図1は電解質分析装置の全体概略図である。電解質分析装置は装置単体に限られず、自動分析装置に搭載されるものであってもよい。自動分析装置としては、例えば生化学自動分析装置、免疫自動分析装置などがある。あるいは、臨床検査に用いる質量分析装置や血液の凝固時間を測定する凝固分析装置、または、これらと生化学自動分析装置、免疫自動分析装置との複合システム、さらにこれらを応用した自動分析システムに搭載されるものであってもよい。
図1に示した電解質分析装置は、イオン選択電極(以下、ISE電極(Ion Selective Electrode))を用いたフロー型電解質分析装置である。図1には、電解質分析装置の主要な機構として、サンプル分注部、ISE電極部、試薬部、機構部、廃液機構の5つの機構、及びこれらを制御するとともに、測定結果より電解質濃度の演算、表示を行う制御装置を示している。
サンプル分注部はサンプルプローブ14を含む。サンプルプローブ14によって、サンプル容器15内に保持された患者検体などのサンプルを分注し、分析装置内に引き込む。ここで、検体とは患者の生体から採取される分析対象の総称であり、例えば血液や尿などである。これらに対して所定の前処理を行った分析対象も検体と呼ばれる。
ISE電極部は、希釈槽11、シッパノズル13、希釈液ノズル24、内部標準液ノズル25、ISE電極1、比較電極2、ピンチ弁23、電圧計27、アンプ28を含む。サンプル分注部にて分注されたサンプルは、希釈槽11に吐出され、希釈液ノズル24から希釈槽11内へ吐出される希釈液で希釈・撹拌される。シッパノズル13はISE電極1に流路によって接続され、希釈槽11から吸引された希釈されたサンプル溶液は当該流路によってISE電極1へ送液される。一方、比較電極液ボトル5に収容された比較電極液は、ピンチ弁23が閉鎖した状態でシッパシリンジ10を動作させることで、比較電極2へ送液される。ISE電極流路に送液された希釈されたサンプル溶液と比較電極流路に送液された比較電極液とが接液することで、ISE電極1と比較電極2とが電気的に導通する。ISE電極部は、ISE電極1と比較電極2との間の電位差によって、サンプルに含まれる特定の電解質の濃度を測定する。
具体的には、ISE電極1にはサンプル溶液中の特定のイオン(例えば、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、クロールイオン(Cl-)など)の濃度に応じて起電力が変化する性質を持つイオン感応膜が貼り付けられており、ISE電極1はサンプル溶液中の各イオン濃度に応じた起電力を出力し、電圧計27及びアンプ28により、ISE電極1と比較電極2との間の起電力を取得する。制御装置29では、各イオンにつき、取得した起電力から検体中のイオン濃度を演算し、表示する。希釈槽11に残ったサンプル溶液は廃液機構により排出される。
なお、ISE電極1と比較電極2との間の電位差は温度変化等の影響を受ける。このような温度変化等の影響による電位変動を補正するため、一つのサンプル測定後、次のサンプル測定までの間に、内部標準液ノズル25より希釈槽11内へ内部標準液を吐出し、上述のサンプルの場合と同様に(ただし、内部標準液に対する希釈は行わない)測定を行う。サンプル測定間に実施される内部標準液測定結果を利用して、変動量に応じた補正を行うことが好ましい。
試薬部は、試薬容器から試薬を吸引する吸引ノズル6、脱ガス機構7、フィルタ16を含み、測定に必要な試薬を供給する。電解質測定を行う場合には、試薬として内部標準液、希釈液、比較電極液の3種の試薬が使用され、内部標準液を収容する内部標準液ボトル3、希釈液を収容する希釈液ボトル4、比較電極液を収容する比較電極液ボトル5が試薬部にセットされる。図1はこの状態を示している。また、装置の洗浄を行う場合には、試薬部に、洗浄液を格納する洗浄液ボトルがセットされる。
内部標準液ボトル3および希釈液ボトル4はそれぞれフィルタ16を介して流路を通じて内部標準液ノズル25、希釈液ノズル24に接続され、各ノズルは希釈槽11内に先端を導入した形状で設置されている。また、比較電極液ボトル5はフィルタ16を介して流路を通じて比較電極2に接続されている。希釈液ボトル4と希釈槽11との間の流路、および比較電極液ボトル5と比較電極2との間の流路には、それぞれ脱ガス機構7が接続されており、希釈槽11内および比較電極2内へは脱ガスした試薬が供給される。これは、シリンジにより流路を陰圧にしてボトルから試薬を吸い上げるため、試薬中に溶け込んでいたガスが試薬内に気泡として表れる。試薬に気泡が入ったまま希釈槽11や比較電極2に供給されないように脱ガス機構が設けられているものである。
機構部は、内部標準液シリンジ8、希釈液シリンジ9、シッパシリンジ10、電磁弁17,18,19,20,21,22,30、プレヒート12を含み、各機構内または各機構間の送液等の動作を担う。例えば、内部標準液および希釈液は、それぞれ内部標準液シリンジ8および希釈液シリンジ9と、流路に設けられた電磁弁の動作により希釈槽11へ送液される。プレヒート12は、ISE電極1へ至る内部標準液および希釈液の温度を一定範囲内に制御することで、ISE電極1への温度の影響を抑制している。
廃液機構は、第1の廃液ノズル26、第2の廃液ノズル36、真空ビン34、廃液受け35、真空ポンプ33、電磁弁31,32を含み、希釈槽11に残ったサンプル溶液やISE電極部の流路に残った反応液を排出する。
図1に示した電解質測定装置による電解質濃度測定動作を説明する。測定動作は、制御装置29により制御される。
まず、サンプル分注部のサンプルプローブ14によりサンプル容器15から分注したサンプルを、ISE電極部の希釈槽11に吐出する。希釈槽11にサンプルが分注された後、希釈液ノズル24から、希釈液シリンジ9の動作によって希釈液ボトル4より希釈液を吐出し、サンプルを希釈する。前述の通り、流路内の希釈液の温度や圧力変化により気泡が発生することを防ぐため、希釈液流路の途中に取り付けられた脱ガス機構7で脱ガス処理が行われている。希釈されたサンプル溶液は、シッパシリンジ10や電磁弁22の動作によりISE電極1へ吸引される。
一方、ピンチ弁23とシッパシリンジ10により、比較電極2内へ比較電極液ボトル5より比較電極液が送液される。比較電極液は例えば、所定濃度の塩化カリウム(KCl)水溶液であり、サンプル溶液と比較電極液とが接することで、ISE電極1と比較電極2とが電気的に導通する。なお、比較電極液の電解質濃度はサンプル送液している間の濃度変動の影響を抑制するため、高濃度であることが望ましいが、飽和濃度付近では結晶化し流路詰まりの原因となる可能性があるため、0.5mmol/Lから3.0mmol/Lの間であることが望ましい。比較電極電位を基準としたISE電極電位を電圧計27とアンプ28を用いて計測する。
また、サンプル測定の前後に試薬部にセットされた内部標準液ボトル3の内部標準液を内部標準液シリンジ8により希釈槽11へ吐出し、サンプル測定と同様に内部標準液の電解質濃度測定を行う。
サンプル溶液について計測されたISE電極電位を用いて制御装置29にて演算を行い、サンプル中の電解質濃度を算出する。このとき、内部標準液について計測されたISE電極電位に基づき較正することで、より正確な電解質濃度の測定が行える。
制御装置は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、記憶装置、I/Oポートを備えたコンピュータとして構成でき、RAM、記憶装置、I/Oポートは、内部バスを介して、CPUとデータ交換可能なように構成される。I/Oポートは、上述した各機構に接続され、それらの動作を制御する。動作制御は記憶装置に記憶されたプログラムをRAMに読み込み、CPUが実行することにより行われる。また、制御装置29には入出力装置が接続され、ユーザからの入力や測定結果の表示が可能とされる。
次に本実施例の電解質分析装置の試薬容器設置部について説明する。図2に電解質分析装置の外観(模式図)を示す。内部標準液ボトル3、希釈液ボトル4、比較電極液ボトル5がセットされる試薬容器設置部502は、装置の筐体500に対して、開口部503より、レール501を用いて引き出し可能とされている。開口部503は通常は図示しない扉により閉鎖され、試薬容器交換作業時には扉を開いて試薬容器交換を行う。試薬容器交換作業時には、図2(右図)に示すように、試薬容器設置部502ごと筐体500の外に引き出すことにより、ユーザが試薬容器を交換することを容易にしている。試薬容器交換作業後は、再度、試薬容器設置部502を筐体500内に格納する(図2(左図))。
図3に、試薬容器交換作業時の試薬容器設置部の状態を示す。(a)試薬容器設置部502格納時、(b)試薬容器設置部502引出時、(c)試薬容器交換時であり、いずれの場合も、筐体500側面からの透視図として示している。以下に、試薬容器設置部502の構成例を説明する。
図4に、試薬容器設置部502の第1の構成例を示す。図では試薬容器設置部502の吸引ノズル6が試薬容器101内に挿入されている状態での断面図(模式図)を示している。試薬容器設置部502において、基板205上に試薬容器架台204が設けられている。基板205は、試薬容器101が載置されるとともに、図示しないレール501と結合されることにより、試薬容器設置部502は装置の筐体内外へ出し入れ可能とされる。また、吸引ノズル6はハンドル202、及び試薬容器架台204から昇降可能なノズル支持部203に結合されている。また、試薬容器設置部502には電源装置303が接続されており、後述するように、その動作に電力を必要とするロック解除機構302、RFIDリーダライタ103、容器検知器104に電力を供給する。電源装置303は、分析装置に電源が投入されているときには試薬容器設置部502に電力を供給し、分析装置の電源が遮断されているときには試薬容器設置部502への電力供給は行えない。図では、ノズル支持部203が試薬容器架台204に収容された状態を示している。
図5Aに、ノズル支持部203がロック機構301によりロックされた状態を示す。ユーザにより試薬容器101の交換がなされるとき、ユーザはハンドル202を手動で引き上げることで、吸引ノズル6に触れることなく試薬容器101から吸引ノズル6を離脱させることができる。ノズル支持部203が上限点まで持上げられると、ロック機構301により、ノズル支持部203は図5Aに示すような位置で保持される。この位置を試薬容器交換位置という。これにより、ユーザはハンドル202を手放して試薬容器101の交換作業が可能になる。
吸引ノズル6は、ユーザがハンドル202を引き上げた際に、試薬容器101の載置位置に対してノズル先端位置がずれないように固定された、金属製のパイプで構成することが望ましい。これにより、吸引ノズル6を柔軟な樹脂製のパイプとした場合に想定される、作業に伴う吸引ノズル先端6aの振れにより試薬が周囲に飛散することを防止することができる。一方、吸引ノズル6のハンドル側の端部6bは図示しない配管と接続され、吸引ノズル6を装置の流路に接続する。吸引ノズル端部6bに接続される配管は柔軟な樹脂製のパイプとすることで、試薬容器設置部502の筐体への出し入れや、ノズル支持部203の昇降を容易にすることができる。
また、ノズル支持部203がロック機構301によりロックされた状態において、吸引ノズル先端6aと試薬容器101の試薬吸引口110との間に所定の距離εを有するようにすることが望ましい。これにより、ユーザは試薬容器101の交換にあたって試薬容器101と吸引ノズル先端6aとをぶつけたり、試薬容器を傾けて試薬容器設置部に載置したりしなくて済むことから、交換時における試薬容器101からの試薬のこぼれや、吸引ノズル先端6aからの試薬の飛散などの発生リスクを抑制することができる。
図5Bに、図5Aに示す状態から、ノズル支持部203がロック解除機構302によりロック解除された状態を示す。ロック機構301は、電源装置303からロック解除機構302に電源が供給された状態で、ロック解除機構302により、制御装置29の制御にしたがってロック解除が実行される。このとき、ユーザがハンドル202を把持していなくとも、ゆっくりと吸引ノズル6及びノズル支持部203が下降するように、ノズル支持部203にはダンパ機構が設けられていることが望ましい。本例では、ノズル支持部203が下降しきった状態で停止し、その位置を試薬吸引位置という。
図6はロック機構301とロック解除機構302の構成例を示す図である。ロック機構301は固定側ベース601と可動側ベース602とを有し、固定側ベース601と可動側ベース602との間には、ばね604が設けられている。また、可動側ベース602のばね604が設けられた面と対向する面にはベアリング603が接続されている。ロック解除機構302はソレノイド611を有し、ソレノイド611は可動側ベース602に接続されている。
(a)平常時の試薬容器設置部502は図4の状態である。平常時では、ソレノイド611はオフとされ、ベアリング603はノズル支持部203のガイド部203aに接している。このとき、ばね604が圧縮されることにより、ばね604の弾性力によりベアリング603はガイド部203aに押し付けられている。
(b)ロック時の試薬容器設置部502は図5Aの状態である。ロック時においてもソレノイド611はオフとされている。方向621にノズル支持部203が持ち上げられることにより、ベアリング603はノズル支持部203に設けられたロック用凹部203bと嵌合される。これにより、ノズル支持部203はユーザがハンドルから手を離しても下降しないよう、ロックされる。このとき、ばね604の長さは自然長近傍の長さとなる。
このように、装置に電源が投入されている、いないにかかわらず、ばねの弾性力を用いることにより、ノズル支持部203を持ち上げて吸引ノズル6を試薬容器101から引き出し、その状態でロックすることが可能になる。なお、ばねに限らず弾性体を用いることができ、またその作動に電力を必要としない限りにおいて、他の機械的な作用によりノズル支持部203をロックするようにしてもよい。
(c)ロック解除時の試薬容器設置部502は図5Bの状態である。ソレノイド611がオンとされ、ベアリング603及び可動側ベース602を方向622にひきつける。これにより、ベアリング603がロック用凹部203bから引き抜かれ、方向623にノズル支持部203は下降する。所定時間後にソレノイド611がオフとされ、ベアリング603はノズル支持部203のガイド部203aに接するようになる。ノズル支持部203が下降しきったところで、平常時の状態に戻る。
ソレノイド611を動作させるためには、ソレノイド611に電力が供給され、制御装置29よりソレノイド611をオンする制御がなされる必要がある。これにより、ノズル支持部203のロックを解除し、吸引ノズル6を試薬容器に挿入するには、装置の電源が供給されていなければならないことになる。なお、ロック解除動作が制御装置29により制御される限りにおいて、ロック解除機構302は別の作用によりノズル支持部203のロックを解除するようにしてもよい。例えば、ばねの弾性力に勝る空圧によりロックを解除するようにしてもよい。
さらに、試薬容器101には試薬の種別、残液量、有効期限、ロット番号などの試薬に関する情報が格納されたRFIDタグ102が付されている(図4参照)。RFIDタグ102と情報をやり取りするため、試薬容器架台204には、試薬容器101が載置された状態で、対向する位置にRFIDリーダライタ103が設けられている。また、試薬容器101が試薬容器載置位置に試薬容器が置かれたことを検出する容器検知器104が設けられている。容器検知器104は例えば、赤外光を発射する光源と赤外光を検出する光検出器とを有する。試薬容器101からの反射光の有無を光検出器が検出することにより、試薬容器101の有無を判定する。なお、RFIDタグとRFIDリーダライタは一例であり、収容する試薬に関する情報を記憶する情報記憶媒体が試薬容器に貼付され、試薬容器設置部に設置された情報読取り器により、当該情報記憶媒体に記憶された、収容する試薬に関する情報を読み出すことができればよい。
次に、試薬容器の交換フローについて説明する。上述の通り、本実施例の試薬容器設置部502では、装置電源の投入の有無にかかわらず、元の試薬容器を取り外し、新しい試薬容器を設置できる一方、装置電源が投入された状態でのみ吸引ノズルを新しい試薬容器に挿入することができる。図7Aとして装置電源投入状態での試薬容器交換フロー例を、図7Bとして装置電源遮断状態での試薬容器交換フロー例を示す。
まず、装置電源投入状態での試薬容器交換フロー(図7A)について説明する。上述したように、ユーザはハンドル202を把持してノズル支持部203を持ち上げ(S702)、ノズル支持部203がロックされた状態で(S703)、試薬容器101を取り外す(S704)。これにより、容器検知器104による試薬容器検知はオフとなる(S705)。ユーザにより改めて試薬容器設置部502に新しい試薬容器101が載置される(S706)と、容器検知器104は新しい試薬容器101を検出する(S707)。RFIDリーダライタ103は、容器検知器104による試薬容器の検出をトリガとして、試薬容器101のRFID情報の読み取りを開始する。制御装置29は、RFID情報から試薬容器に収容される試薬が正常かどうかを判定する(S708)。具体的な判定内容としては、例えば、試薬の種別が本来その載置場所に置かれるべき試薬であるかどうか、残液量が十分か、試薬の有効期限を経過していないか、といったことが挙げられる。RFID情報が正常であった場合は、制御装置29は、読み取ったRFID情報を登録し(S709)、ロック解除機構302によるロック機構301の解除動作を行う(S710)。ノズル支持部203はロックが解除されると自動で下降し、吸引ノズル6は試薬容器101内の所定の吸引位置へ移動する。一方、RFID情報が正常でない場合には、その旨を制御装置29の表示部に表示するようにする。これによって、ユーザは吸引ノズル6を誤った試薬に接液させる前に、正しい試薬容器に取り換えることができる(S704~S706)。このように、吸引ノズル6は正常な試薬に対してのみ接液するため、ユーザの試薬容器の置き間違い等によるコンタミネーションを防止することができる。
次に、装置電源遮断状態での試薬容器交換フロー(図7B)について説明する。図7Aの交換フローと同じ内容のステップについては同じ符号を付して示している。ユーザはハンドル202を把持してノズル支持部203を持ち上げ(S702)、ノズル支持部203がロックされた状態で(S703)、試薬容器101を交換する(S704,706)。上述したように本実施例のロック機構301は電源供給なしに、機械仕掛けでノズル支持部203をロックすることができる。ユーザにより装置電源が投入される(S721)と、装置は初期化処理の一つとして試薬容器設置部502の容器検知器104の状態を確認し(S722)、容器検知器104が試薬容器101を検出した場合は、その検出をトリガとしてRFID情報の確認を行う(S708)。RFID情報が正常であった場合には、制御装置29は、読み取ったRFID情報を登録し(S709)、ロック解除機構302によるロック機構301の解除動作を行う(S710)。一方、試薬容器が検知されない、またはRFID情報が正常でない場合には、交換未成立として(S724)、その旨を制御装置29の表示部に表示するようにする。この場合は、既に装置電源が投入されているので、図7AのステップS704またはS705に移行し、試薬の交換処理を実行する。交換が正常に終了すれば(S723)、制御装置29は、必要であればその後、流路内の液置換動作や分析準備動作などを自動で実行する。
一般的に電解質分析装置では電源投入後の初期処理において、流路内への送液動作や装置状態チェック動作、洗浄動作などが自動で実行されて、分析動作へ短時間で遷移できるような機能を有している。しかし初期処理後に試薬残量が十分でないと認識し、試薬容器交換を行うと再度流路内の液置換動作などが必要となり、分析開始までの時間を要する結果となる。本実施例によれば、ユーザは装置電源遮断時においても試薬同士のコンタミネーション防止効果を維持したまま試薬交換作業を実施することができ、電源投入後に追加の作業を行うことなく装置を使用することができる。
さらに、試薬容器101が透明ないしは半透明のような素材からなる容器であり、試薬容器設置部502がユーザから容易に視認できる構成であれば、ユーザは装置電源を投入する前に、試薬残量を目視にて確認することができ、必要に応じて試薬交換をあらかじめ実施することができて便利である。
図8に、試薬容器設置部502の第2の構成例を示す。第2の構成例における第1の構成例との主要な相違点は、ノズル支持部203に2つの吸引ノズル6-1,2が結合されており、ユーザによりハンドル202が持ち上げられることにより、2つの吸引ノズル6-1,2が同時に持ち上げられるようになっている点である。図8では省略されているが、図4に示した容器検知器104やRFIDリーダライタ103は試薬容器101-1,2それぞれに対応して備えられている。試薬容器交換フローも図7A、Bに示したものと同様であり、ユーザにより一つ以上の試薬容器が交換され、全ての試薬容器のRFID情報が正常である場合に、ロック解除機構302によりノズル支持部203のロックが解除されることで、吸引ノズル6-1,2はそれぞれ試薬容器101-1,2内の所定の吸引位置へ移動する。図8では、2つの試薬容器に関する例を挙げているが、3つ以上であってもよい。
本構成によればユーザは一度のノズル支持部203の昇降動作で、必要な分の試薬容器交換作業を同時に行うことができ、交換作業の効率を高めることができる。なお、試薬容器設置部502において同じ試薬の試薬容器を複数格納し、一つの試薬容器の試薬残量が少なくなった場合に切換え使用可能な分析装置においては、ロック解除条件として、全ての位置に正常な試薬が載置されていなくとも、分析に必要な試薬が少なくとも1つずつ、正常に載置されていることを条件としてもよい。必要な試薬が正しく載置され、異常な試薬が載置されていないことをロック解除条件とすることにより、吸引ノズル6が不適切な試薬に接液することを防ぐことができる。
図8のように、試薬容器設置部502に複数の試薬容器を並べて配置する構成は、試薬容器設置部をコンパクトに構成でき、実施例2として説明したように交換作業の効率を高めることができる。図1に示したように、電解質分析装置の場合、内部標準液、希釈液、比較電極液の3つの試薬を用いるため、実施例3として、この3つの試薬容器を載置する試薬容器設置部502の構成を検討する。試薬容器の交換は人手で行うため、交換作業中に吸引ノズルからの試薬飛び散りや試薬容器の吸引口からの液こぼれ等により、コンタミネーションが発生するリスクをゼロにはできない。特に複数の試薬容器を近接して並べて載置すると、ユーザの作業ミスがコンタミネーションを引き起こしやすくなる。しかしながら、電解質分析装置の試薬の場合、内部標準液、希釈液の場合には多少の試薬の飛び散りが生じても、その影響は無視できる場合がほとんどである。これに対して、比較電極液は、内部標準液、希釈液に比べて高濃度にイオンを含有しているため、より厳しくコンタミネーションのリスクを管理する必要がある。
図9A,Bは、3つの試薬容器を載置する試薬容器設置部502の構成例(第3の構成例)であり、特に比較的低濃度である2つの試薬と比較的高濃度である1つの試薬を用いる電解質分析装置に適した構成である。図9Aは平面図であり、図9Bは図9Aに示した矢印方向からの側面図である。なお、図9Aにおいてはハンドル202の表示を省略している。
本構成は、比較的低濃度である希釈液、標準液と、比較的高濃度である比較電極液との3種の試薬容器をコンタミネーションのリスクが低くなるように載置可能とする。具体的には、並置する試薬容器101-1、101-2として希釈液ボトル、内部標準液ボトルを載置し、試薬容器架台204によりこれらと隔離された位置に、試薬容器101-3として比較電極液ボトルを載置する。したがって、3つの試薬容器を図9A,Bに示す試薬容器設置部に載置したとき、希釈液ボトルの試薬吸引口110または内部標準液ボトルの試薬吸引口110と比較電極液ボトルの試薬吸引口110との間には試薬容器架台204が介在することになる。また、ハンドル202を引き上げた状態は図5Aと同様の状態であり、ノズル支持部203をロックした状態において、希釈液用吸引ノズル6の先端または内部標準液用吸引ノズル6の先端と、比較電極液用吸引ノズル6の先端との間には試薬容器架台204が介在することになる。これにより、交換作業中に比較電極液用吸引ノズル6-3の先端からの試薬飛び散りや試薬容器(比較電極液ボトル)101-3の試薬吸引口からの液こぼれ等が発生した場合でも、試薬容器架台204が隔壁の役割を果たし、比較電極液ボトルから他の試薬容器への混入リスクを低く抑えることができる。さらに、ノズル支持部203が図8に示すような板状であれば、ノズル支持部203が引き上げられた状態で試薬容器の交換が行われるため、ノズル支持部203もまた、隔壁の役割を果たすことができる。
加えて、比較電極液のみ試薬容器の設置方向が変えられていることによる付随的な効果として、例えばユーザが3種の試薬容器の全てを交換する場合、隣り合って載置される希釈液ボトル及び標準液ボトルについては、両手でそれぞれをもって同時に取外すことが容易に可能である。このようにコンタミネーションリスクの低いこれらの試薬については効率的な作業が行える。一方でコンタミネーションリスクの高い比較電極液ボトルについては、この試薬容器だけを単一で交換するように促す配置となっている。コンタミネーションリスクの高い試薬容器の交換タイミングを他の試薬容器の交換タイミングとずらすことにより、試薬容器交換中の試薬飛び散りによるコンタミネーションのリスクを低減することができる。
また、試薬容器101の形状は上面が長方形の直方体形状とみなすことができ(試薬容器に面取りや凹凸を設けることは妨げない)、その試薬吸引口110は上面の中心位置よりも短辺側に寄った位置に配置されている。これにより、図8や図9Aに示されるように試薬容器を長手方向に並べた場合でもノズル支持部203から試薬吸引口110までの距離を短く保つことができる。また、試薬吸引口110が端部(短辺側)に寄っていることを利用し、ユーザが試薬容器を保持しやすくするために、容器上面の空いたスペースに試薬容器の持ち手を設けることも望ましい。
また、図9A,Bに示す試薬容器設置部においては、複数並置する試薬容器101-1,2の向きと、これらと試薬容器架台204を隔てて載置される試薬容器101-3との向きを変えて載置するようにしている。すなわち、試薬容器101-1,2はその上面の短辺がそれぞれ試薬容器架台の所定の一面に対向するように設置され、試薬容器101-3はその上面の長辺が試薬容器架台の所定の一面の裏面に対向するように載置されている。これにより、全体として試薬容器設置部をコンパクトにでき、また、図9Aに示すようにノズル支持部203の中心から同等の距離に、各試薬容器101-1~3の試薬吸引口110-1~3を配置することができる。この場合、例えば3つの試薬容器を同一方向に並置するような配置レイアウトに比べ、各試薬の吸引ノズルの長さ(試薬容器に挿入される吸引ノズルの先端と、流路を構成する配管に接続される吸引ノズルの端部との間の長さ)を揃えることができる効果や、吸引ノズル6に接続される可動(可撓)流路部を一箇所に集約することができる効果が得られる。
図9A,Bの構成においても、図8の構成と同様に、ロック解除条件については、すべての必要な試薬が揃った場合において初めてロック解除を実施するように制御することが望ましい。例えば、試薬容器設置部における試薬容器の載置位置付近にLED表示灯のようなものを設け、交換が必要な試薬容器のLEDの点灯/点滅/消灯により、ユーザに通知するようにしてもよい。
ところで、試薬容器に収容可能な試薬の量が多いほど試薬容器の交換回数を減らすことができ、効率的である。このため、試薬容器の高さは試薬容器設置部502、筐体500の開口部503の高さにあわせてできるだけ高くすることが望ましい(図3参照)。あるいは、試薬容器の高さに応じて試薬容器設置部502、筐体500の開口部503の高さをできるだけ低くすることが装置をコンパクトにするために望ましい。ここで、試薬容器設置部502において、ノズル支持部203がロックされた状態が図5Aの状態であり、試薬容器101の高さが図5Aの状態よりもさらに高いとすると、試薬容器交換時に、試薬容器101と吸引ノズル先端6aとが接触しやすくなったり、さらには試薬容器101を傾けて載置位置に載置しなければならなくなったりして、コンタミネーションリスクが高まる。このような課題に対応する試薬容器設置部502の第4の構成例(鳥瞰図)を図10に示す。図10ではノズル支持部(801,811)を試薬容器架台204より引き出してロックした状態を示している。
図10に示す試薬容器設置部502では、試薬容器101を基板205に載せたときに試薬吸引口110の上端が試薬容器架台204の上端よりもわずかに低い程度の高さとなっている。すなわち、試薬容器設置部502の容積に許容される、できるだけ大容量の試薬容器を置くことを想定している。このような場合にでも、吸引ノズル先端6aと試薬容器101の試薬吸引口110の上端との間に所定の距離εを持たせる(図5A参照)ことができるよう、図10の構成においてはノズル支持部203を複数段の支柱801,811を含んで構成する。加えて、ノズル支持部203がロック機構301によりロックされた状態において、吸引ノズル先端6aの位置が試薬容器架台204の上端近傍あるいは上端以上に位置する場合、吸引ノズル先端6aの振れによりコンタミネーションが発生するおそれがある。このため、ノズル支持部203の複数段(図では2段)の支柱のうち、下段の支柱811を板状とし、コンタミネーションの発生を抑止する遮蔽板の機能をもたせる。図10に示すように、ノズル支持部203がロックされた状態において、吸引ノズル先端6a-1と吸引ノズル先端6a-3とを結ぶ第1の線、及び吸引ノズル先端6a-2と吸引ノズル先端6a-3とを結ぶ第2の線はいずれも下段の支柱(遮蔽板)811により遮られる状態になっている。これにより、試薬容器交換作業中に比較電極液用吸引ノズル6-3からの試薬飛び散りや試薬容器(比較電極液ボトル)101-3の試薬吸引口からの液こぼれ等が発生した場合でも、試薬容器架台204に加え、下段の支柱(遮蔽板)811が隔壁の役割を果たし、比較電極液ボトルから他の試薬容器への比較電極液の混入リスクを低く抑えることができる。
また、吸引ノズル端部6b-1~3はいずれもハンドル202の中心付近に来るように設置され、それぞれの流路を構成する柔軟な樹脂製のパイプが接続される。
図11に図10の試薬容器設置部502に適用されるノズル支持部203の構成例を示す。図は、(a)平常時と(b)ロック時とを示している。ノズル支持部203は、上段の第1の支柱801と下段の第2の支柱(以下、遮蔽板と称する)811とを有する。遮蔽板811には、その上側にダンパ機能付きプーリ814が、その下側にプーリ815が設けられ、両者の間にはベルト816が掛けられている。ベルト816に対して、第1のベルト保持部813aにより第1の支柱801が、第2のベルト保持部813bにより試薬容器架台204が接続されることにより、連動して第1の支柱801及び遮蔽板811が引き上げられる。なお、第1のベルト保持部813aは第1のリニアガイド812aに係合され、第2のベルト保持部813bは第2のリニアガイド812bに係合されることにより、ノズル支持部203の昇降動作が安定して行えるようになっている。また、ダンパ機能付きプーリ814のダンパ機能に関しては、下降させる場合のみトルクが発生する機能とすることが望ましい。これにより手動による上昇動作時にはユーザの負荷を減らすことができる。
このようにノズル支持部を構成することにより、平常時の試薬容器設置部502の高さhよりも、ノズル支持部203の移動ストロークHを大きくすることができる。このように、試薬容器設置部502の高さが試薬容器相当であっても、吸引ノズル先端を十分に試薬容器から離脱させることが可能となり、さらに少なくとも下段の支柱に遮蔽板の機能を持たせることにより、コンタミネーションの発生を抑止することが可能になる。