JP2001032017A - 高周波焼入れ装置 - Google Patents

高周波焼入れ装置

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JP2001032017A
JP2001032017A JP11209513A JP20951399A JP2001032017A JP 2001032017 A JP2001032017 A JP 2001032017A JP 11209513 A JP11209513 A JP 11209513A JP 20951399 A JP20951399 A JP 20951399A JP 2001032017 A JP2001032017 A JP 2001032017A
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Japan
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heating
cooling liquid
induction hardening
cooling
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JP11209513A
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Masahiro Nishio
匡弘 西尾
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Toyota Motor Corp
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Toyota Motor Corp
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    • Y02PCLIMATE CHANGE MITIGATION TECHNOLOGIES IN THE PRODUCTION OR PROCESSING OF GOODS
    • Y02P10/00Technologies related to metal processing
    • Y02P10/25Process efficiency

Abstract

(57)【要約】 【課題】効率良く確実に高周波焼入れを行える高周波焼
入れ装置を提供することを目的とする。 【解決手段】高周波電流を加熱コイルに流してワークを
加熱する高周波誘導加熱部と、冷却液を噴射してその加
熱されたワークを冷却する冷却液噴射部を備える高周波
焼入れ装置において、加熱中若しくは加熱後の該ワーク
に飛散してくる該冷却液の飛沫を遮蔽する遮蔽手段を設
けたことを特徴とする高周波焼入れ装置。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、効率良く確実に高
周波焼入れを行える高周波焼入れ装置に関するものであ
る。
【0002】
【従来の技術】小型軽量、高寿命等が求められる部品に
は、種々の表面硬化が為されることが多い。高周波焼入
れもその一方策であるが、他の焼入れ方法と比較して次
のような優れた特徴を持つことから広く利用されていて
る。
【0003】機械的性質の面から観ると、高周波焼入れ
後の部材は表面硬さが高く、耐摩耗性に優れ、表面層の
圧縮残留応力が大きいので耐疲労性にも優れる。高周波
誘導加熱により、短時間に所定の焼入れ温度まで昇温さ
れることから熱処理後の組織も微細で延性、靱性に富
み、優れた機械的性質を示す。しかも、部材の一部分の
みを表面改質することができ、熱歪みが少なく素材の性
質を有効に引出すことが容易である。
【0004】また工程面から観ると、高周波誘導加熱に
よる表皮効果によりワーク全体を加熱する必要がなく、
熱効率に優れ、昇温も迅速であり、作業時間が短くて済
む。また省エネルギー、省力化によるコスト削減が図れ
る。また、熱処理後の表面は酸化スケールも少ないから
きれいであり、後工程を省略できるので好都合である。
更に、高周波誘導加熱コイルに加える周波数や出力等の
変更が容易であり、加熱コイルや冷却システム等を適宜
組合わせることができるから、システム設計の自由度が
大きい。
【0005】このように高周波焼入れは数々の優れた特
徴を持つから広範囲の分野で多用されており、種々の高
周波焼入れ装置が提案さている。高周波焼入れ装置を大
別すると、一発焼入れ用の高周波焼入れ装置や移動焼入
れ用の高周波焼入れ装置がある。
【0006】一発焼入れ用の高周波焼入れ装置は、ワー
クに対して加熱コイルを相対移動させずに、ワークの焼
入れ必要箇所を一気に加熱し、その後、その加熱部に冷
却液等を噴射して急冷するものである。この場合は、次
々とワークを取替えて高周波焼入れを行う必要がある。
【0007】移動焼入れ用の高周波焼入れ装置は、ワー
クに対して加熱コイルが相対移動し、焼入れの必要なワ
ークの部分が連続的に加熱され、その後その加熱された
部分に冷却液等を噴射して急冷するものである。なお、
一発焼入れや移動焼入れの何れの場合でも、冷却ジャケ
ットと加熱コイルとが一体に設けられていることもあれ
ば、別体で設けられていることもある。
【0008】ここで、量産製品を高周波焼入れする場合
を考えると、自動化やインライン化に適し、生産効率を
一層向上させることができる移動焼入れ装置がよく用い
られる。このため、この種の装置に関する提案は数多く
為されている。例えば、焼歪みや焼割れ等を改善する高
周波焼入れ装置が、特開平5−132712号公報や特
開平7−41846号公報等に開示されている。
【0009】また、高周波焼入れ後の表面層の脱炭を防
止すべく、不活性ガス若しくは還元ガスをワークの表面
に僅かに噴射しつつ無酸化の高周波移動焼入れを行う装
置が特開平11−21619号公報に開示されている。
この装置を図8に示す。
【0010】この装置は、ワーク500をハウジング5
50で囲っていることから、ワーク500の加熱部分を
還元ガス若しくは不活性ガス雰囲気にして高周波焼入れ
をすることが目的である。そして、漏れを考慮したガス
の噴射量が重要な管理若しくは制御項目となっている。
また、ガスをワーク500に向けて噴射することで、よ
り少ない噴射量でワークの表面を不活性ガス等で覆って
いる。但し、この装置では噴出ガスによって冷却(冷却
液の噴射)が妨げられないように、ガスの噴射圧を冷却
液の噴射圧より十分小さくしている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】ここで、高周波焼入れ
のためには加熱後に急冷する必要があるから、何れの高
周波焼入れ装置も、加熱コイルを備える高周波誘導加熱
部と冷却液を噴射してワークの加熱部を冷却する冷却液
噴射部とを有している。そして、それらは比較的近づけ
て設けられている。それら両者を近づければ近づける
程、加熱から冷却への移行時間が短くでき、生産性の向
上が図れ、また装置のコンパクト化のためにも望ましい
と考えられる。
【0012】ところが、従来の装置では、高周波誘導加
熱部と冷却液噴射部との距離が大きく設定されていた
り、冷却液の噴射角を加熱コイルと反対方向に大きくと
られていたりした。
【0013】本発明者はこの点に着目し、先ず従来の装
置が何故そのような構成を採用していたのかを解明すべ
く鋭意努力を重ねた。この結果、次のことが解った。す
なわち、従来の高周波焼入れ装置において、その両者を
近づけ過ぎると、巻込まれた冷却液が加熱中若しくは加
熱後のワークにかかり、不要な冷却がなされてしまう。
その結果、本来必要となるワークの昇温や急冷が妨げら
れることになる、ということを本発明者は突止めたので
ある。従って、従来の高周波焼入れ装置では、この不具
合を回避するために、ワークの加熱から冷却に至る移行
区間を長くしていたのであった。
【0014】しかも、従来の装置ではそのように移行区
間を長くとっているにも拘らず、冷却液が加熱中若しく
は加熱後のワークにかかり、その移行区間中にワークの
温度が少なからず低下するため、その分を見込んで高周
波誘導加熱を行わなければならなかった。このため、加
熱時間の長期化や加熱温度の上昇を生じて、生産性及び
熱効率の観点から好ましくないことも解った。しかも、
長期間の加熱や加熱温度の上昇は組織の粗大化を招き、
高周波焼入れの特徴自体を損いかねない。
【0015】さらに、本発明者が研究を進めた結果、従
来の装置では確実に高周波焼入れできる鉄鋼材料には制
限のあることも解った。これは次のように考えられる。
【0016】鉄鋼材料では含有炭素量(C:重量%)に
よりAc3 点(加熱時におけるオーステナイト単相域と
オーステナイト+フェライトの2相域との境界温度)、
Ms点(マルテンサイト変態の開始温度)、Mf点(マ
ルテンサイト変態の終了温度)がそれぞれ異なり、更に
は、C.C.T.線図(連続冷却変態曲線図)における
臨界冷却速度も異なる。特に、低炭素鋼であるほど、A
3 点やMs点が上昇し、臨界冷却速度も速くなるか
ら、低炭素鋼を十分にマルテンサイト変態させて高強度
化を図るには、組織の粗大化を招かぬように素早く加熱
すると共に、C.C.T.線図上のフェライトやパーラ
イトの曲線と交差しないように素早く冷却する必要があ
る。
【0017】ところが、従来の高周波焼入れ装置では移
行区間が長くなり、しかもその間で冷却液の飛散による
降温や徐冷が生じる結果、鉄鋼材料の含有炭素量が少な
くなるほど高周波焼入れを行うことが困難になる。この
ため、従来の高周波焼入れ装置では高周波焼入れできる
鉄鋼材料に制限があり、低炭素鋼等を確実に高周波焼入
れすることは実質的に不可能であった。
【0018】本発明の高周波焼入れ装置は、このような
事情に鑑みて為されたものであり、生産効率、熱効率等
を向上させることができ、ワークの含有炭素量に拘ら
ず、組織の粗大化を招かずに十分に焼きを入れることが
できると共に、装置のコンパクト化も図れる高周波焼入
れ装置を提供することを目的とする。
【0019】
【課題を解決するための手段】そこで、本発明者はこの
問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明をする
に至ったものであり、ワークを短期間に十分加熱できる
と共に、十分に急冷が行えるようるにすべく、加熱中若
しくは加熱後のワークに冷却液が飛散しないように、遮
蔽手段を設けることを思いついたものである。
【0020】すなわち、本発明の高周波焼入れ装置は、
高周波電流を加熱コイルに流してワークを加熱する高周
波誘導加熱部と、冷却液を噴射してその加熱されたワー
クを冷却する冷却液噴射部とを備える高周波焼入れ装置
において、加熱中若しくは加熱後の該ワークに飛散して
くる該冷却液の飛沫を遮蔽する遮蔽手段を設けたことを
特徴とする。
【0021】高周波焼入れ装置は、先ず高周波誘導加熱
部にある加熱コイルに高周波電流を流して交番磁界を起
し、その中に載置された伝導性を有するワークの表面近
傍に渦電流を誘起させ(表皮効果)、その渦電流のオー
ム損(渦電流損)によりワークを自己発熱させ、さらに
ワークが磁性体であるときにはヒステリシス損による自
己発熱もさせる。そして、少なくともワークをA1変態
点(共析変態点)以上に昇温させ、一部または全部をオ
ーステナイト相に変態させてから、冷却液噴射部により
そのワークに冷却液を噴射してMs点以下に冷却して、
マルテンサイト変態を起させるものである。
【0022】このとき本発明の高周波焼入れ装置では、
加熱中若しくは加熱後の該ワークに飛散してくる該冷却
液の飛沫を遮蔽する遮蔽手段を設けてあるから、噴射さ
れた冷却液の飛沫が加熱中若しくは冷却直前のワークに
かかることを有効に抑制できる。この結果、ワークを長
時間加熱したり必要以上に高温に加熱する必要がなく、
熱効率が良く、省エネルギーを達成できる。また昇温時
間が短かくて済むから生産性が向上する。また、加熱時
間が短いから組織の粗大化を抑制で、ワークの組織の微
細化を図れる。
【0023】また、遮蔽手段を設けることにより、高周
波誘導加熱部によるワークの昇温後、冷却液噴射部によ
る冷却に移行するまでの間に、ワークの実質的な降温が
なくなり、冷却液噴射部においてワークの十分な冷却速
度を確保できる。これにより、フェライトやパーライト
等への変態を起さずに、ワークに十分なマルテンサイト
変態を起させることができ、所望の硬度をもつワークを
得ることができる。
【0024】勿論、ワークの種類によっては、部分的に
若しくは全体的にパーライトやベイナイト組織を得るこ
とが好ましい場合もあるので、そのときは冷却液噴射部
で冷却液の種類、噴射角度及び時間等を適宜選択して冷
却速度を調整すれば良い。
【0025】このように、本発明の高周波焼入れ装置に
よれば、高周波誘導加熱中若しくはその後のワークへの
不要な冷却液の飛散等を防止若しくは抑制できるので、
熱効率、生産性、ワークの機械的性質の向上が図れる。
【0026】また、従来の装置では、ワークの昇温を確
保するために、ワークの進行方向に対する冷却液の噴射
角をある角度(例えば、45°)以上に大きくすること
が難しかった。しかし、本発明の高周波焼入れ装置は、
遮蔽手段を設けることによりそのような制限はなくな
り、冷却液の噴射角をそれ以上の角度にできるのは勿論
のこと、その噴射角を90°にすることもでき、ワーク
の昇温を確保しつつ、ワークの加熱から冷却への移行区
間をより短くすることができる。
【0027】また従来の装置は、冷却液の飛散をより抑
制するために、ワークの移動方向を鉛直方向にとり、上
方でワークを加熱後、下方で冷却液を噴射して冷却を行
うことも多かった。そのような高周波焼入れ装置では自
由度が大きく損われ、ワークの寸法や形状が限定された
り、高周波焼入れ装置の大型化を招き、また、高周波焼
入れ後の次工程への移行も難しく、生産上好ましくなか
った。
【0028】そこで、遮蔽手段を備える本発明の高周波
焼入れ装置によれば、冷却液の飛散による焼入れへの影
響を積極的に抑制でき、ワークの移動方向に制限がな
く、高周波焼入れ装置の設計の自由度を遙かに大きく取
れ、また後工程も含めた生産性の一層の向上が望める。
【0029】さらには、本発明の高周波焼入れ装置が遮
蔽手段を備えることにより、冷却液噴射部を高周波誘導
加熱部に十分近接させることができ、高周波誘導加熱及
びその後の冷却が短時間で終えられ、高周波焼入れ全体
に係る時間も大幅に短縮できる。またそれら両者を近接
できることから装置のコンパクト化も図れる。
【0030】
【発明の実施の形態】ここで、本発明の遮蔽手段には種
々のものが考えられるが、例えば、以下のようにすると
好適である。
【0031】先ず、その遮蔽手段は、圧縮空気源と圧縮
空気を噴出させるノズルとを有する遮蔽空気手段である
と好適である。遮蔽空気手段は、圧縮空気源とノズルと
を有し、その圧縮空気源から供給される圧縮空気をその
ノズルからワークに噴出して、飛散する冷却液が加熱中
若しくはその後のワーク側に越境するのを防止若しくは
抑制するものである。これにより、短時間でワークを昇
温若しくは急冷させることができ、組織の微細化等を得
ることができる。
【0032】遮蔽空気手段が空気を媒体としていること
により、どのような断面形状のワークでも冷却液の飛沫
を漏すことなく対応できる。特に、断面形状が変化する
ワークを移動焼入れする場合に、冷却液の飛沫を確実に
かつ連続的に遮蔽できるので非常に好都合である。
【0033】また、遮蔽空気手段は空気を媒体としてい
ることから、コスト的にも、設備的にも好ましいもので
ある。例えば、工場に本発明の高周波焼入れ装置を設置
する場合を考えれば、各所に導かれているエア配管から
容易に圧縮空気を得ることができ、これを圧縮空気源と
することができる。勿論、高周波焼入れ装置ごとに、別
途エアコンプレッサー等を設けて、所望圧力の圧縮空気
を得る圧縮空気源としても良い。
【0034】この圧縮空気源からの圧縮空気の圧力は、
本目的を達成し、冷却液噴射部での冷却を妨げるもので
ない限り特に限定されるものではないが、現実的には
0.1〜1MPa程度が好ましい。
【0035】あまり低いと、冷却液の飛散を抑制する能
力が低下し、あまりにも高いと、空気を圧縮する負荷が
大きく、設備的に大型化し、コスト的にも好ましくない
からである。特に、工場のエア配管を圧縮空気源とする
ような場合は、0.2〜0.5MPa程度とすると、特
別な装置をあまり必要とせずに圧縮空気を得ることがで
き、一層好ましい。
【0036】このように、空気を利用して遮蔽手段を構
成するのがより好ましいが、本発明の遮蔽手段自体は、
空気に限られるものではない。例えば、不活性ガス(ア
ルゴンガス等)、還元ガス(一酸化炭素と窒素の混合ガ
ス等)でも、遮蔽手段としの利用は可能である。なお、
一般にガスは熱伝達率が低く、極短時間に焼入れが終る
ことから、空気等を遮蔽手段に利用しても、それによる
冷却は殆どなく、冷却液による冷却に実質的に影響を与
えるものではない。
【0037】遮蔽空気手段のノズルには種々の形状が考
えられ、単数のみではなく複数でも良いし、断面形状も
円形状に限らず方形状でも、多角形状でも良い。又、空
気の噴出方向が適切であればノズルの位置、向き、方向
等は何れでも良い。例えば、ワークの表面に沿って空気
を噴出して冷却液の飛沫を遮蔽しているような場合に
は、ノズル自体は空気の噴出方向(流れる方向)に垂直
でも良い。
【0038】具体例として、指向性を持った細いパイプ
を適宜並べてノズルとすることができる。圧縮空気源の
空気圧がほぼ一定で固定的な場合には、そのパイプの内
径、長さ及び数を調整することにより噴射圧、流量の調
整が容易にできるので好ましい。例えば、内径φ1〜2
mmのパイプで圧縮空気源側の圧力が0.2〜0.5M
Paのとき、流300〜600l/min(パイプ16
本当り)を得る。なお、可撓性のある細いパイプ(フレ
キシブルパイプ等)を利用すると、圧縮空気の噴射角の
微調整も容易であり、好ましい。
【0039】また、遮蔽空気手段のノズルは、スリット
状の噴出口を有すると好適である。ノズルがスリット状
の噴出口を有すると、そこから噴出される圧縮空気は空
気層を形成する。これにより、飛散する冷却液が加熱中
若しくはその後のワーク側に越境するのを防止若しくは
抑制することができる。また、空気層の幅の調整はスリ
ット幅により容易に調整できるので、冷却液の噴射圧
力、噴射量、噴射角等により適宜選択すれば良い。従っ
て、スリット状の噴出口の幅は特に限定されるものでは
ない。
【0040】ただ、空気層若しくはスリットの幅を1〜
2mmとするのが現実的にはより好ましい。あまり薄す
ぎると、空気層が巧く形成されなかったり、飛散した冷
却液がその空気層を通り抜け、加熱されたワーク側に越
境することもあり得るので好ましくない。一方、あまり
にも厚すぎると、移行区間が長くなり生産性の低下をも
たらしたり、圧縮空気源の大型化や高周波焼入れ装置自
体の大型化を招き好ましくない。
【0041】スリット状の噴出口の形状は、ワークの形
状に応じて適宜選択するのが好ましい。例えば、鋼板の
ように平面的なものであれば、直線状でも良いし、軸等
の円柱若しくは円筒状のものであれば、円環状の噴出口
とすると良い。また、スリット状の噴射口は単数でも良
いし複数でも良い。例えば、一連の長いスリット状でも
良いし、複数のパイプの先端部分をスリット状(長孔
状)に加工して直線上若しくは円環状に単列若しくは複
列並べるのも良い。
【0042】また、ノズルは、複数の小穴を配列させた
噴出口を有するものでも良い。例えば、圧縮空気を蓄積
するノズルの筐体(アキュムレータ等)に小径のドリル
で複数の小穴を適宜搾設することで、複数の小穴を配列
させた噴出口が容易に得られる。なお、これまで述べて
きた遮蔽手段では、その設ける位置は特に限定されるも
のではなく、ワークの移動方向に沿って、高周波誘導加
熱部の前方に設けて冷却液噴射部側に圧縮空気を噴出す
るものでも良いし、ワークの移動方向に対して側面に設
けて、圧縮空気をワークの進行方向に直角方向に噴出す
るものでも良い。また、本発明の目的に沿う限りにおい
て、ノズルから噴出された空気がワーク表面を覆うよう
に、層状に流れるようにしても良い。
【0043】また、遮蔽空気手段のノズルは、前記高周
波誘導加熱部と前記冷却液噴射部との間に設けられてい
ると、一層好適である。ノズルを高周波誘導加熱部と冷
却液噴射部との間に設けると、そのノズルから噴出され
る空気により高周波誘導加熱部と冷却液噴射部との境界
を形成し、加熱中若しくはその直後のワークへの冷却液
の飛散を効率よく確実に抑制できる。また、このように
ノズルを配置することにより、飛散した冷却液の抑制若
しくは防止に必要な部分にのみ空気を噴射することがで
きる。従って、必要な空気流量を絞ることができ、空気
の噴射に要するエネルギーを低減でき、また装置のコン
パクト化にもなる。さらに、ノズルを高周波誘導加熱部
と冷却液噴射部との間に設けると、空気層の幅を一層薄
くすることが容易であり、ワークの加熱から冷却への移
行区間が一層短くなるから、十分な冷却速度が得られ、
また短時間で高周波焼入れを行えるから生産性が向上す
る。また、装置のコンパクト化も図れる。
【0044】なお、何れのノズルにおいても空気の噴射
角は、特に限定されるものではなく、加熱中若しくはそ
の後のワークへの冷却液の飛散を抑制若しくは防止でき
るものであれば種々の角度を取り得る。例えば、ノズル
を高周波誘導加熱部と冷却液噴射部との間に設けたよう
な場合には、ワークに対して垂直方向にノズルの先端を
向けても良いし、ワークの進行方向にある程度傾斜させ
ても良い。傾斜させるときには、冷却液の噴射角に応じ
て空気の噴射角を適宜決めるのが好ましい。例えば、冷
却液の噴射角をθwとすると、空気の噴射角θa=θw
90°となるようにノズルの角度を調整するのも良い。
【0045】その他上述のようなもの以外に、本発明の
遮蔽手段は、高周波誘導加熱部と冷却液噴射部との間に
設けた仕切板としても良い。仕切板を設けることで、加
熱中若しくは加熱後のワークに飛散した冷却液がかかる
のを直接的に回避できる。仕切板の角度は冷却液の噴射
角に合わせて、噴射された冷却液に沿うように設けると
好適である。仕切板を伝って落ちる冷却液が加熱された
ワークを不用意に冷却することがなく、ワークの昇温や
急冷の妨げとならないからである。
【0046】仕切板は、高周波誘導加熱部と冷却液噴射
部とをより接近させるため及び装置のコンパクト化のた
めに薄板が好ましい。薄板の材質は、耐熱性があり、か
つ低透磁率で電気抵抗の高いものが良い。高周波誘導加
熱の影響をできる限り回避するためである。なお、仕切
板がワークの移動の妨げとならないようにすると共にワ
ークとの隙間から冷却液が進入しないようにするのが望
ましいから、仕切板をワークの形状に対応させると良
い。特に、断面形状がほぼ一定のワーク、例えば径の変
化が少ないシャフト等にこの仕切板を利用すると好適で
ある。 (高周波焼入れ装置の実施形態)以下に具体的な実施形
態等を示しつつ、本発明を詳細に説明する。 (1)第1実施形態 本発明の第1実施形態である高周波焼入れ装置100を
図1に示す。高周波焼入れ装置100は大観して、ワー
ク10を高周波誘導加熱する高周波誘導加熱部120
と、加熱されたワーク10に冷却液を噴射して急冷する
冷却液噴射部130と、冷却液噴射部130から飛散し
た冷却液の飛沫がワーク10にかかるのを防止するため
の遮蔽空気手段150とを主要な構成としている。 高周波誘導加熱部 高周波誘導加熱部120は、高周波電源121と、加熱
コイル122、冷却水循環機124を備える。
【0047】高周波電源121には、電動発電機式発振
器、電子管式発振器、サイリスタインバータ式発振器な
どがあるが、ここではトランジスタインバータ式発振器
を用いた。より高い周波数(400kHz)、出力(3
0kW級)、変換効率(90%)が得られ、省エネルギ
ーで低コストであり、小型軽量で振動がなく、作業環境
も良好に保てるからである。
【0048】加熱コイル122は、ワーク10の形状に
応じて、種々の形を取り得るが、本実施形態ではワーク
10の平面部の高周波焼入れを例に取上げたので、縦方
向(図1の紙面に垂直方向)に長いロの字型(長方形)
をした一重コイルとした。この加熱コイル122は銅管
で形成されている。銅を用いたのは、電気抵抗を小さく
して、加熱コイル122自体の自己発熱を抑えるためで
ある。しかし、それでも加熱コイル122には大電流が
流れ自己発熱するので、加熱コイル122が溶損しない
ように、加熱コイル122の銅管内部に冷却水を通して
冷却した。
【0049】この冷却水は、冷却水循環機124により
常時循環されている。冷却水循環機124は、ウォータ
ーポンプと熱交換機を備えるもので、熱交換機により冷
された冷却水をウォーターポンプにより、加熱コイル1
22の銅管内部に圧送している。 冷却液噴射部 冷却液噴射部130は、冷却液供給源131と、冷却液
噴射ノズル133とを備える。なお、本実施形態では、
高周波誘導加熱後の冷却速度を高めるために、冷却液と
して焼入水を用いたが、冷却速度の調整を望むときは焼
入油等を用いても良い。
【0050】冷却液供給源131は、ウォータータンク
とウォーターポンプとを備え、ウォーターポンプは、ウ
ォータータンクから冷却液噴射ノズル133に焼入水を
圧送している。焼入水の供給圧は約0.3MPaで、流
量は流量調整バルブにより5〜30l/minの範囲で
調整できる。また、冷却液噴射ノズル133から噴射さ
れた焼入水は、ワーク10を冷却後ウォータータンクに
回収される。
【0051】冷却液噴射ノズル133は、供給口132
と噴出口134を備え、縦方向(図1の紙面に垂直方
向)に長い方形筒状となっている。冷却液供給源131
から冷却液噴射ノズル133の供給口132に供給され
た焼入水は、内部を通って噴出口134からワーク10
に向けて噴射される。噴出口134は、ワーク10と噴
射される焼入水とのなす角度(噴射角)θ=60°とな
るよう、紙面右上方に傾斜した面に設けられた多数の細
かな孔からなる。
【0052】なお、従来の高周波焼入れ装置では、後述
の遮蔽空気手段150を設けずに焼入水の飛沫による影
響を抑制しようとしていたので、噴射角θを、例えば4
5度より大きくすることができなかった。 遮蔽空気手段 遮蔽空気手段150は、本発明の遮蔽手段の一態様であ
り、圧縮空気源151と、空気噴射ノズル153とを備
える。
【0053】圧縮空気源151は、エアコンプレッサー
で加圧された空気を供給するものであるが、本実施形態
では特別設けずに、工場に配設してあるエア配管を利用
できるようにし、そこから圧縮空気を供給することとし
た。このとき供給空気圧は約0.2〜0.5MPaであ
が、空気の噴射圧は調圧バルブにより0〜0.5MPa
の範囲で調整可能である。
【0054】空気噴射ノズル153は、供給口152と
噴出口154とを備え、縦方向(図1の紙面に垂直方
向)に長い方形筒状となっている。圧縮空気源151か
ら供給口152に供給された空気は、空気噴射ノズル1
53の内部を通り噴出口154からワーク10に向けて
噴射される。噴出口154は、先端が絞られたスリット
状になっており、圧縮空気は縦方向に所定厚の空気層を
形成するように噴射される。本実施形態では、スリット
幅を0〜3mmで調整可能とした。また、その噴射角度
を本実施形態ではワーク10に垂直としたが、冷却液の
噴射の妨げとならない範囲でその角度を冷却液の噴射角
θに近づけても良い。 移動手段と位置関係 本実施形態の高周波焼入れ装置100は、移動焼入れを
行うものであることから、高周波焼入れ装置100とワ
ーク10とを相対移動させる必要がある。本実施形態で
は、高周波焼入れ装置100を紙面左方向(図1に示す
矢印の方向)に移動させることとした。
【0055】移動手段は、天井等に設けられたレールに
沿ってモータ駆動により高周波焼入れ装置100自体を
移動させても良いし、ロボットのアームの先端に高周波
焼入れ装置100を取付けて、ロボットのアームを移動
させても良い。ワーク10が大物である場合に、部分的
に高周波焼入れを行いたいときには、高周波焼入れ装置
100自体を移動させる方が好ましい。逆にワーク10
が小物の場合は、ワーク10を移動させるのも良い。本
実施形態では、より複雑な断面形状をしたワーク10に
も対応できるように、ロボットのアームにその高周波焼
入れ装置100を取付けて移動させることとした。
【0056】次に、高周波誘導加熱部120と冷却液噴
射部130と遮蔽空気手段150との位置関係について
述べる。移動焼入れを行うことから、移動方向前方に高
周波誘導加熱部120があり、後方に冷却液噴射部13
0があるのは従来通りである。本実施形態の高周波焼入
れ装置100では、さらにそれらの間に遮蔽空気手段1
50を設けた。具体的には、加熱コイル122と冷却液
噴射ノズル133の噴出口134との間に空気噴射ノズ
ル153の噴出口154を設けたものである。
【0057】このため、噴出口154とワーク10との
間に空気層が形成され、この空気層が遮蔽壁の役割を果
し、噴出口134から噴射された冷却液がワーク10の
前方(加熱コイル122側)に飛散してきても、冷却液
の飛沫をワーク10の加熱部11には通さずに、はじき
飛ばすか若しくはワーク10の冷却部12に誘導する。
従って、ワーク10の加熱部11において、冷却液の飛
沫により、昇温が妨げられることがなくなる。 (2)第2実施形態 本発明の第2実施形態である高周波焼入れ装置200を
図2に示す。高周波焼入れ装置200は、高周波焼入れ
装置100と基本構造を同じとするが、遮蔽空気手段2
50が第1実施形態の遮蔽空気手段150と異なる。従
って、この部分に着目して以下説明する。
【0058】遮蔽空気手段250は、圧縮空気源251
から圧縮空気が空気噴射ノズル253の供給口252に
供給され、空気噴射ノズル253の内部を通って噴出口
254より空気が噴射されるところまでは、第1実施形
態の遮蔽空気手段150と同様である。
【0059】ところが、遮蔽空気手段250の空気噴射
ノズル253は加熱コイル222の進行方向前方に設け
られ、空気噴射ノズル253は、細管が縦方向(図1の
紙面に垂直方向)に多数並べられて構成されている。細
管の先端はワーク10の冷却部12に向けられており、
それらの先端から噴出した空気の一部は直接にワーク1
0の冷却部12に達し、残りの空気はワーク10の加熱
部11の表面に沿って流れ冷却部12へと達する。
【0060】これにより、ワーク10の加熱部11は空
気層で覆われることになり、冷却液の飛沫がその加熱部
11にかかるのを防ぐ。また、一部の空気は直接にワー
ク10の冷却部12に達するから、冷却液の飛沫は進行
方向後方に押しやられ、ワーク10の加熱部11への飛
散を妨げる。従って、冷却液の飛散によりワーク10の
昇温が妨げられることがなくなる。 (3)冷却液の飛散 先ず、効果的な高周波焼入れを行うためには、十分に
高い加熱温度と十分に早い冷却速度とを必要とする。加
熱温度が低いと、完全にオーステナイト変態せず、また
冷却速度が遅いと、完全にマルテンサイト変態しない。
何れが欠けても、効果的な高周波焼入れは行えない。特
に、低炭素鋼になるほど、高い加熱温度と早い冷却速度
とが要求される。例えば、C:0.17重量%の低炭素
鋼をほぼ完全なマルテンサイト組織とするには、加熱温
度が950℃以上で、冷却速度が1500℃/sec以
上であることが必要とされる。 従来の遮蔽手段をもたない高周波焼入れ装置では、実
験による試行錯誤の結果、加熱温度と冷却速度とを両立
させるため、冷却液の噴射角θ=45°としていた。4
5°よりもθを大きくすると、冷却液の飛散により十分
な加熱が行えず高い加熱温度が得られなかった。具体的
にはAC3点以上の温度に加熱できなかった。また、45
°よりもθを小さくすると冷却液の飛散により、噴射さ
れた冷却液により急冷される前に徐冷されてしまい、十
分な冷却速度が得られなかった。例えば、θ=35°と
すると、冷却速度を1200℃/sec以上にすること
ができなかった。このような事情から、従来の高周波焼
入れ装置では、冷却液の噴射角θ=45°を一応の目安
としていた。しかも、この加熱温度と冷却速度との制限
により、従来の高周波焼入れ装置では、低炭素鋼を十分
に焼入れすることは困難であった。 そこで、本発明の高周波焼入れ装置がこれらの課題を
如何に解決し、従来困難であった低炭素鋼でも高周波焼
入れを行うことができるようになったかを、図を用いて
以下に説明する。図3及び図4は、冷却液噴射部から噴
射された冷却液がワークの加熱区間や移行区間(加熱か
ら冷却へ移行する区間)に飛散する様子をイメージ的に
描いたものである。
【0061】図3は、本発明の第1実施形態である高周
波焼入れ装置における冷却液の飛散の様子であり、図4
は従来の高周波焼入れ装置におけるものである。図4に
示す従来の高周波焼入れ装置では、冷却液の飛沫が加熱
区間にできるだけ飛散しないように冷却液の噴射角θ=
45°としてある。ところが、加熱区間への冷却液の飛
散を抑制できても、移行区間にあるワークへ冷却液が飛
散するため、冷却区間での急冷前にワークが冷されてし
まい、必ずしも十分な冷却速度を得ることができないこ
とが解る。また、移行区間が長くなるから高周波焼入れ
に要する時間が伸び生産性が低下するし、装置のコンパ
クト化も図れない。
【0062】これに対し、図3の本発明の第1実施形態
である高周波焼入れ装置では、加熱区間と冷却区間との
間の移行区間に遮蔽手段である空気層ができるので、そ
の空気層が加熱区間と冷却区間との間の境界層となり、
冷却液の飛沫が冷却区間側に追いやられて加熱区間にあ
るワークまでは飛散しない。また、移行区間及びその前
後付近では、ワークの表面に空気層ができており、冷却
液の飛沫が加熱区間や移行区間にあるワークに直接飛散
することがなく、加熱区間や移行区間でワークが冷却さ
れることもない。従って、加熱区間で短時間に十分な加
熱ができると共に、その後の移行区間においてもワーク
が冷却されることがなく、十分に速い冷却速度を得るこ
とができる。
【0063】しかも、図3の高周波焼入れ装置では冷却
液の飛沫を空気層により積極的に遮蔽しているから、従
来のように冷却液の噴射角θに制限がなく、例えば図3
に示すように冷却液の噴射角θ=60°とすることもで
きる。従って、移行区間の短縮により生産性の向上が図
れるし、高周波焼入れ装置自体のコンパクト化も達成で
きる。 (4)その他 加熱コイル 第1及び第2実施形態では、加熱コイルは単層であった
が、交番磁束密度を高めるために複層としても良い。ま
た、形状も円形状や円筒形状等種々考えられる。また、
それらの実施形態では加熱コイルにコアを設けなかった
が、局所的に高周波焼入れを行うような場合には、珪素
綱、パーマロイ(Ni−Fe系合金)、フェライト等透
磁率の高い材質でできたコアを適宜設けるのも良い。 移動手段 上述の実施形態では、ワークが相対的に水平方向に移動
する場合のみを取上げたが、ワークの種類や形状に応じ
て、ワークが相対下降する場合や相対回転する場合でも
良い。
【0064】
【実施例】(高周波焼入れ試験) (1)供試材 本発明の高周波焼入れ装置による効果を確認すべく、含
有炭素量0.089重量%の低炭素鋼板(JIS規格:
SPH370)を供試材として使用した。その形状は、
縦250mm×横30mm×厚さ2.9mmの長方形の
板状であった。なお、本発明の高周波焼入れ装置の優れ
た性能を確認するために、敢て、高周波焼入れが容易な
高炭素鋼を使用せずに、高周波焼入れが困難な低炭素鋼
を供試材として使用した。 (2)試験条件 ここでは、第1実施形態の装置を使用して高周波焼入れ
を行った。 加熱条件 高周波誘導加熱に際し、ワーク10の加熱温度を100
0〜1100℃とし、ワーク10の内部全体を焼入れす
ることを狙った。そして、加熱コイル122に流す高周
波電流の周波数f=400kHZ、一次側出力30kW
(一次電圧250V、一次電流120A)とした。ま
た、高周波焼入れ装置100の移動速度は10mm/
s、加熱コイル122とワーク10との距離は3mmと
した。 冷却条件 冷却液噴射ノズル133から噴射される焼入水(冷却
液)は、水温25℃であった。また、ワーク10の冷却
部12全体が均一に冷却されるように焼入水を噴射し
た。 遮蔽空気条件 空気噴射ノズル253から噴射される空気は、空気圧
0.3MPa、流量400l/min、気温20℃とし
た。また、空気層の厚みを2〜3mmとした。 (試験結果及び評価)本発明の高周波焼入れ装置100
を用いて、上記の供試材に上記の試験条件の下で高周波
焼入れを行った。以下、これを実施例(冷却液の噴射角
θ=60°)と呼ぶこととする。
【0065】次に、高周波焼入れ装置100から遮蔽空
気手段150を取り去り、冷却液の噴射角をθ=45°
とθ=60°とに変えた2種類の従来の高周波焼入れ装
置を用意した。これらを用いて、上記の供試材に上記の
加熱条件、冷却条件の下で高周波焼入れを行った。以
下、これらを第1比較例(冷却液の噴射角θ=60
°)、第2比較例(冷却液の噴射角θ=45°)と呼ぶ
こととする。
【0066】これらの実施例、第1比較例および第2比
較例について、高周波焼入れの際の温度履歴及び冷却速
度を測定し、評価した。 (1)温度履歴 高周波焼入れに際し、実施例、第1比較例および第2比
較例の加熱から冷却に至るまでの温度と時間との関係
(温度履歴)をグラフにしたものを図5に示す。このグ
ラフの横軸は時間(sec)であり、縦軸は温度(℃)
である。なお、ここでの温度は熱電対を用いて測定し
た。 実施例と第1比較例との比較 実施例の場合、加熱温度(焼入れ温度)1000℃で、
そこから冷却に移行するまでの移行時間は0.17秒で
あった。一方、第1比較例の場合、加熱温度1000℃
で、そこから冷却に移行するまでの移行時間は0.3秒
であった。このことから、本発明の高周波焼入れ装置を
用いると、加熱温度を維持したまま、加熱から冷却に至
るまでの移行時間を2/3〜1/2に短縮でき、より大
きな冷却速度が得られることが解る。 実施例と第2比較例との比較 第2比較例の場合、加熱温度850℃で、そこから冷却
に移行するまでの移行時間は0.17秒であった。これ
と前述の実施例とを比較すると、加熱から冷却に至るま
での移行時間は等しいものの、実施例は第2比較例より
加熱温度が150℃程度高くなっている。このことか
ら、本発明の高周波焼入れ装置を用いると、移行時間を
短くしつつ、より高温に加熱できることが解る。
【0067】従って、実施例では十分に高い加熱温度
と、十分に早い冷却速度が得られることになる。つま
り、実施例では、Ac3点を完全に越えて組織全体がオ
ーステナイト変態を生じた後に、十分な速度で急冷され
るために、完全なマルテンサイト組織が得られることに
なる。しかもそのときの加熱保持時間が短いから、実施
例の組織は成長せずに微細に保たれる。
【0068】なお、ここで述べた移行時間とは、加熱完
了から噴射された冷却液により急冷が始るまでの時間を
意味し、この移行時間中にワークは放熱、伝熱および冷
却液の飛散等により徐冷されることもある。 (2)冷却速度 実施例と第1比較例および第2比較例とについて、加熱
から冷却にいたる変化の様子(冷却速度)を示すC.
C.T.線図を図6に示す。図6(a)は実施例と第1
比較例とのC.C.T.線図であり、図6(b)は第2
比較例のC.C.T.線図である。なお、これらの縦軸
は温度(℃)で、横軸は時間(sec)であるが、横軸
は対数目盛とした。
【0069】第1比較例の場合、1000℃からマルテ
ンサイト変態点(Ms点)までの冷却に0.5秒かかっ
ているのに対し、実施例の場合、1000℃からマルテ
ンサイト変態点(Ms点)までの冷却に0.3秒と非常
に冷却速度が速いのが解る。
【0070】第1比較例の場合、冷却速度が臨界冷却速
度1000℃/sec近傍であるため、高周波焼入れが
必ずしも十分に行なわれず、一部にマルテンサイト以外
の組織を含むこともあり得る。これに対し、実施例の場
合、冷却速度が十分に速いため(1650℃/sec以
上)、完全なマルテンサイト組織を得ることができる。
【0071】なお、図6においてA:オーステナイト、
F:フェライト、P:パーライト、B:ベイナイト、
M:マルテンサイトの各組織を指し、Ac1 :加熱時の
1変態点(723℃)、Ac3:加熱時のA3変態点
(920℃)、Ms:マルテンサイト開始温度(500
℃)である。 (3)硬度 実施例と第1比較例とに関して、高周波焼入れ後のビッ
カス硬さを比較したものを図7に示した。第1比較例で
は200〜300HVであるのに対し、実施例では30
0〜350HVであった。このように実施例と第1比較
例とは、100HV程度の差を生じている。このことか
らも、本発明の高周波焼入れ装置を用いた実施例は、十
分に焼きが入っており、殆ど完全にマルテンサイト組織
に変態していることが解る。なお、この硬さはビッカス
硬さ計を用いて、各供試材の表面の硬さを測定したもの
である。 (その他)本発明の高周波焼入れ装置の評価に、低炭素
鋼である供試材を使用したが、高炭素鋼の高周波焼入れ
にも本発明の高周波焼入れ装置を利用できることはいう
までもない。
【0072】ただ、本発明の高周波焼入れ装置は低炭素
鋼の高周波焼入れにも適することから、例えば、成形後
のプレス製品等に本発明の高周波焼入れ装置を用いて高
周波焼入れを行うと、板圧やプレス荷重を大きくするこ
となく、その一部若しくは全部の強度を上げることがで
きて非常に有効である。具体的には、ステーや自動車の
ボディ、シャーシ部品等に利用できる。
【0073】
【発明の効果】本発明の高周波焼入れ装置は、高周波誘
導加熱部と冷却液噴射部の他に遮蔽手段を備えることか
ら、加熱中若しくは加熱後冷却前のワークに、噴射され
た冷却液の飛沫が飛散することを回避できる。このた
め、十分な加熱温度と十分な冷却速度が得られ、種々の
材料に対して高周波焼入れを行うことができる。また、
加熱時間が短いから、ワークの組織は微細に保たれ、高
周波焼入れ後の機械的性質も良好である。さらに、高周
波焼入れを短時間で行えるから生産性も向上する。
【0074】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態の高周波焼入れ装置を示
す図である。
【図2】本発明の第2実施形態の高周波焼入れ装置を示
す図である。
【図3】本発明の高周波焼入れ装置により冷却液の飛沫
が遮蔽されているイメージ図である。
【図4】従来の高周波焼入れ装置において冷却液が飛散
している様子を示すイメージ図である。
【図5】本発明の高周波焼入れ装置による実施例と従来
の高周波焼入れ装置による比較例との温度履歴を示すグ
ラフである。
【図6】本発明の高周波焼入れ装置と従来の高周波焼入
れ装置を用いた場合の実施例と第1比較例および第2比
較例とに関するC.C.T.線図上であり、実施例と第
1比較例とについては図6(a)に、第2比較例につい
ては図6(b)にそれぞれ示した。
【図7】本発明の高周波焼入れ装置と従来の高周波焼入
れ装置を用いたときの供試材のビッカス硬さを示した図
である。
【図8】従来技術にかかる高周波焼入れ装置を示す断面
図である。
【符号の説明】
10 ワーク 120 高周波誘導加熱部 130 冷却液噴射部 150 遮蔽空気手段 122 加熱コイル

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】高周波電流を加熱コイルに流してワークを
    加熱する高周波誘導加熱部と、冷却液を噴射してその加
    熱されたワークを冷却する冷却液噴射部とを備える高周
    波焼入れ装置において、 加熱中若しくは加熱後の該ワークに飛散してくる該冷却
    液の飛沫を遮蔽する遮蔽手段を設けたことを特徴とする
    高周波焼入れ装置。
  2. 【請求項2】前記遮蔽手段は、圧縮空気源と圧縮空気を
    噴出させるノズルとを有する遮蔽空気手段である請求項
    1記載の高周波焼入れ装置。
  3. 【請求項3】前記ノズルは、スリット状の噴出口若しく
    は複数の小穴を配列させた噴出口を有する請求項2記載
    の高周波焼入れ装置。
  4. 【請求項4】前記ノズルは、前記高周波誘導加熱部と前
    記冷却液噴射部との間に設けられている請求項2に記載
    の高周波焼入れ装置。
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