WO2015186583A1

WO2015186583A1 - メークアップ印刷品及びメークアップ方法

Info

Publication number: WO2015186583A1
Application number: PCT/JP2015/065219
Authority: WO
Inventors: 浩喜平山
Original assignee: 株式会社トクヤマ
Priority date: 2014-06-02
Filing date: 2015-05-27
Publication date: 2015-12-10
Also published as: EP3151219A1; JPWO2015186583A1; EP3151219A4; US20170196341A1

Abstract

本発明のメークアップ化粧品は、基材シート１、基材シート上に設けられた無機固体層３及び無機固体層３上に形成されたインクジェット印刷像５を含み、インクジェット印刷像５上にメークアップ材料が施されていると共に、無機固体層３の表面は、倍率１００倍の電子顕微鏡写真で観察して、不定形凸部が単位面積当たり１０～３０％の割合で存在する粗面となっており、該不定形凸部のうち、長径が１０～３００μｍの範囲にあるものが１ｍｍ^２当り５０～３００個の数で観察されることを特徴とする。

Description

メークアップ印刷品及びメークアップ方法

発明の分野

　本発明は、メークアップ印刷品及び該印刷品を利用したメークアップ方法に関する。

　パーソナルコンピュータやデジタルカメラの一般家庭への普及に伴い、鮮明なフルカラーの画像をプリントすることが可能なインクジェットプリンタが、価格が安価なこともあって、広く使用されている。インクジェットプリンタに用いる印刷用記録紙としては、通常の上質紙やコート紙では性能の点で使用困難であり、紙面に付着したインクが速やかに内部に吸収されること、紙面上でのインク滴の拡がりや滲みが抑制され、鮮明な画像が形成されること、得られる画像が長期にわたって色落ちなどを生じない堅牢性に優れていることなどの特性が要求される。

　このような特性を印刷面（紙面）に付与するために、種々の無機固体物質を結着剤とともに紙面に塗布した無機固体層を形成することが提案されており、例えば本出願人は、特許文献１において、基材シートと、該基材シート表面に形成されており且つ水酸化カルシウムを含む印刷層（無機固体層）とからなることを特徴とする印刷用シートを提案した。

　特許文献１で提案されている印刷用シートは、印刷層表面にインクジェットプリンタ等により印刷を施すと、印刷後には、水酸化カルシウムの炭酸化が進行し、炭酸カルシウムとなるため、印刷画像が印刷面にしっかりと保持されるという特性を有している。また、形成される印刷像は、凹凸感があり、絵画調の深みのある堅牢な画像であるばかりか、像を形成するインク成分が紫外線やオゾンから保護され、かかる印刷用シートは、印刷像の長期保存性の点でも極めて優れている。

　ところで、上記のような印刷用シートは、印刷面となる無機固体層の表面に剥離可能な保護シートが設けられている。即ち、水酸化カルシウムを含む印刷層の如き無機固体層がシート同士の擦れや外部からの押圧等によって破損しないように、その表面を保護する剥離可能な保護シートが設けられ、印刷に際しては、この保護シートは印刷前に引き剥がされて使用される。

　このような保護シートが設けられている印刷用シートは、該保護シートが設けられている状態において、無機固体層の表面は比較的硬度が低く、このため、無機固体層の表面に保護シートを密着させ、印刷に際して保護シートを引き剥がしたとき、印刷が施される無機固体層の表面には、保護シートの表面が転写される。
　このように、保護シートの表面（無機固体層の表面に密着する面）が転写により無機固体層の表面に反映されるため、保護シートとしては、不織布の繊維シートが好適に使用されており、このような繊維シートの表面が転写された無機固体層の表面に印刷を施したとき、繊維により付与される凹凸によって印刷像に立体感や奥行き感が付与されるからである。

　上記のような保護シートが設けられている印刷用シートに関して、本出願人は、繊維シートの引き剥がしにより、どのような凹凸を無機固体層の表面に形成することがよいかを先に提案し（特許文献２参照）、さらに、インクジェット印刷により印刷像が形成された無機固体層上に顔料を塗布し、固定化することにより、インクジェット印刷では得られない色域を付与した意匠シートを製造する方法を提案した（特願２０１４－０４４００６号）。

ＷＯ２００８／０１３２９４ＷＯ２０１２／１６５５５４

　本発明者等は、上述した無機固体層上にインクジェット印刷時には引き剥がされている保護シートが設けられている印刷用シートについて、さらに検討を進め、表面が粗い面となっている無機固体層をインクジェット印刷層として有する印刷用シートは、これをメークアップに利用できるという知見を得、本発明を完成させた。

　即ち、本発明は、無機固体層の表面をインクジェット印刷面として有する印刷用シートを用いて得られるメークアップ印刷品或いはメークアップ方法を提供することにある。

　本発明によれば、基材シート、該基材シート上に設けられた無機固体層及び該無機固体層上に形成されたインクジェット印刷像を含み、該インクジェット印刷像上にメークアップ材料が施されていると共に、前記無機固体層の表面は、倍率１００倍の電子顕微鏡写真で観察して、不定形凸部が単位面積当たり１０～３０％の割合で存在する粗面となっており、該不定形凸部のうち、長径が１０～３００μｍの範囲にあるものが１ｍｍ^２当り５０～３００個の数で観察されることを特徴とするメークアップ印刷品が提供される。

　本発明のメークアップ印刷品においては、
（１）前記無機固体層が、水酸化カルシウムを含むこと、
（２）前記無機固体層の粗面は、該無機固体層に繊維シートを密着させ、該繊維シートを引き剥がすことにより形成されたものであること、
（３）非水溶性樹脂による保護層が、前記メークアップ材料の層上或いは前記インクジェット印刷像上に形成されていること、
（５）前記非水溶性樹脂が、アクリル系樹脂であること、
が好適である。

　本発明によれば、また、
　基材シート、該基材シート上に設けられた無機固体層と該無機固体層上に密着した繊維シートからなる印刷用シートを用意し、
　前記印刷用シートから繊維シートを引き剥がすことにより、前記無機固体層の表面を粗面とし、
　前記粗面上に、インクジェット印刷により、人物写真のインクジェット印刷像を形成し、
　前記インクジェット印刷像にメークアップ材料を施すことを特徴とするメークアップ方法が提供される。
　このメークアップ方法において、前記無機固体層の表面は、倍率１００倍の電子顕微鏡写真で観察して、不定形凸部が単位面積当たり１０～３０％の割合で存在する粗面となっており、該不定形凸部のうち、長径が１０～３００μｍの範囲にあるものが１ｍｍ^２当り５０～３００個の数で観察されることが好ましい。

　本発明のメークアップ印刷品は、基材シート上に設けられた無機固体層上に形成されたインクジェット印刷像上にメークアップ材料が施されている。このようなメークアップ印刷品は、本発明者等が知る限り、これまで全く知られていない新規な印刷品である。

　かかる印刷品は、インクジェット印刷が施される印刷面（無機固体層表面）に凹凸が形成されているため、この印刷面に印刷されるインクジェット印刷像は、通常の写真などと異なり、肉眼でみる実物に近い凹凸を有している。例えば、人物写真のインクジェット印刷像では、その人肌の画像表面は実際の人肌に近い状態に見える。このため、この印刷像上に、各種化粧品等をメークアップ材料として施すことにより、メークアップした実際の人物に近い画像を得ることができる。
　特に、人物写真等に化粧を施し、この上に所定の保護層を設けることにより、永久保存することもできる。

　また、このようなメークアップ印刷品を得るためのメークアップ方法は、人肌に近い印刷表面に、インクジェット印刷では表すことができない光沢などを有する顔料を用いてメークアップを施し、適宜、メークアップを除いてのメークアップを繰り返すことができるため、例えば化粧品売り場でのメークアップ（タッチアップと呼ばれることもある）に利用することができる。

本発明のメークアップ印刷品の断面構造の一例を示す図である。図１に示されたメークアップ印刷品の作成に用いる印刷用シートの断面構造を、保護シートと共に示す図である。図２に示された印刷用シートに密着して設けられた保護シートの転写用表面の電子顕微鏡写真（倍率１００倍）である。図２に示された印刷用シートの無機固体層の表面（印刷面）の電子顕微鏡写真（倍率１００倍）である。

　図１を参照して、本発明のメークアップ印刷品は、基材シート１の上に、印刷面となる無機固体層３を有しており、この無機固体層３の表面にインクジェット印刷によりインクジェット印刷像（以下、単に印刷像と呼ぶことがある）５が形成されており、この印刷像５上にメークアップが施されてメークアップ層７が形成され、さらに、必要により、保護層９が設けられる。

　かかるメークアップ印刷品は、例えば前述した特許文献２に記載されている印刷用シートを用いて作成される。即ち、図２を参照して、かかる印刷用シート（図２において、全体として２０で示す）は、基材シート１の上に形成された無機固体層３上に、繊維シート１０を無機固体層３の表面に貼り付けて密着させた状態で供給され、インクジェット印刷時に、繊維シート１０を無機固体層３から引き剥がし、露出した無機固体層３の表面３ａ（即ち印刷面）にインクジェット印刷が施されることとなる。

＜印刷用シート２０について＞
　かかる印刷用シート２０において、無機固体層３を支持している基材シート１としては、その表面に無機固体層３を支持し得るものであれば、特に制限されず、任意の材料で形成されていてよい。
　その適当な例としては、木材パルプ紙、或いはポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等のビニル系樹脂、ポリ（メタ）アクリレート等のアクリル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂などの各種の樹脂シート乃至樹脂フィルムなどを例示することができる。また、ガラス繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、アクリル繊維、アラミド繊維、カーボン繊維等の繊維状物からなる織布または不織布であってもよく、さらには、これらの積層フィルム乃至シートであってもよい。

　また、好適な基材シート１は、可撓性を有しており、適度の腰の強さを有しているものである。このような性質を有する基材シート１では、これを折り曲げても折り目が形成され難く、この基材シート１上に設けられる無機固体層３に割れ目が形成されるなどの不都合を有効に抑制することができるからである。このような基材シート１の材質は、かなり制限されることとなるが、一般的には、パルプ紙が好適に使用される。パルプ紙は、一般的に入手可能な紙であり、可撓性や曲げ強さを有し、しかも無機固体層３との密着性を良好なものとすることができる。さらに、このようなパルプ紙以外にも、ガラス繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ビニロン繊維等の化学繊維をバインダー繊維としてパルプ紙と混抄された合成紙を使用することができる。

　尚、基材シート１の表面は、コロナ処理などを行って親水性を向上させてもよく、これにより、無機固体層３と基材シート１との接合強度を向上させることができる。

　また、基材シート１の厚みは、この印刷用シート２０が容易にインクジェットプリンタを通すことができるような厚みに設定され、通常、用いるプリンタのグレードに合わせて、０．０２～０．５ｍｍ程度の範囲に設定される。

　また、かかる印刷用シート２０において、無機固体層３は、その表面にインクジェット印刷が可能な安定な固体層であり、且つ該表面が後述する粗い面となっている限りにおいて、種々の無機物、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア等の金属酸化物や、炭酸カルシウムや石膏（硫酸カルシウム）などのカルシウム塩などから形成されていてよい。
　しかるに、その表面を後述するような粗い面とし、且つ印刷像の耐摩擦性、耐紫外線性を高め、堅牢で安定な印刷像を形成するという観点から、水酸化カルシウムを含む無機固体層３が形成されていることが最適である。

　水酸化カルシウムを含む無機固体層３は、特許文献２にも記載されているように、水酸化カルシウムの粉末と水との混練物を基材シート１の親水性の面にコーティングし、乾燥などにより形成された混練物層中の水分を除去することにより形成される。かかる層は、乾燥工程中に一部の水酸化カルシウムが空気中の炭酸ガスと反応し、一部が炭酸カルシウムとなり、漆喰前駆体（水酸化カルシウムと炭酸カルシウムとの混合物）を形成するが、更に空気中に放置した場合、漆喰前駆体（水酸化カルシウムと炭酸カルシウムとの混合物）中に残存する水酸化カルシウムが空気中の炭酸ガスと反応して炭酸カルシウムを生成することにより、さらに炭酸化が進行して漆喰（水酸化カルシウムの炭酸化により形成した炭酸カルシウム）を形成する。即ち、水酸化カルシウムの一部が炭酸化して炭酸カルシウムが存在する漆喰前駆体を含む層を無機固体層３として基材シート１の表面に設けるわけである。このような漆喰前駆体は、水酸化カルシウムが完全に炭酸化した漆喰（水酸化カルシウムの炭酸化により形成した炭酸カルシウム）と比較して硬度が低く、後述する繊維シート１０を引き剥がしたとき、容易に所定の粗面が形成されることとなる。また、繊維シート１０を格別の接着剤なしに設けることもできる。

　したがって、漆喰前駆体を含む無機固体層３は、水酸化カルシウムが完全に炭酸化する前の状態にあればよいが（即ち、水酸化カルシウムを含んでいる）、好ましくは、この漆喰前駆体（水酸化カルシウムと炭酸カルシウムとの混合物）中の水酸化カルシウムが、少なくとも１０重量％、好ましくは２０重量％以上（炭酸カルシウムが９０重量％以下、好ましくは８０重量％以下）であるのがよい。即ち、水酸化カルシウムの含有量が上記範囲よりも少ないと、後述するインクジェット印刷像５を無機固体層３上に形成した後、炭酸化が進行するわけであるが、炭酸化した場合においても堅牢な漆喰層（炭酸カルシウム層）が形成されず、インクジェット印刷像５の上にメークアップ材料を施すと無機固体層３の表面が崩落し、メークアップとしての利用性が低下するおそれがある。

　また、無機固体層３中の水酸化カルシウムの量は、上記目的を達成するために多いほどよいが、あまり多すぎると無機固体層３の硬度が不十分となり、印刷工程中に無機固体層３の破損等を生じ易くなる。従って、無機固体層３中の水酸化カルシウム量は、９０重量％以下、好ましくは、８０重量％以下に抑制されていることが好ましい。
　尚、無機固体層３における水酸化カルシウムの量は、示差熱分析により確認することができる。

　また、無機固体層３中の水酸化カルシウムの含有量は、この層の形成に用いる水酸化カルシウムの炭酸化率（前述したスラリーの調製に用いた水酸化カルシウムの重量に対し、生成した炭酸化カルシウムの重量割合）及び後述するバインダー材、無機細骨材、吸液性無機粉体などの添加剤の割合によって調整することができる。

　上記のような無機固体層３を画像の印刷後に大気中に放置することにより、該層中の水酸化カルシウムが炭酸化して最終的には漆喰（水酸化カルシウムの炭酸化により形成した炭酸カルシウム）となるが、このような無機固体層３の靭性を向上させるために、この層中には、バインダー材としてポリマーのエマルジョン固形分を含有していることが好適である。このようなポリマーのエマルジョンは、水媒体中にモノマー、オリゴマー或いはこれらの重合体等が分散したものであり、例えばアクリル樹脂、スチレン－アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン、スチレン／ブタジエンゴム系等の重合体のエマルジョンを挙げることができる。このようなエマルジョンは、乾燥工程で、媒体（水）が蒸発してエマルジョン中のポリマー成分が無機固体層３中に残存することとなる。しかるに、このようなエマルジョンの固形分（即ちポリマー）が過度に存在すると、印刷画像（印刷インク）の無機固体層３中への浸透性が低下する傾向があるため、無機固体層３の靭性を高め且つインクの浸透性を確保するために、一般に、この層３におけるポリマーエマルジョンの固形分は、３～５０重量％の範囲であることが好ましい。

　また、無機固体層３中には、上記のエマルジョン以外にも、物性を調整するための各種添加剤、例えば各種繊維材、無機細骨材、吸液性無機粉体等が配合されていてよい。これらの添加剤は、印刷層として機能する無機固体層３の強度等の物理特性を向上させるものである。

　繊維材の例としては、ガラス繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、アクリル繊維、アラミド繊維、カーボン繊維、金属繊維等を挙げることができる。また、繊維の形状としては短繊維、長繊維、織布、不織布等の形状のものが使用できるが、これらのうち短繊維は無機固体層３の靱性および切断加工性の向上に特に有効である。このような短繊維の長さおよび直径は特に制限されないが、長さは０．２ｍｍ～１０ｍｍ、特に０．５ｍｍ～５ｍｍであり、直径は２～５０μｍ、特に５～２０μｍであることが、無機固体層３の靱性をより向上させ、場合によっては、切断加工性においても優れたものとするために好適である。

　また、無機細骨材は、平均粒子径が０．０１～０．１ｍｍ程度の範囲内にある無機粒状物であり、この範囲内で、無機固体層３の厚みの１／４以下の平均粒子径を有するもの、具体的には、珪砂、寒水砂、マイカ、施釉珪砂、施釉マイカ、セラミックサンド、ガラスビーズ、パーライト、或いは炭酸カルシウムなどを挙げることができる。

　さらに、無機固体層３中にポリマーエマルジョンを配合することによる親水性インクとの親和性の低下を回避し、しかも、水酸化カルシウムの炭酸化の進行に伴い低下する吸液性を補うため、無機固体層３中に吸液性無機粉体を配合することが好ましい。この吸液性無機粉体は、多孔質であり、吸油量が１００ｍｌ／１００ｇ以上と高い、微細な無機粉末、例えばレーザ回折散乱法で測定される体積換算での平均粒径（Ｄ_５０）が０．５μｍ以下のアルミナ水和物粉末、ゼオライト粉末、シリカ粉末などである。

　即ち、前述したポリマーエマルジョンは、靭性を向上させ、さらには基材シート１と無機固体層３との接合強度を高めるためには有効であるが、反面、無機固体層３の親水性を低下させ、例えば親水性インクなどを用いて印刷を行った場合、インクをはじいてしまい、印刷画像が滲んでしまうなどの不都合を生じることがある。しかるに、上述した吸液性無機粉体の使用は、印刷インクの吸収性を向上させるため、上記の不都合を有効に防止し得ることができる。特に、この吸液性無機粉体は、１乃至２０重量％程度の量で漆喰を含む無機固体層３中に配合されていることが好ましい。

　また、無機固体層３中には、目的に応じて、上記以外にもそれ自体公知の各種添加剤を１種または２種以上の組み合わせで配合することができるが、何れにしろ、印刷インクの無機固体層３への浸透や固定が損なわれない程度の量で配合すべきであり、例えば、水酸化カルシウムが炭酸化して形成される炭酸カルシウムの含有量（即ち、炭酸化率１００％のときの炭酸カルシウム含有量）が５０重量％以上に維持される範囲において、各種の添加剤が配合されることが望ましい。

　さらに、無機固体層３の厚みは、印刷可能な適宜の範囲に設定されるが、一般的には、０．０５乃至０．５ｍｍ、特に０.１乃至０.２５ｍｍ程度の範囲が好適である。即ち、この厚みが過度に薄いと、画像を印刷したときに、印刷インクの浸透による画像固定性が低下したり、或いは凹凸などによって発現する画像の深みが損なわれたりするおそれがある。また、あまり厚いと経済的に不利となったり、折り曲げによって折り目が形成され易くなったりするなど、印刷に際して用いるプリンタが制限されるおそれなどを生じるからである。

　上述した無機固体層３は、この層３を形成するための無機スラリー、例えば水酸化カルシウムスラリーやシリカ等の前述した無機酸化物粒子のスラリーを基材シート１の一方の表面に塗布し、さらに繊維シート１０を貼着し、適度に乾燥することにより製造される（図２参照）。
　尚、水酸化カルシウムを含む無機固体層を形成するためのスラリーは、水酸化カルシウムの粉末と水との混練物に、前述したバインダー材や各種添加剤を配合したものである。

　かかるスラリーの調製に用いる水酸化カルシウム粉末は、例えば粒径が５μｍ以下の微粒子を２０乃至８０重量％の量で含み、且つ粒径が１０乃至５０μｍの粗粒子を１０乃至４０重量％の量で含有しているものを使用することが好ましい。即ち、微粒子成分は、無機固体層３の形態保持性や強度を付与し、一方、粗粒子成分は、画像の浸透性を確保するための有用であり、このような微粒子成分と粗粒子成分とを上記のような量割合で含有している水酸化カルシウム粉末を使用することにより、画像の浸透性を損なうことなく、強度や耐久性の良好な漆喰層を形成する上で極めて好適である。例えば、上記のような微粒子成分のみからなる水酸化カルシウム粉末を用いた場合には、インクの浸透性が損なわれ、印刷される画像が滲んだり、堅牢性が低下したりするおそれがある。

　また、このスラリー中には、各種の配合剤を均一に分散させるための界面活性剤や、混練物をコーティングする際に垂れなどを生じないように、適宜、増粘剤などが配合され、適度な粘度に調製されていることが好適である。スラリーのコーティングは、バーコーター、ロールコーター、フローコーター、ナイフコーター、コンマコーター、スプレー、ディッピング、吐出、型材転写等により行うことができ、必要に応じてコテ押さえ、口金絞り、ローラ転圧、一軸プレス等を採用することができる。

　上記のようなスラリーの塗布厚みは、乾燥後の厚みが前述した無機固体層３の厚みとなるように設定される。また、スラリー塗布後の乾燥は、無機固体層３の含水率が５％以下となる程度に行えばよい。この含水率があまり高いと、層としての形態が維持できなかったり、或いは、この含水率が高い状態で維持されたまま印刷が行われたとき、インクの滲みなどを生じ易くなったりしてしまうからである。さらには、繊維層１０の引き剥がしにより、所定の粗面が形成されなかったり、或いは、繊維シート１０の貼り付けが困難となったりするおそれもある。勿論、粘着剤乃至接着剤を用いて繊維シート１０の貼り付けを行うこともできるが、この場合には、繊維シート１０の引き剥がしが困難となるおそれがある。
　乾燥は、熱風の吹き付けなどにより、スラリーの塗布層を４０乃至１５０℃程度に加熱することにより行われる。この際、加熱温度を必要以上に高くすると、基材シート１や繊維シート１０の熱による変形が生じてしまうため、注意を要する。

　尚、水酸化カルシウムの炭酸化反応は炭酸ガスとの接触により反応が進行するが、上述したスラリーを非通気性の袋や容器等に密封状態で保存している限り、所定の炭酸化率を維持し、無機固体層３中の水酸化カルシウム量を一定の範囲に保持する上で支障を生じることはない。

　ところで、図２に示されているように、上記印刷用シート２０の無機固体層３の上には繊維シート１０が貼り付けられており、このような繊維シート１０が密着した状態で印刷用シート２０は供給され、インクジェット印刷に際しては、繊維シート１０が剥がされ、無機固体層３の表面３ａにインクジェット印刷が施されることとなる。
　即ち、無機固体層３の表面３ａは、若干の含水或いは不完全な炭酸化のため、その表面硬度が低い状態にあり、このため、繊維シート１０の引き剥がしにより、繊維シート１０の転写用表面１０ａから内部に侵入した無機固体層３の表面部分が繊維シート１０と共に脱落乃至破壊され、この結果、無機固体層３の表面３ａには、繊維シート１０の転写用表面１０ａが転写されることとなる。

　このような繊維シート１０は、当然、無機固体層３の表面を保護する保護シートとしての機能も有する。即ち、無機固体層３は、無機粒子（例えば水酸化カルシウムや炭酸カルシウムの粒子、或いはシリカ等の無機酸化物の粒子など）から形成されているため、比較的脆く、外部からの圧力によって傷が付いたり、或いは表面が脱落したりしてしまうなどの不都合を生じ易いが、上記のような繊維シート１０が、印刷用シート２０の製造直後から印刷直前まで設けられていることにより、このような不都合を有効に防止することができる。

　本発明では、繊維シート１０の転写用表面１０ａが無機固体層３の表面３ａに転写されているため、この表面３ａを印刷面とすることにより、後述するインクジェット印刷像５のメークアップを行うことが可能となる。

　従って、上記の繊維シート１０としては、その面に、後述する凹部が形成されているものが使用され、特に熱融着性繊維からなる不織布シートであって熱ロールによる圧着処理によって、所定の凹部が転写されるように調整されたものが使用される。

　即ち、本発明で用いる繊維シート１０の転写用表面１０ａは、図３に示されているように、倍率１００倍の電子顕微鏡写真で観察して、連続した平坦面と該平坦面に囲まれた不定形の凹部とが混在した面となっている。即ち、図３において、丸で囲んだ黒色の領域が不定形の凹部Ａ（即ち繊維間の間隙）として観察され、この凹部Ａの周囲のコントラストの高い部分が平坦面となっている。

　本発明においては、このような転写用表面１０ａにおいて、平坦面が単位面積当り７０乃至９０％の割合で存在しており、このような平坦面で囲まれるようにして、１ｍｍ^２当り、長径が１０乃至３００μｍの大きさの凹部Ａが５０乃至３００個の数で観察されるように設定されていることが、無機固体層３の表面３ａにメークアップ特性に優れたインクジェット印刷像５を形成する上で重要である。即ち、繊維シート１０の転写用表面１０ａを無機固体層３の表面に密着して積層することにより、無機固体層３の表面部分の無機固体粒子が転写用表面１０ａの不定形凹部Ａ内に侵入する。従って、この繊維シート１０を引き剥がすとき、転写用表面１０ａの凹部Ａ内に侵入した部分が破断し、この結果、無機固体層３の表面３ａには、このような不定形凹部Ａに対応して不定形の凸部が形成されることとなる。

　このように、転写用表面１０ａに、上記のような大きさの不定形の凹部Ａが所定の個数で形成されていることにより、これに対応して所定の大きさの不定形の凸部が無固体層３の表面３ａに転写されることとなり、この結果、このような不定形の凸部の存在によって、無機固体層３の表面３ａに形成される印刷像５は、立体感や奥行き感などともに、きめ細やかなものとなるばかりか、例えば、人物写真（特に顔）を印刷したとき、その表面は、極めて人肌に近い状態に視認され、この結果、優れたメークアップ特性を示すこととなる。

　即ち、上記のような大きさの不定形の凹部Ａを所定の割合で形成するために、熱融着性繊維からなる不織布シートを使用し、この不織布シートを加熱ロールによって圧着処理したものを型材シートして使用することが必要となるわけである。即ち、加熱ロールによる圧着によって、繊維表面をフラットな表面とし、凹部Ａを明瞭に存在させることができる。

　例えば、不織布シートではなく、織布シートを用いた場合には、熱融着を行うと、転写用表面７ａがフラットな面となってしまい、凹凸のある面を無機固体層３の表面３ａに形成することが困難となり、仮に、凹部を明瞭に存在させることができたとしても、繊維が規則正しく織られているため、定形の凹部が規則正しく配列されているような面となってしまい、無機固体層３の表面に形成される印刷像は、例えば人肌とはかなり異なったものとなり、メークアップ特性が損なわれてしまう可能性がある。

　また、不織布シートを用いたとしても、熱融着がされていない場合には、剥がし取った際に繊維の一部が無機固体層３の表面に付着してしまい、その印刷適性を損ねてしまうばかりか、繊維表面が熱により潰されていないため、凹部Ａを明瞭に存在させることができず、このため、無機固体層３の表面３ａに転写される凸部が不安定となり、安定してきめ細やかな画質を形成し得る印刷面を形成することができない。

　さらに、上記の不織布シートは、熱融着性の芯鞘繊維（芯材を高融点繊維、鞘を低融点繊維とする）により形成されていることが好ましい。例えばポリプロピレンを芯材とし、ポリエチレンを鞘とする市販の芯鞘繊維からなる不織布シートが好適に使用される。即ち、このような芯鞘繊維からなる不織布を使用することにより、熱ロールによる圧着処理によって芯部分を溶融させずに鞘部分の低融点繊維を溶融せしめることにより、繊維の形態を残しながら、繊維同士の融着と同時に平坦化を行い、これにより、上述した平坦部と不定形の凹部Ａ（即ち、繊維同士の隙間）を形成することができるのである。

　尚、熱ロールによる圧着は、繊維間の間隙となる凹部が潰されないように温度、時間及びロール圧を調整して行われ、例えば、上記のような芯鞘繊維の不織布を用いた場合には、鞘となる低融点繊維の融点以上、芯の高融点繊維の融点未満の温度で圧着処理を行うことが好ましく、例えば、ポリプロピレンを芯材とし、ポリエチレンを鞘とする芯鞘繊維の不織布シートの場合、９０乃至１５０℃程度の温度で圧着処理を行うことが望ましい。

　また、不織布を構成する繊維やその目付け量は、前述した割合で平坦部及び所定の大きさの凹部Ａが形成されるように設定される。例えば、前述した芯鞘繊維（ポリプロピレン繊維／ポリエチレン繊維）では、その繊維径が１０～５０μｍ程度の長繊維が好適であり、その目付け量が３０乃至１２０ｇ／ｍ^２程度に設定することが好適であり、これにより、例えば繊維シート１０を適度な剥離強度で無機固体層３の表面に密着して保持せしめることができ、安定した転写効果と保護効果を発揮させることができる。

　上記のようにして熱ロールによる圧着処理がなされ且つ所定の条件を満足する転写用表面７ａを有する不織布シートを繊維シート１０として使用し、これを無機固体層３の表面に密着して設け、引き剥がすことにより、無機固体層３の表面３ａを印刷適性に優れた面とし、メークアップ特性に優れた印刷像５を形成することができる。

　このような無機固体層３の表面３ａは、図４に示されているように、倍率１００倍の電子顕微鏡写真で観察して、連続した平坦面と該平坦面に囲まれた不定形の凸部とが混在した面となっている。即ち、図３において、丸で囲んだ黒色の領域が不定形の凸部Ｂであり、この凸部Ｂが、前述した繊維シート１０の転写用表面７ａの凹部Ａ（繊維間の間隙）に対応しとして観察され、この凸部Ｂの周囲のコントラストの低い部分が平坦面となっている。

　図３に示されているように、本発明の印刷用シート１は、無機固体層３の表面３ａに前述した繊維シート１０の転写用表面７ａの不定形凹部Ａが転写されて不定形凸部Ｂが形成されており、倍率１００倍の電子顕微鏡写真で観察して、かかる不定形の凸部Ｂは、単位面積当り１０乃至３０％の割合で存在し、且つ不定形の凸部Ｂとして、１ｍｍ^２当り、長径が１０乃至３００μｍの大きさのものが５０乃至３００個の数で観察される。即ち、不定形の細かな凸部が平坦面の間に数多くランダムに存在しており、このような平坦面及び凸部Ｂに印刷インキが付着し且つ内部に浸透していくことにより、立体感や奥行き感などの自然な風合いを損なうことなく、きめ細かな印刷像５を形成することができ、かかる印刷像５が人物写真の顔である場合、その表面は、人肌に近い状態に視認され、この結果、優れたメークアップ特性を示すこととなる。

　即ち、形状の定まっておらず且つある程度の大きさを有する不定形の凸部Ｂがランダムに数多く、平坦部の間に形成されているため、特にきめ細やかな画質を自然の風合いを損なわずに効果的に映し出すことができるのである。例えば、数多くの凸部が形成されているとしても、凸部の形状が丸や四角などの定形であったり、或いは規則正しく配列されているような場合には、自然さが損なわれ、機械的に合成された印象を与えるようになってしまい、さらには、人肌とは全く違う印象を与えるようになってしまう。
　また、このような無機固体層３の表面３ａには、繊維の付着等がなく、繊維痕等による画質の低下も有効に防止されている。

　上述した印刷用シート２０は、図２に示されているように、繊維シート１０が貼り付けられた形態で市販されるが、通常、無機固体層３を炭酸化が完全に行われていない状態或いは若干水を含む含水状態に維持しておくために、ガスバリア性の樹脂フィルム等により積層体１０の束を包装した形態に保存される。例えば、漆喰含有の無機固化物層３では、これを大気中に放置しておくと、漆喰前駆体の炭酸化が進行していくため、印刷適性（例えば画像の浸透・固定性）などが低下してしまう。このような不都合を回避するため、印刷時点まで、炭酸化を抑制しておく必要があり、このために、ガスバリア性の樹脂フィルムなどにより包装しておくわけである。
　勿論、適度の大きさに裁断された印刷用シート２０をロール状に巻取り、このロールをガスバリアのフィルムで包装して保存することもできる。
　尚、このようなガスバリア性のフィルムとしては、特に制限されるものではなく、一般に包装用フィルムとして使用されている各種の樹脂フィルムが使用されるが、コスト等の観点から、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフイルム等のポリオレフィンフィルムが好適である。

　上記のようにして販売される印刷用シート２０は、包装フィルムを除去し、次いで繊維シート１０を引き剥がして、無機固体層３の表面３ａを露出させ、この面に印刷が施される。

＜印刷像５の形成＞
　本発明のメークアップ印刷品において、上記のようにして露出した無機固体層３の表面３ａには、所定の顔料乃至染料が分散乃至溶解したインクジェットインクを使用し、インクジェットプリンタによって印刷を行い、図１に示されているように、インクジェット印刷像５が形成される。用いるインクジェットインクは、水溶性染料が溶解し或いは顔料が界面活性剤などで水（或いは水／アルコール混合溶媒など）に分散された親水性のインクが最も好適である。このような親水性のインクを用いた場合には、無機固体層３上に滲みがなく且つ安定に保持された鮮鋭なインクジェット印刷像５を形成することができる。特に、本発明においては、顔料を使用したインクが好適に使用される。

　無機固体層３が水酸化カルシウムを含む層である場合、上記のようにして印刷画像が印刷されると、既に述べたように、これを大気中に放置（通常、１～３０日程度）、することにより、あるいは高濃度の炭酸ガスが充填された恒温恒湿器中に放置（通常、１２～１００時間程度）、することにより、炭酸ガスを吸収し、残存する水酸化カルシウムの炭酸化が進行して漆喰（水酸化カルシウムの炭酸化により形成した炭酸カルシウム）となり、特に、印刷像５は、凹凸のある多孔質の漆喰に浸透して固定され、写真画像などと比較すると、実物に近いものとなっている。また、形成された印刷像５は堅牢性に優れ、これを擦ったりしても色落ち等を生じることがなく、さらに、紫外線等からインク成分を保護することができ、長期間、安定に保持される。

　特に、本発明においては、無機固体層３の表面に一定の大きさの不定形の凸部が数多く形成されているため、特に人物像、特に顔写真などを印刷した場合、印刷像５の表面は、先にも述べたように、立体感のある人肌に近い状態となり、後述するメークアップ材料を施すには最適なものとなる。

＜メークアップ層７の形成＞
　本発明のメークアップ印刷品では、上記のインクジェット印刷像５を形成した後、通常、炭酸化が５０重量％以上になった時点で、メークアップ材料が施され、メークアップ層７が形成される（図１参照）。即ち、本発明では、インクジェット印刷像５が適度な凹凸を有する面上に形成され、自然に近い状態で形成されるため、メークアップ材料を滲みなく施すことができ、実物にメークアップ材料を施した場合とほとんど変わらないものとなる。通常の写真像のようにフラットな面上に像が形成されている場合には、この像は、自然とはかけ離れたものとなってしまい、メークアップ材料を施しても実物とはかけ離れたものとなってしまうし、また、メークアップ材料も滲んだりしてしまう。

　上記の説明から理解されるように、本発明では、形成されるインクジェット印刷像５は、デジタルカメラなどにより撮影した人物像（特に顔写真）をインクジェット印刷したものであり、従って、使用されるメークアップ材料は、多くの場合、化粧品である。
　このような化粧品は、公知のものでよく、例えば、粉末状、液状、ペースト状の何れの形態を有していてよく、アイブロウ、アイライナー、マスカラ、口紅、リップライナー、アイシャドウ、ファンデーション、化粧下地、フェイスパウダーなどを、印刷像５の形態等に応じて適宜使用することができる。
　さらに、このようなメークアップ材料は、刷毛、筆、脱脂綿、布などを用いて、その種類に応じた手段により印刷像５の上に施される。

　また、メークアップ材料を施すことにより形成されるメークアップ層７は、適宜、クレンジングなどの溶剤を用いて除去することができ、再びメークアップ材料を施してメークアップ層７を形成することもできる。

　尚、メークアップ材料としては、化粧品を例にとって説明したが、印刷像５が人物写真ではない場合には、単に顔料を分散させた液を印刷像５上に施し、適宜乾燥することによりメークアップ層７を形成することもできる。即ち、インクジェットインクでは、光沢などを表現することができないため、例えばマイカや雲母などを酸化チタン等で被覆したパール顔料などを用いてメークアップ層７を形成することができ、人物像以外についても、メークアップ層７を形成することにより、金属光沢などを付与し、印刷像５の加飾性を高めることができる。

　上記のようにして形成されるメークアップ層７の上には、適宜、保護層９を設けることにより、その保存性を高めることができる。特に、メークアップ層７が形成されている本発明のメークアップ印刷品を、長期保存或いは永久保存する場合には、このような保護層９を形成することが望ましい。

　上記のような保護層９は、透明な非水溶性樹脂を用いて形成される。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、トルエン、シクロヘキサン、酢酸ブチルなどの溶剤に、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂などを溶解させた樹脂溶液をメークアップ層７上にスプレー噴霧等により塗布し、乾燥することにより、また、紫外線硬化性を有するアクリル系モノマーやフッ素系モノマーなどを含有した溶液を塗布した後に紫外線を照射することにより、容易に保護層９を形成することができる。これにより、保護層７は、メークアップ層７の凹部に入り込み、メークアップ層７をしっかりと固定することができる。
　また、このような保護層９は、場合によっては、印刷像５の上に設け、この保護層９上に、メークアップ層７を形成することも可能である。このような手法は、メークアップ層７の形成時の印刷像５の滲みなどを確実に防止する上で有効である。
　なお、上記のように形成される保護層は、メークアップ材料をクレンジング材料によって拭き取る際、クレンジング材料中の水分に溶解することを防ぐために非水溶性樹脂を用いることが好適である。

＜メークアップ印刷品の用途＞
　本発明のメークアップ印刷品は、各種の印刷像５にメークアップを施しての永久保存や長期保存に利用することもできるが、形成されているインクジェット印刷像５が極めて自然に近いものであることから、メークアップ層７の形成手段を利用して、例えば化粧品売り場でのメークアップ（タッチアップと呼ばれることもある）に利用し、メークアップのアドバイスや化粧品の販売などに好適に利用される。即ち、顧客の顔写真を撮影し、前述した印刷用シート２０の無機固体層３にインクジェットプリンタにより印刷を行って顔写真の印刷像５を形成し、その場で、メークアップ材料を施し、メークアップ層７を形成することにより、印刷品の形で、メークアップの効果を視認することができる。
　このような印刷品の使用形態は、これまでに全く知られていないものである。

　本発明の優れた効果を、次の実験例で説明する。
　なお、以下に、実験例で用いた各試験方法および材料を示す。

＜各種評価および測定方法＞
（１）無機固体層或いは不織布の凹部または凸部の数量測定方法：
　電子顕微鏡（ＥＦＩ社製、Ｑａｎｔａ２００．Ｇｅｎｅｓｉｓ２０００型）を用いて無機固化物層或いは不織布の倍率１００倍の表面画像をデジタル画像として撮影した。得られたデジタル画像データを画像処理ソフト（デジタルビーイングキッズ社製、「ＰｏｐＩｍａｇｉｎｇ４．００」）を使って、判別分析法により二値化処理を行い凹部と凸部を明確に区別した。さらに同画像処理ソフトの画像計測機能により、単位面積当たりの凹部或いは凸部の総数および面積比を計測した。

（２）インクジェットプリンタによる印刷：
　各実施例及び比較例に示す条件で作製された積層シート（Ａ４判）にインクジェットプリンタ（エプソン製、商品名：ＰＸ－５Ｖ、顔料が分散された水性インク使用）で画像を印刷した。

（３）メークアップ特性：
　無機固体層３上に形成されたインクジェット印刷像（人物写真像）を有するシートに、メークアップアーチストによる市販のメークアップ材料を施した本発明のメークアップ印刷品、および市販のインクジェット用紙に人物写真のインクジェット印刷像を形成した印刷品に同様のメークアップ材料を施したものを、人肌と比較して目視で以下のような評価を行った。
[評価基準]
　◎人肌に非常に近い
　○人肌にやや近い
　△人肌とはやや違う
　×人肌とは全く違う

（４）クレンジング特性：
　無機固体層３上に形成されたインクジェット印刷像を有するシートに、メークアップアーチストによる市販のファンデーションを施した本発明のメークアップ印刷品、市販のインクジェット用紙に人物写真のインクジェット印刷像を形成した印刷品、および市販のインクジェット用紙に人物写真のインクジェット印刷像を形成した印刷品に同様のファンデーションを施した印刷品に関して、市販の化粧落とし用クレンジングシートを用いてファンデーションを拭き取って以下のような評価を行った。
[評価基準]
　○ファンデーションがきれいに落とせた
　△ファンデーションが所々残った
　×ファンデーションが半分以上残った

＜使用材料＞
（１）木材パルプ紙：
　　　富士共和製紙製インクジェット原紙「ＦＫスラットＲ－ＩＪ」（商品名）
　　　（厚み０．１７ｍｍ、目つけ量１６０ｇ／ｍ^２）
（２）水酸化カルシウム：
　　　宇部マテリアルズ製「高純度消石灰ＣＨ」（商品名）
　　　　平均粒径（D50）＝７．５μｍ
（３）炭酸カルシウム：
　　　　薬仙石灰製「ホワイト７」（商品名）
　　　　平均粒径（D50）＝５．５μｍ
（４）シリカ：
　　　　トクヤマ製「ファインシール」（商品名）
　　　　平均粒径（D50）＝５．０μｍ
（５）水性アクリル樹脂エマルジョン：
　　　旭化成工業株式会社製「ポリトロンＡ１４８０」（商品名）
　　　固形分４０重量％
（６）アルミナ水和物微粉末：
　　　平均粒径(D50)０．０５μｍ、吸油量１８０ｍｌ／１００ｇ
（７）不織布Ａ：
　　　シンワ株式会社製芯鞘繊維不織布
　　　芯：ポリプロピレン、鞘：ポリエチレン
　　　繊維径：０．０２ｍｍ、厚み：０．１２ｍｍ、目付量：６０ｇ／ｍ^２

（製造例１、２）
　不織布Ａを熱カレンダー処理して、表１に示す不織布α、βを得た。これら不織布の凹部の単位面積当たりの総数と面積比を上記の測定方法にて測定した。その結果を表１に示す。

下記処方：
　　　水酸化カルシウム　１００重量部
　　　水性アクリル樹脂エマルジョン　６０重量部
　　　水　２０重量部
　　　吸液性無機粉体（アルミナ水和物微粉末）　５重量部
により各成分を混練し、無機スラリーを得た。
　基材シートとして、木材パルプ紙（３００×３００ｍｍ）を使用し、その表面に、得られた無機スラリーをバーコーターで塗布し、直後に表１に示す不織布αおよびβをスラリー表面に圧着させ、７５℃の乾燥機中で１５分間乾燥させた。
　得られた積層シートの表面に密着している不織布を剥ぎ取り、印刷用シートＡおよびＢを得た。また、不織布α、βをはぎ取った後の無機固体層表面に繊維の付着はなかった。次に、印刷用シートＡおよびＢの無機固体層表面の凸部の単位面積当たりの総数と面積比を上記の測定方法にて測定した。その結果を表２に示す。

（製造例３，４）
　下記処方：
　　　シリカ　１００重量部
　　　水性アクリル樹脂エマルジョン　８０重量部
　　　水　１０重量部
　　　吸液性無機粉体（アルミナ水和物微粉末）　５重量部
により各成分を混練し、無機スラリーを得た。
基材シートとして、木材パルプ紙（３００×３００ｍｍ）を使用し、その表面に、得られた無機スラリーをバーコーターで塗布し、直後に表１に示す不織布αおよびβをスラリー表面に圧着させ、８０℃の乾燥機中で３０分間乾燥させた。
　得られた積層シートの表面に密着している不織布を剥ぎ取り、印刷用シートＣおよびＤを得た。また、不織布α、βをはぎ取った後の無機固体層表面に繊維の付着はなかった。次に、印刷用シートＣおよびＤの無機固体層表面の凸部の単位面積当たりの総数と面積比を上記の測定方法にて測定した。その結果を表３に示す。

（実施例１、２）
　製造例１および２で得られた印刷用シートＡおよびＢの無機固体層表面にインクジェットプリンタで女性の顔と等倍の女性の画像を印刷した。室温で５時間乾燥させた後、炭酸ガス濃度５％、湿度６０％ＲＨの恒温恒湿器中に７２時間放置して炭酸化させた。炭酸化させた後の印刷用シートＡおよびＢの無機固体層の炭酸化率はそれぞれ７６％および８１％であった。
　上記のようにして得られた印刷用シートに市販のメークアップ材料を施し、メークアップ特性の評価を行った。また、市販のメークアップ材料を施した部分のクレンジング特性の評価も行った。その結果を表５に示す。
　続いて、アクリル樹脂（積水化学製、エスレックＢＭ－1）をイソプロパンール（ＩＰＡ）に溶解し、濃度が６重量％になるように調整した非水溶性樹脂溶液を、メークアップ材料を施した画像にスプレーで塗布し、２時間室温で乾燥させ、市販の化粧落とし用のクレンジングシートでふき取ったところ、メークアップ材料は拭き取る前と変わらず、メークアップ材料の強固な固定ができていた。

（実施例３、４）
　実施例１、２で得られた印刷後の炭酸化した印刷用シートの無機固体層表面に、実施例１、２と同様の非水溶性樹脂溶液をスプレーで塗布し、２時間室温で乾燥させた。
　その後、非水溶性樹脂を塗布した印刷用シートを用い、実施例１、２と同様に市販のメークアップ材料を施し、メークアップ特性の評価を行った。また、市販のメークアップ材料を施した部分のクレンジング特性の評価も行った。その結果を表５に示す。
　さらに、実施例１、２と同様の非水溶性樹脂溶液を、メークアップ材料を施した画像にスプレーで塗布し、２時間室温で乾燥させ、市販の化粧落とし用のクレンジングシートでふき取ったところ、メークアップ材料は拭き取る前と変わらず、メークアップ材料の強固な固定ができている。

（実施例５、６）
　製造例３および４で得られた印刷用シートＣおよびＤの無機固体層表面にインクジェットプリンタで女性の顔と等倍の女性の画像を印刷し、室温で１２時間乾燥させた。
　上記のようにして得られた印刷用シートに市販のメークアップ材料を施し、メークアップ特性の評価を行った。また、市販のメークアップ材料を施した部分のクレンジング特性の評価も行った。その結果を表５に示す。
　続いて、アクリル樹脂（積水化学製、エスレックＢＭ－1）をイソプロパンール（ＩＰＡ）に溶解し、濃度が６重量％になるように調整した非水溶性樹脂溶液を、メークアップ材料を施した画像にスプレーで塗布し、２時間室温で乾燥させ、市販の化粧落とし用のクレンジングシートでふき取ったところ、メークアップ材料は拭き取る前と変わらず、メークアップ材料の強固な固定ができていた。

（実施例７、８）
　実施例５、６で得られた印刷後の印刷用シートＣおよびＤの無機固体層表面に、実施例１、２と同様の非水溶性樹脂溶液をスプレーで塗布し、２時間室温で乾燥させた。
　その後、非水溶性樹脂を塗布した印刷用シートを用い、実施例１、２と同様に市販のメークアップ材料を施し、メークアップ特性の評価を行った。また、市販のメークアップ材料を施した部分のクレンジング特性の評価も行った。その結果を表５に示す。
　さらに、実施例１、２と同様の非水溶性樹脂溶液を、メークアップ材料を施した画像にスプレーで塗布し、２時間室温で乾燥させ、市販の化粧落とし用のクレンジングシートでふき取ったところ、メークアップ材料は拭き取る前と変わらず、メークアップ材料の強固な固定ができている。

（比較例１、２）
　製造例において用いた印刷用シートの代わりに市販のインクジェット用紙ＡおよびＢを用い、単位面積当たりの凹部の総数および面積比を計測した。その結果を表４に示す。その後、実施例と同様にインクジェットプリンタで女性の顔と等倍の女性の画像を印刷した。
　このようにして得られたインクジェット用紙に市販のメークアップ材料を施し、メークアップ特性の評価を行った。また、市販のメークアップ材料を施した部分のクレンジング特性の評価も行った。その結果を表５に示す。クレンジング材料でメークアップ材料を拭き取る際に、インクジェット用紙がクレンジング材料中の水分で膨潤し、メークアップ材料とともに用紙に浸透してしまい、拭き取りが困難であった。

　　１：基材シート
　　３：無機固体層
　　５：インクジェット印刷像
　　７：メークアップ層
　　９：保護層
　１０：繊維シート
　２０：印刷用シート

Claims

　基材シート、該基材シート上に設けられた無機固体層及び該無機固体層上に形成されたインクジェット印刷像を含み、該インクジェット印刷像上にメークアップ材料が施されていると共に、前記無機固体層の表面は、倍率１００倍の電子顕微鏡写真で観察して、不定形凸部が単位面積当たり１０～３０％の割合で存在する粗面となっており、該不定形凸部のうち、長径が１０～３００μｍの範囲にあるものが１ｍｍ^２当り５０～３００個の数で観察されることを特徴とするメークアップ印刷品。
　前記無機固体層が、水酸化カルシウムを含む請求項２に記載のメークアップ化粧品。
　前記無機固体層の粗面は、該無機固体層に繊維シートを密着させ、該繊維シートを引き剥がすことにより形成されたものである請求項１に記載のメークアップ印刷品。
　非水溶性樹脂による保護層が、前記メークアップ材料の層上或いは前記インクジェット印刷像上に形成されている請求項１に記載のメークアップ印刷品。
　前記非水溶性樹脂が、アクリル系樹脂である請求項４に記載のメークアップ印刷品。
　基材シート、該基材シート上に設けられた無機固体層と該無機固体層上に密着した繊維シートからなる印刷用シートを用意し、
　前記印刷用シートから繊維シートを引き剥がすことにより、前記無機固体層の表面を粗面とし、
　前記粗面上に、インクジェット印刷により、人物写真のインクジェット印刷像を形成し、
　前記インクジェット印刷像にメークアップ材料を施すことを特徴とするメークアップ方法。
　前記無機固体層の表面は、倍率１００倍の電子顕微鏡写真で観察して、不定形凸部が単位面積当たり１０～３０％の割合で存在する粗面となっており、該不定形凸部のうち、長径が１０～３００μｍの範囲にあるものが１ｍｍ^２当り５０～３００個の数で観察される請求項６に記載のメークアップ方法。