JP4022849B2 - 金属酸化膜被覆部材の製造方法 - Google Patents

金属酸化膜被覆部材の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な金属酸化膜被覆部材の製造方法に関する。
【0002】
金属酸化膜には、例えばガラスの表面に反射防止膜として交互に形成されるSiO2膜や酸化チタン(TiO2、Ti23)膜;屋外用保護板やミラー,レンズ等の光学部品の表面に親水膜(アナターゼ)として被覆されるTiO2膜;ブラウン管の電子銃の絶縁碍子に用いられるガラス部材(所謂マルチフォームガラス)の表面を高絶縁膜として被覆したCr23膜;SiCセラミックス等から成るレンズ等を成型するためのガラス成型用セラミック型の表面を離型膜として被覆したCr23膜等が知られており、その他にも様々な金属酸化膜が各方面で使用されている。
【0003】
金属酸化膜をガラス等の基材表面に形成する薄膜形成方法には、イオンプレーティング法が多く採用される。この方法は、減圧下で、加熱された蒸発源から蒸発した原子をグロー放電または高周波プラズマで部分的にイオン化し、負バイアス電圧をかけた基材に蒸着させる方法であって、減圧空間に酸素ガスをリークさせることにより金属酸化膜を蒸着させるものである。また、抵抗加熱によって蒸発源を加熱して気化させ、真空中で基材表面に付着させる、いわゆる抵抗加熱方式による真空蒸着法によっても金属酸化膜は製造されている。
【0004】
これらの方法によって得られる金属酸化膜のうち、例えば、電気的な絶縁膜として使用される酸化クロム膜の場合、含有される酸素の割合により抵抗値が変化することが知られている。このため、薄膜形成時に酸化を促進させて抵抗値の高い酸化クロム膜を得る試みが種々なされている。しかしながら、酸素ガス雰囲気中で酸化クロムを蒸発させてコーティングするだけの真空蒸着法では、酸化促進するだけの充分な反応エネルギーが得られないので、酸素欠乏気味となり、結果として抵抗値は高くならない。また、イオンプレーティングやスパッタリング法では、酸化反応は促進されるが、キャリアーガス等の基材へのアタックがあり、組成制御が困難である。
【0005】
また、プラスチック等の樹脂材料を基材として使用する場合、従来方式では密着性が悪く、実用的な絶縁膜の形成は困難であった。さらに、基材を所望の低温状態に保持することができないため、基材として使用できる材料が制限されていた。
【0006】
一方、前記したような従来の薄膜形成方法では、充填密度の高い金属酸化膜が得られないという問題がある。すなわち、従来のイオンプレーティングやスパッタリング法で得られる金属酸化膜では、充填密度は0.8〜0.95程度にすぎない。このような充填密度の低さ(換言すれば膜内の空孔の多さ)は、膜の光学特性に影響し、従来の金属酸化膜は、特に可視光領域での反射率が低く、充分に満足できるものではなかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の主たる目的は、酸素欠損が少なくかつ内部に殆ど空孔のない緻密な金属酸化膜を、耐熱温度の低い基材の表面にも形成可能であり、かつ基材との密着性に優れた金属酸化膜被覆部材の製造方法を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、先に基材に対する密着性に優れた薄膜形成方法を提供すべく鋭意研究を重ねた結果、
a.チャンバ内の薄膜原料(蒸発材料)を保持したボートを直流電圧印加電源の陽極側に接続し、
b.チャンバを電気的に接地されていない浮遊状態とし、さらに
c.プラズマを発生させるためのArガス等のガス供給量を、薄膜を形成する薄膜形成処理の初期よりも、その後の期間の方が少なくなるように制御することにより、
(1)基材保持部材とチャンバとの間で高周波放電が起きることもなく、チャンバ内のプラズマ中の荷電粒子がチャンバの内壁に引き寄せられることもないため、プラズマ中のイオン化した粒子またはプラスに帯電した粒子は、基材の表面へと効率的に導かれ、プラズマ中の電子はボート上の蒸発材料へと集中的に導かれることになり、
(2)蒸発した材料がイオン化した粒子が増加するとその量だけArガス等の供給ガスを減少させる。そして、蒸発材料によるプラズマが安定すると、蒸発材料へのプラズマからの電子ビームの照射によって、蒸発材料はプラズマに吸い上げられるように蒸発し、
(3)プラズマ中の電子が蒸発材料へ集中的に衝突して、蒸発材料に蒸発のためのエネルギーを与え、熱エネルギーに代わる高いエネルギーを得た蒸発材料は、低温でも容易に蒸発する。その結果、抵抗加熱等による蒸発材料の加熱エネルギーを格段に低減でき、蒸発源からの熱輻射による基材の温度上昇を抑制でき、低温での薄膜形成が可能になるという知見を得た。
このような知見に基づいて、本出願人は先に薄膜形成装置および薄膜形成方法について特許出願を行った(特願2001−16711)。
【0009】
ところが、驚くべきことに、本発明者らは、このような装置および方法を用いて得られた金属酸化膜は、酸素がほぼ完全に金属と結合しているため、殆ど酸素欠損がなく、かつ内部に空孔がほとんどない充填密度の高い理想的な金属酸化膜になっているという新たな事実を見出した。このような理想的な金属酸化膜が得られる原因は必ずしも明らかではないが、蒸発物質の原子または分子が基材表面で安定な状態に配列でき、かつ蒸発材料が酸化促進されるのに充分な反応エネルギーを電子照射により付与されているためと推測される。
【0010】
本発明の金属酸化膜は、かかる知見に基づいて完成されたものであって、金属酸化物を構成する金属量に対する非酸化金属の含有量が1モル%以下であり、かつ充填密度が0.98以上であることを特徴とする。
すなわち、本発明の金属酸化膜は、充填密度が0.98以上であることにより、殆ど空孔のない充填密度の高いものになっており、このため膜内部での光散乱が少なく光の損失が小さくなることから可視光領域での反射率が高くなり、よって理論値(完全に酸化された金属酸化膜)との差が0.2%以内であるという優れた光学特性を有する。
【0011】
また、本発明の金属酸化膜は、非酸化金属の含有量が1モル%以下であることにより、酸素がほぼ完全に金属と結合しており、酸素欠損がない理想的な金属酸化膜となっている。このため本発明の金属酸化膜は、絶縁抵抗が1GΩ以上であるという優れた絶縁特性を有する。非酸化金属の含有量は0.1モル%以下であるのが、より高い絶縁特性を得るうえで好ましい。
【0012】
本発明における金属酸化膜は、特に限定されるものではないが、酸化クロム,酸化珪素,酸化チタン,酸化アルミニウム,酸化ジルコニウム,酸化ハフニウムおよび酸化インジウムから選ばれる少なくとも一種であるのが好ましい。本発明で得られる金属酸化膜被覆部材は、前記金属酸化膜が基材に形成されている。
本発明の金属酸化膜は低温で形成可能であるため、基材の材質が制限されない。従って、ガラス,セラミックス,半導体,金属,プラスチック等が基材として使用可能である。特に、OHP(オーバーヘッドプロジェクタ)用シート等に使用されるPET(ポリエチレンテレフタレート)等からなる樹脂フィルムを基材として使用できる。
【0013】
また、本発明の金属酸化膜は、プラズマ化された薄膜材料を100℃以下、好ましくは60℃以下に保持された基材の表面に蒸着させる薄膜形成方法によって形成された金属酸化膜であって、金属酸化物を構成する金属量に対する非酸化金属の含有量が1モル%以下であり、かつ充填密度が0.98以上であることを特徴とする。
【0014】
具体的には、本発明にかかる金属酸化膜被覆部材の製造方法は、電気的に浮遊状態とされているチャンバ内に基材を保持する基材保持工程と、前記チャンバ内にプラズマ生成用ガスを供給するガス供給工程と、前記チャンバ内に高周波電界を印加する印加工程と、前記基材を被覆する金属酸化膜の構成材料を前記チャンバ内で加熱して蒸発させる蒸発工程とを含み、前記ガス供給工程において、前記プラズマ生成用ガスの前記チャンバ内への供給量は、前記金属酸化膜を形成する初期段階よりも、その後の段階の方が少なくなるように制御されることを特徴とする。薄膜形成の期間中における前記基材の温度60℃以下に保持するのが好ましい。この金属酸化膜は、当該金属酸化物を構成する金属量に対する非酸化金属の含有量が1モル%以下であり、かつ充填密度が0.98以上である。本発明では、前記基材と蒸発材料を保持するボートとの間に、このボート側を陽極側として直流電圧を印加する工程を含むのが好ましい。
【0015】
また、本発明を利用すると、金属酸化物を構成する金属量に対する非酸化金属の含有量が1モル%以下であり、かつ充填密度が0.98以上である金属酸化膜からなり、可視光領域での反射率の理論値との差が0.2%以内である光学被膜を提供することができる。前記した本発明における金属酸化膜が有する光学特性を利用したものである。光学被膜としては、光反射膜、反射防止膜、各種のダイクロイックフィルター膜、反射増加膜、赤外線カットフィルター膜、各種コールドフィルター膜、光学用途に使用される金属膜の保護膜等が例示される。
【0016】
さらに、本発明を利用すると、金属酸化物を構成する金属量に対する非酸化金属の含有量が1モル%以下であり、かつ充填密度が0.98以上である金属酸化膜からなり、絶縁抵抗が1Gル以上であることを特徴とする絶縁被膜を提供することができる。前記した本発明の金属酸化膜が有する絶縁特性を利用したものである。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の金属酸化膜は、金属酸化物を構成する金属量に対する非酸化金属の含有量が1モル%以下であり、かつ充填密度が0.98以上である。金属酸化膜中の非酸化金属の含有量(モル%)は、後述の実施例に記載のようにX線光電子分光分析法で測定される。
非酸化金属の含有量が1モル%を超える場合は、酸素欠損が多くなり、絶縁抵抗等の特性が低下する。
【0018】
また、金属酸化膜の充填密度は、(空孔を除く膜の実質部分の体積)/(膜の全体積)で表される充填率を意味する。測定は、耐湿試験にて行われる。すなわち、温度60℃、湿度90%の環境下に金属酸化膜を24〜120時間放置し、放置前と放置後とで反射率の変化を測定し、反射率の変化から屈折率の変化を求める。屈折率の変化が小さいほど、充填密度が大きいことになる。この方法は、膜内の空孔内に浸入した水分の影響で反射率が変化することを利用したものである。
本発明の金属酸化膜は屈折率の変化が0.2%以内であるため、充填密度は0.98以上と判断される。ちなみに、通常の光学薄膜の場合で充填密度は0.8〜0.95である。
【0019】
また、本発明の金属酸化膜は、基材との密着性や耐久性にも優れている。このように本発明の金属酸化膜は酸素欠損および空孔が殆どない緻密で耐久性に優れた酸化膜となっている。
【0020】
次に、本発明の金属酸化膜を作製する方法について説明する。図1はこの薄膜形成に使用する装置の概略を示している。チャンバ11内の下部には、蒸発材料9をボート1に収容保持した蒸発源20が配置されている。この蒸発源20に対向するように、チャンバ11内の上部には、基材10を保持するための基材保持部2が設けられている。
【0021】
基材保持部2は、導電性材料からなっていて、高周波電力供給電源(RF)5からの高周波電力が、マッチング装置(MN)4および直流遮蔽フィルタとしてのコンデンサ7を介して印加されるようになっている。なお、コンデンサ7は、可変コンデンサを用いてマッチング回路の一部として機能させてもよい。さらに、基材保持部2には、直流電圧印加電源(DC)6の陰極側が、高周波遮蔽フィルタとしてのコイル8を介して接続されている。高周波電力供給電源5の基材保持部2とは反対側の端子は、直流電圧印加電源6の陽極側と接続されていて、これらは接地されている。
【0022】
ボート1は、例えば、それ自身が電気抵抗の高い材料からなっていて、例えば交流電源からなる加熱電源3からの電力供給を受けて、蒸発材料9を蒸発させるための熱を発生する。ボート1には、さらに、直流電圧印加電源6の陽極側が接続されている。
【0023】
チャンバ11内の空間は、排気ダクト12および排気バルブ13を介して真空ポンプ14によって排気され、薄膜形成処理期間中において、所定の真空状態とされる。
チャンバ11内に反応性ガスとして酸素ガス、およびプラズマを生成するための不活性ガス(例えばアルゴンガス等)を供給するために、チャンバ11には、流量制御装置(MFC)24およびガス供給配管25を介して、不活性ガス供給源21および反応性ガス供給源23が接続されている。不活性ガス供給源21および反応性ガス供給源23からの供給/停止は、弁21aおよび23aをそれぞれ開閉することによって行われる。
【0024】
チャンバ11内の真空度は、真空度計15によって計測され、この真空度計15の出力に基づき、流量制御装置24は、マイクロコンピュータ等からなる制御装置30によって制御されるようになっている。これにより、反応性ガス供給源23および不活性ガス供給源21からのガス供給量は、チャンバ11内の真空度が所定値に保持されるように制御される。本発明の金属酸化膜を得るためには、チャンバ11内の膜形成時の真空度は1.0×10-2〜5.0×10-2Pa、好ましくは2.0×10-2〜3.0×10-2Paであるのがよい。このとき、酸素ガス濃度は約1.0×10-2〜3.0×10-2Paの範囲内で調整される。
【0025】
基材10の表面における薄膜の形成速度を計測するために、基材保持部2に関連して膜厚モニタ17が設けられている。この膜厚モニタ17の出力信号は、制御装置30に入力されていて、この制御装置30は、膜厚モニタ17の出力に基づいて加熱電源3の出力を制御するようになっている。こうして、薄膜の形成速度が所望の値となるように、ボート1への通電量が制御され、蒸発材料9の蒸発量が調整される。本発明の金属酸化膜を得るためには、当該金属酸化膜の形成速度は5〜20Å/秒、好ましくは13〜18Å/秒であるのがよい。
【0026】
高周波電力供給電源5は、例えば周波数10〜50MHzの高周波電源でよいが、一般的な13.56MHzに設定すればよく、放電電極としての基材保持部2の単位面積(cm2)当たり出力50〜800mW、好ましくは85〜170mWの高周波電力を基材保持部2に印加する。これに応じた高周波電界がチャンバ11内で形成されることによって、チャンバ11内ではガス供給配管25から供給されるガスおよび蒸発材料9から蒸発した蒸発物からなるプラズマが生成することになる。このプラズマ中のイオン化された粒子のうち、正に帯電したものは、直流電圧印加電源6から基材保持部2に印加された直流バイアスによって、基材10の表面へと引き寄せられる。直流電圧印加電源6からの印加電圧は100〜400V、好ましくは180〜230Vであるのがよい。
【0027】
一方、プラズマ中の解離した電子は、直流電圧印加電源6の陽極側に接続されたボート1へと引き寄せられることになる。このとき、蒸発源20からは蒸発材料9が継続的に蒸発しているので、蒸発粒子と電子との衝突により、プラズマの足が蒸発源20に下りたような形状の発光体が蒸発源20の近傍に見られる。そして、蒸発源20の近傍に集まった電子は、接地され陽極側に接続されているボート1に吸い込まれ、ボート1上の蒸発材料9に衝突する。これによって、蒸発材料9は、ボート1による加熱と、電子の衝突とによってその蒸発が促進されることになる。すなわち、デポジションアシスト効果が得られる。
【0028】
図1に示されているように、チャンバ11は、直流電圧印加電源6および高周波電力供給電源5のいずれにも接続されておらず、また接地もされていない。すなわち、チャンバ11は、電気的に浮遊状態となっている。このため、基材保持部2とチャンバ11との間での高周波放電が起こることもなく、チャンバ11内のプラズマ中の荷電粒子がチャンバ11の内壁に引き寄せられることもない。従って、プラズマ中の陽イオン化した粒子またはプラスに荷電した粒子は、基材10の表面へと効率的に導かれ、プラズマ中の負の荷電粒子である電子は、ボート1上の蒸発材料9へと集中的に導かれることになる。これにより、良好な薄膜形成を実現できるとともに、電子ビームによる蒸発材料9の蒸発促進を効率的に行える。さらには、チャンバ11の内壁に蒸発材料が付着することを抑制することができる。
【0029】
チャンバ11内においてプラズマが安定すると、蒸発材料9へのプラズマから電子ビームの照射によって、蒸発材料9はプラズマに吸上げられるように蒸発する。そこで、基材10に付着する蒸発材料9の付着速度を一定に保持するために、膜厚モニタ17の出力に基づき、制御装置30は、加熱電源3の出力を下げる。すなわち、ボート1への通電電流または通電電圧を下げる。これにより、蒸発速度が調節される。
【0030】
プラズマから供給される電子ビームにより蒸発材料9の蒸発が促進されるので、ボート1の加熱電流値は低く抑えることができるから、比較的低い加熱温度で蒸発材料9の蒸発を継続して維持することができ、プラズマの作用を利用した蒸着による薄膜形成を行える。
【0031】
この実施形態における薄膜形成の特徴は、Ar等の不活性ガスのチャンバ11への供給方法にある。すなわち、この実施形態では、薄膜形成の初期段階においては、ガス供給配管25から比較的大きな流量でチャンバ11へガスが供給され、蒸発材料9からの蒸発が活発になると、ガス供給配管25からのガス供給量が減少させられ、これにより、蒸発材料9からの蒸発が活発でない薄膜形成の初期段階においては、ガス供給配管25から供給される不活性ガスのプラズマがチャンバ11内に形成される。蒸発材料9からの蒸発が活発になると、ガス供給配管25からのガス供給量が減少し、蒸発材料9からの蒸発粒子が支配的となった組成のプラズマがチャンバ11内に形成されるに至る。
【0032】
このようにして、薄膜形成の初期段階に不活性ガスをチャンバ11に導入することにより、チャンバ11内に安定したプラズマを速やかに形成することができる。これによって、プラズマの作用を利用した薄膜形成を初期段階から行うことができるので、良好な密着性の薄膜を基材10の表面に形成することができる。
【0033】
図2は、薄膜形成のより具体的なプロセスを説明するための図である。この図2には、金属酸化膜を基材10の表面に形成する場合に、不活性ガス供給源21から不活性ガスをチャンバ11内に供給しながら薄膜形成を行うプロセスの一例が記載されている。具体的には、図2(a)は不活性ガス供給量の時間変化を示し、図2(b)はチャンバ11内の真空度の時間変化を示し、図2(c)はボート1の加熱電流値の時間変化を示している。
【0034】
薄膜形成処理の開始前の期間T1には、制御装置30は、排気バルブ13を開き、真空ポンプ14によりチャンバ11内の雰囲気が排気されて、チャンバ11内の真空度が例えば約10-3Paに保持される。この状態から、制御装置30は、時刻t10に弁21a,23aを開いて、不活性ガス供給源21および反応性ガス供給源23からのガスの供給を開始させる。このガス供給が開始された後には、制御装置30は、真空度計15の出力信号をモニタすることによって、チャンバ11内の真空度を、例えば2×10-2Paに保持するように流量制御装置24を制御する。
【0035】
これによって、ボート1への通電が開始されて蒸発材料9が加熱される期間T2には、高周波電力供給電源5から印加される高周波電界によって、チャンバ11内でプラズマが生成される。このプラズマ中のイオン化された不活性ガスは、直流電圧印加電源6から基材保持部2に与えられている直流バイアスによって、基材10へと導かれる。この不活性ガスが基材10に衝突することによって、期間T2中に基材10の望ましくない昇温が生じる場合には、基材10の下方にシャッタ18を設けて、基材10に向かう不活性ガスを阻止すればよい。
【0036】
期間T2には、制御装置30は加熱電源3を制御して、ボート1への通電を開始する。これに伴って、ボート1への加熱電流値が上昇し、期間T2の終期には、例えば150Aに達するようにする。
チャンバ11内におけるプラズマが安定する時刻t11において、制御装置30の制御下にある駆動装置(図示せず)によってシャッタ18が開かれ、これにより、薄膜の形成が開始される。蒸発材料9の蒸発により、蒸発粒子がプラズマ中へと導かれることになるから、一定の流量でガス供給配管25からチャンバ11内にガスを供給すれば、チャンバ11内の真空度が下がる。
【0037】
ところが、制御装置30は、チャンバ11内の真空度が一定値(例えば2×10-2Pa)に保持されるように流量制御装置24を制御して、ガス供給配管25を介するガス供給量を調整する。その結果、蒸発材料9からの蒸発量の増大に伴って、参照符号Aで示すように、チャンバ11への不活性ガス導入量が減少していくため、参照符号Cで示すような時間変化を示すように制御される。従って、薄膜形成が行われている期間T3の初期においては、プラズマの組成は、不活性ガスに支配されているが、このプラズマの組成は、速やかに蒸発材料9の蒸発物によって支配された組成へと変化していく。また、蒸発材料9からの蒸発量の増大に伴って、チャンバ11への酸素ガス導入量は増加することになる。
【0038】
一方、プラズマからの電子の供給によって、蒸発材料9からの蒸発が促進されるので、膜厚モニタ17の出力に基づくフィードバック制御によって、加熱電源3からボート1に供給される電流が参照符号Bで示すように減少することになる。例えば約2〜3秒の期間を経て、電流値は150Aから80Aへと低下する。このため、蒸発材料は、通常の蒸着やイオンプレーティングにおけるよりも低温状態でその蒸発が進行することになるから、蒸発源20からの輻射熱によって基材10が過度に昇温されることがない。
【0039】
以上のように、この実施形態によれば、チャンバ11に不活性ガスを導入した状態で薄膜形成を開始することにより、薄膜形成の初期段階からチャンバ11内に良好なプラズマを生成させることができる。これにより、蒸発材料は初期段階からプラズマの作用を受けながら基材10に効率的に導かれる。その結果、密着性の良好な金属酸化膜を基材10の表面に効率的に形成することができる。
この金属酸化膜形成方法では、基材10は100℃以下、好ましくは60℃以下に保持されるので、ガラス,セラミックス,半導体材料,金属材料またはプラスチック等の基材、あるいは樹脂フィルム等の基材に金属酸化膜を形成するのに好適である。例えばポリカーボネートの耐熱温度は120〜130℃、ポリメタクリル酸メチルの耐熱温度は80℃程度であるので、これらの基材に対して金属酸化膜を形成することができる。
【0040】
図3は、本発明で使用される薄膜形成装置の他の例を示している。同図において、図1と同じ構成部材には同一符号を付し、説明を省略する。
この装置は、チャンバ11内に帯状のフィルム基材10A(樹脂フィルム等)を巻回した繰り出しローラ31と、この繰り出しローラ31から繰り出されたフィルム基材10Aを巻き取るための巻き取りローラ32とが配置され、それらの間には基材保持部としての高周波シャフト電極2Aが配置されている。また、高周波シャフト電極2Aの両側には補助シャフト33,34が配置される。
【0041】
高周波シャフト電極2Aは、丸棒状の導電部材からなり、高周波電力供給電源5からの高周波電力および直流電圧印加電源6からの直流バイアスが印加される。
繰り出しローラ31および巻き取りローラ32の下方には、高周波シャフト電極2Aの下面側にフィルム基材10Aを露出させるための開口35aを有する防着板35が配置される。
また、蒸発源20に関連して、ボート1へ蒸発材料を供給するためのコート材料供給器36が配置される。
【0042】
このような構成により、巻き取りローラ32によりフィルム基材10Aを巻き取りながら、繰り出しローラ31から繰り出されるフィルム基材10Aの表面に金属酸化膜の形成を連続的に行うことができる。その他は図1、図2に示すのと同様である。
【0043】
このように、この金属酸化膜形成方法によれば、チャンバ11内へプラズマを形成するためのガスが供給されるので、薄膜形成初期においてチャンバ11内に速やかにプラズマを生成することができる。これによって、薄膜形成の初期段階から、プラズマの作用を利用した金属酸化膜の作製が可能となり、基材10との密着性に優れた金属酸化膜を得ることができる。
また、チャンバ11内へのガス供給量は、薄膜形成初期に多く、その後は少なくするため、チャンバ11内に供給された不活性ガスの原子や分子が基材に衝突することによる基材10の温度上昇を抑制することができる。
【0044】
さらに、直流印加電圧電源6から印加される直流電界により、プラズマ中のプラスに帯電した粒子または陽イオン化した粒子は、基材10方向へと加速されて飛来し、基材10と衝突し、基材10表面に堆積する。これによって、被膜の形成がなされることになる。一方、負の電荷をもつ電子は、陽極側となるボート1へと加速されて、ボート1上の蒸発材料9に集中的に衝突して、蒸発材料9に蒸発のためのエネルギーを与える。こうして、熱エネルギーに代わる高いエネルギーを得た蒸発材料9は、低温でも容易に蒸発して、チャンバ11内のプラズマ形成領域へと蒸発していく。すなわち、チャンバ11内に形成されたプラズマ中の電子が蒸発材料9へと導かれ、これによって材料の蒸発を促進する、いわゆるデポジションアシスト効果が得られるため、抵抗加熱等による蒸発材料9の加熱エネルギーを格段に低減することができる。その結果、基材10の温度上昇を抑制することができるので、より低温状態での薄膜形成が可能になる。
【0045】
本発明の金属酸化膜の厚さは、目的とする光学特性や絶縁特性その他の要求される特性により異なるが、一般的には10〜200nmである。このような厚さの金属酸化膜は、約2〜10分程度で形成することができる。この間、基材10表面の温度は100℃を超えることはない。
また、蒸発材料9からの蒸発量は、加熱手段に与えるエネルギーおよび直流電圧印加電源の出力を前記範囲内に制御することによって調整される。また、蒸発材料9の粒子の基材10への衝突エネルギーは、直流電圧印加電源6の出力を前記範囲内に制御することによって調整される。これにより、蒸着物質には、基材10表面への単なる堆積でなく、基材10表面に形成された蒸着物質層の原子または分子配列を安定な状態に再配列させるのに充分なエネルギーを与えることができる。さらに、蒸着物質の粒子に、基材10内に浸透して順応させるのに充分なエネルギーも与えることができる。
【0046】
このため、本発明では、酸素欠損が少なく、緻密で密着性に優れた被膜となり、非酸化金属の含有量が1モル%以下でかつ充填密度が0.98以上という、殆ど純粋な金属酸化物に近い金属酸化膜が得られる。
本発明の金属酸化膜としては、例えば酸化クロム,酸化珪素,酸化チタン,酸化アルミニウム,酸化ジルコニウム,酸化ハフニウムおよび酸化インジウムから選ばれる少なくとも一種が挙げられる。
【0047】
これらの金属酸化膜を基材10の表面に形成した本発明の金属酸化膜被覆部材は、その優れた特性を利用して、下記に例示するような様々な用途に好適に使用することができる。
【0048】
(1)基材10がガラスの場合、例えば、反射防止膜としてSiO2膜,TiO2膜を交互に形成した光学レンズ,プリズム,ハーフミラー等の光学部品,窓材,画像装置の画面;親水膜(アナターゼ)としてTiO2膜を被覆した屋外用保護板、ミラー,レンズ等の光学部品;高絶縁膜としてCr23膜を被覆した、ブラウン管の電子銃の絶縁碍子に用いられるマルチフォームガラス等。
(2)基材10がセラミックスの場合、本発明の金属酸化膜被覆部材は、例えば、離型膜としてCr23膜等を被覆した、SiCセラミックス等からなるレンズ成形用セラミック型等。
(3)基材10が半導体材料の場合、Si,GaAs等の半導体基板上に絶縁膜としてSiO2膜,Al23膜等を形成した集積回路素子,半導体レーザ等の光半導体素子;Si基板上に絶縁膜や保護膜としてSiO2膜等を形成した、半導体レーザや光ファイバを搭載するパッシブアラインメント用の搭載用基板等。
(4)基材10がプラスチックの場合、反射防止膜としてSiO2膜,ZrO2膜,Al23膜,TiO2膜等を形成したプラスチックレンズ,偏光シート等。
(5)基材10が樹脂フィルムの場合、保護膜としてSiO2膜,ZrO2膜,Al23膜,TiO2膜等が形成されたOHPシート等。
(6)基材10が金属材料の場合、離型膜としてCr23膜等を被覆したガラス成形用金型等。
(7)その他、基材10がニオブ酸リチウム,水晶等の圧電結晶の場合、それらの基板上に保護膜としてSiO2膜等を形成した圧電素子等。
【0049】
特に、本発明の金属酸化膜は、可視光領域での反射率の理論値との差が0.2%以内であるという優れた光学特性を有していることから、光反射膜、反射防止膜等の光学被膜として使用するのに最適である。従来、金属酸化膜単独で可視光領域での反射率の理論値との差が0.2%以内のものは知られていない。光学被膜として使用するのに特に適した金属酸化膜としては、例えば酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化ケイ素等の周期律表の3(3A)族、4(4A)族、5(5A)族、6(6A)族、13(3B)族、14(4B)族の金属の酸化膜等が挙げられる(なお、括弧内は旧族番号である)。
【0050】
また、本発明の金属酸化膜は、絶縁抵抗が1GΩ以上であるという優れた特性を有していることから、絶縁被膜として使用するのに最適である。従来、金属酸化膜単独で絶縁抵抗が1GΩ以上のものは知られていない。絶縁被膜として使用するのに特に適した金属酸化膜としては、例えば酸化クロム等が挙げられる。
【0051】
【実施例】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0052】
実施例1(酸化クロム膜の作製)
図1に示す薄膜形成装置を使用し、図2に示すプロセスにて酸化クロム膜を作製した。作製条件を以下に示す。
基材10:厚さ3mmのガラス板
蒸発材料9:クロム(純度99.9%)
チャンバ11内への導入ガス:Arガスおよび酸素ガス
高周波電力供給電源5からの基材保持部2への印加電力:周波数13.56MHzで85mW/cm2(基材保持部2の単位面積当たりの印加電力)
直流印加電源6:陰極側を基材保持部2に接続し、陽極側をボート1に接続
直流印加電源6から基材保持部2への印加電圧:230V
チャンバ11:接地されていない、電気的に浮遊状態
金属酸化膜の形成速度:15Å/秒
(A)金属酸化膜の形成の初期段階(図2の期間T2)
チャンバ11内の真空度:2×10-2Paで一定
加熱電源3からボート1への通電電流:350A(T2終期)
(B)金属酸化膜の形成段階(図2の期間T3)
チャンバ11内の真空度:2×10-2Paで一定
加熱電源3からボート1への通電電流:230A(T3終期)
かくして厚さ1500Åの酸化クロム膜を基材10表面に作製することができた。この薄膜作製の全期間を通じて基板10の表面温度は、40℃以上で反応するサーモシールが反応しなかったことから40℃未満に保持されていた。
【0053】
比較例1
図4に示す通常のイオンプレーティング装置を用いて基材53(厚さ3mmのガラス板)の表面に厚さ1500Åの酸化クロム膜を作製した。この装置は、高周波電力供給電源50に接続されたアンテナ51付近でプラズマを発生させるようにしたものである(印加電力は周波数13.56MHzで400W)。チャンバ52内にはArガスおよび酸素ガスが導入され、真空度は2×10-2Paに設定されている。基材53とチャンバ52とは同電位で接地されており、セルフバイアスで基材53の表面に酸化クロム膜が形成される。蒸発材料54(クロム)は電子銃55の電子ビーム照射にて蒸発される。
【0054】
比較例2
図5に示す通常の抵抗加熱方式の真空蒸着装置を用いて基材63(厚さ3mmのガラス板)の表面に厚さ1500Åの酸化クロム膜を作製した。この装置は、真空度が2×10-2Paに設定されたチャンバ62内で蒸発材料64(酸化クロム)を交流電源65からの加熱電流350Aにて加熱して気化させ、基材63に蒸着するようにしたものである。
【0055】
実施例1および比較例1,2で得た各酸化クロム膜について、以下の評価試験を行った。
【0056】
1.酸化クロム膜の酸化程度
(1‐1)測定方法
作製した膜厚約1500Åの酸化クロム膜を用いて、X線光電子分光分析装置にて酸化クロムと金属クロム(Cr2p)のX線回折ピークを測定し、酸化クロムと非酸化クロムのそれぞれの回折ピークの面積比からモル比を求めた。すなわち、酸化クロムの回折ピークの面積をCrp、非酸化クロムの回折ピークの面積をCr2pとした場合、Cr2p/Crpからモル比を求め、非酸化クロムの含有量を算出した。
(1‐1)測定結果
実施例1の酸化クロム膜では、酸素が結合していない非酸化クロムの含有量は、測定限界である0.1モル%を下回っていた。
一方、比較例1では非酸化クロムの含有量が約5モル%であった。また、比較例2では非酸化クロムの含有量が約40モル%であった。
この結果から、実施例1の酸化クロム膜は、比較例1,2に比較して酸素欠損が非常に少ないことがわかる。
【0057】
2.基材との密着性
(2‐1)測定方法
MIL規格のMIL−C−48497Aに準拠した摩耗試験を行った。すなわち、当該規格に合致する摩耗試験用標準消しゴム(MIL−E−12397)を用いて、2ポンドの荷重を加えながら、コーティング面を擦る「厳しい摩耗試験方法」(MIL−C−48497Aの4.5.5.1章)を実施した。
(2‐1)測定結果
実施例1の酸化クロム膜では、擦り回数が平均120回(試料数:2)で数本の傷と消しゴムの摩耗痕跡が現れた。
一方、比較例1では20回の摩耗試験で膜傷が多数見られた。また、比較例2では10回の摩耗試験で多数の傷が発生した。
この結果から、実施例1の酸化クロム膜は、比較例1,2と比較して、密着性および耐久性に優れていることがわかる。
【0058】
3.絶縁性
(3‐1)測定方法
絶縁テスターを用いて酸化クロム膜の抵抗値を測定した。
(3‐2)測定結果
実施例1の酸化クロム膜では、測定限界の1GΩ以上であった。これに対して、比較例1では200〜300kΩ、比較例2では25〜30Ωであった。この結果から、実施例1の酸化クロム膜は、比較例1,2と比較して、高い絶縁抵抗を有していることがわかる。
【0059】
実施例2(酸化チタン膜の作製)
蒸発材料としてチタンを使用し、薄膜形成条件のうち、高周波電力供給電源5の出力を78mW/cm2とした他は、実施例1と同様にして、n×d=3λ0/4(ただし、n:酸化チタンの屈折率、d:酸化チタンの厚さ、λ0:580nm)となるように酸化チタン膜を基材の表面に形成した。
1.透過率および反射率
実施例2で得た酸化チタン膜について、可視光領域での透過率および反射率を測定した。測定は光度計((株)日立製作所製の分光光度計U−4000)にて行った。その結果を図6に示す。同図に示すように、透過率は純粋な酸化チタンの理論値とほぼ一致していた。理論値は、基礎物性図表(共立出版社、昭和47年5月15日発行)に記載の屈折率およびオプトロン社発行のコート材料のカタログ値から算出した反射率の値である。
なお、実施例2で得た反射率から理論値を引いた絶対値は、平均0.15%であり、0.2%を超えることはなかった。
【0060】
2.充填密度
実施例2で得た酸化チタン膜の充填密度を耐湿試験にて測定した。すなわち、この測定方法は、温度60℃、湿度90%の環境下に金属酸化膜を24時間放置し、放置前と放置後とで反射率の変化を測定し、反射率の変化から屈折率の変化を求めるものである。屈折率の変化が小さいほど、充填密度が大きいことになる。例えば屈折率nsのガラス板にコートした場合、反射率Rは次式で表される。
【数1】
Figure 0004022849
ただし、nf: 金属酸化膜の屈折率、
δ=(2π/λ)nf・dcosθ、
λ:光波長、
d:金属酸化膜の厚さ、
θ:光の入射角
このRの測定ピーク値から式:nf2=ns(1+R1/2)/(1‐R1/2)によってnfの測定値が求められる。
一方、充填密度Pに関する金属酸化膜の屈折率は次式で表される。
【数2】
Figure 0004022849
ただし、nm:金属酸化膜の実体部分の屈折率、
nv:気孔内の水蒸気の屈折率で1.33
このnfの測定値と充填密度Pに関する屈折率(理論値)の差からPを求める。
例えば、Pを1.00、0.99、0.98等と変化させて、式:nf=Pnm+(1‐P)nvに代入していき、この理論値と測定値が一致したときのPを金属酸化膜の充填密度として特定することによって求められる。
測定の結果、実施例2の酸化チタン膜では、反射率の変化が0.2%以内であったため、充填密度は0.98以上、より正確には0.99以上と判断される。
一方、比較例1において、蒸発源としてクロムに代えてチタンを使用し、薄膜形成速度を5Å/秒とした他は比較例1と同様にして酸化チタン膜を作製した(比較例3)。また、比較例2において、蒸発源としてクロムに代えてチタンを使用し、薄膜形成速度を5Å/秒とした他は比較例2と同様にして酸化チタン膜を作製した(比較例4)。
これらの比較例3,4では、双方とも反射率の変化が3〜6%程度であるため、充填密度は0.85〜0.95と判断される。
これらの結果から、実施例2の酸化チタン膜は、比較例3,4と比較して、空孔の殆どない緻密な膜であることがわかる。
【0061】
【発明の効果】
本発明によれば、基材を被覆する金属酸化膜は、酸素欠損が少なくかつ内部に殆ど空孔のない緻密な膜であり、密着性や耐久性にも優れているという効果がある。また、本発明によれば、純粋な金属酸化膜に近い光学特性を有する光学被膜、ならびに絶縁抵抗が非常に高い絶縁被膜が得られるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の金属酸化膜を製造するための薄膜形成装置の一例を示す概念図である。
【図2】薄膜形成のプロセスを示す説明図である。
【図3】薄膜形成装置の他の例を示す概念図である。
【図4】比較例1で金属酸化膜を形成するために使用した通常のイオンプレーティング装置を示す概略図である。
【図5】比較例2で金属酸化膜を形成するために使用した抵抗加熱方式の真空蒸着装置を示す概略図である。
【図6】実施例2の酸化チタン膜の透過率および反射率を示すグラフである。
【符号の説明】
1 ボート
3 加熱電源
4 マッチング装置
5 高周波電力供給電源
6 直流電圧印加電源
9 蒸発材料
10 基材
11 チャンバ
20 蒸発源

Claims (12)

  1. 電気的に浮遊状態とされているチャンバ内に基材を保持する基材保持工程と、前記チャンバ内にプラズマ生成用ガスを供給するガス供給工程と、前記チャンバ内に高周波電界を印加する印加工程と、前記基材を被覆する金属酸化膜構成材料を前記チャンバ内で加熱して蒸発させる蒸発工程と、を含み、
    前記ガス供給工程において、前記プラズマ生成用ガスの前記チャンバ内への供給量は、前記金属酸化膜を形成する初期段階よりも、その後の段階の方が少なくなるように制御されることを特徴とする金属酸化膜被覆部材の製造方法
  2. 前記基材と前記金属酸化膜の構成材料を保持するボートとの間に、該ボートを陽極として直流電圧を印加する工程を更に含む、請求項1に記載の金属酸化膜被覆部材の製造方法
  3. 前記直流電圧の印加電圧は100〜400Vである、請求項2に記載の金属酸化膜被覆部材の製造方法
  4. 前記蒸発工程における加熱温度は、前記金属酸化膜を形成する初期段階よりも、その後の段階の方が低くなるように制御される、請求項1〜3のいずれかに記載の金属酸化膜被覆部材の製造方法
  5. 前記蒸発工程において、前記金属酸化膜を形成する初期段階より前の段階では、前記プラズマ生成用ガスの前記基材への移動を阻止する、請求項1〜4のいずれかに記載の金属酸化膜被覆部材の製造方法
  6. 前記金属酸化膜は光学被膜である、請求項1〜のいずれかに記載の金属酸化膜被覆部材の製造方法。
  7. 可視光領域での前記金属酸化膜の反射率は、完全に酸化された金属酸化膜における理論値との差が0.2%以内である、請求項6に記載の金属酸化膜被覆部材の製造方法。
  8. 前記光学被膜としての金属酸化膜は、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化ケイ素からなる群より選択される材料により構成される、請求項6または7に記載の金属酸化膜被覆部材の製造方法
  9. 前記金属酸化膜の形成時において、前記チャンバ内の真空度は1.0×10 -2 〜5.0×10 -2 Paである、請求項1〜のいずれかに記載の金属酸化膜被覆部材の製造方法
  10. 前記金属酸化膜の形成時において、前記酸素ガスの濃度は1.0×10 -2 〜3.0×10 -2 Paである、請求項1〜のいずれかに記載の金属酸化膜被覆部材の製造方法
  11. 前記金属酸化膜の形成速度は5〜20Å/秒である、請求項1〜10のいずれかに記載の金属酸化膜被覆部材の製造方法
  12. 前記高周波電界を形成するために印加する高周波電力は、放電電極の単位面積(cm 2 )当たり50〜800mWである、請求項1〜10のいずれかに記載の金属酸化膜被覆部材の製造方法
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