WO2022181672A1 - 脱アミド化カゼイン及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

本発明の目的は、酸性領域での溶解性が高く、起泡性に優れ、かつ安全性の高い改質乳タンパク質を提供すること、及び該乳タンパク質を加水分解に曝される危険性を低減して製造する方法を提供することにある。上記目的は、カゼインを含む懸濁液を、40℃~90℃にて4時間~50時間の条件で、イオン交換基がアルカリ金属塩型である弱酸性陽イオン交換樹脂を用いた脱アミド化反応に供することにより、脱アミド化率が14%以上32%未満である脱アミド化カゼインを得る工程を含む、脱アミド化カゼインの製造方法などにより解決される。

Description

脱アミド化カゼイン及びその製造方法
 本発明は、酸性領域での溶解性及び起泡性に優れた脱アミド化カゼイン及びその製造方法に関する。
 カゼインは、牛乳に含まれるタンパク質(乳タンパク質)の約80%を占め、必須アミノ酸をバランスよく含んでいることから、栄養補助食品素材及びサプリメントとして幅広く利用されている。なお、乳タンパク質のうち、残りはラクトアルブミン、ラクトグロブリンなどのホエータンパク質である。
 カゼインは、水に難溶性であることから、フォームドミルクやホイップドクリームなどの泡状食品を作製するために利用される起泡性組成物に含有させることが難しい。そこで、カゼインの水溶性を高めるように機能改善された改質カゼインとして、カゼインナトリウム(カゼインNa)が知られている。カゼインNaは、カゼインを水酸化ナトリウム水溶液といった塩基性溶液と反応させることにより得られる。カゼインNaはpHが中性からアルカリ性である溶媒への溶解性が大きく、さらに起泡性や乳化性といった物理化学的性質が優れていることから、食品添加物として一般的に利用されている。
 一方、カゼインなどのタンパク質の機能を改善する技術として、タンパク質の脱アミド化が知られている。タンパク質の脱アミド化とは、タンパク質中のグルタミン残基及びアスパラギン残基の側鎖のアミド基(-CONH)をカルボキシル基(-COOH)へ変換し、グルタミン酸及びアスパラギン酸といった別のアミノ酸残基に変換する反応である(図1を参照)。脱アミド化して生成したカルボキシル基は、アミド基と比較して水素を電離した状態(-COO)になることから、タンパク質の等電点を低下し、タンパク質の酸性領域での溶解性及び水分散性の改善に寄与する可能性がある。タンパク質の脱アミド化技術としては、酸又はアルカリを用いる化学的処理方法、酵素(プロテイングルタミナーゼ)を用いる酵素学的処理方法及びイオン交換樹脂を用いる樹脂処理方法がある。
 これまでに、酵素学的処理方法によって得られた、脱アミド化率が35%を超える脱アミド化カゼインが知られている(例えば、特許文献1及び2を参照)。一方、樹脂処理方法によるダイズタンパク質の脱アミド化物が知られている(例えば、特許文献3を参照)。
特表2017-516469号公報 特表2015-524276号公報 特許第4512716号
 カゼインNaはカゼインに比べると水溶性が改善されている。しかし、カゼインNaは、カゼインと同様に、等電点付近である酸性条件下においては、溶解性が著しく低下することから、酸性食品への利用には不適である。
 一方、特許文献1及び2に記載の脱アミド化カゼインは、カゼイン溶液にプロテイングルタミナーゼとよばれるタンパク質中のグルタミン残基をグルタミン酸残基へ特異的に脱アミド化する酵素を用いた脱アミド化反応によって得られる。
 プロテイングルタミナーゼを用いた脱アミド化反応では、反応後に残存する酵素を失活させる工程、具体的には50℃での脱アミド化反応後にさらに加熱して90℃にて酵素を失活させる工程を伴う。この工程により酵素は失活するものの、合わせて生成物である脱アミド化カゼインも加水分解に曝される危険性がある。
 また、現在使用されているプロテイングルタミナーゼは、クリセオバクテリウム・プロテオリティカム(Chryseobacterium proteolyticum)に由来するものであり、食品安全委員会の承認を得られておらず、日本国内で使用することができない。
 特許文献3には、樹脂処理方法により、pH 7.4、4℃、6時間という条件の脱アミド化反応によりダイズタンパク質を脱アミド化したことが記載されている。しかし、特許文献3に記載の方法はダイズタンパク質という植物性タンパク質を対象としており、植物性タンパク質は動物性タンパク質であるカゼインといった乳タンパク質と構造が全く異なる。
 さらに、これまでに、酸性領域での溶解性が高く、かつ起泡性に優れた改質乳タンパク質及びその製造方法について、ほとんど知られていない。
 そこで、本発明は、酸性領域での溶解性が高く、起泡性に優れ、かつ安全性の高い改質乳タンパク質を提供すること、及び該乳タンパク質を加水分解に曝される危険性を低減して製造する方法を提供することを、発明が解決しようとする課題とする。
 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討し、乳タンパク質を改質するための方法について試行錯誤した。その中で、まず、乳タンパク質のうち、比較的水溶性の高いホエータンパク質に着眼した。そして、後述する実施例に記載のとおりに、ホエータンパク質を脱アミド化したところ、得られた脱アミド化ホエータンパク質は、脱アミド化率が低く、ホエータンパク質に対して、起泡性の向上がほとんど認められないものであり、乳化性についてはむしろ減少するものであった。したがって、脱アミド化ホエータンパク質は、ホエータンパク質の機能性を改善したものとはいえなかった。
 次に、本発明者らは、カゼインNa及びカゼインの脱アミド化について検討した。その中で、樹脂処理方法によりカゼインNa及びカゼインの脱アミド化を達成しようとしたところ、特許文献3に記載の条件での脱アミド化反応ではこれらを脱アミド化することはほとんどできなかった。また、本発明者らは、脱アミド化率が所定の範囲に入らないものは、加水分解が生じること、起泡性を安定的に維持できないことといった問題が生じることを見出した。さらに樹脂処理方法によるカゼインNaの脱アミド化は、回収率が低く、脱アミド化率が低くなる傾向にあるということを見出した。
 以上のような事情の下で、本発明者らは、カゼインの脱アミド化についてさらに試行錯誤を重ねたところ、所定の弱酸性陽イオン交換樹脂を用いて、温度及び時間を所定の範囲に設定した脱アミド化反応を実施することにより、脱アミド化率が所定の範囲内にある脱アミド化カゼインを得ることに成功した。そして、驚くべきことに、このような脱アミド化カゼインは、酸性領域での溶解性及び起泡性が優れるばかりか、乳化性も良好であることを見出した。また、上記の脱アミド化反応を利用する方法によれば、加水分解を回避することにより、脱アミド化カゼインの回収率を高めることができた。しかも、該方法は、酵素を利用しなくともよく、使用する樹脂はアミノ酸やショ糖の精製といった食品産業において広く利用されているものであることから、安全性の高い方法である。
 以上のような知見及び成功例に基づいて、本発明者らは、遂に、本発明の課題を解決し得るものとして、脱アミド化率が14%以上32%未満である脱アミド化カゼイン及びその製造方法などを創作することに成功した。本発明は、本発明者らによって初めて見出された知見及び成功例に基づいて完成されたものである。
 したがって、本発明によれば、以下の各態様の方法、組成物及び脱アミド化カゼインが提供される。
[1]カゼインを含む懸濁液を、40℃~90℃にて4時間~50時間の条件で、イオン交換基がアルカリ金属塩型である弱酸性陽イオン交換樹脂を用いた脱アミド化反応に供することにより、脱アミド化率が14%以上32%未満である脱アミド化カゼインを得る工程
を含む、脱アミド化カゼインの製造方法。
[2]さらに、前記脱アミド化反応後に回収した樹脂残渣を、酸性水溶液を用いた溶出処理に供することにより、脱アミド化カゼインを得る工程を含む、[1]に記載の方法。
[3]前記脱アミド化カゼインの回収率は、カゼインに対して70%以上である、[2]に記載の方法。
[4]前記アルカリ金属塩型は、ナトリウム型及びカリウム型からなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属塩型である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の方法。
[5]脱アミド化率が14%以上32%未満である脱アミド化カゼインと、水とを含む起泡性組成物。
[6]前記起泡性組成物は、クリセオバクテリウム・プロテオリティカム(Chryseobacterium proteolyticum)に由来するプロテイングルタミナーゼを実質的に含まない、[5]に記載の組成物。
[7]脱アミド化率が14%以上32%未満である脱アミド化カゼイン。
[8]脱アミド化率が14%以上32%未満である脱アミド化カゼインと、水とを用いることにより、該脱アミド化カゼインに代えてカゼイン又はカゼインナトリウムを用いる場合と比べて、起泡性を改善する工程
を含む、起泡性の改善方法。
 本発明の一態様の方法によれば、酸性領域での溶解性が高く、起泡性に優れ、かつ安全性の高い脱アミド化カゼインを、加水分解に曝される危険性を低減して製造することができる。本発明の一態様の脱アミド化カゼインは、酸性領域での溶解性及び起泡性に加えて、乳化性が良好であることから、広い範囲のpH領域に渡って、起泡剤、乳化剤、安定化剤といった食品添加物や乳タンパク質としての食品素材への利用が期待される。
 本発明の一態様の起泡性組成物によれば、起泡性及び乳化性が良く作業性が良好であることから、簡便かつ短時間で安定した泡質を有するフォームドミルク、ホイップドクリームといった泡状食品を製造及び使用することができる。
図1は、タンパク質の脱アミド化の模式図である。 図2は、後述する実施例に記載があるとおりの、酸性領域でのカゼイン、カゼインナトリウム及び脱アミド化カゼインの溶解性の測定結果を表した図である。 図3は、後述する実施例に記載があるとおりの、酸性領域でのカゼイン、カゼインナトリウム及び脱アミド化カゼインの起泡性の測定結果を表した図である。左上図は起泡直後(0分)の測定結果を表し、右上図は起泡後30分間経過時の測定結果を表し、左下図は起泡後60分間経過時の測定結果を表す。 図4は、後述する実施例に記載があるとおりの、酸性領域でのカゼイン、カゼインナトリウム及び脱アミド化カゼインの乳化性の測定結果を表した図である。左図は乳化直後(0分)の測定結果を表し、右図は乳化後10分間経過時の測定結果を表す。 図5は、後述する実施例に記載があるとおりの、脱アミド化によるカゼインの等電点の変化を示す、カゼイン及び脱アミド化カゼインの二次元電気泳動の結果を示した図である。 図6は、後述する実施例に記載があるとおりの、脱アミド化によるカゼインの加水分解の程度を示す、カゼイン、カゼインナトリウム及び脱アミド化カゼインのSDS-PAGE結果を示した図である。 図7は、後述する実施例に記載があるとおりの、反応温度によるカゼインの加水分解の程度を示す、カゼイン及びカゼインナトリウム並びに脱アミド化反応の温度を55℃~80℃として得た脱アミド化カゼインのSDS-PAGE結果を示した図である。 図8は、後述する実施例に記載があるとおりの、酸性領域でのカゼイン、カゼインナトリウム及び脱アミド化カゼインの溶解性の測定結果を表した図である。 図9は、後述する実施例に記載があるとおりの、カゼイン、カゼインナトリウム及び脱アミド化カゼインの乳化性の測定結果を表した図である。 図10は、後述する実施例に記載があるとおりの、カゼイン、カゼインナトリウム及び脱アミド化カゼインの起泡性の測定結果を表した図である。 図11は、後述する実施例に記載があるとおりの、脱アミド化によるカゼインの加水分解の程度を示す、カゼイン、カゼインナトリウム及び脱アミド化カゼインのSDS-PAGE結果を示した図である。
 以下、本発明の各態様について詳細に説明するが、本発明はその目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
 本明細書における各用語は、別段の定めがない限り、食品分野の当業者により通常用いられている意味で使用され、不当に限定的な意味を有するものとして解釈されるべきではない。また、本明細書においてなされている推測及び理論は、本発明者らのこれまでの知見及び経験によってなされたものであることから、本発明はこのような推測及び理論のみによって拘泥されるものではない。
 本明細書における用語の意味のうち、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」(以下、乳等省令;該文献の全記載はここに開示として援用される。)に記載があるものは、乳等省令に記載されているとおりの意味として解釈される。
 「組成物」は、通常用いられている意味のものとして特に限定されないが、例えば、2種以上の成分が組み合わさってなる物である。
 「含有量」は、濃度及び使用量(加えた量)と同義であり、組成物の全体量に対する成分の量の割合を意味する。ただし、成分の含有量の総量は、100%を超えることはない。
 単位の「vol%」は「%(v/v)」及び「体積%」と同義である。単位の「wt%」は「%(w/w)」及び「質量%」と同義である。単位の「%(w/v)」は「質量体積%」と同義である。
 「及び/又は」との用語は、列記した複数の関連項目のいずれか1つ、又は2つ以上の任意の組み合わせ若しくは全ての組み合わせを意味する。
 数値範囲の「~」は、その前後の数値を含む範囲であり、例えば、「0%~100%」は、0%以上であり、かつ、100%以下である範囲を意味する。「超過」及び「未満」は、その前の数値を含まずに、それぞれ下限及び上限を意味し、例えば、「1超過」は1より大きい数値であり、「100未満」は100より小さい数値を意味する。
 「含む」は、含まれるものとして明示されている要素以外の要素を付加できることを意味する(「少なくとも含む」と同義である)が、「からなる」及び「から本質的になる」を包含する。すなわち、「含む」は、明示されている要素及び任意の1種若しくは2種以上の要素を含み、明示されている要素からなり、又は明示されている要素から本質的になることを意味し得る。要素としては、成分、工程、条件、パラメーター等の制限事項等が挙げられる。
 特定の成分を「実質的に含まない」とは、特定の成分以外の成分の原料や製造工程等によって不可避的に混入される場合を除き、意図的に含有させないことを意味する。したがって、「実質的に含まない」は、全く含まれないか、仮に含まれていても極微量であることをいう。
 整数値の桁数と有効数字の桁数とは一致する。例えば、1の有効数字は1桁であり、10の有効数字は2桁である。また、小数値は小数点以降の桁数と有効数字の桁数とは一致する。例えば、0.1の有効数字は1桁であり、0.10の有効数字は2桁である。
[1.脱アミド化カゼインの製造方法]
 本発明の一態様の方法は、脱アミド化率が所定の範囲である脱アミド化カゼインの製造方法である。本発明の一態様の方法は、原料であるカゼインを、所定の条件の下で、イオン交換基がアルカリ金属塩型である弱酸性陽イオン交換樹脂を用いた脱アミド化反応に供することにより、脱アミド化カゼインを得ることを特徴とする。
 本発明の一態様の方法では、カゼインを含む懸濁液を脱アミド化反応に供する。
 カゼインは、哺乳動物乳に含まれるリンを含む乳タンパク質をいい、α-カゼイン、β-カゼイン及びκ-カゼインを含み得る。カゼインは、カゼインミセルであってもよい。カゼインは、カゼインナトリウムと比べて水難溶性であるが、本発明の一態様の方法に供することにより、カゼインナトリウムと同等の、又はそれ以上に優れた、酸性領域での溶解性及び/又は起泡性を示すことができる。
 カゼインが由来する哺乳動物乳は特に限定されず、例えば、牛、山羊、羊などの乳が挙げられるが、嗜好性及び入手容易性の観点から牛乳が好ましい。カゼインの形態は特に限定されず、例えば、粉末状、粒状、ペースト状などの形態が挙げられ、これらのいずれのものも用いることができる。
 カゼインは、哺乳動物乳及びその脱脂乳などからこれまでに知られた方法により分離及び加工されたものでも、市販品のものでも、いずれでもよい。カゼインは精製品であることが好ましいが、一定の程度までカゼインの量を高めたものであってもよい。カゼインにおけるタンパク質含有量は50%(w/w)~100%(w/w)であることが好ましい。カゼインは、上記したものの1種の単独であってもよいし、2種以上を組み合わせたものでもよい。
 カゼインを含む懸濁液は、カゼインを水に分散して得られる。水は食品製造に用いられる水であれば特に限定されないが、例えば、水道水、精製水、超純水などが挙げられる。懸濁液におけるカゼインの分散の程度は特に限定されないが、例えば、目視で明らかなカゼインの塊が観られない程度であることが好ましい。懸濁液におけるカゼインの含有量は特に限定されないが、例えば、カゼインの分散性を良好に保つために、0.1%(w/v)~10%(w/v)であることが好ましく、0.5%(w/v)~5%(w/v)であることがより好ましい。
 脱アミド化反応は、カゼインを含む懸濁液とイオン交換基がアルカリ金属塩型である弱酸性陽イオン交換樹脂とを所定の条件にて接触させることにより実施する。脱アミド化反応により、カゼインを構成するアスパラギン残基及びグルタミン残基は、アミド基(-CO-NH)におけるアミノ基(-NH)を水酸基(-OH)へ置換してカルボキシル基(-COOH)が形成されることを経て、アスパラギン酸残基及びグルタミン酸残基へ変換される。
 弱酸性陽イオン交換樹脂は、弱酸性のイオン交換基を有する陽イオン交換樹脂であれば特に限定されないが、例えば、弱酸性のイオン交換基として-COOH及び-N(CHCOOH)を有する陽イオン交換樹脂などが挙げられる。弱酸性陽イオン交換樹脂のイオン交換容量は特に限定されないが、例えば、0.5g当量/l湿潤樹脂~5g当量/l湿潤樹脂であることが好ましい。
 弱酸性陽イオン交換樹脂は、公知の方法により製造したものでも、市販されているものでも、どちらでもよい。市販されている弱酸性陽イオン交換樹脂としては、「アンバーライト IRC76」、「アンバーライト FPC3500」、「アンバーライト IRC718」(オルガノ社)などが挙げられる。
 カゼインを含む懸濁液と接触する前に、弱酸性陽イオン交換樹脂のイオン交換基をアルカリ金属塩型にしておく。すでにイオン交換基がアルカリ金属塩型であればその状態で用いることができるが、H型などの場合はアルカリ金属塩型へ変換する。イオン交換基のアルカリ金属塩型への変換方法は特に限定されないが、例えば、弱酸性陽イオン交換樹脂を酸によってH型へ変換し、次いでアルカリ金属塩を含む溶液に浸漬又は通液してアルカリ金属塩型へ変換する方法などが挙げられる。
 アルカリ金属塩型の種類は特に限定されないが、例えば、ナトリウム(Na)型、カリウム(K)型、リチウム(Li)型などが挙げられるが、容易かつ経済的優位にアルカリ金属塩型が得られることからNa型及びK型であることが好ましい。アルカリ金属塩型がNa型又はK型である弱酸性陽イオン交換樹脂を得るためには、中性塩として塩化ナトリウム、塩化カリウム;水酸化物として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムなどを用いればよい。ただし、得られる脱アミド化カゼインを食品用途として使用する場合は、アルカリ金属塩型はNa型であることが好ましい。Na型への変換には、一般的かつ経済性から、食塩、水酸化ナトリウム及びそれらの混合物の水溶液を利用することが好ましい。
 例えば、弱酸性陽イオン交換樹脂のNa型への変換は、まず弱酸性陽イオン交換樹脂を容れた容器に0.5N~2Nの塩酸水溶液を添加してH型へ変換し、次いで0.5N~2Nの水酸化ナトリウム水溶液を添加することによりNa型へ変換することにより達成できる。
 カゼインを含む懸濁液と弱酸性陽イオン交換樹脂とを接触する方法は特に限定されず、弱酸性陽イオン交換樹脂をカゼインを含む懸濁液に浸漬するバッチ方式でも、弱酸性陽イオン交換樹脂を充填したカラムにカゼインを含む懸濁液を通液するカラム方式でもいずれの方式も採用できる。いずれの方式でも、カゼインと弱酸性陽イオン交換樹脂との接触回数を増やすために、撹拌することが好ましい。
 弱酸性陽イオン交換樹脂の使用量は特に限定されないが、例えば、懸濁液中のカゼインと弱酸性陽イオン交換樹脂とを良好に接触させるという観点から、懸濁液が0.1%(w/v)~10%(w/v)のカゼインを含む場合、懸濁液100mLに対して1g~200gであることが好ましく、10g~100gであることがより好ましく、30g~70gであることがより好ましい。
 一般に、樹脂処理方法によるタンパク質の脱アミド化反応は、タンパク質の分解又は失活を回避するために、4℃などの低温又は室温(20℃~30℃)にて実施される。また、同様の理由により、タンパク質の脱アミド化反応は、数時間で実施される。
 しかし、本発明者らが調べたところによれば、カゼインの脱アミド化反応を、低温又は室温にて数時間で実施したとしても、得られる脱アミド化カゼインの脱アミド化率は非常に小さくなる。そこで、室温より高い温度にして、温度に合わせて数時間~数十時間でカゼインの脱アミド化反応を実施したところ、脱アミド化率の高い脱アミド化カゼインが得られた。その一方で、反応温度が高くなるに連れて、脱アミド化率は高くなるものの、分解が進み、起泡性を安定的に維持する脱アミド化カゼインが得られなくなる。
 以上の事情を鑑みて、本発明の一態様の方法において、脱アミド化反応は、40℃~90℃、好ましくは50℃~85℃、より好ましくは50℃~80℃の温度にて、4時間~50時間、好ましくは5時間~40時間、より好ましくは6時間~35時間の時間で実施する。また、脱アミド化反応は、80℃~90℃にて4時間~10時間で実施することが好ましく、60℃~70℃にて10時間~15時間で実施することが好ましく、40℃~50℃にて25時間~35時間で実施することが好ましい。脱アミド化反応は、上記した温度及び時間の範囲内で、所望の脱アミド化率を有する脱アミド化カゼインが得られる条件で行えばよい。
 脱アミド化反応のpHは特に限定されないが、例えば、脱アミド化カゼインの分解を抑えるという観点から、中性付近であることが好ましく、6~10であることがより好ましい。
 上記条件により、カゼインを含む懸濁液を脱アミド化反応に供することにより、反応液中に脱アミド化カゼインを得ることができる。ただし、脱アミド化カゼインの中には樹脂に吸着しているものもある。そこで、脱アミド化カゼインの回収率を高めるためには、脱アミド化反応後に反応液と樹脂残渣とを分離し、次いで回収した樹脂残渣を、酸性水溶液を用いた溶出処理に供することにより、溶出液として脱アミド化カゼインを得ることが好ましい。
 溶出処理に使用する酸性水溶液は、弱酸性陽イオン交換樹脂から脱アミド化カゼインを溶離することができれば、すなわち、弱酸性陽イオン交換樹脂の周囲のpHを脱アミド化カゼインの等電点以下になるpH、具体的には3.7以下にできるようなものであれば、その種類、濃度及び使用量は特に限定されず、弱酸性陽イオン交換樹脂の種類及び量、弱酸性陽イオン交換樹脂を容れる又は充填するタンク及びカラムなどの容器の種類及び容量、脱アミド化カゼインの吸着量などに応じて、適宜選択すればよい。
 酸性水溶液の具体例としては、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸を含む水溶液などが挙げられるが、安全性の観点から塩酸を含む水溶液が好ましく、0.1N~5Nの塩酸を含む水溶液がより好ましく、0.5N~1.5Nの塩酸を含む水溶液であることがさらに好ましい。溶出処理は、樹脂と塩酸を含む水溶液とを接触させて実施してもよく、樹脂と水とを接触させた後に無機酸を添加して実施してもよい。
 溶出処理を撹拌して実施することにより、樹脂の量が多くても、作業性がよく、弱酸性陽イオン交換樹脂の周囲のpHを均一かつ早期に低下することができるので、より効率よく脱アミド化カゼインを溶出することができる。溶出処理は、1回実施しても、複数回実施してもよいが、脱アミド化カゼインの分解を避けるために1回実施することが好ましい。
 脱アミド化反応後の反応液及び溶出処理後の溶出液において、脱アミド化カゼインを得ることができる。脱アミド化カゼインは、食品素材として用いるために、固形状の脱アミド化カゼインとすることが好ましい。例えば、脱アミド化反応後の反応液及び溶出処理後の溶出液を、それぞれ個別に、又は組み合わせて、ろ過処理などの固液分離処理に供すること、水及び透析膜を用いた脱塩処理(透析)に供すること、凍結乾燥処理などの乾燥処理に供することなどにより、粉末状の脱アミド化カゼインを得ることができる。各処理は、脱アミド化カゼインの分解及び損失の程度が大きくならない限り、その条件、手順などの方法については特に限定されず、公知の方法を採用できる。
 上記のようにして、脱アミド化率が所定の範囲内にある脱アミド化カゼインが得られる。脱アミド化カゼインの脱アミド化率は、脱アミド化カゼインがカゼインナトリウムと同等又はそれ以上の酸性領域での溶解性及び/又は起泡性を有するようになる脱アミド化率であり、具体的には14%以上32%未満であるが、例えば、起泡性及び乳化性が良好であるという観点から、15%以上32%未満であることがより好ましく、15%~31%であることがさらに好ましく、16%~27%であることがなおさらに好ましい。脱アミド化カゼインの回収率は特に限定されないが、例えば、70%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましい。回収率が70%未満である場合に得られる脱アミド化カゼインは、加水分解が生じている可能性があり、酸性領域での溶解性及び/又は起泡性が劣るおそれがある。なお、回収率は、原料として用いたカゼインの量に対する得られた脱アミド化カゼインの量の割合(=[脱アミド化カゼインの量]/[カゼインの量]×100)によって算出する。
 本発明の一態様の方法は、本発明の課題を解決し得る限り、上記した工程の前段若しくは後段又は工程途中に、種々の工程及び/又は操作を加入することができる。以下に、本発明の一態様の方法の具体的態様を説明するが、本発明の方法は以下のものに限定されない。
 市販又は公知の方法で牛乳から分離したカゼインを水に懸濁させて、0.5%(w/v)~5%(w/v)カゼイン懸濁液を調製する。次いで、該懸濁液100mLに対して30g~70gになるようにNa型の弱酸性陽イオン交換樹脂を加えて、pH 6~8、50℃~60℃、25時間~35時間の条件で撹拌することにより脱アミド化反応を実施する。次いで、反応液と樹脂とを分離し、反応液を回収する。次いで残留した樹脂に、水及び0.5N~1.5N塩酸水溶液を加えて、室温にて、数十分間の条件で撹拌することにより溶出処理を実施する。次いで、溶出液と樹脂とを分離し、溶出液を回収する。反応液及び溶出液を混合した混合液を、水を用いて低温下で数日間の条件で透析し、次いで乾燥処理に供することにより、粉末状の脱アミド化率が20%以上32%未満である脱アミド化カゼインを得る。
[2.脱アミド化カゼイン]
 本発明の別の態様は、脱アミド化率が14%以上32%未満である脱アミド化カゼインである。脱アミド化カゼインの脱アミド化率は14%以上32%未満であればよいが、起泡性及び乳化性が良好であるという観点から、好ましくは15%~31%であり、より好ましくは16%~27%である。
 本発明の一態様の脱アミド化カゼインは、酸性領域での溶解性及び起泡性が優れている。本発明の一態様の脱アミド化カゼインが有する酸性領域での溶解性及び起泡性は特に限定されないが、例えば、pHが4.5~6.0の範囲内で測定した場合の溶解性がカゼインナトリウムより高い程度であることが好ましく;及び/又は、pHが3.0~6.0の範囲内で起泡後30分にて測定した場合の起泡性がカゼインナトリウムより高い程度であることが好ましい。
 本発明の一態様の脱アミド化カゼインは、乳化性も良好である。本発明の一態様の脱アミド化カゼインが有する乳化性は特に限定されないが、例えば、pHが4.5~5.5の範囲内で調製後10分にて測定した場合の乳化性がカゼインより高い程度であることが好ましい。
 脱アミド化率、酸性領域での溶解性、起泡性及び乳化性は後述する実施例に記載の方法によって測定される。
 本発明の一態様の脱アミド化カゼインの使用方法は特に限定されないが、例えば、酸性領域での溶解性及び起泡性に加えて、乳化性に優れていることから、フォームドミルク、ホイップドクリームなどの泡状食品を製造するための起泡性組成物における起泡剤、乳化剤及び/又は安定化剤などとして使用することができる。
[3.起泡性組成物]
 本発明の別の態様は、本発明の一態様の脱アミド化カゼインと水とを含む、起泡性組成物である。
 起泡性組成物における脱アミド化カゼインの含有量は、起泡性組成物を起泡した場合に所望の泡状食品が形成される量であれば特に限定されないが、泡状食品の起泡性及び嗜好性の観点から、好ましくは0.01%(w/v)~50%(w/v)であり、より好ましくは0.1%(w/v)~50%(w/v)であり、さらに好ましくは0.1%(w/v)~10%(w/v)である。
 水は食品製造に用いられる水であれば特に限定されないが、例えば、水道水、精製水、超純水などが挙げられる。水の含有量は、起泡性組成物に通常使用される量であれば特に限定されないが、例えば、生成される泡状食品の嗜好性及び起泡性の観点から、好ましくは10%(w/v)~99.9%(w/v)である。
 起泡性組成物は、含有する脱アミド化カゼインにより乳化性が良好であることから、植物性油脂(植物性脂肪分)、哺乳動物乳に由来する乳脂肪分などの油脂を含んでもよい。すなわち、本発明の別の一態様は、脱アミド化率が14%以上32%未満である脱アミド化カゼインと、水と、油脂とを含む起泡性水中油型乳化組成物である。
 植物性油脂の具体例としては、ヤシ油、パーム油、大豆油、菜種油、綿実油、コーン油、ひまわり油、オリーブ油、サフラワー油、カポック油、パーム核油、マーガリン、ショートニングなどが挙げられ、さらにこれらの分別油脂、硬化油脂、エステル交換油脂などが挙げられるが、これらに限定されない。
 乳脂肪分は哺乳動物乳に由来するものであれば特に限定されないが、例えば、風味が良く嗜好性が良好であることから、牛乳に由来する乳脂肪分であることが好ましく、良好な乳化安定性を得るために生クリームであることがより好ましい。なお、生クリームは、乳等省令に「クリーム」として記載されているとおりのものであり、すなわち、生乳、牛乳又は特別牛乳から乳脂肪分以外の成分を除去したものであって、乳脂肪分が18.0質量%以上のものをいう。
 油脂の含有量は、起泡性水中油型乳化組成物に通常含有される量であれば特に限定されないが、例えば、生成される泡状食品の嗜好性及び起泡性の観点から、好ましくは0.5%(w/w)~50.0%(w/w)である。
 油脂は、上記したもののいずれか1種を単独で、又はこれらの2種以上を併用して用いてもよい。油脂を入手する方法は特に限定されず、常法に従って製造したものであっても、市販のものであっても、どちらでもよい。
 起泡性組成物は、より良好な風味及び乳化安定性を有するものとすることが期待できることから、無脂乳固形分を含有することが好ましい。無脂乳固形分は、哺乳動物乳から水分及び乳脂肪分を除いて得られる固形分であれば特に限定されず、通常は乳中に含まれるタンパク質、炭水化物、ミネラル、ビタミンなどが含まれる。
 無脂乳固形分の含有量は特に限定されないが、例えば、生成される泡状食品の嗜好性及び起泡性の観点から、1%(w/w)以上であることが好ましく、1%(w/w)~30%(w/w)であることがより好ましく、1%(w/w)~10%(w/w)であることがさらに好ましい。
 無脂乳固形分を入手する方法は特に限定されず、常法に従って製造したものであっても、市販のものであっても、どちらでもよい。無脂乳固形分は、脱脂粉乳、無脂肪牛乳、低脂肪牛乳、加工乳、脱脂乳、脱脂濃縮乳、クリームなどの各種乳製品に含まれていることから、これらの乳製品を無脂乳固形分として用いてもよい。無脂乳固形分は、上記したもののうち、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
 起泡性組成物は、必要に応じて、その他の成分として、甘味料、乳化剤、増粘安定剤、香料、保存料、酸化防止剤、ビタミン、ミネラルなどの食品添加物を加えてもよい。以下に、食品添加物の具体例を列挙するが、食品添加物はこれらに限定されない。
 甘味料としては、糖類、マルチトール、エリスリトール、ソルビトール、パラチニット、キシリトール、ラクチトール、イソマルチトールなどの糖アルコール、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、アリテーム、ネオテーム、カンゾウ抽出物(グリチルリチン)、サッカリン、サッカリンナトリウム、ステビア抽出物、ステビア末などが挙げられる。このうち、糖類としては、ショ糖、グラニュー糖、ブドウ糖、果糖、異性化糖、転化糖、イソマルトオリゴ糖、還元キシロオリゴ糖、還元ゲンチオオリゴ糖、キシロオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖、テアンデオリゴ糖、大豆オリゴ糖などのオリゴ糖、トレハロース、水飴、還元水飴、はちみつなどが挙げられる。
 乳化剤としては、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチンなどが挙げられる。
 増粘安定剤としては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、寒天、ゼラチン、カラギーナン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、ペクチンなどが挙げられる。
 香料としては、バニラフレーバー、ミルクフレーバー、クリームフレーバーなどが挙げられる。
 保存料としては、メタリン酸ナトリウム、クエン酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ金属塩などが挙げられる。
 酸化防止剤としては、トコフェロール、茶抽出物などが挙げられる。
 ビタミンとしては、ビタミンB1、アスコルビン酸、パントテン酸などが挙げられる。
 ミネラルとしては、カリウム、ナトリウム、カルシウムなどが挙げられる。
 起泡性組成物は、必要に応じて、その他の成分として食材を含んでもよい。食材としては、乳製品、卵黄などが挙げられるが、これらに限定されない。乳製品としては、牛乳、成分調整牛乳、脱脂粉乳、練乳、ヨーグルト、チーズ、発酵乳、乳酸菌飲料、乳飲料などを挙げることができる。
 起泡性組成物におけるその他の成分の含有量は、本発明の課題解決を妨げない限り特に限定されず、得られる泡状食品の安定性及び嗜好性の観点から、好ましくは0.0%(w/w)~30.0%(w/w)であり、より好ましくは1.0%(w/w)~20.0%(w/w)である。
 その他の成分は、上記したもののいずれかの1種を単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。その他の成分の入手方法は特に限定されず、例えば、市販のものを用いることができる。
 本発明の一態様の脱アミド化カゼインは、酵素学的処理方法ではなく、樹脂処理方法により得られる。そこで、本発明の一態様の起泡性組成物は、酵素学的処理方法において通常使用されるクリセオバクテリウム・プロテオリティカム(Chryseobacterium proteolyticum)に由来するプロテイングルタミナーゼを実質的に含まないことが好ましく、全く含まないことがより好ましい。
 起泡性組成物は、本発明の一態様の脱アミド化カゼイン及び水、並びに必要に応じて油脂、無脂乳固形分、甘味料などのその他の成分を混合して、起泡性組成物を得る工程により、製造することができる。
 起泡性組成物における成分の混合方法は特に限定されないが、激しく撹拌すると起泡することから、起泡しない程度の条件で、混合機を用いて混合する方法などが挙げられる。油脂、無脂乳固形分及び任意のその他の成分は、予め混合されたものとして、市販されている、クリーム、コンパウンドなどを用いることができる。
 起泡性組成物は、容器に詰めて密封した容器詰起泡性組成物とすることができる。容器は特に限定されないが、例えば、紙、PETやPTPなどのプラスチック、ガラス、アルミなどの金属などを素材とする包装容器が挙げられる。容器詰起泡性組成物は、それ自体で独立して、流通におかれて市販され得るものである。起泡性組成物は、容器に詰める前又は後で、殺菌処理に供することができる。
 起泡性組成物を常法に従って泡立てることにより、フォームドミルクやホイップドクリームなどの泡状食品が得られる。例えば、起泡性組成物を、泡立器具、専用のミキサーなどの道具を用いて空気を抱き込ませるように撹拌することによって、起泡状態を維持するホイップドクリームを製造することができる。なお、泡立てる際に、グラニュー糖、砂糖、液糖などの糖類、香料、リキュールなどを添加してもよい。
 起泡性組成物を用いて得られる泡状食品は、泡立てられた状態を安定的に維持することができる。泡状食品の安定性の程度は特に限定されないが、例えば、本発明の一態様の脱アミド化カゼインに代えてカゼインナトリウムを用いた場合よりも、起泡後30分間、好ましくは起泡後60分間の泡の体積が大きい程度である。
[4.本発明の別の態様]
 上記した起泡性組成物を用いて得られる泡状食品の性質に着目すれば、本発明の別の態様として、本発明の一態様の脱アミド化カゼインと、水とを用いることにより、該脱アミド化カゼインに代えてカゼイン又はカゼインナトリウムを用いる場合と比べて、起泡性を改善する工程を含む、起泡性の改善方法が提供される。
 また、他には、本発明の別の側面として、本発明の一態様の脱アミド化カゼインと、水とを含む泡状食品安定化用組成物、及び該組成物を使用することを含む泡状食品を安定化する方法が提供される。
 以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
[1.脱アミド化カゼインの調製方法]
(1-1)例1
 図1に、タンパク質のアミド化の模式図を示す。図1に示すとおり、タンパク質を構成するアミノ酸の一種であるアスパラギン及びグルタミンのアミド基(-C=O-NH)をカルボキシル基(-C=O-OH)に変換することにより、脱アミド化タンパク質が得られる。
 カゼイン(富士フイルム和光純薬社製)を超純水に懸濁させて、1%(w/v)カゼイン懸濁液を調製した。次いで、該懸濁液に、0.5g/mLとなるようにNa型に変換したカルボキシレートタイプ陽イオン交換樹脂(「アンバーライトIRC76」;オルガノ社製)を加えて、pH 8~10、55℃、30時間の条件で撹拌することにより脱アミド化反応を実施した。脱アミド化反応後の反応液を吸引ろ過することにより、ろ液(1)を回収した。次いで残留した樹脂に、超純水 200mL及びこれと同量の1N塩酸とを加えて、室温(20℃~30℃)、30分間の条件で撹拌し、次いで吸引ろ過することにより、ろ液(2)を回収した。ろ液(1)及びろ液(2)を混合して、ろ液(1+2)を得た。ろ液(1+2)を、超純水を用いて4℃、2日間の条件で透析し、次いで凍結乾燥することにより、脱アミド化カゼイン粉末を得た。
(1-2)例2
 Na型に変換したカルボキシレートタイプ陽イオン交換樹脂及び1N塩酸に代えてH型のカルボキシレートタイプ陽イオン交換樹脂及び1N水酸化ナトリウム水溶液をそれぞれ用いたこと以外は、例1と同様にして脱アミド化カゼイン粉末を得た。
[2.脱アミド化カゼインの評価方法]
(2-1)脱アミド化率
 カゼイン及び脱アミド化カゼインにおける窒素量及び炭素量を全窒素全炭素測定装置(「スミグラフ NC-220F」;住化分析センター社製)を用いて測定し、カゼインの窒素量に対する脱アミド化カゼインの窒素量の割合より脱アミド化率を算出した。
(2-2)酸性領域での溶解性
 脱アミド化カゼイン、カゼイン及びカゼインナトリウム(富士フイルム和光純薬社製)をクエン酸リン酸緩衝液(pH 3.0~6.0) 3mLに懸濁して、それぞれの1%(w/v)懸濁液を調製した。次いで、得られた懸濁液を、室温で60分間撹拌した後に、遠心分離処理(10,000g、20℃、15分)に供し、次いで得られた上清中の窒素量を全窒素全炭素測定装置にて測定した。溶解性は、各タンパク質中の窒素量に対する上清中の窒素量の割合より算出した可溶性窒素量により評価した。
(2-3)酸性領域での起泡性
 脱アミド化カゼイン、カゼイン及びカゼインナトリウムをクエン酸リン酸緩衝液(pH 3.0~6.0) 5.0mLに懸濁して、それぞれの0.5%(w/v)懸濁液を調製した。次いで、得られた懸濁液を、電動ミルク泡だて器(「CQT-45」;HARIO社製)を用いて1分間泡立たせ、起泡後0分、30分及び60分の泡の体積を測定し、起泡性(0分測定値)及び起泡安定性(30分~60分測定値)を評価した。
(2-4)酸性領域での乳化性
 脱アミド化カゼイン及びカゼインナトリウムをクエン酸リン酸緩衝液(pH 3.0~6.0) 2.4mLに懸濁して、それぞれの1%(w/v)懸濁液を調製した。次いで、得られた懸濁液にコーン油(富士フイルム和光純薬社製)0.8mLを加えた混合物を、ホモジナイザー(「NS-52K」;マイクロテック・ニチオン社製)を用いた乳化処理(室温、25,000rpm、1分)に供し、次いで得られた乳化液 50μLを0.1%SDS水溶液 5mLに懸濁して乳化物を安定させた。調製直後の懸濁液(0分)及び調製後10分間静置した懸濁液(10分)について、波長500nmにおける吸光度を測定して、乳化性(0分測定値)及び乳化安定性(10分測定値)を評価した。
(2-5)等電点
 一次元目を等電点電気泳動(pH3~10)、二次元目をSDS-PAGEとした二次元電気泳動を実施することにより等電点を測定した。すなわち、カゼイン及び脱アミド化カゼイン 10μgを、0.5%(v/v)ZOOM Carrier Ampholytes pH 3-10(Thermo Fisher Scientific社製)及び0.02%(w/v)ブロムフェノールブルーを含有する60mM Tris-HCl緩衝液(pH 8.8) 155μLに溶解し、一次元目ゲル(「ZOOM strip pH 3-10NL」;Thermo Fisher Scientific社製)に満たした後、175Vで20分間、175V-2,000Vで45分間、2,000Vで60分間の条件で等電点電気泳動を行った。等電点電気泳動後、ゲルを還元SDS化し、二次元目ゲル(「NuPAGE 4-12% Bis-Tris ZOOM Gels」;Thermo Fisher Scientific社製)にセットして、200Vで45分間の条件でSDS-PAGEを行った。SDS-PAGE後のゲルをCBB染色し、検出されたバンドにより等電点を測定した。
(2-6)加水分解の有無
 脱アミド化カゼインの加水分解の有無は、14%アクリルアミドゲルを使用したSDS-PAGEにより評価した。脱アミド化カゼイン、カゼイン及びカゼインナトリウムを、それぞれSDSサンプルバッファーに溶解した後、5μg/wellとなるように14%アクリルアミドゲルにアプライした。アプライ後のゲルを、100mA、50Vの定電圧で30分間の条件の電気泳動に供し、次いで100mA、150Vの定電圧で約60分間の電気泳動に供した。電気泳動後のゲルをCBB染色し、脱アミド化カゼインをアプライしたバンドがスメアになっていないことを確認して加水分解の有無を評価した。
[3.脱アミド化カゼインの評価結果]
 例1の調製方法では、使用したカゼイン(乾燥質量)の量に対する脱アミド化カゼイン粉末の量から求めた回収率は、ろ液(1)のみを用いた場合は47%であり、ろ液(1+2)を用いた場合は83%であった。すなわち、脱アミド化反応後のNa型の樹脂を塩酸により溶出することにより、回収率が顕著に向上した。一方、例2の調製方法では、H型の樹脂で脱アミド化反応を実施したところ、脱アミド化反応液においてカゼインが不溶化し、ろ液(1+2)を用いた場合の回収率は62%と低かった。これらの結果から、Na型の樹脂を使用し、樹脂を塩酸で溶出することにより、効率的に脱アミド化カゼインを回収できることがわかった。なお、同様にカゼインナトリウムを脱アミド化して得られた脱アミド化カゼインナトリウムの回収率は、脱アミド化カゼインの回収率よりも低かった。
 例1の調製方法において、ろ液(1+2)を用いて得られた脱アミド化カゼイン(以下、単に脱アミド化カゼインとよぶ。)の脱アミド化率を測定したところ、23.3%であった。なお、上記脱アミド化カゼインナトリウムの脱アミド化率は、8~9%であった。したがって、例1の調製方法は、カゼインナトリウムの脱アミド化には不適な方法であることがわかった。
 脱アミド化カゼイン、カゼイン及びカゼインナトリウムの溶解性を測定した結果(n=3、±SD)を図2に示す。図2が示すとおり、酸性領域であるpH4.5~6.0において、脱アミド化カゼインは、カゼイン及びカゼインナトリウムと比べて溶解性が大きく改善された。
 脱アミド化カゼイン、カゼイン及びカゼインナトリウムの起泡性を測定した結果(n=3、±SD)を図3に示す。図3が示すとおり、起泡後時間にかかわらず、pH3.0~6.0の広いpH範囲に渡って、脱アミド化カゼインを用いた場合の泡の容積が安定して大きく、起泡性が安定的に優れていることがわかった。
 脱アミド化カゼイン、カゼイン及びカゼインナトリウムの乳化性を測定した結果(n=4、±SD)を図4に示す。図4が示すとおり、酸性領域であるpH4.5~4.6において、脱アミド化カゼインの吸光度が安定して大きく、乳化性が安定的に優れていることがわかった。
 脱アミド化カゼイン及びカゼインの等電点を測定した結果を図5に示す。図5が示すとおり、脱アミド化カゼインは、カゼインに比べて、等電点が酸性側にシフトしていることがわかった。また、このことにより、脱アミド化カゼインの優れた酸性領域での溶解性、起泡性及び乳化性は、脱アミド化により等電点が小さくなったことに起因する可能性があることがわかった。
 脱アミド化カゼイン、カゼイン及びカゼインナトリウムのSDS-PAGEの測定結果を図6に示す。図6が示すとおり、脱アミド化カゼインは、カゼイン及びカゼインナトリウムと同様にほとんど加水分解していないことがわかった。
 以上の結果より、例1の調製方法で得られた脱アミド化カゼインは、加水分解されておらず、脱アミド化率が高く、優れた酸性領域での溶解性、起泡性及び乳化性を有することがわかった。また、脱アミド化カゼインは、天然に存在しないタンパク質ではあるが、タンパク質中のグルタミン及びアスパラギンといったアミノ酸をそれぞれグルタミン酸及びアスパラギン酸といった別のアミノ酸へ変換して得られるものであることから、他の非天然タンパク質と比べて、食品としての安全性が高いものである。
 また、例1の調製方法は、酵素法と違って、酵素失活のための加熱処理を省略することができることから、加熱処理により脱アミド化カゼインの食味が落ちるという問題を防ぐことができる。また、使用したイオン交換樹脂は食品製造業で汎用的に使用されているため、安全性が高く、さらに脱アミド化操作も簡便な樹脂である。
[4.脱アミド化カゼインと脱アミド化ホエータンパク質との比較]
 脱アミド化ホエータンパク質を調製し、脱アミド化カゼインと乳化性及び起泡性を比較評価した。
(4-1)脱アミド化ホエータンパク質の調製方法
 分離ホエータンパク質(ダビスコ・フーズ・インターナショナル社製)を超純水に溶解して、3%(w/v)ホエータンパク質溶液を調製した。次いで該溶液を、超純水に対して4℃で透析を行い、ホエータンパク質に夾雑するレシチンを除去した。次いで透析液を凍結乾燥することによりホエータンパク質粉末を得た(以降、ホエータンパク質とする)。
 ホエータンパク質を超純水に溶解して、1%(w/v)ホエータンパク質溶液を調製した。次いで、該溶液に、0.5g/mLとなるようにH型のカルボキシレートタイプ陽イオン交換樹脂(「アンバーライトIRC76」;オルガノ社製)を加えて、4℃で6時間~30時間の条件で撹拌することにより脱アミド化反応を実施した。次いで、反応液を吸引ろ過することにより、ろ液(1)を回収した。次いで、残留した樹脂に、超純水と同量の1N水酸化ナトリウム水溶液を加えて、室温、30分間の条件で撹拌し、次いで吸引ろ過することにより、ろ液(2)を回収した。ろ液(1)及びろ液(2)を混合して、ろ液(1+2)を得た。ろ液(1+2)を超純水を用いて透析し、次いで凍結乾燥することにより、脱アミド化ホエータンパク質粉末を得た。
 なお、脱アミド化反応において、H型の陽イオン交換樹脂を用いた理由は、Na型の樹脂を使用すると反応液から腐乱臭が発生したことから、食品として使用できないと判断されたことによる。また、脱アミド化反応の温度は、ホエータンパク質は熱に敏感であり、55℃では変性することから、4℃で実施した。
(4-2)脱アミド化率
 得られた脱アミド化ホエータンパク質について、上記(2-1)と同様に脱アミド化率を算出した。
(4-3)中性での乳化性
 クエン酸リン酸緩衝液(pH 3.0~6.0)に代えて超純水を用いたこと以外は上記(2-3)と同様に懸濁液を調製し、調製直後の懸濁液の吸光度を測定した。
(4-4)中性での起泡性
 脱アミド化ホエータンパク質、ホエータンパク質、脱アミド化カゼイン及びカゼインナトリウムを超純水 20mLに懸濁して、それぞれの0.2%(w/v)懸濁液を調製した。次いで、得られた懸濁液を、シリコンチューブに接続されたエアストーン(18φ丸、キング砥石)が底面に設置されている200mL容メスシリンダーに移し、エアポンプ(「SSPP-3S」;水作社製)を用いて8kPaの空気圧でチューブに空気を送り、溶液を1分間泡立てた。得られた泡の体積を測定することにより起泡性を評価した。
(4-5)評価結果
 得られた脱アミド化ホエータンパク質の脱アミド化率は、反応時間が6時間の場合は2.0%、同18時間の場合は3.3%、同30時間の場合は9.7%であった。
 ホエータンパク質及び脱アミド化ホエータンパク質の乳化性及び起泡性の測定結果を表1に示し、カゼイン、カゼインナトリウム及び例1で得た脱アミド化カゼインの乳化性及び起泡性の測定結果を表2に示す。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000001
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000002
 表1に示すとおり、ホエータンパク質は、脱アミド化することにより、乳化性が減少した。また、起泡性は、脱アミド化の前後において大きな差異が見られなかった。
 それに対して、表2に示すとおり、乳化性が低く、起泡性が見られなかったカゼインを脱アミド化することにより、乳化性及び起泡性のいずれにおいても顕著に向上した。また、脱アミド化カゼインの起泡性は、カゼインナトリウムの約1.6倍であり、非常に良好であった。
 以上の結果から、脱アミド化することによりあらゆるタンパク質の乳化性及び起泡性が良好になるわけではないことがわかった。これは、脱アミド化前後における、タンパク質の表面電荷、表面疎水性度のバランスなどが関係している可能性が示唆される。つまり、表面電荷に比例して高くなる溶解性を除いて、起泡性、乳化性といった物性は脱アミド化率に比例して改善されるとは限らないことがわかった。
 したがって、例1の調製方法は、カゼインの物性を改善する方法として優れており、酵素法のような加熱失活工程を省略することができ、イオン交換樹脂を除去することで反応を停止することが可能であることから、反応制御の観点から優れた方法である。
[5.反応温度を変えたカゼインの脱アミド化率及び回収率の評価(1)]
(5-1)例3
 脱アミド化反応の温度を55℃、60℃、70℃及び80℃としたこと以外は例1と同様にして脱アミド化カゼイン粉末を得た。得られた脱アミド化カゼイン粉末を上記(2-1)及び(2-6)に記載の方法により脱アミド化率及び加水分解の有無を評価した。また、使用したカゼイン(乾燥質量)の量に対する脱アミド化カゼイン粉末の量から回収率を算出した。
(5-2)脱アミド化率及び回収率、並びに加水分解の有無
 脱アミド化率及び回収率の評価結果を表3に示す。また、加水分解の有無を評価した電気泳動結果を図7に示す。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000003
 表3に示すとおり、脱アミド化反応の温度が高くなるにつれてカゼインの脱アミド化率は上昇した。しかし、回収率は、脱アミド化率が上昇するにつれて低下した。また、図7が示すとおり、脱アミド化反応の温度が高くなるにつれてカゼインのバンドが消失し、70℃以上になるとほとんどバンドを検出できなかった。これらの結果から、脱アミド化反応の時間が30時間と長い場合は、温度は70℃未満が良いことがわかった。なお、加水分解によりカゼインがペプチド化して、樹脂のイオン交換基と強固に結合するようになり、回収率が下がった可能性がある。
[6.反応温度を変えたカゼインの脱アミド化率及び回収率の評価(2)]
(6-1)例4
 脱アミド化反応の温度を55℃、60℃、70℃及び80℃とし、かつ時間を6時間としたこと以外は例1と同様にして脱アミド化カゼイン粉末を得た。得られた脱アミド化カゼイン粉末について、上記(2-1)~(2-4)、(2-6)及び(5-1)に記載のとおりに、脱アミド化率及び回収率、酸性領域での溶解性、乳化性、起泡性、並びに加水分解の有無を評価した。
(6-2)各種評価結果
 脱アミド化カゼインの脱アミド化率及び回収率を表4に示す。表4に示すとおり、反応温度が上がるにつれて、脱アミド化率が上昇する傾向がみられた。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000004
 酸性領域での溶解性を評価した結果を、図8に示す。図8に示すとおり、脱アミド化反応を80℃にて6時間で実施して得られた脱アミド化カゼインは、カゼインナトリウムに対して、pHが5.5~6.0の範囲内で溶解性が大きいことがわかった。
 乳化性を評価した結果を、図9に示す。なお、本評価においては、クエン酸リン酸緩衝液に代えて、純水を用いた。図9に示すとおり、脱アミド化反応を80℃にて6時間で実施して得られた脱アミド化カゼインは、カゼインナトリウムに対して優れた乳化性を示すことがわかった。
 起泡性を評価した結果を、図10に示す。なお、本評価においては、クエン酸リン酸緩衝液に代えて、純水を用いた。図10示すとおり、脱アミド化反応を80℃にて6時間で実施して得られた脱アミド化カゼインは、カゼインナトリウムと同等以上の起泡性を示した。
 図8~図10の結果を総合すれば、脱アミド化反応を80℃にて6時間で実施して得られた脱アミド化カゼインは、酸性領域での溶解性が向上し、それに伴い、カゼインナトリウムの溶解性が乏しいpHの範囲で、優れた乳化剤及び起泡剤として機能することがわかった。
 加水分解の有無を評価した結果を、図11に示す。図11に示すとおり、いずれの反応温度においても、カゼインの加水分解はほとんど確認されなかった。
 脱アミド化反応を80℃にて6時間で実施して得られた脱アミド化カゼインは、加水分解することなく、カゼイン及びカゼインナトリウムと比較して、酸性領域(pH5.5~6.0)において優れた溶解性、乳化性及び起泡性を有していた。
 本発明の一態様の方法、組成物及び脱アミド化カゼインを利用すれば、簡便かつ短時間で安定なフォームドミルクやホイップドクリームといった泡状食品を製造及び使用することができ、さらに広く流通に置くことが可能である起泡性組成物を、工業的規模で製造及び使用することができる。
 また、脱アミド化カゼインの酸性領域での溶解性に着目すれば、従前のカゼインでは利用が制限されていた果汁などの酸性食品と組み合わせた新しいプロテイン飲料を開発することが可能である。また、脱アミド化カゼイン単体でも、従前のカゼインよりも溶解性が向上したプロテインの原料として利用が可能である。
 現在、ロカボコントロール、免疫力向上、筋力低下抑制の対策としてタンパク質を積極的に摂取することが推奨されており、中でも乳タンパク質はアミノ酸スコアに優れ、吸収性も高いことから、様々な食品に添加されている。本発明の一態様の脱アミド化カゼインによれば、従来使用ができなかった食品へのさらなる用途への拡大が期待される。
関連出願の相互参照
 本出願は、2021年 2月25日出願の日本特願2021-029031号の優先権を主張し、その全記載は、ここに開示として援用される。
 

Claims (8)

  1.  カゼインを含む懸濁液を、40℃~90℃にて4時間~50時間の条件で、イオン交換基がアルカリ金属塩型である弱酸性陽イオン交換樹脂を用いた脱アミド化反応に供することにより、脱アミド化率が14%以上32%未満である脱アミド化カゼインを得る工程を含む、脱アミド化カゼインの製造方法。
  2.  さらに、前記脱アミド化反応後に回収した樹脂残渣を、酸性水溶液を用いた溶出処理に供することにより、脱アミド化カゼインを得る工程を含む、請求項1に記載の方法。
  3.  前記脱アミド化カゼインの回収率は、カゼインに対して70%以上である、請求項2に記載の方法。
  4.  前記アルカリ金属塩型は、ナトリウム型及びカリウム型からなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属塩型である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
  5.  脱アミド化率が14%以上32%未満である脱アミド化カゼインと、水とを含む起泡性組成物。
  6.  前記起泡性組成物は、クリセオバクテリウム・プロテオリティカム(Chryseobacterium proteolyticum)に由来するプロテイングルタミナーゼを実質的に含まない、請求項5に記載の組成物。
  7.  脱アミド化率が14%以上32%未満である脱アミド化カゼイン。
  8.  脱アミド化率が14%以上32%未満である脱アミド化カゼインと、水とを用いることにより、該脱アミド化カゼインに代えてカゼイン又はカゼインナトリウムを用いる場合と比べて、起泡性を改善する工程を含む、起泡性の改善方法。

     
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