レーザ発振する光の波長を高速かつ広範囲に掃引することが可能な波長掃引光源が知られている。この波長掃引光源は、純粋科学から日常医療にわたる範囲の技術分野で利用することができる。例えば、電子デバイスや生体の断面像を非破壊測定する光コヒーレンストモグラフィ(OCT)の光源、レーザ分光の光源等として利用することが可能である。
従来の波長掃引光源として、非特許文献1には、空間光学系を用いた光共振器内に利得媒質と回折格子とを備える構成が開示されている。図12は、従来の波長掃引光源の構成を説明する図である。
図12に示す波長掃引光源は、出力結合鏡612と端面鏡610とを両端とする光共振器内に、利得媒質601、光偏向器603および回折格子606を備える。図12では、光共振器内には、光のビームスポットサイズや光路を調整するためのレンズ602、611が組み込んである。
利得媒質601は、例えば光半導体増幅素子(SOA)である。この利得媒質601に電流を注入することにより、その利得媒質の両端から自然放出光を出力する。利得媒質601から出力される自然放出光は、利得媒質601における利得帯域に相当する広いスペクトル幅を有する。
利得媒質601から回折格子606側に出力された光は、その光軸上に設けられた光偏向器603を経て、入射角θで回折格子606に入射される。回折格子606は、入射された広いスペクトル幅の光を、波長ごとに異なる回折角で回折する。回折光は端面鏡610で反射されるが、反射光のうち、端面鏡610に対して垂直に入射する波長の光(図中では回折角がφで示してあるもの)のみが、回折格子606上の元の位置(θで入射したときの位置)に戻る。この元の位置に戻った光が、光偏向器603を経て、利得媒質601へ戻る。
利得媒質601から出力結合鏡612側に出力される光は、その一部が出力光613として出力され、その残りが利得媒質601側に戻る。利得媒質601からの自然放出光は、回折格子606によって特定の波長の光のみが選択される。そして、選択された光が出力結合鏡612と端面鏡610との間で共振することにより、上述の特定の波長でレーザ発振が行われることになる。
回折格子606は、レーザ発振する波長を選択する波長フィルタの役割を担うようになっているが、一般に、光偏向器603側から回折格子606へ入射する入射角θは、図12に示した入射角φと比較して、値の大きさが大きくなるよう設定される。その結果、回折格子606への入射光束607と比べて、回折格子606からの出射光束608のビーム幅は伸張され、太く広がり角の小さい光束として端面鏡610で反射される。これにより、波長フィルタの選択波長幅を狭窄化することができる。すなわち、出力光613のスペクトル幅を狭窄化することができる。
出力光613の発振波長は、光偏向器603により回折格子606への入射角θを変えることによって制御することができる。光偏向器603としては、例えば、特許文献1で開示されているような、電気光学結晶を用いた光偏向器が用いられる。
光偏向器603には、図12に示すように、2つの電極609−1,609−2が形成され、電極609−1には制御電圧源604が結線され、電極609−2は接地される。電極609−1,609−2を介して電気光学結晶605内において、電界をy方向に印加した場合、その電界を垂直方向に横切るx方向の入射光束607は、y方向に偏向される。
上述の偏向角は、電気光学結晶605に印加する電圧値に応じて変わる。このような光偏向器603を用いて電気光学結晶605に印加する電圧値を変えることによって、可動部の介在なしに高速な偏向が実現される。
次に、上述した出力光613のスペクトルについて、図13を参照して説明する。図13は、(a)共振器の縦モード、(b)回折格子606の透過スペクトル、(c)出力光613のスペクトル、(d)出力光613の中心周波数が掃引される様子、を示す。
図13(a)において、図12に示した波長掃引光源では、共振器縦モードは、出力結合鏡612と端面鏡610との間の光路長に応じて決まる。ここで、出力結合鏡612と端面鏡610との間の長さをLc、光共振器内の等価屈折率(共振器が均一な屈折率を有する物質で満たされているとみなした場合の屈折率)をn、光速をcとすると、隣り合う共振器縦モードの周波数間隔FSR、モード番号k(kは正数)の共振器縦モードの周波数fkは、下記式(1)および式(2)で表される。
FSR = c/(2nLc) (1)
fk = kc/(2nLc) (2)
回折格子606は、図13(b)に示すような透過スペクトルを有する。ここで、その中心周波数をFaとすると、波長掃引光源からの出力光613のスペクトルは、図13(c)に示すように、図13(a)に示した共振器縦モードと図13(b)に示した透過スペクトルとを重畳した中心周波数Faのスペクトルとなる。
波長掃引光源を構成する光共振器では、空間光学系で用いられるため光路長Lcが比較的長くなる。これにより、FSRの周波数間隔は、波長フィルタの透過スペクトル幅よりも狭くなり、出力光613がマルチモード発振となる。
なお、出力光613のスペクトル幅は、実際には波長フィルタの透過スペクトル幅よりも狭くなるが、説明の簡略化のため、図13ではスペクトル幅が同じになるように表記している。
光偏向器603の偏向動作により回折格子606への入射角θを変更し、回折格子606の透過スペクトルの中心周波数がFa→Fb→Fcと掃引されると、出力光613の中心周波数も、Fa→Fb→Fcと掃引されていくことになる(図13(d))。
なお、波長フィルタの透過スペクトルと共振器縦モードは、常に一致して周波数掃引されるわけではない。このため、波長フィルタの周波数掃引に伴い、出力光613のスペクトルは、隣接する共振器縦モードを順次励振しながら掃引される。図13(d)を参照すると、波長フィルタの透過スペクトルの中心周波数がFaの場合、出力光613は、通し番号1−7の共振器縦モードが励振する。
さらに波長フィルタが周波数掃引され、その透過スペクトルの中心周波数がFbになると、上述の通し番号1−7の共振器縦モードは減衰し、通し番号8−14の共振器縦モードが励振する。さらに、波長フィルタの透過スペクトルの中心周波数がFcになると、上述の通し番号8−14の共振器縦モードは減衰し、通し番号15−21の共振器縦モードが励振する。このようにして、出力光613は、隣接する共振器縦モードを順次励振しながら波長掃引されることになる。
以下、本発明の波長掃引光源の実施形態について説明する。図1は本実施形態の波長掃引光源1の構成例を示す図である。
この波長掃引光源1は、レーザ発振する出力光の波長を掃引する。図1に示すように、波長掃引光源1は、第1のミラー(出力ミラー)101と、利得媒質102と、光偏向器103と、回折格子(波長フィルタ)104と、第2のミラー(反射ミラー)105とを備える。この波長掃引光源1では、光共振器の両端は、第1のミラー101と第2のミラー105とによって形成される。
なお、第1のミラー101として、図1に示した構成に限られず、利得媒質102の端面に金属薄膜や誘電体多層膜などによる反射膜を設ける構成とすることもできる。この場合、図1に示した構成に比べて、部品点数を削減することができる。また、空間光学系の光軸調整を容易に行うことができるようになる。
利得媒質102は、例えば光半導体増幅素子(SOA)で形成され、レーザ発振するようになっている。第1のミラー101は、光の一部を反射させ、別の一部を透過させ、これにより、第1のミラー101からレーザ光が出力される。なお、利得媒質102は、SOAに限られず、他の構成を適用することもできる。
光偏向器103は、利得媒質102の一端から入射される光を偏向させる。図1では、入射光は、偏向中心となるピボット点106からの偏向角が与えられるようになっている。なお、ピボット点106は、実在するものではなく、仮想の位置に設けられるようにしてもよい。
図1において、ピボット点106から回折格子104側に延在する線は、光偏向器103によって偏向された光線を示している。
光偏向器103は、例えば電気光学結晶を用いた光偏向器であるが、これに限定されない。光偏向器103は、例えば音響光学偏向器などを適用するようにしてもよい。
[波長掃引光源の設計パラメータ]
次に、図1に示した波長掃引光源1の設計パラメータについて説明する。図1において、θiは光偏向器103からの光が回折格子104に入射する入射角を表す(θiは変数)。φはθiの余角を表す。すなわち、φ=π/2−θiとなる(φは変数)。
なお、図1において、回折格子104の回折面に対する法線は、点線で表してある。
αは光偏向器103によって光が偏向した角度、すなわち偏向角を表す(αは変数)。Kは光偏向器103から偏向角α=0で出射された光(光偏向器103を直進した光)が回折格子104において入射する位置(A点)と、A点から第2のミラー105に垂線を下したときの垂線の足(B点)との距離(光路長)を表す(Kは定数)。
Nは第1のミラー101とピボット106との距離(光路長)を表す(Nは定数)。Hは、ピボット点106と、このピボット106から回折格子104に垂線を下したときの垂線の足(C点)との距離を表す(Hは定数)。
φcは光偏向器103から偏向角α=0で出射された光(光偏向器103を直進した光)が回折格子104に入射する入射角の余角を表す(φcは定数)。すなわち、光偏向器103の偏向角がα=0の場合、φ=φcとなる。
θmは、回折格子104の回折面に対する法線と、A点とB点との間を結ぶ線(ミラー105のミラー面に対する法線)とがなす角度を表す(θmは定数)。
[設計パラメータの設定条件]
以下、上述した設計パラメータの設定条件について説明する。
波長掃引光源1の基本的な構成は、一般的なリットマン配置の構成とおおむね同じである。しかし、本実施形態の波長掃引光源1では、上記の設計パラメータは、光偏向器103において光路が掃引されるときに回折格子104によって選択される波長と共振器の縦モード波長とがほぼ同期して遷移するように値が設けられる。
波長掃引光源1では、光偏向器103によって光が偏向されると、回折格子104への入射角θiと、その余角φは変化する。
一方、回折格子104の1次回折光の回折角がθmとなる波長の光のみが、第2のミラー105で反射されて、共振器内の光路上でレーザ発振する。すなわち、光偏向器103の駆動により偏向角αが掃引されると、波長掃引光源1から出力されるレーザ光は、回折格子104の1次回折角がθmとなる特定の波長のみが選択されて波長掃引される。回折格子104によって選択される特定の波長を、以下の説明では「フィルタ波長」と称する。
光偏向器103の偏向角がα(回折格子104への入射角の余角がφ)であるときのフィルタ波長をλg(φ)とすると、下記式(3)で表される。
λg(φ)=a(cosφ−sinθm) (3)
式(3)において、aは回折格子104のピッチを示す。
光偏向器103の偏向角がα(回折格子104への入射角の余角がφ)であるときの各ミラー101,105間の光路長、すなわち共振器長をL(φ)とすると、図1に示した配置から、下記式(4)で表される。
共振器縦モードの波長は、共振器長に関連する(上記式(2)参照)。
ここで、モード番号q(qは正数)の共振器の縦モードの波長をλL(φ)とすると、下記式(5)で表される。
なお、上記式(5)において、共振器内の等価屈折率はn=1とする。
上記式(3)および式(5)から、回折格子104への入射角の余角φが変化することにより、フィルタ波長λg(φ)も共振器の縦モードの波長λL(φ)も変化する。
ただし、余角φの変化に伴って、フィルタ波長と共振器の縦モードの波長との変化量は常に一致するわけではない。このことは、図2を参照して説明する。
図2は、回折格子104に入射する光ビームの入射角の余角φが変化する場合のフィルタ波長λg(φ)と共振器の縦モードの波長λL(φ)との関係を示す図であって、(a)は両者の波長にずれが存在する様子、(b)はそのずれを最小化する様子、を示す。
図2(a)に示すように、フィルタ波長λg(φ)と共振器の縦モードの波長λL(φ)とは、φ=φ0において一致するようになっているが、両者の余角φに対する傾きは一致しない。余角φがφ0の値から大きくまたは小さく変化するにつれ、各波長λg(φ),λL(φ)のずれは大きくなる。
このようなずれを最小化するためには、図2(b)で示すように、φ=φ0の近傍において、各波長λg(φ),λL(φ)の傾き、すなわちφによる微分値が一致するように、各種パラメータを設定するのが好ましい。これにより、波長掃引光源1では、光偏向器103によって高速に偏向し、回折格子104への入射角の余角φを変化させ、高速に波長掃引するとしても、フィルタ波長λg(φ)と共振器の縦モードの波長λL(φ)とがほぼ同期して遷移するようになる。このため、安定したレーザ発振が可能となる。この実施形態では、上述した設計パラメータは、φ=φ0において、回折格子104への光の入射角に対する選択される波長の変化量と、共振器の縦モード波長の変化量とが一致するように設定される。
なお、φ=φ0において、各波長λg(φ),λL(φ)が一致しかつ各波長λg(φ),λL(φ)のφによる微分値が一致する条件を、以下の説明では「QPCT(Quasi Phase Continuous Tuning)条件」と称する。
[QPCT条件の導出方法]
次に、QPCT条件の導出方法について説明する。以下では、フィルタ波長λg(φ)と共振器の縦モードの波長λL(φ)とが等しくなるときの余角をφ=φ0とする。また、それらの波長λg(φ),λL(φ)が等しくなるときの、共振器の縦モードの波長λL(φ)のモード番号をq0とすると、下記の式(6)で表される。
モード番号q0に着目して、上記式(6)を置き換えると、下記式(7)で表される。
上記式(4)と式(7)とから、共振器縦モード波長は、下記式(8)で表される。
上記式(8)について、余角φで微分すると、下記式(9)で表される。
上記式(9)においてφ=φ0とすると、下記式(10)が成り立つ。
上記式(3)より、下記式(11)が成り立つ。
λg(φ)とλL(φ)の、φによる微分値が、φ=φ0において一致するとき、下記式(12)が成り立つ。
上記式(12)から、上記式(10)は、下記式(13)のように整理できる。
ここで、(N+K)とHとの比が上記式(11)を満たすとき、上述したQPCT条件となる。この場合、φ=φ0の近傍において、フィルタ波長λg(φ)と共振器の縦モードの波長λL(φ)とが同期する。このときの波長掃引光源1では、高速に波長掃引しても、安定したレーザ発振を行うことができる。
[余角φ0の設計値]
次に、フィルタ波長λg(φ)と共振器の縦モードの波長λL(φ)とが一致する余角φ0の設計値について説明する。
以下の説明では、波長掃引光源1の設計パラメータがQPCT条件を満たした条件下において、回折格子104への入射角の余角φ=φ0、φcの最適設計について検討する。
共振器の縦モードの波長λL(φ)は、下記式(14)で表される。
上記式(14)を整理すると、モード番号qをHで除算したものは、下記式(15)で表される。
ここで、上述したQPCT条件の式(13)を用いると、上記式(15)中の左辺は下記式(16)で表される。
上記式(16)は、回折格子104への入射角θiの余角φを固定したときの、共振器の縦モードの波長λL(φ)とモード番号qとの対応を表現した式である。
ここで、フィルタ波長λg(φ)およびその周辺の波長に着目して以下検討する。典型的なレーザ発振線幅として、例えば0.1nmの場合を考える。すなわち、波長領域は、λg(φ)−0.05nm〜λg(φ)+0.05nmである。
この波長領域(λg(φ)−0.05nm〜λg(φ)+0.05nm)の共振器縦モードがレーザ発振した場合において、共振器の縦モードの波長=(λg(φ)−0.05nm)となるモード番号をq−、共振器の縦モードの波長=(λg(φ)+0.05nm)となるモード番号をq+とすると、モード番号がq−〜q+の間の共振器の縦モードがレーザ発振することになる。このときのq+/Hは、下記式(17)で表される。
さらに上記式(17)は下記式(18)で表される。
さらに上記式(18)は下記式(19)で表される。
一方、q−/Hは、下記式(20)で表される。
さらに上記式(20)は下記式(21)で表される。
さらに上記式(21)は下記式(22)で表される。
次に、波長掃引光源1において、波長掃引によってレーザ発振波長がΔλだけシフト(例えばΔλ=0.1nm)した場合について検討する。
この場合、フィルタ波長λg(φ+Δφ)=λg(φ)+Δλ、および、その周辺の波長領域に着目して以下検討する。すなわち、波長領域は、(λg(φ)+Δλ−0.05nm)〜(λg(φ)+Δλ+0.05nm)である。
この波長領域(λg(φ)+Δλ−0.05nm)〜(λg(φ)+Δλ+0.05nm)の共振器縦モードがレーザ発振した場合において、共振器の縦モードの波長=(λg(φ)+Δλ−0.05nm)となるモード番号をq−´、共振器の縦モードの波長=(λg(φ)+Δλ+0.05nm)となるモード番号をq+´とすると、モード番号がq−´〜q+´の間の共振器の縦モードがレーザ発振することになる。このときのq+´/Hは、下記式(23)で表される。
さらに上記式(23)は下記式(24)で表される。
さらに上記式(24)は下記式(25)で表される。
一方、q−´/Hは、下記式(26)で表される。
さらに上記式(26)は下記式(27)で表される。
さらに上記式(27)は下記式(28)で表される。
ここで、下記式(29)の関係から、Δλが与えられると、Δφが求まる。このことから、上述のq+´,q−´が求まる。
次に、波長掃引光源1において、波長掃引によってレーザ発振波長がΔλだけシフトする前と、シフトした後において、レーザ発振する共振器の縦モードが維持される割合について図3を参照して検討する。
図3は、波長掃引時にレーザ発振波長がシフトするときのシフト前およびシフト後の各々のモード番号を示す図である。
図3では、レーザ発振波長のシフト量が、Δλとして設定される。レーザ発振波長がΔλだけシフトする前に発振しているすべての共振器の縦モードのうち、シフト後にも発振する縦モードがある場合を考え、そのシフト前後の縦モードの比を求める。この実施形態では、その比は、共振器の縦モードが維持される割合(以下、単に「割合」と略記する。)であることを意味する。
上述した割合が大きいほど、レーザ発振波長がシフトする場合に共振器の縦モードの多くが減衰することなく発振し続けることになる。
図3に示したように、レーザ発振波長がΔλだけシフトしたときの割合は、下記式(30)で表される。
波長掃引光源1において高速な波長掃引を実現するために、上記式(30)で得られる割合が掃引波長の領域においてなるべく大きい値となるようにすることになる。そして、前述したQPCT条件を満たすようにする。
次に、波長掃引光源1における設計パラメータの具体例をあげて、割合を計算して、回折格子104への入射角の余角φ=φ0,φcの最適設計について検討する。
(計算例1)
計算例1では、回折格子104のピッチaは1/950mm、光偏向器103の偏向角αがα=0である光(すなわち光偏向器103を直進した光)の回折格子104への入射角(π/2-φc)は57.5度とする。そして、上述したように、レーザ発振線幅は0.1nm、波長シフトΔλは0.1nmとして割合を計算する。
この計算例1では、光偏向器103の偏向角αが0である光(光偏向器103を直進する光、すなわちφ=φc)に対応する波長として、1310nm,1320nm,1330nmの3つの波長を考え、それらの波長を中心に±50nm波長掃引された場合の割合の計算結果を、それぞれ図4〜図6に示している。
図4は中心波長が1310nmの時に波長を掃引した場合の割合を説明するための図、図5は中心波長が1320nmの時に波長を掃引した場合の割合を説明するための図、図6は中心波長が1330nmの時に波長を掃引した場合の割合を説明するための図である。なお、図4〜図6において、横軸は波長(um)、縦軸は割合を示す。
図4〜図6では、フィルタ波長と共振器の縦モードの波長とが等しいときの回折格子104への入射角の余角φ0と、光偏向器103の偏向角がα=0である光(光偏向器103を直進した光)が回折格子104へ入射したときの入射角の余角φcとが一致する場合(φ0=φc)、および、その前後3度の場合(すなわち、φ0=φc-1°,φ0=φc-2°,φ0=φc-3°,φ0=φc+1°,φ0=φc+2°,φ0=φc+3°)が計算されている。また、これらのそれぞれの場合について、上記式(13)のQPCT条件が成立するように(N+K)とHとの比が定められているとする。具体的には、φ0=φcのとき8.1,φ0=φc-1°のとき9.1,φ0=φc-2°のとき10.2,φ0=φc-3°のとき11.4,φ0=φc+1°のとき7.3,φ0=φc+2°のとき6.5,φ0=φc+3°のとき5.9とすればよい。これにより、φ=φ0の近傍においてフィルタ波長と縦モード波長とがほぼ同期する。
図4に示す通り、中心波長が1310nmで、かつφ0=φcの場合、掃引幅が最も短い波長(=1260nm)の場合、割合は0.67となる。また、掃引幅が最も長い波長(=1360nm)の場合、割合は0.30に低下してしまう。
ここで、φ0を小さくしていくと、波長=1360nmにおける割合が大きくなる。例えば、φ0=φc-2°の場合には、割合は0.58となる。一方、φ0=φc-2°の場合、波長=1260nmにおける割合は0.55となる。つまり、1260nm〜1360nmの掃引波長領域の全域にわたり、割合が0.55以上の値となる。
また、図5に示す通り、中心波長が1320nmで、かつφ0=φcの場合、掃引幅が最も短い波長(=1270nm)の場合、割合は0.67となる。また、掃引幅が最も長い波長(=1370nm)の場合、割合は0.30に低下してしまう。
図5でも、φ0を小さくしていくと、波長=1370nmにおける割合が大きくなる。例えば、φ0=φc-2°の場合には、割合は0.58となる。一方、φ0=φc-2°の場合、波長=1270nmにおける割合は0.55となる。つまり、1270nm〜1370nmの掃引波長領域の全域にわたり、割合は0.55以上の値となる。
さらに、図6に示す通り、中心波長が1330nmで、かつφ0=φcの場合、掃引幅が最も短い波長(=1280nm)の場合、割合は0.67となる。また、掃引幅が最も長い波長(=1380nm)の場合、割合は0.30に低下してしまう。
図6でも、φ0を小さくしていくと、波長=1380nmにおける割合が大きくなる。例えば、φ0=φc-2°の場合には、割合は0.58となる。一方、φ0=φc-2°の場合、波長=1280nmにおける割合は0.55となる。つまり、1280nm〜1380nmの掃引波長領域の全域にわたり、割合は0.55以上の値となる。
上記の結果から、φ=φcとなる波長の周辺において掃引する場合、φ0<φcとすることによって、φ0=φcの場合よりも、掃引波長の領域全域にわたって、割合が最も小さくなる値が大きくなることがわかる。換言すれば、フィルタ波長と共振器の縦モードの波長とが等しいときの回折格子104への入射角の余角φ0は、光偏向器103の偏向角αが0である光が回折格子104へ入射したときの入射角の余角φcよりも小さくするのが好ましい。この理由を図7を参照して説明する。
図7は、波長と割合との関係を示す図である。
図7に示した例において、φ=φ0に対応する波長の場合、割合は1で最大となり、それよりも短波長側では、割合は1より小さくなる。短波長側において、割合=1に関して折り返す(図7中、点線で示す。)と、短波長側/長波長側全域にわたって上に凸の曲線となる。すなわち、長波長になるにつれ、図7中に示してある線の微分(接線の傾き)の絶対値が大きくなる。すなわち、短波長側における割合の減少に比べ、長波長側における割合の減少は急速なものとなる。そのため、掃引する波長領域の中心波長を、φ=φ0に対応する波長よりも短波側にすることによって、掃引波長領域の長波長側での割合の低下を抑制することが可能となり、掃引波長の領域全域における割合の最小値を大きくすることができる。
(計算例2)
次に、計算例2の場合について説明する。
計算例2では、回折格子104のピッチaは1/750mm、光偏向器103の偏向角αがα=0である光(すなわち光偏向器103を直進した光)の回折格子104への入射角(π/2-φc)は65度とする。この場合も、上述したように、レーザ発振線幅は0.1nm、波長シフトΔλは0.1nmとして割合を計算する。
この計算例2の条件(a=1/750mm、(π/2-φc)=65°)での回折格子104におけるフィルタリングの狭窄特性は、計算例1の条件(a=1/950mm、(π/2-φc)=57.5°)での回折格子104におけるフィルタリングの狭窄特性とほぼ等しくなる。これは、光ビームの直径内に含まれる格子の本数が等しいときに回折格子104のフィルタリング特性がほぼ等しくなるためである。この点について図8を参照して説明する。
図8は、回折格子104に入射する光ビームの入射角を説明するための図である。
図8に示すように、回折格子の本数は、光ビーム直径dと 回折格子のピッチaと、 回折格子104への入射角をθiとから、(d/cosθi)/aとして算定される。
計算例2においても、計算例1の場合と同様に、光偏向器103の偏向角αが0である光(光偏向器103を直進する光、すなわちφ=φc)に対応する波長として、1310nm,1320nm,1330nmの3つの波長を考え、それらの波長を中心に±50nm波長掃引された場合の割合を計算した。これらの結果を図9〜図11に示す。
図9は中心波長が1310nmの時に波長を掃引した場合の計算例2における割合を説明するための図、図10は中心波長が1320nmの時に波長を掃引した場合の計算例2における割合を説明するための図、図11は中心波長が1330nmの時に波長を掃引した場合の計算例2における割合を説明するための図である。なお、図9〜図11において、横軸は波長(um)、縦軸は割合を示す。
図9〜図11においても、図4〜6に示したものと同様に、フィルタ波長と共振器の縦モードの波長とが等しいときの回折格子104への入射角の余角φ0と、光偏向器103の偏向角がα=0である光(光偏向器103を直進した光)が回折格子104へ入射したときの入射角の余角φcとが一致する場合(φ0=φc)、および、その前後3度の場合(すなわち、φ0=φc-3°〜φc+3°)を計算した。また、これらのそれぞれの場合について、上記式(13)のQPCT条件が成立するように(N+K)とHとの比が定められているとする。具体的には、φ0=φcのとき10.4,φ0=φc-1°のとき12.1,φ0=φc-2°のとき14.1,φ0=φc-3°のとき16.5,φ0=φc+1°のとき9.0,φ0=φc+2°のとき7.8,φ0=φc+3°のとき6.8とすればよい。これにより、φ=φ0の近傍においてフィルタ波長と縦モード波長とがほぼ同期する。
図9〜図11に示したφ0=φc-3°〜φc+3°では、図4〜図6に示したものと同様に、波長が最短波長から中心波長までの間は、波長が大きくなるにつれ、割合が1の値になるまで増加していく。一方、図4〜図6に示したものと比較して、中心波長から長波長側の波長の場合の割合は、1の値から急激に小さくなっていく。
これは、波長掃引光源1において、計算例1における設定パラメータを用いるほうが計算例2における設定パラメータを用いるよりも、高速に波長掃引したとしても、より安定したレーザ発振が可能となることを意味する。
しかしながら、図9〜図11に示した計算結果から、計算例2においても、φ0<φcとすることによって、φ0=φcの場合よりも、掃引波長の領域全域にわたって、割合が最も小さくなる値が大きくなることがわかる。すなわち、フィルタ波長と共振器の縦モードの波長とが等しいときの回折格子104への入射角の余角φ0は、光偏向器103の偏向角αが0である光が回折格子104へ入射したときの入射角の余角φcよりも小さくするのが好ましい。
以上説明したように、本実施形態の波長掃引光源1によると、光偏向器103において光路が掃引されるときに回折格子104によって選択される波長と共振器の縦モード波長とが同期して遷移するように、設計パラメータがあらかじめ設定される。これにより、高速に波長掃引したとしても、新しい共振器の縦モードの励振が回折格子104の波長掃引に追いつくようになり、レーザ発振する安定した出力光が得られる。