【発明の詳細な説明】
分枝ポリマーの製造
本発明は分子量調節剤の存在下にビニル芳香族モノマーから分枝ポリマーを製
造する方法に関する。
重合方法で分子量調節剤又は直鎖移動剤を用いることは周知である。典型的に
はアルカンチオールが用いられているが、これらは不快な臭気をもつと共に、広
い重量平均分子量(Mw)分布をもたらす傾向にあり、またテレケリック(te
lechelic)ポリマー又はリビングポリマーの製造には有効ではない。
Delacretaz等のUS−A−3,271,375には2−メチル−イ
ンドール等の分子量調節剤の存在下に極性モノマーを重合するフリーラジカル重
合法が開示されている。しかしこの方法では実質上線状の低分子量ポリマーが生
成する。
またRizzardo等のUS−A−5,385,996には、α−(t−ブ
タンチオメチル)スチレン等の式CH2=C(Y)Rをもつ分子量調節剤を用い
て付加−フラグメント化機構を介して軽微に分枝したポリマーを製造することが
開示されている。しかしこのRizzardo等の方法で用いている分子量調節
剤は低活性であり、低レベルの分枝が生起しそして高レベルの未反応の分子量調
節剤が最終ポリマー生成物を汚染する。
また分枝ポリマーは、従来、US−A−4,376,847に記載されている
ような、n−ブチル−t−ブチルパーオキシフマレート等のビニル官能性開始剤
の存在下に、ビニル芳香族モノマーを重合して製造されている。しかしこの方法
では重合の全過程で分枝が起こりゲル生成の原因となる。ゲルは連続操作が長く
続いた後に生成する傾向があり、またCummings等のUS−A−5,45
5,321で論じられているように反応器の汚染をもたらす。
それ故、ゲルの生成なしに、高レベルの分枝をもたらしまたテレケリックポリ
マー又はリビングポリマーの生成を可能とする、ビニル芳香族モノマーからの高
分子量分枝ポリマーの効率的な製造法の提供が依然として強く望まれている。
本発明はビニル芳香族モノマーを式R1CH2(R”)C=CHR'''、ここで
R1は脱離性基であり、そしてR”とR'''はそれぞれ活性化基である、をもつ分
子量調節剤の存在下に重合させることを特徴とする分枝ポリマーを製造するため
のフリーラジカル重合方法である。
この方法はエクステンショナルレオロジー、溶融強度及び粘度の点で線状ポリ
マーより優れた特性をもつ高分子量の分枝ポリマーをもたらす。
本発明で用いるに適するビニル芳香族モノマーの非制限的な例としてはUS−
A−4,666,987、US−A−4,572,819及びUS−A−4,5
85,825に記載されているもの等の、重合法で用いることが知られているビ
ニル芳香族モノマー類がある。
好ましいモノマーは式:
ここでR1は水素又はメチルであり、Arは1〜3個の芳香環をもつ芳香環構
造であり、芳香環はアルキル、ハロ又はハロアルキル置換基をもっていてもよい
。
上記においてアルキル基は1〜6個の炭素原子をもつものであり、ハロアルキル
とはハロゲン置換アルキル基をいう。好ましくは、Arはフェニル又はアルキル
フェニルであり、ここでアルキルフェニルとはアルキル置換フェニル基をいう。
フェニルが最も好ましい。用いうる典型的なビニル芳香族モノマーの例としては
スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンの全異性体、特にパラビニルト
ルエン、エチルスチレンの全異性体、プロピルスチレン、ビニルビフェニル、ビ
ニルナフタレン、ビニルアンスラセン及びそれらの混合物がある。ビニル芳香族
モノマーは他の共重合性モノマーと組合せて用いることもできる。これらのモノ
マーの非制限的な例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタク
リル酸、メチルメタクリレート、アクリル酸及びメチルアクリレート等のアクリ
ルモノマー;マレイミド、フェニルマレイミド及び無水マレイン酸がある。また
重合を予め溶解させたエラストマーの存在下に行って衝撃改質、又はグラフトゴ
ム含有生成物を得ることもできる。これらの例はUS−A−3,123,655
、US−A−3,346,520、US−A−3,639,522及びUS−A
−
4,409,369に記載されている。
本発明の方法で用いる分子量調節剤は式R1CH2(R”)C=CHR'''、こ
こでR1は脱離性基であり、R”とR'''は各々活性化基である。脱離性基は該化
合物の2重結合とポリマーラジカルが反応してポリマーから分裂される基と定義
される。脱離性基はまた分裂が起こり次第重合を開始することができるものであ
るべきである。一般に、R1はCl、Br、I又はX(R4)n等の基から選ばれ
る。ここでXは周期律表のIV、V、VI又はVII族から選ばれる炭素以外の元素又
は1以上の酸素原子が付いたIV、V又はVI族から選ばれる元素からなる基であり
、nは0〜3の数であってXの原子価を満足するものであり、nが1より大きい
ときR4で示される基は同一でも異なっていてもよく、R4は所望によりアルキル
、アルケニル又はアルキニル基によって置換していてもよく、又は所望により置
換した飽和、不飽和又は芳香族炭素環状又はヘテロ環状環であってもよい。「所
望により置換」とはこれらの基がこの化合物の分子量調節能又は脱離性基の重合
開始能に悪い影響を与えないような他の置換基を含有しうることをいう。
Xとして適する元素は周期律表のIV、V、VI又はVII族の適宜の元素から選ば
れる。Xとしての典型的ではあるが非制限的な元素としては1以上の酸素原子が
結合しているIV、V又はVI族から選ばれる元素を含む基がある。これらの基の典
型的且つ非制限的な例としてはホスホネート、スルホキシド、スルホン及びホス
フィンオキシドがある。
アルキル基は典型的には1〜20、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜
10、最も好ましくは1〜8の炭素原子を有する。アルケニル及びアルキニル基
は典型的には2〜20、好ましくは2〜15、より好ましくは2〜10、最も好
ましくは2〜8の炭素原子を有する。飽和、不飽和炭素環状又はヘテロ環状環は
典型的には3〜14、好ましくは3〜12、より好ましくは3〜10、最も好ま
しくは3〜6の炭素原子を有する。芳香族炭素環状環は典型的には6〜10、好
ましくは6〜8、最も好ましくは6の炭素原子を有する。
R”又はR'''の活性化基は結合点が、アルケニル、シアノ、カルボキシル又
はアリール基におけるような、不飽和又は芳香族の炭素原子である基として定義
される。換言すれば、ビニルに直結している炭素がビニル基を活性化させるため
に不飽和である必要がある。
本発明方法で用いる典型的な分子量調節剤の非制限的な例には式:
ここでR1は前記定義のとおりであり;R2とR3は、同一又は異なり、OH、
NH2、OR、NHR又はNR2(但しRは所望によりアルキル又はアリールで置
換している)から選ばれる;及び/又は
ここでR1は前記定義のとおりであり、ZはO、N−H、N−アルキル、N−
アリール又はN−アラルキルである、で示される1以上の化合物がある。
アリールは芳香族炭化水素をいい、典型的には1〜6の環、好ましくは1〜5
の環、より好ましくは1〜3の環、最も好ましくは1又は2の環をもつ、ここで
環は前記の定義のとおりである。所望により置換したアルキル又はアリールとは
脱離基のポリマー開始能に悪影響を与えないアルキル又はアリール基上に存在し
うる他の置換基の可能性を意味する。アラルキルとは前記に定義したアルキル基
中の1の水素がアリール基で置換している基をいう。
好ましい態様において、分子量調節剤は式IIにおいてR1がBrでZがOであ
る化合物である。
この種の分子量調節剤は公知のいくつかの方法で製造しうる。たとえばイタコ
ン酸無水物を臭素と反応させ、そしてChem.Lett.(4)541−54
4頁(1986)に記載されているように、脱ハロゲン化水素に無水ブロモシト
ラコン酸を生成させる。また所望の位置にメチル基をもつシトラコン酸エステル
をフリーラジカル付加によってハロゲン化させることもできる。ハロゲンで占め
られた位置に他のヌクレオフィルを得るためにハロゲン置換又は交換の公知の方
法を用いることもできる。
本発明では上記の分子量調節剤と共に開始剤を用いうる。好ましい開始剤の例
としてはビニル芳香族モノマーの重合を促進するパーオキシド及びアゾ化合物の
ようなフリーラジカル開始剤がある。好ましい開始剤の非制限的な例としてはt
−ブチルヒドロパーオキシド、ジ−tert−ブチルパーオキシド、クメンヒド
ロパーオキシド、ジクミルパーオキシド、1,1−ビス(tert−ブチルパー
オキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシベン
ゾエート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、ベンゾイル
パーオキシド、サクシノイルパーオキシド及びt−ブチルパーオキシピバレート
、及びアゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチル−バレロニト
リル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスメチルイソラクテート
及びアゾビスシアノバレレート等のアゾ化合物がある。本発明で用いうる典型量
は当該分野で周知のものであり、開始剤の合計量が少なくとも75,000のM
wをもつポリマーを生成するに足る量である。
本発明の方法は溶媒の存在下にも行いうる。本発明方法に好ましい溶媒の非制
限的な例にはエチルベンゼン、ベンゼン及びトルエンがある。
本発明方法では潤滑剤、酸化防止剤、可塑剤、難燃剤、光安定剤、着色剤、繊
維強化剤、フィラー等の他の添加剤も用いうる。
ビニル芳香族モノマーの重合方法及び条件は当該分野で周知であり、それを本
発明でも用いうる。いずれの重合方法も用いうるが典型的なのはUS−A−2,
727,884及びUS−A−3,639,372に記載されているような連続
塊状又は溶液重合である。この重合は典型的には80〜170℃、好ましくは9
0〜160℃、より好ましくは100〜150℃、最も好ましくは110〜15
0℃の温度で行われる。
ビニル芳香族モノマーは重合の初期段階又はそれより前に分子量調節剤と合体
させうる。典型的には重合前のモノマー供給物に分子量調節剤を加える。
ビニル芳香族モノマーに加える分子量調節剤の量は、ビニル芳香族モノマーと
分子量調節剤の合計量に対し、典型的には0.01〜2重量%、好ましくは0.
01〜1、より好ましくは0.05〜1、最も好ましくは0.05〜0.5重量
%である。
重合は所望の転化率を達成するよう十分な時間行われる。要する時間は重合温
度、開始剤の量及び分子量調節剤の量に依存する。典型的には、重合は、1〜2
0時間、好ましくは1.5〜10時間、より好ましくは2〜8時間、最も好まし
くは2.5〜6時間行われる。
本発明の1の態様は前記の方法で製造した高分子量の分枝ポリマーに関する。
本発明の方法で生成したポリマーのMwは目的生成物に応じ広範囲でかわりうる
。通常Mwはゲル透過クロマトグラフィー(CTPC)で測定して75,000
〜800,000であり、典型的には90,000以上、好ましくは100,0
00以上、より好ましくは150,000以上、最も好ましくは200,000
以上、また700,000以下、好ましくは600,000以下、より好ましく
は550,000以下、最も好ましくは500,000以下である。
本発明方法で生成するポリマーは発泡体ボード、発泡体シート及び射出成形品
及び押出成形品として有用である。
次の実施例は本発明を例証するものである。これらの例は本発明を制限するも
のではない。量は特に断りのない限り重量部で示す。
ブロモシトラコン酸無水物の製造:
クロロホルム120mlに無水イタコン酸30.31g(0.27モル)をと
かした溶液を、クロロホルム30mlに臭素45.03g(0.28モル)をと
かした溶液を30分かけて添加しつつ還流、攪拌した。この混合物をさらに3.
5時間還流、攪拌し25℃に冷却した。次いで減圧下ロータリーエバポレータを
用いてクロロホルムを除去した。白色固体が形成し、これを濾過し、15mlの
クロロホルムで洗い、真空デシケータ中で乾燥して53.2gの2−ブロモ−2
−(ブロモメチル)コハク酸無水物を得た。
2−ブロモ−2−(ブロモメチル)コハク酸無水物24.03g(0.091
モル)を25℃に保った50mlの無水ジエチルエーテルにとかした。この溶液
を1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド20.61g(0.1モル)を50
mlのジエチルエーテルにとかした溶液を1時間かけて滴加しつつ攪拌した。生
成溶液を25℃で12時間攪拌した。溶媒を減圧下ロータリーエバポレータで除
去し褐色油状物を得た。これを溶離液としてヘキサン−クロロホルム(1:4)
を用いたシリカゲル上でのフラッシュクロマトグラフィーにかけα−ブロモシト
ラコン酸無水物12.5gを得た。
例I:
スチレン(2ml)とα−ブロモシトラコン酸無水物の0.01モル溶液を3
/8×12インチのガラスアンプル10個中に入れた。これらのアンプルを真空
シールし140℃・油浴に置いた。種々の間隔にて油浴から1のアンプルを取り
出し、スチレンの転化率%と分子量をGPCを用いて測定した。結果を表1に示
す。
例II(比較):
分子量調節剤としてn−ドデシルメルカプタンを0.1モルの濃度で用いて例
1の方法を繰り返した。結果を表1に示す。
例III(比較):
分子量調節剤としてメチル−2−(ブロモメチル)アクリレートを0.1モル
の濃度で用いて例1の方法を繰り返した。結果を表1に示す。
表IV(比較):
分子量調節剤を用いることなく例1の方法を繰り返した(対照)。結果を表1
に示す。 BrCitAn=α−ブロモシトラコン酸無水物
NDM=n−ドデシルメルカプタン
BrMMA=メチル−2(ブロモメチル)アクリレート
対照=分子量調節剤不添加
* 比較例
BrCitAnを用いる重合では重合の極めて初期段階の間に低Mnのポリマ
ー(即ち<10%のモノマー転化率で)を生成したが、その後は比較例よりも急
速にMwが上昇し、高分子量でより高い分枝度のポリマーを生成した。
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