【発明の詳細な説明】
3−(10−フェノチアジル)プロパン酸又は3−(10
−フェノキサジル)プロパン酸誘導体の改良型製造方法
本発明は、低減された量のアクリロニトリルを用いた対応するフェノチアジン
又はフェノキサジンからの3−(10−フェノチアジル)プロパン酸又は3−(
10−フェノキサジル)プロパン酸の改良型化学的合成法に関する。
3−(10−フェノチアジル)プロパン酸及び3−(10−フェノキサジル)
プロパン酸は、例えば潤滑剤に用いるための酸化防止剤の製造における重要な合
成中間体である。かかる酸は、織物又は紙産業における洗浄剤又は漂白剤として
も用いられる。かかる化合物の重要性は、水処理産業において増大してきている
。
簡略化のために、以下の説明においては3−(10−フェノチアジル)プロパ
ン酸の誘導体にのみ言及する。しかしながら、本発明の方法は3−(10−フェ
ノチアジル)プロパン酸誘導体の製造及び3−(10−フェノキサジル)プロパ
ン酸誘導体の製造に同等に適用できるということを理解すべきである。
文献によれば、3−(10−フェノキシチアジル)プロパン酸はフェノチアジ
ン及び大過剰のアクリロニトリルから2工程で製造される。第一の工程の際に、
フェノチアジン1モルが40%水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム水溶液数
ミリリットルの存在下においてアクリロニトリル300ミリリットルで処理され
る。このアクリロニトリルは、ここでは、溶媒として及び反応成分としての両方
で用いられ、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウムは触媒としての働きをする
。
第一工程の終わりに、生成したプロピオニトリルが、アクリロニトリル溶媒及
び水を濾過によって除去し且つアセトンから再結晶することによって反応媒体か
ら単離される。生成したプロピオニトリルは、精製の後に初めて加水分解されて
、所望の3−(10−フェノチアジル)プロパン酸を生成する。加水分解は、単
純にプロピオニトリルに水素化ナトリウムを作用させ、次いで無機酸を作用させ
ることによって実施される。
この合成方法には、多くの欠点がある。この合成方法は、多量のアクリロニト
リルを用い、これは毒性があり、目に対して刺激性であり、しかも光増感性があ
るので取り扱いにくい。かかる方法はまた、中間体の3−(10−フェノチアジ
ル)プロピオニトリルを加水分解の前に再び水酸化ナトリウム水溶液中に取り出
して懸濁させることによって分離することを必要とする。
このタイプの方法は、反応成分の毒性及び実施の困難さという2つの主要な欠
点のために工業的規模で実施するのが難しく、また、中間体の再結晶及び単離工
程を必要とするということは不便である。
本発明の目的は、工業的規模で適用することができ且つ生産性、収率及び実施
容易性の観点から競争力のある合成方法を提供することにある。
この方法は、同じタイプの反応成分、即ちアクリロニトリル誘導体及びフェノ
チアジン誘導体を用いながら、適切な溶媒混合物から構成される極性媒体中でシ
アノエチル化反応を実施することを伴う。特定の溶媒を選択することによって、
プロピオニトリルタイプの中間体を単離する必要性が回避される。
かくして、本発明は、シアノエチル化工程のために特定の溶媒を選択すること
に基づく。
より正確には、本発明は、次式I:
{ここで、XはO又はSであり、
i及びjは同一であっても異なっていてもよく、それぞれ0、1、2、3及び
4から選択される整数を表わし、
R1及びR2は同一であっても異なっていてもよく、
・1個以上のハロゲン原子で随意に置換されたC1〜C4アルキル;
・C1〜C4アルコキシ;
・ハロゲン;
・C1〜C4アルコキシ−C1〜C4アルキル;
・1個以上のハロゲン原子で又は1個以上のC1〜C4アルキル若しくはC1〜C4
アルコキシ基で随意に置換されたC6〜C18アリール;
・C6〜C18アリール−C1〜C4アルキル(ここで、アリール部分は1個以上の
ハロゲン原子で又は1個以上のC1〜C4アルキル若しくはC1〜C4アルコキシ基
で随意に置換されていてもよい);
・1個以上のハロゲン原子で又は1個以上のC1〜C4アルキル若しくはC1〜C4
アルコキシ基で随意に置換されたC3〜C8シクロアルキル;及び
・C3〜C8シクロアルキル−C1〜C4アルキル(ここで、シクロアルキル部分は
1個以上のハロゲン原子で又は1個以上のC1〜C4アルキル若しくはC1〜C4ア
ルコキシ基で随意に置換されていてもよい):
から選択され、
R3は水素又はC1〜C4アルキルを表わし、
R4は水素、C1〜C4アルキル、ハロゲン又はC1〜C4アルコキシを表わす}
の化合物及びそれらと有機若しくは無機塩基又は有機若しくは無機酸との塩を製
造することを可能にする。
前記の式Iにおいて、iが0〜4の範囲の整数である(R1)iとは、フェニル環
A上にi個の置換基R1があることを意味し、ここで置換基R1は同一であっても
異なっていてもよい。
同様に、0≦j≦4である(R2)jとは、フェニル環B上にj個の置換基R2が
あることを意味し、ここでも再び置換基R2は同一であっても異なっていてもよ
い。
本発明の範疇において、用語「C1〜C4アルキル」とは、1〜4個の炭素原子
を有する直鎖状又は分枝鎖状アルキル鎖を意味する。その例には、メチル、エチ
ル、イソプロピル、n−プロピル、t−ブチル、イソブチル及び1−メチルプロ
ピル基がある。
C6〜C18アリール基とは、6〜18個の炭素原子を有する単環又は多環式芳
香族炭化水素環、例えばフェニル、ナフチル、フェナントレニル又はアントラニ
ル
を意味し、特にフェニル環が好ましい。
本発明の範疇において、用語「C3〜C8シクロアルキル」とは、3〜8個の炭
素原子を有する環状炭化水素基、例えばシクロプロピル、シクロペンチル又はシ
クロヘキシルを意味する。
用語「ハロゲン原子」とは、一般的に弗素、臭素、塩素又は沃素原子を意味す
る。
R1又はR2が1個以上のハロゲン原子で置換されたC1〜C4アルキルである場
合、これはトリフルオルメチルであるのが好ましい。
しかしながら、R1及びR2は、適切に保護されていたり本発明の方法において
用いられる反応条件下において反応を被りやすくないという条件を満たしさえす
れば、上で列挙したもの以外の基を表わすこともできるということに留意すべき
である。
より特定的には、本発明の方法は、式IにおいてXがSであり、R3及びR4が
水素であり、i及びjがそれぞれ1であり、且つR1及びR2が同一であっても異
なっていてもよく、C1〜C4アルキル、C1〜C4アルコキシ、ハロゲン及びトリ
フルオルメチルから選択される化合物を製造するのに適している。
本発明の方法は、連続的に実施されて式Iの化合物の生成をもたらす4つの工
程を必須として含む。これらの工程は、それぞれ、
(i)次式II:
(ここで、X、R1、R2、i及びjは前記の通りである)
の誘導体と次式III:(ここで、R3及びR4は前記の通りである)
のアクリロニトリル誘導体とを、水又は低級アルコールと共沸混合物を形成する
第一の有機溶媒(1)と第二の極性有機溶媒(2)との混合物(ここで、溶媒(
2)の沸点は溶媒(1)の沸点よりも低いものとする)から成る極性媒体中で、
水酸化第四級アンモニウムタイプの触媒の存在下で反応させること、
(ii)溶媒(2)を蒸留によって除去すること、
(iii)反応媒体を乾固させることなく溶媒(1)の全部を共沸蒸留するのに充
分な量の水若しくは低級アルコール又は水と低級アルコールとの混合物を反応媒
体に添加し、次いで溶媒(1)の全部を共沸蒸留すること、
或いは
(iv)得られた懸濁液を、反応媒体に強塩基又は強酸を添加することによって加
水分解し、必要ならば得られたカルボン酸塩を式Iのカルボン酸に転化させるこ
と
から成る。
前記の工程(i)はシアノエチル化工程であり、その実施条件が本発明の方法の
独創性を構成する。
この工程は、単純に表わせば次のように表わすことができる:
式IIIのアクリロニトリル誘導体及び式IIの化合物は、商品として入手するこ
ともでき、市販の類似体(これは官能化されたものであっても官能化されていな
いものであってもよい)から当業者が容易に製造することもできる。
工程(I)において用いるアクリロニトリル誘導体の正確な量は、本発明の決定
要因ではない。しかし、本発明の一つの好ましい実施態様は、式IIの誘導体を多
くとも3モル当量の式IIIのアクリロニトリルと反応させ、これによって収率を
下げたり反応に悪影響を及ぼしたりすることなくこの毒性のある反応成分の取扱
い(量等)を制限することから成る。いずれにしても、化学量論的量よりも少な
い
量では、式IIの化合物の式IVの化合物への転化が完了しないので、望ましくない
。式IIの誘導体に対して2〜2.5モル当量のアクリロニトリル誘導体を用いる
のが有利である。
シアノエチル化工程(i)において用いられる触媒は、水酸化第四級アンモニウ
ムである。
本発明の範疇において、用語「第四級アンモニウム」とは、第三アミンとハロ
ゲン化C1〜C4アルキルとの反応生成物を意味する。好ましい第三アミンは、式
NR1R2R3(ここで、R1、R2及びR3は同一であっても異なっていてもよく、
C1〜C4アルキル、フェニル、ベンジル及びトリルから選択される)を有するも
のである。
前記触媒は、水酸化テトラ(C1〜C4)アルキルアンモニウム(例えば水酸化
テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラプ
ロピルアンモニウム若しくは水酸化テトラエチルアンモニウム)又は水酸化ベン
ジルトリ(C1〜C4)アルキルアンモニウム(例えば水酸化ベンジルトリメチル
アンモニウム)であるのが有利である。
定義上、この化合物は非常少量必要なだけである。もちろん、正確な使用量は
本発明にとって臨界的なものではない。好ましい実施態様においては、触媒対式
IIの化合物のモル比を0.1〜0.001の範囲にする。この触媒は、メタノー
ル又はエタノールのような低級アルコール中に30〜50重量%、好ましくは3
5〜45重量%の含有率の溶液の形で反応媒体に添加することができ、そうする
のが有利である。
本発明に従えば、式IIの化合物と式IIIの化合物との反応が行なわれる極性媒
体の性状は本質的な特徴である。
この極性媒体は、水又は低級有機アルコールと共沸混合物を形成する第一の有
機溶媒(1)と、この溶媒(1)の沸点よりも低い沸点を有する第二の極性溶媒
(2)とから構成される。
用語「低級アルコール」とは、メタノール若しくはエタノールのような式C1
〜C4アルキル−OHの一価アルコール又は式C1〜C4アルキル−OHの様々な
アルコールの混合物を意味し、エタノールが特に好ましい。
溶媒(1)は、反応媒体から溶媒(2)を除去した後に共沸蒸留することがで
きるものでなければならない。この理由で、溶媒(2)が溶媒(1)の沸点より
も低い沸点を有することが必須である。
溶媒(2)は、極性非プロトン系溶媒であるのが好ましい。溶媒(2)として
は、ある種の脂肪族ニトリル(例えばアセトニトリル若しくはグルタロニトリル
)又は芳香族ニトリル(例えばベンゾニトリル)が好適である。また、脂肪族カ
ルボキサミド(例えばジメチルホルムアミド若しくはジエチルホルムアミド)、
環状カルボキサミド(例えばN−メチルピロリドン)、脂肪族エーテル(例えば
ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルエチルエーテル若しくはメ
チルt−ブチルエーテル)、環状エーテル(例えばテトラヒドロフラン若しくは
ジオキサン)又はジメチルスルホキシドを用いることもできる。
また、これらの2種以上の溶媒の混合物を溶媒(2)として用いることもでき
る。
溶媒(1)については、随意にハロゲン化され且つ水と又は低級アルコールと
共沸混合物を形成することができる脂肪族又は芳香族炭化水素を用いるのが一般
的である。その例には、ペンタン、ヘプタン、ベンゼン及び、トルエン、o−キ
シレン、m−キシレン又はp−キシレンのようなアルキルベンゼン、並びにそれ
らの混合物がある。
式IIIの化合物と式IIの化合物との反応を行なうための好ましい極性媒体は、
トルエンとアセトニトリルとの混合物である。
極性媒体中の溶媒(1)及び溶媒(2)のそれぞれの量に関しては、次のおお
よその指標を与えることができる:
・溶媒(2)対溶媒(1)の重量比は0.1〜0.4の範囲にするのが好ましい
;
・溶媒(1)対式IIの化合物のモル比は2〜10の範囲、好ましくは3〜5の範
囲にする;
・溶媒(2)対式IIの化合物のモル比は1〜5の範囲にするのが好ましく、2〜
4の範囲にするのがより一層好ましい。
溶媒(2)は経費がかかるものなので、その量を最小限にするのが一般的であ
る。
本発明の好ましい実施態様においては、溶媒(1)及び(2)、式IIの化合物
並びに式IIIのアクリロニトリル誘導体を反応器に入れる。次いでこの全体を3
0℃〜50℃の範囲の温度に加熱する。この温度において、反応媒体に触媒を添
加する。アクリロニトリルと式IIの化合物との縮合は発熱性なので、触媒の添加
によって温度が上昇する。この反応は反応速度が速いことを特徴とするが、反応
を通じて温度を60℃〜80℃の範囲に保つのが一般的である。
次の工程(ii)においては、溶媒(2)を減圧下{例えば300〜600mmH
g(4×104Pa〜8×104Pa)}又は大気圧下において蒸留する。蒸留を
実施する時に、反応しなかった僅かに過剰分のアクリロニトリルもまた反応媒体
から取り除かれ、これは新たな製造の工程(i)に再循環することができる。
工程(iii)において、溶媒(1)を共沸蒸留によって除去する。これは大気圧
下又は減圧下、即ち2.66×104Pa〜8×104Pa(200〜600mm
Hg)の範囲の圧力において実施することができる。
このためには、反応媒体を乾固させることなく溶媒(1)の全部を共沸蒸留す
るのに充分な量の水、低級アルコール又は水と低級アルコールとの混合物を反応
媒体に添加する。添加すべき水、低級アルコール又は水とアルコールとの混合物
の量は、水、低級アルコール又は水と低級アルコールとの混合物中において所定
の濃度の式IVのプロピオニトリルの懸濁液が得られるように計算される。
第一の実施態様において、共沸蒸留は、反応媒体に水を添加した後に実施され
る。この場合、添加すべき水の量は、蒸留の終了時において水中に20〜50重
量%のプロピオニトリルの濃度が得られるように計算される。
第二の実施態様において、共沸蒸留は、反応媒体に低級アルコール、例えばメ
タノール又はエタノールを添加した後に実施される。この場合、添加すべき低級
アルコールの量は、蒸留の終了時において低級アルコール中に20〜45%のプ
ロピオニトリルの濃度が得られるように計算される。低級アルコールとしてはエ
タノールを用いるのが好ましい。
第三の実施態様において、共沸蒸留は、反応媒体に水と低級アルコールとの混
合物を添加した後に実施される。この混合物は、水20〜60重量%と低級アル
コール80〜40重量%とから構成されるのが好ましく、水40〜60重量%と
低級アルコール60〜40重量%とから構成されるのがより一層好ましい。この
場合、添加すべき混合物の量は、蒸留工程の終了時において8〜30%、好まし
くは10〜20%のプロピオニトリルの濃度が得られるように計算される。
溶媒(1)の全部を完全に除去するためには、水、低級アルコール又は水と低
級アルコールとの混合物を添加する操作と共沸蒸留操作とを何回か繰り返すこと
ができ、そうするのが有利である。
工程(iv)において、式Iの化合物(随意に塩の形のもの)を得るために式IVの
プロピオニトリルの酸又は塩基加水分解を実施する。これは、塩酸若しくは硫酸
のような強酸を添加することによって、又はアルカリ金属水酸化物のような強塩
基、好ましくは水酸化ナトリウム若しくは水酸化カリウムを添加することによっ
て、実施される。この第二の態様が好ましい。後者の場合、カルボン酸塩を式I
の酸に転化させるために、続いての酸性化が必要である。
強塩基を作用させることによって加水分解を行なう時には、1〜10当量の塩
基を用いるのが好ましく、3〜6当量の塩基を用いるのがより一層好ましい。強
塩基がアルカリ金属水酸化物である場合、これは10〜50重量%水溶液の形、
好ましくは20〜40重量%、より一層好ましくは30重量%水溶液の形で添加
するのが好ましい。
塩基を添加する前に、反応混合物をさらに水、低級アルコール又は水と低級ア
ルコールとの混合物で希釈することができ、そうするのが有利である。
この工程において添加すべき溶媒の量及び性状は、当業者が容易に決定するこ
とができる。工程(iii)の終わりに水性懸濁液が存在する場合には、水中のプロ
ピオニトリルIVの濃度が20〜45重量%の範囲になるように水を随意に添加す
ることができる。しかしながら、アルコール又はアルコールと水との混合物を添
加することも除外されるものではないということに留意すべきである。この場合
、アルコール又は前記混合物の量は、混合物中のプロピオニトリルの最終濃度が
8〜30重量%、好ましくは10〜20重量%の範囲になるように計算される。
工程(iii)の終わりにアルコール性懸濁液が存在する場合には、アルコール対
プロピオニトリルのモル比が10〜20の範囲、好ましくは12〜15の範囲の
値
になるのに必要な量のアルコールを添加する。しかしながら、ここでも再び、水
又はアルコールと水との混合物を添加することは除外されない。添加すべき水又
は前記混合物の量は、最終混合物中のプロピオニトリルの濃度が8〜30重量%
の範囲、好ましくは10〜20重量%の範囲になるように計算される。
工程(iii)の終わりにアルコールと水との混合物中の懸濁液が存在する場合に
は、混合物中のプロピオニトリルの濃度が8〜30重量%の範囲、好ましくは1
0〜20重量%の範囲になるのに必要な量の水及び(又は)アルコールを添加す
る。
加水分解条件は、例えば次の通りである。
工程(iii)において得られた懸濁液を随意に希釈し且つ塩基を添加した後に
、反応媒体を大気圧において60℃〜混合物の還流温度の範囲、好ましくは約8
0℃に、3〜8時間加熱する。
必要ならば、蒸留、随意に共沸蒸留によって、低級アルコールを除去する。次
いで残った水性相を、随意にハロゲン化されていてもよい脂肪族又は芳香族炭化
水素から選択される有機溶媒、好ましくはトルエン又はo−ジクロルベンゼンを
用いて抽出して水性相中の不純物の大部分を除去する。
抽出は、温かい状態で、即ち65℃〜75℃の範囲の温度において実施するの
が有利である。
こうして、式Iの化合物のアルカリ塩が水性相中の溶液状で得られる。
また、式Iの塩を対応するカルボン酸に転化させることもでき、そうするのが
望ましい。
このためには、水性相に塩酸又は硫酸のような強酸を1〜10当量、好ましく
は3〜5当量添加する。この強酸が硫酸である場合、この酸の濃厚水溶液、好ま
しくは少なくとも95%で98%までの溶液を用いる。強酸が塩酸である場合に
は、36%水溶液で充分である。
より正確には、酸性化のための操作条件は次の通りである。
前の工程において過剰に用いた塩基の中和反応(a)及び式Iの化合物のアル
カリ塩のカルボキシレート官能基によるプロトン捕獲反応(b)は発熱性である
ので、酸を溶液に添加する時には温度を調節しなければならない。この温度は、
添加の間を通じて50℃〜70℃に保つのが好ましい。
酸性化は45分間〜2時間続けるのが一般的である。
生成した酸は、水性相中に不溶であり、沈殿する。これは、室温に冷却した後
に、固液混合物を分離するための任意の既知の技術を用いて、特に濾過によって
、反応媒体から分離される。
水で洗浄し、随意にアルコールで洗浄し、次いで大気圧又は20〜100mm
Hg(2.66×103Pa〜1.33×104Pa)の減圧下で室温〜100℃
の範囲の温度において乾燥させることによって、式Iの所期の化合物がその酸の
形で得られる。
本発明の方法は、多くの利点を有する。
本方法を用いることによって収率の実質的な改善が得られる。さらに、本方法
において用いられる溶媒及び反応成分の量は、従来技術において推奨されていた
ものよりも実質的に少ない。
さらに、式IVの中間体を分離する必要な全くなく、このことは全体的な収率の
改善に寄与する。
最後に、アクリロニトリルの使用量が少ないということは、本方法を工業的に
利用するのに特に好適なものにする。
以下、本発明を実施例によってさらに例示する。
例1:3−(10−フェノチアジル)プロパン酸 1リットルのガラス製反応器中にトルエン180g、フェノチアジン99.6
g(0.5モル)、アセトニトリル54g及びアクリロニトリル66.5g(1
.25モル)を不活性雰囲気下において撹拌しながら入れた。
この媒体を50℃に加熱し、次いでアクリロニトリル6g中のトリトン(Trit
on)B(水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム、メタノール中40%)1.2
5gの溶液を素早く添加した。
反応の発熱によって媒体の温度が72〜75℃に上昇した。媒体は均一になり
、茶色に変色した。加熱することによってこの温度を45分間維持した。
過剰分のアクリロニトリル及びアセトニトリルを減圧下{350〜400mm
Hg(4.66×104Pa〜5.33×104Pa)}において蒸留した後に、
60℃の水295gを添加し、次いでトルエンが媒体から除去されるまでトルエ
ン/水共沸混合物を250mmHg(3.33×104Pa)において真空蒸留
した。3−(10−フェノチアジル)プロピオニトリルの水性懸濁液が得られた
。
この反応媒体を室温まで冷却し、次いでエタノール240g及び30%水酸化
ナトリウム水溶液288gを添加した。この媒体を76℃に5時間加熱した。次
いでエタノールが除去されるまでエタノール/水共沸混合物を蒸留した。70℃
においてトルエン150gを添加した。70℃においてデカンテーションした後
に、3相液状媒体が得られ、下の2つの相をそれぞれ70℃において100gず
つのトルエンで2回向流抽出した。
得られた2つの下相を50℃に冷却し、次いで95%濃硫酸143gをゆっく
り(1時間かけて)添加することによってpH0の酸性にした。
得られた沈殿を室温において濾過し、水で(100ミリリットルずつ3回)洗
浄し、次いで冷エタノール95gで洗浄し、次いで乾燥させた。
こうして、純度98%(HPLC分析による)の3−(10−フェノチアジル
)プロパン酸の白色粉末96gが得られた。10−フェノチアジンに対する単離
された化合物の全体的な収率は69%だった。
例2:3−(10−フェノチアジル)プロパン酸
1リットルのガラス製反応器中にトルエン260g、フェノチアジン99.6
g(0.5モル)、アセトニトリル90g及びアクリロニトリル66.5g(1
.25モル)を不活性雰囲気下において撹拌しながら入れた。
この媒体を50℃に加熱し、次いでトリトンB(水酸化ベンジルトリメチルア
ンモニウム、メタノール中40%)1.26gを素早く添加した。反応の発熱に
よって媒体の温度が72〜75℃に上昇した。媒体は均一になり、茶色に変色し
た。加熱することによってこの温度を60分間維持した。
過剰分のアクリロニトリル及びアセトニトリルを減圧下{350〜400mm
Hg(4.66×104Pa〜5.33×104Pa)}において蒸留した後に、
エタノール190gと水61gとの混合物を添加し、次いで撹拌するのが困難な
媒体が得られるまでトルエン/エタノール/水の3成分共沸混合物を大気圧下に
おいて蒸留した。媒体からトルエンを完全に除去するために、この操作をさらに
3回、エタノールと水との104g/34g、100g/32g及び85g/2
7gの混合物を用いて繰り返した。3−(10−フェノチアジル)プロピオニト
リルの水性アルコール性懸濁液が得られた。
この反応媒体を室温まで冷却し、次いでエタノール88g及び22%水酸化ナ
トリウム水溶液402gを添加した。この媒体を76℃に3時間15分加熱した
。次いでエタノールが除去されるまでエタノール/水共沸混合物を蒸留した。7
0℃においてトルエン250gを添加した。70℃においてデカンテーションし
た後に、3相液状媒体が得られ、下の2つの相をそれぞれ70℃において150
gのトルエン及び次いで100gのトルエンで、2回向流抽出した。
得られた2つの下相を50℃に冷却し、次いで95%濃硫酸143gをゆっく
り(1時間かけて)添加することによってpH0の酸性にした。
この媒体を0℃に冷却した。得られた沈殿を濾過し、水で(150g及び13
5g)洗浄し、乾燥させた。
こうして、純度94%(HPLC分析による)の3−(10−フェノチアジル
)プロパン酸の僅かにピンク色の粉末102gが得られた。フェノチアジンに対
する単離された化合物の全体的な収率は70.4%だった。
この生成物をトルエンから再結晶することによって、再結晶収率98%で純度
98%を越える(HPLC分析による)3−(10−フェノチアジル)プロパン
酸を得ることができた。
例3:3−(10−フェノチアジル)プロパン酸
1リットルのガラス製反応器中にトルエン180g、フェノチアジン99.6
g(0.5モル)、アセトニトリル60g及びアクリロニトリル62g(1.1
7モル)を不活性雰囲気下において撹拌しながら入れた。
この媒体を50℃に加熱し、次いでトリトンB(水酸化ベンジルトリメチルア
ンモニウム、メタノール中40%)1.25gを素早く添加した。
反応の発熱によって媒体の温度が72〜75℃に上昇した。媒体は均一になり
、茶色に変色した。加熱することによってこの温度を60分間維持した。
過剰分のアクリロニトリル及びアセトニトリルを減圧下{350〜400mm
Hg(4.66×104Pa〜5.33×104Pa)}において蒸留した後に、
水150gを添加し、次いでトルエンが媒体から除去されるまでトルエン/水の
共沸混合物を約250mmHg(3.33×104Pa)において真空蒸留した
。3−(10−フェノチアジル)プロピオニトリルの水性懸濁液が得られた。
この反応媒体を室温まで冷却し、次いでエタノール196g及び30%水酸化
ナトリウム水溶液260gを添加した。この媒体を76℃に5時間加熱した。次
いでエタノールが除去されるまでエタノール/水共沸混合物を蒸留した。水10
0g及びトルエン150gを添加した。媒体の温度を75℃に上昇させた。75
℃においてデカンテーションした後に、3相液状媒体が得られ、下の2つの相を
依然として75℃において100gずつのトルエンで2回向流抽出した。
得られた2つの下相を50℃に冷却し、次いで95%濃硫酸140gをゆっく
り(1時間かけて)添加することによってpH0の酸性にした。
得られた沈殿を室温において濾過し、水で(100ミリリットルずつ3回)洗
浄し、次いで冷エタノール95gで洗浄し、乾燥させた。
こうして、純度99%(HPLC分析による)の3−(10−フェノチアジル
)プロパン酸の白色粉末89gが得られた。10−フェノチアジンに対する単離
された化合物の全体的な収率は65%だった。
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【要約の続き】
(ここで、X、i、j、R1、R2、R3及びR4は請求項
1記載の通りである)の化合物の製造方法に関する。