WO2011046189A1 - 神経変性疾患のモデル細胞、その製造方法及びその用途 - Google Patents

神経変性疾患のモデル細胞、その製造方法及びその用途 Download PDF

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Abstract

 本発明は、神経変性疾患の原因遺伝子がヒト多能性幹細胞のゲノム中に挿入されてなる、該神経変性疾患のモデル細胞、該モデル細胞から分化誘導された神経細胞を提供する。本発明はまた、ヒト多能性幹細胞に前記原因遺伝子を導入し、そのゲノム中に、好ましくは部位特異的に該遺伝子を挿入することを特徴とする、前記モデル細胞の製造方法、該モデル細胞を神経細胞に分化誘導することによる前記神経細胞の製造方法を提供する。さらには、前記モデル細胞又は神経細胞を被検物質と接触させ、該細胞における神経変性疾患の病理学的変化の改善もしくは悪化を指標とすることを特徴とする、該神経変性疾患の予防及び/又は治療物質あるいは原因及び/又は増悪物質のスクリーニング方法を提供する。

Description

神経変性疾患のモデル細胞、その製造方法及びその用途
 本発明は、神経変性疾患のモデル細胞としての、多能性幹細胞及びそれから分化誘導した神経細胞、それらの製造方法、及び該モデル細胞を用いた神経変性疾患の原因物質もしくは治療物質のスクリーニング方法に関する。
 神経変性疾患は、中枢神経の特定の神経細胞が徐々に死んでゆく疾患であり、多くは重篤な結果をもたらす。これは、中枢神経系の細胞は、高等生物においては高度に分化した細胞であり、死んだ細胞を置き換えるのが難しいためである。
 このような神経変性疾患としては、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis、ALS)、パーキンソン病(Parkinson's disease、PD)、アルツハイマー病(Alzheimer's disease、AD)、ハンチントン病(Huntington's disease、HD)、脊髄小脳変性症(Spinocerebellar Degeneration、SCD)等が存在する。
 また、神経細胞は分化した後、長く、場合によっては一生涯生存するため、神経変性疾患においては、病状の進行がきわめて遅いものが多い。よって、疾病原因を特定するのが難しく、また、効果的な薬物を探索するためには薬物の投与実験等を長く続ける必要があり、困難を伴うという問題があった。
 しかしながら、こうした神経変性疾患においては、近年、それぞれの疾患について、原因遺伝子が解明されつつある。これにより、いくつかのモデル動物が作られており(例えば、特許文献1参照)、原因遺伝子の作用機構の解明や、薬物の探索に用いられている。また、細胞レベルでの実験に用いるために、モデル動物由来の初代培養神経細胞(例えば、非特許文献1参照)や、原因遺伝子をノックアウトして発現量を減らしたり、ゲノム内のランダムな位置に原因遺伝子を導入して発現量を増やしたりした疾患モデルとなるヒト神経細胞株(例えば、非特許文献2参照)が製造され始めている。
米国特許第5,898,094号明細書
Priller, C. et al., J. Biol. Chem., 282(2): 1119-1127 (2007) Fang, B. et al., Neurosci. Lett., 406(1-2): 33-37 (2006)
 しかしながら、神経変性疾患研究に使われている、モデル動物や非ヒト細胞では、ヒトでの反応を正確に反映できないという問題があった。また、ヒト腫瘍もしくは不死化細胞は核型変化や増殖異常を起こしていたり、神経細胞としての機能的特性を失っている場合が多い。
 さらに、初代培養神経細胞は供給量に限界があり安定的に供給できないという問題があった。
 本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の課題を解消することを目的とする。
 本発明は、神経変性疾患の原因遺伝子がヒト多能性幹細胞のゲノム中に挿入されてなる、神経変性疾患のモデル細胞(以下、「本発明のモデル細胞」ともいう)を提供する。
 本発明のモデル細胞に導入される神経変性疾患の原因遺伝子は、好ましくはアルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症またはハンチントン病の原因遺伝子である。
 本発明のモデル細胞において、前記原因遺伝子は、好ましくは部位特異的にヒト多能性幹細胞のゲノム中に挿入されている。
 本発明のモデル細胞は、少なくとも神経に分化する多能性幹細胞もしくはその分化細胞であることを特徴とする。したがって、本発明はまた、多能性幹細胞である前記モデル細胞から分化誘導された神経細胞(以下、「本発明の神経細胞」)を提供する。
 本発明の神経細胞は、神経細胞の形態的特徴を示し、かつ神経細胞の分化マーカーを発現していることを特徴とする。該神経細胞は、導入された遺伝子が原因となる神経変性疾患に特有の症状を反映した表現型を示す。
 本発明はまた、神経変性疾患の原因遺伝子をヒト多能性幹細胞に導入し、そのゲノム中に挿入することを特徴とする、該神経変性疾患のモデル細胞の製造方法を提供する。好ましくは、原因遺伝子は、部位特異的遺伝子挿入のための配列を備えた発現ベクターを用いて前記ヒト多能性幹細胞に導入することにより、該細胞のゲノムの既知部位に挿入される。
 本発明はさらに、前記本発明のモデル細胞、好ましくは前記本発明の神経細胞を用いることを特徴とする、神経変性疾患の原因物質もしくは治療物質のスクリーニング方法を提供する。当該スクリーニング方法において、好ましくは、従来公知のモデル細胞では発現しない病理学的変化、即ち疾患症状の変化を指標として、神経変性疾患の原因物質もしくは治療物質が選択される。
 本発明によれば、神経変性疾患原因遺伝子をゲノムの既知部位に挿入したヒト多能性幹細胞から作成した神経変性疾患研究のためのモデル細胞を用いることで、ヒト生体での反応をより正確に反映し、実験に十分な量を供給できるモデル細胞を提供することができる。
本発明の実施の形態に係る発現ベクターの概念図である。 本発明の実施の形態に係るモデル細胞に導入する神経変性疾患の遺伝子を示す概念図である。 本発明の実施の形態に係るモデル細胞の遺伝子発現解析結果を示す写真である。 本発明の実施の形態に係るアルツハイマー病の原因遺伝子であるPS1遺伝子を遺伝子導入したモデル細胞に対する、PS1たんぱく質の発現量の測定結果を示す図である。 本発明の実施の形態に係るPS1遺伝子を遺伝子導入したモデル細胞から分化誘導し成熟させた神経細胞を観察した写真である。 本発明の実施の形態に係るPS1遺伝子を遺伝子導入したモデル細胞から分化誘導した神経細胞の培養液中のAβ(アミロイドベータペプチド)の濃度のグラフである。 本発明の実施の形態に係るPS1遺伝子を遺伝子導入したモデル細胞から分化誘導した神経細胞の自発性シナプス後電流発生頻度の測定結果のグラフである。 本発明の実施の形態に係るPS1遺伝子を遺伝子導入したモデル細胞から分化誘導した神経細胞をパッチクランプ法にて測定した電流値を示すグラフである。 本発明の実施の形態に係るPS1遺伝子を遺伝子導入したモデル細胞から分化誘導した神経細胞について、ウェスタンブロットによりシナプス小胞たんぱく質の発現量を測定したグラフである。 本発明の実施の形態に係るPS1遺伝子を遺伝子導入したモデル細胞から分化誘導した神経細胞について、シナプス小胞たんぱく質の陽性のドット数を画像解析ソフトウェア(ImageJ)により計測したグラフである。 本発明の実施の形態に係る野生型(Q25)のHTTを遺伝子導入した細胞コロニーを示す写真である。 本発明の実施の形態に係る野生型(Q25)と変異型(Q97)のHTTを遺伝子導入した細胞コロニーを示す写真である。 本発明の実施の形態に係るPS1遺伝子を遺伝子導入したモデル細胞における総Aβ量に及ぼすγ-セクレターゼ阻害剤(DAPT)の効果を示すグラフである。 本発明の実施の形態に係る変異型PS1遺伝子(P117L)をヒトiPSに導入して得たモデル細胞における遺伝子発現解析結果を示す写真である。
 本発明の実施の形態においては、神経変性疾患原因遺伝子をゲノムの既知部位に挿入したヒト多能性幹細胞から作成した神経変性疾患研究のためのモデル細胞を用いた。
 この本発明の実施の形態に係るモデル細胞は、ヒト由来の機能的に正常な細胞を用いるため、ヒト生体での反応をより正確に模倣することができる。
 また本発明の実施の形態に係るモデル細胞は、神経変性疾患原因遺伝子のゲノムへの挿入位置が明らかなため、未知な突然変異の可能性を考慮せずにすむという特徴がある。さらに、ヒト多能性幹細胞由来であるため、安定に細胞を供給することが可能である。
 以下で、具体的に、本発明の実施の形態に係るモデル細胞の製造方法について説明する。
〔本発明の実施の形態に係るモデル細胞の製造方法〕
 本発明の実施の形態においては、ヒト由来の多能性幹細胞のゲノムに、神経変性疾患の原因遺伝子を発現ベクターにより部位特異的に挿入し、神経変性疾患研究のためのモデル細胞株を作成する。
 この多能性幹細胞としては、ヒト由来で神経細胞に分化可能な多能性幹細胞を用いる。また、神経変性疾患の原因遺伝子としては、解明が進んでいる神経変性疾患の原因となる遺伝子を用いる。また、発現ベクターは、該原因遺伝子の発現を増加または減少させるコンストラクトを作成して用いる。したがって、本明細書において「原因遺伝子」という場合、その翻訳産物であるたんぱく質が神経変性疾患の病原物質となる遺伝子だけでなく、多能性幹細胞に内在する遺伝子の発現を増加または減少させることによって、神経変性疾患の病態を発現させる、該内在遺伝子に相同もしくは相補的な非コード性核酸(例、siRNA、shRNA、アンチセンスRNA)が転写されるDNAをも包含する概念として用いられる。
 さらに、該発現ベクターにより、部位特異的に挿入することで、原因遺伝子を多能性幹細胞に導入する。これにより、神経変性疾患研究のためのモデル細胞株を作成することができる。
 すなわち、本発明の実施の形態に係るモデル細胞は、疾患原因遺伝子が導入された多能性幹細胞株と、この幹細胞株から分化誘導されて製造される神経前駆細胞、成熟した神経細胞を含むものである。
 これらのモデル細胞は、成熟した神経細胞に分化していない状態でも、例えば原因遺伝子を発現して凝集体を生じるため、疾患発症原因ともされる凝集体の形成過程等を観察可能にさせる。また、分化誘導により、神経前駆細胞の分化過程に従って、実験を通じて原因遺伝子の作用機構を解明することができる。
 さらに、分化誘導後に成熟した神経細胞は、神経細胞特異的機能であるシナプス活動等を計測できる。
 このように本発明のモデル細胞はヒト由来であり、遺伝子ネットワークを乱すことがないゲノム部位に原因遺伝子が導入されているため、創薬に必要なスクリーニング系構築や疾患発症解明等に利用することができる。
(多能性幹細胞)
 この際に用いる、本発明の実施の形態に係る多能性幹細胞としては、ヒトのES細胞(human Embryonic Stem cell、胚性幹細胞)、EG細胞(Embryonic Germ cell、胚性生殖幹細胞)、iPS細胞(induced Pluripotent Stem cell)等を用いることができるが、これに限られない。
 なお、本発明の実施の形態に係るモデル細胞となる多能性幹細胞株は、継代による維持が可能で、少なくとも神経細胞に分化するレベルの分化誘導可能性が維持されていれば使用することができる。
(発現ベクター)
 まず、図1を参照して、本発明の実施の形態に係る発現ベクターの説明をする。
 図1の発現ベクターは、部位特異的遺伝子挿入用ベクターであり、プロモーターとなる翻訳伸長因子(EF)1α部位と、リコンビナーゼによりゲノムへ部位特異的に挿入(インテグレーション)するためのloxP等のリコンビナーゼ認識配列(黒い三角で示す)、開始メチオニンをコードするATG配列部位(「M」で示す)、CAGプロモーター、神経変性疾患の原因遺伝子を含んで構成される。このリコンビナーゼ認識配列を用いた遺伝子置換により、宿主ヒト多能性幹細胞の、遺伝子ネットワークを乱すことなく、挿入した遺伝子の高発現が維持される(サイレンシングが起こりにくい)ゲノム部位、例えばHPRT遺伝子座位に、発現ベクター内の配列を挿入し、これにより疾患原因遺伝子を導入した神経変性疾患のモデル細胞を得ることができる。
 また、この本実施形態に係る発現ベクターは、このように、CAGプロモーターによって制御される疾患原因遺伝子を発現する。さらに、この発現ベクターは、EF1αプロモーター-開始ATG-loxP配列の配列を備えている。
 なお、プロモーター、インテグレーションのための配列については、任意のものを用いることができるが、部位特異的遺伝子挿入方法のためのインテグレーション配列を用いることが好ましい。
(神経変性疾患の遺伝子)
 次に、図2を参照して、図1の発現ベクターへ挿入する遺伝子について説明する。上述のように、この発現ベクターには、神経変性疾患の原因となる遺伝子を組み換えて挿入する。この神経変性疾患の原因となる遺伝子は、翻訳される遺伝子でもよいし、siRNAやshRNA等に転写される、翻訳されない遺伝子であってもよい。
 そして、この発現ベクターに遺伝子が挿入されたコンストラクトを、多能性幹細胞に導入して、細胞のゲノム内に組み込ませる。
 このゲノム内に組み込まれた遺伝子は、多能性幹細胞内で発現して転写され、翻訳されて凝集体等の神経変性疾患の原因物質となったり、siRNA等であれば神経変性疾患を抑制する遺伝子の発現を抑える働きをすることができる。
 ここで、本発明の実施の形態に係る各神経変性疾患と多能性幹細胞に導入する遺伝子との関係の例を以下に示すが、これに限られるものではない。
 ・アルツハイマー病(AD)用発現ベクター: プレセニリン1(presenilin1、PS1)を導入する。PS1は、家族性アルツハイマー病原因遺伝子の一つであり、アルツハイマー病発症の原因とされるアミロイドベータペプチド(Aβ)を産生するγセクレターゼの構成分子の一つである。
 このPS1の野生型(WT)、及び変異型としては、P117L、G378Eのような公知の変異型を含むコンストラクトをそれぞれ作成した。また、家族性アルツハイマー病とは別に、γセクレターゼ活性を抑制させる変異であるD385Aを含むコンストラクトも作成した。
 なお、図2の「IRES-AcGFP」は、クロンテック社製のpIRES2-AcGFP1ベクター由来の配列である。このpIRES2-AcGFP1ベクターによれば、IRES(Internal Ribosome Entry Site)配列の前後に配置された2つの遺伝子は、1本のmRNAとして転写され、個々に翻訳されるので、GFP(Green Fluorescent Protein)の発現を検出することにより疾患原因遺伝子の発現を確認することができる。
 ・筋萎縮性側索硬化症(ALS)用発現ベクター: 公知のCu-Znスーパーオキシドディスムターゼ1(Superoxide dismutase 1、SOD1)を導入する(Di Giorgio et al. (2007) NATURE NEUROSCIENCE,10,608、Karumbayaram et al.(2009) Disease Models & Mechanisms,2,189-95等を参照)。SOD1は、家族性筋萎縮性側索硬化症の原因遺伝子の一つである。SOD1の機能としては、活性酸素を酸素と過酸化水素にする酵素として働く。しかしながら、ALSの発症機構に関しては、様々な説があり、いまだに不明である。
 このSOD1の野生型(WT)、及び変異型としては、A4V、G85R、G93Aのような公知の変異型を含むコンストラクトをそれぞれ作成した。
 ・ハンチントン病(HD)用発現ベクター: 公知のハンチンチン(HTT)を導入する。HTTは、ハンチントン病の原因遺伝子(単一遺伝子病)である。HTTにおいては、HTT遺伝子の配列内に存在するCAG繰り返し配列がDNA複製エラー等により伸張することによりハンチントン病の原因となる(Astrid Lunkes and Jean-Louis Mandel (1998) Human Molecular Genetics, 7, 1355-1361、Michelle Gray et al (2008) The Journal of Neuroscience, 28(24):6182- 6195等を参照)。
 正常のヒト(野生型)のHTTでは、CAGの繰り返し数は12-30くらいであるが、この繰り返し配列が異常伸長していると、HDを発症する。CAGはグルタミンをコードしており、この長いグルタミンの配列であるポリグルタミンは溶解しにくいため、細胞内に凝集体として蓄積する。この凝集体が神経細胞に対する毒性をもち、神経細胞死を誘導することで、ハンチントン病を発症すると推定されている。すなわち、ハンチントン病はポリグルタミン病の一つである。
 本発明の実施の形態に係る発現ベクターでは、HTTはエクソン1の部分のみを用いることが可能である。上述の文献のように、この部分のみでもHTTの凝集が生じることが知られている。
 CAGの繰り返し数が25の正常(野生型)HTT(Q25(WT))、及びCAGの繰り返し数が97の変異型(Q97)HTTのエクソン1部分を含むコンストラクトをそれぞれ作成した。
 なお、これらのコンストラクトでは、HTTはEGFP(Enhanced Green Fluorescent Protein)との融合たんぱく質(HTT-EGF)として発現するので、GFPの発現を検出することによりHTTの発現を確認することができる。
(トランスフェクションと神経細胞への分化)
 次に、本発明の実施の形態に係るそれぞれの発現ベクターは、リポソーム、リポフェクトアミン、エレクトロポレーション等を用いてトランスフェクションされ、上述の多能性幹細胞に導入される(例えば、マニアテス他、Molecular Cloning.A Laboratory Manual.Cold Spring Harbour Laboratory、1982年、等を参照)。その後、遺伝子が導入された多能性幹細胞を選択し、公知の方法で株化して、それぞれの神経変性疾患のモデル細胞を製造する。
 この株化したモデル細胞は、未分化であり無限増殖能力を保っており、それぞれの多能性幹細胞の培養方法を用いて培養され、必要な量になるまで増殖させる。このように、本発明の実施の形態に係るモデル細胞は、実験に必要な量を容易に取得することができる。
 この上で、増殖されたモデル細胞は、ノギン、レチノイン酸、LPA(Lysophosphatidic Acid)等の公知の神経分化誘導剤が加えられた誘導培地を加えて分化誘導させる。この誘導培地としては、例えば、Neurobasal培地(Invitrogen社製)を用いることができる。
 分化誘導された細胞は、所定の神経栄養因子を加えて、数週間程度培養して神経細胞へ成熟(マチュレーション)させる。
 この成熟させた神経細胞について、神経変性疾患の薬剤のスクリーニング、神経変性疾患の原因物質の取得、他の細胞との共培養によるインタラクションの研究、といった各種の実験に用いることができる。
 特に、薬剤のスクリーニングについては、モデル細胞を分化誘導した神経細胞において、パッチクランプ法や電極アレイ等を用いて、薬剤を加えて培養した細胞とコントロールとで電位の変化等を計測することで、その薬剤が神経変性疾患を抑えることができるかを生体外(in vitro)で実験できるという効果が得られる。
(疾患モデル細胞のフェノタイプ)
 ここで、本発明の実施の形態に係る発現ベクターを導入した多能性幹細胞を神経細胞に分化させた際の、それぞれの細胞のフェノタイプについて説明する。
 ・アルツハイマー病(AD): アミロイドβ42ペプチドの存在比が増加する。またシナプス前部(シナプス終末)において、シナプス関連たんぱく質発現量が低下する。さらに、シナプス活動が変化する。たとえば、自発的シナプス後電流の発生頻度において、特に興奮性の変化が起こる。ADの脳では興奮性シナプス活動の低下が知られているため、モデル細胞として有用である。
 ・筋萎縮性側索硬化症(ALS): 従来のランダムインテグレーションによるモデル細胞でも細胞死が見られるが、挿入により正常な遺伝子ネットワークを乱しており、正確な細胞死の機構を分からなくしているという問題を否定できない。しかしながら、本発明の実施の形態に係る、部位特異的遺伝子挿入方法で変異型SOD1遺伝子を導入した細胞株については、他の遺伝子ネットワークに影響を及ぼしにくい遺伝子座位に導入したことで、他のモデルと異なり、細胞死を起こす機構を知ることができるモデル細胞を提供できる。
 ・ハンチントン病(HTT): EF1αプロモーターを用いてHTT遺伝子の挿入を確認した未分化細胞において、凝集体の形成を確認した。これにより、疾患発症原因とされる凝集体形成過程の観察を可能にさせるモデル細胞として有用である。なお、凝集体により、培養を続けると細胞死を起こす可能性も考えられる。
 以上のように、ヒト多能性幹細胞に遺伝子を導入して株化した細胞を用いることで、神経変性疾患、例えばアルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病の疾患症状を示すヒト細胞由来の神経細胞を得た。この神経細胞は、電気生理学的手法により神経機能解析を行うことができる。株化した多能性幹細胞は無限に増殖可能であるため、それらから分化させた神経細胞を多量にかつ安定に供給可能である。これにより、神経変性疾患を総合的に実験可能なモデル細胞を提供することができる。
 また、部位特異的遺伝子挿入方法を用いることで、外来遺伝子をゲノムの既知の部位に挿入させ、遺伝子挿入による未知な突然変異を避けることができる。このような、部位特異的遺伝子挿入方法を用いても、神経細胞へ分化させても遺伝子発現させることができる。
 また、初代培養細胞を用いる場合、十分な量を供給することが難しいという問題があった。
 これに対して、本発明の実施の形態に係るモデル細胞(多能性幹細胞)から製造した神経細胞は、多能性幹細胞の状態で大量増幅させた後に分化誘導することで充分な量が確保できるため、ハイスループット系のスクリーニングに用いることができる。
 また、従来、十分な量を供給できる腫瘍細胞や不死化細胞のような、一部機能喪失した細胞株を基にした神経変性疾患のモデルとしての腫瘍細胞株が存在した。しかしながら、アルツハイマー病の原因遺伝子が導入された腫瘍細胞株では、Aβ42の存在比変化は検出できるものの、正常な神経細胞ではないためシナプス活動変化を取得するのが難しかったり、そもそもシナプスの形成を行うことができないという問題があった。
 これに対して、本発明の実施の形態に係るアルツハイマー病の原因遺伝子(PS1)を遺伝子導入したモデル細胞では、生化学的データと生理学的データの両方の取得が可能である。これにより、従来あるアルツハイマー病原因遺伝子発現細胞株より、正確なデータの取得を可能にさせるアルツハイマー病のための研究材料となる。
 さらに、本発明の実施の形態に係るモデル細胞を用いることによって、アルツハイマー病発症解明、アルツハイマー病治療薬探索に貢献することが期待できる。
 また、アルツハイマー病発症原因分子とされるペプチドの供給細胞として利用することもできる。
 また、本発明の実施の形態に係るアルツハイマー病の原因遺伝子PS1を遺伝子導入したモデル細胞では、部位特異的遺伝子挿入方法によって、PS1をヒト胚性幹細胞のHPRT遺伝子座へ導入した。この方法によって、従来方法では無作為(ランダム)に遺伝子が挿入したことによって引き起こされる挿入突然変異の可能性を除いた。
 このように、本実施形態のモデル細胞により、遺伝子座に神経変性疾患の原因遺伝子を導入することで、神経変性疾患による遺伝子ネットワークの変化を研究することが可能になり、より高度な分子創薬等にも対応でき、また、薬剤のスクリーニングの効率を上げることが可能になる。
 また、従来方法では、神経細胞へ分化させた場合、サイレンシング等の機構により、導入した遺伝子の発現がなくなることが観察されることもあった。
 これに対して、本発明の実施の形態に係る多能性幹細胞由来の神経細胞では、部位特異的遺伝子挿入方法によって挿入した遺伝子の高発現を維持しており、同時に神経細胞のマーカー分子も発現する神経細胞を得ることができる。すなわち、より疾病の状態に近いヒト由来の神経変性疾患のモデル細胞を提供することができる。
 これにより、例えば、アルツハイマー病発症原因分子とされるペプチド、アミロイドベータ42(Aβ42)の存在比の増加を検出でき、また同時にシナプス活動に関連するたんぱく質シナプトフィジンの発現低下を検出可能である。そして、実際に電気生理的解析において、自発的シナプス後活動電位の変化を検出することができる。
 このように、本実施形態により、神経変性疾患による神経細胞の機能的な変化を観察でき、疾病の発症機構解明を行うこともできる神経変性疾患のモデル細胞を提供することが可能になる。
 ここで、以下の実施例によって本発明の実施の形態に係るモデル細胞、神経細胞、神経変性疾患の候補治療物質の薬効評価法、及びモデル細胞の製造方法をさらに具体的に説明する。しかしながら、この実施例は一例にすぎず、これに限定されるものではない。
〔実験材料及び実験方法〕
(細胞培養、分化誘導)
 ヒトES細胞株、KhES-1(京都大学再生医科学研究所 附属幹細胞医学研究センターより分与)を遺伝子加工し、HPRT遺伝子座に上述の発現ベクター(図1)がインテグレーションしやすいように遺伝子加工した親株の細胞株及びこの親株の細胞にトランスフェクションを行い遺伝子を導入したモデル細胞株であるヒト多能性幹細胞を用いた。
 このヒト多能性幹細胞は、マイトマイシンCで処理したマウスの胚の線維芽細胞をフィーダー細胞として用いてヒトES細胞培地(Primate ES cell culture medium(リプロセル社製)、5ng/mlのFGF-2(和光純薬工業社製))で培養、維持を行った。
 この未分化ヒト多能性幹細胞を、0.25%のトリプシン、0.1%のコラゲナーゼ、20%のKSR、及び1mM CaCl2をPBSに加えたものからなるCTK溶液により37℃で3~5分処理し、その後、培養皿に培地を加え、温和なピペット操作を行って細胞塊へ分離した。
 さらに、フィーダー細胞を取り除くために、懸濁液を40μmのセルストレーナを通し、残ったものをヒトES細胞培地に懸濁した。
 そして、2分間、50gでの遠心分離後に得られた細胞ペレットを、100ng/mlの組み換えマウスノギン(R&Dシステム社製)及び1μM SB431542(シグマ社製)を添加した誘導培地(DMEM/F-12(シグマ社製):Neurobasal培地(Invitrogen社製):B27(Invitrogen社製):N-2(Invitrogen社製)=50:50:1:0.5に2mM L-グルタミン(シグマ社製)を添加)で再懸濁した。
 再懸濁された懸濁液は、細胞アグリゲート(凝集体)を除くために70μmのセルストレーナを通した。そして、分化誘導前段階にあるヒト多能性幹細胞塊を得た。
 当該分化誘導前段階にあるヒト多能性幹細胞塊は、ポリ‐L‐リジン(PLL)(シグマ社製)/ラミニン(シグマ社製)又はECLマトリックス(アップステート社製)でコートされた培養皿で培養した。
 培地は、一日おきに交換した。そして、6~7日後に、細胞を200U/mlコラゲナーゼ溶液で処理し、37℃、5分間のインキュベートを行った。その後、誘導培地を培養皿に加え、細胞コロニーをセルスクレーパーで剥離し回収した。
 回収した細胞を含む懸濁液は2分間、50gで遠心分離し、得られた細胞ペレットを、100ng/mlの組み換えマウスノギンのみを添加した誘導培地で再懸濁し、PLL/ラミニンでコートされた培養皿に播種した。
 そして、6~7日後に、細胞を200U/mlコラゲナーゼ溶液で処理し37℃、5分間のインキュベートを行った。その後、誘導培地を培養皿に加え、細胞コロニーをセルスクレーパーで剥離し回収した。
 回収した細胞を含む懸濁液は2分間、50gで遠心分離し、得られた細胞ペレットを誘導培地で再懸濁し、PLL/ラミニンでコートされた培養皿に播種した。
 5~6日後に、細胞は、解離剤のAccutase(登録商標)で単細胞へ分離され、3分間190gで遠心分離された。
 その細胞ペレットを誘導培地で再懸濁し、ゼラチンをコートした培養皿に播種した。
 その後、1時間のインキュベーションを行い、非神経細胞を培養皿に付着させた。
 プレートに付着しなかった神経系細胞(神経前駆細胞)を再取得し、大きな細胞残屑をなくすために40μmのセルストレーナを通した。
 このようにして得られた神経系細胞の懸濁液は、いくつかの神経栄養因子(100ng/mlのNGF、10ng/mlのBDNF、10ng/mlのGDNF、10ng/mlのNT-3)と抗生物質(20U/mlのペニシリン、20U/mlのストレプトマイシン)を加え、5~10x104細胞/cm2の密度でPLL/ラミニンあるいはECLマトリックス/フィブロネクチンでコートされた培養皿の上に播種した。
 そして、神経細胞の成熟(マチュレーション)のために、少なくとも2週間培養を行った。
(免疫染色、免疫細胞化学)
 細胞を、PBSで2回洗浄後、10分間4%のホルムアルデヒド/PBSに浸して固定した。PBSで洗浄後、0.2%トリトンX-100/PBSを用いて5分間の透過性処理を行った。
 1%ウシ血清アルブミンにより1時間のブロッキング処理を行い、その後一次抗体を加え、室温で1時間又は4℃で一晩インキュベートを行った。
 PBSで洗浄後、AlexaFluor(登録商標)コンジュゲート二次抗体(MolecularProbe社製)を加え、室温で1時間インキュベートした。そして、PBSで洗浄後、適切なフィルターセットを使用して観察を行った。
(抗体)
 免疫染色、ウェスタンブロットにおいては、それぞれ、一次抗体として(ICC、免疫細胞化学; WB、westernblot)、抗synaptophysin(シグマ1:200(ICC)、1:1000(WB))、抗タイプIIIベータ-チューブリン(シグマ1:750(ICC))、抗ニューロフィラメント200(Chemicon 1:1000(WB))、抗プレセニリン1(サンタクルーズ1:750(WB))の抗体を用いた。
(ウェスタンブロット(免疫ブロット)法)
 たんぱく質抽出液は、プロテアーゼ阻害剤(PIERCE社製)のカクテルを加えたRIPAバッファー(シグマ・アメリカ社製)を用いて氷上で溶解して調整した。
 たんぱく質抽出液を10分間、4℃、12,000gで遠心分離した後、上澄み液のたんぱく質濃度をBCA法測定キット(PIERCE社製)を用いて測定した。
 また、上澄み液に対して5~20%のトリスグリシン・アクリルアミド・ゲル(Cosmobio社製)で電気泳動を行い、PVDF膜に転写した。
 免疫反応性のたんぱく質を検出するために、ECLプラス(アマシャム社製)を使用した。
 検出された各バンドの濃度は、LAS-3000バイオイメージアナライザー・システム(富士フイルム製)を使用し測定した。
(ELISA、Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)
 培養上清内のAβ40とAβ42の濃度を、BAN-50/BA-27又はBAN-50/BC-05 サンドイッチELISA分析キット(和光純薬工業、大阪(日本))により測定した。
(パッチクランプ法)
 分化誘導した神経細胞に対して、HEKA EPC10 amplifier (HEKA Instruments Inc.製)を用いてホールセルパッチクランプを行った。細胞外液の組成は、140mM NaCl、10mM HEPES、10mM glucose、5mM KCl、2mM CaCl2、1mM MgCl2(NaOHでpH 7.2に調整)、ピペット溶液の組成は、130mM KAspartate、10mM EGTA、10mM HEPES、3mM ATP-Mg、1mM MgCl62O(KOHでpH7.2に調整)で行った。
 自発的な興奮性シナプス後電流の測定は-60mVで固定し、自発的な抑制性シナプス後電流の測定は-30mVで固定して行った。
 記録はそれぞれ60秒間行い、自発的な興奮性シナプス後電流のカウントは記録中の内向き電流応答のイベントを計測し、自発的な抑制性シナプス後電流は外向き電流応答のイベントを計測した。
(遺伝子発現解析)
 ここで、図3を参照して、ES細胞に導入した遺伝子の遺伝子発現解析の結果について説明する。
 この遺伝子発現解析においては、上述のヒトES細胞株に、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病について、野生型もしくはそれぞれの変異をもつ原因遺伝子を既知ゲノム部位に挿入し、RT-PCR法(マニアテス他、参照)にて、遺伝子の発現量を確認した。
 図3(a)は、アルツハイマー病の原因となる遺伝子PS1を導入し、安定的に発現しているモデル細胞を示す。それぞれのレーンは、野生型(WT)、P117L変異型、G378E変異型、D385A変異型の遺伝子を導入したES細胞の遺伝子発現解析の結果を示す。また、Pはコントロールである親株での遺伝子発現解析の結果である。この親株は、ES細胞株KhES-1をHPRT遺伝子座に上述の発現ベクターがインテグレーションしやすいように遺伝子加工した細胞株である。
 このように、それぞれの遺伝子を導入している株は、ES細胞の多能性のマーカーとなるOCT3/4、NANOG、コントロールである内部標準遺伝子GAPDHを発現しており、ES細胞としての形質を保っていることが分かる。
 また、親株自体が発現している神経変性疾患原因遺伝子PS1の野生型である「内在性遺伝子」も通常の状態で発現している。さらに、細胞へ導入した野生型もしくは変異型遺伝子の発現を示している「ベクター由来遺伝子」は、親株では当然、発現しておらず、逆に各遺伝子導入した株では視認可能なレベルに高発現している。
 図3(b)は、筋萎縮性側索硬化症の原因となる遺伝子SOD1を導入し、安定的に発現しているモデル細胞を示す。それぞれのレーンは、野生型(WT)、A4V変異型、G85R変異型、G93A変異型、親株(P)を示す。これらの株においても、ES細胞の形質を保ち、ベクター由来遺伝子が高発現している。
 図3(c)は、ハンチントン病の原因となる遺伝子HTTを導入し、安定的に発現しているモデル細胞を示す。それぞれのレーンは、野生型となるQ25、Q97変異型、親株(P)を示す。これらの株においても、ES細胞としての形質を示す遺伝子が発現し、ベクター由来遺伝子も発現している。
 以上のように、それぞれの株は、外来遺伝子は高発現を示しており、遺伝子挿入が起きても、ES細胞の多能性マーカー遺伝子(OCT3/4、NANOG)の発現、内在性遺伝子の発現にも影響していないことが分かる。
 以下で、各神経変性疾患において、上述の実験方法で、各モデル細胞の表現型等の性質を調べた実施例について説明する。
〔アルツハイマー病のモデル細胞〕
 まず、実施例1として、アルツハイマー病(AD)の原因となる遺伝子PS1を遺伝子導入したADモデルES細胞(以下、単にモデル細胞という)と、このモデル細胞を分化誘導して製造したADモデル神経細胞(以下、単に神経細胞という)の実験結果について図面を参照して詳しく説明する。
(モデル細胞のPS1の発現量)
 図4を参照して、PS1遺伝子を遺伝子導入したモデル細胞における、PS1たんぱく質の発現量の測定結果について説明する。
 図4(a)は、野生型(WT)、P117L変異型、G378E変異型、親株(P)についての、ウェスタンブロットの結果である。それぞれのレーンにて、PS1が発現していることが分かる。しかしながら、バンドの濃さが異なり、遺伝子導入株でその発現量に差があり、増加していることが分かる。
 図4(b)は、具体的に野生型(WT)、P117L変異型、G378E変異型のPS1たんぱく質の発現量を解析した結果のグラフである。図4(b)のグラフは、それぞれのサンプルの平均値±標準誤差(standard error of mean、SEM)を示す。このグラフにおいて、野生型(WT)、P117L変異型、G378E変異型の遺伝子導入細胞では、親株(P)に対してPS1の発現量が増加している。この増加量は、2.5~3.5倍程度である。この結果について、親株を常に1として、対応のないt検定では野生型のみp<0.05、他は有意差なしであった。しかしながら、サンプル数が少ない場合の検定に用いるマンホイットニーU検定を行ったところ、3種類ともp<0.05で、有意差があった。すなわち、PS1遺伝子のヒトES細胞への部位特異的遺伝子挿入によって、統計的に有意にPS1の発現を増やすことができた。
(モデル細胞の分化)
 次に、図5を参照して、PS1遺伝子を遺伝子導入したヒトES細胞(モデル細胞)から分化誘導し、成熟させた神経細胞の観察写真を示す。図5においては、野生型(WT)、P117L変異型、G378E変異型について、神経に分化して成熟しているかを確認した。
 各分化誘導後の神経細胞において左側の写真は、位相差顕微鏡での観察写真、右側の写真は神経細胞のマーカー(TypeIII-β-tubulin)で免疫染色した写真を示す。野生型(WT)、アルツハイマー病由来変異型(P117L、G378E)のすべてで、神経細胞マーカーが陽性の神経細胞に分化誘導された。
(細胞外Aβの濃度測定)
 次に、図6を参照して、PS1遺伝子を遺伝子導入したモデル細胞から分化誘導した神経細胞の培養液中の細胞外Aβの濃度測定を、ELISAを用いて行った実施例を示す。図6では、PS1遺伝子を遺伝子導入したモデル細胞から分化誘導した神経細胞において、老人斑の構成成分となるAβ40とAβ42の濃度の比率であるAβ42/(Aβ40+Aβ42)の値を求めた。なお、AβはAPPのC末側の切断部位の違いによって、Aβ40(40アミノ酸)と、Aβ40より2アミノ酸C末側で切断されるAβ42とが主に存在している。このうち、Aβ42は、C末側の2アミノ酸の増加により、きわめて凝集しやすく、アルツハイマー病の原因と推定されている。
 図6(a)は、野生型(WT)、P117L変異型、G378E変異型、親株(P)についてのAβ42/(Aβ40+Aβ42)の割合を示すグラフである。アルツハイマー病由来変異型PS1であるP117L変異型、G378E変異型の遺伝子を導入した細胞では、実際のアルツハイマー病の疾患で起きる特徴と同様に、Aβ42の産生比率が増加していた。
 図6(b)は、親株(P)を1として、上述のAβ42/(Aβ40+Aβ42)を正規化したグラフである。これによると、野生型(WT)は1.04であるのに対して、P117L変異型は2.92、G378E変異型は2.22であった。統計検定を行ったところ、P117L変異型、G378E変異型とも、対応のないt検定、マンホイットニーU検定共にp<0.01で有意差有の結果を得た。すなわち、変異型PS1遺伝子のヒトES細胞への部位特異的遺伝子挿入によって、統計的に有意にAβ42の発現量が増加した。
(自発性シナプス後電流発生頻度の測定)
 次に、図7と図8とを参照して、パッチクランプ法を用いて、PS1遺伝子を遺伝子導入したモデル細胞から分化誘導した神経細胞の自発性シナプス後電流発生頻度について測定を行った結果の実施例について説明する。
 図7(b)は、親株(P)から分化誘導した神経細胞、野生型(WT)、P117L変異型、G378E変異型の遺伝子導入細胞から分化誘導した神経細胞についての自発性シナプス後電流発生頻度の測定結果をまとめた表である。具体的には、それぞれ1秒当たりの、自発的な興奮性シナプス後電流(sEPSC)の発生頻度(sEPSC頻度(/sec))と自発的な抑制性シナプス後電流(sIPSC)の発生頻度(sIPSC頻度(/sec))とを測定し、その結果を平均値±標準誤差で示している。図7(a)は、これらの測定結果をグラフ化したものである。
 これらの測定結果によると、アルツハイマー病由来変異型PS1であるP117L変異型、G378E変異型の遺伝子を導入した神経細胞では、自発的な興奮性シナプス後電流(sEPSC)の発生頻度がWT導入神経細胞と比較して減少した。すなわち、興奮性シナプスの機能低下が示唆される結果であった。また、自発的な抑制性シナプス後電流(sIPSC)の発生頻度はG378E変異型PS1の導入神経細胞において増加する傾向が見られる。これらの結果は、神経細胞としての活動が異常になっていることを示す。
 このような自発性シナプス後電流発生頻度の測定により、薬物を投与して培養した場合に電流発生頻度の変化を観察することで、その薬物の有効性を確認できる。
 図8は、図7のコントロールとG378E変異型のPS1を導入したモデル細胞から分化誘導した神経細胞を、パッチクランプ法にて測定した電流値を時系列データとして示したグラフである。
 図8(a)は、遺伝子導入していない親株から分化誘導した神経細胞の電流のグラフを示し、図8(b)はG378E変異型のPS1を導入したモデル細胞を分化誘導した神経細胞のグラフを示す。
 G378E変異型では、親株と比べて、明らかに電流のスパイクの振幅が小さくなり、スパイクの発生頻度も減っており、具体的に、神経細胞としての活動が減退していることが分かる。
 このように、変異型のPS1遺伝子を遺伝子導入した多能性幹細胞による神経変性疾患のモデル細胞を分化誘導して製造した神経細胞は、実際に神経変性疾患のモデルとして用いることができることが分かる。
(シナプス小胞たんぱく質の発現量)
 次に、図9を参照して、PS1遺伝子を遺伝子導入したモデル細胞から分化誘導した神経細胞について、ウェスタンブロットを用いて、シナプス小胞たんぱく質(synaptophysin、syp)の発現量を測定した実施例について説明する。図9では、シナプス小胞たんぱく質(syp)と、他の神経特異的抗原であるニューロフィラメント(neurofilament、NF)との割合を測定した。すなわち、NFを内部コントロールとして使用した。
 sypは、グルタミン酸などの神経伝達物質を含むプレシナプス(軸索側)に存在するシナプス小胞たんぱく質である。このシナプス小胞たんぱく質の量が減ることで、神経細胞としての活動が減退することのマーカーとなる。
 図9は、野生型(WT)、P117L変異型、G378E変異型の遺伝子導入細胞から分化誘導した神経細胞それぞれについて、シナプス小胞たんぱく質の発現を測定した結果を示すグラフである。該グラフは、実験数n=4、野生型のみn=3とし、親株を1とした平均値±標準誤差を示す。
 このように、アルツハイマー病由来変異型のPS1であるP117L変異型、G378E変異型のPS1の遺伝子を導入したモデル細胞を分化誘導して製造した神経細胞では、野生型(WT)遺伝子を導入した場合と比較してsyp発現量が減少していた。
(シナプス小胞たんぱく質の陽性ドット数)
 次に、図10を参照して、PS1遺伝子を遺伝子導入したモデル細胞から分化誘導した神経細胞について、神経細胞の免疫染色を用いて、プレシナプスに存在するシナプス小胞たんぱく質の陽性のドット数の計測を行った実施例について説明する。このシナプス小胞たんぱく質の点が少ないと、神経細胞のシナプスの活動が低下していることが分かる。
 図10は、野生型(WT)、P117L変異型、G378E変異型の遺伝子導入細胞から分化誘導した神経細胞それぞれについて、公知の画像解析ソフトウェア(ImageJ、URL「http://rsbweb.nih.gov/ij/」)にて、プレシナプスに存在するシナプス小胞たんぱく質の陽性のドット数を計測した結果を示すグラフであり、親株(P)における陽性ドット数を1とした際の陽性ドット数の割合を示す。
 このように、野生型PS1を導入したモデル細胞を分化誘導して製造した神経細胞では、親株と比較してシナプス小胞たんぱく質の陽性ドット数が減少していることが分かった。また、変異型PS1であるP117L変異型、G378E変異型を遺伝子導入したモデル細胞を分化誘導して製造した神経細胞では、野生型(WT)と比較して、さらに陽性ドット数が減少していた。
 このように、本発明の実施の形態に係るモデル細胞から分化誘導した神経細胞は、機能的にも神経活動の低下を起こしており、アルツハイマー病のモデル細胞として利用可能であることが分かる。
〔ハンチントン病のモデル細胞〕
 次に、実施例2として、ハンチントン病の原因遺伝子であるHTTを遺伝子導入したモデル細胞を用いた実施例について図面を参照して詳しく説明する。
(HTT遺伝子の導入)
 まず、図11と図12を参照して、HTTを上述のヒトES細胞株の親株に導入したモデル細胞のコロニーを取得した写真を示す。
 図11においては、上述の正常(野生型)のHTTであるQ25型の遺伝子をCAGプロモーターによって発現させ、製造したモデル細胞のコロニーの例を示す。具体的には、図11の左図は、該コロニーを位相差顕微鏡で観察した写真である。図11の右図は、紫外線照射によるGFPの蛍光により、導入した遺伝子が発現し、遺伝子産物が生成していることを確認した例である。このように、遺伝子が導入され、発現していることが分かる。
 次に、図12においては、野生型とQ97変異型の遺伝子を導入した細胞のコロニーについて、GFPにより遺伝子産物を確認した例である。
 図12(a)は、野生型のHTTであるQ25型の遺伝子、図12(b)は変異型でCAGリピートの長いHTTであるQ97変異型の遺伝子を導入した細胞の写真である。
 図12(b)のQ97変異型においては、細かい光る点が散見され、これはHTTのポリグルタミンが凝集していると考えられる。
 このような凝集体ができると、細胞死が起こるとされている。このため、本発明の実施の形態に係る細胞から分化誘導した神経細胞は、ハンチントン病のモデル細胞として好適に使用可能である。
〔モデル細胞を用いたアルツハイマー病治療薬の薬効評価〕
 次に、実施例3として、上記実施例1にて作成した、野生型もしくは変異型PS1遺伝子を導入したモデル細胞から分化誘導した神経細胞を用いて、アルツハイマー病治療薬のスクリーニングが可能か否かを検証すべく、公知のγセクレターゼ阻害剤であるDAPT((3,5-Difluorophenylacetyl)-L-alanyl-L-2-phenylglycine t-butyl ester)で該モデル細胞を処理した場合に、Aβの産生を阻害するかどうかを試験した。
(モデル細胞のDAPT処理)
 神経栄養因子(100ng/mlのNGF、10ng/mlのBDNF、10ng/mlのGDNF、10ng/mlのNT-3)と抗生物質(20U/mlのペニシリン、20U/mlのストレプトマイシン)を含むN2B27培地に神経系細胞を移した後、3(もしくは4)及び7日後に培地の半量を新鮮な培地と交換し、7日後の培地交換時に、1μMのDAPTを加え、さらに7日間培養した。
(Aβの定量)
 培養終了後、培養上清を回収し、上清中のAβの総量を、ヒトβアミロイドELISAキット(和光純薬工業)を用いて測定した。
 結果を図13に示す。各細胞につき、未処理(DAPT(-))の場合の総Aβ量を1とし、DAPT処理した場合の総Aβ量をその相対値で示している。図に示されるとおり、アルツハイマー病モデル細胞においても、DAPTによるAβの産生阻害効果を確認できた。培養上清中のAβ総量がDAPTの添加によって減少したことから、外来遺伝子由来の変異PS1を構成要素として含むγセクレターゼでも、阻害剤に対し問題なく応答することが判明した。このことは、このアルツハイマー病モデル細胞を用い、γセクレターゼのインヒビターまたはモジュレーター、即ち、アルツハイマー病治療薬の候補分子をスクリーニングできることを示している。
〔ヒトiPS細胞から作成したアルツハイマー病モデル細胞〕
 次に、実施例4として、変異型PS1遺伝子をヒトiPS細胞に遺伝子導入したモデル細胞の樹立について説明する。
(部位特異的遺伝子挿入に適したiPS細胞株(親株)の作成)
 ヒトHPRT1遺伝子のエクソン1領域と相同な5’側(7kb)及び3’側(2kb)アームの間に、同方向(5’→3’)に配置した2つのloxP配列に挟まれたネオマイシン耐性遺伝子発現カセットと、プロモーター及び開始ATGコドンを欠くハイグロマイシン耐性遺伝子とを挿入したターゲッティングベクターを構築し、ヒトiPS細胞(クローン名:RCHIPC0003;株式会社リプロセル)に、GenePulser Xcell(BioRad)を用いてエレクトロポレーション法により導入した。100μg/ml G418を含むヒトES細胞培地で培養し、G418耐性コロニーを選択した。PCR及びサザンブロット分析により、HPRT1遺伝子のエクソン1領域への相同組換えが起こったクローンを選択し、そのうちの1つを部位特異的遺伝子挿入に適したiPS細胞株(親株)として、以下の実験に用いた。
 尚、本実験では、ヒトiPS細胞ゲノムの標的遺伝子座としてHPRT1遺伝子座を用いたが、遺伝子ネットワークを乱すことがなく、かつサイレンシングが起こり難いゲノム部位として、ROSA26遺伝子座、ColA1遺伝子座を利用することもできる。
(遺伝子置換による親株への疾患原因遺伝子の部位特異的挿入)
 図1に模式的に示されるベクター(「遺伝子」として変異型PS1遺伝子(P117L)を使用)と、EF1αプロモーターの制御下でCreリコンビナーゼを発現するベクターとを、上記親株の作成の場合と同様に、エレクトロポレーション法にて親株に導入した。遺伝子導入後の細胞を、ハイグロマイシン耐性のマウス胎児線維芽細胞(大日本住友製薬)上に蒔き、2日後から40μg/mlのハイグロマイシンを含む培地に移し、耐性コロニーを選択した。PCR及びサザンブロット分析により、Cre-loxP反応による部位特異的遺伝子挿入が起こっていることを確認し、得られたクローンの1つを変異PS1遺伝子が挿入されたモデル細胞として、以下の実験に用いた。
 尚、得られたモデル細胞では、親株のHPRT1遺伝子座中のloxP配列で挟まれた領域が図1のベクター配列で置換された結果、(CAGプロモーター-PS1)発現カセットと、(EF1αプロモーター-開始ATG-loxP配列-開始ATGを欠くハイグロマイシン耐性遺伝子)発現カセットとが、逆向きに配向している。開始ATGとloxP配列(34塩基)との間に12塩基、loxP配列とハイグロマイシンのコード配列との間に5塩基が付加されているため、部位特異的挿入の結果として得られるハイグロマイシン耐性遺伝子は、開始ATGの後に51塩基(17アミノ酸)が挿入された形で、インフレームに翻訳される。
 本実験では、疾患原因遺伝子の発現を駆動するプロモーターとしてCAGプロモーターを用いたが、他のいかなるプロモーターも使用可能であり、好ましくはサイレンシングを受けにくい非ウイルス性プロモーター(例、EF1αなどのヒトハウスキーピング遺伝子の内因性プロモーターなど)を用いることができる。
 親株及びモデル細胞の選択に用いられる薬剤耐性遺伝子は、両者が異なる限り上記の組合せに限定されず、例えば、他の薬剤耐性遺伝子としてピューロマイシン耐性遺伝子、ホスフィノスリシン耐性遺伝子など適宜組み合わせて用いることもできる。
(遺伝子発現解析)
 上記のES細胞に遺伝子導入した場合と同様に、親株および変異PS1遺伝子(P117L)を導入したアルツハイマー病モデル細胞におけるES細胞特異的遺伝子(OCT3/4、NANOG)、内在性PS1遺伝子、ベクター由来PS1遺伝子、及び内部標準としてのGAPDH遺伝子の発現量を、RT-PCR法(マニアテス他、参照)にて確認した。
 結果を図14に示す。Pはコントロールである親株での遺伝子発現解析の結果である。
 変異PS1遺伝子を導入している株(P117L)は、ES細胞の多能性のマーカーとなるOCT3/4、NANOG、ハウスキーピング遺伝子であるGAPDHを発現しており、ES細胞様の形質を保っていることが分かる。
 また、親株自体が発現している野生型PS1遺伝子(内在性遺伝子)も親株と同等レベルで発現していた。さらに、細胞へ導入した変異型PS1遺伝子(ベクター由来遺伝子)は、親株では当然発現しておらず、逆に該遺伝子を導入した株では視認可能なレベルに高発現していた。
 本発明を好ましい態様を強調して説明してきたが、好ましい態様が変更され得ることは当業者にとって自明であろう。本発明は、本発明が本明細書に詳細に記載された以外の方法で実施され得ることを意図する。したがって、本発明は添付の「請求の範囲」の精神および範囲に包含されるすべての変更を含むものである。
 ここで述べられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、ここに引用されたことによって、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
 本出願は、2009年10月15日付で日本国に出願された特許出願、特願2009-238181を基礎としており、その内容は全て本明細書に包含される。
 神経変性疾患の原因遺伝子をヒト多能性幹細胞に導入したモデル細胞を、ヒトの神経変性疾患の治療に役立つ薬剤の開発のために販売し、又該モデル細胞を使った検査装置や検査サービスを提供することができ、産業上利用可能である。

Claims (14)

  1.  神経変性疾患の原因遺伝子がヒト多能性幹細胞のゲノム中に挿入されてなる、該神経変性疾患のモデル細胞。
  2.  少なくとも神経に分化する多能性幹細胞であることを特徴とする請求項1に記載のモデル細胞。
  3.  前記神経変性疾患は、アルツハイマー病であることを特徴とする請求項1又は2に記載のモデル細胞。
  4.  前記神経変性疾患は、筋萎縮性側索硬化症であることを特徴とする請求項1又は2に記載のモデル細胞。
  5.  前記神経変性疾患は、ハンチントン病であることを特徴とする請求項1又は2に記載のモデル細胞。
  6.  前記原因遺伝子は、部位特異的にヒト多能性幹細胞のゲノム中に挿入されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のモデル細胞。
  7.  前記原因遺伝子が、HPRT1遺伝子座に挿入されていることを特徴とする請求項6に記載のモデル細胞。
  8.  請求項1から7のいずれか1項に記載のモデル細胞から分化誘導された神経細胞。
  9.  正常神経細胞と比較して、興奮性シナプスの機能低下、抑制性シナプスの機能亢進及びプレシナプス中のシナプス小胞たんぱく質の減少から選ばれる1以上の表現型を示すことを特徴とする、請求項8に記載の細胞。
  10.  神経変性疾患の原因遺伝子をヒト多能性幹細胞に導入し、そのゲノム中に挿入することを特徴とする、該神経変性疾患のモデル細胞の製造方法。
  11.  前記原因遺伝子を、部位特異的遺伝子挿入方法のための配列を備えた発現ベクターにより、前記ヒト多能性幹細胞のゲノムの既知部位に導入することを特徴とする、請求項10に記載の方法。
  12.  前記原因遺伝子がゲノム中に挿入された多能性幹細胞を、神経細胞に分化誘導することをさらに含む、請求項10又は11に記載の方法。
  13.  請求項1から9のいずれか1項に記載の細胞と被検物質とを接触させる工程、
     該細胞における神経変性疾患の病理学的変化を測定する工程、
     該病理学的変化の程度と、被検物質を接触させない該細胞における該病理学的変化の程度とを比較する工程、並びに
     被検物質を接触させない場合と比較して該病理学的変化を改善した物質を、神経変性疾患の予防及び/又は治療物質の候補として選択し、あるいは、被検物質を接触させない場合と比較して該病理学的変化を悪化させた物質を、神経変性疾患の原因及び/又は増悪物質の候補として選択することを特徴とする、
     神経変性疾患の予防及び/又は治療物質あるいは原因及び/又は増悪物質のスクリーニング方法。
  14.  前記病理学的変化が、興奮性シナプスの機能低下、抑制性シナプスの機能亢進及びプレシナプス中のシナプス小胞たんぱく質の減少から選ばれる1以上である、請求項13に記載の方法。
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