JP2002089569A - ラジアル玉軸受およびその使用方法 - Google Patents

ラジアル玉軸受およびその使用方法

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和雄 関野
Hiromichi Takemura
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Abstract

(57)【要約】 【課題】トラクションオイルによる潤滑が行われるラジ
アル玉軸受の寿命を長くする。 【解決手段】回転輪である内輪1の溝半径比を51.5
%以上53.0%以下とする。固定輪である外輪2の溝
半径比を52.5%以上55.0%以下とする。内輪1
の溝半径比は、内輪1の軌道溝半径(ri)と玉3の直
径(Dw)との比(ri/Dw)である。外輪2の溝半
径比は、外輪2の軌道溝半径(re)と玉3の直径(D
w)との比(re/Dw)である。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば自動車の自
動変速機用軸受や無断変速機用軸受のように、トラクシ
ョンオイルによる潤滑を行って使用されるラジアル玉軸
受に関する。
【0002】
【従来の技術】自動車の自動変速機は、トルクコンバー
ター、歯車機構、油圧機構、湿式クラッチ等を内蔵する
装置である。これらの機構を円滑に作動させて動力を伝
達するために、自動車の自動変速機用のラジアル玉軸受
は、トラクションオイル(トラクション係数が0.09
以上であり、粘度が40℃で30.8sct以上であっ
て、特殊な摩耗調整剤などを含む潤滑油)で潤滑されて
いる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このラ
ジアル玉軸受は、自動変速機の作動中に、軌道輪の軌道
面と転動体の転動面との間に生じる接線力が増大するた
め、潤滑膜が破壊されやすくなり、軌道面や転動面に早
期剥離が生じる恐れがある。すなわち、トラクションオ
イルで潤滑されたラジアル玉軸受は、鉱油で潤滑された
ラジアル玉軸受よりも寿命が短くなるという問題点があ
る。
【0004】本発明は、このような従来技術の問題点に
着目してなされたものであり、トラクションオイルによ
る潤滑が行われるラジアル玉軸受の寿命を長くすること
を課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため
に、本発明は、回転側の軌道輪の溝半径比(溝半径/玉
の直径)が51.0%以上53.0%以下であり、固定
側の軌道輪の溝半径比が52.5%以上55.0%以下
であるラジアル玉軸受を提供する。本発明はまた、トラ
クションオイルによる潤滑を行い、軌道輪と玉との間に
生じる面圧Pと、接触楕円内で生じる軌道輪と玉との回
転速度差Vとの積の最大値PVmax が、回転側および固
定側の両軌道輪で14000×9.8N/mmsec 以上2
4000×9.8N/mmsec 以下となる条件で、ラジア
ル玉軸受を使用するラジアル玉軸受の使用方法を提供す
る。
【0006】ここで、本発明のラジアル玉軸受の使用方
法は、以下に述べる知見に基づくものである。ラジアル
玉軸受は、通常、「JIS B1518」に規定されて
いるように、内外輪ともに溝半径比(溝半径/玉の直
径)を52%に設計してある。ただし、この設計では、
軸受の使用条件によっては、軌道輪と玉との間に生じる
面圧が高くなり過ぎて、フレーキングが発生し易くなる
場合がある。その場合には、溝半径比をより小さくし
て、軌道輪と転動体との接触楕円の面積を大きくするこ
とにより、面圧を小さくして、軸受寿命を長くすること
が行われている。
【0007】しかしながら、トラクションオイルで潤滑
されるラジアル玉軸受では、このように面圧を小さくす
る方法によって、期待通りの長い寿命を得ることは困難
であることが分かった。その理由は、潤滑油がトラクシ
ョンオイルの場合と鉱油の場合で剥離形態が異なること
に起因すると推測される。潤滑油が鉱油の場合には、図
2(a)に示すように、剥離の起点部の位置が軌道溝の
溝幅方向の中心にある。これに対して、トラクションオ
イルの場合には、図2(b)に示すように、剥離の起点
部が軌道溝の溝幅方向の中心から外れた位置にある。
【0008】本発明者等は、このような特殊な剥離形態
を生じるトラクションオイル潤滑のラジアル玉軸受で
は、軌道輪と玉との間に生じる面圧Pだけでなく、接触
楕円内で生じる軌道輪と玉との回転速度差Vも、軸受寿
命に何らかの影響を及ぼしていると考えて、実験を重ね
た。その結果、面圧Pと回転速度差Vとの積の最大値P
Vmax を、回転側および固定側の両軌道輪で14000
×9.8N/mmsec 以上24000×9.8N/mmsec
以下となる条件で使用することによって、寿命が長くな
ることを見出した。
【0009】また、この使用条件は、回転側の軌道輪の
溝半径比faを51.5%以上53.0%以下とし、固
定側の軌道輪の溝半径比fbを52.5%以上55.0
%以下とすることによって達成されることを見出した。
これらの軌道輪の溝半径比fa,fbの限定により、両
溝半径比の比(fa/fb)は0.936%以上1.0
1%以下となる。
【0010】なお、面圧Pと回転速度差Vとの積の最大
値PVmax を指標値とした理由は、以下の通りである。
また、ここでは、内輪の軌道溝を例にとって説明する
が、同様の現象は外輪の軌道溝との玉との間にも生じ
る。図3に示すように、軌道溝(ここでは内輪1の軌道
溝11)に玉3を入れた状態で、軸受(軌道輪)の回転
軸O方向と垂直なA方向に玉3側から荷重を加えると、
軌道溝11と玉3との接触面は楕円状に弾性変形する。
符号13はこの状態での軌道溝11と玉3との接触面
(接触楕円)であり、符号11aは接触面から外れた位
置での軌道溝11の面であり、符号3aは弾性変形する
前の玉3の形状を示す。
【0011】この接触面13と軌道輪(ここでは内輪
1)の回転軸Oとの距離は、回転軸O方向で異なる。ま
た、この接触面13と玉3の自転軸Bとの距離も、自転
軸B方向で異なる。そのため、この接触楕円13内での
内輪1の回転速度(周速)V1および玉3の回転速度
(周速)V0 に、回転軸O方向および自転軸B方向で差
が生じ、その分布は図3(b)に示すようになる。
【0012】その結果、軌道輪と玉との間には、図3
(c)に示すように、V1 =V0 である2本の線E上で
のみ純粋な転がり接触が生じ、それ以外の部分には微小
な滑りが生じる。そして、2本の線Eで挟まれている内
側部分13aと、2本の線Eの外側部分13bとで滑り
方向が互いに反対となる。このような滑りは「差動滑
り」と称されている。
【0013】これらの速度差V=|V1 −V0 |は、回
転軸O方向(自転軸B方向)で異なる。また、面圧Pに
ついても、軸受の回転軸方向で面圧Pの値は異なる(軸
受の幅方向中心部で最も大きい)。そのため、面圧Pと
回転速度差Vとの積の最大値PVmax を指標値とした。
本発明はまた、本発明のラジアル玉軸受の使用方法にお
いて、ラジアル玉軸受は、回転側の軌道輪の溝半径比
(fa)と固定側の軌道輪の溝半径比(fb)との比
(fa/fb)が0.936以上1.01以下である方
法を提供する。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態について
説明する。図1に示すように、呼び番号6206のラジ
アル玉軸受(内径30mm、外径62mm、幅16m
m)用の内輪1、外輪2、玉3として、軌道溝半径r
i,reを各種値とした内輪1および外輪2と、直径
(Dw)9.525mmの玉3を用意した。これらの内
輪1および外輪2を組み合わせて、溝半径比(ri/D
w,re/Dw)が下記の表1に示す組合せとなる、2
0種類のラジアル玉軸受を組み立てた。全ての試験体
は、内輪および外輪の溝半径比以外の点では同じになっ
ている。
【0015】なお、内輪1および外輪2はSUJ2製で
あり、内外輪で同一の熱処理が施されている。これによ
り、内輪1および外輪2の表面硬さはHRC58〜64
の範囲であり、残留オーステナイト量は0〜20体積%
であり、表面粗さは0.01〜0.04μmRaの範囲
内にある。これらの20種類のラジアル玉軸受につい
て、以下のようにしてPVmax を算出した。前述のよう
に、差動滑りに伴う速度差V=|V1 −V0 |と面圧P
は、軸受の回転軸方向で値が異なるため、先ず、回転軸
方向の各位置での速度差Vと面圧Pを算出する。各位置
での面圧Pは、ヘルツの接触理論に準じた式を用いて算
出した。各位置での速度差Vは、「日本機械学会論文集
(第3部)27巻178号(昭36−6)」に示す計算
式を基にして算出した。次に、各位置での面圧Pの算出
値と速度差Vとの積を算出し、この積の最大値をPVma
x とした。
【0016】これらの試験用軸受を、各10体ずつ用意
し、日本精工(株)製の玉軸受寿命試験機に取付け、下
記の条件で回転させる寿命試験を行った。寿命の判定
は、軸受の振動値が初期振動値の2倍となった時点で試
験を中断して、軌道溝面に剥離が発生しているかどうか
を調べ、内外輪のいずれかに剥離が発生していれば寿命
とすることで行った。
【0017】また、この際に、内外輪のいずれに剥離が
生じているかと、剥離形態がA(剥離の起点部の位置が
軌道溝の溝幅方向の中心にある),B(剥離の起点部が
軌道溝の溝幅方向の中心から外れた位置にある)のいず
れであるかを調べた。なお、剥離形態Aのような剥離
は、例えばナフテン系鉱油(40℃での動粘度:28.
9cst、トラクション係数:0.06)を潤滑剤とし
て用いた場合に生じる剥離である。
【0018】次に、各種類毎に10体の試験軸受の結果
をワイブル分布のグラフ(累積破損確率−寿命)にプロ
ットし、このグラフから、短寿命側から10%の軸受に
剥離が発生するまでの総回転時間を求め、この時間を寿
命測定値(L10)とした。なお、試験打ち切り時間は6
00時間とした。この600時間は、内輪および外輪の
溝半径比が共に52%であるJIS標準品(比較例3)
の計算寿命の約10倍の値に相当する。 <寿命試験の条件> 荷重:Pr(ラジアル荷重)/C(基本動定格荷重)=
0.45 回転速度:3000回/分 雰囲気温度:110℃ 潤滑:トラクションオイルによるクリーン潤滑 回転輪:内輪 なお、トラクションオイルとしては、トラクション係数
が0.09であり、粘度が40℃で30.8cstであ
る潤滑油を用いた。
【0019】また、各種類毎に異なる基本動定格荷重を
基に、この条件における基本定格寿命(106 回転)を
計算寿命(Lcal )として算出した。この計算寿命に対
する寿命測定値(L10)の比(L10/Lcal )を算出し
た。これらの結果を下記の表1に併せて示す。
【0020】
【表1】
【0021】表1から分かるように、実施例1〜10で
は、内輪(回転側の軌道輪)の溝半径比を51.5%以
上53.0%以下とし、外輪(固定側の軌道輪)の溝半
径比を52.5%以上55.0%以下とすることによ
り、面圧Pと回転速度差Vとの積の最大値PVmax が、
内外輪ともに14000×9.8N/mmsec 以上240
00×9.8N/mmsec 以下となって、250時間以上
の長い寿命(計算寿命の5.52倍〜7.14倍の寿
命)が得られた。
【0022】また、実施例1〜10の剥離形態は全てA
であり、実施例1〜10の構成とすることにより、トラ
クションオイル潤滑の場合でも鉱油の場合と同様に、剥
離の起点部が軌道溝の溝幅方向の中心になることが分か
った。これに対して、比較例1〜10では、内輪および
/または外輪の溝半径比が本発明の範囲から外れている
ことにより、内輪および/または外輪がPVmax =14
000×9.8N/mmsec 〜24000×9.8N/mm
sec とならずに、寿命が44〜59時間と短かった。
【0023】剥離形態は、比較例1〜6ではトラクショ
ンオイルに特有のBであったが、比較例7〜10では鉱
油の場合と同様のAであった。比較例1〜6と比較例7
〜10との比較では、比較例7〜10の方が寿命が長か
った。これらの結果が生じた理由は、比較例7〜10は
内外輪ともに比較的溝半径比が小さく、PVmax が小さ
いことに起因すると考えられる。
【0024】比較例1,2,5,8では、実施例1〜1
0およびJIS標準品である比較例3よりも計算寿命は
長かったが、寿命測定値の計算寿命に対する比は0.7
以下と極端に小さかった。これらの結果は、従来の転が
り疲れ理論(基本動定格荷重が大きいと寿命が長くな
る)では説明できない。すなわち、トラクションオイル
潤滑下でのラジアル玉軸受の寿命については、内輪およ
び外輪の溝半径比を最適化することによって、従来の転
がり疲れ理論による計算寿命は短くなるが、実際に得ら
れる寿命は著しく長くなることが分かる。
【0025】表1には、実施例1〜10および比較例1
〜10の各軸受について、内輪(回転側の軌道輪)の溝
半径比(fa)と外輪(固定側の軌道輪)の溝半径比
(fb)との比(fa/fb)も記載されている。この
比(fa/fb)と寿命比(L10/Lcal )との関係を
図4にグラフで示す。このグラフから、実施例1〜10
では比(fa/fb)が0.936〜1.01の範囲
(図4の)にあり、寿命比(L10/Lcal )は5.0
以上と高いことが分かる。また、実施例1〜10のう
ち、比(fa/fb)が0.95〜1.00の範囲(図
4の)にあれば、寿命比(L10/Lcal )は6.0を
超える程高くなることが分かる。
【0026】したがって、トラクションオイルによる潤
滑を行って使用されるラジアル玉軸受では、内輪(回転
側の軌道輪)の溝半径比を51.5%以上53.0%以
下とし、外輪(固定側の軌道輪)の溝半径比を52.5
%以上55.0%以下とするとともに、比(fa/f
b)を0.95以上1.00以下とすることにより、寿
命測定値の計算寿命に対する比をより大きくすることが
できる。
【0027】なお、比(fa/fb)が小さくなること
は、内輪(回転側の軌道輪)の接触面圧が低下して内輪
に滑りが生じ易くなり、その結果、内輪に剥離が生じ易
くなることを意味する。また、比(fa/fb)が大き
くなることは、外輪(固定側の軌道輪)の接触面圧が低
下して外輪に滑りが生じ易くなり、その結果、内輪に剥
離が生じ易くなることを意味する。そのため、内外輪両
方に剥離が生じ難くするための適正値として、比(fa
/fb)を0.936以上1.01以下とすることが好
ましく、0.95以上1.00以下とすることが更に好
ましい。
【0028】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、
トラクションオイルによる潤滑が行われるラジアル玉軸
受の寿命を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】内輪および外輪の溝半径比について説明する図
である。
【図2】軌道輪の剥離形態を示す図であって、(a)は
潤滑油が鉱油の場合を示し、(b)は潤滑油がトラクシ
ョンオイルの場合を示す。
【図3】軌道輪と玉との間に生じる差動滑りを説明する
図である。
【図4】実施形態で得られた、内外輪の溝半径比の比
(fa/fb)と寿命比(L10/Lcal )との関係を示
すグラフである。
【符号の説明】
1 内輪 2 外輪 3 玉 3a 弾性変形する前の玉の形状 11 軌道溝 11a 接触面から外れた位置での軌道溝の面 13 軌道輪と玉との接触面(接触楕円) 13a 2本の線Eの内側部分 13b 2本の線Eの外側部分 O 軌道輪の回転軸 B 玉の自転軸 V1 接触楕円内での内輪の回転速度(周速) V0 接触楕円内での玉の回転速度(周速) E 純粋な転がり接触が生じている位置を示す線

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 回転側の軌道輪の溝半径比(溝半径/玉
    の直径)が51.5%以上53.0%以下であり、固定
    側の軌道輪の溝半径比が52.5%以上55.0%以下
    であるラジアル玉軸受。
  2. 【請求項2】 トラクションオイルによる潤滑を行い、
    軌道輪と玉との間に生じる面圧Pと、接触楕円内で生じ
    る軌道輪と玉との回転速度差Vとの積の最大値PVmax
    が、回転側および固定側の両軌道輪で14000×9.
    8N/mmsec以上24000×9.8N/mmsec 以下と
    なる条件で、ラジアル玉軸受を使用するラジアル玉軸受
    の使用方法。
  3. 【請求項3】 回転側の軌道輪の溝半径比(fa)と固
    定側の軌道輪の溝半径比(fb)との比(fa/fb)
    は0.936以上1.01以下である請求項1記載のラ
    ジアル玉軸受。
  4. 【請求項4】 ラジアル玉軸受は、回転側の軌道輪の溝
    半径比(fa)と固定側の軌道輪の溝半径比(fb)と
    の比(fa/fb)が0.936以上1.01以下であ
    る請求項2記載のラジアル玉軸受の使用方法。
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