高炭素熱延鋼板およびその製造方法 技術分野
本発明は、 加工性に優れた高炭明素熱延鋼板およびその製造方法に関する。
田
背景技術
工具あるいは自動車部品(ギア、ミッショ ン)等に使用される高炭素鋼板は、 種々の複雑な形状に加工されるため優れた加工性がユーザーから求められ る。 一方、 近年、 部品製造コス ト低減の要求が強くなり、 加工工程の省略や 加工方法の変更が行なわれている。 例えば、 高炭素鋼板を用いた自動車駆動 系部品の成形技術として、 増肉成形 (thi cknes s- addit ion forming) を可能 にし、 大幅な工程短縮を実現した複動成形技術 (doubl e-act ing forming techinique) が開発され、 一部実用化されている(例えば、 Journal of the JSTP, 44, 2003, p. 409 - 413)。
それとともに、 高炭素鋼板には、 加工性 (workabi l i ty) に対する要求が 益々強くなっており、 より高い延性(duct i l ity) が求められている。 また、 部品によっては、 打抜き加工後に穴拡げ加工(パーリング : burring)を受け る場合が多いので、 伸びフランジ性 (stret ch- f lange formab i l ity) に優れ ていることも望まれている。
さらに、歩留り向上にともなぅ コスト低減の観点から、鋼板の材質均一性 (homogeneous mechanical property) も強く要望されて ヽる。 特 ίこ、 罔板 の板厚方向で表層部と中心部の硬度差が大きいと打抜き加工における打抜 き工具の劣化が激しくなるので、 板厚方向の硬度均一性が切望されている。 こうした要求 答えるべく、高炭素鋼板の加工性や材質均一性を向上させ るために、 従来からいくつかの技術が検討されている。 例えば、 '特開平 3- 174909号公報には、 '
- ホッ 卜ランテープ,レ (hot— run tableあるレヽは run— out table) をカロ速冷 却ゾーンと空冷ゾーンに 2分割し、
•仕上圧延後の鋼帯を冷却ゾーンの長さ、 鋼板の搬送速度、 化学成分など で決まる特定の温度以下に加速冷却し、
- その後空冷することにより、
コイル長手方向の材質均一性に優れる高炭素鋼帯を安定して製造する方 法が提案されている。 なお、 同公報における加速冷却域での冷却速度は第 3図から 2 0〜 3 0 °C /秒程度である。 また、 例えば特開平 9- 157758号公報には、
•所定の化学成分の高炭素鋼を熱間圧延し、 脱スケール (descaling) を 行った後、
• 9 5容量%以上の水素雰囲気中で焼鈍するにあたり、化学成分に応じて 加熱速度、 均熱温度 (A c l変態点以上) および均熱時間を規定し、
•該焼鈍後 100°C/h r以下の冷却速度で冷却することにより、
軟質かつ組織の均一性や加工性(延性) に優れた高炭素鋼帯を製造する方 法も提案されている。 さらに、 例えば特開平 5 - 9588号公報には、 +
• (A c i変態点 + 3 0 °C) 以上の仕上温度で圧延された鋼板を
. 10〜: L00°C/秒の冷却速度で 20~500°Cの温度まで冷却し、'
• 1 - 1 0秒保持後、
• 500〜 (A c 変態点 + 3 0 °C) の温度域に再加熱して卷取り、
'必要に応じて 650°C〜 (A c i変態点 + 3 0 °C) で 1時間以上均熱するこ とにより、
加工性の良好な高炭素薄鋼板を製造する方法も提案されている。 またさらに、 例えば特開 2003 - 13145号公報には、
• Cを 0.2〜0.7質量%含有する鋼を、
•仕上げ温度 (A r 3変態点一 2 0 °C ) 以上で熱間圧延した後、 •冷却速度 120°C /秒超かつ冷却停止温度 650°C以下で冷却を行い、 •次いで巻取温度 600°C以下で巻取り、
•焼鈍温度 640度以上 A c 変態点以下で焼鈍することにより、
伸びフランジ性に優れた高炭素鋼板を製造する方法が提案されている。 なお、 目的は一致しないものの、 冷却停止温度を 620°C以下とする他は上 記した要件を満たす高炭素熱延鋼板の製造技術が特開 2003-73742号公報に 開示されている。 発明の開示
〔発明が解決しよう とする課題〕
しかしながら従来技術はいずれも、板厚方向まで含めた材質の均一性を確 保するものではなく、またこのような均一性と伸びブランジ性を両立させる ものではなかった。 なお、 前記の従来技術には以下のような問題もある。 特開平 3- 174909号公報に記載の方法では、熱間圧延後に熱処理を施さない、 いわゆる 「熱間圧延まま」 (as hot- rol l ed) の鋼板であるため'、 必ずしも優 れた伸ぴ (e longat ion) ゃ伸ぴフランジ性が得られるとは限らない。 特開平 9- 157758号公報に記載の方法では、熱延条件によっては初析フェラ ィ 卜 : TO- eutectoi d f errite) とラメラー状の ( l amel l ar, 炭化物を す るノヽ °一ライ 卜 (pearl ite) 力 ¾らなるミクロ糸且織 (microstructure) カ开 $成さ れ、 その後の焼鈍でラメラー状の炭化物が微細な球状化炭化物 (spheroidal cement ite) となる。 この微細な球状化炭化物は穴拡げ加工時にポイ ド発生 の起点になり、発—生したボイ ドが連結して破断を誘発するため、優れた伸び フランジ性が得られない。 特開平 5-9588号公報に記載の方法では、熱間圧延後の鋼板を所定の条件で
冷却後、直接通電法などで再加熱しているため特別な設備が必要となるばか りカ 、 膨大な電力エネルギーが必要となる。 また、 再加熱後に巻取った鋼板 には微細な球状化炭化物が形成され易いため、上記と同様の理由で優れた伸 ぴフランジ性が得られない場合が多い。 本発明は、伸びフランジ性と板厚方向の硬度均一性に優れた高炭素熱延鋼 板およびその製造方法を提供することを目的とする。
〔課題を解決するための手段〕
本発明者らは、高炭素熱延鋼板の伸びフランジ性および硬度に及ぼすミク 口組織の影響について鋭意研究を進めた結果、 製造条件、 特に、 熱間圧延後 の冷却条件、巻取温度、 および焼鈍温度を適切に制御することが極めて重要 •であることを見出した。 そして、 後述する測定法で求められる粒径が 0. 5 β m未満の炭化物の全炭化物に対する体積率を 1 5 %以下に制御すること により、伸ぴフランジ性が向上し、板厚方向の硬度が均一になることを見出 した。 また、 さらに厳密に熱間圧延後の冷却条件、 巻取温度を制御し、 炭化物の 前記体積率を 1 0 %以下に制御することにより、より優れた伸びフランジ性 および硬度分布の均一性が得られることを見出した。 本発明は、 以上の知見に基づいてなされたものであり、 Cを 0. 2〜0. 7質 量%含有する鋼を (A r 3変態点一 2 0 °C ) 以上の仕上温度にて熱間圧延し て熱延板とする工程と、 前記熱延板を 60 °C /秒以上 120 °C /秒未満の冷却速度 で 650°C以下の温度 (冷却停止温度と呼ぶ) まで冷却する工程と、 前記冷却 後の熱延板を 600°C以下の巻取温度で巻取る工程と、 前記卷取り後の熱延板 を 640°C以上 A c ι·変態点以下の焼鈍温度で焼鈍(熱延板焼鈍 (anneal ing of hot-rol l ed sheet ) と呼ぶ)する工程とを有する、 加工性に優れた高炭素熱 延鋼板の製造方法を提供する。
本発明の方法では、上記製造方法において、冷却工程およぴ卷取り工程を、 熱延板を 80°C /秒以上 120°C /秒未満の冷却速度で 600°C以下の温度まで冷却 し、 550°C以下の温度で卷取るようにすることがより好ましい。
なお、 通常は、 熱延板の巻取り後、 熱延板焼鈍に先立ち、 酸洗等のスケー ル除去 (descaling) 工程を施す。 本発明はまた、 熱延球状化焼鈍材 (hot-rolled spheroidizing annealed material) である髙炭素熱延鋼板であって、 C : 0.2〜0.7質量%、 S i : 2質量%以下、 Mn : 2質量。 /0以下、 P : 0.03質量%以下、 S : 0.03質量% 以下、 Sol. A I : 0.08質量%以下、 N : 0.01質量%以下を含有し、 粒径 0.5 β m未満の炭化物の含有量が全炭化物に対する体積率で 1 5 %以下であり、 かつ、板厚方向における最大硬度 H V maxと最小硬度 H v minの差 Δ H v (= H vmax-H vmin) が 1 0以下である高炭素熱延鋼板を提供する。
なお粒径 0.5/ m未満の炭化物の前記体積率は 1 0 %以下、 また前記 Δ Η Vは 8以下であることがさらに好ましい。 図面の簡単な説明
図 1は、 ΔΗ ν (縦軸) と粒径が 0.5/Ζ m未満の炭化物の体積率 (横軸) との関係を示す図である。 発明を実施するための最良の形態
以下に、本発 である高炭素熱延鋼板およびその製造方法について詳細に 説明する。
<鋼組成 > .
( 1 ) C量
Cは、 炭化物を形成し、 焼入後の硬度を付与する重要な元素である。 C量 が 0.2質量%未満では、 熱間圧延後に初析フェライ トの生成が顕著となり、 熱延板焼鈍後の粒径が 0.5/ m未満の炭化物の体積率 (鋼板中の全炭化物に 対する体積率) が増加し、伸びフランジ性ゃ板厚方向の硬度均一性が劣化す
る。 その上、 焼入後も機械構造用部品としての十分な強度が得られない。 一 方、 C量が 0.7質量。 /0を超えると、 たとえ粒径が 0.5/i m未満の炭化物の体積 率が 1 5 %以下であっても十分な伸ぴフランジ性が得られない。 また、熱間 圧延後の硬度が著しく高くなり、鋼板が脆くなるため取扱いに不便となるば かり力 焼入後の機械構造用部品としての強度も飽和する。 したがって、 C 量は 0.2〜0.7質量%に規定する。
なお、 焼入れ後の硬度をより重視する場合は C量を 0.5質量%超、 加工性 をより重視する場合は C量を 0.5質量%以下とすることが好ましい。
( 2 ) その他の鋼組成
C以外のその他の元素については、特に、規定しないが、 Mn、 S i、 P、 S、 Sol. A 1、 _Nなどの元素を通常の範囲で含有させることができる。 し かし、 S iは、炭化物を黒鉛化し、焼入性を阻害する傾向があるので 2質量% 以下に、 Mnは、過剰の添加は延性の低下を引き起こす傾向があるので 2質 量%以下にすることが望ましい。 また、 P、 Sは、 過剰に含有すると延性が 低下し.、またクラックも生成しやすくなるのでともに 0.03質量%以下にする ことが望ましい。 さらに、 Sol. A 1は、 過剰に添加すると A 1 Nが多量に析 出し、 焼入性を低下させるので 0.08質量。/。以下に、 Nは、 過剰に含有すると 延性が低下するので 0.01質量 °/。以下にすることが望ましい。 好ましくはそ れぞれ S i : 0.5質量%以下、 Mn : 1質量%以下、 P : 0.02質量%以下、 Sol. A 1 : 0.05質量%以下、 N : 0.005質量%以下である。 伸ぴフランジ性 を改善する目的では、 Sを低減することが好ま'しく、 例えば 0.007質量。 /0以 下とすることで伸びフランジ性がさらに格段に改善される。 なお、 これらの 各元素を 0.0001質量%未満に低減するとコス トがかかるため、 0.0001質量% 以上の含有は許容することが好ましい。 さらに、焼入れ性の向上おょぴ Zまたは焼戻し軟化抵抗の向上の目的に応 じて、高炭素熱延鋼板に通常添加される範囲で B、 C r、 C u、 N i、 Mo、 T i、 N b、 W、 V、 Z r等の少なく ともいずれかの元素を添加しても本発 明の効果が損なわれることはない。具体的にはこれらの元素は、 Bは約 0.005
質量%以下、 C rは約 3.5質量%以下、 N iは約 3.5質量%以下、 M oは約 0.7 質量%以下、 C uは約 0.1質量%以下、 T i は約 0.1質量%以下、 N bは約 0.1 質量%以下、 W, V, Z rは合計で約 0.1質量。 /0以下含有させることができ る。 なお、 C rおよび/まだは M oを添加するに際しては、 C rは約 0.05 質量%以上、 M oは約 0, 05質量%以上含有せしめることが好ましい。 残部は鉄及ぴ不可避的不純物とすることが好ましい。例えば、製造過程で S n、 P b等の元素が不純物として混入しても本発明の効果には影響を及ぼ さない。
<熱間圧延条件 >
(3) 熱間圧延の仕上温度
仕上温度が (Ar 3変態点一 20°C) 未満では、 フェライ ト変態が部分的 に進行するため粒径が 0.5μ m未満の炭化物の体積率が増加し、 伸ぴフラン ジ性と板厚方向の硬度均一性が劣化する。 したがって、熱間圧延の仕上温度 は (A r 3変態点一 20 °C) 以上とする。 なお、 A r 3変態点は実際に測定 しても構わないが、 次の式(1)から計算した温度を採用してもよい。
A r 3変態点 = 910- 203X [C /S+M.7X [Si]- 30X [Μη] · · · (1) ここで、 [M]は元素 Mの含有量(質量%)を表す。
なお追加元素に応じて- 11X [Cr]、 +31.5 X [Mo], - 15.2 X [Ni]等の補正項 を式(1)の右辺に加えてよい。
(4) 熱間圧延'後の冷却条件
熱間圧延後の冷却速度が 6 0 /秒未満であると、 オーステナイ トの過冷 度が小さくなり、熱間圧延後に初析フェライ トの生成が顕著となる。 その結 果、 熱延板焼鈍後の粒径が 0.5μ m未満の炭化物の体積率が 1 5 %を超え、 伸びフランジ性ど板厚方向の硬度均一性が劣化する。
一方、冷却速度が 120°C/秒を超える場合は、板厚方向で表層部と中央部の 温度差が大きくなり、 中央部において初析フェライ トの生成が顕著となる。 その結果、上記と同様に伸びフランジ性と板厚方向の硬度均一性が劣化する。
この傾向は熱延鋼板の板厚が 4. Ora m以上となるととくに顕著となる。
すなわち、 とくに板厚方向の硬度を均一とするためには、適正な冷却速度 があり、冷却速度が過大でも過小でも所望の硬度均一性を得ることができな い。 従来技術においては、 とぐに冷却速度の適正化がなされていないため、 硬度均一性が確保できないのである。
したがって、 熱間圧延後の冷却速度は 60 °C /秒以上 120 °C /秒未満とする。 さらに、粒径が 0. 5 /z m未満の炭化物の体積率を 1 0 %以下とする場合は、冷 却速度を 80°C /秒以上 120°C /秒未満とする。 冷却速度の上限は 115°C /秒以下 とすることが、 より好ましい。 こう した冷却速度によって冷却する熱延鋼板の終点温度、すなわち冷却停 止温度が 6 5 0 °Cより高いと、熱延鋼板を卷取るまでの冷却中に初析フヱラ ィ トが生成するとともに、ラメラー状の炭化物を有するパーライ トが生成す る。その結果、熱延板焼鈍後の粒径が 0. 5 μ m未満の炭化物の体積率が 1 5 % を超え、 伸びフランジ性と板厚方向の硬度均一性が劣化する。 したがって、 冷却停止温度は 6 5 0 °C以下とする。 より好ましくは 6 0 0 °C以下である。 なお、 粒径が 0. 5 /X m未満の炭化物の体積率を 1 0 %以下とする場合は、 前記したように冷却速度を 80°C /秒以上、 120°C /秒以下 (好ましくは 115°C / 秒以下) とするとともに、 冷却停止温度を 6 0 0 °C以下とする。
また、温度の測定精度上の問題があるので、冷却停止温度は 5 0 0 °C以上 とすることが好ましい。
なお、 冷却停止温度に到達した後は、 自然冷却してもよいし、 冷却力を弱 めて強制冷却を継続してもよい。鋼板の均一性等の観点からは復熱を抑制す る程度に強制冷却することが好ましい。
( 5 ) 卷取温度
冷却後の熱延鋼板は卷取られるが、 そのとき、巻取温度が 6 0 0 °Cを超え るとラメラー状の炭化物を有するパーライ トが生成する。 その結果、熱延板 焼鈍後の粒径が 0. 5 Z m未満の炭化物の体積率が 1 5 %を超え、 伸びフラン ジ性と板厚.方向の硬度均一性が劣化する。 したがって、巻取,温度は 6 0 0 °C
以下とする。 なお、 卷取温度は前記冷却停止温度よりも低温とする。
硬度の均一性の観点からは、前記冷却停止温度は 6 0 0 °C以下とするとと もに、 卷取温度を 5 5 0 °C以下とすることがとくに好適である。
さらに、粒径が 0. 5 m未満の炭化物の体積率を 1 0 %以下とする場合は、 前記したように冷却速度を 80°C/秒以上、 120°C /秒以下 (好ましくは 115°C / 秒以下) とし、 冷却停止温度を 6 0 0 °C以下とするとともに、 卷取温度を 5
5 0 °C以下とする。
なお、熱延鋼板の形状が劣化するため、卷取温度は 2 0 0 °C以上とするこ とが好ましく、 3 5 0 °C以上とすることがより好ましい。
( 6 ) スケール除去 (酸洗など)
卷取り後の熱延鋼板は、通常、次の熱延板焼鈍を行う前にスケールを除去 する。 除去手段にとくに制約はないが、通常の方法で酸洗することが好まし い。 ぐ熱延板焼鈍条件 >
( 7 ) 熱延板焼鈍の温度
酸洗後の熱延鋼板は、炭化物の球状化を図るために熱延板焼鈍される。 そ のとき、熟延板焼鈍の温度が 6 4 0 °C未満では炭化物の球状化が不十分であ つたり、 粒径が 0. 5 μ m未満の炭化物の体積率が増加し、 伸ぴフランジ性お よぴ板厚方向の硬度均一性が劣化する。 一方、 焼鈍温度が A C 1変態点を超 えるとオーステナイ ト化が部分的に進行し、冷却中に再度パーライ トが生成 するため、伸ぴフランジ性およぴ板厚方向の硬度均一性が劣化する。 したが つて、 熱延板焼鈍の温度は 6 4 0 °C以上 A c 変態点以下とする。 より優れ た伸ぴフランジ性を得るために、熱延板焼鈍の温度を 6 8 0 °C以上とするこ とが好ましい。
なお、 A C丄変態点は実際に測定しても構わないが、 次の式(2)から計算 した温度を採用してもよい。
A c ;L変態点 = 754. 83- 32. 25 X [C] +23. 32 X [S i] - 17. 76 X [Μη] · · · (2) ここで、 ' [M〕は元素 Mの含有量(質量%)を表す。 '
なお追加元素に応じて +17. 13 X [Cr]、 +4. 51 X [Mo] , +15. 62 X [V]等の補正 項を式(2)の右辺に加えてよい。 なお、焼鈍時間は 8時間〜 80時間程度が好ましい。 このよ うに球状化の ための焼鈍を施すことにより、 .熱延鋼板は熱延球状化焼鈍材となる。 球 状化焼鈍された炭化物は平均ァスぺク ト比が約 5. 0以下となる(板厚の約 1/4 の位置で測定した値)。 くその他 >
本発明の高炭素鋼を溶製(すなわち精鍊: steel making)するには、転炉、 電気炉どちらも使用可能である。 また、 こ う して溶製された高炭素鋼は、 造 塊一分塊圧延または連続鐃造によりスラブとされる。
スラブは通常、 加熱 (再加熱: reheating) された後、 熱間圧延される。 なお、連続鐃造で製造されたスラブの場合はそのままあるいは温度低下を抑 制する目的で保熱した後、圧延する直送圧延を適用できる。 スラブを再加熱 して熱間圧延する場合は、スケールによる表面状態の劣化を避けるためにス ラブ加熱温度を 1280°C以下とすることが好ましい。
熱間圧延は、 粗圧延を省略して仕上圧延だけを行うこともできる。 なお、 仕上温度を確保するため、熱間圧延中にシートバーヒータ等の加熱手段によ り被圧延材の加熱を行ってもよい。 また、 球状化促進あるいは硬度低減のた め、 巻取り後にコイルを徐冷カパー等の手段で保温してもよい。
熱延鋼板の板厚は、本発明の製造条件が維持できる限りにおいてとくに制 限は無いが、 1. 0〜10. 0m mの熱延鋼板が操業上とくに好適である。 熱延板焼鈍は、 箱焼鈍、 連続焼鈍いずれでも行える。 熱延板焼鈍後は、 必 要に応じて調質圧延 (skin-pass rol l ing) を行う。 この調質圧延は焼入れ 性 (hadenabi l it-y by quenching) に影響を及ぼさないことから、 その条件 に対して特に制限はない。
鋼板における粒径 0. 5 μ m以上である炭化物の量については、 本発明の C 量の範囲内であればとくに問題となることはない。 -
〔実施例〕
(実施例 1 )
表 1に示す化学成分を有する鋼 A〜Eの連続鎳造スラブを 1250°Cに加熱 し、 表 2に示す条件にて熱間圧延および熱延板焼鈍を行い、 板厚 5. 0m mの 鋼板 No. 1〜19を製造した。 なお、 熱延板焼鈍は非窒化性雰囲気 (A r雰囲 気) で行った。
ここで、鋼板 No. 1〜10は本発明例であり、鋼板 No. 11〜19は比較例である。 そして、炭化物の粒径と体積率、板厚方向の硬度および穴拡げ率 λの測定を 以下の方法で行った。ここで穴拡げ率えは伸ぴフランジ性を評価するための 指標とした。
(i)炭化物の粒径と体積率の測定
鋼板の圧延方向に平行な板厚断面を研磨し、 板厚の 1/4の位置をピクラー ル液(ピクリン酸 +エタノール)で腐食した後、 走査型電子顕微鏡により倍率 3000倍でミク口組織の観察を行った。
炭化物の粒径おょぴその体積率は、' Media Cyberneti c s社製の画像解析ソ フト " Image Pro Plus ver. 4. 0" (TM)を使用して画像解析にて定量化した。 すなわち、 各々の炭化物の粒径は、 炭化物の外周上の 2点と炭化物の相当楕 円(炭化物と同面積で、かつ一次及び二次モーメントが等しい楕円)の重心を 通る径を 2度刻みに測定して平均した値である。 ' さらに、視野中の全炭化物について測定視野に対する面積率を求め、 これ を各炭化物の体積率と見な.した。 そして粒径が 0. 5 m未満の炭化物につい て体積率の合計 (累積体積率) を求め、 これを全炭化物の累積体積率で除し て、視野毎の体積率を求めた。前記体積率を 50視野で求め、これを平均して、 粒径が 0. 5 /i: n未満の炭化物の体積率とした。
なお、上記画像解析にて炭化物の平均ァスぺク ト比(個数平均)も算出し、 球状化焼鈍されていることを確認した。
(i i)板厚方向の硬度測定
. 鋼板の圧延方向に平行な板厚断面を研磨し、鋼板表面から 0.1mmの位置、 板厚の 1/8、 2/8、 3/8、 4/8、 5/8、 6/8、 7/8の位置、 および鋼板裏面から 0.1 mmの位置の計 9箇所をマイク口ビッカース硬度計を用いて荷重 4.9N (500gf)で測定した。
そして、 最大硬度 H V maxど最小硬度 H V minの差 Δ Η ν ( = H v max- H vmin) により板厚方向の硬度均一性を評価し、 Δ Η ν≤ 10のときに硬度 均一性に優れるとした。
(iii)穴拡げ率 λの測定
鋼板を、 ポンチ径 1 0 mm、 ダイス径 1 2 mm (ク リアランス 2 0 %) の 打抜き工具を用いて打抜いた。 その後、 打抜いた穴を円筒平底ポンチ (径 5 0 mm φ , 肩 R = 8 mm) により押し上げて穴拡げ加工し、 穴縁に板厚貫 通クラックが発生した時点での穴径 d (mm) を測定して、 次の式(3)で定 義される穴拡げ率え(%)を計算した。
λ = 100X ( d - 10)/10 ■ · · (3)
そして、 同様の試験を 6回行い、 平均の穴拡げ率; Iを求めた。 結果を表 3に示す。本発明例である鋼板 No. 1〜10は、 いずれも粒径が 0.5 μ m未満の炭化物の体積率が 1 5 %以下となっており、それぞれ同じ化学成 分の比較例である鋼板 No.11〜19に比べ、 穴拡げ率 λが髙く、 伸びフランジ 性に優れている。 穴拡げ率 λが高い原因は、 上述したように粒径が 0.5μ m 未満の微細な炭化物は穴拡げ加工時にボイ ド発生の起点になり、発生したボ ィ ドが連結して破断を誘発するが、その量を体積率で 1 5 %以下に低減した ことによると考えられる。 図 1に、 Δ Η ν (縦軸) と粒径が 0.5/i m未満の炭化物の体積率 (%) (横 軸) との関係を示す。 本発明例の鋼板 No. 1 ~10のように、 .粒径が 0.5/1 m未 満の炭化物の体積率を 1 5 %以下にすると、上記のように伸ぴフランジ性に 優れることに加え、 Δ H Vが 1 0以下となり、優れた板厚方向の硬度均一性 が得られる (図 1中、 黒丸印)。 なお、 このように微細炭化物が硬度均一性
に影響する理由と しては、微細炭化物がパーライ トの存在していた領域に偏 る傾向があることが一因であると考えられる。 なお、 冷却停止温度: 6 0 0 °C以下かつ卷取温度: 5 5 0 °C以下の条件で 製造された、 粒径が 0. 5 μ m未満の炭化物の体積率が 1 0 %以下である本発 明例の鋼板 No. 2、 4、 6、 8、 1 0は、 伸びフランジ性によ り優れている ばかりでなく、 Δ H Vが 8以下で板厚方向の硬度均一性により優れている D
*)式(1 )によ y算出 **)式(2)によ y算出 表 2
熱延条件
鋼板 熱延板
鋼 仕上温度 冷却速度 冷却停止 巻取温度 備考
No. 焼鈍
(。C) (°C/秒) 温度 (°c) (¾)
1 A 801 1 10 620 550 700°Cx40hr . 本発明例
2 A 81 1 95 560 510 720°Cx40hr 本発明例
3 B 788 1 15 610 540 680°Cx40hr 本発明例
4 B 808 85 570 520 710°Cx40hr 本発明例
5 C 801 75 610 590 670°Cx40hr 本発明例
6 C 806 105 580 490 720°Cx40 r 本発明例
7 D 774 90 620 580 710°Cx40hr 本発明例
8 D 784 100 550 500 720°Cx40hr 本発明例
9 E 752 65 600 570 700°Cx40hr 本発明例
10 E 772 100 540 490 720°Cx40hr 本発明例
1 1 A 801 80 680 580 700°Cx40hr 比較例
12 A 751 100 610 570 700°Cx40hr 比較例
13 B 798 1 10 620 560 600°Cx40hr 比較例
14 B 793 90 600 630 690DCx40hr 比較例
15 C 816 150 580 520 720°Cx40hr 比較例
16 C 806 55 630 550 710°Cx40hr 比較例
17 D 794 1 15 670 590 720°Cx40hr 比較例
18 D 719 95 610 580 680°Cx40hr 比較例
19 E 752 130 590 550 710°Cx40hr 比較例
表 3
(実施例 2)
F鋼 (C : 0.31質量%、 S i : 0.18質量%、 Mn : 0.68質量0 /0、 P : 0.012 質量0 /0、 S : 0.0033質量0 /0、 Sol. A 1 : 0.025質量%、 N : 0.0040質量0 /0 : A r 3変態点 : 785°C、 A c 変態点: 737°C)、
G鋼 (C : 0· 23質量0 /0、 S i : 0.18質量0 /0、 Mn : 0.76質量0 /0、 P : 0.016 質量0 /0、 S : 0.0040質量0 /0、 Sol. A 1 : 0.025質量0 /0、 N : 0.0028質量0 /0、 C r : 1.2質量% : A r 3変態点: 785°C、 A c 変態点: 759°C)、
H鋼 (C : 0· 32質量0 /0、 S i : 1. 2質量0/。、 M n : 1. 5質量0 /。、 P : 0.025質量。/0、 S : 0.010質量0 /0、 Sol. A 1 : 0.06質量0 /0、 N: 0.0070質量0 /0、 A r 3変態点 : 804°C、 A c 変態点 : 746°C)、 および、
I鋼 (C : 0· 35質量0 /0、 S i : 0.20質量0 /0、 Mn : 0.68質量0 /0、 P : 0.012 質量0 /0、 S : 0.0038質量%、 Sol. A 1.: 0.032質量0 /0、 N : 0.0033質量0 /0、 C r : 0.98質量%、 M o : 0.17質量%: A r 3変態点: 773°C、. A c i変態点 :
754°C )、 および、
表 1に示す E鋼を、連続鑄造してスラブとした後 1230°Cに加熱し、表 4に 示す条件にて熱間圧延おょぴ熱延板焼鈍を行い、 板厚 4. 5 m mの鋼板 No. 20 〜36を製造した。 なお、 熱延板焼鈍は非窒化性雰囲気 (H 2雰囲気) で行つ た。
得られた熱延鋼板に対し、 実施例 1 と同様の方法で、炭化物の粒径と体積 率、 板厚方向の硬度おょぴ穴拡げ率 λの測定を行った。 結果を表 5に示す。 冷却速度以外の条件を一定とした鋼板 No. 20〜26では、 冷却速度が本発明 の範囲内である No. 21〜25の伸びフランジ性、 板厚方向の硬度均一性が顕著 に優れている。 また鋼板 No. 22〜25ではこれらの特性がさらに顕著に改善さ れ、 100°C前後 (鋼板 Νο· 23〜25) で最良となる。
また冷却速度を一定として調査した鋼板 Νο. 27〜32では、 冷却停止温度、 巻取温度とも本発明の範囲内である鋼板 No. 29〜32の伸ぴフランジ性、 板厚 方向の硬度均一性が顕著に優れている。 まだ、 冷却停止温度: 6 0 0 °C以下 および卷取温度: 5 5 0 °C以下を満足する場合 (鋼板 No. 32) は微細炭化物 の体積率が 1 0 %以下となり、 さらに顕著に優れた伸びフランジ性、板厚方 向の硬度均一性が得られる。
鋼組成が本発明の範囲内である E〜 I鋼はいずれも、基本成分以外の合金 元素を添加した場合 (G鋼および I鋼) を含めて、 優れた伸ぴフランジ性、 板厚方向の硬度均一性を示す。 ただし、 他の基本元素が多い場合 (H鋼) に 比べると F鋼、 G鋼および I鋼は穴拡げ率の絶対値がさらに顕著に優れたも のとなる。
表 4
表 5
鋼板 粒径 0. 5 m未満の
Δ Ην え (%)
No. 炭化物の体積率 (%)
20 22 15 42
21 13 10 70
22 10 9 78
23 8 9 84
24 6 7 93
25 7 8 88
26 23 17 38
27 26 16 45
28 23 17 39
2¾ 1 1 9 70
30 13 10 74
31 12 10 75
32 7 7 89
33 9 7 50
34 8 9 95
35 9 7 67
36 9 9 80
産業上の利用の可能性
本発明により、特別な設備を必要とせずに、伸びフランジ性と板厚方向の 硬度均一性がともに優れた高炭素熱延鋼板を製造できるようになった。