WO2023171604A1

WO2023171604A1 - 布帛

Info

Publication number: WO2023171604A1
Application number: PCT/JP2023/008283
Authority: WO
Inventors: 雅人関山; 有希二ノ宮
Original assignee: 東レ株式会社
Priority date: 2022-03-07
Filing date: 2023-03-06
Publication date: 2023-09-14
Also published as: CN118805009A

Abstract

低摩擦性と摺動耐久性に優れ、絶縁体と摺動を受けた際の摩擦帯電を抑制可能な布帛を提供するため、本発明の布帛は、フッ素樹脂繊維とフッ素樹脂繊維以外の繊維からなる布帛基材を含み、前記フッ素樹脂繊維およびフッ素樹脂繊維以外の繊維のいずれにも導電性粒子が付着している布帛である。この布帛は、複合部材用基材表面に一体化され複合部材を形成する布帛であり、前記複合部材は絶縁体からなる物質と摺動すべく用いられる場合に好適である。

Description

布帛

　本発明は、布帛に関する。

　従来からフッ素樹脂の低摩擦係数を生かし、機械部品同士が摺動する箇所にフッ素樹脂繊維からなる摺動布帛を介在させることで、摺動界面に低摩擦性や摺動耐久性を付与する技術が知られている。従来は金属製の機械部品間に摺動布帛を介在させる手法が主流であったが、近年では部品のマルチマテリアル化が進み、摺動する部材の一方が樹脂やパルプ、天然繊維等の絶縁体からなる系に対して摺動布帛を適用する事例が想定されており、そのような使用方法に適応した摺動布帛が求められている。

　摺動布帛の基本性能である低摩擦性や摺動耐久性を向上する技術として、フッ素樹脂繊維と、フッ素樹脂繊維よりも高強度の繊維とを複合した布帛に関する技術が知られている。例えば特許文献１には、フッ素樹脂繊維を含んだ摺動織物とフッ素樹脂繊維以外の繊維を含んだベース織物からなる多重織物とすることで、ベース織物が摺動織物のＰＴＦＥ繊維を強固に拘束し、かつ、ＰＴＦＥ繊維を多重織物内に蓄積する構造であるため、長期間摺動性を発揮出来ることが示されている。更にベース織物を構成する繊維にＰＰＳ繊維を選択することで、耐熱性、耐薬品性、耐加水分解性など過酷な環境下でも耐久性を得られることが示されている。

　一方、布帛に制電性を付与する技術としては、プラズマ加工や親水薬剤等により繊維表面を親水化する方法（例えば、特許文献２）や導電性繊維を複合する方法（例えば、特許文献３）が知られている。

特許第６３９８１８９号公報特開２００７－１６９８６５号国際公開第０２／０７５０３０号

　フッ素樹脂は絶縁性が高く、帯電列が最もマイナス側に位置するため、他物質と摺動した際に負に帯電しやすい。よって摺動布帛と絶縁体が摺動した際には、摺動布帛のフッ素樹脂繊維が負に帯電するため、スパークの発生や、摺動布帛が絶縁破壊する等の懸念があった。

　本発明者らの検討によれば、特許文献１に記載されたようなフッ素樹脂繊維にＰＰＳ繊維を複合した布帛は、フッ素樹脂繊維１００％からなる布帛に比べ、絶縁体との摺動でより強く帯電することが判った。これは、絶縁体とフッ素樹脂繊維間の帯電に加え、フッ素樹脂繊維とＰＰＳ繊維が擦れ合うことによる帯電が生じるためと考えられる。このように、従来技術では上述したスパーク発生や絶縁破壊の抑制と摺動耐久性を両立させることは困難であり、摺動布帛に制電性を付与する技術が必要と考えられた。

　しかしフッ素樹脂繊維は極めて疎水性が強く、特許文献２に記載された技術を適用して繊維表面の大幅な親水化をすることは困難である。そこで発明者らが特許文献３に記載の技術を適用してフッ素樹脂繊維からなる布帛への導電性繊維の交織を検討した結果、摩擦帯電の十分な抑制効果は得られなかった。導電性繊維の比率を増加させることで所望の帯電抑制効果を達成できる可能性はあるものの、布帛設計に制限が生じ、摺動性能が低下する等の懸念があった。

　したがって、本発明は、低摩擦性と摺動耐久性に優れ、絶縁体と摺動を受けた際の摩擦帯電を抑制可能な布帛を提供することを課題とする。

　かかる課題を解決するため本発明は、次の構成を有する。

　（１）フッ素樹脂繊維とフッ素樹脂繊維以外の繊維からなる布帛基材を含み、前記フッ素樹脂繊維およびフッ素樹脂繊維以外の繊維のいずれにも導電性粒子が付着している布帛。

　（２）前記導電性粒子が、バインダー樹脂を介して前記フッ素樹脂繊維およびフッ素樹脂繊維以外の繊維に付着している、前記（１）記載の布帛。

　（３）前記バインダー樹脂の前記布帛基材に対する質量比率が０．０１％以上３０％以下である前記（１）または（２）記載の布帛。

　（４）前記布帛に対する、前記導電性粒子の単位体積当たりの付着量が３０００ｇ／ｍ^３以上５００００ｇ／ｍ^３以下である、前記（１）～（３）のいずれかに記載の布帛。

　（５）前記布帛の厚み方向において前記導電性粒子が全体的に付着している、前記（１）～（４）のいずれかに記載の布帛。

　（６）前記布帛基材が二重構造である、前記（１）～（５）のいずれかに記載の布帛。

　（７）前記布帛の一方の面に占める前記フッ素樹脂繊維の面積率が、他方の面に占める前記フッ素樹脂繊維の面積率よりも低い、前記（１）～（６）のいずれかに記載の布帛。

　（８）前記布帛の一方の面の表層内部に熱硬化性樹脂を含み、前記熱硬化性樹脂は他方の面に露出していない前記（１）～（７）のいずれかに記載の布帛。

　（９）複合部材用基材表面に一体化され複合部材を形成する布帛であり、前記複合部材は絶縁体からなる物質と摺動すべく用いられる、前記（１）～（８）のいずれかに記載の布帛。

　本発明によれば低摩擦性と摺動耐久性に優れ、絶縁体と摺動を受けた際の摩擦帯電を抑制可能な布帛が提供される。

　本発明による布帛は、フッ素樹脂繊維とフッ素樹脂繊維以外の繊維からなる布帛基材を含み、前記フッ素樹脂繊維およびフッ素樹脂繊維以外の繊維のいずれにも導電性粒子が付着する布帛である。フッ素樹脂繊維とフッ素樹脂繊維以外の繊維のいずれかのみに導電性粒子が付着する場合には、一方の繊維で絶縁されるほか、フッ素樹脂繊維とフッ素樹脂繊維以外の繊維との摩擦帯電を十分に抑制出来ないので所望の制電性が得られない。フッ素樹脂繊維とフッ素樹脂繊維以外の繊維からなる布帛は、摺動と共にフッ素樹脂繊維がフッ素樹脂繊維以外の繊維に移着して自己潤滑膜を形成し、低摩擦性と摺動耐久性を発揮するため、フッ素樹脂繊維に導電樹脂を付着させることで、前記自己潤滑膜に導電性粒子が混練され、優れた制電性を発揮する。

　導電性粒子は布帛の厚み方向全体に分布するよう付着することが、布帛が摺動された際にも導電性が継続的に得られる点で好ましい。摺動と共に最表面の繊維が摩耗しても、導電性粒子が継続的に供給されるため、制電性が維持される。上記において布帛の厚み方向全体に分布するとは、導電性粒子が布帛最表面のみに存在しているのではなく、布帛厚み方向の内層領域にも導電性粒子が付着していることをいう。

　本発明の布帛は、フッ素樹脂繊維が少なくとも一方の表面に露出することにより、優れた低摩擦性と摺動性を有するので、当該面を摺動面とする摺動布帛として好適に用いられる。よって、少なくとも摺動面として好適に用いることができる面（例えばより多くのフッ素樹脂繊維が露出している面、同程度の露出であれば、いずれか片方の面、もしくはその両面）（以下摺動面として好適に用いられる面を便宜上「摺動面」と称する場合がある）の側の表面側に導電性粒子が存在していることにより、摺動初期において十分な制電性が得られ、摩擦帯電によるスパークも抑制される。よって、少なくとも導電性粒子は上記摺動面側に存在することが好ましい。そして、前記摺動面から厚み方向の、より深部に向けて導電性粒子が存在することにより、最表面の繊維が磨耗しても、導電性粒子が継続的に供給されることとなるため、より深部まで存在する、ひいては厚み方向全体に存在することにより、より長く制電性が維持されるのである。

　導電性粒子を布帛基材に付着させる形態は、導電性粒子が分散したスラリーを布帛基材に含浸塗布した後に、布帛基材を構成する前記フッ素樹脂繊維およびフッ素樹脂繊維以外の繊維の融点付近に加熱する等して、前記フッ素樹脂繊維およびフッ素樹脂繊維以外の繊維のそれぞれと導電性粒子を融着させる方法や、導電性粒子を含むバインダー樹脂を布帛に含浸させる等して、バインダー樹脂を介して導電性粒子を前記フッ素樹脂繊維およびフッ素樹脂繊維以外の繊維に付着させる形態等が考えられる。フッ素樹脂繊維とフッ素樹脂繊維以外の繊維からなる布帛基材に対し、繊維の融点以上に加熱する等して導電性粒子を融着させる場合、フッ素樹脂繊維とフッ素樹脂繊維以外の繊維との融点差に起因した問題が生じる可能性がある。すなわち、いずれの繊維の融点以上で熱処理した場合には、低融点の繊維が過度に溶融し、布帛強度や摺動性が損なわれる可能性がある。一方の繊維の融点より小さく、且つもう片方の繊維の融点以上の温度で熱処理した場合には、低融点側の繊維に導電性粒子が十分付着し難く、所望の制電性が得られにくい。以上の観点から、導電性粒子はバインダー樹脂を介して繊維に付着する形態が好ましい。

　バインダー樹脂を介して導電性粒子を繊維に付着させる場合、布帛と樹脂の質量比率を選択することで、よりいっそう効果を向上させることができる。ここで布帛とバインダー樹脂の質量比率とは、単位面積当たりのバインダー樹脂質量を単位面積当たりの布帛基材の質量で除した値である。ここでいうところのバインダー樹脂質量とは、導電性粒子を含まないバインダー樹脂の質量である。導電性粒子を分散させたバインダー樹脂を布帛の空隙を適度に埋めるように含浸させることで、後述する自己潤滑膜を効果的に形成することが可能となり、優れた低摩擦性や摺動耐久性が得られる。具体的には、導電性粒子が少量のバインダー樹脂により繊維に付着した形態のように、布帛に対して樹脂の質量比率を比較的小さくすることで、導電性粒子を各繊維に安定的に付着させつつ、磨耗に伴い生じる自己潤滑膜の効果的な形成が可能となり、フッ素樹脂繊維に由来する低摩擦性や摺動耐久性を十分に発揮できる。上記形態を得るには、導電性粒子とバインダー樹脂を含む処理液を使用し、上記形態を得ることが可能な粘度に調整、例えば導電性粒子を分散させたバインダー樹脂の処理液を用いる場合には、必要に応じて溶媒で希釈する等して粘度を低下させる等の方法で粘度を調整し、後述する方法で処理することが有効である。これにより過剰なバインダー樹脂の付着を抑制しつつ布帛厚み方向に均一に導電性粒子を存在させると共に、繊維間に導電性粒子を存在させて糸/糸間の摩擦帯電を低減できる。

　導電性粒子が継続的に繊維に付着し、制電性を維持することが望ましい用途では、バインダー樹脂の質量比率を一定程度上げて比較的強固な付着力を得ることが好ましい。一方で、摺動材用途に用いられる本発明の布帛に制電性を付与する場合では、以下の理由から、適切な付着力が異なる。本発明の布帛が加圧環境下で繰り返し摺動を受けた際、摺動面に存在するフッ素樹脂繊維が摩耗して摩耗粉を形成する。この時、フッ素樹脂と導電性粒子が混合した摩耗粉を形成し、これが摺動の圧を受けることで相手材やフッ素樹脂繊維以外の繊維に付着し自己潤滑膜を形成する。加圧環境下では加圧により磨耗粉の各繊維への付着が促進されるので、この自己潤滑膜の形成がよりいっそう促進される。よってフッ素樹脂繊維と導電性粒子が一度脱離したとしても、摩耗粉として混合・混練が進み、最終的に膜化するため、制電性を低下させない。逆に導電性粒子とフッ素樹脂繊維またはフッ素樹脂繊維以外の繊維とが過度に強固に固着していると、摺動時にそれらを引き離すための抵抗が生じ、摩擦係数が高くなる方向にシフトする可能性がある。以上の観点から、布帛基材に対するバインダー樹脂の質量比率は３０％以下が好ましく、更に好ましくは１０％以下であり、３％以下が特に好ましい。布帛基材を構成する各繊維と導電性粒子に一定の付着力を付与する観点から、布帛基材に対するバインダー樹脂の質量比率は０．０１％以上が好ましく、更に好ましくは０．０５％以上であり、０．１％以上が特に好ましい。

　本発明の布帛は、求められる制電性と摺動性に応じて導電性粒子の付着量を選択できる。導電性粒子の付着量は通常、単位面積当たりの重量で表されるが、摺動布帛として用いる場合には布帛の厚みで最適量が異なる。即ち厚地の布帛であれば、布帛内部（表面にも裏面にも露出しない部分）に導電性粒子が付着可能な領域が多くなる。布帛内部に付着した導電性粒子は摺動で表面が摩耗した際に次第に表面に露出し、制電性を付与することが出来るため、厚地布帛では適切な導電性粒子の付着量の範囲が広くなる。一方、薄地の布帛では布帛内部に付着できる導電性粒子が少ないので、単位面積当たりに存在する導電性粒子の多くが表面に露出するため、厚地布帛に比べ、薄地布帛の最適な導電性粒子付着量の範囲は相対的に狭くなる。以上の理由から、導電性粒子の付着量は、単位面積当たりの質量を布帛の厚みで除した、単位体積当たりの付着量（ｇ／ｍ^３）で制御することが好ましい。優れた低摩擦性と摺動耐久性を得る観点からは、布帛中の導電性粒子付着量を所望の制電性を獲得できる範囲で少なくすることが好ましい。布帛中の導電性粒子付着量が多い場合には、摺動時に発生する磨耗粉中の導電性粒子成分が多くなり、フッ素樹脂繊維成分の含有比率が相対的に小さくなることで加圧摺動時の自己潤滑膜形成が阻害される。従って、上記観点から、単位体積当たりの付着量は５００００ｇ／ｍ^３以下が好ましく、より好ましくは３００００ｇ／ｍ^３以下であることが特に好ましい。初期の制電性能だけでなく、摺動後も性能を維持する観点からは、低摩擦性や摺動耐久性に影響しない範囲で導電性粒子が多く存在することが好ましい。摺動による塑性変形で導電性粒子がフッ素樹脂中に混練された場合でも、一定量の導電性粒子が存在することで導電経路を形成し、優れた導電性・制電性を維持できる。上記観点から、単位体積当たりの付着量は３０００ｇ／ｍ^３以上であることが好ましく、より好ましくは８０００ｇ／ｍ^３以上であり、１２０００ｇ／ｍ^３以上であることが特に好ましい。

　本発明で用いる布帛基材はテキスタイル形態を特に限定されず、織物、編物のほか、湿式不織布、乾式不織布等のあらゆる形態を採用できるが、構成繊維が強固に拘束し合い、寸法安定性が得られる点で織物であることが好ましい。

　本発明で用いる布帛基材として織物構造を選択する場合、織組織は特に限定される物ではなく、平組織、綾組織、繻子組織、およびこれらの変化組織等を採用できる。中でも経糸と緯糸の拘束力が高く、より優れた耐摩耗性が得られるため、平組織が特に好ましい。

　本発明で用いる布帛基材の構造は特に限定されず、一重構造のみならず二重構造や三重構造等の多層構造を採用することが出来るが、二重構造以上の多層構造であることが好ましい。多層構造とすることで、布帛内部を構成する層に付着した導電性粒子が、摺動と共に露出していき、より継続的に制電性を発現することが出来る。

　本発明の布帛は、一方の面に占めるフッ素樹脂繊維の面積率を他方の面よりも低くすることが好ましい。これにより、本発明の布帛の一面を複合部材用基材と一体化して複合部材とすべく、前記複合部材用基材と接着して用いる際、フッ素樹脂繊維の面積率の低い方の面を接着面として接着すれば、他材との接着性を向上できる点で好ましい。二重構造の場合であっても、なお、フッ素樹脂繊維が占める面積率の高い方の面において、フッ素樹脂繊維以外の繊維が存在していても良い。

　本発明で用いる布帛基材を構成するフッ素樹脂繊維の成分であるフッ素樹脂としては、主鎖または側鎖にフッ素原子を１個以上含む単量体単位で構成されたものであればよい。その中でも、フッ素原子数の多い単量体単位で構成されたものが好ましい。

　上記フッ素原子を１個以上含む単量体単位は、重合体の繰り返し構造単位の７０モル％以上含むことが好ましく、９０モル％以上を含むことがより好ましく、９５モル％以上含むことがさらに好ましい。

　フッ素原子を１個以上含む単量体としては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレンなどのフッ素原子含有ビニル系単量体が挙げられ、中でも少なくともテトラフルオロエチレンを用いることが好ましい。

　フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン（ＰＴＦＥ）、テトラフルオロエチレン－ヘキサフルオロプロピレン共重合体（ＦＥＰ）、テトラフルオロエチレン－ｐ－フルオロアルキルビニルエーテル共重合体（ＰＦＡ）、ポリクロロトリフルオロエチレン（ＰＣＴＦＥ）、エチレン－テトラフルオロエチレン共重合体（ＥＴＦＥ）等を単独または２種類以上ブレンドしたものを使用することができる。

　テトラフルオロエチレン単位を含むフッ素樹脂においては、摺動特性の点からテトラフルオロエチレン単位の含有量は多い方が好ましく、全体の９０モル％以上、好ましくは９５モル％以上がテトラフルオロエチレンであるホモポリマーまたはコポリマーであることが好ましく、テトラフルオロエチレンのホモポリマーとしてのポリテトラフルオロエチレン繊維を用いるのが最も好ましい。

　本発明で用いる布帛基材を構成するフッ素樹脂繊維の形態としては、１本のフィラメントで構成されるモノフィラメント、複数本のフィラメントで構成されるマルチフィラメントのいずれも用いることができるが、マルチフィラメントを選択することで繊維の表面積が増大し、より均一に導電性粒子を付着させることが出来る。

　本発明で用いる布帛基材を構成するフッ素樹脂繊維の総繊度としては、２５～６０００ｄｔｅｘの範囲内が好ましい。より好ましくは２００～５５００ｄｔｅｘの範囲であり、さらに好ましくは４００～１５００ｄｔｅｘの範囲内である。布帛を構成する繊維の総繊度が２５ｄｔｅｘ以上であると繊維の強力を一定程度担保でき、製織時の糸切れも低減できるので工程通過性が向上する。６０００ｄｔｅｘ以下であれば製織時の良好な加工性が得られる。

　本発明の布帛の摩耗耐久性を向上する観点から、本発明で用いる布帛基材を構成するフッ素樹脂繊維以外の繊維は引張強度２ｃＮ／ｄｔｅｘ以上の繊維であることが好ましい。更に好ましくは５ｃＮ／ｄｔｅｘ以上であり、２０ｃＮ／ｄｔｅｘ以上であることが特に好ましい。これにより摺動が加わった場合でも繊維の破断を抑制でき、フッ素樹脂繊維の摩耗粉と、繊維から脱離した導電性粒子の受け皿として長時間機能することが出来る。その結果、長期間の摺動耐久性と、制電性の両立が達成できる。製織性の観点から、フッ素樹脂繊維以外の繊維の実質的な上限は１００ｃＮ／ｄｔｅｘである。

　本発明の布帛は、屋内のみならず屋外等の多様な環境で使用出来る。屋外環境でも長期間の摺動耐久性と制電性を得るには、紫外線に暴露された状況であってもフッ素樹脂繊維以外の繊維が顕著な強度低下を生じずに、摺動時にフッ素樹脂繊維の摩耗粉と、繊維から脱離した導電性粒子の受け皿として長時間機能するように構成することが好ましい。よって本発明で用いる布帛基材を構成するフッ素樹脂繊維以外の繊維は、耐候性に優れた繊維であることが好ましい。

　摺動による摩擦熱が発生する環境での耐久性の観点から、本発明で用いる布帛基材を構成するフッ素樹脂繊維以外の繊維は耐熱性繊維であることが好ましい。摺動による摩擦熱は条件により２００℃から２５０℃に達する場合がある。これらの温度域に融点を有する繊維が存在すると、溶融した繊維が布帛表面や導電性粒子の周囲を被覆する。すると一時的に摺動が弱まり、冷却された場合においても導電性粒子の表出が溶融した樹脂に阻害されやすくなる傾向がある。

　上記観点から、本発明の布帛を構成するフッ素樹脂繊維以外の繊維は、綿、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリパラフェニレンテレフタルアミド（パラ型アラミド）繊維、ポリメタフェニレンイソフタルアミド（メタ型アラミド）繊維、ポリフェニレンサルファイド（ＰＰＳ）繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール（ＰＢＯ）繊維、超高分子量ポリエチレン（ＵＨＭＷＰＥ）繊維、液晶ポリエステル繊維等の有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維等の無機繊維を使用することができる。加工性の観点からは有機繊維であることが好ましく、上記耐熱性の観点から綿、ポリパラフェニレンテレフタルアミド（パラ型アラミド）繊維、ポリメタフェニレンイソフタルアミド（メタ型アラミド）繊維、ポリフェニレンサルファイド（ＰＰＳ）繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール（ＰＢＯ）繊維、液晶ポリエステル繊維等がより好ましい。更に耐候性の観点から、ポリフェニレンサルファイド（ＰＰＳ）繊維を特に好ましい繊維として挙げることが出来る。従来技術ではポリフェニレンサルファイド（ＰＰＳ）繊維を用いた場合に摩擦帯電しやすいものであったが、本発明の構成とすることで摺動性、耐熱性、耐候性、制電性を兼ね備えた布帛を得ることが出来る。

　フッ素樹脂繊維以外の繊維の形態は特に限定するものではなく、フィラメント（長繊維）およびスパン（紡績糸）のいずれを採用しても良いが、単糸同士の引張強度や引張剛性の観点から、フィラメントであることが好ましい。さらに１本のフィラメントで構成されるモノフィラメント、複数本のフィラメントで構成されるマルチフィラメントのいずれも用いることができるが、マルチフィラメントであればマルチフィラメントの総繊度と同等の繊度を有するモノフィラメントに比較して表面積が大きいため、摺動時に生じたフッ素樹脂繊維の摩耗粉と繊維から脱離した導電性粒子が移着しやすくなり、特に好ましい。

　本発明で用いる布帛基材を構成するフッ素樹脂繊維以外の繊維の総繊度としては、５０～４０００ｄｔｅｘの範囲内が好ましい。１００～２０００ｄｔｅｘの範囲であることがより好ましく、さらには２００～１０００ｄｔｅｘの範囲内である。布帛を構成する繊維の総繊度が５０ｄｔｅｘ以上であると繊維の強力が強く、摩耗時の繊維破断が抑制できるほか、製織時の糸切れを低減できるので工程通過性が向上する。４０００ｄｔｅｘ以下であれば布帛表面の凹凸が小さく、低摩擦性への影響を押さえることができる。

　本発明の布帛を構成する導電性粒子は特に限定されるものではなく、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、グラフェン等の炭素系粒子や、銀や銅等の金属系粒子、炭酸カルシウムやガラスビーズ等のセラミック系粒子に金属メッキ等の導電層を被覆した粒子等を採用できるが、摺動相手材の二次摩耗を抑制する観点から炭素系粒子が特に好ましい。

　導電性粒子を、バインダー樹脂を介して繊維に付着させるにあたり、バインダー樹脂は適宜選択することが出来るが、エポキシ樹脂やフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を用いた場合には摺動と共に硬質粒子が発生し、二次摩耗を誘起することで極めて優れた耐摩耗性は得られにくい。よってバインダー樹脂は、熱可塑性樹脂を採用することが好ましく、繊維との接着性の観点からウレタン系樹脂が特に好ましい。

　本発明においてバインダー樹脂を介して導電性粒子を繊維に付着させる場合、その手段は特に限定されるものではないが、バインダー樹脂が液状で加工可能な場合、例えば、それ自体が液状である場合、あるいは溶媒、分散媒などで溶解もしくは分散させて処理液とする場合等、液状で加工可能な場合、スプレー、ディップ・ニップ（ＤＩＰ／ＮＩＰ）コート、ナイフコート、コンマコート、グラビアコート、フレキソ印刷、刷毛塗り、溶融押し出しラミネートなどの方法で塗布する方法が好ましい。導電性粒子を厚み方向に全体に塗布する観点から、中でもＤＩＰ／ＮＩＰコートが好ましい。

　布帛に対し、必要に応じて潤滑剤などを添加することも可能である。潤滑剤の種類は特に限定されないが、シリコン系の潤滑剤やフッ素系の潤滑剤であることが好ましい。

　上記布帛の一方の面に対し、更に熱硬化性樹脂を含浸しても良い。ここで熱硬化性樹脂は、他方の面に露出しないように含浸することが好ましい。そして熱硬化性樹脂を含浸させる面は、本発明の布帛を摺動布帛として用いる場合に、摺動面として好適に用いられる面とは反対側の面であることが好ましい。熱硬化性樹脂が摺動面に露出すると、その露出面において熱硬化性樹脂の摩擦係数が支配的となり、フッ素樹脂繊維の低摩擦性が十分に発揮されにくくなる傾向にある。熱硬化性樹脂を布帛の一方の面、好ましくは摺動面とは反対の面に含浸することで糸/糸間を拘束し、布帛を構成する繊維同士の擦れ合いによる摩擦帯電を抑制出来る。更に糸/糸間を適度に拘束することで摺動時に交錯点への応力集中を防ぎ、摺動耐久性を向上出来る。一方で熱硬化性樹脂の重量比率が高すぎると、繊維間空隙を過度に埋めてしまうため、フッ素樹脂繊維の摩耗分がフッ素樹脂繊維以外の繊維に付着して自己潤滑膜を形成する妨げになる。このような観点から、布帛基材に対する熱硬化性樹脂の質量比率は３０％以下であることが好ましく、２０％以下であることがより好ましく、更に好ましくは１０％以下である。３％以上であることにより、布帛基材への均一な塗工が容易となり、熱硬化性樹脂を含まない領域に応力が集中することなく、摺動耐久性を効果的に維持することができる。

　上記のように、熱硬化性樹脂を一方の面に含浸させ、他方の面に露出しないように、布帛に熱硬化性樹脂を含浸させる場合、その手段は刷毛塗り、ナイフコート、熱転写、スプレー、カーテンコート、ディスペンサー、コテ塗り等の方法が挙げられ、摺動面へ熱硬化性樹脂が浸み出さないよう、接圧や樹脂粘度等を適切な条件に設定することが出来る。なお、布帛を複合部材用基材表面に一体化して複合部材を形成する場合には、上記熱硬化性樹脂を接着剤として用いることも可能である。すなわち、複合部材用基材表面もしくは布帛の熱硬化性樹脂を含浸させる側の表面に熱硬化性樹脂を付与し、圧着するなどして両者を接着するとともに、熱硬化性樹脂を一方の面に含浸させ、他方の面に露出しないようにしてもよい。

　かくして得られる本発明の布帛は、フッ素樹脂繊維とフッ素樹脂繊維以外の繊維の複合による低摩擦性と摺動耐久性に加え、導電性粒子を適切に配置したことによる導電性を有しているため、絶縁体と摺動を受けた際の摩擦帯電抑制効果も兼備する。したがって絶縁性の基材に一体化して用いられる摺動材用途に適用することで、摩擦帯電によるスパーク発生等を防止しつつ、優れた摺動性を得ることが出来る。

　また、本発明の布帛は、複合部材用基材表面に一体化され複合部材を形成して用いることが好ましい。そして、前記複合部材は絶縁体からなる物質と摺動する部材とすることにより、摩擦帯電によるスパーク発生等を防止しつつ、優れた低摩擦性や摺動耐久性を効果的に発揮することができる。

　以下、本発明の実施例を比較例と共に説明する。

　なお、本実施例で用いる各種特性の測定方法は、以下のとおりである。

　（１）繊度
　使用した原糸の繊度を、ＪＩＳ　Ｌ１０１３：２０１０「化学繊維フィラメント糸試験方法」の８．３．Ｂ法（簡便法）に準じて測定した。ただし、布帛を構成する繊維に基づき測定する場合は、布帛を分解し、同手法で繊度を測定した。分解糸が上記測定方法に必要な糸量を確保できない場合は確保できる最大長さと試行回数にて試験を行った結果をもって代用するものとする。

　（２）織り密度
　ＪＩＳ　Ｌ１０９６：２０１０「織物及び編物の生地試験方法」の８．６．１に準じ、試料を平らな台上に置き，不自然なしわ及び張力を除いて，異なる５箇所について５０ｍｍの間隔中に含まれるたて糸及びよこ糸の本数を数え，それぞれの平均値を単位長さについて算出した。

　（３）フッ素樹脂繊維の面積率
　布帛をキーエンス製マイクロスコープ「ＶＨＸ－２０００」にて５０倍に拡大して、視野全体に試料（布帛）が写るように写真を撮影し、撮影面積をＳ_ｔｏｔ、そのうちフッ素樹脂繊維Ａが占める面積をＳ_Ａとし、以下の計算式からフッ素樹脂繊維の面積率を算出した。
フッ素樹脂繊維Ａの面積率＝Ｓ_Ａ／Ｓ_ｔｏｔ×１００［％］
　なお、撮影面積Ｓ_ｔｏｔとフッ素樹脂繊維Ａが占める面積Ｓ_Ａは、三谷商事製画像解析ソフト「ＷｉｎＲ００Ｆ２０１３」を用いて算出した。

　（４）目付
　ＪＩＳ　Ｌ１０９６：２０１０「織物及び編物の生地試験方法」の８．３．２a)に準じ、約２００ｍｍ×２００ｍｍの試験片の標準状態における質量を測定し、これを面積で除することで１ｍ^２あたりの重量を算出した。試験片２枚について測定を行い、平均値を目付とした。

　（５）導電性粒子およびバインダー樹脂、熱硬化性樹脂の付着量
　導電性粒子とバインダー樹脂の混合物を用い、導電性粒子を所定の加工方法で布帛に付着せしめた後、加工前の経糸密度（ｄ_ｗａｒｐ）と加工後の経糸密度（Ｄ_ｗａｒｐ）、加工前の緯糸密度（ｄ_ｗｅｆｔ）と加工後の緯糸密度（Ｄ_ｗｅｆｔ）、および加工前の目付（ｗ）と加工後の目付（Ｗ）から、布帛に対する混合物の付着量Ｘを次式より求めた。
Ｘ＝Ｗ－ｗ×（ｄ_ｗａｒｐ／Ｄ_ｗａｒｐ）×（ｄ_ｗｅｆｔ／Ｄ_ｗｅｆｔ）
なお、ｄ_ｗａｒｐ／Ｄ_ｗａｒｐおよびｄ_ｗｅｆｔ／Ｄ_ｗｅｆｔは加工前後の収縮を加味するための補正項である。

　次に、混合物中に占める導電性粒子の割合αとバインダー樹脂の割合βから、導電性粒子の単位面積当たりの付着量Ｗ_α（ｇ／ｍ^２）とバインダー樹脂の単位面積当たりの付着量Ｗ_β（ｇ／ｍ^２）を求めた。

　更に熱硬化性樹脂を含浸した場合、含浸加工前後の重量差から熱硬化性樹脂の単位面積当たりの付着量Ｗ_γを求めた。

　なお、導電性粒子、バインダー樹脂、熱硬化性樹脂の付着量を布帛から測定する際は、測定対象物質を溶出させる、もしくは測定対象物質以外を溶出させる等を行い、その重量減少量を付着量として採用しても良い。

　（６）厚さ
　ＪＩＳ　Ｌ１０９６：２０１０「織物及び編物の生地試験方法」の８．４．a)に準じ、２３．５ｋＰａ下での布帛の厚さを測定した。

　（７）単位体積当たりの付着量
　上記導電性粒子の付着量Ｗ_αを布帛の厚さ（ｍ）で除することにより、単位体積当たりの付着量（ｇ／ｍ^３）を求めた。

　（８）バインダー樹脂と布帛の重量比率および熱硬化性樹脂と布帛の重量比率
　単位面積当たりのバインダー樹脂の付着量Ｗ_βを布帛基材の目付で除することにより、布帛とバインダー樹脂の重量比率を求めた。単位面積当たりの熱硬化性樹脂の付着量Ｗ_γを布帛基材の目付で除することにより、布帛基材と熱硬化性樹脂の重量比率を求めた。

　（９）導電性粒子の付着有無
　以下の観察をフッ素樹脂繊維、フッ素樹脂繊維以外の繊維それぞれに対して行った。

　Ａ．　摺動面
　摺動面側の布帛表面をキーエンス製マイクロスコープ「ＶＨＸ－２０００」にて２００倍に拡大した写真を撮影し、導電性粒子が視認できないものを×、糸条の交錯点等、限られた領域にのみ導電性粒子が視認出来るものを△、全体的に導電性粒子が視認出来るものを○とした。

　Ｂ．　内層
　布帛の厚み方向の断面をキーエンス製マイクロスコープ「ＶＨＸ－２０００」にて５００倍に拡大し摺動面から裏面まで、厚み方向全ての領域を網羅するように写真を複数枚作成した。いずれかの写真で導電性粒子が全く視認できないものがある場合を×、全ての写真で導電性粒子が視認出来るものを○とした。なお拡大倍率は、導電性粒子の粒径に応じ、導電性粒子が視認できる倍率の範囲で適宜設定してもよい。

　Ｃ．　非摺動面（摺動面と反対側の面）
　非摺動面側の布帛表面をキーエンス製マイクロスコープ「ＶＨＸ－２０００」にて２００倍に拡大した写真を撮影し、導電性粒子が視認できないものを×、糸条の交錯点等、限られた領域にのみ導電性粒子が視認出来るものを△、全体的に導電性粒子が視認出来るものを○とした。

　上記測定結果に対し、フッ素樹脂繊維、フッ素樹脂繊維以外の繊維それぞれについて、導電性粒子の付着有無を以下のように判定した。
Ａ, Ｂ, Ｃいずれにも導電性粒子の付着がない場合：×
Ａ, Ｂ, Ｃいずれかに導電性粒子の付着がある場合：○
　（１０）摩擦係数
　摩擦係数は新東化学（株）製表面性測定機　トライボギア（Ｒ）（ＴＹＰＥ：ＨＥＩＤＯＮ（Ｒ）－１４ＤＲ）を用いた。圧子側に布帛を取り付けて圧力０．２ＭＰａとなるようにガラス板に押しつけ、圧子を速度１００ｍｍ／ｍｉｎ、摺動時間６秒間で移動させたときの抵抗力から静摩擦係数と動摩擦係数を算出した。静摩擦係数は摺動開始から１秒後までの最大値を採用し、動摩擦係数は１秒後から６秒後までの計５秒間の平均値を採用した。

　（１１）摺動耐久距離
　以下に示すリング摩耗試験により測定した。

　ＪＩＳ　Ｋ７２１８：１９８６「プラスチックの滑り摩耗試験方法」のＡ法に準じ、織物は、縦３０ｍｍ、横３０ｍｍにサンプリングし、同じ大きさの厚さ約３ｍｍのＳＵＳ板の上にのせてサンプルホルダーに固定した。裏面から熱硬化性樹脂を含浸した布帛の測定時は、熱硬化性樹脂を実施例に記載の方法で摺動面に露出しないように布帛に含浸させた後、硬化前に上記ＳＵＳ板と貼り合わせることで、布帛が熱硬化性樹脂を介してＳＵＳ板と接着した状態で試験を行った。

　相手材はＳ４５Ｃで作られた、外径　２５．６ｍｍ、内径　２０ｍｍ、長さ　１５ｍｍ　の中空円筒形状のリングを用いた。上記リングの表面をサンドペーパーで磨き、表面粗さＲａ＝０．８μｍ±０．１となるように調整した。粗さの測定には粗さ測定器（ミツトヨ製「ＳＪ－２０１」）を用いた。

　リング摩耗試験機は、エー・アンド・デイ製「ＭＯＤＥＬ：ＥＦＭ－ＩＩＩ－ＥＮ」を用い圧力１２．２ＭＰａ、速度２００ｍｍ／秒にて相手材と布帛を摺動させ、織物が破断するまで摺動を継続した。摺動距離１００ｍ未満で破断したものをＤ、１００ｍ以上１０００ｍ未満で破断したものをＣ、１０００ｍ以上１００００ｍ未満で破断したものをＢ、１００００ｍ摺動後も破断しないものをＡとした。

　（１２）導電性の耐久性（１１）に記載のリング摩耗試験により、以下２条件下での摺動でサンプルを厚み方向に一定程度摩耗させた後、摺動箇所の抵抗値を、テスター（三和電気計器社製、ＰＣ７０００）を用いて測定した。なお、以下条件は布帛が多層構造を有する際に、摺動面の一部のみが摩耗した状況の再現として条件（Ａ）を、摺動層が全て摩耗し内層まで到達した状況の再現として条件（Ｂ）を設定した。

　＜摺動条件＞
（Ａ）圧力１２．２ＭＰａ、速度１０ｍｍ／秒、摺動時間４８００秒
（Ｂ）圧力１２．２ＭＰａ、速度２００ｍｍ／秒、摺動時間４８００秒
条件（Ａ）下での摺動後、摺動前に比べて抵抗値の変化が１×１０^３以内であるものをＡ、１×１０^３より大きく１×１０^５以内であるものをＢ、それ以外をＣとした。
条件（Ｂ）下での摺動後、摺動前に比べて抵抗値の変化が１×１０^３以内であるものをＡ、それ以外をＢとした。

　（１３）摩擦帯電圧
　ＪＩＳ　Ｌ１０９４：２０１４「織物及び編物の帯電性試験方法」７．２　Ｂ法に準じ、試験体と綿布の摩擦帯電圧を測定した。

　実施例１、比較例１
　総繊度４４０ｄｔｅｘ、単糸数６０フィラメントのＰＴＦＥ繊維（“トヨフロン”（登録商標）東レ（株）製）を摺動面の経糸と緯糸に用い、総繊度２２０ｄｔｅｘ、単糸数５０フィラメントのＰＰＳ繊維（“トルコン”（登録商標）東レ（株）製）を非摺動面の経糸と緯糸に用い、ＰＴＦＥ／ＰＰＳ二重織物を製織した。摺動面と非摺動面の織組織はいずれも平組織とした。得られた布帛は摺動面におけるフッ素樹脂繊維の面積率が、非摺動面におけるフッ素樹脂繊維の面積率よりも大きかった。その後８０℃の精練槽にて精練を行い、２００℃で熱セットした。続いて導電性粒子としてカーボンブラック（ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製、“ライオンペースト”（登録商標）Ｗ－３７６Ｒ）、バインダー樹脂としてウレタン樹脂（日華化学社製、“エバファノール”（登録商標）ＨＡ－２０７）を水に分散・混合し、ディップ・ニップ（ＤＩＰ／ＮＩＰ）加工によりＰＴＦＥ／ＰＰＳ二重織物に塗工した。その後１６０℃で２分間乾燥し、ＰＴＦＥ／ＰＰＳ二重織物にバインダー樹脂を介して導電性粒子を付着させた。

　また、熱セット後かつＤＩＰ／ＮＩＰ加工前の織物に対し、裏面からコテを用いてでエポキシ樹脂（セメダイン製“ハイスーパー”（登録商標）５）を含浸した布帛を比較例１とした。比較例１の布帛表面からはエポキシ樹脂の浸み出しは無かった。

　実施例２および実施例３
　実施例１の布帛の裏面から、布帛基材に対する質量比率が表1に記載の値となるように、比較例１と同様の方法でエポキシ樹脂をそれぞれ含浸させた。実施例２の布帛表面からはエポキシ樹脂の浸み出しは無かった。実施例３の布帛表面から観察したとき、摺動面の経糸と緯糸の交錯点の隙間からエポキシ樹脂が視認できることから、布帛表面にエポキシ樹脂が一部浸み出していることが確認された。摩擦係数の測定時には測定対象の布帛最表面のみが圧子と接するためにエポキシ樹脂の浸み出しによる摩擦係数悪化は生じなかった。摺動耐久性評価時には最表面のフッ素樹脂繊維が摩耗してエポキシ樹脂がすぐに露出した結果、実施例２と比較するとリング摩耗試験時にモニタリングしていた摩擦係数が上昇し、摺動耐久性が低下した。

　実施例４、比較例２
　実施例１で用いたＰＰＳ繊維を総繊度２３５ｄｔｅｘ、単糸数３６フィラメントのナイロン繊維（東レ（株）製）に変更した以外は実施例１と同様の手順で製織・精練・熱セット・ＤＩＰ／ＮＩＰ加工・乾燥を行い、バインダー樹脂を介して導電性粒子を付着させたＰＴＦＥ／ナイロン二重織物を作製した後、裏面から比較例１と同様の方法でエポキシ樹脂を含浸させた。得られた布帛は摺動面におけるフッ素樹脂繊維の面積率が、非摺動面におけるフッ素樹脂繊維の面積率よりも大きかった。

　また、熱セット後かつＤＩＰ／ＮＩＰ加工前の織物に対し、裏面から比較例１と同様の方法でエポキシ樹脂を含浸した布帛を比較例２とした。実施例４および比較例２の布帛表面からはエポキシ樹脂の浸み出しは無かった。

　実施例５、比較例３
　実施例１で用いたＰＰＳ繊維を総繊度２３５ｄｔｅｘ、単糸数３６フィラメントのポリエステル繊維（東レ（株）製）に変更した以外は実施例１と同様の手順で製織・精練・熱セット・ＤＩＰ／ＮＩＰ加工・乾燥を行い、バインダー樹脂を介して導電性粒子を付着させたＰＴＦＥ／ポリエステル二重織物を作製した後、裏面から比較例１と同様の方法でエポキシ樹脂を含浸させた。得られた布帛は摺動面におけるフッ素樹脂繊維の面積率が、非摺動面におけるフッ素樹脂繊維の面積率よりも大きかった。

　また、熱セット後かつＤＩＰ／ＮＩＰ加工前の織物に対し、裏面から比較例１と同様の方法でエポキシ樹脂を含浸させた布帛を比較例３とした。実施例５および比較例３の布帛表面からはエポキシ樹脂の浸み出しは無かった。

　実施例６～７、実施例９～１２
　バインダー樹脂と導電性粒子の付着量を表１～２の通り変更した以外は実施例１と同様の手順で製織・精練・熱セット・ＤＩＰ／ＮＩＰ加工・乾燥を行い、バインダー樹脂を介して導電性粒子を付着させたＰＴＦＥ／ＰＰＳ二重織物を作製した。

　実施例８
　実施例７の織物に対し、裏面から比較例１と同様の方法でエポキシ樹脂を含浸した。

　実施例１３
　バインダー樹脂と導電性粒子の塗工方式を裏面からのナイフコート方式に変更し、付着量、および導電性粒子の分布を表２の通り変更した以外は実施例１と同様の手順で製織・精練・熱セット・乾燥を行い、バインダー樹脂を介して導電性粒子を付着させたＰＴＦＥ／ＰＰＳ二重織物を作製した。

　実施例１４
　バインダー樹脂と導電性粒子の塗工方式を表面からのナイフコート方式に変更し、付着量、および導電性粒子の分布を表２の通り変更した以外は実施例１と同様の手順で製織・精練・熱セット・乾燥を行い、バインダー樹脂を介して導電性粒子を付着させたＰＴＦＥ／ＰＰＳ二重織物を作製した。

　実施例１５
　総繊度４４０ｄｔｅｘ、単糸数６０フィラメントのＰＴＦＥ繊維（“トヨフロン”（登録商標）東レ（株）製）と、総繊度２２０ｄｔｅｘ、単糸数５０フィラメントのＰＰＳ繊維（“トルコン”（登録商標）東レ（株）製）を経糸と緯糸に１本交互に用い、ＰＴＦＥ／ＰＰＳ一重織物を製織した。その後、実施例１と同様の手順で精練・熱セット・ＤＩＰ／ＮＩＰ加工・乾燥を行い、バインダー樹脂を介して導電性粒子を付着させたＰＴＦＥ／ＰＰＳ一重織物を作製した。得られたＰＴＦＥ／ＰＰＳ一重織物は、一方の面に占めるフッ素樹脂繊維の面積率と、他方の面面に占めるフッ素樹脂繊維の面積率が同じであった。その後、裏面から比較例１と同様の方法でエポキシ樹脂を含浸させた。

　比較例４
　総繊度４４０ｄｔｅｘ、単糸数６０フィラメントのＰＴＦＥ繊維（“トヨフロン”（登録商標）東レ（株）製）を経糸と緯糸に用いて平組織で製織後、実施例１と同様の手順で精練・熱セット加工を行い、ＰＴＦＥ一重織物を作製した後、裏面から比較例１と同様の方法でエポキシ樹脂を含浸させた。

　比較例５
　総繊度４４０ｄｔｅｘ、単糸数６０フィラメントのＰＴＦＥ繊維（“トヨフロン”（登録商標）東レ（株）製）と総繊度２２ｄｔｅｘ、単糸数１フィラメントの導電性ポリエステル繊維（“ルアナ”（登録商標）東レ（株）製）をＳ方向、撚り数３００Ｔ／ｍで合撚した複合糸を作製した。作製した複合糸を摺動面の経糸および緯糸に用いた以外は実施例１と同様の手順で製織・精練・熱セット加工を行い、摺動面に導電性繊維を複合したＰＴＦＥ／ＰＰＳ二重織物を作製した後、裏面から比較例１と同様の方法でエポキシ樹脂を含浸させた。得られた布帛は摺動面におけるフッ素樹脂繊維の面積率が、非摺動面におけるフッ素樹脂繊維の面積率よりも大きかった。

　比較例６
　比較例４の織物に実施例１と同様の手順でＤＩＰ／ＮＩＰ加工・乾燥を行い、バインダー樹脂を介して導電性粒子を付着させたＰＴＦＥ一重織物を作製した後、裏面から比較例１と同様の方法でエポキシ樹脂を含浸した。

　実施例および比較例に記載の織物について、布帛構成、摩擦帯電圧、摩擦係数、摺動耐久距離の評価結果を表１～表３にまとめた。

　実施例１、実施例６～１４に記載の織物について、導電性の耐久性を評価し、その評価結果を表４にまとめた。表４に記載の織物は導電性の耐久性の評価において、いずれも条件（Ａ）の摺動後には表面のＰＴＦＥ繊維の一部が摩耗し、ＰＴＦＥの自己潤滑膜が表面に形成されていた。条件（Ｂ）の摺動後には表面のＰＴＦＥ繊維が全て摩耗し、裏面のＰＰＳ繊維層が露出していることを目視確認した。

Claims

フッ素樹脂繊維とフッ素樹脂繊維以外の繊維からなる布帛基材を含み、前記フッ素樹脂繊維およびフッ素樹脂繊維以外の繊維のいずれにも導電性粒子が付着している布帛。
前記導電性粒子が、バインダー樹脂を介して前記フッ素樹脂繊維およびフッ素樹脂繊維以外の繊維に付着している、請求項１に記載の布帛。
前記バインダー樹脂の前記布帛基材に対する質量比率が０．０１％以上３０％以下である請求項２に記載の布帛。
前記布帛に対する、前記導電性粒子の単位体積当たりの付着量が３０００ｇ／ｍ^３以上５００００ｇ／ｍ^３以下である、請求項１～３のいずれかに記載の布帛。
前記布帛の厚み方向において前記導電性粒子が全体的に付着している、請求項１～４のいずれかに記載の布帛。
前記布帛基材が二重構造である、請求項１～５のいずれかに記載の布帛。
前記布帛の一方の面に占める前記フッ素樹脂繊維の面積率が、他方の面に占める前記フッ素樹脂繊維の面積率よりも低い、請求項１～６のいずれかに記載の布帛。
前記布帛の一方の面の表層内部に熱硬化性樹脂を含み、前記熱硬化性樹脂は他方の面に露出していない、請求項１～７のいずれかに記載の布帛。
複合部材用基材表面に一体化され複合部材を形成する布帛であり、前記複合部材は絶縁体からなる物質と摺動すべく用いられる、請求項１～８のいずれかに記載の布帛。