明 細 書 セルラ一ゼ酵素及びその製法 技術分野
本発明は、 新規のセルラーゼ酵素及びその製法に関する。 この酵素は、 主にシ ロアリ科昆虫の腸内共生原生生物群に由来する。 ' 背景技術 .
セルロースは、 グルコースが 3— 1 , 4—ダルコシド結合で連結した高分子多 糖である。 したがって、 これを加水分解十ればグルコースが得られ、 グルコース の供給源として有効に利用することができる。このセルロースを効率よく分解し、 そこからエネルギーを取り出すためめ一連の反応を司るのがセルラーゼである。 多数のセルラーゼが菌類や細菌などから単離されているが、 セルロースは難分 解性の物質であり、 セルラ一ゼによるセルロース系バイォマスの分解及びその利 用は実用化までに多くの問題を抱えている。 したがって、 この酵素の特性を解明 すること及びこの酵素を効率よく生産することは、 セルラーゼ資源の有効活用に 関わる重要なテーマである。
シロアリの腸内共生原生生物系は、 セルロース分解効率が非常に高いことが知 られていた。 しかし、 その共生原生生物群の難培養性のために解析が進んでいな かったが、 近年でさえ、 共生原生生物系及びそのセルラーゼに関する研究がわず かに行われているにすぎない。
例えば、 特許文献 1及び非特許文献 1には、 シロアリ共生原生生物系由来では ないが、 2種のシロアリ (ャマトシロアリ、 タカサゴシロアリ) が産生するセル ラーゼが開示されており、 そのセルラーゼは、 分子量 4 0 , 0 0 0〜 5 0 , 0 0
0、 熱安定性 6 0。C以下、 至適 p H 5 . 0〜 6 . 0、 及びカルボキシセルロース に対する比活性 7 0〜 1 3 0 0ユエッ ト / m gからなる特徴を有するものである, ここで、 1ユニッ ト (u n i t ) は、 1分あたり 1 ん;, m 0 1のグルコース相当の 還元糖を生成する酵素量を意味し、 以下同様に定義する。
特許文献 2には、 イエシロアリの共生原生動物 (S p i r o t r i c h o n y mp h a 1 e i d y i ) 由来のセル'ラーゼ活性を有する蛋白質が開示されてお り、 分子量約 3 6 k D a、 至適 p H 6. 0 , Vm a x 1 48. 2ユニッ ト Zm g、 Km 1. 9 m g Zm 1からなる特徴を有するものである。
さらにまた、 本発明者らは、 シロアリの原生生物について、 共生細菌の検出、 転写制御メ力二ズム、 共生生物 O X y m 0 n d a sの分子進化、 E S T解析を中 心とした網羅的手法によるリグノセルロース分解'系の進化に関する報告をした (非特許文献 2)。
特許 献 1 特開平 1 1一 46 764号公報
特許文献 2 特開 200 3— 704 7 5
非特許文献 1 W a t a n a b e, H., N o d a, H. , T o k u d a , G. 及び L o., N. ( 1 9 98) N a t u r e 3 94 : 3 30 - 3 3 1
非特許文献 2 極限環境微生物学会誌 (日本) 4巻 2号、 O— 1 3、 P— 1 2〜P— 1 5、 200 5年 発明の開示
木材を唯一の栄養源とするシロアリの共生原生生物群は、 セルロース系バイオ マスを高効率に分解することから、 効率のよいセルラ一ゼ遺伝子をもっと推測さ れるが、 これまで、 その取得例は非常に少なかった。
このような状況のなかで、 本発明は、 特定のシロアリ及びゴキブリ由来の共生 原生生物群からの新規のセルラーゼ及びそれをコードする DN Aを提供すること を目的とする。
本発明はまた、 上記セルラーゼをコ一ドする DNAを発現するための発現系、 並びに該発現系を利用した上記セルラーゼの製造方法、 を提供することを目的と する。
発明の概要:
本発明は、 要約すると、 以下の特徴を含む。
本発明は、 第 1の態様において、 ャマトシロアリ、 ォオシロアリ、 コゥシユン シロアリ、 ムカシシロアリ及びキゴキブリからなる群から選択される昆虫の腸内
共生原生生物群由来であって、 かつ、.配列番号 1 〜 1 4 0に示される塩基配列及 び該塩基配列と 9 0 °/。以上の同一性を有する塩基配列からなる群から選択される 塩基配列によってコードされ.るアミノ酸配列を含むセルラーゼ酵素、 又は該酵素 の 2以上の混合物、 或いは該酵素又は混合物の処理物を提供する。
本発明の実施形態によれば、 上記処理物は、 酵素の抽出物、 凍結乾燥物、 部分 もしくは完全精製物、 又は固定化物である。
本発明の別の実施形態によれば、 上記セルラーゼ酵素は、 ェンドグルカナーゼ 又はセ口ビォヒ ドロラ一ゼのいずれかである。
本発明は、 第 2の態様において、 上記定義のセルラ一ゼ酵素をコードする D N Aを提供する。
本発明の実施形態によれば、 上記 D N Aは、 配列番号 1 〜 1 4 0に示される塩 基配列及び該塩基配列と 9 0 %以上の同一性を有する塩基配列からなる群から選 択される塩基配列を含む D N Aである。
本発明は、 第 3の態様において、 上記定義の 1つ又は複数の D N Aを含むべク タ一を提供する。
本発明の実施形態によれば、 上記べクターは、 上記 D N Aの発現を制御するプ 口モータ—をさらに含む。 本発明は、 第 4の態様において、 上記定義のベクターを含む形質転換細胞を提 供する。
本発明の実施形態によれば、 上記形質転換細胞は、 麹菌である。
本発明の別の実施形態によれば、 上記麹菌はァスペルギルス ·ォリゼである。 本発明は、 第 5の態様において、 上記定義の形質転換細胞を培地にて培養し、 該細胞又は該培地から、 上記定義の 1つ又は複数のセルラーゼ酵素蛋白質を単一 又は混合物形態で回収することを含む、 セルラーゼ酵素の製造方法を提供する。 定義:
本明細書中で使用する、 本発明に関わる用語は、 以下の意味を包含する。 本明細書中で使用する 「腸內共生原生生物」 なる用語は、 ャマトシロアリ、 ォ オシロアリ、 コゥシユンシロアリ、 ムカシシロアリ又はキゴキブリの腸管内に共 生する原生動物を指す。
本明細書中で使用する 「同一性」 なる用語は、 異なる 2つのアミノ酸配列又は 塩基配列間で、 ギヤップを導入するか又はギヤップを導入しないで配列を整列比 較したときの 2つの配列の一致度を表わし、一般に全ァミノ酸数(又は全塩基数) に対する同一アミノ酸数 (又は同一塩基数) の割合 (%) である。 通常、 同一性 のある配列の検索は、 B LAST (例えば B LASTX、 B LASTNなど)、 F AS TA、 FASTX、 TF AS TAなどの公知のプログラムを利用して行うこ とができる (例えば、 高木利久 ·金久實編,ゲノムネッ トのデータベース利用法, 共立出版 (東京、 日本) , 1 9 98年)。
本明細齊中で使用する 「処理物」 なる用語は、 本発明の酵素の精製又は加工の ための処理工程で得られる任意の形態の酵素を指し、 処理物には、 精製工程の間 の、 酵素源からの酵素抽出物、 部分又は完全精製の酵素、 酵素の凍結乾燥物など の形態の酵素、 或いは、 加工処理、 例えば支持体に酵素を固定化して得られる固 定化酵素、 などが含まれる。 '
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願 2007-53122 号の明細書 および/または図面に記載される内容を包含する。 図面の簡単な説明
図 1は、 分子系統樹に基づいた、 本発明酵素 GHF 7の新規性の検証を示す。 図 2は、 GH F 7ェンドグルカナ一ゼ (R s 20 3 8 B— 1 1) の精製につい て示す。 1ュニッ トは、 1分あたり 1 mmo 1の還元糖 (グルコース等価物) を 生成する酵素量である。
図 3は、 精製セルラ一ゼの至適 p H及び温度のプロフィ一ルを示す。
図 4は、 精製セノレラーゼ (Ho s t : R e t i c u l i t e r me s s p e r a t u s ) の比活性、 至適 pH及び温度、 Km及び Vma xを、 既知のセルラ ーゼと対比した結果を示す。
図 5は、 精製セルラーゼによるセロオリゴ糖の分解産物を示す TLCの結果を 示す。反応は、 3 7 °Cで 2時間行った。図中、 G 1〜G 6はそれぞれグルコース · セ口ビ才ース ' セロ トリ才一ス ' セロテ トラ才ース · セロペンタオース ' セ口へ キソースを表し、 また、 G 2 + E、 G 3 + E、 G4 + E、 G 5 + E、 G 6 +Eは
それぞれの基質に酵素を加えたものであることを表す。
図 6は、 実施例 5で作製されたセルラーゼ生産麹菌株の培養上清からの H i T r a p P h e n y l s e p h a i' o s e F Fによるセルラ一ゼ精製のセル'ラ ーゼ活性分画プロフィールを示す。 図中、 菱形はセルラーゼ活性を示し、 四角は 280 nmでの吸光度 (A 280) を示し、 三角は硫安濃度勾配を示す。
図 7は、 実施例 5で分画された硫安 0. 35M付近の画分の顕著なセルラーゼ 活性のあるタンパグ質画分 (図 6) について、 セロオリゴ糖 (G 2〜G6 (図 5 参照)) を 37°C.、 2時間加水分解したときの分解産物の TLC結果を示す。 発明を実施するための最良の形態
1. セルラーゼ遺伝子のクローニング及び配列決定
本発明のセルラーゼの供給源として使用された昆虫は、 下等シロアリであるャ マトシロアリ、 ォオシロアリ、 コゥシユンシロアリ及びムカシシロアリ、 並びに それらの祖先にあたるキゴキブリである。 これらの昆虫は、 腐朽した倒木、 枯れ 枝などの木質を食べるが、 共生する原生生物群がもつセルラーゼ分解活性のため に木質は糖化され栄養源となる。 原生生物群がもつ加水分解酵素の大部分が糖質 加水分解酵素 (g l y c o s y l h y d r o l a s e) であるために、 該生物 群から得られる酵素は木質バイォマスの糖化に有用であることが大いに期待でき る。
セルラーゼ遺伝子のクローニング及び配列決定は、 以下のようにして行うこと ができる。
先ず、 上記の各昆虫の腸管を取り出し、 破砕し、 100 X g程度の低速遠心で 原生生物画分を得る。 得られた画分から全 RNAを定法に従い単離し、 オリゴ d T結合カラムを用いて mRNAを得、 ついで mRNAから、 オリゴ dTプライマ ー及ぴ逆転写酵素を用いて RNA— DNAハイブリ ッド分子を合成したのち、 R N a s eにより RNA鎖にニックを尊入し、 DN Aポリメラ一ゼによりニックを 開始点として DN A合成を行い、 R N A断片を DN A断片に置き換え、 DNAリ ガーゼでニックを塞いで二本鎖 c DNAを合成する。 このようにして得られた c DNA分子はついで、 ターミナル'トランスフェラーゼで末端伸長するか、 或いは
c DNA分子の末端に制限酵素部位を結合したのち、 プラスミ ド、 ファージなど のべクターに挿入し、 大腸菌などの細菌に形質転換によりべクターを導入して増 幅し、 これによつて c DNAライブラリーを得る。
ライブリ一からのクローンの選択は、 例えばファージプラークの形成後に-ト セルロースフィルターに転写してレプリカフィルターを得たのち、 目的 D N Aに 相補的な配列を含む放射性ラベル、 蛍光性ラベルな.どのラベルを有するプローブ を用いるハイブリダイゼーションにより、 或いは発現ベクターを用いてライブラ リーを作製したときには /3—ガラク トシダ一ゼなどのリボーター蛋白質との融合 体に翻訳 、 これをリボータ一蛋白質や目的蛋白質に対する抗体を用いて免疫学 的手法により、 検出することによって目的クローンを選択することができる。. こ の方法は、 目的蛋白質の部分ァミノ酸配列又はそれと相同性の高い配列が予め判 つている場合に有効である。 目的クローンを選択したのち、 DNA断片を適当な ク口一ユングベクターに挿入し増幅し、制限酵素、ェキソヌク レアーゼで切断し、 リガ一ゼで再び環化し、 ユニバーサルシ一クェンシングプライマー (U S P) を 用いて配列決定し、 重複した配列をつなぎ合わせて完全な配列を決定することが できる。 或いは、 U S Pプライマ一を用いて一本鎖 DNAを P CRで部分的に增 幅し、 さらに増幅産物と重複する配列部分に対する第 2のプライマーを用いて同 様に部分的に増幅し、 さらに増幅産物と重複する配列部分に対する第 3のプライ マーを用いて増幅し、 さらに必要ならば第 4、 第 5等のプライマーによる PCR 増幅を行ったのち、 それぞれの増幅産物を配列決定し、 重複した配列をつなぎ合 わせて完全な配列を決定することができる。
或いは、 代替的な配列決定法として、 シングルパス配列決定法 ( s i n g l e a s s s e q u e n c i n g) を用いて目的蛋白質の配列を決定することが できる。 上記のように作製した c DNAライブラリ一からランダムにコロニーを 選択し、 細菌用選択培地 (例えばカナマイシンなどの抗生物質を含む L B培地) で培養し、市販のプラスミ ド精製システムを利用してプラスミ ドを単離したのち、
5 ' 末端又は 3 ' 末端のシングルパス配列を決定し、 得られた配列を、 FAS T
A、 B LA S Tなどの相同性検索用プログラムを利用して NC B I (米国 ; G e n B a n k、 Un i G e n eなど) などの公共データベースにアクセスして既知
の配列に対するホモロジ一解析及びァノテ一ションを行い、 セルラ一ゼに相当す ると推定される配列を選択する。 さらに、 上記のように選択されたセルラーゼ遺 伝子ホモログの中から糖質加水分解酵素ファミ リー 7 (GHF 7) のエンドダル カナーゼに相当するものを選択し.、 部分配列の系統解析によって共通祖先を共有 すると考えられる配列 (アミノ酸配列で 80%以上の相同性) を選択する。 上記の手法により、 4種のシロアリ及び 1種のゴキブリの共生原生生物群由来 の 1 40種の新規セルラーゼ遺伝子を見出した。 具体的には、 糖質加水分解酵素 ファ ミ リ一 5 (GH F 5 ) について 43クローン (配列番号 1〜 43)、 GHF 7 のセロビォヒ ドロラ一ゼ(C B H)について 34クローン(配列番号 44〜 7 7 )、 GH F 7エンドグルカナーゼ (EG) について 3 8クローン (配列番号 7 8〜 1 1 5)、 GHF 4 5について 2 5クローン' (配列番号 1 1 6〜 1 40) を新規のセ ルラーゼ遺伝子として見出した。
したがって、 本発明は、 配列番号 1〜 1 40に示される塩基配列を含むセルラ ーゼ酵素をコードする DNAを包含する。
さらに、本発明の範囲には、配列番号 1〜 1 40に示される各塩基配列と 90% 以上の同一性を有する塩基配列を含むセルラーゼ酵素をコードする DNAも包含 する。 このような高相同性のセルラーゼ酵素をコードする DNAは、 例えば突然 変異や選択的スプライシングなどの自然の変異によつて又は人為的な変異によつ て得ることができるし、 或いは該 DNAは、 上記のシロアリ又はゴキブリ と異な る科又は種又は株に由来する異なる配列を'もつセルラ一ゼ遺伝子ホモログとして 得てもよい。 変異は、 ヌクレオチドの置換、 欠失、 挿入、 付加、 又はそれらの組 み合わせからなり、 配列番号 1〜 140の各塩基配列と 80 %以上、 8 5 %以上 又は 90 %以上、 好ましくは 9 3 %以上、 より好ましぐは 9 5 %以上、 さらに好 ましくは 98 %以上の配列同一性を有し、 かつ変異遺伝子の発現によって得られ る各蛋白質はセルラ一 活性を有しているべきである。
上記の変異体は、 配列番号 1〜 1 40の各々に示される塩基配列、 その相補的 配列、 又はその断片 らなる DNAをプローブ (ί列えば約 20塩基以上、 好まし くは 30塩基以上、 より好ましくは 50塩基以上、 例えば 50〜 1 00塩基) と して用いるス トリンジェント条件下でのハイプリダイゼーションによって分離又
は単離することができる。 ここで、 ス トリンジェント条件は、 例えば、 約 4 5°C でハイブリダィゼ一シヨンを行い、 ついで 0. 2 X S S C、 0. 1 %SD S中、 50〜 6 5°C 1回又は複数回の洗浄を行うカ 或いは、 6 X S S C中、 4 2°Cで ハイブリダィゼ一シヨ ンを行ったのち、 0. 1 X S S C、 0. 1 %SD S中、 5 5°Cで洗浄する、 などの条件をあげることができる。 また、 バッファにはホルム ァミ ドを添加することも可能である。 ハイブリダイゼーション条件は、 例えば A u s u b e l ら, (1 9 90) C u r r e n t P r o t o c o l s i n M o 1 e c u 1 a r B i o l o g y, J o h n W i l e y & S o n s , I n c . (米国) にも記載されている。
或いは、 変異体を含むと予想される生物サンプルからの c DN Aライブラリ.一 について、 配列番号 1〜1 40に示される塩基配列に基づいて作製したセンス及 びアンチセンスプライマ一 (通常 1 5〜30塩基) を用いるポリメラ一ゼ連鎖反 応 (PCR) を行うことによって、 目的の変異体 DN Aを増幅することができ、 さらにァガロースゲル電気泳動又はポリアクリルアミ ドゲル電気泳動などの技法 を用いて DN Aを精製することができる。
さらにまた、 人為的に変異を導入する方法には、 部位特異的突然変異誘発法、 変異を含むプライマ一を作製し、 配列番号 1〜 1 40に示される塩基配列の各々 を含むベクタ一を铸型にして P CRを行う方法、 などによって、 突然変異を該配 列に導入することができる。
さらにまた、 本発明の範囲には、 配列番号 1〜 1 40に示される塩基配列及び 該塩基配列と 90%以上の同一性を有する塩基配列からなる群から選択される塩 基配列によってコードされるァミノ酸配列を含むセルラ一ゼ酵素も包含される。 配列番号 1〜1 40によって表わされる塩基配列はいずれも、 開始コ ドンに始ま り終止コ ドンで終わるセルラ一ゼ遺伝子配列を表わしており、 遺伝暗号表の遺伝 暗号にしたがって各塩基を対応ァミノ酸に置き換えると、 各配列番号に示される 塩基配列に対応するアミノ酸配列となる。すなわち、本発明のセルラーゼ酵素は、 セルロース分解活性を有する酵素であり、 配列番号 1〜1 40に示される塩基配 列に対応するアミノ酸配列を含む。
さらにまた、 実施形態により、 セルラ一ゼ酵素は、 エンドダルカナーゼ (EG)
又はセロビォヒ ドロラーゼ (CBH) のいずれかである。 .
エンドグルカナーゼ (EC 3. 2. 1. 4) は、 セルロース等の /3— 1, 4- ダルコシド結合をェンド型で、 すなわち分子内部から切断する加水分解酵素であ る。
セロビォヒ ドロラーゼ (E C 3. 2. 1. 9 1 ) は、 セノレロース等の /3— 1 , 4 -ダルコシド結合を還元末端又は非還元末端のいずれかから切断しセロビオー スを生成する加水分解酵素である。
配列番号 1〜 1 40のうち、 CB H活性をコードする配列は、 配列番号 44〜 7 7であり、 その他の配列は、 E G活性をコードしている。
本発明のセルラーゼ酵素に包含される上記変異を含む酵素は、 配列番号 1〜 1 40に示される塩基配列によってコードされるアミノ酸配列において、 該ァミノ 酸配列と 80 %以上、又は 8 5 %以上、好ましくは 90 %以上、好ましくは 9 3 % 以上、 より好ましくは 95 %以上、 さらに好ましくは 9 8 %以上の配列同一性を 有し、 かつセルラーゼ活性を有するものである。
このような変異は、 1又は複数、 好ましくは 1もしくは数個、 のアミノ酸の欠 失、 置換、 挿入、 付加、 又はこれらの組み合わせを含むものである。 とりわけ、 アミノ酸の置換は、 保存的置換が好ましいが、 セルラーゼ活性を損なわないなら ば非保存的置換も許容される。 保存的置換は、 アミノ酸の構造又は電荷又は極性 (もしくは疎水性) などの性質が類似したァミノ酸間の置換である。 例えば A r g、 L y s及び H i sの塩基性ァミノ酸間、 A s p及び G 1 uの酸性ァミノ酸間、 T r p、 P h e及び T y rの芳香族ァミノ酸間、 L e u、 I l e、 V a l、 A l a、 M e t、 P i- oなどの疎水性ァミノ酸間、 或いは、 S e r、 T h r、 G 1 ^ A s n、 G 1 nなどの極性ァミノ酸間でのァミノ酸置換を挙げることができる。 2. セルラーゼ発現系
上記 1に記載の方法でクロー-ングされかつ配列決定された、 配列番号 1〜 1
40によって表わされる塩基配列を含むセルラーゼ酵素をコ一ドする DNA、 或 いは該塩基配列の各々と 80 %以上、 又は 8 5 %以上、 好ましくは 90 %以上の 配列同一性を有する塩基配列を含むセルラーゼ酵素をコ一ドする DNAは、 発現 用ベクターに挿入し、 これを用いて、 コンビテント細胞に形質転換又はトランス
フエクション'することによって、 形質転換細胞を得ることができる。 上記 DNAは、 異なる配列のセルラーゼ遺伝子を 1種類又は複数、 例えば 2種 類以上、 3種類以上、 4種類以上、 .或いは 5種類以上を例えばタンデムにべクタ 一に、 それぞれ発現可能なように連結したものであってもよい。 このような DN Aを含む発現系は、 複数のセルラーゼを一度に生成することを可能にする。
発現ベクターは、 プロモーター、 ェンハンサー、 複製開始点、 リボソーム結合 部位又は S D配列、 タ一ミネ一ターなどの制御配列、 抗生物質耐性遺伝子配列、 栄養要求性相補配列などの選択マーカー配列、 などを含むことができる。 このよ うなべクターは、 形質転換する宿主細胞に応じてその種類を通常変えることがで きるが、 該べクタ一には、 例えば大腸菌、 枯草菌、 シユードモナスなどの原核生 物用のベクター、 酵母、 菌類 (例えば糸状菌、.担子菌など)、 動物細胞 (例えば昆 虫細胞、 哺乳類細胞など) などの真核生物用のベクターなどを含み、 例えばブラ スミ ド、 ファージ、 ウィルスなどのベクタ一である。
これらのベクタ一は、 市販されているのでそれらを使用することができる。 例 えば、 細菌用べクターの例は、 p ET 3、 p ET l l (S t r a t a g e n e社 製)、 pMAL(N e w E n g l a n d B i o 1 a b s社)などが挙げられる。 また、 例えば t r pプロモーター、 1 a cプロモーター、 PLプロモータ一、 PR プロモーターなどのプロモータ一を調節配列として使用できる。 また、 酵母用べ クタ一の例は pYEU r a 3、YE p l 3、YC p 50などが挙げられる。また、 例えば G A L 1プロモーター、 GAL 1 0プロモーター、 解糖系酵素プロモータ 一などのプロモータ一を調節配列として使用できる。 さらにまた、 ァスペルギル スなどの真菌用べクタ一の例は、 p NAN 8 1 4 2などが挙げられる。 また、 例 えばアミラーゼ遺伝子プロモーター a my B、 ダルコアミラーゼ遺伝子 g 1 a A などのプロモーターを調節配列として使用できる。
宿主細胞としては、 大腸菌、 シュ一ドモナス、 ス トレプトミセス、 枯草菌、 ス トレプトコッカス、 スタフイロコッカスなどの細菌細胞、 酵母細胞、 ァスペルギ ルスなどの真菌細胞、 ドロソフイラ S 2、 スボドプテラ S f 9などの昆虫細胞、
CHO細胞、 CO S細胞、 H e L a細胞、 C 1 2 7細胞、 3 T 3細胞 (ジヒ ドロ 葉酸レダクタ一ゼやチミジンキナーゼなどを欠損した変異株を含む)、 BHK 2 1
細胞、 HEK 29 3細胞、 などの動物細胞などを使用できる。 宿主は、 必要に応 じて、 目的 DN Aの発現、 蛋白質生産を妨げる内因性遺伝子を破壊したものを使 用することができる。 遺伝子破壊は、 例えば公知のアンチセンス RN A法 (標的 遺伝子の m R N Aに対して相捕的な R N Aをコードする D N Aを細胞のゲノムに 相同組換え法によつて導入する方法)などを用いて行うことができる(例えば C . H e 1 e n e a n d J . J . T o u l me , B I O c h e m. B i o p h y s . A c t a ( 1 9 90) 1 04 9 : 9 9— 1 2 5)。 アンチセンス分子は mRN Aと塩基対を形成し、 mRN Aから蛋白質の翻訳を妨げる。 本発明の好適実施形 態によれば、 好ましい宿主は、 麹菌 (例えば、 ァスペルギルス ·ォリゼなど)、 麹 菌のプロテア一ゼ破壊株などである。
•形質転換又はトランスフエクシヨ ンは、 例えばリ ン酸カルシゥム トランスフエ クシヨ ン、 D E A E—デキス トラン媒介トランスフエクシヨン'、 マイクロインジ ェクシヨン、 カチオン性脂質媒介トランスフェクションヽ エレク トロポレーショ ン、 形質導入、 スフエロプラス ト法、 感染 (ウィルス、 ファージなど) などを含 む。
後述の実施 ί列で例示として使用した発現プラスミ ドは、 G a t e w a yシステ ム (インビト口ジェン社) を用いた組み換え反応により、 エントリーベクタ一 p DE STR 3 -R 4上に、 α—アミラ一ゼプロモータ一 a m y Βおよび構造遺伝 子と、 ひ一アミラーゼ遺伝子のターミネータ一 T— a my B配列に挟まれた形で 該 DNAを挿入し、 これを用いて麹菌を形質転換することによってその都度構築 した。 なお、 構造遺伝子配列と該 DN Aの間に KRGGG配列を加えることによ つて、 アミラーゼから該タンパク質が切断されるように発現プラスミ ドを構築し た。
3. セルラーゼの製造
本発明のセルラーゼをコ一ドする DNAを発現可能にしたべクターで形質転換 された宿主細胞は、 適当な培養培地中で培養され、 該 DNAを発現しセルラ一ゼ を産生することができる。
培地については、 宿主に応じて適する培地が選択され、 天然培地、 合成培地と して市販されている培地を使用することができるし、 或いは、 文献等の記載にし
たがって炭素源、 窒素源、 無機塩類、 血清、 サイ トカイン類、 ビタミン類、 など を含む培地を作製してもよい。 培地には、 必要に応じて、 テトラサイクリン'、 ァ ンピシリンなどの抗生物質、ィソプロピル一 β _ D _チォガラタ トピラノシド( I P T G ) などの誘導物質などを添加することができる。
培養は、 好気的又は嫌気的条件で、 攪拌、 振とう、 静置などの条件下で、 通常 室温〜 4 0 °Cの温度で行うことができる。
麹菌を宿主とする培養では、 例えば、 5 0 O m 1 'のエルレンマイヤ一フラスコ に 1 0 O m 1のマル トースまたはデキス トリンの入った栄養培地を加え、 ここへ 構築した麹菌株を植菌する。 これを 3 0 °Cで 4 日間培養することによって発現タ ンパク質を誘導し培地中に放出させることができる。
.本発明のセル'ラーゼ蛋白質は、 培養形質転換細胞又は培地から回収することが できる。 真核細胞を宿主とするときには、 本発明の D N Aにシグナル配列をコ一 ドする D N Aを連結した融合 D N Aを作製し、 これによって細胞を形質転換する ことによつて、細胞外、すなわち培地中に目的蛋白質を分泌させることができる。 一方、 原核細胞を宿主とするときには、 通常、 細胞内に目的蛋白質が蓄積される ので、 浸透圧を変化させる手法、 機械的手法 (超音波法など) などによって細胞 を破壊し、 抽出液から目的蛋白質を回収することができる。
本発明のセルラーゼ蛋白質の精製は、 公知の技法を用いて行うことができる。 そのような技法には、 例えば、 硫酸アンモ-ゥム又はエタノールによる沈殿又は 分画、 酸又は有機溶媒による抽出、 ァ-オン又はカチオン交換クロマトグラフィ 一、 ゲルろ過ク口マトグラフィー、 疎水性相互作用クロマトグラフィー、 ァフィ 二ティ一クロマトグラフィー、 ノヽイ ドロキシアパタイ トクロマトグラフィー、 逆 相高速液体ク口マトグラフィ一などのク口マトグラフィー、 ポリアクリルァミ ド ゲル電気泳動、 などを単独で、 或いは適宜組み合わせて行うことができる。
セルラーゼ酵素の活性測定(アツセィ)は、次のようにして行うことができる。 ェンドグルカナーゼについては、 以下の方法で測定を行うことができる。 タン パク標品 1 0 1に 1 %カルボキシメチル'セルロース (0 . 1 M酢酸 N aバッフ ァ p H 6 . 0に溶解) 2 5 0 μ 1 を加え、 室温で 1時間反応を行なう。 生成した 還元糖を測定するために、 反応液 2 6 0 μ 1 中 1 0 0 1にテトラゾリ ゥムブル
一試薬 l m l を加え、沸騰水中で 1 0分反応させた後、冷却して分光光度計(O. D. 66 0) で吸光値を測定する (J u e, C. K. a n d L i p k e , P. N. D e t e r m i n a t i o n o f r e d u c i n g s u g a r s i n t h e n a n o m o 1 e r a n g e w i t h t e t r a z o 1 i u m b l u e ''', J B i o c h e m B i o p h y s Me t h o d s , 1 1 , 1 0 9 - 1 1 5 ( 1 98 5))。
セロビォヒ ドロラーゼについては、 基質としてカルボキシメチルセルロースの 代わりに A V i c e 1 1 を用い、 同じ方法を用いることによって測定することが できる。 .
本発明のセルラーゼ酵素はまた、 種々の処理物の形態をとることができる。 .こ のような処理物には、 例えば酵素の抽出物、 凍結乾燥物、 部分又は完全精製物、 固定化物などが含まれる。すなわち、精製工程の間の、酵素源からの酵素抽出物、 部分又は完全精製の酵素、 酵素の凍結乾燥物などの形態の酵素、 或いは、 加工処 理、 例えば支持体に酵素を固定化して得られる固定化酵素、 などが含まれる。 酵素の固定化は、 担体結合法、 すなわち水不溶性の担体に酵素を共有結合又は 非共有結合によって結合させる方法、 包括法、 すなわち高分子ゲルの微細な格子 の中に酵素を包み込む方法、 などを含む (例えば、 福井三郎編、 酵素工学、 東京 化学同人 (東京、 日本)、 1 98 1年)。 担体は、 多孔性ポリマー、 イオン交換樹 脂、 ガラス、 鉱物、 金属 (例えば酸化鉄など) などを含む。 また、 高分子ゲルは、 多糖類 (例えばカラギーナンなど)、 光硬化性樹脂などを含む。 これらの担体や高 分子ゲルに固定化された酵素は、 力ラムなどに充填して、 連続的セルロース分解 などに使用することができる。
本発明のセルラ一ゼは、 その多数のセルラ一ゼの中から、 使用目的に応じて適 するセルラーゼを選択し、 単独で又は、 酵素混合物として組み合わせて、 木質バ ィォマスの高度糖化、 アルコール生産、 バイオポリマーの製造などの酵素源とし て、 或いは洗剤 ·繊維加工用製剤、 飼料添加剤、 消化剤、 バイオボリマーのなど の主成分又は補助成分として、 利用することができる。 組み合わせ方は、 特に限 定されないが、 2種類以上、 好ましくは 5種類以上、 さらに好ましくは 1 0種類 以上などである。
実施例
以下の実施例により本発明をさらに説明するが、 本発明はそれらの実施例によ つて制限されないものとする。
<実施例 1 > m R N Aの単離
ャマトシロアリ .ォオシ口ァリ ' コゥシユンシロァリ ' ムカシシロアリ ' キゴ キブリ腸管を摘出し.、それぞれ S o l u t i o n U(T r a g e r 1 9 34, B i o l o g i c a l B u l l e t i n, V 0 I 6 6 : 1 8 2 - 1 90) 中で 破砕し、 1 00ミク口ンナイ口ンメッシュで濾過した。 得られた懸濁液を 1 00 X g、 3分間ゆるやかに遠心することによって原生生物画分を得た。 更に Sひ 1 u t i o n Uで 3回洗浄し、 R N A抽出のための原生生物画分を得た。 mRN Aの単離は O l i g o _ d T 30 < S u p e r™> (日本口シュ) を用いて指示 書通りに行い、 各宿主シロアリ由来の原生生物群より mRN Aを得た。
<実施例 2〉 c D N Aライブラリ一の構築
各シロアリ共生原生生物群より調製した mRN Aを 2〜 3 /j g用いて、 c DN Aライブラリ一の構築を行った。 ライブラリ一構築はャマトシロアリに関しては P i e r oらの方法によって 亍ぃ ( C a r n i n c i , P & H a y a s h i z a k i 'Y 1 9 9 9, Me t h o d s E n z y m o 1 30 3 : 1 9— 44)、 その他のシロアリ由来のものに関しては菅野らの方法によって行った (Ma 1- u y a m a , K . a n d S . S u g a n o 1 9 94, G e n e l 38 ( l— 2ノ : 1 7 1— 1 74)。ャマトシロアリの c DNAライブラリーに関しては SOL R株 大腸菌と E X A s s i s tヘルパーファ一ジ (N o V a g e n) を用いて指示書 通りにプラスミ ドへのサブクロ一ユングを行った。
<実施例 3 >配列の解析
得られた大腸菌クローンは L B培地中で培養し、 マルチスクリーン F B (日本 ミ リポア)を用いて指示書通りに精製した。精製したプラスミ ド DNAを用いて、 ャマトシロアリ、 ォオシロアリ、 コゥシユンシロアリ、 ムカシシロアリ、 キゴキ プリそれぞれの共生原生生物群由来のライブラリークローンをそれぞれ 9 1 7、
9 20、 1 056、 1 0 2 3、 9 2 1クローンずつ、 B i g d y e t e r m
i n a t o r c y c l e s e q u e n c i n g k i t v 3. 1および自動 シーケンサ A B 1 3 7 0 0、 3 1 0 0または 3 1 3 0 (A p p l i e d B i o s y s t e rn s ) を用いて定法通りに配列決定した。 配列決定には M4プライマ 一 (配列番号 1 4 1 : 5 ' — GT T T T C C C A GT C AC G AC—
3 ') を用レヽて、 5 末 ί耑の s i n g l e p a s s s e q u e n c eを、 定し た。 得られた配列は F A S T Xにより公共データベースに蓄積されている既知配 列に対するホモロジ一解析を行い(DN A d a t a b a s e J a p a n)、 ァ ノテーションを行った。 得られたァノテ一シ ョンの中からセルラ一ゼに相当する ものを選択した。
<実施例 4 >セルラーゼ配列の解析
.得られたセルラーゼ遺伝子ホモ口グのうち、. 糖質加水分解酵素ファミ リ一 7の ェンドグルカナーゼに相当するものを選択し、 部分配列の系統解析によつて共通 祖先を共有すると考えられる配列 (相同性 =アミノ酸配列で 8 0 %程度以上) に ついて、 GH F 5については全 4 3クローン (配列番号 1〜4 3)、 GH F 7 C B Hについては全 3 4クローン (配列番号 4 4〜7 7)、 GH F 7 E Gについては全 3 8クローン(配列番号 7 8〜 1 1 5)、GH F 4 5については全 2 5クローン'(配 列番号 1 1 6〜 1 4 0) の全長配列を決定した。
得られた配列を用いて最尤ー距離行列法で系統関係を解析したところ、 これら のシロアリ共生原生生物由来の配列は独立した系統群を形成し、 GH F 7 (図 1)、 GH F 4 5においては既知の同等酵素遺伝子とはサブフアミ リーレベルで異なる 新規の酵素であることが示された。 この結果はまた、 これらの遺伝子が単一の祖 先配列に由来する同族遺伝子であることを示していたので、 この内の GH F 7 E Gの 1クローン (R s 2 0 3 8 B _ l l ) を代表として用いて麹菌 (ァスペルギ ルス .ォリゼ) における発現プラスミ ドを構築した。
<実施例 5 >セルラーゼの麹菌での発現と精製
セルラーゼ遺伝子を含むプラスミ ドから、 N末端シグナル配列をコードする領 域を除いた部分を P C Rにより増幅し、ひ-ァミラ一ゼプロモーターおよび構造遺 伝子の下流に i n— f r a m eになるように連結した。 その際、 連結部分には融 合タンパク質切断のための K R G G G配列を挿入した。 作製したプラスミ ドを麹
菌プロテアーゼ二重破壊株 N S— t A p E (n i a D— s C— Δ ΐ ρ ρΑ 厶 p e p E) (根本 崇、 渡辺 泰祐、 丸山 潤一、 有岡 学、 北本 勝ひこ、 「麹菌のプ 口テアーゼ遺伝子 2重破壊株によるキモシンの生産」 日本生物工学会講演要旨集
(日本)、 pi 3 1、 ( 2006)) に形質転換し、 セルラーゼ生産株を取得した。 得られた麹菌の培養上清を硫安沈殿法 (80%飽和硫安) により濃縮後、 H i T r a p D e s a 1 t i n gおよび H i T r a p DEAE (GE h e a 1 t h c a r e) を指示書に従って用いて精製した。 H i ' T r a p D E A Eによる精製 には 50mM T r i s—HC l ( p H 8. 0 ) バッファを用い、 N a C 1によ つて 0 mMから 500 mMまでのグラジェントをかけることによってタンパク質 の分離を試みたところ、 1 30 mM付近のフラクションに S D S— P AG E上で 分子量約 4 5 k D aの単一バンドとして観測されるセルラーゼ活性のある精製タ ンパクを得た (図 2 )。 エドマン分解法によるアミノ末端配列の解析の結果、 精製 された酵素は麹菌に導入した発現プラスミ ドに由来することが確かめられた。 このタンパク質についてカルボキシメチルセルロースを基質としてセルラーゼ 活性を測定 (反応条件:クェン酸ーリン酸バッファ、 p H 6. 5、 反応時間 5分で 活性測定;温度安定性は 30分間の処理後 3 7 °C、 5分で活性測定) したところ、 至適 p Hは 6. 5 (図 3A)、 至適温度は 4 5 °C (図 3 B)、 温度安定性 40。C以 下 (図 3 C )、 K mは 1. 9 7 m g / 1、 V m a xは 76 9. 6 u n i t / m gタンパク (図 4) であった。 また、 セロオリゴ糖を 3 7。C、 2時間加水分解し たとき、 最終生産物としてグルコースとセロビオースを主要な反応性生物として 生成し、 および少量のセロ トリオ一スを生成し、 セロビオースを分解する活性は ほとんどなかった (図 5)。 ここで、 1 u n i t (ユニッ ト ; U) は、 1分あた り 1 μηιο 1のグルコース相当の還元糖を生成する酵素量として定義する。
図 4から、 本発明の酵素は、 その Vm a Xが他の酵素と比較して高く、 反応性 はより高いこと、 Kmはシロアリ 自身が合成するセルラーゼとほぼ同等で比較的 低い値を示すこと、 さらに Kmは既知タイプの酵素に近い値で親和性が高い酵素 であること、 などが判る。
さらにまた、 種々の基質、 すなわちカルボキシメチルセルロース (CMC)、 ァ ビセル ( A V i c e 1 )、 カードラン ( C u r d 1 a n )、 3種のキシラン ( X y
l a n)) に対するセルラーゼ活性を測定し、 その結果を表 1に示した。 表 1 精製セルラ一ゼの様々な基質に対する活性
基質 結合の種類 比活性
(U/ragタンパク
質)
CMC , β- 1, 4 603 ± 23
Avicel β- 1, 4 0.12 土 0.003
Cur lan β- 1, 3 0.02 ± 0.003
Xylan (ブナノキ材) (3-1, 4 0.31 0.009
Xylan (力ン.バ材) β-ι, 4 0.40 土 0. on
Xylan (ォ一ト.スペル' β- 1, 4 1.6 土 0.050
h) .
アツセィは、 CMCを除いて、 37で 60分間 1.0%(wt/vol)基質を
用いて行った。
ポリマ一加水分解の 1ュニットは、 1分あたりに還元糖 1誦 ol
を遊離させる酵素活性を表わす。 表 1から、 精製した酵素は、 CMCを基質として認識すること、 結晶性セル口 一スには単体では作用せず、 ェンドグルカナ一ゼ活性が高いこと、 キシランに对 する酵素活性も低く、 セルロースに対する基質特異性が高いこと、 などの性質を もつ。
<実施 ί列 6 >セルラーゼの麹菌での発現と精製
実施例 5とは異なるセルラ一ゼ遺伝子を含むプラスミ ドから、 Ν末端シグナル 配列をコードする領域を除いた部分を P C Rにより増幅し、ひ -ァミラ一ゼプロモ —ターおよび構造遺伝子の下流に i n— f r a m eになるように連結した。 その 際、 連結部分には融合タンパク質切断のための KRGGG配列を挿入した。 作製 したプラスミ ドを麹菌プロテアーゼ二重破壊株 N S _ t A p E (n i a D— s C一 Δ t p p A Δ p e p E) (根本 崇、 渡辺 泰祐、 丸山 潤一、 有岡 学、 北 本 勝ひこ、 「麹菌のプロテアーゼ遺伝子 2重破壊株によるキモシンの生産」 日本 生物工学会講演要旨集 (日本)、 pi 3 1、 (2006)) に形質転換し、 セルラー ゼ生産株を取得した。 得られた麹菌の培養上清を硫安沈殿法 (S O%飽和硫安) により濃縮後、 H i T r a p D e s a l t i n gおよび H i T r a p P h e ιι y 1 s e p h a r o s e F F ( G E h e a l t h c a r e) 指不書に
従って用いて精製した。 H i T r a p P h e n y l s e p h a r o s e F F による精製には 50 mM 酢酸ナトリ ウム (pH6. 0) バッファを用い、 硫安 によって 1. 7 Mから 0Mまでのグラジェント (濃度勾配) を力 けることによつ てタンパク質の分離を試みたところ、 0. 3 5M付近の画分に顕著なセルラーゼ 活性のあるタンパク質画分を得た (図 6)。 このタンパク質についてセロオリゴ糖 を 3 7°C、 2時間加水分解したとき、 最終生産物としてグルコースとセロビオー スを主要な反応生成物として生成し、 セロビオースをさらに分解する活性はほと んどなかった (図 7)。
一般的にェンドグルカナーゼは、 4又は 5連続の糖鎖程度までしか分解能がな いが、 図 5および図 7から本発明の酵素は、 エンドダルカナ一ゼであっても、 ,一 般的性質として最終生産物がセロビオース · グルコース単位である可能性が強く 示唆され、糖化における効率が非常に高く工程の省力化が計れることなどが判る。 上記実施例に示されるように、 本発明者らは、 セルロース系バイオマスを高効 率に分解する 4種類のシロアリ科昆虫及び 1種類のゴキブリ昆虫の共生原生生物 群が保有する 1 40種類の新規セルロースを見出したことにより、 それらのセル' ロースを単独又は組み合わせることによって、 セルロースを高効率的に分解する ことが可能になったし、 また、 発現系として麹菌発現系を使用することによって セルラーゼの高発現が可能になった。
産業上の利用可能性
本発明により、 多数のセルラ一ゼの中から、 使用目的に応じて適するセルラー ゼを選択し、 単独で又は組み合わせて、 木質バイオマスの高度糖化、 アルコール 生産、バイオポリマーの製造などの酵素源として、或いは洗剤 ·繊維加工用製剤、 飼料添加剤、 消化剤、 バイオポリマーのなどの主成分又は補助成分として、 利用 することができる。
本明細書で引用した全ての刊行物、 特許および特許出願をそのまま参考として 本明細書にとり入れるものとする。