WO2023022181A1 - ハイドロゲル及び滅菌された乾燥ハイドロゲル形成性物品 - Google Patents

ハイドロゲル及び滅菌された乾燥ハイドロゲル形成性物品 Download PDF

Info

Publication number
WO2023022181A1
WO2023022181A1 PCT/JP2022/031127 JP2022031127W WO2023022181A1 WO 2023022181 A1 WO2023022181 A1 WO 2023022181A1 JP 2022031127 W JP2022031127 W JP 2022031127W WO 2023022181 A1 WO2023022181 A1 WO 2023022181A1
Authority
WO
WIPO (PCT)
Prior art keywords
hydrogel
group
cells
vinyl alcohol
forming article
Prior art date
Application number
PCT/JP2022/031127
Other languages
English (en)
French (fr)
Inventor
明士 藤田
賢 綾野
悟朗 小林
Original Assignee
株式会社クラレ
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by 株式会社クラレ filed Critical 株式会社クラレ
Publication of WO2023022181A1 publication Critical patent/WO2023022181A1/ja

Links

Classifications

    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C08ORGANIC MACROMOLECULAR COMPOUNDS; THEIR PREPARATION OR CHEMICAL WORKING-UP; COMPOSITIONS BASED THEREON
    • C08GMACROMOLECULAR COMPOUNDS OBTAINED OTHERWISE THAN BY REACTIONS ONLY INVOLVING UNSATURATED CARBON-TO-CARBON BONDS
    • C08G81/00Macromolecular compounds obtained by interreacting polymers in the absence of monomers, e.g. block polymers
    • C08G81/02Macromolecular compounds obtained by interreacting polymers in the absence of monomers, e.g. block polymers at least one of the polymers being obtained by reactions involving only carbon-to-carbon unsaturated bonds
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C08ORGANIC MACROMOLECULAR COMPOUNDS; THEIR PREPARATION OR CHEMICAL WORKING-UP; COMPOSITIONS BASED THEREON
    • C08LCOMPOSITIONS OF MACROMOLECULAR COMPOUNDS
    • C08L29/00Compositions of homopolymers or copolymers of compounds having one or more unsaturated aliphatic radicals, each having only one carbon-to-carbon double bond, and at least one being terminated by an alcohol, ether, aldehydo, ketonic, acetal or ketal radical; Compositions of hydrolysed polymers of esters of unsaturated alcohols with saturated carboxylic acids; Compositions of derivatives of such polymers
    • C08L29/02Homopolymers or copolymers of unsaturated alcohols
    • C08L29/04Polyvinyl alcohol; Partially hydrolysed homopolymers or copolymers of esters of unsaturated alcohols with saturated carboxylic acids
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C08ORGANIC MACROMOLECULAR COMPOUNDS; THEIR PREPARATION OR CHEMICAL WORKING-UP; COMPOSITIONS BASED THEREON
    • C08LCOMPOSITIONS OF MACROMOLECULAR COMPOUNDS
    • C08L89/00Compositions of proteins; Compositions of derivatives thereof
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C12BIOCHEMISTRY; BEER; SPIRITS; WINE; VINEGAR; MICROBIOLOGY; ENZYMOLOGY; MUTATION OR GENETIC ENGINEERING
    • C12NMICROORGANISMS OR ENZYMES; COMPOSITIONS THEREOF; PROPAGATING, PRESERVING, OR MAINTAINING MICROORGANISMS; MUTATION OR GENETIC ENGINEERING; CULTURE MEDIA
    • C12N11/00Carrier-bound or immobilised enzymes; Carrier-bound or immobilised microbial cells; Preparation thereof
    • C12N11/02Enzymes or microbial cells immobilised on or in an organic carrier
    • C12N11/08Enzymes or microbial cells immobilised on or in an organic carrier the carrier being a synthetic polymer
    • C12N11/082Enzymes or microbial cells immobilised on or in an organic carrier the carrier being a synthetic polymer obtained by reactions only involving carbon-to-carbon unsaturated bonds
    • C12N11/084Polymers containing vinyl alcohol units

Definitions

  • the form of the molded article may be a micromolded article, an article of arbitrary shape molded by a 3D printer, or an article coated with a dry hydrogel-forming article (coated article).
  • the micromolded body is a molded body having fine irregularities on its surface and inside, and the size of the microfabricated body is 10 to 1000 ⁇ m.
  • the arbitrary shape formed by a 3D printer is an arbitrary shape that can be formed by, for example, a stereolithography method, an inkjet method, a nozzle extrusion type 3D printer, or the like.
  • the dry hydrogel-forming article of the present invention since the dry hydrogel-forming article of the present invention is sterilized, there is no fear of microbial infection, it promotes cell adhesion, and is efficient in cell proliferation or induction into tissues or organs. can do well.
  • the dry hydrogel-forming article of the present invention is useful as a carrier or support.
  • the hydrogel of the present invention is efficiently conjugated with a physiologically active substance, so that cell proliferation or induction into tissues or organs can be efficiently performed. Therefore, the hydrogel of the present invention is useful as a carrier or support. Therefore, the carrier comprising the dry hydrogel-forming article of the present invention and the carrier containing the hydrogel of the present invention can be suitably used for applications such as enzyme-immobilized carriers, affinity carriers, cell culture carriers, and drug delivery carriers. can.

Abstract

生理活性物質が複合化されているビニルアルコール系重合体の架橋体を含む滅菌された乾燥ハイドロゲル形成性物品。エチレン性不飽和基およびカルボキシ基を有するビニルアルコール系重合体の架橋体とアミノ基を有する生理活性物質を含み、前記架橋体のカルボキシ基と、前記生理活性物質のアミノ基が、アミド結合により共有結合されている、ハイドロゲル。

Description

ハイドロゲル及び滅菌された乾燥ハイドロゲル形成性物品
 [関連出願の相互参照]
 本出願は、2021年8月18日に出願された、日本国特許出願第2021-133378号明細書及び日本国特許出願第2021-133384明細書(これらの開示全体が参照により本明細書中に援用される)に基づく優先権を主張する。本発明は、ハイドロゲル及び滅菌された乾燥ハイドロゲル形成性物品に関する。
 ポリビニルアルコール(以下、「PVA」と略称することがある)は親水性、反応性、生分解性、生体適合性、及び低毒性等に優れた特長を有する水溶性合成ポリマーであり、物理架橋や化学架橋することで柔軟性及び強度が高いハイドロゲルを形成する。さらに生理活性物質と複合化したハイドロゲル(以下、複合化ハイドロゲルと略称することがある)は特異的な機能を発現し、例えば酵素固定化担体(例えば非特許文献1)、アフィニティー担体(例えば非特許文献2)、細胞培養基材(例えば非特許文献3)、血管塞栓用粒子(例えば特許文献1)、細胞培養担体(例えば特許文献2)などの用途が提案されている。
 このうち人体に用いる医薬品や医療機器の部品や製造に使用される用途では、前記複合化ハイドロゲルは滅菌された状態で使用される必要がある。滅菌していない複合化ハイドロゲルを前記用途に使用した場合には残留する微生物によって感染を引き起こし、生体もしくは細胞に致命的なダメージを与える。従って、前記用途では無菌性保証水準(以下、SALと略称することがある)としてSAL=10-6以下を達成することが望ましい。
 酵素を含む生理活性物質は一般的に過酷な滅菌条件や乾燥条件で本来の活性を失うため、前記複合化ハイドロゲルの滅菌もしくは乾燥は困難であることが知られている。例えば、生理活性物質として細胞接着性タンパク質を複合化したハイドロゲルは細胞培養基材として好適に使用できることが従来知られている。これらの先行技術では、調製した複合化ハイドロゲルに対してUV光を数時間照射するか、または70~75%エタノール水溶液に数時間浸漬した後に細胞培養に用いている(例えば、非特許文献3~5)。UV光照射やエタノール水溶液浸漬では生理活性物質に対して活性を失うほどのダメージは与えにくいが、SAL=10-6以下を達成するような滅菌はできない。
 滅菌された複合化ハイドロゲルを製造しようという試みもなされている(例えば、非特許文献6)。ここでは低分子量のPVAに架橋性部位としてアクリルアミド基、細胞接着性タンパク質としてRGDSペプチドを導入したゾル状態の複合化PVAを用いている。この水溶液をフィルターにて濾過滅菌した後に無菌的に硬化することで滅菌された複合化ハイドロゲルを製造できることを開示している。
 また、ハイドロゲルを化学架橋するために特に一般的に用いられている方法は、架橋剤としてグルタルアルデヒドを用いる方法である。グルタルアルデヒドにより化学架橋されたハイドロゲルにカルボニルジイミダゾールを用いて酵素を共有結合させる方法(例えば、非特許文献1)、カルボキシ基が導入されたPVAに細胞接着性タンパク質を共有結合させる方法(例えば、非特許文献3、4)などが既に開示されている。しかし、架橋剤であるグルタルアルデヒドは毒性が高く、化学架橋ハイドロゲルからわずかに溶出してくることを否定できないため、研究用途では使用できるものの上記用途にて実用するのが困難という課題があった。
 グルタルアルデヒドによるPVAの化学架橋の課題を解決するため、PVAにアクリルアミド基を導入してラジカル重合を誘起することにより架橋させ、細胞接着性ペプチドを共有結合させたハイドロゲルを製造する試みもなされている(例えば、非特許文献6、7)。同様に(メタ)アクリロイル基を有するPVAをラジカル重合架橋させたPVA粒子に細胞接着性のゼラチンを共有結合させたハイドロゲルも開示されている(例えば、特許文献2)。
特表2002-527206号公報 WO2020/105708号公報
フードケミストリー(Food Chemistry)、2001年、第74巻、p.281-288 バイオテクノロジーテクニークス(Biotechnology Techniques)、1997年、第11巻、p.67-70 ジャーナルオブバイオメディカルマテリアルズリサーチ(Journal of Biomedical Materials Research)、2001年、第57巻、p.217-223 ジャーナルオブポリマーエンジニアリング(Journal of Polymer Engineering)、2017年、第37巻、p.647-660 ジャーナルオブアプライドバイオマテリアルズ(Journal of Applied Biomaterials)、1991年、第2巻、p.261-267 バイオマテリアルズ(Biomaterials)、2002年、第23巻、p.4325-4332 バイオマテリアルズ(Biomaterials)、2012年、第33巻、p.3880-3886
 非特許文献3~5に記載されたようなUV光照射やエタノール浸漬された複合化ハイドロゲルは短期間の細胞培養試験には用いることは可能であるが、滅菌が不十分であるため、細胞培養プロセスや人体に対して適用する場合、微生物による感染リスクは無くならないという問題があった。
 さらに非特許文献6に記載された濾過滅菌では、滅菌後に硬化・パッケージングするための無菌環境が必須であり、このような無菌環境において滅菌された複合化ハイドロゲルの製造には多大なコストがかかる。また、ゾル状態の複合化ハイドロゲルを濾過滅菌するため低分子量のPVA(平均分子量1.3万)を用いることが必須となるが(これ以上の分子量であると圧損が大きく濾過滅菌ができない)、得られる複合化ハイドロゲルが脆弱であり用途が限られるという問題もあった。
 一実施形態において、本発明は、前記従来の課題を鑑みてなされたものであって、滅菌された複合化ハイドロゲル形成性物品を無菌環境など高価なプロセスを用いずに提供することを課題とする。
 また、非特許文献6、7に記載された方法ではグルタルアルデヒドによる化学架橋の課題は解決できるが、生理活性物質又は酵素を導入する方法に問題がある。すなわち先行技術ではPVAに導入されたアミノ基に対して酵素を含む生理活性物質のグルタミン酸やアスパラギン酸残基等に由来するカルボキシ基をカルボジイミド系縮合剤により導入している。しかし、生理活性物質は通常カルボキシ基だけでなくリジン残基等に由来するアミノ基も有しているため自己架橋等も同時に起こり、効率よくハイドロゲルに導入できないという課題があった。また、特許文献2に記載されたカルボニルジイミダゾールを用いる方法では上記用途に使用できるほど高い密度で生理活性物質又は酵素が導入できないという課題があった。
 一実施形態において、本発明は、前記従来の課題を鑑みてなされたものであって、毒性の低い架橋方法を用いつつ、効率よく生理活性物質又は酵素を共有結合により導入したハイドロゲルを提供することを課題とする。
 本発明者らが鋭意検討を行った結果、複合化ハイドロゲル形成性物品の水分を除去して乾燥した状態であれば、生理活性物質の活性を維持したまま滅菌することができることを見出した。また、本発明者らが鋭意検討を行った結果、エチレン性不飽和基およびカルボキシ基を有するビニルアルコール系重合体を用いることでグルタルアルデヒドとは異なる毒性の低い架橋方法によりハイドロゲルを製造でき、さらにグルタルアルデヒド架橋されたハイドロゲルよりもアミノ基を有する生理活性物質が効率的に共有結合により導入できることを見出した。本発明はこれらの新規知見に基づくものである。なお、本明細書において、「複合化ハイドロゲル」は、生理活性物質が複合化されたビニルアルコール系重合体の架橋体を意味する。
 すなわち本発明は、下記〔1〕~〔11〕に関する。
〔1〕生理活性物質が複合化されたビニルアルコール系重合体の架橋体を含む滅菌された乾燥ハイドロゲル形成性物品。
〔2〕前記生理活性物質が、前記ビニルアルコール系重合体の架橋体に共有結合により複合化されている〔1〕に記載の乾燥ハイドロゲル形成性物品。
〔3〕前記乾燥ハイドロゲル形成性物品の含水率が75質量%以下である〔1〕又は〔2〕に記載の乾燥ハイドロゲル形成性物品。
〔4〕前記乾燥ハイドロゲル形成性物品が不定形粒子、球状粒子、微細成形体、3Dプリンターで成形された任意形状物品、フィルム、糸、中空糸、多孔質モノリス又はコーティング物品である、〔1〕~〔3〕いずれか1項に記載の乾燥ハイドロゲル形成性物品。
〔5〕前記乾燥ハイドロゲル形成性物品の無菌性保証水準(SAL)が10-3以下である、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の乾燥ハイドロゲル形成性物品。
〔6〕〔1〕~〔5〕いずれか1項に記載の乾燥ハイドロゲル形成性物品の製造方法であって、乾燥された状態のハイドロゲル形成性物品に滅菌を行う、乾燥ハイドロゲル形成性物品の製造方法。
〔7〕前記滅菌の方法が放射線滅菌法である、〔6〕に記載の乾燥ハイドロゲル形成性物品の製造方法。
〔8〕放射線の照射線量が8.2kグレイ(Gy)以上である、〔7〕に記載の乾燥ハイドロゲル形成性物品の製造方法。
〔9〕乾燥ハイドロゲル形成性物品を容器に収容後に放射線を照射する、〔7〕又は〔8〕に記載の乾燥ハイドロゲル形成性物品の製造方法。
〔10〕容器に収容された〔1〕~〔5〕いずれか1項に記載の乾燥ハイドロゲル形成性物品。
〔11〕エチレン性不飽和基およびカルボキシ基を有するビニルアルコール系重合体の架橋体とアミノ基を有する生理活性物質を含み、前記架橋体のカルボキシ基と、前記生理活性物質のアミノ基が、アミド結合により共有結合されている、ハイドロゲル。
〔12〕前記エチレン性不飽和基が、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルアミノ基、ビニルフェニル基、ノルボルネニル基及びこれらの誘導体らなる群より選択される少なくとも1種である、〔11〕に記載のハイドロゲル。
〔13〕前記エチレン性不飽和基の導入率が、前記ビニルアルコール系重合体を構成する全構造単位中、0.01~10モル%である、〔11〕又は〔12〕に記載のハイドロゲル。
〔14〕前記カルボキシ基の導入率が、前記ビニルアルコール系重合体を構成する全構造単位中、0.1~50モル%である、〔11〕~〔13〕いずれか一項に記載のハイドロゲル。
〔15〕前記ハイドロゲルが不定形粒子、球状粒子、微細成形体、3Dプリンターで成形された任意形状物品、フィルム、糸、中空糸、多孔質モノリス、コーティング物品である〔11〕~〔14〕いずれか1項に記載のハイドロゲル。
 一実施形態において、本発明によれば、滅菌された複合化ハイドロゲル形成性物品を無菌環境など高価なプロセスを用いずに提供することができる。また、一実施形態において、本発明によれば、エチレン性不飽和基およびカルボキシ基を有するビニルアルコール系重合体の架橋体を含むハイドロゲルを用い、アミノ基を有する生理活性物質が前記カルボキシ基とアミド結合により共有結合されている、毒性が低く、生理活性物質又は酵素が効率的に共有結合により導入されたハイドロゲルを提供することができる。
 1.乾燥ハイドロゲル形成性物品
 第一の実施形態において、本発明は、生理活性物質が複合化されたビニルアルコール系重合体の架橋体を含む滅菌された乾燥ハイドロゲル形成性物品を提供する。本発明の乾燥ハイドロゲル形成性物品に含まれるハイドロゲルは、エチレン性不飽和基およびカルボキシ基を有するビニルアルコール系重合体の架橋体を含むハイドロゲルが好ましく、アミノ基を有する生理活性物質が、ビニルアルコール系重合体が有するカルボキシ基とアミド結合により共有結合されているハイドロゲルが好ましい。
<乾燥ハイドロゲル形成性物品>
 本発明の乾燥ハイドロゲル形成性物品とは、前記複合化ハイドロゲルを含む成形品であり、乾燥された状態となっているものを指し、水、緩衝液、体液、培養液等の水系溶液に触れると膨潤してハイドロゲルを形成する。成形品の形態としては、一般的な不定形粒子、球状粒子、フィルム、糸、中空糸、多孔質モノリスなどを含む。
 さらに成形品の形態としては、微細成形体、3Dプリンターで成形された任意形状物品、或いは乾燥ハイドロゲル形成性物品でコーティングされた物品(コーティング物品)などであってもよい。前記微細成形体とは、表面や内部に微細な凸凹等が施された成形体であり、微細加工の大きさは10~1000μmである。また、3Dプリンターで成形された任意形状とは、例えば光造形方式、インクジェット方式、ノズル押出式の3Dプリンター等で成形できる任意の形状である。コーティング物品とは、例えばフィルム、トレー、糸、中空糸、多孔質モノリス、微細成形体、3Dプリンターで成形された任意形状物品などの形状の基材上に複合化ハイドロゲルが被覆されたものを指し、基材の素材としてはガラス、ポリオレフィン、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリエチレンビニルアルコール共重合体、ポリアミド、ポリイミド等の素材が自由に選択できる。
<ビニルアルコール系重合体及びその製造方法>
 本発明において用いるビニルアルコール系重合体は、ビニルエステル系単量体を重合して得られるポリビニルエステルをけん化し、該ポリビニルエステル中のエステル基を水酸基に変換することによって製造することができる。
 前記ビニルエステル系単量体としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、n-酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、及びオレイン酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル;安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等が挙げられる。これらの1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。
 前記ビニルエステル系単量体の中でも、脂肪族ビニルエステルが好ましく、製造コストの観点から、酢酸ビニルがより好ましい。すなわち前記ポリビニルエステルは、酢酸ビニルを重合したポリ酢酸ビニルであることが好ましい。
 また、前記ポリビニルエステルは、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてビニルエステル系単量体以外の他の単量体に由来する構造単位を含んでもよい。該他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、n-ブテン、イソブチレン等のα-オレフィン;アクリル酸又はその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸アルキルエステル類;メタクリル酸又はその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸アルキルエステル類;アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸又はその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン又はその塩若しくは4級塩、N-メチロールアクリルアミド又はその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸又はその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン又はその塩若しくは4級塩、N-メチロールメタクリルアミド又はその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸又はその塩、エステル若しくは酸無水物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル等を挙げることができる。これらの1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。
 前記ポリビニルエステルが他の単量体に由来する構造単位を含む場合、他の単量体に由来する構造単位の含有量は、該ポリビニルエステルを構成する全構造単位に対して20モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることが更に好ましい。
 前記ポリビニルエステルをけん化する方法に特に制限はないが、従来と同様の方法で行うことができる。例えば、アルカリ触媒又は酸触媒を用いる加アルコール分解法、加水分解法等が適用できる。中でも、メタノールを溶剤とし苛性ソーダ(NaOH)触媒を用いるけん化反応が簡便であり好ましい。
 ビニルアルコール系重合体の重合度は、ビニルアルコール系重合体の架橋体の水膨潤時の脆化を抑制する観点から、好ましくは300以上、より好ましくは350以上、さらに好ましくは400以上、特に好ましくは450以上である。また、ビニルアルコール系重合体の架橋体を製造する際に水溶液の高粘度化を抑制し、加工容易性を向上させる観点から、ビニルアルコール系重合体の重合度は、好ましくは10,000以下、より好ましくは5,000以下、さらに好ましくは3,500以下である。なお、ビニルアルコール系重合体は、異なる重合度のものを2種以上混合して用いてもよい。
 本明細書におけるビニルアルコール系重合体の重合度はJIS K 6726:1994に準じて測定される重合度をいう。具体的には、原料PVAをけん化し、精製した後に30℃の水中で測定した極限粘度から求めることができる。
 ビニルアルコール系重合体のけん化度は、ビニルアルコール系重合体の水溶性を向上させる観点から、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、更に好ましくは65モル%以上である。けん化度の上限は、100モル%、或いは99モル%が挙げられる。
 本明細書において、ビニルアルコール系重合体のけん化度は、原料PVA中のけん化によりビニルアルコール単位に変換されうる構造単位(例えば酢酸ビニル単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)を意味し、JIS K 6726:1994に準じて測定することができる。
 ビニルアルコール系重合体の20℃における4質量%粘度は、0.5~110mPa・sが好ましく、1~80mPa・sがより好ましく、2~60mPa・sがさらに好ましい。前記粘度が前記範囲内であると、ハイドロゲルの製造容易性が向上すると共に、複合化ハイドロゲルの強度を向上させることができる。
 なお、本明細書における粘度は、ビニルアルコール系重合体が4質量%の水溶液について、JIS K 6726:1994の回転粘度計法に準じてB型粘度計(回転数12rpm)を用いて温度20℃で測定した粘度をいう。
<ビニルアルコール系重合体の架橋体>
 前記ビニルアルコール系重合体の架橋体としては、ビニルアルコール系重合体が物理的に架橋されたものであってもよいし、共有結合により架橋されていてもよい。本発明に用いるビニルアルコール系重合体を構成する全構造単位に対するビニルアルコール由来の構造単位及びビニルエステル由来の構造単位の合計量は、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上である。
 ビニルアルコール系重合体を物理的に架橋する方法としては、例えばビニルアルコール系重合体の水溶液を凍結させて融解する方法や、ジメチルスルホキシドと水の混合溶媒に溶解し、この熱溶液を室温まで冷却する方法などがある。またビニルアルコール系重合体を共有結合により架橋する方法としては、ビニルアルコール系重合体の側鎖水酸基に反応する多官能性の架橋剤を用いる方法又は共重合や後変性などによりビニルアルコール系重合体に官能基を導入してこれらを反応させる方法などがある。但し、ハイドロゲルの水膨潤時の安定性が高まるため、共有結合により架橋されていることが好ましい。
 ビニルアルコール系重合体の側鎖水酸基に反応する多官能性の架橋剤を用いる方法としては、酸性条件下でグリオキサール、マロンジアルデヒド、グルタルアルデヒドなどの多官能アルデヒド化合物を反応させる方法(ポリアセタール架橋)、アルカリ条件下でエピクロルヒドリン、エチレングリコールジグリシジルエーテル等の多官能エポキシ化合物を反応させる方法(ポリエーテル架橋)、マレイン酸、コハク酸などの多官能カルボン酸化合物を反応させる方法(ポリエステル架橋)などがある。
<変性PVA>
 共重合によりビニルアルコール系重合体に官能基を導入してこれらを反応させる方法としては、ビニルアルコール系重合体の製造過程でビニルエステル系単量体と、ビニルエステル系単量体以外の他の重合性単量体であって、水酸基以外の反応性置換基を有する単量体とを共重合した後、けん化することで共重合変性ポリビニルアルコール(以下、「共重合変性PVA」と略称することがある)を得た後、共重合変性PVA中に存在するカルボキシ基や、共重合変性PVA中に存在するアミノ基等の官能基と反応する多官能性の架橋剤を添加する方法がある。なお、カルボキシ基を有する共重合変性PVAを「カルボン酸変性PVA」、アミノ基を有する共重合変性PVAを「アミノ変性PVA」という場合がある。
 カルボン酸変性PVAを構成する単量体としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のα,β-不飽和カルボン酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;無水マレイン酸、無水イタコン酸等のα,β-不飽和カルボン酸無水物等及びその誘導体等が挙げられる。ビニルエステル系単量体と前記カルボン酸変性PVAを構成する単量体とを共重合し、その後けん化することでカルボン酸変性PVAを製造し、導入されたカルボキシ基と反応する多官能の架橋剤、例えばエピクロルヒドリン、エチレングリコールジグリシジルエーテル等の多官能エポキシ化合物、エチレンジアミン、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン等の多官能アミノ化合物と1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩などカルボジイミド縮合剤の組み合わせ等によりハイドロゲルを得ることができる。カルボン酸変性PVAに導入されたカルボキシ基は、アミノ基を有する生理活性物質をアミド結合(-CONH-)で共有結合させて複合化することができる。
 また、アミノ変性PVAは、ビニルエステル系単量体とN-ビニルホルムアミド等とを共重合し、その後けん化し、導入されたアミノ基と反応する多官能の架橋剤、例えば前記多官能エポキシ化合物、コハク酸、マレイン酸等の多官能カルボン酸化合物と前記カルボジイミド縮合剤との組み合わせ等によりハイドロゲルを得ることができる。
 後変性によりビニルアルコール系重合体に官能基を導入してこれらを反応させる方法としては、エチレン性不飽和基をビニルアルコール系重合体の側鎖に導入する方法が例示できる。導入されたエチレン性不飽和基は、ラジカル開始剤等の添加剤を加えて重合反応を誘起することで容易にハイドロゲルを得ることができる。エチレン性不飽和基はビニルアルコール系重合体の側鎖や末端官能基等を介して行うことが好ましく、ビニルアルコール系重合体の側鎖の水酸基にエチレン性不飽和基を含有する化合物(以下、「エチレン性不飽和基含有化合物」と略称することがある)を反応させることがより好ましい。
 ビニルアルコール系重合体の側鎖である水酸基に対して反応させるエチレン性不飽和基含有化合物として、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸無水物、(メタ)アクリル酸ハロゲン化物、(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリル酸又はその誘導体が挙げられ、これらの化合物を塩基存在下で、エステル化反応又はエステル交換反応させることにより、(メタ)アクリロイル基を導入できる。
 また、ビニルアルコール系重合体の側鎖である水酸基に対して反応させるエチレン性不飽和基含有化合物としては、分子内にエチレン性不飽和基とグリシジル基とを含む化合物が挙げられ、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。これらの化合物を、塩基存在下でエーテル化反応させることにより、ビニルアルコール系重合体に対して(メタ)アクリロイル基やアリル基を導入することができる。
 更に、ビニルアルコール系重合体の1,3-ジオール基に対して反応させるエチレン性不飽和基含有化合物としては、例えば、アクリルアルデヒド(アクロレイン)、メタクリルアルデヒド(メタクロレイン)、5-ノルボルネン-2-カルボキシアルデヒド、7-オクテナール、3-ビニルベンズアルデヒド、及び4-ビニルベンズアルデヒド等の分子内にエチレン性不飽和基とアルデヒド基とを含む化合物が挙げられる。これらの化合物を酸触媒存在下でアセタール化反応させることにより、原料PVAに対してエチレン性不飽和基を導入することができる。より具体的には、例えば5-ノルボルネン-2-カルボキシアルデヒド、3-ビニルベンズアルデヒドや4-ビニルベンズアルデヒド等をアセタール化反応させることにより原料PVAに対してノルボルネニル基やビニルフェニル基を導入することができる。また、N-(2,2-ジメトキシエチル)(メタ)アクリルアミド等を反応させることによりビニルアルコール系重合体に対して(メタ)アクリロイルアミノ基を導入することが可能である。
 ビニルアルコール系重合体へのエチレン性不飽和基の導入方法は例示された前記反応以外も用いることができ、2種以上の反応を組み合わせて使用してもよい。
 前記エチレン性不飽和基の導入方法としては、他にもカルボン酸変性PVAに存在するカルボキシ基や、アミノ変性PVAに存在するアミノ基等の反応性置換基とエチレン性不飽和基含有化合物とを反応させる方法が挙げられる。カルボン酸変性PVAのカルボキシ基に対しては、例えばメタクリル酸グリシジルを酸性条件で反応させることでエステル結合を生成させメタクリロイル基を導入できる。アミノ変性PVAのアミノ基に対しては、例えばアクリル酸無水物を塩基存在下でアミド化反応させることによりアクリロイルアミノ基、例えばアジピン酸ジビニルをアミド化反応させることによりビニルオキシカルボニル基を導入できる。共重合変性PVAを経てエチレン性不飽和基を導入する方法は例示された前記反応以外も用いることができ、2種以上の反応を組み合わせて使用してもよい。
 エチレン性不飽和基を有するビニルアルコール系重合体としては、製造容易性の観点から、1,3-ジオール基等の原料PVAの側鎖の水酸基を介してエチレン性不飽和基を導入したビニルアルコール系重合体が好ましく、原料PVAの側鎖の水酸基に対して(メタ)アクリル酸又はその誘導体をエステル化反応又はエステル交換反応させたビニルアルコール系重合体や、ビニルアルコール系重合体の1,3-ジオール基に対して分子内にエチレン性不飽和基とアルデヒド基とを含む化合物をアセタール化反応させたビニルアルコール系重合体がより好ましい。
<エチレン性不飽和基の導入率>
 前記エチレン性不飽和基の導入率は、ハイドロゲルの脆化を抑制する観点から、ビニルアルコール系重合体を構成する全構造単位中、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下、更に好ましくは3モル%以下である。そして、架橋反応を促進し、ハイドロゲルを迅速に形成する観点、及び得られるハイドロゲルの弾性率を向上させる観点から、好ましくは0.01モル%以上、より好ましくは0.1モル%以上、更に好ましくは0.5モル%以上である。
 ハイドロゲルの機械的強度を向上させ、PVAの水酸基とは異なる官能基を導入する観点から、エチレン性不飽和基を有するビニルアルコール系重合体は更に単量体を含有してもよい。該単量体としてはアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、N,N-ジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド類;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のα,β-不飽和カルボン酸;ビニルピリジン、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、スチレンスルホン酸、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の水溶性ラジカル重合性単量体や、N,N'-メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のエチレン性不飽和基を分子内に2つ以上有する架橋剤等が挙げられる。前記単量体の含有量は、ハイドロゲルの機械的強度を向上させる観点から、エチレン性不飽和基を有するビニルアルコール系重合体に対して50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましい。
<エチレン性不飽和基の重合による架橋>
 エチレン性不飽和基を有するビニルアルコール系重合体は、活性エネルギー線や熱により前記ビニルアルコール系重合体に導入されたエチレン性不飽和基を架橋させることによりゲル化させることができ、これにより本発明のビニルアルコール系重合体の架橋体を得ることができる。活性エネルギー線としては、例えば、ガンマ線、紫外線、可視光線、赤外線(熱線)、ラジオ波、アルファ線、ベータ線、電子線、プラズマ流、電離線、粒子線等が挙げられる。
 前記活性エネルギー線のうち、紫外線、可視光線、赤外線(熱線)等や熱により前記ビニルアルコール系重合体を架橋する場合、後述する未架橋重合体溶液がラジカル重合開始剤を含有することが好ましい。ラジカル重合開始剤としては、光ラジカル重合開始剤、及び熱ラジカル重合開始剤が挙げられる。
 光ラジカル重合開始剤としては、紫外線、可視光等の活性エネルギー線の照射等によってラジカル重合を開始させるものであれば特に制限はない。但し、架橋後に光ラジカル重合開始剤を洗浄除去するという観点からは、水溶性を示すものが好ましい。具体的には、例えば1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(商品名「Omnirad2959」、IGM RESINS B.V.製)、α-ケトグルタル酸、フェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸リチウム塩(商品名「L0290」、東京化成工業(株)製)、エオジンY等が挙げられる。
 熱ラジカル重合開始剤としては、熱によりラジカル重合を開始するものであれば特に制限はなく、ラジカル重合で一般的に用いられるアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤等が挙げられる。前記ビニルアルコール系重合体の透明性及び物性を向上させる観点から、気体を発生しない過酸化物系開始剤が好ましい。前記のとおり架橋後に熱ラジカル重合開始剤を洗浄除去するという観点からは、水溶性を示すものが好ましい。具体的には、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の無機過酸化物が挙げられる。
 また、還元剤と組み合わせたレドックス系重合開始剤を用いてもよい。レドックス系重合開始剤であれば過酸化物系開始剤と還元剤の混合という刺激により、架橋させることができる。レドックス系重合開始剤として組み合わせる還元剤としては公知の還元剤を用いることができるが、これらの中でも水溶性の高いN,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ハイドロサルファイトナトリウム等が好ましい。
 アゾ系開始剤としても同様に水溶性を示すものが好ましく、具体的には、例えば2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩(商品名「VA-044」)、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩二水和物(商品名「VA-044B」)、2,2'-アゾビス[2-メチルプロピオンアミジン]二塩酸塩(商品名「V-50」)、2,2'-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]四水和物(商品名「VA-057」)、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン](商品名「VA-061」)、2,2'-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド](商品名「VA-086」)、4,4'-アゾビス(4-シアノペンタン酸)(商品名「V-501」)(以上、和光純薬工業(株)製)等が挙げられる。
<ポリチオール>
 後述する架橋工程において、前記エチレン性不飽和基としてビニル基を有するビニルアルコール系重合体を用いる場合は、架橋を促進する観点から、例えば、分子内に2つ以上のチオール基を有するポリチオールを添加して、チオール-エン反応を利用して架橋してもよい。
 ポリチオールとしては、水溶性を示すものが好ましく、例えば、ジチオスレイトール等の水酸基を有するポリチオール;3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール、ポリエチレングリコールジチオール、マルチアームポリエチレングリコール等の末端チオール化物等のエーテル結合を含有するポリチオール等が挙げられる。
 以上のようにビニルアルコール系重合体の共有結合による架橋方法は必要に応じて最適なものが選択できるが、ハイドロゲルに含まれる未反応架橋剤や縮合剤の毒性、さらに成形の容易さという観点から、後変性によりビニルアルコール系重合体に官能基を導入してこれらを反応させる方法、特にエチレン性不飽和基をビニルアルコール系重合体の側鎖に導入する方法が好ましい。
<生理活性物質の複合化>
 前記生理活性物質としては、例えばゼラチン、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、レトロネクチン、ビトロネクチン、エラスチン、合成RGDペプチド等の細胞接着性タンパク質又はペプチド;繊維芽細胞増殖因子(FGF)、上皮成長因子(EGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)等の成長因子;ヘパリン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸等のグリコサミノグリカンを含む酸性多糖類、抗体、ホルモン、血清タンパク質、アルブミン、マクログロブリン、グロブリン、プロテインAなどの抗体結合タンパク質、各種医薬品、プロテアーゼ、リパーゼ、アミラーゼ、セルラーゼ等の酵素が挙げられる。
 生理活性物質は、乾燥ハイドロゲル形成性物品と結合可能な官能基を有するものが好ましい。このような官能基としては、1級又は2級のアミノ基、カルボキシ基、水酸基などが挙げられ、好ましくは1級アミノ基又はカルボキシ基、より好ましくは1級アミノ基である。
<複合体>
 第一の実施形態において、本発明の乾燥ハイドロゲル形成性物品は、生理活性物質との複合体である。より具体的には、当該実施形態において、本発明の乾燥ハイドロゲル形成性物品は、前記生理活性物質を単に包含している乾燥ハイドロゲル形成性物品でもよく、また、乾燥ハイドロゲル形成性物品と生理活性物質とが共有結合で結合した複合体であってもよいが、共有結合で結合した乾燥ハイドロゲル形成性物品であることが好ましい。乾燥ハイドロゲル形成性物品と生理活性物質とが共有結合を形成することにより、生理活性物質を乾燥ハイドロゲル形成性物品に保持し、安定的に機能させることが可能になる。
 乾燥ハイドロゲル形成性物品と生理活性物質とを共有結合で結合させる方法としては、例えばPVAの水酸基を活性化して生理活性物質の官能基と反応させることで共有結合を形成させることや、カルボン酸変性PVAやアミノ変性PVAを用いて生理活性物質の官能基と反応させることで共有結合を形成させることなどを選択できる。反応の効率という観点からは生理活性物質の官能基としてはアミノ基、カルボン酸やチオール基を利用することが好ましく、カルボン酸がより好ましい。
 PVAの水酸基を活性化して生理活性物質を導入する具体的な方法としては、例えば1,1'-カルボニルジイミダゾール、ジ(N-スクシミジル)カーボネート、p-トルエンスルホン酸クロリド、2,2,2-トリフルオロエタンスルホン酸クロリド、シアヌル酸クロリド等の水酸基活性化試薬を用いる方法が挙げられる。これらの水酸基活性化試薬をPVAの水酸基と反応させると、生理活性物質の1級又は2級アミノ基、カルボキシ基、水酸基等の官能基との共有結合形成が可能となる。また、前記ビニルアルコール系重合体の水酸基にエステル結合させてカルボン酸が導入できる無水コハク酸等の酸無水物試薬や、前記ビニルアルコール系重合体の1,3-ジオール基にアセタール結合によりアミノ基が導入できる2,2-ジメトキシエチルアミン等のアセタール試薬を使用することもできる。これらカルボン酸およびアミノ基は生理活性物質のアミノ基、カルボン酸と前記カルボジイミド縮合剤などを使用してアミド結合を形成できる。例えば無水コハク酸等の酸無水物試薬と架橋されたビニルアルコール系重合体を反応させると末端にコハク酸由来のカルボキシ基(COOH)が導入され、このカルボキシ基と生理活性物質のアミノ基を1,1'-カルボニルジイミダゾール、ジシクロヘキシルカルボジイミド、水溶性カルボジイミドなどの縮合剤を用いて縮合させることで、生理活性物質を架橋されたビニルアルコール系重合体にアミド結合を介して生理活性物質を複合化させることができる。
 カルボン酸変性PVAやアミノ変性PVAに生理活性物質を導入する具体的な方法としては、上述したように生理活性物質のアミノ基、カルボン酸と前記カルボジイミド縮合剤などを使用してアミド結合を形成できる。以上のような例示が可能であるが、用途に応じて他の方法を含めて最適な方法を用いることができる。
 複合体は以下に説明するように未架橋重合体溶液の架橋工程後に形成させても良いし、未架橋重合体溶液の段階で複合化させてもよい。生理活性物質の複合化は、架橋による生理活性物質の活性低下又は活性消失を避けるために、架橋工程に後に行なうことが好ましい。
<乾燥ハイドロゲル形成性物品の製造方法>
 本発明のハイドロゲル形成性物品の製造方法に特に制限はないが、まず、前記ビニルアルコール系重合体を含む未架橋重合体溶液を調製する工程(未架橋重合体溶液調製工程)、その後、該未架橋重合体溶液を成形する工程(成形工程)、次いで、該未架橋重合体溶液に含まれるビニルアルコール系重合体を架橋してゲル化する工程(架橋工程)を経ることにより製造することが好ましい。以下に具体的な方法を説明する。
<未架橋重合体溶液調製工程>
 本発明における未架橋重合体溶液調製工程は、前記ビニルアルコール系重合体を含む未架橋重合体溶液を調製する工程であり、前記ビニルアルコール系重合体を溶媒に溶解させることにより得ることができる。
 溶媒としては、水が好ましく、更に水溶性有機溶媒を含有してもよい。水溶性有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のモノアルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール等が挙げられる。水溶性有機溶媒は、単独で又は2種以上を混合してもよく、水溶性有機溶媒と水を混合して使用してもよい。
 未架橋重合体溶液が前記水溶性有機溶媒を含有する場合、その含有量は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。 前記未架橋重合体溶液中の溶媒の含有量は、50質量%以上が好ましく、55質量%以上がより好ましく、60質量%以上が更に好ましく、そして、99.999質量%以下が好ましく、99.99質量%以下がより好ましく、99.9質量%以下が更に好ましい。
 また、前記未架橋重合体溶液中の前記ビニルアルコール系重合体の含有量は、0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましい。また、未架橋重合体溶液の高粘度化を抑制し、良好な成形性を得る観点から、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下が更に好ましい。前記ビニルアルコール系重合体の含有量が0.001質量%未満では得られるゲルの強度や膜厚が小さすぎ、50質量%を越えると未架橋重合体溶液の粘度が高く、成形が困難になる。
<成形工程>
 本発明のハイドロゲル形成性物品の製造において、前記未架橋重合体溶液を成形する方法に特に制限はないが、公知の方法を用いて前記不定形粒子、球状粒子、微細成形体、3Dプリンターで成形された任意形状物品、フィルム、糸、中空糸、多孔質モノリス、コーティング物品などの形状に成形することができる。
<架橋工程>
 本発明のハイドロゲル形成性物品は、前記成形工程の後、ビニルアルコール系重合体を架橋する架橋工程を経ることにより製造することが好ましい。本工程における架橋は、前記した方法により行うことができる。架橋工程は未架橋重合体溶液として溶媒を含んだまま行ってもよく、さらに未架橋重合体溶液の溶媒を除去した後に行ってもよい。架橋工程は未架橋重合体溶液として溶媒を含んだまま架橋したゲルは後述する乾燥工程での収縮が激しく、例えばフィルム、糸、中空糸、コーティング等の形状を形成することが難しい場合がある。この場合は、未架橋重合体溶液を成形後に一旦乾燥し、その後架橋することが好ましい。未架橋重合体溶液の乾燥度合いは成形品や架橋方法に適した状態が選択できるが、溶媒含有量は好ましくは50%以下、より好ましくは25%以下、さらに好ましくは10%以下である。溶媒含有量が50%を超えると後述する乾燥工程での収縮が大きくなる傾向にある。
 未架橋重合体溶液は成形される前に前記ビニルアルコール系重合体だけでなく、前記架橋剤や開始剤等の架橋に必要な成分を含んでいてもよい。上述したように未架橋重合体溶液を成形後に一旦乾燥する場合は架橋に必要な成分は成形された後に含ませてもよい。架橋条件は上述したように用いるビニルアルコール系重合体や架橋の方法により最適なものが選ばれるが、架橋が終了してハイドロゲルが生成すると成形が困難になるため、ハイドロゲルが形成される前に成形することが好ましい。上述した架橋方法の中には未架橋重合体溶液と架橋に必要な成分を混合するだけで室温以下の温度で反応が開始されるものもあり、成形の直前に混合することが望ましい。また熱が必要な架橋の場合は、生理活性物質の活性維持という観点から、架橋反応の温度は好ましくは100℃以下、より好ましくは60℃以下、さらに好ましくは37℃以下である。
<複合化工程>
 本発明における複合化工程は、ビニルアルコール系重合体の架橋体に生理活性物質を複合化し、複合化ハイドロゲルを得る工程である。そのため、既に説明したように未架橋重合体溶液の段階で複合化していた場合、複合化工程は基本的に不要である。
 前記ビニルアルコール系重合体としてカルボン酸変性ビニルアルコール系共重合体やアミノ変性ビニルアルコール系重合体を使用している場合は、上述の複合化方法により残留する官能基に対して生理活性物質を導入できる。
 また、架橋工程後のビニルアルコール系重合体の架橋体に含まれる水酸基等に対して、まず複合化のための官能基を導入し、次に複合化工程を実施することも可能である。官能基導入の方法としては、上述したように水酸基活性化試薬、酸無水物試薬やアセタール試薬などを用いればよく、これも同様に上述の複合化方法により官能基に対して生理活性物質を導入できる。
<乾燥工程>
 前記複合化ハイドロゲルは滅菌前に熱風乾燥、真空乾燥や凍結乾燥など一般的な方法により、目的のものから水を除去し、乾いた状態にする。熱風乾燥の温度は、生理活性物質の活性低下又は活性消失を回避するために、好ましくは30~100℃程度、より好ましくは37~60℃程度である。本発明の乾燥ハイドロゲル形成性物品の下記式(1)で表現される含水率は、好ましくは75質量%以下、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下、よりさらに好ましくは40質量%以下、特に好ましくは25質量%以下である。
Figure JPOXMLDOC01-appb-M000001
 本発明の乾燥ハイドロゲル形成性物品の含水率は、含まれる溶媒の種類によって適切な測定方法が異なる。乾燥ハイドロゲル形成性物品が水のみを溶媒として含む場合、乾燥ハイドロゲル形成性物品の含水率は加熱乾燥式水分計にて直接的に含有される水を蒸発させて残留する乾燥された複合化ハイドロゲルの重量を観測することで計算することができる。また、乾燥ハイドロゲル形成性物品が前記水溶性有機溶媒を含む場合、複合化ハイドロゲルを1H-NMRにて測定することで含水率を測定する。具体的には、複合化ハイドロゲルを重DMSOにより膨潤させて1H-NMRスペクトルおよび積分値を測定すれば、ビニルアルコール系重合体の架橋体に由来するピークの積分値を比較することで水および前記水溶性有機溶媒の含有量が計算可能である。この1H-NMRによる含水率の測定は、前記水溶性有機溶媒を含む場合に水溶性有機溶媒と水の含有量を分離して評価するという観点から有効である。なお、まずは1H-NMRにより水溶性有機溶媒の有無を確認し、水のみを溶媒として含む場合には、その後に加熱乾燥式水分計で含水率を測定することが1つの好ましい実施形態である。
<滅菌工程>
 本発明における滅菌とは必ずしも人体に使用される医薬品や医療機器に求められるようなSAL=10-6以下である必要はなくSAL=10-3以下であってもよく、より好ましくはSAL=10-4以下、さらに好ましくはSAL=10-5以下が保証できれば試験研究用途であれば使用できる。しかし、人体に使用される医薬品や医療機器の一部に組み込む場合や、当該物品の製造に使用される場合にはSAL=10-6以下を保証することが好ましい。
 典型的な実施形態において前記複合化ハイドロゲルは乾燥工程後に滅菌される。乾燥工程前、すなわち水を多量に含む複合化ハイドロゲルを滅菌すると複合化された生理活性物質は活性が低下する。一方、前記のように乾燥後に滅菌すると複合化された生理活性物質は活性を許容範囲内に維持する。
 滅菌方法に特に制限はないが具体的な滅菌方法としては、例えば、オートクレーブ滅菌法、エチレンオキサイドガス滅菌法、過酸化水素低温プラズマ滅菌法、乾熱滅菌法、グルタルアルデヒド等による化学滅菌法、ガンマ線又は電子線による放射線滅菌法等を用いることが可能である。これらの中でも、複合化された生理活性物質の活性を維持しやすいという観点からは、エチレンオキサイドガス滅菌法、過酸化水素低温プラズマ滅菌法、放射線滅菌法を採用することが好ましく、残留物がない点から放射線滅菌法がさらに好ましい。本発明の乾燥ハイドロゲル形成性物品は、エチレンオキサイドガスフリー、グルタルアルデヒドフリー、過酸化水素フリーであることが好ましい。
 滅菌は、乾燥ハイドロゲル形成性物品を容器に収容し、容器を密封し、その後に滅菌工程を行うことが好ましい。容器としては、可撓性の樹脂容器、例えば樹脂製のパウチを使用することができ、密封はヒートシールにより行うことができる。これに加え、容器として滅菌後に開封可能な蓋の付いたボトル容器を使用することができ、密封は蓋をスクリューでねじ込むことやアンプルのようにヒートシールなどをして行うことができる。例えば放射線滅菌を行う場合には、放射線透過性かつ放射線照射後に十分な強度を保持する素材の容器を使用することが好ましい。容器の素材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン等のポリオレフィン系樹脂又は2種以上のオレフィンの共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどのビニル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、シリコーン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ガラスなどが挙げられる。前記容器はこれらの素材の単層または積層体から構成されていてもよく、これらの素材にアルミニウム、シリカ等を蒸着したもの、アルミニウムフィルム、アルミニウムラミネートフィルム等の金属箔または金属箔を含む複層体を使用することもできる。また、乾燥された状態のハイドロゲル形成性物品に滅菌を行うことが好ましい。
 滅菌バリデーションの実施方法としては、ハーフサイクル法、オーバーキル法、バイオバーデン/BI併用法、絶対バイオバーデン法があり、何れもが利用できる。放射線滅菌の場合、ISO(ISO 11137-2:2013)またはJIS(JIS T 0806―2:2014)に記載された絶対バイオバーデン法による滅菌バリデーションが行われる。滅菌バリデーションにおける滅菌線量の設定方法としては、方法1(Method 1)、VDmax法、方法2(Method 2)があり、何れもが本発明の乾燥ハイドロゲル形成性物品の滅菌に利用できる。方法1およびVDmax法は乾燥ハイドロゲル形成性物品に付着している菌数に基づいて滅菌線量を設定する方法であり、方法2は乾燥ハイドロゲル形成性物品に付着している菌の放射線抵抗性に基づいて滅菌線量を設定する方法である。方法1およびVDmax法で滅菌線量を決定するにはISO 11737-1:2006またはJIS T11737-1:2013等に記載されているバイオバーデン試験を行い、滅菌前の乾燥ハイドロゲル形成性物品に付着している菌数の測定を実施することができる。必要な資料数やコストを考慮すると、方法1およびVDmax法がより好ましく、コスト抑制を考慮するとVDmax法がさらに好ましい。
 SAL=10-6以下を達成するには方法1においては11kグレイ(Gy)以上、VDmax法においては15kGy以上の照射線量が必要になる。また、方法2においては8.2kGy以上の照射線量が必要となる。この非常に高いエネルギーのガンマ線照射線量に複合化ハイドロゲルが耐えられないというのが従来の認識であった。本発明の1つの好ましい実施形態は、乾燥された複合化ハイドロゲル形成性物品を用いることで8.2kGy以上という高エネルギーのガンマ線照射でも製品のダメージを防ぎ、生理活性物質の活性が所望の範囲に維持された滅菌された複合化ハイドロゲル形成性物品が製造できるという発見に基づいている。
 本発明の乾燥ハイドロゲル形成性物品は、細胞と併用してもよいし、細胞を包含させてもよい。細胞と併用又は細胞を包含させる場合、前記物品に水を供給してハイドロゲルを形成させることが好ましい。本明細書に係る用語「細胞」には、特に限定されるわけではないが、好ましくは、多能性幹細胞、組織幹細胞、体細胞、医薬品等の有用物質生産や治療等に用いられる哺乳動物由来の株化細胞及び昆虫細胞が含まれる。
 細胞には付着性細胞及び浮遊細胞が含まれる。付着性細胞とは、細胞培養にあたり、本発明のハイドロゲルのような担体に付着することで増殖する細胞をいう。浮遊性細胞とは細胞増殖において基本的に担体への付着を必要としない細胞をいう。浮遊性細胞には、担体に弱く付着することが可能な細胞を含む。
 上記多能性幹細胞とは、あらゆる組織の細胞へと分化する能力(分化多能性)を有する幹細胞であり、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)、生殖幹細胞(GS細胞)等である。
 上記組織幹細胞とは、分化する組織が限定されているが、様々な細胞種へ分化可能な能力(分化多能性)を有する幹細胞を意味し、例えば組織幹細胞は、骨髄未分化間葉系幹細胞、骨格筋幹細胞、造血系幹細胞、神経幹細胞、肝幹細胞、脂肪組織幹細胞、表皮幹細胞、腸管幹細胞、精子幹細胞、膵臓幹細胞(膵管上皮幹細胞等)、白血球系幹細胞、リンパ球系幹細胞、角膜系幹細胞等が挙げられる。
 上記体細胞とは、多細胞生物を構成する細胞のことを指し、例えば、骨芽細胞、軟骨細胞、造血細胞、上皮細胞(乳腺上皮細胞など)、内皮細胞(血管内皮細胞等)、表皮細胞、繊維芽細胞、間葉由来細胞、心筋細胞、筋原細胞、平滑筋細胞、生体由来骨格筋細胞、ヒト腫瘍細胞、繊維細胞、EBウイルス変異細胞、肝細胞、腎細胞、骨髄細胞、マクロファージ、肝実質細胞、小腸細胞、乳腺細胞、唾液腺細胞、甲状腺細胞、皮膚細胞、形質細胞、T細胞、B細胞、キラー細胞、リンパ芽細胞、及び膵β細胞等が挙げられるが、これらに限定されない。
 上記哺乳動物由来の株化細胞としては、CRFK細胞、3T3細胞、A549細胞、AH130細胞、B95-8細胞、BHK細胞、BOSC23細胞、BS-C-1細胞、C3H10T1/2細胞、C-6細胞、CHO細胞、COS細胞、CV-1細胞、F9細胞、FL細胞、FL5-1細胞、FM3A細胞、G-361細胞、GP+E-86細胞、GP+envAm12細胞、H4-II-E細胞、HEK293細胞、HeLa細胞、HEp-2細胞、HL-60細胞、HTC細胞、HUVEC細胞、IMR-32細胞、IMR-90細胞、K562細胞、KB細胞、L細胞、L5178Y細胞、L-929細胞、MA104細胞、MDBK細胞、MDCK細胞、MIA PaCG-2細胞、N18細胞、Namalwa細胞、NG108-15細胞、NRK細胞、OC10細胞、OTT6050細胞、P388細胞、PA12細胞、PA317細胞、PC-12細胞、PER.C6細胞、PG13細胞、QGH細胞、Raji細胞、RPMI-1788細胞、SGE1細胞、Sp2/O-Ag14細胞、ST2細胞、THP-1細胞、U-937細胞、V79細胞、VERO細胞、WI-38細胞、ψ2細胞、及びψCRE細胞等が挙げられる。
 上記昆虫細胞としては、カイコ細胞(BmN細胞及びBoMo細胞等)、クワコ細胞、サクサン細胞、シンジュサン細胞、ヨトウガ細胞(Sf9細胞及びSf21細胞等)、クワゴマダラヒトリ細胞、ハマキムシ細胞、ショウジョウバエ細胞、センチニクバエ細胞、ヒトスジシマカ細胞、アゲハチョウ細胞、ワモンゴキブリ細胞及びイラクサキンウワバ細胞(Tn-5細胞、HIGH FIVE細胞及びMG1細胞等)等が挙げられる。
 上記細胞は互いに凝集していてもよく、分化していてもよい。凝集した細胞は器官としての機能を有していてもよい。細胞は生体から採取された直後のものでもよく、培養したものでもよい。生体から採取した細胞は器官を形作っていてもよい。
 本発明の乾燥ハイドロゲル形成性物品をハイドロゲルとし、細胞と接触させるなどして細胞を培養する場合には培地成分を添加することが好ましい。使用する培地は特に限定はなく、細胞に適したものを自由に選択して使用できる。培地は、ウシ胎仔血清を添加したDMEM、MEM、F12等の基本培地、血清低減培地、無血清培地などが使用できる。使用できる無血清培地には異種成分不含(ゼノフリー)培地や、血清のみならず蛋白質成分や動物成分を含まない完全合成培地などがある。
 本発明の乾燥ハイドロゲル形成性物品は、親水性、反応性、生分解性、生体適合性、及び低毒性等に優れ、柔軟性及び強度が高く、滅菌された複合化ハイドロゲル形成性物品を無菌環境など高価なプロセスを用いずに提供することができる。そのため、本発明の乾燥ハイドロゲル形成性物品は担体(carrierまたはsupport)として有用である。本発明の乾燥ハイドロゲル形成性物品からなる担体は、酵素固定化担体、アフィニティー担体、細胞培養担体、ドラッグデリバリー用担体などの用途に好適に用いることができる。
 2.ハイドロゲル
 第二の実施形態において、本発明は、エチレン性不飽和基およびカルボキシ基を有するビニルアルコール系重合体の架橋体とアミノ基を有する生理活性物質を含み、前記架橋体のカルボキシ基と、前記生理活性物質のアミノ基が、アミド結合により共有結合されている、ハイドロゲルを提供する。尚、本明細書においてそうでないことが明示されていない限り、第二の実施形態におけるハイドロゲルの詳細、製法、使用法等は、「1.乾燥ハイドロゲル形成性物品」において記載された本発明の第一の実施形態と同様の条件を採用し得る。
 <ハイドロゲル>
 当該実施形態において、本発明のハイドロゲルとは、エチレン性不飽和基およびカルボキシ基を有するビニルアルコール系重合体の架橋体とアミノ基を有する生理活性物質を複合化してなる複合化ハイドロゲル又はその乾燥品又はその成形品であり、含水していても乾燥された状態となっているものでもよく、乾燥されているものは水、緩衝液、体液、培養液等の水系溶液に触れると膨潤してハイドロゲルを形成する。成形品の形態としては、一般的な不定形粒子、球状粒子、フィルム、糸、中空糸、多孔質モノリスなどを含む。
 本明細書において、「アミド結合複合化ハイドロゲル」は、エチレン性不飽和基およびカルボキシ基を有するビニルアルコール系重合体の架橋体にアミノ基を有する生理活性物質が、ビニルアルコール系重合体が有するカルボキシ基とアミド結合により共有結合されているハイドロゲルを意味する。
 さらに成形品の形態、寸法、製法等としては、「1.乾燥ハイドロゲル形成性物品」において前述したもの等が挙げられる。
 第二の実施形態において、本発明のハイドロゲルは溶媒が除去され乾燥された状態であってもよいし、溶媒を含有していてもよい。溶媒としては、水が好ましく、更に水溶性有機溶媒を含有してもよい。水溶性有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のモノアルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール等の水溶性有機溶媒を混合して使用してもよい。ハイドロゲル中の溶媒の含有量は、0.1~99質量%が好ましく、0.5~98質量%が好ましく、1~97質量%が好ましい。
 <ビニルアルコール系重合体の製造方法>
 尚、本明細書においてそうでないことが明示されていない限り、第二の実施形態におけるビニルアルコール系重合体の製法、原料、粘度測定法等は、「1.乾燥ハイドロゲル形成性物品」において記載された本発明の第一の実施形態と同様のものを採用し得る。
 <ビニルアルコール系重合体の架橋体>
 当該第二の実施形態において、本発明のハイドロゲルは、エチレン性不飽和基およびカルボキシ基を有するビニルアルコール系重合体の架橋体を含む。本発明に用いるビニルアルコール系重合体を構成する全構造単位に対するビニルアルコール由来の構造単位及びビニルエステル由来の構造単位の合計量は、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上である。
<エチレン性不飽和基を有するビニルアルコール系重合体>
 当該第二の実施形態において、本発明のビニルアルコール系重合体には架橋性部位としてエチレン性不飽和基を共有結合により有している。エチレン性不飽和基は以下に述べるように水中でも温和な条件で重合反応し、ビニルアルコール系重合体を架橋・ゲル化させることが可能である。また3Dプリンターを含む様々な成形工程で利用できるため、きわめて有用である。
 前記エチレン性不飽和基としては特に制限はなく自由に選択できるが、後述する活性エネルギー線、熱、レドックス系重合開始剤等によりビニルアルコール系重合体鎖間で架橋を形成することができる基が好ましい。前記エチレン性不飽和基としてはラジカル重合性基を用いることがより好ましく、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルアミノ基、ビニルフェニル基、シクロヘキセニル基、シクロペンテニル基、ノルボルネニル基、ジシクロペンテニル基等の環式不飽和炭化水素基、及びこれらの誘導体が挙げられる。これらのエチレン性不飽和基は、ビニルアルコール系重合体鎖の側鎖や末端のいずれに存在してもよい。
 なお、本発明におけるビニル基には、エテニル基だけでなく、アリル基やアルケニル基等の鎖式不飽和炭化水素基、ビニルオキシカルボニル基等も含む。
 前記ラジカル重合性基の中でも、ハイドロゲル粒子の機械的強度を向上させる観点から、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルアミノ基、ビニルフェニル基、ノルボルネニル基及びこれらの誘導体らなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。また、反応性の観点からは、末端不飽和炭素結合を有する官能基が好ましく、(メタ)アクリロイル基がより好ましい。
 エチレン性不飽和基はビニルアルコール系重合体の側鎖や末端官能基等を介して行うことが好ましく、ビニルアルコール系重合体の側鎖の水酸基にエチレン性不飽和基を含有する化合物(以下、「エチレン性不飽和基含有化合物」と略称することがある)を反応させることがより好ましい。
 ビニルアルコール系重合体の側鎖である水酸基に対して反応させるエチレン性不飽和基含有化合物として、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸無水物、(メタ)アクリル酸ハロゲン化物、(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリル酸又はその誘導体、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物や5-ノルボルネン-2-カルボン酸等のノルボルネン誘導体が挙げられ、これらの化合物を塩基または酸存在下で、エステル化反応又はエステル交換反応させることにより、(メタ)アクリロイル基およびノルボルネン基を導入できる。
 これに加え、ビニルアルコール系重合体の側鎖である水酸基に対して反応させるエチレン性不飽和基含有化合物としては、分子内にエチレン性不飽和基とグリシジル基とを含む化合物が挙げられ、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。これらの化合物を、塩基存在下でエーテル化反応させることにより、ビニルアルコール系重合体に対して(メタ)アクリロイル基やアリル基を導入することができる。
 更に、ビニルアルコール系重合体の1,3-ジオール基に対して反応させるエチレン性不飽和基含有化合物;ビニルアルコール系重合体へのエチレン性不飽和基の導入方法;
エチレン性不飽和基を有するビニルアルコール系重合体としては、「1.乾燥ハイドロゲル形成性物品」において記載したのと同様のもの等が挙げられる。
<エチレン性不飽和基の導入率>
 前記エチレン性不飽和基の導入率;エチレン性不飽和基を有するビニルアルコール系重合体が更に含有してもよい単量体としては、「1.乾燥ハイドロゲル形成性物品」において記載したのと同様のもの等が挙げられる。
<エチレン性不飽和基の重合による架橋>
 エチレン性不飽和基を有するビニルアルコール系重合体は、活性エネルギー線や熱により前記ビニルアルコール系重合体に導入されたエチレン性不飽和基を架橋させることによりゲル化させて架橋体を得ることができること、その際の活性エネルギー線;ラジカル重合開始剤(光ラジカル重合開始剤、熱ラジカル重合開始剤;還元剤と組み合わせたレドックス系重合開始剤、アゾ系開始剤等)としては、「1.乾燥ハイドロゲル形成性物品」において記載したのと同様のもの等が挙げられる。
<ポリチオール>
 架橋工程において、前記エチレン性不飽和基としてビニル基を有するビニルアルコール系重合体を用いる場合は、硬化を促進する観点から、例えば、分子内に2つ以上のチオール基を有するポリチオールを添加して、チオール-エン反応を利用して架橋してもよいこと;その際のポリチオールとしては、「1.乾燥ハイドロゲル形成性物品」において記載したのと同様のもの等が挙げられる。
<カルボキシ基を有するビニルアルコール系重合体>
 第二の実施形態において、本発明のビニルアルコール系重合体はカルボキシ基を有する。ビニルアルコール系重合体にカルボキシ基を導入する方法としては、例えばPVAの水酸基を活性化してカルボキシ基を導入することや、ビニルアルコール系重合体を製造する際にビニルエステル系単量体以外のカルボキシ基を有する単量体を予め共重合にて導入したカルボン酸変性PVAに含まれるカルボキシ基をそのまま利用することなどが選択できる。
 PVAの水酸基を活性化してカルボキシ基を導入する方法としては、水酸基にエステル結合させてカルボン酸が導入できる無水コハク酸等の酸無水物試薬や、前記ビニルアルコール系重合体の1,3-ジオール基にアセタール結合によりカルボキシ基が導入できるグリオキシル酸等のアセタール試薬を用いることが挙げられる。これらカルボン酸(COOH)と生理活性物質のアミノ基をカルボニルジイミダゾール、ジシクロヘキシルカルボジイミド、水溶性カルボジイミドなどのペプチド合成に使用される縮合剤などを使用してアミド結合を形成できる。
 前記、カルボン酸変性PVAを構成するビニルエステル系単量体以外のカルボキシ基を有する単量体としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のα,β-不飽和カルボン酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;無水マレイン酸、無水イタコン酸等のα,β-不飽和カルボン酸無水物等及びその誘導体等が挙げられる。ビニルエステル系単量体と前記カルボン酸変性PVAを構成するビニルエステル系単量体以外のカルボキシ基を有する単量体とを共重合し、その後けん化することでカルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(カルボン酸変性PVA)を製造できる。
 前記カルボキシ基の導入率は、ハイドロゲルの溶媒(特に水)に対する膨潤性を適度に保ち、ゲル強度などの物性を維持する観点から、ビニルアルコール系重合体を構成する全構造単位中、好ましくは50モル%以下、より好ましくは30モル%以下、更に好ましくは15モル%以下である。そして、生理活性物質の複合化密度を高く保ち、高い機能を発現させる観点から、好ましくは0.1モル%以上、より好ましくは0.5モル%以上、更に好ましくは1.0モル%以上である。
<生理活性物質>
 前記アミノ基(1級又は2級)を有する生理活性物質としては、例えばゼラチン、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、レトロネクチン、ビトロネクチン、エラスチン、合成RGDペプチド等の細胞接着性タンパク質又はペプチド;繊維芽細胞増殖因子(FGF)、上皮成長因子(EGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)等の成長因子;抗体、血清タンパク質、アルブミン、マクログロブリン、グロブリン、プロテインAなどの抗体結合タンパク質、ヘパリン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸等のグリコサミノグリカン、各種医薬品、プロテアーゼ、リパーゼ、アミラーゼ、セルラーゼ等の酵素が挙げられる。これらの生理活性物質はアミノ基を含んでおり、これが生理活性物質のアミド結合による複合化に利用できる。生理活性物質は、2個以上のアミノ酸を含む生理活性ポリペプチドが好ましい。また、アミノ基は芳香族アミノ基、脂肪族アミノ基のいずれでもよいが、脂肪族アミノ基が好ましく、生理活性ポリペプチドのリジン(Lys)の側鎖アミノ基又はN末端のアミノ基が好ましい。なお、生理活性物質に含まれるアミノ基は、1級アミノ基と2級アミノ基のいずれであってもよく、これらの一方又は両方を包含する。生理活性物質に含まれる1級アミノ基又は2級アミノ基は、いずれもビニルアルコール系重合体の架橋体が有するカルボキシ基とアミド結合を形成することができる。
<複合体>
 第二の実施形態において、本発明のハイドロゲルは、エチレン性不飽和基およびカルボキシ基を有するビニルアルコール系重合体の架橋体とアミノ基を有する生理活性物質との複合体である。より具体的には、本発明のハイドロゲルは、アミノ基を有する生理活性物質が、ビニルアルコール系重合体が有するカルボキシ基と共有結合(-CO-NH-)で結合したハイドロゲルである。ハイドロゲルと生理活性物質とが共有結合(アミド結合)を形成することにより、生理活性物質をハイドロゲルに保持し、安定的に機能させることが可能になる。
 ビニルアルコール系重合体の架橋体と生理活性物質を複合化する具体的な方法としては、上述したように生理活性物質のアミノ基とビニルアルコール系重合体のカルボキシ基を、前記カルボジイミド縮合剤などを使用してアミド結合により共有結合させることが可能であるが、用途に応じて他の方法を含めて最適な方法を用いることができる。
 生理活性物質との複合体は以下に説明するように未架橋ゲル溶液の架橋工程後に形成させても良いし、未架橋ゲル溶液の段階で複合化させてもよい。
<ハイドロゲルの製造方法>
 第二の実施形態においても本発明のハイドロゲルの製造方法に特に制限はないが、まず、前記ビニルアルコール系重合体を含む未架橋ゲル溶液を調製する工程(未架橋ゲル溶液調製工程)、その後、該未架橋ゲル溶液を成形する工程(成形工程)、次いで、該未架橋ゲル溶液に含まれるビニルアルコール系重合体を架橋してゲル化する工程(架橋工程)を経ることにより製造することが好ましい。生理活性物質の複合化工程は、架橋工程の前又は後で行うことができる。
 以下に具体的な方法を説明する。
<未架橋ゲル溶液調製工程>
 本発明における未架橋ゲル溶液調製工程は、前記ビニルアルコール系重合体を含む未架橋ゲル溶液を調製する工程であり、前記ビニルアルコール系重合体を溶媒に溶解させることにより得ることができる。
 当該方法における溶媒の種類、使用量、前記未架橋ゲル溶液中の前記ビニルアルコール系重合体の含有量等は、「1.乾燥ハイドロゲル形成性物品」において記載された本発明の第一の実施形態と同様の条件を採用し得る。
<成形工程>
 第二の実施形態においても本発明のハイドロゲルの製造において、前記未架橋ゲル溶液を成形する方法に特に制限はなく、「1.乾燥ハイドロゲル形成性物品」において記載された方法を適宜使用し得る。
<架橋工程>
 第二の実施形態においても本発明のハイドロゲルは、前記成形工程の後、ビニルアルコール系重合体を架橋する架橋工程を経ることにより製造することが好ましい。架橋工程の詳細については、「1.乾燥ハイドロゲル形成性物品」において記載された本発明の第一の実施形態と同様の条件を採用し得る。
<複合化工程>
 既に説明したように未架橋ゲル溶液の段階で複合化していた場合、架橋工程後の複合化工程は基本的に不要である。また、前記ビニルアルコール系重合体としてカルボン酸変性PVAを使用している場合は、上述の複合化方法により残留する官能基に対して生理活性物質を導入できる。
 また、架橋工程後のハイドロゲルに含まれる水酸基等に対して、まず複合化のための官能基(カルボキシ基)を導入し、次に複合化工程を実施することも可能である。官能基導入の方法としては、上述したように水酸基活性化試薬、酸無水物試薬やアセタール試薬などを用いればよく、これも同様に上述の複合化方法によりカルボキシ基に対してアミノ基を有する生理活性物質を導入できる。
 第二の実施形態においても本発明のハイドロゲルは、細胞と併用してもよいし、細胞を包含させてもよい。第二の実施形態における細胞の詳細、培養方法等は、「1.乾燥ハイドロゲル形成性物品」において記載されたものと同様である。
 第二の実施形態において、本発明のハイドロゲルは、親水性、反応性、生分解性、生体適合性に優れ、柔軟性及び強度が高く、毒性の低い架橋方法を用いつつ、効率よく生理活性物質又は酵素を共有結合により導入されている。そのため、本発明のハイドロゲルは担体(carrierまたはsupport)として有用である。本発明のハイドロゲルを含む担体は、酵素固定化担体、アフィニティー担体、細胞培養担体、ドラッグデリバリー用担体などの用途に好適に用いることができる。
 以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
[使用原料]
 合成例、実施例及び比較例において使用した主な成分を以下に示す。
<原料PVA>
・PVA117:ポリビニルアルコール(商品名「PVA117」、重合度1700、けん化度約98.0~99.0モル%、粘度(4%,20℃)25.0~31.0mPa・s、(株)クラレ製)
 なお、原料PVAの重合度は、JIS K 6726:1994に準じて測定した。
・AF-17:ポリビニルアルコール(商品名「AF-17」、1.3モル%イタコン酸共重合(サイエンティフィックリポーツ(Scientific Reports)、2017年、第7巻、p.45146)、けん化度96.5モル%以上、粘度(4%,20℃)30±3mPa・s、日本酢ビ・ポバール(株)製)
<エチレン性不飽和基含有化合物>
・メタクリル酸ビニル:東京化成工業(株)製
・5-ノルボルネン-2-カルボキシアルデヒド:東京化成工業(株)製
<合成試薬>
・50% グルタルアルデヒド溶液:富士フイルム和光純薬(株)製
・トリエチルアミン:富士フイルム和光純薬(株)製
・無水コハク酸:富士フイルム和光純薬(株)製
・流動パラフィン:富士フイルム和光純薬(株)製
・Span80:富士フイルム和光純薬(株)製
<ラジカル重合開始剤>
・過硫酸カリウム:富士フイルム和光純薬(株)製
・L0290:フェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸リチウム塩(光ラジカル重合開始剤、商品名「L0290」、東京化成工業(株)製)
<ポリチオール>
・3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール:東京化成工業(株)製
<水酸基の活性化試薬>
・1,1'-カルボニルジイミダゾール:東京化成工業(株)製
・無水コハク酸:東京化成工業(株)製若しくは富士フイルム和光純薬(株)製
<複合化試薬>
・1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩:富士フイルム和光純薬(株)製
・N-ヒドロキシスクシンイミド:東京化成工業(株)製
<生理活性物質>
・ゼラチン(ブタ由来、タイプA):シグマアルドリッチジャパン(株)製
・コラーゲン(商品名「セルマトリックス」、タイプI-C):新田ゼラチン(株)製
<溶媒>
・イオン交換水:電気伝導率0.08×10-4S/m以下のイオン交換水
・PBS:PBSタブレット(タカラバイオ(株)製)を規定量のイオン交換水に溶解させることにより作製した。
・MESバッファー:2-モルホリノエタンスルホン酸1水和物((株)同仁化学研究所製)の0.1モル/L水溶液を作製し、0.1モル/LのNaOH水溶液で中和して、pHを5.6とした。
[合成例で合成した化合物の測定方法]
<エチレン性不飽和基およびカルボキシ基(コハク酸)の導入率>
 下記合成例において得られたエチレン性不飽和基を有するビニルアルコール系重合体のエチレン性不飽和基およびカルボキシ基(コハク酸)の導入率は、1H-NMRにより測定した。エチレン性不飽和基およびカルボキシ基(コハク酸メチレン基)のシグナルとビニルアルコール系重合体のシグナルの積分値の比から導入率が求められる。
 同様にハイドロゲル粒子およびシートについても重溶媒に膨潤させた状態で1H-NMRの測定が実施でき、カルボキシ基(コハク酸メチレン基)のシグナルとビニルアルコール系重合体のシグナルの積分値の比からハイドロゲル粒子およびシート中の導入率が求められる。
1H-NMR測定条件〕
 装置:日本電子(株)製 核磁気共鳴装置「JNM-ECX400」
 温度:25℃
[含水率]
 下記実施例において得られた複合化ハイドロゲルの含水率は、水のみを溶媒として含む場合は加熱乾燥式水分計、水溶性有機溶媒を含む場合は1H-NMRにより測定した。〔加熱乾燥式水分計測定条件〕
 装置:(株)エー・アンド・デイ製 加熱乾燥式水分計
1H-NMR測定条件〕
 含水率は1H-NMR(重DMSO溶媒)にて算出できる。水のシグナル(3.3ppm)とビニルアルコール系重合体のシグナルの積分値の比から含水率が求められる。重DMSO溶媒にもともと含まれる水は差し引く。
 装置:日本電子(株)製 核磁気共鳴装置「JNM-ECX400」
 温度:25℃
[合成例]
〔合成例1-1〕<エチレン性不飽和基を有するビニルアルコール系重合体の合成>
 40g(単量体繰り返し単位:908mmol)のPVA117(原料PVA)を1Lのジムロート冷却管を備えたセパラブルフラスコに入れ、350mLのジメチルスルホキシド(DMSO)を加えてメカニカルスターラーにて撹拌を開始した。ウォーターバスにより80℃まで昇温後、80℃で撹拌を4時間続けた。前記原料PVAが溶解したことを目視で確認した後、80℃で加熱撹拌しながらメタクリル酸ビニル2.1g(18.7mmol)を加え、更に80℃で3時間撹拌した。放冷後、2Lのメタノール中に撹拌しながら反応溶液を注ぎいれた。撹拌を止めて1時間そのまま放置した。得られた固体を回収した後、更に1Lのメタノールに1時間浸漬して洗浄した。この洗浄作業を合計3回行った。回収した固体を室温で一晩真空乾燥してメタクリロイル化PVA117を得た。該メタクリロイル化PVA117のエチレン性不飽和基(メタクリロイル基)の導入率は原料PVAの繰り返し単位に対して2.0モル%であった(以下、「MA-PVA117(2.0)」と略称する)。
〔合成例1-2〕
 60g(単量体繰り返し単位:1.36mol)のPVA117(原料PVA)を1Lのジムロート冷却管を備えたセパラブルフラスコに入れ、540mLのイオン交換水を加えてメカニカルスターラーにて撹拌を開始した。ウォーターバスにより80℃まで昇温後、80℃で撹拌を4時間続けた。前記原料PVAが溶解したことを目視で確認した後、40℃まで降温した。40℃で撹拌しながら5-ノルボルネン-2-カルボキシアルデヒド2.5g(20.5mmol)、10体積%硫酸水溶液22mLを加え、更に40℃で4時間撹拌した。放冷後、1規定NaOH水溶液を80mL添加して中和し、分画分子量3,500の透析膜に入れて脱塩した(5Lのイオン交換水に対して4回実施)。2Lのメタノール中に撹拌しながら脱塩後の水溶液を注ぎ入れ、1時間そのまま放置した。得られた固体を回収した後、更に1Lのメタノールに1時間浸漬して洗浄した。回収した固体を室温で一晩真空乾燥してノルボルネン化(Nor)PVA117を得た。該ノルボルネン化PVA117のエチレン性不飽和基(ノルボルネニル基)の導入率は原料PVAの繰り返し単位に対して1.3モル%であった(以下、「Nor-PVA117(1.3)」と略称する)。
〔合成例1-3〕
 10g(単量体繰り返し単位:220mmol)の合成例1-1で調製したMA-PVA117(2.0)を0.5Lのジムロート冷却管を備えたセパラブルフラスコに入れ、90mLのジメチルスルホキシド(DMSO)を加えてメカニカルスターラーにて撹拌を開始した。ウォーターバスにより80℃まで昇温後、80℃で撹拌を4時間続けた。前記原料PVAが溶解したことを目視で確認した後、ウォーターバスを60℃に設定した。内温が60℃になったことを確認した後、トリエチルアミン1.2g(12.1mmol)および無水コハク酸1.1g(11mmol)を加え、更に60℃で5時間撹拌した。放冷後、0.5Lのメタノール中に撹拌しながら反応溶液を注ぎいれた。撹拌を止めて1時間そのまま放置した。得られた固体を回収した後、更に0.5Lのメタノールに1時間浸漬して洗浄した。この洗浄作業を合計3回行った。回収した固体を室温で一晩真空乾燥してコハク酸が導入されたメタクリロイル化PVA117を得た。コハク酸(SA)の導入率はMA-PVA117(2.0)の繰り返し単位に対して3.4モル%であった(以下、「MA-PVA117(2.0)-SA(3.4)」と略称する)。
<成形品(粒子、シート)の製造>
[合成例1-A]<粒子>
 60gのMA-PVA117(2.0)に440mLのイオン交換水を加えて80℃にて4時間撹拌しながら溶解した。室温まで冷却後、このMA-PVA117(2.0)水溶液に水溶性熱ラジカル重合開始剤である過硫酸カリウムを0.1質量%となるように加えて溶解し、未架橋重合体溶液を調製した。
 5Lのジムロート冷却管を備えたセパラブルフラスコに3300mLの流動パラフィンと8gのSpan80を入れ、これに未架橋重合体溶液をゆっくりと加えた。この混合液をメカニカルスターラーにて350回転にて撹拌しながらW/O分散液とし、ウォーターバスにより40℃まで昇温後、30分間窒素置換した。その後、70℃で撹拌を3時間続けた。室温まで冷却し、ハイドロゲル粒子が分散した流動パラフィンを目開き100μmのメッシュで濾過した。得られたハイドロゲル粒子を合計3Lのヘキサンで洗浄して流動パラフィンを除去し、得られたハイドロゲル粒子をJIS標準篩を用いて180~300μmの粒径に分級した。さらに1Lのアセトンにハイドロゲル粒子を投入して脱水後、減圧乾燥することで乾燥ハイドロゲル粒子を得た(以下、「MA-PVA117(2.0)ゲル粒子」と略称する)。
[合成例1-B]<粒子>
 60gのNor-PVA117(1.3)に440mLのイオン交換水を加えて80℃にて4時間撹拌しながら溶解した。室温まで冷却後、このNor-PVA117(1.3)水溶液にポリチオールとして3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオールを3.4g加えて撹拌した。この溶液に対して水溶性熱ラジカル重合開始剤である過硫酸カリウムを0.1質量%となるように加えて溶解し、未架橋重合体溶液を調製した。この未架橋重合体溶液を用いて合成例1-Aと同様の方法により、乾燥ハイドロゲル粒子を得た(以下、「Nor-PVA117(1.3)ゲル粒子」と略称する)。
[合成例1-C]<シート>
 6gのMA-PVA117(2.0)-SA(3.4)に44mLのイオン交換水を加えて80℃にて4時間撹拌しながら溶解した。室温まで冷却後、このMA-PVA117(2.0)-SA(3.4)水溶液に水溶性熱ラジカル重合開始剤である過硫酸カリウムを0.1質量%となるように加えて溶解し、未架橋重合体溶液を調製した。この未架橋重合体溶液を窒素下にて0.5mmのスペーサーを挟んだ2枚のガラス板に流し込み、40℃、3時間硬化させた。硬化した厚さ0.5mmのハイドロゲルシート(10×20cm)を合計1.5Lのイオン交換水で洗浄した。さらに0.5Lのアセトンに浸漬して脱水し、減圧乾燥して乾燥ハイドロゲルシートを得た(以下、「MA-PVA117(2.0)-SA(3.4)ゲルシート」と略称する)。乾燥PVAシートのコハク酸(SA)の導入率(活性基導入率)は3.4モル%であった。
[合成例1-D]<シート>
 6gのPVA117に44mLのイオン交換水を加えて80℃にて4時間撹拌しながら溶解した。室温まで冷却後、このPVA117水溶液に7.5mLの50%グルタルアルデヒド(GA)溶液を加えて混合した後にさらに6mLの1mol/Lの塩酸水溶液を加えて素早く混合し、未架橋重合体溶液を調製した。この未架橋重合体溶液を0.5mmのスペーサーを挟んだ2枚のガラス板に流し込み、65℃、7時間硬化させた。硬化した厚さ0.5mmのハイドロゲルシート(10×20cm)を合計1.5Lのイオン交換水で洗浄した。さらに0.5Lのアセトンに浸漬して脱水し、減圧乾燥して乾燥ハイドロゲルシートを得た(以下、「GA架橋PVA117ゲルシート」と略称する)。
<水酸基の活性化>
[合成例1-i]<成形品(粒子)へのコハク酸導入>
 合成例1-Aで調製した1.5gの乾燥MA-PVA117(2.0)ゲル粒子(単量体繰り返し単位:33mmol)を0.5Lのジムロート冷却管を備えたセパラブルフラスコに入れ、100mLのジメチルスルホキシド(DMSO)を加えてメカニカルスターラーにて撹拌し膨潤させた。ウォーターバスにより60℃にて1時間攪拌後、トリエチルアミン364mg(3.6mmol)および無水コハク酸330mg(3.3mmol)を加え、更に60℃で5時間撹拌した。放冷後、粒子を濾別して100mLのDMSOで2回、100mLのイオン交換水で2回洗浄した。次に100mLのアセトンに3回浸漬して脱水し、得られた粒子を減圧乾燥してコハク酸(SA)が導入された乾燥ハイドロゲル粒子を得た。コハク酸の導入率(活性基導入率)はMA-PVA117(2.0)の繰り返し単位に対して10.9モル%であった(以下、「SA化-MA-PVA117(2.0)ゲル粒子」と略称する)。
〔合成例1-ii〕<成形品(粒子)へのコハク酸導入>
 合成例1-Bで調製した乾燥Nor-PVA117(1.3)ゲル粒子を用いた以外は合成例1-iと同様の方法によりコハク酸が導入された乾燥ハイドロゲル粒子を得た。コハク酸の導入率(活性基導入率)はNor-PVA117(1.3)の繰り返し単位に対して8.7モル%であった(以下、「SA化-Nor-PVA117(1.3)ゲル粒子」と略称する)。
〔合成例1-iii〕<成形品(シート)へのコハク酸導入>
 合成例1-Dで調製した乾燥GA架橋PVA117ゲルシートを用いた以外は合成例1-iと同様の方法によりコハク酸が導入された乾燥ハイドロゲルシートを得た。コハク酸の導入率(活性基導入率)はGA架橋PVA117の繰り返し単位に対して9.8モル%であった(以下、「SA化-GA架橋PVA117ゲルシート」と略称する)。
〔合成例1-iv〕<成形品(粒子)へのカルボニルイミダゾリル基の導入>
 377mg(2.3mmol)のカルボニルジイミダゾール(以下、「CDI」と略称する)を7gの乾燥アセトニトリルに溶解し、これに合成例1-Aで調製した1.0gの乾燥MA-PVA117(2.0)ゲル粒子(単量体繰り返し単位:23mmol)を添加した。遠沈管中で40℃にて4時間遠沈管を振盪させながら反応させ、その後50mLの乾燥アセトンにて4回洗浄した。アセトン洗浄した粒子を室温にて一晩真空乾燥し、カルボニルイミダゾリル化(CI化)したハイドロゲル粒子を得た(以下、「CI化-MA-PVA117(2.0)ゲル粒子」と略称する)。カルボニルイミダゾリル基の導入率(活性基導入率)を表1に示す。
<複合化>
〔合成例1-イ〕
 合成例1-iで調製した1gの乾燥SA化-MA-PVA117(2.0)ゲル粒子(コハク酸導入量:約1.9mmol)をMESバッファー(pH=5.6)中で室温、一晩膨潤させた。膨潤したゲル粒子を45mLのMESバッファーに分散し、マグネチックスターラーで撹拌しながら0.78g(6.8mmol)のN-ヒドロキシスクシンイミド、0.65g(3.4mmol)の1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩を添加して室温、1時間振盪した。ゲル粒子を30mLのMESバッファーで10分洗浄する操作を3回繰り返し、70mLの1mg/mLのゼラチンPBS溶液に添加した。室温、3時間振盪し、得られたハイドロゲル粒子を70mLのイオン交換水(60℃に加温)で20分洗浄する操作を2回繰り返し、ゼラチン複合化ハイドロゲル粒子を得た(以下、「ゼラチン-SA化-MA-PVA117(2.0)ゲル粒子」と略称する)。ゼラチン-SA化-MA-PVA117(2.0)ゲル粒子の一部を過剰のPBSに一晩浸漬してビシンコニン酸(BCA)法(BCA Protein Assay Kit(タカラバイオ(株)製))によりゲル重量(100mg)当たりのゼラチン固定化量を測定したところ、生理活性物質の複合化密度は48.5μg/100mgゲル粒子であった。
〔合成例1-ロ〕
 ゼラチンの代わりにコラーゲンを用いた以外は合成例1-イと同様の方法によりコラーゲン複合化ハイドロゲル粒子を得た(以下、「コラーゲン-SA化-MA-PVA117(2.0)ゲル粒子」と略称する)。コラーゲン-SA化-MA-PVA117(2.0)ゲル粒子のコラーゲン固定化量(生理活性物質の複合化密度)も合成例イと同様の方法により測定した。
〔合成例1-ハ〕
 合成例1-iiで調製した1gの乾燥SA化-Nor-PVA117(1.3)ゲル粒子を使用した以外は合成例1-イと同様の方法によりゼラチン複合化ハイドロゲル粒子を得た(以下、「ゼラチン-SA化-Nor-PVA117(1.3)ゲル粒子」と略称する)。ゼラチン-SA化-Nor-PVA117(2.0)ゲル粒子のゼラチン固定化量(生理活性物質の複合化密度)も合成例1-イと同様の方法により測定した。
〔合成例1-ニ〕
 合成例1-Cで調製した1gの乾燥MA-PVA117(2.0)-SA(3.4)ゲルシートを使用した以外は合成例1-イと同様の方法によりゼラチン複合化ハイドロゲルシートを得た(以下、「ゼラチン-MA-PVA117(2.0)-SA(3.4)ゲルシート」と略称する)。ゼラチン-MA-PVA117(2.0)-SA(3.4)ゲルシートのゼラチン固定化量(生理活性物質の複合化密度)も合成例1-イと同様の方法により測定した。
〔合成例1-ホ〕
 合成例1-iiiで調製した1gの乾燥SA化-GA架橋PVA117ゲルシートを使用した以外は合成例1-イと同様の方法によりゼラチン複合化ハイドロゲルシートを得た(以下、「ゼラチン-SA化-GA架橋PVA117ゲルシート」と略称する)。ゼラチン-SA化-GA架橋PVA117ゲルシートのゼラチン固定化量(生理活性物質の複合化密度)も合成例1-イと同様の方法により測定した。
〔合成例1-へ〕
 0.6gのゼラチンを100mLのPBSに60℃にてマグネチックスターラーにて撹拌しながら溶解した。このゼラチン溶液を室温に冷却し、合成例1-ivにて調製したCI化-MA-PVA117(2.0)ゲル粒子を加えて一晩室温にて振盪撹拌し、100mLのPBSにて3回洗浄して、ゼラチン化したゲル粒子を得た(以下、「ゼラチン-ウレタン結合-MA-PVA117(2.0)ゲル粒子」と略称する)。ゼラチン-ウレタン結合-MA-PVA117(2.0)ゲル粒子のゼラチン固定化量(生理活性物質の複合化密度)は合成例1-イと同様の方法により測定した。
<粒子の乾燥、ガンマ線滅菌>
[実施例1-1]
 合成例1-イで調製した2gのゼラチン-SA化-MA-PVA117(2.0)ゲル粒子(イオン交換水にて膨潤)をシャーレに広げ、室温、空気中で2.7時間自然乾燥した。得られた乾燥粒子の含水率を加熱乾燥式水分計((株)エー・アンド・デイ製)にて測定したところ、72質量%であった。乾燥ゲル粒子を15mLの遠沈管に入れ、さらに水分の蒸発を防ぐためアルミ蒸着バッグに封入し、(株)甲賀アイソトープにてガンマ線照射(25kGy)を照射して滅菌したアミド結合複合化ハイドロゲルを得た。含水率の測定結果を表1に示す。
[実施例1-2~1-4]
 2gのゼラチン-SA化-MA-PVA117(2.0)ゲル粒子(イオン交換水にて膨潤)の自然乾燥の時間を3.7、4.5、5.5時間にした以外は実施例1-1と同様の方法により含水率測定およびガンマ線照射を実施し、滅菌したアミド結合複合化ハイドロゲルを得た。含水率の測定結果を表1に示す。
[実施例1-5]
 2gのゼラチン-SA化-MA-PVA117(2.0)ゲル粒子(イオン交換水にて膨潤)をシャーレに広げ、室温にて一晩真空乾燥した。実施例1-1と同様の方法により含水率測定およびガンマ線照射を実施し、滅菌したアミド結合複合化ハイドロゲルを得た。含水率の測定結果を表1に示す。
[実施例1-6]
 合成例1-イで調製した2gのゼラチン-SA化-MA-PVA117(2.0)ゲル粒子(イオン交換水にて膨潤)を25mLエタノールへの浸漬を3回繰り返し、脱水された複合化ゲル粒子を室温にて一晩真空乾燥した。得られた乾燥粒子の含水率は1H-NMR(重DMSO溶媒)にて算出した。水のシグナル(3.3ppm)とビニルアルコール系重合体のシグナルの積分値の比から含水率を求めた(重DMSO溶媒にもともと含まれる水は差し引いた)。実施例1-1と同様の方法によりガンマ線照射を実施し、滅菌したアミド結合複合化ハイドロゲルを得た。含水率の測定結果を表1に示す。
[実施例1-7]
 合成例1-ロで調製した2gのコラーゲン-SA化-MA-PVA117(2.0)ゲル粒子(イオン交換水にて膨潤)を実施例1-6と同様の方法により乾燥、含水率測定およびガンマ線照射を実施し、滅菌したアミド結合複合化ハイドロゲルを得た。含水率の測定結果を表1に示す。
[実施例1-8]
 合成例1-ハで調製したゼラチン-SA化-Nor-PVA117(1.3)ゲル粒子(イオン交換水にて膨潤)を用いた以外は実施例1-5と同様の方法により乾燥、含水率測定およびガンマ線照射を実施し、滅菌したアミド結合複合化ハイドロゲルを得た。含水率の測定結果を表1に示す。
[実施例1-9]
 合成例1-ニで調製したゼラチン-MA-PVA117(2.0)-SA(3.4)ゲルシート(イオン交換水にて膨潤)を用いた以外は実施例1-5と同様の方法により乾燥、含水率測定およびガンマ線照射を実施し、滅菌したアミド結合複合化ハイドロゲルを得た。含水率の測定結果を表1に示す。
[実施例1-10]
 合成例1-ホで調製したゼラチン-SA化-GA架橋PVA117ゲルシート(イオン交換水にて膨潤)を用いた以外は実施例1-5と同様の方法により乾燥、含水率測定およびガンマ線照射を実施し、滅菌したアミド結合複合化ハイドロゲルを得た。含水率の測定結果を表1に示す。
[実施例1-11]
 合成例1-へで調製したゼラチン-ウレタン結合-MA-PVA117(2.0)ゲル粒子(イオン交換水にて膨潤)を用いた以外は実施例1-6と同様の方法により乾燥、含水率測定およびガンマ線照射を実施し、滅菌した複合化ハイドロゲルを得た。含水率の測定結果を表1に示す。
[実施例及び比較例で得られた複合化ハイドロゲルの評価方法]
<細胞接着性評価(粒子)>
 ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリラート)を95%エタノールに濃度30mg/mLで溶解し、この溶液を細胞培養用24ウェルプレート(IWAKI製)の各ウェルに200μLずつ分注して、クリーンベンチ内で乾燥させた。次に実施例1-1で得られた滅菌したアミド結合複合化ハイドロゲル(球状粒子)をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)に1時間浸漬し粒子を膨潤させた。このゲル粒子200μLを前記コーティングしたウェルプレートの1つのウェルに入れ、さらに同じウェルに10%ウシ胎仔血清を添加したDMEM培地を500μL加えた。そこに、事前培養により増殖させたNIH/3T3細胞(ATCCより購入)を1.9×105個添加し、二酸化炭素濃度5%、飽和水蒸気圧、37℃の条件で培養した。培養24時間後に、カメラ付き倒立型顕微鏡および画像連結ソフトを用いて、培養したウェル中心部の写真を撮影し、細胞が接着伸展している粒子の数をカウントしたところ、200個中132個のゲル粒子に細胞の接着伸展が見られた。この場合の細胞接着率(%)は200個の粒子中に観測される細胞が接着進展している粒子の数の百分率とした。細胞接着率は66%であった(表1)。
 実施例1-2~1-8、1-11および比較例1-1、1-2で得られた滅菌した複合化ハイドロゲル(球状粒子)について前記細胞接着性評価(粒子)と同様の方法により細胞接着性を評価した。結果を表1に示した。
<細胞接着性評価(シート)>
 実施例1-9で得られた滅菌したアミド結合複合化ハイドロゲル(シート)をPBSに1時間浸漬しゲルシートを膨潤させた後、直径15mmの穴あけポンチを用いてゲルシートを円形に打ち抜き、これを24ウェルプレートの底面に入れた。さらに同じウェルに10%ウシ胎仔血清を添加したDMEM培地を500μL加えた。また同じプレート内に、ゲルシートを入れず培地のみを500μL加えたウェルを用意した。次に事前培養により増殖させたNIH/3T3細胞を、ゲルシートを入れたウェルおよびゲルシートを入れていないウェルに対して、1.9×105個添加し、二酸化炭素濃度5%、飽和水蒸気圧、37℃の条件で培養した。培養24時間後に、ウェルに入った培地をアスピレーターで除去し、新しい培地を500μL加え、さらに細胞増殖/細胞毒性測定用試薬 Cell Counting Kit―8(CCK―8、(株)同仁化学研究所製)を50μL加えた。同時にゲルシートおよび細胞が入っていない未使用のウェルに新しい培地500μLとCCK―8を50μL加えて、ウェルプレートを二酸化炭素濃度5%、飽和水蒸気圧、37℃の条件で1時間培養した。培養後、CCK―8を加えた各ウェルの培地を100μL取って、96ウェルプレートに移し、マイクロプレートリーダー(ARVO、パーキンエルマー製)で450nmの吸光度を測定した。細胞のみが入ったウェルから得られた吸光度を細胞接着率100%、培地のみが入ったウェルから得られた吸光度を細胞接着率0%として、ゲルシートおよび細胞が入ったウェルから得られた吸光度から細胞接着率を算出したところ90%であった(表1)。
 実施例1-10で得られた滅菌したアミド結合複合化ハイドロゲルについて実施例1-9と同様の方法により細胞接着性を評価したところ、細胞接着率87%であった(表1)。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000002
 実施例1-1~1-11、及び比較例1-1,1-2の結果から明らかなように、本発明によれば高いエネルギーのガンマ線を照射しても生理活性物質は活性を維持し、細胞接着、さらには細胞増殖を促進することができる。
[合成例]
<エチレン性不飽和基を有するビニルアルコール系重合体の合成>
〔合成例2-1〕
 40g(単量体繰り返し単位:908mmol)のPVA117(原料PVA)を1Lのジムロート冷却管を備えたセパラブルフラスコに入れ、350mLのジメチルスルホキシド(DMSO)を加えてメカニカルスターラーにて撹拌を開始した。ウォーターバスにより80℃まで昇温後、80℃で撹拌を4時間続けた。前記原料PVAが溶解したことを目視で確認した後、80℃で加熱撹拌しながらメタクリル酸ビニル1.2g(10.9mol)を加え、更に80℃で3時間撹拌した。放冷後、2Lのメタノール中に撹拌しながら反応溶液を注ぎいれた。撹拌を止めて1時間そのまま放置した。得られた固体を回収した後、更に1Lのメタノールに1時間浸漬して洗浄した。この洗浄作業を合計3回行った。回収した固体を室温で一晩真空乾燥してメタクリロイル化PVA117を得た。該メタクリロイル化PVA117のエチレン性不飽和基(メタクリロイル基)の導入率は原料PVAの繰り返し単位に対して1.2モル%であった(以下、「MA-PVA117(1.2)」と略称する)。
〔合成例2-2~2-3〕
 表2に示すとおり、メタクリル酸ビニルの添加量を変更したこと以外は合成例2-1と同様にして、エチレン性不飽和基を有するビニルアルコール系重合体を製造した。
〔合成例2-4〕
 表2に示すとおり、イタコン酸が共重合されカルボキシ基が導入された原料PVA(AF-17)を用いたこと以外は合成例2-1と同様にして、エチレン性不飽和基を有するビニルアルコール系重合体を製造した。
〔合成例2-5〕
 10g(単量体繰り返し単位:220mmol)の合成例2-2で調製したMA-PVA117(2.0)を0.5Lのジムロート冷却管を備えたセパラブルフラスコに入れ、90mLのジメチルスルホキシド(DMSO)を加えてメカニカルスターラーにて撹拌を開始した。ウォーターバスにより80℃まで昇温後、80℃で撹拌を4時間続けた。前記原料PVAが溶解したことを目視で確認した後、ウォーターバスを60℃に設定した。内温が60℃になったことを確認した後、トリエチルアミン1.2g(12.1mmol)および無水コハク酸1.1g(11mmol)を加え、更に60℃で5時間撹拌した。放冷後、0.5Lのメタノール中に撹拌しながら反応溶液を注ぎいれた。撹拌を止めて1時間そのまま放置した。得られた固体を回収した後、更に0.5Lのメタノールに1時間浸漬して洗浄した。この洗浄作業を合計3回行った。回収した固体を室温で一晩真空乾燥してコハク酸が導入されたメタクリロイル化PVA117を得た。コハク酸(SA)の導入率はMA-PVA117(2.0)の繰り返し単位に対して3.4モル%であった(以下、「MA-PVA117(2.0)-SA(3.4)」と略称する)。
〔合成例2-6〕
 60g(単量体繰り返し単位:1.36mol)のPVA117(原料PVA)を1Lのジムロート冷却管を備えたセパラブルフラスコに入れ、540mLのイオン交換水を加えてメカニカルスターラーにて撹拌を開始した。ウォーターバスにより80℃まで昇温後、80℃で撹拌を4時間続けた。前記原料PVAが溶解したことを目視で確認した後、40℃まで降温した。40℃で撹拌しながら5-ノルボルネン-2-カルボキシアルデヒド2.5g(20.5mmol)、10体積%硫酸水溶液22mLを加え、更に40℃で4時間撹拌した。放冷後、1規定NaOH水溶液を80mL添加して中和し、分画分子量3,500の透析膜に入れて脱塩した(5Lのイオン交換水に対して4回実施)。2Lのメタノール中に撹拌しながら脱塩後の水溶液を注ぎ入れ、1時間そのまま放置した。得られた固体を回収した後、更に1Lのメタノールに1時間浸漬して洗浄した。回収した固体を室温で一晩真空乾燥してノルボルネン化PVA117を得た。該ノルボルネン化PVA117のエチレン性不飽和基(ノルボルネニル基(Nor))の導入率は原料PVAの繰り返し単位に対して1.3モル%であった(以下、「Nor-PVA117(1.3)」と略称する)。
<成形品(粒子、シート、コーティング、チューブ)の製造>
[合成例2-A]<粒子>
 60gのMA-PVA117(1.2)に440mLのイオン交換水を加えて80℃にて4時間撹拌しながら溶解した。室温まで冷却後、このMA-PVA117(2.0)水溶液に水溶性熱ラジカル重合開始剤である過硫酸カリウムを0.1質量%となるように加えて溶解し、未架橋ゲル溶液を調製した。
 5Lのジムロート冷却管を備えたセパラブルフラスコに3300mLの流動パラフィンと8gのSpan80を入れ、これに未架橋ゲル溶液をゆっくりと加えた。この混合液をメカニカルスターラーにて350回転にて撹拌しながらW/O分散液とし、ウォーターバスにより40℃まで昇温後、30分間窒素置換した。その後、70℃で撹拌を3時間続けた。室温まで冷却し、ハイドロゲル粒子が分散した流動パラフィンを目開き100μmのメッシュで濾過した。得られたハイドロゲル粒子を合計3Lのヘキサンで洗浄して流動パラフィンを除去し、得られたハイドロゲル粒子をJIS標準篩を用いて180~300μmの粒径に分級した。さらに1Lのアセトンにハイドロゲル粒子を投入して脱水後、一晩室温で減圧乾燥することで乾燥ハイドロゲル粒子を得た(以下、「MA-PVA117(1.2)ゲル粒子」と略称する)。
[合成例2-B~2-E]<粒子>
 表3に示すとおり、合成例2-2~2-5で合成したエチレン性不飽和基を有するビニルアルコール系重合体を用いたこと以外は合成例2-1と同様にして、メタクリロイル化PVAを製造した。
〔合成例2-F〕<粒子>
 合成例2-Aにおいて、60gのNor-PVA117(1.3)に440mLのイオン交換水を加えて80℃にて4時間撹拌しながら溶解した。室温まで冷却後、このNor-PVA117(1.3)水溶液にポリチオールとして3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオールを3.4g加えて撹拌した。この溶液に対して水溶性熱ラジカル重合開始剤である過硫酸カリウムを0.1質量%となるように加えて溶解し、未架橋ゲル溶液を調製した。この未架橋ゲル溶液を用いて合成例2-Aと同様の方法により、乾燥ハイドロゲル粒子を得た(以下、「Nor-PVA117(1.3)ゲル粒子」と略称する)。
〔合成例2-G〕<シート>
 6gのMA-PVA117(2.0)-SA(3.4)に44mLのイオン交換水を加えて80℃にて4時間撹拌しながら溶解した。室温まで冷却後、このMA-PVA117(2.0)水溶液に水溶性熱ラジカル重合開始剤である過硫酸カリウムを0.1質量%となるように加えて溶解し、未架橋ゲル溶液を調製した。この未架橋ゲル溶液を窒素下にて0.5mmのスペーサーを挟んだ2枚のガラス板に流し込み、40℃、3時間硬化させた。硬化した厚さ0.5mmのハイドロゲルシート(10×20cm)を300mLのイオン交換水で5回洗浄した。その後1Lのアセトンに投入して脱水後、一晩室温で減圧乾燥することで乾燥ハイドロゲルシートを得た(以下、「MA-PVA117(2.0)-SA(3.4)ゲルシート」と略称する)。
〔合成例2-H〕<コーティング>
 0.15gのMA-PVA117(2.0)-SA(3.4)に100mLのイオン交換水を加えて80℃にて4時間撹拌しながら溶解した。この溶液を室温まで冷却して、未架橋ゲル溶液を調製した。この未架橋ゲル溶液をポリスチレン製の細胞培養用6ウェルプレート(住友ベークライト(株)製接着細胞培養プレート)に1mL/ウェルで加え、3日間室温にて乾燥した。0.1wt%オムニキュア2959メタノール溶液を1mL/ウェルにて添加し、UV光を照射した(メタルハライドランプ、GSユアサ製UVR-T1(UD-T36)によるUV強度測定にて、103mW/cm2、520mJ/cm2であった)。メタノール溶液を除去し、2mLのイオン交換水で2回洗浄し、ハイドロゲルでコーティングされた6ウェルプレートを得た(以下、「MA-PVA117(2.0)-SA(3.4)ゲルコーティング」と略称する)。
<水酸基の活性化>
〔合成例2-i〕<成形品(粒子)へのコハク酸導入>
 合成例2-Aで調製した1.5gの乾燥MA-PVA117(1.2)ゲル粒子(単量体繰り返し単位:33mmol)を0.5Lのジムロート冷却管を備えたセパラブルフラスコに入れ、100mLのジメチルスルホキシド(DMSO)を加えてメカニカルスターラーにて撹拌し膨潤させた。ウォーターバスにより60℃にて1時間攪拌後、トリエチルアミン364mg(3.6mmol)および無水コハク酸330mg(3.3mmol)を加え、更に60℃で5時間撹拌した。放冷後、粒子を濾別して100mLのDMSOで2回、100mLの水で2回洗浄した。次に100mLのアセトンに3回浸漬して脱水し、得られた粒子を減圧乾燥してコハク酸が導入された乾燥ハイドロゲル粒子を得た。カルボキシ基(コハク酸)の導入率(カルボキシ基の導入密度)はMA-PVA117(1.2)の繰り返し単位に対して9.9モル%であった(以下、「SA化-MA-PVA117(1.2)ゲル粒子」と略称する)。
〔合成例2-ii~2-iv〕<成形品(粒子)へのコハク酸導入>
 表4に示すとおり合成例2-B~2-Cおよび2-Fで調製したゲル粒子を用いた以外は合成例2-iと同様の方法によりコハク酸が導入された乾燥ハイドロゲル粒子を得た。カルボキシ基(コハク酸)の導入率(カルボキシ基の導入密度)の結果を合わせて表4に示す。
<複合化>
〔実施例2-1〕
 合成例2-iで調製した1gの乾燥SA化-MA-PVA117(1.2)ゲル粒子(コハク酸導入量:約1.9mmol)をMESバッファー(pH=5.6)中で室温、一晩膨潤させた。膨潤したゲル粒子を45mLのMESバッファーに分散し、マグネチックスターラーで撹拌しながら0.78g(6.8mmol)のN-ヒドロキシスクシンイミド、0.65g(3.4mmol)の1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩を添加して室温、1時間振盪した。ゲル粒子を30mLのMESバッファーで10分洗浄する操作を3回繰り返し、70mLの1mg/mLのゼラチンPBS溶液に添加した。室温、3時間振盪し、得られたハイドロゲルハイドロゲル粒子を70mLのイオン交換水(60℃に加温)で20分洗浄する操作を2回繰り返した。さらに50mLのエタノール浸漬を3回繰り返した後、一晩室温で真空乾燥し乾燥アミド結合ゼラチン複合化ハイドロゲル粒子を得た(以下、「ゼラチン-SA化-MA-PVA117(1.2)ゲル粒子」と略称する)。ゼラチン-SA化-MA-PVA117(1.2)ゲル粒子の一部を過剰のPBSに一晩浸漬してビシンコニン酸(BCA)法(BCA Protein Assay Kit(タカラバイオ(株)製))によりゲル重量(100mg)当たりのゼラチン固定化量(生理活性物質の複合化密度)を測定したところ、48.2μg/100mgゲル粒子であった。
〔実施例2-2~2-6〕
 合成例2-ii~2-iv、2-D、2-Eのカルボキシ基導入ハイドロゲル粒子を用いた以外は実施例2-1と同様の方法によりアミド結合ゼラチン複合化ハイドロゲル粒子を得た。BCA法でゼラチン固定化量(生理活性物質の複合化密度)を測定した結果を表5に示す。
〔実施例2-7〕
 ゼラチンの代わりにコラーゲンを用いた以外は実施例2-1と同様の方法によりコラーゲン複合化PVA粒子を得た(以下、「コラーゲン-SA化-MA-PVA117(1.2)ゲル粒子」と略称する)。BCA法でゼラチン固定化量(生理活性物質の複合化密度)を測定したところ、53.2μg/100mgゲル粒子であった。
〔実施例2-8〕ゼラチン複合化シート
 合成例2-Gで調製した1gの乾燥MA-PVA117(2.0)-SA(3.4)ゲルシートを使用した以外は実施例2-1と同様の方法によりアミド結合ゼラチン複合化ハイドロゲルシートを得た(以下、「ゼラチン化-MA-PVA117(2.0)-SA(3.4)ゲルシート」と略称する)。BCA法でゼラチン固定化量(生理活性物質の複合化密度)を測定したところ、20.0μg/100mgゲル粒子であった。
〔実施例2-9〕ゼラチン複合化コート
 251mg(2.2mmol)のN-ヒドロキシスクシンイミドを25mLのMESバッファーに溶解し、次いで425mg(2.2mmol)の1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩を加えて攪拌溶解し縮合剤溶液を作製した。合成例2-Hで調製したMA-PVA117(2.0)-SA(3.4)ゲルコーティングにこの縮合剤溶液を1mL/ウェル加えて室温、1時間振盪した。1mLのMESバッファーで5分洗浄する操作を2回繰り返してウェルからMESバッファーを除去した。1mL/ウェルの1mg/mLのゼラチンPBS溶液を添加し、室温、3時間振盪した。その後ウェルを2mLのイオン交換水(60℃に加温)で5分洗浄する操作を2回繰り返しアミド結合ゼラチン複合化ハイドロゲルコーティングを得た(以下、「ゼラチン-SA化-MA-PVA117(2.0)ゲルコーティング」と略称する)。BCA法でゼラチン固定化量(生理活性物質の複合化密度)を測定したところ、16.6μg/ウェルであった。
<比較例>
〔比較合成例2-1〕
 合成例2-Bで調製した1.0gの乾燥MA-PVA117(2.0)ゲル粒子(単量体繰り返し単位:23mmol)を45mLのイオン交換水に加え、遠沈管中で振盪して膨潤させた。これに30μLのアミノアセトアルデヒドジメチルアセタール(0.28mmol)および17質量%の硫酸水溶液を2L加えて、40℃で10時間振盪攪拌した。粒子を濾別し、100mLの乾燥アセトンにて5回洗浄した。次いで50mLのアセトンで4回洗浄した粒子を室温にて一晩真空乾燥し、アミノ化したハイドロゲル粒子を得た。アミノ基の導入率(アミノ基の導入密度)はMA-PVA117(1.2)の繰り返し単位に対して7.3モル%であった(以下、「アミノ化-MA-PVA117(2.0)ゲル粒子」と略称する)。
〔比較合成例2-2〕<GA架橋粒子>
 ジャーナル・オブ・アプライド・サイエンス(Journal of Applied Science)、2013年、第13巻、p.2676-2681を参考に製造した。5Lのジムロート冷却管を備えたセパラブルフラスコに3300mLの流動パラフィンと8gのSpan80を入れてメカニカルスターラーにて200回転にて撹拌した。次に60gのAF-17に440mLのイオン交換水を加えて80℃にて4時間撹拌しながら溶解した。室温まで冷却後、このAF-17水溶液に75gの50%グルタルアルデヒド(以下、「GA」と略称する)水溶液および60mLの1mol/L塩酸水溶液を添加し、すぐに流動パラフィンに添加した。W/O分散液とし、ウォーターバスにより65℃まで昇温、7時間攪拌した。室温まで冷却し、ハイドロゲル粒子が分散した流動パラフィンを目開き100μmのメッシュで濾過した。得られたハイドロゲル粒子を合計3Lのヘキサンで洗浄して流動パラフィンを除去し、得られたハイドロゲル粒子をJIS標準篩により180~300μmの粒径に分級した。さらに1Lのアセトンにハイドロゲル粒子を投入して脱水後、一晩室温で減圧乾燥することで乾燥ハイドロゲル粒子を得た(以下、「GA架橋AF-17ゲル粒子」と略称する)。
〔比較合成例2-3〕<成形品(粒子)へのカルボニルイミダゾリル基の導入>
 377mg(2.3mmol)のカルボニルジイミダゾール(以下、「CDI」と略称する)を7gの乾燥アセトニトリルに溶解し、これに合成例2-Bで調製した1.0gの乾燥MA-PVA117(2.0)ゲル粒子(単量体繰り返し単位:23mmol)を添加した。遠沈管中で40℃にて4時間遠沈管を振盪させながら反応させ、その後50mLの乾燥アセトンにて4回洗浄した。アセトン洗浄した粒子を室温にて一晩真空乾燥し、カルボニルイミダゾリル化(CI化)したハイドロゲル粒子を得た(以下、「CI化-MA-PVA117(2.0)ゲル粒子」と略称する)。
〔比較例2-1〕
 比較合成例2-1で調製した1gの乾燥アミノ化-MA-PVA117(2.0)ゲル粒子を45mLのPBSバッファー(pH=7.4)中で室温、一晩膨潤させた。次に70mLの1mg/mLのゼラチンMESバッファー溶液をマグネチックスターラーで攪拌しながら0.78g(6.8mmol)のN-ヒドロキシスクシンイミド、0.65g(3.4mmol)の1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩を添加して室温、1時間振盪して活性化ゼラチン溶液を作製した。PBSバッファーで膨潤させたアミノ化-MA-PVA117(2.0)ゲル粒子を濾別し、ゲル粒子を活性化ゼラチン溶液に添加して、マグネチックスターラーで攪拌しながら室温、3時間攪拌した。得られたハイドロゲル粒子を70mLのイオン交換水(60℃に加温)で20分洗浄する操作を2回繰り返してアミド結合ゼラチン複合化ハイドロゲル粒子を得た(以下、「ゼラチン-アミノ化-MA-PVA117(2.0)ゲル粒子」と略称する)。ゼラチン-アミノ化-MA-PVA117(2.0)ゲル粒子の一部を過剰のPBSに一晩浸漬してBCA法でゼラチン固定化量(生理活性物質の複合化密度)を測定したところ、5.1μg/100mgゲル粒子であった。
〔比較例2-2〕
 SA化-MA-PVA117(1.2)ゲル粒子の代わりにGA架橋AF-17ゲル粒子を用いた以外は実施例2-1と同様の方法によりアミド結合ゼラチン複合化ハイドロゲル粒子を得た(以下、「ゼラチン-GA架橋PVA117ゲル粒子」と略称する)。BCA法でゼラチン固定化量(生理活性物質の複合化密度)を測定したところ、1.5μg/100mgゲル粒子であった。
〔比較例2-3〕
 0.6gのゼラチンを100mLのPBSに60℃にてマグネチックスターラーにて攪拌しながら溶解した。このゼラチン溶液を室温に冷却し、比較合成例2-3にて調製したCI化-MA-PVA117(2.0)ゲル粒子を加えて一晩室温にて振盪攪拌し、100mLのPBSにて3回洗浄して、ゼラチン化したゲル粒子を得た(以下、「ゼラチン-CI化-MA-PVA117(2.0)ゲル粒子」と略称する)。実施例2-1と同様にゼラチン固定化量(生理活性物質の複合化密度)を測定したところ、7.2μg/100mgゲル粒子であった。
[実施例及び比較例で得られたアミド結合複合化ハイドロゲルの評価方法]
<細胞接着性評価(細胞増殖率)>
 実施例2-1で得られた乾燥SA化-MA-PVA117(1.2)ゲル粒子30mgを5mLのPBSに一晩浸漬し、膨潤度(膨潤時の重量/乾燥時の重量)および膨潤時の平均粒径を測定し、乾燥粒子1gあたりの膨潤時の総表面積を算出した。次に容量125mLのスピナーフラスコ(コーニング製)に10%ウシ胎仔血清を添加したDMEM培地を30mL加え、実施例2-1で得られた乾燥SA化-MA-PVA117(1.2)ゲル粒子を前記算出した総表面積に基づいて、総表面積が162cm2となるよう計量して添加した。さらに、事前培養により増殖させたNIH/3T3細胞(ATCCより購入)を8.1×105個添加し、二酸化炭素濃度5%、飽和水蒸気圧、37℃のインキュベーター内で、パドル回転数60rpmで撹拌しながら培養した。培養4日目にゲル粒子を全て回収し、PBSで洗浄した後にトリプシン処理によってゲル粒子から細胞を剥離させ、得られた細胞懸濁液の細胞密度を血球計算盤にてカウントし、培養後の細胞数を算出した。培養後の細胞数/初期細胞数を細胞増殖率と定義すると、実施例2-1で得られたゲル粒子の細胞増殖率は10.6であった。同様の手法により実施例2-2から2-7および比較例2-1から2-3のゲル粒子について細胞増殖率を測定した結果を表5に示す。
 実施例2-8で得られたゼラチン化-MA-PVA117(2.0)-SA(3.4)ゲルシートの細胞増殖率は以下の方法で測定した。ゲルシートをPBSに一晩浸漬し、膨潤させた後、直径34mmの穴あけポンチを用いてゲルシートを円形に打ち抜き、これをポリスチレン製の細胞培養用6ウェルプレートの底面に入れた。ここに培地を3mL/ウェル加え、事前培養により増殖させたNIH/3T3細胞を4.9×106個添加し、二酸化炭素濃度5%、飽和水蒸気圧、37℃のインキュベーター内で培養した。培養4日目にトリプシン処理によってゲルシート表面から細胞を剥離・回収し、培養後の細胞数をカウントして細胞増殖率を算出した結果、増殖率は4.3であった。
 実施例2-9で得られたゼラチン-SA化-MA-PVA117(2.0)ゲルコーティングの細胞増殖率は以下の方法で測定した。ゲルコーティングを施したポリスチレン製の細胞培養用6ウェルプレートに培地を3mL/ウェル加え、事前培養により増殖させたNIH/3T3細胞を4.9×106個添加し、二酸化炭素濃度5%、飽和水蒸気圧、37℃のインキュベーター内で培養した。培養4日目にトリプシン処理によってウェルプレートから細胞を剥離・回収し、培養後の細胞数をカウントして細胞増殖率を算出した結果、増殖率は5.8であった。
 実施例2-1~2-9、及び比較例2-1~2-3の結果から明らかなように、本発明によれば高いエネルギーのガンマ線を照射しても生理活性ポリペプチドは活性を維持し、細胞増殖を促進することができる。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000003
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000004
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000005
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000006
<滅菌バリデーション(VDmax法)>
[実施例3]
 クラス1万のクリーンルーム中で行い、バッファー類およびイオン交換水は全て0.2μm孔径のメンブランフィルターにて濾過滅菌したものを使用し、合成例1-iで調製した30gの乾燥SA化-MA-PVA117(2.0)ゲル粒子を使用した以外は合成例1-イと同様にしてゼラチン複合化ハイドロゲル粒子を得た(以下、「ゼラチン-SA化-MA-PVA117(2.0)ゲル粒子(クリーンルーム)」と略称する)。ビシンコニン酸(BCA)法によりゲル重量(100mg)当たりのゼラチン固定化量を測定したところ、生理活性物質の複合化密度は56.3μg/100mgゲル粒子であった。得られた膨潤ゲル粒子を実施例1-6と同様に乾燥した。実施例1-6と同様にして測定された含水率は0.1重量%であった。
 上記で得られた乾燥ハイドロゲル粒子のVDmax 25による滅菌を行った。具体的には、上記乾燥ハイドロゲル粒子を1gずつ滅菌済みの25mL遠沈管に入れて蓋をして、容器に収容した乾燥ハイドロゲル粒子を25本作製した。このうち10本の平均バイオバーデンを測定したところ7.6であった。平均バイオバーデン8.0に対応するVDmax 25のガンマ線量である6.9kGyを10本に照射して無菌性試験を行ったところ、10本中1個が陽性であった(SAL=10-1の立証)。この結果から滅菌線量が25kGyとなるため、容器に収容した乾燥ハイドロゲル粒子5本に25kGy以上のガンマ線を照射し、SAL=10-6を満たした滅菌された乾燥ハイドロゲル粒子を得た。
 第一の実施形態において、本発明の乾燥ハイドロゲル形成性物品は、滅菌されているため、微生物の感染の恐れはなく、細胞接着を促進し、さらに細胞増殖或いは組織もしくは器官への誘導を効率よく行うことができる。そのため、本発明の乾燥ハイドロゲル形成性物品は担体(carrierまたはsupport)として有用である。また、第二の実施形態において、本発明のハイドロゲルは、生理活性物質を効率よく複合化しているため、細胞増殖或いは組織もしくは器官への誘導を効率よく行うことができる。そのため、本発明のハイドロゲルは担体(carrierまたはsupport)として有用である。従って、本発明の乾燥ハイドロゲル形成性物品からなる担体及び本発明のハイドロゲルを含む担体は、酵素固定化担体、アフィニティー担体、細胞培養担体、ドラッグデリバリー用担体などの用途に好適に用いることができる。

Claims (15)

  1. 生理活性物質が複合化されたビニルアルコール系重合体の架橋体を含む滅菌された乾燥ハイドロゲル形成性物品。
  2. 前記生理活性物質が、前記ビニルアルコール系重合体の架橋体に共有結合により複合化されている請求項1に記載の乾燥ハイドロゲル形成性物品。
  3. 前記乾燥ハイドロゲル形成性物品の含水率が75質量%以下である請求項1又は2に記載の乾燥ハイドロゲル形成性物品。
  4. 前記乾燥ハイドロゲル形成性物品が不定形粒子、球状粒子、微細成形体、3Dプリンターで成形された任意形状物品、フィルム、糸、中空糸、多孔質モノリス又はコーティング物品である、請求項1~3いずれか1項に記載の乾燥ハイドロゲル形成性物品。
  5. 前記乾燥ハイドロゲル形成性物品の無菌性保証水準(SAL)が10-3以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の乾燥ハイドロゲル形成性物品。
  6. 請求項1~5いずれか1項に記載の乾燥ハイドロゲル形成性物品の製造方法であって、乾燥された状態のハイドロゲル形成性物品に滅菌を行う、乾燥ハイドロゲル形成性物品の製造方法。
  7. 前記滅菌の方法が放射線滅菌法である、請求項6に記載の乾燥ハイドロゲル形成性物品の製造方法。
  8. 放射線の照射線量が8.2kグレイ(Gy)以上である、請求項7に記載の乾燥ハイドロゲル形成性物品の製造方法。
  9. 乾燥ハイドロゲル形成性物品を容器に収容後に放射線を照射する、請求項7又は8に記載の乾燥ハイドロゲル形成性物品の製造方法。
  10. 容器に収容された請求項1~5いずれか1項に記載の乾燥ハイドロゲル形成性物品。
  11. エチレン性不飽和基およびカルボキシ基を有するビニルアルコール系重合体の架橋体とアミノ基を有する生理活性物質を含み、前記架橋体のカルボキシ基と、前記生理活性物質のアミノ基が、アミド結合により共有結合されている、ハイドロゲル。
  12. 前記エチレン性不飽和基が、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルアミノ基、ビニルフェニル基、ノルボルネニル基及びこれらの誘導体らなる群より選択される少なくとも1種である、請求項11に記載のハイドロゲル。
  13. 前記エチレン性不飽和基の導入率が、前記ビニルアルコール系重合体を構成する全構造単位中、0.01~10モル%である、請求項11又は12に記載のハイドロゲル。
  14. 前記カルボキシ基の導入率が、前記ビニルアルコール系重合体を構成する全構造単位中、0.1~50モル%である、請求項11~13いずれか一項に記載のハイドロゲル。
  15. 前記ハイドロゲルが不定形粒子、球状粒子、微細成形体、3Dプリンターで成形された任意形状物品、フィルム、糸、中空糸、多孔質モノリス、コーティング物品である請求項11~14いずれか1項に記載のハイドロゲル。
PCT/JP2022/031127 2021-08-18 2022-08-17 ハイドロゲル及び滅菌された乾燥ハイドロゲル形成性物品 WO2023022181A1 (ja)

Applications Claiming Priority (4)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2021133384 2021-08-18
JP2021-133378 2021-08-18
JP2021-133384 2021-08-18
JP2021133378 2021-08-18

Publications (1)

Publication Number Publication Date
WO2023022181A1 true WO2023022181A1 (ja) 2023-02-23

Family

ID=85239857

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
PCT/JP2022/031127 WO2023022181A1 (ja) 2021-08-18 2022-08-17 ハイドロゲル及び滅菌された乾燥ハイドロゲル形成性物品

Country Status (1)

Country Link
WO (1) WO2023022181A1 (ja)

Citations (9)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPS63115561A (ja) * 1986-11-05 1988-05-20 住友ベークライト株式会社 ポリビニルアルコ−ルゲルのγ線滅菌法
JPH07163860A (ja) * 1993-10-22 1995-06-27 Unitika Ltd ゼラチンゲルおよびその製造方法並びにその用途
WO1998054224A1 (fr) * 1997-05-28 1998-12-03 Tapic International Co., Ltd. Gel au collagene
JPH11506727A (ja) * 1995-06-06 1999-06-15 リージェン、バイオロジクス、インコーポレーテッド コラーゲンを基礎とした送達マトリックス
JP2005312584A (ja) * 2004-04-28 2005-11-10 National Cardiovascular Center ステント及びその製造方法並びに該ステントを用いるドラッグデリバリー方法
JP2007231095A (ja) * 2006-02-28 2007-09-13 National Cardiovascular Center 可視光硬化性材料及び創傷治癒促進材
JP2008037871A (ja) * 2006-08-09 2008-02-21 Korea Atomic Energy Research Inst アトピー性皮膚炎治療用水和ゲル及びその製造方法
JP2020103501A (ja) * 2018-12-27 2020-07-09 日本電気硝子株式会社 創傷被覆材及びその製造方法
WO2020153382A1 (ja) * 2019-01-22 2020-07-30 株式会社クラレ ハイドロゲル形成用組成物、ハイドロゲル、及びハイドロゲル形成用組成物の製造方法

Patent Citations (9)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPS63115561A (ja) * 1986-11-05 1988-05-20 住友ベークライト株式会社 ポリビニルアルコ−ルゲルのγ線滅菌法
JPH07163860A (ja) * 1993-10-22 1995-06-27 Unitika Ltd ゼラチンゲルおよびその製造方法並びにその用途
JPH11506727A (ja) * 1995-06-06 1999-06-15 リージェン、バイオロジクス、インコーポレーテッド コラーゲンを基礎とした送達マトリックス
WO1998054224A1 (fr) * 1997-05-28 1998-12-03 Tapic International Co., Ltd. Gel au collagene
JP2005312584A (ja) * 2004-04-28 2005-11-10 National Cardiovascular Center ステント及びその製造方法並びに該ステントを用いるドラッグデリバリー方法
JP2007231095A (ja) * 2006-02-28 2007-09-13 National Cardiovascular Center 可視光硬化性材料及び創傷治癒促進材
JP2008037871A (ja) * 2006-08-09 2008-02-21 Korea Atomic Energy Research Inst アトピー性皮膚炎治療用水和ゲル及びその製造方法
JP2020103501A (ja) * 2018-12-27 2020-07-09 日本電気硝子株式会社 創傷被覆材及びその製造方法
WO2020153382A1 (ja) * 2019-01-22 2020-07-30 株式会社クラレ ハイドロゲル形成用組成物、ハイドロゲル、及びハイドロゲル形成用組成物の製造方法

Non-Patent Citations (9)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Title
BIOMATERIALS, vol. 23, 2002, pages 4325 - 4332
BIOMATERIALS, vol. 33, 2012, pages 3880 - 3886
BIOTECHNOLOGY TECHNIQUES, vol. 11, 1997, pages 67 - 70
FOOD CHEMISTRY, vol. 74, 2001, pages 281 - 288
JOURNAL OF APPLIED BIOMATERIALS, vol. 2, 1991, pages 261 - 267
JOURNAL OF APPLIED SCIENCE, vol. 13, 2013, pages 2676 - 2681
JOURNAL OF BIOMEDICAL MATERIALS RESEARCH, vol. 57, 2001, pages 217 - 223
JOURNAL OF POLYMER ENGINEERING, vol. 37, 2017, pages 647 - 660
SCIENTIFIC REPORTS, vol. 7, 2017, pages 45146

Similar Documents

Publication Publication Date Title
Sharifi et al. Tuning gelatin-based hydrogel towards bioadhesive ocular tissue engineering applications
Zheng et al. Visible light-induced 3D bioprinting technologies and corresponding bioink materials for tissue engineering: a review
Zou et al. “Click” chemistry in polymeric scaffolds: Bioactive materials for tissue engineering
JP2008061609A (ja) 細胞培養容器の製造方法および細胞培養容器。
JP6080777B2 (ja) 細胞培養のための合成被覆
JP4967238B2 (ja) 細胞培養容器の製造方法および細胞培養容器
JP6205372B2 (ja) 細胞培養のための合成接着培地
Zhao et al. Construction of highly biocompatible hydroxyethyl cellulose/soy protein isolate composite sponges for tissue engineering
Schuster et al. Gelatin‐based photopolymers for bone replacement materials
JP2014226088A (ja) 光および加水分解性架橋剤、光および加水分解性ゲル、細胞培養器具、細胞配列・分別装置、細胞配列方法、細胞分別方法、並びに、組織体形成方法
da Silva et al. Poly (N‐isopropylacrylamide) surface‐grafted chitosan membranes as a new substrate for cell sheet engineering and manipulation
JP5916256B2 (ja) 細胞培養のための合成組成物および被覆
Li et al. Preparation and characterization of photocurable composite extracellular matrix-methacrylated hyaluronic acid bioink
Zhang et al. Advances in photocrosslinkable materials for 3D bioprinting
Pidhatika et al. Surface-attached dual-functional hydrogel for controlled cell adhesion based on poly (N, N-dimethylacrylamide)
Fan et al. Poly (glutamic acid) hydrogels crosslinked via native chemical ligation
JP2009017809A (ja) 細胞培養基材及びその製造方法並びに細胞培養方法
JP7463299B2 (ja) ハイドロゲル形成用組成物、ハイドロゲル、及びハイドロゲル形成用組成物の製造方法
Kil’deeva et al. Biodegradablescaffolds based on chitosan: Preparation, properties, and use for the cultivation of animal cells
JP2008220205A (ja) 神経幹細胞凝集塊形成用容器、その製造方法、及び神経幹細胞凝集塊の作成方法。
WO2023022181A1 (ja) ハイドロゲル及び滅菌された乾燥ハイドロゲル形成性物品
Tang et al. Novel cell sheet carriers using polyion complex gel modified membranes for tissue engineering technology for cell sheet manipulation and transplantation
Łabowska et al. Review on the Adaption of Alginate-Gelatin Hydrogels for 3D Cultures and Bioprinting. Materials 2021, 14, 858
Ohya et al. Material design for an artificial extracellular matrix: cell entrapment in poly (N-isopropylacrylamide)(PNIPAM)-grafted gelatin hydrogel
Banafati Zadeh et al. Glutaraldehyde: Introducing Optimum Condition for Cross-linking the Chitosan/Gelatin Scaffolds for Bone Tissue Engineering

Legal Events

Date Code Title Description
121 Ep: the epo has been informed by wipo that ep was designated in this application

Ref document number: 22858499

Country of ref document: EP

Kind code of ref document: A1

WWE Wipo information: entry into national phase

Ref document number: 2023542432

Country of ref document: JP

WWE Wipo information: entry into national phase

Ref document number: 2022858499

Country of ref document: EP

NENP Non-entry into the national phase

Ref country code: DE

ENP Entry into the national phase

Ref document number: 2022858499

Country of ref document: EP

Effective date: 20240318