JP2002339057A - 金属酸化膜および金属酸化膜被覆部材 - Google Patents

金属酸化膜および金属酸化膜被覆部材

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JP2002339057A JP2001308558A JP2001308558A JP2002339057A JP 2002339057 A JP2002339057 A JP 2002339057A JP 2001308558 A JP2001308558 A JP 2001308558A JP 2001308558 A JP2001308558 A JP 2001308558A JP 2002339057 A JP2002339057 A JP 2002339057A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 酸素欠損が少なくかつ内部に殆ど空孔のな
い緻密な金属酸化膜および金属酸化膜被覆部材、さらに
光学被膜および絶縁被膜を提供することである。 【解決手段】 金属酸化物を構成する金属量に対する非
酸化金属の含有量が1モル%以下であり、かつ充填密度
が0.98以上である金属酸化膜、およびこの金属酸化
膜が基材に形成された金属酸化膜被覆部材である。光学
被膜は前記金属酸化膜からなり、可視光領域での反射率
の理論値との差が0.2%以内であるという特性を有
し、絶縁被膜は前記金属酸化膜からなり、絶縁抵抗が1
GΩ以上であるという特性を有する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、新規な金属酸化膜
および金属酸化膜被覆部材、さらにこれを用いた光学被
膜および絶縁被膜に関する。
【従来の技術】
【0002】金属酸化膜には、例えばガラスの表面に反
射防止膜として交互に形成されるSiO2膜や酸化チタ
ン(TiO2、Ti23)膜;屋外用保護板やミラー,
レンズ等の光学部品の表面に親水膜(アナターゼ)とし
て被覆されるTiO2膜;ブラウン管の電子銃の絶縁碍
子に用いられるガラス部材(所謂マルチフォームガラ
ス)の表面を高絶縁膜として被覆したCr23膜;Si
Cセラミックス等から成るレンズ等を成型するためのガ
ラス成型用セラミック型の表面を離型膜として被覆した
Cr23膜等が知られており、その他にも様々な金属酸
化膜が各方面で使用されている。
【0003】金属酸化膜をガラス等の基材表面に形成す
る薄膜形成方法には、イオンプレーティング法が多く採
用される。この方法は、減圧下で、加熱された蒸発源か
ら蒸発した原子をグロー放電または高周波プラズマで部
分的にイオン化し、負バイアス電圧をかけた基材に蒸着
させる方法であって、減圧空間に酸素ガスをリークさせ
ることにより金属酸化膜を蒸着させるものである。ま
た、抵抗加熱によって蒸発源を加熱して気化させ、真空
中で基材表面に付着させる、いわゆる抵抗加熱方式によ
る真空蒸着法によっても金属酸化膜は製造されている。
【0004】これらの方法によって得られる金属酸化膜
のうち、例えば、電気的な絶縁膜として使用される酸化
クロム膜の場合、含有される酸素の割合により抵抗値が
変化することが知られている。このため、薄膜形成時に
酸化を促進させて抵抗値の高い酸化クロム膜を得る試み
が種々なされている。しかしながら、酸素ガス雰囲気中
で酸化クロムを蒸発させてコーティングするだけの真空
蒸着法では、酸化促進するだけの充分な反応エネルギー
が得られないので、酸素欠乏気味となり、結果として抵
抗値は高くならない。また、イオンプレーティングやス
パッタリング法では、酸化反応は促進されるが、キャリ
アーガス等の基材へのアタックがあり、組成制御が困難
である。
【0005】また、プラスチック等の樹脂材料を基材と
して使用する場合、従来方式では密着性が悪く、実用的
な絶縁膜の形成は困難であった。さらに、基材を所望の
低温状態に保持することができないため、基材として使
用できる材料が制限されていた。
【0006】一方、前記したような従来の薄膜形成方法
では、充填密度の高い金属酸化膜が得られないという問
題がある。すなわち、従来のイオンプレーティングやス
パッタリング法で得られる金属酸化膜では、充填密度は
0.8〜0.95程度にすぎない。このような充填密度
の低さ(換言すれば膜内の空孔の多さ)は、膜の光学特
性に影響し、従来の金属酸化膜は、特に可視光領域での
反射率が低く、充分に満足できるものではなかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の主たる目的
は、酸素欠損が少なくかつ内部に殆ど空孔のない緻密な
金属酸化膜および金属酸化膜被覆部材を提供することで
ある。本発明の他の目的は、耐熱温度の低い基材の表面
にも形成可能であり、かつ基材との密着性に優れた金属
酸化膜および金属酸化膜被覆部材を提供することであ
る。本発明のさらに他の目的は、純粋な金属酸化膜に近
い光学特性を有する光学被膜、ならびに絶縁抵抗が非常
に高い絶縁被膜を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、先に基材
に対する密着性に優れた薄膜形成方法を提供すべく鋭意
研究を重ねた結果、 a.チャンバ内の薄膜原料(蒸発材料)を保持したボー
トを直流電圧印加電源の陽極側に接続し、 b.チャンバを電気的に接地されていない浮遊状態と
し、さらに c.プラズマを発生させるためのArガス等のガス供給
量を、薄膜を形成する薄膜形成処理の初期よりも、その
後の期間の方が少なくなるように制御することにより、
(1)基材保持部材とチャンバとの間で高周波放電が起き
ることもなく、チャンバ内のプラズマ中の荷電粒子がチ
ャンバの内壁に引き寄せられることもないため、プラズ
マ中のイオン化した粒子またはプラスに帯電した粒子
は、基材の表面へと効率的に導かれ、プラズマ中の電子
はボート上の蒸発材料へと集中的に導かれることにな
り、(2)蒸発した材料がイオン化した粒子が増加すると
その量だけArガス等の供給ガスを減少させる。そし
て、蒸発材料によるプラズマが安定すると、蒸発材料へ
のプラズマからの電子ビームの照射によって、蒸発材料
はプラズマに吸い上げられるように蒸発し、(3)プラズ
マ中の電子が蒸発材料へ集中的に衝突して、蒸発材料に
蒸発のためのエネルギーを与え、熱エネルギーに代わる
高いエネルギーを得た蒸発材料は、低温でも容易に蒸発
する。その結果、抵抗加熱等による蒸発材料の加熱エネ
ルギーを格段に低減でき、蒸発源からの熱輻射による基
材の温度上昇を抑制でき、低温での薄膜形成が可能にな
るという知見を得た。このような知見に基づいて、本出
願人は先に薄膜形成装置および薄膜形成方法について特
許出願を行った(特願2001−16711)。
【0009】ところが、驚くべきことに、本発明者ら
は、このような装置および方法を用いて得られた金属酸
化膜は、酸素がほぼ完全に金属と結合しているため、殆
ど酸素欠損がなく、かつ内部に空孔がほとんどない充填
密度の高い理想的な金属酸化膜になっているという新た
な事実を見出した。このような理想的な金属酸化膜が得
られる原因は必ずしも明らかではないが、蒸発物質の原
子または分子が基材表面で安定な状態に配列でき、かつ
蒸発材料が酸化促進されるのに充分な反応エネルギーを
電子照射により付与されているためと推測される。
【0010】本発明の金属酸化膜は、かかる知見に基づ
いて完成されたものであって、金属酸化物を構成する金
属量に対する非酸化金属の含有量が1モル%以下であ
り、かつ充填密度が0.98以上であることを特徴とす
る。すなわち、本発明の金属酸化膜は、充填密度が0.
98以上であることにより、殆ど空孔のない充填密度の
高いものになっており、このため膜内部での光散乱が少
なく光の損失が小さくなることから可視光領域での反射
率が高くなり、よって理論値(完全に酸化された金属酸
化膜)との差が0.2%以内であるという優れた光学特
性を有する。
【0011】また、本発明の金属酸化膜は、非酸化金属
の含有量が1モル%以下であることにより、酸素がほぼ
完全に金属と結合しており、酸素欠損がない理想的な金
属酸化膜となっている。このため本発明の金属酸化膜
は、絶縁抵抗が1GΩ以上であるという優れた絶縁特性
を有する。非酸化金属の含有量は0.1モル%以下であ
るのが、より高い絶縁特性を得るうえで好ましい。
【0012】本発明の金属酸化膜は、特に限定されるも
のではないが、酸化クロム,酸化珪素,酸化チタン,酸
化アルミニウム,酸化ジルコニウム,酸化ハフニウムお
よび酸化インジウムから選ばれる少なくとも一種である
のが好ましい。また、本発明の金属酸化膜被覆部材は、
前記金属酸化膜が基材に形成されていることを特徴とす
る。本発明の金属酸化膜は低温で形成可能であるため、
基材の材質が制限されない。従って、ガラス,セラミッ
クス,半導体,金属,プラスチック等が基材として使用
可能である。特に、OHP(オーバーヘッドプロジェク
タ)用シート等に使用されるPET(ポリエチレンテレ
フタレート)等からなる樹脂フィルムを基材として使用
できる。
【0013】また、本発明の金属酸化膜は、プラズマ化
された薄膜材料を100℃以下、好ましくは60℃以下
に保持された基材の表面に蒸着させる薄膜形成方法によ
って形成された金属酸化膜であって、金属酸化物を構成
する金属量に対する非酸化金属の含有量が1モル%以下
であり、かつ充填密度が0.98以上であることを特徴
とする。
【0014】具体的には、本発明の金属酸化膜は、チャ
ンバ内において表面に金属酸化物から成る薄膜を形成す
べき基材を保持する工程と、プラズマを生成させるため
のガスおよび酸素ガスを前記チャンバ内に供給する工程
と、前記チャンバ内の空間に高周波電界を印加する工程
と、前記チャンバ内で薄膜の原料となる蒸発材料を加熱
して蒸発させる工程と、前記チャンバへのプラズマを生
成させるためのガスの供給量を、前記基材に薄膜を形成
する薄膜形成の初期よりも、その後の期間の方が少なく
なるように制御するガス供給量制御工程とを具備し、薄
膜形成の期間中に前記基材の温度を60℃以下に保持す
る薄膜形成方法により形成されたことを特徴とする。こ
の金属酸化膜は、当該金属酸化物を構成する金属量に対
する非酸化金属の含有量が1モル%以下であり、かつ充
填密度が0.98以上である。本発明では、前記基材と
蒸発材料を保持するボートとの間に、このボート側を陽
極側として直流電圧を印加する工程を含むのが好まし
い。また、前記チャンバは、電気的に浮遊状態とされて
いるのが好ましい。
【0015】また、本発明は、金属酸化物を構成する金
属量に対する非酸化金属の含有量が1モル%以下であ
り、かつ充填密度が0.98以上である金属酸化膜から
なり、可視光領域での反射率の理論値との差が0.2%
以内であることを特徴とする光学被膜を提供するもので
ある。前記した本発明の金属酸化膜が有する光学特性を
利用したものである。光学被膜としては、光反射膜、反
射防止膜、各種のダイクロイックフィルター膜、反射増
加膜、赤外線カットフィルター膜、各種コールドフィル
ター膜、光学用途に使用される金属膜の保護膜等が例示
される。
【0016】さらに、本発明は、金属酸化物を構成する
金属量に対する非酸化金属の含有量が1モル%以下であ
り、かつ充填密度が0.98以上である金属酸化膜から
なり、絶縁抵抗が1GΩ以上であることを特徴とする絶
縁被膜を提供するものである。前記した本発明の金属酸
化膜が有する絶縁特性を利用したものである。
【0017】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の金属酸化膜は、金属酸化物を構成する金属量に
対する非酸化金属の含有量が1モル%以下であり、かつ
充填密度が0.98以上である。金属酸化膜中の非酸化
金属の含有量(モル%)は、後述の実施例に記載のよう
にX線光電子分光分析法で測定される。非酸化金属の含
有量が1モル%を超える場合は、酸素欠損が多くなり、
絶縁抵抗等の特性が低下する。
【0018】また、金属酸化膜の充填密度は、(空孔を
除く膜の実質部分の体積)/(膜の全体積)で表される
充填率を意味する。測定は、耐湿試験にて行われる。す
なわち、温度60℃、湿度90%の環境下に金属酸化膜
を24〜120時間放置し、放置前と放置後とで反射率
の変化を測定し、反射率の変化から屈折率の変化を求め
る。屈折率の変化が小さいほど、充填密度が大きいこと
になる。この方法は、膜内の空孔内に浸入した水分の影
響で反射率が変化することを利用したものである。本発
明の金属酸化膜は屈折率の変化が0.2%以内であるた
め、充填密度は0.98以上と判断される。ちなみに、
通常の光学薄膜の場合で充填密度は0.8〜0.95で
ある。
【0019】また、本発明の金属酸化膜は、基材との密
着性や耐久性にも優れている。このように本発明の金属
酸化膜は酸素欠損および空孔が殆どない緻密で耐久性に
優れた酸化膜となっている。
【0020】次に、本発明の金属酸化膜を作製する方法
について説明する。図1はこの薄膜形成に使用する装置
の概略を示している。チャンバ11内の下部には、蒸発
材料9をボート1に収容保持した蒸発源20が配置され
ている。この蒸発源20に対向するように、チャンバ1
1内の上部には、基材10を保持するための基材保持部
2が設けられている。
【0021】基材保持部2は、導電性材料からなってい
て、高周波電力供給電源(RF)5からの高周波電力
が、マッチング装置(MN)4および直流遮蔽フィルタ
としてのコンデンサ7を介して印加されるようになって
いる。なお、コンデンサ7は、可変コンデンサを用いて
マッチング回路の一部として機能させてもよい。さら
に、基材保持部2には、直流電圧印加電源(DC)6の陰
極側が、高周波遮蔽フィルタとしてのコイル8を介して
接続されている。高周波電力供給電源5の基材保持部2
とは反対側の端子は、直流電圧印加電源6の陽極側と接
続されていて、これらは接地されている。
【0022】ボート1は、例えば、それ自身が電気抵抗
の高い材料からなっていて、例えば交流電源からなる加
熱電源3からの電力供給を受けて、蒸発材料9を蒸発さ
せるための熱を発生する。ボート1には、さらに、直流
電圧印加電源6の陽極側が接続されている。
【0023】チャンバ11内の空間は、排気ダクト12
および排気バルブ13を介して真空ポンプ14によって
排気され、薄膜形成処理期間中において、所定の真空状
態とされる。チャンバ11内に反応性ガスとして酸素ガ
ス、およびプラズマを生成するための不活性ガス(例え
ばアルゴンガス等)を供給するために、チャンバ11に
は、流量制御装置(MFC)24およびガス供給配管2
5を介して、不活性ガス供給源21および反応性ガス供
給源23が接続されている。不活性ガス供給源21およ
び反応性ガス供給源23からの供給/停止は、弁21a
および23aをそれぞれ開閉することによって行われ
る。
【0024】チャンバ11内の真空度は、真空度計15
によって計測され、この真空度計15の出力に基づき、
流量制御装置24は、マイクロコンピュータ等からなる
制御装置30によって制御されるようになっている。こ
れにより、反応性ガス供給源23および不活性ガス供給
源21からのガス供給量は、チャンバ11内の真空度が
所定値に保持されるように制御される。本発明の金属酸
化膜を得るためには、チャンバ11内の膜形成時の真空
度は1.0×10-2〜5.0×10-2Pa、好ましくは
2.0×10-2〜3.0×10-2Paであるのがよい。
このとき、酸素ガス濃度は約1.0×10-2〜3.0×
10-2Paの範囲内で調整される。
【0025】基材10の表面における薄膜の形成速度を
計測するために、基材保持部2に関連して膜厚モニタ1
7が設けられている。この膜厚モニタ17の出力信号
は、制御装置30に入力されていて、この制御装置30
は、膜厚モニタ17の出力に基づいて加熱電源3の出力
を制御するようになっている。こうして、薄膜の形成速
度が所望の値となるように、ボート1への通電量が制御
され、蒸発材料9の蒸発量が調整される。本発明の金属
酸化膜を得るためには、当該金属酸化膜の形成速度は5
〜20Å/秒、好ましくは13〜18Å/秒であるのが
よい。
【0026】高周波電力供給電源5は、例えば周波数1
0〜50MHzの高周波電源でよいが、一般的な13.
56MHzに設定すればよく、放電電極としての基材保
持部2の単位面積(cm2)当たり出力50〜800m
W、好ましくは85〜170mWの高周波電力を基材保
持部2に印加する。これに応じた高周波電界がチャンバ
11内で形成されることによって、チャンバ11内では
ガス供給配管25から供給されるガスおよび蒸発材料9
から蒸発した蒸発物からなるプラズマが生成することに
なる。このプラズマ中のイオン化された粒子のうち、正
に帯電したものは、直流電圧印加電源6から基材保持部
2に印加された直流バイアスによって、基材10の表面
へと引き寄せられる。直流電圧印加電源6からの印加電
圧は100〜400V、好ましくは180〜230Vで
あるのがよい。
【0027】一方、プラズマ中の解離した電子は、直流
電圧印加電源6の陽極側に接続されたボート1へと引き
寄せられることになる。このとき、蒸発源20からは蒸
発材料9が継続的に蒸発しているので、蒸発粒子と電子
との衝突により、プラズマの足が蒸発源20に下りたよ
うな形状の発光体が蒸発源20の近傍に見られる。そし
て、蒸発源20の近傍に集まった電子は、接地され陽極
側に接続されているボート1に吸い込まれ、ボート1上
の蒸発材料9に衝突する。これによって、蒸発材料9
は、ボート1による加熱と、電子の衝突とによってその
蒸発が促進されることになる。すなわち、デポジション
アシスト効果が得られる。
【0028】図1に示されているように、チャンバ11
は、直流電圧印加電源6および高周波電力供給電源5の
いずれにも接続されておらず、また接地もされていな
い。すなわち、チャンバ11は、電気的に浮遊状態とな
っている。このため、基材保持部2とチャンバ11との
間での高周波放電が起こることもなく、チャンバ11内
のプラズマ中の荷電粒子がチャンバ11の内壁に引き寄
せられることもない。従って、プラズマ中の陽イオン化
した粒子またはプラスに荷電した粒子は、基材10の表
面へと効率的に導かれ、プラズマ中の負の荷電粒子であ
る電子は、ボート1上の蒸発材料9へと集中的に導かれ
ることになる。これにより、良好な薄膜形成を実現でき
るとともに、電子ビームによる蒸発材料9の蒸発促進を
効率的に行える。さらには、チャンバ11の内壁に蒸発
材料が付着することを抑制することができる。
【0029】チャンバ11内においてプラズマが安定す
ると、蒸発材料9へのプラズマから電子ビームの照射に
よって、蒸発材料9はプラズマに吸上げられるように蒸
発する。そこで、基材10に付着する蒸発材料9の付着
速度を一定に保持するために、膜厚モニタ17の出力に
基づき、制御装置30は、加熱電源3の出力を下げる。
すなわち、ボート1への通電電流または通電電圧を下げ
る。これにより、蒸発速度が調節される。
【0030】プラズマから供給される電子ビームにより
蒸発材料9の蒸発が促進されるので、ボート1の加熱電
流値は低く抑えることができるから、比較的低い加熱温
度で蒸発材料9の蒸発を継続して維持することができ、
プラズマの作用を利用した蒸着による薄膜形成を行え
る。
【0031】この実施形態における薄膜形成の特徴は、
Ar等の不活性ガスのチャンバ11への供給方法にあ
る。すなわち、この実施形態では、薄膜形成の初期段階
においては、ガス供給配管25から比較的大きな流量で
チャンバ11へガスが供給され、蒸発材料9からの蒸発
が活発になると、ガス供給配管25からのガス供給量が
減少させられ、これにより、蒸発材料9からの蒸発が活
発でない薄膜形成の初期段階においては、ガス供給配管
25から供給される不活性ガスのプラズマがチャンバ1
1内に形成される。蒸発材料9からの蒸発が活発になる
と、ガス供給配管25からのガス供給量が減少し、蒸発
材料9からの蒸発粒子が支配的となった組成のプラズマ
がチャンバ11内に形成されるに至る。
【0032】このようにして、薄膜形成の初期段階に不
活性ガスをチャンバ11に導入することにより、チャン
バ11内に安定したプラズマを速やかに形成することが
できる。これによって、プラズマの作用を利用した薄膜
形成を初期段階から行うことができるので、良好な密着
性の薄膜を基材10の表面に形成することができる。
【0033】図2は、薄膜形成のより具体的なプロセス
を説明するための図である。この図2には、金属酸化膜
を基材10の表面に形成する場合に、不活性ガス供給源
21から不活性ガスをチャンバ11内に供給しながら薄
膜形成を行うプロセスの一例が記載されている。具体的
には、図2(a)は不活性ガス供給量の時間変化を示し、
図2(b)はチャンバ11内の真空度の時間変化を示し、
図2(c)はボート1の加熱電流値の時間変化を示してい
る。
【0034】薄膜形成処理の開始前の期間T1には、制
御装置30は、排気バルブ13を開き、真空ポンプ14
によりチャンバ11内の雰囲気が排気されて、チャンバ
11内の真空度が例えば約10-3Paに保持される。こ
の状態から、制御装置30は、時刻t10に弁21a,
23aを開いて、不活性ガス供給源21および反応性ガ
ス供給源23からのガスの供給を開始させる。このガス
供給が開始された後には、制御装置30は、真空度計1
5の出力信号をモニタすることによって、チャンバ11
内の真空度を、例えば2×10-2Paに保持するように
流量制御装置24を制御する。
【0035】これによって、ボート1への通電が開始さ
れて蒸発材料9が加熱される期間T2には、高周波電力
供給電源5から印加される高周波電界によって、チャン
バ11内でプラズマが生成される。このプラズマ中のイ
オン化された不活性ガスは、直流電圧印加電源6から基
材保持部2に与えられている直流バイアスによって、基
材10へと導かれる。この不活性ガスが基材10に衝突
することによって、期間T2中に基材10の望ましくな
い昇温が生じる場合には、基材10の下方にシャッタ1
8を設けて、基材10に向かう不活性ガスを阻止すれば
よい。
【0036】期間T2には、制御装置30は加熱電源3
を制御して、ボート1への通電を開始する。これに伴っ
て、ボート1への加熱電流値が上昇し、期間T2の終期
には、例えば150Aに達するようにする。チャンバ1
1内におけるプラズマが安定する時刻t11において、
制御装置30の制御下にある駆動装置(図示せず)によ
ってシャッタ18が開かれ、これにより、薄膜の形成が
開始される。蒸発材料9の蒸発により、蒸発粒子がプラ
ズマ中へと導かれることになるから、一定の流量でガス
供給配管25からチャンバ11内にガスを供給すれば、
チャンバ11内の真空度が下がる。
【0037】ところが、制御装置30は、チャンバ11
内の真空度が一定値(例えば2×10-2Pa)に保持さ
れるように流量制御装置24を制御して、ガス供給配管
25を介するガス供給量を調整する。その結果、蒸発材
料9からの蒸発量の増大に伴って、参照符号Aで示すよ
うに、チャンバ11への不活性ガス導入量が減少してい
くため、参照符号Cで示すような時間変化を示すように
制御される。従って、薄膜形成が行われている期間T3
の初期においては、プラズマの組成は、不活性ガスに支
配されているが、このプラズマの組成は、速やかに蒸発
材料9の蒸発物によって支配された組成へと変化してい
く。また、蒸発材料9からの蒸発量の増大に伴って、チ
ャンバ11への酸素ガス導入量は増加することになる。
【0038】一方、プラズマからの電子の供給によっ
て、蒸発材料9からの蒸発が促進されるので、膜厚モニ
タ17の出力に基づくフィードバック制御によって、加
熱電源3からボート1に供給される電流が参照符号Bで
示すように減少することになる。例えば約2〜3秒の期
間を経て、電流値は150Aから80Aへと低下する。
このため、蒸発材料は、通常の蒸着やイオンプレーティ
ングにおけるよりも低温状態でその蒸発が進行すること
になるから、蒸発源20からの輻射熱によって基材10
が過度に昇温されることがない。
【0039】以上のように、この実施形態によれば、チ
ャンバ11に不活性ガスを導入した状態で薄膜形成を開
始することにより、薄膜形成の初期段階からチャンバ1
1内に良好なプラズマを生成させることができる。これ
により、蒸発材料は初期段階からプラズマの作用を受け
ながら基材10に効率的に導かれる。その結果、密着性
の良好な金属酸化膜を基材10の表面に効率的に形成す
ることができる。この金属酸化膜形成方法では、基材1
0は100℃以下、好ましくは60℃以下に保持される
ので、ガラス,セラミックス,半導体材料,金属材料ま
たはプラスチック等の基材、あるいは樹脂フィルム等の
基材に金属酸化膜を形成するのに好適である。例えばポ
リカーボネートの耐熱温度は120〜130℃、ポリメ
タクリル酸メチルの耐熱温度は80℃程度であるので、
これらの基材に対して金属酸化膜を形成することができ
る。
【0040】図3は、本発明で使用される薄膜形成装置
の他の例を示している。同図において、図1と同じ構成
部材には同一符号を付し、説明を省略する。この装置
は、チャンバ11内に帯状のフィルム基材10A(樹脂
フィルム等)を巻回した繰り出しローラ31と、この繰
り出しローラ31から繰り出されたフィルム基材10A
を巻き取るための巻き取りローラ32とが配置され、そ
れらの間には基材保持部としての高周波シャフト電極2
Aが配置されている。また、高周波シャフト電極2Aの
両側には補助シャフト33,34が配置される。
【0041】高周波シャフト電極2Aは、丸棒状の導電
部材からなり、高周波電力供給電源5からの高周波電力
および直流電圧印加電源6からの直流バイアスが印加さ
れる。繰り出しローラ31および巻き取りローラ32の
下方には、高周波シャフト電極2Aの下面側にフィルム
基材10Aを露出させるための開口35aを有する防着
板35が配置される。また、蒸発源20に関連して、ボ
ート1へ蒸発材料を供給するためのコート材料供給器3
6が配置される。
【0042】このような構成により、巻き取りローラ3
2によりフィルム基材10Aを巻き取りながら、繰り出
しローラ31から繰り出されるフィルム基材10Aの表
面に金属酸化膜の形成を連続的に行うことができる。そ
の他は図1、図2に示すのと同様である。
【0043】このように、この金属酸化膜形成方法によ
れば、チャンバ11内へプラズマを形成するためのガス
が供給されるので、薄膜形成初期においてチャンバ11
内に速やかにプラズマを生成することができる。これに
よって、薄膜形成の初期段階から、プラズマの作用を利
用した金属酸化膜の作製が可能となり、基材10との密
着性に優れた金属酸化膜を得ることができる。また、チ
ャンバ11内へのガス供給量は、薄膜形成初期に多く、
その後は少なくするため、チャンバ11内に供給された
不活性ガスの原子や分子が基材に衝突することによる基
材10の温度上昇を抑制することができる。
【0044】さらに、直流印加電圧電源6から印加され
る直流電界により、プラズマ中のプラスに帯電した粒子
または陽イオン化した粒子は、基材10方向へと加速さ
れて飛来し、基材10と衝突し、基材10表面に堆積す
る。これによって、被膜の形成がなされることになる。
一方、負の電荷をもつ電子は、陽極側となるボート1へ
と加速されて、ボート1上の蒸発材料9に集中的に衝突
して、蒸発材料9に蒸発のためのエネルギーを与える。
こうして、熱エネルギーに代わる高いエネルギーを得た
蒸発材料9は、低温でも容易に蒸発して、チャンバ11
内のプラズマ形成領域へと蒸発していく。すなわち、チ
ャンバ11内に形成されたプラズマ中の電子が蒸発材料
9へと導かれ、これによって材料の蒸発を促進する、い
わゆるデポジションアシスト効果が得られるため、抵抗
加熱等による蒸発材料9の加熱エネルギーを格段に低減
することができる。その結果、基材10の温度上昇を抑
制することができるので、より低温状態での薄膜形成が
可能になる。
【0045】本発明の金属酸化膜の厚さは、目的とする
光学特性や絶縁特性その他の要求される特性により異な
るが、一般的には10〜200nmである。このような
厚さの金属酸化膜は、約2〜10分程度で形成すること
ができる。この間、基材10表面の温度は100℃を超
えることはない。また、蒸発材料9からの蒸発量は、加
熱手段に与えるエネルギーおよび直流電圧印加電源の出
力を前記範囲内に制御することによって調整される。ま
た、蒸発材料9の粒子の基材10への衝突エネルギー
は、直流電圧印加電源6の出力を前記範囲内に制御する
ことによって調整される。これにより、蒸着物質には、
基材10表面への単なる堆積でなく、基材10表面に形
成された蒸着物質層の原子または分子配列を安定な状態
に再配列させるのに充分なエネルギーを与えることがで
きる。さらに、蒸着物質の粒子に、基材10内に浸透し
て順応させるのに充分なエネルギーも与えることができ
る。
【0046】このため、本発明では、酸素欠損が少な
く、緻密で密着性に優れた被膜となり、非酸化金属の含
有量が1モル%以下でかつ充填密度が0.98以上とい
う、殆ど純粋な金属酸化物に近い金属酸化膜が得られ
る。本発明の金属酸化膜としては、例えば酸化クロム,
酸化珪素,酸化チタン,酸化アルミニウム,酸化ジルコ
ニウム,酸化ハフニウムおよび酸化インジウムから選ば
れる少なくとも一種が挙げられる。
【0047】これらの金属酸化膜を基材10の表面に形
成した本発明の金属酸化膜被覆部材は、その優れた特性
を利用して、下記に例示するような様々な用途に好適に
使用することができる。
【0048】(1)基材10がガラスの場合、例えば、反
射防止膜としてSiO2膜,TiO2膜を交互に形成した
光学レンズ,プリズム,ハーフミラー等の光学部品,窓
材,画像装置の画面;親水膜(アナターゼ)としてTi
2膜を被覆した屋外用保護板、ミラー,レンズ等の光
学部品;高絶縁膜としてCr23膜を被覆した、ブラウ
ン管の電子銃の絶縁碍子に用いられるマルチフォームガ
ラス等。 (2)基材10がセラミックスの場合、本発明の金属酸化
膜被覆部材は、例えば、離型膜としてCr23膜等を被
覆した、SiCセラミックス等からなるレンズ成形用セ
ラミック型等。 (3)基材10が半導体材料の場合、Si,GaAs等の
半導体基板上に絶縁膜としてSiO2膜,Al23膜等
を形成した集積回路素子,半導体レーザ等の光半導体素
子;Si基板上に絶縁膜や保護膜としてSiO2膜等を
形成した、半導体レーザや光ファイバを搭載するパッシ
ブアラインメント用の搭載用基板等。 (4)基材10がプラスチックの場合、反射防止膜として
SiO2膜,ZrO2膜,Al23膜,TiO2膜等を形
成したプラスチックレンズ,偏光シート等。 (5)基材10が樹脂フィルムの場合、保護膜としてSi
2膜,ZrO2膜,Al23膜,TiO2膜等が形成さ
れたOHPシート等。 (6)基材10が金属材料の場合、離型膜としてCr23
膜等を被覆したガラス成形用金型等。 (7)その他、基材10がニオブ酸リチウム,水晶等の圧
電結晶の場合、それらの基板上に保護膜としてSiO2
膜等を形成した圧電素子等。
【0049】特に、本発明の金属酸化膜は、可視光領域
での反射率の理論値との差が0.2%以内であるという
優れた光学特性を有していることから、光反射膜、反射
防止膜等の光学被膜として使用するのに最適である。従
来、金属酸化膜単独で可視光領域での反射率の理論値と
の差が0.2%以内のものは知られていない。光学被膜
として使用するのに特に適した金属酸化膜としては、例
えば酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウ
ム、酸化ハフニウム、酸化ケイ素等の周期律表の3(3
A)族、4(4A)族、5(5A)族、6(6A)族、
13(3B)族、14(4B)族の金属の酸化膜等が挙
げられる(なお、括弧内は旧族番号である)。
【0050】また、本発明の金属酸化膜は、絶縁抵抗が
1GΩ以上であるという優れた特性を有していることか
ら、絶縁被膜として使用するのに最適である。従来、金
属酸化膜単独で絶縁抵抗が1GΩ以上のものは知られて
いない。絶縁被膜として使用するのに特に適した金属酸
化膜としては、例えば酸化クロム等が挙げられる。
【0051】
【実施例】以下、実施例および比較例を挙げて、本発明
を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定
されるものではない。
【0052】実施例1(酸化クロム膜の作製) 図1に示す薄膜形成装置を使用し、図2に示すプロセス
にて酸化クロム膜を作製した。作製条件を以下に示す。 基材10:厚さ3mmのガラス板 蒸発材料9:クロム(純度99.9%) チャンバ11内への導入ガス:Arガスおよび酸素ガス 高周波電力供給電源5からの基材保持部2への印加電
力:周波数13.56MHzで85mW/cm2(基材
保持部2の単位面積当たりの印加電力) 直流印加電源6:陰極側を基材保持部2に接続し、陽極
側をボート1に接続 直流印加電源6から基材保持部2への印加電圧:230
V チャンバ11:接地されていない、電気的に浮遊状態 金属酸化膜の形成速度:15Å/秒 (A)金属酸化膜の形成の初期段階(図2の期間T2) チャンバ11内の真空度:2×10-2Paで一定 加熱電源3からボート1への通電電流:350A(T2
終期) (B)金属酸化膜の形成段階(図2の期間T3) チャンバ11内の真空度:2×10-2Paで一定 加熱電源3からボート1への通電電流:230A(T3
終期) かくして厚さ1500Åの酸化クロム膜を基材10表面
に作製することができた。この薄膜作製の全期間を通じ
て基板10の表面温度は、40℃以上で反応するサーモ
シールが反応しなかったことから40℃未満に保持され
ていた。
【0053】比較例1 図4に示す通常のイオンプレーティング装置を用いて基
材53(厚さ3mmのガラス板)の表面に厚さ1500
Åの酸化クロム膜を作製した。この装置は、高周波電力
供給電源50に接続されたアンテナ51付近でプラズマ
を発生させるようにしたものである(印加電力は周波数
13.56MHzで400W)。チャンバ52内にはA
rガスおよび酸素ガスが導入され、真空度は2×10-2
Paに設定されている。基材53とチャンバ52とは同
電位で接地されており、セルフバイアスで基材53の表
面に酸化クロム膜が形成される。蒸発材料54(クロ
ム)は電子銃55の電子ビーム照射にて蒸発される。
【0054】比較例2 図5に示す通常の抵抗加熱方式の真空蒸着装置を用いて
基材63(厚さ3mmのガラス板)の表面に厚さ150
0Åの酸化クロム膜を作製した。この装置は、真空度が
2×10-2Paに設定されたチャンバ62内で蒸発材料
64(酸化クロム)を交流電源65からの加熱電流35
0Aにて加熱して気化させ、基材63に蒸着するように
したものである。
【0055】実施例1および比較例1,2で得た各酸化
クロム膜について、以下の評価試験を行った。
【0056】1.酸化クロム膜の酸化程度 (1‐1)測定方法 作製した膜厚約1500Åの酸化クロム膜を用いて、X
線光電子分光分析装置にて酸化クロムと金属クロム(C
r2p)のX線回折ピークを測定し、酸化クロムと非酸
化クロムのそれぞれの回折ピークの面積比からモル比を
求めた。すなわち、酸化クロムの回折ピークの面積をC
rp、非酸化クロムの回折ピークの面積をCr2pとし
た場合、Cr2p/Crpからモル比を求め、非酸化ク
ロムの含有量を算出した。 (1‐1)測定結果 実施例1の酸化クロム膜では、酸素が結合していない非
酸化クロムの含有量は、測定限界である0.1モル%を
下回っていた。一方、比較例1では非酸化クロムの含有
量が約5モル%であった。また、比較例2では非酸化ク
ロムの含有量が約40モル%であった。この結果から、
実施例1の酸化クロム膜は、比較例1,2に比較して酸
素欠損が非常に少ないことがわかる。
【0057】2.基材との密着性 (2‐1)測定方法 MIL規格のMIL−C−48497Aに準拠した摩耗
試験を行った。すなわち、当該規格に合致する摩耗試験
用標準消しゴム(MIL−E−12397)を用いて、
2ポンドの荷重を加えながら、コーティング面を擦る
「厳しい摩耗試験方法」(MIL−C−48497Aの
4.5.5.1章)を実施した。 (2‐1)測定結果 実施例1の酸化クロム膜では、擦り回数が平均120回
(試料数:2)で数本の傷と消しゴムの摩耗痕跡が現れ
た。一方、比較例1では20回の摩耗試験で膜傷が多数
見られた。また、比較例2では10回の摩耗試験で多数
の傷が発生した。この結果から、実施例1の酸化クロム
膜は、比較例1,2と比較して、密着性および耐久性に
優れていることがわかる。
【0058】3.絶縁性 (3‐1)測定方法 絶縁テスターを用いて酸化クロム膜の抵抗値を測定し
た。 (3‐2)測定結果 実施例1の酸化クロム膜では、測定限界の1GΩ以上で
あった。これに対して、比較例1では200〜300k
Ω、比較例2では25〜30Ωであった。この結果か
ら、実施例1の酸化クロム膜は、比較例1,2と比較し
て、高い絶縁抵抗を有していることがわかる。
【0059】実施例2(酸化チタン膜の作製) 蒸発材料としてチタンを使用し、薄膜形成条件のうち、
高周波電力供給電源5の出力を78mW/cm2とした
他は、実施例1と同様にして、n×d=3λ0/4(た
だし、n:酸化チタンの屈折率、d:酸化チタンの厚
さ、λ0:580nm)となるように酸化チタン膜を基
材の表面に形成した。 1.透過率および反射率 実施例2で得た酸化チタン膜について、可視光領域での
透過率および反射率を測定した。測定は光度計((株)
日立製作所製の分光光度計U−4000)にて行った。
その結果を図6に示す。同図に示すように、透過率は純
粋な酸化チタンの理論値とほぼ一致していた。理論値
は、基礎物性図表(共立出版社、昭和47年5月15日
発行)に記載の屈折率およびオプトロン社発行のコート
材料のカタログ値から算出した反射率の値である。な
お、実施例2で得た反射率から理論値を引いた絶対値
は、平均0.15%であり、0.2%を超えることはな
かった。
【0060】2.充填密度 実施例2で得た酸化チタン膜の充填密度を耐湿試験にて
測定した。すなわち、この測定方法は、温度60℃、湿
度90%の環境下に金属酸化膜を24時間放置し、放置
前と放置後とで反射率の変化を測定し、反射率の変化か
ら屈折率の変化を求めるものである。屈折率の変化が小
さいほど、充填密度が大きいことになる。例えば屈折率
nsのガラス板にコートした場合、反射率Rは次式で表
される。
【数1】 ただし、nf: 金属酸化膜の屈折率、 δ=(2π/λ)nf・dcosθ、 λ:光波長、 d:金属酸化膜の厚さ、 θ:光の入射角 このRの測定ピーク値から式:nf2=ns(1+R1/2)/(1
‐R1/2)によってnfの測定値が求められる。一方、充填
密度Pに関する金属酸化膜の屈折率は次式で表される。
【数2】 ただし、nm:金属酸化膜の実体部分の屈折率、 nv:気孔内の水蒸気の屈折率で1.33 このnfの測定値と充填密度Pに関する屈折率(理論値)
の差からPを求める。例えば、Pを1.00、0.9
9、0.98等と変化させて、式:nf=Pnm+(1‐
P)nvに代入していき、この理論値と測定値が一致し
たときのPを金属酸化膜の充填密度として特定すること
によって求められる。測定の結果、実施例2の酸化チタ
ン膜では、反射率の変化が0.2%以内であったため、
充填密度は0.98以上、より正確には0.99以上と
判断される。一方、比較例1において、蒸発源としてク
ロムに代えてチタンを使用し、薄膜形成速度を5Å/秒
とした他は比較例1と同様にして酸化チタン膜を作製し
た(比較例3)。また、比較例2において、蒸発源とし
てクロムに代えてチタンを使用し、薄膜形成速度を5Å
/秒とした他は比較例2と同様にして酸化チタン膜を作
製した(比較例4)。これらの比較例3,4では、双方
とも反射率の変化が3〜6%程度であるため、充填密度
は0.85〜0.95と判断される。これらの結果か
ら、実施例2の酸化チタン膜は、比較例3,4と比較し
て、空孔の殆どない緻密な膜であることがわかる。
【0061】
【発明の効果】本発明の金属酸化膜は、酸素欠損が少な
くかつ内部に殆ど空孔のない緻密な膜であり、密着性や
耐久性にも優れているという効果がある。また、本発明
によれば、純粋な金属酸化膜に近い光学特性を有する光
学被膜、ならびに絶縁抵抗が非常に高い絶縁被膜が得ら
れるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の金属酸化膜を製造するための薄膜形成
装置の一例を示す概念図である。
【図2】薄膜形成のプロセスを示す説明図である。
【図3】薄膜形成装置の他の例を示す概念図である。
【図4】比較例1で金属酸化膜を形成するために使用し
た通常のイオンプレーティング装置を示す概略図であ
る。
【図5】比較例2で金属酸化膜を形成するために使用し
た抵抗加熱方式の真空蒸着装置を示す概略図である。
【図6】実施例2の酸化チタン膜の透過率および反射率
を示すグラフである。
【符号の説明】
1 ボート 3 加熱電源 4 マッチング装置 5 高周波電力供給電源 6 直流電圧印加電源 9 蒸発材料 10 基材 11 チャンバ 20 蒸発源
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) C03C 17/245 C03C 17/245 A C23C 14/10 C23C 14/10 14/32 14/32 Z Fターム(参考) 4F100 AA17A AA19A AA20A AA21A AA22A AA27A AA33A AB01A AB01B AD00B AG00B AK01B BA02 EH66 EH662 EJ61 EJ611 JA13A JG04 JG04A JL11 JN06A YY00A 4G059 AA08 AC30 EA01 EA03 EA04 EA05 EB02 4K029 AA04 AA06 AA09 AA11 AA24 AA25 BA43 BA44 BA45 BA46 BA48 BC07 CA02 CA04 CA13 EA08

Claims (20)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】金属酸化物を構成する金属量に対する非酸
    化金属の含有量が1モル%以下であり、かつ充填密度が
    0.98以上であることを特徴とする金属酸化膜。
  2. 【請求項2】可視光領域での反射率の理論値との差が
    0.2%以内である請求項1記載の金属酸化膜。
  3. 【請求項3】絶縁抵抗が1GΩ以上である請求項1また
    は2記載の金属酸化膜。
  4. 【請求項4】酸化クロム,酸化珪素,酸化チタン,酸化
    アルミニウム,酸化ジルコニウム,酸化ハフニウムおよ
    び酸化インジウムから選ばれる少なくとも一種である請
    求項1〜3のいずれかに記載の金属酸化膜。
  5. 【請求項5】請求項1〜4のいずれかに記載の金属酸化
    膜が基材に形成されていることを特徴とする金属酸化膜
    被覆部材。
  6. 【請求項6】前記基材がガラス,セラミックス,半導
    体,金属またはプラスチックである請求項5記載の金属
    酸化膜被覆部材。
  7. 【請求項7】前記基材が樹脂フィルムである請求項5記
    載の金属酸化膜被覆部材。
  8. 【請求項8】プラズマ化された薄膜材料を100℃以下
    に保持された基材の表面に蒸着させる薄膜形成方法によ
    って形成された金属酸化膜であって、金属酸化物を構成
    する金属量に対する非酸化金属の含有量が1モル%以下
    であり、かつ充填密度が0.98以上であることを特徴
    とする金属酸化膜。
  9. 【請求項9】前記基材の温度が60℃以下の状態で形成
    された請求項8記載の金属酸化膜。
  10. 【請求項10】可視光領域での反射率の理論値との差が
    0.2%以内である請求項8または9記載の金属酸化
    膜。
  11. 【請求項11】絶縁抵抗が1GΩ以上である請求項8ま
    たは9記載の金属酸化膜。
  12. 【請求項12】酸化クロム,酸化珪素,酸化チタン,酸
    化アルミニウム,酸化ジルコニウム,酸化ハフニウムお
    よび酸化インジウムから選ばれる少なくとも一種である
    請求項8〜11のいずれかに記載の金属酸化膜。
  13. 【請求項13】チャンバ内において表面に金属酸化物か
    ら成る薄膜を形成すべき基材を保持する工程と、プラズ
    マを生成させるためのガスおよび酸素ガスを前記チャン
    バ内に供給する工程と、前記チャンバ内の空間に高周波
    電界を印加する工程と、前記チャンバ内で薄膜の原料と
    なる蒸発材料を加熱して蒸発させる工程と、前記チャン
    バへのプラズマを生成させるためのガスの供給量を、前
    記基材に薄膜を形成する薄膜形成の初期よりも、その後
    の期間の方が少なくなるように制御するガス供給量制御
    工程とを具備し、薄膜形成の期間中に前記基材の温度を
    60℃以下に保持する薄膜形成方法により形成されたこ
    とを特徴とする金属酸化膜。
  14. 【請求項14】金属酸化物を構成する金属量に対する非
    酸化金属の含有量が1モル%以下であり、かつ充填密度
    が0.98以上である請求項13記載の金属酸化膜。
  15. 【請求項15】前記基材と蒸発材料を保持するボートと
    の間に、このボート側を陽極側として直流電圧を印加す
    る工程を含む薄膜形成方法により形成された請求項13
    または14記載の金属酸化膜。
  16. 【請求項16】前記チャンバが、電気的に浮遊状態とさ
    れている薄膜形成方法により形成された請求項13〜1
    5のいずれかに記載の金属酸化膜。
  17. 【請求項17】金属酸化物を構成する金属量に対する非
    酸化金属の含有量が1モル%以下であり、かつ充填密度
    が0.98以上である金属酸化膜からなり、可視光領域
    での反射率の理論値との差が0.2%以内であることを
    特徴とする光学被膜。
  18. 【請求項18】前記金属酸化膜の金属が周期律表の3
    族、4族、5族、6族、13族および14族の金属から
    選ばれる少なくとも1種である請求項17記載の光学被
    膜。
  19. 【請求項19】金属酸化物を構成する金属量に対する非
    酸化金属の含有量が1モル%以下であり、かつ充填密度
    が0.98以上である金属酸化膜からなり、絶縁抵抗が
    1GΩ以上であることを特徴とする絶縁被膜。
  20. 【請求項20】前記金属酸化膜が酸化クロムである請求
    項19記載の絶縁被膜。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2011021265A (ja) * 2009-07-21 2011-02-03 Mitsubishi Materials Corp プラズマ蒸着方法及び該方法により形成された蒸着膜
JP5685337B1 (ja) * 2014-05-02 2015-03-18 山田医療照明株式会社 照明装置及び照明装置の製造方法

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