【発明の詳細な説明】
レンチウイルスをベースとするベクター及びベクター系
本発明は、中枢神経系の細胞を含む非分裂細胞に感染して、効率的に遺伝子を
導入するレトロウイルスベクターに関する。本発明のベクター系は、例えば中枢
神経系の遺伝子治療用の遺伝子導入担体として有用である。
発明の背景
レトロウイルスベクターは、多様な細胞に効率的且つ安定に形質導入すること
ができる。他の多くのウイルスベクターとは異なり、レトロウイルスベクターに
よって形質転換された遺伝子は、宿主のゲノム中に取り込まれるために、ウイル
スタンパク質が全く存在しなくても残存することができる。それ故、形質導入さ
れた細胞は、抗ウイルス免疫反応によって拒絶されることがない。がんウイルス
をベースとするレトロウイルスベクターは、効率的な形質導入のために細胞分割
を必要とする(26,32)。これは、標的細胞の範囲を著しく限定し、レトロウイル
スベクターによる効率的なインビボ遺伝子治療の妨げとなるかもしれない。この
限定を克服するために、多くの遺伝子導入プロトコールでは標的細胞の分裂が誘
導される。例えば、末梢血液リンパ球は、ポリクローンとなるように刺激され、
細胞培養においてインターロイキン2で増殖される。このように処理された細胞
が、インビボでも完全に機能的であるかどうかは、大部分が未知のままである。
形質導入した幹細胞培養の移植効率が低いのは、培養状態での造血幹細胞の分化
によろものでもあり得る(2)。がんウイルスと異なり、レンチウイルスは、終末
まで分化した細胞に感染することができ(15,20)、放射線照射によって細胞分裂
が阻害されても感染できる(35)。最近示されたように、HIV-1をベースとするレ
トロウイルスベクターは、非分裂細胞にインビトロ及びインビボで形質導入する
ことができる(27)。
遺伝子治療のためのレトロウイルスベクターの使用は、これまで多くの注目を
集めてきており、現在では、欧米で承認された様々なプロトコールで治療用の遺
伝子を導入するために選択される方法となっている。しかしながら、これらのプ
ロトコールの多くは、治療用遺伝子を担持するレトロウイルスベクターによる標
的細胞をインビトロで感染させた後、上手く感染した細胞を患者に戻す必要があ
る。このようなエクスビボ(ex vivo)遺伝子治療プロトコールは、標的細胞集団
を容易に単離できる(例えば、リンパ球)疾病の改善には理想的である。加えて
、標的細胞のエクスビボ感染によれば、使用前に厳格な安全テストを行い得る濃
縮ウイルスを大量に投与することができる。
残念ながら、可能な遺伝子治療への応用には、標的細胞を容易に単離、培養し
た後、再導入できるものは僅かしかない。さらに、エクスビボ遺伝子治療の複雑
な技術とそれに伴う高コストは、その使用が全世界に普及するのに強い妨げとな
っている。将来の簡易且つコストの低い遺伝子治療には、レトロウイルスベクタ
ー産生細胞の注入又は単なる移植(implantation)の形態でウイルスベクター又は
ウイルスベクターを産生する細胞を直接患者に投与するインビボアプローチが必
要であろう。もちろんこのことは、特に中枢神経系の細胞に当てはまる。
もちろん、インビボアプローチは、様々な新しい問題を提起する。まず、とり
わけ、安全性についての考慮を挙げなければならない。ウイルスは、おそらくウ
イルス産生細胞の移植又は投与から産生されるので、産生されたウイルスを予め
チェックする機会がないであろう。このようなシステムの使用に伴う有限のリス
クに気づくこと、及びこのリスクを最少にする新しいシステムの作成を試みるこ
とが重要である。
レトロウイルスベクターシステムは、2つの成分からなる:
1) レトロウイルスベクター自体は、ウイルスタンパク質をコードする遺伝子
が標的細胞に導入すべき治療用遺伝子及びマーカー遺伝子によって置換され
ている修飾されたレトロウイルス(ベクタープラスミド)である。ウイルス
タンパク質をコードする遺伝子の置換によって、ウイルスは効率的に機能し
なくなるので、修飾されたレトロウイルスに喪失したウイルスタンパク質を
与えるシステム中の第二の成分によってレスキューしなければならない。
第二の成分は、
2)大量のウイルスタンパク質を産生するが、複製能を有するウイルスを産生す
る能力を欠く細胞株。該細胞株は、パッケージング細胞株として知られ、修
飾されたレトロウイルスベクターのパッケージングを可能とする遺伝子を担
持する−以上のプラスミドをトランスフェクトした細胞株からなる。
パッケージングされたベクターを作成するために、ベクタープラスミドをパッ
ケージング細胞株にトランスフェクトする。これらの条件下では、挿入された治
療用遺伝子及びマーカー遺伝子を含む修飾されたレトロウイルスゲノムは、ベク
タープラスミドから転写され、修飾されたレトロウイルス粒子(組換えウイルス
粒子)中にパッケージングされる。続いて、該組換えウイルスは、標的細胞を感
染させるために使用され、該標的細胞中では、ベクターゲノム及び任意の担持さ
れたマーカー又は治療用遺伝子が、標的細胞のDNA中に組込まれている。これら
の細胞中にはウイルスタンパク質が全く存在していないので、このような組換え
ウイルス粒子に感染した細胞は、新しいベクターウイルスを産生することができ
ない。しかしながら、治療用遺伝子及びマーカー遺伝子を担持するベクターのDN
Aは細胞DNAに組込まれ、この時点で、被感染細胞の中で発現することができる。
上述したように、レトロウイルスは、複製能を有するウイルスが存在する可能性
が最少となるように構築されている。しかしながら、レトロウイルスベクター/
パッケージングシステムの成分間の組換え現象によって、病原性と複製能を有す
る可能性があるウイルスが実際に生成され得ることが多数文献に記載されている
。
レトロウイルスベクターの別の難点は、非分裂細胞に感染し得ることが知られ
ているのは、2〜3にすぎない(全てレンチウイルス科に属する)ということであ
る。これには、サル免疫不全症ウイルス(SIV)及びヒト免疫不全症ウイルス(HIV)
が含まれる。可能性は極めて小さいが、病原性と複製能を有するHIV又はSIVを生
じさせるかもしれない組換え現象が実際に起こり得ることを考慮すれば、HIV又
はSIV由来のベクターを受け入れるには著しい困難が存在することは明白である
。
中枢神経系の疾病及び疾患の遺伝子治療は、完全にインビボプロトコールに依
らねばならないであろう。
発明の概要
本発明は、非分裂細胞の遺伝子治療に関連する問題、特に中枢神経系の疾患及
び疾病を治療するための遺伝子治療への適用に適した遺伝子治療プロトコールの
問題に関する。がんウイルスとは異なり、レンチウイルスは宿主のゲノム中に組
込まれるのに標的細胞の分裂を必要としない。それ故、レンチウイルスベクター
は、レトロウイルスによる遺伝子導入に感受性のある標的細胞のスペクトルを広
げることができる。本発明によれば、ベクター/パッケージングシステムを具備
し、その中のGag-Pol及びベクター自身がレンチウイルス由来、すなわちHIV,ヒ
ト免疫不全症ウイルス1型及び2型;SIV,サル免疫不全症ウイルス;FIV,ネコ免
疫不全症ウイルス;BIV,ウシ免疫不全症ウイルス;ビスナ/マエディウイルス;
CAEV,ヤギ関節炎脳炎ウイルス;又はEIAV,ウマ伝染性貧血ウイルスからなる群か
ら選択され、Envが上記レンチウイルスの一つ;又は両種向性、多種向性、若し
くは異種向性マウス白血病ウイルス(MLV)、マウス肉腫ウイルス、ネコ白血病ウ
イルス、サル肉腫ウイルス、細網内皮症ウイルス、若しくは脾壊死ウイルス(spl
een necrosis virus);又はラウス肉腫ウイルスのenv;又はテナガザル白血病ウ
イルス;又は脾壊死ウイルス(Spleen Nekrosis viruses)のような哺乳類C型レ
トロウイルス;又はマウス乳癌ウイルスのようなB型ウイルス;又はメイソン−
パイツァーサルウイルス若しくはサルレトロウイルス;又はHTLV,ヒトT細胞白
血病ウイルス1型又は2型のようなD型ウイルス;サルフォーミーウイルス、ヒ
トフォーミーウイルス、若しくはネコシンシチウム形成ウイルスのようなスプマ
ウイルスのenv;又は水疱性口内炎ウイルス(VSV)のGタンパク質の何れかに由来
する、非分裂細胞中に遺伝子を導入するために使用されるレンチウイルスをベー
スとするベクターが開発された。このようなMLV又はVSV-G-糖タンパク質で偽型
化された(pseudotyped)レンチウイルスベクターは、例えば、106感染単位/mL
を超える力価を有する。本発明によれば、本発明のSIVをベースとするベクター
によって、vpr,vpx,nef及びvifが変異又は欠失し、核局在化シグナル又はマト
リックスタンパク質のC末端チロシンが変異していても、成長が停止した細胞が
効率的に形質導入されることが示された。それ故、本発明によって、驚くべきこ
とに、本発明によるパッケージング及びベクター構築物から一以上又は全てのvi
f,vpx,vpr,及びnef遺伝子を欠失することにより、同時に、必須の遺伝子を欠失
さ
せることによって得られたこのようなベクターの安全性の問題に対処しながら、
非分裂細胞に効率的に感染し、且つ効率的に遺伝子導入するレトロウイルス性レ
ンチウイルスベクターを取得し得ることが見出され、それにより、ウイルスを再
度病原性にするが、非分裂細胞の形質導入を損なわない組換え現象が起きる可能
性が喪失する。それによって、安全なレンチウイルスをベースとするベクターの
開発が可能となる。
中枢神経系の疾病又は疾患を治療するために、本発明のウイルスベクター中に
任意の適切な治療用遺伝子を挿入してもよく、もちろん、これには、例えば、特
にNGF(神経成長因子)遺伝子、GDNF(グリア由来神経栄養因子)遺伝子、DAT(ドー
パミントランスポーター)遺伝子、及びチロシンヒドロキシラーゼ遺伝子のよう
な遺伝子が含まれる。本分野で平均的な知識を有する者であれば誰にでも明らか
なように、適切なタンパク質をコードする任意の遺伝子を本発明のベクター中に
適宜挿入することができる。同様に、中枢神経系の疾病及び疾患を治療するため
の任意の治療用ベクター構築物は、適切な組織中に遺伝子を発現させ得る任意の
プロモーターのベクター構築物中への使用と組み合わせてもよい。もちろん、こ
れには、特に、中枢神経系又は中枢神経系の任意の適切な細胞のサブセットに特
異的なプロモーター並びに任意の誘導性プロモーターも含まれる。
本発明のベクター/パッケージングシステムは、中枢神経系以外にも利用し得
る。例えば、一例としては、代謝性の肝臓病が挙げられる。それ故、この場合、
平均的な当業者であれば誰でも、何れの治療用遺伝子が適切であり、何れのプロ
モーターが適切であるから容易に理解できよう。
本発明のベクター/パッケージングシステムは分裂細胞にも感染し、それ故本
発明のベクター/パッケージングシステムは任意の適切な治療用遺伝子、マーカ
ー遺伝子、並びに分裂細胞及びこのような細胞の疾病又は疾患の治療的処置に使
用するためのプロモーターと組合わせ得ることは無論自明である。
別の側面では、本発明のベクター/パッケージングシステムは、複製欠損生ワ
クチンとほぼ同様に、レンチウイルス感染に対するワクチン、又はレンチウイル
ス感染症及び疾病の治療的ワクチンに使用し得る;免疫原性スペクトルは、無論
、本発明のベクター/パッケージングシステム遺伝子の正確な遺伝的組成に依存
す
る。
本発明のベクター/パッケージングシステムを具備する薬学的組成物及び調製
物は、この目的のために、本分野で標準的且つ周知の方法に従って調製し得る。
このような方法は、全て本分野で周知であり、平均的な当業者であれば誰でもそ
のように考えるであろう。
上述したようにレトロウイルスパッケージング細胞株の中に、本発明のレトロ
ウイルスベクターを導入すると、組換えレトロウイルスゲノムを具備するレトロ
ウイルス粒子が産生される。本発明には、本発明のレトロウイルスプロウイルス
、レトロウイルスプロウイルスのmRNA、本発明のレトロウイルスベクターから得
られる任意のRNA、及びそれらのcDNA、並びに本発明のレトロウイルス粒子に感
染した宿主細胞も含まれる。
本発明のさらなる態様は、標的細胞中に同種及び/又は異種のヌクレオチド配
列を導入する方法であって、インビボ及びインビトロで標的細胞集団に組換えレ
トロウイルス粒子を感染させることを具備する方法を提供する。
レトロウイルスベクター、レトロウイルスベクターシステム、及びレトロウイ
ルスプロウイルス、並びにそれらのRNAは、ヒトを含む哺乳動物のインビボ及び
インビトロ遺伝子治療のための薬学的組成物を製造するために使用される。さら
に、それらは、同種の(homologous)細胞配列内への標的化された組込みに使用さ
れる。
発明の概要:
従って、本発明は、以下のものを単独で、又は組み合わせて具備する。
左腕及び右腕のLTR配列の全部又は一部を具備するレンチウイルスをベースと
するベクターであって、gag、pol、及びenvをコードする配列が全て、部分的又
は完全に欠失又は変異しており、vif,vpr,vpx及びnef遺伝子をコードする配列
が、一以上又は全て、独立して、又は共に、完全に又は部分的に欠失しているが
、必要に応じて、tat及びrev遺伝子は発現したままであり、核局在化シグナル及
び/又はマトリックスタンパク質のC末端コード配列が必要に応じて欠失又は変
異されている;
NGF(神経成長因子)遺伝子、GDNF(グリア由来神経栄養因子)遺伝子、DAT(ドー
パミントランスボーター)遺伝子、又はチロシンヒドロキシラーゼ遺伝子のよう
な遺伝子を含む、中枢神経系の疾病若しくは疾患を治療するのに適切な遺伝子;
又は代謝性肝臓病、又は他の任意の関連疾患に関連する遺伝子を具備する上記レ
トロウイルス性レンチウイルスベクター;
第一の成分として上記レンチウイルスベクターを具備し、該レンチウイルスの
Gag及びPolタンパク質と前記レンチウイルスのEnvタンパク質又は異種のEnvタン
パク質を合成するパッケージング細胞株を具備し、必要に応じてtat及びrev遺伝
子も発現されているレンチウイルスをベースとするレトロウイルスベクターシス
テム;
ベクターがHIV1型及び2型、SIV、FIV、BIV、CAEV、EIAVに由来し、Envが両
種向性、多種向性、若しくは異種向性マウス白血病ウイルス(MLV)、マウス肉腫
ウイルス、ネコ白血病ウイルス、サル肉腫ウイルス、細網内皮症ウイルス、若し
くは脾壊死ウイルス;又はラウス肉腫ウイルス;又はテナガザル白血病ウイルス
;又は脾壊死ウイルス;HIV、ヒト免疫不全症ウイルス1型及び2型;又はSIV、
サル免疫不全症ウイルスのような哺乳類のC型レトロウイルス;又はマウス乳癌
ウイルスのようなB型ウイルス;又はメイソン−パイツァーサルウイルス若しく
はサルレトロウイルスのようなD型ウイルス;又はHTLV,ヒトT細胞白血病ウイ
ルス1型若しくは2型;サルフォーミーウイルス、ヒトフォーミーウイルス、若
しくはネコシンシチウム形成ウイルスのようなスプマウイルスのenv;又は水疱
性口内炎ウイルスGタンパク質(VSV-G)の何れかに由来する、上記レンチウイル
スをベースとするレトロウイルスベクターシステム;
ベクターがSIV由来であり、EnvがSIV、又は両種向性、多種向性、若しくは異
種向性マウス白血病ウイルス、又は水疱性口内炎ウイルス(VSV-G-protein)由来
である上記レトロウイルス性レンチウイルスベクターシステム;
上記レンチウイルスをベースとするレトロウイルスベクターを具備するレトロ
ウイルス粒子;
上記レンチウイルスをベースとするベクターを用いて、上記レンチウイルスを
ベースとするベクターシステムのパッケージング細胞をトランスフェクトするこ
とによって得られる上記レトロウイルス粒子;
上記レトロウイルス粒子を用いて標的細胞を感染させることによって産生され
るレトロウイルスプロウイルス;
上記レトロウイルスプロウイルスのmRNA;
上記レンチウイルスをベースとするレトロウイルスベクターのRNA;
上記RNAのcDNA;
上記レトロウイルス粒子を感染させた宿主細胞;
上記レトロウイルス粒子及び/又は上記レンチウイルスをベースとするベクタ
ーシステム及び/又は中枢神経系の疾病若しくは疾患又は代謝性肝臓病若しくは
他の任意の関連疾病若しくは疾患を治療するために使用される上記レンチウイル
スをベースとするベクター;
治療的有効量の上記レトロウイルス粒子及び/又は上記レンチウイルスをベー
スとするレトロウイルスベクターシステムを含有する薬学的組成物;
遺伝子治療用の薬学的組成物を製造するための、上記レンチウイルスベクター
及び/又は上記レンチウイルスをベースとするレトロウイルスベクターシステム
及び/又は上記レトロウイルス粒子の使用;
中枢神経系の疾病若しくは疾患、又は代謝性肝臓病、又は他の任意の関連疾病
若しくは疾患を治療するための上記使用;
標的細胞に上記レトロウイルス粒子を感染させることを具備する、同種及び/
又は異種のヌクレオチド配列を標的細胞に導入させる方法;
ヒトを含む動物の中枢神経系の疾患若しくは疾病、又は代謝性肝臓病、又は他
の任意の適切な疾病若しくは疾患を治療する方法であって、それを必要とする者
に、治療的有効量の上記レトロウイルスベクターシステム及び/又は上記レトロ
ウイルス粒子を投与することを具備する方法;
ワクチン又は治療的ワクチン接種によって、ヒトを含む動物をレンチウイルス
感染から免疫する方法であって、それを必要とする者に治療的有効量の上記レト
ロウイルスベクターシステム及び/又は上記レトロウイルス粒子を投与すること
を具備する方法;
レンチウイルス感染がHIV又はSIV又はHTLVである上記方法。
例
トランスフェクション及び感染
ATCCから293T細胞(293ts/A1609)(6)を得て、(33)に記載されているリン酸カル
シウム共沈法を用いてトランスフェクトした。トランスフェクションの効率は、
(18,29)に既述されているように、トランスフェクトした細胞の上清中に存在す
る逆転写酵素活性を測定することによって決定した。CEMx174細胞は、10%ウシ
胎児血清、ペニシリン、ストレプトマイシン、及びグルタミンを補充したRPMI 1
640の中で培養した。細胞分裂を阻害するために、CEMx174細胞に4000ラドγ線照
射した。
それぞれ150μL及び450μLのベクター上清とともに、1×105のCEMx174細胞
又は3×105の放射線照射されたCEMx174細胞を2時間インキュベートした。1m
Lの培地を添加した後、さらに48時間細胞を培養した。ルシフェラーゼ活性は、
製造者の記載どおりにルシフェラーゼアッセイシステム(Promega、Madison、WI)
を用いて決定した。細胞抽出物のタンパク質濃度は、バイオラッド(Bio-Rad,Mun
chen,Germany)のタンパク質アッセイによって決定した。SIVベクターの力価は、
系列希釈したベクター調製物をsMAGI細胞(4)に感染させ、感染から二日後に、GF
P陽性細胞の数を計数することによって決定した。ベクターとして、MLV Env 8μ
g/mLポリブレン(Sigma-Aldrich Chemie,Deisenhofen,Germany)を含有する調製
物を加えた。MLVベクターの力価は、(33)に記載されているように、ベクターpHI
T111を用いて、NIH3T3細胞に対して決定した。ヒトの単核細胞は、フィコール−
ハイパーク(hypaque)密度遠心によって、軟層から単離した。10%ウシ胎児血清
、10%ヒトAB血清、350μgグルタミン/mL、50UのGM-CSF/mL(Boehringer M
annheim)及び抗生物質を補充した3mLのDMEM培地中で、6ウェルプレートのウ
ェル当たり6〜9×106の細胞を培養した。播種から3〜4日後、冷たいPBSでウェル
を徹底的に洗浄し、培養を続けた。3〜4日毎に非接着細胞を除去して、新鮮な培
地を加えた。単離から2週間後、1mLのベクター上清とともに接着細胞を3時
間インキュベートし、3mLの培地を加えてから48時間培養を続けた。ミクログ
リア細胞は、パーコールグラジエント法を用いて、感染していないアカゲザル及
びSIV感染したアカゲザルの完全に潅流した脳組織
から単離し、Sopper,S.ら,1996の「The effect of simian immunodeficiency vi
rusinfection in vitro and in vivo on the cytokine production of isolated
microglia and periphal macrophages from rhesus monkey.Virology 220,320
」の記載に従って培養した。95%以上がCD11b+であった単離された細胞に、単離
から7〜10日後に形質導入した。ラットの後根神経節からニューロンを調製し、Z
eilhofer,H.U.ら,1997の「Fractional Ca2+currents through capsaicin-and
proton-activated ionchannels in rat dorsal ganglion neurons.J.Physiol.50
3,67」の記載どおりに、カバーガラスの上で2日間培養した。続いて、カバーガ
ラスを1個ずつ、0.2mLのSIVベクター調製物に3時間暴露させた。0.8mLの
培地を添加した後、免疫蛍光分析まで、2日間培養を続けた。
プラスミド
S-gp:6603〜7758位(番号の付け方は参考文献30に従っている)にわたるenvの
欠失は、(31)に既述されているように、SIVΔNU(nef及びU3領域に欠失を含有す
るSIVmac239のプロウイルスクローン(18))中に導入した。続いて、SIVΔenvΔNU
と表記する該プラスミドの3'LTRを、ポリアデニル化部位を有するMLV LTRを含む
PCRで作成した断片と置換し、S-gpを得た。
S-env:pCDNAI-Amp(Invitrogen)のHindIII-EcoRI制限部位に、SIVmac239プロウ
イルス(GenBank entry:M33262)の6706〜10536位のヌクレオチド及び細胞隣接
領域を具備する断片をクローニングしてS-envを得た。
V1及びVgpベクター:PCRによって、ルシフェラーゼレポーター遺伝子のコード領
域を増幅し、nefの代わりに、SIVΔenvΔNUのユニークなXmaI制限部位にクロー
ニングしてVgp-lucを得た。SIVgag-polの発現は、gagのコドン8及び9に位置す
る2つの停止コドンを導入することによって、ブロックした。さらに、大きな欠
失を含有するvif遺伝子(17)(AIDS Research and Reference Reagent Programを
通じて、R.C.Desrosiersから頂いた)によって、vif遺伝子を置き換え、V1-lucを
得た。E-GFP遺伝子(Clontech)によって、PCRで増幅したV1-luc及びVgp-lucのル
シフェラーゼ遺伝子を置換して、それぞれV1-gfp及びVgp-gfpを得た。Vgp-Prgfp
を構築するために、脾フォーカス形成ウイルス(Baum,C.ら,1995:Novel retrovi
ral vectors for efficient expression of the multidrug
resistance(mdr-1)gene in early hematopoletic cells.J.Virol.69,7541)のプ
ロモーター領域からなる発現カセット及びE-GFP遺伝子によって、Vgp-lucのルシ
フェラーゼ遺伝子を置換した。
Vgp-luc誘導体:R-では、vprの開始コドンはTTGに変異していた(24)。X-では、v
pxの開始コドンはACGに変異し、第二のコドンが停止コドンTAAに変化していた。
vpxの変異は、何れも重複するvifの読み取り枠を変化せしめていなかった。HIV-
1とSIVの間で高度に保存されている、SIVmac239のマトリックスタンパク質内の
推定核局在シグナル(NLS)は、25GKKKYMLKから25GTTKYMLKに変異していた(ヌクレ
オチド配列:ggaaccactaagtacatgttgaag)。得られたプラスミドは、N-と表記し
た。マトリックスタンパク質のC末端のチロシンのリン酸化を防ぐために、該ア
ミノ酸をフェニルアラニンに変異し、Y-を得た。これらの突然変異は、様々な組
み合わせで、Vgp-luc中にもクローニングして、RX-、RY-、RN-、XY-、XN-、RXY-
、RXN-を得た。Δfrxには、vif,vpr,及びvpx遺伝子全体を含む大きな欠失(参考
文献17に記載されている;(AIDS Research and Reference Reagent Programを通
じて、R.C.Desrosiersから頂いた)をVgp-lucに導入した。MLV及びVSVプラスミド
:プラスミドpHIT60(MLV gag-pol発現プラスミド、本明細書ではM-gpと表す)、p
HIT456(pHIT123に類似する両種向性MLV env発現、本明細書ではM-envと表す)、p
HIT111(MLV βガラクトシダーゼベクター)、及びpHIT-G(VSV-G発現プラスミド)
は、Soneokaら(33)及びFouchier,R.A.M.ら(1997:HIV-1 infection of non-divi
ding cells:evidence that the amino-terminal basic region of the viral ma
trix protein is important for Gagprocessing but not for post-entry nucle
ar import;EMBP 16,4531)に記載されている。pRV172は、pLNCX(Genbank受付番号
:M28247)のpHITバージョンであり、CMV-IEプロモーターの制御の下でルシフェラ
ーゼ遺伝子が挿入されており、P.Cannonによって製造された。
フローサイトメトリー:標準的な操作に従って、10倍希釈したフィコエリトリン
標識抗CD11c抗体(Leu M5)(Becton Dickinson)又はアイソタイプをマッチさせた
対照を用いて、単球由来のマクロファージを染色した。GFPを検出するために、1
50μLの1%パラホルムアルデヒドの中で、10分間、4℃で細胞を固定
した。Lysis IIソフトフェアによるFACStract分析装置(Becton Dickinson)を用
いたフローサイトメトリーによって細胞を分析した。細胞周期を分析するために
、Hofman,F.1994:「Flow cytometry,in:Current protocolls in immunology,2n
d Edition;Coligan,J.E.ら、John Wiley & Sons,Inc,USA」の記載どおりに、ヨ
ウ化プロピジウムを用いて細胞のDNAを染色した。続いて、Multicycle software
(Phoenix)によるCoulter Epics Elite analyzerを用いて、フローサイトメトリ
ーを実施した。
−過性3プラスミドベクター/パッケージングシステム
SIVをベースとするベクターを作成するために、一過性3プラスミドベクター
/パッケージングシステムを使用した。シスで必要とされるSIVの配列が十分明
確ではなかったので、まず、ウイルスのゲノム組織を変化させずにウイルス遺伝
子を不活化するために、SIVベクター中に小さな欠失と変異を導入した。ベクタ
ーV1のマップは図1に示されている。HIV-1のgagの開始コドン近傍の変異は、ウ
イルスRNAのパッケージングを減少させたので(25)、開始コドンを変異させる代
わりに、V1のgagのアミノ酸8及び9に2つの停止コドンを導入した。これらの
変異を含有するプラスミドをトランスフェクトした後も、逆転写酵素活性は検出
できなかったので、予想どおりgag-polの発現は阻害されていた。V1は、vif中の
欠失及びenv遺伝子の最初の1154bpの欠失も含んでいる。env中の欠失は、該欠失
を含有するハイブリッドウイルスの効率的な複製によって示されたように(31)、
Rev-RREの制御に影響を与えなかった。さらに、以前に記載した(18)、nef及びU3
領域中の513bpの欠失が導入されていた。V1の導入の検出を可能とするために、n
efの代わりに、緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子又はルシフェラーゼ遺伝子を
挿入し、それぞれV1-gfp又はV1-lucを得た。V1-gfpをパッケージングするために
、SIV env発現プラスミド(S-env)及びSIV gag-pol発現プラスミド(S-gp)を構築
した(両者とも、いくつかの制御遺伝子も発現する)(図1)。V1-gfp、S-gp、及
びS-envを293T細胞に同時トランスフェクションすると、SIVコア及びSIVエンベ
ロープタンパク質(SIV[SIV])を含有する、レトロウイルスベクター粒子が得られ
た。ベクターの力価は、GFPレポーター遺伝子の助けを借りて、sMAGI細胞に対し
て決定した(4)。約1×105感染単位/mLの力価を得た(表1)。
SIVベクター粒子が効率的に偽型化され得るかどうかを分析するために、両種向
性MLV(M-env)のenv遺伝子又は水疱性口内炎ウイルスのGタンパク質(VSV-G)用の
発現プラスミドをS-gp及びV1-gfpとともに同時トランスフェクトすると、SIV[ML
V]又はSIV[VSV]ベクター粒子が得られた。5×106感染単位/mLまでの力価が得
られた(表1)。env発現プラスミド又はSIV gag-pol発現プラスミドの何れかが存
在しないと、力価はバックグラウンドレベルまで減少した(表1)。10μMの逆転
写酵素阻害剤ジドブジン(3'-アジド-2',3'-ジデオキシチミジン;AZT)の存在下で
は、SIV[SIV]又はSIV[MLV]ベクター粒子によるV1-lucのCEM×174細胞の導入は、
90%阻害された。このことは、観察された遺伝子の導入が、実際にレトロウイル
スを介してなされたものであり、ベクターDNAの受動的な導入によるものではな
いことを確証している。
非分裂細胞の形質導入
非分裂細胞が形質導入され得るかどうかを分析するために、CEMx174細胞に400
0ラドで放射線照射した。照射後1、2、及び3日目には、3Hチミジンの取り込み
は、バックグラウンドレベルまで低下していた。放射線照射から24時間後、照射
細胞と非照射細胞を、ルシフェラーゼ遺伝子を運ぶ種々のベクター粒子に同じ多
重度で感染させた。ルシフェラーゼの比活性は、2日後に決定した。同じ上清を
感染させた照射培養対非照射培養のルシフェラーゼ比活性の比は、増殖停止細胞
の形質導入効率とみなした。SIV[SIV]ベクター粒子では、0.29の形質導入効率が
得られた(表2)。SIV[MLV]ベクター粒子を用いると、増殖停止細胞の形質導入効
率は、3回繰り返して行われた3つの独立した実験で、約3桁減少した。SIV en
v発現プラスミドは、nefを発現せしめるのかもしれない(図1参照)。SIV env発
現プラスミドの存在下で、照射細胞の形質導入の効率がより高くなったのが、実
際には、nefの発現によることを除外するために、nef遺伝子が欠失している修飾
SIV env発現プラスミドを用いて、同じ実験を行った。再び、修飾されたSIV[SIV
]ベクターに感染した非照射細胞に対する照射細胞のルシフェラーゼ活性の比は
、SIV[MLV]ベクターに比べて、約3倍高かった。SLV[MLV]ベクターによる照射細
胞の減少した形質導入効率は、より高い力価によって幾分埋め合わされ、SIV en
v遺伝子の非存在下で非分裂細胞の効率的な感染を示している。照
射後3日で50%を超える細胞が死滅したので、SIVをベースとするベクターによ
る照射細胞と非照射細胞の形質導入効率の差は、ずっと小さいはずである。MLV
をベースとするベクターを用いると、非照射CEMx174細胞では、ルシフェラーゼ
活性はずっと低かった(表2)。これは、MLVベクターによるヒトリンパ球細胞の非
効率的な形質導入にによるものかもしれない。あるいは、MLVベクターのルシフ
ェラーゼレポーター遺伝子の発現を制御するCMVプロモーターの転写活性は、SIV
-LTRに比較して減少しているかもしれない。それにもかかわらず、照射細胞では
、ルシフェラーゼ活性は全く検出できながったので、MLVベクターに感染した非
照射細胞に対する照射細胞のルシフェラーゼ活性の比は、SIVをベースとするベ
クターの対応する比に比べて有意に低かった。照射の24時間前にSIVルシフェラ
ーゼ又はMLVルシフェラーゼベクターを感染させた照射CEMx174細胞と非照射CEMx
174細胞のルシフェラーゼ活性の比が同様だったので、これは、MLVベクターのル
シフェラーゼ遺伝子の発現を誘導する。それ故、SIV及びMLVベクターは、非分裂
細胞の形質導入効率が明確に異なる。
初代ヒト細胞の形質導入
より自然な方法で細胞周期を停止させた細胞が、SIVをベースとするベクター
によって形質導入され得るかどうかを決定するために、周密状態になるまで、ヒ
トの包皮の繊維芽細胞を2週間増殖させた。これによって、3Hチミジンの取り込
みが87%と減少した(表3)。ルシフェラーゼ遺伝子を運ぶSIV及びMLVベクターに
、2、7又は14日前に播種した繊維芽細胞を暴露させ、2日後にルシフェラーゼ活
性を決定した。SIVをベースとするベクターは、MLVをベースとするベクターに比
べて、繊維芽細胞の増殖停止に対して3〜5のオーダーで感受性が低い(表3)。
終末分化したヒトのマクロファージ培養も、ともにVSV-G又はM-envで偽型化さ
れたV1-gfp及びGFP発現SIVベクターVgp-gfpに暴露した。Vgp-gfpは、V1-gfpと類
似しているが、まだgag-polを発現させる。Vgp-gfpで得られた力価は、V1-gfpで
得られた力価より高かった。感染から2日後に、FACS分析によって、VSV-Gによ
る偽型化の後、Vgp-gfpを用いると35%の細胞まで形質導入され、V1-gfpでは10
%の細胞まで形質導入されることが明らかとなった。形質導入され
た細胞の99%は、単球/マクロファージマーカーのCD11cも発現した。感染時に
、85%を超える細胞が細胞周期のG0/G1期にあったので、非分裂マクロファージ
は、SIVベクターによって形質導入されたはずである。VSV-G偽型化されたSIVベ
クターとは異なり、MLV Env偽型ベクターは、マクロファージの形質導入には極
めて非効率的であった。
神経系の細胞の形質導入
ミクログリア細胞は、中枢神経系の疾患の遺伝子治療のための潜在的な標的で
ある。ミクログリア細胞は、アカゲザルの脳から調製した。アカゲザルの脳から
得た全ミクログリア細胞の約90%は、細胞周期のG0/G1期にあった。それにもか
かわらず、75%の細胞が、VSV-Gで偽型化したVgp-gfpで形質導入することができ
た。Vgp-gfpのMLV Env偽型による形質導入も可能であったが、効率はより低かっ
た。神経系で他に可能性のある標的細胞はニューロンであり、これは通常成人で
は全く分裂しない。それらが形質導入されているかどうかを分析するために、ラ
ットの後根神経節から得たニューロンの培養物をVSV-Gで偽型化されたSIVベクタ
ーVgp-Prgfp(図1)に接触せしめた。げっし類にGFPを効率的に発現させるため
に、GFP遺伝子の上流に内部プロモーターを挿入した。免疫蛍光顕微鏡によって
、典型的なニューロン様の形態を有する細胞に、VSV-Gで偽型化されたSIVベクタ
ーが効率的に形質導入されているかを明らかにした。この形態を有する細胞は、
ニューロンのみに見出される膜伝導特性を有する。
非分裂細胞の感染に必要な要素
HVI-1による非分裂細胞の感染は、部分的に重複した態様で、補助タンパク質V
pr及びマトリックスタンパク質の核局在化シグナル(NLS)に依存することが報告
された(3,19,34)。非分裂細胞の感染に必要なSIVの遺伝的要素を分析するために
、一組のSIVベクターVgp-lucの突然変異体が構築された(図2A)。SIVマトリッ
クスタンパク質の高度に保存された領域中に、HIV-1マトリックスタンパク質のN
LSを不活化する同一の突然変異を導入した。HIV-1マトリックスタンパク質のNLS
の核輸送機能及び非分裂細胞への感染性は、C末端のチロシンを変異させること
によっても喪失させ得ることが報告されているので(13,14)、該突然変異もSIVベ
クター中に導入した。vpr発現を阻害するために、vprの開始コドン
(24)を変異した。vprに加えて、多くのSIV株は、単球由来のマクロファージの感
染に重要なvpr関連遺伝子、vpxも含有している(8)。vpxは、非分裂細胞の感染に
より一般的な役割を果たしているかもしれないので、vpxの読み取り枠も不活化
した。これらの各変異は、単独で、又は様々な組み合わせでVgp-lucの中に導入
された(図2A))。Vgp-luc突然変異体にMLV env発現プラスミドをコトランスフェ
クトした後、非照射及び照射CEMx174細胞に感染させ、形質導入効率を決定した
。図2Bに示されているように、何れの一重変異も、二重又は三重変異も照射細胞
の形質導入効率に著しい影響を与えなかった。非分裂細胞の形質導入に対するvi
fの役割を決定するために、vif、vpr、及びvpx遺伝子をVgp-lucから欠失させて
Δfrxを得た。増殖停止細胞は、Vgp-lucと同様の効率でΔfrxを形質導入された(
図2B)。
非分裂細胞の感染におけるウイルスの必要要素をさらに分析するために、Vgp-
luc並びにVgp-lucのvif、vpr、及びvpx欠失変異体ΔFRXをVSV-Gで偽型化した。
終末分化したマクロファージ及び急速に分裂しているCEMx174細胞を両ベクター
株に感染させた。μg細胞抽出物当たりのルシフェラーゼ活性を測定し、両ベク
ターについて、CEMx174細胞に対するマクロファージの比ルシフェラーゼ活性の
比率を計算した。2つのベクターのルシフェラーゼ活性の比率は有意な差がなく
、効率的な非分裂マクロファージへの導入は、vif、vpr、又はvpx遺伝子に依存
しないことを実証した。Nefは、欠失されているので、Vgp-luc及びΔFRXの何れ
の中でも必要とされなかった。
考察
インビボでの遺伝子輸送にレトロウイルスベクターを使用するには、少なくと
も2つの主要な障害が存在するように思われる。インビボ遺伝子輸送へのレトロ
ウイルスベクターの使用における問題点は、従来のレトロウイルスベクターを用
いた形質導入には細胞分裂が必要なことである(26,32)。免疫不全症ウイルスは
、非分裂細胞に感染することができる(15,20,35)。それ故、免疫不全症ウイルス
をベースとしたベクターは、レトロウイルスによる遺伝子導入となり得る標的細
胞の範囲を大きく広げ得る。
免疫不全症ウイルスをベースとするベクターは、親ウイルスの病原性故に、多
数のリスクを有している。明らかに、ベクターとパッケージング構築物との間で
複製可能な組換え体(RCR)が発生することを防がなければならない。しかし、MLV
ベクターのRCRが免疫抑制されたヒト以外の霊長類に白血病を引き起こすことが
見出されたので(5)、これも安全なMLVベクターにとって必須要件である。その中
にRCRが全く検出されないMLVベクター/パッケージングシステムが既に開発され
ているので、これは、免疫不全症ウイルスをベースとするベクターでも達成し得
るはずである。しかし、インビトロで実証可能であるRCRの欠如に加えて、ヒト
に使用する前に、適切な動物モデルで免疫不全症ウイルスをベースとするベクタ
ーの安全性を評価する必要もあろう。HIV-lはヒトだけにAIDSを引き起こすので
、HIVをベースとするベクターに伴うリスクを評価するための良い動物モデルは
存在しない。
それ故、SIVをベースとするベクターを開発した。ヒトに対するSIVの病原性は
除外し得ないが、実験室で得られたSIV感染の経過は、HIVに比較して、病毒力が
極めて減弱していた(23)。より重要なことは、SIVはアカケザルにAIDSを発症さ
せるので、アカゲザルで安全なSIVベクターは、ヒトでも安全なはずだというこ
とである。
これらの結果は、適切に偽型化されれば、SIVをベースとするベクターは様々
な非分裂細胞に形質導入し得ることを示している。得られた力価は、MLVをベー
スとするベクターと同様の範囲にあった。SIVの病原性は、機能的なgag、pol、
及びenv遺伝子に依存するのみならず、補助遺伝子にも依存する。SIVをベースと
するベクター及びパッケージング構築物からこれらの補助遺伝子を除去すること
によって、野生型ウイルスの出現を排除することができる。本発明によれば、非
分裂細胞を形質導入する能力を弱めずに、一以上又は全てのvif、vpr、vpx、及
びnefが欠失された、レンチウイルスレトロウイルスをベースとするベクターを
構築することが可能なことが見出された。たとえvpr、vpx、及びマトリックスタ
ンパク質のNLS又C末端チロシンが変異されていても、増殖停止細胞を形質導入
できることも観察された。マトリックスタンパク質のNLSを変異すること、及びH
IV-1のvprを不活化することは、非分裂細胞の感染を著しく弱めることが初期に
は報告されたが(3,13,14,19,34)、より最近の結果は、プレ組込み複合体の
非分裂細胞核内への移送において、少なくともさらに一つのNLS含有タンパク質
が役割を果たしているかもしれないということを示唆している(12)。たとえMA及
びVprのNLS又はC末端チロシンが変異されていても、HIVは、終末分化したマク
ロファージ内において、高い力価まで複製することも見出されたので(9,10)、実
際には、他の因子が、非分裂細胞核内へのプレ組込み複合体の輸送を媒介してい
るにちがいない。分裂していないCEMx174細胞への感染性を喪失させずに、パッ
ケージング構築物及びベクター中の他の全ての読み取り枠を不活化することがで
きるので、これらの結果は、SIVの場合、この機能がgag、pol、tat、又はrev遺
伝子中に保持されていると思われることを示している。
非分裂細胞の形質導入に必要でない全ての補助遺伝子は、SIVベクター/パッ
ケージングシステムから欠失させ得る。これらの各遺伝子は、SIVの病原性に寄
与している。新生児に対して大量に投与するのでなければ(1,36)、SIVのNef欠失
変異体は非病原性である(22)。vpr及び/又はvpxの欠失は、SIVによって引き起
こされる疾病の発症を防止するか、又は遅延させると思われる(16,21)。Vifの非
存在下では、SIVの複製は著しく阻害される(17,28,40)。Vifは、いくつかの細胞
内でウイルスを産生するときだけ必要とされるので(7,11)、適切なベクター産生
細胞株を選択することによって、vifを欠失させることが可能であった。補助遺
伝子の欠失に加えて、異種env遺伝子の使用は、SIVをベースとするベクターの安
全性にも寄与するかもしれない。ベクターとパッケージング構築物との同種領域
を除去することによって、組換え頻度が減少し得る。SIVをベースとするベクタ
ーには、よく確立された動物モデルを利用できるので、SIVと異種性env遺伝子と
の間で発生し得る組換え体を再構築することによって、RCRの発生という最悪の
シナリオを分析することも可能である(31)。SIVをベースとするベクター中に取
り込まれ得る様々な安全性レベルは(図3にまとめられている)、インビボ遺伝
子治療に使用し得る非分裂細胞用の安全なレトロウイルス遺伝子導入法の開発を
可能とするかもしれない。
それ故、本発明のベクター/パッケージングシステムは、非分裂細胞中に遺伝
子を効率的に輸送する、レトロウイルスをベースとする安全なベクターシステム
を提供する。
全て本分野において周知である多くの均等な操作又は類似の操作に従って、本発
明を実施することもできる。特に、本発明を実施するのに必要なパッケージング
/ベクター構築物は、異なる戦略に従って合成してもよく、組換えウイルス粒子
を会合させるのに必要なウイルス遺伝子は、例えば、パッケージング細胞と同じ
プラスミド又は異なるプラスミドに由来するものであり得る。本発明のステップ
を取得し、実施するためのこのような均等な操作又は類似の操作は、全て当業者
であればそのように理解するものであり、本発明及び用途の一部であって、本発
明に包含されるものと理解せねばならず、それ故、本発明は、以下の請求項の全
範囲によって限定されるにすぎない。 表1.ベクターの力価の比較
aFFU:蛍光形成単位
V1-gfP:SIVベクター,S-gp:SIV gag-pol発現プラスミド;S-env:SIV env発現
プラスミド;
M-env:MLV env発現プラスミド;VSV-G:VSV-G発現プラスミド
表2.増殖停止したCEMx174細胞の形質導入
a3回繰り返して行われた3つの独立した実験の平均b
相対光単位/μg細胞抽出物
V1-luc:ルシフェラーセ遺伝子を導入するためのSIVベクター
pRV172:ルシフェラーゼ遺伝子を導入するためのMLVベクター
その他のプラスミドは、表1に記載されている
表3.増殖停止した繊維芽細胞の形質導入
a3回繰り返した平均ルシフェラーゼ活性のパーセントは、2、7、又は14日前に
播種した細胞の感染から2日後に決定した。2日時の値を100%とした。3つの
独立した実験の平均±標準偏差が示されている。b
293T細胞中にV1-luc、S-gp、及びM-envをコトランスフェクトすることによって
作製されたSIVベクターc
293T細胞中にMLVベクターは、pRV172、M-gp、及びM-envをコトランスフェクト
することによって作製した
図面の注釈
図1.SIVパッケージング及びベクター構築物。不活化された読み枠は、影のつ
いたボックスによってマークされている;欠失は、影のついたボックス内の垂直
な鋸状の線で示されている。gfp:緑色蛍光タンパク質,pAd:MLV由来の異種性ポ
リアデニル化シグナル;CMV:ヒトサイトメガロウイルスの前初期プロモーター
/エンハンサー;Pr:脾臓フォーカス形成ウイルス由来の異種性プロモーター。
図2.非分裂細胞への感染を決定するウイルス因子。A.)SIVをベースとするベク
ターVgp-lucのマップがVgp-luc変異体の表の上に示されている。不活化された読
み枠は、影のついたボックスによってマークされている。表中の数字は、各タン
パク質のアミノ酸数を表している。アミノ酸は一文字表記で示されている;アス
タリスクは停止コドンを示している;MA;マトリックスタンパク質;CA:キャプ
シドタンパク質,NC;ヌクレオキャプシドタンパク質;NLS;マトリックスタン
パク質の核局在化シグナル;C-term:マトリックスタンパク質のカルボキシ末端
アミノ酸。B.非分裂細胞のパーセント形質導入効率。Vgp-lucで得られた比のパ
ーセントとして、非分裂細胞及び分裂細胞中でのルシフェラーゼ比活性の比が表
されている。3回繰り返しの平均±標準偏差が示されている。
図3.SIVをベースとするベクターの予想される安全性レベル1
大量でアカゲザル新生児に感染させる場合を除く
─────────────────────────────────────────────────────
フロントページの続き
(51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考)
A61P 31/18 C12N 7/00
C12N 5/10 15/00 A
7/00 5/00 B
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
DK,ES,FI,FR,GB,GR,IE,IT,L
U,MC,NL,PT,SE),OA(BF,BJ,CF
,CG,CI,CM,GA,GN,ML,MR,NE,
SN,TD,TG),AP(GH,GM,KE,LS,M
W,SD,SZ,UG,ZW),EA(AM,AZ,BY
,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),AL,AM
,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BR,BY,
CA,CH,CN,CU,CZ,DE,DK,EE,E
S,FI,GB,GE,GH,GM,GW,HU,ID
,IL,IS,JP,KE,KG,KP,KR,KZ,
LC,LK,LR,LS,LT,LU,LV,MD,M
G,MK,MN,MW,MX,NO,NZ,PL,PT
,RO,RU,SD,SE,SG,SI,SK,SL,
TJ,TM,TR,TT,UA,UG,US,UZ,V
N,YU,ZW