JP2002034549A - 蒸留酒製品及びその製造方法 - Google Patents

蒸留酒製品及びその製造方法

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Abstract

(57)【要約】 【課題】 香味に優れた蒸留酒製品、すなわち蒸留酒及
びその加工品を提供し、更に当該蒸留酒の製造方法を提
供する。 【解決手段】 2−アセチル−1−ピロリンを0.2p
pb〜200ppbの濃度範囲で含んでいることを特徴
とする蒸留酒製品。原料の少なくとも一部を焙炒処理す
る工程、及び生成した蒸留前の醪のpHを、4.5〜
7.0に管理しながら蒸留する工程を含むことを特徴と
する上記の蒸留酒の製造方法。 【効果】 良好な香ばしい香味を持った新しいタイプの
ものになり、酒類の多様化に貢献できる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、新しい香味を持つ
蒸留酒製品、すなわち蒸留酒、及びその加工品、及び当
該蒸留酒の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】2−アセチル−1−ピロリン(以下、2
APと略す)は、アール.ジー.バッテリー(R.G.
Buttery)らにより香り米中の主要香気成分であ
ると報告され〔ケミストリー アンド インダストリー
(Chemistry andIndustry)、1
982、第958頁(1982)〕、その他パン、ポッ
プコーンなど多くの食品中にその存在が明らかにされて
いる。2APは、食品の香気成分として微量で効果を発
揮することから、近年、工業的レベルでの2APの製造
法が、特許第2562267号公報に開示され、パン製
造などへの応用が検討されつつある。また、米の品種の
中で2APを豊富に含む香り米は、その独特な香によ
り、世界中で高価な値段で流通している。日本では、そ
の香は毀誉褒貶の差が激しく、香り米が良い米という一
般的な認知は薄い。しかし、近年のグルメブームによ
り、香り米の需要は増加している。しかしながら、今ま
でに2APを豊富に含有する酒類の報告例はない。2A
Pは比較的不安定な物質であり、特に酒類製造工程にお
ける蒸し米工程や発酵工程での揮散などにより、生成し
た2APを安定に保持することは困難であった。清酒で
試みられた例があるが、官能的に2APの特徴を持った
清酒の製造には成功していない(技術幹部養成上級研修
通信教育テキスト、第24単元「清酒の将来展望」、日
本酒造組合中央会、平成11年6月新訂2版発行、第3
4頁)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明の第1の目的
は、2APを豊富に含み香味に優れた蒸留酒製品、すな
わち蒸留酒及びその加工品を提供することであり、第2
の目的は、第1の目的の蒸留酒の製造方法を提供するこ
とである。これらの目的を達成することによって、蒸留
酒製品の酒質の多様化に貢献することができる。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明を概説すれば、本
発明の第1の発明は、2APを0.2ppb〜200p
pbの濃度範囲で含むことを特徴とする蒸留酒製品に関
し、第2の発明は、原料の少なくとも一部を焙炒処理す
る工程及び生成した蒸留前の醪のpHを、4.5〜7.
0に管理しながら蒸留する工程を含むことを特徴とする
第1の発明の蒸留酒の製造方法に関する。
【0005】本発明者らは、前記従来技術の問題点を解
決するため鋭意研究を行った結果、蒸留酒の原料の中
で、例えば、精白米を240〜400℃の高温で焙炒処
理することにより、焙炒後の米中に2APを増加あるい
は保持することに成功した。この焙炒処理法を用いれ
ば、2APが揮散する恐れのある蒸し米工程を省略する
ことが可能となり、2APを有効に醪中に保持すること
ができた。更に、この醪を蒸留し焼酎を製造する場合に
は、蒸留前の醪のpHを4.5から7.0に管理する
と、より多くの2APを焼酎中に移行することができ
た。これらの知見を基に、蒸留酒中における官能的に好
ましい2AP含量の範囲を特定することができ、本発明
の完成に至った。
【0006】
【発明の実施の形態】以下、本発明を具体的に説明す
る。本発明における蒸留酒とは、例えば、焼酎、スピリ
ッツ及びウィスキーなどをいい、その加工品とは、例え
ば焼酎、スピリッツを加工したチュウハイなどのリキュ
ール類及び調味料などをいう。
【0007】本発明における蒸留酒及びその加工品中の
2APの濃度範囲は0.2ppb〜200ppbであ
り、0.2ppb未満になると2APの特徴を表わす新
規の香ばしい香は感じられず、従来品と変らないものに
なる。また、200ppbを超えると2APが強くなり
すぎて嫌みを持った香になり、本発明でいう良好な蒸留
酒及びその加工品にはならない。更に焼酎においては、
新規の香ばしい豊かな香を持ち、良好な酒質を与える2
APの好ましい範囲は、0.2ppb〜2ppbであ
る。
【0008】本発明における蒸留酒の原料は特に限定は
されないが、例えば穀類として米、麦、ヒエ、アワ、コ
ーリャン、ソバ、トウモロコシなどがあり、穀類以外に
も、サツマイモ、ジャガイモなどのイモ類を用いてもよ
い。また、例えば米においては品種には特に限定され
ず、香り米(高知県産、高育香37号)といわれるよう
な米を用いてもよい。米の精白歩合についても、玄米か
ら高精白米まで、広い範囲の精白歩合のものを用いても
よい。
【0009】本発明における焙炒処理とは、特許第18
16776号公報に開示されているように、穀類及び/
又は穀類を水に浸漬したものを、240〜400℃の乾
燥した熱風で数秒〜5分間処理すること、又は同等の効
果を有する加熱処理のことをいう。より多くの2APを
生産させ、官能的に良好な処理条件として、280℃〜
350℃で30秒〜2分間の条件を用いることが好まし
い。例えば焼酎を製造する場合、350℃、2分間を超
える条件で焙炒処理した原料を用いると、焼酎中にやや
異なった嫌みのある香がつき、本発明でいう良好な香味
を持った焼酎にならない場合がある。
【0010】次に蒸留する前の醪のpHを4.5から
7.0に管理する方法について述べる。具体的には、例
えば醪に炭酸カルシウムなどの除酸剤を添加する方法が
あるが、これに限定されるものではない。
【0011】焼酎の製造方法であるが、麹については通
常の方法で製造した麹を用い、掛原料については少なく
とも一部に上述の加熱処理法で処理した原料を用いる。
仕込方法は、特許第2886252号公報に記載されて
いる一次、二次で仕込む2段仕込法でもよいし、添、
仲、留の3段仕込法でもよい。その後、発酵、蒸留、精
製工程を経て製造される。
【0012】蒸留酒の加工品であるチュウハイの製造方
法は、例えば上述した焼酎と糖類などの物品とを混合す
る工程、及びろ過精製する工程からなる。
【0013】本発明における蒸留酒、その加工品及び原
料中の2APの濃度の測定には、例えば内部標準にシク
ロヘキサノールを用いたガスクロマトグラフ−質量分析
法(以下、GC−MS法と称する)を用いることができ
る。
【0014】分析サンプルの前処理は、その種類に応じ
て適当な方法を用いる。例えば、サンプルが穀類、蒸し
米及び炊飯米の場合は、熱エタノール抽出、酸性下での
濃縮、ODSカラムの通過、ジエチルエーテル洗浄、中
性でのジエチルエーテル抽出及び濃縮の各工程を順次行
うことで分析用サンプルを調製する。また、サンプルが
蒸留酒の場合は、酸性下での濃縮、ジエチルエーテル洗
浄、中性下でのジエチルエーテル抽出及び濃縮工程を経
て分析サンプルとする。
【0015】原料の焙炒処理条件と2APの生成量との
関係を検討した例を示す。
【0016】(検討例1)原料は一般米を用い70%精
白を行い焙炒処理実験に供した。この70%精白米を洗
米、浸漬後、水分を28.4%に調整し、180〜28
0℃の熱風下、45〜100秒間焙炒処理し、処理後の
2AP量及び水分量を分析した。また、同じ精白米を洗
米、浸漬後、50分間蒸した米についても同様に分析し
た。その結果を表1に示す。
【0017】
【表1】
【0018】表1より、温度が低い180℃及び210
℃、45秒の条件では、2APは処理前とほとんど変ら
ず0.39ppbであった。240℃以上の条件になれ
ば2APの増加がみられ、280℃、45秒では4.2
1ppbの濃度に達した。更に280℃で100秒間処
理したものは、2APは9.52ppbになった。した
がって、所定の2AP濃度にするためには、240〜4
00℃で数秒〜5分間処理すればよく、好ましくは28
0〜350℃で30秒〜2分間加熱処理を行う。また、
蒸した米は、0.23ppbと処理前の原料米より低く
なっており、蒸し処理は2APの生成には不適当であっ
た。
【0019】
【実施例】以下、実施例によって本発明を更に具体的に
説明するが、本発明がこれらの実施例に限定されるもの
ではない。
【0020】(参考例1)サンプル調製方法 蒸留酒中の2APの抽出濃縮は以下の示す方法によっ
た。例えば、焼酎400mlに1Mクエン酸溶液を加え
てpH3.0とした。この液をエバポレータで濃縮し、
水を加えて50mlとした。当量のジエチルテーテルで
2回洗浄した後、水相に1Mりん酸ナトリウム緩衝液
(pH6.7)を加え、更に水酸化ナトリウム溶液を加
えてpH7.0に調整し、当量のジエチルエーテルで2
回抽出した。これに内部標準の50ppmシクロヘキサ
ノールを200μl加え、無水硫酸ナトリウムで乾燥
後、ジエチルエーテルを42℃の温浴上で留去して濃縮
した。これを更に、窒素気流で約200μlに濃縮し
て、GC−MS分析試料とした。
【0021】醪及び蒸留酒の加工品の前処理は以下の示
す方法によった。例えば、醪400mlに、1Mりん酸
ナトリウム緩衝液(pH6.7)を加え、更に水酸化ナ
トリウム溶液を加えてpH7.0に調整した。この液を
2リットル容量のなす型フラスコに入れ、99.5%エ
タノール200mlを加えた後、エバポレーターに取付
け、40℃温浴上で十分減圧蒸留し留液を得た。冷却は
5℃以下で行い、受けフラスコ底部には、あらかじめ1
%クエン酸水溶液を50ml入れて蒸留した。以後は、
上記焼酎中の2AP抽出濃縮法のpH7.0ジエチルエ
ーテル抽出工程以降の方法を用いて調製した。
【0022】生の穀類、蒸米、及び焙炒処理後の穀類の
2AP抽出濃縮は以下に示す方法によった。前処理とし
て、生原料、焙炒原料は約50gを粉砕機で粉砕し、蒸
米も同様に約50gを液体窒素で凍結後粉砕した。これ
ら粉砕試料全量を1リットル容量のナス型フラスコに入
れ、99.5%エタノールで洗浄しながら計300ml
を加えた。このナス型フラスコの上部に5℃冷却管を付
けて88℃の温浴で1時間還流した後、ろ紙でろ過し
た。このろ液に300mlのクエン酸水溶液(pH3.
0)を加えかくはんし、更に1Mクエン酸を加えてpH
3.0に調整した。この液をエバポレーターで濃縮した
後、水を加えて35mlとし、これを直列に結合した2
本のODS−Aカートリッジ200mg/3ml(ダイ
ソー製)を通過させ、水洗液15mlと混合した。この
液を当量のジエチルテーテルで2回洗浄した。以後は、
上記焼酎中の2AP抽出濃縮法のpH7.0ジエチルエ
ーテル抽出工程以降の方法を用いて調製した。
【0023】(参考例2)2APの測定方法 上述の方法により原料、製品などから抽出濃縮して得た
サンプルの2AP濃度の測定は、以下に示すGC−MS
法を用いた。 <使用機器> GC−MS:ヒューレットパッカード製 GC:HP−6890、 MS:HP−5973 <GC条件> カラム:ヒューレットパッカード製、キャピラリーカラムHP−WAX 長さ60m×内径0.25mm、膜厚1μm 昇温条件:35℃、5分間 35℃〜180℃ 、5℃/分 180℃〜240℃、10℃/分 注入口:スプリットレス、230℃ 注入量:1μl キャリアガス:ヘリウム カラム流量:1ml/分 <MS条件> 重極温度 106℃ イオン源温度 230℃ 選択イオン検出(SIM)モード 2AP オン 111、83 シクロヘキサノール イオン 82、57
【0024】得られたデータの解析は次のようにして行
った。2APのピークをイオン111とイオン83のク
ロマトグラムで確認後、イオン83のクロマトグラムピ
ーク面積と内部標準のシクロヘキサノールのイオン82
のクロマトグラムピークの面積比を求めた。試料中の2
APの濃度は使用した試料の元の量に合せた時のシクロ
ヘキサノールの濃度に求めた面積比を乗じることにより
得られた(回収率は内部標準を含めて全て100%とし
て計算した)。これを2APの濃度として、シクロヘキ
サノール換算の濃度単位ppbで表示した。
【0025】実施例1 焼酎 70%精白ウルチ米を水に浸漬し水切り後、280℃、
45秒焙炒処理したものを掛原料として焼酎醪を製造
し、発酵醪のpHを炭酸カルシウムで4.9に調整した
ものを減圧蒸留して焼酎を得た。対照1として、70%
精白ウルチ米を常圧蒸し(100℃、50分)したもの
を掛原料として用い、膠のpHを調整せずに減圧蒸留し
て焼酎を得た。対照2として70%精白ウルチ米を上述
と同様の条件で浸漬、焙炒したものを掛原料として焼酎
醪を製造し、醪のpHを調整せずに減圧蒸留して焼酎を
得た。それらの仕込配合を表2に示す。
【0026】
【表2】
【0027】麹は、70%精白ウルチ米を原料とし清酒
用黄麹菌を使用して、通常の方法で製麹した米麹を用い
た。酵母は、清酒醸造用協会酵母701号を初添時に汲
水1mlに対して106になるように添加した。留添後
の温度17℃で合計18日間、発酵を行った。18日目
の蒸留直前の醪の分析値を表3に示す。本発明の醪はp
H調整後の値である。
【0028】
【表3】
【0029】得られた留液をアルコール分25%に水で
希釈して、分析用、官能検査用のサンプルとした。2A
Pは前述の方法で、香気成分はガスクロマトグラフを用
い通常の方法でを分析した。また、官能検査は、12名
のパネラーで香及び味について5点法(1点良〜5点不
良)で行った合計で表し、結果を表4に示した。
【0030】
【表4】
【0031】表4に示すように、対照1は2APが0.
05ppbと低く、香味に特徴がなく従来品と変らない
ものであった。対照2は2APが0.11ppbと対照
1よりやや多くなったものの、特徴ある良好な香味を持
つものではなかった。焙炒米を用い、更にpHを4.9
に調整して蒸留した本発明の焼酎は、2APが0.34
ppbと対照1、2よりはるかに多くなり、香り米に似
た香ばしい芳香が認められ、香味が優れているという評
価が得られた。
【0032】実施例2 チュウハイ 70%精白ウルチ米を水に浸漬し水切り後、300℃、
45秒焙妙処理したものを掛原料とし、実施例1と同様
に蒸留前の醪のpHを4.9に調整して蒸留し、ベース
となる焼酎を得た。対照として70%精白ウルチ米を常
圧蒸し(l00℃、50分)したものを掛原料として用
い、実施例1と同様に醸造し、焼酎を得た。これらの焼
酎をベースに糖、クエン酸を添加し、炭酸水で割ったチ
ュウハイタイプのリキュールを製造した。仕込配合を表
5に示す。
【0033】
【表5】
【0034】得られたチュウハイについて、2APの分
析と官能検査を行い、その結果を表6に示す。官能検査
は、12名のパネラーで香及び味について5点法(1点
良〜5点不良)で行い、その合計で表した。
【0035】
【表6】
【0036】焙炒米を用いた焼酎で製造したチュウハイ
である本発明は、香、味共に対照と比較して評価が高
く、また新規の香ばしい芳香が感じられ、良好であると
いうコメントが多かった。
【0037】
【発明の効果】本発明によって、焙炒した原料を用い、
醪のpHを4.5〜7.0に管理して蒸留した蒸留酒
は、2APを多く含むことがわかった。これらの2AP
を多く含んだ蒸留酒及びその加工品は、良好な香ばしい
香味を持った新しいタイプのものになり、酒類の多様化
に貢献できる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 境 克弘 京都府京都市下京区四条通烏丸東入長刀鉾 町20番地寳酒造株式会社本社事務所内 (72)発明者 平井 信行 滋賀県大津市瀬田3丁目4番1号 寳酒造 株式会社中央研究所内 (72)発明者 長友 正弘 滋賀県大津市瀬田3丁目4番1号 寳酒造 株式会社中央研究所内 (72)発明者 黒瀬 直孝 滋賀県大津市瀬田3丁目4番1号 寳酒造 株式会社中央研究所内 (72)発明者 川北 貞夫 京都府京都市下京区四条通烏丸東入長刀鉾 町20番地 寳酒造株式会社本社事務所内 (72)発明者 垂水 彰二 滋賀県大津市瀬田3丁目4番1号 寳酒造 株式会社中央研究所内 (72)発明者 高橋 康次郎 京都府京都市下京区四条通烏丸東入長刀鉾 町20番地 寳酒造株式会社本社事務所内 Fターム(参考) 4B015 LG02 LH11 LH12 NB01 NG02 NP01 NP02 NP03

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 2−アセチル−1−ピロリンを0.2p
    pb〜200ppbの濃度範囲で含んでいることを特徴
    とする蒸留酒製品。
  2. 【請求項2】 請求項1記載の蒸留酒の製造方法におい
    て、原料の少なくとも一部を焙炒処理する工程、及び生
    成した蒸留前の醪のpHを、4.5〜7.0に管理しな
    がら蒸留する工程を含むことを特徴とする蒸留酒の製造
    方法。
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