JP2001198674A - ニハード鋳鉄母材の多層肉盛炭酸ガスシールドアーク溶接方法 - Google Patents

ニハード鋳鉄母材の多層肉盛炭酸ガスシールドアーク溶接方法

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JP2001198674A JP2000003031A JP2000003031A JP2001198674A JP 2001198674 A JP2001198674 A JP 2001198674A JP 2000003031 A JP2000003031 A JP 2000003031A JP 2000003031 A JP2000003031 A JP 2000003031A JP 2001198674 A JP2001198674 A JP 2001198674A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 剥離又は欠けを生じさせることなく、溶接作
業性を低下させずに高硬度金属肉盛層を形成することが
できるニハード鋳鉄母材の多層肉盛炭酸ガスシールドア
ーク溶接方法を提供する。 【解決手段】 ニハード鋳鉄母材はC、Si、Mn、N
i、Cr、Mo及びVを含有し、溶接材料としてフラッ
クス入りワイヤを使用し、金属外皮及びフラックスのい
ずれか一方又は双方から添加される成分元素は、C、S
i、Mn、Ni、Cr、Mo、Al、V、B、Mg及び
スラグ造滓剤であり、H=60×I×E/vで算出され
る溶接入熱量Hの値は初層及び2層目において2500
を超え3500未満であり、3層目以上において500
0を超え7500未満に制限すると共に、初層及び2層
目の予熱温度及びパス間温度を200℃以下並びに3層
目以上のパス間温度を300℃以下に規制し、溶接時の
チップとニハード鋳鉄母材との間の距離を15〜20m
mに規制する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、高硬度金属を少な
くとも3層以上多層肉盛するニハード鋳鉄母材の多層肉
盛炭酸ガスシールドアーク溶接方法に関し、特に、石炭
粉砕設備の摩耗しやすい箇所に使用される部材を製造す
るに際し、高能率で高硬度金属を多層肉盛溶接すること
ができるニハード鋳鉄母材の多層肉盛炭酸ガスシールド
アーク溶接方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、石炭粉砕設備の摩耗部材は耐摩耗
性が要求されることから、ASTMA532に示される
ようなニハード鋳鉄母材が使用されている。従来からこ
のようなニハード鋳鉄母材の耐摩耗性向上を目的とし
て、高硬度金属の多層盛炭酸ガスシールドアーク溶接が
実施されている。しかし、ニハード鋳鉄母材の高硬度金
属の多層肉盛溶接では母材の大割れ及び高硬度金属の剥
離又は割れが生じるという問題点がある。
【0003】耐摩耗性が要求される適用箇所の性格上、
ニハード鋳鉄母材は高硬度となる化学成分を有してい
る。しかし、硬さが増すと靭性又は延性が低下するとい
う欠点があり、母材の大割れは、このような靭性又は延
性に乏しい母材特性と、多層肉盛により大きくなる溶接
残留応力とが重なって発生していた。この母材の大割れ
は粉砕設備そのものの寿命を著しく損なうことから、そ
の対策が強く望まれている。
【0004】一方、高硬度金属も硬さが増すと靭性又は
延性が低下するという欠点があり、多層肉盛溶接を行う
と、剥離又は欠けが生じやすくなる。これを防止するた
め、高硬度金属の多層肉盛溶接において溶接入熱量を制
限する方法が提案されている(特許第2132701号
公報、特許第2518126号公報)。
【0005】特許第2132701号公報には、鉄鋼又
は鋳鋼を母材として、その表面に高炭素、高クロム鉄系
材料を肉盛溶接してなる硬化肉盛部材において、硬化肉
盛溶接金属の炭素量を5.5質量%とし、かつ溶接入熱
を6000〜20000J/cmとし、硬化肉盛溶接金
属に発生する溶接割れの平均間隔を5〜20mmとした
硬化肉盛部材が開示されている。
【0006】一方、特許第2518126号公報には、
堅型ロールのテーブル又はロール等分割型環状体の摩耗
面上に高硬度金属を多層肉盛溶接する方法において、分
割した個々の被溶接体を1〜10mmの間隔を隔てて環
状に並べ、環状間隔上を含め母材面上へ2000〜60
00J/cmの範囲に制限し、溶接中の層間温度を常に
300℃以下に制限することにより溶着金属のビードに
ビード方向と直交する微細なクラックを均等かつ多数分
散して発生させ、荷重を加えて個々の部材をほぼ間隔面
に沿って分断する分割型環状体の高硬度金属による多層
肉盛り溶接方法が開示されている。
【0007】上述のいずれの従来技術も入熱を下げて施
工を行うことで高硬度金属肉盛層に狭い間隔で割れを形
成させて残留応力を開放し、高硬度金属肉盛層の剥離又
は欠けを抑制するというものである。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上述の従来の
高硬度金属の多層肉盛溶接において溶接入熱量を制限す
る方法(特許第2132701号公報、特許第2518
126号公報)には、母材の大割れに対して有効な対策
は何ら開示されていない。
【0009】また、過度の低入熱施工は高硬度金属肉盛
層の剥離又は欠けに対して融合不良、溶け込み不足及び
ピット等溶接欠陥を発生させてしまい、かえって高硬度
金属肉盛層に剥離又は欠けを生じさせる結果となってい
る。
【0010】更に、過度の低入熱施工は溶接作業性も劣
化させ、溶接チップにスパッタが付着してワイヤの送給
を妨げる等の溶接作業能率を阻害するという問題点もあ
る。
【0011】本発明はかかる問題点に鑑みてなされたも
のであって、剥離又は欠けを生じさせることなく、溶接
作業性を低下させずに高硬度金属肉盛層を形成すること
ができるニハード鋳鉄母材の多層肉盛炭酸ガスシールド
アーク溶接方法を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明に係るニハード鋳
鉄母材の多層肉盛炭酸ガスシールドアーク溶接方法は、
高硬度金属を少なくとも3層以上多層肉盛するニハード
鋳鉄母材の多層肉盛炭酸ガスシールドアーク溶接方法に
おいて、前記ニハード鋳鉄母材は、C:1.50乃至
2.50質量%、Si:1.00乃至2.00質量%、
Mn:0.50乃至1.50質量%、Ni:4.80乃
至5.80質量%、Cr:10.50乃至12.00質
量%、Mo:0.05乃至1.00質量%及びV:0.
01乃至0.05質量%含有し、溶接材料として、金属
外皮にフラックスを充填してなるフラックス入りワイヤ
であって、前記金属外皮及び前記フラックスのいずれか
一方又は双方から添加される成分元素の合計がワイヤ全
質量当たり、C:5.55乃至6.15質量%、Si:
2.00乃至2.80質量%、Mn:0.80質量%以
下、Ni:0.10質量%以下、Cr:21.45乃至
23.50質量%、Mo:0.95乃至1.10質量
%、Al:0.01乃至0.10質量%、V:3.10
乃至3.40質量%、B:0.20乃至0.30質量
%、Mg:0.01乃至0.10質量%及びスラグ造滓
剤の合計:0.15質量%未満であるフラックス入りワ
イヤを使用し、Hを溶接入熱量[J/cm]とし、Iを
溶接電流[A]とし、Eを溶接電圧[V]とし、vを溶
接速度[cm/分]としたとき、H=60×I×E/v
で算出される溶接入熱量Hの値は初層及び2層目におい
て2500J/cmを超え3500J/cm未満であ
り、3層目以上において5000J/cmを超え750
0J/cm未満に制限すると共に、初層及び2層目の予
熱温度及びパス間温度を200℃以下並びに3層目以上
のパス間温度を300℃以下に規制し、溶接時のチップ
と前記ニハード鋳鉄母材との間の距離を15乃至20m
mに規制することを特徴とする。
【0013】本発明において、スラグ造滓剤とは、フラ
ックス中の金属粉末以外の成分を指し、例えば、TiO
2、SiO2、Al23、ZrO2、K2O、CaO、Li
2O、MgO又はMnO等の酸化物、LiF、NaF、
CaF2、K2SiF6、KF又はAlF3等の弗化物及び
Li2CO3又はCaCO3等の炭酸塩である。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施例に係るニハ
ード鋳鉄母材の高硬度金属多層肉盛炭酸ガスシールドア
ーク溶接方法について詳細に説明する。
【0015】本発明者等は、母材の大割れに関して、母
材の大割れは母材熱影響部の割れが多層肉盛によって生
じる残留応力により母材原質部に進展して発生している
こと、母材熱影響部の割れは主に初層と2層目の溶接入
熱により粗大化した母材熱影響部の炭化物を通って高硬
度金属肉盛層に発生した割れを起点として発生したもの
であること、母材熱影響部の割れの中でも炭化物の粗大
化が著しく、割れ長さの長いものが、多層肉盛によって
生じる残留応力により優先的に進展して母材に大割れを
引き起こすこと及び母材熱影響部の割れについて、割れ
間隔と割れ長さとの間には、割れ間隔が広いほど割れ長
さが長く、割れ間隔が狭いほど割れ長さが短くなる関係
を有すること等の知見を得た。
【0016】即ち、母材熱影響部の炭化物の粗大化と、
初層と2層目の高硬度金属肉盛層の割れ間隔を調整する
ことにより、母材熱影響部の割れの間隔と長さとを調整
することが可能となる。このため母材の大割れを回避す
ることができることを見出した。
【0017】上述の知見に基づいて、溶接作業性又は合
金成分の調整が比較的容易なフラックス入りワイヤを使
用して鋭意実験研究を重ねた結果、母材熱影響部の炭化
物の粗大化を抑制するため、母材の化学成分の調整、初
層と2層目の肉盛層の溶接入熱量並びに予熱温度及びパ
ス間温度の制限を行うことと、初層と2層目の肉盛層の
溶接入熱量、予熱温度及びパス間温度の制限並びにフラ
ックス入りワイヤの化学成分の調整を行うこととを同時
に行うことにより、母材熱影響部の割れ間隔を狭く、か
つ割れ長さを短くすることが可能となり、多層肉盛後の
母材の大割れ防止することができることを見出した。
【0018】一方、多層肉盛した高硬度金属の割れにつ
いては、肉盛層の割れは前層の肉盛層に発生した割れが
連続的に進展して形成され、割れの進展は肉盛層が炭化
物の晶出量及び析出量の多い高硬度金属であるほど顕著
であること並びに融合不良、溶け込み不足、ピット及び
スラグ巻き等の溶接欠陥は剥離又は欠けを誘発すること
等の知見を得た。
【0019】即ち、狭い間隔の割れを形成するため、従
来技術のように、溶接入熱量を抑える必要はなく、割れ
の進展を促進する高硬度金属を得るためワイヤの成分調
整を行い、ワイヤはスラグ巻きを抑制するためスラグ量
を制限し、融合不良、溶け込み不足及びピット等の溶接
欠陥を抑制し、かつ溶け込み形状を深溶け込みとしない
ために3層目以上の肉盛層の溶接入熱及びパス間温度を
調整することを同時に行うことにより、高硬度金属肉盛
層の剥離又は欠けを防ぐことができることを見出した。
【0020】また、溶接チップへのスパッタ付着による
ワイヤ送給の劣化及びこれによる溶接作業能率の阻害に
対しては、スパッタ発生量を低減するためフラックス入
りワイヤの化学成分を調整し、チップへのスパッタ付着
を抑制するためチップと母材との間の距離を所定に調整
することを同時に行うことにより、解決することができ
ることを見出した。
【0021】本発明は、上述の知見に基づいてなされた
ものであり、具体的には、延性の向上と母材熱影響部の
炭化物の粗大化を抑制するため、ニハード鋳鉄母材の化
学成分は、C:1.50乃至2.50質量%、Si:
1.00乃至2.00質量%、Mn:0.50乃至1.
50質量%、Ni:4.80乃至5.80質量%、C
r:10.50乃至12.00質量%、Mo:0.05
乃至1.00質量%及びV:0.01乃至0.05質量
%含有する。また、肉盛層を高硬度とし、初層と2層目
の肉盛層に狭い間隔で割れを形成すると共に、3層目以
上の肉盛層への割れ進展を促進し、スパッタ発生量の低
減し、スラグ量を制限するためフラックス入りワイヤの
化学成分はワイヤ全質量当たり、C:5.55乃至6.
15質量%、Si:2.00乃至2.80質量%、M
n:0.80質量%以下、Ni:0.10質量%以下、
Cr:21.45乃至23.50質量%、Mo:0.9
5乃至1.10質量%、Al:0.01乃至0.10質
量%、V:3.10乃至3.40質量%、B:0.20
乃至0.30質量%、Mg:0.01乃至0.10質量
%及びスラグ造滓剤の合計:0.15質量%未満する。
更に、母材熱影響部の炭化物粗大化の抑制し、初層と2
層目の肉盛層に狭い間隔の割れを形成するため、初層及
び2層目肉盛層の溶接入熱量は、Hを溶接入熱量[J/
cm]とし、Iを溶接電流[A]とし、Eを溶接電圧
[V]とし、vを溶接速度[cm/分]としたとき、H
=60×I×E/vで算出される溶接入熱量Hの値は初
層及び2層目において2500J/cmを超え3500
J/cm未満であり、3層目以上において5000J/
cmを超え7500J/cm未満に制限すると共に、初
層及び2層目の予熱温度及びパス間温度を200℃以下
並びに3層目以上のパス間温度を300℃以下に規制
し、溶接時のチップとニハード鋳鉄母材との間の距離を
15乃至20mmに規制する。本発明は、上述のことを
特徴とするニハード鋳鉄母材の多層肉盛炭酸ガスシール
ドアーク溶接方法である。
【0022】なお、本発明において、スラグ造滓剤と
は、フラックス中の金属粉末以外の成分を指し、例え
ば、TiO2、SiO2、Al23、ZrO2、K2O、C
aO、Li2O、MgO又はMnO等の酸化物、Li
F、NaF、CaF2、K2SiF6、KF又はAlF3
の弗化物及びLi2CO3又はCaCO3等の炭酸塩であ
る。
【0023】本実施例においては、上述の各要件を同時
に実施することにより、ニハード鋳鉄母材の高硬度多層
肉盛において、母材の大割れ、高硬度金属の剥離又は欠
け及びワイヤ送給劣化による溶接作業能率の阻害を防止
することができ、高能率な耐摩耗肉盛が可能になる。
【0024】以下、本発明のニハード鋳鉄母材の高硬度
金属多層肉盛炭酸ガスシールドアーク溶接方法の数値限
定理由について説明する。
【0025】ニハード鋳鉄母材の化学成分 C:1.50乃至2.50質量% CはCr、Mo又はV等の炭化物形成元素と結合して炭
化物を晶出及び析出し耐摩耗性を向上させる。また、初
層及び2層目肉盛層の溶接入熱量と、予熱温度及びパス
間温度と、フラックス入りワイヤの化学成分との複合効
果により、母材熱影響部の割れ間隔を調整し、母材の大
割れを防止する効果を有する。しかし、Cの含有量が
1.50質量%未満では、炭化物の晶出量及び析出量が
少なくなり、肉盛層の硬度が低下して十分な耐摩耗性を
得ることができない。また、初層及び2層目肉盛層の溶
接入熱量と、予熱温度及びパス間温度と、フラックス入
りワイヤの化学成分とを本発明の範囲に調整しても、母
材熱影響部の割れ間隔が広がり、割れ長さが長くなり、
母材に大割れを引き起こす。一方、Cの含有量が2.5
0質量%を超えると、炭化物の晶出量及び析出量が過多
となり、母材熱影響部の炭化物粗大化が著しくなり、初
層及び2層目肉盛層の溶接入熱量と、予熱温度及びパス
間温度と、フラックス入りワイヤの化学成分とを本発明
の範囲に調整しても、母材熱影響部の割れ間隔が広が
り、割れ長さが長くなり、母材に大割れを引き起こす。
また、靭性が著しく劣化し母材に大割れを引き起こす。
従って、ニハード鋳鉄母材のCの含有量は1.50乃至
2.50質量%とする。
【0026】Si:1.00乃至2.00質量% Siは鋳造欠陥を防止する観点から脱酸材として添加さ
れる。Siの含有量が1.00質量%未満では鋳造欠陥
を防止する効果を得ることができず、母材に鋳造欠陥が
発生して初層及び2層目肉盛層の溶接入熱量と、予熱温
度及びパス間温度と、フラックス入りワイヤの化学成分
とを本発明の範囲に調整しても、母材に大割れを引き起
こす。一方、Siの含有量が2.00質量%を超える
と、靭性が著しく損なわれ、初層及び2層目肉盛層の溶
接入熱量と、予熱温度及びパス間温度と、フラックス入
りワイヤの化学成分とを本発明の範囲に調整しても、母
材に大割れを引き起こす。従って、ニハード鋳鉄母材の
Siの含有量は1.00乃至2.00質量%とする。
【0027】Mn:0.50乃至1.50質量% Mnは靭性を向上させると共に、初層及び2層目肉盛層
の溶接入熱量と、予熱温度及びパス間温度と、フラック
ス入りワイヤの化学成分との複合効果により、母材熱影
響部の割れ間隔を調整し、母材の大割れを防止する効果
を有する。しかし、Mnの含有量が0.50質量%未満
では靭性が改善されない。また、初層及び2層目肉盛層
の溶接入熱量と、予熱温度及びパス間温度と、フラック
ス入りワイヤの化学成分とを本発明の範囲に調整して
も、母材熱影響部の割れ間隔が広がり、割れ長さが長く
なり、母材に大割れを引き起こす。一方、Mnの含有量
が1.50質量%を超えると、炭化物の晶出量及び析出
量が少なくなり硬度が低下して十分な耐摩耗性が得られ
ない。また、初層及び2層目肉盛層の溶接入熱量と、予
熱温度及びパス間温度と、フラックス入りワイヤの化学
成分とを本発明の範囲に調整しても、母材熱影響部の割
れ間隔が広がり、割れ長さが長くなり、母材に大割れを
引き起こす。従って、ニハード鋳鉄母材のMnの含有量
は0.50乃至1.50質量%とする。
【0028】Ni:4.80乃至5.80質量% Niは靭性及び延性を向上させると共に、初層及び2層
目肉盛層の溶接入熱量と、予熱温度及びパス間温度と、
フラックス入りワイヤの化学成分との複合効果により、
母材熱影響部の割れ間隔を調整し、母材の大割れを防止
する効果を有する。しかし、Niの含有量が4.80質
量%未満では、靭性及び延性が改善されない。また、初
層及び2層目肉盛層の溶接入熱量と、予熱温度及びパス
間温度と、フラックス入りワイヤの化学成分とを本発明
の範囲に調整しても、溶接熱影響部の炭化物の粗大化を
防止できず、母材熱影響部の割れ間隔が広がり、割れ長
さが長くなり、母材に大割れを引き起こす。一方、Ni
の含有量が5.80質量%を超えると、炭化物の晶出量
及び析出量が少なくなり硬度が低下して十分な耐摩耗性
を得ることができない。また、初層及び2層目肉盛層の
溶接入熱量と、予熱温度及びパス間温度と、フラックス
入りワイヤの化学成分とを本発明の範囲に調整しても、
母材熱影響部の割れ間隔が広がり、割れ長さが長くな
り、母材に大割れを引き起こす。従って、ニハード鋳鉄
母材のNiの含有量は4.80乃至5.80質量%とす
る。
【0029】Cr:10.50乃至12.00質量% CrはCと結合して炭化物を晶出及び析出し、耐摩耗性
を向上させる。また、初層及び2層目肉盛層の溶接入熱
量と、予熱温度及びパス間温度と、フラックス入りワイ
ヤの化学成分との複合効果により、母材熱影響部の割れ
間隔を調整し、母材の大割れを防止する効果を有する。
しかし、Crの含有量が10.50質量%未満では、炭
化物の晶出量及び析出量が少なくなり十分な耐摩耗性を
得ることができない。また、初層及び2層目肉盛層の溶
接入熱量と、予熱温度及びパス間温度と、フラックス入
りワイヤの化学成分とを本発明の範囲に調整しても、母
材熱影響部の割れ間隔が広がり、割れ長さが長くなり、
母材に大割れを引き起こす。一方、Crの含有量が1
2.00質量%を超えると、炭化物の晶出量及び析出量
が過多になり、母材熱影響部の炭化物の粗大化が著しく
なり、初層及び2層目肉盛層の溶接入熱量と、予熱温度
及びパス間温度と、フラックス入りワイヤの化学成分と
を本発明の範囲に調整しても、母材熱影響部の割れ間隔
が広がり、割れ長さが長くなり、母材に大割れを引き起
こす。また、靭性が著しく劣化して母材に大割れを引き
起こす。従って、ニハード鋳鉄母材のCrの含有量は1
0.50乃至12.00質量%とする。
【0030】Mo:0.05乃至1.00質量% MoはCと結合して炭化物を晶出及び析出し、耐摩耗性
を向上させる。また、初層及び2層目肉盛層の溶接入熱
量と、予熱温度及びパス間温度と、フラックス入りワイ
ヤの化学成分との複合効果により、母材熱影響部の割れ
間隔を調整し、母材の大割れを防止する効果を有する。
しかし、Moの含有量が0.05質量%未満では、炭化
物の晶出量及び析出量が少なくなり十分な耐摩耗性を得
ることができない。また、初層及び2層目肉盛層の溶接
入熱量と、予熱温度及びパス間温度と、フラックス入り
ワイヤの化学成分とを本発明の範囲に調整しても、母材
熱影響部の割れ間隔が広がり、割れ長さが長くなり、母
材に大割れを引き起こす。一方、Moの含有量が1.0
0質量%を超えると、炭化物の晶出量及び析出量が過多
になり、母材熱影響部の炭化物の粗大化が著しくなり、
初層及び2層目肉盛層の溶接入熱量と、予熱温度及びパ
ス間温度と、フラックス入りワイヤの化学成分とを本発
明の範囲に調整しても、母材熱影響部の割れ間隔が広が
り、割れ長さが長くなり、母材に大割れを引き起こす。
また、靭性が著しく劣化して母材に大割れを引き起こ
す。従って、ニハード鋳鉄母材のMoの含有量は0.0
5乃至1.00質量%とする。
【0031】V:0.01乃至0.05質量% VはCと結合して炭化物を晶出及び析出し、耐摩耗性を
向上させる。また、初層及び2層目肉盛層の溶接入熱量
と、予熱温度及びパス間温度と、フラックス入りワイヤ
の化学成分との複合効果により、母材熱影響部の割れ間
隔を調整し、母材の大割れを防止する効果を有する。し
かし、Vの含有量が0.01質量%未満では、炭化物の
晶出量及び析出量が少なくなり十分な耐摩耗性を得るこ
とができない。また、初層及び2層目肉盛層の溶接入熱
量と、予熱温度及びパス間温度と、フラックス入りワイ
ヤの化学成分とを本発明の範囲に調整しても、母材熱影
響部の割れ間隔が広がり、割れ長さが長くなり、母材に
大割れを引き起こす。一方、Vの含有量が0.05質量
%を超えると、炭化物の晶出量及び析出量が過多にな
り、母材熱影響部の炭化物の粗大化が著しくなり、初層
及び2層目肉盛層の溶接入熱量と、予熱温度及びパス間
温度と、フラックス入りワイヤの化学成分とを本発明の
範囲に調整しても、母材熱影響部の割れ間隔が広がり、
割れ長さが長くなり、母材に大割れを引き起こす。ま
た、靭性が著しく劣化して母材に大割れを引き起こす。
従って、ニハード鋳鉄母材のVの含有量は0.01乃至
0.05質量%とする。
【0032】フラックス入りワイヤの化学成分 C:5.55乃至6.15質量% CはCr、Mo、V又はB等の炭化物形成元素と結合し
て炭化物を晶出及び析出し、肉盛層を高硬度にして耐摩
耗性を向上させる。また、初層及び2層目肉盛層の溶接
入熱量と、予熱温度及びパス間温度と、母材の化学成分
との複合効果により、母材熱影響部の割れ間隔を調整
し、母材の大割れを防止する効果を有する。更に、3層
目以上の肉盛層の溶接入熱量及びパス間温度との複合効
果により、肉盛層の割れの進展を促進し、高硬度金属肉
盛層の剥離又は欠けを防止する効果を有する。しかし、
Cの含有量が5.55質量%未満では肉盛層の炭化物の
晶出量及び析出量が少なくなり、硬度が低下して十分な
耐摩耗性を得ることができない。また、初層及び2層目
肉盛層の溶接入熱量、予熱温度及びパス間温度並びに母
材の化学成分を本発明の範囲に調整しても、初層と2層
目の肉盛層の肉盛層の割れ間隔が広がって母材熱影響部
の割れ間隔が広がり、母材熱影響部の割れ長さが長くな
り、母材に大割れを引き起こす。更に、3層目以上の肉
盛層の溶接入熱量及びパス間温度を本発明の範囲に調整
しても、肉盛層の割れ進展が損なわれ、3層目以上の肉
盛層の剥離又は欠けを引き起こす。一方、Cの含有量が
6.15質量%を超えると、肉盛層の炭化物の晶出量及
び析出量が過多になり、延性又は靭性が損なわれ、肉盛
層の剥離又は欠けを引き越す。従って、フラックス入り
ワイヤのCの含有量は5.55乃至6.15質量%とす
る。
【0033】Si:2.00乃至2.80質量% Siは脱酸に有効な合金元素であり、ピットの発生を抑
制する効果がある。また、溶融金属のなじみ性を向上さ
せてビード形状を整える効果も有する。しかし、Siが
2.00質量%未満では脱酸不足となってピットが発生
し、溶融金属のなじみ性が改善しないことからビード形
状が不良となって融合不良又は溶け込み不足が発生す
る。このため、3層目以上の肉盛層の溶接入熱量及びパ
ス間温度を本発明の範囲に調整しても、肉盛層の割れ進
展が損なわれ、3層目以上の肉盛層の剥離又は欠けを引
き起こす。一方、Siの含有量が2.80質量%を超え
ると、靭性が著しく損なわれ、肉盛層の剥離又は欠けを
引き起こす。従って、フラックス入りワイヤのSiの含
有量は2.00乃至2.80質量%とする。
【0034】Mn:0.80質量%以下 Mnは0.80質量%を超えて含有すると、肉盛層の炭
化物の晶出量及び析出量が少なくなり、硬度が低下して
十分な耐摩耗性を得ることができない。また、初層及び
2層目肉盛層の溶接入熱量と、予熱温度及びパス間温度
と、母材の化学成分との複合効果により、母材熱影響部
の割れ間隔を調整し、母材の大割れを抑制することがで
きない。更に、肉盛層の割れ進展も損なわれ、3層目以
上の肉盛層の剥離又は欠けを引き起こす。従って、フラ
ックス入りワイヤのMnの含有量は0.80質量%以下
とする。
【0035】Ni:0.10質量%以下 Niは0.10質量%を超えて含有すると、肉盛層の炭
化物の晶出量及び析出量が少なくなり、硬度が低下して
十分な耐摩耗性を得ることができない。また、初層及び
2層目肉盛層の溶接入熱、予熱温度及びパス間温度並び
に母材の化学成分を本発明の範囲に調整しても、肉盛層
の割れ間隔が広がり、母材熱影響部の割れ間隔が広が
り、母材熱影響部の割れ長さが長くなって、母材に大割
れを引き起こす。更に、肉盛層の割れ進展も損なわれ、
3層目以上の肉盛層の剥離又は欠けを引き起こす。従っ
て、フラックス入りワイヤのNiの含有量は0.10質
量%以下とする。
【0036】Cr:21.45乃至23.50質量% CrはCと結合して炭化物を晶出及び析出し、肉盛層を
高硬度にして耐摩耗性を向上する。また、初層及び2層
目肉盛層の溶接入熱量と、予熱温度及びパス間温度と、
母材の化学成分との複合効果により、母材熱影響部の割
れ間隔を調整し、母材の大割れを防止する効果を有す
る。更に、3層目以上の肉盛層の溶接入熱量及びパス間
温度との複合効果により肉盛層の割れ進展を促進し、3
層目以上の肉盛層の剥離又は欠けを防止する効果を有す
る。しかし、Crの含有量が21.45質量%未満で
は、肉盛層の炭化物の晶出量及び析出量が少なくなり硬
度が低下して十分な耐摩耗性を得ることができない。ま
た、初層及び2層目肉盛層の溶接入熱、予熱温度及びパ
ス間温度並びに母材の化学成分を本発明の範囲に調整し
ても、肉盛層の割れ間隔が広がり、母材熱影響部の割れ
間隔が広がり、母材熱影響部の割れ長さが長くなって、
母材に大割れを引き起こす。更に、肉盛層の割れ進展が
損なわれ、3層目以上の肉盛層の溶接入熱量及びパス間
温度を本発明の範囲に調整しても3層目以上の肉盛層の
剥離又は欠けを引き起こす。一方、Crの含有量が2
3.50質量%を超えると炭化物の晶出量及び析出量が
過多となり、延性及び靭性が著しく損なわれ、肉盛層の
剥離又は欠けを引き起こす。従って、フラックス入りワ
イヤのCrの含有量は21.45乃至23.50質量%
とする。
【0037】Mo:0.95乃至1.10質量% MoはCと結合して炭化物を晶出及び析出し、肉盛層を
高硬度にして耐摩耗性を向上する。また、初層及び2層
目肉盛層の溶接入熱量と、予熱温度及びパス間温度と、
母材の化学成分との複合効果により、母材熱影響部の割
れ間隔を調整し、母材の大割れを防止する効果を有す
る。更に、3層目以上の肉盛層の溶接入熱量及びパス間
温度との複合効果により肉盛層の割れ進展を促進し、3
層目以上の肉盛層の剥離又は欠けを防止する効果を有す
る。しかし、Moの含有量が0.95質量%未満では、
肉盛層の炭化物の晶出量及び析出量が少なくなり硬度が
低下して十分な耐摩耗性を得ることができない。また、
初層及び2層目肉盛層の溶接入熱、予熱温度及びパス間
温度並びに母材の化学成分を本発明の範囲に調整して
も、肉盛層の割れ間隔が広がり、母材熱影響部の割れ間
隔が広がり、母材熱影響部の割れ長さが長くなって、母
材に大割れを引き起こす。更に、3層目以上の肉盛層の
溶接入熱量及びパス間温度を本発明の範囲に調整しても
3層目以上の肉盛層の剥離又は欠けを引き起こす。一
方、Moの含有量が1.10質量%を超えると炭化物の
晶出量及び析出量が過多となり、延性及び靭性が著しく
損なわれ、肉盛層の剥離又は欠けを引き起こす。従っ
て、フラックス入りワイヤのMoの含有量は0.95乃
至1.10質量%とする。
【0038】Al:0.01乃至0.10質量% Alは脱酸に有効な合金元素であり、ピットの発生を抑
制する効果がある。しかし、Alの含有量が0.01質
量%未満では脱酸不足になりピットが発生する。このた
め、肉盛層の割れ進展が損なわれ、3層目以上の肉盛層
の溶接入熱量及びパス間温度を本発明の範囲に調整して
も、3層目以上の肉盛層の剥離又は欠けを引き起こす。
一方、Alの含有量が0.10質量%を超えると、スパ
ッタの発生量が著しく増加し、チップと母材との距離を
所定の距離に調整してもチップへのスパッタ付着が激し
く、その除去作業により溶接作業能率が著しく劣化す
る。従って、フラックス入りワイヤのAlの含有量は
0.01乃至0.10質量%とする。
【0039】V:3.10乃至3.40質量% VはCと結合して炭化物を晶出及び析出し、肉盛層を高
硬度にして耐摩耗性を向上する。また、初層及び2層目
肉盛層の溶接入熱量と、予熱温度及びパス間温度と、母
材の化学成分との複合効果により、母材熱影響部の割れ
間隔を調整し、母材の大割れを防止する効果を有する。
更に、3層目以上の肉盛層の溶接入熱量及びパス間温度
との複合効果により肉盛層の割れ進展を促進し、3層目
以上の肉盛層の剥離又は欠けを防止する効果を有する。
しかし、Vの含有量が3.10質量%未満では、肉盛層
の炭化物の晶出量及び析出量が少なくなり硬度が低下し
て十分な耐摩耗性を得ることができない。また、初層及
び2層目肉盛層の溶接入熱、予熱温度及びパス間温度並
びに母材の化学成分を本発明の範囲に調整しても、肉盛
層の割れ間隔が広がり、母材熱影響部の割れ間隔が広が
り、母材熱影響部の割れ長さが長くなって、母材に大割
れを引き起こす。更に、肉盛層の割れ進展が損なわれ、
3層目以上の肉盛層の溶接入熱量及びパス間温度を本発
明の範囲に調整しても3層目以上の肉盛層の剥離又は欠
けを引き起こす。一方、Vの含有量が3.40質量%を
超えると、炭化物の晶出量及び析出量が過多になり、延
性及び靭性が著しく損なわれ、肉盛層の剥離又は欠けを
引き起こす。従って、フラックス入りワイヤのVの含有
量は3.10乃至3.40質量%とする。
【0040】B:0.20乃至0.30質量% BはCと結合して炭化物を晶出及び析出し、肉盛層を高
硬度にして耐摩耗性を向上させる。また、初層及び2層
目肉盛層の溶接入熱量と、予熱温度及びパス間温度と、
母材の化学成分との複合効果により、母材熱影響部の割
れ間隔を調整し、母材の大割れを防止する効果を有す
る。更に、3層目以上の肉盛層の溶接入熱量及びパス間
温度との複合効果により肉盛層の割れ進展を促進し、3
層目以上の肉盛層の剥離又は欠けを防止する効果を有す
る。しかし、Bの含有量が0.20質量%未満では、肉
盛層の炭化物の晶出量及び析出量が少なくなり硬度が低
下して十分な耐摩耗性を得ることができない。また、初
層及び2層目肉盛層の溶接入熱、予熱温度及びパス間温
度並びに母材の化学成分を本発明の範囲に調整しても、
肉盛層の割れ間隔が広がり、母材熱影響部の割れ間隔が
広がり、母材熱影響部の割れ長さが長くなって、母材に
大割れを引き起こす。更に、肉盛層の割れ進展が損なわ
れ、3層目以上の肉盛層の溶接入熱量及びパス間温度を
本発明の範囲に調整しても3層目以上の肉盛層の剥離又
は欠けを引き起こす。一方、Bの含有量が0.30質量
%を超えると、炭化物の晶出量及び析出量が過多にな
り、延性及び靭性が著しく損なわれ、肉盛層の剥離又は
欠けを引き起こす。従って、フラックス入りワイヤのB
の含有量は0.20乃至0.30質量%とする。
【0041】Mg:0.01乃至0.10質量% Mgは脱酸に有効な合金元素であり、ピットの発生を抑
制する効果がある。しかし、Mgの含有量が0.01質
量%未満では、ピットの発生を抑制する効果を得ること
ができず、ピットが発生する。このため、肉盛層の割れ
進展が損なわれ、3層目以上の肉盛層の溶接入熱量及び
パス間温度を本発明の範囲に調整しても、3層目以上の
肉盛層の剥離又は欠けを引き起こす。一方、Mgの含有
量が0.10質量%を超えると、スパッタの発生量が著
しく増加して、チップと母材との距離を所定の距離に調
整してもチップへのスパッタの付着が激しく、その除去
作業により溶接作業能率が著しく劣化する。従って、フ
ラックス入りワイヤのMgの含有量は0.01乃至0.
10質量%とする。
【0042】スラグ造滓剤の合計:0.15質量%未満 スラグ造滓剤は0.15質量%以上含有するとスラグ巻
きが発生する。このため、肉盛層の割れ進展が損なわ
れ、3層目以上の肉盛層においては剥離又は欠けを引き
起こす。なお、本発明においてスラグ造滓剤とは、フラ
ックス中の金属粉末以外の成分を指し、例えば、TiO
2、SiO2、Al23、ZrO2、K2O、CaO、Li
2O、MgO又はMnO等の酸化物、LiF、NaF、
CaF2、K 2SiF6、KF又はAlF3等の弗化物及び
Li2CO3又はCaCO3等の炭酸塩である。従って、
フラックス入りワイヤのスラグ造滓剤の含有量は0.1
5質量%未満とする。
【0043】初層及び2層目における溶接入熱量Hの
値:2500J/cmを超え3500J/cm未満 初層及び2層目の溶接入熱量Hの値は、母材熱影響部の
炭化物粗大化を抑制する作用と、初層及び2層目肉盛層
に狭い間隔の割れを形成する作用とがあり、母材と、フ
ラックス入りワイヤの化学成分と、初層及び2層目肉盛
層の予熱温度及びパス間温度との複合効果により、母材
の大割れを防止する効果を有する。しかし、Hを溶接入
熱量[J/cm]とし、Iを溶接電流[A]とし、Eを
溶接電圧[V]とし、vを溶接速度[cm/分]とした
とき、H=60×I×E/vで算出される初層及び2層
目肉盛層の溶接入熱量Hの値が2500J/cm以下で
は、融合不良又は溶け込み不足が生じ、初層及び2層目
肉盛層の剥離又は欠けを引き起こす。一方、初層及び2
層目肉盛層の溶接入熱量Hの値が3500J/cm以上
では、母材熱影響部の炭化物の粗大化が抑制できず、母
材と、フラックス入りワイヤの化学成分と、初層及び2
層目肉盛層の予熱温度及びパス間温度とを本発明の範囲
に調整しても、母材熱影響部の割れ間隔が広がり、割れ
長さが長くなり、母材に大割れを引き起こす。従って、
溶接入熱量Hの値は初層及び2層目肉盛層において、2
500J/cmを超え3500J/cm未満とする。
【0044】3層目以上の溶接入熱量Hの値:5000
J/cmを超え7500J/cm未満 3層目以上の肉盛層の溶接入熱量Hの値は、融合不良又
は溶け込み不足等の溶接欠陥の発生を抑えて、肉盛層の
割れ進展を促進する作用があり、3層目以上の肉盛層の
パス間温度とフラックス入りワイヤの化学成分との複合
効果により、肉盛層の割れを進展させ、肉盛層の剥離又
は欠けを防止する効果を有する。しかし、溶接入熱量H
の値が5000J/cm以下では、融合不良又は溶け込
み不足等の溶接欠陥が発生し、肉盛層の割れの進展が損
なわれ、肉盛層の剥離又は欠けを引き起こす。一方、溶
接入熱量Hの値が7500J/cm以上では、溶け込み
形状が深溶け込みとなり、肉盛層の割れ進展が損なわ
れ、3層目以上の肉盛層のパス間温度と、フラックス入
りワイヤの化学成分とを本発明の範囲に調整しても、3
層目以上の肉盛層の剥離又は欠けを引き起こす。従っ
て、3層目以上の溶接入熱量Hの値は5000J/cm
を超え7500J/cm未満とする。
【0045】初層及び2層目の予熱温度及びパス間温
度:200℃以下 初層及び2層目肉盛層の予熱温度及びパス間温度は、母
材熱影響部の炭化物粗大化を抑制する作用と、初層及び
2層目肉盛層に狭い間隔の割れを形成する作用とがあ
り、母材と、フラックス入りワイヤの化学成分と、初層
及び2層目肉盛層の予熱温度及びパス間温度との複合効
果により、母材の大割れを防止する効果を有する。しか
し、初層及び2層目肉盛層の予熱温度及びパス間温度が
200℃を超えると、母材熱影響部の炭化物の粗大化が
抑制できず、母材と、フラックス入りワイヤの化学成分
と、初層及び2層目肉盛層の予熱温度及びパス間温度と
を本発明の範囲に調整しても、母材熱影響部の割れ間隔
が広がり、割れ長さが長くなり、母材に大割れを引き起
こす。従って、初層及び2層目の予熱温度及びパス間温
度は200℃以下に規制する。
【0046】3層目以上のパス間温度を300℃以下 3層目以上のパス間温度は、融合不良又は溶け込み不足
等の溶接欠陥の発生を抑えて、肉盛層の割れを促進する
作用があり、3層目以上の肉盛層のパス間温度と、フラ
ックス入りワイヤの化学成分との複合効果により、肉盛
層の割れを進展し、肉盛層の剥離又は欠けを防止する効
果を有する。しかし、3層目以上のパス間温度が300
℃超えると、溶け込み形状が深溶け込みとなり、肉盛層
の割れ進展が損なわれ、3層目以上の肉盛層のパス間温
度と、フラックス入りワイヤの化学成分とを本発明の範
囲に調整しても、3層目以上の肉盛層の剥離又は欠けを
引き起こす。従って、3層目以上のパス間温度は300
℃以下に規制する。
【0047】チップとニハード鋳鉄母材との間の距離:
15乃至20mm チップとニハード鋳鉄母材との間の距離が15mm未満
では、フラックス入りワイヤの化学成分を本発明の範囲
に調整しても、チップへのスパッタ付着が激しいため、
ワイヤ送給が阻害されて溶接作業能率が劣化してしま
う。このため、チップとニハード鋳鉄母材との間の距離
を15mm以上とする。一方、極端にチップとニハード
鋳鉄母材との間の距離を離すとシールド不足になり、ピ
ットが発生して、肉盛金属の割れ進展が損なわれ、肉盛
層の剥離又は欠けが発生してしまう。このため、チップ
とニハード鋳鉄母材との間の距離の上限を20mmとし
た。従って、チップとニハード鋳鉄母材との間の距離は
15乃至20mmに規制する。
【0048】上述の各要素を同時に実施することによ
り、ニハード鋳鉄母材の高硬度金属多層肉盛炭酸ガスシ
ールドアーク溶接において、母材の大割れ及び溶接金属
の剥離又は欠けを防止することができ、高能率な溶接が
可能となる。
【0049】
【実施例】以下、本発明の範囲に入るニハード鋳鉄母材
の高硬度金属多層肉盛炭酸ガスシールドアーク溶接方法
の実施例について、その特性を比較例と比較して具体的
に説明する。
【0050】表1に示す化学成分を有し、板厚が150
mm、板幅が300mm、長さが500mmのニハード
鋳鉄母材について、表2に示す化学成分を有する金属外
皮にフラックスを充填してなる直径が1.6mmの表3
乃至表8に示すフラックス入りワイヤを使用して、表9
乃至12に示す溶接条件で肉盛厚さが55乃至60m
m、肉盛幅が150乃至160mm、肉盛長さが400
乃至410mmの多層肉盛溶接を行い、各種試験に供し
た。なお、表9乃至12に示す溶接条件以外の多層肉盛
溶接に共通な溶接条件は、電流を200乃至300A
(DCEP)、電圧を20乃至30V、溶接速度を60
乃至110cm/分、シールドガスを100%CO2
ガス流量を20乃至25リットル/分とした。また、表
1に示す母材の化学成分の欄において、例えば、<0.
05は0.05未満を示す。
【0051】試験は能率性評価試験、硬さ試験、断面マ
クロ試験及び衝撃試験について行った。
【0052】能率性評価試験は、多層肉盛溶接における
チップへのスパッタ付着によるワイヤ送給停止の有無を
調査した。評価は、ワイヤ送給停止がない場合を○と
し、ワイヤ送給停止がある場合を×とした。
【0053】硬さ試験は、母材及び肉盛層について、夫
々5mmピッチで20点について、294Nの荷重でビ
ッカース硬さHvを測定した。評価は全ての測定点でH
vが600乃至950内のものを○とし、全ての測定点
でHvが400乃至750内のものを×とした。
【0054】断面マクロ試験は、断面マクロ試験片を切
り出し、この断面マクロ試験片の断面マクロ観察を行
い、融合不良、溶け込み不足、ピット及びスラグ巻きの
溶接欠陥の有無を検査した。評価は1層当たりの溶接欠
陥発生個数が5個以下を○、5個を超えるものを×とし
た。
【0055】衝撃試験は、重さが4kgの鋼製ハンマを
6m/秒の速度にて30回、肉盛表面に衝突させて、肉
盛層及び母材熱影響部について剥離又は欠けの有無を目
視で観察し、母材についても、同様に大割れの有無を目
視で観察した。評価は、剥離又は欠け及び大割れがない
ものを○とし、剥離又は欠け及び大割れがあるものを×
とした。これらの結果を表13乃至20に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
【表5】
【0061】
【表6】
【0062】
【表7】
【0063】
【表8】
【0064】
【表9】
【0065】
【表10】
【0066】
【表11】
【0067】
【表12】
【0068】
【表13】
【0069】
【表14】
【0070】
【表15】
【0071】
【表16】
【0072】
【表17】
【0073】
【表18】
【0074】
【表19】
【0075】
【表20】
【0076】上記表13及び表14に示す本発明の範囲
に入る実施例No.1乃至20は能率性評価、硬さ試験、
断面マクロ試験及び衝撃試験について良好な結果を得る
ことができた。一方、表15乃至20に示す比較例No.
21乃至68は能率性評価、硬さ試験、断面マクロ試験
及び衝撃試験について良好な結果を得ることができなか
った。
【0077】比較例No.21は、フラックス入りワイヤ
のCの含有量が本発明の範囲未満であるため、肉盛層の
炭化物の晶出量及び析出量が低下し、肉盛層の硬さが劣
った。また、肉盛層の割れ進展が損なわれ、3層目以上
の肉盛層及び母材熱影響部に剥離又は欠けが生じ、母材
原質部に大割れが生じた。
【0078】比較例No.22は、フラックス入りワイヤ
のCの含有量が本発明の範囲を超えているため、延性及
び靭性が著しく損なわれ、初層及び2層目並びに3層目
以上の肉盛層に剥離又は欠けが生じた。
【0079】比較例No.23は、フラックス入りワイヤ
のSiの含有量が本発明の範囲未満であるため、脱酸不
足になり初層及び2層目の肉盛層並びに3層目以上の肉
盛層に融合不良、溶け込み不足、ピット又はスラグ巻き
が生じた。また、肉盛層の割れ進展が損なわれ、3層目
以上の肉盛層及び母材熱影響部に剥離又は欠けが生じ
た。
【0080】比較例No.24は、フラックス入りワイヤ
のSiの含有量が本発明の範囲を超えているため、靭性
が著しく損なわれ、初層及び2層目の肉盛層並びに3層
目以上の肉盛層に剥離又は欠けが生じた。
【0081】比較例No.25は、フラックス入りワイヤ
のMnの含有量が本発明の範囲を超えているため、肉盛
層の炭化物の晶出量及び析出量が低下し、肉盛層の硬さ
が劣った。また、肉盛層の割れ間隔が広がり母材熱影響
部に剥離又は欠けが生じると共に、母材原質部に大割れ
が生じた。更に、肉盛金属の割れ進展も損なわれ、3層
目以上の肉盛層の剥離又は欠けが生じた。
【0082】比較例No.26は、フラックス入りワイヤ
のNiの含有量が本発明の範囲を超えているため、肉盛
層の炭化物の晶出量及び析出量が低下し、肉盛層の硬さ
が劣った。また、肉盛層の割れ間隔が広がり母材熱影響
部に剥離又は欠けが生じると共に、母材原質部に大割れ
が生じた。更に、肉盛金属の割れ進展も損なわれ、3層
目以上の肉盛層の剥離又は欠けが生じた。
【0083】比較例No.27は、フラックス入りワイヤ
のCrの含有量が本発明の範囲未満であるため、肉盛層
の炭化物の晶出量及び析出量が低下し、肉盛層の硬さが
劣った。また、肉盛層の割れ間隔が広がり母材熱影響部
に剥離又は欠けが生じると共に、母材原質部に大割れが
生じた。更に、肉盛金属の割れ進展も損なわれ、3層目
以上の肉盛層の剥離又は欠けが生じた。
【0084】比較例No.28は、フラックス入りワイヤ
のCrの含有量が本発明の範囲を超えているため、炭化
物の晶出量及び析出量が過多となり、延性及び靭性が著
しく損なわれ、初層及び2層目の肉盛層並びに3層目以
上の肉盛層に剥離又は欠けが生じた。
【0085】比較例No.29は、フラックス入りワイヤ
のMoの含有量が本発明の範囲未満であるため、肉盛層
の炭化物の晶出量及び析出量が低下し、肉盛層の硬さが
劣った。また、肉盛層の割れ間隔が広がり母材熱影響部
に剥離又は欠けが生じると共に、母材原質部に大割れが
生じた。更に、肉盛金属の割れ進展も損なわれ、3層目
以上の肉盛層の剥離又は欠けが生じた。
【0086】比較例No.30は、フラックス入りワイヤ
のMoの含有量が本発明の範囲を超えているため、炭化
物の晶出量及び析出量が過多となり、延性及び靭性が著
しく損なわれ、初層及び2層目の肉盛層並びに3層目以
上の肉盛層に剥離又は欠けが生じた。
【0087】比較例No.31は、フラックス入りワイヤ
のAlの含有量が本発明の範囲未満であるため、脱酸不
足になり初層及び2層目の肉盛層並びに3層目以上の肉
盛層に融合不良、溶け込み不足、ピット又はスラグ巻き
が生じた。また、肉盛層の割れ進展が損なわれ、3層目
以上の肉盛層及び母材熱影響部に剥離又は欠けが生じ
た。
【0088】比較例No.32は、フラックス入りワイヤ
のAlの含有量が本発明の範囲を超えているため、スパ
ッタの発生量が著しく増加し、チップへのスパッタ付着
によりワイヤ送給が停止した。
【0089】比較例No.33は、フラックス入りワイヤ
のVの含有量が本発明の範囲未満であるため、肉盛層の
炭化物の晶出量及び析出量が低下し、肉盛層の硬さが劣
った。また、肉盛層の割れ間隔が広がり母材熱影響部に
剥離又は欠けが生じると共に、母材原質部に大割れが生
じた。更に、肉盛金属の割れ進展も損なわれ、3層目以
上の肉盛層の剥離又は欠けが生じた。
【0090】比較例No.34は、フラックス入りワイヤ
のVの含有量が本発明の範囲を超えているため、炭化物
の晶出量及び析出量が過多となり、延性及び靭性が著し
く損なわれ、初層及び2層目の肉盛層並びに3層目以上
の肉盛層に剥離又は欠けが生じた。
【0091】比較例No.35は、フラックス入りワイヤ
のBの含有量が本発明の範囲未満であるため、肉盛層の
炭化物の晶出量及び析出量が低下し、肉盛層の硬さが劣
った。また、肉盛層の割れ間隔が広がり母材熱影響部に
剥離又は欠けが生じると共に、母材原質部に大割れが生
じた。更に、肉盛金属の割れ進展も損なわれ、3層目以
上の肉盛層の剥離又は欠けが生じた。
【0092】比較例No.36は、フラックス入りワイヤ
のBの含有量が本発明の範囲を超えているため、炭化物
の晶出量及び析出量が過多となり、延性及び靭性が著し
く損なわれ、初層及び2層目の肉盛層並びに3層目以上
の肉盛層に剥離又は欠けが生じた。
【0093】比較例No.37は、フラックス入りワイヤ
のMgの含有量が本発明の範囲未満であるため、脱酸不
足になり初層及び2層目の肉盛層並びに3層目以上の肉
盛層に融合不良、溶け込み不足、ピット又はスラグ巻き
が生じた。また、肉盛層の割れ進展が損なわれ、3層目
以上の肉盛層及び母材熱影響部に剥離又は欠けが生じ
た。
【0094】比較例No.38は、フラックス入りワイヤ
のMgの含有量が本発明の範囲を超えているため、スパ
ッタの発生量が著しく増加し、チップへのスパッタ付着
によりワイヤ送給が停止した。
【0095】比較例No.39は、フラックス入りワイヤ
のスラグ造滓剤の含有量が本発明の範囲以上であるた
め、初層及び2層目の肉盛層並びに3層目以上の肉盛層
に融合不良、溶け込み不足、ピット又はスラグ巻きが生
じた。また、スラグ巻きが発生したため、肉盛層の割れ
進展が損なわれ、3層目以上の肉盛層及び母材熱影響部
に剥離又は欠けが生じた。
【0096】比較例No.40は、フラックス入りワイヤ
のAl及びMgの含有量が夫々本発明の範囲を超えてい
るため、スパッタの発生量が著しく増加し、チップへの
スパッタ付着によりワイヤ送給が停止した。
【0097】比較例No.41は、フラックス入りワイヤ
のMo及びVの含有量が夫々本発明の範囲を超えている
ため、炭化物の晶出量及び析出量が過多となり、延性及
び靭性が著しく損なわれ、初層及び2層目の肉盛層並び
に3層目以上の肉盛層に剥離又は欠けが生じた。
【0098】比較例No.42は、ニハード鋳鉄母材のC
の含有量が本発明の範囲未満であるため、母材の炭化物
の晶出量及び析出量が低下し、母材の硬さが劣った。ま
た、母材熱影響部の割れ間隔が広がり母材熱影響部に剥
離又は欠けが生じると共に、母材原質部に大割れが生じ
た。
【0099】比較例No.43は、ニハード鋳鉄母材のC
の含有量が本発明の範囲を超えているため、母材の炭化
物の晶出量及び析出量が過多になり、母材熱影響部の炭
化物の粗大化が著しくなり、母材熱影響部に剥離又は欠
けが生じた。また、母材熱影響部の割れ間隔が広がり、
割れ長さが長くなると共に、靭性が著しく劣化して母材
原質部に大割れが生じた。
【0100】比較例No.44は、ニハード鋳鉄母材のS
iの含有量が本発明の範囲未満であるため、脱酸不足に
なり鋳造欠陥が生じ、母材熱影響部に剥離又は欠けが生
じ、母材原質部に大割れが生じた。
【0101】比較例No.45は、ニハード鋳鉄母材のS
iの含有量が本発明の範囲を超えているため、靭性が著
しく損なわれて、母材熱影響部に剥離又は欠けが生じ、
母材原質部に大割れが生じた。
【0102】比較例No.46は、ニハード鋳鉄母材のM
nの含有量が本発明の範囲未満であるため、靭性が改善
されないと共に、母材熱影響部の炭化物の粗大化を防止
することができないので、母材熱影響部に剥離又は欠け
が生じた。また、母材熱影響部の割れ間隔が広がり、割
れ長さが長くなり、母材原質部に大割れが生じた。
【0103】比較例No.47は、ニハード鋳鉄母材のM
nの含有量が本発明の範囲を超えているため、炭化物の
晶出量及び析出量が少なくなり、母材の硬さが劣った。
また、母材の熱影響部に剥離又は欠けが生じると共に、
母材の熱影響部の割れ間隔が広がり割れ長さが長くな
り、母材原質部に大割れが生じた。
【0104】比較例No.48は、ニハード鋳鉄母材のN
iの含有量が本発明の範囲未満であるため、靭性及び延
性が改善されず、また、母材熱影響部の炭化物の粗大化
を防止することができないので、母材熱影響部に剥離又
は欠けが生じ、母材熱影響部の割れ間隔が広がり、割れ
長さが長くなり、母材原質部に大割れが生じた。
【0105】比較例No.49は、ニハード鋳鉄母材のN
iの含有量が本発明の範囲を超えているため、炭化物の
晶出量及び析出量が少なくなり、母材の硬さが劣った。
また、母材の熱影響部に剥離又は欠けが生じると共に、
母材の熱影響部の割れ間隔が広がり割れ長さが長くな
り、母材原質部に大割れが生じた。
【0106】比較例No.50は、ニハード鋳鉄母材のC
rの含有量が本発明の範囲未満であるため、炭化物の晶
出量及び析出量が少なくなり、母材の硬さが劣った。ま
た、母材の熱影響部に剥離又は欠けが生じると共に、母
材の熱影響部の割れ間隔が広がり割れ長さが長くなり、
母材原質部に大割れが生じた。
【0107】比較例No.51は、ニハード鋳鉄母材のC
rの含有量が本発明の範囲を超えているため、炭化物の
晶出量及び析出量が過多になり、母材熱影響部の炭化物
の粗大化が著しくなり、母材熱影響部に剥離又は欠けが
生じた。また、母材熱影響部の割れ間隔が広がり、割れ
長さが長くなると共に、靭性が著しく劣化して母材原質
部に大割れが生じた。
【0108】比較例No.52は、ニハード鋳鉄母材のM
oの含有量が本発明の範囲未満であるため、炭化物の晶
出量及び析出量が少なくなり、母材の硬さが劣った。ま
た、母材の熱影響部に剥離又は欠けが生じると共に、母
材の熱影響部の割れ間隔が広がり割れ長さが長くなり、
母材原質部に大割れが生じた。
【0109】比較例No.53は、ニハード鋳鉄母材のM
oの含有量が本発明の範囲を超えているため、炭化物の
晶出量及び析出量が過多になり、母材熱影響部の炭化物
の粗大化が著しくなり、母材熱影響部に剥離又は欠けが
生じた。また、母材熱影響部の割れ間隔が広がり、割れ
長さが長くなると共に、靭性が著しく劣化して母材原質
部に大割れが生じた。
【0110】比較例No.54は、ニハード鋳鉄母材のV
の含有量が本発明の範囲未満であるため、炭化物の晶出
量及び析出量が少なくなり、母材の硬さが劣った。ま
た、母材の熱影響部に剥離又は欠けが生じると共に、母
材の熱影響部の割れ間隔が広がり割れ長さが長くなり、
母材原質部に大割れが生じた。
【0111】比較例No.55は、ニハード鋳鉄母材のV
の含有量が本発明の範囲を超えているため、炭化物の晶
出量及び析出量が過多になり、母材熱影響部の炭化物の
粗大化が著しくなり、母材熱影響部に剥離又は欠けが生
じた。また、母材熱影響部の割れ間隔が広がり、割れ長
さが長くなると共に、靭性が著しく劣化して母材原質部
に大割れが生じた。
【0112】比較例No.56は、ニハード鋳鉄母材のC
及びMnの含有量が夫々本発明の範囲を超えているた
め、母材の炭化物の晶出量及び析出量の増減はC及びM
nの作用により相殺された。また、靭性が著しく劣化し
て、母材熱影響部に剥離又は欠けが生じ、母材熱影響部
の割れ間隔が広がり、割れ長さが長くなると共に、靭性
が著しく劣化して母材原質部に大割れが生じた。
【0113】比較例No.57は、ニハード鋳鉄母材のC
及びSiの含有量が本発明の範囲を超えているため、靭
性が著しく損なわれ、母材熱影響部に剥離又は欠けが生
じ、母材熱影響部の割れ間隔が広がり、割れ長さが長く
なると共に、靭性が著しく劣化して母材原質部に大割れ
が生じた。
【0114】比較例No.58は、初層及び2層目肉盛層
の溶接入熱量が本発明の範囲未満であるため、初層及び
2層目肉盛層に融合不良、溶け込み不足、ピット又はス
ラグ巻きが生じると共に、初層及び2層目肉盛層に剥離
又は欠けが生じた。
【0115】比較例No.59は、初層及び2層目肉盛層
の溶接入熱量が本発明の範囲を超えているため、母材熱
影響部の炭化物の粗大化を抑制することができず、母材
熱影響部に剥離又は欠けを生じさせると共に、母材熱影
響部の割れ間隔が広がり、割れ長さが長くなり、母材原
質部に大割れが生じた。
【0116】比較例No.60は、初層及び2層目肉盛層
の予熱温度及びパス間温度が本発明の範囲を超えている
ため、母材熱影響部の炭化物の粗大化を抑制することが
できず、母材熱影響部に剥離又は欠けを生じさせると共
に、母材熱影響部の割れ間隔が広がり、割れ長さが長く
なり、母材原質部に大割れが生じた。
【0117】比較例No.61は、3層目以上の肉盛層の
溶接入熱量が本発明の範囲未満であるため、3層目以上
の肉盛層に融合不良、溶け込み不足、ピット又はスラグ
巻きが生じ、肉盛層の割れの進展が損なわれ、3層目以
上の肉盛層に剥離又は欠けが生じた。
【0118】比較例No.62は、3層目以上の肉盛層の
溶接入熱量が本発明の範囲を超えているため、3層目以
上の肉盛層に融合不良、溶け込み不足、ピット又はスラ
グ巻きが生じ、特に、溶け込み形状が深溶け込みなり肉
盛層の割れの進展が損なわれ、3層目以上の肉盛層に剥
離又は欠けが生じた。
【0119】比較例No.63は、3層目以上の肉盛層の
パス間温度が本発明の範囲を超えているため、3層目以
上の肉盛層に融合不良、溶け込み不足、ピット又はスラ
グ巻きが生じ、特に、溶け込み形状が深溶け込みなり肉
盛層の割れの進展が損なわれ、3層目以上の肉盛層に剥
離又は欠けが生じた。
【0120】比較例No.64は、チップとニハード鋳鉄
母材との間の距離が本発明の範囲未満であるため、チッ
プにスパッタ付着が激しくなり、ワイヤ送給が停止し
た。
【0121】比較例No.65は、チップとニハード鋳鉄
母材との間の距離が本発明の範囲を超えているため、シ
ールドが不足し、初層及び2層目肉盛層並びに3層目以
上の肉盛層に融合不良、溶け込み不足、ピット又はスラ
グ巻きが生じると共に、肉盛金属の割れ進展が損なわ
れ、3層目以上の肉盛層に剥離又は欠けが生じた。
【0122】比較例No.66は、ニハード鋳鉄母材のC
の含有量が本発明の範囲未満であり、フラックス入りワ
イヤのAlの含有量が本発明の範囲を超えているため、
母材の炭化物の晶出量及び析出量が低下し、母材の硬さ
が劣った。また、母材熱影響部の割れ間隔が広がり母材
熱影響部に剥離又は欠けが生じると共に、母材原質部に
大割れが生じた。
【0123】比較例No.67は、初層及び2層目肉盛層
の溶接入熱量並びに初層及び2層目肉盛層の予熱温度及
びパス間温度が本発明の範囲を超えているため、母材熱
影響部の炭化物の粗大化を抑制することができず、母材
熱影響部に剥離又は欠けを生じさせると共に、母材熱影
響部の割れ間隔が広がり、割れ長さが長くなり、母材原
質部に大割れが生じた。
【0124】比較例No.68は、初層の溶接入熱量が本
発明の範囲を超え、3層目以上の肉盛層の溶接入熱量が
本発明の範囲未満であるため、母材熱影響部の炭化物の
粗大化を抑制することができず、母材熱影響部に剥離又
は欠けを生じさせると共に、母材熱影響部の割れ間隔が
広がり、割れ長さが長くなり、母材原質部に大割れが生
じた。また、3層目以上の肉盛層に融合不良、溶け込み
不足、ピット又はスラグ巻きが生じると共に、肉盛層の
割れの進展が損なわれ、3層目以上の肉盛層に剥離又は
欠けが生じた。
【0125】
【発明の効果】以上詳述したように本発明においては、
母材の大割れ及び溶接金属の剥離又は欠けが生じること
なく、高能率で高硬度金属肉盛層を形成する溶接をする
ことができる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) B23K 35/362 320 B23K 35/362 320 35/368 35/368 E C22C 37/08 C22C 37/08 A 38/00 302 38/00 302Z 38/46 38/46 38/54 38/54 // B23K 103:06 B23K 103:06 (72)発明者 遠藤 正弘 宮城県宮城郡七ヶ浜町代ヶ崎浜字前島1 東北電力株式会社仙台火力発電所内 (72)発明者 松村 和彦 宮城県宮城郡七ヶ浜町代ヶ崎浜字前島1 東北電力株式会社仙台火力発電所内 (72)発明者 武田 繁三郎 宮城県宮城郡利府町飯土井字新中堀53番地 東北発電工業株式会社技術開発研究セン ター内 (72)発明者 福岡 和政 宮城県宮城郡利府町飯土井字新中堀53番地 東北発電工業株式会社技術開発研究セン ター内 (72)発明者 夏目 松吾 神奈川県藤沢市宮前字裏河内100番1 株 式会社神戸製鋼所藤沢事業所内 (72)発明者 山下 賢 神奈川県藤沢市宮前字裏河内100番1 株 式会社神戸製鋼所藤沢事業所内 Fターム(参考) 4E084 AA02 AA03 AA04 AA06 AA07 AA09 AA10 AA11 AA18 AA20 AA24 AA26 CA07 CA13 DA10 DA22 FA11 FA15 GA08 HA06

Claims (1)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 高硬度金属を少なくとも3層以上多層肉
    盛するニハード鋳鉄母材の多層肉盛炭酸ガスシールドア
    ーク溶接方法において、前記ニハード鋳鉄母材は、C:
    1.50乃至2.50質量%、Si:1.00乃至2.
    00質量%、Mn:0.50乃至1.50質量%、N
    i:4.80乃至5.80質量%、Cr:10.50乃
    至12.00質量%、Mo:0.05乃至1.00質量
    %及びV:0.01乃至0.05質量%含有し、溶接材
    料として、金属外皮にフラックスを充填してなるフラッ
    クス入りワイヤであって、前記金属外皮及び前記フラッ
    クスのいずれか一方又は双方から添加される成分元素の
    合計がワイヤ全質量当たり、C:5.55乃至6.15
    質量%、Si:2.00乃至2.80質量%、Mn:
    0.80質量%以下、Ni:0.10質量%以下、C
    r:21.45乃至23.50質量%、Mo:0.95
    乃至1.10質量%、Al:0.01乃至0.10質量
    %、V:3.10乃至3.40質量%、B:0.20乃
    至0.30質量%、Mg:0.01乃至0.10質量%
    及びスラグ造滓剤の合計:0.15質量%未満であるフ
    ラックス入りワイヤを使用し、Hを溶接入熱量[J/c
    m]とし、Iを溶接電流[A]とし、Eを溶接電圧
    [V]とし、vを溶接速度[cm/分]としたとき、H
    =60×I×E/vで算出される溶接入熱量Hの値は初
    層及び2層目において2500J/cmを超え3500
    J/cm未満であり、3層目以上において5000J/
    cmを超え7500J/cm未満に制限すると共に、初
    層及び2層目の予熱温度及びパス間温度を200℃以下
    並びに3層目以上のパス間温度を300℃以下に規制
    し、溶接時のチップと前記ニハード鋳鉄母材との間の距
    離を15乃至20mmに規制することを特徴とするニハ
    ード鋳鉄母材の多層肉盛炭酸ガスシールドアーク溶接方
    法。
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