以下、図面を参照しつつ、本発明の実施例について説明する。
図1は、本発明の第1実施例に係る油圧閉回路システム100の構成例を示す概略図である。
油圧閉回路システム100は、電動モータ2によって回転制御される油圧ポンプ1で油圧シリンダ3を駆動するシステムである。油圧シリンダ3は、例えば、被制御部としての大負荷容量油圧駆動式大型平面研削盤のテーブルを移動させるために用いられる。
本実施例では、油圧閉回路システム100は、主に、油圧ポンプ1、電動モータ2、油圧シリンダ3、安全弁4L、4R、シャトル弁7、出力検出用センサ9、制御装置10、入力装置15、表示装置16、及び音声出力装置17で構成される。
油圧ポンプ1は、油圧シリンダ3を駆動する装置であり、例えば、固定容量型の双方向油圧ポンプである。なお、油圧ポンプ1は、可変容量型のポンプであってもよい。
電動モータ2は、油圧ポンプ1の回転を制御する装置であり、例えば、可変速のACサーボモータである。
油圧シリンダ3は、ピストン3aによって隔てられる第一油室3L及び第二油室3Rを有する油圧アクチュエータである。第一油室3Lは、第一ポート3b及び管路C1を通じて、油圧ポンプ1の第一ポンプポート1aに流体的に連通され、第二油室3Rは、第二ポート3c及び管路C2を通じて、油圧ポンプ1の第二ポンプポート1bに流体的に連通される。本実施例において、油圧シリンダ3は、ピストン3aの両側に延びる2つのロッドを備えた両ロッドシリンダであり、2つのロッドのうちの一方又は双方が平面研削盤テーブル(図示せず。)に結合される。なお、油圧シリンダ3は、ピストン3aの片側に延びる1つのロッドを備えた片ロッドシリンダであってもよく、平面研削盤テーブルが直接的にピストン3aに結合されるような、ロッドのない構成であってもよい。
安全弁4Lは、管路C1内の圧力が所定圧力以上となった場合に、管路C1内の作動油を作動油タンクT1に逃がすための弁である。また、安全弁4Rは、管路C2内の圧力が所定圧力以上となった場合に、管路C2内の作動油を作動油タンクT1に逃がすための弁である。
安全弁4Lは、作動油タンクT1に流体的に連通される管路C3と管路C1とを繋ぐ管路C4上に配置され、安全弁4Rは、管路C3と管路C2とを繋ぐ管路C5上に配置される。
シャトル弁7は、管路C1又は管路C2と作動油タンクT1との間の作動油の流れを制御する弁であり、1つの一次側ポート7aと2つの二次側ポート7b、7cとを有する。
一次側ポート7aは、管路C11を介して、作動油タンクT1に流体的に連通され、二次側ポートの一方7bは、管路C7を介して、管路C1に流体的に連通され、二次側ポートの他方7cは、管路C8を介して、管路C2に流体的に連通される。
具体的には、シャトル弁7は、管路C1内の圧力が作動油タンクT1内の圧力よりも低い場合、二次側ポート7bを通じて、作動油タンクT1の作動油を管路C1内に導入する。また、シャトル弁7は、管路C2内の圧力が作動油タンクT1内の圧力よりも低い場合、二次側ポート7cを通じて、作動油タンクT1の作動油を管路C2内に導入する。油圧ポンプ1の回転等によって生じる管路C1又は管路C2における作動油の不足を補うためである。
出力検出用センサ9は、電動モータ2の出力に関する値を検出するセンサであり、例えば、ピストン3aの位置を検出する位置センサ9a、油圧ポンプ1の回転を検出する回転センサ9b、油圧ポンプ1の第一ポンプポート1aからの吐出量を検出する第一吐出量センサ9c1、油圧ポンプ1の第二ポンプポート1bからの吐出量を検出する第一吐出量センサ9c2等を含む。また、出力検出用センサ9は、検出した値を制御装置10に対して出力する。
制御装置10は、油圧閉回路システム100を制御するための装置であり、例えば、CPU、RAM、ROM、入出力インタフェース等を備えたコンピュータである。
また、制御装置10は、入力装置15を介した操作者の入力に応じて、平面研削盤テーブルの所要移動距離(現在位置から目標位置までの距離)、すなわち、ピストン3aの所要移動距離を決定する。さらに、制御装置10は、決定したピストン3aの所要移動距離に応じてピストン3aの目標移動速度(ピストン3aの移動方向は、目標移動速度の値の正負によって表される。)を決定し、決定した目標移動速度に対応する制御指令を電動モータ2に対して出力する。具体的には、制御装置10は、ピストン3aの所要移動距離が大きいほど目標移動速度が大きくなるようにする。また、制御装置10は、ピストン3aの所要移動距離が小さくなるにつれて、すなわち、目標位置に近づくにつれて、目標移動速度が小さくなるようにする。
また、制御装置10は、位置センサ9aの出力に基づいてピストン3aの位置、すなわち、平面研削盤テーブルの位置を監視しながら、平面研削盤テーブルが目標位置に到達したか否かを判定する。
平面研削盤テーブルが目標位置に到達したと判定した場合に、制御装置10は、油圧ポンプ1の回転を停止させるための制御指令を電動モータ2に対して出力する。
入力装置15は、操作者が各種情報を制御装置10に対して入力できるようにする装置であり、例えば、ハードウェアボタン、キーボード、マウス、タッチパネル等である。
表示装置16は、制御装置10が出力する各種情報を表示する装置であり、例えば、液晶ディスプレイ、LEDランプ等である。
音声出力装置17は、制御装置10が出力する各種情報を音声出力する装置であり、例えば、スピーカ、ブザー等である。
次に、図2を参照しながら、制御装置10が有する各種機能要素について説明する。なお、図2は、制御装置10の構成例を示す機能ブロック図である。
制御装置10は、電動モータ制御部11、ポンプ効率算出部12、及びポンプ状態判定部13のそれぞれの機能要素に対応するプログラムをROMから読み出してRAMに展開し、各プログラムに対応する処理をCPUに実行させる。
電動モータ制御部11は、電動モータ2を制御する機能要素であり、例えば、各種情報に基づいて電動モータ2を制御するための制御指令を生成し、生成した制御指令を電動モータ2に対して出力する。
ここで、図3を参照しながら、電動モータ制御部11が電動モータ2を制御する処理(以下、「電動モータ制御処理」とする。)の流れについて説明する。なお、図3は、電動モータ制御処理の流れを示すフローチャートであり、電動モータ制御部11は、所定周期で繰り返しこの電動モータ制御処理を実行する。
最初に、電動モータ制御部11は、ピストン3aの目標移動速度に基づいて電動モータ2の制御目標値を決定する(ステップS1)。本実施例では、制御装置10は、例えば、入力装置15を介した操作者の数値入力に基づいて制御目標値としてのピストン3aの所要移動距離を決定する。そして、制御装置10は、ピストン3aの所要移動距離に基づいてピストン3aの目標移動速度を決定する。
その後、電動モータ制御部11は、出力検出用センサ9が出力する、制御目標値に対応する実測値を取得する(ステップS2)。本実施例では、電動モータ制御部11は、位置センサ9aの出力に基づいて、ピストン3aの実際の移動速度を取得する。
その後、電動モータ制御部11は、フィードバック制御により、制御目標値とその制御目標値に対応する実測値との差を打ち消すように制御指令値を生成し(ステップS3)、生成した制御指令値を電動モータ2に対して出力する(ステップS4)。本実施例では、電動モータ制御部11は、目標移動速度と位置センサ9aの出力に基づく実測移動速度(単位時間当たりの移動距離)との差を打ち消すように速度指令値を生成し、生成した速度指令値を電動モータ2に対して出力する。
このようにして、電動モータ制御部11は、ピストン3aの移動速度のフィードバックにより電動モータ2の回転速度を制御する。なお、電動モータ制御部11は、速度指令値に基づいてトルク指令値(電流指令値)を算出し、電動モータ2を流れる電流を測定する電流計(図示せず。)の出力をフィードバックして電流指令値と実測電流値との差を打ち消すように電動モータ2のトルクを制御してもよい。
その結果、電動モータ制御部11は、ピストン3aと電動モータ2との間に介在する構成要素の状態、すなわち、油圧ポンプ1の状態の善し悪しにかかわらず、電動モータ2を制御することによってピストン3aの所望の移動速度を実現させることができる。したがって、電動モータ制御部11は、例えば、電動モータ2の所与の回転速度に対応する油圧ポンプ1の実際の吐出量が予期される吐出量より少ない場合であっても、その状態を操作者に気付かせることなく、ピストン3aを所望の移動速度で移動させることができる。制御の安定性を図るために油圧ポンプ1の吐出量不足を電動モータ2の回転速度の上昇によって自動的に補うためである。
なお、電動モータ制御部11は、本実施例では、制御目標値としてピストン3aの目標移動速度を採用したが、油圧ポンプ1の目標回転速度、又は、油圧ポンプ1の目標吐出量を制御目標値として採用してもよい。この場合、電動モータ制御部11は、回転センサ9bが出力する油圧ポンプ1の回転速度、又は、第一吐出量センサ9c1若しくは第二吐出量センサ9c2が出力する油圧ポンプ1の吐出量を制御目標値に対応する実測値として取得する。
ポンプ効率算出部12は、油圧ポンプ1のポンプ効率を算出する機能要素である。
「ポンプ効率」とは、油圧ポンプ1の吐出効率を意味し、例えば、電動モータ2の入力に関する値と、電動モータ2の出力に関する値とに基づいて算出される。ポンプ効率は、基本的には、時間の経過とともに、すなわち油圧ポンプ1の経年劣化により低下する値であり、所定値を下回った場合には、油圧ポンプ1の交換又はメンテナンス(以下、「交換等」とする。)が必要であることを表す。
本実施例では、ポンプ効率は、電動モータ2に入力される制御指令値に応じて電動モータ2が実際に回転することで実現されたピストン3aの移動速度を、その制御指令値で除した値が採用される。
ポンプ状態判定部13は、油圧ポンプ1の状態を判定する機能要素であり、例えば、現在の油圧ポンプ1の状態が継続的な使用に適したものであるか否かを判定する。
ここで、図4及び図5を参照しながら、ポンプ状態判定部13が油圧ポンプ1の状態を判定する処理(以下、「ポンプ状態判定処理」とする。)の流れについて説明する。なお、図4は、ポンプ状態判定処理の流れを示すフローチャートであり、ポンプ状態判定部13は、所定周期で繰り返しこのポンプ状態判定処理を実行する。また、図5は、電動モータ2に適用される電流指令値とピストン3aの移動速度の実測値との関係を示す図であり、横軸が電流指令値を表し、縦軸がピストン3aの移動速度の実測値を表す。
最初に、ポンプ状態判定部13は、電動モータ制御部11が電動モータ2に対して出力した制御指令値を電動モータ2の入力に関する値として取得する(ステップS11)。本実施例では、ポンプ状態判定部13は、制御指令値としての電流指令値D1を取得する。
その後、ポンプ状態判定部13は、その制御指令値が電動モータ2に適用されたために実現された電動モータ2の出力に関する値を取得する(ステップS12)。本実施例では、ポンプ状態判定部13は、電流指令値D1が電動モータ2に適用されて電動モータ2の回転速度が変化したために実現されたピストン3aの実際の移動速度V1を位置センサ9aの出力に基づいて取得する。
その後、ポンプ状態判定部13は、電動モータ2に適用された制御指令値に起因する実測値に基づいて基準指令値を取得する(ステップS13)。本実施例では、ポンプ状態判定部13は、電動モータ2に適用された電流指令値D1に起因するピストン3aの実際の移動速度V1に基づいて基準指令値Dsを取得する。
「基準指令値」とは、電動モータ2の出力に関する所定の実測値を実現するために必要とされる基準となる制御指令値を意味する。本実施例において、基準指令値は、例えば、油圧閉回路システム100の初期使用時において、ピストン3aの所定の移動速度を実現するために必要とされる電流指令値に相当する。基準指令値は、例えば、ピストン3aの移動速度の各値に対応付けて対応テーブルの形で制御装置10のROMに予め記憶されている。図5の破線は、基準指令値とピストン3aの移動速度とによって決まる基準ポンプ効率を表す線分である。図5の基準ポンプ効率を表す線分は、仮に電流指令値D1が基準指令値であったならば、ピストン3aの移動速度V2を実現できたことを示す。一方、図5の実線は、現在の電流指令値D1とピストン3aの実際の移動速度V1とによって推定される現在のポンプ効率を表す線分である。また、図5の一点鎖線は、許容最大指令値とその許容最大指令値を適用した場合のピストン3aの移動速度とによって決まる許容下限ポンプ効率を表す線分である。
「許容最大指令値」とは、電動モータ2の出力に関する所定の実測値を実現するために適用され得る最大の制御指令値を意味する。本実施例において、許容最大指令値は、例えば、ピストン3aの所定の移動速度を実現するために適用可能な最大の電流指令値に相当する。ピストン3aの所定の移動速度を実現するために許容最大指令値を上回る電流指令値が必要とされる場合、すなわち、ポンプ効率が許容下限ポンプ効率を下回る場合、油圧ポンプ1に異常があると推定できる。なお、図5の斜線ハッチング領域は、ポンプ効率が許容下限ポンプ効率を下回る領域を表す。
具体的には、ポンプ状態判定部13は、制御装置10のROMに記憶された、ピストン3aの移動速度と基準指令値との関係を記憶する対応テーブルを参照して、ヒストン3aの移動速度V1を実現するために必要とされる基準指令値Dsを取得する。
その後、ポンプ状態判定部13は、取得した基準指令値Dsと現在の電流指令値D1との差ΔDを算出し(ステップS14)、算出した差ΔDと所定の閾値ΔDmaxとを比較する(ステップS15)。なお、所定の閾値ΔDmaxは、例えば、基準指令値Dsに対する差の許容最大値として基準指令値Dsに関連付けて制御装置10のROMに予め記憶された値であり、個々の基準指令値のそれぞれに対応する値が用意されている。
また、比較対象となる差ΔDの値は、瞬間値であってもよく、所定期間に亘って継続的に算出される複数の差ΔDの値に基づく統計値(例えば、平均値、中央値、最小値、最大値、最頻値等である。)であってもよい。
差ΔDの値が所定の閾値ΔDmaxを上回ると判断した場合(ステップS15のYES)、ポンプ状態判定部13は、現在の油圧ポンプ1の状態が継続的な使用に適したものではないと判定する。
この場合、ポンプ状態判定部13は、表示装置16及び音声出力装置17の少なくとも一方に対して制御信号を出力し、現在の油圧ポンプ1の状態が継続的な使用に適したものではないことを操作者に通知した上で(ステップS16)、今回のポンプ状態判定処理を終了させる。
一方で、差ΔDの値が所定の閾値ΔDmax以下であると判断した場合(ステップS15のNO)、ポンプ状態判定部13は、現在の油圧ポンプ1の状態が継続的な使用に適したものであると判定する。
この場合、ポンプ状態判定部13は、表示装置16及び音声出力装置17に制御信号を出力することなく、今回のポンプ状態判定処理を終了させる。
なお、ポンプ状態判定部13は、油圧ポンプ1の回転方向のそれぞれに関して、油圧ポンプ1の状態を別々に判定してもよい。特定の回転方向に限って、油圧ポンプ1の状態が異常となる場合があるためであり、そのような異常状態をより早期に検知できるようにするためである。
このように、油圧閉回路システム100は、電動モータ2の入力に関する値としての電流指令値D1と、電動モータ2の出力に関する値としてのピストン3aの移動速度V1から導き出される基準指令値Dsとの差に基づいて油圧ポンプ1の状態を判定する。その結果、油圧閉回路システム100は、油圧ポンプ1の動作環境が変化する中でも油圧ポンプ1の状態を判定することができる。また、油圧閉回路システム100は、経年劣化等に起因する油圧ポンプ1のポンプ効率の低下に伴うエネルギ損失の増大をより早期に検知することができる。また、油圧閉回路システム100は、油圧ポンプ1の交換等の必要性を操作者により早期に通知することができ、省エネ化、ランニングコスト削減等を実現できる。
また、油圧閉回路システム100は、電動モータ2と油圧シリンダ3との間に介在する主な構成要素を油圧ポンプ1のみとし、油圧ポンプ1と油圧シリンダ3とを一対一で対応付けることにより、電動モータ2の出力に関する値としてピストン3aの移動速度を採用する。その結果、油圧閉回路システム100は、電動モータ2の出力に関する値を容易に検出することができる。
次に、図6及び図7を参照しながら、ポンプ状態判定処理の別の実施例(以下、「第二ポンプ状態判定処理」とする。)について説明する。なお、図6は、第二ポンプ状態判定処理の流れを示すフローチャートであり、ポンプ状態判定部13は、所定周期で繰り返しこの第二ポンプ状態判定処理を実行する。また、図7は、電動モータ2に適用される電流指令値とピストン3aの移動速度の実測値との関係を示す図であり、図5に対応する。
最初に、ポンプ状態判定部13は、電動モータ制御部11が電動モータ2に対して出力した制御指令値を電動モータ2の入力に関する値として取得する(ステップS21)。本実施例では、ポンプ状態判定部13は、制御指令値としての電流指令値を取得する。
その後、ポンプ状態判定部13は、その制御指令値が電動モータ2に適用されたために実現された電動モータ2の出力に関する値を取得する(ステップS22)。本実施例では、ポンプ状態判定部13は、電流指令値D1が電動モータ2に適用されて電動モータ2の回転速度が変化したために実現されたピストン3aの実際の移動速度V1を位置センサ9aの出力に基づいて取得する。
その後、ポンプ状態判定部13は、電動モータ2に適用された制御指令値とその制御指令値に起因する実測値とに基づいてポンプ効率算出部12が算出したポンプ効率を取得する(ステップS23)。本実施例では、ポンプ状態判定部13は、電動モータ2に適用された電流指令値D1とピストン3aの実際の移動速度V1とに基づいてポンプ効率算出部12が算出したポンプ効率θ(=移動速度V1÷電流指令値D1)を取得する。
その後、ポンプ状態判定部13は、取得したポンプ効率θと所定の許容下限ポンプ効率θminとを比較する(ステップS24)。なお、所定の許容下限ポンプ効率θminは、例えば、最大許容指令値とその最大許容指令値を適用した場合のピストン3aの移動速度とによって決まる値であり、制御装置10のROMに予め記憶されている。また、比較対象となるポンプ効率θは、瞬間値であってもよく、所定期間に亘って継続的に算出される複数のポンプ効率の値に基づく統計値(例えば、平均値、中央値、最小値、最大値、最頻値等である。)であってもよい。
取得したポンプ効率θが所定の許容下限ポンプ効率θminを下回ると判断した場合(ステップS24のYES)、ポンプ状態判定部13は、現在の油圧ポンプ1の状態が継続的な使用に適したものではないと判定する。
この場合、ポンプ状態判定部13は、表示装置16及び音声出力装置17の少なくとも一方に対して制御信号を出力し、現在の油圧ポンプ1の状態が継続的な使用に適したものではないことを操作者に通知した上で(ステップS25)、今回の第二ポンプ状態判定処理を終了させる。
一方で、取得したポンプ効率θが所定の許容下限ポンプ効率θmin以上であると判断した場合(ステップS24のNO)、ポンプ状態判定部13は、現在の油圧ポンプ1の状態が継続的な使用に適したものであると判定する。
この場合、ポンプ状態判定部13は、表示装置16及び音声出力装置17に制御信号を出力することなく、今回の第二ポンプ状態判定処理を終了させる。
なお、ポンプ状態判定部13は、油圧ポンプ1の回転方向のそれぞれに関して、油圧ポンプ1の状態を別々に判定してもよい。特定の回転方向に限って、油圧ポンプ1の状態が異常となる場合があるためであり、そのような異常状態をより早期に検知できるようにするためである。
このように、油圧閉回路システム100は、電動モータ2の入力に関する値としての電流指令値D1と電動モータ2の出力に関する値としてのピストン3aの移動速度V1とから導き出されるポンプ効率θと、許容下限ポンプ効率θminとの比較に基づいて油圧ポンプ1の状態を判定する。その結果、油圧閉回路システム100は、油圧ポンプ1の動作環境が変化する中でも油圧ポンプ1の状態を判定することができる。また、油圧閉回路システム100は、経年劣化等に起因する油圧ポンプ1のポンプ効率の低下に伴うエネルギ損失の増大をより早期に検知することができる。また、油圧閉回路システム100は、油圧ポンプ1の交換等の必要性を操作者により早期に通知することができ、省エネ化、ランニングコスト削減等を実現できる。
また、油圧閉回路システム100は、電動モータ2と油圧シリンダ3との間に介在する主な構成要素を油圧ポンプ1のみとし、油圧ポンプ1と油圧シリンダ3とを一対一で対応付けることにより、電動モータ2の出力に関する値としてピストン3aの移動速度を採用する。その結果、油圧閉回路システム100は、電動モータ2の出力に関する値を容易に検出することができる。
図8は、本発明の第2実施例に係る油圧閉回路システム100Aの構成例を示す概略図である。なお、図8は、図の明瞭化のため、入力装置15、表示装置16、音声出力装置17、回転数センサ9b、第一吐出量センサ9c1、及び第二吐出量センサ9c2の図示を省略する。また、油圧閉回路システム100Aは、入力装置15、表示装置16、音声出力装置17、回転数センサ9b、第一吐出量センサ9c1、及び第二吐出量センサ9c2を有しない構成であってもよい。
油圧閉回路システム100Aは、電動モータ2によって回転制御される油圧ポンプ1で油圧シリンダ3を駆動するシステムである。油圧シリンダ3は、例えば、大負荷容量油圧駆動式大型平面研削盤のテーブルを駆動するために用いられる。
本実施例では、油圧閉回路システム100Aは、主に、油圧ポンプ1、電動モータ2、油圧シリンダ3、安全弁4L、4R、シャトル弁7、センサ9、制御装置10、リリーフ弁20L、20R、及びチェック弁21L、21Rで構成される。
油圧ポンプ1は、油圧シリンダ3を駆動する装置であり、例えば、固定容量型又は可変容量型の斜板式双方向アキシャルピストンポンプである。なお、油圧ポンプ1は、固定容量型又は可変容量型の斜軸式アキシャルピストンポンプであってもよく、固定容量型又は可変容量型のラジアルピストンポンプであってもよい。
電動モータ2は、油圧ポンプ1の回転を制御する装置であり、例えば、ACサーボモータである。具体的には、電動モータ2は、例えば、油圧ポンプ1の回転速度を可変制御する。
油圧シリンダ3は、ピストン3aによって隔てられる第一油室3L及び第二油室3Rを有する油圧アクチュエータである。第一油室3Lは、第一ポート3b及び管路C1を通じて、油圧ポンプ1の第一ポンプポート1aに流体的に連通され、第二油室3Rは、第二ポート3c及び管路C2を通じて、油圧ポンプ1の第二ポンプポート1bに流体的に連通される。本実施例において、油圧シリンダ3は、ピストン3aの両側に延びる2つのロッドを備えた両ロッドシリンダであり、2つのロッドのうちの一方が平面研削盤テーブル(図示せず。)に結合される。なお、油圧シリンダ3は、ピストン3aの片側に延びる1つのロッドを備えた片ロッドシリンダであってもよく、平面研削盤テーブルが直接的にピストン3aに結合されるような、ロッドのない構成であってもよい。
安全弁4Lは、管路C1内の圧力が所定の設定圧以上となった場合に、管路C1内の作動油を作動油タンクT1に逃がすための弁である。また、安全弁4Rは、管路C2内の圧力が所定の設定圧以上となった場合に、管路C2内の作動油を作動油タンクT1に逃がすための弁である。
安全弁4Lは、作動油タンクT1に流体的に連通される管路C3と管路C1とを繋ぐ管路C4上に配置され、安全弁4Rは、管路C3と管路C2とを繋ぐ管路C5上に配置される。
シャトル弁7は、管路C1又は管路C2と作動油タンクT1との間の作動油の流れを制御する弁であり、1つの一次側ポート7aと2つの二次側ポート7b、7cとを有する。
一次側ポート7aは、管路C11を介して、作動油タンクT1に流体的に連通され、二次側ポートの一方7bは、管路C7を介して、管路C1に流体的に連通され、二次側ポートの他方7cは、管路C8を介して、管路C2に流体的に連通される。
具体的には、シャトル弁7は、管路C1内の圧力が作動油タンクT1の圧力よりも低い場合、二次側ポート7bを通じて、作動油タンクT1の作動油を管路C1内に導入する。また、シャトル弁7は、管路C2内の圧力が作動油タンクT1の圧力よりも低い場合、二次側ポート7cを通じて、作動油タンクT1の作動油を管路C2内に導入する。
このように、シャトル弁7は、油圧ポンプ1が回転し、管路C1及び管路C2のうちの一方における作動油の圧力が作動油タンクT1における作動油の圧力未満となった場合に、すなわち、作動油が不足した場合に、作動油タンクT1における作動油によってその不足を補うようにする。
センサ9aは、油圧シリンダ3の動作状態を検出するセンサであり、例えば、ピストン3aの変位を検出する位置センサである。センサ9aは、検出した値を制御装置10に対して出力する。
制御装置10は、油圧閉回路システム100Aを制御するための装置であり、例えば、CPU、RAM、ROM、入出力インタフェース等を備えたコンピュータである。
また、制御装置10は、ユーザ入力に応じて、平面研削盤テーブルの所要移動距離(現在位置から目標位置までの距離)、すなわち、ピストン3aの所要移動距離を決定する。さらに、制御装置10は、決定したピストン3aの所要移動距離に応じて油圧ポンプ1の回転方向及び回転速度を決定し、決定した油圧ポンプ1の回転方向及び回転速度に対応する制御信号を電動モータ2に対して出力する。具体的には、制御装置10は、ピストン3aの所要移動距離が大きいほど油圧ポンプ1の回転速度が大きくなるように油圧ポンプ1の回転速度を決定する。また、制御装置10は、ピストン3aの所要移動距離が小さくなるにつれて、すなわち、目標位置に近づくにつれて、油圧ポンプ1の回転速度が小さくなるように、油圧ポンプ1の回転速度を決定する。
また、制御装置10は、センサ9aの出力に基づいてピストン3aの位置、すなわち、平面研削盤テーブルの位置を監視しながら、平面研削盤テーブルが目標位置に到達したか否かを判定する。
平面研削盤テーブルが目標位置に到達したと判定した場合に、制御装置10は、油圧ポンプ1の回転を停止させるための制御信号を電動モータ2に対して出力する。
リリーフ弁20Lは、管路C1上に配置され、一次側(油圧ポンプ1とリリーフ弁20Lとの間にある管路C1の一部)における作動油の圧力が所定の設定圧以上の場合に開弁し、一次側における作動油の圧力が所定の設定圧未満の場合に閉弁する。
リリーフ弁20Rは、管路C2上に配置され、一次側(油圧ポンプ1とリリーフ弁20Rとの間にある管路C2の一部)における作動油の圧力が所定の設定圧以上の場合に開弁し、一次側における作動油の圧力が所定の設定圧未満の場合に閉弁する。
なお、リリーフ弁20Lの所定の設定圧とリリーフ弁20Rの所定の設定圧は同じ値となるように設定される。また、リリーフ弁20L、20Rの所定の設定圧は、安全弁4L、4Rの所定の設定圧より低い値となるように設定される。
チェック弁21Lは、管路C1における作動油の流れを制御する弁である。具体的には、チェック弁21Lは、リリーフ弁20Lの一次側と二次側(リリーフ弁20Lと油圧シリンダ3との間にある管路C1の一部)とを流体的に連通する管路C12上に配置される。そして、チェック弁21Lは、リリーフ弁20Lの一次側からリリーフ弁20Lの二次側への作動油の流れを禁止し、リリーフ弁20Lの一次側の圧力がリリーフ弁20Lの二次側の圧力より低い場合に限り、リリーフ弁20Lの二次側の作動油をリリーフ弁20Lの一次側に導入させる。
チェック弁21Rは、管路C2における作動油の流れを制御する弁である。具体的には、チェック弁21Rは、リリーフ弁20Rの一次側と二次側(リリーフ弁20Rと油圧シリンダ3との間にある管路C2の一部)とを流体的に連通する管路C13上に配置される。そして、チェック弁21Rは、リリーフ弁20Rの一次側からリリーフ弁20Rの二次側への作動油の流れを禁止し、リリーフ弁20Rの一次側の圧力がリリーフ弁20Rの二次側の圧力より低い場合に限り、リリーフ弁20Rの二次側の作動油をリリーフ弁20Rの一次側に導入させる。
次に、図9を参照しながら、油圧ポンプ1を回転させたときの油圧閉回路システム100Aの状態について説明する。なお、図9において、太い黒の実線は、管路C1、C4、C7、及びC12内の圧力がリリーフ弁20Lの設定圧よりも高い状態を表す。また、太い灰色の実線は、管路C2、C5、C8、及びC13内の圧力がリリーフ弁20Rの設定圧よりも低い状態を表す。なお、図9は、図の明瞭化のため、センサ9a及び制御装置10の図示を省略している。
図9で示すように、油圧閉回路システム100Aは、操作者の入力に応じて電動モータ2により油圧ポンプ1を回転させ、ピストン3a(平面研削盤テーブル)を矢印AR4で示す方向に移動させるように油圧シリンダ3を駆動する。
電動モータ2によって油圧ポンプ1が回転させられると、油圧ポンプ1は、第一ポンプポート1aから作動油を吐出し、リリーフ弁20Lに向かう作動油の流れを形成する(矢印AR1参照。)。なお、管路C12では、チェック弁21Lの存在により、作動油の流れが形成されることはない。
その結果、リリーフ弁20Lの一次側にある作動油の圧縮度が増大して圧力が上昇し、その一次側の圧力がリリーフ弁20Lの設定圧に達すると、リリーフ弁20Lが開弁する。
一方、電動モータ2によって油圧ポンプ1が回転させられると、油圧ポンプ1は、第二ポンプポート1bに作動油を取り込み、リリーフ弁20R及びチェック弁21Rから油圧ポンプ1に向かう作動油の流れを形成する(矢印AR9参照。)。
油圧ポンプ1の回転初動時には、油圧ポンプ1の第二ポンプポート1bでの取り込み量が、後述する油圧シリンダ3の第二ポート3cを通じた作動油の流出量を上回る。その結果、リリーフ弁20Rの一次側にある作動油の圧縮度が減少して圧力が低下する。リリーフ弁20Rの一次側にある作動油の圧力がリリーフ弁20Rの設定圧未満であれば、リリーフ弁20Rは閉弁する。
リリーフ弁20Lが開弁すると、油圧ポンプ1は、第一ポンプポート1aから作動油を吐出することによって、リリーフ弁20Lを経由して油圧シリンダ3の第一ポート3bに向かう作動油の流れを形成する(矢印AR2及びAR3参照。)。なお、管路C4では、安全弁4Lの存在により、作動油の流れが形成されることはなく、管路C7でも、シャトル弁7の存在により、作動油の流れが形成されることはない。
油圧シリンダ3の第一ポート3bを通じて作動油が第一油室3Lに流入すると、油圧シリンダ3のピストン3aは、第一油室3Lの体積が増大する方向、すなわち図中右方向に移動する(矢印AR4参照。)。
ピストン3aが右方向に移動すると、第二油室3Rの体積は減少し、第二油室3R内の作動油が第二ポート3cを通じて管路C2に流出する。
このようにして、油圧ポンプ1は、油圧シリンダ3の第二ポート3cからリリーフ弁20R及びチェック弁21Rに向かう作動油の流れを形成する(矢印AR5及びAR6参照。)。なお、リリーフ弁20Rは、その一次側の圧力に応じて開弁・閉弁を切り換えるが、その二次側の圧力に応じて開弁・閉弁を切り換えることはない。また、チェック弁21Rは、リリーフ弁20Rの一次側の圧力がリリーフ弁20Rの二次側の圧力より低い場合に、リリーフ弁20Rの二次側の作動油をリリーフ弁20Rの一次側に導入させる。なお、リリーフ弁20Rの一次側の圧力は、油圧ポンプ1の回転により管路C2内の作動油が油圧ポンプ1に取り込まれるため、リリーフ弁20Rの二次側より低くなっている。
その結果、油圧ポンプ1は、油圧シリンダ3の第二ポート3cから管路C13すなわちチェック弁21Rを通じて油圧ポンプ1の第二ポンプポート1bに向かう作動油の流れを形成する(矢印AR5~AR8参照。)。なお、図9では、リリーフ弁20Rの一次側の圧力は、リリーフ弁20Rの設定圧よりも低い。そのため、リリーフ弁20Rを通じた、リリーフ弁20Rの二次側からリリーフ弁20Rの一次側への作動油の流れが形成されることはない。但し、リリーフ弁20Rの一次側の圧力が設定圧より高い場合には、リリーフ弁20Rを通じた、リリーフ弁20Rの二次側からリリーフ弁20Rの一次側への作動油の流れが形成される。
なお、管路C2内の圧力が作動油タンクT1の圧力未満であれば、シャトル弁7は、二次側ポート7c及び管路C8を通じて作動油タンクT1の作動油を管路C2に供給する。この作動油の流れは、管路C2内の圧力が作動油タンクT1の圧力に達した場合に消失する。
また、図9では、ピストン3aを右側に移動させる場合の油圧閉回路システム100Aの状態を代表例として示すが、ピストン3aを左側に移動させる場合にも、作動油が流れる方向とその圧力の状態が左右で反対となることを除き、同様の説明が適用され得る。
次に、図10~図12を参照しながら、図9における回転中の油圧ポンプ1を停止させたときの油圧閉回路システム100Aの状態について説明する。なお、図10において、太い黒の点線は、管路C1、C4、C7、及びC12内の圧力、並びに、油圧ポンプ1とリリーフ弁20Rとチェック弁21Rとの間の圧力がリリーフ弁20L、20Rの設定圧と等しい状態を表す。また、太い灰色の実線は、管路C5及びC8内の圧力、並びに、油圧シリンダ3とリリーフ弁20Rとチェック弁21Rとの間の圧力がリリーフ弁20Rの設定圧よりも低い状態を表す。なお、図10は、図の明瞭化のため、センサ9a及び制御装置10の図示を省略している。
図11及び図12は、油圧ポンプ1の構造を説明するための概略図であり、図11は、図12の一点鎖線で示す油圧ポンプ1の断面を矢印IVで示す方向から見た断面図であり、図12は、図11の一点鎖線で示す面に含まれるバルブプレート40のスライド面40aを矢印Vで示す方向から見た図である。なお、図11及び図12に示す油圧ポンプ1は、回転中であり、第一ポンプポート1aが吐出ポートを構成し、第二ポンプポート1bが吸入ポートを構成する。また、図11及び図12における高密度のドットパターンは、第一ポンプポート1aにおける作業油の圧力が比較的高いことを表し、低密度のドットパターンは、第二ポンプポート1bにおける作業油の圧力が比較的低いことを表す。
図11及び図12で示すように、油圧ポンプ1は、主に、バルブプレート40、シリンダブロック41、ピストン43、シュー45、及び斜板46から構成される。
バルブプレート40は、第一ポンプポート1a及び第二ポンプポート1bを内部に形成する非回転部材である。本実施例では、バルブプレート40は、円柱形状であり、シリンダブロック41とスライド可能に接触するスライド面40aを有する。また、第一ポンプポート1a及び第二ポンプポート1bのそれぞれは、円弧状の開口をスライド面40aに形成する。
シリンダブロック41は、複数のピストン室42及び複数のピストンポート44をその内部に形成する回転部材である。本実施例では、シリンダブロック41は、9つのピストン室42-1~42-9及び9つのピストンポート44-1~44-9を備え、ポンプ回転軸1X周りを回転する。
ピストン43は、シリンダブロック41のピストン室42においてポンプ回転軸1Xに平行な方向に往復動する部材である。また、ピストン43は、シリンダブロック41と共に、ポンプ回転軸1Xの周りを回転する。本実施例では、ピストン43は、9つのピストン室42-1~42-9のそれぞれに収容される9つのピストン43-1~43-9で構成される。
シュー45は、ピストン43の一端に3軸周りに回動可能に接続され、且つ、斜板46のスライド面46a上におけるポンプ回転軸1Xを中心とする円の円周上をスライド可能に斜板46に結合される部材である。また、シュー45は、シリンダブロック41及びピストン43と共に、ポンプ回転軸1Xの周りを回転する。本実施例では、シュー45は、略半球体であり、9つのピストン43-1~43-9のそれぞれに接続される9つのシュー45-1~45-9で構成される。
斜板46は、ピストン43のストロークを決定する非回転部材であり、シュー45がスライド可能なスライド面46aを提供する。本実施例では、斜板46は、ポンプ回転軸1Xに対してスライド面46aが形成する角度である傾斜角θであり、ピストン43のストロークを決定する傾斜角θを固定値とし、油圧ポンプ1が固定容量型となるように構成される。
図12に示す9つの破線円のそれぞれは、9つのピストンポート44-1~44-9のそれぞれの現在の位置を示す。また、図12は、4つのピストンポート44-4~44-7が第一ポンプポート1aに流体的に連通し、3つのピストンポート44-1、44-2、及び44-9と、2つのピストンポート44-3及び44-8のそれぞれの一部とが第二ポンプポート1bに流体的に連通した状態を示す。
9つのピストンポート44-1~44-9のそれぞれは、図12の矢印AR10で示すように、第一ポンプポート1a及び第二ポンプポート1bのそれぞれの円弧状の開口の上を辿るように、ポンプ回転軸1Xの周りを回転する。本実施例では、第一ポンプポート1aの開口上を通過するピストンポートに接続されるピストン室から第一ポンプポート1aに対して比較的高圧の作動油が吐出され、第二ポンプポート1bの開口上を通過するピストンポートに接続されるピストン室に第二ポンプポート1bからの比較的低圧の作動油が取り込まれる。
また、バルブプレート40は、スライド面40a上に開口し、且つ、第一ポンプポート1aの内壁に接続される小穴50を有する。小穴50は、第一ポンプポート1a(吐出ポート)の開口に流体的に接続されていたピストンポートが、第二ポンプポート1b(吸入ポート)の開口に流体的に接続される際の急激な圧力変化を緩和するためのものである。具体的には、図12のピストンポート44-8で示すように、ピストンポート44-8の一部が第二ポンプポート1bに流体的に接続されたときに、小穴50を通じて第一ポンプポート1aの作動油を第二ポンプポート1bに導入させる(矢印AR11参照。)。これにより、ピストンポート44-8が完全に第一ポンプポート1aに流体的に接続される前に、比較的低圧の第二ポンプポート1bにおける作動油の圧力を増大させる。
また、バルブプレート40は、スライド面40a上に開口し、且つ、第二ポンプポート1bの内壁に接続される小穴51を有する。小穴51は、第二ポンプポート1b(吸入ポート)の開口に流体的に接続されていたピストンポートが、第一ポンプポート1a(吐出ポート)の開口に流体的に接続される際の急激な圧力変化を緩和するためのものである。具体的には、ピストンポートの一部が第一ポンプポート1aに流体的に接続されたときに、小穴51を通じて第一ポンプポート1aの作動油を対応するピストン室及び第二ポンプポート1bに導入させる。これにより、そのピストンポートが完全に第一ポンプポート1aに流体的に接続される前に、比較的低圧の対応するピストン室及び第二ポンプポート1bにおける作動油の圧力を増大させる。
なお、図示しないが、バルブプレート40は、油圧ポンプ1が矢印AR10で示す方向とは逆の方向に回転する場合に、小穴50、51と同様の役割を果たす別の小穴を備えるものとする。
これらの小穴50、51を利用して、油圧ポンプ1は、ピストンポート及びピストン室における作動油の圧力が急激に変化して脈動を発生させたりするのを防止する。
ここで再び図10を参照すると、油圧ポンプ1の回転が停止した時点では、第一ポンプポート1a(吐出ポート)側の管路C1、C4、C7、C12内の圧力が、第二ポンプポート1b(吸入ポート)側の管路C2、C5、C8、C13内の圧力よりも高い状態にある。なお、この状態は、図10の太い黒の点線と太い灰色の実線で示す圧力状態とは異なる。また、第一ポンプポート1a側の圧力は、リリーフ弁20Lの設定圧より高いため、リリーフ弁20Lは、開弁状態となっている。一方、第二ポンプポート1b側の圧力は、リリーフ弁20Rの設定圧より低いため、リリーフ弁20Rは、閉弁状態となっている。
その後、第一ポンプポート1a側の圧力は、小穴50又は小穴51を通じて第二ポンプポート1b側に至り、油圧ポンプ1とリリーフ弁20Rとチェック弁21Rとの間の作動油の圧力を増大させる。なお、第一ポンプポート1a側の圧力は、第一ポンプポート1a側の作動油が第二ポンプポート1b側に移動するにつれて減少する。
油圧ポンプ1とリリーフ弁20Rとチェック弁21Rとの間の作動油の圧力が増大してリリーフ弁20Rの設定圧に至ると、リリーフ弁20Rが開弁状態となり、その作動油は、リリーフ弁20Rの二次側に至る。
第一ポンプポート1a側の作動油の圧力が減少してリリーフ弁20Lの設定圧を下回ると、リリーフ弁20Lが閉弁状態となる。このとき、第二ポンプポート1b側の作動油の圧力もリリーフ弁20Rの設定圧を下回るため、リリーフ弁20Rも閉弁状態となる。その結果、図10の太い黒の点線で示すように、管路C1、C4、C7、及びC12内の作動油の圧力、並びに、油圧ポンプ1とリリーフ弁20Rとチェック弁21Rとの間の作動油の圧力が、リリーフ弁20L、20Rの設定圧とほぼ同じ圧力となる。
このようにして、油圧閉回路システム100Aは、油圧ポンプ1の回転が停止している場合、第一ポンプポート1a及び第二ポンプポート1bのそれぞれにおける圧力がリリーフ弁20L、20Rの設定圧にほぼ等しい圧力となるようにする。これは、油圧ポンプ1の回転を開始させる前の油圧ポンプ1の両ポンプポートにおける作動油の圧縮度を予め増大させておくためである。厳密には、吸入ポートにおける作動油の圧縮度を予め増大させておくためであるが、実際に油圧ポンプ1の回転が開始するまでは何れのポンプポートが吸入ポートになるか未定であるため、両ポンプポートにおける作動油の圧縮度を予め増大させておく。
その結果、油圧閉回路システム100Aは、油圧ポンプ1の回転によって油圧ポンプ1に取り込まれる作動油の体積変化(圧縮容量)を小さくし、油圧ポンプ1の回転初動時の流量及び圧力の立ち上がり応答性を改善することができる。
ここで、図13を参照しながら、リリーフ弁20L、20Rの設定圧の違いによる油圧ポンプ1の吐出圧の立ち上がり時間の変化について説明する。なお、図13上段は、油圧ポンプ1の吐出圧の時間的推移を示し、図13下段は、油圧ポンプ1の回転速度の時間的推移を示す。
また、図13上段の実線で表される推移は、リリーフ弁20L、20Rの設定圧をP1(>0)[MPa]とした場合の推移を示し、図13上段の点線で表される推移は、リリーフ弁20L、20Rの設定圧を0[MPa]とした場合の推移を示す。
図13下段で示すように、時刻t0において油圧ポンプ1の回転を開始させると、リリーフ弁20L、20Rの設定圧をP1[MPa](例えば2[MPa]である。)としたときの油圧ポンプ1の吐出圧は即座に上昇を開始する。そして、油圧ポンプ1の回転の開始から時間t1[ms](例えば8~10[ms]である。)が経過するまでは、油圧ポンプ1の吐出圧は緩やかに上昇し、時間t1[ms]が経過した後は、油圧ポンプ1の回転速度に応じた割合で上昇を続ける。
一方で、リリーフ弁20L、20Rの設定圧を0[MPa]としたときの油圧ポンプ1の吐出圧は、油圧ポンプ1が回転しているにもかかわらず、時間t2(>t1)[ms]が経過するまでは0[MPa]未満のまま推移する。なお、図13上段では、説明の便宜上、負圧の値を0[MPa]としている。そして、油圧ポンプ1の回転の開始から時間t2[ms]が経過した時点で、油圧ポンプ1の吐出圧は上昇を開始し、時間t3(>t2)[ms](例えば28.5[ms]である。)が経過するまでは緩やかに上昇する。そして、時間t3[ms]が経過した後、油圧ポンプ1の吐出圧は、油圧ポンプ1の回転速度に応じた割合で上昇を続ける。なお、油圧ポンプ1の回転速度は、回転開始から時間t4(t2<t4<t3)[ms](例えば25[ms]である。)が経過した時点で所定の回転速度N1[rpm]に至る。
このように、油圧ポンプ1は、リリーフ弁20L、20Rの設定圧をP1[MPa]とした場合には、回転開始後に時間t1[ms]が経過した時点で正常な吸い込みを開始させる。以下、正常な吸い込みを開始させるまでに要する時間を「吐出圧立ち上がり時間」と称する。これに対し、油圧ポンプ1は、リリーフ弁20L、20Rの設定圧を0[MPa]とした場合には、回転開始後に時間t2[ms]が経過するまでは、キャビテーションを伴う吸い込み不良の状態、すなわちポンプ吐出効率が低下した状態にある。そして、油圧ポンプ1は、時間t3が経過した時点でようやく正常な吸い込みを開始させることができる。
以上の構成により、油圧閉回路システム100Aは、リリーフ弁20L、20Rによって、回転する油圧ポンプ1が停止した場合の油圧ポンプ1の2つのポート1a、1bのそれぞれにおける圧力を制御することができる。その結果、油圧閉回路システム100Aは、油圧閉回路システム100による効果に加え、或いは、油圧閉回路システム100による効果とは別に、油圧ポンプ1の回転初動時の流量及び圧力の立ち上がり特性を改善することができる。
また、油圧閉回路システム100Aは、リリーフ弁20L、20Rの設定圧を0[MPa]より高い値P1[MPa]に設定することによって、油圧ポンプ1の回転初動時におけるキャビテーションを伴う吸い込み不良の発生を抑制し或いは回避して吐出圧立ち上がり時間を短縮することができる。
次に、図14を参照しながら、本発明の第3実施例に係る油圧閉回路システム100Bについて説明する。なお、図14は、油圧閉回路システム100Bの構成例を示す概略図である。
油圧閉回路システム100Bは、シャトル弁7の代わりにフラッシング弁7Aを備える点で油圧閉回路システム100Aと相違するが、その他の点で油圧閉回路システム100Aと共通する。
そのため、共通点の説明を省略しながら、相違点を詳細に説明する。なお、油圧閉回路システム100Aと同じ構成要素に対しては、油圧閉回路システム100Aを説明するために用いた参照符号と同じ参照符号を用いる。
フラッシング弁7Aは、管路C2における作動油の圧力が所定圧に達した場合に開弁状態となるチェック弁7A1と、管路C1における作動油の圧力が所定圧に達した場合に開弁状態となるチェック弁7A2とを備える。
チェック弁7A1は、管路C7上に配置され、管路C2における作動油の圧力が所定圧に達した場合に開弁状態となり、作動油タンクT1の作動油が管路C11及び管路C7を通じて管路C1に導入されるようにする。なお、チェック弁7A1は、管路C2における作動油の圧力が所定圧未満の場合には閉弁状態となり、作動油タンクT1と管路C1との間の作動油の流れを遮断する。また、チェック弁7A1は、管路C2における作動油の圧力が管路C1における作動油の圧力よりも高い場合に開弁状態となるよう構成されてもよく、管路C2における作動油の圧力が管路C1における作動油の圧力よりも低い場合であっても開弁状態となるよう構成されてもよい。また、チェック弁7A1は、管路C2における作動油の圧力が管路C1における作動油の圧力よりも高い場合に開弁状態となり、管路C2における作動油の圧力が管路C1における作動油の圧力よりも低い場合に閉弁状態となるよう構成されてもよい。
チェック弁7A2は、管路C8上に配置され、管路C1における作動油の圧力が所定圧に達した場合に開弁状態となり、作動油タンクT1の作動油が管路C11及び管路C8を通じて管路C2に導入されるようにする。なお、チェック弁7A2は、管路C1における作動油の圧力が所定圧未満の場合には閉弁状態となり、作動油タンクT1と管路C2との間の作動油の流れを遮断する。また、チェック弁7A2は、管路C1における作動油の圧力が管路C2における作動油の圧力よりも高い場合に開弁状態となるよう構成されてもよく、管路C1における作動油の圧力が管路C2における作動油の圧力よりも低い場合であっても開弁状態となるよう構成されてもよい。また、チェック弁7A2は、管路C1における作動油の圧力が管路C2における作動油の圧力よりも高い場合に開弁状態となり、管路C1における作動油の圧力が管路C2における作動油の圧力よりも低い場合に閉弁状態となるよう構成されてもよい。
このように、フラッシング弁7Aは、油圧ポンプ1が回転し、管路C1及び管路C2のうちの一方における作動油の圧力が作動油タンクT1における作動油の圧力未満となった場合に、すなわち、作動油が不足した場合に、作動油タンクT1における作動油によってその不足を補うようにする。
以上の構成により、油圧閉回路システム100Bは、油圧閉回路システム100Aと同様、リリーフ弁20L、20Rによって、回転する油圧ポンプ1が停止した場合の油圧ポンプ1の2つのポート1a、1bのそれぞれにおける圧力を制御することができる。その結果、油圧閉回路システム100Bは、油圧閉回路システム100Aと同様、油圧ポンプ1の回転初動時の流量及び圧力の立ち上がり特性を改善することができる。
また、油圧閉回路システム100Bは、油圧閉回路システム100Aと同様、リリーフ弁20L、20Rの設定圧を0[MPa]より高い値P1[MPa]に設定することによって、油圧ポンプ1の回転初動時におけるキャビテーションを伴う吸い込み不良の発生を抑制し或いは回避して吐出圧立ち上がり時間を短縮することができる。
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなしに上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
例えば、上述の実施例では、油圧閉回路システム100、100A、100Bは、油圧ポンプ1で油圧シリンダ3を駆動する構成であるが、油圧ポンプ1で油圧モータを駆動する構成であってもよい。
また、上述の実施例では、油圧閉回路システム100、100A、100Bは、大負荷容量油圧駆動式大型平面研削盤のテーブルを被制御部として移動させるために用いられるが、射出成形機の射出シリンダや可動プラテンを被制御部として移動させるために用いられてもよく、他の工作機械の構成部品を被制御部として移動させるために用いられてもよい。
また、本願は、2011年11月7日に出願した、日本国特許出願2011-243809号に基づく優先権、及び、日本国特許出願2011-243810号に基づく優先権を主張するものでありそれらの日本国特許出願の全内容を本願に参照により援用する。