハイブリッド型装置に結合できることも望まし
い。標準的なMALDI装置は高性能MS/MSを実行するように構成すること
ができない。MALDI源または同様のイオン源で生成されたイオンのエネルギ
ー及び角度の分散はイオン注入をさらになお困難にする。また、ほかのタイプの
質量分析計のほとんどにおいてイオン滞留時間はTOF型装置よりかなり長いた
め、パルス内の大量の空間電荷によりさらに問題が生じ得る。これらの装置は全
て連続イオン源とともに動作するように設計されているので、パルスイオン源の
擬連続イオン源への変換は上記問題のほとんどを解決する。
【0007】発明の概要 したがって、分析計をより完全にイオン源から分離し、より小さな角度及び速
度の広がりをもつより連続なイオンビームが得られるようにして、MALDI源
のようなパルスイオン源を様々な分析計装置に結合できるようにする、装置及び
方法を提供することが望ましい。
【0008】 さらに詳しくは、イオンビームにおけるエネルギーの広がりが縮小され、既存
の装置に比べてイオン源がより完全に分析計から分離され、イオンのフラグメン
テーションにより生じる問題が軽減されて、新しいタイプの測定が可能になり、
したがって質量分析計から得られる結果及び質量分析計の操作の平易さが向上す
る、パルスイオン源をもつ改善されたTOF型質量分析計を提供することが望ま
しい。
【0009】 連続イオン源及びパルスイオン源、例えばESI源及びMALDI源をともに
有し、よっていずれのイオン源をも選択することができるTOF型質量分析計を
提供することも望ましい。
【0010】 本発明に従えば: 検体イオンパルスを与えるための、パルスイオン源; 質量分析計; イオン源から質量分析計の間にわたるイオン行路;及び イオン行路に配置されており、イオン行路の少なくとも一部に制動ガスを有し
:イオン源から放出されたイオンのエネルギー広がりの縮小;イオン源からのイ
オンパルスの擬連続イオンビームへの変換;及び検体イオンの不必要なフラグメ
ンテーションの少なくともある程度の抑制;の内の少なくとも1つを生じさせる
イオン輸送デバイス; を含む質量分析計システムが提供される。
【0011】 本発明は特に飛行時間型質量分析計への使用に適している。飛行時間型質量分
析計にはパルスビームが必要であるから、パルスイオン源はパルスとしての性格
を維持しながら結合されるべきであると従来は教えられてきた。しかし発明者等
は今や、パルスビームを連続な、少なくとも擬連続な、ビームに変換し、次いで
パルスビームに戻すことに実際上の利点があることを認識している。これらの利
点は:衝突制動によるビーム品質の向上;質量測定からのイオン生成の分離;イ
オンがいくつかの大きなパルスから多数の小さなパルス、例えば約1Hzから約
4kHzに変換される, すなわち4,000倍に変換されることによる、単イオ
ン計数によるビーム電流測定能力;1台の装置で両方のイオン源が稼働する可能
性を提供する、ESIのような連続イオン源との共用性;である。
【0012】 本発明はまた、連続ビームではたらくか連続ビームを必要とする質量分析計に
も適用できる。したがって、パルスイオン源をそのような分析計で実際に使用で
きるという利点もある。
【0013】 イオン源は輻射線によるイオン化のために検体を供給し、検体分子の脱離及び
イオン化を生じさせる輻射線パルスを生成するための、イオン源に向けられた、
電磁波源が与えられることが好ましく、パルスレーザが与えられることがより好
ましい。
【0014】 イオン源はマトリックス及びマトリックス中の検体分子からなるターゲット材
を含み、マトリックスは検体分子の脱離及びイオン化を促進するための、輻射線
源からの輻射線の吸収に適した化学種を含んでいると有利である。
【0015】 輸送デバイスは多重極子ロッドセットを含むことが好ましい。2セット以上の
多重極子ロッド及びこれらのロッドセットに相異なるRF及びDC電圧を供給す
るための手段を含むことができる。
【0016】 衝突制動はまた、緩衝ガス圧が十分高ければ、RF電場が存在しないチャンバ
内でも達成することができる。この場合、減速したイオンはガス流に引きずられ
るか、あるいはDC静電場によりチャンバ出口に向かうことができる。静電場、
RF電場及びガス流を衝突制動チャンバで併用することもできる。
【0017】 本発明の別の利点は、イオンの衝突冷却が分子イオンのフラグメンテーション
量の低減に役立つことである。分子種を代表するイオンのみを含む単純な質量ス
ペクトルを得られることが通常は望ましい。したがって、代表的なMALDIイ
オン源においては、フラグメンテーションを減じるためにレーザパワーがイオン
化閾値に近くなるように、レーザパワーを慎重に最適化しなければならない。し
かし発明者等は、レーザパワーが比較的高くとも、試料表面まわりのガスの存在
がフラグメンテーションの低減に大きく役立つことを認めた。これはおそらく、
脱離した化学種がフラグメンテーションを起こす前に脱離化学種から内部エネル
ギーを取り除く、ガス分子との衝突の効果による。このことは、過剰な分解を生
じさせることなく、イオン信号強度を高めるためにレーザパワーを強め得ること
を意味する。発明者等は、ガス圧を少なくともほぼ1Torr(約1.33×1 0Pa)まで高めるにつれてフラグメンテーション量が減少してゆくことを観
察した。ガス圧をより高くすればさらに有利であろうが、より高い圧力下におけ
るクラスター化反応を避けるために電場が必要になる。
【0018】 本発明の質量分析計システムは連続イオン源並びにパルスイオン源及び連続イ
オン源の内1つを選択するための手段を含むことができ、したがって1台の装置
で別々の2台の装置の特性が得られる。上記2つのイオン源には、MALDI源
及びESI源を含めることができる。
【0019】 本発明の別の態様はイオンを生成して、イオンを質量分析計に送る方法を提供
し、この方法は: (1)イオン源を準備する工程; (2)イオン源にイオンパルスを生成させる工程; (3)イオン源から伸びるイオン行路に沿ってイオン輸送デバイスを設け、イ
オン輸送デバイスに:イオン源から放出されたイオンのエネルギー広がりの縮小
;イオン源からのイオンパルスの擬連続イオンビームへの変換;及び検体イオン
の不必要なフラグメンテーションの少なくともある程度の抑制;の内の少なくと
も1つを生じさせるために、イオン行路の少なくとも一部に制動ガスを与える工
程;及び (4)質量分析のためにイオンをイオン輸送デバイスから質量分析計に渡す工
程; を含む。
【0020】 制動ガスのガス圧は約10−4Torr(約1.33×10−2Pa)から少 なくとも760Torr(約1.01×10Pa)までの範囲とすることがで きる。工程(3)は輸送デバイス内にRFロッドセットを設ける工程を含む。さ
らに、DC電場をイオン源と分析計との間に与えて、分析計に向かうイオンの運
動を促進することができる。
【0021】 本方法は、イオン輸送デバイスに2つ以上のロッドセットを設け、所望の質量
−電荷比をもつイオンを選択できるようにするためのDCオフセットを少なくと
も1つのロッドセットに与えて作動させる工程を含むことができる。隣接する2
つのロッドセットの間にイオンを下流側のロッドセットに向けて加速するに十分
な電位差を与えて、下流側のロッドセットで衝突誘起解離をおこさせることがで
きる。
【0022】 パルスレーザが用いられる場合、レーザパルス毎に複数のイオンパルスが飛行
時間型質量分析計に送られる。
【0023】 イオンは初めに、イオン源における圧力から質量分析計内の圧力まで推移する
1つ以上の差動排気領域を通過する。イオン源の圧力は大気圧あるいは少なくと
も下流の四重極子ステージ及び質量分析計の圧力よりも実質的に高い圧力とする
ことができる。上記領域の少なくとも1つにはロッドセットが含まれず、したが
って質量分析計に向かうイオン運動はガス流及び/または静電ポテンシャルによ
り推進される。
【0024】好ましい実施の形態の詳細な説明 本発明のよりよい理解のため、及び本発明をいかにして実行に移すことができ
るかをより明解に示すために、例として、本発明の好ましい実施の形態を示す添
付図面を参照する。
【0025】 図1に示される第1の実施の形態は、一般的な質量分析計システムのブロック
図である。ここで1はいずれかのタイプのパルスイオン源(例えばMALDI)
、2は緩衝ガスで満たされ、あるRF電圧で駆動される多重極子3をもつ衝突集
束チャンバまたは領域である。これに続いてオプションとして付加される操作ス
テージ4があり、さらに続いて質量分析器5がある。衝突イオン誘導器3は、本
発明に従って、パルスイオンビームを時間的に広げ、ビーム品質(すなわち、空
間分布及び速度分布)を初期速度を制動し、イオンを中心軸に集束させることに
より改善する。したがってビームは擬連続であり、オプションとして付加される
操作ステージ4に入って、そこでいかなるタイプの操作もさらに受けることがで
きる。最後に、得られたイオンが質量分析器5で分析される。
【0026】 ステージ4におけるさらなる操作の簡単な例は、得られる娘イオンを質量分析
器で調べることができるような、ガスセル内の衝突によるイオンの解離である。
これは、単一検体の分子構造を決定するには十分であろう。検体が複雑な混合物
であれば、ステージ4はさらに複雑にされる必要がある。(エイ・シェブチェン
コ(A. Shevchenko)等:“ラピッドコミュニケーションズ・イン・マススペクト ロメトリー”誌,第11巻(1997年),1015ページに発表されているよ
うな)3連四重極子型あるいはQqTOF型装置においては、注目する親イオン
の選択のための四重極子型マスフィルタ及び衝突誘起解離(CID)による選択
された親イオンの分解のための四重極子型衝突セルがステージ4に含まれる。次
いで親イオン及び娘イオンはともに、3連四重極子の四重極子型マスフィルタあ
るいはQqTOF型装置の直交注入をもつTOF型分析計である、区画5で分析
される。いずれの場合にもステージ1及び2はパルス源及び衝突制動イオン誘導
器からなる。
【0027】 衝突集束チャンバ2が、いずれか適当なロッドセット、例えば四重極子、六重
極子または八重極子とすることができる、多重極ロッドセット3とともに示され
ていることは当然であろう。選択される特定のロッドセットは提供されるべき機
能に依存する。
【0028】 あるいは、衝突集束デバイスにラジオ周波リング誘導器を用い、ラジオ周波電
場により定められるイオンを入れておくための空間内でイオン生成を行うことも
できる。
【0029】 図2は、本発明に従うMALDI−TOF型質量分析計10の好ましい実施の
形態を示す。分析計10は従来のMALDIターゲットプローブ11,既知の方
法で排気されるシャフト封止チャンバ12,及びターゲット保持電極13に装着
されたターゲットを含む。検査される試料の混合物及び適当なマトリックスが、
通常のMALDIターゲット作成手順に従って試料プローブに塗布される。パル
スレーザ14がレンズ16によりターゲット面15に、窓17を通して、集束さ
れる。レーザビームは20で示され、レーザは数Hz以下から数10kHzまで
のいずれかの繰り返しレートで作動し、さらに特定すれば、本実施の形態では1
3Hzのレートが試された。流入口18が窒素またはその他の中性ガス用に設け
られる。レーザショット毎に、中性及び荷電分子のプルームが生成される。試料
検体のイオンが生成され、2連の四重極子ロッドセット31,32を収める真空
チャンバ30内に広がるプルームに伴出する。チャンバ30は、ポート34に接
続された(図示されていない)ポンプにより約70mTorr(約9.33Pa )まで排気されるが、圧力はリーク制御弁18によるガス流調節により実質的な
範囲にわたって変えることができる。イオン化領域をチャンバ30の上流にある
チャンバにおき、それを通してイオンがチャンバ30に引き入れられる小さな開
口を設けることにより、イオン生成領域に1気圧(約1.013×10Pa) までの圧力を用いることもできる。より低い圧力を用いることもできるが、重要
な特性値は圧力とロッド長との積である。米国特許第4,963,736号にある
ように22.5mTorr-cm(約3.00Pa-cm)という値が好ましいが、
少なくとも10.0mTorr-cm(約1.33Pa-cm)の全長×圧力値を用
いることができる。チャンバ30内のガス(一般には窒素またはアルゴンまたは
その他の、不活性ガスであることが好ましい、適当なガス)は制動ガスまたは冷
却ガスまたは緩衝ガスと称される。
【0030】 試験した実施の形態において、 四重極子ロッドセットは長さが4.45cmで
直径が11mmのロッドで構成し、ロッド間隔、すなわちロッドセットの隣り合
う角にあるロッドどうしの間隔は3mmとした。四重極子31及び32は、50
kHzから2MHzの正弦波動作周波数で、ピーク間が0から1000ボルトの
出力電圧を供給する電源で駆動される。代表的な周波数は200kHzから1M
Hzであり、代表的な電圧振幅はピーク間で100から1000Vである。いず
れの四重極子も、二次巻線を2つ有する変圧器を介して同じ電源で駆動される。
2つの二次巻線の巻数を異ならせることにより相異なる振幅を2つの四重極子に
印加することができる。多重出力電源により、DCバイアスすなわちオフセット
電位が四重極子31及び32のロッド並びにその他様々な部品に印加される。そ
れぞれのロッド間に制動ガスをもつRF四重極子31及び32はRFのみが印加
されるモードで作動することができ、以下で説明されるように、この場合には四
重極子が四重極子を通過するイオンの軸方向エネルギー、径方向エネルギー及び
エネルギー広がりを小さくするようにはたらく。以下でより詳細に説明するよう
に、この過程はイオンプルームをイオン行路に沿って実質的に伸ばして、約13
Hzのパルスであった初期ビームを擬連続ビームに変える。第1の四重極子31
は、適当なDC電圧を印加することによりマスフィルタモードで作動させること
もできる。この場合、第2の四重極子32は衝突誘起解離実験において衝突セル
(及びRF誘導器)として用いることができる(以下参照)。
【0031】 チャンバ30からイオンはイオン行路27に沿い、集束電極19を通り、次い
でオリフィス38を通過して、ポート42に接続された(図示されていない)ポ
ンプにより排気される真空チャンバ40に入る。そこで、イオンはグリッド44
により集束され、スロット46を通って、全体として50で示されるTOF型分
析計のイオン蓄積領域48に入る。
【0032】 既知の方法で、イオンは蓄積領域48から引き出されて、単位電荷あたりほぼ
4000電子ボルト(4keV)のエネルギーまでイオンを加速する通常の加速
管51により加速される。イオンはイオン蓄積領域の中間でイオン行路27に概
ね直交する方向に進み、一対の偏向板52を通過する。偏向板52は、イオンが
検出される検出器56にイオンを反射する通常の静電イオンミラー54に向けて
イオンが導かれるように、イオンの軌道を調節するはたらきをすることができる
。イオンは単イオン計数を用いて検出され、時間−デジタル変換器(TDC)で
記録される。加速管51,偏向板52,ミラー54及び検出器56は、ポート6
0に接続された(図示されていない)ポンプにより約2×10−7Torr(約
2.66×10−5Pa)まで排気された主TOFチャンバ58に収められる。
【0033】 MALDI源13からTOF型分析計50へのMALDIイオンの直交注入を
使用することには通常の軸方向注入配置に優るいくつかの潜在的な利点がある。
直交注入は、イオン生成過程の質量測定からの分離のレベルを、通常の遅延引出
MALDIで可能なレベルよりも高くするようにはたらく。このことは、質量ス
ペクトルに影響を与えることなくターゲット条件を変えるための自由度がより大
きく、分析計にイオンを注入するために電場が印加されるまでに、イオンプルー
ムを引き伸ばして冷却する時間をより長くとれることを意味する。速度の最大広
がりは、この場合はTOF軸に直交している、ターゲットに垂直な放出軸すなわ
ちイオン行路27に沿っているから、ある程度の性能向上も期待できる。しかし
衝突冷却無しにMALDIイオンをTOF50に直交注入することには、そのよ
うな配置を実施不可能にするいくつかの問題、すなわち: (1)径方向エネルギー分布は軸方向エネルギー分布よりはるかに狭いが、そ
れでもビームが四重極子ロッドセット32を出てTOF軸に向けて進む間にビー
ムの実質的な広がり及び伸びを生じさせるに十分である。ビームのTOF軸に沿
った空間的広がりは分解能を制限する。この効果は、感度を大きく犠牲にした場
合にのみ、コリメーションにより小さくすることができる;コリメーションスリ
ットは引出電場が歪まないようにTOF軸から十分遠くに配置しなければならず
、したがってかなり平行なビームをつくるためにはターゲットをコリメーション
スリットから十分遠くに配置しなければならない; (2)プルーム内のイオンの軸方向速度、すなわちイオン行路27に沿う速度
は、質量にほとんど依存せず、このことはエネルギーが質量依存であることを意
味する。軸方向エネルギーはTOF型分析計への加速後の軌道の方向を決定する
から、装置アクセプタンス(すなわちTOF型分析計によるアクセプタンス)は
質量依存である;すなわち質量弁別がある。上述した先の論文に詳細に説明され
ているように、衝突冷却無しにESIイオンが注入された場合にも同じ効果が観
察されている;及び (3)軸方向エネルギー分布の幅は軸方向エネルギー自体の大きさと同等であ
り、よってビームはターゲットとTOF軸との間隔と同等の大きさまで軸に沿っ
て広がる。蓄積領域から分析計にイオンを通過させる開口の大きさは明らかに、
特にスリットがターゲットとTOF軸との間におかれていれば、一様な引出電場
を維持するための大きさよりもはるかに小さくなければならない。このことは、
感度をさらに下げる; がある。
【0034】 通常の軸方向配置、すなわち図示されている直交配置ではない配置における遅
延引出MALDIにおいては、アクセプタンスはほぼ完全であり、速度の最大広
がりはTOF軸に沿うが、TOF軸に対してターゲット面を十分正確に垂直にお
くことにより、タイムラグ集束(最適化された遅延及び印加電圧値による遅延引
出)及びイオンミラーにおける静電集束(最適化されたリペラー電圧値)を併用
して、場合によっては分解能を10,000より十分高くすることができる。
【0035】 発明者等により行われた実験は、本発明による衝突冷却を用いなければ、直交
注入を用いて上記に匹敵する分解能を許容できる信号とともに得ることはできな
いことを示唆している。さらに、遅延引出MALDIのいくつかの欠点――最適
引出条件の質量依存性及びより複雑な較正の必要性――が、軸方向注入より低い
レベルではあるが、冷却無しの直交注入MALDIには未だに存在する。
【0036】 MALDIターゲットと直交注入配置との間へのイオンの衝突冷却をともなう
RF四重極子あるいはその他の多重極子の導入は上記の問題を回避する一方で、
付加的な利点を提供する。これらについては、残りの図面を参照して以下に詳述
する。
【0037】 イオンの径方向エネルギーを小さくすれば、イオンが蓄積領域に入る前のコリ
メーションにより生じる損失を大きく低減する、ほぼ平行なビームをつくること
ができる。このことにより、TOF型分析計50への入射開口をより大きくする
ことができ、損失をさらに低減できる。イオンの軸方向エネルギーを小さくし、
次いでイオンを一様なエネルギーに再加速することにより、上述した質量弁別が
なくなる。
【0038】 冷却後のイオンの一様なエネルギー分布により、最適引出条件に関するいかな
る質量依存性も取り除かれ、TOFと質量との間の簡単な2次関係を2つの較正
用物質のピークによる較正を用いることできる。図3は、α−シアノ−4−ヒド
ロキシケイ皮酸マトリックス中の質量が726から5734ドルトンのいくつか
のペプチド及びタンパク質の等モル混合物のスペクトルを示す。このスペクトル
は1回ランでとられ、全質量範囲にわたり約5000の一様な質量分解能(M/
ΔMFWHM)を示す。P物質及びメリチンによる簡単な外部較正を用いること
により、分子イオンのそれぞれの質量は約30ppm以内の精度で決定される。
ここで、様々な物質についてのピークについては、ピーク60がロイシン−エン
ケファリン,ピーク61がP物質、ピーク62がメリチン,ピーク63がCD4
,ピーク64がCD4のフラグメント25〜28,ピーク64がインスリンと同
定される。全てのピークが、全体スペクトル及び部分拡大スペクトルのいずれに
ついても識別される。図3で実証される分解能はESI源を用いた同じ装置で得
られる分解能にかなり近い。本実施の形態においては、予備実験における調整を
より容易にするために、入射オリフィスの直径はESIに通常用いられるより若
干大きく、通常の直径が1/3mm程度であるのに対して1mmとした。このこ
とは必要不可欠であるとは思われず、したがってより小さなオリフィスを用いれ
ば、分解能の向上が当然期待できる。10,000までの分解能が同じ装置でE SIイオンを用いて得られ、以下に説明するMALDI−QqTOF型装置にお
いても得られた。
【0039】 質量にともなう分子イオンの相対強度の減少は、質量の増加にともなう検出効
率の減少をある程度反映している。検出効率は、ある与えられたエネルギーにお
ける一価イオンに対して質量とともに減少する、速度に強く依存する。本実施の
形態においては、一価イオンのエネルギーは(一般的なMALDI実験における
30keVに対して)約5keVにすぎず、したがって検出効率は実用適用範囲
を約6000ドルトンより小さい範囲に制限する。図3の分子イオンピークの相
対強度は5kV加速を用いて同じ試料を通常のMALDI実験で分析したときに
得られた相対強度と一致している。本実施の形態における検出効率は、イオンを
分析計に向けて加速する電圧を上げるか、あるいは検出器にかける電圧を上げる
ことにより、高めることができる。
【0040】 上述したように、衝突冷却はイオンをイオンビーム軸に沿って広げ、13Hz
の初期パルスビームを擬連続ビームに変える。この例が、レーザパルス照射後の
時間の関数としてのカウントレート、すなわちイオン誘導器を通る走行時間の分
布を示す図4で説明される。時間分布の幅は20ms程度であり、それぞれのレ
ーザパルス幅が約2nsであるのに対して少なくとも10倍まで広げられた時
間上の増加を表している。20ms程度の時間分布をつくる必要はなく、例えば
擬連続パルスの幅は0.1msと短くともよいことは当然である。軸方向分散は 冷却無しの直交注入MALDIの欠点であるが、本発明によれば、最適引出条件
がレーザショット後の時間遅延に依存しないから、TOF蓄積領域48への多重
注入パルスをレーザショット毎に用いることができる。本実施の形態においては
、TOF蓄積領域48への256の注入パルスをレーザショット毎に用いた。次
いで損失が、この場合は約20%である、装置のデューティーサイクルから決定
される。デューティーサイクルは、イオンを蓄積領域からTOF型分析計に注入
できる時間の百分比であり;ここでは、TOF蓄積領域48がイオンの受け入れ
に利用できる時間の分率を事実上意味する。擬連続ビームは実際この動作モード
において有用である。13Hzの繰り返しレートのレーザショット毎にターゲッ
トプローブからほぼ10から10個のイオンが放出されるが、ビーム軸すな
わちイオン行路27に沿う広がり(及び若干の損失)の結果として、注入パルス
毎にほぼ2から5個のイオンが注入され、これはある特定の化学種について平均
して1個より少ない。このことにより、高い時間分解能(0.5ns)と(デュ ーティーサイクルの最大化に欠くことができない)高い繰り返しレートの併用を
、通常のMALDI実験に必要なトランジェントレコーダを用いる場合より技術
的にはるかに簡単にする、TDC(時間−デジタル変換器)による単イオン計数
を用いることができる。さらに単イオン計数の使用は、強いマトリックスピーク
による検出器のマスキングの問題並びに、信号の強いレーザ流束量依存性及びシ
ョット間変動依存性のために、通常のMALDIでは減衰を必要とするピーク飽
和の問題を排除する。最後に、パルスの電子的なリダクション及び数値化が検出
器におけるパルス形状の影響をほとんど受けないため、検出器及び増幅器の時間
分解能に対する単イオン計数による要求は非常にささやかなものでしかない。
【0041】 図4に、70で示されるロイシン−エンケファリン、72で示されるP物質、
74で示されるメリチン、及び76で示されるインスリンについての、時間に対
するカウントレートの4つのグラフが示されている。さらに、これらの物質のそ
れぞれについて、グラフすなわちスペクトル71,73,75及び77が挿入さ
れ、図3と同様の、通常のTOFスペクトルを示している。
【0042】 レーザショット毎に10個の単一分子イオン種のイオンが生成されると仮定
すれば、RF四重極子の輸送効率は10%程度である。デューティーサイクルを
考慮すると、ターゲットで生成されたイオンの内約2%が質量分析計で検出され
る。このことは、輸送効率がおそらく50%以上である通常の軸方向MALDI
実験に比較してかなりの損失があることを表す。しかしデータレートの観点から
は、この損失はより高い繰り返しレート及びより大きいレーザ流束量によりかな
りの程度まで補償することができる。上記の実験において繰り返しレートは13
Hzであったが、現在のレーザを用いて容易に20Hzまで高めることができ、
また原理的には計数システムが飽和するまでに少なくとも100Hzまで高める
ことができる。対照的に通常のMALDI実験は約1または2Hzで行われる。
通常のMALDI実験におけるレーザ流束量は最良性能を達成するために閾値近
くに保たれなければならず、閾値はアナログ−デジタル変換器をもつ通常のトラ
ンジェントレコード方式を用いるに有効な信号をつくるために試料を蒸気化させ
るに必要な最小エネルギーである。本発明においては、レーザ゛流束量はイオン 生成過程が飽和する流束量まで高めることができる。四重極子はレーザにより生
成されたイオンバーストを平滑化するようにはたらくから、短く強いイオンバー
ストを受け入れることができる。絶対感度の観点からは、スペクトルがレーザ条
件に依存しない(以下参照)ことによりターゲットに被着された試料を、より高
い効率で使用できる。閾値より数倍高い流束量を用いることにより、マトリック
スがターゲットプローブから完全に除去されるまでイオンが生成される。図5は
P物質で得られる実用感度が通常のMALDIで得られる実用感度と同じレベル
にあることを示す。4HCCAをマトリックスに用いて5フェムトモルのP物質
をターゲットに塗布した。スペクトルの左側は80で示され、右側は44倍に拡
大されて示され81と表示される。このスペクトルの一部は拡大されて82で示
されて、分子イオン(MH)を示す。
【0043】 図6はシトラートシンターゼのトリプシン消化から得られたスペクトル85を
示し、全質量範囲にわたる一様な質量分解能をやはり示している;挿入図86は
ターゲットに塗布された20フェムトモルから得られたスペクトルを示す。
【0044】 これらの結果は、ペプチドに関する本発明の能力が通常のMALDI実験と同
等であること、ただし、質量に依存しない較正及び簡単な較正手順という利点を
もつことを示している。しかし、最も重要な利点はイオン生成を質量測定からほ
ぼ完全に分離することから生じている。通常のMALDI実験においては、性能
の最適化のためにターゲット上のレーザスポットの位置並びにレーザの流束量及
び位置が慎重に選ばれなければならず、これらの条件は一般にマトリックスが異
なれば異なるし、ターゲット作成法が異なってさえも異なる。この状況は遅延引
出の導入により改善されたが、遅延引出が導入されていてさえ、市販の装置の多
くにはレーザ流束量、検出器利得及びレーザ位置を調節し、飽和が生じるショッ
トを排除するためのソフトウエアが組み込まれている。本発明には、上記の技法
のいずれも必要ではない。得られた性能はターゲット条件またはレーザ条件への
依存性がないことを示している。レーザは単に最大流束量(通常の閾値の数倍)
に設定されて、ターゲットがまだ使用されていない位置に時折動かされてもその
ままにされる。このことは、(絶縁性ターゲットを含む)別のターゲットを容易
に試験することができ、波長またはパルス幅が異なる別のレーザを使用できるこ
とを意味する。
【0045】 イオン生成の質量測定からの分離により、放出後質量分析までの間にイオンを
様々に操作する機会も与えられる。その一例は親イオンの選択及びこれに引き続
くフラグメンテーション(MS/MS)である。これは以下に説明されるように
四重極子型マスフィルタの付加により最も適切に行われるが、図2の実施の形態
でさえある程度の選択及びフラグメンテーションは可能である。
【0046】 図8のA,B及びCは、図2に示した装置の相異なる3つの動作モードを示す
。電位レベルと装置のそれぞれの素子との間の対応を示すために、図2の参照数
字がz軸に沿って与えられ、四重極子部31,32への電圧はそれぞれU(t)
及びU(t)で示される(図2の該当部分が簡略に示される図7を参照されたい
)。
【0047】 図8のAは、図4〜6に示した結果を得るのに用いられた単純な衝突イオン誘
導モードを示す。この場合はそれぞれの四重極子部に同振幅のRF電圧が印加さ
れ、DCオフセット電圧は印加されない。軸方向の電位差はCIDによるフラグ
メンテーションを最小限に抑えるために小さくしておかれる。
【0048】 図8のBは、通常の四重極子型マスフィルタで実施される同じフィルタモード
と類似の、マスフィルタモードを示す。ここでは注目するイオンを選択するため
に第1の四重極子部にDCオフセット電圧Vが印加され、一方第2の四重極子部
は、2つの四重極子部間の電位差が小さいからCIDがおこらず、よって上と同
じく普通のイオン誘導器としてはたらく。第2の四重極子部32に印加される電
圧振幅は第1の四重極子部31に印加される電圧振幅の1/3にすぎない。
【0049】 図8のCは、四重極子部31と32との間の電位差が図7のBの電位差より高
く、よってイオンが四重極子部31と32との間で加速され、高運動エネルギー
をもって第2の四重極子部へ入ることが図7のBのモードと異なる、MS/MS
モードであり、付加されるエネルギーがΔ衝突エネルギーとして示される。この
場合、第2の四重極子部は衝突セルとしてはたらき、親イオンはそこで緩衝ガス
との衝突により分解される(CID)。図7のBの場合と同じく、第2の四重極
子のRF電圧振幅は第1の四重極子部のRF電圧振幅の1/3にすぎず、このた
め、親イオンよりかなり軽い娘イオンが安定な軌道をとることができて、第2の
四重極子を通して輸送されることができる。
【0050】 図9のA〜Dは図8のA〜Cで説明した様々なモードで得られたスペクトルの
例を示し、特に、可能なビーム操作の例を与える。スペクトルは全て同じ初期試
料からとった。
【0051】 図9のAは(図8のAのモードの)衝突集束イオン誘導器でイオンが冷却され
た質量スペクトルである。
【0052】 図9のBは、注目するイオンが第1の四重極子部で選択されて第2の四重極子
部で冷却された(図8のBのモードの)例である。注目するイオンが選択される
と、組成及び構造に関する詳細な情報を得るためのCIDによるフラグメンテー
ションに、選択されたイオンを用いることができる。
【0053】 図9のCは、そのようにして得られたP物質のMS/MSスペクトルである。
P物質の分子イオンが(図8のCのモードにより)第1の四重極子部で選択され
て第2の四重極子部で衝突によりフラグメント化される。第1と第2の四重極子
間の電位差、すなわちΔ衝突エネルギーは100Vとした。フラグメントイオン
の強度は一次イオンの強度に比して小さく、よって一点鎖線の内側の領域は56
倍に拡大してある。図9のDは、同じモードであるが、四重極子31,32間の
電位差を150Vとして得られたスペクトルを示す。この場合、より多くのフラ
グメントイオンが観測され、親イオンのピークは実質的に衰微している。
【0054】 図10は、MALDIターゲット上の同じスポットから信号がどの程度の時間
続き得るかを示す。本実験においては、ある与えられたスポットを、13Hzで
作動しているレーザからの一連のショットにより照射した。レーザ強度は“閾値
”強度の2または3倍とした。平均して試料は約1分間もった。曲線の形状は、
試料が消耗するまで、レーザショットが試料を深くまた深く掘り進むことを示唆
している。レーザが金属基板を照射する時点で、信号が観測されなくなる。
【0055】 以前は、エレクトロスプレイイオン化(ESI)のような連続イオン源と、M
ALDIのようなパルスイオン源を同じ装置で併用するることは不可能であった
が、両者の併用には重要な利点がある。発明者等の知るところでは、これまでに
唯一成功したESI−TOF型装置は(本発明者等,ドドノフ(Dodonov)による 、今ではパーセプティブ(PerSeptive)社等による市販装置である)直交注入分析
計であったことから、エイ・エヌ・クルチンスキー,アイ・ブイ・チェルヌシェ
ビッチ,ブイ・エル・スパイサー,ケイ・ジー・スタンディング:“ジャーナル
・オブ・ジ・アメリカン・ソサエティー・フォー・マススペクトロメトリー”誌
,第9巻(1998年),569〜579ページに詳述されているように、衝突
制動が状況を改善するが、衝突制動をもつにせよもたないにせよ、ESI−TO
Fには直交注入が必要であるように思われる。今までは、MALDIを直交注入
装置に装着しようとする試みは衝突制動をともなっていなかった(例えば、本発
明者等及びギルハウス(Guilhaus)社によってなされ、いずれも得られた結果には
見込みが無かった)。本発明は2つのそのようなイオン源を1台の装置で利用で
きるようにする。この場合には、本装置でESIスペクトルの測定を可能にする
ために、図2のMALDIプローブ11をESI源で置き換えることができる。
すなわち本装置は、“ラピッドコミュニケーションズ・イン・マススペクトロメ
トリー”誌,第12巻(1998年),508〜518ページの、エイ・エヌ・
クルチンスキー,エイ・ブイ・ロボダ(A. V. Loboda),ブイ・エル・スパイサー
,アール・ドワルスチャック(R. Dworschak),ダブリュー・エンス,ケイ・ジー
・スタンディングの論文に説明された装置と本質的に同じである。上記の変更は
、実際に1つのイオン源を取り外して別のイオン源で置き換えることにより行え
ることはもちろんであるが、多くのより便利な構成を与えることができる。
【0056】 例えば図11は、エレクトロスプレイイオン源94が、四重極子、あるいはそ
の他の多重極子のロッドセット93を含む、衝突制動インターフェース92の入
力部に取りつけられた別の実施の形態を示す。MALDIイオン源94は、側面
から挿入されて、内外に移動させ得るプローブ95で導入される;この目的のた
め、衝突インターフェース92のハウジングにシャフト端96がスライドでき、
気密封止できるようにはめ込まれる。MALDIイオン源94は、この場合には
試料が円筒プローブの末端面の代わりに、プローブシャフト95の側面に機械加
工された平坦面に被着されることを除いて、図2に示したMALDIイオン源と
同様である。試料は全体として97で示される、付帯光学系をもつレーザにより
照射され、イオンが98で示される分析計に輸送される。ESI源が作動してい
るときは、シャフト96がESIイオンの行路を開けるために十分離れたところ
まで引き出される。MALDIイオン源94が作動しているときは、MALDI
ターゲット94が中心位置になるようにシャフト96が押し戻される。
【0057】 現在、MALDI及びESI法は生化学的分析の相補的な方法と考えられるこ
とが多いので、多くの生化学または薬学研究室は2台の装置を使用している。明
らかに、上述した実施の形態のように、両方のイオン源を1台の装置に複合する
ことには大きな利点がある。特に、複合装置のコストは2台の個別の装置のコス
トの1/2よりやや高くなる程度でしかないと思われる。さらに、イオン生成が
質量測定から大きく分離されているから、イオンの操作、検出及び質量較正に同
じ手順を用いることができる。このことにより、個々のスペクトルの分析及び処
理並びに比較が簡単になる。
【0058】 単一装置でMALDI及びESI源を用いる能力は図1に示した分析計に限ら
れることはなく、衝突制動インターフェースをもつどのような質量分析計にも適
用できる。特に上で論じられ、以下でさらに詳細に説明される、QqTOF型装
置に適用できる 本発明の特定の実施の形態を説明したが、本発明の範囲内で多くの変形が可能
であることは当然であろう。すなわち、装置は図1に示したようにただ1つの多
重極子ロッドセットを含んでいても、あるいは図2に示したように2つのロッド
セットを含んでいてもよい。四重極子ロッドセットが好ましいが、六重極子また
は八重極子のようなその他のロッドセットであってもよく、ロッドセットは様々
なロッドセットの既知の特性に基づいて選ぶことができる。さらに、3つ以上の
ロッドセットを備えることもできる。さらにまた、図2は共通のチャンバ内に備
えられた2つのロッドセット31及び32を示しているが、ロッドセットは、異
なる動作を行えるようにするため、異なる圧力で作動する別々のチャンバに、既
知の方法で、備えることもできる。すなわち、通常の質量選択を行うために、イ
オンと制動ガスとの間の衝突運動が少ししかあるいは全くおこらないように、一
方のチャンバを非常に低い圧力で作動させることができる。さらに、ガス圧をそ
れぞれのチャンバ間で変えて、過剰な衝突は望ましくない衝突誘起フラグメンテ
ーションとは対照的に、比較的大量の衝突が望ましい衝突制動のための必要条件
に合わせることができる。
【0059】 ここで図12を参照する。わかりやすく簡潔にするため、図2の装置すなわち
分析計と共通の部品には同じ参照数字が与えられ、これらの部品の説明は繰り返
されない。
【0060】 本図では、MALDIターゲットが100で示され、102で示されるイオン
ビームを生成する。MALDIターゲット100は、106に示されるように既
知の方法でポンプに接続された、差動排気チャンバ104内に置かれる。第1の
ロッドセットQ0がチャンバ104内に置かれる。開口及びロッドセット間開口
板108が主チャンバ110への通路を与える。上と同じく、既知の方法による
ポンプ接続が112に与えられる。
【0061】 主チャンバ110内には、ビームのコリメーションのために設けられた、時に
“スタッビー”と称される、短いロッドセット111がある。チャンバ110内
の第1の四重極子ロッドセットがQ1で、また第2のロッドセットがQ2で示さ
れる。
【0062】 ロッドセットQ2は、116で示される、衝突ガス用の接続を備えた衝突セル
114内に置かれる。
【0063】 衝突セル114を出ると、イオンはグリッド、次いで開口を通過して、上と同
じく50で示される、TOF型装置の蓄積領域48に入る。この場合、TOF型
装置50には飛行領域のまわりにライナー118が設けられる。
【0064】 ここで、差動排気チャンバ104の圧力は約10−2Torr(約1.33P a)に維持される。主チャンバ110の圧力は約10−5Torr(約1.33 ×10−3Pa)に維持され、一方衝突セル114の圧力は約10−2Torr
(約1.33Pa)に維持される。衝突セル114の圧力は、既知の方法で、接 続116を介した衝突セル114への窒素の供給を制御することにより制御でき
る。
【0065】 ここで、MALDIターゲット100から生成するイオンの衝突制動は差動排
気チャンバ104内の比較的高い圧力により達成される。イオンは次いで所望の
イオンを質量選択するように作動し得る四重極子ロッドセットQ1に渡される。
【0066】 質量選択されたイオンは次いで衝突セル114及びロッドセットQ2に渡され
る。電位は、イオンが衝突誘起解離を生じさせるに十分なエネルギーをもってロ
ッドセットQ2に入るように与えられる。ここでのCIDにより生成されたフラ
グメントイオンは次いで分析のためにTOF型装置に渡される。
【0067】 MALDI−QqTOF型装置で得られた代表的なスペクトルが図13に示さ
れる。図13のaに示されるスペクトルはQ1を広帯域モードで作動させて得ら
れたため、MALDIイオン源で生成されたイオンは全てTOF型質量分析器に
送られた。図13のaの3つのピーク(121,122,123)はそれぞれロ
イシン−エンケファリン、P物質及びメリチンに対応する。Q1を選択モードで
作動させると、図13のbに示されるスペクトルが見られる。この場合Q1は、
m/zが約1347.7にあるP物質のイオン(ピーク122)のみを選択する ように設定した。Q1の条件がほかのイオンの通過を防いだため、質量スペクト
ルには他のピークあるいはバックグラウンドが全く見られないことに注意された
い。図13のcは、P物質(ピーク122)の選択及びP物質イオンの衝突誘起
解離の結果を示す。この場合、Q1は図13のbの場合と同じく選択モードに設
定したが、CIDを促進するためにQ0とQ2との間の電位差を大きくした。低
質量側の領域に見られるピークはP物質イオンのフラグメントである。
【0068】 次に図14を参照する。上と同じく、同じ部品には図12及び2と同じ参照数
字が与えられている。
【0069】 図14においては、MALDI源が130で示され、イオンビームが132で
示されている。ここでは、MALDI源130とロッドセットQ0との間にサン
プリングコーン134を配置した。サンプリングコーン134は差動排気領域を
第1の差動排気領域136と第2の差動排気領域138に実効的に分離する。差
動排気領域136,138にはポンプへのそれぞれの接続137及び139が設
けられている。
【0070】 上述と同様に、ここでは142で示されるチャンバに、短いロッドセットすな
わちスタッビー140がロッドセットQ1とともに設けられる。
【0071】 図14に示した別構成の衝突制動機構をMALDI−QqTOF型装置に組み
込んだが、この構成は先に説明し、図2に示した、より単純な構成のような、い
かなる構成の衝突RFイオン誘導器にも用いることができる。図14の構成にお
いては、RF電場がほとんど全く存在しない第1の領域すなわちチャンバ136
で、ある程度の衝突制動が達成される。図2と同様に、窒素がチャンバ136に
供給され、また図12のチャンバ104にも供給される。後から示された図12
及び14には窒素の接続が示されていないが、窒素は図2と同じようにして供給
される。第1の差動排気領域すなわちチャンバ136は一般に第2の差動排気領
域すなわちチャンバ138より圧力が高く、イオンはDC電場とガス流の組み合
わせにより、Q0の入口に向けて引きずられる。圧力がより高くなっているにも
関わらず、スペクトルに有意な変化は見られなかった。この構成における信号強
度は、サンプリングコーンの開口径を1mmより大きくすれば、図12に示した
構成の信号強度と実質的に同じであった。開口径が1mmより小さい場合には、
おそらく開口の大きさがイオンビーム径より小さくなるために、信号強度が低下
する。
【0072】 図15はMALDIにより生成された信号の強度に対する圧力及び電場の効果
を調べるために用いた装置を示す。MALDIイオンはUVレーザのパルスビー
ム152によりターゲット150で生成される。レーザビーム152は、上述し
た分析計構成と同様にレンズ154及び窓156を通過する。窓156は既知の
方法で内部圧力を変えることができるチャンバ158に設けられる(ポンプへの
接続等は図示されていない)。ターゲット150とコレクタ電極162との間の
電位差Uは電源160により与えられる。
【0073】 すなわち、ターゲット150で生成されたイオンは164で示されているよう
にコレクタ電極162に進む。ほぼ均一な電場がターゲット150とコレクタ電
極162との間の領域に確立される。この電場は印加電位差Uに比例する。ター
ゲットとコレクタとの間隔は約3mmとした。レーザを20Hzで作動させ、増
幅器166を用いて全イオン電流を測定した。
【0074】 図16は、チャンバ158の様々な内部圧力においてMALDIにより生成さ
れた全イオン電流の依存性を、図15に示したターゲット150とコレクタ電極
162との間に印加された電圧の関数として示す。明らかに、イオン収率が圧力
の増加にともなって減少し、14Torr(約1.87×10Pa)と47T orr(約6.27×10Pa)の間で収率がかなり低下する。しかし、収率 の低下は電場強度を高めることで埋め合わせることができる。
【0075】 図16に示した結果は、MALDI法を所望のいかなる圧力においても、RF
衝突多重極子を使用できる範囲ではない圧力であってさえ、使用できることを示
す。試料ターゲット近くの無RF電場領域で、少なくともある程度はイオンの衝
突制動を達成できる。発明者等は、同様の圧力及び電場依存性をいくつかの他の
パルスイオン源でもみることができ、これらのイオン化法もより高圧における衝
突制動とともに用いることができると信じている。
【図面の簡単な説明】
【図1】 質量分析計システムのブロック図を示す
【図2】 本発明に従う衝突制動インターフェース(四重極子イオン誘導器)を通して分
析計にMALDIイオンを直交注入するMALDI−TOF型質量分析計を示す
略図である
【図3】 図2の分析計で得られた、いくつかのペプチド及びタンパク質(ロイシン−エ
ンケファリン−アルギニン(Le-R),P物質(Sub P),メリチン(ME),CD4のフ ラグメント25〜28(CD4),及びインスリン(INS))の混合物の質量スペクトル
を示す
【図4】 様々なイオンのインターフェース通過時間のプロットを示す
【図5】 P物質の質量スペクトルを示す
【図6】 シトラートシンターゼのトリプシン消化の質量スペクトルを示す
【図7】 衝突インターフェース及び印加電圧を示す、図2の分析計の一部の略図である
【図8】 図2の質量分析計の様々な動作モードを示す
【図9】 図8に従う様々な動作モードで記録された、P物質から得られた質量スペクト
ルである
【図10】 単一のターゲットスポットからのイオン電流の時間の関数としての振る舞いを
示す
【図11】 質量分析計のためのESI源及びMALDI源の併用の概要を示す
【図12】 衝突制動インターフェースと飛行時間型質量分析計との間に付加された追加イ
オン操作ステージを含む衝突制動インターフェースを利用するMALDI−Qq
TOF型質量分析計を示す
【図13】 図12のMALDI−QqTOF型質量分析計で得られた、単MSモード及び
MS/MSモードにおける質量スペクトルを示す
【図14】 RF電場のない領域でイオン速度がある程度制動される、図12のMALDI
−QqTOF型質量分析計の別の衝突制動機構を示す
【図15】 MALDIイオン電流に対する圧力及び電場強度の効果を調べるために用いた
実験装置を示す
【図16】 様々なチャンバ内圧力の下で印加された電圧差の関数としての、図14のMA
LDI源により生成された全イオン電流を示すグラフである
【符号の説明】
10 MALDI−TOF型質量分析計 14 パルスレーザ 15 MALDIターゲット 30 真空チャンバ 31,32 四重極子 50 TOF型分析計 54 イオンミラー 56 検出器 58 主TOFチャンバ
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (81)指定国 EP(AT,BE,CH,CY, DE,DK,ES,FI,FR,GB,GR,IE,I T,LU,MC,NL,PT,SE),OA(BF,BJ ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GW,ML, MR,NE,SN,TD,TG),AP(GH,GM,K E,LS,MW,SD,SZ,UG,ZW),EA(AM ,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM) ,AL,AM,AT,AU,AZ,BA,BB,BG, BR,BY,CA,CH,CN,CU,CZ,DE,D K,EE,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM ,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE, KG,KP,KR,KZ,LC,LK,LR,LS,L T,LU,LV,MD,MG,MK,MN,MW,MX ,NO,NZ,PL,PT,RO,RU,SD,SE, SG,SI,SK,SL,TJ,TM,TR,TT,U A,UG,US,UZ,VN,YU,ZW (72)発明者 ロボダ,アレクサンドル ヴィー カナダ国 アール3ティー 3ピー4 マ ニトバ州 ウィニペッグ ベイラー アヴ ェニュー 230−140 (72)発明者 スパイサー,ヴィクター エル カナダ国 アール3ティー 5エイチ1 マニトバ州 ウィニペッグ ポイント ウ ェスト ドライヴ 63 (72)発明者 エンズ,エリック ダブリュ カナダ国 アール2エム 5ビー8 マニ トバ州 ウィニペッグ ウォーレンデイル 27 (72)発明者 スタンディング,ケネス ジー カナダ国 アール3ティー 3イー5 マ ニトバ州 ウィニペッグ キングズ ドラ イヴ 60 Fターム(参考) 5C038 JJ04 JJ06 【要約の続き】 イクル毎に、多くのイオンパルスを飛行時間型あるいは その他の分析計に送ることができる。

Claims (43)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 質量分析計システムにおいて: 検体イオンパルスを供給するためのパルスイオン源; 質量分析計; 前記イオン源と前記質量分析計との間にわたるイオン行路;及び 前記イオン行路に配置され、前記イオン行路の少なくとも一部に制動ガスを有
    するイオン輸送デバイス; を含み: 前記イオン源から放出されたイオンのエネルギー広がりの縮小;前記イオン源
    からのイオンパルスの擬連続イオンビームへの変換;前記検体イオンの不必要な
    フラグメンテーションの少なくともある程度の抑制;並びに前記イオン行路に沿
    ってイオンを空間的及び時間的に広げ、よってピーク電流を下げ、空間電荷効果
    を弱めること; の内の少なくとも1つを生じさせることを特徴とする質量分析計システム。
  2. 【請求項2】 前記制動ガスの圧力が、約10−4Torr(約1.33× 10−2Pa)から少なくとも760Torr(約1.01×10Pa)まで の範囲にあることを特徴とする請求項1記載の質量分析計システム。
  3. 【請求項3】 前記制動ガスが前記パルスイオン源の近くに供給され、前記
    イオン源から放出されたイオンの前記エネルギー広がりの縮小を生じさせるに十
    分な圧力を有することを特徴とする請求項2記載の質量分析計システム。
  4. 【請求項4】 前記イオン行路が多重極子ロッドセットを含み、前記制動ガ
    スが前記多重極子ロッドセット内に供給され、前記多重極子ロッドセット内での
    前記制動ガスの前記圧力と前記多重極子ロッドセットのロッド長との積が少なく
    とも10.0mTorr-cm(約1.33Pa-cm)であることを特徴とする請
    求項2記載の質量分析計システム。
  5. 【請求項5】 少なくとも1つの多重極子ロッドセット及びリングセットを
    含み、前記イオン行路がそれらを貫通して伸び、存在する場合には、前記制動ガ
    スが前記多重極子ロッドセットのそれぞれ及び前記リングセットに供給されるこ
    とを特徴とする請求項2記載の質量分析計システム。
  6. 【請求項6】 前記質量分析計が飛行時間型質量分析計を含むことを特徴と
    する請求項1から5のいずれか記載の質量分析計システム。
  7. 【請求項7】 前記飛行時間型質量分析計が直交飛行時間型質量分析計を含
    み、前記擬連続イオンビームが前記直交飛行時間型質量分析計に入り、前記擬連
    続イオンビームをイオンパルスに変換し直すために、パルス化されることを特徴
    とする請求項6記載の質量分析計システム。
  8. 【請求項8】 前記質量分析計が、四重極子型分析計、イオントラップ型分
    析計、磁場セクタ型分析計及びフーリエ変換型質量分析計の内の1つを含むこと
    を特徴とする請求項1から5のいずれか記載の質量分析計システム。
  9. 【請求項9】 第1の差圧チャンバを含み、前記パルスイオン源が前記第1
    の差圧チャンバ内に備え設けられていることを特徴とする請求項3記載の質量分
    析計システム。
  10. 【請求項10】 第1の差圧チャンバを含み、前記パルスイオン源が前記第
    1の差圧チャンバ内に設けられており、さらに、前記第1の差圧チャンバと前記
    質量分析計との間に配置された第2の差圧チャンバ、及び前記第1と第2の差圧
    チャンバ間の圧力差を維持するための前記第1と第2の差圧チャンバ間のスキマ
    ーを含むことを特徴とする請求項3記載の質量分析計システム。
  11. 【請求項11】 前記第1の差圧チャンバがイオン誘導器としてはたらくよ
    うに構成された多重極子ロッドセットを含むことを特徴とする請求項9記載の質
    量分析計装置。
  12. 【請求項12】 前記第2の差圧チャンバがイオン誘導器としてはたらくよ
    うに構成された多重極子ロッドセットを含むことを特徴とする請求項10記載の
    質量分析計装置。
  13. 【請求項13】 前記質量分析計の前で前記イオン行路に設けられた質量分
    析器及び衝突セルを含み、前記質量分析器は前駆物質のイオンを選択するように
    構成された多重極子ロッドセットを含み、使用中の前記衝突セルには、前記質量
    分析計における分析のためのフラグメントイオンを形成するために、選択された
    前駆物質イオンのフラグメンテーションをおこさせるための制動ガスが供給され
    ることを特徴とする請求項5,11または12記載の質量分析計システム。
  14. 【請求項14】 前記衝突セルが前記質量分析器とは別のチャンバに設けら
    れることを特徴とする請求項13記載の質量分析計システム。
  15. 【請求項15】 前記質量分析計が直交飛行時間型質量分析計を含むことを
    特徴とする請求項13記載の質量分析計システム。
  16. 【請求項16】 前記質量分析計が四重極子型マスフィルタを含むことを特
    徴とする請求項13記載の質量分析計システム。
  17. 【請求項17】 前記パルスイオン源が検体分子を含む表面及び、前記検体
    分子のイオン化をおこさせるためのレーザパルスを供給するための、前記表面に
    向けられたパルスレーザを含むことを特徴とする請求項2,3または7記載の質
    量分析計システム。
  18. 【請求項18】 前記表面がマトリックス及び前記マトリックス内の検体分
    子からなるターゲット材を含み、前記マトリックスは、前記検体分子の脱離及び
    イオン化を促進するために、前記パルスレーザからの放射光を吸収する化学種を
    含むことを特徴とする請求項17記載の質量分析計システム。
  19. 【請求項19】 連続イオン源及び前記連続イオン源と前記パルスイオン源
    の内の1つを選択するための手段をさらに含むことを特徴とする請求項1から1
    8のいずれか記載の質量分析計システム。
  20. 【請求項20】 複数のパルスイオン源;及び複数の連続イオン源;の内の
    少なくとも一方を含み、前記選択手段が前記連続イオン源及び前記パルスイオン
    源の内のどの1つであっても選択できることを特徴とする請求項19記載の質量
    分析計システム。
  21. 【請求項21】 前駆物質イオンの質量選択及びフラグメントイオンを形成
    するための前駆物質イオンの衝突誘起解離を生じさせるための選択手段を含み、
    前記選択手段は前記質量分析計の前で前記イオン行路に配置されていることを特
    徴とする請求項1記載の質量分析計システム。
  22. 【請求項22】 前記選択手段が前駆物質イオンの質選択析及び衝突誘起解
    離のいずれをも生じさせるためのイオントラップを含むことを特徴とする請求項
    21記載の質量分析計システム。
  23. 【請求項23】 衝突誘起解離が紫外光または赤外光の内の1つにより、あ
    るいは表面誘起解離により生じることを特徴とする請求項21記載の質量分析計
    システム。
  24. 【請求項24】 イオンを生成し、イオンを質量分析計に送る方法において
    、前記方法が: (1)イオン源を備える工程; (2)前記イオン源にイオンパルスを生成させる工程; (3)前記イオン源から放出されたイオンのエネルギー広がりの縮小;前記イ
    オン源からのイオンパルスの擬連続イオンビームへの変換;検体イオンの不必要
    なフラグメンテーションの少なくともある程度の抑制;の内の少なくとも1つを
    生じさせるために、前記イオン源から伸びるイオン行路に沿ってイオン輸送デバ
    イスを設け、前記イオン行路の少なくとも一部で前記イオン輸送デバイスに制動
    ガスを供給する工程;及び (4)質量分析のためにイオンを前記イオン輸送デバイスから前記質量分析計
    に渡す工程; を含むことを特徴とする方法。
  25. 【請求項25】 圧力が約10−4Torr(約1.33×10−2Pa) から少なくとも760Torr(約1.01×10Pa)までの範囲にある前 記ガスが供給されることを特徴とする請求項24記載の方法。
  26. 【請求項26】 前記イオン源の近くに、前記イオン源から放出されたイオ
    ンの前記エネルギー広がりの縮小を生じさせるに十分な圧力を有する前記制動ガ
    スを供給する工程を含むことを特徴とする請求項24記載の方法。
  27. 【請求項27】 前記ガス圧は、前記イオン源から放出されたイオンを十分
    に制動して、イオンの不必要なフラグメンテーションを実質的に低下させるよう
    なガス圧であることを特徴とする請求項26記載の方法。
  28. 【請求項28】 前記イオン行路に沿って多重極子ロッドセットを設け、前
    記ロッドセットのロッド長と前記ガス圧との積が少なくとも10.0mTorr-
    cm(約1.33Pa-cm)となるような圧力の前記ガスを供給する工程を含む
    ことを特徴とする請求項25,26または27記載の方法。
  29. 【請求項29】 前記イオンを前記イオン行路に沿って少なくとも1つの多
    重極子ロッド及びリングセットを通過させる工程を含むことを特徴とする請求項
    25記載の方法。
  30. 【請求項30】 飛行時間型質量分析計による前記工程(4)における前記
    イオンの質量分析を含むことを特徴とする請求項24,25,26または27記
    載の方法。
  31. 【請求項31】 前記イオン行路を前記飛行時間型質量分析計の軸に対して
    直角に配置し、前記擬連続イオンビームを実質的に連続的に前記飛行時間型質量
    分析計に渡し、質量分析を行うために前記飛行時間型質量分析計内で前記イオン
    をパルス化する工程を含むことを特徴とする請求項30記載の方法。
  32. 【請求項32】 四重極子型分析計、イオントラップ型分析計、磁場セクタ
    型分析計及びフーリエ変換型質量分析計の内の1つにおける前記工程(4)の質
    量分析の実施を含むことを特徴とする請求項24,25,26または27のいず
    れか記載の方法。
  33. 【請求項33】 前記イオン源から広がる差圧領域が設けられ、また多重極
    子ロッドセットを含むイオン誘導器が含められており、前記方法が前記差圧領域
    を所望の圧力に維持し、前記イオン行路に沿ってイオンを収集して誘導するため
    に前記イオン誘導器を作動させる工程を含むことを特徴とする請求項26記載の
    方法。
  34. 【請求項34】 前記イオン源の直近に第1の差圧領域を設ける工程;前記
    第1の差圧領域に隣接する第2の差圧領域にイオン誘導器を設け、前記第1と第
    2の差圧領域を隔てるスキマーを設ける工程;イオン源により生成されたイオン
    をガス流または静電ポテンシャルの内の少なくとも1つにより前記イオン行路に
    沿って前記第1の差圧領域から前記第2の差圧領域に進ませる工程;を含むこと
    を特徴とする請求項33記載の方法。
  35. 【請求項35】 多重極子ロッドセットを含む質量分析器及び多重極子ロッ
    ドセットを含む衝突セルが設けられて、前記工程がイオンに前記質量分析器を通
    過させて前駆物質イオンを選択し、前記衝突セルに前記前駆物質イオンを渡して
    前記前駆物質イオンに衝突誘起解離をおこさせ、よってフラグメントイオンを形
    成し、引き続いて質量分析のために前記フラグメントイオンを前記質量分析計に
    渡す工程を含むことを特徴とする請求項24,25,26または33記載の方法
  36. 【請求項36】 前記衝突セルから直角方向に前記イオンを飛行時間型装置
    に渡し、質量分析を行うために前記飛行時間型装置内でイオンをパルス化する工
    程を含むことを特徴とする請求項35記載の方法。
  37. 【請求項37】 検体分子源を備え、前記検体分子源をパルスレーザビーム
    で照射し、よってイオンパルスを生成することにより、イオンを生成する工程を
    含むことを特徴とする請求項24,25,26または33記載の方法。
  38. 【請求項38】 前記レーザからの放射光を吸収するに適した化学種のマト
    リックス及び前記検体分子からなるターゲット材内の前記検体分子が供給されて
    、前記方法が前記パルスレーザで前記マトリックスを照射し、よって前記化学種
    がレーザ光を吸収して前記検体イオンの脱離及びイオン化をおこさせる工程を含
    むことを特徴とする請求項37記載の方法。
  39. 【請求項39】 連続イオン源を設け、先に記述したパルスイオン用のイオ
    ン源と前記連続イオン源の内の1つを選択してイオンを生成する工程を含むこと
    を特徴とする請求項24から38のいずれか記載の方法。
  40. 【請求項40】 複数のパルスイオン源及び複数の連続イオン源の少なくと
    も一方が設けられて、前記方法がイオンを供給するために前記連続イオン源及び
    前記パルスイオン源からいずれか1つを選択する工程をさらに含むことを特徴と
    する請求項39記載の方法。
  41. 【請求項41】 前記工程(4)において、前記イオンを前記質量分析計に
    渡す前に前駆物質イオンを選択し、前記前駆物質イオンの衝突誘起解離を生じさ
    せてフラグメントイオンを形成してから、引き続いて質量分析のために前記フラ
    グメントイオンを前記質量分析計に渡す工程を含むことを特徴とする請求項24
    記載の方法。
  42. 【請求項42】 前駆物質イオンの質量選択及び衝突誘起解離を単一デバイ
    ス内で行う工程を含むことを特徴とする請求項41記載の方法。
  43. 【請求項43】 紫外光または赤外光の内の1つにより、あるいは表面誘起
    解離により衝突誘起解離を生じさせる工程を含むことを特徴とする請求項40記
    載の方法。
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