【発明の詳細な説明】
細胞の腫瘍抑制因子の状態を決定するための方法および構成物
発明の分野
本発明は、癌、特に癌細胞の腫瘍抑制因子の状態を前提にして腫瘍を診断し、
治療することに関する。本発明は、癌の診断および治療のために有意に用いられ
るだろう。
発明の背景
種々の癌は、少なくとも部分的にはプロトオンコジーンというある正常遺伝子
の変異によって誘引されることが、ここ最近知られている。プロトオンコジーン
は、正常な細胞増殖を制御することに関係しており、現在その制御が分子レベル
で解明され始めている。変異したプロトオンコジーン、すなわちオンコジーンと
いう癌原因遺伝子は、正常な細胞増殖を破壊して、もし癌が発見されず治療が間
に合わなかった場合、最終的には個体の死をもたらす。
正常細胞または癌細胞の増殖において、各々プロトオンコジーンまたはオンコ
ジーンは、正常細胞または癌細胞の増殖を制御する、または制御しようとする増
殖制御タンパク質と平衡を取っている。この様なタンパク質は、腫瘍抑制因子タ
ンパク質と呼ばれている。この様なタンパク質がいくつか知られている。
いくつかのヒト癌においては、p53という腫瘍抑制因子タンパク質をコードし
ている遺伝子に突然変異が頻繁に発生している。そしてp53の不活性化が、ある
種の癌の発生および進行の原因であると考えられている(Nigro et al.,1989,Nat
ure342,705-708)。この例には、ヒト結腸癌(Barker et al.,1989,Science 244,2
17-221)、ヒ
ト肺癌(Takahashi et al.,1989,Science 246,491-494;Iggo et al.,1990,Lancet
335,675-679)、慢性骨髄性白血病(Kelman et al.,1989,Proc.Natl.Acad.Sci.US
A 86,6738-6787)および骨肉腫(Madusda et al.,1987,Proc.Natl.Acad.Sci.USA
84,7716-7719)がある。p53を発現している腫瘍細胞は、ほとんどまたは全くp53
を発現していない腫瘍細胞に比べると、放射線治療に対して感受性が高い。よっ
て腫瘍におけるp53の状態の情報は、内科医にとって、最適な治療法を選択する
場合に、実際上有意に助けとなる。
腫瘍発生におけるp53の役割を支持する強い実験的証拠があるにもかかわらず
、現在、哺乳類細胞において野生型または変異型p53の存在を決定するために用
いる方法は、少しあるだけである。広く用いられているひとつの方法は、時間が
かかるが、p53遺伝子のDNA配列を決定することである。この方法の限界は、p53
の正常なDNA配列が存在することが、必ずしも正確に、測定した細胞に機能的なp
53タンパク質が存在することを意味しないことである。なぜなら、p53タンパク
質が、内在する細胞性またはウイルス性タンパク質に結合することによって、p5
3の機能が抑制されることがあるからである(Momand,J.et al.1992,Cell 69,1237
-1245;Oliner,J.D.et al.1992,Nature358,80-83)。さらにこの方法は、実行の費
用が高く、そして時間がかかる。
野生型または変異型p53の存在を決定するための別の方法は、この2つの型のp
53を区別する抗体を用いることである。しかし、この方法にもいくつかの制限が
ある。1番目には、p53タンパク質に発生する突然変異の多くは、点突然変異で
あり、これらの全ての変異を限られた数の抗体を用いて区別することはできない
。2番目には、p53は、ヒト癌において最も普通に変異が起きるタンパク質とし
て同定されているので、異なる全ての変異型p53を検出するため
に必要な抗体の数は、非常に多くなるだろう。すなわちこの方法は、実際的では
なく費用が高い。3番目には、前記のDNA配列決定による方法と同様に、その特
性から、p53抗体は細胞ライセートに用いられる。これを生細胞に用いることは
できない。
細胞内のp53を決定する他の方法は、次の特許出願に示されている。EPA 51865
0(発明者Vogelstein,B.et al)には、p53が結合する特異的DNA配列を用いて、
細胞抽出液内のp53を検出する方法が記載されている。
WO 94/l1533には、GADD45という遺伝子がコードするmRNAまたはタンパク質を
測定することによって、細胞内の機能的なp53の存在を決定することが記載され
ている。GADD45とは、増殖停止およびDNA損傷誘発性遺伝子(growth-arrest and
DNA-damage inducible gene)の頭文字を取ったものである。
現在用いられている全てのp53の測定方法は、完了するのに数日を要すること
、そしてインビボで行うことができないこと、に注意することは重要である。す
なわち、これらの方法を、外科的な生検および腫瘍細胞の溶解なしに実行するこ
とはできない。
腫瘍抑制因子タンパク質が細胞増殖を制御する働きをしているという研究の重
要性、そしてこの欠失が悪性の表現型を確立することに関係していることを示す
研究が考慮されて、腫瘍抑制因子を欠失している癌細胞にこれを戻す方法が開発
された。最も研究されている方法は、ウイルスベクターを用いて、癌細胞に適当
な腫瘍抑制因子遺伝子を分配することに集中している。おそらく、最も研究され
ているベクターは、アデノウイルスのものである。部分的にはこの研究から、ア
デノウイルスの遺伝的特性、およびこのウイルスの組換え体を作成する方法に関
してかなり多くの情報が集まっている。例えば、Horwitz,M.S.,Adenovirus and
their Replication,In:Fi
eld,B.N.and Knipe,D.M.eds.,Fundamental Virology,2nd ed.New York,N.Y.,Rav
en Press.Ltd.771-813(1991);Jolly,D.,Cancer Gene Therapy,vol.l,51-64(1994
)を参照すること。
Mittal et al.,Virus Research,vol.28,67-90(1993)には、アデノウイルスタ
イプ5−ルシフェラーゼ組換え体が示されている。これは、アデノウイルス5の
ゲノムの初期領域3内に、サルウイルス40(simian virus 40,SV40)の制御配列が
連結されたホタルのルシフェラーゼ遺伝子を挿入したものである。
Quantin et al.,Proc.Natk.Acad.Sci.USA 89,2581-2584(1992)には、筋特異的
制御配列の制御下にリポーター遺伝子としてβガラクトシダーゼを含んでいるア
デノウイルスの組換え体が開示されている。この組換え体は、筋管においてイン
ビボで、βガラクトシダーゼの発現を指令する。
Akrigg,A.,et al.,PCT/GB92/01195には、標的の真核細胞においてトランス作
用性の遺伝子機能を検出する際に用いる、アデノウイルスの組換え体が開示され
ている。
前記の通り、最近、腫瘍抑制因子タンパク質p53が、放射線またはある種の化
学療法剤によって誘導される腫瘍細胞死すなわちアポトーシスの原因として、中
心的な役割を果たしていることが示唆されている。Low et al.,Cell 74,957-967
(1993)を参照すること。従って、現在使われている測定法の限界を有さないp53
の測定法が望まれている。特に、腫瘍細胞のp53の状態をインビボで診断する方
法、または腫瘍生検試料においてp53をより迅速に測定する方法があれば、内科
医にとって、患者の腫瘍を除去するために最も効果的な方法を選択する場合、大
いに助けになるであろう。
発明の要約
本発明の第1の目的は、患者の腫瘍細胞において腫瘍抑制因子タンパク質の状
態を、迅速に、好ましくはインビボで決定する方法を記載することである。この
方法は、1番目および2番目のポリヌクレオチド配列を腫瘍細胞と接触させ、腫
瘍細胞に取り込ませることを含んでいる。1番目のポリヌクレオチド配列は、リ
ポーター分子をコードしており、腫瘍抑制因子と結合する配列である2番目のポ
リヌクレオチド配列に作用可能に連結されている。腫瘍抑制因子の結合は、リポ
ーター遺伝子の発現を誘導し、それが検出または定量される。
本発明の2番目の目的は、患者の腫瘍細胞において腫瘍抑制因子タンパク質p5
3の状態をインビボで決定する方法を記載することである。この方法は、1番目
および2番目のポリヌクレオチド配列を腫瘍細胞と接触させ、腫瘍細胞に取り込
ませることを含んでいる。1番目のポリヌクレオチド配列は、リポーター分子を
コードしており、p53と結合する2番目のポリヌクレオチド配列に作用可能に連
結されている。p53が2番目のポリヌクレオチド配列に結合することによって、
リポーター遺伝子の発現が誘導され、それが検出または定量される。
本発明の3番目の目的は、複製能を欠失したビリオンを用いて、1番目および
2番目のポリヌクレオチド配列を腫瘍細胞と接触させる、上記の最初の段落に記
載した方法を記載することである。
本発明の4番目の目的は、患者の腫瘍において腫瘍抑制因子タンパク質、好ま
しくは腫瘍抑制因子p53の状態を決定する、上記の2番目の段落に記載した方法
において使用する構成物で、複製能を欠失したアデノウイルスを含んでいる構成
物を記載することである。
本発明の5番目の目的は、脂質複合体を用いて、ポリヌクレオチド配列を脂質
内に封入するか、または脂質に結合させるか、好まし
くはリポソーム内に封入することによって1番目および2番目のポリヌクレオチ
ド配列を腫瘍細胞と接触させる、上記の最初の段落に記載した方法において用い
る構成物を記載することである。
本発明の6番目の目的は、他の診断方法、例えば磁気共鳴画像診断、組織学、
および癌専門医が通常用いる既存の他の方法と併用して、患者の腫瘍の腫瘍抑制
因子の状態、好ましくは腫瘍抑制因子p53の状態を決定するための方法および構
成物を記載することである。
本発明の7番目の目的は、患者の腫瘍の腫瘍抑制因子の状態、好ましくは頭部
および頚部腫瘍の腫瘍抑制因子p53の状態を決定するための方法および構成物で
、上記の段落で示した1番目のヌクレオチド配列が、リポーター遺伝子としてグ
リーン蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein,GFP)をコードする、方法お
よび構成物を記載することである。
本発明のこれらの目的および他の目的は、以下の開示を十分に考慮することで
明白になると思われる。
図の簡単な説明
図1は、ベクターpGFP-1を示す。このベクターには、グリーン蛍光タンパク質
をコードする配列の上流に、マルチクローニングサイト(multiple cloning site
,MCS)があり、下流に、哺乳類細胞において効率的にポリアデニル化してGFPの
発現を促進するSV40のポリアデニル化(Poly A)シグナルがある。
図2は、ベクターpGFP-1のマルチクローニングサイトの制限部位を示す。
図3は、ベクターp53-GFP1-TATAを示す。このベクターは、pGFP1-TATAベクタ
ーに、前記のp53結合性DNA配列を挿入して得られる
。この配列のコンカテマー(鎖状態)は、p53依存的なGFP発現を促進する。
図4は、ベクターpΔE1sp1AまたはpΔE1sp1Bを示す。
図5は、ベクターp53-GFPΔE1を示す。
本発明の詳細な記載
ここに記載した参考、例えば科学文献、および特許または特許出願を、引用に
よって本明細書に完全に組み込む。
定 義
特に定義していない場合、ここで用いた全ての技術用語および科学用語は、当
業者によって普通に理解されるのと同じ意味を持つ。一般に、ここで用いた命名
法および以下で用いる実験手法は、当業界に周知であり、普通に使われるもので
ある。組換え核酸法、ポリヌクレオチド合成、並びに微生物培養および形質転換
(エレクトロポレーション、リポフェクションなど)においては、標準の技法が
使われる。一般に、酵素反応および精製過程は取扱説明書に従って行われる。こ
こでは一般に、技法および手法は、当業界の従来法および種々の一般参考書に従
って行われる(一般的にSambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Man
ual,2nd.ed.1989,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold spring Harbor,N
.Y.を参照する。これを引用により本明細書に組み込む)。ここで用いた命名法
、並びに、以下に記した分析化学、有機合成化学および薬学的処方における実験
手法は、当業界に周知であり、普通に使われるものである。化学合成、化学分析
、薬剤処方および薬剤分配、並びに患者の治療においては標準の方法が使われる
。
本発明の選択した特定の具体例を表す化学式において、アミノ末端基およびカ
ルボキシ末端基は、あまり明示されないが、他に明示
していない場合は、生理学的なpH値において呈する形であるとする。よって、具
体例または一般化学式のどちらにおいても、必ずしも明示されないが、生理学的
なpH値においては、N末端はH2 +およびC末端はO-である。ここで用いたポリ
ペプチド表記において、標準で従来の通りに、分子の左端はアミノ末端で、右端
はカルボキシ末端である。本発明の化合物には、もちろんまた、非生理学的pH値
において形成される、この塩基添加塩および酸添加塩が含まれる。ここに記載し
たアミノ酸残基は、好ましくはL-異性体である。通常の20個のアミノ酸の立体異
性体(例えばD-アミノ酸)、天然にないアミノ酸、例えばα,α分配(distributed
)アミノ酸、Nアルキルアミノ酸、乳酸、および他の一般的でないアミノ酸もま
た、そのポリペプチドが所望の機能特性を保持する限り、本発明のポリペプチド
の成分として適するだろう。ペプチドを明示する場合、ポリペプチドの標準命名
法(J.Biol.Chem.243,3552-59,1969;and 37CFR,sec1,822(b)(2)参照)に従って、
各コード残基を通常のアミノ酸名に応じて適切に3文字命名法で表す。
ここに記載した用語「ポリヌクレオチド」は、リボヌクレオチド、デオキシリ
ボヌクレオチドもしくはそのどちらかのタイプのヌクレオチド修飾体のいずれか
で、長さが少なくとも10塩基のヌクレオチド多量体を意味する。この用語は、DN
Aの一本鎖および二本鎖を含んで意味する。
ここに記載した用語「オリゴヌクレオチド」には、天然のオリゴヌクレオチド
連結によって互いに連結された天然のヌクレオチド、および非天然のオリゴヌク
レオチド連結によって互いに連結された修飾ヌクレオチドが含まれる。オリゴヌ
クレオチドは、長さが200塩基以下のポリヌクレオチドである。オリゴヌクレオ
チドは、好ましくは長さが10から60塩基であり、そして最も好ましくは長さが12
,13,14,15,16,17,18,19,または20から40塩基である。オリゴヌクレオチ
ドは、普通一本鎖であり、例えばプローブに使われる。しかし、オリゴヌクレオ
チドは、二本鎖でもよく、例えば遺伝子変異の作成に使われる。本発明のオリゴ
ヌクレオチドは、センスまたはアンチセンスのオリゴヌクレオチドのどちらでも
よい。ここに記載した用語「天然のヌクレオチド」には、デオキシリボヌクレオ
チドおよびリボヌクレオチドが含まれる。ここに記載した用語「修飾ヌクレオチ
ド」には、糖の基を修飾または置換したヌクレオチド、およびその類似体が含ま
れる。ここに記載した用語「オリゴヌクレオチド連結」には、ホスホロチオエー
ト(phosphorothioate),ホスホロジチオエート(phosphorodithioate),ホスホロ
セレノエート(phosphoroselenoate),ホスホロジセレノエート(phosphorodisele
noate),ホスホロアニロチオエート(phosphoroanilothioate),ホスホロアニラ
デート(phosphoraniladate),ホスホロアミデート(phosphoroamidate)、および
その類似体のオリゴヌクレオチド連結が含まれる。希望する場合、オリゴヌクレ
オチドには、検出用の標識を含ませることができる。
適切な宿主細胞には、原核生物、酵母細胞、またはより高等な真核生物細胞が
ある。原核生物には、グラム陰性菌またはグラム陽性菌、例えば大腸菌またはバ
チルス属の菌(Bacilli)がある。より高等な真核生物細胞には、以下に記載して
いる哺乳類由来の確立した細胞株がある。宿主細胞の具体例として、DH5α,E.c
oliW3110(ATCC27325),E.coliB,E.coliX 1776(ATCC31537)およびE.coli294(ATC
C31446)がある。
多様な適当な微生物ベクターが利用可能である。一般に、微生物ベクターは、
目的の宿主によって認識される複製起点、その宿主で機能するプロモーター、お
よび表現型選択遺伝子、例えば抗生物質
耐性または栄養要求性を付与するタンパク質をコードする遺伝子を含んでいる。
他の宿主に対しても、同様の構成体を作成することができるだろう。典型的には
pBR322によって、大腸菌を形質転換する。Bolivar et al.,Gene 2,95(1977)を参
照すること。pBR322は、アンピシリンおよびテトラサイクリン耐性遺伝子を含ん
でいるので、形質転換体を容易に同定することができる。発現ベクターは宿主生
物によって認識されるプロモーターを含んでいる必要がある。これは、一般的に
目的の宿主から得られるプロモーターを意味する。微生物の組換え体発現ベクタ
ーにおいて最も一般的に使われるプロモーターには、ベータラクタマーゼ(ペニ
シリナーゼ)とラクトースとのプロモーター系(Chang et al.,Nature 275,615(1
978);Goeddel et al.,Nucleic Acids Res.8,4057(1980),EPO Application Publi
cation No36776)、および tacプロモーター(H.De Boer et al.,Proc.Natl.Acad
.Sci.USA 80,21(1983))がある。これらは一般的に使われるが、他の微生物プロ
モーターも適している。多くのプロモーターのヌクレオチド配列に関する詳細は
、公開されており、当業者は、それらをプラスミドまたはウイルスベクターのDN
Aに作用可能に連結することができる(Siebenlist et al.Cell 20,269,1980)。弱
いリボソーム結合部位を用いて、真核生物遺伝子および原核生物遺伝子を発現さ
せるためには、Sambrook et al.(1989)"Expression of cloned genes in Escher
ichia coli"Molecular Cloning:A Laboratory Manualを参照する。さらに細菌用
のプロモーターには、細菌由来ではないが、細菌のRNAポリメラーゼと結合する
ことができ、転写を開始させることができる天然のプロモーターがある。原核生
物においてある遺伝子を高いレベルで生産させるために、細菌由来でない天然プ
ロモーターと、適合性のあるRNAポリメラーゼとを共役させることもできる。共
役プロモーター系の例には、バクテ
リオファージT7RNAポリメラーゼ/プロモーター系がある(Studier et al.(1986)
J.Mol.Biol.189,113;Tabor et al.(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.82,1074)。さらに
、バクテリオファージプロモーターと大腸菌オペレータ領域とから、ハイブリッ
ドプロモーターを作ることもできる(EPO Pub.No.267851)。
ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入させるための既知の方法、例えばウイルス
内にポリヌクレオチドをパッケージングし、このウイルスによって宿主細胞に形
質導入する方法、または当業界に既知のトランスフェクション法によって形質転
換を行うことができる。米国特許Nos.4399216,4912040,4740461および4959455
に、その例が示されている。形質転換する宿主に応じた形質転換法を用いる。異
種性ポリヌクレオチドを、哺乳類細胞に導入する方法は当業界に周知であり、こ
れにはデキストランによるトランスフェクション、リン酸カルシウム沈殿法、ポ
リブレンによるトランスフェクション、プロトプラスト融合法、エレクトロポレ
ーション法、ポリヌクレオチドのリポソーム封入法、および核への直接DNAマイ
クロインジェクションがある。
本発明の好ましい具体例
ここに記載した本発明は、患者の腫瘍細胞において腫瘍抑制因子タンパク質の
状態を、好ましくはインビボで、迅速に決定する方法であり、この方法は、1番
目および2番目のポリヌクレオチド配列を腫瘍細胞に接触させて、腫瘍細胞に取
り込ませることを含んでいる。1番目のポリヌクレオチド配列は、リポーター分
子をコードしており、2番目の腫瘍抑制因子結合性のポリヌクレオチド配列に作
用可能に連結されている。腫瘍抑制因子の結合は、リポーター遺伝子の発現を誘
導し、それが検出または定量される。
腫瘍抑制因子の存在を検出するか、またはその量を定量する従来技術の方法に
対して、本発明の主要な利点は、患者の腫瘍を生検することなくインビボで実行
できること、または腫瘍を生検する場合、腫瘍細胞を溶解することなくp53の状
態を迅速に決定できることである。どちらの場合でも、最も現実的には、グリー
ン蛍光タンパク質をコードする1番目のポリヌクレオチドを用いて、腫瘍に1番
目および2番目のポリヌクレオチド配列を適当な時間取り込ませた後に、腫瘍に
インビボで、または腫瘍の生検試料に適当な波長の光を照射することによって、
本発明を実行する。
しかし、内科医は、特定の治療法を薦める前にその腫瘍についてできるだけ多
くの情報を得るために、本発明の方法と併用して、他の方法、例えば生検試料の
通常の組織化学検査、磁気共鳴画像診断、およびその類似法を行うことを希望す
るだろう。以下でさらに検討するが、いくつかの状況では、本診断法を行うこと
で、内科医は、癌患者に対する最良の治療法をより容易に決定することができる
。腫瘍抑制因子自身またはそれをコードする遺伝子のどちらかを検出するために
、生検および付随する生化学的または分子生物学的手順を行う必要がないので、
本発明の方法は迅速に実行される。
腫瘍において腫瘍抑制因子状態が陰性を示した場合には、確認のために生検が
特に望まれる場合もある。なぜなら、腫瘍抑制因子に結合して、これを不活性化
する細胞内因子が存在するからで、これによって腫瘍抑制因子が2番目の腫瘍抑
制因子結合性ヌクレオチド配列に結合できないことがある。1つの例は、ヒトパ
ピローマウイルス、特にこのウイルスのE6タンパク質である。E6は、腫瘍抑制因
子p53に強固に結合することが知られている(Werness et al.,Science248,76(199
0))。
「腫瘍抑制因子」とは、悪性形質転換した、すなわち表現型が悪
性の癌細胞を減少させるかまたは除去する効果のある、構造タンパク質またはそ
れに匹敵する、その断片もしくは変異体を意味する。
本発明の具体例として、腫瘍抑制因子タンパク質には、限定はしないが、p53
、網膜芽細胞腫(retinoblastoma)タンパク質(Rb)、腺腫様結腸ポリープ症タンパ
ク質(adenomatous polyposis coli protein)(APC)、大腸癌変異型タンパク質(mu
tated in colorectal caricinoma protein)(MCC)、ウイルム腫瘍1タンパク質(W
ilm'stumor l protein)(WT1)、1型神経線維腫症タンパク質(neurofibromatosis
type1 protein)(NF1)、または2型神経線維腫症タンパク質(neurofibromatosis
type2 protein)(NF2)がある。よって、注意するべきことには、本発明は、腫瘍
抑制因子p53に関して記載されているが、これに限定して解釈されるべきではな
い。各腫瘍抑制因子タンパク質に対して、適当な2番目のポリヌクレオチドを選
択してリポーター遺伝子を発現させることができるだろう。
別の具体例として、本発明は、p53の状態を決定しようとする患者の標的腫瘍
細胞群に、2番目のp53結合性ポリヌクレオチド配列に作用可能に連結されてい
て、リポーター分子をコードしている1番目のポリヌクレオチド配列を組み込む
ことによって実行される。p53が、2番目のp53結合性ポリヌクレオチド配列に結
合することによって、リポーター分子の発現が誘導され、これを、選択した特定
のリポーター分子に適する方法で検出または定量する。さらに当業界で周知のよ
うに、1番目および2番目のポリヌクレオチド配列の発現に影響する他のポリヌ
クレオチド配列が存在してもよい。それには例えば、適当なポリアデニル化配列
、例えばSV40初期ポリアデニル化配列がある。
p53に結合するポリヌクレオチド配列が当業界に知られていて、これを、リポ
ーター分子をコードしている1番目のポリヌクレオチ
ド配列に作用可能に連結することができる。例えば、米国特許5362623およびEPA
518650(inventor Vogelstein,B.et al.)を参照すると、p53結合性の特異的なDNA
配列を用いて、細胞抽出液中のp53を検出する方法が記載されている。本発明に
おいては、これらのp53結合性ポリヌクレオチド配列を、リポーター分子をコー
ドしている1番目のポリヌクレオチド配列に作用可能に連結して用いることがで
きる。
1番目および2番目のポリヌクレオチド配列を保持する適当なウイルス性発現
ベクターを用いて、それらの配列を標的の腫瘍細胞群に組み込むことができる。
腫瘍によるその取り込みを促進する試薬を加えても加えなくてもよい。当業界に
おいて、種々のウイルス性ベクターおよびその作成方法が知られている。例えば
、Jolly,D.Cancer Gene Therapy,vol.1,51-64(1994)を参照すること。好ましい
ウイルス性ベクターには、アデノウイルスおよびパピローマウイルスがある。例
えば、、Horwitz,M.S.Adenoviridae and thier Replication,In:Fields,B.N.and
Knipe,D.M.eds.,Fundamental Virology,2nd ed.New York,N.Y.,Raven Press,Lt
d.,771-813(1991);and Howley,P.M.,Papilomavirinae and thier Replication,I
n:Fields,B.N.and Knipe,D.M.eds.,Fundamental Virology,2nd ed.New York,N.Y
.Raven Press,Ltd.,743-767(1991)を参照すること。
本発明において、その他多くの適当なビリオンを使うことができるだろう。そ
の材料およびその作成方法は、当業界で周知である。好ましいアデノウイルスは
、複製能を欠いている。例えば、PCT/US94/14502"Adenovirus Gene Expression
System"(inventor Galck-Pedersen,E.);and PCT/US94/12401"Recombinant p53 A
denovirus Methods and Compositions"(inventors Zhang,W.W.,et al.)を参照す
ること。アデノウイルスのE1AおよびE1B領域を欠損した複製能
欠失アデノウイルスがより好ましい。
複製能欠失アデノウイルスを調製する技法は、当業界に周知である。例えば、
Ghosh-Choudhury and Graham F.,Biochem.Biophys.Res.Comm.147,964-973(1987)
;McGrory et al.,Virology163,614-6179(1988);PCT/US94/12401さらにまたGraha
m,F.and Prevec,L.Manipulation of Adenovirus Vectors,In:Methods in Molecu
lar Biology,vol.7;and Gene Transfer and Expression Protocols.Murray E.J.
(ed)The Human Press Inc.,Clifton N.J.,vol7,109-128を参照すること。当業者
に周知な技法を用いて、希望するウイルス性ベクターを分離することができる。
分離方法としては、浮揚性密度勾配、特に塩化セシウム勾配遠心を用いることが
好ましい。
本発明の複製能欠失ビリオンを作成するために、適当な発現カセットを用いる
ことができる。「発現カセット」とは、転写プロモーター/エンハンサー、外来
遺伝子、場合によってはポリアデニル化シグナルを有するDNA分子を意味する。
本発明においては、このプロモーターは、p53反応性のもので、すなわちここに
記載している2番目のポリヌクレオチド配列である。外来遺伝子、すなわち1番
目のポリヌクレオチド配列は、適当なリポーター分子をコードする遺伝子であり
、p53反応性プロモーターに作用可能に連結される。
また周知の通り、組換えアデノウイルスを増殖させるために、種々の細胞株を
用いることができ、複製能の欠失がある場合、これを補完する細胞株に限る。好
ましい細胞株として、ヒト293細胞株がある。しかし複製を許容する他の全ての
細胞株、好ましくは、E1AおよびE1Bを発現する細胞株を用いることができる。さ
らに、ウイルス保存液を得るために、プラスティックディッシュ上かまたは縣濁
培養液中のどちらかで増殖することができる細胞を用いる。293細胞株、および
ある種のアデノウイルスベクターは、Microbix Bio
systems,Inc.,341Bering Avenue,Toronto,Ontario,Canada M8Z3A8から得ること
ができる。Graham,F.et al.,J.Gen.Virol.,vol.36,59-74(1977)を参照すること
。
本発明は、E1欠失ウイルスおよびE1発現細胞に限定されない。本発明に関連し
て、実際、その他のウイルスおよび宿主細胞の補完的組み合わせを用いてもよい
。機能的E2欠失ウイルスおよびE2発現細胞、機能的E4欠失ウイルスおよびE4発現
細胞、並びに類似の組み合わせを用いてよい。複製に必要でない遺伝子、例えば
E3遺伝子が欠失および置換されている場合に、宿主細胞はこの欠失を特に補完す
る必要はない。
複製能欠失アデノウイルスは、既知の42の異なる抗原型またはサブグループA-
Fのいずれのものでもよい。本発明の方法で用いる条件付き複製能欠失アデノウ
イルスベクターを得るためには、出発材料としてサブグループCのアデノウイル
スタイプ5が好ましい。なぜなら、アデノウイルスタイプ5は、これに関する有
意に多くの生化学的および遺伝的情報があるヒトのアデノウイルスであり、そし
て歴史的にベクターとしてアデノウイルスを用いる構成体の大部分に使われてき
たからである。
ウイルス性ベクターに加えて、適当なプラスミド発現ベクターを用いて、1番
目および2番目のポリヌクレオチド配列を、患者の標的腫瘍細胞塊に分配するこ
ともできる。この様なベクターおよび方法は当業界に周知である。
1番目および2番目のポリヌクレオチド配列を、患者の腫瘍に分配する別の方
法は、それらを脂質内に封入するか、または脂質に結合させるか、好ましくはリ
ポソーム内に封入することによる方法である。リポソームトランスフェクション
は、例えばホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルセリン(PS)、コレステロ
ール(Chol)、
N-[1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N-トリメチルアンモニウムクロライ
ド(DOTMA)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、および/ま
たは3-β[N-(N,N-ジメチルアミノエタン)-カルバモイルコレステロール(DC-Chol
)、並びに当業者に周知な他の脂質から作られたリポソームを介して行う。本発
明において有用な、種々のリポソームトランスフェクション技法が当業者に知ら
れている。それらの方法には、Nicolau et al.,Method in Enzymology,vol.149,
157-176(1987)およびGao et al.,Biochemical and Biophysical Research Commu
nications,vol.179,280-285に記載されている方法がある。DOTMAを含んでいるリ
ポソーム、例えば、Vical Inc.(San Diego,CA)から販売されている商標名Lipofe
ctinTMを用いてもよい。
種々の方法によって、トランスフェクションしようとする細胞に、リポソーム
を加えて接触させることができる。細胞培養の場合は、リポソームを単に細胞培
養液に分散させる。しかしインビボで適用する場合は、典型的にはリポソームを
注射する。リポソームを静脈内注射することによって、本ポリヌクレオチド配列
を肝臓および脾臓に運ぶことができる。注射では接近させることができない腫瘍
細胞に本ポリヌクレオチド配列をトランスフェクションするために、ポリヌクレ
オチド配列含有リポソームを患者の身体内の特定の位置に直接注入することがで
きる。以下で詳しく述べる。
本発明ではまた、リポソーム複合体並びに前記の1番目および2番目のポリヌ
クレオチド配列を含んでいる構成物も考慮する。リポソーム複合体を作るために
用いる脂質は、前記の脂質のいずれでもよい。特にDOTMA、DOPEおよび/またはD
C-Cholによって、リポソーム複合体の全部または部分を形成することができる。
好ましい例では、DC-Chol:DOPEの比率を1:20と20:1との間にして、DC-Cholお
よびDOPEからリポソームを作ることができる。さらに好ましくは、DC-Chol:DOPE
の比率を約1:10から約1:5までにしてリポソームを調製する。
1番目および2番目のポリヌクレオチド配列を分配するために、リポソームを
静脈内に投与するか、腫瘍に直接注入するか、または当業界に周知の他の経路を
用いることができる。
前述したとおり、静脈内に注射されたリポソームは、本質的には、肝臓および
脾臓の網状内皮系のマクロファージによって取り込まれる。注射されたリポソー
ムの特異的な取り込み部位は、主に脾臓のマクロファージおよび肝臓のクッパー
細胞であるらしい。リポソーム/DNA複合体が静脈内に注射されると、これらの細
胞がDNAを取り込み、その結果DNA内にコードされている遺伝子産物が発現される
(Nicolau,Biol.Cell47,121-130(1983))。よって、肝臓および/または脾臓にお
ける原発性の腫瘍、または他の発生部位からの転移性の腫瘍を標的にして、本発
明のポリヌクレオチド配列を有するリポソームを効率よく運ぶことができる。
静脈内注射は、リポソーム/ポリヌクレオチド配列複合体を部位特異的に実際
に分配するひとつの方法である。他の方法によっても、それらを適当な標的腫瘍
細胞に選択的に分配することができる。好ましい方法は、カテーテルを用いるも
のであり、Nabel et al.,Science249,1285-1288(1990)に記載されている。例え
ば、上記のNabel et al.から、カテーテルによる動脈壁への注入を学ぶことがで
きる。重要なことには、これらの方法によって、リポソーム/ポリヌクレオチド
配列複合体を、静脈内注射によって分配することができる肝臓および脾臓だけで
はなく、他の特異的な部位にインビボで分配することができる。
本発明は、p53の状態を決定しようとする標的細胞群に、2番目
のp53結合性ポリヌクレオチド配列に作用可能に連結されていて、リポーター分
子をコードしている1番目のポリヌクレオチド配列を導入することによって実行
される。本発明においては、多数のリポーター分子を用いることができ、p53が
2番目のp53結合性ポリヌクレオチド配列と結合することによって発現させるこ
とができる。
リポーター分子としては、グリーン蛍光タンパク質が好ましい。Chalfie,M.et
al.,Science263,802-805を参照すること。このタンパク質は、395nmの青色光を
吸収して、509nmの緑色光を放射する。この蛍光は安定で、ほとんどまたは全く
退色しない。これは、検出するために基質、補因子またはその他いかなるタンパ
ク質も必要としないので、他のリポーター分子、特に酵素に比べて有利である。
よってこれは、患者において単に腫瘍塊に青色光を照射し、緑色光の放射を観察
することによって容易に検出される。
グリーン蛍光タンパク質をコードするcDNAはクローン化されており、異なる組
織系において発現させられている。Prasher,D.C.,et al.(1992)Gene111,229-233
;Inoue,S.and Tsuji,F.I.(1994)FEBS Letters341,277-280を参照すること。また
WO9507463(inventors Chalfie,M.and Prasher,D.)を参照すること。このクロー
ンは、Clontech Laboratories社からいくつかのプラスミドとして入手でき、そ
してこれには種々の制限部位があるので、このクローンをリポーター分子として
用いるウイルス性またはプラスミド性の発現ベクターを容易に作成することがで
きる。
リポーター分子には他に、p53の存在を検出する手段として機能する酵素があ
る。これらは、好ましくは、腫瘍の生検試料においてp53の状態を決定するため
に用いられる。この酵素としては、腫瘍塊において容易に測定または検出するこ
とができる酵素が好ましい。この様な利便性を備えている酵素は、一般にヒドロ
ラーゼまたは
オキシドレダクターゼであり、この例にはβグルクロニダーゼ、βヘキソサミニ
ダーゼ、ルシフェラーゼ、ホスホリパーゼおよびホスファターゼがある。注目す
べきことに、Quantin et al.,Porc.Natl.Acad.Sci.89,2581-2584において、筋肉
特異的調節配列の調節下にリポーター遺伝子としてβガラクトシダーゼを含んで
いる組換えアデノウイルスが開示されている。この組換えウイルスは、筋管にお
いてインビボでβガラクトシダーゼの発現を指令する。
使用と投与
適当なベクター(すなわちウイルス性、プラスミド性など)を用いるか、また
は前記の脂質(すなわちリポソーム)に結合させるかして、1番目および2番目
のポリヌクレオチド配列を腫瘍に分配するいずれの場合においても、本発明の構
成物の投与形を調製する方法が知られている。Remington's Pharmaceutical Sci
ences,Mack Publishing Company,Easton Pennsylvania,17th edition,1985を参
照すること。いずれの場合においても、投与される構成物または配合物は、治療
対象において希望する量のリポーター分子を発現させるために十分な量の1番目
および2番目のポリヌクレオチド配列を含んでいる。
本発明の種々の構成物を、好ましくは、医薬に適合する賦型剤物質と組み合わ
せて用いる。医薬に適合する賦型剤としては、リン酸塩、乳酸塩、トリスおよび
当業界に周知な適当な他の緩衝剤を含んでいる中性緩衝生理食塩水が好ましい。
癌患者の腫瘍において腫瘍抑制因子の状態を決定する典型的な手法は、1番目
および2番目のポリヌクレオチド配列の構成物を患者に投与すること、そしてそ
の構成物が腫瘍に分配され取り込まれるまで、経験的に決定した時間待つことか
らなる。次に、測定するリ
ポーターの特性に基づいて、標準法によって腫瘍を生検した後適当な測定法を行
い、腫瘍抑制因子の存在を決定する。
1番目および2番目のポリヌクレオチド配列を、ウイルス性ベクターを用いて
患者の静脈内に投与する場合、ウイルスの力価は106-1012プラーク形成単位(pfu
)/mlの範囲内とする。
リポーター分子としてグリーン蛍光タンパク質を用いて、侵襲性の手法を行う
ことなく容易に検出することができる腫瘍において、本発明を用いてp53腫瘍抑
制因子の状態を決定することが好ましい。頭部および頚部の癌を診断することが
最も好ましい。例えば、これらの型のある癌に、グリーン蛍光タンパク質をコー
ドする1番目のポリヌクレオチド配列および2番目のポリヌクレオチド配列を保
持するアデノウイルスを、外部から注入することができる。ウイルスを腫瘍細胞
に感染させた後に、好ましくは単に適当な波長の光を腫瘍に直接照射し、グリー
ン蛍光タンパク質に起因する適当な波長の光が放射されるかを観察することによ
って、p53の存在を決定することができる。グリーン蛍光タンパク質は、395nmの
青色光を吸収して、509nmの緑色光を放射する。あるいはその腫瘍を生検し、ウ
イルスに感染させる前または感染させた後に、緑色光の放射を測定してもよい。
次の実施例によって本発明を説明する。しかし、本実施例は、本発明を代表す
るものであり、当業者に明らかなように、本発明の意図および範囲から逸脱する
ことなく修正改変することができる。
実施例1
1番目および2番目のポリヌクレオチド配列を有する複製能欠失アデノウイルス
の組換え体の作成
1番目および2番目のポリヌクレオチド配列を有する複製能欠失アデノウイル
スの組換え体を作成するひとつの方策は、p53結合性
のDNA配列、TATAボックス、GFPのコード配列、およびポリアデニル化配列、好ま
しくはSV40由来のポリアデニル化配列から成るGFPカセットを作成することから
成る。このカセットを作成する方法としては、Clontechから入手でき、GFPコー
ド配列およびSV40アデニル化配列が組み込まれている既存のpGFP-1プロモーター
リポーターベクターを修飾することが好ましい(Clontechniquesll,no.2,April 1
996)。p53結合性DNA配列およびTATAボックスの両方を、このベクターのGFPコー
ド領域およびSV40アデニル化配列の上流にクローン化する。このpGFP-1プロモー
ターリポーターベクターからカセットを切り出し、ウイルスのパッケージングお
よび複製に必要なアデノウイルスゲノム部分を有するアデノウイルス転移ベクタ
ーにクローン化する。この転移ベクターに存在するアデノウイルスゲノム領域は
、ヒト293細胞株に同時トランスフェクションすると、残りのアデノウイルスゲ
ノム部分を有するプラスミドベクターと相同組換えを起こすように設計されてい
る。GFPカセットおよびアデノウイルスゲノムの一部分を有するプラスミドと、
残りのアデノウイルスゲノムの大部分を有するプラスミドとのプラスミドの組を
、ヒト293細胞株に同時にトランスフェクションすると、2つの構成体の間で相
同組換えが起こり、診断検査で使用するのに適するアデノウイルスベクター内に
GFPカセットを有する子孫ウイルスが生じるだろう。このウイルスを集め、そし
て標準的な方法で精製することができる。
さらに詳細に記載する。噛乳類細胞においてGFPを効率的に発現させるために
、TATAボックスエレメントをベクター構成体に組み込む。この配列をオリゴヌク
レオチドとして合成し、二本鎖化し、その後ClonetechベクターpGFP-1内のp53結
合性DNA部位とGFPコード配列との間にクローン化する。図1は、ベクターpGFP-1
を示し、
図2は、このベクターのマルチクローニングサイト内(MCS)の制限部位を示して
いる。
TATAボックスエレメントとしては、アデノウイルスE1B遺伝子自身に由来するT
ATAボックスが好ましい。このエレメントの配列は、Lillie and Green,Nature 3
38,39-44(1989)に記載されている。pGFP-1プロモーターベクターのマルチクロー
ニングサイトにあるKpn1およびApa1の制限部位に組み込むために、これらの制限
部位を有する二本鎖配列を作成する。この配列を以下に示す。
配列番号1: 5'-CAGGGTATATAATGGGCC-3'
配列番号2:3'-CATGGTCCCATATATTAC-5'
上記の二本鎖TATAボックスエレメントを、制限酵素Kpn1およびApa1で切断した
pGFP-1プロモーターベクターにクーロン化する。この二本鎖配列を連結してでき
たベクターをpGFP-1TATAとする。
次に、p53結合性DNA部位の共通配列を二本鎖化した後、pGFP-1TATA内にクロー
ン化するために、両末端に適当な制限酵素部位を有するオリゴヌクレオチドとし
て合成する。
p53結合性DNA共通配列を以下に示す:
配列番号3:5'-RRRCATGYYYRRRCATGYYY-3'
ここでRはAまたはG、そしてYはCまたはTである。
好ましいp53結合性DNA部位配列を以下に示す:
配列番号4:5'-AACATGTCCCAACATGTTG-3'
GFPの発現を促進するためには、p53結合性DNA部位配列が多重であることが望
ましい。よって配列の多重化を促進するために、p53結合性DNA配列を、両端にHi
ndIII制限部位を有する二本鎖にする。この二本鎖配列をpGFP-1TATAベクター内
にクローン化する。
好ましいp53結合部位の二本鎖オリゴヌクレオチド配列を以下に示す。
配列番号5:5'-AGCTTGAACATGTCCCAACATGTTGA-3'
配列番号6: 3'-ACTTGTACAGGGTTGTACAACTTCGA-5'
この二本鎖配列をpGFP-1TATA内にクローン化すると、p53結合性DNA部位のコン
カテマーが形成されたベクターp53-GFP1-TATAが生じる(図3)。適当な制限酵
素によって、ベクターp53-GFP1-TATAに存在するGFPカセットを切り出すことがで
きる。このカセットには、p53結合部位、、TATAエレメント、GFPコード領域およ
びSV40ポリアデニル化領域が含まれている。図3に示すように、制限酵素BgIII
およびMluIによって、p53-GFP1-TATAからこのカセットを切り出し、適当なアデ
ノウイルス転移ベクター、好ましくはpΔE1sp1AまたはpΔE1sp1Bにクローン化す
ることができる。これらのベクターpΔE1sp1AまたはpΔE1sp1Bは、図4に示され
ており、そしてBett,PNAS91,8802,1994に記載されている。生じたプラスミドをp
53-GFPΔE1sp1AまたはBとする(図5)。これらのプラスミドベクターは、大腸
菌シャトルプラスミドベクター内に、ウイルスのパッケージングおよび複製に必
要なアデノウイルスゲノムの適当な左端、すなわちアデノウイルスゲノムのマッ
プ単位(map unit,mu)0-0.9、続いてGFPカセットがクローン化されているマルチ
クローニングサイト、続いてマップ単位9.8-15.8に対応するアデノウイルスゲノ
ム領域を含んでいる。
このプラスミドp53-GFPΔE1sp1AまたはB内に存在するアデノウイルスゲノム領
域は、ヒト293細胞株に同時トランスフェクションすると、残りのアデノウイル
スゲノム部分を有するプラスミドベクターと相同組換えを起こすように設計され
ている。選択したアデノウイルスゲノムプラスミドは、pBHG10またはpBHG11であ
り、前記Bett et alにも記載されている。これらのプラスミドは、大腸菌シャト
ルプラスミドベクター内に、アデノウイルスゲノムのマップ単位
0-0.5を含み、続くマップ単位0.5-3.7を欠失しており、続いてアデノウイルスゲ
ノムの残りのマップ単位3.7-100を含んでいる(アデノゲノム全域は0-100マップ
単位から成る。各マップ単位は約360bpであり、従ってアデノゲノムの長さは約3
6000bpである)。さらに、これらのプラスミドにおいて、pBHG10は、マップ単位7
8.3-85.8に対応するアデノウイルスE3遺伝子領域を欠失しており、pBHG11は、さ
らにアデノウイルスゲノム塩基27865から30995までの配列が除かれた拡大したE3
遺伝子領域を欠失している。
ひとつのプラスミドをp53-GFPΔE1sp1AまたはBとして、もう一つのプラスミド
をpBHG10またはpBHG11とするプラスミドの2組の組み合わせの各組を、ともにヒ
ト293細胞株にトランスフェクションすると、2つの構成体の間で相同組換えが
起こり、分配用のアデノウイルスベクター内にGFPカセットを有する子孫ウイル
スが生じる。このウイルスを集め、そして標準の方法で精製することができる。
実施例2
1番目および2番目のポリヌクレオチド配列のリポソームへの組み込み
1番目および2番目のポリヌクレオチド配列を、患者の腫瘍に分配する別の方
法は、それらを脂質内に封入するか、または脂質に結合させるか、好ましくはリ
ポソーム内に封入することによる方法である。リポソームトランスフェクション
は、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルセリン(PS)、コレステロール(C
hol)、N-[1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N-トリメチルアンモニウムク
ロライド(DOTMA)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、およ
び/または3-β[N-(N,N-ジメチルアミノエタン)−カルバモイルコレステロール(
DC-Chol)、並びに当業者に周知な他の脂
質から作られたリポソームを介して行う。本発明において有用な、種々のリポソ
ームトランスフェクション技法が当業者に知られている。それらの方法には、Ni
colau et al.,Method in Enzymology,vol.149,157-176(1987)およびGao et al.,
Biochemical and Biophysical Research Communications,vol.179,280-285に記
載されている方法がある。DOTMAを含んでいるリポソーム、例えば、Vical Inc.(
San Diego,CA)から販売されている商標名LipofectinTMを用いてもよい。
陽イオン性リポソームは、適当なウイルスDNAを腫瘍形成細胞に効率よくトラ
ンスフェクションするために用いられ、そして本発明において好ましく用いられ
る。この様な陽イオン性リポソームを、Gao et al.,Biochemica and Biophysica
l Research Communications179,280-285(1991)に記載されている方法によって調
製することができ、それはDC-CholおよびDOPEの混合物である。このリポソーム
を作成する工程は以下のとおりである。
DC-Cholは、コレステロールクロロギ酸エステル(cholesteryl chloroformate)
およびN,N-ジメチルエチレンジアミンから単一反応によって合成される。0℃に
て、コレステロールクロロギ酸エステル溶液(無水(dry)クロロホルム5ml中、2.2
5g,5mmol)を、過剰のN,N-ジメチルエチレンジアミン溶液(無水(dry)クロロホル
ム3ml中、2ml,18.2mmol)に滴下して加える。溶媒を蒸発させて取り除いた後に
、4℃にて、無水エタノール中で残留物を再結晶化して分離し、そして真空(in
vacuo)乾燥する。生成物がDC-Cholの白色粉末である。
クロロホルム中で1.2μmolDC-Cholと8.0μmolDOPEとを混合することに
よって、陽イオン性リポソームを調整する。この混合物を乾燥させ、さらに真空
乾燥した後、試験管内でステロール/20mMHEP
ES緩衝剤(pH7.8)1ml中に再縣濁する。4℃で24時間水和した後、その分散物をソ
ニケーターで5-10分間超音波処理して、平均直径150-200nmのリポソームを形成
させる。
リポソーム/DNA複合体を調製するために次の工程を行う。最初に、実施例1に
記載したようにして作成したアデノウイルスから、ウイルスDNAを分離精製する
。適当な制限酵素を用いて、p53結合性の共通配列、TATAエレメント、GFPコード
配列、およびSV40のポリアデニル化領域を有するGFPカセットを取り出す。
アデノウイルスおよびウイルスDNAを分離する材料および方法は、当業界に周
知である。例えばHitt,M.,Bett,A.J.,Prevec,L.and Graham,F.L.,Construction
and propagation of human adenovirus vectors,In:Cell Biology,Laboratory H
andbook;J.Celis(Ed),Academic Press,N.Y.In press;Graham,F.L.and Prevec,L.
,Manipulation of adenovirus vector,In:Methods in Molecular Biology7,Gene
Transfer and Expressionを参照すること。
簡単に述べると、実施例1に記載したようにして作成したGFPカセットを有す
るアデノウイルスを、ヒト胎児性腎臓細胞株HEK293内で増殖させる。1-10の感染
多重度(MOI)でウイルスに感染させた細胞を、細胞変性効果が視認できるまで培
養する。293細胞株は、American Type Cultlure Collection,#CRL1573,Rockvill
e,MDから入手できる。Graham et al.(1977)J.Gen.Virol.36,59も参照すること。
細胞を集め、低速遠心によって沈殿させる。細胞ペレットを3回連続して凍結溶
解繰り返すことによって、そこからウイルスを抽出し、10000g、30分間遠心し
て上清を集める。この細胞の粗抽出液から、塩化セシウムの2段階濃度勾配を用
いる超遠心を行い、続いて500倍量の緩衝液に対して透析して、ウイルスを精製
する。精製したウイルス溶液を分注して、-70℃で凍結保存する。プラークアッ
セイを行い、精製したウイルスの力価を決定する。このプラークアッセイでは、
HEK293細胞に連続的に希釈したウイルスを感染させ、アガロースを含む増殖培地
を加えて重層し、その単層中に定量できるプラークが現れるまで培養する。次に
、ウイルスDNAを分離精製して、適当な制限酵素を用いてGFPカセットを取り出す
。このようにして、当業界に周知な方法によってカセットを精製する。
最後に、アデノクイルスのGFPカセットのDNAを、DMEM/F12培地50μlに対して
DNA 15μgの割合で、DMEM/F12培地に加える。DC-Chol/DOPEリポソーム混合液を
、リポソーム100μlに対してDMEM/F12培地50μlの割合で、DMEM/F12培地によ
って希釈する。DNAの希釈液とリポソームの希釈液とを穏やかに混合し、37℃で1
0分間放置する。放置後、ウイルスDNA/リポソーム複合体は使用可能となる。
実施例3
GFP カセットを有するアデノウイルスを用いた、腫瘍のp53状態の決定
GFP カセットを有するアデノウイルスは、腫瘍細胞のp53状態を決定するため
に有効であることを示すために、実験を行う。本発明のこの側面を証明するため
に、2つの細胞株を選択する。1番目のC33Aは、ヒト頚部上皮癌(human cervica
l carcinoma)の細胞株である。これは、American Type Cultre Collection,Rock
ville,MDから入手可能である。この細胞株を選択する理由は、まず、この細胞は
腫瘍抑制因子タンパク質p53を実質上欠失していること、次に、この細胞は固形
腫瘍として増殖することである。よって、この細胞株をネガティブコントロール
として用いて、p53が存在しない場合にはGFPが発現されないことを示すことがで
きる。2番目の細胞株U-87はp53陽性であり、そして腫瘍を形成する。よって、
この細胞株においてはp53が存在するのでGFPが発現されるだろう。U-87も、
American Type Cultre Collectionから入手可能である(ATCC HTB-14)。両方の
細胞株を、ウシ胎児血清、アミノ酸および抗生物質を補充したダルベッコ修正イ
ーグル培地(DMEM)中で、標準的な細胞培養条件下にて増殖させ、細胞が全面密集
(confluent)状態になればトリプシンを用いて継代する。
次のようにして実験を行う。雌の無胸腺nu/nuヌードマウス(7-10週齢)の両
横腹に、リン酸塩緩衝生理食塩水0.2ml中5X 106個のC33AまたはU-87細胞のどち
らかを皮下注射する。
容量が0.15と0.40mlとの間になるまで腫瘍を増殖させる。一般に、それには約
1ヶ月かかる。腫瘍の容量は、腫瘍の最大直径(長さ)とそれに直交する径(幅
)の二乗を掛け合わせ、2で割って計算する。次に、どちらかの腫瘍を有するマ
ウスに、GFPカセットを有するアデノウイルスを注射する。注射は、皮下を通し
て腫瘍内にする。
ウイルスを腫瘍内に注射してから24から48時間後に腫瘍を切り出して、重量お
よび寸法を測定する。そして腫瘍壊死および免疫エフェクター細胞(immune effe
ctor cell)の腫瘍への浸潤について組織学的に調べる。組織学的検査をするため
に、腫瘍の一部分から凍結切片か、またはホルムアルデヒド固定した切片を調製
する。ホルムアルデヒドで固定した後でもGFPの蛍光はあまり減衰しないので、
後者の方が特に便利である。
スライドに450-490nmの光を照射して検査すると、C33A腫瘍ではGFPの蛍光はほ
とんどまたは全く見られないだろうし、一方、U-87腫瘍の切片は明るい緑色蛍光
を放射するだろう。
実施例4
リポソームによるアデノウイルスのGFPカセットDNAの、p53+およびp53-ヒト腫瘍
細胞への分配
アデノウイルスのGFPカセットDNAを封入したリポソームを用いて腫瘍細胞のp5
3の状態を決定できることを示すために、ウイルスを用いた場合と同様な実験を
行う。アデノウイルスのDNAを単離して、実施例2で示した陽イオン性リポソー
ム物質内に封入する。この物質を、ヌードマウスのC33AまたはU-87のどちらかの
腫瘍内に皮下注射する。細胞株の増殖方法、並びに腫瘍作成および採取の方法は
、実施例3の記載の通りである。
その結果、C33AおよびU-87腫瘍の組織学的なホルムアルデヒド固定切片の各々
に、450-490nmの光を照射すると、C33Aの切片からは、蛍光はほとんどまたは全
く放射されないが、U-87の切片からは明るい緑色蛍光が放射されることが示され
るだろう。これらの結果から、ウイルスを用いた場合と同様な方法によって、リ
ポソームを用いてアデノウイルスのGFPカセットDNAを分配して、腫瘍細胞のp53
状態を決定できることが結論されるだろう。
本発明の好ましい具体例をここまで示してきた。当業者に明らかなように、本
発明の意図から逸脱しないように本発明を改変および改修することができ、そし
て発明者はその様な全ての改変改修を意図している。
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