図1は、本発明が好適に適用されるハイブリッド車両8を説明する図である。この図1に示すハイブリッド車両8は、FR(フロントエンジン・リアドライブ)車両等に好適に用いられるものであって、主動力源としてのエンジン12から出力される動力を第1の電動機としての第1モータジェネレータMG1(以下、MG1という)と伝達部材としての出力軸14とに分配する動力分配装置16と、その動力分配装置16と駆動輪18との間の動力伝達経路に機械式の有段変速部20を介して連結された第2の電動機としての第2モータジェネレータMG2(以下、MG2という)とを、有する動力伝達装置10を備えて構成されており、上記エンジン12、MG1から出力されるトルクが上記出力軸14に伝達され、差動歯車装置17を介して左右一対の駆動輪18にトルクが伝達されるようになっている。
上記動力伝達装置10では、上記MG2から出力軸14へ伝達されるトルク容量が上記有段変速部20において設定される変速比γs(=MG2の回転速度/出力軸14の回転速度)に応じて増減されるようになっている。この有段変速部20の変速比γsは、「1」以上の複数段に設定されるように構成されており、上記MG2からトルクを出力する力行時にはそのトルクを増大させて出力軸14へ伝達することができるので、そのMG2を一層低容量若しくは小型に構成することができる。これにより、例えば高車速に伴って出力軸14の回転数が増大した場合には、上記MG2の運転効率を良好な状態に維持するために、上記有段変速部20の変速比γsを低下させることでMG2の回転数が低下させられる。また、上記出力軸14の回転数が低下した場合には、上記有段変速部20の変速比γsが適宜増大させられる。
前記エンジン12は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等、所定の燃料を燃焼させて動力を出力させる公知の内燃機関であって、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを主体とするエンジン制御用の電子制御装置(以下、E-ECUという)22によって、スロットル開度或いは吸入空気量、燃料供給量、点火時期等の運転状態が電気的に制御されるように構成されている。上記E-ECU22には、アクセルペダル24の操作量を検出するアクセル開度センサAS、ブレーキペダル26の操作を検出するためのブレーキセンサBS、前記エンジン12の回転速度を検出するためのエンジン回転速度センサNS等からの検出信号が供給されるようになっている。
前記MG1、MG2は、駆動トルクを発生させる電動機(モータ)としての機能及び発電機(ジェネレータ)としての機能のうち少なくとも一方を備えた例えば同期電動機であって、好適には、電動機としての機能と発電機としての機能とを選択的に生じるように構成されており、インバータ28、30を介してバッテリやコンデンサ等の蓄電装置32に接続されている。そして、所謂マイクロコンピュータを主体とするモータジェネレータ制御用の電子制御装置(以下、MG-ECUという)34によってそれらインバータ28、30が制御されることにより、前記MG1、MG2の出力トルクあるいは回生トルクが調節或いは設定されるようになっている。上記MG-ECU34には、シフトレバー36の操作位置を検出する操作位置センサSS、MG1の回転速度を検出するMG1レゾルバRE1、及びMG2の回転速度を検出するMG2レゾルバRE2等からの検出信号が供給されるようになっている。
前記動力分配装置16は、サンギヤS0と、そのサンギヤS0に対して同心円上に配置されたリングギヤR0と、それらサンギヤS0及びリングギヤR0に噛み合わされるピニオンギヤP0を自転且つ公転自在に支持するキャリアC0とを三つの回転要素として備えて公知の差動作用を生じるシングルピニオン型の遊星歯車装置から構成されている。この遊星歯車装置は、前記エンジン12及び有段変速部20と同心に設けられている。また、前記動力分配装置16及び有段変速部20は中心線に対して対称的に構成されているため、図1ではそれらの下半分を省略して示している。
前記動力伝達装置10において、前記エンジン12のクランク軸38は、ダンパ40を介して前記動力分配装置16のキャリアC0に連結されている。これに対してサンギヤS0には前記MG1が連結され、リングギヤR0には前記有段変速部20の入力軸としての前記出力軸14が連結されている。前記動力分配装置16において、キャリアC0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能している。
前記動力分配装置16における各回転要素の回転速度の相対的関係は、図2の共線図により示される。この共線図において、縦軸S、縦軸C、及び縦軸Rは、サンギヤS0の回転速度、キャリアC0の回転速度、及びリングギヤR0の回転速度をそれぞれ表す軸であり、縦軸S、縦軸C、及び縦軸Rの相互の間隔は、縦軸Sと縦軸Cとの間隔を1としたとき、縦軸Cと縦軸Rとの間隔がρ(サンギヤS0の歯数Zs/リングギヤR0の歯数Zr)となるように設定されたものである。斯かる動力分配装置16において、キャリアC0に入力される前記エンジン12の出力トルクに対して、前記MG1による反力トルクがサンギヤS0に入力されると、そのMG1は発電機として機能する。また、リングギヤR0の回転速度(出力軸回転速度)NOが一定であるとき、MG1の回転速度を上下に変化させることにより、前記エンジン12の回転速度NEを連続的に(無段階に)変化させることができる。図2の破線はMG1の回転速度を実線に示す値から下げたときに前記エンジン12の回転速度NEが低下する状態を示している。すなわち、前記エンジン12の回転速度NEを例えば燃費が最もよい回転速度に設定する制御を、前記MG1を制御することによって実行できる。この種のハイブリッド形式は、機械分配式あるいはスプリットタイプと称される。
すなわち、前記動力伝達装置10において、前記動力分配装置16は、第1回転要素としてのサンギヤS0、第2回転要素及び入力回転部材としてのキャリアC0、及び第3回転要素及び出力回転部材としてのリングギヤR0を備えた差動機構に対応する。また、上記第1回転要素としてのサンギヤS0が前記MG1に連結され、第2回転要素としてのキャリアC0が前記エンジン12に連結され、第3回転要素としてのリングギヤR0が前記MG2に連結されることで、前記動力配分装置16、MG1、及びMG2を主体とする電気的無段変速部19が構成される。
図1に戻って、前記有段変速部20は、上記電気的無段変速部19と駆動輪18との間の動力伝達経路に直列に設けられたものであり、回転要素が相互に連結された2つの遊星歯車装置46、48を主体として構成されている。すなわち、サンギヤS1と、そのサンギヤS1に対して同心円上に配置されたリングギヤR1と、それらサンギヤS1及びリングギヤR1に噛み合わされるピニオンギヤP1を自転且つ公転自在に支持するキャリアC1とを三つの回転要素として備えて公知の差動作用を生じるシングルピニオン型の遊星歯車装置46と、サンギヤS2と、そのサンギヤS2に対して同心円上に配置されたリングギヤR2と、それらサンギヤS2及びリングギヤR2に噛み合わされるピニオンギヤP2を自転且つ公転自在に支持するキャリアC2とを三つの回転要素として備えて公知の差動作用を生じるシングルピニオン型の遊星歯車装置48とを、備え、そのキャリアC1及びリングギヤR2が相互に連結されると共に、リングギヤR1及びキャリアC2が相互に連結されている。また、上記サンギヤS2が入力部材としての前記出力軸14に連結されると共に、上記リングギヤR1及びキャリアC2が出力部材としての前記差動歯車装置17の入力軸に連結されている。
また、前記有段変速部20には、その有段変速部20においてそれぞれ変速比の異なる複数の変速段を選択的に成立させるための複数の係合要素が設けられている。すなわち、上記サンギヤS1を選択的に固定するためにそのサンギヤS1とハウジング42との間に設けられた第1ブレーキB1と、相互に連結された上記キャリアC1及びリングギヤR2を選択的に固定するためにそれらキャリアC1及びリングギヤR2とハウジング42との間に設けられた第2ブレーキB2とが設けられている。これら第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2は、図示しない油圧制御装置から供給される作動油の油圧に応じて摩擦による係合力を発生させる多板式或いはバンド式の油圧式係合装置であり、油圧アクチュエータ等により発生させられる係合圧に応じてそのトルク容量が連続的に変化するように構成されている。また、相互に連結された上記キャリアC1及びリングギヤR2とハウジング42との間には、それらキャリアC1及びリングギヤR2のハウジング42に対する前記エンジン12の回転と同方向の相対回転を許容しつつ逆方向の相対回転を阻止するワンウェイクラッチOWCが設けられている。
以上のように構成された前記有段変速部20では、前記サンギヤS2が入力部材として機能すると共に、相互に連結された前記リングギヤR1及びキャリアC2が出力部材として機能し、上記第1ブレーキB1が係合させられると、「1」より大きい変速比γshの高速段Hが達成される。また、上記第2ブレーキB2が係合させられると、上記高速段Hの変速比γshより大きい変速比γslの低速段Lが達成される。ここで、上記高速段Hから低速段Lへの変速においては、上記第1ブレーキB1が解放させられることにより上記ワンウェイクラッチOWCにより前記キャリアC1及びリングギヤR2のハウジング42に対する相対回転が阻止され、上記第2ブレーキB2の係合状態によらず低速段Lが達成される。これらの変速段H及びLの間での変速は、車速や要求駆動力関連値(目標駆動力関連値)等の走行状態に基づいて実行される。より具体的には、予め実験的に定められた変速段領域を予めマップ(変速線図)として記憶しておき、検出された運転状態に応じていずれかの変速段を設定するように制御を行う。その制御をおこなうための所謂マイクロコンピュータを主体とした変速制御用の電子制御装置(以下、T-ECUという)44が設けられている。このT-ECU44には、作動油の温度を検出するための油温センサTS、上記第1ブレーキB1の係合油圧を検出するための第1油圧スイッチSW1、上記第2ブレーキB2の係合油圧を検出するための第2油圧スイッチSW2、ライン圧PLを検出するための第3油圧スイッチSW3等からの検出信号が供給されるようになっている。
図3は、前記有段変速部20を構成している遊星歯車装置46、48についての各回転要素の相互関係を表すために4本の縦軸S2、縦軸R1,C2、縦軸C1,R2、及び縦軸S1を有する共線図を示している。これら縦軸S2、縦軸R1,C2、縦軸C1,R2、及び縦軸S1は、それぞれ前記サンギヤS2の回転速度、相互に連結された前記リングギヤR1及びキャリアC2の回転速度、相互に連結された前記キャリアC1及びリングギヤR2の回転速度、及び前記サンギヤS1の回転速度をそれぞれ示すものである。この共線図に示すように、前記有段変速部20では、上記第2ブレーキB2又はワンウェイクラッチOWCによって前記キャリアC1及びリングギヤR2が前記ハウジング42に固定されると、低速段Lが成立させられて前記MG2の出力したアシストトルクがそのときの変速比γslに応じて増幅されて前記出力軸14に付加される。また、上記第1ブレーキB1によって前記サンギヤS1が前記ハウジング42に固定されると、低速段Lの変速比γslよりも小さい変速比γshを有する高速段Hが成立させられる。この高速段Hにおける変速比も「1」より大きいので、前記MG2の出力したアシストトルクがその変速比γshに応じて増大させられて前記出力軸14に付加される。なお、各変速段L、Hが定常的に設定されている状態では、前記出力軸14に付加されるトルクは、前記MG2の出力トルクを各変速比に応じて増大させたトルクとなるが、前記有段変速部20の変速過渡状態では各ブレーキB1、B2でのトルク容量や回転数変化に伴う慣性トルク等の影響を受けたトルクとなる。また、前記出力軸14に付加されるトルクは、前記MG2の駆動状態では正トルクとなり、被駆動状態では負トルクとなる。
図4は、前記E-ECU22、MG-ECU34、及びT-ECU44に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。この図4に示す制御指令値算出手段50は、好適には、前記E-ECU22又はMG-ECU34に備えられたものである。また、好適には、エンジントルク制御手段64は前記E-ECU22に、MG1トルク制御手段66及びMG2トルク制御手段68は前記MG-ECU34に、クラッチトルク制御手段70は前記T-ECU44にそれぞれ備えられたものである。ここで、本実施例の動力伝達装置10においては、前記E-ECU22、MG-ECU34、及びT-ECU44がそれぞれ別個の制御装置として備えられたものであったが、これらの機能を有する単一の制御装置が前記ハイブリッド車両8に備えられたものであってもよい。この場合、好適には、図4に示す各種制御手段は、その単一の制御装置に一元的に備えられる。
上記制御指令値算出手段50は、前記エンジン12の動作点の移動及び前記有段変速部20の変速制御を同時に行う場合において、前記電気的無段変速部19に備えられた各回転要素の目標回転変化を算出する。すなわち、第1回転要素である前記サンギヤS0(MG1)、第2回転要素である前記キャリアC0(エンジン12)、及び第3回転要素であるリングギヤR0(MG2)のうち少なくとも1つの目標回転変化を算出する。ここで、各回転要素の目標回転変化とは、各回転要素の回転速度乃至トルクの時間変化の目標であり、前記有段変速部20の変速制御が開始されてからその変速制御が終了するまでの間の連続的な目標値の変化に相当するものである。
図5は、本実施例による制御の対象となる前記エンジン12の動作点の移動及び前記有段変速部20の変速制御を同時に行う制御について説明する図である。この図5に示すように、前記ハイブリッド車両8においては、前記エンジン12の動作点の移動と、前記有段変速部20の変速制御とが同時(同期的)に実行される場合がある。すなわち、前記エンジン12において、エンジントルクとエンジン回転速度とで規定される動作点が移動させられるのと併行して、前記有段変速部20において低速段Lから高速段Hへの変速制御(アップ変速)或いは高速段Hから低速段Lへの変速制御(ダウン変速)が実行される。以下の説明では、例えばキックダウン変速等のように、前記エンジン12の動作点の移動が行われるのと同時に前記有段変速部20において高速段Hから低速段Lへの変速制御(ダウン変速)が実行される場合について説明するが、本実施例の制御は低速段Lから高速段Hへの変速制御等にも好適に適用される。ここで、前記有段変速部20における高速段Hから低速段Lへの変速制御においては、前述のように、前記第1ブレーキB1が解放させられることにより前記ワンウェイクラッチOWCがロックさせられ、それにより前記キャリアC1及びリングギヤR2のハウジング42に対する相対回転が阻止されて低速段Lが達成される。
図5に示すように、エンジン動作点の移動においては予め定められた前記エンジン12の燃費効率(最適燃費率)に基づいてそのエンジン12から必要なパワーが出力されるようにエンジントルク及びエンジン回転速度が変更される。ここで、例えば、比較的高いエンジントルクを必要とする走行条件において、燃費等の要請からエンジン動作点を管理する必要性が大きくなり、エンジン動作点を成り行きにできない状態において、従来の技術による制御では好適な制御を実現することができなかった。更に、比較的要求トルクが高く且つ回転方向のエンジン動作点移動を伴いながら前記有段変速部20における変速を行うといったような不安定な状態における変速制御では、従来の技術による制御では動力の辻褄を合わせることができなかった。すなわち、比較的高いエンジントルクを必要とする走行条件において前記エンジン12の動作点の移動及び前記有段変速部20の変速制御が同時に行われる場合、比較的大きな動力を伝達しながらの変速になるので、前記MG1、MG2の動力もそれに応じて大きくなり、従来の技術のようにエンジントルクアップによる発電量で辻褄を合わせようとすると前記エンジン12の動作点(エンジントルク乃至回転速度)がトルク方向に大きくずれることになる。更に、そのエンジン動作点のずれは、パワー収支の動きに応じて成り行き任せで動いてしまうおそれがある。従って、斯かる変速においては、前記電気的無段変速部19及び有段変速部20から成る変速機構全体でのエネルギ収支等を予め見込んで、全体でのバランスを考えた変速制御を行うべきである。すなわち、好適には、上記変速機構全体でのエネルギ収支(パワー収支)を所定値例えば略零とすべきであり、本実施例では、斯かる制御を前提として以下の説明を行う。
本実施例のハイブリッド車両の制御装置は、前記制御指令値算出手段50、エンジントルク制御手段64、MG1トルク制御手段66、MG2トルク制御手段68、及びクラッチトルク制御手段70を介して上述のような制御、すなわち変速機構全体でのエネルギ収支を略零に維持して前記エンジン12の動作点の移動及び前記有段変速部20の変速制御を同時に実行する制御を実現する。斯かる制御を実現するために、前記制御指令値算出手段50は、目標変速時間設定手段52、回転速度目標基本波形算出手段54、回転変化形状目標設定手段56、エンジン供給エネルギ算出手段58、慣性損失エネルギ算出手段60、及びクラッチトルク変化勾配算出手段62を含んでいる。以下、これらの制御機能による制御について分説する。なお、以下の説明では、前記エンジン12の動作点の移動に対応して、エンジントルクが前記有段変速部20の変速前のトルクレベルから変速後のトルクレベルに、エンジン回転に対して直線的に変化する態様を前提として本実施例の制御を説明する。また、前記有段変速部20の変速に際して、解放側のクラッチトルクすなわち前記第1ブレーキB1の係合トルクが所定(一定)の勾配で直線的に低下させられる態様を前提として本実施例の制御を説明する。
上記目標変速時間設定手段52は、前記有段変速部20の変速開始から変速終了までの時間である目標変速時間を設定する。例えば、前記有段変速部20における高速段Hから低速段Lへの変速に際して、解放側の係合要素である前記第1ブレーキB1の解放(油圧低下)が開始させられる変速開始時点から前記ワンウェイクラッチOWCがロックして同期回転に到達する変速終了時点までの目標時間を、予め定められた関係から前記油温センサTSにより検出されるAT油温等に基づいて設定(算出)する。この関係は、好適には、前記油温センサTSにより検出されるAT油温が低くなる程上記目標変速時間が長くなるように予め定められたものである。また、好適には、上記変速開始時点から変速終了時点までの目標変速時間を、予め定められた関係から車速又は入力トルクに基づいて設定(算出)する。この関係は、好適には、イナーシャ変化に係る摩擦材の耐久性を考慮し、車速又は入力トルクが高くなる程上記目標変速時間が長くなるように予め定められたものである。
前記回転速度目標基本波形算出手段54は、第1回転要素としてのサンギヤS0、第2回転要素及び入力回転部材としてのキャリアC0、及び第3回転要素及び出力回転部材としてのリングギヤR0毎に、変速中のエネルギ収支を例えば零とするための入力軸トルクと第1ブレーキB1の入力軸換算トルクとの差分トルクの時間変化を図6に示すように求め、その差分トルクの時間変化を積分することにより図7に示すようなそれぞれの回転速度の変化の基本となる基本波形を算出する。図6は、この回転速度目標基本波形算出手段54による基本波形の算出について説明する図である。この図6においては、前記目標変速時間設定手段52により設定された、前記有段変速部20の変速開始から変速終了までの目標変速時間における前記電気的無段変速部19のエネルギ収支が零であることを前提として、前記エンジン12、MG1、MG2により発生させられる前記有段変速部20の入力軸トルクの変化を実線で示すと共に、クラッチトルクすなわち前記第1ブレーキB1の係合トルクを反力として発生させられる前記有段変速部20入力軸位置での負荷トルクの変化を破線で示している。この破線のうち、低下傾斜が終了するまでの部分は、解放側係合要素である第1ブレーキB1による入力軸換算トルクを示し、その後のステップ状に立ち上がった以降の部分はワンウェイクラッチOWCの係合による入力軸換算トルクを示している。前記電気的無段変速部19及び有段変速部20から成る変速機構全体でのエネルギ収支が零であることを前提とすれば、入力軸トルクすなわち前記出力軸14のトルクとクラッチによる負荷すなわち前記第1ブレーキB1のトルクとの差分トルクは図6に示すようなものとなる。
図7は、前記有段変速部20に入力されるトルクとその有段変速部20における負荷トルクとの差分トルクの時間方向の積分波形を例示する図である。図6に示す関係において、入力軸トルクとクラッチによる負荷との差分トルクを時間方向で積分(積算)すると図7に示すような形状となる。前記回転速度目標基本波形算出手段54は、好適には、このようにして得られる前記有段変速部20に入力されるトルクとその有段変速部20における負荷トルクとの差分トルクの時間方向の積分波形(形状)を、第1回転要素としてのサンギヤS0、第2回転要素及び入力回転部材としてのキャリアC0、及び第3回転要素及び出力回転部材としてのリングギヤR0毎に、それぞれの回転速度の変化の基本となる基本波形(基本形状)として算出する。なお、エンジントルクをエンジン回転速度に対して一次関数的に変化させる場合、エンジン回転速度の変化態様によってはエンジントルクは必ずしも厳密には時間軸に対して一次関数的に変化するものではなく、わずかに曲線的な形状で変化するものであるが、その誤差は実用上特に問題とはならない。
前記回転変化形状目標設定手段56は、前記回転速度目標基本波形算出手段54により算出された基本波形と整合するように、前記有段変速部20の変速に際しての第1回転要素としてのサンギヤS0、第2回転要素及び入力回転部材としてのキャリアC0、及び第3回転要素及び出力回転部材としてのリングギヤR0毎に、それぞれのタイムチャート上における回転速度の変化形状の目標値Ng
*(t)、Ne
*(t)、Nm
*(t)を逐次設定する。すなわち、前記有段変速部20の変速前後での第1回転要素、第2回転要素、及び第3回転要素それぞれの回転速度変化幅(ダウン変速においては上昇幅)に対し、前記回転速度目標基本波形算出手段54により算出された基本波形(基本形状)を当てはめて、それらの変化の態様が整合するように各回転要素の回転変化形状の目標値Ng
*(t)、Ne
*(t)、Nm
*(t)を設定する。ここで、整合とは、例えば回転速度の変化に対応する関数の態様が一致することを言い、基本波形が一次関数的な変化をとるものである場合には各回転要素も同様に一次関数的な変化となるように、或いは基本波形が指数関数的な変化をとるものである場合には各回転要素も同様に指数関数的な変化となるようにそれらの回転速度の変化形状の目標を設定するものである。
前記エンジン供給エネルギ算出手段58は、前記有段変速部20の変速開始から変速終了までの目標変速時間内に前記エンジン12から供給されるエネルギ量を算出する。例えば、前記回転変化形状目標設定手段56により設定された各回転要素の回転速度変化形状の目標値Ng
*(t)、Ne
*(t)、Nm
*(t)のうちの、前記エンジン12の回転速度に対応する第2回転要素すなわちキャリアC0の回転速度変化形状の目標値Ng
*(t)、Ne
*(t)、Nm
*(t)と、その回転速度変化に対して一次関数的に変化するとしたエンジントルクの値Te(t)とに基づいて、前記有段変速部20の変速開始から変速終了までの間に前記エンジン12から供給(入力)されるエネルギ量Einを、エンジン回転速度及びエンジントルクの積(=エンジン回転速度×エンジントルク)の変速開始から変速終了までの間の積分値∫Ne
*(t)・Te(t)dt+C(Cは積分定数)として算出する。
前記慣性損失エネルギ算出手段60は、前記有段変速部20の変速開始から変速終了までの目標変速時間内に前記電気的無段変速部19及び有段変速部20から成る変速機構全体において使用(消費)される慣性損失エネルギEkを算出する。例えば、前記有段変速部20の変速前後における各回転要素それぞれの回転速度の値Ng、Ne、Nmと、各回転要素の慣性モーメントIg、Ie、Imとに基づいて、前記有段変速部20の変速前後における各回転要素の回転運動エネルギIg・Ng
2/2、Ie・Ne
2/2、Im・Nm
2/2をそれぞれ算出する。そして、前記有段変速部20の変速前後における各回転要素の回転運動エネルギの値の差分(=変速後の回転運動エネルギI・Naf
2/2-変速前の回転運動エネルギI・Nbe
2/2)から、前記有段変速部20の変速による各回転要素の回転運動エネルギの変化量の和(=I・Ngaf
2/2-I・Ngbe
2/2+I・Neaf
2/2-I・Nebe
2/2+I・Nmaf
2/2-I・Nmbe
2/2)をその有段変速部20において使用(消費)される慣性損失エネルギElossとして算出する。
前記クラッチトルク変化勾配算出手段62は、前記有段変速部20の変速に際してのクラッチトルクの変化勾配すなわち前記第1ブレーキB1の係合トルクの変化勾配(解放側係合要素の係合トルクの低下勾配)を算出する。本実施例の動力伝達装置10においては、前記エンジン供給エネルギ算出手段58により算出された前記エンジン12から供給されるエネルギ量から、前記慣性損失エネルギ算出手段60により算出された前記有段変速部20における慣性損失エネルギを差し引いた値(=エンジン供給エネルギ-慣性損失エネルギ)が駆動力として全て伝達されるようにした場合、前記電気的無段変速部19及び有段変速部20から成る変速機構全体でのエネルギ収支を零にすることは、斯かる変速機構全体の中におけるそれ以外のエネルギ収支すなわち前記MG1及びMG2によるエネルギ収支をも零にすることに等しい。前述のように、本実施例においては前記有段変速部20の変速に際してクラッチトルクすなわち前記第1ブレーキB1の係合トルクが変速前の状態から所定の勾配で低下することを前提としており、前記クラッチトルク変化勾配算出手段62は、好適には、第3回転要素である前記リングギヤR0の回転が前記回転変化形状目標設定手段56で設定されたように変化するとした場合における、そのリングギヤR0の回転速度及びクラッチトルクすなわち前記第1ブレーキB1の係合トルクの積(=リングギヤR0回転速度×クラッチトルク)の変速開始から変速終了までの間の積分値を算出し、その積分値が前記エンジン供給エネルギ算出手段58により算出された前記エンジン12から供給されるエネルギ量から、前記慣性損失エネルギ算出手段60により算出された前記有段変速部20における慣性損失エネルギを差し引いた値(差分値)と等しくなるような前記第1ブレーキB1の係合トルク変化勾配(低下勾配)を算出する。
前記制御指令値算出手段50は、以上のようにして得られた情報に基づいて、前記エンジン12の動作点の移動及び前記有段変速部20の変速制御を同時に行う場合における第1回転要素としてのサンギヤS0、第2回転要素及び入力回転部材としてのキャリアC0、及び第3回転要素及び出力回転部材としてのリングギヤR0それぞれの目標回転変化(回転変化の目標値)を算出する。好適には、第1回転要素としてのサンギヤS0、第2回転要素及び入力回転部材としてのキャリアC0、及び第3回転要素及び出力回転部材としてのリングギヤR0それぞれの回転速度を、前記有段変速部20の変速制御に係る変速前の回転速度から変速後の回転速度へ等しい割合で変化させるように目標回転変化を設定する。すなわち、前記目標変速時間設定手段52により設定された目標変速時間等に基づき、各回転要素それぞれにおける変速前の回転速度と変速後の回転速度との差を全体として、その全体に対する時間毎の割合(変速前からの変化分)が各回転要素において等しくなるようにそれら回転要素の目標回転変化を設定する。
また、前記制御指令値算出手段50は、好適には、前記有段変速部20に入力されるトルクとその有段変速部20における負荷トルクとの差分トルクの変化の態様が、第1回転要素としてのサンギヤS0、第2回転要素及び入力回転部材としてのキャリアC0、及び第3回転要素及び出力回転部材としてのリングギヤR0それぞれの回転速度の変化の態様と整合するように前記変速制御を進行させる目標回転変化(回転変化の目標値)を算出する。すなわち、前記回転速度目標基本波形算出手段54により算出される図7に示すような基本波形の変化の態様と整合するように、前記回転変化形状目標設定手段56により各回転要素それぞれの回転速度の変化形状の目標値Ng
*(t)、Ne
*(t)、Nm
*(t)を設定し、その設定された変化形状に基づいて各回転要素の目標回転変化を逐次設定する。
また、前記制御指令値算出手段50は、好適には、前記有段変速部20の変速制御中に前記エンジン12から発生させられるエネルギと、その変速制御中において前記有段変速部20に備えられた要素の反力に係るトルクすなわち前記第1ブレーキB1を反力として出力側に伝達されるエネルギ(トルク)と、その変速制御中における第1回転要素としてのサンギヤS0、第2回転要素及び入力回転部材としてのキャリアC0、及び第3回転要素及び出力回転部材としてのリングギヤR0それぞれの回転エネルギ変化との和が、予め定められた目標エネルギ収支と等しくなるように各回転要素の目標回転変化を設定する。好適には、前記エンジン供給エネルギ算出手段58により算出された前記エンジン12から供給されるエネルギ量と、前記慣性損失エネルギ算出手段60により算出された慣性損失エネルギ(負の値)との和が零となるように各回転要素の目標回転変化を設定する。この和の計算において、好適には、前記MG1及びMG2に係るエネルギ収支に関しては計算に含めない。すなわち、前記MG1及びMG2は連れ回っているだけで仕事はしていないものとして考える。換言すれば、前記MG1及びMG2が行う仕事を除外したエネルギ収支の釣り合いを前提として上記和の算出乃至各回転要素の目標回転変化の設定を行う。
また、前記制御指令値算出手段50は、好適には、前記クラッチトルク変化勾配算出手段62により算出されたクラッチトルクすなわち前記第1ブレーキB1の係合トルクの低下勾配に関して、前記目標変速時間設定手段52により設定された目標変速時間の中途(変速開始からの経過時間が変速終了に達する前)に前記第1ブレーキB1の係合トルクが零になるか否かを判定し、その判定が肯定される場合すなわち目標変速時間の中途でクラッチトルクが零になる場合には、前記目標変速時間設定手段52、回転速度目標基本波形算出手段54、回転変化形状目標設定手段56、エンジン供給エネルギ算出手段58、慣性損失エネルギ算出手段60、及びクラッチトルク変化勾配算出手段62による処理を再び実行する。斯かる制御は、クラッチトルクが零である状態が継続した場合、前記有段変速部20に入力されるトルクとその有段変速部20における負荷トルクとの差分形状が、前記回転速度目標基本波形算出手段54により算出された基本波形とは異なる形状となるおそれがあるので、前記目標変速時間設定手段52において目標変速時間を所定時間長く設定すると共に、前記回転速度目標基本波形算出手段54以下の処理を再びやり直すものである。
図8は、本実施例の制御において満たされるべき条件について説明する図である。なお、この図8においては、第1回転要素であるサンギヤS0に相当する回転軸をg軸、第2回転要素であるキャリアC0に相当する回転軸をe軸、第3回転要素であるリングギヤR0に相当する回転軸をm軸とそれぞれ表記している。前記制御指令値算出手段50は、好適には、前記有段変速部20の変速開始時点におけるアクセル開度等に基づいて、図8に示す条件(a)~(c)の全てが満たされるような各回転要素の回転変化を算出する。すなわち、前記エンジン12の動作点の移動及び前記有段変速部20の変速制御を同時に行う場合において、前述した各制御手段による算出乃至設定を複合的に実行することにより、(a)g軸、e軸、及びm軸それぞれの回転速度を、対象となる変速制御に係る変速前の回転速度から変速後の回転速度へ等しい割合で変化させ、(b)前記有段変速部20に入力されるトルクとその有段変速部20における負荷トルクとの差分トルクの変化の態様が、g軸、e軸、及びm軸それぞれの回転速度の変化の態様と整合するように対象となる変速制御を進行させ、且つ(c)対象となる変速制御中に前記エンジン12から発生させられるエネルギと、その変速制御中において前記有段変速部20における負荷により消費されるエネルギと、その変速制御中におけるg軸、e軸、及びm軸それぞれの回転エネルギ変化との和が、予め定められた目標エネルギ収支と等しくなるように対象となる変速制御を進行させるような各回転要素の回転変化を逐次算出する。
図4に戻って、前記クラッチトルク制御手段70は、前記有段変速部20における変速制御において、図示しない油圧制御装置を介して係合要素である前記第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2の少なくとも一方の係合トルクを制御する。すなわち、前記有段変速部20における高速段Hから変速段Lへの変速制御においては、前記第1ブレーキB1の係合トルクを漸減させて解放させる制御を実行する。すなわち、前記クラッチトルク変化勾配算出手段62により算出乃至設定された勾配で前記第1ブレーキB1の係合トルクが低下させられるようにクラッチ油圧指令値を決定し、図示しない油圧制御装置に備えられた前記第1ブレーキB1の係合圧を制御するための電磁制御弁へ供給する。
前記エンジントルク制御手段64、MG1トルク制御手段66、及びMG2トルク制御手段68は、前記制御指令値算出手段50により算出された目標回転変化が達成されるように前記エンジン12、MG1、MG2の駆動(トルク)をそれぞれ制御する。例えば、次の(1)式のような運動方程式を用いて、前記制御指令値算出手段50により算出された目標回転変化を実現するためのエンジントルクTe、MG1トルクTg、MG2トルクTmを算出する。なお、この(1)式に示すωgはMG1(サンギヤS0)の回転速度(回転角速度)、ωeはエンジン12(キャリアC0)の回転速度(回転角速度)、ωmはMG2(リングギヤR0)の回転速度(回転角速度)、Tbはクラッチ(第1ブレーキB1)トルクであり、kgg、kge、kgm、kgb等、k**で示される値は何れも係数である。この(1)式に示す運動方程式は、前記エンジン12、MG1、MG2に係る各軸の目標回転速度の値を微分することによって得られる。すなわち、(2)式に示すように、制御指令値算出手段50によって算出されたMG1回転速度の目標値Ng
*、エンジン回転速度の目標値Ne
*、MG2回転速度の目標値Nm
*の値を微分することにより、各軸の回転変化勾配として(1)式の左辺に示す値が算出される。ここで、前記制御指令値算出手段50によりエンジントルク及びクラッチトルクの変化が設定(算出)される場合、(1)式におけるTe及びTbに係る逐次の値が得られる。それらの値を(1)式に代入し、Tg及びTmについて運動方程式を解くことで、前記制御指令値算出手段50により設定(算出)されたエンジントルク及びクラッチトルクの変化の下で各回転要素について算出された目標回転変化を実現するMG1及びMG2それぞれのトルクが算出される。
図9は、本実施例による前記エンジン12の動作点の移動及び前記有段変速部20の変速制御を併行して行う制御のシミュレーション結果を説明するタイムチャートである。この図9及び以下に説明する図10~図12に示す回転速度及びトルクにおいては、前記エンジン12に対応する値を実線で、MG1に対応する値を一点鎖線で、MG2に対応する値を二点鎖線でそれぞれ示している。また、図9~図12に示すトルクにおいて、前記有段変速部20からの負荷トルクのMG2軸換算値を破線で示している。この図9に示すように、本実施例の制御においては、変速開始から変速終了までの間、変速機構全体でのパワー収支が略零に維持されていると共に、よく知られたダウンシフトの一般的な出力軸トルク形状が実現されていることがわかる。
図10及び図11は、本実施例による制御との比較のため、従来の制御による前記エンジン12の動作点の移動及び前記有段変速部20の変速制御を併行して行う制御のシミュレーション結果を説明するタイムチャートである。図10に示すタイムチャートは、従来の制御においてパワー収支を零に維持することを狙ったものであるが、狙い通りパワー収支が零とされている一方、出力軸トルク形状がよく知られたダウンシフトの一般的な出力軸トルク形状を逸脱する良好ではない変化をしていることがわかる。また、図11に示すタイムチャートは、従来の制御において、図9に示す本実施例による制御と同様の出力軸トルク形状を狙ったものであり、斯かる出力軸トルク形状に関してはよく知られたダウンシフトの一般的な出力軸トルク形状が実現されているが、変速機構全体でのパワー収支が大きく変動していることがわかる。このように、従来の制御では変速機構全体でのパワー収支を略零に維持すると共に、よく知られたダウンシフトの一般的な出力軸トルク形状を実現することはできず、本実施例の制御をもってはじめて斯かる好適な変速制御を実現することができる。
図12に示すタイムチャートは、本実施例による前記エンジン12の動作点の移動及び前記有段変速部20の変速制御を併行して行う制御の他の一例のシミュレーション結果を説明するタイムチャートであり、充放電収支が敢えて零にならないようにエネルギ収支を計算してクラッチ油圧(第1ブレーキB1油圧)を設定して変速を行ったものである。この図12に示す制御では、図9に示す制御に比べて、変速機構全体でのパワー収支が正側すなわちエネルギ持ち出し側の値をとっていることがわかる。この図12に示す制御においては、変速開始から変速終了までの間、変速機構全体でのパワー収支を零ではない所定の値に維持されていると共に、よく知られたダウンシフトの一般的な出力軸トルク形状が実現されていることがわかる。
図13は、前記E-ECU22、MG-ECU34、及びT-ECU44等による変速制御の要部を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
先ず、前記目標変速時間設定手段52の動作に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S1において、前記有段変速部20の変速開始から変速終了までの時間である目標変速時間が設定される。次に、前記回転速度目標基本波形算出手段54の動作に対応するS2において、前記有段変速部20に入力されるトルクとその有段変速部20における負荷トルクとの差分トルクの時間方向の積分波形(形状)が基本波形として算出(決定)される。次に、前記回転変化形状目標設置手段56の動作に対応するS3において、S2にて算出された基本波形と整合するように、前記有段変速部20の変速に際しての第1回転要素としてのサンギヤS0、第2回転要素及び入力回転部材としてのキャリアC0、及び第3回転要素及び出力回転部材としてのリングギヤR0それぞれの回転速度の変化形状の目標が設定される。次に、前記エンジン供給エネルギ算出手段58の動作に対応するS4において、前記有段変速部20の変速開始から変速終了までの目標変速時間内に前記エンジン12から供給されるエネルギ量が算出される。
次に、前記慣性損失エネルギ算出手段60の動作に対応するS5において、前記有段変速部20の変速開始から変速終了までの目標変速時間内に前記電気的無段変速部19及び有段変速部20から成る変速機構全体において使用(消費)される慣性損失エネルギが算出される。次に、前記クラッチトルク変化勾配算出手段62の動作に対応するS6において、前記有段変速部20の変速に際してのクラッチトルクの変化勾配すなわち解放側係合要素としての第1ブレーキB1の係合トルクの低下勾配が算出される。次に、S7において、S6にて算出された前記第1ブレーキB1の係合トルクの低下勾配に関して、S1にて設定された目標変速時間の中途(変速開始からの経過時間が変速終了に達する前)に前記第1ブレーキB1の係合トルクが零にならないことが確認できるか否かが判断される。このS7の判断が否定される場合には、S1以下の処理が再び実行されるが、S7の判断が肯定される場合には、S8において、S1~S6にて算出乃至設定された結果に基づき、第1回転要素としてのサンギヤS0、第2回転要素及び入力回転部材としてのキャリアC0、及び第3回転要素及び出力回転部材としてのリングギヤR0それぞれの目標回転変化が決定される。
次に、前記クラッチトルク制御手段70の動作に対応するS9において、S6にて算出乃至設定された勾配で前記第1ブレーキB1の係合トルクが低下させられるようにクラッチ油圧指令値が決定され、図示しない油圧制御装置に備えられた前記第1ブレーキB1の係合圧を制御するための電磁制御弁へ供給される。次に、S10において、S3にて設定された変化形状をとることが想定されるエンジン回転速度に対し、狙いのエンジン動作点に対応するエンジントルクを発生させるように前記エンジン12にトルク指令値が出力される。次に、S11において、S8にて決定された目標回転変化が達成されるように前記MG1、MG2にトルク指令値が出力される。次に、S12において、前記有段変速部20の変速が終了(低速段Lが成立)したか否かが判断される。このS12の判断が否定される場合には、S8以下の処理が再び実行されるが、S12の判断が肯定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられる。以上の制御において、S1~S8が前記制御指令値算出手段50の動作に対応する。
このように、本実施例によれば、前記エンジン12の動作点の移動及び前記有段変速部20の変速制御を同時に行う場合において、第1回転要素としてのサンギヤS0、第2回転要素としてのキャリアC0、及び第3回転要素としてのリングギヤR0のうち少なくとも1つの回転変化を制御することにより、前記電気的無段変速部19及び有段変速部20から成る変速機構全体でのエネルギ収支を制御するものであることから、エネルギ収支を所望の値に制御しつつ、変速ショック等の発生を抑制することができる。すなわち、燃費の悪化を抑制しつつ好適な変速を実現するハイブリッド車両8の制御装置を提供することができる。
また、前記第1回転要素、第2回転要素、及び第3回転要素それぞれの回転速度を、前記変速制御に係る変速前の回転速度から変速後の回転速度へ等しい割合で変化させる制御を行うものであるため、実用的な態様でエネルギ収支を所望の値に制御することができる。
また、前記有段変速部20に入力されるトルクとその有段変速部20に備えられた要素である前記第1ブレーキB1の反力に係るトルクとの差分トルクの変化の態様が、前記第1回転要素、第2回転要素、及び第3回転要素それぞれの回転速度の変化の態様と整合するように前記変速制御を進行させるものであるため、実用的な態様でエネルギ収支を所望の値に制御することができる。
また、前記変速制御中に前記エンジン12から発生させられるエネルギと、その変速制御中において前記有段変速部20に備えられた要素である前記第1ブレーキB1の反力に係る伝達エネルギと、その変速制御中における前記第1回転要素、第2回転要素、及び第3回転要素それぞれの回転エネルギ変化との和が、予め定められた目標エネルギ収支と等しくなるように前記変速制御を進行させるものであるため、実用的な態様でエネルギ収支を所望の値に制御することができる。
また、前記和の計算において、第1の電動機であるMG1及び第2の電動機であるMG2に係るエネルギ収支に関しては計算に含めないものであるため、実用的な態様でエネルギ収支を所望の値に制御することができる。
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、更に別の態様においても実施される。
例えば、前述の実施例では、前記電気的無段変速部19と有段変速部20とが出力軸14により直結された構成の変速機構に本発明が適用された例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、前記電気的無段変速部19と有段変速部20との間に単数乃至複数の係合要素(クラッチ)を備えた構成にも好適に適用される。すなわち、本発明が適用されるハイブリッド車両に備えられる有段変速部は、前述の実施例において説明したものに限定されるものではなく、例えば3段以上の多段式変速部等を備えたハイブリッド車両にも本発明は好適に適用されるものである。更に、変速比を段階的に変化させる多段変速モードでの変速動作を行い得るCVT等の無段変速機を備えたハイブリッド車両に本発明が適用されても構わない。
また、前述の実施例においては、前記有段変速部20において、解放側の係合要素である前記第1ブレーキB1を解放させると共にワンウェイクラッチOWCをロックさせて変速段Lを成立させる態様の変速制御に本発明が適用された例を説明したが、例えば有段変速部において複数の係合要素の掴み替えすなわち所謂クラッチ・トゥ・クラッチの変速を行う態様の変速制御にも本発明は好適に適用されるものである。
また、前述の実施例では、(1)式のような運動方程式を用いて各回転要素の目標回転変化を算出するものであったが、例えば、実験的に求められる関係やシミュレーション結果等から、目標変速時間やアクセル開度等に基づく複数のマップを予め用意しておき、それら複数のマップを用いて各回転要素の目標回転変化を算出するものであってもよい。
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。