WO2019088081A1

WO2019088081A1 - 新規な菌株、ならびにこの菌株を用いた飼料添加剤、飼料、製造方法、および飼育方法

Info

Publication number: WO2019088081A1
Application number: PCT/JP2018/040277
Authority: WO
Inventors: 智子下川; 稔前田
Original assignee: 株式会社九州メディカル
Priority date: 2017-11-01
Filing date: 2018-10-30
Publication date: 2019-05-09

Abstract

バチルス・コアギュランスＫＭ－Ｄ３３７２株（受託番号：ＮＩＴＥ　ＢＰ－０２５５９）、ならびにこの菌株を用いることを特徴とする、畜産物の生産性の改善に有用な、飼料添加剤、飼料、製造方法、および飼育方法を提供する。

Description

新規な菌株、ならびにこの菌株を用いた飼料添加剤、飼料、製造方法、および飼育方法

　本発明は、新規な菌株、ならびにこの菌株を用いた飼料添加剤、飼料、製造方法、および飼育方法に関する。

　近年、畜産業における経営環境は厳しく、畜産物の生産性の改善が強く求められている。家畜の飼育にかかる経費には、様々な費用があるが、その中でも飼料にかかる費用が大きな割合を占めている。
　家畜に給与される飼料には、植物の葉や茎を主原料とする粗飼料とトウモロコシ等の穀物を主原料とする配合飼料がある。食肉や卵等の畜産物を効率的に生産するためには、安定した量の栄養素の供給が必要である。これには、通常、家畜が好んで摂取し、栄養価が高い配合飼料が継続的に用いられる。特に、食肉を生産する場合には、より短い期間で、家畜の成長を促進できる飼料が求められている。
　しかしながら、近年、配合飼料の主原料となる穀物の価格は上昇傾向にあり、配合飼料の価格も上昇している。その結果、経費における飼料費の割合が、さらに大きくなり、畜産物の生産性が低下している。

　このような状況下、家畜による飼料の摂取量を増加させて、その成長を促進する方法が提案されている（特許文献１）。
　特許文献１の実施例１には、市販の子豚人工乳前期用飼料中の小麦粉の一部を米の無洗化処理工程において排出される副産物（いわゆる、研ぎ汁固形分）で代替することにより、飼料の嗜好性を改善したことが記載されている。
　また、特許文献１の実施例２には、実施例１と同様の飼料により、離乳子豚による飼料摂取量とその体重を増加できたことが記載されている。

　畜産物の生産性を向上させる他の方法として、家畜の飼育密度を上げる方法（密飼い）が採用されている。
　しかしながら、密飼いでは、家畜に高度のストレスを与え、飼育環境の衛生状態も悪化しやすいため、家畜の健康状態が悪化してしまう問題がある。
　家畜が病気になると、飼育日数が長期化して、生産性は低下する。密飼いの条件の下、感染症が拡大した場合には、生産性はさらに低下する。
　そこで、家畜の感染症を予防するために、抗生物質や合成抗菌剤等の抗菌性物質を飼料に添加する方法を採用することができるが、効果が得られない病原性微生物も存在する。また、抗菌性物質の乱用が問題となっている。
　密飼いは、家畜の成長速度を低下させる、あるいは死亡率を上昇させるリスクを伴う。

　本来、感染症の予防もしくは治療のために利用される抗菌性物質は、畜産業界では、成長促進剤としても利用されてきた。
　しかしながら、抗菌性物質の乱用による耐性菌の出現を避けるため、成長促進を目的とした抗生物質の使用を制限する声が高まり、使用を禁止、規制する国が増加している。日本においても、「飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律」によって、抗生物質等の使用が制限されている。

　一方、畜産物の生産性を評価する指標として、飼料要求率（ＦＣＲ：Ｆｅｅｄ　Ｃｏｎｖｅｒｓｉｏｎ　Ｒａｔｅ）がある。飼料要求率は、動物の体重を一定量増加させるために必要な飼料の重量を示す数値である。すなわち、飼料要求率が低いことは、必要最小量の飼料によって、効率的に食肉を生産できることを意味する。なお、家畜の死亡率が高くなる場合、農場全体における飼料要求率は高くなる。

　このような状況下、微生物を飼料に配合することにより、飼料要求率を改善する方法が提案されている（特許文献２）。
　特許文献２の実施例には、子豚やブロイラーに、バチルス・サブチルス（Ｂａｃｉｌｌｕｓ　ｓｕｂｔｉｌｉｓ）に属する特定の菌株を含有する飼料を給与することにより、飼料摂取量と体重が増え、飼料要求率が低下したことが記載されている。また、この菌株が、混合培養試験において、有害細菌の増殖を抑制したことが記載されている。

　上記の他に、飼料に用いられる素材に求められる条件としては、取り扱い性、経済性、安全性等に優れる、あるいは環境負荷が少ないこと等がある。

特開２００３－２１９８０５号公報特開２００８－１８７９２９号公報

　特許文献１に記載されている、配合飼料に含まれる穀物の一部が他の原料で代替された飼料により、対象家畜の体重を増加する効果が得られている。
　しかしながら、単に飼料の摂取量の増加により、体重を増加させているため、飼料費を低減させる効果は大きくない。
　また、飼料の嗜好性の改善によって得られる効果であるため、家畜の種類やその発育時期によっては、十分な効果が得られない場合がある。

　特許文献２に記載されている、特定の菌株が添加された飼料により、飼料要求率を改善する効果が得られている。
　しかしながら、この菌株は、バチルス・サブチルスに属し、嫌気性条件下にある家畜の腸内では活動を停止する可能性がある。

　また、畜産経営者は、自身の家畜の飼育環境、費用条件に見合う、生産性を改善するために適用可能な、さらなる選択肢を望んでいる。

　本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、畜産物の生産性を改善できる新規な技術を提供することを目的とする。

　本発明者らは、畜産物の生産性を改善できる、新規な技術を提供することを目的として、飼料に配合可能な新規な素材について、鋭意検討を行った。
　その結果、本発明者らは、養鶏場で飼育されているニワトリの盲腸糞から分離した特定の菌株が、畜産物の生産性の改善に有用であることを見出した。
　本発明は、このような知見に基づいて完成されたものであり、以下の構成を含む。

（構成１）
　バチルス・コアギュランスＫＭ－Ｄ３３７２株（受託番号：ＮＩＴＥ　ＢＰ－０２５５９）。

（構成２）
　構成１に記載のバチルス・コアギュランスＫＭ－Ｄ３３７２株を含有することを特徴とする、飼料添加剤。

（構成３）
　体重増加用である、構成２に記載の飼料添加剤。

（構成４）
　飼料要求率改善用である、構成２に記載の飼料添加剤。

（構成５）
　保健用である、構成２に記載の飼料添加剤。

（構成６）
　構成２～５のいずれか１つに記載の飼料添加剤を含有することを特徴とする、飼料。

（構成７）
　構成１に記載のバチルス・コアギュランスＫＭ－Ｄ３３７２株を配合する工程を含むことを特徴とする、飼料添加剤の製造方法。

（構成８）
　構成２～５のいずれか１つに記載の飼料添加剤を配合する工程を含むことを特徴とする、飼料の製造方法。

（構成９）
　構成２～５のいずれか１つに記載の飼料添加剤、または構成６に記載の飼料を家畜に給与することを特徴とする、飼育方法。

　本発明によれば、新規な菌株、および畜産物の生産性を改善できる新規な技術が提供される。

　以下、本発明の実施形態について、例示的に説明する。当分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の技術的思想内において、本発明を変形や改良することが可能である。また、本発明の単純な変形または変更は、いずれも本発明の範囲に属するものである。よって、以下に記載する実施形態は、本発明の範囲を限定する趣旨のものではない。

（バチルス・コアギュランスＫＭ－Ｄ３３７２株）
　本発明に係る微生物である、バチルス・コアギュランスＫＭ－Ｄ３３７２株は、本発明者らによって、日本の養鶏場で飼育されていたニワトリの盲腸糞から分離された菌株である。また、本発明者らにより、この菌株は、１６ＳリボゾームＤＮＡの塩基配列の解析を用いて、分類学上バチルス・コアギュランス（Ｂａｃｉｌｌｕｓ　ｃｏａｇｕｌａｎｃｅ）に属することが、同定されている。
　本発明に係るバチルス・コアギュランスＫＭ－Ｄ３３７２株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構（Ｎａｔｉｏｎａｌ　Ｉｎｓｔｉｔｕｔｅ　ｏｆ　Ｔｅｃｈｎｏｌｏｇｙ　ａｎｄ　Ｅｖａｌｕａｔｉｏｎ、以下、「ＮＩＴＥ」と略記する）の特許微生物寄託センター（ＮＰＭＤ）（所在地：日本国千葉県木更津市かずさ鎌足２－５－８）に、２０１７年１０月１６日（寄託日）付で寄託され、「ＮＩＴＥ　Ｐ－０２５５９（受託番号）」が付与された菌株である。
　また、バチルス・コアギュランスＫＭ－Ｄ３３７２株は、ＮＩＴＥの特許微生物寄託センター（ＮＰＭＤ）に、２０１８年１０月１５日（寄託日）付で、国内寄託（原寄託日：２０１７年１０月１６日）からブダペスト条約に基づく国際寄託に移管申請され、「ＮＩＴＥ　ＢＰ－０２５５９（受託番号）」が付与された菌株である。
　以下、本明細書中では、バチルス・コアギュランスＫＭ－Ｄ３３７２株を、単に「Ｄ３３７２株」と略記することがある。

　Ｄ３３７２株は、バチルス・コアギュランスに共通する特徴を有している。
　すなわち、グラム陽性の桿菌であり、カタラーゼ活性陽性であり、オキシダーゼ活性は陰性である。
　本菌株は、好気性条件だけでなく、嫌気性条件下の増殖が可能である。
　本菌株は、芽胞を形成する。
　本菌株は、乾燥に強く、乾燥状態での長期保存が可能である。
　本菌株は、耐熱性かつ好熱性であり、他のＢａｃｉｌｌｕｓ属の菌種と比べた場合にも、耐熱性がより高い。
　本菌株は、耐酸性、および０～２％の濃度下で耐塩性である。
　また、本菌株はバチルス・コアギュランスに属するが、乳酸菌のように乳酸を産生する特徴を有することから、有胞子性乳酸菌（Ｌａｃｔｏｂａｃｉｌｌｕｓ　ｓｐｏｒｏｇｅｎｅｓ）とも呼ばれている。

　Ｄ３３７２株は、当業者に公知のバチルス・コアギュランスの培養方法によって、培養することができる。
　そのような方法としては、例えば、以下の培養条件が挙げられる。
　培地として、市販のトリプチックソイブロス（Ｔｒｙｐｔｉｃ　Ｓｏｙ　Ｂｒｏｔｈ）を用いることができる。本培地は、精製水１リットルあたり、１７．０ｇのカゼイン－スイ消化ペプトン、３．０ｇの大豆－パパイン消化ペプトン、５．０ｇの塩化ナトリウム、２．５ｇのリン酸２カリウム、および２．５ｇのブドウ糖を含み、ｐＨは、７．３である。
　また、３～１０％のコーンスティープリカー（Ｃｏｒｎ　Ｓｔｅｅｐ　Ｌｉｑｕｏｒ）の水溶液に、炭酸カルシウムを添加した後、適宜ｐＨを調整し、必要に応じて、さらにグルコース等の糖を添加して作製した培地を用いることができる。
　本菌株は、耐酸性の特徴を有し、培地のｐＨは、４．６～９の範囲で適宜設定することができる。
　本菌株は、好熱性の特徴を有し、培養温度は、３７～５５℃の範囲で適宜設定することができる。トリプチックソイブロス培地を用いて、好気性条件下、７時間培養した場合の至適温度は、約５０℃であった。
　培養液はそのまま、あるいは、必要に応じて濃縮もしくは乾燥処理等を施して、本菌株の培養物とすることができる。

　Ｄ３３７２株の菌体の回収方法としては、当業者に公知の菌体の回収方法が用いられる。そのような方法としては、例えば、培養液を、遠心分離、またはろ過する方法が挙げられる。

　上記のようにして得られるＤ３３７２株の菌体の乾燥方法としては、当業者に公知の菌体の乾燥方法が用いられる。そのような方法としては、例えば、回収された菌体を、凍結乾燥、減圧乾燥、流動層乾燥、噴霧乾燥する方法が挙げられる。
　乾燥された菌体の菌数を調整する方法としては、当業者に公知の菌体の希釈方法が用いられる。そのような方法としては、例えば、乳糖、デンプン等で希釈する方法が挙げられる。なお、菌数（生菌数と芽胞の合計）は、顕微鏡下、バクテリア計算盤（ノイバウェル改良型）を用いて測定することができる。
　また、乾燥後に、必要に応じて乾燥物を粉砕して粒度を整えることができる。
　このようにして、本菌体の乾燥物が得られる。

　Ｄ３３７２株は、好熱性であり、耐酸性でもあるため、高温、低ｐＨ下での培養が可能である。
　すなわち、他の菌が増殖しない条件下で、本菌株を培養して増殖させることができるため、培養上の取り扱い性において優れている。
　また、本菌株は、耐熱性であり、培養液の濃縮もしくは乾燥、あるいは菌体の乾燥等の加熱処理によっても死滅しないため、調製上の取り扱い性において優れている。
　さらに、本菌株は乾燥に強いため、乾燥状態での長期保存性に優れている。
　本菌株の取り扱い性や保存性における利点は、本菌株を用いる製品にも反映される。

　また、Ｄ３３７２株には、以下に詳細に記載する通り、家畜の体重増加、飼料要求率の改善、保健効果のうちの少なくとも１つ、あるいは２つ以上の効果を期待できる。よって、これらの用途に用いることができる。

（バチルス・コアギュランスＫＭ－Ｄ３３７２株を含有する飼料添加剤）
　本発明に係る飼料添加剤は、バチルス・コアギュランスＫＭ－Ｄ３３７２株を含有することを特徴とする。
　本発明の飼料添加剤は、Ｄ３３７２株の培養物、回収されたＤ３３７２株の菌体の乾燥物等の形態でそのまま、あるいはこれらに１種もしくは２種以上の賦形物質もしくは他の飼料添加物等、またはこれらの両方が配合された形態で提供される。

　Ｄ３３７２株の培養物をそのまま飼料添加剤として用いる場合、培養に用いる培地の原料として、飼料添加物もしくは飼料に用いることができる素材、または混入が許容される他の素材を培地として用いることが好ましい。

　Ｄ３３７２株の培養物もしくは回収された菌体の乾燥物をそのまま飼料添加剤として用いる場合には、あらかじめ菌数を調整しておくことが好ましい。また、菌数の調整には、乳糖、デンプン等、法令上、飼料添加物もしくは飼料として用いることが認められており、希釈用にも用いられる賦形物質を用いることができる。

　本発明の飼料添加剤は、Ｄ３３７２株と飼料用の賦形物質を配合することにより製造することができる。
　そのような飼料用の賦形物質としては、例えば、デンプン、セルロース等の多糖、乳糖、麦芽糖等の単糖もしくは少糖、ソルビトール等の糖アルコール、カゼイン等のタンパク質、小麦粉、トウモロコシ粉等の穀物粉、ビール酵母等の酵母、植物性油脂、動物性油脂等の油脂、タルク等の粘土鉱物、無水ケイ酸等のケイ酸、流動パラフィン等の炭化水素、およびカルナウバロウ等のロウが挙げられる。

　また、本発明の飼料添加剤は、Ｄ３３７２株と他の飼料添加物を配合することにより製造することができる。
　そのような他の飼料添加物としては、例えば、飼料の品質の低下を防止するための添加物（抗酸化剤、防かび剤、粘結剤、乳化剤、調整剤等）、飼料の栄養成分その他の有効成分の補給のための添加物（アミノ酸、ビタミン、ミネラル、色素等）、および飼料が含有している栄養成分の有効な利用の促進のための添加物（合成抗菌剤、抗生物質、着香料、呈味料、酵素、生菌剤等）が挙げられる。

　本発明の飼料添加剤の形状は、特に限定されないが、例えば、粉末状、顆粒状、粒状、ゲル状等の固形状、またはペースト状等の半固形状、あるいは液状とすることができる。

　好ましい実施態様において、本発明の飼料添加剤は、乾燥形態である。
　Ｄ３３７２株が、乾燥状態での保存安定性に優れているためである。

　本発明の飼料添加剤は、従来から用いられている他の飼料添加物と同様にして用いることができる。

　飼料への添加方法としては、配合飼料の製造工程中で添加したり、また飼料に必要に応じてバインダー等を加えて配合飼料上に噴霧などにより付着することができる。
　また、この飼料添加剤は、飼育環境に応じて、家畜の飲料水に添加することにより、家畜に給与することができる。
　この飼料添加剤は、そのまま混合飼料もしくは配合飼料として用いることができる。

　Ｄ３３７２株は、耐熱性であるため、飼料添加剤の製造における殺菌等を目的とした加熱処理によっても、死滅しない。本菌株を配合した後に加熱処理を実施できることは、製造コストの低下、製品の安全性に寄与する。
　このように、本発明の飼料添加剤は、製造上の取り扱い性、経済性、安全性、保存性において優れている。

　また、本発明の飼料添加剤は、Ｄ３３７２株を含有するため、以下に詳細に記載する通り、家畜の体重増加、飼料要求率の改善、保健効果のうちの少なくとも１つ、あるいは２つ以上の効果を期待できる。

　本発明は、上記の通り、本発明の飼料添加剤の製造方法を提供する。
　その方法は、上記のようにして得られるバチルス・コアギュランスＫＭ－Ｄ３３７２株を配合する工程を含むことを特徴とする、飼料添加剤の製造方法である。
　Ｄ３３７２株として、通常、菌体の乾燥物を用いるが、培養物をそのまま用いることもできる。他の素材と配合することにより、飼料用添加剤を製造することができる。

（バチルス・コアギュランスＫＭ－Ｄ３３７２株を含有する飼料）
　本発明に係る飼料は、バチルス・コアギュランスＫＭ－Ｄ３３７２株を含有することを特徴とする。
　本発明の飼料は、基礎飼料の原料と本発明の飼料添加剤を配合することにより製造することができる。

　基礎飼料の原料は、家畜の種類やその成育段階に応じて適宜選択することができる。そのような原料としては、例えば、トウモロコシ等の穀物、ナタネ油粕等の植物性油粕、フスマ等の槽糠、魚粉等の動物性原料、ビタミン、ミネラル等が挙げられる。
　また、飼料添加剤を、市販の配合飼料、２～３種類の原料からなる混合飼料、単味飼料等の基礎飼料に配合することにより、本発明の飼料を製造することができる。
　本発明の飼料には、必要に応じて、賦形物質、他の飼料添加物等をさらに配合することができる。

　本発明の飼料が含有するＤ３３７２株の量は、家畜の種類およびその発育段階、飼料の給与方法に応じて、本発明の効果が得られる範囲で菌数を指標として適宜設定することができる。
　例えば、Ｄ３３７２株を市販の配合飼料に配合した本発明の飼料を、０～５週齢のＬｏｈｍａｎｎ種のニワトリに給与する場合、配合飼料中に含まれるＤ３３７２株の含有量を、１０^５～１０^７ＣＦＵ／ｇ（菌数／飼料重量）となるように設定することができる。

　本発明の飼料の形状は特に限定されず、家畜の種類およびその発育段階、飼料の給与方法に応じて、適宜選択することができる。これには、例えば、マッシュ形状、ペレット形状、クランブル形状、エキスパンダー形状、フレーク形状が挙げられる。

　好ましい実施態様において、本発明の飼料は、乾燥形態である。
　Ｄ３３７２株が、乾燥状態での保存安定性に優れているためである。

　飼料の製造工程では、デンプンのアルファ化、殺菌等を目的として加熱処理が実施される。Ｄ３３７２株は耐熱性であるため、加熱処理によっても、死滅しない。製造工程上、本菌株を配合した後に、加熱工程を実施できることは、飼料の形状の選択肢が増え、製造コストの低下、製品の安全性に寄与する。
　このように、本発明の飼料は、製造上の取り扱い性、経済性、安全性、保存性において優れている。

　本発明は、上記の通り、本発明の飼料の製造方法を提供する。
　その方法は、バチルス・コアギュランスＫＭ－Ｄ３３７２株を含有する飼料添加剤を配合することを特徴とする、飼料の製造方法である。
　本発明の飼料添加剤と他の素材を配合することにより、本発明の飼料を製造することができる。

（バチルス・コアギュランスＫＭ－Ｄ３３７２株を用いる飼育方法）
　本発明は、上記のようにして得られるＤ３３７２株を含有する飼料添加剤または飼料を家畜に給与することを特徴とする、飼育方法を提供する。
　本発明の飼育方法は、家畜の種類およびその発育段階、飼料の給与方法に応じて、本発明の効果が得られる範囲でＤ３３７２株の菌数を適宜設定して、給与することにより、実施される。

　Ｄ３３７２株を用いた飼育方法を実施することにより、以下に詳細に記載する通り、家畜の体重増加、飼料要求率の改善、保健効果のうちの少なくとも１つ、あるいは２つ以上の効果を期待できる。
　よって、本発明の飼育方法は、家畜の体重増加方法、飼料要求率の改善方法、または健康維持方法でもある。

　１つの実施形態において、Ｄ３３７２株を家畜に給与することにより、家畜の体重を増加させることができる。
　すなわち、本菌株を用いることにより、特に、食肉用の家畜の飼育期間を短縮する、あるいは一定期間の飼育によって出荷できる食肉の生産量を増やすことができる。
　よって、畜産物の生産性を向上することができる。

　また、別の実施形態において、Ｄ３３７２株を家畜に給与することにより、家畜の飼料要求率を低下することができる。
　すなわち、本菌株を用いることにより、家畜の体重を一定量増加するために必要な飼料の量を低減することができる。
　よって、畜産物の生産性を向上することができる。

　Ｄ３３７２株は耐酸性であるため、家畜に摂取された後、胃の酸性条件下でも死滅することなく、腸内へ移行することができる。
　また、本菌株は、嫌気性条件下での増殖が可能であるため、嫌気性条件下にある家畜の腸内環境において増殖することができる。
　さらに、本菌株は、土壌等からではなく、養鶏場のニワトリの盲腸糞から分離されており、家畜の腸内で一定程度の定着性を有する。
　よって、本菌株は、家畜によって、必要最小量が摂取されることにより、腸内環境において増殖しながら効率的に活動することができる。
　また、本菌株は、乳酸菌のように乳酸を産生する有胞子性乳酸菌でもあるため、家畜の腸内のｐＨを酸性側に傾けることにより、腸内細菌叢のバランスを改善することができる。
　すなわち、本菌株は、腸内細菌叢を正常化し、家畜の体内の病原性微生物の増殖を抑制することにより、感染症を予防することができる。また、畜産物に由来する食中毒の原因菌の増殖を抑制することができる。
　よって、家畜に使用する抗菌性物質の使用量を低減できる効果がある。
　また、悪臭の原因となるような有害菌の増殖を抑制することにより、飼育環境を改善し、家畜へのストレスを低減することができる。
　このようにして、家畜の健康状態を良好に保つ、保健効果が得られる。
　家畜の病気による飼育日数の延長の抑制によって、畜産物の生産性が向上する。

　本発明により、家畜の体重が増加する理由の１つは、Ｄ３３７２株により、家畜の腸内環境が良好に維持され、家畜が健康的に成長することであると考えられる。
　好ましい実施態様において、本菌株により、成長促進効果と保健効果が得られるため、本菌株は抗菌性物質に代替される選択肢になり得る。
　さらに、本菌株は、養鶏場で飼育されていたニワトリの盲腸糞から分離された有胞子性乳酸菌であり、抗菌性物質に対する耐性菌の出現や環境負荷の問題がないため、有用である。

　Ｄ３３７２株およびこれを用いる飼料添加物、飼料、飼育方法が適用される家畜は特に限定されず、例えば、ニワトリ（例えば、ブロイラー、産卵用鶏など）、アヒル、七面鳥、ウズラ、カモ、ダチョウ等の食肉もしくは採卵用に飼育される家禽、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジなどの食肉用に飼育される哺乳動物、イヌ、ネコ等の愛玩動物、ウマ、ラクダ、ロバのような労働用に飼育される哺乳動物、動物園等で飼育されるゾウ、キリン、ライオン等の観賞用の動物に用いることができる。

　１つの実施態様において、上記の飼料添加剤もしくは飼料は、家禽類に給与されることを特徴とする。
　好ましい実施態様において、上記の家禽類は、ニワトリである。
　より好ましい実施態様において、上記のニワトリは、食肉用または採卵用である。
　さらに好ましい実施態様において、上記の食肉用のニワトリは、ブロイラーである。

　好ましい実施態様において、上記の飼料添加剤もしくは飼料は、食肉用または採卵用の家畜に給与されることを特徴とする。
　Ｄ３３７２株には、保健効果だけでなく、体重増加効果または飼料要求率の改善効果あるいはその両方が期待できるためである。
　これにより、食肉の生産性を向上することができる。

　別の実施態様において、上記の家畜は、病気に罹患しやすい、または体重が減少した、愛玩動物または鑑賞用の動物である。Ｄ３３７２株には、体重増加効果または保健効果、あるいはその両方の効果が期待できるためである。

　本発明のＤ３３７２株およびこれを用いた飼料添加物、飼料は、上記の特徴を含むため、これらを用いる飼育方法もまた有用である。
　これらを実施するために必要な物の製造方法もまた有用である。

（バチルス・コアギュランスＫＭ－Ｄ３３７２株）
　飼料用添加物および飼料に添加する微生物として、バチルス・コアギュランスＫＭ－Ｄ３３７２株を用いた。本菌株は、２０１７年１０月１６日（寄託日）付で寄託されて、「ＮＩＴＥ　Ｐ－０２５５９（受託番号）」が付与された菌株である。なお、本菌株は、２０１８年１０月１５日（寄託日）付で、国際寄託に移管申請され、「ＮＩＴＥ　ＢＰ－０２５５９（受託番号）」が付与されている菌株である。
　芽胞形成のために塩化カルシウム、塩化マンガン、硫酸マグネシウム、硫酸第一鉄を添加したトリプチックソイブロスに、１白金耳のＫＭ－Ｄ３３７２株を接種し、５０℃にて２４時間振盪培養した。

（飼料添加剤の製造）
　得られたＤ３３７２株の培養液から菌体を回収し、凍結乾燥することにより、菌体乾燥物を得た。さらに、菌体乾燥物を炭酸カルシウムで希釈して、生菌数が１０^８、１０^９、１０^１０ＣＦＵ／ｇとなるように調整した、３つの異なる濃度の飼料添加剤を作製した。

（飼料の製造）
　上記のようにして得られた飼料添加剤を、市販の飼料に終濃度が０．１％となるように配合し、均一になるように混合した後、成型して、クランブル飼料を作製した。市販の飼料として、抗生物質を含まない、ニワトリ用のプレスターター飼料、スターター飼料、およびフィニッシャー飼料を用いた。
　このようにして得られた飼料中のＤ３３７２株の含有量は、それぞれ１０^５、１０^６、１０^７ＣＦＵ／ｇ（菌数／飼料重量）であり、これらの飼料をそれぞれ試験例１～３とした。

（ニワトリの飼育試験）
　ニワトリ（肉用種、１日齢）の雌雄各１５０羽を１群として入雛し、各群に、市販の飼料（比較例）、およびＤ３３７２株を種々の濃度で含有する飼料（試験例１～３）を不断給与して、ニワトリを飼育した。なお、入雛後、１０日齢までは、プレスターター飼料を、１１日齢から２１日齢まではスターター飼料を、それ以降はフィニッシャー飼料を基礎とする飼料を給与した。
　５週間飼育した後、各群における、雄、雌それぞれの体重を測定した。データの解析は一元配置分散分析（ｏｎｅ－ｗａｙ　ＡＮＯＶＡ）により行った。結果を表１に示す。なお、表中の符号は、横列の異符号間において有意差（Ｐ＜０．０１）があったことを示す。

　表１の結果は、Ｄ３３７２株を含有する飼料を給与することにより、ニワトリの体重を増加できたことを示す。特に、Ｄ３３７２株を１０^５ＣＦＵ／ｇおよび１０^６ＣＦＵ／ｇで含有する試験例１および２の飼料を給与された群では、体重が有意に増加し、成長が促進されていた。

　また、飼育５週後のニワトリの体重と５週間の累積飼料消費量から、飼料要求率を算出した。結果を表２に示す。なお、表中の符号は、横列の異符号間において、有意差（Ｐ＜０．０１）があったことを示す。

　表２の結果は、Ｄ３３７２株を含有する飼料を給与することにより、効率的に、ニワトリの体重を増加できたことを示す。特に、Ｄ３３７２株を１０^５ＣＦＵ／ｇで含有する試験例１の飼料が与えられた群では、飼料要求率が有意に低下し、生産性が改善されていた。

　また、Ｄ３３７２株を含有する飼料を給与した群では、家畜の健康状態が良好に維持されていた。

　以上の結果により、Ｄ３３７２株は、家畜の体重増加、飼料要求率の改善、健康の維持に有用であることが理解できる。

　本発明により提供されるバチルス・コアギュランスＫＭ－Ｄ３３７２株は、家畜の体重増加、飼料要求率の改善、または保健効果を有するため、産業上の有用性が高い。また、本発明の飼料添加剤、飼料、製造方法、および飼育方法も、Ｄ３３７２株を用いることを特徴とするため、産業上の有用性が高い。

Claims

　バチルス・コアギュランスＫＭ－Ｄ３３７２株（受託番号：ＮＩＴＥ　ＢＰ－０２５５９）。
　請求項１に記載のバチルス・コアギュランスＫＭ－Ｄ３３７２株を含有することを特徴とする、飼料添加剤。
　体重増加用である、請求項２に記載の飼料添加剤。
　飼料要求率改善用である、請求項２に記載の飼料添加剤。
　保健用である、請求項２に記載の飼料添加剤。
　請求項２～５のいずれか１項に記載の飼料添加剤を含有することを特徴とする、飼料。
　請求項１に記載のバチルス・コアギュランスＫＭ－Ｄ３３７２株を配合する工程を含むことを特徴とする、飼料添加剤の製造方法。
　請求項２～５のいずれか１項に記載の飼料添加剤を配合する工程を含むことを特徴とする、飼料の製造方法。
　請求項２～５のいずれか１項に記載の飼料添加剤、または請求項６に記載の飼料を家畜に給与することを特徴とする、飼育方法。