JP2001097204A - 自動車の制動力制御装置 - Google Patents

自動車の制動力制御装置

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JP2001097204A
JP2001097204A JP27510299A JP27510299A JP2001097204A JP 2001097204 A JP2001097204 A JP 2001097204A JP 27510299 A JP27510299 A JP 27510299A JP 27510299 A JP27510299 A JP 27510299A JP 2001097204 A JP2001097204 A JP 2001097204A
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武俊 川邊
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 モーターの制御性を最大限に活用して車輪ロ
ック傾向を防止するとともに、制動時のエネルギー回収
量を増大する。 【解決手段】 車輪のスリップ率μが目標スリップ率μ
0に一致するようにフィードバック制御を行い、モータ
ートルク指令値Tmを演算してモーターの制駆動トルク
を制御するとともに、モーターのトルク制御範囲を正負
両側に確保するためのモータートルク目標値Tm0を設定
し、ABS作動決定後に、モーターのトルク検出値Tms
がモータートルク目標値Tm0に一致するようにフィード
バック制御を行い、摩擦ブレーキトルク指令値Tfを演
算して機械式ブレーキの摩擦ブレーキトルクを制御す
る。これにより、モーターの制御範囲が正負両側に確保
され、路面の摩擦係数が変化しても常にモーターの制御
性を最大限に活用することができ、安定な制動力を得る
ことができる。また、モーターの制御範囲が負側に確保
されるので、モーターにより制動時のエネルギーを充分
に回収することができ、総合的な燃費を向上させること
ができる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、機械式ブレーキと
電気式ブレーキとを協同させてアンチロックブレーキ動
作を行う自動車の制動力制御装置に関し、特に、アンチ
ロックブレーキ性能を改善したものである。
【0002】
【従来の技術とその問題点】制動時に路面状況などによ
って車輪が滑走状態になり、車体速度が車輪速度を上ま
わることがある。このような状態を車輪のロック傾向と
呼び、車輪ロック傾向を回避するための装置としてアン
チロックブレーキ装置(以下、ABSと呼ぶ)が用いら
れている。
【0003】一方、モーターを走行駆動源とする電気自
動車やハイブリッド自動車では、油圧装置や空圧(エン
ジンの負圧を含む)装置を動力源とする機械式ブレーキ
(摩擦ブレーキ)と、走行用モーター自体を動力源とす
る電気式ブレーキ(回生ブレーキ)とが併用されてい
る。
【0004】電気自動車やハイブリッド自動車の制動力
制御装置として、機械式ブレーキと電気式ブレーキとを
協同させてアンチロックブレーキ動作を行う制動力制御
装置が知られている(特開平5−270387号公報参
照)。この制動力制御装置では、車輪のロック傾向が検
出された時には、機械式ブレーキの制動力を所定値一定
に保持しつつ、電気式ブレーキの動力源であるモーター
を回生モードから力行モードまで制御して電気式ブレー
キの制動力を調節している。この制動力制御装置によれ
ば、車両制動時のモーターのトルク制御範囲を回生から
力行まで用いることによって、回生トルク(制動トル
ク)を0にしても車輪ロック傾向から迅速に脱出できな
い路面状況では力行トルク(駆動トルク)を発生させ、
車輪ロック傾向を回避しつつ迅速に制動できるとしてい
る。
【0005】ところが、この制動力制御装置では、電気
式ブレーキの動力源であるモーターの回生トルクおよび
力行トルクが路面摩擦係数や機械式ブレーキの制動力に
応じて決まってしまうことになり、条件によってはモー
タートルク指令値がモータートルク制御範囲を越えてし
まうことがあり、そのような場合には期待した制動力が
得られないという問題がある。また、回生ブレーキ時に
回収されるエネルギー量も路面摩擦係数や機械式ブレー
キの制動力に応じて決まってしまうことになり、エネル
ギー回収が充分に行われず、エネルギー回収性の点から
必ずしも最良の方式とは言えるものではない。
【0006】また、機械式ブレーキと電気式ブレーキと
を備え、いずれか一方のブレーキによりアンチロックブ
レーキ制御を行うとともに、そのアンチロックブレーキ
の制動力が減少限界になった時には他方のブレーキによ
りアンチロックブレーキ制御を行う自動車の制動力制御
装置が知られている(特開平6−171490号公報参
照)。この制動力制御装置では、電気式ブレーキにより
最初のアンチロックブレーキ制御を行う場合に、モータ
ートルク指令値がモータートルク制御範囲を越えても機
械式ブレーキが作動するため、制動性能が確保されると
している。
【0007】ところが、後者の制動力制御装置でも、モ
ータートルクが路面摩擦係数や機械式ブレーキの制動力
に応じて決まってしまうことになり、制御性に優れたモ
ーターによるアンチロックブレーキ制御を最大限に活用
できるものとは言えない。また、上述した前者の制動力
制御装置と同様に、モーターによるエネルギー回収性を
考慮しておらず、エネルギー回収性の点からも必ずしも
最良の装置と言えるものではない。さらに、機械式ブレ
ーキにより最初のアンチロックブレーキ制御を行い、電
気式ブレーキによりそれをバックアップする場合には、
機械式ブレーキの制御精度が電気式ブレーキの制御精度
より劣るため、電気式ブレーキにより最初のアンチロッ
クブレーキ制御を行い、機械式ブレーキによりそれをバ
ックアップする場合よりもアンチロックブレーキ性能が
低下する。
【0008】本発明の目的は、モーターの制御性を最大
限に活用して車輪ロック傾向を防止するとともに、制動
時のエネルギー回収量を増大することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】一実施の形態の構成を示
す図1と、一実施の形態の制御ブロック図2と、一実施
の形態の目標制動力演算ルーチンを示す図3とに対応づ
けて本発明を説明すると、 (1) 請求項1の発明は、車輪3に制駆動トルクを作
用させるモーター1と、摩擦力により車輪3に摩擦ブレ
ーキトルクを作用させる機械式ブレーキ7〜10と、ア
ンチロックブレーキシステム(ABS)の作動を決定す
るABS作動決定手段18(S6)と、車輪3のスリッ
プ率μを検出するスリップ率検出手段18d(S5)
と、ABS作動決定後に、車輪3のスリップ率μが目標
スリップ率μ0に一致するようにフィードバック制御を
行い、モータートルク指令値Tmを演算してモーター1
の制駆動トルクを制御するモータートルク制御手段1
4,18a,18b,18c(S14)と、モーター1
のトルク制御範囲を正負両側に確保するためのモーター
トルク目標値Tm0を設定するモータートルク目標値設定
手段18e(S8)と、モーター1のトルクTmsを検出
するトルク検出手段22,14と、ABS作動決定後
に、モーター1のトルク検出値Tmsがモータートルク目
標値Tm0に一致するようにフィードバック制御を行い、
摩擦ブレーキトルク指令値Tfを演算して機械式ブレー
キ7〜10の摩擦ブレーキトルクを制御する摩擦ブレー
キトルク制御手段17,18i,18j,18k(S1
5)とを備える。 (2) 請求項2の自動車の制動力制御装置は、摩擦ブ
レーキトルク制御手段17,18i,18j,18k
(S15)のフィードバック制御18i,18jの応答
速度をモータートルク制御手段14,18a,18b,
18c(S14)のフィードバック制御18a,18b
の応答速度よりも遅くしたものである。 (3) 請求項3の自動車の制動力制御装置は、ABS
作動決定前のモータートルク指令値TmとABS作動決
定後のモータートルク目標値Tm0との差分Tff0を演算
し、その差分Tff0を所定時間で0まで徐々に低減して
フィードフォワードトルクTffを演算するフィードフォ
ワードトルク演算手段18f(S12〜S13)を備
え、摩擦ブレーキトルク制御手段17,18i,18
j,18k(S15)によって、ABS作動決定後に、
フィードバック制御18i,18jの出力Tffbからモ
ータートルク目標値Tm0とフィードフォワードトルクT
ffとを減じて摩擦ブレーキトルク指令値Tfを演算する
ようにしたものである。 (4) 請求項4の自動車の制動力制御装置は、ABS
作動決定前のモータートルク指令値TmとABS作動決
定後のモータートルク目標値Tm0との差分Tff0を演算
し、その差分Tff0を所定時間で0まで徐々に低減して
フィードフォワードトルクTffを演算するフィードフォ
ワードトルク演算手段18f(S12〜S13)を備
え、モータートルク制御手段14,18a,18b,1
8c(S14)によって、ABS作動決定後に、フィー
ドバック制御18a,18bの出力Tmfdにフィードフ
ォワードトルクTffを加算してモータートルク指令値T
mを演算するとともに、摩擦ブレーキトルク制御手段1
7,18i,18j,18k(S15)によって、AB
S作動決定後に、フィードバック制御18i,18jの
出力Tffbからモータートルク目標値Tm0とフィードフ
ォワードトルクTffとを減じて摩擦ブレーキトルク指令
値Tfを演算するようにしたものである。 (5) 請求項5の自動車の制動力制御装置は、モータ
ートルク目標値設定手段18e(S8)によって、モー
タートルク目標値Tm0を0または負の値としたもので
ある。 (6) 請求項6の自動車の制動録制御装置は、モータ
ートルク目標値設定手段18e(S8)によってモータ
ートルク目標値Tm0を0としたものである。 (7) 請求項7の自動車の制動力制御装置は、モータ
ーの回転速度Nmを検出するモーター回転速度検出手段
15を備え、モータートルク目標値設定手段18e(S
8)によって、モーター回転速度Nmが所定値Nm1以下
の範囲ではモータートルク目標値Tm0を0とし、モータ
ー回転速度Nmが所定値Nm2(>Nm1)を越える範囲で
はモーター1の最小トルクTminに所定値Tplus(>
0)を加算した値と0との小さい方をモータートルク目
標値Tm0に設定し、モーター回転速度NmがNm1からNm
2までの範囲では、所定値Nm1のときのモータートルク
目標値Tm0(=0)と所定値Nm2のときのモータートル
ク目標値Tm0とを結んだ値をモータートルク目標値Tm0
に設定するようにしたものである。 (8) 請求項8の自動車の制動力制御装置は、モータ
ートルク目標値設定手段18e(S8)によって、モー
タートルク目標値Tm0を、モーター1の最大トルクTma
xと最小トルクTminとの間の中央値としたものである。 (9) 請求項9の自動車の制動力制御装置は、モータ
ー1の回転速度Nmを検出するモーター回転速度検出手
段15を備え、モータートルク目標値設定手段18e
(S8)によって、モーター回転速度Nmが所定値Nm1
以下の範囲ではモータートルク目標値Tm0を0とし、モ
ーター回転速度Nmが所定値Nm2(>Nm1)を越える範
囲では、スリップ率μに応じて増加する値Tplus1と、
モータートルク検出値Tmsと摩擦ブレーキトルク指令値
Tfとの和(Tms+Tf)に応じて増加する値Tplus2と
の和(Tplus1+Tplus2)をモーター1の最小トルクT
minに加算した値(Tplus1+Tplus2+Tmin)と、0と
の小さい方をモータートルク目標値Tm0に設定し、モー
ター回転速度NmがNm1からNm2までの範囲では、所定
値Nm1のときのモータートルク目標値Tm0(=0)と所
定値Nm2のときのモータートルク目標値Tm0とを結んだ
値をモータートルク目標値Tm0に設定するようにしたも
のである。 (9) 請求項9の自動車の制動力制御装置は、モータ
ー1の回転速度Nmを検出するモーター回転速度検出手
段15を備え、モータートルク目標値設定手段18e
(S8)によって、モーター回転速度Nmが所定値Nm1
以下の範囲ではモータートルク目標値Tm0を0とし、モ
ーター回転速度Nmが所定値Nm2(>Nm1)を越える範
囲では、スリップ率μに応じて増加する値Tplus1と、
モータートルク検出値Tmsと摩擦ブレーキトルク指令値
Tfとの和(Tms+Tf)に応じて増加する値Tplus2と
の和(Tplus1+Tplus2)をモーター1の最小トルクT
minに加算した値(Tplus1+Tplus2+Tmin)と、0と
の小さい方をモータートルク目標値Tm0に設定し、モー
ター回転速度NmがNm1からNm2までの範囲では、所定
値Nm1のときのモータートルク目標値Tm0(=0)と所
定値Nm2のときのモータートルク目標値Tm0とを結んだ
値をモータートルク目標値Tm0に設定するようにしたも
のである。 (10) 請求項10の自動車の制動力制御装置は、モ
ーター回転速度Nmの代わりに車輪3の滑り0を実現す
る仮想モーター回転速度Nm’を用いるようにしたもの
である。 (11) 請求項11の自動車の制動力制御装置は、モ
ータートルク目標値設定手段18e(S8)によって、
仮想モーター回転速度Nm’が所定値Nm’1以下の範囲
ではモータートルク目標値Tm0を0とし、仮想モーター
回転速度Nm’が所定値Nm’2(>Nm’1)を越える範
囲では、モータートルク検出値Tmsと摩擦ブレーキトル
ク指令値Tfとの和(Tms+Tf)に応じて増加する値T
plus2をモーター1の最小トルクTminに加算した値と0
との小さい方をモータートルク目標値Tm0に設定し、仮
想モーター回転速度Nm’がNm’1からNm’2までの範
囲では、所定値Nm’1のときのモータートルク目標値T
m0(=0)と所定値Nm’2のときのモータートルク目標
値Tm0とを結んだ値をモータートルク目標値Tm0に設定
するようにしたものである。 (12) 請求項12の自動車の制動力制御装置は、摩
擦ブレーキトルク制御手段17,18i,18j,18
k(S15)によって、モーター1のトルク検出値Tms
をモータートルク目標値Tm0に一致させるフィードバッ
ク制御の出力Tffbが駆動トルクになったときはフィー
ドバック制御を停止し、フィードバック制御の出力Tff
bを0にするようにフィードバック制御系の積分要素を
リセットするようにしたものである。
【0010】上述した課題を解決するための手段の項で
は、説明を分かりやすくするために一実施の形態の図を
用いたが、これにより本発明が一実施の形態に限定され
るものではない。
【0011】
【発明の効果】(1) 請求項1の発明によれば、車輪
のスリップ率μが目標スリップ率μ0に一致するように
フィードバック制御を行い、モータートルク指令値Tm
を演算してモーターの制駆動トルクを制御するととも
に、モーターのトルク制御範囲を正負両側に確保するた
めのモータートルク目標値Tm0を設定し、ABS作動決
定後に、モーターのトルク検出値Tmsがモータートルク
目標値Tm0に一致するようにフィードバック制御を行
い、摩擦ブレーキトルク指令値Tfを演算して機械式ブ
レーキの摩擦ブレーキトルクを制御するようにしたの
で、モーターの制御範囲が正負両側に確保され、路面の
摩擦係数が変化しても常にモーターの制御性を最大限に
活用することができ、安定な制動力を得ることができ
る。また、モーターの制御範囲が負側に確保されるの
で、モーターにより制動時のエネルギーを充分に回収す
ることができ、総合的な燃費を向上させることができ
る。さらに、たとえモータートルク目標値を低摩擦路面
などで車輪がロック傾向となるような制動トルクを設定
したとしても、摩擦ブレーキトルクのフィードバック制
御によって負の摩擦ブレーキトルク指令値、つまり駆動
トルクが演算されるが、機械式ブレーキでは駆動トルク
を実現できないから車輪には何ら作用を及ぼさず、結
局、車輪の制動力は車輪のスリップ率を目標スリップ率
に一致させるためのモータートルクのフィードバック制
御により路面状況に最適な値に制御されることになる。
したがって、良好な制動性能を得ることができるモータ
ートルク目標値の設計自由度が大きくなるという効果も
得られる。 (2) 請求項2の発明によれば、モーターのトルク検
出値Tmsをモータートルク目標値Tm0に一致させるフィ
ードバック制御の応答速度を、車輪のスリップ率μを目
標スリップ率μ0に一致させるフィードバック制御の応
答速度よりも遅くしたので、路面摩擦変化などの影響に
よりモータートルクが振動的になるような状況において
も、モータートルク制御と摩擦ブレーキトルク制御とが
干渉して制動性能を低下させることが防止され、安定な
制動性能を得られる。 (3) 請求項3の発明によれば、ABS作動決定前の
モータートルク指令値TmとABS作動決定後のモータ
ートルク目標値Tm0との差分Tff0を演算し、その差分
Tff0を所定時間で0まで徐々に低減してフィードフォ
ワードトルクTffを演算し、ABS作動決定後に、摩擦
ブレーキトルクのフィードバック制御出力Tffbからモ
ータートルク目標値Tm0とフィードフォワードトルクT
ffとを減じて摩擦ブレーキトルク指令値Tfを演算する
ようにしたので、ABS作動直後にモータートルクTms
がその目標値Tm0へすばやく変化してモータートルクの
制御範囲を正負両側に確保することができ、ABS作動
直後から、モーターの制御性を最大限に活用して安定な
制動力を得ることができる上に、モーターにより制動時
のエネルギーを充分に回収することができ、総合的な燃
費を向上させることができる。 (4) 請求項4の発明によれば、ABS作動決定前の
モータートルク指令値TmとABS作動決定後のモータ
ートルク目標値Tm0との差分Tff0を演算し、その差分
Tff0を所定時間で0まで徐々に低減してフィードフォ
ワードトルクTffを演算し、ABS作動決定後に、モー
タートルクのフィードバック制御出力Tmfdにフィード
フォワードトルクTffを加算してモータートルク指令値
Tmを演算するとともに、摩擦ブレーキトルクのフィー
ドバック制御出力Tffbからモータートルク目標値Tm0
とフィードフォワードトルクTffとを減じて摩擦ブレー
キトルク指令値Tfを演算するようにしたので、ABS
作動開始時の摩擦ブレーキトルク制御とモータートルク
制御との干渉を抑制しながら、ABS作動直後にモータ
ートルクTmsがその目標値Tm0へすばやく変化してモー
タートルクの制御範囲を正負両側に確保することがで
き、ABS作動直後から、モーターの制御性を最大限に
活用して安定な制動力を得ることができる上に、モータ
ーにより制動時のエネルギーを充分に回収することがで
き、総合的な燃費を向上させることができる。 (5) 請求項5および請求項6の発明によれば、モー
タートルク目標値Tm0を0または負の値としたので、
簡単な構成でモータートルクの正負両側にそれぞれ同量
のトルク制御範囲を確保することができ、モーターの制
御性を広く活用して制動性能をより安定的に実現できる
上に、モーターにより制動時のエネルギーを充分に回収
することができ、総合的な燃費を向上させることができ
る。 (6) 請求項7の発明によれば、モーター回転速度N
mが所定値Nm1以下の範囲ではモータートルク目標値T
m0を0とし、モーター回転速度Nmが所定値Nm2(>Nm
1)を越える範囲ではモーターの最小トルクTminに所定
値Tplus(>0)を加算した値と0との小さい方をモー
タートルク目標値Tm0に設定し、モーター回転速度Nm
がNm1からNm2までの範囲では、所定値Nm1のときのモ
ータートルク目標値Tm0(=0)と所定値Nm2のときの
モータートルク目標値Tm0とを結んだ値をモータートル
ク目標値Tm0に設定するようにしたので、モータートル
ク目標値Tm0がモーターの調整可能なトルク範囲内に設
定され、モーターの回転速度、温度、モーター駆動装置
の温度、メインバッテリーの温度および充電状態などに
よってモーターの調整可能なトルク範囲が変化しても、
モータートルク目標値Tm0を常に実現可能なトルク範囲
内に設定することができ、モーターの制御性を広く活用
して制動性能をより安定的に実現できる上に、モーター
により制動時のエネルギーを充分に回収することがで
き、総合的な燃費を向上させることができる。 (7) 請求項8の発明によれば、モータートルク目標
値Tm0を、モーターの最大トルクTmaxと最小トルクTm
inとの間の中央値としたので、モーターの回転速度およ
び温度、モーター駆動装置の温度、メインバッテリーの
温度および充電状態などによってモーターの調整可能な
トルク範囲が変化しても、モータートルクを正側と負側
にそれぞれ同量ずつ確保することができ、モーターの制
御性を最大限に活用して制動性能をより安定的に実現す
ることができる上に、モーターにより制動時のエネルギ
ーを充分に回収することができ、総合的な燃費を向上さ
せることができる。 (8) 請求項9の発明によれば、モーター回転速度N
mが所定値Nm1以下の範囲ではモータートルク目標値T
m0を0とし、モーター回転速度Nmが所定値Nm2(>Nm
1)を越える範囲では、スリップ率μに応じて増加する
値Tplus1と、モータートルク検出値Tmsと摩擦ブレー
キトルク指令値Tfとの和(Tms+Tf)に応じて増加す
る値Tplus2との和(Tplus1+Tplus2)をモーターの
最小トルクTminに加算した値(Tplus1+Tplus2+Tm
in)と、0との小さい方をモータートルク目標値Tm0に
設定し、モーター回転速度NmがNm1からNm2までの範
囲では、所定値Nm1のときのモータートルク目標値Tm0
(=0)と所定値Nm2のときのモータートルク目標値T
m0とを結んだ値をモータートルク目標値Tm0に設定する
ようにしたので、モーター回転速度Nmが高くなっても
制動側のトルク制御範囲を確保することができ、路面の
摩擦係数が大きく変化するような状況においても、大き
な制動力を安定して維持することができる。また、路面
摩擦係数が小さい状況から大きい状況となった場合には
車輪のグリップ力が大きくなるため、モータートルクを
より制動側に操作して制動力を増加させる必要がある。
このような状況においても、モーターの制動側のトルク
制御範囲を充分に確保でき、路面摩擦係数の変化に対し
て制動力を安定に維持することができる。また、路面摩
擦係数が大きい時に制動側のトルク制御範囲を大きくす
るので、制動エネルギーをより多く回収することができ
る。 (9) 請求項10の発明によれば、モーター回転速度
Nmの代わりに車輪の滑り0を実現する仮想モーター回
転速度Nm’を用いるようにしたので、請求項7の上記
効果に加え、車両の逆走を防止するためにモーター回転
速度0近傍においてモータートルクを0にしても、制動
力に段差が発生せず、スムーズな制動を実現することが
できる。 (10) 請求項11の発明によれば、仮想モーター回
転速度Nm’が所定値Nm’1以下の範囲ではモータート
ルク目標値Tm0を0とし、仮想モーター回転速度Nm’
が所定値Nm’2(>Nm’1)を越える範囲では、モータ
ートルク検出値Tmsと摩擦ブレーキトルク指令値Tfと
の和(Tms+Tf)に応じて増加する値Tplus2をモータ
ーの最小トルクTminに加算した値と0との小さい方を
モータートルク目標値Tm0に設定し、仮想モーター回転
速度Nm’がNm’1からNm’2までの範囲では、所定値
Nm’1のときのモータートルク目標値Tm0(=0)と所
定値Nm’2のときのモータートルク目標値Tm0とを結ん
だ値をモータートルク目標値Tm0に設定するようにした
ので、路面の状況に応じて適切なモーターの制動側トル
ク制御範囲を確保することができ、路面の状況が変化し
ても必要な制動力を安定に実現することができる。ま
た、路面摩擦係数が大きい時に制動側トルク制御範囲を
大きくするので、制動エネルギーをより多く回収するこ
とができる。 (11) 請求項12の発明によれば、モーターのトル
ク検出値Tmsをモータートルク目標値Tm0に一致させる
フィードバック制御の出力Tffbが駆動トルクになった
ときはフィードバック制御を停止し、フィードバック制
御の出力Tffbを0にするようにフィードバック制御系
の積分要素をリセットするようにした。摩擦ブレーキト
ルク指令値Tmを演算するためのフィードバック制御の
出力Tffbが駆動トルクになり、フィードバック制御の
積分要素に駆動トルク側の値が蓄積していく場合には、
その後のモータートルクの目標値追従性に悪影響を及ぼ
すが、請求項12の発明によればこのような不具合を防
止することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】前輪の左右にそれぞれ走行駆動用
モーターを備えた電気自動車に、本発明を応用した一実
施の形態を説明する。なお、後輪の左右にそれぞれ走行
駆動用モーターを備えた電気自動車や、4輪すべてにそ
れぞれ走行駆動用モーターを備えた電気自動車に対して
も、本発明を適用することができる。また、走行駆動用
モーター以外にエンジンなどの走行駆動源を備えたパラ
レル・ハイブリッド自動車や、エンジンなどの駆動源に
より発電機を駆動して発電を行い、走行駆動用モーター
へ電力を供給するシリーズ・ハイブリッド自動車に対し
ても、本発明を適用することができる。
【0013】図1は一実施の形態の構成を示す。なお、
一実施の形態の左右前輪の駆動系は対象であり、図1に
は左右前輪の内の一方の車輪の駆動系のみを示し、他方
の車輪の駆動系の図示と説明を省略する。
【0014】この車両のパワートレインは、走行駆動用
の三相交流モーター1から車軸2を介して駆動輪3が連
結されている。モーター1には三相同期電動機や三相誘
導電動機などの交流機や直流電動機を用いることがで
き、力行運転による車両の推進と回生運転による車両の
制動とを行う。
【0015】モーター1はインバーター4により駆動さ
れる。インバーター4はDCリンク5を介してメインバ
ッテリー6に接続されており、メインバッテリー6の直
流電力を交流電力に変換してモーター1へ供給するとと
もに、モーター1の交流発電電力を直流電力に変換して
メインバッテリー6を充電する。メインバッテリー6に
はリチウム・イオン電池、ニッケル・水素電池、鉛電池
などの各種電池や、電気二重層キャパシターなどを用い
ることができる。
【0016】駆動輪3には、車軸2に連結されたブレー
キディスク7と、そのブレーキディスク7との接触摩擦
により制動力を発生するブレーキパッド8とが設けられ
ている。これらのブレーキディスク7とブレーキパッド
8により機械式ブレーキ(摩擦ブレーキ)を構成する。
ブレーキパッド8は油圧配管9の油圧によってブレーキ
ディスク7との接触圧が調節され、制動力が増減する。
ブレーキアクチュエーター10は、ブレーキペダルの踏
み込み圧Boに応じて油圧を増圧するブースター(不図
示)を備えるとともに、油圧配管9を介してホイールシ
リンダー(不図示)の油圧を増圧、保持、減圧するソレ
ノイドバルブ(ABS制御弁、不図示)を備えている。
なお、他方の駆動輪も駆動輪3と同様な機械式ブレーキ
を備えている。
【0017】バッテリーコントローラー11はマイクロ
コンピューターとメモリなどの周辺部品から構成され、
メインバッテリー6の温度Tbatや充電状態SOCに基づい
てメインバッテリー6の入力可能電力Pbat_inおよび出
力可能電力Pbat_outを演算する。バッテリーコントロ
ーラー11には、メインバッテリー6の温度Tbatを検
出する温度センサー12と、充電状態SOCを検出するSOC
検出装置13などが接続されている。
【0018】モーターコントローラー14はマイクロコ
ンピューターとメモリなどの周辺部品から構成され、イ
ンバーター4を制御してモーター1のトルクを調節す
る。モーターコントローラー14には、モーター1に連
結されてモーター回転速度Nm[rpm]を検出する回転セン
サー15と、インバーター4の温度Tinvを検出する温
度センサー16などが接続されている。モーターコント
ローラー14はまた、電流センサー22によりモーター
1に流れる三相交流電流iu、iv、iwを測定し、それ
らに基づいてモーター1のトルクTmsを検出する。な
お、他方の駆動輪を駆動するモーターのトルクも駆動輪
3と同様に調節され、左右の駆動輪の駆動力と電気式ブ
レーキ力(回生ブレーキ力)とはそれぞれ別個に調節可
能となっている。また、モーター1は駆動輪3に変速比
1で連結されているので、モーター回転速度Nm[rpm]は
駆動輪3の回転速度に等しい。
【0019】ここで、駆動輪3の有効半径をr[m]とす
ると、駆動輪3の周速(以下、車輪速度と呼ぶ)Vm[km
/h]は次式により求められる。
【数1】 Vm=2πr・Nm・60/1000 [km/h]
【0020】ブレーキコントローラー17はマイクロコ
ンピューターとメモリなどの周辺部品から構成され、ブ
レーキアクチュエーター10を制御してホイールシリン
ダー(不図示)の油圧を調節し、駆動輪3の制動力を増
減する。なお、他方の駆動輪の制動力も駆動輪3と同様
に調節され、左右の駆動輪の機械式ブレーキ力(摩擦ブ
レーキ力)はそれぞれ別個に調節可能となっている。
【0021】制駆動力コントローラー18はマイクロコ
ンピューターとメモリなどの周辺部品から構成され、バ
ッテリーコントローラー11、モーターコントローラー
14およびブレーキコントローラー17を制御して駆動
輪3の制駆動力を調節する。制駆動力コントローラー1
8はまた、他方の駆動輪のバッテリーコントローラー
(不図示)、モーターコントローラー(不図示)および
ブレーキコントローラー(不図示)を制御して他方の駆
動輪の制駆動力を調節する。制駆動力コントローラー1
8にはアクセルペダルの踏み込み量Accを検出するアク
セルセンサー19、ブレーキペダルの踏み込み圧B0を
検出するブレーキセンサー20、車速Vspを検出する車
速センサー21などが接続されており、後述する目標制
動力演算ルーチンを実行してモータートルク指令値Tm
と摩擦ブレーキトルク指令値Tfを演算する。
【0022】モータートルク指令値Tmはモーターコン
トローラー14に対してモーター1の走行駆動トルクま
たは電気式ブレーキ(回生ブレーキ)トルクを指令する
ものであり、モーターコントローラー14はモータート
ルク検出値Tmsがモータートルク指令値Tmに一致する
ようにフィードバック制御を行う。また、摩擦ブレーキ
トルク指令値Tfはブレーキコントローラー17に対し
て機械式ブレーキ(摩擦ブレーキ)のトルクを指令する
ものである。なお、モータートルク指令値Tmは正値が
駆動トルクを示し、負値が制動トルク(電気式ブレーキ
トルク)を示す。また、摩擦ブレーキトルク指令値Tf
は負値が制動トルクを示す。
【0023】なお、上述したバッテリーコントローラー
11、モーターコントローラー14、ブレーキコントロ
ーラー17、制駆動力コントローラー18およびセンサ
ー類12,13,15,16,19,20,21,22
には補助バッテリー(不図示)から電源が供給されてい
る。
【0024】図2は、制駆動力コントローラー18によ
るABS作動時の目標制動力演算処理を示す制御ブロッ
ク図である。制駆動力コントローラー18は、マイクロ
コンピューターのソフトウエア形態により図2に示す制
御ブロック18a〜18mを構築し、ABS作動時にモ
ータートルク指令値Tmと摩擦ブレーキトルク指令値Tf
を演算してモーターコントローラー14とブレーキコン
トローラー17へそれぞれ出力する。
【0025】一般に、自動車においては、車輪に加える
制動力が、車輪が路面から受ける力、すなわち車輪のグ
リップ力の最大値となるように車輪の制動力を制御する
ことによって、車輪のロック傾向を防止しながら最大の
制動性能を得ることができる。ところが、車輪のグリッ
プ力は路面状況すなわち車輪と路面との間の摩擦係数に
よって変化するため、路面状況に応じたグリップ力を時
々刻々に検出することは困難である。
【0026】そこで、この実施の形態では、ABS作動
時には、車輪のグリップ力が最大となるスリップ率(目
標スリップ率)μ0を予め実験により測定しておき、実
際のスリップ率μをフィードバックし、実際のスリップ
率μが目標スリップ率μ0となるようにモータートルク
を制御するとともに、正負両側にモータートルクの制御
範囲を確保してモーターの制御性を充分に活用し、制動
時のエネルギー回収量を増大するモータートルク目標値
を設定し、モータートルクがモータートルク目標値とな
るように摩擦ブレーキトルクをフィードバック制御す
る。
【0027】図3は目標制動力演算ルーチンを示すフロ
ーチャートである。図2の制御ブロック図と図3のフロ
ーチャートにより、一実施の形態の動作を説明する。制
駆動力コントローラー18は、所定時間ごとに図3の演
算ルーチンを実行する。ステップ1において、ブレーキ
センサー20からブレーキペダルの踏み込み圧B0を入
力するとともに、回転センサー15から駆動輪3の回転
速度Nm[rpm](=モーター1の回転速度)を入力する。
なお、他方の駆動輪および左右後輪の各回転センサーか
らも各車輪の回転速度を入力する。そして、駆動輪3の
回転速度Nmと車輪径rとに基づいて車輪速度Vm[km/h]
を算出するとともに、車体速度Vv[km/h]を推定する。
この実施の形態では、全車輪の内の最も速い回転速度N
mの車輪の車輪速度Vmを車体速度Vvとする。なお、車
体速度Vvの推定方法はこの実施の形態の方法に限定さ
れず、他の公知の方法を用いることができる。また、走
行用モーターと駆動輪との間に減速機が介装される場合
には、モーター回転速度と車輪径と減速機の減速比とに
基づいて車輪速度を演算する。
【0028】ステップ2で、ブレーキペダル踏み込み圧
B0が0より大きいか、つまりブレーキペダルが踏み込
まれているかどうかを確認し、踏み込まれている時はス
テップ3へ進み、踏み込まれていない時はステップ4へ
進む。ブレーキペダルが踏み込まれていない時は、ステ
ップ4で車両を制動するためのモータートルク指令値T
mと摩擦ブレーキトルク指令値Tfにそれぞれ0を設定
し、この目標制動力演算ルーチンを終了する。
【0029】一方、ブレーキペダルが踏み込まれている
時は、ステップ3で、ブレーキペダルの踏み込み圧に対
する各車輪の制動トルク指令値を示すデータテーブルか
ら、ブレーキペダル踏み込み圧B0に対応する各車輪の
制動トルク指令値を表引き演算する。ここでは、駆動輪
3に割り当てられる制動トルク指令値をT0とする。な
お、ブレーキペダル踏み込み圧に対する各車輪の制動ト
ルク指令値のデータテーブルは、予め設定されて制駆動
力コントローラー18のメモリに記憶されている。ま
た、制動トルク指令値は負値が制動トルクを表す。
【0030】なお、この実施の形態ではブレーキペダル
の踏み込み圧B0を検出し、ブレーキペダルの踏み込み
圧に対する各車輪の制動トルク指令値を示すデータテー
ブルから、ブレーキペダル踏み込み圧B0に対応する各
車輪の制動トルク指令値を表引き演算して制動トルク指
令値T0を決定する例を示すが、車両の運転者指示によ
る制動力指令値に応じて制動制御するもの以外にも、車
両の自動運転装置により制動動作を行う装置、あるいは
車両の姿勢を安定化する目的で車輪ごとに制動力を調整
する装置などにも適用でき、同様の効果を得ることがで
きる。
【0031】ステップ5において、先に推定した車体速
度Vvと駆動輪3の車輪速度Vmとに基づいて、スリップ
率μを次式により演算する(図2のスリップ率演算ブロ
ック18d参照)。
【数2】μ=(Vm−Vv)/Vv 上述したように、制動時に路面状況などによって車輪が
滑走状態になり、車輪速度Vmが車体速度Vvよりも小さ
くなると車輪ロック傾向となる。この時、スリップ率μ
は負値となり、値が小さいほど車両ロック傾向が強く滑
りが大きい。
【0032】図4はスリップ率μと車輪のグリップ力と
の関係を示す。スリップ率μ(負値)の減少につれて車
輪のグリップ力は増加し、目標スリップ率μ0において
最大となる。さらにスリップ率μが減少すると、車輪の
グリップ力はわずかに減少してほぼ一定値になる。
【0033】ステップ6において、スリップ率μを所定
値μthと比較してABS作動判定を行う。ここで、所定
値μthは図4に示すように最大グリップ力が得られる目
標スリップ率μ0よりわずかに大きな値とする。スリッ
プ率μが所定値μthより小さい場合は、制動力指令値が
グリップ力最大値よりも大きく、車輪ロック傾向が強く
なって滑りが大きくなると判断し、ABSの作動を決定
してステップ7からステップ8へ進む。一方、スリップ
率μが所定値μth以上の場合には、制動力指令値がグリ
ップ力最大値よりも小さく、車輪ロック傾向が弱く滑り
が小さいと判断し、ABS非作動を決定してステップ7
からステップ9へ進む。なお、いったんABS作動の判
定がなされた後は、スリップ率μが所定値μth’(>μ
th)を越えるまでABS作動判定を解除しないことに
し、ABS作動、非作動の判定にヒステリシスを持たせ
て判定ごとに作動と非作動が切り替わるのを防止する。
【0034】なお、この実施の形態ではスリップ率μに
基づいてABS作動、非作動の判定を行う例を示すが、
ABS作動、非作動の判定方法はこの実施の形態に限定
されず、例えば特開平6−098418号公報に開示さ
れる方法、すなわち車輪の角加速度、角速度情報および
車輪周りの運動方程式を用いて、車輪が路面から受ける
反力を推定し、その推定反力から判定する方法などを採
用することができる。
【0035】ABS非作動と判定された場合は、ステッ
プ9でモータートルク指令値Tmを演算し、続くステッ
プ10で摩擦ブレーキトルク指令値Tfを演算する。モ
ータートルク指令値Tmと摩擦ブレーキトルク指令値Tf
は、例えば図5に示す制動トルク配分にしたがって決定
する。すなわち、制動トルク指令値T0が所定値T01以
下の場合にはすべて電気式ブレーキにより制動し、モー
タートルク指令値Tmと摩擦ブレーキトルク指令値Tf
を、
【数3】Tm=T0, Tf=0 とする。また、制動トルク指令値T0が所定値T01を越
えたらモータートルク指令値Tmを所定値T01一定と
し、制動トルク指令値T0が所定値T01を越えた分を機
械式ブレーキにより負担する。すなわち、
【数4】Tm=T01, Tf=T0−Tm=T0−T01
【0036】一方、ABS作動と判定された場合は、ス
テップ8で、まずモータートルク目標値Tm0を設定する
(図2のモータートルク目標値設定ブロック18e参
照)。モータートルク目標値Tm0の設定方法には次のよ
うな方法がある。
【0037】《ABS作動時のモータートルク目標値T
m0の第1の設定方法》第1の設定方法は、特に演算を行
わず、常にモータートルク目標値Tm0を0とする。
【0038】一般に、モーターは、正側、負側ともに同
量ずつのトルク制御範囲を有するように設計されてい
る。したがって、モータートルク目標値Tm0を0とする
ことによって、簡単な構成でモータートルクの正負両側
にそれぞれ同量のトルク制御範囲を確保することがで
き、モーター1の制御性を広く活用して制動性能をより
安定的に実現できる上に、モーター1により制動時のエ
ネルギーを充分に回収することができ、総合的な燃費を
向上させることができる。
【0039】《ABS作動時のモータートルク目標値T
m0の第2の設定方法》第2の設定方法は、まず、少なく
ともモーター1の回転速度Nmと最大入出力パワー(仕
事率)とに基づいて、モーター1で調節可能な最大トル
クTmax(最大駆動トルク)と最小トルクTmin(最大制
動トルク)を求める。
【0040】そして、例えば車輪速度Vmが5km/h以下
では、モータートルク目標値Tm0を0とする。また、車
輪速度Vmが20km/hを越える範囲では、モータートル
ク目標値Tm0を、最小トルク(最大制動トルク)Tmin
に所定値Tplus(正値)を加算した値と0との小さい方
の値とする。ここで、所定値Tplusは、モーター1の制
動側のトルク制御範囲を確保するための値である。さら
に、車輪速度Vmが5km/hから20km/hまでの間では、
5km/hと20km/hのモータートルク目標値Tm0を直線で
結び、車輪速度Vmに対応するモータートルク目標値Tm
0を補間演算する。
【0041】このように、モータートルク目標値Tm0
を、モーター1で調整可能なトルク範囲(最大トルクT
max〜最小トルクTmin)内で設定するようにしたので、
モーター1の回転速度Nmおよび温度、インバーター4
の温度、メインバッテリー6の温度および充電状態など
によってモーター1の調整可能なトルク範囲が変化して
も、モータートルク目標値Tm0を常に実現可能なトルク
制御範囲内に設定することができる。
【0042】また、モータートルク目標値Tm0を、モー
ター回転速度Nmが略0、すなわち車輪速度Vm=5km/h
以下では0とし、モーター回転速度Nmが0以外、すな
わち、車輪速度Vmが20km/hを越える範囲では最小ト
ルク(最大制動トルク)Tminに所定値Tplus(正値)
を加算した値と0との小さい方の値とし、車輪速度Vm
が5km/hから20km/hまでの間では5km/hと20km/hの
モータートルク目標値Tm0を直線で結び、車輪速度Vm
に対応する値としたので、車両の逆走を防止するために
モーター回転速度0近傍においてモータートルクを0に
しても、制動力に段差が発生せず、スムーズな制動を実
現することができる。
【0043】さらに、モータートルク目標値Tm0を、モ
ーター1で調整可能なトルク範囲(Tmax〜Tmin)内の
0または負の値としたので、モーター1により制動エネ
ルギーを充分に回収することができる。
【0044】さらにまた、モーター回転速度Nmが0以
外の、車輪速度Vmが20km/hを越える範囲では、最小
トルク(最大制動トルク)Tminに所定値Tplusを加算
した値と0との小さい方の値をモータートルク目標値T
m0としたので、モーター1の制動側のトルク制御範囲を
少なくとも所定値Tplusだけ確保することができ、制動
エネルギーを充分に回収することができる。
【0045】《ABS作動時のモータートルク目標値T
m0の第3の設定方法》第3の設定方法は、モータートル
ク目標値Tm0を、上述したモーター1の最大トルクTma
xと最小トルクTminとに基づいて次式により演算する。
【数5】Tm0=(Tmax+Tmin)/2
【0046】これにより、モーター1の回転速度Nmお
よび温度、インバーター4の温度、メインバッテリー6
の温度および充電状態などによってモーター1の調整可
能なトルク範囲が変化しても、トルク制御範囲を正側と
負側にそれぞれ同量ずつ確保することができ、モーター
1の制御性を最大限に活用して制動性能をより安定的に
実現することができる。また、モーター1により制動時
のエネルギーを充分に回収することができ、総合的な燃
費を向上させることができる。
【0047】《ABS作動時のモータートルク目標値T
m0の第4の設定方法》第4の設定方法は、上記第2の設
定方法の所定値Tplusを一定値とせず、予め設定したT
plus1テーブル(後述)を参照してスリップ率μに対応
する所定値Tplus1を求めるとともに、予め設定したT
plus2テーブル(後述)を参照してモータートルク検出
値Tmsと摩擦ブレーキトルク指令値Tfとの和に対応す
る所定値Tplus2を求め、最小トルクTminに(Tplus1
+Tplus2)を加えた値と0との小さい方の値を、車輪
速度Vmが20km/h以上でのモータートルク目標値Tm0
とする。なお、車輪速度Vmが20km/h未満におけるモ
ータートルク目標値Tm0は上記第2の設定方法にしたが
って設定する。
【0048】ここで、Tplus1テーブルは、スリップ率
μが小さくなる、つまり制動による滑りが大きくなるほ
ど、大きい正値を割り当てたテーブルである。また、T
plus2テーブルは、モータートルク検出値Tmsと摩擦ブ
レーキトルク指令値Tfとの和が小さいほど、つまり制
動力が大きいほど、大きい正値を割り当てたテーブルで
ある。なお、モータートルク検出値Tmsは、電流センサ
ー22により測定された三相交流電流iu、iv、iwに
基づいてモーターコントローラー14で検出され、制駆
動力コントローラー18へ送られる。
【0049】上述した第2の設定方法では、図6に示す
ように、モーター1の回転速度Nm(車輪速度Vm)が高
くなるほどモーター1による制動側のトルク制御範囲が
小さくなるため、所定値Tplusの制動力を確保できなく
なる。この第4の設定方法によれば、スリップ率μが小
さくなって車輪のロック傾向が強くなり、滑りが大きく
なるほど所定値Tplus1を大きくするようにしたので、
モーター回転速度Nmが高くなっても制動側のトルク制
御範囲を確保することができ、路面の摩擦係数が大きく
変化するような状況においても、大きな制動力を安定し
て維持することができる。
【0050】また、この実施の形態では、ABS作動時
には、車輪に作用する制動力がグリップ力最大値に一致
するようにモーター1のトルクをフィードバック制御す
るとともに、モーター1のトルクが目標値Tm0に一致す
るように機械式ブレーキトルクをフィードバック制御す
る。したがって、ABS作動時はモータートルクと機械
式ブレーキトルクとの和が制動力、すなわちグリップ力
最大値に比例する。換言すれば、ABS制御時は、モー
タートルクと機械式ブレーキトルクとの和と、モーター
回転速度(または車輪速度)とに基づいてグリップ力最
大値を推定することができる。上述したモータートルク
検出値Tmsと摩擦ブレーキトルク指令値Tfとの和(Tm
s+Tf)はグリップ力に比例するから、この第4の設定
方法では、和(Tms+Tf)が小さい(負値が制動トル
クを表す)ほど、つまり制動力が大きいほど所定値Tpl
us2が大きくなるようにした。路面摩擦係数が小さい状
況から大きい状況となった場合にはグリップ力が大きく
なるため、モーター1のトルクをより制動側に操作して
制動力を増加させる必要がある。このような状況におい
ても、モーター1の制動側のトルク制御範囲を充分に確
保でき、路面摩擦係数の変化に対して制動力を安定に維
持することができる。また、路面摩擦係数が大きい時に
制動側のトルク制御範囲を大きくするので、制動エネル
ギーをより多く回収することができる。
【0051】《ABS作動時のモータートルク目標値T
m0の第5の設定方法》第5の設定方法は、第2の設定方
法における車輪速度Vmの代わりに車体速度Vvを車輪滑
り0を実現する仮想車輪速度Vm’とし、少なくとも仮
想車輪速度Vm’とモーター1の最大入出力パワーに基
づいて、モーター1で調節可能な最大トルクTmax’
(最大駆動トルク)と最小トルクTmin’(最大制動ト
ルク)を求める。そして、例えば仮想車輪速度Vm’が
5km/h以下では、モータートルク目標値Tm0を0とす
る。また、仮想車輪速度Vm’が20km/hを越える場合
には、最小トルクTmin’に所定値Tplus(正値)を加
算した値と0との小さい方の値とする。また、仮想車輪
速度Vm’が5から20km/hまでの間では、5km/hと2
0km/hのモータートルク目標値Tm0を直線で結び、仮想
車輪速度Vm’に対応するモータートルク目標値Tm0を
補間演算する。
【0052】このように、モータートルク目標値Tm0
を、モーター1で調整可能なトルク範囲(最大トルクT
max’〜最小トルクTmin’)内で設定するようにしたの
で、モーター1の回転速度Nmおよび温度、インバータ
ー4の温度、メインバッテリー6の温度および充電状態
などによってモーター1の調整可能なトルク範囲が変化
しても、モータートルク目標値Tm0を常に実現可能なト
ルク制御範囲内に設定することができる。
【0053】また、モータートルク目標値Tm0を、モー
ター回転速度Nmが略0、すなわち仮想車輪速度Vm’=
5km/h以下では0とし、モーター回転速度Nmが0以
外、すなわち、仮想車輪速度Vm’が20km/hを越える
範囲では最小トルク(最大制動トルク)Tmin’に所定
値Tplus(正値)を加算した値と0との小さい方の値と
し、仮想車輪速度Vm’が5km/hから20km/hまでの間
では5km/hと20km/hのモータートルク目標値Tm0を直
線で結び、仮想車輪速度Vm’に対応する値としたの
で、車両の逆走を防止するためにモーター回転速度0近
傍においてモータートルクを0にしても、制動力に段差
が発生せず、スムーズな制動を実現することができる。
【0054】さらに、モータートルク目標値Tm0を、
モーター1で調整可能なトルク範囲(Tmax’〜Tmi
n’)内の0または負の値としたので、モーター1によ
り制動エネルギーを充分に回収することができる。
【0055】さらにまた、モーター回転速度Nmが0以
外の、仮想車輪速度Vm’が20km/hを越える範囲で
は、最小トルク(最大制動トルク)Tmin’に所定値Tp
lusを加算した値と0との小さい方の値をモータートル
ク目標値Tm0としたので、路面摩擦係数が大きくなって
グリップ力が大きくなる状況において、車輪の滑りが0
となってモーター回転速度Nmが高くなっても、モータ
ー1の制動側のトルク制御範囲を少なくとも所定値Tpl
usだけ確保することができ、路面摩擦係数の変化に対し
て制動力を安定に実現することができる。
【0056】《ABS作動時のモータートルク目標値T
m0の第6の設定方法》第6の設定方法は、上記第5の設
定方法で求めた最小トルク(最大制動トルク)Tmin’
に第4の設定方法で説明した所定値Tplus2(正値)を
加算した値と0との小さい方を、仮想車輪速度Vm’が
20km/hを越える場合のモータートルク目標値Tm0とす
る。それ以外は上記第5の設定方法と同様である。な
お、Tplus2テーブルは、上述したように、モータート
ルク検出値Tmsと摩擦ブレーキトルク指令値Tfとの和
が小さいほど、つまり制動力が大きいほど、大きい正値
を割り当てたテーブルである。
【0057】これにより、路面の状況に応じて適切なモ
ーター1の制動側のトルク制御範囲を確保することがで
き、路面の状況が変化しても必要な制動力を安定に実現
することができる。
【0058】また、上述したモータートルク検出値Tms
と摩擦ブレーキトルク指令値Tfとの和(Tms+Tf)が
グリップ力最大値に比例するから、この第6の設定方法
では、和(Tms+Tf)が小さい(負値が制動トルクを
表す)ほど、すなわち制動力が大きいほど所定値Tplus
2が大きくなるようにした。路面摩擦係数が小さい状況
から大きい状況になるとグリップ力が大きくなるため、
モーター1のトルクをより制動側に操作して制動力を増
加させる必要がある。このような状況においても、モー
ター1の制動側のトルク制御範囲を充分に確保でき、路
面摩擦係数の変化に対して制動力を安定に維持すること
ができる。また、路面摩擦係数が大きい時に制動側のト
ルク制御範囲を大きくするので、制動エネルギーをより
多く回収することができる。
【0059】なお、この実施の形態ではモーター1の回
転速度Nm[rpm]と駆動輪3の回転速度とが1:1の関係
にあるので、モータートルク目標値Tm0の設定にモータ
ー1の回転速度Nmの代わりに数式1により求められる
駆動輪3の車輪速度Vmを用いたが、モーター1と駆動
輪3との間に減速機が設置されるような場合には、モー
ター1の回転速度Nmを用いてモータートルク目標値Tm
0を設定してもよい。その場合には、車輪速度Vmの所定
値5km/hと20km/hに対応するモーター回転速度Nm1と
Nm2(>Nm1)を用いる。また、車輪滑り0を実現する
仮想車輪速度Vm’の代わりに、車輪滑り0を実現する
仮想モーター回転速度Nm’を用い、仮想車輪速度5km/
hと20km/hに対応する仮想モーター回転速度Nm’1と
Nm’2(>Nm’1)を用いる。
【0060】この実施の形態では、モーター1に定出力
特性のモーターを採用する。すなわち、図6に示すよう
に、モーター回転速度Nmが基底回転速度(ベーススピ
ード)Nbまでは最大入出力トルクまで使用でき、基底
回転速度Nbを越えたらモーター回転速度Nmの上昇に応
じて最大出力トルクを低減し、最大入力トルクを増加す
る。モーター1で調整可能な最大トルクTmax、Tmax’
(最大駆動トルク)と最小トルクTmin、Tmin’(最大
制動トルク)については、車輪速度Vm、仮想車輪速度
Vm’に比例するモーター回転速度Nm、およびモーター
1の最大入出力パワーのみならず、メインバッテリー6
の入出力可能電力Pbat_in、Pbat_outの増減と、イン
バーター4の温度Tinvの変化による制駆動能力の増減
などを反映させてもよい。すなわち、図6に示すよう
に、バッテリー出力可能電力Pbat_outが大きいほど最
大トルクTmax、Tmax’を増加し、バッテリー入力可能
電力Pbat_inが小さいほど最小トルクTmin、Tmin’
(負値)を増加する。また、インバーター温度Tinvが
高いほど、最大トルクTmax、Tmax’を低減するととも
に、最小トルクTmin、Tmin’(負値)を増加する。
【0061】ふたたび図2に戻り説明を続ける。ステッ
プ8において、モータートルク目標値Tm0を設定したら
目標スリップ率μ0を設定する。目標スリップ率μ0に
は、グリップ力が最大となる例えば−0.2を設定す
る。
【0062】ステップ11で、今回の目標制動力演算処
理がABS作動直後の処理であるか否かを確認し、AB
S作動直後の処理であればステップ12へ進み、そうで
なければステップ12をスキップする。ステップ12で
は、前回の目標制動力演算処理におけるモータートルク
指令値TmをTmzに代入するとともに(図2の制御ブロ
ック18g参照)、前回の目標制動力演算処理における
摩擦ブレーキトルク指令値TfをTfzに代入する(図2
の制御ブロック18m参照)。さらに、フィードフォワ
ード基準値Tff0を、ABS作動直後のモータートルク
目標値Tm0と、ABS作動直前のモータートルク目標値
Tmzとの差分として次式により演算し、以後ABS作動
中はその値を保持する。
【数6】Tff0=Tmz−Tm0
【0063】ステップ13で、この目標制動力演算プロ
グラムを実行するたびに、フィードフォワード基準値T
ff0を所定量ずつ低減して所定時間で0まで減少させ、
モータートルクから摩擦ブレーキトルクへ置き換えるフ
ィードフォワード分の制動トルクTffを求める(図2の
フィードフォワードトルク演算ブロック18f参照)。
続くステップ14で、駆動輪3のスリップ率μが目標ス
リップ率μ0となるようにPIDフィードバック制御
(図2の減算器18aとPID演算ブロック18b参
照)により求めたモータートルク演算値Tmfbと、フィ
ードフォワード分の制動トルクTffとを加算してモータ
ートルク指令値Tmを演算する(図2の加算器18c参
照)。
【数7】Tm=Tmfb+Tff この時、ABS作動直後においてモーター1のトルク指
令値が連続するように、ABS作動直後のみ、駆動輪3
のスリップ率μを目標スリップ率μ0に一致させるため
のPIDフィードバック制御の積分値にモータートルク
目標値Tm0を設定する。
【0064】ステップ15では、モータートルクが(T
m0+Tff)となるようにPIDフィードバック制御(図
2の減算器18iとPID演算ブロック18j参照)に
より求めた値Tffbに、(−Tff−Tm0)を加算して摩
擦ブレーキトルクTfを演算する(図2の加算器18k
参照)。
【数8】Tf=Tffb−Tff−Tm0 ABS作動直後において、摩擦ブレーキのトルク指令値
が連続するように、ABS作動直後のみ、モータートル
クを(Tm0+Tff)に一致させるためのPIDフィード
バック制御の積分値に(Tmz+Tfz)を設定する。
【0065】なお、モータートルク検出値Tmsが(Tm0
+Tff)に一致するようにPIDフィードバック制御を
行う図2の減算器18iとPID演算ブロック18jで
は、フィードバック制御の出力Tffbが正値(駆動トル
ク)となったときはフィードバック制御を停止し、フィ
ードバック制御の出力Tffbを0とするようにフィード
バック制御系の積分要素をリセットする。
【0066】また、摩擦ブレーキトルクのPIDフィー
ドバック制御において、摩擦ブレーキトルク指令値Tf
の値が0以下、つまり駆動力を発生させるような値が演
算された場合には、フィードバック制御の積分値をリセ
ットして摩擦ブレーキトルク指令値Tfを0にする。
【0067】ここで、摩擦ブレーキトルク指令値Tfの
PIDフィードバック制御の応答速度を、PIDゲイン
の設定によりモータートルク指令値TmのPIDフィー
ドバック制御の応答速度より遅く設定しておくと、路面
摩擦の急激な変化によりモータートルクが振動的になる
ような状況においても、両フィードバック制御が互いに
干渉するのを抑制できる。
【0068】また、この実施の形態では時間的に連続し
て変化するフィードフォワードトルクTffを用いて、モ
ーターの制動トルク減少分と摩擦ブレーキトルク増加分
とを相殺するように両制動トルク指令値Tm、Tfを演算
したが、特に両者の指令値に対する制動トルクの応答速
度に違いが見られる場合には、それぞれの応答特性の逆
系(動特性の入力を出力とし、出力を入力とした系)の
近似式を用いて、実際に制動力として及ぼされるモータ
ートルク減少分と摩擦ブレーキトルク増加分とが相殺さ
れるような指令値を求めてもよい。
【0069】なお、ステップ8で、モーター1で調整可
能なトルク範囲(Tmax−Tmin)を求め、そのトルク範
囲が予め設定されているTband(正値)よりも小さい場
合には、モータートルク指令値Tmを0とし、摩擦ブレ
ーキによりスリップ率μが目標スリップ率μ0となるよ
うにフィードバック制御すればよい。
【0070】図7は、一実施の形態によるABS動作を
示すタイムチャートである。この例は、時刻t3まで中
摩擦路を走行し、時刻t3からt4まで低摩擦路を走行
し、時刻t4以後は中摩擦路を走行した場合の結果であ
り、(a)は車体速度Vvの変化を示し、(b)は制動
トルクの変化を示し、(c)はモーターによる制動トル
クの変化を示し、(d)は摩擦ブレーキによる制動トル
クの変化を示し、(e)は車輪のスリップ率を示す。
【0071】時刻t1において運転者がブレーキペダル
を踏み始め、時刻t1からt2において図5に示す制動
トルク配分にしたがってモーターブレーキトルクと摩擦
ブレーキトルクとを配分し、実現している。時刻t2で
は、車輪のスリップ率μがABS作動判定スリップ率μ
th(ここではμth=μ0とする)を下回ったことを検出
し、滑りが大きいと判断してABS作動を判定してい
る。同時に、モータートルク目標値Tm0を生成し始め
る。ここで図示してある生成法は、モーター仮想車輪速
度Vm’から最小トルク(最大制動トルク)Tmin’を演
算した上で、Tmin’に所定値Tplus(正値)を加算し
た値と0との小さい方を目標値とするとともに、車体速
度VvSから車体速度VvEまでの間で連続的に0とする
生成法としてある。さらに、時刻t2においては、モー
タートルクがいち早く目標値に一致するように、Tff0
(時刻t2における目標トルクTm0と実トルクとの差)
だけモータートルクを増やして制動力を弱めるととも
に、Tff0分の制動力低下を補うようにTff0分だけ摩擦
ブレーキトルクを強めている。
【0072】さらに、時刻t2からは、車輪スリップ率
μが目標スリップ率μ0に一致するようにモータートル
クのフィードバック制御を開始するとともに、モーター
トルクTmsがモータートルク目標値Tm0に一致するよう
に摩擦ブレーキトルクのフィードバック制御を開始して
いる。同時に、モータートルク目標値Tm0の減少(制動
トルクを強める向き)に応じた摩擦ブレーキトルクの増
大補正(制動トルクを弱める向き)を開始させている。
ただし、時刻t5〜t6では逆にモータートルク目標値
Tm0の増大(制動トルクを弱める向き)に応じて摩擦ブ
レーキトルクを減少補正(制動トルクを強める向き)さ
せることになる。
【0073】時刻t3で路面摩擦抵抗が下がった直後に
おいては、まずモータートルクが反応してスリップ率を
良好に制御し、その後はモーターのトルク制御範囲を確
保するように摩擦ブレーキトルクが調整される。これに
より、時刻t4で路面摩擦抵抗が復帰した場合にも、モ
ーターのトルク制御範囲が確保されることになり、摩擦
抵抗復帰直後のスリップ率も良好に制御される。
【0074】時刻t5以降では、上述したようにモータ
ートルク目標値Tm0を連続的に0としており、モーター
トルク目標値Tm0の変化速度が速くなっているが、モー
タートルク目標値Tm0の変化に応じて摩擦ブレーキトル
クを補正するので、モータートルクを目標値Tm0に遅れ
なく追従させることができる。
【0075】時刻t7以降では、車体速度がほぼ0に達
し、車輪のスリップ率μの検出精度が低下することから
ABS作動を停止し、モータートルク目標値Tm0を0に
して摩擦ブレーキで制動トルクT0を実現している。こ
の場合、車体速度がほぼ0になっていることから、AB
S作動停止によりたとえ車輪がロックしても制動距離に
与える影響はごくわずかであり、操舵特性にも影響がな
いような車速となるようなタイミングとして設定してい
るので問題はない。
【図面の簡単な説明】
【図1】 一実施の形態の構成を示す図である。
【図2】 一実施の形態の目標制動力演算処理を示す制
御ブロック図である。
【図3】 一実施の形態の目標制動力演算ルーチンを示
すフローチャートである。
【図4】 スリップ率に対する車輪のグリップ力特性を
示す図である。
【図5】 電気式ブレーキと機械式ブレーキのブレーキ
トルク配分を示す図である。
【図6】 モーター回転速度に対するモータートルク制
御範囲と、バッテリー入出力可能電力とインバーター温
度によるモータートルク制御範囲の増減を示す図であ
る。
【図7】 一実施の形態によるABS動作を示すタイム
チャートである。
【符号の説明】
1 モーター 2 車軸 3 駆動輪 4 インバーター 5 DCリンク 6 メインバッテリー 7 ブレーキディスク 8 ブレーキパッド 9 油圧配管 10 ブレーキアクチュエーター 11 バッテリーコントローラー 12 温度センサー 13 SOC検出装置 14 モーターコントローラー 15 回転センサー 16 温度センサー 17 ブレーキコントローラー 18 制駆動力コントローラー 19 アクセルセンサー 20 ブレーキセンサー 21 車速センサー 22 電流センサー
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 村本 逸朗 神奈川県横浜市神奈川区宝町2番地 日産 自動車株式会社内 Fターム(参考) 3D046 BB28 CC02 CC06 HH23 HH36 HH52 JJ06

Claims (12)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】車輪に制駆動トルクを作用させるモーター
    と、 摩擦力により前記車輪に摩擦ブレーキトルクを作用させ
    る機械式ブレーキと、 アンチロックブレーキシステム(以下、ABSと呼ぶ)
    の作動を決定するABS作動決定手段と、 前記車輪のスリップ率μを検出するスリップ率検出手段
    と、 ABS作動決定後に、前記車輪のスリップ率μが目標ス
    リップ率μ0に一致するようにフィードバック制御を行
    い、モータートルク指令値Tmを演算して前記モーター
    の制駆動トルクを制御するモータートルク制御手段と、 前記モーターのトルク制御範囲を正負両側に確保するた
    めのモータートルク目標値Tm0を設定するモータートル
    ク目標値設定手段と、 前記モーターのトルクTmsを検出するトルク検出手段
    と、 ABS作動決定後に、前記モーターのトルク検出値Tms
    が前記モータートルク目標値Tm0に一致するようにフィ
    ードバック制御を行い、摩擦ブレーキトルク指令値Tf
    を演算して前記機械式ブレーキの摩擦ブレーキトルクを
    制御する摩擦ブレーキトルク制御手段とを備えることを
    特徴とする自動車の制動力制御装置。
  2. 【請求項2】請求項1に記載の自動車の制動力制御装置
    において、 前記摩擦ブレーキトルク制御手段のフィードバック制御
    の応答速度を前記モータートルク制御手段のフィードバ
    ック制御の応答速度よりも遅くしたことを特徴とする自
    動車の制動力制御装置。
  3. 【請求項3】請求項1または請求項2に記載の自動車の
    制動力制御装置において、 ABS作動決定前のモータートルク指令値TmとABS
    作動決定後のモータートルク目標値Tm0との差分Tff0
    を演算し、その差分Tff0を所定時間で0まで徐々に低
    減してフィードフォワードトルクTffを演算するフィー
    ドフォワードトルク演算手段を備え、 前記摩擦ブレーキトルク制御手段は、ABS作動決定後
    に、フィードバック制御の出力Tffbからモータートル
    ク目標値Tm0とフィードフォワードトルクTffとを減じ
    て摩擦ブレーキトルク指令値Tfを演算することを特徴
    とする自動車の制動力制御装置。
  4. 【請求項4】請求項1または請求項2に記載の自動車の
    制動力制御装置において、 ABS作動決定前のモータートルク指令値TmとABS
    作動決定後のモータートルク目標値Tm0との差分Tff0
    を演算し、その差分Tff0を所定時間で0まで徐々に低
    減してフィードフォワードトルクTffを演算するフィー
    ドフォワードトルク演算手段を備え、 前記モータートルク制御手段は、ABS作動決定後に、
    フィードバック制御の出力Tmfdにフィードフォワード
    トルクTffを加算してモータートルク指令値Tmを演算
    するとともに、 前記摩擦ブレーキトルク制御手段は、ABS作動決定後
    に、フィードバック制御の出力Tffbからモータートル
    ク目標値Tm0とフィードフォワードトルクTffとを減じ
    て摩擦ブレーキトルク指令値Tfを演算することを特徴
    とする自動車の制動力制御装置。
  5. 【請求項5】請求項1〜4のいずれかの項に記載の自動
    車の制動力制御装置において、 前記モータートルク目標値設定手段は、モータートルク
    目標値Tm0を0または負の値とすることを特徴とする
    自動車の制動力制御装置。
  6. 【請求項6】請求項5に記載の自動車の制動力制御装置
    において、 前記モータートルク目標値設定手段は、モータートルク
    目標値Tm0を0とすることを特徴とする自動車の制動
    力制御装置。
  7. 【請求項7】請求項5に記載の自動車の制動力制御装置
    において、 前記モーターの回転速度Nmを検出するモーター回転速
    度検出手段を備え、 前記モータートルク目標値設定手段は、モーター回転速
    度Nmが所定値Nm1以下の範囲ではモータートルク目標
    値Tm0を0とし、モーター回転速度Nmが所定値Nm2
    (>Nm1)を越える範囲では前記モーターの最小トルク
    Tminに所定値Tplus(>0)を加算した値と0との小
    さい方をモータートルク目標値Tm0に設定し、モーター
    回転速度NmがNm1からNm2までの範囲では、所定値Nm
    1のときのモータートルク目標値Tm0(=0)と所定値
    Nm2のときのモータートルク目標値Tm0とを結んだ値を
    モータートルク目標値Tm0に設定することを特徴とする
    自動車の制動力制御装置。
  8. 【請求項8】請求項5に記載の自動車の制動力制御装置
    において、 前記モータートルク目標値設定手段は、モータートルク
    目標値Tm0を、前記モーターの最大トルクTmaxと最小
    トルクTminとの間の中央値としたことを特徴とする自
    動車の制動力制御装置。
  9. 【請求項9】請求項5に記載の自動車の制動力制御装置
    において、 前記モーターの回転速度Nmを検出するモーター回転速
    度検出手段を備え、 前記モータートルク目標値設定手段は、モーター回転速
    度Nmが所定値Nm1以下の範囲ではモータートルク目標
    値Tm0を0とし、モーター回転速度Nmが所定値Nm2
    (>Nm1)を越える範囲では、スリップ率μに応じて増
    加する値Tplus1と、モータートルク検出値Tmsと摩擦
    ブレーキトルク指令値Tfとの和(Tms+Tf)に応じて
    増加する値Tplus2との和(Tplus1+Tplus2)を前記
    モーターの最小トルクTminに加算した値(Tplus1+T
    plus2+Tmin)と、0との小さい方をモータートルク目
    標値Tm0に設定し、モーター回転速度NmがNm1からNm
    2までの範囲では、所定値Nm1のときのモータートルク
    目標値Tm0(=0)と所定値Nm2のときのモータートル
    ク目標値Tm0とを結んだ値をモータートルク目標値Tm0
    に設定することを特徴とする自動車の制動力制御装置。
  10. 【請求項10】請求項7に記載の自動車の制動力制御装
    置において、 モーター回転速度Nmの代わりに前記車輪の滑り0を実
    現する仮想モーター回転速度Nm’を用いることを特徴
    とする自動車の制動力制御装置。
  11. 【請求項11】請求項10に記載の自動車の制動力制御
    装置において、 前記モータートルク目標値設定手段は、仮想モーター回
    転速度Nm’が所定値Nm’1以下の範囲ではモータート
    ルク目標値Tm0を0とし、仮想モーター回転速度Nm’
    が所定値Nm’2(>Nm’1)を越える範囲では、モータ
    ートルク検出値Tmsと摩擦ブレーキトルク指令値Tfと
    の和(Tms+Tf)に応じて増加する値Tplus2を前記モ
    ーターの最小トルクTminに加算した値と0との小さい
    方をモータートルク目標値Tm0に設定し、仮想モーター
    回転速度Nm’がNm’1からNm’2までの範囲では、所
    定値Nm’1のときのモータートルク目標値Tm0(=0)
    と所定値Nm’2のときのモータートルク目標値Tm0とを
    結んだ値をモータートルク目標値Tm0に設定することを
    特徴とする自動車の制動力制御装置。
  12. 【請求項12】請求項1〜11のいずれかの項に記載の
    自動車の制動力制御装置において、 前記摩擦ブレーキトルク制御手段は、前記モーターのト
    ルク検出値Tmsを前記モータートルク目標値Tm0に一致
    させるフィードバック制御の出力Tffbが駆動トルクに
    なったときはフィードバック制御を停止し、フィードバ
    ック制御の出力Tffbを0にするようにフィードバック
    制御系の積分要素をリセットすることを特徴とする自動
    車の制動力制御装置。
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