WO2021177464A1 - 鶏の飼育によって鶏肉の風味を改善する及び/又は鮮度を維持するための方法 - Google Patents

鶏の飼育によって鶏肉の風味を改善する及び/又は鮮度を維持するための方法 Download PDF

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Abstract

この出願は、バチルス・ズブチルス(Bacillus subtilis)C-3102株)などのバチルス・ズブチルス株を有効成分として含む、かつ、鶏に投与することを特徴とする、鶏肉内の遊離アミノ酸、その誘導体及び/又はα-トコフェロールの増加剤、鶏肉の風味改善剤、鶏肉の鮮度維持剤、それらを含む飼料添加物、並びに、鶏肉の風味を改善する及び/又は鮮度を維持するための方法を提供する。

Description

鶏の飼育によって鶏肉の風味を改善する及び/又は鮮度を維持するための方法
 本発明は、鶏を飼育することによって鶏肉の風味を改善する及び/又は鮮度を維持するための方法に関する。具体的には、当該方法は、バチルス・ズブチルス(Bacillus subtilis)細菌を配合した飼料を鶏(ニワトリ)に給与することを含む。
 食肉の味(特に、美味なる味)を改善する方法としては、日常的に行われている調味料の使用に加え、キウィフルーツ生果肉の濃縮物を添加する方法(特許文献1)、食肉又は食肉加工品にアドバンテームを添加する方法(特許文献2)など、屠畜後の生肉に対する処理が一般的である。飼料を介した方法としては、1.5~2.0重量%のリジンを含有する飼料を鶏に給与して食肉の遊離グルタミン酸量を増加させる方法(特許文献3)、バリンの含有量が1.2質量%以上かつイソロイシンの含有量が0.8質量%以下である飼料を家禽に給与し食肉中の遊離グルタミン酸の増加と食肉の酸味を抑制する方法(特許文献4)、タンパク質分解酵素を含む飼料を給与し、生体筋肉内の遊離アミノ酸を増加させる方法(特許文献5)、発酵乳を含む飼料を給餌することによって、食肉の不飽和脂肪酸及び/又は遊離アミノ酸の含有量を増加させることを特徴とする、家畜の飼育方法(特許文献6)等がある。
 ビタミンE給与による食肉の品質保持技術は,日本飼養標準(非特許文献1及び2)にも記載され、広く利用されている(非特許文献3)。しかしながらビタミンEあるいはビタミンEを含んだ飼料を給与せずに、生肉中のα-トコフェロール濃度を高める方法は報告されていない。
 食肉の鮮度を維持する方法としては、脱酸素剤と共に容器内に収容、密封し、陰圧、低酸素、低温下で保存する方法(特許文献7)、エチルアルコール濃度30%以上、糖分1%以下の発酵調味料に2~60秒浸漬する方法(特許文献8)、コウジ酸を含む水溶液に浸すか該水溶液を噴霧する方法(特許文献9)などがあるが、いずれも屠畜後の生肉に対する処理であり、そのための処理剤、容器、設備が必要となる。生菌剤の給与も含め、飼料を介して食肉の鮮度を維持することは知られていない。
 生菌剤を用いた例として、例えば特許文献10に、バチルス・ズブチルスC-3102の生菌剤を有効成分として含有する家畜肉質改善剤が知られている。この肉質改善剤は、畜肉の脂質を低減できることを特徴としている。
 バチルス・ズブチリスC-3102株についてはまた、増体効果や飼料要求率改善効果を有すること(特許文献11)や、幼豚用飼料への配合(特許文献12)などの用途も知られている。しかし、当該バチルス・ズブチリスC-3102株が食肉の風味、とりわけ美味しさを改善することは知られていない。
特公平8-24544号公報 特許第6593333号公報 特許第4945762号公報 特許第5260101号公報 特許第3422955号公報 特願2017-163983号公報 特公昭62-27785号公報 特公平1-30456号公報 特公平5-30422号公報 特許第3187911号公報 特開昭63-209580号公報 特開昭62-232343号公報
日本飼養標準、肉用牛(2000年版)、(独)農業・食品産業技術総合研究機構編、中央畜産会(東京、日本) 日本飼養標準、豚(2000年版)、(独)農業・食品産業技術総合研究機構編、中央畜産会(東京、日本) 三津本充,1996,日畜会報,67(12),1110-1126
 本発明では、バチルス属細菌の生菌剤を含む飼料を鶏に供与(もしくは供餌)し、鶏肉の風味(例えば、美味しさ)を改善することを課題とする。
 本発明は、以下の特徴を包含する。
(1)バチルス・ズブチルス(Bacillus subtilis)C-3102株(国際受託番号:FERM BP-1096)又はその派生株、育種株もしくは変異株及び該C-3102株と同等の性質を有する他のバチルス・ズブチルス株からなる群から選択される少なくとも1つのバチルス・ズブチルス細菌を有効成分として含む、かつ、鶏に投与することを特徴とする、鶏肉内の遊離アミノ酸、その誘導体及び/又はα-トコフェロール増加剤。
(2)上記バチルス・ズブチルス細菌が芽胞の状態である、上記(1)に記載の増加剤。
(3)上記バチルス・ズブチルス細菌が、増加剤1gあたり1×10cfu~1×1013cfu、又はそれ以上である、上記(1)又は(2)に記載の増加剤。
(4)バチルス・ズブチルス(Bacillus subtilis)C-3102株(FERM BP-1096)又はその派生株、育種株もしくは変異株及び該C-3102株と同等の性質を有する他のバチルス・ズブチルス株からなる群から選択される少なくとも1つのバチルス・ズブチルス細菌を有効成分として含む、かつ、鶏に投与することを特徴とする、鶏肉の風味改善剤。
(5)鶏肉の風味が美味しさであることを特徴とする、上記(4)に記載の鶏肉の風味改善剤。
(6)鶏肉の風味改善が旨味及び旨味コク又は苦味雑味成分を増強することである、上記(4)又は(5)に記載の鶏肉の風味改善剤。
(7)鶏肉の風味改善が、鶏肉中の遊離アミノ酸の増加である、上記(4)~(6)のいずれかに記載の鶏肉の風味改善剤。
(8)上記バチルス・ズブチルス細菌が芽胞の状態である、上記(4)~(7)のいずれかに記載の鶏肉の風味改善剤。
(9)上記バチルス・ズブチルス細菌が、風味改善剤1gあたり1×10cfu~1×1013cfu、又はそれ以上である、上記(4)~(8)のいずれかに記載の鶏肉の風味改善剤。
(10)バチルス・ズブチルス(Bacillus subtilis)C-3102株(FERM BP-1096)又はその派生株、育種株もしくは変異株及び該C-3102株と同等の性質を有する他のバチルス・ズブチルス株からなる群から選択される少なくとも1つのバチルス・ズブチルス細菌を有効成分として含む、かつ、鶏に投与することを含む、鶏肉の鮮度維持剤。
(11)鶏肉の鮮度維持が、鶏肉中のα-トコフェロール濃度を増強することである、上記(10)に記載の鶏肉の鮮度維持剤。
(12)鶏肉の鮮度維持が、冷凍後解凍したときのK値(鮮度判定恒数)を低下させることである、上記(10)又は(11)に記載の鶏肉の鮮度維持剤。
(13)上記バチルス・ズブチルス細菌が芽胞の状態である、上記(10)~(12)のいずれかに記載の鶏肉の鮮度維持剤。
(14)上記バチルス・ズブチルス細菌が、鮮度維持剤1gあたり1×10cfu~1×1013cfu、又はそれ以上である、上記(10)~(13)のいずれかに記載の鶏肉の鮮度維持剤。
(15)上記(1)~(14)のいずれかに記載の増加剤、風味改善剤又は鮮度維持剤を含む、鶏肉の風味及び/又は鮮度を維持するための飼料添加物。
(16)上記(15)に記載の飼料添加物が1ppm~1000ppm、又はそれ以上の重量で含まれる、鶏肉の風味を改善する及び/又は鮮度を維持するための飼料。
(17)前期用飼料又は後期用飼料である、上記(16)に記載の飼料。
(18)鶏に上記(16)又は(17)に記載の飼料を給与して飼育することを含む、鶏肉の風味を改善する及び/又は鮮度を維持するための方法。
(19)鶏肉を食用として得ることをさらに含む、上記(18)に記載の方法。
 本発明は、バチルス・ズブチルス細菌(例えば、バチルス・ズブチルスC-3102株(以下、単に「C-3102株」と称することもある。))を有効成分として含む飼料を給与され飼育された鶏は、そうでない鶏(対照)に比べ、遊離アミノ酸及びその誘導体の量が多くなっている。個々の遊離アミノ酸又はその誘導体は、各種代謝に寄与すること、また、その種類によっては、抗疲労効果や各種疾病改善効果などに期待される。さらに、遊離アミノ酸類は、呈味にも影響することが知られており、臭み成分が少なく、風味のある(特に、美味しい)肉となるだけでなく,鮮度が維持されるため、鶏肉の消費者と生産者の双方に恩恵を与えることができる。本明細書中、「バチルス・ズブチルスC-3102株」は、「バチルス・ズブチリスC-3102株」又は「バチルス・サブチルスC-3102株」と同義で使用される。
 本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2020-039264号の開示内容を包含する。
この図は、カルスポリン(CS)添加飼料が鶏(ブロイラー)の浅胸筋の種々のアミノ酸類の量に及ぼす影響を示す。測定したアミノ酸類は、(A)スレオニン、チロシン、セリン、グルタミン酸、グルタミン、タウリン、アラニン、及びアルギニン、(B)メチオニン、リジン、ロイシン、イソロイシン、バリン、フェニルアラニン、及びヒスチジンである。 この図は、図1A-Bの続きであり、カルスポリン(CS)添加飼料が鶏(ブロイラー)の浅胸筋(湿潤組織)1gあたりのアミノ酸誘導体の量(μmol)に及ぼす影響を示す。測定したアミノ酸誘導体は、o-ホスホエタノールアミン、ヒドロキシプロリン、及び1-メチルヒスチジンである。 この図は、100ppmカルスポリン(CS)添加飼料(CS区)及びCS無添加飼料(対照区)が鶏(ブロイラー)の浅胸筋のにおい(臭気)に及ぼす影響を示すにおい分析の結果である。におい分析では、Bのグラフは、臭気指数相当値(縦軸)、並びに、各項目(すなわち、硫化水素、硫黄系、アミン系、有機酸系、アルデヒド系、エステル系、芳香族系、炭化水素系)(横軸)の臭気に及ぼす寄与について分析した結果を示している。一方、Aのグラフは、CS区と対照区について、上記の全ての項目の臭気を総合的に評価した結果を示す。図中、臭気指数相当値は、においの強さの評価を示す。 この図は、カルスポリン(CS)添加飼料給与後の鶏(ブロイラー)の浅胸筋の「苦味雑味」、「旨味」及び「旨味コク」の味覚センサーによる評価結果を示す。
 本発明をさらに詳細に説明する。
1.鶏肉内のアミノ酸、その誘導体又はα-トコフェロール増加剤、鶏肉の風味改善剤、鶏肉の鮮度維持剤、及び飼料添加物
 本発明は、第一の態様において、バチルス・ズブチルス(Bacillus subtilis)C-3102株(FERM BP-1096)又はその派生株、育種株もしくは変異株及び該C-3102株と同等の性質を有する他のバチルス・ズブチルス株からなる群から選択される少なくとも1つのバチルス・ズブチルス細菌を有効成分として含む、かつ、鶏に投与することを特徴とする、鶏肉内のアミノ酸、その誘導体及び/又はα-トコフェロール増加剤を提供する。
 本発明は、第二の態様において、バチルス・ズブチルス(Bacillus subtilis)C-3102株(FERM BP-1096)又はその派生株、育種株もしくは変異株及び該C-3102株と同等の性質を有する他のバチルス・ズブチルス株からなる群から選択される少なくとも1つのバチルス・ズブチルス細菌を有効成分として含む、かつ、鶏に投与することを特徴とする、鶏肉の風味改善剤を提供する。
 本明細書中の「風味」とは、鶏肉又は鶏肉スープを食したとき味覚と嗅覚によって美味しいと感じる味わいである。美味しさは、旨味と旨味コク(「コク味」ともいう)、場合により苦味雑味、酸味、塩味、渋みなどとの調和が生み出す味わいである。
 本発明は、第三の態様において、バチルス・ズブチルス(Bacillus subtilis)C-3102株(FERM BP-1096)又はその派生株、育種株もしくは変異株及び該C-3102株と同等の性質を有する他のバチルス・ズブチルス株からなる群から選択される少なくとも1つのバチルス・ズブチルス細菌を有効成分として含む、かつ、鶏に投与することを特徴とする、鶏肉の鮮度維持剤を提供する。
 本明細書中、「鮮度維持」とは、例えば、冷凍後解凍したときのK値(鮮度判定恒数)を低下させることを指す。具体的には、鮮度維持によって鶏肉の鮮度の低下が抑制される。
 本発明は、第四の態様において、上記増加剤、上記風味改善剤又は上記鮮度維持剤を含む、鶏肉の風味を改善する及び/又は鮮度を維持するための飼料添加物を提供する。
 本明細書中、「バチルス・ズブチルスC-3102株」は、国際寄託番号FERM BP-1096を有し、現在、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の特許微生物寄託センターに保存されている。この菌株は、特許文献10に記載される畜肉の脂質低減を特徴とする家畜肉質改善剤の有効成分と同じ株であるが、当該文献には、鶏肉内のアミノ酸、その誘導体及び/又はα-トコフェロールの増加、鶏肉の風味改善又は鮮度維持のために、例えば鶏肉の旨味及び旨味コクを増強するために、上記菌株を使用することは記載もなく示唆もない。
 本明細書中、バチルス・ズブチルスC-3102株の「派生株、育種株もしくは変異株」は、親株である上記C-3102株を、微生物の育種と同様の方法、例えば、ニトロソグアニジン、ニトロソウレア、エタンスルホン酸メチル、それらの誘導体などの化学変異原の存在下に培養する、或いは培養親株に、紫外線、X線などの高エネルギー線を照射した後に培養する、或いは菌株の保存もしくは保管中に自然に突然変異する、などの方法によって得ることができる。得られた菌株の中から、鶏に該菌株を含む飼料を給与し飼育したとき、対照(該菌株を給与しないで飼育する。)と比較して鶏において肉中の遊離アミノ酸(例えばタンパク質構成アミノ酸、及び、その他のアミノ酸(例えばタウリン))、アミノ酸誘導体、及びα-トコフェロールを増加させる性質、それにより鶏肉に風味改善効果(例えば旨味及び旨味コクを増強する効果)、或いは、鮮度維持効果を提供するものを選抜する。
 本明細書中、「他のバチルス・ズブチルス株」は、バチルス・ズブチルスC-3102株と同等の性質をもつが、該C-3102株又はその派生株、育種株もしくは変異株と異なるバチルス・ズブチルス株である。ここで、「同等の性質」とは、C-3102株が有する性質、すなわち、鶏に該バチルス・ズブチルス株を給与し飼育したとき、鶏において肉中の遊離アミノ酸、アミノ酸誘導体及びα-トコフェロールを増加させる性質を含み、それにより鶏肉の風味を改善する、或いは鶏肉の鮮度を維持する性質、具体的には、例えば鶏肉に少なくとも旨味及び旨味コクを増強する性質を指し、場合によりさらに、後述するような他の性質も含まれる。上記の「他のバチルス・ズブチルス株」は、公知のバチルス・ズブチルス分離手段を利用して自然界から単離してもよいし、或いは、公知の菌株から選抜してもよい。
 バチルス・ズブチルス細菌の好適例は、バチルス・ズブチルスC-3102株又はその派生株、育種株もしくは変異株である。
 本発明の一実施形態において、鶏肉内の遊離アミノ酸、その誘導体及び/又はα-トコフェロール増加剤、鶏肉の風味改善剤、鶏肉の鮮度維持剤、又は飼料添加物中のバチルス・ズブチルス細菌は、芽胞の状態であるのが好ましい。鶏が、芽胞形態の、上記増加剤、風味改善剤、鮮度維持剤、又は飼料添加物を摂取したとき、バチルス・ズブチルス細菌は発芽し栄養細胞になり、このとき酸素が消費されるため、鶏の消化管内で、嫌気状態が高められ、ビフィズス菌や乳酸菌などの有用菌が増え、かつ酸を産生する良好な環境になると考えられる。
 鶏において肉中の遊離アミノ酸、その誘導体及び/又はα-トコフェロールを増加させる性質に関して、当該増加は、対照(該菌株を給与しないで飼育する。)と比較して増量することを意味する。増加するアミノ酸には、例えば、スレオニン、チロシン、セリン、グルタミン酸、グルタミン、タウリン、アラニン、アルギニン、メチオニン、リジン、ロイシン、イソロイシン、バリン、フェニルアラニン、ヒスチジンなどが含まれる。
 タウリンは、含硫アミノ酸の一種であり、生体内のタウリンの50~80%が筋肉に存在し、からだのホメオスタシスの維持(例えば、肝機能の維持、血中コレステロールの低下(動脈硬化の予防)、血圧の維持、正常体温の維持、水分量の維持など)に重要なはたらきをしていると言われている。飼料への飼料添加物の添加によって、浅胸筋中のタウリンが対照の約2倍以上増加する。
 その他、アミノ酸誘導体である、例えばヒドロキシプロリン、1-メチルヒスチジンなどが増加する。
 α-トコフェロールもまた、飼料へのビタミンE添加の有無にかかわらず、鶏に飼料添加物を含む飼料を給与した場合、対照に比べ、鶏肉において増加する。α-トコフェロールは、ビタミンEの成分のなかで最も強い抗酸化作用もしくは過酸化抑制を有する。このため、α-トコフェロールは、鶏肉の過酸化抑制に寄与する。
 本発明の一実施形態において、飼料添加物は、鶏に給与したとき鶏肉のにおい(臭気)を低下させる性質をさらに含む。具体的には、鶏肉のにおい成分の分析の結果、臭気成分(例えば、硫化水素、硫黄系、アミン系、有機酸系、アルデヒド系、エステル系、芳香族系、炭化水素系など)の低下傾向を示す。鶏肉の臭気は食肉の風味を損なうため、その原因となる成分ができるだけ少ない方が好ましい。
 本発明の別の実施形態において、飼料添加物は、鶏に給与したとき、鶏肉の鮮度を維持させる(例えば、鮮度の低下を抑制する)性質をさらに含む。鶏肉の鮮度は、K値(鮮度判定恒数)を測定することによって決定することが可能であり、K値が低いほど鮮度が高い。本発明の飼料添加物は、鶏肉のK値を低下させる。このような鶏肉の鮮度維持は、一部には鶏肉中のα-トコフェロール濃度が増加されることと関係している。
 本発明の別の実施形態において、飼料添加物は、鶏に給与したとき、鶏肉中の苦味雑味を高める性質を含む。苦味雑味は、苦味物質由来であり、低濃度ではコクや隠し味などに相当する。
 本発明の別の実施形態において、上記増加剤、風味改善剤、鮮度維持剤又は飼料添加物中のバチルス・ズブチルス細菌が、増加剤、風味改善剤、鮮度維持剤又は飼料添加物1gあたり1×10cfu~1×1013cfu又はそれ以上、好ましくは1×10cfu~1×1012cfuである。
 飼料添加物は、例えばカルスポリン(登録商標)であってもよい。カルスポリン1gあたり約1×1010cfuのバチルス・ズブチルスC-3102株が含まれる。カルスポリン(登録商標)(CALSPORIN;アサヒバイオサイクル社製)は、枯草菌(バチルス・ズブチルス)株であるバチルス・ズブチルスC-3102株を有効成分とする家畜用(例えば、牛、豚及び鶏)の飼料添加物であり、増体向上や飼料要求率改善等、畜肉や鶏卵の生産性の向上のために有用であり、市販されている。カルスポリンを、家畜に、適量、毎日給与すると、家畜の腸内有用菌(例えば、ビフィズス菌及び/又は乳酸菌)が増加し、腸内菌叢が最適化されることが知られている。
 バチルス・ズブチルス細菌の培養では、バチルス属細菌の培養で通常使用される炭素源、窒素源、無機物等を含む液体培地又は固体培地等を用いることができる。炭素源としては、資化可能な炭素源、例えばグルコース、フラクトース、スクロース、澱粉、糖蜜などが挙げられる。また窒素源としては、例えばペプトン、肉エキス、カゼイン水解物、硫安などを挙げることができる。更に必要に応じて無機成分として、燐酸塩、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、カルシウム、鉄、マンガン等の塩類、ビタミン類、アミノ酸類、消泡剤、界面活性剤等を添加することもできる。培養は好気的条件下で行うのが好ましく、培地の初発pHは5~9、好ましくはpH6~8、培養温度は20~50℃、好ましくは35~40℃とし、培養時間は、例えば12時間~7日である。培養後、遠心分離などの分離法によって菌体を回収することによって得ることができる。回収された菌体は、培養物、濃縮物、乾燥物、液状、粒状、粉末状、ペレット状、棒状、球状などの任意の形態としうる。
2.飼料
 本発明は、第五の態様において、上記セクション1.に記載の増加剤、風味改善剤又は鮮度維持剤を含有する飼料添加物を含む、鶏肉の風味(例えば、美味しさ)を改善する(好ましくは、鶏肉の旨味、旨味コク及び/又は苦味雑味を増強する)ための、並びに/或いは鶏肉の鮮度を維持するための、飼料を提供する。
 飼料は、鶏生産用の飼料のいずれでもよく、一般に前期用飼料及び後期用飼料があり、それぞれ飼料成分の組成が異なる。飼料成分の例は、トウモロコシ、グレインソルガム、大豆粕、コーングルテンミール、魚粉、動物性油脂、塩酸L-リジン、DL-メチオニン、L-アルギニン、第二リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、食塩、ビタミンK、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンB、ミネラル、硫酸銅、必要に応じてビタミンEなどを含み、粗タンパク質及び代謝エネルギー量はそれぞれ、前期用飼料で例えば22.0%、3.20Mcal/kgであり、後期用飼料で例えば19.0%、3.25Mcal/kgである。前期用飼料は、例えば0~20日齢の鶏に給与され、後期用飼料は、例えば21日齢~出荷までの期間、例えば21~40日齢、もしくは21~50日齢の鶏に給与される。
 本発明の飼料添加物は、鶏用飼料、例えば前期用飼料及び後期用飼料、或いは後期用飼料に添加(もしくは配合)し得る。飼料への飼料添加物の添加量は、上記セクション1.に記載された性質、少なくとも、鶏において肉中の遊離アミノ酸、その誘導体及びα-トコフェロールを増加させる性質が得られる限り限定されないが、また、飼料添加物中のバチルス・ズブチルス細菌量(例えば、飼料添加物1gあたり1×10cfu~1×1013cfu又はそれ以上、好ましくは1×10cfu~1×1012cfu)により異なるが、例えば1ppm~1000ppm又はそれ以上、10ppm~1000ppm、30ppm~500ppm、50ppm~300ppmなどの重量、場合により1000ppm~2000ppm、或いは2000ppm以上の重量で含まれてもよい。
 肉中のα-トコフェロールを増加させるためには、例えばカルスポリン(登録商標)が50ppm以上含むとき、ビタミンEの添加の有無に関わらず、望ましいα-トコフェロールの増加効果が得られ、さらにビタミンE非添加においては、α-トコフェロールが減少するため、更なる効果が期待される。一方、アミノ酸を増加させるためには、例えばカルスポリン(登録商標)が50ppm以上含むことが好ましく、100ppm以上含むことによって、さらにその効果の増強が期待される。
 飼料添加物が、例えばカルスポリン(登録商標)であるときには、カルスポリンを例えば10~1000ppm又はそれ以上、或いは50~100ppm又はそれ以上含む飼料を、例えば0日齢から出荷まで、或いは例えば15~20日齢から出荷までの期間、鶏に給与することができる。
3.飼育方法
 本発明は、第六の態様において、鶏に上記セクション2.に記載の飼料を給与して飼育することを含む、鶏肉の風味(例えば、美味しさ)を改善する及び/又は鮮度維持するための方法を提供する。
 本発明の方法は、一の実施形態において、鶏肉を食用として得ることをさらに含む。
 平飼い鶏舎内に複数の区画を設け、例えば1区画あたり約10~20羽の鶏を飼育することができる。各区画には敷料を敷き、定期的に敷料を交換する。
 上記セクション2.に記載のように鶏の前期及び後期用飼料に上記飼料添加物を配合し、初生(0日齢)~約20日齢までの期間に前期用飼料を給与し、約21日齢~出荷までの期間に後期飼料を給与してもよいし、或いは、鶏の後期用飼料に上記飼料添加物を配合し、初生(0日齢)~約20日齢までの期間に前期用飼料(上記飼料添加物を含まない)を給与し、約21日齢~出荷までの期間に後期飼料を給与してもよい。
 本発明の方法によって飼育され生産される鶏の肉は、鶏肉の風味(例えば、美味しさ、好ましくは、旨味、旨味コク、苦味雑味など)が改善され、過酸化抑制に寄与するα-トコフェロール濃度が増加し、並びに、鮮度が維持され得る。
 具体的には、上記セクション1.に記載の飼料添加物(例、カルスポリン(登録商標);カルスポリン1gあたり約1×1010cfuのバチルス・ズブチルスC-3102株を含む)を、例えば50ppm~100ppm(飼料1トンあたり50~100g)含有する飼料を給与され飼育された鶏の鶏肉では、グルタミン酸を含む多くの種類のアミノ酸類が飼料添加物の添加濃度依存的に増加し、また、鶏肉のにおい(臭気)が低下傾向を示し、味覚センサーによる鶏肉抽出液の評価では、旨味コク、旨味及び苦味雑味が増強されうる。
 さらに、飼料へのビタミンE添加の有無にかかわらず、上記セクション1.に記載の飼料添加物(例、カルスポリン(登録商標))を含む飼料を鶏に給与した場合、該飼料添加物を含まない飼料(対照)を給与した場合に比べ、鶏肉中のα-トコフェロールが増加する。
 さらにまた、屠畜後の鶏肉を3日間冷蔵保存後、冷凍し、その後解凍したときのK値(鮮度判定恒数:低いほど良い)は、上記セクション1.に記載の飼料添加物(例、カルスポリン(登録商標))の添加濃度依存的に低下する。
 本発明の方法により、多くのアミノ酸類が対照と比べて増加し、そのアミノ酸の量的な組み合わせが、鶏肉の風味(例えば、美味しさ)、例えば旨味、旨味コク及び苦味雑味の調和を引き出していると考えられる。本明細書中「旨味」は、先味のひとつで、アミノ酸、核酸などの旨味であり、また、「旨味コク」は、後味のひとつで、旨味物質が呈する持続性のあるコク味である。一般に、アミノ酸について、旨味と酸味はグルタミン酸及びアスパラギン酸に起因し、甘味はグリシン、アラニン、スレオニン、セリン、グルタミン、プロリン及びアスパラギンに起因し、苦味はトリプトファン、フェニルアラニンなどのアミノ酸に起因することが知られている(Kawai M et al.,Amino acids,43:2349-58,2012)。さらに、鶏肉中のα-トコフェロールが増加することによって抗酸化作用もしくは過酸化抑制が向上することや、鮮度が維持されることもまた、鶏肉の旨味や旨味コクなどの味もしくは美味しさによい影響を与えていると考えられる。
 本発明を、下記の実施例を参照しながら、さらに具体的に説明するが、本発明の範囲は、実施例によって制限されないものとする。
[実施例1]
<カルスポリン(登録商標)(バチルス・ズブチルスC-3102株含有)を含む飼料を鶏に給与することによる鶏肉の旨味及び旨味コクの増強>
[試験方法]
 0日齢の肉用鶏雛(オス、UK Ross;松本鶏園蔵王孵卵場(宮城、日本))を14日齢まで飼育後、3群(5羽/群)に分け、15日齢より(i)対照区(通常飼料給与)、(ii)試験区1(通常飼料+カルスポリン(登録商標;アサヒバイオサイクル社製)(50ppm)給与)、(iii)試験区2(通常飼料+カルスポリン(100ppm)給与)の異なる飼料にて40日まで各群8反復の飼育を行った。カルスポリン1g中の生菌数は1×1010CFUである。その後、放血屠畜し、屠体より浅胸筋(所謂、ムネ肉)を採取し、以下の試験に供した。
(1)遊離アミノ酸及びその誘導体の測定
(A)サンプル調製
 組織0.4gに0.5mol/lトリクロロ酢酸1mlを添加し、ビーズ破砕機を用いてホモゲナイズ(2,500rpm、15秒、冷却5セット)した。粉砕物を4℃で10,000×gで3分間遠心分離した。1.5ml容チューブに上清600μlを移動し、ヘキサン600μlを添加した後、激しく攪拌した。水層の溶液を以下の(a)、(b)用に各々150μlを採取した。(a)の場合は、0.3mol/l水酸化ナトリウム50μl及びクエン酸ナトリウム緩衝液(pH2.2)800μlを添加し、一方(b)の場合は、0.3mol/l水酸化リチウム50μl及びクエン酸リチウム緩衝液(pH2.2)800μlを添加し、攪拌した。溶液を0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、サンプルとして供試した。
(B)タンパク質構成アミノ酸分析
[分離条件]カラム:Shim-pack Amino-Na(100mml×6.0mm.I.D.)、移動相:島津アミノ酸移動相キットNa型(島津製作所、京都、日本;商品コード228-21195-94)、流量:0.4-0.6ml/分(島津推奨のグラジエンド条件使用)、温度:60℃、注入量10μlとした。
[検出条件]島津アミノ酸分析キットOPA試薬(島津製作所、商品コード228-2119593)、反応試薬流量0.2ml/分、温度:60℃、検出波長:励起350nm/蛍光450nm。
(C)ジペプチドを含む遊離アミノ酸分析
[分離条件]カラム:Shim-pack Amino-Li(100mml×6.0I.D.)、移動相:島津アミノ酸移動相キットLi型(島津製作所、商品コード228-21195-95)、流量:0.6ml/分(島津推奨のグラジエンド条件使用)、温度:39℃、注入量10μlとした。
[検出条件]島津アミノ酸分析キットOPA試薬(上と同じ)、反応試薬流量0.2ml/分、温度:39℃、検出波長:励起350nm/蛍光450nm。
(2)におい分析
 島津テクノリサーチに委託し、島津製作所製FF-2020Sシステム(FF-2020、FAS-1、FDL-1)でにおい分析を行った。
(3)味覚センサーによる鶏肉抽出液の評価
(3.1.)チキンスープの調製
 (i)対照区及び試験区1のブロイラーより浅胸筋15gを採取し、110mlの蒸留水が入った試薬瓶に入れ、10分に一度撹拌しながら沸騰湯浴中で1時間インキュベートした。
 (ii)インキュベート後、室温に戻し、ミンチスープを脱脂綿、濾紙(ADVANTEC東洋5A)の順で濾過し、分析時まで冷凍保管した。
(3.2.)味覚センサーによる評価
 (i)味覚センサーであるインテリジェントテクノロジー社製TS-5000Zによって、苦味雑味、旨味、旨味コクを評価した。苦味雑味は、苦味物質由来であり、低濃度ではコクや隠し味などに相当する。旨味は、アミノ酸、核酸などの旨味である。旨味コクは、旨味物質が呈する持続性のあるコク味である。
(4)浅胸筋中のα-トコフェロール量の測定
[サンプル調製]
 組織0.2gに、1%(w/v)塩化ナトリウム溶液を1ml添加し、ホモゲナイズした。ホモゲネート0.2mlを10ml容試験管に移し、3%(w/v)ピロガロールを含むエタノール溶液を1ml添加し混和した後、70℃で2分間加熱した。60%(w/v)水酸化カリウム溶液を0.1ml添加し、再度70℃で2分間加熱した。氷冷し、1%(w/v)塩化ナトリウム溶液を2ml、酢酸エチル/n-ヘキサン(1:9、v/v)溶液を1.5ml添加し、5分間激しく攪拌した後、室温(20~25℃)で3,000rpm、5分間遠心分離し、上層1.3mlを試験管に移動した。n-デカン/n-ヘキサン溶液(1:20、v/v)1mlを添加し、30℃のヒートブロックで窒素ガスを吹き付けながら溶媒を蒸散した。冷却後に100μlのイソプロピルアルコールを添加し、残留物を溶解した。溶解物を0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、サンプルとして供試した。
[分離・測定条件]
 カラム:Shim-pack CLC-ODS(6mm×150mm)、移動相:HPLC用メタノール、温度:40℃、注入量20μl、流量:1ml/分、検出波長:励起296nm/蛍光325nm。
(5)K値
(5.1.)サンプルの調製
 対照区及び試験区1のブロイラーより浅胸筋を以下の2つの方法で処理した。
(i)屠畜後直ちに浅胸筋冷凍した後、試験直前に解凍した。
(ii)浅胸筋を屠畜後3日間冷蔵保存した後に冷凍し、試験直前に解凍した。
(5.2.)K値の測定
[サンプル調製]
 組織0.4gに、10%(v/v)過塩素酸溶液1mlを添加し、ホモゲナイズした。4℃で4,500rpmの遠心分離を10分間行い、上清を回収した。上清に10N水酸化カリウム溶液を添加した後、pH6.8に調整し、サンプルとして供試した。
[分離・測定条件]
 カラム:STR ODS-II(150mmL×4.6mmI.D.、島津製作所)、移動相:100mMリン酸及び225mMトリメチルアンモニウムを含む緩衝液/アセトニトリル(100/1)溶液、温度:40℃、注入量10μl、流量:0.8ml/分、検出波長:260nm。
[計算]
 (ヒポキサンチン+イノシン)/(ATP+ADP+AMP+イノシン酸+イノシン+ヒポキサンチン)(%)
[結果]
(1)遊離アミノ酸及びその誘導体
 上記の対照区(カルスポリン(CS)0ppm)、試験区1(CS50ppm)、及び試験区2(CS100ppm)においてCS添加飼料が給与された鶏の浅胸筋中の遊離アミノ酸量を測定した結果を図1A、B及びCに示す。なお、グラフの各カラムは、各アミノ酸濃度の平均値(n=10~12)を示し、またエラーバーは標準誤差(SE)を示す。
 カルスポリン(CS)添加飼料が鶏に給与され飼育されたとき、鶏肉中のアミノ酸類及びその誘導体を測定した結果、図1A~Cから次のことが判った。
 (i)CS50ppm及び100ppm区において、グルタミン酸、グルタミン、タウリン、及びアラニンの量が、CS添加濃度依存的に増加し、またスレオニン、チロシン、セリン、及びアルギニンの量が増加した(図1A)。
 (ii)必須アミノ酸であるメチオニン、リジン、ロイシン、イソロイシン、バリン、フェニルアラニン、及びヒスチジンの量が、CS50ppm及び100ppm区において対照区に比べて高い値が認められた(図1B))。
 (iii)o-ホスホエタノールアミン、ヒドロキシプロリン、及び1-メチルヒスチジンの量は、CS添加濃度に応じて増加した(図1C)。
(2)におい分析結果
 におい分析の結果を図2に示した。図2に示すように、臭気指数相当値がCS(100ppm)添加区で低下した。さらに、各項目の臭気に及ぼす寄与について、硫化水素(温泉・腐った卵のようなにおい)、硫黄系(腐ったキャベツのようなにおい)、アミン系(腐った魚のようなにおい)、有機酸系(刺激的な酸っぱいにおい)、アルデヒド系(刺激的な甘酸っぱい焦げたにおい)、エステル系(接着剤のようなにおい)、芳香族系(ガソリンのようなにおい)、炭化水素系(ロウのような弱いにおい)において、CS添加区で低下し、アンモニア(し尿のようなにおい)に違いは認められなかった。
(3)味覚センサーによる鶏肉抽出液の評価
 上記の対照区、試験区1(CS50ppm)及び試験区2(CS100ppm)での浅胸筋(ムネ肉)の鶏肉スープを作製(上記)し、インテリジェントセンサーテクノロジー(神奈川、日本)の味覚センサー(商品名TS-5000Z)を用いて、鶏肉スープの味覚成分分析を行った。カルスポリン(CS)添加飼料給与後の鶏の浅胸筋抽出液の「旨味」、「旨味コク」及び「苦味雑味」について評価した結果を図3に示す。
 図3に示されるように、CS50ppm及びCS100ppmは対照区と比べて旨味、旨味コク及び苦味雑味のいずれも増強されている。
 味覚センサーでの「旨味」はアミノ酸、核酸等の旨味成分を示すため、遊離アミノ酸が増加していることの裏付けになる。「旨味コク」は、旨味物質が呈する持続性のあるコク味であり、スープやつゆに有効である。苦味雑味はコクや隠し味に相当する。
 CS添加飼料を鶏に給与することによって上記(1)に示したように、多くのアミノ酸類が対照区と比べて増加し、そのアミノ酸の量的な組み合わせが、旨味、旨味コク及び苦味雑味のバランスを引き出していると考えられる。
(4)鶏肉中のα-トコフェロール量
 カルスポリン(CS)添加飼料が鶏(ブロイラー)の浅胸筋及び腓腹筋中のα-トコフェロール濃度におよぼす影響を調べた結果を表1に示す。CS量は、0ppm(対照区)、50ppm(試験区1)及び100ppm(試験区2)であり、また、飼料に抗生物質を添加しない、かつビタミンEを添加した場合(「抗生物質非添加」)と、抗生物質及びビタミンEをともに添加しない場合(「抗生物質非添加・ビタミンE製剤非添加」)についてα-トコフェロール濃度を測定した。結果を表1に示す。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000001
 表1から、浅胸筋及び腓腹筋中のα-トコフェロール濃度は、対照区に比べてCS50ppm及びCS100ppmでともに高く、ほぼ頭打ちの傾向であった。
 α-トコフェロールは、ビタミンEの成分の一つであり、該成分のなかで最も強い抗酸化作用を有している。このため、食肉の酸化を抑制する作用(過酸化抑制)が増強され、その風味改善に寄与する。
(5)K値(鮮度判定恒数)
 カルスポリン(CS)添加飼料が鶏(ブロイラー)の浅胸筋の凍結-再溶解後のK値に及ぼす影響を調べた結果を表2に示す。CS量は、0ppm(対照区)、50ppm(試験区1)及び100ppm(試験区2)であり、浅胸筋(ムネ肉)を得て、すぐに冷凍した場合(「即冷凍」)と、3日後に冷凍した場合(「3日後に冷凍」)について、K値を測定した。K値は、低い値ほど鮮度がよい。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000002
 表2から明らかなように、CS添加飼料を供与された鶏のムネ肉は、即冷凍及び3日後に冷凍のいずれにおいても、対照区と比べてK値が低下し、鮮度の維持を示した。
(6)結果のまとめ
 鶏へのカルスポリン給与による上記実施例の結果をまとめると、以下の特徴が包含される。
 (1)鶏にカルスポリンを給与することにより、鶏肉の美味しさに関する生化学指標(例えばアミノ酸のうち,旨味と酸味にかかわるグルタミン酸、甘味にかかわるアラニン、トレオニン、セリン、高濃度では甘味と旨味にかかわるアラニン、セリン、苦味にかかわり複雑味に寄与するフェニルアラニン、チロシン、アルギニン、イソロイシン、ロイシン、バリン、メチオニン、リジン、ヒスチジン)の濃度が向上し、さらに過酸化抑制に寄与するα-トコフェロール濃度が増加し、鮮度が維持される。具体的には、カルスポリンを例えば50ppm~100ppm含有する飼料を給与された鶏肉は、グルタミン酸を含む種々のアミノ酸がカルスポリン添加濃度依存的に増加する。また、におい分析の結果、臭気指数相当値がカルスポリン給与区で低下する。味覚センサーによる鶏肉スープの評価では、旨味コク、旨味及び苦味雑味成分値が増強される。
 (2)飼料へのビタミンE添加の有無にかかわらず、カルスポリンを含む飼料を給与した場合、カルスポリンを含まない飼料を給与した場合に比べ、鶏肉中のα-トコフェロール量が増加する。
 (3)屠畜後の鶏肉を3日間冷蔵保存後、冷凍し解凍した場合のK値(鮮度判定恒数:低いほど良い)が、カルスポリンの添加濃度依存的に低下する。
 本発明により、鶏(ニワトリ)にカルスポリン(有効成分としての生菌剤:Bacillus subtilis C-3102株)を給与することにより、食肉中の遊離アミノ酸類の増加、α-トコフェロールの増加、においの低下、並びに食肉の鮮度の維持などの有用な効果が達成されるため、鶏肉の風味(例えば美味しさ)の改善、過酸化抑制の向上、及び鮮度維持を図ることができる。
 Bacillus subtilis C-3102株(国際受託番号FERM BP-1096)は、1985年12月25日に、日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1(寄託時;日本国茨城県筑波郡谷田部町東1丁目1番地3)の独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(寄託時;通商産業省工業技術院微生物工業技術研究所)に寄託番号 微工研寄第8584号として原寄託し、1986年6月28日に、同機関にて受託番号FERM BP-1096(移管時;微工研条寄第1096号)として国際寄託に移管された。この菌株は、現在、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)バイオテクノロジーセンターの特許微生物寄託センター(郵便番号292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に保存されている。
 本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。

Claims (19)

  1.  バチルス・ズブチルス(Bacillus subtilis)C-3102株(FERM BP-1096)又はその派生株、育種株もしくは変異株及び該C-3102株と同等の性質を有する他のバチルス・ズブチルス株からなる群から選択される少なくとも1つのバチルス・ズブチルス細菌を有効成分として含む、かつ、鶏に投与することを特徴とする、鶏肉内の遊離アミノ酸、その誘導体及び/又はα-トコフェロール増加剤。
  2.  前記バチルス・ズブチルス細菌が芽胞の状態である、請求項1に記載の増加剤。
  3.  前記バチルス・ズブチルス細菌が、増加剤1gあたり1×10cfu~1×1013cfu、又はそれ以上である、請求項1又は2に記載の増加剤。
  4.  バチルス・ズブチルス(Bacillus subtilis)C-3102株(FERM BP-1096)又はその派生株、育種株もしくは変異株及び該C-3102株と同等の性質を有する他のバチルス・ズブチルス株からなる群から選択される少なくとも1つのバチルス・ズブチルス細菌を有効成分として含む、かつ、鶏に投与することを特徴とする、鶏肉の風味改善剤。
  5.  鶏肉の風味が美味しさであることを特徴とする、請求項4に記載の鶏肉の風味改善剤。
  6.  鶏肉の風味改善が旨味及び旨味コク又は苦味雑味成分を増強することである、請求項4又は5に記載の鶏肉の風味改善剤。
  7.  鶏肉の風味改善が、鶏肉中の遊離アミノ酸の増加である、請求項4~6のいずれか1項に記載の鶏肉の風味改善剤。
  8.  前記バチルス・ズブチルス細菌が芽胞の状態である、請求項4~7のいずれか1項に記載の鶏肉の風味改善剤。
  9.  前記バチルス・ズブチルス細菌が、風味改善剤1gあたり1×10cfu~1×1013cfu、又はそれ以上である、請求項4~8のいずれか1項に記載の鶏肉の風味改善剤。
  10.  バチルス・ズブチルス(Bacillus subtilis)C-3102株(FERM BP-1096)又はその派生株、育種株もしくは変異株及び該C-3102株と同等の性質を有する他のバチルス・ズブチルス株からなる群から選択される少なくとも1つのバチルス・ズブチルス細菌を有効成分として含む、かつ、鶏に投与することを含む、鶏肉の鮮度維持剤。
  11.  鶏肉の鮮度維持が、鶏肉中のα-トコフェロール濃度を増強することである、請求項10に記載の鶏肉の鮮度維持剤。
  12.  鶏肉の鮮度維持が、冷凍後解凍したときのK値(鮮度判定恒数)を低下させることである、請求項10又は11に記載の鶏肉の鮮度維持剤。
  13.  前記バチルス・ズブチルス細菌が芽胞の状態である、請求項10~12のいずれか1項に記載の鶏肉の鮮度維持剤。
  14.  前記バチルス・ズブチルス細菌が、鮮度維持剤1gあたり1×10cfu~1×1013cfu、又はそれ以上である、請求項10~13のいずれか1項に記載の鶏肉の鮮度維持剤。
  15.  請求項1~14のいずれか1項に記載の増加剤、風味改善剤又は鮮度維持剤を含む、鶏肉の風味を改善する及び/又は鮮度を維持するための飼料添加物。
  16.  請求項15に記載の飼料添加物が1ppm~1000ppm、又はそれ以上の重量で含まれる、鶏肉の風味を改善する及び/又は鮮度を維持するための飼料。
  17.  前期用飼料又は後期用飼料である、請求項16に記載の飼料。
  18.  鶏に請求項16又は17に記載の飼料を給与して飼育することを含む、鶏肉の風味を改善する及び/又は鮮度を維持するための方法。
  19.  鶏肉を食用として得ることをさらに含む、請求項18に記載の方法。
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